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特開2022-130467TiAl合金材及びその製造方法、並びにTiAl合金材の鍛造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130467
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】TiAl合金材及びその製造方法、並びにTiAl合金材の鍛造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 10/48 20060101AFI20220830BHJP
   B21J 5/00 20060101ALI20220830BHJP
   B21K 3/04 20060101ALN20220830BHJP
【FI】
C23C10/48
B21J5/00 E
B21K3/04
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095156
(22)【出願日】2022-06-13
(62)【分割の表示】P 2019560021の分割
【原出願日】2018-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2017242371
(32)【優先日】2017-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】久布白 圭司
(72)【発明者】
【氏名】馬場 正信
(72)【発明者】
【氏名】榊原 洋平
(72)【発明者】
【氏名】大田 祐太朗
(57)【要約】      (修正有)
【課題】熱間鍛造時の作業性をより向上させることが可能なTiAl合金材及びその製造方法、並びにTiAl合金材の鍛造方法を提供する。
【解決手段】熱間鍛造用のTiAl合金材は、TiAl合金で形成される基材と、基材の表面に形成され、主成分がAlからなり、Tiを含むAl層と、を備える。熱間鍛造用のTiAl合金材の製造方法であって、TiAl合金原料を溶解して鋳造し、基材を形成する基材形成工程と、前記基材にAlを拡散浸透処理し、前記基材の表面の直上に、70原子%以上のAlからなり、Tiを含むAl層を形成するAl層形成工程と、を備え、前記Al層形成工程は、Al原料粉末と、活性剤であるハロゲン化物と、焼結防止剤とを混合した処理粉末中に前記基材を埋め込み、非酸化性雰囲気中において650℃以上800℃以下で熱処理する、TiAl合金材の製造方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間鍛造用のTiAl合金材の製造方法であって、
TiAl合金原料を溶解して鋳造し、基材を形成する基材形成工程と、
前記基材にAlを拡散浸透処理し、前記基材の表面の直上に、70原子%以上のAlからなり、Tiを含むAl層を形成するAl層形成工程と、
を備え、
前記Al層形成工程は、Al原料粉末と、活性剤であるハロゲン化物と、焼結防止剤とを混合した処理粉末中に前記基材を埋め込み、非酸化性雰囲気中において650℃以上800℃以下で熱処理する、TiAl合金材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のTiAl合金材の製造方法であって、
前記TiAl合金原料は、41原子%以上44原子%以下のAlと、4原子%以上6原子%以下のNbと、4原子%以上6原子%以下のVと、0.1原子%以上1原子%以下のBと、を含有し、残部がTiと不可避的不純物とからなる、TiAl合金材の製造方法。
【請求項3】
熱間鍛造用のTiAl合金材の鍛造方法であって、
TiAl合金で形成される基材にAlを拡散浸透処理し、前記基材の表面の直上に、70原子%以上のAlからなり、Tiを含むAl層を形成するAl層形成工程と、
前記Al層が形成された基材を、大気雰囲気中で熱間鍛造する熱間鍛造工程と、
を備え、
前記Al層形成工程は、Al原料粉末と、活性剤であるハロゲン化物と、焼結防止剤とを混合した処理粉末中に前記基材を埋め込み、非酸化性雰囲気中において650℃以上800℃以下で熱処理する、TiAl合金材の鍛造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のTiAl合金材の鍛造方法であって、
前記TiAl合金は、41原子%以上44原子%以下のAlと、4原子%以上6原子%以下のNbと、4原子%以上6原子%以下のVと、0.1原子%以上1原子%以下のBと、を含有し、残部がTiと不可避的不純物とからなる、TiAl合金材の鍛造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、TiAl合金材及びその製造方法、並びにTiAl合金材の鍛造方法に係り、特に、熱間鍛造用のTiAl合金材及びその製造方法、並びにTiAl合金材の鍛造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
TiAl(チタンアルミナイド)合金は、Ti(チタン)とAl(アルミニウム)との金属間化合物で形成されている合金である。TiAl合金は、耐熱性に優れており、Ni基合金よりも軽量で比強度が大きいことから、タービン翼等の航空機用エンジン部品等に適用されている。TiAl合金は、延性が乏しく難加工材であることから、熱間鍛造する場合には、恒温鍛造が行われている。また、TiAl合金の酸化を防止するために、TiAl合金の変形抵抗に近い変形抵抗を有するTi又はTi合金等からなるシースを被覆して熱間鍛造することが行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-229680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、TiAl合金が酸化されると、表面にαケースと呼ばれる酸素濃化層が形成される。αケースは、母材よりも硬度が高く、延性が乏しくて難加工材である。このため、TiAl合金の表面にαケースが形成されると、熱間鍛造時に鍛造割れが生じる可能性がある。TiAl合金の酸化を防止してαケースの形成を抑制するために、TiAl合金にシースを被覆して大気雰囲気中で熱間鍛造する場合には、シースを被覆する際にTiやTi合金等の難しい溶接作業等を行う必要がある。また、熱間鍛造後に、シースがTiAl合金に固着する場合がありシースの除去作業が難しくなる。このように、TiAl合金にシースを被覆して熱間鍛造する場合には、熱間鍛造時の作業が煩雑となり、作業性が低下する可能性がある。
【0005】
そこで本開示の目的は、熱間鍛造時の作業性をより向上させることが可能なTiAl合金材及びその製造方法、並びにTiAl合金材の鍛造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るTiAl合金材は、熱間鍛造用のTiAl合金材であって、TiAl合金で形成される基材と、前記基材の表面に形成され、主成分がAlからなり、Tiを含むAl層と、を備える。
【0007】
本開示に係るTiAl合金材は、前記Al層の表面に設けられ、アルミナで形成されるアルミナ被膜を有していてもよい。
【0008】
本開示に係るTiAl合金材において、前記Al層の厚みは、10μm以上100μm以下であってもよい。
【0009】
本開示に係るTiAl合金材において、前記TiAl合金は、41原子%以上44原子%以下のAlと、4原子%以上6原子%以下のNbと、4原子%以上6原子%以下のVと、0.1原子%以上1原子%以下のBと、を含有し、残部がTiと不可避的不純物とからなるようにしてもよい。
【0010】
本開示に係るTiAl合金材の製造方法は、熱間鍛造用のTiAl合金材の製造方法であって、TiAl合金原料を溶解して鋳造し、基材を形成する基材形成工程と、前記基材にAlを拡散浸透処理し、前記基材の表面に、主成分がAlからなり、Tiを含むAl層を形成するAl層形成工程と、を備える。
【0011】
本開示に係るTiAl合金材の製造方法において、前記Al層形成工程は、Al原料粉末と、活性剤と、焼結防止剤とを混合した処理粉末中に前記基材を埋め込み、非酸化性雰囲気中において650℃以上800℃以下で熱処理してもよい。
【0012】
本開示に係るTiAl合金材の製造方法において、前記TiAl合金原料は、41原子%以上44原子%以下のAlと、4原子%以上6原子%以下のNbと、4原子%以上6原子%以下のVと、0.1原子%以上1原子%以下のBと、を含有し、残部がTiと不可避的不純物とからなるようにしてもよい。
【0013】
本開示に係るTiAl合金材の鍛造方法は、熱間鍛造用のTiAl合金材の鍛造方法であって、TiAl合金で形成される基材にAlを拡散浸透処理し、前記基材の表面に、主成分がAlからなり、Tiを含むAl層を形成するAl層形成工程と、前記Al層が形成された基材を、大気雰囲気中で熱間鍛造する熱間鍛造工程と、を備える。
【0014】
本開示に係るTiAl合金材の鍛造方法において、前記Al層形成工程は、Al原料粉末と、活性剤と、焼結防止剤とを混合した処理粉末中に前記基材を埋め込み、非酸化性雰囲気中において650℃以上800℃以下で熱処理してもよい。
【0015】
本開示に係るTiAl合金材の鍛造方法において、前記TiAl合金は、41原子%以上44原子%以下のAlと、4原子%以上6原子%以下のNbと、4原子%以上6原子%以下のVと、0.1原子%以上1原子%以下のBと、を含有し、残部がTiと不可避的不純物とからなるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
上記構成によれば、より簡易に大気雰囲気中における熱間鍛造時のαケースの形成を防止して、鍛造割れを抑制できるので、熱間鍛造時の作業性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本開示の実施の形態において、熱間鍛造用のTiAl合金材の構成を示す断面図である。
図2】本開示の実施の形態において、熱間鍛造用のTiAl合金材の製造方法の構成を示すフローチャートである。
図3】本開示の実施の形態において、熱間鍛造用のTiAl合金材の鍛造方法の構成を示すフローチャートである。
図4】本開示の実施の形態において、基材における絞りの測定結果を示すグラフである。
図5】本開示の実施の形態において、大気雰囲気中で試験した基材の金属組織観察結果を示す写真である。
図6】本開示の実施の形態において、実施例1及び比較例1の供試体の金属組織観察結果を示す写真である。
図7】本開示の実施の形態において、比較例2から4の供試体の金属組織観察結果を示す写真である。
図8】本開示の実施の形態において、比較例5から7の供試体の金属組織観察結果を示す写真である。
図9】本開示の実施の形態において、各供試体における絞りの測定結果を示すグラフである。
図10】本開示の実施の形態において、熱間鍛造試験後の外観観察結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本開示の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、熱間鍛造用のTiAl合金材10の構成を示す断面図である。熱間鍛造用のTiAl合金材10は、TiAl合金で形成される基材12と、基材12の表面に形成されるAl層14と、を備えている。
【0019】
基材12は、TiAl合金で形成されている。TiAl合金は、Ti(チタン)とAl(アルミニウム)との金属間化合物であるTiAl(γ相)やTiAl(α相)等で構成されている。TiAl合金の合金組成は、他の合金成分を含まずTiとAlとから構成されていてもよいし、他の合金成分を含んでいてもよい。他の合金成分は、例えば、Nb(ニオブ)、V(バナジウム)、Mo(モリブデン)、Ta(タンタル)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Ni(ニッケル)、Si(珪素)、B(硼素)、Cu(銅)、Fe(鉄)等の少なくとも1つの元素とすることができる。
【0020】
TiAl合金には、高温での変形抵抗が小さく、大きな歪速度で高速鍛造可能なTiAl合金を用いるとよい。このような高速鍛造可能なTiAl合金には、41原子%以上44原子%以下のAlと、4原子%以上6原子%以下のNbと、4原子%以上6原子%以下のVと、0.1原子%以上1原子%以下のBと、を含有し、残部がTi及び不可避的不純物で構成されているTiAl合金を用いることができる(以下、このTiAl合金を高速鍛造用TiAl合金という場合がある)。この高速鍛造用TiAl合金の金属組織は、結晶粒径が200μm以下となり、粒径が100μm以下の硼化物(TiB、TiB等)を含むので、延性が大きくなり、熱間鍛造性を向上させることができる。この高速鍛造用TiAl合金は、熱間鍛造時の高温変形特性に優れているので、1/秒より大きい歪速度や10/秒以上の歪速度で高速鍛造することができる。
【0021】
Al層14は、基材12の表面に形成され、主成分がAlからなり、Tiを含んで構成されているとよい。ここでAl層14の主成分とは、Al層14に含まれる成分のなかで、最も多く含まれている成分のことである。Al層14の主成分がAlであるので、酸化性雰囲気である大気雰囲気中での熱間鍛造時には、Al層14の表面に、耐酸化性に優れたアルミナ被膜が形成される。これにより、基材12を形成するTiAl合金のαケースの発生を抑制することができる。
【0022】
より詳細には、TiAl合金にαケースが形成されると、αケースは脆性であることから、大気雰囲気中での熱間鍛造時に鍛造割れが発生し易くなる。また、高速鍛造用TiAl合金にαケースが形成されると、熱間鍛造時に鍛造割れが発生し易くなることから、歪速度を大きくして加工することが難しくなる。これに対して基材12の表面にAl層14が形成されている場合には、選択酸化によりAl層14の表面にアルミナ被膜が形成されるので、酸素の透過が抑えられ、αケースの形成が抑制される。これにより、熱間鍛造時の鍛造割れの発生を防止することができる。また、高速鍛造用TiAl合金の場合でも、熱間鍛造時の鍛造割れを抑制できることから、より大きな歪速度で高速鍛造が可能となる。
【0023】
Al層14の選択酸化により形成されるアルミナ被膜は、緻密な保護酸化被膜を形成し、密着性に優れている。仮に、熱間鍛造中にアルミナ被膜が剥離した場合でも、アルミナ被膜が剥離した箇所のAl層14が直ぐに選択酸化されて新たなアルミナ被膜が形成される。例えば、セラミックス塗料を塗布焼成して形成されるセラミックス被膜は、ポーラスな被膜であるので、セラミックス被膜中を酸素が透過して、αケースが形成され易くなる。また、物理蒸着法(例えば、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法等)で形成されるセラミックス被膜は、膜厚が薄くて酸素が透過し易く、剥離し易いので、αケースが形成され易くなる。このように基材12の表面にAl層14を被覆することにより、大気雰囲気中での熱間鍛造時に優れた保護酸化被膜であるアルミナ被膜が形成されるので、他のコーティング法で形成されるセラミックス被膜よりも、αケースを抑制することができる。
【0024】
Al層14は、Tiを含んで構成されているとよい。Al層14がTiを含むことにより、基材12とAl層14との密着性を高めることができる。Al層14に含まれるTiは、基材12から外方拡散したTiであるとよい。Al層14が、基材12から外方拡散したTiを含む拡散層で形成されていることにより、基材12とAl層14との密着性をより高めることができる。
【0025】
Al層14は、基材12よりもAl濃度が高く形成されているとよい。Al層14のAl濃度は、60原子%以上とすることが可能であり、70原子%以上であるとよく、80原子%以上や90原子%以上であってもよい。Al層14のAl濃度は、例えば、エネルギー分散型X線分析(EDX)等で測定された値とすることができる。Al層14は、Ti濃度が、Al層14の厚み方向に対して一定であってもよく、傾斜していてもよい。例えば、Al層14は、Ti濃度が、Al層14の厚み方向に対してAl層14の表面側から基材側に向けて高くなるように傾斜して形成されていてもよい。
【0026】
Al層14は、TiAl(γ相)やTiAl(α相)よりもアルミリッチな金属間化合物であるTiAlやTiAl等で形成されていてもよい。Al層14は、TiAl単体で形成されていてもよく、TiAl単体で形成されていてもよい。また、Al層14は、TiAlと、TiAlとの両方で形成されていてもよい。より詳細には、Al層14は、TiAlと、TiAlとが混合した混合層で形成されていてもよいし、TiAl層とTiAl層との2層で形成されていてもよい。
【0027】
Al層14は、AlやTiの他に、他の成分を含んでいてもよい。Al層14は、他の成分として、Nb、V、Mo、Ta、Cr、Mn、Ni、Si、B、Cu、Fe等の少なくとも1つの成分を含んでいてもよい。Al層14が、例えば、耐酸化性に優れるCrやSiを含む場合には、耐酸化性を向上させることができる。これらの他の成分は、例えば、基材12からAl層14へ外方拡散することによりAl層14に含まれるようにしてもよい。基材12が高速鍛造用TiAl合金で形成されている場合には、Al層14は、基材12から外方拡散したTiを含むと共に、基材12から外方拡散したNb、V及びBの少なくとも1つの成分を含む拡散層で形成されていてもよい。
【0028】
Al層14の厚みは、10μm以上100μm以下とすることが可能である。Al層14の厚みが10μmより小さいと、選択酸化により形成されるアルミナ被膜の厚みも小さくなるので、酸素が透過し易くなるからである。Al層14の厚みが100μmより大きいと、Al層14が剥離し易くなるからである。
【0029】
Al層14の厚みは、10μm以上30μm以下とするとよい。Al層14の厚みが30μm以下であるのは、Al層14は、熱間鍛造後には機械加工等により除去されるので、熱間鍛造中の酸化を防止してαケースの形成を抑制できればよいからである。また、Al層14の厚みをより小さくすることにより、後述する拡散浸透処理の熱処理時間をより短縮することができる。
【0030】
(熱間鍛造用のTiAl合金材10の製造方法)
次に、熱間鍛造用のTiAl合金材10の製造方法について説明する。図2は、熱間鍛造用のTiAl合金材10の製造方法の構成を示すフローチャートである。熱間鍛造用のTiAl合金材10の製造方法は、基材形成工程(S10)と、Al層形成工程(S12)と、を備えている。
【0031】
基材形成工程(S10)は、TiAl合金原料を溶解して鋳造し、TiAl合金で基材12を形成する工程である。TiAl合金原料を、真空誘導炉等で溶解して鋳造し、インゴット(鋳塊)等からなる基材12を形成する。TiAl合金原料の鋳造には、一般的な金属材料の鋳造で用いられている鋳造装置を使用することができる。
【0032】
例えば、基材12が、高速鍛造用TiAl合金で形成される場合には、TiAl合金原料には、41原子%以上44原子%以下のAlと、4原子%以上6原子%以下のNbと、4原子%以上6原子%以下のVと、0.1原子%以上1原子%以下のBと、を含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなる合金組成のものが用いられる。この高速鍛造用TiAl合金の場合には、上記の合金組成で構成されているので、溶解温度からの冷却過程において、α単相領域を通過することがない。α単相領域を通過する場合には、結晶粒が粗大化することにより延性が低下する。鋳造したこの高速鍛造用TiAl合金は、α単相領域を通らないので、結晶粒の粗大化が抑制される。
【0033】
また、鋳造したこの高速鍛造用TiAl合金の金属組織は、結晶粒径が200μm以下となり、粒径が100μm以下の硼化物を含んで構成されている。この硼化物は、針状に形成されており、TiB、TiB等で構成されている。このように、鋳造したこの高速鍛造用TiAl合金の金属組織は、結晶粒径が200μm以下の微細な結晶粒で構成されており、粒径が100μm以下の粒径の小さい硼化物を含んでいるので、熱間鍛造性を向上させることができる。
【0034】
基材12は、鋳造後にHIP(熱間静水圧プレス)処理して形成されてもよい。基材12にHIP処理することにより、鋳造欠陥等の内部欠陥などを抑制することができる。HIP処理には、一般的な金属材料のHIP処理で用いられているHIP装置を使用することができる。
【0035】
Al層形成工程(S12)は、基材12にAlを拡散浸透処理して、基材12の表面に、主成分がAlからなり、Tiを含むAl層14を形成する工程である。Alの拡散浸透処理(アルミナイズ処理)は、Al原料粉末と、活性剤と、焼結防止剤とを混合した処理粉末中に基材12を埋め込み、非酸化性雰囲気中において650℃以上800℃以下で熱処理するとよい。
【0036】
Al原料粉末には、純Al粉末等のAl粉末や、Al合金粉末等を用いるとよい。Al合金粉末は、主成分がAlからなるとよい。ここでAl合金粉末の主成分とは、Al合金粉末に含まれる成分のなかで、最も多く含まれている成分のことである。Al原料粉末としてAl粉末を用いる場合には、他の合金成分を含まないので、製造コストを抑えることができる。また、耐酸化性に優れるCrやSiを含むAl-Cr合金粉末やAl-Si合金粉末等を用いる場合には、Al層14の耐酸化性を向上させることができる。なお、Al原料粉末は、Al合金粉末に代えて、Al粉末と、他の添加元素粉末との混合粉末を用いてもよい。例えば、AlとSiとを拡散浸透処理させてAl層14を形成する場合には、Al-Si合金粉末を用いてもよいし、Al粉末と、Si粉末との混合粉末を用いてもよい。また、基材12が高速鍛造用TiAl合金で形成されている場合には、Al原料粉末には、他の合金成分を含まず、純Al粉末等のAl粉末を用いるとよい。Al原料粉末としてAl粉末を用いる場合には、Al-Cr合金粉末等のAl合金粉末を用いる場合よりも、基材12とAl層14との密着性が向上するからである。
【0037】
活性剤には、塩化物やフッ化物等のハロゲン化物を用いるとよい。活性剤には、例えば、塩化アンモニウム(NHCl)等を用いることが可能である。焼結防止剤には、アルミナ(Al)粉末等を用いることができる。Al原料粉末と、活性剤と、焼結防止剤とには、市販品等を用いることが可能である。
【0038】
次に、Al原料粉末と、活性剤と、焼結防止剤とを混合して処理粉末を作製する。処理粉末は、例えば、5質量%以上40質量%以下のAl原料粉末と、1質量%以上5質量%以下の活性剤と、を含み、残部が焼結防止剤で構成されているとよい。Al原料粉末の比率は、5質量%以上20質量%以下としてもよく、10質量%以上20質量%以下としてもよい。そして、セラミックス製容器等に処理粉末を入れ、処理粉末中に基材12を埋め込みパックする。
【0039】
処理粉末に埋設された基材12は、非酸化性雰囲気中において熱処理される。熱処理により、Al原料粉末と、活性剤とが反応して、例えば、塩化アルミニウム等のアルミニウムハロゲン化物が生成する。このアルミニウムハロゲン化物が基材12と反応することにより、ます、基材12の表面にAlが堆積してAl付着層が形成される。そして、このAl付着層に基材12からTiが外方拡散してAl層14が形成される。Al原料粉末にAl-Cr合金粉末やAl-Si合金粉末等を用いる場合には、基材12の表面にAlと共に、CrやSi等を堆積させることができる。また、基材12がTiやAlと共に、他の合金成分を含む場合には、Al付着層に他の合金成分が外方拡散してAl層14を形成してもよい。例えば、基材12が高速鍛造用TiAl合金で形成されている場合には、Al層14が、基材12から外方拡散したNb、V及びBの少なくとも1つの成分を含んでいてもよい。
【0040】
熱処理温度は、650℃以上800℃以下とするとよい。熱処理温度が650℃より低温の場合には、アルミニウムハロゲン化物が殆ど生成しないので、Al層14を形成し難くなるからである。熱処理温度が800℃より高温の場合には、アルミニウムハロゲン化物が多く生成するので、Al層14の厚みが大きくなり、Al層14が剥離し易くなるからである。
【0041】
熱処理時間は、5分間以上2時間以下とするとよい。熱処理時間が5分間より短い場合には、基材12の表面にAlの堆積が殆ど生じないので、Al層14を形成し難くなるからである。熱処理時間が2時間より長い場合には、基材12の表面にAlの堆積が多くなることで、Al層14の厚みが大きくなり、Al層14が剥離し易くなるからである。
【0042】
熱処理雰囲気は、基材12やAl原料粉末の酸化等を防止するために、アルゴンガス等の不活性雰囲気、水素ガス等の還元性雰囲気、真空雰囲気等の非酸化性雰囲気とするとよい。拡散浸透処理装置には、一般的な金属材料の拡散浸透処理に使用される熱処理装置等を用いることができる。熱処理後は、処理粉末中からAl層14を形成した基材12を取り出し、ブラシや超音波洗浄等で付着した粉末等を除去するとよい。
【0043】
また、基材12が、高速鍛造用TiAl合金で形成されている場合には、拡散浸透処理による熱処理中(熱処理における昇温過程や冷却過程を含む)にα単相領域を通過することがない。高速鍛造用TiAl合金は、拡散浸透処理による熱処理中にα単相領域を通らないので、結晶粒の粗大化を抑制することができる。
【0044】
Al層形成工程(S12)の後に、Al層14を形成した基材12を酸化して、Al層14の表面にアルミナ被膜を形成する酸化処理工程を備えるようにしてもよい。予め大気雰囲気中での熱間鍛造前にアルミナ被膜を形成することにより、熱間鍛造中のαケースの発生を抑制することができる。酸化処理工程には、一般的な大気炉等を用いることができる。勿論、このような酸化処理工程を設けずに、大気雰囲気中の熱間鍛造時の昇温中にAl層14が選択酸化されることにより、Al層14の表面にアルミナ被膜を形成するようにしてもよい。
【0045】
(熱間鍛造用のTiAl合金材10の鍛造方法)
次に、熱間鍛造用のTiAl合金材10の鍛造方法について説明する。図3は、熱間鍛造用のTiAl合金材10の鍛造方法の構成を示すフローチャートである。熱間鍛造用のTiAl合金材10の鍛造方法は、Al層形成工程(S12)と、熱間鍛造工程(S14)と、を備えている。Al層形成工程(S12)は、TiAl合金で形成される基材12にAlを拡散浸透処理し、基材12の表面に、主成分がAlからなり、Tiを含むAl層14を形成する工程である。Al層形成工程(S12)は、上述した熱間鍛造用のTiAl合金材10の製造方法のAl層形成工程(S12)と同じであるので同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0046】
熱間鍛造工程(S14)は、Al層14が形成された基材12を、大気雰囲気中で熱間鍛造する工程である。酸化性雰囲気である大気雰囲気中の熱間鍛造時の昇温過程においてAl層14が選択酸化されて、Al層14の表面にアルミナ被膜が形成される。このアルミナ被膜が保護酸化被膜となり、大気雰囲気中で熱間鍛造した場合でも、酸素の透過が抑制されて、αケースの形成が防止される。このように、熱間鍛造時にαケースの形成が防止されるので、鍛造割れを抑制することができる。
【0047】
また、熱間鍛造時にαケースの形成が防止されるので、熱間鍛造時の歪速度をより大きくすることができる。より詳細には、αケースが形成されると、αケースからクラックが入り易くなるのでTiAl合金に鍛造割れが生じ易くなり、熱間鍛造時の歪速度を大きくすることが難しくなる。これに対してαケースの形成を抑制できる場合には、熱間鍛造時の歪速度をより大きくすることができるので、高速鍛造が可能となる。
【0048】
上述した41原子%以上44原子%以下のAlと、4原子%以上6原子%以下のNbと、4原子%以上6原子%以下のVと、0.1原子%以上1原子%以下のBと、を含有し、残部がTi及び不可避的不純物で構成されている高速鍛造用TiAl合金の場合では、熱間鍛造時にαケースが形成されると、鍛造割れが生じる可能性があるため、1/秒より大きい歪速度や10/秒以上の歪速度で高速鍛造することが難しくなる。これに対して、熱間鍛造時にαケースの形成が抑制されている場合には、1/秒より大きい歪速度や10/秒以上の歪速度で高速鍛造することが可能となる。
【0049】
熱間鍛造時の加熱温度は、1200℃以上1350℃以下とするとよい。例えば、高速鍛造用TiAl合金の場合には、1200℃以上1350℃以下に加熱されることにより、α相+β相の2相領域またはα相+β相+γ相の3相領域に保持される。加熱された高速鍛造用TiAl合金は、高温変形に優れるβ相を含んでいるので、変形が容易になる。また、この高速鍛造用TiAl合金は、室温から加熱温度である1200℃以上1350℃以下に到る昇温中に、α単相領域を通過することがない。このことから、結晶粒の粗大化が抑制されることにより延性の低下が抑えられ、鍛造性をより向上させることができる。
【0050】
熱間鍛造方法には、自由鍛造、型鍛造、回転鍛造、押出等の一般的な金属材料の鍛造方法や鍛造装置を用いることができる。熱間鍛造後に残留するアルミナ被膜やAl層14は、機械加工や研磨等で容易に除去することができる。
【0051】
なお、熱間鍛造用のTiAl合金材10は、航空機エンジン部品のタービン翼等を大気雰囲気中で熱間鍛造して形成する場合において、鍛造用素材として用いられることが可能である。また、熱間鍛造用のTiAl合金材10の基材12に高速鍛造用TiAl合金を用いた場合には、1/秒より大きい歪速度や10/秒以上の歪速度で高速鍛造することが可能となるので、タービン翼等の部品の生産性を向上させることができる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態によれば、TiAl合金で形成される基材にAlを拡散浸透処理した後に、大気雰囲気中で熱間鍛造加工することにより、αケースの形成を防止して、鍛造割れを抑制できることから、従来のTiAl合金の変形抵抗に近い変形抵抗を有するTiやTi合金等のシースを被覆する際の難しい溶接作業等が不要となるので、熱間鍛造時の作業性を向上させることができる。また、TiやTi合金等のシースを被覆して熱間鍛造する場合には、熱間鍛造後にシースがTiAl合金に固着する場合がありシースの除去作業が難しくなるが、上記構成によれば、熱間鍛造後に残留するアルミナ被膜やAl層は、機械加工や研磨等で容易に除去することができるので熱間鍛造時の作業性が向上する。更に、上記構成によれば、安価なAl原料粉末を用いてAlの拡散浸透処理を行うので、高価なTiやTi合金等のシースを用いる場合よりも製造コストを低減することができる。
【0053】
本実施形態によれば、大気雰囲気中での熱間鍛造時におけるαケースの形成を防止して、鍛造割れを抑制できることから、より大きな歪速度で熱間鍛造することができる。例えば、従来のTiAl合金の恒温鍛造では、低歪速度(例えば、5×10-5/秒から5×10-1/秒)で熱間鍛造加工が行われていた。これに対して、上述した高速鍛造用TiAl合金の場合では、1/秒より大きい歪速度や、10/秒以上の歪速度で高速鍛造することが可能となるので、タービン翼等の部品の生産性を向上させることができる。
【実施例0054】
(TiAl合金の鋳造)
TiAl合金原料を高周波真空溶解炉にて溶解して鋳造し、基材を形成した。TiAl合金原料には、43原子%のAlと、4原子%のNbと、5原子%のVと、0.2原子%のBと、を含み、残部がTi及び不可避的不純物からなる合金組成のものを使用した。このように基材は、高速鍛造用TiAl合金で形成した。
【0055】
(基材における熱間鍛造時の延性評価)
αケースの熱間鍛造に及ぼす影響を評価するために、鋳造した基材における熱間鍛造時の延性評価を行った。より詳細には、基材について、グリーブル試験機を用いた引張試験により絞りを測定した。試験温度は、1250℃から1275℃とした。絞りについては、破断材破断部の断面減少率を計測して算出した。試験雰囲気は、アルゴンガスによる不活性雰囲気と、大気雰囲気とした。不活性雰囲気の場合の歪速度は、1/秒、2/秒、10/秒とした。大気雰囲気の場合の歪速度は、0.2/秒、1/秒、5/秒とした。
【0056】
図4は、基材における絞りの測定結果を示すグラフである。図4のグラフでは、横軸に歪速度を取り、縦軸に絞りを取り、不活性雰囲気の場合の絞りを白丸で示し、大気雰囲気の場合の絞りを白三角で示している。不活性雰囲気で試験したものは、大気雰囲気で試験したものよりも、絞りが大きくなった。大気雰囲気で試験した場合には、歪速度が5/秒で、絞りが略0%となり、脆性破壊した。これに対して、不活性雰囲気で試験した場合には、歪速度が10/秒でも、絞りが約70%であった。
【0057】
この理由は、不活性雰囲気で試験したものは、αケースが形成させず、大気雰囲気で試験したものは、αケースが形成されたことによると考えられる。図5は、大気雰囲気中で試験した基材の金属組織観察結果を示す写真である。大気雰囲気で試験した基材には、αケースが形成されており、αケース中にクラックが観察された。これに対して不活性雰囲気で試験した基材には、αケースの形成が認められなかった。
【0058】
この結果から、TiAl合金の熱間鍛造では、αケースが形成されると塑性変形し難くなり、鍛造割れが生じ易くなることがわかった。また、高速鍛造用TiAl合金では、αケースが形成されると、歪速度が1/秒より大きい場合には殆ど塑性変形しないので、高速で熱間鍛造することができないことがわかった。
【0059】
(αケースの抑制評価)
実施例1、比較例1から7の供試体について、αケースの抑制評価試験を行った。まず、各供試体の作製方法について説明する。各供試体の基材には、上記の鋳造した基材を使用した。
【0060】
実施例1の供試体は、基材にAlを拡散浸透処理して、基材の表面にAl層を形成した。拡散浸透処理には、純Al粉末と、塩化アンモニウム(NHCl)粉末と、アルミナ粉末とを混合した処理粉末を用いた。処理粉末中の純Al粉末の比率は、20質量%とした。セラミックス製容器内に処理粉末を入れ、処理粉末に基材を埋め込み、アルゴンガスからなる不活性雰囲気中で熱処理した。熱処理条件は、熱処理温度が650℃から800℃、熱処理時間が5分間から2時間とした。拡散浸透処理後にエネルギー分散型X線分析(EDX)でAl層を分析したところ、Al濃度は、70原子%以上であった。この結果から、Al層は、Alを主成分として構成されていることが明らかとなった。また、Al層は、Tiを含んでいたことから、基材からTiが外方拡散してAl層に含まれていることがわかった。
【0061】
比較例1の供試体には、何もコーティング処理を施さない基材(基材のまま状態)を用いた。比較例2から4の供試体では、基材の表面に、セラミックス粉末と、バインダと、溶媒とを混合したセラミックス塗料を塗布し、350℃以上で焼成してセラミックス被膜を形成した。比較例2の供試体には、主成分としてアルミナ(Al)とシリカ(SiO)とを含むセラミックス粉末を用いた。比較例3の供試体には、主成分としてアルミナ(Al)を含むセラミックス粉末を用いた。比較例4の供試体には、主成分としてジルコニア(ZrO)を含むセラミックス粉末を用いた。
【0062】
比較例5から7の供試体では、基材の表面に、スパッタリングによりチタン系セラミックス被膜を形成した。比較例5の供試体のチタン系セラミックス被膜は、窒化チタン(TiN)とした。比較例6の供試体のチタン系セラミックス被膜は、窒化チタンアルミニウム(TiAlN)とした。比較例7の供試体のチタン系セラミックス被膜は、チタン(Ti)と、窒化チタンアルミニウム(TiAlN)との2層した。各供試体のチタン系セラミックス被膜の膜厚は、約5μmとした。
【0063】
次に、各供試体について大気雰囲気中で熱処理し、αケースの形成を評価した。熱処理温度は、1250℃から1275℃とした。αケースについては、熱処理後に光学顕微鏡により供試体断面の金属組織を観察して評価した。表1に、各供試体のαケースの抑制評価結果を示す。
【0064】
【表1】
【0065】
図6は、実施例1及び比較例1の供試体の金属組織観察結果を示す写真であり、図6(a)は、実施例1の供試体の写真であり、図6(b)は、比較例1の供試体の写真である。実施例1の供試体では、基材の表面にAl層が形成されており、αケースの形成は認められなかった。Al層の厚みは、50μmから100μmであった。これに対して、比較例1の供試体では、αケースの形成が認められた。
【0066】
図7は、比較例2から4の供試体の金属組織観察結果を示す写真であり、図7(a)は、比較例2の供試体の写真であり、図7(b)は、比較例3の供試体の写真であり、図7(c)は、比較例4の供試体の写真である。比較例2から4の供試体では、いずれもαケースの形成が認められた。この理由は、セラミックス塗料により形成されるセラミックス被膜が緻密でないため、セラミックス被膜中を酸素が透過してαケースが形成されたと考えられる。
【0067】
図8は、比較例5から7の供試体の金属組織観察結果を示す写真であり、図8(a)は、比較例5の供試体の写真であり、図8(b)は、比較例6の供試体の写真であり、図8(c)は、比較例7の供試体の写真である。比較例5から7の供試体では、いずれもαケースの形成が認められた。この理由は、スパッタリングにより形成されるチタン系セラミックス被膜が薄膜であるため、チタン系セラミックス被膜中を酸素が透過してαケースが形成されたと考えられる。
【0068】
これらの結果から、基材にAlを拡散浸透処理して、基材の表面にAl層を形成することにより、大気雰囲気中で熱曝露されてもαケースの形成を抑制できることがわかった。
【0069】
(Al層を形成した基材における熱間鍛造時の延性評価)
Al層を形成した基材における熱間鍛造時の延性評価を行った。まず、実施例2及び比較例8の供試体の作製方法について説明する。各供試体の基材には、上記の鋳造した基材をHIP処理したものを使用した。実施例2の供試体として、HIP処理した基材にAlを拡散浸透処理して、HIP処理した基材の表面にAl層を形成した。Alの拡散浸透処理は、実施例1の供試体と同様の方法で行った。比較例8の供試体は、何もコーティングしていないHIP処理した基材(HIP処理した基材のまま状態)とした。
【0070】
実施例2及び比較例8の供試体について、絞りを測定した。絞りの測定については、上述した基材における熱間鍛造時の延性評価と同様に、グリーブル試験機を用いた引張試験により行った。試験温度は、1250℃から1275℃とした。試験雰囲気は、大気雰囲気とした。歪速度は、1/秒、5/秒、7/秒、10/秒とした。
【0071】
図9は、各供試体における絞りの測定結果を示すグラフである。図9のグラフでは、横軸に歪速度を取り、縦軸に絞りを取り、実施例2の供試体の絞りを白丸で示し、比較例8の供試体の絞りを白三角で示している。実施例2の供試体は、比較例8の供試体よりも、絞りが大きくなった。より詳細には、実施例2の供試体は、比較例8の供試体よりも、歪速度が1/秒より大きい場合や、歪速度が5/秒以上や10/秒以上の場合で絞りが大きくなった。
【0072】
比較例8の供試体の場合には、歪速度が7/秒以上で、絞りが略0%となり、脆性破壊した。これに対して、実施例2の供試体の場合には、歪速度が7/秒のとき絞りが約60%から70%であり、歪速度が10/秒のとき絞りが約40%から50%であった。各供試体について試験後にαケースの有無を評価したところ、比較例8の供試体ではαケースの形成が認められ、実施例2の供試体ではαケースの形成が認められなかった。このように、実施例2の供試体では、大気雰囲気中での熱間鍛造時において優れた延性を有していることがわかった。
【0073】
(熱間鍛造試験)
実施例2の供試体について、熱間鍛造試験を行った。熱間鍛造試験は、大気雰囲気中において1250℃から1275℃でα相+β相の2相領域に保持して、歪速度10/秒でプレス型鍛造した。図10は、熱間鍛造試験後の外観観察結果を示す写真であり、図10(a)は、上型側を示す写真であり、図10(b)は、下型側を示す写真である。図10に示すように、熱間鍛造後の供試体には、鍛造割れ等が無く、高速で熱間鍛造可能なことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本開示によれば、より簡易に大気雰囲気中における熱間鍛造時のαケースの形成を防止して、鍛造割れを抑制できるので、航空機エンジン部品のタービン翼等に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10