(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130552
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】標的化核酸ナノ担体を使用して治療用細胞をプログラムするための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20220830BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220830BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20220830BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220830BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220830BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220830BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220830BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20220830BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
C12N15/09 100
C12N5/10 ZNA
A61P31/00
A61P35/00
A61P37/04
A61K48/00
A61K35/17 A
A61K35/17 Z
A61K35/28
A61P31/12
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102442
(22)【出願日】2022-06-27
(62)【分割の表示】P 2018553912の分割
【原出願日】2017-04-14
(31)【優先権主張番号】62/322,581
(32)【優先日】2016-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/442,890
(32)【優先日】2017-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】522256406
【氏名又は名称】フレッド ハッチンソン キャンサー センター
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マティーアス・シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ハウエル・エフ・モフェット
(57)【要約】 (修正有)
【課題】核酸の一過性発現を実現することにより治療目的を果たすように造血幹細胞を迅速且つ選択的に改変する組成物及び方法を提供する。
【解決手段】対象に投与するための造血系由来の選択された細胞集団の調製方法であって、造血系由来の選択された細胞集団を含む不均一細胞混合物を含む試料を対象から採取する工程;(i)正電荷をもつ担体の内側に封入されており、遺伝子編集剤又は表現型を変化させるタンパク質をコードする合成核酸と;(ii)担体の外表面に設けられた中性又は負電荷をもつコーティングと;(iii)コーティングの表面から突き出した選択された細胞ターゲティングリガンドとを含む合成ナノ担体に試料を暴露することにより、選択された細胞集団にナノ担体を選択的に送達し、該細胞集団内の細胞を改変する工程;及び試料内の細胞を拡大培養する工程を含み;それにより、選択された細胞集団を対象に投与できるように調製する方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象に投与するための造血系由来の選択された細胞集団の調製方法であって、
造血系由来の選択された細胞集団を含む不均一細胞混合物を含む試料を前記対象から採取する工程;
(i)正電荷をもつ担体の内側に封入されており、遺伝子編集剤又は表現型を変化させるタンパク質をコードする合成核酸と;
(ii)前記担体の外表面に設けられた中性又は負電荷をもつコーティングと;
(iii)前記コーティングの表面から突き出した選択された細胞ターゲティングリガンドと
を含む合成ナノ担体に前記試料を暴露することにより、前記選択された細胞集団に前記ナノ担体を選択的に送達し、前記選択された細胞集団内の細胞を改変する工程;及び
前記試料内の細胞を拡大培養する工程を含み;
それにより、前記選択された細胞集団を前記対象に投与できるように調製する、前記方法。
【請求項2】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、不均一細胞集団内のリンパ球と選択的に結合し、受容体誘導性エンドサイトーシスを開始する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料内の前記拡大培養した細胞が、前記選択された細胞集団の改変細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
更に、調製後の前記選択された細胞集団を細胞組成物に製剤化する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
更に、前記細胞組成物を前記対象に投与する工程を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記暴露工程の前に、前記不均一細胞混合物における前記選択された細胞集団の百分率を増加させるための単離処置を、全く行わないか又は限定的にしか行わない、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記合成核酸が、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、megaTAL及び/又はジンクフィンガーヌクレアーゼから選択される遺伝子編集剤をコードする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記合成核酸が、配列番号1のmegaTALをコードする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記遺伝子編集剤が、Shp-1ホスファターゼ、PD1受容体、T細胞受容体(TCR)、CCR5及び/又はCXCR4をコードする内在性遺伝子を破壊する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記遺伝子編集剤が、TCRα鎖をコードする内在性遺伝子を破壊する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記合成核酸が、転写因子、キナーゼ及び/又は細胞表面受容体から選択される表現型を変化させるタンパク質をコードする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記表現型を変化させるタンパク質が、FOXO1、LKB1、TCF7、EOMES、ID2、TERT、CCR2b及び/又はCCR4から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、不均一細胞集団内のリンパ球と選択的に結合し、受容体誘導性エンドサイトーシスを開始する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記不均一細胞集団が、エクソビボ細胞培養物である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記不均一細胞集団が、インビボである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、T細胞、NK細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、B細胞、造血幹細胞又はそれらの組合せと選択的に結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、リンパ球受容体リガンド、リンパ球受容体抗体、リンパ球受容体ペプチドアプタマー、リンパ球受容体核酸アプタマー、リンパ球受容体スピエゲルマー又はそれらの組合せから選択される結合ドメインを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、T細胞受容体モチーフ、T細胞α鎖、T細胞β鎖、T細胞γ鎖、T細胞δ鎖、CCR7、CD1a、CD1b、CD1c、CD1d、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD11b、CD11c、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD25、CD28、CD34、CD35、CD39、CD40、CD45RA、CD45RO、CD46、CD52、CD56、CD62L、CD68、CD69、CD80、CD86、CD95、CD101、CD117、CD127、CD133、CD137(4-1BB)、CD148、CD163、CD209、DEC-205、F4/80、IL-4Rα、Sca-1、CTLA-4、GITR、GARP、LAP、グランザイムB、LFA-1又はトランスフェリン受容体と選択的に結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD1a、CD1b、CD1c、CD1d、CCR7、CD3、CD4、CD5、CD8、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD25、CD28、CD35、CD40、CD45RA、CD45RO、CD46、CD52、CD69、CD62L、CD80、CD95、CD127、CD137、CD209又はDEC-205と選択的に結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、T細胞α鎖抗体、T細胞β鎖抗体、T細胞γ鎖抗体、T細胞δ鎖抗体、CCR7抗体、CD1a抗体、CD1b抗体、CD1c抗体、CD1d抗体、CD3抗体、CD4抗体、CD5抗体、CD7抗体、CD8抗体、CD11b抗体、CD11c抗体、CD16抗体、CD19抗体、CD20抗体、CD21抗体、CD22抗体、CD25抗体、CD28抗体、CD34抗体、CD35抗体、CD39抗体、CD40抗体、CD45RA抗体、CD45RO抗体、CD46抗体、CD52抗体、CD56抗体、CD62L抗体、CD68抗体、CD69抗体、CD80抗体、CD86抗体、CD95抗体、CD101抗体、CD117抗体、CD127抗体、CD133抗体、CD137(4-1BB)抗体、CD148抗体、CD163抗体、CD209抗体、DEC-205抗体、F4/80抗体、IL-4Rα抗体、Sca-1抗体、CTLA-4抗体、GITR抗体、GARP抗体、LAP抗体、グランザイムB抗体、LFA-1抗体又はトランスフェリン受容体抗体から選択される結合ドメインを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記結合ドメインが、T細胞α鎖抗体、T細胞β鎖抗体、T細胞γ鎖抗体、T細胞δ鎖抗体、CCR7抗体、CD1a抗体、CD1b抗体、CD1c抗体、CD1d抗体、CD3抗体、CD4抗体、CD5抗体、CD7抗体、CD8抗体、CD11b抗体、CD11c抗体、CD16抗体、CD19抗体、CD20抗体、CD21抗体、CD22抗体、CD25抗体、CD28抗体、CD34抗体、CD35抗体、CD39抗体、CD40抗体、CD45RA抗体、CD45RO抗体、CD46抗体、CD52抗体、CD56抗体、CD62L抗体、CD68抗体、CD69抗体、CD80抗体、CD86抗体、CD95抗体、CD101抗体、CD117抗体、CD127抗体、CD133抗体、CD137(4-1BB)抗体、CD148抗体、CD163抗体、CD209抗体、DEC-205抗体、F4/80抗体、IL-4Rα抗体、Sca-1抗体、CTLA-4抗体、GITR抗体、GARP抗体、LAP抗体、グランザイムB抗体、LFA-1抗体又はトランスフェリン受容体抗体の、scFv断片から構成されるか又はこれらのscFv断片から本質的に構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記合成核酸が、合成mRNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記担体が、正電荷をもつ脂質又はポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記正電荷をもつポリマーが、ポリ(β-アミノエステル)、ポリ(L-リジン)、ポリ(エチレンイミン)(PEI)、ポリ(アミドアミン)デンドリマー(PAMAM)、アミン・エステル共重合体、ポリ(メタクリル酸ジメチルアミノエチル)(PDMAEMA)、キトサン、L-ラクチド・L-リジン共重合体、ポリ[α-(4-アミノブチル)-L-グリコール酸](PAGA)又はポリ(4-ヒドロキシ-L-プロリンエステル)(PHP)を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記コーティングが、中性又は負電荷をもつ脂質又はポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記中性又は負電荷をもつコーティングが、ポリグルタミン酸(PGA)、ポリ(アクリル酸)、アルギン酸又はコレステリルヘミサクシネート/1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記中性又は負電荷をもつコーティングが、双性イオン型ポリマーを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記中性又は負電荷をもつコーティングが、リポソームを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
前記リポソームが、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、3β-[N-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール(DC-Chol)、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)、コレステロール、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)又は1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4及び/又はCD8と選択的に結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4抗体及び/又はCD8抗体から選択される結合ドメインを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4抗体及び/又はCD8抗体のscFv断片から選択される結合ドメインを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記担体が、ポリ(β-アミノエステル)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記コーティングが、ポリグルタミン酸(PGA)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4抗体及び/又はCD8抗体から選択される結合ドメインを含み、前記担体が、ポリ(β-アミノエステル)を含み、前記コーティングが、ポリグルタミン酸(PGA)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項36】
対象を治療するための細胞の調製方法であって、
対象からリンパ球を採取する工程;及び
(i)正電荷をもつ担体の内側に封入されており、遺伝子編集剤又は表現型を変化させるタンパク質をコードする合成核酸と;
(ii)前記担体の外表面に設けられた中性又は負電荷をもつコーティングと;
(iii)前記コーティングの表面から突き出した選択された細胞ターゲティングリガンドと
を含む合成ナノ担体と前記リンパ球とを結合させる工程を含み;
前記結合後に前記リンパ球が前記核酸を一過性発現するように前記ナノ担体を前記リンパ球に選択的に取込ませる、前記方法。
【請求項37】
更に、前記リンパ球を拡大培養する工程を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
更に、前記リンパ球を細胞組成物に製剤化する工程を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記暴露工程の前に、前記不均一細胞混合物における前記選択された細胞集団の百分率を増加させるための単離処置を、全く行わないか又は限定的にしか行わない、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
前記合成核酸が、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、megaTAL及び/又はジンクフィンガーヌクレアーゼから選択される遺伝子編集剤をコードする、請求項35に記載の方法。
【請求項41】
前記合成核酸が、配列番号1のmegaTALをコードする、請求項35に記載の方法。
【請求項42】
前記遺伝子編集剤が、Shp-1ホスファターゼ、PD1受容体、T細胞受容体(TCR)、CCR5及び/又はCXCR4をコードする内在性遺伝子を破壊する、請求項35に記載の方法。
【請求項43】
前記遺伝子編集剤が、TCRα鎖をコードする内在性遺伝子を破壊する、請求項35に記載の方法。
【請求項44】
前記合成核酸が、転写因子、キナーゼ及び/又は細胞表面受容体から選択される、表現型を変化させるタンパク質をコードする、請求項35に記載の方法。
【請求項45】
前記表現型を変化させるタンパク質が、FOXO1、LKB1、TCF7、EOMES、ID2、TERT、CCR2b及び/又はCCR4から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項46】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、不均一細胞集団内のリンパ球と選択的に結合する、請求項35に記載の方法。
【請求項47】
前記不均一細胞集団が、エクソビボ細胞培養物である、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記不均一細胞集団が、インビボである、請求項45に記載の方法。
【請求項49】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、T細胞、NK細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、B細胞、造血幹細胞又はそれらの組合せと選択的に結合する、請求項35に記載の方法。
【請求項50】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、リンパ球受容体リガンド、リンパ球受容体抗体、リンパ球受容体ペプチドアプタマー、リンパ球受容体核酸アプタマー、リンパ球受容体スピエゲルマー又はそれらの組合せから選択される結合ドメインを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項51】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、T細胞受容体モチーフ、T細胞α鎖、T細胞β鎖、T細胞γ鎖、T細胞δ鎖、CCR7、CD1a、CD1b、CD1c、CD1d、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD11b、CD11c、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD25、CD28、CD34、CD35、CD39、CD40、CD45RA、CD45RO、CD46、CD52、CD56、CD62L、CD68、CD69、CD80、CD86、CD95、CD101、CD117、CD127、CD133、CD137(4-1BB)、CD148、CD163、CD209、DEC-205、F4/80、IL-4Rα、Sca-1、CTLA-4、GITR、GARP、LAP、グランザイムB、LFA-1又はトランスフェリン受容体と選択的に結合する、請求項35に記載の方法。
【請求項52】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD1a、CD1b、CD1c、CD1d、CCR7、CD3、CD4、CD5、CD8、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD25、CD28、CD35、CD40、CD45RA、CD45RO、CD46、CD52、CD62L、CD69、CD80、CD95、CD127、CD137、CD209又はDEC-205と選択的に結合する、請求項35に記載の方法。
【請求項53】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、T細胞α鎖抗体、T細胞β鎖抗体、T細胞γ鎖抗体、T細胞δ鎖抗体、CCR7抗体、CD1a抗体、CD1b抗体、CD1c抗体、CD1d抗体、CD3抗体、CD4抗体、CD5抗体、CD7抗体、CD8抗体、CD11b抗体、CD11c抗体、CD16抗体、CD19抗体、CD20抗体、CD21抗体、CD22抗体、CD25抗体、CD28抗体、CD34抗体、CD35抗体、CD39抗体、CD40抗体、CD45RA抗体、CD45RO抗体、CD46抗体、CD52抗体、CD56抗体、CD62L抗体、CD68抗体、CD69抗体、CD80抗体、CD86抗体、CD95抗体、CD101抗体、CD117抗体、CD127抗体、CD133抗体、CD137(4-1BB)抗体、CD148抗体、CD163抗体、CD209抗体、DEC-205抗体、F4/80抗体、IL-4Rα抗体、Sca-1抗体、CTLA-4抗体、GITR抗体、GARP抗体、LAP抗体、グランザイムB抗体、LFA-1抗体又はトランスフェリン受容体抗体から選択される結合ドメインを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項54】
前記結合ドメインが、T細胞α鎖抗体、T細胞β鎖抗体、T細胞γ鎖抗体、T細胞δ鎖抗体、CCR7抗体、CD1a抗体、CD1b抗体、CD1c抗体、CD1d抗体、CD3抗体、CD4抗体、CD5抗体、CD7抗体、CD8抗体、CD11b抗体、CD11c抗体、CD16抗体、CD19抗体、CD20抗体、CD21抗体、CD22抗体、CD25抗体、CD28抗体、CD34抗体、CD35抗体、CD39抗体、CD40抗体、CD45RA抗体、CD45RO抗体、CD46抗体、CD52抗体、CD56抗体、CD62L抗体、CD68抗体、CD69抗体、CD80抗体、CD86抗体、CD95抗体、CD101抗体、CD117抗体、CD127抗体、CD133抗体、CD137(4-1BB)抗体、CD148抗体、CD163抗体、CD209抗体、DEC-205抗体、F4/80抗体、IL-4Rα抗体、Sca-1抗体、CTLA-4抗体、GITR抗体、GARP抗体、LAP抗体、グランザイムB抗体、LFA-1抗体又はトランスフェリン受容体抗体のscFv断片から構成されるか、又はこれらのscFv断片から本質的に構成される、請求項35に記載の方法。
【請求項55】
前記合成核酸が、合成mRNAである、請求項35に記載の方法。
【請求項56】
前記担体が、正電荷をもつ脂質又はポリマーを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項57】
前記正電荷をもつ脂質又はポリマーが、ポリ(β-アミノエステル)、ポリ(L-リジン)、ポリ(エチレンイミン)(PEI)、ポリ(アミドアミン)デンドリマー(PAMAM)、アミン・エステル共重合体、ポリ(メタクリル酸ジメチルアミノエチル)(PDMAEMA)、キトサン、L-ラクチド・L-リジン共重合体、ポリ[α-(4-アミノブチル)-L-グリコール酸](PAGA)又はポリ(4-ヒドロキシ-L-プロリンエステル)(PHP)を含む、請求項55に記載の方法。
【請求項58】
前記コーティングが、中性又は負電荷をもつ脂質又はポリマーを含む、請求項55に記載の方法。
【請求項59】
前記中性又は負電荷をもつコーティングが、ポリグルタミン酸(PGA)、ポリ(アクリル酸)、アルギン酸又はコレステリルヘミサクシネート/1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンを含む、請求項57に記載の方法。
【請求項60】
前記中性又は負電荷をもつコーティングが、双性イオン型ポリマーを含む、請求項57に記載の方法。
【請求項61】
前記中性又は負電荷をもつコーティングが、リポソームを含む、請求項57に記載の方法。
【請求項62】
前記リポソームが、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、3β-[N-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール(DC-Chol)、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)、コレステロール、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)又は1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)を含む、請求項60に記載の方法。
【請求項63】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4及び/又はCD8と選択的に結合する、請求項35に記載の方法。
【請求項64】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4抗体及び/又はCD8抗体から選択される結合ドメインを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項65】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4抗体及び/又はCD8抗体のscFv断片から選択される結合ドメインを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項66】
前記担体が、ポリ(β-アミノエステル)を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項67】
前記コーティングが、ポリグルタミン酸(PGA)を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項68】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4抗体及び/又はCD8抗体から選択される結合ドメインを含み、前記担体が、ポリ(β-アミノエステル)を含み、前記コーティングが、ポリグルタミン酸(PGA)を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項69】
治療を必要とする対象の治療方法であって、
(i)正電荷をもつ担体の内側に封入されており、遺伝子編集剤又は表現型を変化させるタンパク質をコードする合成核酸と;
(ii)前記担体の外表面に設けられた中性又は負電荷をもつコーティングと;
(iii)前記コーティングの表面から突き出した選択された細胞ターゲティングリガンドと
を含むナノ担体により細胞に選択的に送達された前記核酸の一過性発現により改変された前記細胞を、治療有効量投与する段階を含み;
前記結合後に前記リンパ球が前記核酸を一過性発現するように前記ナノ担体を前記リンパ球に選択的に取込ませることにより、治療を必要とする前記対象を治療する、前記方法。
【請求項70】
対象に投与するための選択された細胞集団の調製方法であって、
選択された細胞集団を含む不均一細胞混合物を含む試料を前記対象から採取する工程;
(i)正電荷をもつ担体の内側に封入されており、遺伝子編集剤又は表現型を変化させるタンパク質をコードする合成核酸と;
(ii)前記担体の外表面に設けられた中性又は負電荷をもつコーティングと;
(iii)前記コーティングの表面から突き出した選択された細胞ターゲティングリガンドと
を含む合成ナノ担体に前記試料を暴露することにより、前記選択された細胞集団に前記ナノ担体を選択的に送達し、前記選択された細胞集団内の細胞を改変する工程;及び
前記試料内の細胞を拡大培養する工程を含み;
それにより、前記選択された細胞集団の前記対象への投与のために調製する、前記方法。
【請求項71】
(i)正電荷をもつ担体の内側に封入されており、遺伝子編集剤又は表現型を変化させるタンパク質をコードする核酸と;
(ii)前記担体の外表面に設けられた中性又は負電荷をもつコーティングと;
(iii)前記コーティングの表面から突き出した選択された細胞ターゲティングリガンドと
を含む合成ナノ担体。
【請求項72】
前記合成核酸が、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、megaTAL及び/又はジンクフィンガーヌクレアーゼから選択される遺伝子編集剤をコードする、請求項70に記載の合成ナノ担体。
【請求項73】
前記合成核酸が、配列番号1のmegaTALをコードする、請求項70に記載の合成ナノ担体。
【請求項74】
前記遺伝子編集剤が、Shp-1ホスファターゼ、PD1受容体、T細胞受容体(TCR)、CCR5及び/又はCXCR4をコードする内在性遺伝子を破壊する、請求項70に記載の合成ナノ担体。
【請求項75】
前記遺伝子編集剤が、TCRα鎖をコードする内在性遺伝子を破壊する、請求項70に記載の合成ナノ担体。
【請求項76】
前記合成核酸が、転写因子、キナーゼ及び/又は細胞表面受容体から選択される、表現型を変化させるタンパク質をコードする、請求項70に記載の合成ナノ担体。
【請求項77】
前記表現型を変化させるタンパク質が、FOXO1、LKB1、TCF7、EOMES、ID2、TERT、CCR2b及び/又はCCR4から選択される、請求項70に記載の合成ナノ担体。
【請求項78】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、不均一細胞集団内のリンパ球と選択的に結合する、請求項70に記載の合成ナノ担体。
【請求項79】
前記不均一細胞集団が、エクソビボ細胞培養物である、請求項77に記載の合成ナノ担体。
【請求項80】
前記不均一細胞集団が、インビボである、請求項77に記載の合成ナノ担体。
【請求項81】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、T細胞、NK細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、B細胞、造血幹細胞又はそれらの組合せと選択的に結合する、請求項70に記載の合成ナノ担体。
【請求項82】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、リンパ球受容体リガンド、リンパ球受容体抗体、リンパ球受容体ペプチドアプタマー、リンパ球受容体核酸アプタマー、リンパ球受容体スピエゲルマー又はそれらの組合せから選択される結合ドメインを含む、請求項70に記載の合成ナノ担体。
【請求項83】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、T細胞受容体モチーフ、T細胞α鎖、T細胞β鎖、T細胞γ鎖、T細胞δ鎖、CCR7、CD1a、CD1b、CD1c、CD1d、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD11b、CD11c、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD25、CD28、CD34、CD35、CD39、CD40、CD45RA、CD45RO、CD46、CD52、CD56、CD62L、CD68、CD69、CD80、CD86、CD95、CD101、CD117、CD127、CD133、CD137(4-1BB)、CD148、CD163、CD209、DEC-205、F4/80、IL-4Rα、Sca-1、CTLA-4、GITR、GARP、LAP、グランザイムB、LFA-1又はトランスフェリン受容体と選択的に結合する、請求項70に記載の合成ナノ担体。
【請求項84】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD1a、CD1b、CD1c、CD1d、CCR7、CD3、CD4、CD5、CD8、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD25、CD28、CD35、CD40、CD45RA、CD45RO、CD46、CD52、CD62L、CD69、CD80、CD95、CD127、CD137、CD209又はDEC-205と選択的に結合する、請求項70に記載の合成ナノ担体。
【請求項85】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、T細胞α鎖抗体、T細胞β鎖抗体、T細胞γ鎖抗体、T細胞δ鎖抗体、CCR7抗体、CD1a抗体、CD1b抗体、CD1c抗体、CD1d抗体、CD3抗体、CD4抗体、CD5抗体、CD7抗体、CD8抗体、CD11b抗体、CD11c抗体、CD16抗体、CD19抗体、CD20抗体、CD21抗体、CD22抗体、CD25抗体、CD28抗体、CD34抗体、CD35抗体、CD39抗体、CD40抗体、CD45RA抗体、CD45RO抗体、CD46抗体、CD52抗体、CD56抗体、CD62L抗体、CD68抗体、CD69抗体、CD80抗体、CD86抗体、CD95抗体、CD101抗体、CD117抗体、CD127抗体、CD133抗体、CD137(4-1BB)抗体、CD148抗体、CD163抗体、CD209抗体、DEC-205抗体、F4/80抗体、IL-4Rα抗体、Sca-1抗体、CTLA-4抗体、GITR抗体、GARP抗体、LAP抗体、グランザイムB抗体、LFA-1抗体又はトランスフェリン受容体抗体から選択される結合ドメインを含む、請求項70に記載の合成ナノ担体。
【請求項86】
前記結合ドメインが、T細胞α鎖抗体、T細胞β鎖抗体、T細胞γ鎖抗体、T細胞δ鎖抗体、CCR7抗体、CD1a抗体、CD1b抗体、CD1c抗体、CD1d抗体、CD3抗体、CD4抗体、CD5抗体、CD7抗体、CD8抗体、CD11b抗体、CD11c抗体、CD16抗体、CD19抗体、CD20抗体、CD21抗体、CD22抗体、CD25抗体、CD28抗体、CD34抗体、CD35抗体、CD39抗体、CD40抗体、CD45RA抗体、CD45RO抗体、CD46抗体、CD52抗体、CD56抗体、CD62L抗体、CD68抗体、CD69抗体、CD80抗体、CD86抗体、CD95抗体、CD101抗体、CD117抗体、CD127抗体、CD133抗体、CD137(4-1BB)抗体、CD148抗体、CD163抗体、CD209抗体、DEC-205抗体、F4/80抗体、IL-4Rα抗体、Sca-1抗体、CTLA-4抗体、GITR抗体、GARP抗体、LAP抗体、グランザイムB抗体、LFA-1抗体又はトランスフェリン受容体抗体のscFv断片から構成されるか、又はそれらのscFv断片から本質的に構成される、請求項70に記載の合成ナノ担体。
【請求項87】
前記合成核酸が、合成mRNAである、請求項70に記載の合成ナノ担体。
【請求項88】
前記担体が、正電荷をもつ脂質又はポリマーを含む、請求項70に記載の合成ナノ担体。
【請求項89】
前記正電荷をもつ脂質又はポリマーが、ポリ(β-アミノエステル)、ポリ(L-リジン)、ポリ(エチレンイミン)(PEI)、ポリ(アミドアミン)デンドリマー(PAMAM)、アミン・エステル共重合体、ポリ(メタクリル酸ジメチルアミノエチル)(PDMAEMA)、キトサン、L-ラクチド・L-リジン共重合体、ポリ[α-(4-アミノブチル)-L-グリコール酸](PAGA)又はポリ(4-ヒドロキシ-L-プロリンエステル)(PHP)を含む、請求項87に記載の合成ナノ担体。
【請求項90】
前記コーティングが、中性又は負電荷をもつ脂質又はポリマーを含む、請求項70に記載の合成ナノ担体。
【請求項91】
前記中性又は負電荷をもつコーティングが、ポリグルタミン酸(PGA)、ポリ(アクリル酸)、アルギン酸又はコレステリルヘミサクシネート/1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンを含む、請求項89に記載の合成ナノ担体。
【請求項92】
前記中性又は負電荷をもつコーティングが双性イオン型ポリマーを含む、請求項89に記載の合成ナノ担体。
【請求項93】
前記中性又は負電荷をもつコーティングがリポソームを含む、請求項89に記載の合成ナノ担体。
【請求項94】
前記リポソームが、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、3β-[N-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール(DC-Chol)、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)、コレステロール、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)又は1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)を含む、請求項92に記載の合成ナノ担体。
【請求項95】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4及び/又はCD8と選択的に結合する、請求項70に記載の合成ナノ担体。
【請求項96】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4抗体及び/又はCD8抗体から選択される結合ドメインを含む、請求項70に記載の合成ナノ担体。
【請求項97】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4抗体及び/又はCD8抗体のscFv断片から選択される結合ドメインを含む、請求項70に記載の合成ナノ担体。
【請求項98】
前記担体が、ポリ(β-アミノエステル)を含む、請求項70に記載の合成ナノ担体。
【請求項99】
前記コーティングが、ポリグルタミン酸(PGA)を含む、請求項70に記載の合成ナノ担体。
【請求項100】
前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4抗体及び/又はCD8抗体から選択される結合ドメインを含み、前記担体が、ポリ(β-アミノエステル)を含み、前記コーティングが、ポリグルタミン酸(PGA)を含む、請求項70に記載の合成ナノ担体。
【請求項101】
請求項70に記載の合成ナノ担体を含有する組成物。
【請求項102】
治療を必要とする対象の治療方法であって、治療有効量の、請求項70に記載のナノ担体又は、請求項100に記載の組成物を投与することにより、治療を必要とする前記対象を治療する、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、核酸の一過性発現を実現することにより治療目的を果たすように造血幹細胞(又はそれに由来する細胞)を迅速且つ選択的に改変する組成物及び方法を、提供する。この一過性発現は、改変後の細胞に永続的な治療的変化(本願では「ヒットエンドラン」効果と呼ぶ)をもたらす。前記方法は、培養細胞でもインサイチュ(in situ)でも実施することができる。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療に成功するか否かは、選択された目的細胞への遺伝子送達機構の成功次第である。目下のところ、長期間の遺伝子治療に成功するための最も一般的な方法は、レンチウイルスベクターを利用するシステム等のウイルスシステムである。これらの遺伝子治療は、治療に有用なタンパク質の継続的な細胞内発現に依存している。このようなウイルスシステムは、遺伝子治療のために遺伝子を有効に送達することができるが、非選択的であり、費用がかかり、広く利用できない。更に、持続的な治療用タンパク質発現は、時間の経過に伴って生じる細胞内イベントにより経時的に低下する可能性がある。
【0003】
遺伝子治療用に遺伝子を細胞内に送達するための機構として、エレクトロポレーションも開発されている。しかし、エレクトロポレーションは、細胞膜の機械的破壊と透過に依存するため、細胞生存性が低下し、治療用に理想的とは言い難い。更に、ウイルスを利用する方法と同様に、エレクトロポレーションは、不均一プールの中の特定の細胞種に遺伝子を選択的に送達するものではないため、事前に細胞選択・精製工程が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、核酸の一過性発現を実現することにより治療目的を果たすように、造血幹細胞(又はそれに由来する細胞)を迅速且つ選択的に改変する組成物及び方法を、提供する。一過性発現は、改変後の細胞に永続的な治療的変化(本願では「ヒットエンドラン」効果と呼ぶ)をもたらす。持続的な治療効果を得るために一過性発現しか必要としないため、治療用タンパク質発現の経時的な低下に関する問題が、解消される。更に、これらの組成物及び方法は、選択された細胞種を選択的に改変するため、改変の前に、細胞選択工程又は精製工程を必要としない。このため、治療用細胞のエクスビボ(ex vivo)製造が迅速になると共に、細胞のインビボ(in vivo)標的化遺伝子改変が可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願に記載するヒットエンドラン効果は、遺伝子編集を生じる核酸の一過性発現又は細胞の表現型を永続的に変化させるタンパク質の一過性発現を利用することにより、可能になる。遺伝子編集を生じる核酸の例としては、TALEN、megaTAL、ジンクフィンガーヌクレアーゼ及びCRISPR-Casシステムが挙げられる。表現型を変化させるタンパク質の例としては、転写因子、キナーゼ及び細胞表面受容体が挙げられる。
【発明の効果】
【0006】
本願に開示する組成物及び方法には、多数の用途がある。培養細胞における例としては、標的化ヌクレアーゼにより造血細胞(造血幹細胞を含む)のゲノムを編集する場合、特定の転写因子を一過性発現させることにより養子移入細胞に治療的に望ましい表現型を刷り込む場合、テロメラーゼ逆転写酵素もしくは抗アポトーシス遺伝子を発現させることにより養子移入細胞における細胞老化を抑制する場合、又はケモカイン受容体の発現により固有の細胞親和性を変化させる場合が、挙げられる。インサイチュの例としては、樹状細胞に選択的にトランスフェクトする担体に核酸を担持させて同時注入し、前記細胞の抗原提示能を高めることによりワクチンの力価を増強させる場合、又は、ワクチンでプライミングしたT細胞にトランスフェクトして長期間持続するメモリー表現型を誘導する場合が、挙げられる。
【0007】
本願に添付する図面の多くはカラーで表示したほうが分かり易いが、出願時の特許出願公報にカラーでは掲載されない。出願人は、これらの図面のカラー版を出願当初に提出された書面の一部とみなし、後日の審査過程においてこれらの図面のカラー画像を提出する権利を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】
図1A~1C。治療用T細胞を遺伝的にプログラムするためのmRNAナノ担体の作製。
図1A:ポリマーナノ粒子に担持させた治療関連トランスジーンを発現させるために、培養T細胞をどのようにプログラムできるかを説明する模式図。これらの粒子は、これらの粒子を特定の細胞種にターゲティングするリガンドでコーティングされているため、そのmRNAカーゴを導入することができ、標的とする細胞に(転写因子やゲノム編集剤等の)選択されたタンパク質を発現させることができる。
【
図1B】
図1A~1C。治療用T細胞を遺伝的にプログラムするためのmRNAナノ担体の作製。
図1B:mRNAを担持させた標的化ナノ粒子のデザイン。挿入図は、代表的なナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真を示す(スケールバー=50nm)。ナノ粒子に封入された合成mRNAも示す。
【
図1C】
図1A~1C。治療用T細胞を遺伝的にプログラムするためのmRNAナノ担体の作製。
図1C:本願に開示する実施形態で使用することができる遺伝子編集剤、表現型を変化させるタンパク質、標的遺伝子及びその使用の例。
【
図3A】
図3A~3C。mRNAを担持させたナノ粒子の物理的性質。
図3A:個々の粒子の有限飛跡長調整粒度分布。
【
図3B】
図3A~3C。mRNAを担持させたナノ粒子の物理的性質。
図3B:ナノ粒子1個(左、スケールバー=100nm)及びナノ粒子集団(右、スケールバー=2μm)の透過型電子顕微鏡写真。
【
図3C】
図3A~3C。mRNAを担持させたナノ粒子の物理的性質。
図3C:対照ナノ粒子(-PGA-Ab)と、PGAをコーティングして抗体と結合させたナノ粒子(+PGA-Ab)とを、PBS(pH7.4)で40倍に希釈後にゼータ電位を測定し、比較した(n=5)。
【
図4A】
図4A~4D。mRNAナノ粒子トランスフェクションは、最小限の細胞操作しか必要とせず、細胞生存性に影響を与えずにリンパ球による確実なトランスジーン発現を実現する。
図4A:CD3を標的とするポリマーナノ粒子にCy5で標識したmRNAを担持させて、一次T細胞と混合した。共焦点顕微鏡によると、これらの粒子は、細胞表面から迅速に内在化されることが明らかである。画像は15カ所のランダムに選択した領域を表す。
【
図4B】
図4A~4D。mRNAナノ粒子トランスフェクションは最小限の細胞操作しか必要とせず、細胞生存性に影響を与えずにリンパ球による確実なトランスジーン発現を実現する。
図4B:CD3を標的とするナノ粒子にeGFPをコードするmRNAを担持させたものと共に保温してから24時間後の、T細胞のフローサイトメトリー。
【
図4C】
図4A~4D。mRNAナノ粒子トランスフェクションは最小限の細胞操作しか必要とせず、細胞生存性に影響を与えずにリンパ球による確実なトランスジーン発現を実現する。
図4C、
図4D:エレクトロポレーション及びナノ粒子遺伝子送達が細胞拡大培養に及ぼす影響を比較したもの。左図はナノ粒子のトランスフェクション(上)とエレクトロポレーション(下)とのワークフローを示す。右図は0日目と12日目に刺激性ビーズで処理した3人の別個のドナーに由来する、PBMC培養物が拡大された倍率を示す。各ドナーに由来する培養物をマッチさせ、未処理のままとするか、あるいは5日目と12日目にCD3/CD28を標的とするナノ粒子のトランスフェクション(
図4C、右)又はエレクトロポレーション(
図4D、右)により処理した。各線は1人のドナーを表し、各点はT細胞が拡大された倍率を反映する。群間の対応のある差をスチューデントのt検定により解析した(ns,非有位;*,有位,n=3)。
【
図4D】
図4A~4D。mRNAナノ粒子トランスフェクションは最小限の細胞操作しか必要とせず、細胞生存性に影響を与えずにリンパ球による確実なトランスジーン発現を実現する。
図4C、
図4D:エレクトロポレーションとナノ粒子遺伝子送達が細胞拡大培養に及ぼす影響を比較したもの。左図はナノ粒子のトランスフェクション(上)とエレクトロポレーション(下)のワークフローを示す。右図は0日目と12日目に刺激性ビーズで処理した3人の別個のドナーに由来するPBMC培養物が拡大された倍率を示す。各ドナーに由来する培養物をマッチさせ、未処理のままとするか、あるいは5日目と12日目にCD3/CD28を標的とするナノ粒子のトランスフェクション(
図4C、右)又はエレクトロポレーション(
図4D、右)により処理した。各線は1人のドナーを表し、各点はT細胞が拡大された倍率を反映する。群間の対応のある差をスチューデントのt検定により解析した(ns,非有位;*,有位,n=3)。
【
図5A】
図5A、5B。ナノ粒子トランスフェクションは迅速であり、凍結乾燥により悪化しない。
図5A:未処理の活性化T細胞又は抗CD3で標的化したeGFPをコードするNPの添加から5時間後に測定した、活性化T細胞10
6個におけるeGFP発現。
【
図5B】
図5A、5B。ナノ粒子トランスフェクションは迅速であり、凍結乾燥により悪化しない。
図5B:凍結と再懸濁後にNPのトランスフェクション効率は維持される。新たに調製したNP又は凍結乾燥して-80℃で保存後に懸濁して元の体積にしたNP(抗CD3又は抗CD8抗体により標的化したもの)を、条件毎に10
6個の活性化T細胞にトランスフェクトした。
【
図6】ナノ粒子トランスフェクション及びエレクトロポレーションで処理したT細胞の相対生存率。条件毎に活性化T細胞2×10
6個の試料を未処理のままとするか、又は
図2Cに記載するようにNPトランスフェクションもしくはエレクトロポレーションにより処理した。処理から18時間後に細胞を蛍光色素で標識し、生存率を評価した。本図に示す結果は、3回の別個の実験を表す。
【
図7A】
図7A~7H。TCRαを標的とするmegaTALヌクレアーゼをコードするmRNAを担持させたナノ担体は、CARによりプログラムされたリンパ球においてT細胞受容体をノックアウトすることができる。
図7A:CAR-T細胞の標準的製造へのナノ粒子トランスフェクションの統合。抗CD3/CD28をコーティングしたビーズによる刺激(0日)後、1日目と2日目にCD8を標的とするmRNA NPを導入した後、3日目に白血病特異的19-41BBζ CARをコードするベクターのレンチウイルス導入を行った。megaTALヌクレアーゼとeGFPをコードするmRNAを担持させたNP又はeGFP mRNAのみを担持させた対照粒子を添加した。
【
図7B】
図7A~7H。TCRαを標的とするmegaTALヌクレアーゼをコードするmRNAを担持させたナノ担体は、CARによりプログラムされたリンパ球においてT細胞受容体をノックアウトすることができる。
図7B:(eGFPシグナルに基づく)NPトランスフェクション効率のフローサイトメトリーはNP処理後の(CD3シグナルに基づく)T細胞によるTCRの表面発現レベルと相関していた。
【
図7C】
図7A~7H。TCRαを標的とするmegaTALヌクレアーゼをコードするmRNAを担持させたナノ担体は、CARによりプログラムされたリンパ球においてT細胞受容体をノックアウトすることができる。
図7C:14日目のCD3表面発現の低下により評価した編集効率を示す、サマリープロット(n=5)。
【
図7D】
図7A~7H。TCRαを標的とするmegaTALヌクレアーゼをコードするmRNAを担持させたナノ担体は、CARによりプログラムされたリンパ球においてT細胞受容体をノックアウトすることができる。
図7D:TCRα鎖遺伝子座破壊を確認する、サーベイヤーアッセイ。
【
図7E】
図7A~7H。TCRαを標的とするmegaTALヌクレアーゼをコードするmRNAを担持させたナノ担体は、CARによりプログラムされたリンパ球においてT細胞受容体をノックアウトすることができる。
図7E:ゲノム編集したT細胞におけるレンチウイルス導入のフローサイトメトリーと対照T細胞におけるレンチウイルス導入のフローサイトメトリーとの比較。
【
図7F】
図7A~7H。TCRαを標的とするmegaTALヌクレアーゼをコードするmRNAを担持させたナノ担体は、CARによりプログラムされたリンパ球においてT細胞受容体をノックアウトすることができる。
図7F:放射線照射したTM-LCL白血病細胞で共培養したTCR+(対照)及びTCR-(mTAL NPで処理した)CAR-T細胞の増殖。
【
図7G】
図7A~7H。TCRαを標的とするmegaTALヌクレアーゼをコードするmRNAを担持させたナノ担体は、CARによりプログラムされたリンパ球においてT細胞受容体をノックアウトすることができる。
図7G:CAR-T細胞によるCD19-K562標的細胞の溶解の細胞傷害性アッセイ。
【
図7H】
図7A~7H。TCRαを標的とするmegaTALヌクレアーゼをコードするmRNAを担持させたナノ担体は、CARによりプログラムされたリンパ球においてT細胞受容体をノックアウトすることができる。
図7H:PMAとイオノマイシン(P/I)で刺激後のIL-2及びIFN-γの細胞内サイトカイン発現。
【
図8A】
図8A~8F。Foxo13A転写因子をコードするmRNAを担持させたナノ担体は、CD8+セントラルメモリーT細胞に特徴的な表面マーカーと転写パターンを誘導する。
図8A:CD3を標的とする対照(GFP+)又はFoxo13A-GFP NPで処理したJurkat T細胞と一次T細胞において細胞内標識により測定した全Foxo1タンパク質の発現。
【
図8B】
図8A~8F。Foxo13A転写因子をコードするmRNAを担持させたナノ担体は、CD8+セントラルメモリーT細胞に特徴的な表面マーカーと転写パターンを誘導する。
図8B:細胞をFoxo13A-eGFP NPに暴露した後のFoxo13A mRNA相対発現量の経時的qPCR測定。
【
図8C】
図8A~8F。Foxo13A転写因子をコードするmRNAを担持させたナノ担体は、CD8+セントラルメモリーT細胞に特徴的な表面マーカーと転写パターンを誘導する。CD8を標的とするFoxo13A-GFP NPが粒子処理から24時間後のCD62L発現に及ぼす影響。
【
図8D】
図8A~8F。Foxo13A転写因子をコードするmRNAを担持させたナノ担体は、CD8+セントラルメモリーT細胞に特徴的な表面マーカーと転写パターンを誘導する。
図8D:CD8を標的とする対照又はFoxo13A/eGFPをコードするNPで処理し、選別後のCD8+eGFP+細胞において粒子導入後1日、8日及び20日培養時点で測定した、CD62L+細胞の百分率。これらの結果は、3人の別個のドナーから得られた結果である。比の対応のあるt検定から計算した指定条件間で、*P<0.05;**P<0.01。
【
図8E】
図8A~8F。Foxo13A転写因子をコードするmRNAを担持させたナノ担体は、CD8+セントラルメモリーT細胞に特徴的な表面マーカーと転写パターンを誘導する。
図8E:処理から8日後のTCM細胞、ナイーブ細胞及び対照細胞におけるTCMシグネチャー遺伝子発現のヒートマップ。
【
図8F】
図8A~8F。Foxo13A転写因子をコードするmRNAを担持させたナノ担体は、CD8+セントラルメモリーT細胞に特徴的な表面マーカーと転写パターンを誘導する。
図8F:Foxo13ANPで処理した細胞における、8日後の差次的遺伝子発現のボルカノプロット。TCMシグネチャー遺伝子及び選択されたメモリー表現型遺伝子を示す。Foxo13AとTCMシグネチャー遺伝子セットのオーバーラップのP値を、(
図9Bに示す解析による)GSEAにより求めた。
【
図9A】
図9A、9B。遺伝子セットエンリッチメントの結果、TCM細胞とFoxo13Aナノ粒子で処理した細胞との間には強い相関があることが明らかである。
図9A:処理から8日後のTCM細胞、ナイーブ細胞及び対照細胞におけるTCMダウンシグネチャー遺伝子発現のヒートマップ。
【
図9B】
図9A、9B。遺伝子セットエンリッチメントの結果、TCM細胞とFoxo13Aナノ粒子で処理した細胞との間には強い相関があることが明らかである。
図9B:TCMアップ及びTCMダウンシグネチャー遺伝子セットに対して試験した場合にFoxo13A NPで処理した細胞と対照NPで処理した細胞で差次的に発現される遺伝子の遺伝子セットエンリッチメント解析結果。
【
図10A】
図10A~10D。mRNAナノ担体は拡大培養又は表現型に及ぼす影響が最小限でありながら、CD34+ヒト造血幹細胞の特異的トランスフェクションを可能にする。
図10A:CD105のターゲティングは、動員されたPBSCから得られたHSC CD34+細胞の特異的トランスフェクションを可能にする。これらの細胞を未処理のままとするか、又はPGAでコーティングしたNPにeGFPをコードするmRNAを担持させて非特異的対照抗体(対照Ab-eGFP NP)もしくは抗CD105(α-CD105NP)と結合させたものをトランスフェクトした。NP暴露から24時間後に、トランスフェクション効率を、フローサイトメトリーによりアッセイした。
【
図10B】
図10A~10D。mRNAナノ担体は、拡大培養又は表現型に及ぼす影響が最小限でありながら、CD34+ヒト造血幹細胞の特異的トランスフェクションを可能にする。
図10B:3人の別個のドナーからのCD34+試料におけるNPトランスフェクション効率。
【
図10C】
図10A~10D。mRNAナノ担体は、拡大培養又は表現型に及ぼす影響が最小限でありながら、CD34+ヒト造血幹細胞の特異的トランスフェクションを可能にする。
図10C:対照又はCD105を標的とするNPの添加後のCD34+HSCのインビトロ拡大培養。
図10Aと同様に細胞にトランスフェクトした後、粒子暴露から0日後、4日後及び8日後に総細胞数を評価した。
【
図10D】
図10A~10D。mRNAナノ担体は、拡大培養又は表現型に及ぼす影響が最小限でありながら、CD34+ヒト造血幹細胞の特異的トランスフェクションを可能にする。
図10D:トランスフェクトしなかった細胞(破線)又は抗CD105mRNAで処理した細胞(実線)における培養8日後のHSCマーカーCD34、CD133及びCD49fのフローサイトメトリー解析。この結果、NPを加えても主要な幹細胞マーカーの表面発現に影響がないと判断される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
遺伝子治療に成功するか否かは、選択された目的細胞への遺伝子送達機構の成功次第である。目下のところ、長期間の遺伝子治療に成功するための最も一般的な方法は、レンチウイルスベクターを利用するシステム等のウイルスシステムである。これらの遺伝子治療は、治療に有用なタンパク質の継続的な細胞内発現に依存している。このようなウイルスシステムは、遺伝子治療のために遺伝子を有効に送達することができるが、非選択的であり、費用がかかり、広く利用できない。更に、持続的な治療用タンパク質発現は、時間の経過に伴って生じる細胞内イベントにより経時的に低下する可能性がある。
【0010】
遺伝子治療用に遺伝子を細胞内に送達するための機構として、エレクトロポレーションも開発されている。しかし、エレクトロポレーションは、細胞膜の機械的破壊と透過に依存するため、細胞生存性が低下し、治療用に理想的とは言い難い。更に、ウイルスを利用する方法と同様に、エレクトロポレーションは。不均一プールの中の特定の細胞種に遺伝子を選択的に送達するものではないため、事前に細胞選択・精製処理が必要である。
【0011】
本開示は核酸の一過性発現を実現することにより治療目的を果たすように細胞を迅速且つ選択的に改変する組成物及び方法を提供する。一過性発現は改変後の細胞に永続的な治療的変化(本願では「ヒットエンドラン」効果と呼ぶ)をもたらす。持続的な治療効果を得るために一過性発現しか必要としないため、治療用タンパク質発現の経時的な低下に関する問題が解消される。更に、これらの組成物及び方法は選択された細胞種を選択的に改変するため、改変の前に、細胞選択工程又は精製工程を必要としない。このため、治療用細胞のエクスビボ製造が迅速になると共に、細胞のインビボ標的化遺伝子改変が可能になる。
【0012】
本願に記載するヒットエンドラン効果は、遺伝子編集を生じる核酸の一過性発現又は細胞の表現型を永続的に変化させるタンパク質の一過性発現を利用することにより、可能になる。遺伝子編集を生じる核酸の例としては、TALEN、megaTAL、ジンクフィンガーヌクレアーゼ及びCRISPR-Casシステムが挙げられる。表現型を変化させるタンパク質の例としては、転写因子、キナーゼ及び細胞表面受容体が挙げられる。一過性発現とは、細胞への核酸導入後の短期間の組換え遺伝子産物の産生を意味する。特定の実施形態において、一過性発現は、12時間~20日間、18時間~18日間、24時間~14日間、又は36時間~10日間続く。細胞の表現型とは、その形質的特徴及び/又は生体内におけるその位置を意味する。
【0013】
本願に開示する組成物及び方法には、多数の用途がある。例としては、標的化ヌクレアーゼによりリンパ球(例えば造血幹細胞(HSC))のゲノムを編集する場合、樹状細胞にトランスフェクトする担体に核酸を担持させて同時注入し、前記細胞の抗原提示能を高めることによりワクチンの力価を増強させる場合、又はワクチンでプライミングしたT細胞にトランスフェクトして長期間持続するメモリー表現型を誘導する場合が挙げられる。
【0014】
特定の実施形態は、特定の選択された細胞を標的とすることができるナノ担体を含み、単に前記ナノ担体を培養細胞とエクスビボで混合することにより、又は対象の体内の細胞とインビボで混合することにより、核酸の用量制御送達を行うことができる。特定の実施形態において、前記ナノ担体は(1)選択された細胞ターゲティングリガンドと、(2)担体と、(3)前記担体の内側に内包された核酸とを含む。特定の実施形態は、(1)選択された細胞ターゲティングリガンドと、(2)担体と、(3)前記担体の内側に内包された核酸と、(4)コーティングを含むナノ担体とを含む。
【0015】
特定の実施形態において、選択された細胞ターゲティングリガンドは、ナノ担体を選択された細胞と選択的に結合させ、迅速な受容体誘導性エンドサイトーシスを開始し、前記ナノ担体を内在化させる表面係留ターゲティングリガンドを含むことができる。本願の他の箇所でより詳細に開示するように、選択された細胞ターゲティングリガンドは、抗体、scFvタンパク質、DART分子、ペプチド及び/又はアプタマーを含むことができる。特定の実施形態は、ヒトT細胞にトランスフェクトするために抗CD8抗体を利用し、HSCを標的とするためにCD34、CD133又はCD46を認識する抗体を利用する。
【0016】
特定の実施形態において、担体は、核酸を圧縮して酵素分解から保護する担体分子を含む。本願の他の箇所でより詳細に開示するように、担体は、正電荷をもつ脂質及び/又はポリマーを含むことができる。特定の実施形態は、ポリ(β-アミノエステル)を利用する。
【0017】
特定の実施形態において、核酸は担体の内側に封入されており、選択された細胞による細胞取込み後、遺伝子編集剤及び/又は細胞の表現型を永続的に変化させるタンパク質を発現する。本願の他の箇所により詳細に開示するように、核酸はmegaTAL又は転写因子を発現する合成mRNAを含むことができる。特定の実施形態はリンパ球によるT細胞受容体発現を妨害するために、(i)メモリーCD8T細胞を誘導する転写因子FOXO1、又は(ii)切断頻度の低い(rare-cleaving)megaTALヌクレアーゼ(例えばBoissel & Scharenberg,Methods Mol.Biol.1239,171-196(2015)参照)を発現するインビトロ転写mRNA(例えばGrudzien-Nogalska et al.,Methods Mol.Biol.969,55-72(2013)参照)を利用する。
【0018】
特定の実施形態において、本願に開示するナノ担体は、封入された核酸を保護してオフターゲット結合を抑制するか又は防止する、コーティングを含む。ナノ担体の表面電荷を中性又は負になるまで減らすことにより、オフターゲット結合を抑制するか又は防止する。本願の他の箇所でより詳細に開示するように、コーティングは、中性又は負電荷をもつポリマー及び/又はリポソームをベースとするコーティングを含むことができる。特定の実施形態は、ポリグルタミン酸(PGA)をナノ担体コーティングとして利用する。コーティングを使用する場合には、必ずしもナノ担体全体を覆う必要はないが、ナノ担体によるオフターゲット結合を抑制するために十分でなければならない。
【0019】
本願に開示するナノ担体を不均一細胞混合物(例えばエクソビボ細胞培養物又はインビボ環境)に加えると、この人工ナノ担体は、選択された細胞集団と結合し、受容体介在性エンドサイトーシスを刺激し、このプロセスにより、前記担体に担持された核酸(例えば合成mRNA)が導入され、その結果、前記選択された細胞はコードされている分子を発現し始める(
図1A)。トランスジーンの核内輸送及び転写が不要であるため、このプロセスは、迅速で効率的である。必要に応じて、所望の結果が得られるまで、ナノ担体の追加添加を実施することができる。特定の実施形態において、ナノ担体は、生分解性で生体適合性であり、エクスビボ細胞製造では、改変細胞を治療のために対象に注入する前に、未結合のナノ粒子から遠心により容易に分離することができる。
【0020】
特定の実施形態において、迅速とは、不均一細胞試料を本願に開示するナノ担体に暴露してから24時間以内又は12時間以内に、選択された細胞種の内側でコードされている核酸の発現が開始することを意味する。このタイムラインは、標的細胞の細胞質内への放出のほぼ直後(例えば数分以内)に転写され始める、mRNA等の核酸を利用することにより、可能である。
【0021】
特定の実施形態において、効率的とは、標的細胞(例えばヒト一次T細胞)への遺伝子導入率が>80%であり、これらの細胞の少なくとも80%、これらの細胞の少なくとも90%、又はこれらの細胞の100%で表現型改変が生じることを意味する。特定の実施形態において、効率的とは、標的細胞への遺伝子導入率が>80%であり、これらの細胞の少なくとも25%、これらの細胞の少なくとも33%、又はこれらの細胞の少なくとも50%で表現型改変が生じることを意味する。特定の実施形態では、ナノ担体を取込む選択された細胞の3分の1で表現型改変を生じることができ、送達される核酸は、ヌクレアーゼをコードする。
【0022】
以下、本開示のその他の任意事項と実施形態について、より詳細に記載する。
【0023】
選択された細胞ターゲティングリガンド。本願に開示するナノ担体の選択された細胞ターゲティングリガンドは、不均一細胞集団内の目的免疫細胞と選択的に結合する。特定の実施形態において、目的免疫細胞は、リンパ球である。リンパ球としては、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球/マクロファージ及びHSCが挙げられる。
【0024】
各々異なる機能をもつT細胞の数種の異なるサブセットが、発見されている。特定の実施形態において、選択された細胞ターゲティングリガンドは、受容体介在性エンドサイトーシスにより特定のリンパ球集団への選択的誘導を実現する。例えば、大半のT細胞は、数種のタンパク質の複合体として存在するT細胞受容体(TCR)を持つ。実際のT細胞受容体は、独立したT細胞受容体α及びβ(TCRα及びTCRβ)遺伝子から生成されるα及びβ-TCR鎖と呼ばれる2本の別個のペプチド鎖から構成される。本願に開示する選択された細胞ターゲティングリガンドは、これらのT細胞への核酸の選択的送達を行うために、α及び/又はβ-TCR鎖と結合することができる。
【0025】
γδT細胞とは、その表面に異なるT細胞受容体(TCR)を持つ、T細胞の小さいサブセットのことである。γδT細胞において、TCRは、γ鎖1本とδ鎖1本とから構成される。このグループのT細胞は、αβT細胞よりも著しく少ない(全T細胞の2%)。それにも拘わらず、本願に開示する選択された細胞ターゲティングリガンドは、これらのT細胞への核酸の選択的送達を行うために、γ及び/又はδ-TCR鎖と結合することができる。
【0026】
CD3は、全ての成熟T細胞上で発現される。したがって、本願に開示する選択された細胞ターゲティングリガンドは、全ての成熟T細胞への核酸の選択的送達を行うためにCD3と結合することができる。活性化T細胞は、4-1BB(CD137)、CD69及びCD25を発現する。したがって、本願に開示する選択された細胞ターゲティングリガンドは、活性化T細胞への核酸の選択的送達を行うために4-1BB、CD69又はCD25と結合することができる。CD5及びトランスフェリン受容体もまたT細胞上で発現されるものであり、これらを、T細胞への核酸の選択的送達を行うために使用することができる。
【0027】
T細胞は、更に、ヘルパー細胞(CD4+T細胞)と、細胞溶解性T細胞を含む細胞傷害性T細胞(CTL、CD8+T細胞)とに分類することができる。ヘルパーT細胞は、例えば、B細胞から形質細胞への成熟及び細胞傷害性T細胞及びマクロファージの活性化等の免疫プロセスにおいて、他の白血球を補助する。これらの細胞は、その表面にCD4タンパク質を発現することから、CD4+T細胞とも呼ばれる。ヘルパーT細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面で発現されるMHCクラスII分子によりペプチド抗原を提示されると、活性化される。活性化されると、迅速に分裂し、能動免疫応答を調節するか又は補助するサイトカインと呼ばれる小さいタンパク質を分泌する。本願に開示する選択された細胞ターゲティングリガンドは、ヘルパーT細胞への核酸の選択的送達を行うために、CD4と結合することができる。
【0028】
細胞傷害性T細胞は、ウイルス感染細胞と腫瘍細胞とを破壊し、移植片拒絶反応にも関与している。これらの細胞は、その表面にCD8糖タンパク質を発現することからCD8+T細胞とも呼ばれる。これらの細胞は、生体のほぼ全ての細胞の表面に存在するMHCクラスIと会合した抗原と結合することにより、それらの標的を認識する。本願に開示する選択された細胞ターゲティングリガンドは、CTLへの核酸の選択的送達を行うために、CD8と結合することができる。
【0029】
本願で使用する「セントラルメモリー」T細胞(即ち「TCM」)とは、抗原に暴露されたCTLであり、その表面にCD62L又はCCR7とCD45ROとを発現し、ナイーブ細胞に比較してCD45RAを発現しないか又は発現が低下しているものを意味する。特定の実施形態において、セントラルメモリー細胞は、CD62L、CCR7、CD25、CD127、CD45RO及びCD95の発現が陽性であり、ナイーブ細胞に比較してCD45RAの発現が低下している。本願に開示する選択された細胞ターゲティングリガンドは、TCMへの核酸の選択的送達を行うために、CD62L、CCR7、CD25、CD127、CD45RO及び/又はCD95と結合することができる。
【0030】
本願で使用する「エフェクターメモリー」T細胞(即ち「TEM」)とは、抗原に暴露されたT細胞であり、セントラルメモリー細胞に比較してその表面にCD62Lを発現しないか又は発現が低下しており、ナイーブ細胞に比較してCD45RAを発現しないか又は発現が低下しているものを意味する。特定の実施形態において、エフェクターメモリー細胞は、ナイーブ細胞又はセントラルメモリー細胞に比較してCD62L及びCCR7の発現が陰性であり、CD28及びCD45RAの発現にばらつきがある。エフェクターT細胞は、メモリー又はナイーブT細胞に比較して、グランザイムB及びパーフォリンが陽性である。本願に開示する選択された細胞ターゲティングリガンドは、TEMへの核酸の選択的送達を行うためにグランザイムB及び/又はパーフォリンと結合することができる。
【0031】
制御性T細胞(「TREG」)は、免疫系を調節し、自己抗原に対する寛容性を維持し、自己免疫疾患を防除する、T細胞の亜集団である。TREGは、CD25、CTLA-4、GITR、GARP及びLAPを発現する。本願に開示する選択された細胞ターゲティングリガンドは、ナイーブTREGへの核酸の選択的送達を行うために、CD25、CTLA-4、GITR、GARP及び/又はLAPと結合することができる。
【0032】
本願で使用する「ナイーブ」T細胞とは、抗原に暴露されていないT細胞であり、セントラルメモリー細胞又はエフェクターメモリー細胞に比較して、CD62L及びCD45RAを発現し且つCD45ROを発現しないものを意味する。特定の実施形態において、ナイーブCD8+Tリンパ球は、CD62L、CCR7、CD28、CD127及びCD45RAを含むナイーブT細胞の表現型マーカーを発現することを、特徴とする。本願に開示する選択された細胞ターゲティングリガンドは、ナイーブT細胞への核酸の選択的送達を行うために、CD62L、CCR7、CD28、CD127及び/又はCD45RAと結合することができる。
【0033】
ナチュラルキラー細胞(別称NK細胞、K細胞及びキラー細胞)は、インターフェロン又はマクロファージ由来サイトカインに応答して活性化される。これらの細胞は、ウイルス感染症を排除することができる抗原特異的細胞傷害性T細胞が適応免疫応答により生成されている間に、ウイルス感染症を抑制するように機能する。NK細胞は、CD8、CD16及びCD56を発現するが、CD3は発現しない。本願に開示する選択された細胞ターゲティングリガンドは、NK細胞への核酸の選択的送達を行うために、CD8、CD16及び/又はCD56と結合することができる。
【0034】
マクロファージ(及びその前駆細胞である単球)は、生体の全ての組織に(場合により、小膠細胞、クッパー細胞及び破骨細胞として)存在し、アポトーシス細胞、病原体及び他の非自己成分を飲み込む。単球/マクロファージは、非自己成分を飲み込むので、これらの細胞による選択的取込みには本願に記載するナノ担体に特別なマクロファージ又は単球指向剤(directing agent)を付加する必要がない。あるいは、本願に開示する選択された細胞ターゲティングリガンドは、単球/マクロファージへの核酸の選択的送達を行うために、CD11b、F4/80、CD68、CD11c、IL-4Rα及び/又はCD163と結合することができる。
【0035】
未成熟樹状細胞(即ち活性化前)は、末梢で抗原及び他の非自己成分を飲み込んだ後、活性化状態でリンパ組織のT細胞領域に移動し、T細胞への抗原提示を行う。したがって、マクロファージと同様に、樹状細胞のターゲティングは、選択された細胞ターゲティングリガンドに依存する必要がない。樹状細胞を選択的に標的とするために、選択された細胞ターゲティングリガンドを使用する場合には、以下のCD抗原、即ちCD1a、CD1b、CD1c、CD1d、CD21、CD35、CD39、CD40、CD86、CD101、CD148、CD209及びDEC-205と結合することができる。
【0036】
B細胞は、B細胞受容体(BCR)の存在により、他のリンパ球から区別することができる。B細胞の主要な機能は、抗体の産生である。B細胞は、CD5、CD19、CD20、CD21、CD22、CD35、CD40、CD52及びCD80を発現する。本願に開示する選択された細胞ターゲティングリガンドは、B細胞への核酸の選択的送達を行うためにCD5、CD19、CD20、CD21、CD22、CD35、CD40、CD52及び/又はCD80と結合することができる。また、B細胞サブタイプを標的とするためには、B細胞受容体アイソタイプ定常領域(IgM、IgG、IgA、IgE)を標的とする抗体を使用することもできる。
【0037】
リンパ球機能関連抗原1(LFA-1)は、全てのT細胞、B細胞及び単球/マクロファージで発現される。したがって、本願に開示する選択された細胞ターゲティングリガンドは、T細胞、B細胞及び単球/マクロファージへの核酸の選択的送達を行うために、LFA-1と結合することができる。
【0038】
HSCも、本願に開示するナノ担体の選択的送達の標的とすることができる。HSCは、CD34、CD46、CD133、Sca-1及びCD117を発現する。本願に開示する選択された細胞ターゲティングリガンドは、造血幹細胞への核酸の選択的送達を行うために、CD34、CD46、CD133、Sca-1及び/又はCD117と結合することができる。
【0039】
「選択的送達」とは、核酸が、1個以上の選択されたリンパ球集団に送達・発現されることを意味する。特定の実施形態において、選択的送達は、選択されたリンパ球集団に限定される。特定の実施形態では、投与された核酸の少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は99%が、選択されたリンパ球集団に送達及び/又は発現される。特定の実施形態において、選択的送達は、送達された核酸が、リンパ球以外の細胞で発現されないようにする。例えば、ターゲティング剤が、T細胞受容体(TCR)遺伝子であるとき、TCR発現に必要なζ鎖をもつのはT細胞のみであるため、選択性が確保される。選択されていない細胞への核酸取込みの欠如又は核酸配列内の特定のプロモーターの存在に基づいて、選択的送達を行うこともできる。例えば、一過性発現された核酸は、T細胞特異的CD3δプロモーターを含むことができる。選択的送達を行うことができるその他のプロモーターとしては、T細胞もしくはHSC用のマウス幹細胞ウイルスプロモーターもしくは遠位lckプロモーター;HSC用のCD45プロモーター、WASPプロモーターもしくはIFNβプロモーター;B細胞用のB29プロモーター;又は単球/マクロファージ用のCD14プロモーターもしくはCD11bプロモーターが挙げられる。
【0040】
記載の通り、選択された細胞ターゲティングリガンドは、リンパ球細胞上に存在するモチーフとの結合ドメインを含むことができる。選択された細胞ターゲティングリガンドは、更に、リンパ球への選択的取込みを可能にする任意の選択的結合機構を含むことができる。特定の実施形態において、選択された細胞ターゲティングリガンドは、T細胞受容体モチーフ、T細胞α鎖、T細胞β鎖、T細胞γ鎖、T細胞δ鎖、CCR7、CD1a、CD1b、CD1c、CD1d、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD11b、CD11c、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD25、CD28、CD34、CD35、CD39、CD40、CD45RA、CD45RO、CD46、CD52、CD56、CD62L、CD68、CD80、CD86、CD95、CD101、CD117、CD127、CD133、CD137(4-1BB)、CD148、CD163、F4/80、IL-4Rα、Sca-1、CTLA-4、GITR、GARP、LAP、グランザイムB、LFA-1、トランスフェリン受容体及びそれらの組合せとの結合ドメインを含む。
【0041】
特定の実施形態において、結合ドメインは、細胞マーカーリガンド、受容体リガンド、抗体、ペプチド、ペプチドアプタマー、核酸、核酸アプタマー、スピエゲルマー又はそれらの組合せを含む。選択された細胞ターゲティングリガンドの文脈内において、結合ドメインは、別の物質と結合してエンドサイトーシスに介在することが可能な複合体を形成する、任意の物質を含む。
【0042】
「抗体」は、結合ドメインの1例であり、全長抗体又は抗体の結合断片(例えばFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fc及び一本鎖Fv断片(scFv)又はリンパ球により発現されるモチーフと特異的に結合する免疫グロブリンの任意の生物学的に有効な断片)を含む。抗体又は抗原結合断片としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、合成抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、ミニボディ及び線状抗体の全部又は一部が挙げられる。
【0043】
ヒト由来抗体又はヒト化抗体は、ヒトにおける免疫原性が低下又は消失しており、非ヒト抗体に比較して非免疫原性エピトープの数が少ない。抗体及びその断片は、一般にヒト対象における抗原性レベルが低下するか又はゼロになるように選択されよう。
【0044】
リンパ球により発現されるモチーフと特異的に結合する抗体は、当分野における通常の知識を有する者に公知の通り、モノクローナル抗体を取得する方法、ファージディスプレイ法、ヒトもしくはヒト化抗体を作製する方法、又は抗体を産生するように人工的に作出されたトランスジェニック動物もしくは植物を使用する方法を使用して、作製することができる(例えば、米国特許第6,291,161号及び6,291,158号参照)。部分的又は完全合成抗体のファージディスプレイライブラリーは、入手可能であり、且つ、リンパ球モチーフと結合できる抗体又はその断片についてスクリーニング可能である。例えば、目的標的と特異的に結合するFab断片についてFabファージライブラリーをスクリーニングすることにより、結合ドメインを同定することができる(Hoet et al.,Nat.Biotechnol.23:344,2005参照)。ヒト抗体のファージディスプレイライブラリーもまた、入手可能である。更に、従来のシステム(例えばマウス、HuMAbマウス(R)、TCマウス(TM)、KMマウス(R)、ラマ、ニワトリ、ラット、ハムスター、ウサギ等)で目的標的を免疫原として使用する伝統的なハイブリドーマ作出ストラテジーもまた、結合ドメインを作出するために使用可能である。特定の実施形態において、抗体は、選択されたリンパ球により発現されるモチーフと特異的に結合し、非特異的成分又は無関係の標的とは交差反応しない。抗体をコードするアミノ酸配列又は核酸配列を、一旦同定した後で、単離及び/又は決定することができる。
【0045】
特定の実施形態において、選択された細胞ターゲティングリガンドの結合ドメインは、T細胞受容体モチーフ抗体、T細胞α鎖抗体、T細胞β鎖抗体、T細胞γ鎖抗体、T細胞δ鎖抗体、CCR7抗体、CD1a抗体、CD1b抗体、CD1c抗体、CD1d抗体、CD3抗体、CD4抗体、CD5抗体、CD7抗体、CD8抗体、CD11b抗体、CD11c抗体、CD16抗体、CD19抗体、CD20抗体、CD21抗体、CD22抗体、CD25抗体、CD28抗体、CD34抗体、CD35抗体、CD39抗体、CD40抗体、CD45RA抗体、CD45RO抗体、CD46抗体、CD52抗体、CD56抗体、CD62L抗体、CD68抗体、CD80抗体、CD86抗体、CD95抗体、CD101抗体、CD117抗体、CD127抗体、CD133抗体、CD137(4-1BB)抗体、CD148抗体、CD163抗体、F4/80抗体、IL-4Rα抗体、Sca-1抗体、CTLA-4抗体、GITR抗体、GARP抗体、LAP抗体、グランザイムB抗体、LFA-1抗体又はトランスフェリン受容体抗体を含む。これらの結合ドメインは、上記抗体のscFv断片から構成することもできる。
【0046】
ペプチドアプタマーは、タンパク質骨格の両端に結合した(標的タンパク質に特異的な)ペプチドループを含む。この二重の構造的制約により、ペプチドアプタマーの結合親和性は著しく高くなり、抗体と同等のレベルに達する。可変ループ長は、一般的に8~20アミノ酸(例えば8~12アミノ酸)であり、骨格は、安定的で可溶性の小型で非毒性の任意タンパク質とすることができる(例えばチオレドキシンA、ステフィンA三重突然変異体、緑色蛍光タンパク質、エグリンC及び細胞転写因子Spl)。ペプチドアプタマー選択は、酵母ツーハイブリッドシステム(例えばGal4酵母ツーハイブリッドシステム)又はLexA相互作用トラップシステム等に種々のシステムを使用して行うことができる。
【0047】
核酸アプタマーは、Osborne et al.,Curr.Opin.Chem.Biol.1:5-9,1997及びCerchia et al.,FEBS Letters 528:12-16,2002に記載されているように、特定の球状構造に折り畳むことにより機能する1本鎖核酸(DNA又はRNA)リガンドであるため、標的タンパク質又は他の分子と、高い親和性及び特異性で、結合する。特定の実施形態において、アプタマーは、小型である(15KD又は15~80ヌクレオチド又は20~50ヌクレオチド)。アプタマーは、一般にSELEX(systematic evolution of ligands by exponential enrichment:指数的集積によるリガンドの系統的進化;例えばTuerk et al.,Science,249:505-510,1990;Green et al.,Methods Enzymology.75-86,1991;及びGold et al.,Annu.Rev.Biochem.,64:763-797,1995参照)と呼ばれる方法により、1014~1015個のランダムなオリゴヌクレオチド配列から構成されるライブラリーから単離される。例えば米国特許第6,344,318号、6,331,398号、6,110,900号、5,817,785号、5,756,291号、5,696,249号、5,670,637号、5,637,461号、5,595,877号、5,527,894号、5,496,938号、5,475,096号及び5,270,16号には、アプタマーの他の作製方法も記載されている。スピエゲルマーは、少なくとも1個のβ-リボース単位が、β-D-デオキシリボース又は例えばβ-D-リボース、α-D-リボース、β-L-リボースから選択される糖単位異性体で置換えられている以外は、核酸アプタマーと同様である。
【0048】
ポリ(エチレンイミン)/DNA(PEI/DNA)複合体のように、リンパ球による内在化及び/又はリンパ球のトランスフェクションを助長することができる他の物質もまた、使用することができる。
【0049】
担体。記載の通り、本願に開示するナノ担体の担体は、核酸を圧縮し、酵素分解から保護するように機能する。担体として使用するのに特に有用な材料としては、正電荷をもつ脂質及び/又はポリマーが挙げられ、例えばポリ(β-アミノエステル)が挙げられる。
【0050】
正電荷をもつ脂質のその他の例としては、ホスファチジン酸とアミノアルコールのエステル(例えばジパルミトイルホスファチジン酸又はジステアロイルホスファチジン酸とヒドロキシエチレンジアミンのエステル)が挙げられる。正電荷をもつ脂質のより具体的な例としては、3β-[N-(N’,N’-ジメチルアミノエチル)カルバモイル]コレステロール(DC-chol)、N,N’-ジメチル-N,N’-ジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、N,N’-ジメチル-N,N’-ジオクタデシルアンモニウムクロリド(DDAC)、1,2-ジオレオイルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムクロリド(DORI)、1,2-ジオレオイルオキシ-3-[トリメチルアンモニオ]プロパン(DOTAP)、N-(1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、1,2-ジオクタデシルオキシ-3-[トリメチルアンモニオ]プロパン(DSTAP)、及び例えばMartin et al.,Current Pharmaceutical Design 2005,11,375-394に記載されているカチオン性脂質が挙げられる。
【0051】
本開示内で担体として使用することができる正電荷をもつポリマーの例としては、ポリアミン、有機ポリアミン(例えばポリエチレンイミン(PEI)、ポリエチレンイミンセルロース)、ポリ(アミドアミン)(PAMAM)、ポリアミノ酸(例えばポリリジン(PLL)、ポリアルギニン)、多糖類(例えばセルロース、デキストラン、DEAEデキストラン、デンプン)、スペルミン、スペルミジン、ポリ(ビニルベンジルトリアルキルアンモニウム)、ポリ(4-ビニル-N-アルキルピリジニウム)、ポリ(アクリロイルトリアルキルアンモニウム)及びTatタンパク質が挙げられる。
【0052】
任意の濃度で任意の比の脂質とポリマーとのブレンドもまた、使用することができる。種々のグレードを使用して種々のポリマー種を種々の比でブレンドすると、成分であるポリマーの各々に由来する特徴が得られる。種々の末端基化学反応を取り入れることもできる。
【0053】
上記以外に、本願に開示する特定の実施形態は、多孔質ネットワークを形成することが可能な任意材料から構成される、多孔質ナノ粒子を利用することもできる。代表的な材料としては、金属、遷移金属及び半金属が挙げられる。代表的な金属、遷移金属及び半金属としては、リチウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム及びシリカが挙げられる。特定の実施形態において、多孔質ナノ担体は、シリカを含む。メソポーラスシリカは、表面積が非常に大きい(1,000m2/g超)ため、リポソーム等の従来のDNA担体を上回るレベルで核酸を担持することが可能である。
【0054】
担体は、種々の異なる形状に形成することができ、球形、立方形、ピラミッド形、長楕円形、円筒形、ドーナツ形等が挙げられる。核酸を、担体の細孔に種々の方法で内包させることができる。例えば、核酸を、多孔質ナノ担体に封入することができる。他の態様では、核酸を、多孔質ナノ担体の表面又は表面の直下と(例えば共有的及び/又は非共有的に)結合させることができる。特定の実施形態では、核酸を、多孔質ナノ担体に組込むことができ、例えば、多孔質ナノ担体の材料に一体化することができる。例えば、核酸を、ポリマーナノ担体のポリマーマトリックスに組込むことができる。
【0055】
コーティング。特定の実施形態において、本願に開示するナノ担体は、封入された核酸を保護してオフターゲット結合を抑制するか又は防止するコーティングを含む。ナノ担体の表面電荷を中性又は負になるまで減らすことにより、オフターゲット結合を抑制するか又は防止する。本願の他の箇所でより詳細に開示するように、コーティングは、中性又は負電荷をもつポリマー及び/又はリポソームをベースとするコーティングを含むことができる。特定の実施形態において、コーティングは、封入された核酸が選択された細胞内に放出される前に環境に暴露されないようにするために十分な、親水性ポリマー及び/又は中性電荷をもつ親水性ポリマーの稠密な表面コーティングである。特定の実施形態において、コーティングは、ナノ担体の表面の少なくとも80%又は少なくとも90%を覆う。特定の実施形態において、コーティングは、ポリグルタミン酸(PGA)を含む。
【0056】
本開示の実施形態の範囲内でコーティングとして使用することができる中性電荷をもつポリマーの例としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(プロピレングリコール)及びポリアルキレンオキシド共重合体(PLURONIC(R),BASF Corp.,Mount Olive,NJ)が挙げられる。
【0057】
中性電荷をもつポリマーとしては、双性イオン型ポリマーも挙げられる。双性イオン型とは、正電荷と負電荷の両方をもつが、全体としての電荷は中性である性質を意味する。双性イオン型ポリマーは、細胞とタンパク質の接着を阻止する細胞膜領域と同様に挙動することができる。
【0058】
双性イオン型ポリマーは、双性イオン基をもつペンダント基(即ちポリマー主鎖からぶら下がった基)を含む双性イオン構成単位を含む。代表的な双性イオン性ペンダント基としては、カルボキシベタイン基が挙げられる(例えば-Ra-N+(Rb)(Rc)-Rd-CO2-であり、式中、Raは、ポリマー主鎖をカルボキシベタイン基の窒素カチオン中心と共有結合させるリンカー基であり、Rb及びRcは、窒素置換基であり、Rdは、窒素カチオン中心をカルボキシベタイン基のカルボキシ基と共有結合させるリンカー基である)。
【0059】
負電荷をもつポリマーの例としては、アルギン酸、カルボン酸多糖類、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース-システイン、カラギーナン(例えばGelcarin(R)209、Gelcarin(R)379)、コンドロイチン硫酸、グリコサミノグリカン、ムコ多糖類、負電荷をもつ多糖類(例えばデキストラン硫酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(D-アスパラギン酸)、ポリ(L-アスパラギン酸)、ポリ(L-アスパラギン酸)ナトリウム塩、ポリ(D-グルタミン酸)、ポリ(L-グルタミン酸)、ポリ(L-グルタミン酸)ナトリウム塩、ポリ(メタクリル酸)、アルギン酸ナトリウム(例えばProtanal(R)LF 120M、Protanal(R)LF 200M、Protanal(R)LF 200D)、カルボキシルメチルセルロースナトリウム(CMC)、硫酸化多糖類(ヘパリン、アガロペクチン)、ペクチン、ゼラチン及びヒアルロン酸が挙げられる。
【0060】
特定の実施形態において、本願に開示するポリマーは、中心核から2本以上のポリマー分岐鎖が延びている分岐ポリマーを意味する、「星型ポリマー」を含むことができる。中心核は、2個以上の官能基をもつ原子群であり、重合により、分岐鎖を延ばすことができる。
【0061】
特定の実施形態において、分岐鎖は、双性イオン型又は負電荷をもつ、ポリマー分岐鎖である。星型ポリマーでは、分岐鎖前駆体を、加水分解、紫外線照射又は熱により、双性イオン型ポリマー又は負電荷をもつポリマーに変換することができる。不飽和モノマーの重合に有効な任意の重合法によりポリマーを得ることもでき、原子移動ラジカル重合(ATRP)、可逆的付加開裂連鎖移動重合(RAFT)、光重合、開環重合(ROP)、縮合、マイケル付加反応、分岐生成/伝播反応又は他の反応が挙げられる。
【0062】
リポソームは、少なくとも1枚の同心円状脂質二重膜を含む微小胞である。小胞を形成する脂質は、最終的な複合体に指定される流動度又は剛性度が得られるように、選択される。特定の実施形態において、リポソームは、多孔質ナノ粒子を包囲する外層である脂質組成物を提供する。
【0063】
リポソームは、中性(コレステロール)又は二極性とすることができ、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)及びスフィンゴミエリン(SM)等のリン脂質や、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)のように炭化水素鎖長が14~22であり、飽和であるか又は1個以上のC=C二重結合をもつ他の型の二極性脂質が、挙げられる。単独で又は他の脂質成分と共に安定なリポソームを形成することが可能な脂質の例は、水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、レシチン、ホスファチジルエタノールアミン、リゾレシチン、リゾホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、セファリン、カルジオリピン、ホスファチジン酸、セレブロシド、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)、パルミトイルオレオイルホスファチジルエタノールアミン(POPE)及びジオレオイルホスファチジルエタノールアミン4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(DOPE-mal)等のリン脂質である。リポソームに組込むことができるその他の非リン脂質としては、ステアリルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、アルキルアリールサルフェート、パルミチン酸アセチル、リシノール酸グリセロール、ステアリン酸ヘキサデシル、両性アクリルポリマー、ポリエトキシ化脂肪酸アミド、DDAB、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、1,2-ジミリストイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DMTAP)、DOTAP、DOTMA、DC-Chol、ホスファチジン酸(PA)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、DOPG及びリン酸ジセチルが挙げられる。特定の実施形態において、本願に開示するリポソームを作製するために使用される脂質としては、コレステロール、水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC)及び誘導体化小胞形成脂質PEG-DSPEが挙げられる。
【0064】
リポソームの形成方法は、例えば米国特許第4,229,360号、4,224,179号、4,241,046号、4,737,323号、4,078,052号、4,235,871号、4,501,728号及び4,837,028号と、Szoka et al.,Ann.Rev.Biophys.Bioeng.9:467(1980)及びHope et al.,Chem.Phys.Lip.40:89(1986)に記載されている。
【0065】
核酸。本願に開示するナノ担体内で使用される核酸は、細胞運命、分化、生存性及び/又はトラフィキングを調節する遺伝子編集剤及び/又は表現型を変化させるタンパク質を、一過性発現することができる(例えば
図1B、1C参照)。
【0066】
特定の実施形態において、核酸は、合成mRNAを含む。特定の実施形態では、5’キャッピングを使用して、細胞内安定性の高い合成mRNAを人工的に作製する。合成mRNA分子の5’キャップを作るためには、複数の異なる5’キャップ構造を使用することができる。例えば、抗リバースキャップアナログ(ARCA)キャップは、5’-5’三リン酸グアニン-グアニン結合を含むことができ、片方のグアニンがN7メチル基と3’-O-メチル基とを含む。5’キャップ構造の形成をもたらす酵素を使用して、合成mRNA分子を転写後キャッピングしてもよい。例えば、組換えワクシニアウイルスキャッピング酵素と組換え2’-O-メチルトランスフェラーゼ酵素とはmRNAの5’最末端ヌクレオチドとグアニンヌクレオチドとの間に標準的な5’-5’三リン酸結合を形成することができ、この場合にはグアニンがN7メチル化され、最末端の5’-ヌクレオチドが2’-O-メチルを含み、Cap1構造を形成する。この結果、翻訳開始能及び細胞内安定性が高く且つ細胞内炎症性サイトカインの活性化が低下した、キャップが得られる。
【0067】
合成mRNA又は他の核酸を、環状にしてもよい。ポリA結合タンパク質と5’末端結合タンパク質との相互作用を助長するように翻訳開始能の高い分子を作製するために、合成mRNAを環状化してもよいし、コンカテマー化してもよい。環状化又はコンカテマー化の機構は、1)化学的経路、2)酵素経路及び3)リボザイム触媒経路の少なくとも3種類の異なる経路で生じることができる。新たに形成される5’-3’結合は、分子内でも分子間でもよい。
【0068】
第1の経路では、相互に近接しているときに分子の5’末端と3’末端との間に新たな共有結合を形成する化学反応性基を、核酸の5’末端と3’末端とに導入することができる。有機溶媒中で合成mRNA分子の3’末端の3’アミノ末端ヌクレオチドが5’-NHSエステル部分を求核攻撃し、新たな5’-3’アミド結合を形成するように、5’末端に反応性NHSエステル基を導入し、3’末端に3’アミノ末端ヌクレオチドを導入することができる。
【0069】
第2の経路では、T4RNAリガーゼを使用して5’リン酸化核酸分子を核酸の3’ヒドロキシル基と酵素により連結し、新たなリン酸ジエステル結合を形成することができる。1例の反応では、核酸分子1μgを、製造業者のプロトコールに従ってT4RNAリガーゼ(New England Biolabs,Ipswich,Mass.)1~10単位と共に37℃で1時間保温することができる。ライゲーション反応は、酵素ライゲーション反応を助長するために5’領域と3’領域を並べて塩基対合することができるスプリントオリゴヌクレオチドの存在下で行うことができる。
【0070】
第3の経路では、インビトロ転写中に得られた核酸分子がある核酸分子の5’末端をある核酸分子の3’末端にライゲーションすることが可能な活性なリボザイム配列を含むことができるように、cDNA鋳型の5’末端又は3’末端にリガーゼリボザイム配列をコードさせる。リガーゼリボザイムはグループIイントロン、グループIイントロン、デルタ肝炎ウイルス、ヘアピン型リボザイムに由来するものでもよいし、SELEX(指数的集積によるリガンドの系統的進化)により選択してもよい。リボザイムリガーゼ反応は、0~37℃の温度で1~24時間行うことができる。
【0071】
特定の実施形態において、核酸は、例えば遺伝子編集剤又は表現型を変化させるタンパク質を発現するための配列(例えば遺伝子)を含むことができる、プラスミド、cDNA又はmRNAを含む。適切なプラスミドとしては、遺伝子をリンパ球に導入するために使用することができる標準プラスミドベクター及びミニサークルプラスミドが挙げられる。核酸(例えばミニサークルプラスミド)は更に、選択的に改変された細胞における一過性発現を助長するための、任意の他の配列情報を含むことができる。例えば、核酸は汎用プロモーター、組織特異的プロモーター、細胞特異的プロモーター及び/又は細胞質に特異的なプロモーター等のプロモーターを含むことができる。記載の通り、プロモーター及びプラスミド(例えばミニサークルプラスミド)は、一般に当分野で周知であり、従来技術を使用して作製することができる。
【0072】
本願で使用する「遺伝子」なる用語は、遺伝子編集剤又は表現型を変化させるタンパク質をコードする核酸配列を意味する。この定義は、種々の配列多形、突然変異及び/又は配列変異体を含み、このような変異は、遺伝子編集剤又は表現型を変化させるタンパク質の機能に影響を与えるものではない。「遺伝子」なる用語は、コーディング配列だけでなく、プロモーター、エンハンサー及び終結領域等の調節領域も含むことができる。この用語は、更に、mRNA転写産物からスプライシングされた全イントロン及び他のDNA配列、及び、選択的スプライス部位から得られた変異体をも含むことができる。遺伝子編集剤又は表現型を変化させるタンパク質をコードする核酸配列は、遺伝子編集剤又は表現型を変化させるタンパク質の発現を導くRNAとすることができる。これらの核酸配列は、特定の実施形態ではタンパク質に翻訳されるRNA配列を含む。これらの核酸配列は、全長核酸配列と、全長タンパク質から誘導される非全長配列の両者を含む。これらの配列は、天然配列の縮重コドン又は特定のリンパ球におけるコドン優先を確保するために導入され得る配列も、含むことができる。本願に開示する遺伝子編集剤又は表現型を変化させるタンパク質をコードするための遺伝子配列は、公共データベース及び刊行物で入手可能である。本願で使用する「コードする」なる用語は、プラスミド、遺伝子、cDNA、mRNA等の核酸の配列が、遺伝子編集剤又は表現型を変化させるタンパク質の合成用の鋳型として機能する性質を意味する。
【0073】
遺伝子編集剤。本願で使用する遺伝子編集剤は、選択された細胞の内在性ゲノムの特定の配列を改変又は変化させる、本願に記載するような一過性核酸発現の発現産物を含む。特定の実施形態において、前記改変は、内在性遺伝子の除去又は破壊を含み、その結果として、内在性遺伝子にコードされているタンパク質を、発現させないようにしたり、発現の程度を低下させたり、不完全なタンパク質、不安定なタンパク質、正しく折り畳まれていないタンパク質及び/又は非機能的タンパク質として発現させたりする。特定の実施形態において、結果は、干渉性RNA型機構によるタンパク質の発現低下である。したがって、遺伝子編集剤は、ゲノム編集に有用であり、例えば遺伝子破壊、相同組換えによる遺伝子編集、及びヒトゲノムを含む適切な染色体標的位置に治療用遺伝子を挿入するための遺伝子治療に、有用である。
【0074】
特定の実施形態は、遺伝子編集剤として転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)を利用する。TALENとは、転写活性化因子様エフェクター(TALE)DNA結合タンパク質及びDNA切断ドメインを含む、融合タンパク質を意味する。TALENは、DNAに二本鎖切断(DSB)を誘導して細胞に修復機構を誘導することにより、遺伝子及びゲノムを編集するために使用される。一般に、DNA切断ドメインが二量体化してDSBを誘導するためには、2種類のTALENが標的DNA部位の両側に結合して挟み込む必要がある。DSBは、非相同末端結合(NHEJ)又は外来二本鎖ドナーDNA断片との相同組換え(HR)により、細胞内で修復される。
【0075】
記載の通り、TALENは、例えば内在性ゲノムの標的配列と結合し、標的配列の位置でDNAを切断するように人工的に作製されている。TALENのTALEはキサントモナス属(Xanthomonas)細菌により分泌される、DNA結合タンパク質である。TALEのDNA結合ドメインは、高度に保存された33又は34アミノ酸の反復配列を含むが、各反復配列の12位及び13位の残基は、可変である。これらの2つの位置は、反復可変二残基(Repeat Variable Diresidue:RVD)と呼ばれ、特定のヌクレオチド認識と強い相関を示す。したがって、RVDのアミノ酸を置換し、通常とは異なるRVDアミノ酸を組込むことにより、ターゲティング特異性を改善することができる。
【0076】
TALEN融合体で使用することができるDNA切断ドメインの例は、野生型及び変異体FokIエンドヌクレアーゼである。FokIドメインは、標的配列上の部位に対してユニークなDNA結合ドメインをもつ2つのコンストラクトを必要とする二量体として機能する。FokI切断ドメインは、2つの逆向きの半分ずつの部位を分離する5又は6塩基対スペーサー配列の内側で切断する。
【0077】
特定の実施形態は、MegaTALを遺伝子編集剤として利用する。MegaTALは、切断頻度の低い一本鎖ヌクレアーゼ構造をもち、TALEをメガヌクレアーゼのDNA切断ドメインと融合させたものである。メガヌクレアーゼは、ホーミングエンドヌクレアーゼとも呼ばれ、DNA認識とヌクレアーゼ機能を同一ドメインに併有する1本のペプチド鎖である。TALENとは対照的に、megaTALは、機能的活性に、1本のペプチド鎖の送達しか必要としない。TCRαに特異的な代表的なmegaTALタンパク質を、
図11に配列番号1として示す。
【0078】
特定の実施形態は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を遺伝子編集剤として利用する。ZFNは、特定位置でDNAと結合して切断するように人工的に作製された部位特異的ヌクレアーゼの1分類である。ZFNは、ZFNが種々の異なる細胞のゲノム内のユニークな配列を標的にできるように、DNA配列の特定部位にDSBを導入するために使用される。更に、二本鎖切断後に、DSBを修復するために相同組換え又は非相同末端結合が行われ、こうしてゲノム編集が可能になる。
【0079】
ZFNは、ジンクフィンガーDNA結合ドメインをDNA切断ドメインと融合することにより、合成される。前記DNA結合ドメインは、転写因子である3~6種のジンクフィンガータンパク質を含む。前記DNA切断ドメインは、例えばFokIエンドヌクレアーゼの触媒ドメインを含む。
【0080】
遺伝子編集剤と共に、例えば、CRISPR-Casシステム等のガイドRNAを使用することができる。CRISPR-CasシステムはCRISPRリピートと1組のCRISPR関連遺伝子(Cas)を含む。
【0081】
CRISPRリピート(clustered regularly interspaced short palindromic repeats:クラスター化され、規則的に間隔が空いた短いパリンドロームの繰返し)は、リピートと同等の寸法の短い可変配列のスペーサーにより分離された短いダイレクトリピートのクラスターを含む。リピートは、24~48塩基対の寸法であり、ある程度のダイアド対称性があるため、ヘアピン等の二次構造の形成を伴うが、リピートは、正確にはパリンドロームではない。リピートを分離するスペーサーは、原核生物ウイルス、プラスミド及びトランスポゾンに由来する配列と厳密に一致する。Cas遺伝子は、DNAを巻き戻して切断するヌクレアーゼ、ヘリカーゼ、RNA結合タンパク質及びポリメラーゼをコードする。Cas遺伝子の例は、Cas1、Cas2及びCas9である。
【0082】
CRISPRスペーサーの起源から見て、CRISPR-Casシステムは、細菌における適応免疫に加担すると考えられる。CRISPR-Cas免疫系反応には少なくとも3種類があり、Cas1遺伝子及びCas2遺伝子は、全3種類でスペーサー獲得に関与している。適応免疫の第1段階では、スペーサー獲得が行われ、侵入してくるウイルスDNAの捕捉及びCRISPR遺伝子座への挿入が行われる。より具体的には、Cas1及びCas2が侵入してくるDNAを認識し、プロトスペーサーを切断し、切断されたプロトスペーサーがリーダー配列に隣接するダイレクトリピートと連結されると、スペーサー獲得が開始する。その後、一本鎖伸長修復が行われ、ダイレクトリピートが複製される。
【0083】
CRISPR関連適応免疫の次段階は、CRISPR RNA(crRNA)生合成であり、CRISPR-Casシステムの型毎に夫々異なる方法で行われる。一般に、この段階の間に、CRISPR転写産物は、Cas遺伝子により切断され、crRNAとなる。I型システムでは、Cas6e/Cas6fが、転写産物を切断する。II型システムは、トランス活性化型(tracr)RNAを利用してdsRNAを形成し、Cas9とRNase IIIにより切断する。III型システムは、切断にCas6ホモログを使用する。
【0084】
CRISPR関連適応免疫の最終段階では、プロセッシングされたcrRNAがCasタンパク質と会合し、干渉複合体を形成する。I型及びII型のシステムでは、Casタンパク質は、侵入してくるDNAを分解するために短い3~5bpDNA配列であるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と相互作用するが、III型システムは、分解にPAMとの相互作用を必要としない。III-B型システムでは、crRNAは分解のために、標的DNAではなくmRNAと塩基対合する。
【0085】
したがって、CRISPR-Casシステムは、原核生物ではRNAi様免疫系として機能する。CRISPR-Casテクノロジーは、ヒト細胞株及び細胞において遺伝子を不活性化させるために利用されている。1例として、II型システムに基づくCRISPR-Cas9システムは、ゲノム編集剤として使用されている。
【0086】
II型システムは、Cas9、crRNA及びtracrRNAの3成分を必要とする。tracrRNAとcrRNAとを繋げて1本の合成シングルガイトRNA(sgRNA)とすることにより、システムを簡易化することができる。
【0087】
少なくとも3種類の異なるCas9ヌクレアーゼが、ゲノム編集用に開発されている。第1の分類は、野生型Cas9であり、DSBを特定のDNA部位に導入して、DSB修復機構を活性化させる。NHEJ経路又は相同組換え修復(HDR)経路により、DSBを修復することができる。第2の分類は、Cas9D10Aと呼ばれる突然変異体Cas9であり、ニッカーゼ活性しかもたないため、DNA一本鎖のみを切断し、NHEJを活性化しない。したがって、DNA修復は、HDR経路のみで進行する。第3の分類は、ヌクレアーゼ欠損Cas9(dCas9)であり、切断活性をもたないが、DNAと結合することができる。したがって、dCas9は、ゲノムの特定配列を切断せずに、標的とすることができる。dCas9を種々のエフェクタードメインと融合することにより、dCas9を、遺伝子サイレンシング又は活性化ツールとして使用することができる。
【0088】
本願に開示するナノ担体により選択的に送達される遺伝子編集剤は、多数の遺伝子を標的とすることができる。具体例としては、Shp1ホスファターゼ遺伝子(例えば配列番号2)、PD1受容体遺伝子(例えば配列番号3)、TCRα遺伝子(例えば配列番号4)、CCR5遺伝子(例えば配列番号5)及び/又はCXCR4遺伝子(例えば配列番号6)のターゲティングが挙げられる。
【0089】
Shp-1(srcホモロジー領域2ドメインを含むホスファターゼ1;別称非受容体型プロテインチロシンホスファターゼ6(PTPN6))は、ヒトではPTPN6遺伝子にコードされている。Shp-1のN末端部分は、基質とのその相互作用を調節するために、他の細胞成分と相互作用するタンパク質ホスホチロシン結合ドメインとして機能する2つのSrcホモロジー(SH2)ドメインを含む。Shp-1は、造血に関与する複数のシグナル伝達経路のレギュレーターとして主要な役割を果たし、造血細胞シグナル伝達に関与する種々のリンタンパク質と相互作用する。Shp-1は、タンパク質チロシンリン酸化によりEPO、IL-3、GM-CSF及びM-CSFの受容体等の成長因子受容体、及び他のシグナル伝達タンパク質と結合する。Shp-1は、更に、免疫グロブリンγFcドメイン(FcVRIIB1)、NK細胞阻害受容体、T細胞受容体(TCR)、B細胞受容体(BCR)、CD22及びCD72によりトリガーされる阻害シグナルにも介在する。異なるアイソフォームをコードする、PTPN6遺伝子の選択的スプライスバリアントが、存在する。哺乳動物Shp-1をコードする代表的な核酸配列については、GenBankアクセッション番号NM_080549、NM_053908.1及びNM_013545を参照されたい。
【0090】
本願に開示する特定の実施形態は、T細胞シグナル伝達を変化させるために、Shp1ホスファターゼ遺伝子のターゲティングを含む。Shp1ホスファターゼ活性は、高親和性のT細胞受容体の機能的活性を制限するので、稀親和性又は低親和性の腫瘍抗原を標的とするためにこれらの受容体を治療用に使用する際の障害となっている。(Hebeisen M,et al.SHP-1 phosphatase activity counteracts increased T cell receptor affinity.JCI.2013)。また、Shp1活性は、固形腫瘍におけるT細胞療法剤の抗腫瘍活性の低下に関係がある。(Moon EK,et al.Multifactorial T-cell Hypofunction That Is Reversible Can Limit the Efficacy of Chimeric Antigen Receptor-Transduced Human T cells in Solid Tumors,Clinical Cancer Research,2014)。これらの理由から、Shp1のダウンレギュレーションにより、T細胞及び治療用T細胞製品の特異的認識及び機能的活性を、高めることができる。
【0091】
PD1(プログラム細胞死タンパク質1;別称分化抗原群279(CD279))は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する細胞表面受容体である。これは、活性化されたT細胞、B細胞及びマクロファージの表面で発現され、ヒトではPDCD遺伝子にコードされている。構造的には、PD-1は、細胞外IgVドメインと、膜貫通領域と、細胞内テールとを含む。細胞内テールは、免疫受容体チロシン依存性抑制モチーフ及び免疫受容体チロシン依存性スイッチモチーフに位置する2つのリン酸化部位を含むため、PD-1は、TCRシグナルの負の調節に関与していると考えられる。PD-1は、免疫チェックポイントである。これはT細胞の活性化を抑えることにより免疫系を負に調節し、自己免疫を抑制し、自己免疫寛容を助長する。PD-1は、リンパ節において抗原特異的T細胞のアポトーシスを助長すると同時に制御性T細胞(サプレッサーT細胞)のアポトーシスを抑制することによりその機能を果たす。PD-1は、リガンドPD-L1及びPD-L2と結合する。哺乳動物PD-1をコードする代表的な核酸配列については、Genbankアクセッション番号AY238517、NM_001106927及びKJ865858を参照されたい。
【0092】
本願に開示する特定の実施形態は、PD1受容体遺伝子のターゲティングを含む。PD1抗体遮断は、治療効率を高めることが実証されているが、胃腸、肝臓及び内分泌系並びに他の臓器に潜在的に免疫関連有害事象を生じる可能性もある(Postow MA,Managing Immune Checkpoint-Blocking Antibody Side Effects,ASCO,2015)。注入した治療用T細胞製品におけるPD1受容体発現を遺伝子編集によって選択的に阻止又は抑制することにより、注入したT細胞の高いインビボ活性を維持しながら、オフターゲット炎症性副作用を、最小限にすることができる。
【0093】
先述の通り、T細胞受容体(TCR)は、主要組織適合性複合体(MHC)分子と結合したペプチドとして抗原断片を認識する役割を果たすTリンパ球の表面に発現される。TCRα鎖遺伝子については、GenBankアクセッション番号X04954、X72904.1及びL21699.1を参照されたい。
【0094】
本願に開示する特定の実施形態は、TCRα鎖遺伝子のターゲティングを含む。内在性TCRの発現は、人工T細胞受容体の発現を妨害し、自己免疫又はアロ反応性応答を生じる可能性がある。TCRα鎖遺伝子のターティングは、人工T細胞受容体の発現を改善することができ、T細胞製品製造において部分的なドナー非依存性を可能にする。
【0095】
CCR5(ケモカイン受容体タイプ5;別称CD195)は、T細胞、マクロファージ、樹状細胞、好酸球及び小膠細胞の表面で発現される。ヒトでは、CCR5遺伝子にコードされている。CCR5は、内在性タンパク質のβケモカイン受容体ファミリーに属するGタンパク質共役型受容体である。
【0096】
HIVを含む多くの種類のウイルスは、宿主細胞に侵入するために共受容体としてCCR5を使用する。HIVが宿主細胞に侵入するためには、その糖タンパク質(gp120)がCD4と共受容体(CCR5)との両方と結合する必要があることから、CCR5は、共受容体と呼ばれる。
【0097】
したがって、ウイルス感染を防止する1つの方法は、CCR5の発現を阻止又は抑制することである。CCR5及びHIVのエンベロープ糖タンパク質gp120の相互作用を妨害するために、数種類のCCR5受容体拮抗薬が開発されている。このような拮抗薬の例としては、PRO140(Progenics)、Vicriviroc(Schering Plough)、Aplaviroc(GlaxoSmithKline)及びMaraviroc(Pfizer)が挙げられる。CCR5のリガンドの例としては、RANTES、MIP-1β及びMIP-1αが挙げられる。これらのリガンドは、HIV-1感染をインビトロで抑制することができる。哺乳動物CCR5をコードする代表的な核酸配列については、Genbankアクセッション番号U66285、FJ573195及びAF022990を参照されたい。
【0098】
本願に開示する特定の実施形態は、HIVの細胞内侵入等のウイルス侵入を抑制するためにCCR5遺伝子のターティングを含む。
【0099】
CXCR4(CXCケモカイン受容体タイプ4;別称フシン又はCD184)は、ヒトではCXCR4遺伝子にコードされている。CCR5と同様に、CXCR4は、HIVの細胞内侵入を含む細胞内へのウイルス侵入の共受容体である。CXCR4は、多くの種類のがん細胞でも発現される。CXCR4は、リンパ球に対する走化性活性をもつ分子である間質細胞由来因子1(SDF-1又はCXCL12)に特異的なαケモカイン受容体でもある。SDF-1は、T細胞指向性HIV-1分離株の複製を抑制する。哺乳動物CCR4をコードする代表的な核酸配列については、Genbankアクセッション番号NM_001008540、NM_022205及びNM_009911を参照されたい。
【0100】
本願に開示する特定の実施形態は、HIVの細胞内侵入等のウイルス侵入を抑制するためにCXCR4遺伝子のターティングを含む。
【0101】
記載の通り、本願に開示する特定の実施形態は、表現型を変化させるタンパク質の発現に依存する。表現型を変化させるタンパク質は、例えば細胞分化、生存性又はトラフィキングを調節することができる。表現型を変化させるタンパク質の例としては、例えばFOXO1、LKB1、TERT、CCR2b及びCCR4が挙げられる。
【0102】
FOXO1(フォークヘッドボックスタンパク質O1即ち横紋筋肉腫におけるフォークヘッド)は、ヒトではFOXO1遺伝子(例えば配列番号7)にコードされている転写因子である。FOXO1は、感染に対するメモリーCD8+T細胞応答を調節する遺伝子プログラムに選択的に組込まれる(Kim et al.,Immunity,2013,39(2):286-97)。Kimらによると、活性化CD8+T細胞にFOXO1をもたないマウスは、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)感染に対する一次応答に欠陥はないが、二次応答に欠陥がある(前出)。メモリーT細胞の前駆細胞は、短寿命のエフェクターT細胞に比較して多量のFOXO1を発現し、メモリーT細胞の前駆細胞の産生及び維持が助長された(前出)。転写因子Tcf7及びケモカイン受容体CCR7が、FOXO1と相互作用することも示されている(前出)。
【0103】
FOXO1は、エフェクターからメモリーへの移行及びメモリーCD4及びCD8T細胞の機能的成熟を助長する役割も果たす(Tejara et al.J.of Immunology,2013,191(1):187-199)。FOXO1は、エフェクター細胞の分化に必要ないが、メモリーCD8T細胞は、FOXO1の不在下で老化の特徴を示し、リコール応答の低下及び防御免疫の不良を生じた(前出)。哺乳動物FOXO1をコードする代表的な核酸配列については、GenBankアクセッション番号BC021981、NM_001191846及びNM_019739を参照されたい。本願に開示する特定の実施形態は、FOXO1の発現を含む。
【0104】
LKB1(肝臓キナーゼB1、別称腎臓がん抗原NY-REN-19又はセリン/スレオニンキナーゼ11(STK11))は、ヒトではSTK11遺伝子にコードされているセリン/スレオニンプロテインキナーゼである。LKB1は、T細胞発生、生存性、活性化及び代謝の重要なレギュレーターである(MacIver,J.Immunol.2011,187(8):4187-4198)。LKB1を欠損するT細胞は、細胞増殖及び生存性の不良と、解糖系及び脂質代謝の変化とを示す(前出)。LKB1は更に、エネルギー栄養素が不足しているときに、成長及び増殖を抑制するキナーゼ群(AMPK及びAMPK関連キナーゼを含む)を活性化させる。AMPK、AMPK関連キナーゼ及びLKB1は、細胞極性を維持することにより、腫瘍細胞の成長を抑制するのに重要な役割を果たす。哺乳動物LKB1をコードする代表的な核酸配列については、GenBankアクセッション番号NM_000455、NM_001108069及びAB015801を参照されたい。本願に開示する特定の実施形態は、LKB1の発現を含む。代表的なLKB1配列は、配列番号8である。
【0105】
T細胞特異的転写因子7(TCF7)は、リンパ球分化に重要な役割を果たす転写活性化因子である。この遺伝子は、主にT細胞で発現される。コードされているタンパク質は、エンハンサーエレメントと結合してCD3E遺伝子を活性化させることができ、更にフィードバック機構によりCTNNB1遺伝子とTCF7L2遺伝子を抑制することができる。ヒトTCF7をコードする代表的な核酸配列については、NCBIリファレンス配列NC_000005.10を参照されたい。本願に開示する特定の実施形態は、TCF7の発現を含む。
【0106】
エオメソデルミン(EOMES)は、脊椎動物における中胚葉と中枢神経系の胚発生に重要な転写因子である。また、エフェクターCD8+T細胞の分化にも関与している。ヒトEOMESをコードする代表的な核酸配列については、NCBIリファレンス配列NC_000003.12と配列番号9を参照されたい。本願に開示する特定の実施形態は、EOMESの発現を含む。
【0107】
HLHタンパク質であるDNA結合阻害剤2(ID2)は、ヘリックス・ループ・ヘリックス(HLH)ドメインを含むが、塩基性ドメインを含まない転写調節因子である。このDNA結合阻害剤ファミリーのメンバーは、HLHドメインを介してそのヘテロ二量体化パートナーを抑制することにより、塩基性ヘリックス・ループ・ヘリックス転写因子の機能をドミナントネガティブに阻害する。ID2は、細胞分化を負に調節するのに加担する。ヒトID2をコードする代表的な核酸配列については、NCBIリファレンス配列NC_000002.12と配列番号10を参照されたい。本願に開示する特定の実施形態は、ID2の発現を含む。
【0108】
本願に開示する特定の実施形態は、治療効率の必要に応じてTEM、TCM又はTREG細胞等の特定の細胞表現型を生じるために、転写因子及びシグナル伝達分子(例えばFOXO1、LKB1、TCF7、EOMES及び/又はID2)の発現により、T細胞の分化を変化させることを含む。TCM細胞及びTEM細胞は、抗腫瘍モデルで高い治療効率を示した。
【0109】
テロメラーゼは、DNA鎖においてテロメアを伸長させることにより、老化細胞を分裂終了(postmitotic)細胞及びアポトーシス細胞ではなく潜在的に不死化細胞にすることができる、RNA依存性ポリメラーゼである。ヒトテロメラーゼ複合体は、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)、テロメラーゼRNA(TR又はTERC)及びジスケリン(DKC1)を夫々2分子ずつ含む。TERTは、TERCと共働し、テロメアの末端へのTTAGGG配列としてのヌクレオチド付加を触媒する。反復DNA配列の付加は、有糸分裂による細胞分裂後の染色体末端の分解を防ぐ。即ち、テロメラーゼは、テロメアを修復・伸長させ、老化細胞を分裂させ、50~70回という細胞分裂回数のヘイフリック限界を越えることができる。哺乳動物TERTをコードする代表的な核酸配列については、GenBankアクセッション番号NM_198253、NM_053423、NM_009354と、配列番号11を参照されたい。
【0110】
正常な体細胞は、検出可能なテロメラーゼ活性をもたない。本願に開示する特定の実施形態は、TERTの発現を含む。養子移入したT細胞のインビボ持続性及び抗腫瘍効果を、TERTmRNAの送達により強化できることが研究報告により示されている(エレクトロポレーション使用、Cell Discovery(2015)1,15040)。
【0111】
一方、悪性腫瘍細胞は、テロメラーゼ活性が高いことが分かっている。そこで、悪性がんにおけるTERTを標的とするために、上記のような遺伝子編集ツールを使用することができる。
【0112】
CCR2b(CCケモカイン受容体タイプ2即ちCD192(分化抗原群192))は、Gタンパク質共役型受容体である。ヒトにおいて、CCR2はCCR2遺伝子にコードされている。この遺伝子は、単一遺伝子の択一的スプライシングにより、前記受容体の2種類のアイソフォームであるCCR2aとCCR2bをコードする。
【0113】
CCR2bは、MIP-1(RANTES受容体)に近縁であり、単球走化性に介在するケモカインである、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)の受容体である。CCR2は、MCP-2、MCP-3及びMCP-4とも結合するが、親和性は低い。CCR2a及びCCR2bは、そのC末端テールが相違する。MCP-1は、CCケモカインファミリーに属する低分子ケモカインである。MCP-1は、組織損傷又は感染により生じる炎症部位への単球、メモリーT細胞及び樹状細胞の動員に関与する。MCP-1は、乾癬、関節リウマチ、アテローム性動脈硬化症等の炎症性疾患における単球浸潤と、腫瘍に対する炎症反応に関与する。哺乳動物CCR2bをコードする代表的な核酸配列については、GenBankアクセッション番号NM_001123396及びNM_009915と、配列番号12を参照されたい。
【0114】
本願に開示する特定の実施形態は、治療用T細胞の腫瘍トラフィキングを強化するためにCCR2bの発現を含む(J.Immunother.2010 Oct;33(8):780-8)。
【0115】
CCR4(CCケモカイン受容体4即ちCD194(分化抗原群194))は、Gタンパク質共役型受容体ファミリーに属する。ヒトでは、CCR4遺伝子にコードされている。CCR4は、CCケモカインであるMCP-1、MIP-1、RANTES、TARC及びマクロファージ由来ケモカインの受容体である。CCケモカインは、単球並びにNK細胞及び樹状細胞等の他の細胞の移動を、誘導する。1例として、MCP-1は、単球が血流から離れて周囲組織に流入し、組織マクロファージとなるように誘導する。RANTESは、T細胞、好酸球及び好塩基球を誘引する。したがって、CCR4及びそのリガンドであるCCケモカインは、種々のタイプの白血球の細胞トラフィキングを調節する。哺乳動物CCR4をコードする代表的な核酸配列については、GenBankアクセッション番号NM_005508、NM_133532及びNM_009916.2と、配列番号13を参照されたい。
【0116】
本願に開示する特定の実施形態は、治療用T細胞の腫瘍ホーミングと抗腫瘍活性を改善するためにCCR4の発現を含む(Blood.2009 Jun 18;113(25):6392-402)。
【0117】
特定の実施形態は、選択された細胞により発現用核酸を送達するために、ヒットエンドラン効果から独立して又はこの効果に加えて、本願に開示するナノ担体を利用する。特定の実施形態において、このような実施形態は、選択された細胞の成長、生存、免疫機能及び/又は腫瘍細胞ターゲティングを強化することができる。遺伝子改変の例としては、キメラ抗原受容体(CAR)、αβT細胞受容体(又はその改変体)及び/又は炎症性サイトカインの発現を可能にする改変が挙げられる。CAR改変及び/又はαβT細胞受容体改変により、改変後のリンパ球は、細胞種を特異的に標的とすることができる。
【0118】
1態様において、遺伝子改変リンパ球は、腫瘍認識を改善し、天然T細胞増殖及び/又はサイトカイン産生の増加を誘起することができる。
【0119】
「キメラ抗原受容体」即ち「CAR」とは、少なくとも結合ドメイン及びエフェクタードメインを含み、更に任意にスペーサードメイン及び/又は膜貫通ドメインを含む、人工的にデザインされた受容体を意味する。
【0120】
結合ドメインは、特に標的細胞上のマーカーと特異的に結合する、任意ペプチドを含むことができる。結合ドメインの起源としては、各種生物種に由来する抗体可変領域が挙げられる(抗体、sFv、scFv、Fab、scFvグラバボディ(grababody)又は可溶性VHドメインもしくはドメイン抗体の形態とすることができる)。これらの抗体は、重鎖可変領域のみを使用して抗原結合領域を形成することができ、即ちこれらの機能的抗体は、重鎖のみからなるホモダイマーである(「重鎖抗体」と呼ぶ)(Jespers et al.,Nat.Biotechnol.22:1161,2004;Cortez-Retamozo et al.,Cancer Res.64:2853,2004;Baral et al.,Nature Med.12:580,2006;及びBarthelemy et al.,J.Biol.Chem.283:3639,2008)。
【0121】
結合ドメインの別の起源としては、ランダムペプチドライブラリーをコードする配列、又は、scTCR(例えばLake et al.,Int.Immunol.11:745,1999;Maynard et al.,J.Immunol.Methods 306:51,2005;米国特許第8,361,794号参照)、フィブリノーゲンドメイン(例えばWeisel et al.,Science 230:1388,1985参照)、クニッツ(Kunitz)型ドメイン(例えば米国特許第6,423,498号参照)、人工アンキリンリピートタンパク質(DARPins)(Binz et al.,J.Mol.Biol.332:489,2003及びBinz et al.,Nat.Biotechnol.22:575,2004)、フィブロネクチン結合ドメイン(アドネクチン又はモノボディ)(Richards et al.,J.Mol.Biol.326:1475,2003;Parker et al.,Protein Eng.Des.Selec.18:435,2005及びHackel et al.(2008)J.Mol.Biol.381:1238-1252)、システインノットミニタンパク質(Vita et al.(1995)Proc.Nat’l.Acad.Sci.(USA)92:6404-6408;Martin et al.(2002)Nat.Biotechnol.21:71,2002及びHuang et al.(2005)Structure 13:755,2005)、テトラトリコペプチドリピートドメイン(Main et al.,Structure 11:497,2003及びCortajarena et al.,ACS Chem.Biol.3:161,2008)、ロイシンリッチリピートドメイン(Stumpp et al.,J.Mol.Biol.332:471,2003)、リポカリンドメイン(例えばWO2006/095164,Beste et al.,Proc.Nat’l.Acad.Sci.(USA)96:1898,1999及びSchonfeld et al.,Proc.Nat’l.Acad.Sci.(USA)106:8198,2009参照)、V領域様ドメイン(例えば米国特許出願公開第2007/0065431号参照)、C型レクチンドメイン(Zelensky and Gready,FEBS J.272:6179,2005;Beavil et al.,Proc.Nat’l.Acad.Sci.(USA)89:753,1992及びSato et al.,Proc.Nat’l.Acad.Sci.(USA)100:7779,2003)、mAb2又はFcab(TM)(例えばPCT特許出願公開番号WO2007/098934、WO2006/072620参照)、アルマジロリピートタンパク質(例えばMadhurantakam et al.,Protein Sci.21:1015,2012;PCT特許出願公開番号WO2009/040338参照)、アフィリン(Ebersbach et al.,J.Mol.Biol.372:172,2007)、アフィボディ、アビマー、ノッティン、フィノマー、アトリマーもしくは細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(Weidle et al.,Cancer Gen.Proteo.10:155,2013)等(Nord et al.,Protein Eng.8:601,1995;Nord et al.,Nat.Biotechnol.15:772,1997;Nord et al.,Euro.J.Biochem.268:4269,2001;Binz et al.,Nat.Biotechnol.23:1257,2005;Boersma and Pluckthun,Curr.Opin.Biotechnol.22:849,2011)の、代替非抗体骨格のループ領域における種々の人工アミノ酸をコードする配列が、挙げられる。
【0122】
特定の実施形態において、結合ドメインは、目的標的(例えばペプチド-MHC複合体)に特異的なVα/β鎖とCα/β鎖(例えばVα-Cα、Vβ-Cβ,Vα-Vβ)又はVα-Cα、Vβ-Cβ、Vα-Vβ対を含む、一本鎖T細胞受容体(scTCR)である。
【0123】
代表的なCARは、例えばメソテリン、Her2、WT-1及び/又はEGRFを標的とする、リガンド結合ドメインを発現する。代表的なT細胞受容体改変体は、メラノーマ関連抗原(MAGE)A3TCRを標的とする。
【0124】
関連細胞マーカーと結合する結合ドメインを、TCR又はCARの細胞外成分の内側に含むことにより、以下の特定のがんを標的とすることができる。
【0125】
【0126】
上記以外に、細胞マーカーとして、A33、BAGE、Bcl-2、β-カテニン、B7H4、BTLA、CA125、CA19-9、CD3、CD5、CD19、CD20、CD21、CD22、CD25、CD28、CD30、CD33、CD37、CD40、CD52、CD44v6、CD45、CD56、CD79b、CD80、CD81、CD86、CD123、CD134、CD137、CD151、CD171、CD276、CEA、CEACAM6、c-Met、CS-1、CTLA-4、サイクリンB1、DAGE、EBNA、EGFR、EGFRvIII、エフリンB2、ErbB2、ErbB3、ErbB4、EphA2、エストロゲン受容体、FAP、フェリチン、α-フェトプロテイン(AFP)、FLT1、FLT4、葉酸結合タンパク質、フリズルド(Frizzled)、GAGE、G250、GD-2、GHRHR、GHR、GITR、GM2、gp75、gp100(Pmel 17)、gp130、HLA、HER-2/neu、HPV E6、HPV E7、hTERT、HVEM、IGF1R、IL6R、KDR、Ki-67、ルイスA、ルイスY、LIFRβ、LRP、LRP5、LTβR、MAGE、MART、メソテリン、MUC、MUC1、MUM-1-B、myc、NYESO-1、O-アセチルGD-2、O-アセチルGD3、OSMRβ、p53、PD1、PD-L1、PD-L2、PRAME、プロゲステロン受容体、PSA、PSMA、PTCH1、RANK、ras、Robo1、ROR1、サバイビン、TCRα、TCRβ、テネイシン、TGFBR1、TGFBR2、TLR7、TLR9、TNFR1、TNFR2、TNFRSF4、TWEAK-R、TSTAチロシナーゼ、VEGF及びWT1もまた、挙げられる。。
【0127】
特定のがん細胞マーカーとしては、以下のものが挙げられる。
【0128】
【0129】
特定の実施形態において、前記結合ドメインは、PSMAと結合することができる。PSMAに特異的な多数の抗体が当業者に知られており、配列、エピトープ結合及び親和性について、容易に特性決定することができる。特定の実施形態において、前記結合ドメインは、抗メソテリンリガンド(卵巣がん、膵臓がん及び中皮腫の治療に関連)、抗WT-1(白血病と卵巣がんの治療に関連)、抗HIV-gag(HIV感染症の治療に関連)、又は抗サイトメガロウイルス(ヘルペスウイルス等のCMV疾患の治療に関連)を含むことができる。
【0130】
特定の実施形態において、前記結合ドメインは、CD19と結合することができる。特定の実施形態において、結合ドメインは、CD19に特異的なVH領域とVL領域とを含む一本鎖Fv断片(scFv)である。特定の実施形態において、前記VH領域とVL領域とは、ヒトである。代表的なVH領域及びVL領域としては、抗CD19特異的モノクローナル抗体FMC63のセグメントが挙げられる。特定の実施形態において、前記scFVは、RASQDISKYLN(配列番号22)のCDRL1配列と、SRLHSGV(配列番号23)のCDRL2配列と、GNTLPYTFG(配列番号24)のCDRL3配列とを含む軽鎖可変領域を含む、ヒト又はヒト化scFVである。特定の実施形態において、前記scFVは、DYGVS(配列番号25)のCDRHI配列と、VTWGSETTYYNSALKS(配列番号26)のCDRH2配列と、YAMDYWG(配列番号27)のCDRH3配列とを含む重鎖可変領域を含む、ヒト又はヒト化ScFvである。SJ25C1及びHD37等の他のCD19ターゲティング抗体も知られている(SJ25C1:Bejcek et al.Cancer Res 2005,PMID 7538901;HD37:Pezutto et al.JI 1987,PMID 2437199)。配列番号28は、抗CD19scFv(VH-VL)FMC63DNA配列を示し、配列番号29は、抗CD19scFv(VH-VL)FMC63アミノ酸配列を示す。
【0131】
特定の実施形態において、前記結合ドメインは、ROR1と結合することができる。特定の実施形態において、前記scFVは、ASGFDFSAYYM(配列番号30)のCDRL1配列と、TIYPSSG(配列番号31)のCDRL2配列と、ADRATYFCA(配列番号32)のCDRL3配列とを含む軽鎖可変領域を含む、ヒト又はヒト化scFvである。特定の実施形態において、前記scFVは、DTIDWY(配列番号33)のCDRH1配列と、VQSDGSYTKRPGVPDR(配列番号34)のCDRH2配列と、YIGGYVFG(配列番号35)のCDRH3配列とを含む重鎖可変領域を含む、ヒト又はヒト化scFvである。ROR1に特異的な多数の抗体が当業者に知られており、配列、エピトープ結合及び親和性について容易に特性決定することができる。
【0132】
特定の実施形態において、前記結合ドメインは、TCRVα、Vβ、Cα又はCβのアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%又は100%一致する配列を含み、各CDRは、TCR又は目的標的と特異的に結合するその断片もしくは誘導体に対する変異箇所が、ゼロであるか又は最大で1カ所、2カ所もしくは3カ所である。
【0133】
特定の実施形態において、前記結合ドメインVα、Vβ、Cα又はCβ領域は、既知TCR(例えば高親和性TCR)のVα、Vβ、CαもしくはCβに由来するか又はこれをベースとすることができ、既知TCRのVα、Vβ、Cα又はCβと比較した場合に、1カ所以上(例えば2カ所、3カ所、4カ所、5カ所、6カ所、7カ所、8カ所、9カ所、10カ所)の挿入、1カ所以上(例えば2カ所、3カ所、4カ所、5カ所、6カ所、7カ所、8カ所、9カ所、10カ所)の欠失、1カ所以上(例えば2カ所、3カ所、4カ所、5カ所、6カ所、7カ所、8カ所、9カ所、10カ所)のアミノ酸置換(例えば保存的アミノ酸置換又は非保存的アミノ酸置換)又は上記変異の組合せを含む。各CDRの変異箇所がゼロであるか又は最大で1カ所、2カ所もしくは3カ所であり且つ改変Vα、Vβ、Cα又はCβ領域を含む結合ドメインが野生型と同等の親和性でその標的と特異的に結合することができる限り、Vα、Vβ、Cα又はCβ領域のアミノ末端又はカルボキシ末端又は両端を含めて、これらの領域のどの位置に挿入、欠失又は置換が存在していてもよい。
【0134】
特定の実施形態において、本開示の結合ドメインVH領域は、既知モノクローナル抗体のVHに由来するか又はこれをベースとすることができ、既知モノクローナル抗体のVHと比較した場合に、1カ所以上(例えば2カ所、3カ所、4カ所、5カ所、6カ所、7カ所、8カ所、9カ所、10カ所)の挿入、1カ所以上(例えば2カ所、3カ所、4カ所、5カ所、6カ所、7カ所、8カ所、9カ所、10カ所)の欠失、1カ所以上(例えば2カ所、3カ所、4カ所、5カ所、6カ所、7カ所、8カ所、9カ所、10カ所)のアミノ酸置換(例えば保存的アミノ酸置換又は非保存的アミノ酸置換)又は上記変異の組合せを含むことができる。各CDRの変異箇所がゼロであるか又は最大で1カ所、2カ所もしくは3カ所であり且つ改変VH領域を含む結合ドメインが野生型結合ドメインと同等の親和性でその標的と特異的に結合することができる限り、VH領域のアミノ末端又はカルボキシ末端又は両端を含めて、この領域のどの位置に挿入、欠失又は置換が存在していてもよい。
【0135】
特定の実施形態において、本開示の結合ドメインにおけるVL領域は、既知モノクローナル抗体のVLに由来するか又はこれをベースとし、既知モノクローナル抗体のVLと比較した場合に、1カ所以上(例えば2カ所、3カ所、4カ所、5カ所、6カ所、7カ所、8カ所、9カ所、10カ所)の挿入、1カ所以上(例えば2カ所、3カ所、4カ所、5カ所、6カ所、7カ所、8カ所、9カ所、10カ所)の欠失、1カ所以上(例えば2カ所、3カ所、4カ所、5カ所、6カ所、7カ所、8カ所、9カ所、10カ所)のアミノ酸置換(例えば保存的アミノ酸置換)又は上記変異の組合せを含む。各CDRの変異箇所がゼロであるか又は最大で1カ所、2カ所もしくは3カ所であり且つ改変VL領域を含む結合ドメインが野生型結合ドメインと同等の親和性でその標的と特異的に結合することができる限り、VL領域のアミノ末端又はカルボキシ末端又は両端を含めて、この領域のどの位置に挿入、欠失又は置換が存在していてもよい。
【0136】
特定の実施形態において、結合ドメインは、軽鎖可変領域(VL)又は重鎖可変領域(VH)又はその両方のアミノ酸配列に対して、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%又は100%一致する配列を含むか又はこのような配列であり、各CDRは、モノクローナル抗体又は目的標的と特異的に結合するその断片もしくは誘導体に対する変異箇所がゼロであるか又は最大で1カ所、2カ所もしくは3カ所である。
【0137】
エフェクタードメインは、細胞に機能的シグナルを伝達することができる。特定の実施形態において、エフェクタードメインは、細胞応答を直接促進するか又は細胞応答を直接促進する1種以上の他のタンパク質と会合することにより、間接的に促進するであろう。CARを発現するリンパ球を導入した場合に、エフェクタードメインは、標的細胞で発現されるマーカーと結合すると、このリンパ球の少なくとも1種の機能を活性化させることができる。リンパ球の活性化は、増殖、分化、活性化又は他のエフェクター機能の1種以上を含むことができる。特定の実施形態において、送達されるポリヌクレオチドは、エフェクタードメインをコードする。
【0138】
エフェクタードメインは、1個、2個、3個又はそれ以上の受容体シグナル伝達ドメイン、細胞内シグナル伝達ドメイン、共刺激ドメイン又はそれらの組合せを含むことができる。本開示のCARでは、種々のシグナル伝達分子(例えばシグナル伝達受容体)のいずれかに由来する任意の細胞内エフェクタードメイン、共刺激ドメイン又はその両方を、使用することができる。
【0139】
代表的なエフェクタードメインとしては、4-1BB、CD3ε、CD3δ、CD3ζ、CD27、CD28(例えば配列番号36)、CD79A、CD79B、CARD11、DAP10、FcRα、FcRβ、FcRγ、Fyn、HVEM、ICOS、Lck、LAG3、LAT、LRP、NOTCH1、Wnt、NKG2D、OX40、ROR2、Ryk、SLAMF1、Slp76、pTα、TCRα、TCRβ、TRIM、Zap70、PTCH2又はその任意の組合せに由来するものが挙げられる。
【0140】
T細胞活性化は、異なる2種類の細胞質シグナル伝達配列、即ち抗原依存性一次活性化を開始し、T細胞受容体様シグナルを提供する配列(一次細胞質シグナル伝達配列)と、抗原非依存的に作用し、二次又は共刺激シグナルを提供する配列(二次細胞質シグナル伝達配列)とにより、誘導されると言うことができる。刺激するように作用する一次細胞質シグナル伝達配列は、受容体チロシン活性化モチーフ又はiTAMと呼ばれるシグナル伝達モチーフを含むことができる。iTAMを含む一次細胞質シグナル伝達配列の例としては、CD3ζ、FeRγ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD5、CD22、CD79a、CD79b及びCD66dに由来するものが挙げられる。
【0141】
特定の実施形態において、エフェクタードメインは、細胞質シグナル伝達タンパク質と会合する細胞質部分を含み、前記細胞質シグナル伝達タンパク質は、リンパ球受容体もしくはそのシグナル伝達ドメイン、複数のITAMを含むタンパク質、共刺激因子又はその任意の組合せである。
【0142】
細胞内シグナル伝達ドメインの例としては、CD3ζ鎖、及び/又はCAR関与後にシグナル伝達を開始するように共働して作用する共受容体の細胞質配列と、これらの配列の任意の誘導体又は変異体に加え、同一の機能をもつ任意の合成配列が挙げられる。特定の実施形態では、任意の他の所望の細胞質ドメインと共に細胞内シグナル伝達ドメインを含むように、CARの細胞内シグナル伝達ドメインを設計することができる。例えば、CARの細胞内シグナル伝達ドメインは、細胞内シグナル伝達ドメインと共刺激シグナル伝達領域とを含むことができる。共刺激シグナル伝達領域とは、共刺激分子の細胞内ドメインを含むCARの一部を意味する。リンパ球がマーカーに応答するには、発現されるマーカーリガンドが必要であるが、共刺激分子は、このようなマーカーリガンド以外の細胞表面分子である。このような分子の例としては、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、リンパ球機能関連抗原1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、及びCD83と特異的に結合するリガンドが挙げられる。
【0143】
標的認識を最適化するように、標的上の個々のマーカーに合わせて、スペーサー領域をカスタマイズすることができる。特定の実施形態では、マーカーエピトープの位置、エピトープに対する抗体の親和性、及び/又はCARを発現するリンパ球がマーカー認識に応答してインビトロ及び/又はインビボ増殖する能力に基づいて、スペーサー長を選択することができる。
【0144】
一般的には、CARの結合ドメインと膜貫通ドメインとの間に、スペーサー領域が存在する。スペーサー領域は、結合ドメインに融通性をもたせることができ、改変細胞における発現レベルを高くすることができる。特定の実施形態において、スペーサー領域は、少なくとも10~250アミノ酸、少なくとも10~200アミノ酸、少なくとも10~150アミノ酸、少なくとも10~100アミノ酸、少なくとも10~50アミノ酸又は少なくとも10~25アミノ酸とすることができ、上記範囲のいずれも端点間の任意の整数を含む。特定の実施形態において、スペーサー領域は、250アミノ酸以下、200アミノ酸以下、150アミノ酸以下、100アミノ酸以下、50アミノ酸以下、40アミノ酸以下、30アミノ酸以下、20アミノ酸以下、又は10アミノ酸以下である。
【0145】
特定の実施形態において、スペーサー領域は、免疫グロブリン様分子のヒンジ領域に由来することができ、例えば、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3又はヒトIgG4に由来するヒンジ領域の全部又は一部とすることができる。ヒンジ領域は、二量体化等の望ましくない構造的相互作用を避けるように改変することができる。特定の実施形態では、ヒンジ領域の全部又は一部を、免疫グロブリンの定常領域の1つ以上のドメインと繋げることができる。例えば、ヒンジ領域の一部を、CH2もしくはCH3ドメイン又はその変異体の全部又は一部と繋げることができる。
【0146】
本願に開示するCARは、更に、膜貫通ドメインを含むことができる。特定の実施形態において、CARポリヌクレオチドは、前記膜貫通ドメインをコードする。前記膜貫通ドメインは、CARをリンパ球膜に係留するように機能する。膜貫通ドメインは、天然起源に由来するものでも、合成起源に由来するものでもよい。起源が天然であるとき、前記ドメインは、任意の膜結合タンパク質又は膜貫通タンパク質に由来することができる。膜貫通領域は、T細胞受容体のα鎖、β鎖又はζ鎖、CD28、CD3、CD45、CD4、CDS、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137及びCD154の少なくとも膜貫通領域を含む。特定の実施形態において、合成又は変異体膜貫通ドメインは、ロイシンやバリン等の疎水性の高い残基を含む。
【0147】
特定の実施形態において、CARは、PSMAの細胞外ドメインに特異的な一本鎖抗体(scFv)(J591)と、CD28及びCD3ζ細胞質シグナル伝達ドメインから構成されるP28z融合受容体とを含む。特定の実施形態において、CARは、配列番号37のP28zCARを含む。配列番号37は、マウス成分を含む。アミノ酸1~797位は、抗PSMAscFv(J592)を含み、797~1477位は、マウスCD8膜貫通ドメインと、マウスCD28シグナル伝達ドメインと、マウスCD3ζシグナル伝達ドメインとを含む。いずれのP28zドメインも、最適化されたドメインで個々に置換えることができる。特定の実施形態では、配列番号37の797~1477位の膜貫通ドメインとシグナル伝達ドメインとを、特にヒト又は他の動物用に最適化されたドメインで置換えることができる。特定の実施形態では、結合ドメインの全部もしくは一部、エフェクタードメインの全部もしくは一部、スペーサードメインの全部もしくは一部及び/又は膜貫通ドメインの全部もしくは一部を、ヒト又は他の動物用に最適化することができる。特定の実施形態では、P28zCARを、ヒト用に最適化する。ヒト用に最適化すると、P28zCARは、ヒトにおける免疫原性を低くすることができ、非ヒト抗体に比較して、非免疫原性エピトープ数を減らすことができる。
【0148】
特定の実施形態では、2A2、R12及びR11mAb(ROR1)とFMC63mAb(CD19)のVL及びVH鎖セグメントとを使用して、ROR1特異的CARとCD19特異的CARとを作製することができる。R11及びR12の可変領域配列は、Yang et al,Plos One 6(6):e21018,June 15,2011に記載されている。(Gly4Ser)3(配列番号38)タンパク質により、「ヒンジ-CH2-CH3」(229AA、配列番号40)、「ヒンジ-CH3」(119AA、配列番号41)又は「ヒンジ」単独(12AA、配列番号42)の配列を含むIgG4-Fc(UniProtデータベース:P01861、配列番号39)に由来するスペーサードメインと、各scFVを連結することができる。全スペーサーは、天然IgG4-Fcタンパク質の108位に位置する「ヒンジ」ドメイン内にS→P置換を含むことができ、ヒトCD28の27AA膜貫通ドメイン(配列番号43、代表的な全長CD28については、UniProt:P10747参照)と、(i)天然CD28タンパク質の186~187位に位置するLL→GG置換を含むヒトCD28の41AA細胞質ドメイン(配列番号44)又は(ii)ヒト4-1BBの42AA細胞質ドメイン(UniProt:Q07011、配列番号45)のいずれかとを含むエフェクタードメインシグナル伝達モジュールに連結することができ、これらの細胞質ドメインは、各々ヒトCD3ζのアイソフォーム3の112AA細胞質ドメイン(UniProt:P20963、配列番号46)と連結することができる。このコンストラクトは、キメラ受容体の下流のT2Aリボソームスキップエレメント(配列番号47)とtEGFR配列(配列番号48)をコードする。STREP TAG(R)II(配列番号49)、Mycタグ(配列番号50)、V5タグ(配列番号51)、FLAG(R)タグ(配列番号52)、Hisタグ、又は本願に開示する他のペプチドもしくは分子等の配列と結合するタグカセットで、tEGFRを置換してもよいし、追加してもよい。各トランスジーンをコードするコドン最適化遺伝子配列を合成し(Life Technologies)、NheI及びNotI制限部位を使用して、epHIV7レンチウイルスベクターにクローニングすることができる。epHIV7レンチウイルスベクターは、pHIV7のサイトメガロウイルスプロモーターをEF-1プロモーターに置換することにより、pHIV7ベクターから得られる。パッケージングベクターであるpCHGP-2、pCMV-Rev2及びpCMV-Gと、CALPHOS(R)トランスフェクション試薬(Clontech)とを使用して、ROR1キメラ受容体、CD19キメラ受容体、tEGFR又はタグカセットをコードするレンチウイルスを、293T細胞で作製することができる。
【0149】
HER2上の膜近傍エピトープを認識するHER2特異的mAbのVL及びVH鎖セグメントを使用して、HER2特異的キメラ受容体を作製することができ、scFVをIgG4ヒンジ/CH2/CH3、IgG4ヒンジ/CH3及びIgG4ヒンジ単独の細胞外スペーサードメインと、CD28膜貫通ドメイン、4-1BB及びCD3ζシグナル伝達ドメインに連結することができる。
【0150】
CD19キメラ受容体は、CD19特異的mAbFMC63の配列に対応する一本鎖可変領域断片(scFv:VL-VH)と、「ヒンジ-CH2-CH3」ドメイン(229AA、長いスペーサー)又は「ヒンジ」ドメイン単独(12AA、短いスペーサー)を含むIgG4-Fcに由来するスペーサーと、膜近傍CD28又は4-1BB共刺激ドメインを単独又はタンデムに配置したCD3ζのシグナル伝達モジュールとを含むことができる。トランスジーンカセットは、キメラ受容体遺伝子の下流に短縮型EGFR(tEGFR)を含むことができ、キメラ受容体改変細胞の導入、選択及びインビボトラッキング用のタグ配列として機能するように、切断可能なT2Aエレメントにより分離することができる。STREP TAG(R)II(配列番号49)、Mycタグ(配列番号50)、V5タグ(配列番号51)、FLAG(R)タグ(配列番号52)、Hisタグ、又は本願に開示するような他のペプチドもしくは分子等のExoCBMと結合するタグカセットで、tEGFRを置換してもよいし、追加してもよい。
【0151】
非遺伝子改変リンパ球及び/又は他のCARよりも機能が改善されたCARを同定するために、種々のリガンド結合ドメイン、種々のスペーサー領域長、種々の細胞内結合ドメイン及び/又は種々の膜貫通ドメインをコードする種々の潜在的CAR核酸コンストラクトを、(動物モデルで)インビボ及び/又はインビトロ試験することができる。特定の実施形態において、CARは、本願に記載するヒットエンドラン効果から独立して又はそれに加えて発現される。
【0152】
本願に開示するナノ担体の寸法は、広い範囲をとることができ、種々の方法で測定することができる。例えば、本開示のナノ担体は、最小寸法を100nmとすることができる。本開示のナノ担体は、最小寸法を500nm以下、150nm以下、100nm以下、90nm以下、80nm以下、70nm以下、60nm以下、50nm以下、40nm以下、30nm以下、20nm以下又は10nm以下とすることもできる。特定の実施形態において、前記ナノ担体は、最小寸法を5nm~500nm、10nm~100nm、20nm~90nm、30nm~80nm、40nm~70nm、及び40nm~60nmとすることができる。特定の実施形態において、前記寸法は、ナノ粒子又は被覆ナノ粒子の直径である。特定の実施形態において、本開示のナノ担体集団は、平均最小寸法を500nm以下、100nm以下、90nm以下、80nm以下、70nm以下、60nm以下、50nm以下、40nm以下、30nm以下、20nm以下、又は10nm以下とすることができる。特定の実施形態において、本開示の組成物におけるナノ担体集団は、平均直径を5nm~500nm、10nm~100nm、20nm~90nm、30nm~80nm、40nm~70nm、及び40nm~60nmとすることができる。前記ナノ担体の寸法は、例えば動的光散乱法及び/又は電子顕微鏡法等の従来技術を使用して、測定することができる。
【0153】
エクスビボ使用方法。本願に開示するナノ担体は、エクスビボ細胞製造で使用することができる(例えば
図1A及び4C参照)。例えば、このような方法は、対象からリンパ球を採取する工程を含むことができる。リンパ球は、例えば当分野で一般に公知の任意の手順を使用して、対象から採取することができる。
【0154】
リンパ球の起源としては、臍帯血、胎盤血及び末梢血が挙げられる。血液試料の採取、凝固防止及び処理等に関する方法は、公知である。例えば、Alsever et al.,1941,N.Y.St.J.Med.41:126;De Gowin,et al.,1940,J.Am.Med.Ass.114:850;Smith,et al.,1959,J.Thorac.Cardiovasc.Surg.38:573;Rous and Turner,1916,J.Exp.Med.23:219;及びHum,1968,Storage of Blood,Academic Press,New York,pp.26-160参照。リンパ球の起源としては、適切な年齢のドナーからの骨髄(Kodo et al.,1984,J.Clin Invest.73:1377-1384参照)、胚性細胞、大動脈・性腺・中腎由来細胞、リンパ、肝臓、胸腺及び脾臓もまた、挙げられる。採取した全リンパ球試料を、望ましくない成分についてスクリーニングし、その時点の最新公認標準に従って廃棄、処理又は使用することができる。
【0155】
特定の実施形態において、本願に開示するナノ担体は、不均一細胞集団内の選択された細胞種を選択的に標的とするので、リンパ球をナノ担体に暴露する前にそれ以上採取又は単離する必要がない。
【0156】
特定の実施形態では、本願に開示するナノ担体に暴露する前にある程度まで更に細胞採取・単離を行うと、有益な場合がある。任意の適切な技術を使用して、試料からリンパ球を採取・単離することができる。適切な採取・単離法としては、磁気分離法、蛍光活性化セルソーティング(FACS;Williams et al.,1985,J.Immunol.135:1004;Lu et al.,1986,Blood 68(1):126-133)、アフィニティークロマトグラフィー、モノクローナル抗体と結合させた物質又はモノクローナル抗体と併用する物質を利用する方法、固相マトリックスに固定化した抗体による「パニング」法(Broxmeyer et al.,1984,J.Clin.Invest.73:939-953)、大豆等のレクチンを使用した選択的凝集法(Reisner et al.,1980,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.77:1164)等が挙げられる。特定の実施形態は、限定分離法を利用することができる。限定分離法とは、例えば赤血球及び/又は接着性食細胞の除去による粗細胞集積を意味する。
【0157】
特定の実施形態では、磁気粒子に直接又は間接的に結合させた抗CD8又は抗CD34抗体を磁気細胞細胞分離装置(例えばCliniMACS(R)Cell Separation System(Miltenyi Biotec,Bergisch Gladbach,ドイツ))と共に使用して、CD8+T細胞又はCD34+HSPCを選択/集積するように対象試料(例えば血液試料)を処理することができる。同様に、上記マーカー(例えばT細胞α鎖、T細胞β鎖、T細胞γ鎖、T細胞δ鎖、CCR7、CD1a、CD1b、CD1c、CD1d、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD11b、CD11c、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD25、CD28、CD34、CD35、CD40、CD39、CD45RA、CD45RO、CD46、CD52、CD56、CD62L、CD68、CD69、CD80、CD86、CD95、CD101、CD117、CD127、CD133、CD137(4-1BB)、CD148、CD163、CD209、DEC-205、F4/80、IL-4Rα、Sca-1、CTLA-4、GITR、GARP、LAP、グランザイムB、LFA-1、トランスフェリン受容体)のいずれかを発現するリンパ球を単離し、これらのマーカーの抗体又は他の結合ドメインを使用するために、集積させることができる。
【0158】
特定の実施形態では、拡大培養工程の前又は初期段階でナノ担体をリンパ球と結合させる。このアプローチにより、少数の細胞の改変が可能になり、細胞集団が拡大するにつれて、改変は集団全体に広がる。特定の実施形態では、一過性発現に基づくヒットエンドラン効果を生じる本願に開示するナノ担体に暴露した後に、改変されたリンパ球の拡大培養を行うことができる。
【0159】
拡大培養は、アンジオポエチン様タンパク質(Angptls、例えばAngptl2、Angptl3、Angptl7、Angptl5及びMfap4)、エリスロポエチン、線維芽細胞増殖因子1(FGF-1)、Flt-3リガンド(Flt-3L)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インスリン成長因子2(IFG-2)、インターロイキン3(IL-3)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン7(IL-7)、インターロイキン11(IL-11)、幹細胞因子(SCF;別称c-kitリガンド又は肥満細胞増殖因子)、トロンボポエチン(TPO)及びその類似体等の1種以上の成長因子の存在下で行うことができる(前記類似体としては天然の成長因子の生物学的活性をもつ成長因子の任意の構造変異体が挙げられる;例えばWO2007/1145227及び米国特許公開第2010/0183564号参照)。
【0160】
特定の実施形態において、リンパ球を拡大培養するのに適した成長因子の量又は濃度は、増殖を促進するために有効な量又は濃度である。ヒト対象に少なくとも1回注入するために十分な数の細胞、典型的には細胞約104個/kg~109個/kgが得られるまで、リンパ球集団を拡大培養することが好ましい。
【0161】
リンパ球を拡大培養するのに適した成長因子の量又は濃度は、成長因子製剤の活性、及び成長因子とリンパ球との生物種対応等に依存する。一般に、成長因子とリンパ球とが同一の生物種に由来する場合には、培養培地中の成長因子の合計量は、1ng/ml~5μg/ml、5ng/ml~1μg/m又は5ng/ml~250ng/mlである。特定の実施形態において、成長因子の量は、5~1000ng/ml又は50~100ng/mlとすることができる。
【0162】
特定の実施形態では、拡大培養条件下に25~300ng/mlのSCFと、25~300ng/mlのFlt-3Lと、25~100ng/mlのTPOと、25~100ng/mlのIL-6と、10ng/mlのIL-3との濃度で、成長因子が存在する。特定の実施形態では、50ng/ml、100ng/ml又は200ng/mlのSCFと、50ng/ml、100ng/ml又は200ng/mlのFlt-3Lと、50ng/ml又は100ng/mlのTPOと、50ng/ml又は100ng/mlのIL-6と、10ng/mlのIL-3とを使用することができる。
【0163】
フィブロネクチン(FN)等の細胞外マトリックスタンパク質又はその断片(例えばCH-296(Dao et.al.,1998,Blood 92(12):4612-21)又はRetroNectin(R)(組換えヒトフィブロネクチン断片(Clontech Laboratories,Inc.,Madison,WI)))を、固定化した組織培養ディッシュでリンパ球を拡大培養することができる。
【0164】
HSCを拡大培養するには、Notchアゴニストが特に有用であると思われる。特定の実施形態では、固定化したNotchアゴニスト及び50ng/mlもしくは100ng/mlのSCF、固定化したNotchアゴニスト及び各々50ng/mlもしくは100ng/mlのFlt-3L、IL-6、TPO及びSCF、又は固定化したNotchアゴニスト及び各々50ng/mlもしくは100ng/mlのFlt-3L、IL-6、TPO及びSCFと、10ng/mlのIL-11もしくはIL-3に、HSCを暴露することにより、HSCを拡大培養することができる。
【0165】
記載の通り、対象からリンパ球を採取する。特定の実施形態では、ヒットエンドラン改変・拡大培養したリンパ球を、元の試料の採取源である同一対象に、治療有効量で再導入する。特定の実施形態では、ヒットエンドラン改変・拡大培養したリンパ球を、別の対象に治療有効量で投与する。治療有効量については、本願の他の箇所でより詳細に記載している。
【0166】
これらの実施形態では、ヒットエンドラン改変・拡大培養したリンパ球を、対象に投与するための細胞組成物(cell-based compositions)として、製剤化することができる。細胞組成物とは、拡大培養した細胞を、対象に投与するために、医薬的に許容される基剤に加えて調製したものを意味する。特定の実施形態では、投与を必要とする対象に、拡大培養と投与用製剤化の完了後に妥当な範囲でできるだけ早く、細胞組成物を投与する。
【0167】
特定の実施形態では、細胞を凍結保護することが、必要又は有益な場合がある。「凍結させた/凍結させる」及び「凍結保護した/凍結保護する」なる用語は、同義に使用することができる。凍結は、凍結乾燥を含む。
【0168】
当分野における通常の知識を有する者に理解される通り、細胞の凍結は、破壊性となる可能性がある(Mazur,P.,1977,Cryobiology 14:251-272参照)が、このような損傷を防ぐために、多数の処置方法を利用可能である。例えば、(a)凍結保護剤の使用、(b)凍結速度の制御、及び/又は(c)分解反応を最小限にするための十分低温での保存により、損傷を避けることができる。代表的な凍結保護剤としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)(Lovelock and Bishop,1959,Nature 183:1394-1395;Ashwood-Smith,1961,Nature 190:1204-1205)、グリセロール、ポリビニルピロリドン(Rinfret,1960,Ann.N.Y.Acad.Sci.85:576)、ポリエチレングリコール(Sloviter and Ravdin,1962,Nature 196:548)、アルブミン、デキストラン、ショ糖、エチレングリコール、i-エリスリトール、D-リビトール、D-マンニトール(Rowe et al.,1962,Fed.Proc.21:157)、D-ソルビトール、i-イノシトール、D-ラクトース、塩化コリン(Bender et al..,1960,J.Appl.Physiol.15:520)、アミノ酸(Phan The Tran and Bender,1960,Exp.Cell Res.20:651)、メタノール、アセトアミド、グリセリン一酢酸エステル(Lovelock,1954,Biochem.J.56:265)、及び無機塩類(Phan The Tran and Bender,1960,Proc.Soc.Exp.Biol.Med.104:388;Phan The Tran and Bender,1961,in Radiobiology,Proceedings of the Third Australian Conference on Radiobiology,Ilbery ed.,Butterworth,London,p.59)が挙げられる。特定の実施形態では、DMSOを使用することができる。(例えば20~25%までの濃度の)血漿を加えると、DMSOの保護効果を高めることができる。DMSO濃度が1%では温度が4℃を越えると毒性となる可能性があるので、DMSOの添加後、凍結時まで細胞を0℃に維持するとよい。
【0169】
細胞の凍結保護では、冷却速度を遅く制御することが重要であると考えられ、種々の凍結保護剤(Rapatz et al.,1968,Cryobiology 5(1):18-25)及び種々の細胞種で、最適な冷却速度は異なる(例えば幹細胞の生存及びその移植能に及ぼす冷却速度の影響については、Rowe and Rinfret,1962,Blood 20:636;Rowe,1966,Cryobiology 3(1):12-18;Lewis,et al.,1967,Transfusion 7(1):17-32;及びMazur,1970,Science 168:939-949参照)。水が氷に相転移する融解熱を、最小限にする必要がある。冷却処置は、例えばプログラマブル凍結装置又はメタノール浴法の使用により、実施することができる。プログラマブル凍結装置は、最適な冷却速度を決定することができ、標準的な再現可能な冷却が容易になる。
【0170】
特定の実施形態では、DMSOで処理した細胞を、予め氷冷し、冷メタノールを入れたトレイに移し、-80℃の自動式冷却装置(例えばHarris又はRevco)に入れる。メタノール浴及び試料の熱電対測定によると、1~3℃/分の冷却速度が好ましいと思われる。少なくとも2時間後に、試料は-80℃の温度に達することができ、液体窒素(-196℃)に直接導入することができる。
【0171】
完全に凍結後、細胞を長期冷凍保存容器に速やかに移すとよい。特定の実施形態では、試料を液体窒素(-196℃)又は蒸気(-1℃)で冷凍保存することができる。このような保存は効率の高い液体窒素式冷却装置の入手可能性により容易になる。
【0172】
細胞の操作、凍結保護及び長期保存に関するその他の考慮事項と手順については、代表的な参考文献である米国特許第4,199,022号、3,753,357号及び4,559,298号;Gorin,1986,Clinics In Haematology 15(1):19-48;Bone-Marrow Conservation,Culture and Transplantation,Proceedings of a Panel,Moscow,July 22-26,1968,International Atomic Energy Agency,Vienna,pp.107-186;Livesey and Linner,1987,Nature 327:255;Linner et al.,1986,J.Histochem.Cytochem.34(9):1123-1135;Simione,1992,J.Parenter.Sci.Technol.46(6):226-32)を参照されたい。
【0173】
凍結保護後、当分野における通常の知識を有する者に公知の方法に従って使用できるように、凍結させた細胞を解凍することができる。凍結させた細胞を速やかに解凍し、解凍直後にチルドにすることが好ましい。特定の実施形態では、凍結させた細胞をバイアルに入れてバイアルの首まで温水浴に浸し、静かに回転することにより、解凍に伴って細胞懸濁液を混合させ、温水から内部氷塊への熱移動を増加させてもよい。氷が完全に融けたら、直ぐにバイアルを氷上に移すとよい。
【0174】
特定の実施形態では、解凍中の細胞凝集を防ぐために、種々の方法を使用することができる。代表的な方法としては、凍結前及び/又は後にDNase(Spitzer et al.,1980,Cancer 45:3075-3085)、低分子デキストラン及びクエン酸塩、ヒドロキシエチルデンプン(Stiff et al.,1983,Cryobiology 20:17-24)等を添加する方法が挙げられる。
【0175】
当分野における通常の知識を有する者に理解される通り、人体に毒性の凍結保護剤を使用する場合には、治療に使用する前に除去する必要がある。DMSOには重大な毒性がない。
【0176】
代表的な基剤及び細胞の投与方式は、米国特許公開第2010/0183564号の14~15頁に記載されている。その他の医薬基剤は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,21st Edition,David B.Troy,ed.,Lippicott Williams & Wilkins(2005)に記載されている。
【0177】
特定の実施形態では、細胞を培養培地から回収し、洗浄し、濃縮して、治療有効量を基剤に懸濁することができる。代表的な基剤としては、塩類溶液、緩衝塩類溶液、生理食塩水、水、ハンクス液、リンゲル液、Nonnosol-R(Abbott Labs)、Plasma-Lyte A(R)(Baxter Laboratories,Inc.,Morton Grove,IL)、グリセロール、エタノール及びそれらの組合せが挙げられる。
【0178】
特定の実施形態では、基剤にヒト血清アルブミン(HSA)もしくは他のヒト血清成分又は胎仔ウシ血清を添加することができる。特定の実施形態において、輸液用基剤は、5%HSA又はデキストロースを添加した緩衝塩類溶液を含む。その他の等張化剤としては、多価糖アルコール類が挙げられ、例えばグリセリン、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール又はマンニトール等の三価以上の糖アルコール類が挙げられる。
【0179】
基剤は、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、酒石酸緩衝液、フマル酸緩衝液、グルコン酸緩衝液、蓚酸緩衝液、乳酸緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、ヒスチジン緩衝液及び/又はトリメチルアミン塩等の緩衝剤を含むことができる。
【0180】
安定剤とは、増量剤の機能に始まり、容器壁への細胞付着を防ぐのに役立つ添加剤に至るまでの機能に対応することができる、広義の医薬品添加剤を意味する。典型的な安定剤としては、多価糖アルコール類;アルギニン、リジン、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アラニン、オルニチン、L-ロイシン、2-フェニルアラニン、グルタミン酸及びスレオニン等のアミノ酸;ラクトース、トレハロース、スタキオース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、リビトール、ミオイニシトール、ガラクチトール、グリセロール及びシクリトール(例えばイノシトール)等の有機糖類又は糖アルコール類;PEG;アミノ酸ポリマー;尿素、グルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、α-モノチオグリセロール及びチオ硫酸ナトリウム等の含硫還元剤;低分子ポリペプチド(即ち<10残基);HSA、ウシ血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;キシロース、マンノース、フルクトース及びグルコース等の単糖類;ラクトース、マルトース及びスクロース等の二糖類;ラフィノース等の三糖類;並びにデキストラン等の多糖類を挙げることができる。
【0181】
必要又は有益な場合には、注射部位の痛みを和らげるために、リドカイン等の局所麻酔薬を、細胞組成物に添加することができる。
【0182】
代表的な保存剤としては、フェノール、ベンジルアルコール、メタクレゾール、メチルパラベン、プロピルパラベン、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ハロゲン化ベンザルコニウム、塩化ヘキサメトニウム、アルキルパラベン(例えばメチルパラベンやプロピルパラベン)、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール及び3-ペンタノールが挙げられる。
【0183】
細胞組成物に含まれる細胞の治療有効量は、102個超、103個超、104個超、105個超、106個超、107個超、108個超、109個超、1010個超、又は1011個超とすることができる。
【0184】
本願に開示する細胞組成物において、細胞は、一般的に、1リットル以下、500mL以下、250mL以下又は100mL以下の体積中に含まれる。したがって、投与される細胞の密度は、一般的に、104個超/ml、107個超/ml、又は108個超/mlである。
【0185】
本願に開示する細胞組成物は、例えば注射、輸液、灌流又は洗浄による投与用に製造することができる。前記細胞組成物は、更に、骨髄、静脈内、皮内、動脈内、リンパ節内、リンパ管内、腹腔内、病変内、前立腺内、膣内、直腸内、局所、髄腔内、腫瘍内、筋肉内、膀胱内及び/又は皮下注射用に、製剤化することができる。
【0186】
インビボ使用方法に用いる組成物。本願に開示するナノ担体は、対象に直接投与して選択的ターゲティング及びヒットエンドラン改変をインビボで行う組成物として、製剤化することもできる(当分野における通常の知識を有する者に理解される通り、本願に記載するエクスビボ及びインビボアプローチは、相互に排他的ではなく、組合せて実施することができる)。これらの組成物を、本願ではナノ担体組成物(nanocarrier-based compositions)と呼ぶ。
【0187】
特定の実施形態において、前記ナノ担体は、少なくとも0.1%w/vもしくはw/wのナノ担体、少なくとも1%w/vもしくはw/wのナノ担体、少なくとも10%w/vもしくはw/wのナノ担体、少なくとも20%w/vもしくはw/wのナノ担体、少なくとも30%w/vもしくはw/wのナノ担体、少なくとも40%w/vもしくはw/wのナノ担体、少なくとも50%w/vもしくはw/wのナノ担体、少なくとも60%w/vもしくはw/wのナノ担体、少なくとも70%w/vもしくはw/wのナノ担体、少なくとも80%w/vもしくはw/wのナノ担体、少なくとも90%w/vもしくはw/wのナノ担体、少なくとも95%w/vもしくはw/wのナノ担体、又は少なくとも99%w/vもしくはw/wのナノ担体を含有することができる、ナノ担体組成物の一部として提供される。
【0188】
本願に開示するナノ担体組成物は、例えば注射、吸入、輸液、灌流、洗浄又は経口摂取による投与用に製剤化することができる。本願に開示するナノ担体組成物は、更に、静脈内、皮内、動脈内、リンパ節内、リンパ管内、腹腔内、病変内、前立腺内、膣内、直腸内、局所、髄腔内、腫瘍内、筋肉内、膀胱内、経口及び/又は皮下投与用に製剤化することができ、より特定的には静脈内、皮内、動脈内、リンパ節内、リンパ管内、腹腔内、病変内、前立腺内、膣内、直腸内、局所、髄腔内、腫瘍内、筋肉内、膀胱内、経口及び/又は皮下注射用に、製剤化することができる。
【0189】
注射用では、ハンクス液、リンゲル液又は生理食塩水を含む緩衝液等でナノ担体組成物を、水溶液として製剤化することができる。水溶液には、懸濁化剤、安定剤及び/又は分散剤等の製剤添加物を添加することができる。あるいは、使用前に適切な溶媒(例えば滅菌パイロジェンフリー水)で再構成する凍結乾燥及び/又は粉末形態の製剤とすることもできる。
【0190】
経口投与用では、ナノ担体組成物を、錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル剤、液剤、ジェル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤等として製剤化することができる。例えば散剤、カプセル剤及び錠剤等の経口固体製剤に適した医薬品添加剤としては、結合剤(トラガカントガム、アラビアガム、コーンスターチ、ゼラチン)、賦形剤(例えばラクトース、スクロース、マンニトール及びソルビトール等の糖類;リン酸二カルシウム、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム;トウモロコシ澱粉、コムギ澱粉、コメ澱粉、ジャガイモ澱粉、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及び/又はポリビニルピロリドン(PVP)等のセルロース調製物);顆粒化剤;及び結合剤が挙げられる。必要に応じてコーンスターチ、ジャガイモ澱粉、アルギン酸、架橋型ポリビニルピロリドン、寒天又はアルギン酸もしくはその塩(例えばアルギン酸ナトリウム)等の崩壊剤を添加してもよい。必要に応じて、標準技術を使用して、固体剤形に糖衣又は腸溶コーティングを設けてもよい。ペパーミント、ウィンターグリーン油、チェリーフレーバー、オレンジフレーバー等の着香剤も使用できる。
【0191】
吸入投与用では、適切な噴射剤(例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素又は他の適切なガス)を利用することにより、加圧パック又はネブライザーからのエアゾールスプレーとしてナノ担体組成物を製剤化することができる。加圧エアゾールの場合には、定量を送達するように弁を設けることにより、用量単位を配量することができる。治療剤及びラクトースや澱粉等の適切な粉末基剤の粉末混合物を収容したインヘラー又はインサフレーター用ゼラチンカプセル及びカートリッジとして、製剤化することもできる。
【0192】
本願に開示する全ナノ担体組成物の製剤は、他の任意の医薬的に許容される基剤を有利に含有することができ、研究、予防及び/又は治療処置のいずれに使用するものかに関係なく、投与の効果を上回る著しく有害、アレルギー性又は他の不都合な反応を生じないものが挙げられる。代表的な医薬的に許容される基剤及び製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.Mack Printing Company,1990に開示されている。更に、米国FDA生物学的製剤基準部(Office of Biological Standards)及び/又は他の該当する米国外の監督機関により定められた滅菌度、発熱性、一般安全性及び純度標準を満たすように、製剤を製造することができる。
【0193】
代表的な一般に使用される医薬的に許容される基剤としては、ありとあらゆる増量剤又は賦形剤、溶媒もしくは補助溶媒、分散媒、コーティング剤、界面活性剤、酸化防止剤(例えばアスコルビン酸、メチオニン及びビタミンE)、保存剤、等張化剤、吸収遅延剤、塩類、安定剤、緩衝剤、キレート剤(例えばEDTA)、ジェル剤、結合剤、崩壊剤及び/又は滑沢剤が挙げられる。
【0194】
代表的な緩衝剤としては、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、酒石酸緩衝液、フマル酸緩衝液、グルコン酸緩衝液、蓚酸緩衝液、乳酸緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、ヒスチジン緩衝液及び/又はトリメチルアミン塩が挙げられる。
【0195】
代表的な保存剤としては、フェノール、ベンジルアルコール、メタクレゾール、メチルパラベン、プロピルパラベン、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ハロゲン化ベンザルコニウム、塩化ヘキサメトニウム、アルキルパラベン(例えばメチルパラベンやプロピルパラベン)、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール及び3-ペンタノールが挙げられる。
【0196】
代表的な等張化剤としては、多価糖アルコール類が挙げられ、グリセリン、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール又はマンニトール等の三価以上の糖アルコール類が挙げられる。
【0197】
代表的な安定剤としては、有機糖類、多価糖アルコール類、ポリエチレングリコール、含硫還元剤、アミノ酸、低分子ポリペプチド、タンパク質、免疫グロブリン、親水性ポリマー又は多糖類が挙げられる。
【0198】
ナノ担体組成物を、デポ剤として製剤化することもできる。デポ剤は、(例えば許容される油類に分散したエマルションとして)適切なポリマーもしくは疎水性材料又はイオン交換樹脂を使用して製剤化することもでき、又はやや難溶性の誘導体(例えばやや難溶性の塩)として製剤化することもできる。
【0199】
また、少なくとも1種の有効成分を加えた固体ポリマーの半透性マトリックスを利用した徐放システムとして、ナノ担体組成物を製剤化することもできる。種々の徐放性材料が定着しており、当分野における通常の知識を有する者に周知である。徐放システムは、その化学的性質に応じて、投与後数週間から100日を越えるまでの期間にわたって、有効成分を放出することができる。
【0200】
使用方法。本願に開示する方法は、本願に開示する細胞組成物及びナノ担体組成物を対象(ヒト、飼育動物、家畜及び研究動物)に投与する段階を含む。記載の通り、これらの組成物は、がんから感染症までに至る種々多様な病態を治療することができる。これらの組成物は、ワクチンアジュバントとして使用することもできる。
【0201】
対象への投与は、治療有効量の送達を含む。治療有効量は有効量、予防処置及び/又は治療処置を提供することができる。
【0202】
「有効量」とは、対象に所望の生理的変化を生じるために必要な化合物の量である。研究目的には、有効量を投与することが多い。本願に開示する有効量は、遺伝子編集効果又は表現型を変化させるタンパク質の発現の効果として、細胞の表現型を変化させる。
【0203】
「予防処置」は、疾病もしくは病態の徴候もしくは症状を示していない対象又は前記疾病もしくは病態の初期徴候もしくは症状しか示していない対象に、前記疾病又は病態を抑制、防除又は発症の危険を低減する目的で施す処置を含む。したがって、予防処置は、疾病又は疾患に対する未然防止処置の役割を果たす。ワクチンは、予防処置の1例である。
【0204】
特定の実施形態では、HIV等のウイルス感染症を処置するために、予防処置を施す。例えば、ウイルス感染症又はウイルス性疾患を、防除、抑制又は発症遅延させるために、ウイルス感染症を発症する危険のある対象又はウイルスに暴露されたことのある対象に、前記組成物を予防的に投与することができる。例えば、ウイルス(例えばHIV)に暴露された可能性のある対象又はウイルスに暴露される危険の高い対象に、前記組成物を投与することができる。
【0205】
「治療処置」は、疾病又は病態の症状又は徴候を示す対象に、前記疾病又は病態の前記徴候又は症状を軽減するか又は解消する目的で施す処置を含む。
【0206】
予防処置及び治療処置は、疾病又は病態を完全に予防又は治癒する必要はなく、部分的効果を提供するものでもよい。
【0207】
がんに関して、治療有効量は、腫瘍細胞数を減らすことができ、転移数を減らすことができ、腫瘍体積を減らすことができ、平均余命を延ばすことができ、がん細胞のアポトーシスを誘導することができ、がん細胞死を誘導することができ、がん細胞に薬剤感受性もしくは放射線感受性を誘導することができ、がん細胞の近傍の血管新生を抑制することができ、がん細胞増殖を抑制することができ、腫瘍成長を抑制することができ、転移を予防することができ、対象の寿命を延ばすことができ、がん関連痛を軽減することができ、転移数を抑制することができ、そして/又は処置後のがんの再発もしくは再燃を抑制することができる。
【0208】
ウイルスに関して、治療有効量は、ウイルス感染細胞数を減らすことができ、発熱、悪寒、嘔吐、関節痛等のウイルス感染に伴う1種以上の症状を軽減することができる。
【0209】
HIVに関して、治療有効量は、HIV感染細胞数を減らすことができ、対象のT細胞数を増やすことができ、感染症の発生率、頻度もしくは重症度を下げることができ、平均余命を延ばすことができ、対象の寿命を延ばすことができ、そして/又はHIV関連痛もしくは認知障害を軽減することができる。
【0210】
ワクチンアジュバントに関して、ワクチンは、特定の疾患に対する対象の免疫を増強し、ワクチンアジュバントは、この増強を高める及び/又は長引かせる。当業者に自明の通り、免疫系は、一般に、自然免疫応答と適応免疫応答を生じることができる。自然免疫応答は、一般に、実質的に抗原特異的ではなく且つ/又は免疫記憶を生じないものとして特徴付けることができる。適応免疫応答は、実質的に抗原特異的であり、時間と共に成熟する(例えば抗原に対する親和性及び/又はアビディティーが増加する)ものと特徴付けることができ、一般に免疫記憶を生じることができる。自然免疫と適応免疫との間には、これら及び他の機能的相違を認めることができるとしても、当業者に自明の通り、自然免疫系と適応免疫系とは統合することができるため、協調して作用することができる。
【0211】
投与に際しては、インビトロアッセイ及び/又は動物モデル試験からの結果に基づいて、治療有効量(本願では用量とも言う)を先ず推定することができる。目的の対象における有用な用量をより正確に決定するために、このような情報を使用することができる。
【0212】
特定の対象に投与する実際の投与量は、標的、体重、病態の重症度、疾患の種類、過去又は同時に受けている治療介入、対象の特発性疾患及び投与経路を含む身体的及び生理的因子等のパラメータを考慮して、医師、獣医又は研究者が決定することができる。
【0213】
細胞組成物の有用な用量については、本願の他の箇所に記載する。ナノ担体組成物の有用な用量としては、0.1~5μg/kg又は0.5~1μg/kgを挙げることができる。他の例において、ナノ担体組成物用量は、例えば、1μg/kg、10μg/kg、20μg/kg、30μg/kg、40μg/kg、50μg/kg、60μg/kg、70μg/kg、80μg/kg、90μg/kg、100μg/kg、150μg/kg、200μg/kg、250μg/kg、350μg/kg、400μg/kg、450μg/kg、500μg/kg、550μg/kg、600μg/kg、650μg/kg、700μg/kg、750μg/kg、800μg/kg、850μg/kg、900μg/kg、950μg/kg、1000μg/kg、0.1~5mg/kg又は0.5~1mg/kgを含むことができる。他の非限定的な例において、用量は、1mg/kg、10mg/kg、20mg/kg、30mg/kg、40mg/kg、50mg/kg、60mg/kg、70mg/kg、80mg/kg、90mg/kg、100mg/kg、150mg/kg、200mg/kg、250mg/kg、350mg/kg、400mg/kg、450mg/kg、500mg/kg、550mg/kg、600mg/kg、650mg/kg、700mg/kg、750mg/kg、800mg/kg、850mg/kg、900mg/kg、950mg/kg、1000mg/kg又はそれ以上を含むことができる。
【0214】
治療有効量は、治療レジメンの期間中に、単回又は複数回投与することにより達成することができる(例えば1日1回、2日に1回、3日に1回、4日に1回、5日に1回、6日に1回、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、1カ月に1回、2カ月に1回、3カ月に1回、4カ月に1回、5カ月に1回、6カ月に1回、7カ月に1回、8カ月に1回、9カ月に1回、10カ月に1回、11カ月に1回又は1年に1回)。
【0215】
特に指定しない限り、本開示の実施には、従来の免疫学、分子生物学、微生物学、細胞生物学及び組換えDNAの技術を利用することができる。これらの方法は、以下の刊行物に記載されている。例えばSambrook,et al.Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition(1989);F.M.Ausubel,et al.eds.,Current Protocols in Molecular Biology,(1987);Methods IN Enzymologyシリーズ(Academic Press,Inc.);M.MacPherson,et al.,PCR:A Practical Approach,IRL Press at Oxford University Press(1991);MacPherson et al.,eds.PCR 2:Practical Approach,(1995);Harlow and Lane,eds.Antibodies,A Laboratory Manual,(1988);及びR.I.Freshney,ed.Animal Cell Culture(1987)参照。
【0216】
標的とする遺伝子配列と、本願に開示するような表現型を変化させるタンパク質をコードする核酸配列とを同定するには、公共データベースにより提供される配列情報を使用することができる。代表的な配列を
図11に示す。
【0217】
本願に開示・参照する配列の変異体もまた、含まれる。タンパク質の変異体としては、1カ所以上の保存的アミノ酸置換を含むものを挙げることができる。本願で使用する「保存的置換」は、以下の保存的置換グループ、即ちグループ1:アラニン(Ala)、グリシン(Gly)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr);グループ2:アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu);グループ3:アスパラギン(Asn)、グルタミン(Gln);グループ4:アルギニン(Arg)、リジン(Lys)、ヒスチジン(His);グループ5:イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、メチオニン(Met)、バリン(Val);及びグループ6:フェニルアラニン(Phe)、チロシン(Tyr)、トリプトファン(Trp)のグループの1つに存在する置換を含む。
【0218】
また、類似する機能又は化学構造又は組成(例えば酸性、塩基性、脂肪族、芳香族、含硫)により、アミノ酸を保存的置換グループに分けることもできる。例えば、脂肪族グループは、置換の目的で、Gly、Ala、Val、Leu及びIleを含むことができる。相互に保存的置換であるとみなされるアミノ酸を含む他のグループとしては、含硫グループ:Met及びシステイン(Cys);酸性グループ:Asp、Glu、Asn及びGln;小さい脂肪族で非極性又はやや極性の残基のグループ:Ala、Ser、Thr、Pro及びGly;極性で負電荷をもつ残基とそのアミドのグループ:Asp、Asn、Glu及びGln;極性で正電荷をもつ残基のグループ:His、Arg及びLys;大きい脂肪族で非極性の残基のグループ:Met、Leu、Ile、Val及びCys;並びに大きい芳香族残基のグループ:Phe、Tyr及びTrpが挙げられる。その他の情報については、Creighton(1984)Proteins,W.H.Freeman and Companyを参照されたい。
【0219】
他の箇所に示すように、遺伝子配列の変異体は、コードされている産物の機能に統計的に有意な程度まで影響を与えない範囲で、コドン最適化変異体、配列多形、スプライス変異体及び/又は突然変異を含む。
【0220】
本願に開示するタンパク質、核酸及び遺伝子配列の変異体は、更に、本願に開示するタンパク質、核酸又は遺伝子配列に対して少なくとも70%の配列一致度、80%の配列一致度、85%の配列一致度、90%の配列一致度、95%の配列一致度、96%の配列一致度、97%の配列一致度、98%の配列一致度又は99%の配列一致度をもつ配列も含む。
【0221】
「配列一致度%」とは、配列を比較することにより決定される2つ以上の配列間の関係を意味する。当分野において、「一致度」とは、タンパク質、核酸又は遺伝子配列の文字列間のマッチにより決定されるこのような配列間の配列関連度をも意味する。「一致度」(「類似度」と言うことも多い)は、公知方法により容易に計算することができ、(これらに限定するものではないが)Computational Molecular Biology(Lesk,A.M.,ed.)Oxford University Press,NY(1988);Biocomputing:Informatics and Genome Projects(Smith,D.W.,ed.)Academic Press,NY(1994);Computer Analysis of Sequence Data,Part I(Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.,eds.)Humana Press,NJ(1994);Sequence Analysis in Molecular Biology(Von Heijne,G.,ed.)Academic Press(1987);及びSequence Analysis Primer(Gribskov,M.and Devereux,J.,eds.)Oxford University Press,NY(1992)に記載されている方法が挙げられる。一致度の好ましい決定方法は、試験する配列間で最良のマッチが得られるようにデザインされる。一致度及び類似度の決定方法は、公共入手可能なコンピュータプログラムで体系化されている。配列アラインメント及び一致度百分率計算は、LASERGENEバイオインフォマティクスソフトウェアパッケージ(DNASTAR,Inc.,Madison,Wisconsin)のMegalignプログラムを使用して実施することができる。Clustalアラインメント法(Higgins and Sharp CABIOS,5,151-153(1989))をデフォルトパラメータ(ギャップペナルティ=10、ギャップ長ペナルティ=10)で使用して、配列の多重アラインメントを行うこともできる。関連するプログラムとしては、GCGプログラムパッケージ(Wisconsin Package Version 9.0,Genetics Computer Group(GCG),Madison,Wisconsin);BLASTP、BLASTN、BLASTX(Altschul,et al.,J.Mol.Biol.215:403-410(1990);DNASTAR(DNASTAR,Inc.,Madison,Wisconsin);及びSmith-Watermanアルゴリズムを実装したFASTAプログラム(Pearson,Comput.Methods Genome Res.,[Proc.Int.Symp.](1994),Meeting Date 1992,111-20.Editor(s):Suhai,Sandor.Publisher:Plenum,New York,N.Y.)も挙げられる。本開示の文脈内では、当然のことながら、配列解析ソフトウェアを解析に使用する場合には、解析の結果は参照するプログラムの「デフォルト値」を基準とする。本願で使用する「デフォルト値」とは、最初に初期化する際にソフトウェアから当初にロードされる数値又はパラメータの任意のセットを意味する。
【0222】
代表的な実施形態。
1.対象に投与するための造血系由来の選択された細胞集団の調製方法であって、
造血系由来の選択された細胞集団を含む不均一細胞混合物を含む試料を前記対象から採取する工程と;
(i)正電荷をもつ担体の内側に封入されており、遺伝子編集剤又は表現型を変化させるタンパク質をコードする合成核酸と;
(ii)前記担体の外表面に設けられた中性又は負電荷をもつコーティングと;
(iii)前記コーティングの表面から突き出した選択された細胞ターゲティングリガンド
を含む合成ナノ担体に前記試料を暴露することにより、前記選択された細胞集団に前記ナノ担体を選択的に送達し、前記選択された細胞集団内の細胞を改変する工程と;
前記試料内の細胞を拡大培養する工程とを含み;
それにより、前記選択された細胞集団を前記対象に投与できるように調製する、前記方法。
2.前記試料内の前記拡大培養した細胞が、前記選択された細胞集団の改変細胞を含む、実施形態1に記載の方法。
3.更に、前記調製後の選択された細胞集団を細胞組成物に製剤化する工程を含む、実施形態1又は2に記載の方法。
4.更に、前記細胞組成物を前記対象に投与する工程を含む、実施形態3に記載の方法。
5.前記暴露工程の前に、前記不均一細胞混合物における前記選択された細胞集団の百分率を増加させるための単離処置を、全く行わないか又は限定的にしか行わない、実施形態1~4のいずれか一項に記載の方法。
6.前記合成核酸が、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、megaTAL及び/又はジンクフィンガーヌクレアーゼから選択される遺伝子編集剤をコードする、実施形態1~5のいずれか一項に記載の方法。
7.前記合成核酸が、配列番号1のmegaTALをコードする、実施形態6に記載の方法。
8.前記遺伝子編集剤が、Shp-1ホスファターゼ、PD1受容体、T細胞受容体(TCR)、CCR5及び/又はCXCR4をコードする内在性遺伝子を破壊する、実施形態1~7のいずれか一項に記載の方法。
9.前記遺伝子編集剤が、TCRα鎖をコードする内在性遺伝子を破壊する、実施形態1~8のいずれか一項に記載の方法。
10.前記合成核酸が、転写因子、キナーゼ及び/又は細胞表面受容体から選択される、表現型を変化させるタンパク質をコードする、実施形態1~9のいずれか一項に記載の方法。
11.前記表現型を変化させるタンパク質が、FOXO1、LKB1、TCF7、EOMES、ID2、TERT、CCR2b及び/又はCCR4から選択される、実施形態10に記載の方法。
12.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、不均一細胞集団内のリンパ球と選択的に結合する、実施形態1~11のいずれか一項に記載の方法。
13.前記不均一細胞集団がエクソビボ細胞培養物である、実施形態12に記載の方法。
14.前記不均一細胞集団がインビボである、実施形態12に記載の方法。
15.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、T細胞、NK細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、B細胞、造血幹細胞又はそれらの組合せと選択的に結合する、実施形態1~14のいずれか一項に記載の方法。
16.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、リンパ球受容体リガンド、リンパ球受容体抗体、リンパ球受容体ペプチドアプタマー、リンパ球受容体核酸アプタマー、リンパ球受容体スピエゲルマー又はそれらの組合せから選択される結合ドメインを含む、実施形態1~15のいずれか一項に記載の方法。
17.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、T細胞受容体モチーフ、T細胞α鎖、T細胞β鎖、T細胞γ鎖、T細胞δ鎖、CCR7、CD1a、CD1b、CD1c、CD1d、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD11b、CD11c、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD25、CD28、CD34、CD35、CD39、CD40、CD45RA、CD45RO、CD46、CD52、CD56、CD62L、CD68、CD69、CD80、CD86、CD95、CD101、CD117、CD127、CD133、CD137(4-1BB)、CD148、CD163、CD209、DEC-205、F4/80、IL-4Rα、Sca-1、CTLA-4、GITR、GARP、LAP、グランザイムB、LFA-1又はトランスフェリン受容体と選択的に結合する、実施形態1~16のいずれか一項に記載の方法。
18.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD1a、CD1b、CD1c、CD1d、CCR7、CD3、CD4、CD5、CD8、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD25、CD28、CD35、CD40、CD45RA、CD45RO、CD46、CD52、CD69、CD62L、CD80、CD95、CD127、CD137、CD209又はDEC-205と選択的に結合する、実施形態1~17のいずれか一項に記載の方法。
19.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、T細胞α鎖抗体、T細胞β鎖抗体、T細胞γ鎖抗体、T細胞δ鎖抗体、CCR7抗体、CD1a抗体、CD1b抗体、CD1c抗体、CD1d抗体、CD3抗体、CD4抗体、CD5抗体、CD7抗体、CD8抗体、CD11b抗体、CD11c抗体、CD16抗体、CD19抗体、CD20抗体、CD21抗体、CD22抗体、CD25抗体、CD28抗体、CD34抗体、CD35抗体、CD39抗体、CD40抗体、CD45RA抗体、CD45RO抗体、CD46抗体、CD52抗体、CD56抗体、CD62L抗体、CD68抗体、CD69抗体、CD80抗体、CD86抗体、CD95抗体、CD101抗体、CD117抗体、CD127抗体、CD133抗体、CD137(4-1BB)抗体、CD148抗体、CD163抗体、CD209抗体、DEC-205抗体、F4/80抗体、IL-4Rα抗体、Sca-1抗体、CTLA-4抗体、GITR抗体、GARP抗体、LAP抗体、グランザイムB抗体、LFA-1抗体又はトランスフェリン受容体抗体から選択される結合ドメインを含む、実施形態1~18のいずれか一項に記載の方法。
20.前記結合ドメインが、T細胞α鎖抗体、T細胞β鎖抗体、T細胞γ鎖抗体、T細胞δ鎖抗体、CCR7抗体、CD1a抗体、CD1b抗体、CD1c抗体、CD1d抗体、CD3抗体、CD4抗体、CD5抗体、CD7抗体、CD8抗体、CD11b抗体、CD11c抗体、CD16抗体、CD19抗体、CD20抗体、CD21抗体、CD22抗体、CD25抗体、CD28抗体、CD34抗体、CD35抗体、CD39抗体、CD40抗体、CD45RA抗体、CD45RO抗体、CD46抗体、CD52抗体、CD56抗体、CD62L抗体、CD68抗体、CD69抗体、CD80抗体、CD86抗体、CD95抗体、CD101抗体、CD117抗体、CD127抗体、CD133抗体、CD137(4-1BB)抗体、CD148抗体、CD163抗体、CD209抗体、DEC-205抗体、F4/80抗体、IL-4Rα抗体、Sca-1抗体、CTLA-4抗体、GITR抗体、GARP抗体、LAP抗体、グランザイムB抗体、LFA-1抗体又はトランスフェリン受容体抗体のscFv断片から構成されるか又はこれらのscFv断片から本質的に構成される、実施形態1~19のいずれか一項に記載の方法。
21.前記合成核酸が合成mRNAである、実施形態1~20のいずれか一項に記載の方法。
22.前記担体が、正電荷をもつ脂質又はポリマーを含む、実施形態1~21のいずれか一項に記載の方法。
23.前記正電荷をもつポリマーが、ポリ(β-アミノエステル)、ポリ(L-リジン)、ポリ(エチレンイミン)(PEI)、ポリ(アミドアミン)デンドリマー(PAMAM)、アミン・エステル共重合体、ポリ(メタクリル酸ジメチルアミノエチル)(PDMAEMA)、キトサン、L-ラクチド・L-リジン共重合体、ポリ[α-(4-アミノブチル)-L-グリコール酸](PAGA)又はポリ(4-ヒドロキシ-L-プロリンエステル)(PHP)を含む、実施形態22に記載の方法。
24.前記コーティングが、中性又は負電荷をもつ脂質又はポリマーを含む、実施形態1~23のいずれか一項に記載の方法。
25.前記中性又は負電荷をもつコーティングが、ポリグルタミン酸(PGA)、ポリ(アクリル酸)、アルギン酸又はコレステリルヘミサクシネート/1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンを含む、実施形態24に記載の方法。
26.前記中性又は負電荷をもつコーティングが双性イオン型ポリマーを含む、実施形態24又は25に記載の方法。
27.前記中性又は負電荷をもつコーティングがリポソームを含む、実施形態24~26のいずれか一項に記載の方法。
28.前記リポソームが、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、3β-[N-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール(DC-Chol)、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)、コレステロール、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)又は1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)を含む、実施形態27に記載の方法。
29.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4及び/又はCD8と選択的に結合する、実施形態1~28のいずれか一項に記載の方法。
30.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4抗体及び/又はCD8抗体から選択される結合ドメインを含む、実施形態1~29のいずれか一項に記載の方法。
31.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4抗体及び/又はCD8抗体のscFv断片から選択される結合ドメインを含む、実施形態1~30のいずれか一項に記載の方法。
32.前記担体がポリ(β-アミノエステル)を含む、実施形態1~31のいずれか一項に記載の方法。
33.前記コーティングがポリグルタミン酸(PGA)を含む、実施形態1~32のいずれか一項に記載の方法。
34.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4抗体及び/又はCD8抗体から選択される結合ドメインを含み、前記担体がポリ(β-アミノエステル)を含み、前記コーティングがポリグルタミン酸(PGA)を含む、実施形態1~33のいずれか一項に記載の方法。
35.対象を治療するための細胞の調製方法であって、
対象からリンパ球を採取する工程;及び
(i)正電荷をもつ担体の内側に封入されており、遺伝子編集剤又は表現型を変化させるタンパク質をコードする合成核酸と;
(ii)前記担体の外表面に設けられた中性又は負電荷をもつコーティングと;
(iii)前記コーティングの表面から突き出した選択された細胞ターゲティングリガンドと
を含む合成ナノ担体と前記リンパ球を結合させる工程を含み;
前記結合後に前記リンパ球が前記核酸を一過性発現するように前記ナノ担体を前記リンパ球に選択的に取込ませる、前記方法。
36.更に、前記リンパ球を拡大培養する工程を含む、実施形態35に記載の方法。
37.更に、前記リンパ球を細胞組成物に製剤化する工程を含む、実施形態35又は36に記載の方法。
38.前記暴露工程の前に、前記不均一細胞混合物における前記選択された細胞集団の百分率を増加させるための単離処置を全く行わないか又は限定的にしか行わない、実施形態35~37のいずれか一項に記載の方法。
39.前記合成核酸が、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、megaTAL及び/又はジンクフィンガーヌクレアーゼから選択される遺伝子編集剤をコードする、実施形態35~38のいずれか一項に記載の方法。
40.前記合成核酸が、配列番号1のmegaTALをコードする、実施形態35~39のいずれか一項に記載の方法。
41.前記遺伝子編集剤が、Shp-1ホスファターゼ、PD1受容体、T細胞受容体(TCR)、CCR5及び/又はCXCR4をコードする内在性遺伝子を破壊する、実施形態35~40のいずれか一項に記載の方法。
42.前記遺伝子編集剤が、TCRα鎖をコードする内在性遺伝子を破壊する、実施形態35~41のいずれか一項に記載の方法。
43.前記合成核酸が、転写因子、キナーゼ及び/又は細胞表面受容体から選択される、表現型を変化させるタンパク質をコードする、実施形態35~42のいずれか一項に記載の方法。
44.前記表現型を変化させるタンパク質が、FOXO1、LKB1、TCF7、EOMES、ID2、TERT、CCR2b及び/又はCCR4から選択される、実施形態43に記載の方法。
45.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、不均一細胞集団内のリンパ球と選択的に結合する、実施形態35~44のいずれか一項に記載の方法。
46.前記不均一細胞集団が、エクソビボ細胞培養物である、実施形態45に記載の方法。
47.前記不均一細胞集団が、インビボである、実施形態45に記載の方法。
48.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、T細胞、NK細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、B細胞、造血幹細胞又はそれらの組合せと選択的に結合する、実施形態35~47のいずれか一項に記載の方法。
49.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、リンパ球受容体リガンド、リンパ球受容体抗体、リンパ球受容体ペプチドアプタマー、リンパ球受容体核酸アプタマー、リンパ球受容体スピエゲルマー又はそれらの組合せから選択される結合ドメインを含む、実施形態35~48のいずれか一項に記載の方法。
50.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、T細胞受容体モチーフ、T細胞α鎖、T細胞β鎖、T細胞γ鎖、T細胞δ鎖、CCR7、CD1a、CD1b、CD1c、CD1d、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD11b、CD11c、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD25、CD28、CD34、CD35、CD39、CD40、CD45RA、CD45RO、CD46、CD52、CD56、CD62L、CD68、CD69、CD80、CD86、CD95、CD101、CD117、CD127、CD133、CD137(4-1BB)、CD148、CD163、CD209、DEC-205、F4/80、IL-4Rα、Sca-1、CTLA-4、GITR、GARP、LAP、グランザイムB、LFA-1又はトランスフェリン受容体と選択的に結合する、実施形態35~49のいずれか一項に記載の方法。
51.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD1a、CD1b、CD1c、CD1d、CCR7、CD3、CD4、CD5、CD8、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD25、CD28、CD35、CD40、CD45RA、CD45RO、CD46、CD52、CD62L、CD69、CD80、CD95、CD127、CD137、CD209又はDEC-205と選択的に結合する、実施形態35~50のいずれか一項に記載の方法。
52.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、T細胞α鎖抗体、T細胞β鎖抗体、T細胞γ鎖抗体、T細胞δ鎖抗体、CCR7抗体、CD1a抗体、CD1b抗体、CD1c抗体、CD1d抗体、CD3抗体、CD4抗体、CD5抗体、CD7抗体、CD8抗体、CD11b抗体、CD11c抗体、CD16抗体、CD19抗体、CD20抗体、CD21抗体、CD22抗体、CD25抗体、CD28抗体、CD34抗体、CD35抗体、CD39抗体、CD40抗体、CD45RA抗体、CD45RO抗体、CD46抗体、CD52抗体、CD56抗体、CD62L抗体、CD68抗体、CD69抗体、CD80抗体、CD86抗体、CD95抗体、CD101抗体、CD117抗体、CD127抗体、CD133抗体、CD137(4-1BB)抗体、CD148抗体、CD163抗体、CD209抗体、DEC-205抗体、F4/80抗体、IL-4Rα抗体、Sca-1抗体、CTLA-4抗体、GITR抗体、GARP抗体、LAP抗体、グランザイムB抗体、LFA-1抗体又はトランスフェリン受容体抗体から選択される結合ドメインを含む、実施形態35~51のいずれか一項に記載の方法。
53.前記結合ドメインが、T細胞α鎖抗体、T細胞β鎖抗体、T細胞γ鎖抗体、T細胞δ鎖抗体、CCR7抗体、CD1a抗体、CD1b抗体、CD1c抗体、CD1d抗体、CD3抗体、CD4抗体、CD5抗体、CD7抗体、CD8抗体、CD11b抗体、CD11c抗体、CD16抗体、CD19抗体、CD20抗体、CD21抗体、CD22抗体、CD25抗体、CD28抗体、CD34抗体、CD35抗体、CD39抗体、CD40抗体、CD45RA抗体、CD45RO抗体、CD46抗体、CD52抗体、CD56抗体、CD62L抗体、CD68抗体、CD69抗体、CD80抗体、CD86抗体、CD95抗体、CD101抗体、CD117抗体、CD127抗体、CD133抗体、CD137(4-1BB)抗体、CD148抗体、CD163抗体、CD209抗体、DEC-205抗体、F4/80抗体、IL-4Rα抗体、Sca-1抗体、CTLA-4抗体、GITR抗体、GARP抗体、LAP抗体、グランザイムB抗体、LFA-1抗体又はトランスフェリン受容体抗体のscFv断片から構成されるか又はこれらのscFv断片から本質的に構成される、実施形態35~52のいずれか一項に記載の方法。
54.前記合成核酸が、合成mRNAである、実施形態35~53のいずれか一項に記載の方法。
55.前記担体が、正電荷をもつ脂質又はポリマーを含む、実施形態35~54のいずれか一項に記載の方法。
56.前記正電荷をもつ脂質又はポリマーが、ポリ(β-アミノエステル)、ポリ(L-リジン)、ポリ(エチレンイミン)(PEI)、ポリ(アミドアミン)デンドリマー(PAMAM)、アミン・エステル共重合体、ポリ(メタクリル酸ジメチルアミノエチル)(PDMAEMA)、キトサン、L-ラクチド・L-リジン共重合体、ポリ[α-(4-アミノブチル)-L-グリコール酸](PAGA)又はポリ(4-ヒドロキシ-L-プロリンエステル)(PHP)を含む、実施形態55に記載の方法。
57.前記コーティングが、中性又は負電荷をもつ脂質又はポリマーを含む、実施形態35~56のいずれか一項に記載の方法。
58.前記中性又は負電荷をもつコーティングが、ポリグルタミン酸(PGA)、ポリ(アクリル酸)、アルギン酸又はコレステリルヘミサクシネート/1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンを含む、実施形態57に記載の方法。
59.前記中性又は負電荷をもつコーティングが双性イオン型ポリマーを含む、実施形態57又は58に記載の方法。
60.前記中性又は負電荷をもつコーティングが、リポソームを含む、実施形態57~59のいずれか一項に記載の方法。
61.前記リポソームが、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、3β-[N-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール(DC-Chol)、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)、コレステロール、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)又は1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)を含む、実施形態60に記載の方法。
62.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4及び/又はCD8と選択的に結合する、実施形態35~61のいずれか一項に記載の方法。
63.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4抗体及び/又はCD8抗体から選択される結合ドメインを含む、実施形態35~62のいずれか一項に記載の方法。
64.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4抗体及び/又はCD8抗体のscFv断片から選択される結合ドメインを含む、実施形態35~63のいずれか一項に記載の方法。
65.前記担体がポリ(β-アミノエステル)を含む、実施形態35~64のいずれか一項に記載の方法。
66.前記コーティングが、ポリグルタミン酸(PGA)を含む、実施形態35~65のいずれか一項に記載の方法。
67.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4抗体及び/又はCD8抗体から選択される結合ドメインを含み、前記担体がポリ(β-アミノエステル)を含み、前記コーティングがポリグルタミン酸(PGA)を含む、実施形態35~66のいずれか一項に記載の方法。
68.治療を必要とする対象の治療方法であって、
(i)正電荷をもつ担体の内側に封入されており、遺伝子編集剤又は表現型を変化させるタンパク質をコードする合成核酸と;
(ii)前記担体の外表面に設けられた中性又は負電荷をもつコーティングと;
(iii)前記コーティングの表面から突き出した選択された細胞ターゲティングリガンドと
を含むナノ担体により細胞に選択的に送達された前記核酸の一過性発現により改変された前記細胞を治療有効量投与する段階を含み;
前記結合後に前記リンパ球が前記核酸を一過性発現するように前記ナノ担体を前記リンパ球に選択的に取込ませることにより、治療を必要とする前記対象を治療する、前記方法。
69.対象に投与するための選択された細胞集団の調製方法であって、
選択された細胞集団を含む不均一細胞混合物を含む試料を前記対象から採取する工程;
(i)正電荷をもつ担体の内側に封入されており、遺伝子編集剤又は表現型を変化させるタンパク質をコードする合成核酸と;
(ii)前記担体の外表面に設けられた中性又は負電荷をもつコーティングと;
(iii)前記コーティングの表面から突き出した選択された細胞ターゲティングリガンドと
を含む合成ナノ担体に前記試料を暴露することにより、前記選択された細胞集団に前記ナノ担体を選択的に送達し、前記選択された細胞集団内の細胞を改変する工程;及び
前記試料内の細胞を拡大培養する工程を含み;
それにより、前記選択された細胞集団を前記対象に投与できるように調製する、前記方法。
70.(i)正電荷をもつ担体の内側に封入されており、遺伝子編集剤又は表現型を変化させるタンパク質をコードする合成核酸と;
(ii)前記担体の外表面に設けられた中性又は負電荷をもつコーティングと;
(iii)前記コーティングの表面から突き出した選択された細胞ターゲティングリガンドと
を含む、合成ナノ担体。
71.前記合成核酸が、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、megaTAL及び/又はジンクフィンガーヌクレアーゼから選択される遺伝子編集剤をコードする、実施形態70に記載の合成ナノ担体。
72.前記合成核酸が、配列番号1のmegaTALをコードする、実施形態70又は71に記載の合成ナノ担体。
73.前記遺伝子編集剤が、Shp-1ホスファターゼ、PD1受容体、T細胞受容体(TCR)、CCR5及び/又はCXCR4をコードする内在性遺伝子を破壊する、実施形態70~72のいずれか一項に記載の合成ナノ担体。
74.前記遺伝子編集剤が、TCRα鎖をコードする内在性遺伝子を破壊する、実施形態70~73のいずれか一項に記載の合成ナノ担体。
75.前記合成核酸が、転写因子、キナーゼ及び/又は細胞表面受容体から選択される、表現型を変化させるタンパク質をコードする、実施形態70~74のいずれか一項に記載の合成ナノ担体。
76.前記表現型を変化させるタンパク質が、FOXO1、LKB1、TCF7、EOMES、ID2、TERT、CCR2b及び/又はCCR4から選択される、実施形態75に記載の合成ナノ担体。
77.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、不均一細胞集団内のリンパ球と選択的に結合する、実施形態70~76のいずれか一項に記載の合成ナノ担体。
78.前記不均一細胞集団が、エクソビボ細胞培養物である、実施形態77に記載の合成ナノ担体。
79.前記不均一細胞集団が、インビボである、実施形態77に記載の合成ナノ担体。
80.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、T細胞、NK細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、B細胞、造血幹細胞又はそれらの組合せと選択的に結合する、実施形態70~79のいずれか一項に記載の合成ナノ担体。
81.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、リンパ球受容体リガンド、リンパ球受容体抗体、リンパ球受容体ペプチドアプタマー、リンパ球受容体核酸アプタマー、リンパ球受容体スピエゲルマー又は又はそれらの組合せから選択される結合ドメインを含む、実施形態70~80のいずれか一項に記載の合成ナノ担体。
82.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、T細胞受容体モチーフ、T細胞α鎖、T細胞β鎖、T細胞γ鎖、T細胞δ鎖、CCR7、CD1a、CD1b、CD1c、CD1d、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD11b、CD11c、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD25、CD28、CD34、CD35、CD39、CD40、CD45RA、CD45RO、CD46、CD52、CD56、CD62L、CD68、CD69、CD80、CD86、CD95、CD101、CD117、CD127、CD133、CD137(4-1BB)、CD148、CD163、CD209、DEC-205、F4/80、IL-4Rα、Sca-1、CTLA-4、GITR、GARP、LAP、グランザイムB、LFA-1又はトランスフェリン受容体と選択的に結合する、実施形態70~81のいずれか一項に記載の合成ナノ担体。
83.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD1a、CD1b、CD1c、CD1d、CCR7、CD3、CD4、CD5、CD8、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD25、CD28、CD35、CD40、CD45RA、CD45RO、CD46、CD52、CD62L、CD69、CD80、CD95、CD127、CD137、CD209又はDEC-205と選択的に結合する、実施形態70~82のいずれか一項に記載の合成ナノ担体。
84.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、T細胞α鎖抗体、T細胞β鎖抗体、T細胞γ鎖抗体、T細胞δ鎖抗体、CCR7抗体、CD1a抗体、CD1b抗体、CD1c抗体、CD1d抗体、CD3抗体、CD4抗体、CD5抗体、CD7抗体、CD8抗体、CD11b抗体、CD11c抗体、CD16抗体、CD19抗体、CD20抗体、CD21抗体、CD22抗体、CD25抗体、CD28抗体、CD34抗体、CD35抗体、CD39抗体、CD40抗体、CD45RA抗体、CD45RO抗体、CD46抗体、CD52抗体、CD56抗体、CD62L抗体、CD68抗体、CD69抗体、CD80抗体、CD86抗体、CD95抗体、CD101抗体、CD117抗体、CD127抗体、CD133抗体、CD137(4-1BB)抗体、CD148抗体、CD163抗体、CD209抗体、DEC-205抗体、F4/80抗体、IL-4Rα抗体、Sca-1抗体、CTLA-4抗体、GITR抗体、GARP抗体、LAP抗体、グランザイムB抗体、LFA-1抗体又はトランスフェリン受容体抗体から選択される結合ドメインを含む、実施形態70~83のいずれか一項に記載の合成ナノ担体。
85.前記結合ドメインが、T細胞α鎖抗体、T細胞β鎖抗体、T細胞γ鎖抗体、T細胞δ鎖抗体、CCR7抗体、CD1a抗体、CD1b抗体、CD1c抗体、CD1d抗体、CD3抗体、CD4抗体、CD5抗体、CD7抗体、CD8抗体、CD11b抗体、CD11c抗体、CD16抗体、CD19抗体、CD20抗体、CD21抗体、CD22抗体、CD25抗体、CD28抗体、CD34抗体、CD35抗体、CD39抗体、CD40抗体、CD45RA抗体、CD45RO抗体、CD46抗体、CD52抗体、CD56抗体、CD62L抗体、CD68抗体、CD69抗体、CD80抗体、CD86抗体、CD95抗体、CD101抗体、CD117抗体、CD127抗体、CD133抗体、CD137(4-1BB)抗体、CD148抗体、CD163抗体、CD209抗体、DEC-205抗体、F4/80抗体、IL-4Rα抗体、Sca-1抗体、CTLA-4抗体、GITR抗体、GARP抗体、LAP抗体、グランザイムB抗体、LFA-1抗体又はトランスフェリン受容体抗体のscFv断片から構成されるか又はこれらのscFv断片から本質的に構成される、実施形態70~84のいずれか一項に記載の合成ナノ担体。
86.前記合成核酸が、合成mRNAである、実施形態70~85のいずれか一項に記載の合成ナノ担体。
87.前記担体が、正電荷をもつ脂質又はポリマーを含む、実施形態70~86のいずれか一項に記載の合成ナノ担体。
88.前記正電荷をもつ脂質又はポリマーが、ポリ(β-アミノエステル)、ポリ(L-リジン)、ポリ(エチレンイミン)(PEI)、ポリ(アミドアミン)デンドリマー(PAMAM)、アミン・エステル共重合体、ポリ(メタクリル酸ジメチルアミノエチル)(PDMAEMA)、キトサン、L-ラクチド・L-リジン共重合体、ポリ[α-(4-アミノブチル)-L-グリコール酸](PAGA)又はポリ(4-ヒドロキシ-L-プロリンエステル)(PHP)を含む、実施形態87に記載の合成ナノ担体。
89.前記コーティングが、中性又は負電荷をもつ脂質又はポリマーを含む、実施形態70~88のいずれか一項に記載の合成ナノ担体。
90.前記中性又は負電荷をもつコーティングが、ポリグルタミン酸(PGA)、ポリ(アクリル酸)、アルギン酸又はコレステリルヘミサクシネート/1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンを含む、実施形態89に記載の合成ナノ担体。
91.前記中性又は負電荷をもつコーティングが、双性イオン型ポリマーを含む、実施形態89又は90に記載の合成ナノ担体。
92.前記中性又は負電荷をもつコーティングが、リポソームを含む、実施形態89~91のいずれか一項に記載の合成ナノ担体。
93.前記リポソームが、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、3β-[N-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール(DC-Chol)、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)、コレステロール、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)又は1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)を含む、実施形態92に記載の合成ナノ担体。
94.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4及び/又はCD8と選択的に結合する、実施形態70~93のいずれか一項に記載の合成ナノ担体。
95.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4抗体及び/又はCD8抗体から選択される結合ドメインを含む、実施形態70~94のいずれか一項に記載の合成ナノ担体。
96.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4抗体及び/又はCD8抗体のscFv断片から選択される結合ドメインを含む、実施形態70~95のいずれか一項に記載の合成ナノ担体。
97.前記担体がポリ(β-アミノエステル)を含む、実施形態70~96のいずれか一項に記載の合成ナノ担体。
98.前記コーティングがポリグルタミン酸(PGA)を含む、実施形態70~97のいずれか一項に記載の合成ナノ担体。
99.前記選択された細胞ターゲティングリガンドが、CD4抗体及び/又はCD8抗体から選択される結合ドメインを含み、前記担体がポリ(β-アミノエステル)を含み、前記コーティングがポリグルタミン酸(PGA)を含む、実施形態70~98のいずれか一項に記載の合成ナノ担体。
100.実施形態70~99のいずれか一項に記載の合成ナノ担体を含有する、組成物。
101.治療を必要とする対象の治療方法であって、治療有効量の実施形態70~99のいずれか一項に記載の合成ナノ担体又は実施形態100に記載の組成物を投与することにより、治療を必要とする前記対象を治療する、前記方法。
102.CAR又はTCRをコードする核酸を選択された細胞種に選択的に送達するための、本願に開示するナノ担体の使用。
【実施例0223】
[実施例1]
緒言。キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)を発現するようにT細胞を遺伝子操作することにより、がんに対する免疫応答を誘導する方法は、大きな成果を挙げ始めている治療法であり、重要な臨床試験が着手されようとしている。T細胞を生物工学的に操作して「リビングドラッグ(living drug:生きた薬剤)」に転化させ、数を増やすことができ、腫瘍細胞を逐次破壊することができ、最終的に寿命の長いメモリーT細胞に分化できるようにする方法では、受容体トランスジーンをリンパ球のゲノムに安定的に組込むことが必要である。ウイルスベクターは、作製に時間と費用がかかり、パッケージングできる遺伝子のサイズと個数が限られているが、用途に合わせた腫瘍認識能をもつようにこれらの細胞をプログラムするために、現時点で最も有効な手段である(Zhang et al.,Nat Commun 6,7639(2015);Cribbs et al.,BMC Biotechnol 13,98(2013))。
【0224】
これらの慢性遺伝子発現システムとは別に、「ヒットエンドラン」機構を目標とする高分子の一過性発現により、細胞に表現型変化を誘導することも可能である。これらの一過性適用例の大半では、治療用トランスジーンの永続的発現が望ましくなく、潜在的に危険であり(Wurm et al.,Exp Hematol 42,114-125 e114(2014))、このような適用例としては、細胞分化を調節するために転写因子を使用する方法(Themeli et al.,Nat Biotechnol 31,928-933(2013);Costa et al.,Development 142,1948-1959(2015))や、ゲノムを操作するために配列特異的ヌクレアーゼを発現させる方法(Cox et al.,Nat Med 21,121-131(2015))が挙げられる。
【0225】
一過性遺伝子治療により人工T細胞の治癒能を実質的に改善することができる適用例の数は増えつつあるが、(先述の慢性発現方法と同様に、主にウイルスベクターに依存する)現在利用可能な方法は、形質導入を実施するために複雑なプロトコールが必要であり、その費用の点から難しくなっている(Nightingale et al.,Mol Ther 13,1121-1132(2006))。代替トランスフェクション法としてエレクトロポレーションが開発されたが、原形質膜の機械的透過によりT細胞の生存性が低下するため、これらのアプローチは大規模用途には適していない。更に、ウイルスを利用する方法と同様に、エレクトロポレーションは、不均一プールの中の特定の細胞種に選択的にトランスフェクトすることができないため、事前に細胞精製工程が必要である。
【0226】
本実施例は、入り組んだプロトコールや複雑な補助装置を必要とせずに培養T細胞に一過性遺伝子発現を生じる、ナノ試薬について記載する。適切に設計されたmRNAナノ担体は、試薬を細胞とインビトロで混合するだけで、機能的高分子をリンパ球に用量制御下で送達することができる(
図1A)。
【0227】
これらのナノ粒子(NP)は、標的細胞サブタイプと結合し、受容体介在性エンドサイトーシスを刺激することができるため、これらの粒子に担持させた合成mRNAを導入することができ、コードされている分子をリンパ球で発現させることができる。トランスジーンの核内輸送と転写とが不要であるため、この方法は、迅速で効率的である。臨床用の優れたCAR-T細胞製品を製造するために、この新規プラットフォームをどのようにして実施できるかについて、少なくとも2例で具体的に説明する。第1の適用例では、標的化mRNAナノ担体を、T細胞のゲノム編集ツールとして使用した。切断頻度の低いmegaTALヌクレアーゼ(Boissel et al.,Methods Mol Biol 1239,171-196(2015))をコードするmRNAを送達すると、リンパ球によるT細胞受容体発現を効率的に妨害することができる。第2の適用例では、エフェクター細胞から機能性メモリー細胞への分化をリプログラムする主要なレギュレーターであるFoxo1(Tejera,et al.,J Immunol 191,187-199(2013);Kim et al.,Immunity 39,286-297(2013))を一過性発現させた。その結果、人工ナノ粒子に暴露されると、T細胞はセントラルメモリー表現型に変化することが判明した。
【0228】
このシステムの最大の利点は、治療用細胞の遺伝子改変を臨床規模で簡易に実施できる点であり、適切なナノ粒子試薬をリンパ球と混合するだけでよい。遺伝子材料を一過性送達するために現在使用されているアプローチは、有効性が低く、知的所有権下にある特殊で高価な多数の工程を必要とすることから利用可能性が制限されているが、本願のアプローチは、既存のアプローチと明らかに対照的である。T細胞療法以外に、他の治療用細胞種(例えばナチュラルキラー細胞、樹状細胞、造血幹細胞又は間葉幹細胞)の治癒能を実質的に改善するために、操作時間、危険又は複雑さを増すことなく、この一過性遺伝子送達プラットフォームを、これらの細胞種の既存の調製方法に容易に統合することができよう。
【0229】
材料と方法。試験デザイン。このプロジェクトの目的は、一次T細胞へのインビトロ標的化mRNA送達用ナノ材料を開発することであった。個々のドナーから得られた細胞を使用して、ナノ担体による送達を特定用途に合わせて最適化するようにパイロット実験を実施した後に、複数のドナーからの試料を使用して、最適化プロトコールを反復した。
【0230】
PBAE447合成。このポリマーを、Mangravitiら(Mangraviti et al.,ACS Nano 9,1236-1249(2015))により記載されている方法と同様の方法を使用して合成した。1,4-ブタンジオールジアクリレートを4-アミノ-1-ブタノールと1.1:1のジアクリレート対アミンモノマーモル比で混合した。この混合物を、撹拌下に90℃まで24時間加熱し、アクリレート基を末端にもつ4-アミノ-1-ブタノールと1,4-ブタンジオールジアクリレートとの共重合体を得た。このポリマー2.3gを、テトラヒドロフラン(THF)2mlに溶解した。ピペラジンでキャップした447ポリマーを形成するために、1-(3-アミノプロピル)-4-メチルピペラジン786mgをTHF13mlに溶解し、ポリマー/THF溶液に加えた。得られた混合物を、室温で2時間撹拌後、キャップしたポリマーを5倍容量のエチルエーテルで沈殿させた。溶媒をデカントした後、ポリマーを2倍容量の新鮮なエーテルで洗浄した後、使用時まで2日間減圧乾燥し、100mg/mlDMSOストックを形成し、-20℃で保存した。
【0231】
PGA-抗体コンジュゲーション。15kDポリグルタミン酸(Alamanda Polymers製品)を20mg/mlとなるように水に溶解し、10分間超音波処理した。等容量の1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(Thermo Fisher)の4mg/ml水溶液を加え、溶液を室温で5分間混合した。得られた活性化PGAを、次に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で抗体に4:1モル比で加え、室温で6時間混合した。未結合のPGAを除去するために、PBSを3回交換しながら、溶液を50,000NMWCOメンブレン(Millipore)で透析した。NanoDrop 2000分光光度計(Thermo Scientific)を使用して、抗体濃度を測定した。T細胞実験に使用した抗体を、抗CD3(クローンOKT3)、抗CD4(クローンOKT4)、抗CD8(クローンOKT8)及び抗CD28(クローン9.3、いずれもBioXCell製品)とした。クローンC1.18.4を、対照抗体として使用した。HSC導入には、ポリクローナルヤギ抗マウスIgGとポリクローナルヤギ抗マウスCD105抗体(Fisher)とを使用した。
【0232】
mRNA合成。eGFP、Foxo1、Trex2及びTRAC-megaTALのコドン最適化mRNAをTriLink Biotechnologiesに作製委託し、改変リボヌクレオチドであるシュードウリジン(Ψ)と5-メチルシチジン(m5C)で完全に置換し、ARCAでキャップしたものを得た。これらの転写産物の送達を追跡するために、Ψとm5Cで修飾したeGFP mRNAをcy5で標識した(同じくTriLinkに委託)。
【0233】
ナノ粒子作製。mRNAストックを、pH5.2の滅菌ヌクレアーゼフリー25mM酢酸ナトリウム緩衝液(NaOAc)で100μg/mlまで希釈した。PBAE-447ポリマーのDMSO溶液を、NaOAcで6mg/mlまで希釈し、mRNAに60:1(w:w)比で加えた。得られた混合液を、中速で15秒間ボルテックスした後、NPを形成できるように室温で5分間保温した。ターゲティングエレメントをナノ粒子に加えるために、PGAと連結した抗体を、NaOAcで250μg/mlまで希釈し、mRNAに2.5:1(w:w)比で加えた。得られた混合液を、中速で15秒間ボルテックスした後、室温で5分間保温し、PGA-AbをNPに結合させた。
【0234】
凍結保護剤としてD-スクロース60mg/mlとナノ粒子とを混合し、液体窒素で瞬間凍結させた後、FreeZone 2.5L凍結乾燥システム(Labconco)で処理することにより、凍結乾燥した。凍結乾燥したNPを、使用時まで-80℃で保存した。利用時には、凍結乾燥したNPを多量の滅菌水に再懸濁し、元の濃度に戻した。
【0235】
ナノ粒子特性決定。作製した粒子の流体力学的半径を、Nanosite(Malvern)で測定し、Zetapals計器(Brookhaven Instrument Corporation)で検出した動的光散乱を使用してそのゼータ電位を求めた。寸法測定の際には、粒子を、PBS(pH7.4)で1:400(v/v)に希釈し、ゼータ電位計測の際には、1:40に希釈した。透過型電子顕微鏡試験では、カーボン/フォルムバールをコーティングした200メッシュ銅グリッドを、グロー放電で活性化したものにナノ粒子の25μl試料を各々加えた。30秒後にグリッドを1/2カルノフスキー固定液1滴、0.1Mカコジル酸緩衝液1滴、dH2O8滴、1%(w/v)濾過済み酢酸ウラニル1滴と順次接触させた。JEOL JEM-1400透過型電子顕微鏡(JEOL USA)を使用して、これらの試料を試験した。
【0236】
細胞株及び培養培地。K562-CD19及び対照K562細胞は、Stanley Riddell博士(フレッド・ハッチンソンがん研究センター(Fred Hutchinson Cancer Research Center))により提供された。TM-LCLは、EBVで形質転換させたCD19+リンパ芽球様細胞株であり、T細胞拡大培養用フィーダーとして使用するように最適化されている(36)。Jurkat-E6T細胞株を、American Type Culture Collectionから入手した。10%ウシ胎仔血清、0.8mM L-グルタミン、25mM HEPES緩衝液及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンを添加したRPMI-1640を、T細胞培地(TCM)とし、これらの細胞株を培養した。
【0237】
個々に指定する通り、50IU IL-2/ml(Preprotech)を添加したTCM又はImmunoCult-XF T細胞拡大培養培地(XFSFM)(Stemcell)中で、一次ヒト末梢血単核細胞(PBMC)とT細胞を培養した。
【0238】
T細胞のmRNAトランスフェクション。正常ドナーからの凍結保護PBMCを、加温TCMの滴下により解凍した後に遠心した。指定する場合には、CD8T細胞をネガティブ選択(Stemcell)により単離した。細胞を、TCM+IL-2中で106個/mlとなるように培養し、CD3/CD28ビーズ(Dynabeads,Life Technologies)を1:1のビーズ:細胞比で使用して刺激した。CD3を標的とするナノ粒子導入を行う実験では、NP添加の24時間前に、これらのビーズを除去した。
【0239】
NPによるトランスフェクションでは、T細胞をXFSFMに2×106個/mlの濃度となるまで再懸濁した。細胞106個当たりmRNA2.5μgを担持させた抗体標的化NPをこの懸濁液に加え、37℃で2時間暴露した後、細胞を3倍容量のTCM+IL-2で洗浄した。対照NPには、eGFP mRNAを担持させた。TCRα遺伝子編集用NPには、TRAC-megaTAL、Trex2及びeGFP mRNAを42:42:16w:w:wの比で担持させた。Foxo13ANPには、Foxo13A及びeGFP mRNAを84:16w:wの比で担持させた。
【0240】
エレクトロポレーションでは、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)を添加したPBSでT細胞2×106個を2回洗浄し、eGFP mRNA3μgを加えたT細胞エレクトロポレーション媒体(Lonza)100μlに再懸濁し、エレクトロポレーションキュベットに移し、プログラムT-20を使用してNucleofector(Lonza)装置で処理した。抗体を加えずに2mlのTCM+IL-2を加えたプレートにエレクトロポレーション後の細胞を移した。
【0241】
CD34+細胞のNP導入。正常ドナーから予め動員したPBSCから精製したCD34+細胞を、フレッド・ハッチンソンがん研究センターの造血細胞処理・保管コア施設から入手した。解凍後、細胞を計数した後、ヒト幹細胞因子(Scf)50ng/ml、マウスFlt3/Flk-2リガンド50ng/ml及びヒトトロンボポエチン25ng/mlを添加したStemSpan SFEMII無血清培地(Stemcell Technologies)をHSC培地として、106個/mlの濃度となるように一晩培養した。翌日、細胞を回収し、計数し、96ウェル組織培養プレート(Costar)でサイトカインを含まないHSC100μlにウェル当たり細胞2.5×104個となるように再懸濁した。細胞を未処理のままとするか、又はCD105を標的とするNPもしくは抗マウスを標的とする対照NPにウェル当たり1μgのeGFP mRNAを担持させたもので処理した。細胞をNPで1時間処理した後、サイトカインを含まないHSC培地1mlで2回洗浄した。次に、洗浄した細胞を24ウェル組織培養プレート内の完全HSC培地500μlに移し、48時間後に、フローサイトメトリーによる解析用に細胞をCD34とCD105(BioLegend)に対して標識した。
【0242】
TCRαのPCR増幅とインデル検出。Geneart Genomic Cleavage Detection Kit(Invitrogen)を製造業者の指示に従って使用して、インデル検出を行った。要約すると、T細胞を溶解させ、TRACフォワードプライマーCCCGTGTCATTCTCTGGACT(配列番号53)とTRACリバースプライマーATCACGAGCAGCTGGTTTCT(配列番号54)を使用して、TCRαMegaTAL標的部位を挟むゲノムDNAをPCRにより増幅した。PCR産物を変性させ、再アニールし、特異的に切断されたバンドと生殖細胞のゲルバンド密度を比較することにより、インデル形成を評価できるように検出酵素で処理した。
【0243】
レンチウイルス導入及び19-41BBζCARを使用したT細胞の拡大培養。41BB及びCD3ζシグナル伝達ドメインを含むヒト抗CD19CARコンストラクト(19-41BBζ)を、従来記載されているように単一のStrepTagで修飾し(Liu et al.,Nat Biotechnol 34,430-434(2016))、epHIV7レンチウイルスベクターに導入した。epHIV7レンチウイルスベクター、ウイルスパッケージングプラスミドpCMVdR8.91及びpMD2.Gを使用して、Lenti-X293T細胞(Clontech)のリン酸カルシウムトランスフェクション(Invitrogen)により、VSVGシュードタイプレンチウイルスを作製した。レンチウイルス導入では、RetroNectinをコーティングしたプレート(Takara)に、ポリブレン8μg/mlと19-41BBζ-CARをコードするMOI5:1のレンチウイルスを加えた中にT細胞を移した後、34℃で1時間800×gでスピン感染を行った。19-41BBζを導入した細胞を選択的に拡大培養するために、TCM+IL-2中で放射線照射(7000ラド)したCD19+TM-LCL細胞を1:7の比となるように使用してリンパ球を刺激した。
【0244】
セルソーティング及びフローサイトメトリー。BD LSRFortessa又はFacsCanto IIセルアナライザーを使用し、FACSDIVAソフトウェアを実行してデータを獲得し、BD FACS ARIA-IIでソートし、FlowJo v10.1で解析した。フローサイトメトリーで使用した抗体を
図2にリストする。
【0245】
細胞内サイトカイン染色。ブレフェルジンA3μg/ml±PMA20ng/mlとイオノマイシン(Sigma-Aldrich)1μg/mlとを添加したTCM中で、細胞を6時間培養した。固定する前に、抗CD8及び抗CD3染色を使用してTCR+CD8+細胞サブセットとTCR-CD8+細胞サブセットとを同定した。その後、細胞を固定・透過処理キット(BD Biosciences)で処理した後、抗IFN-γ及びIL-2mAb(BioLegend)で標識した。
【0246】
Foxo1の細胞内染色。eGFPmRNA3μg又はFoxo13A2.5μgとeGFPmRNA0.5μgを、担持させた抗CD3標的化NPをJurkat T細胞106個にトランスフェクトした。24時間後に、細胞を4%パラホルムアルデヒドのPBS溶液で固定し、1回洗浄し、90%氷冷メタノールで30分間透過処理した。これらの試料を、室温にて0.5%BSAのPBS溶液でブロックした後、ウサギ抗Foxo1(クローンC29H4)又はアイソタイプ(クローンDAE1)で染色後、抗ウサギIgG F(aB’)2 Alexa-647(Cell Signaling)で染色した。
【0247】
CAR T細胞殺傷アッセイ。CAR標的細胞の特異的細胞溶解を、フローサイトメトリーによりアッセイした。標的K562-CD19細胞と対照K562とを夫々低濃度(0.4μM)及び高濃度(4.0μM)のカルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)で37℃にて15分間標識した。血清を添加した完全培地で両方の試料を洗浄し、1:1の比で混合した後、指定するエフェクター:標的比で19-41BBζと共培養した。特異的細胞溶解を評価するために、各条件の試料を抗CD8 mAb(BioLegend)で染色してT細胞を同定し、7AADで染色して死細胞を排除し、フローサイトメトリーにより解析した。生存CD19+標的細胞(低濃度CFSE)と対照CD19-K562細胞(高濃度CFSE)との比を測定することにより特異的細胞殺傷を評価した。
【0248】
顕微鏡試験。T細胞106個をXFSFM400μlに加え、cy5標識eGFP mRNA3μgを担持させた抗CD3標的化NPで4℃にて1時間処理して表面結合させた後、37℃で2時間保温して内在化させた。これらの処理後、細胞を冷PBSで3回洗浄し、ポリ-L-リジン(Sigma)をコーティングしたスライドに4℃で30分間付着させた。試料を2%パラホルムアルデヒドで固定し、ProLong Gold Antifade試薬(Invitrogen)でマウントし、Zeiss LSM780NLO共焦点レーザー走査型顕微鏡で画像形成した。
【0249】
RNA精製、RT-PCR、シーケンシング及びバイオインフォマティクス解析。Trizol試薬(Ambion)でT細胞を溶解させた後、オンカラムDNA消化方式のDirectZolキット(Zymo)を製造業者の指示に従って使用して、全RNAを単離した。リアルタイム定量的PCR(qPCR)では、大容量cDNAキット(Applied Biosystems)を使用してcDNAを作製した。PrimeTime qPCRアッセイ(Integrated DNA technology)とQuantStudio5システム(Applied Biosystems)を使用してハウスキーピング遺伝子B2Mに対する内在性FOXO1とコドン最適化FOXO13Aの相対発現レベルを測定した。コドン最適化Foxo13Aを検出するために使用したプライマーは内在性Foxo1mRNAの交差検出を避けるように選択した。
Foxo13Aフォワード:GGACAGCCTAGAAAGAGCAG(配列番号55)
Foxo13Aプローブ:AGGTCGGCGTAGCTCAGATTGC(配列番号56)
Foxo13Aリバース:CTCTTGACCATCCACTCGTAG(配列番号57)。
【0250】
RNAseq解析では、インビトロ培養対照NPとFoxo13ANPで処理したCD8+細胞から3日後と8日後にRNA試料を単離し、ドナーをマッチさせて凍結保護した2つの独立したPBMC試料に由来する選別済みの参照ナイーブ(CD8+CD45RA+CD62L+CCR7+)細胞及びTCM(CD8+CD45RA-CD62L+CCR7+)細胞と比較した。TruSeq試料調製キット(Illumina)を製造業者の指示に従って使用して、RNASeqライブラリーを調製した。HiSeqプラットフォーム(Illumina)を使用して、ライブラリーを50サイクルシーケンシングした(ペアードエンド法)。TopHat v2.1.0を使用して、ヒトhg38ゲノムに対するIlluminaのベースコール・クオリティフィルターをパスした結果を整列させた。htseq-count(v0.6.1p1)を「intersection-strict」オーバーラップモードで実行して、各遺伝子のカウントを取得した。データ正規化及び発現変動解析には、edgeRのGLM法を使用した。8日目にドナーをマッチさせた対照NPで処理したCD8+T細胞と比較して、CD8+TCMにおける発現が高いもの(TCMアップ)と低いもの(TCMダウン)とを統計的有位性によりランク付けした場合に、上位500番目までの遺伝子としてTCMシグネチャー遺伝子セットを定義した。変動倍数×1/(p値)の符号によりランク付けした遺伝子リストを使用して、GSEAPrerankedソフトウェアにより遺伝子セットエンリッチメントを解析した(37)。RNAseq解析からの生データ及び解析済みデータは、NCBIのGene Expression Omnibus,GEOシリーズアクセッション番号GSE89134として登録されている(38)。
【0251】
統計解析。特に明記しない限り、グラフは、平均±平均の標準偏差を示す。統計解析を、Prismソフトウェア(Graphpad)を使用して行った。
【0252】
結果。T細胞で確実なトランスジーン発現を生じるようなmRNAナノ担体の設計。(非ウイルストランスフェクション法に不応であるとして一般に知られている)一次Tリンパ球を遺伝子改変することができる試薬を創製するために、以下の4種類の機能的成分を含むポリマーナノ粒子(
図1B)を生物工学的に作製した。(i)ナノ粒子をT細胞と選択的に結合させ、迅速な受容体誘導性エンドサイトーシスを開始して内在化させる表面係留ターゲティングリガンド。本実験では抗CD3抗体と抗CD8抗体とを使用した。(ii)ナノ粒子の表面電荷を減らすことによりオフターゲット結合を最小限にするようにナノ粒子を保護する負電荷をもつコーティング。ポリグルタミン酸(PGA)は既にドラッグデリバリープラットフォームで広く使用されているので、これをこの目的に選択した。(iii)核酸がエンドソーム内にあるときには核酸を圧縮し、酵素分解から保護するように機能するが、粒子が細胞質内に輸送されると、核酸を放出し、コードされているタンパク質の転写を可能にする担体マトリックス。この目的には、水性条件下の半減期が1~7時間である生分解性ポリ(β-アミノエステル)(PBAE)ポリマー製剤を使用した。(iv)担体の内側に封入されており、遺伝子編集又はT細胞の表現型を永続的に変化させることが可能なタンパク質の一過性発現をもたらす核酸。mRNAはゲノム組込みの危険がなく、発現に核局在化を必要としないので、治療用タンパク質の一過性発現に理想的なプラットフォームである。しかし、未修飾mRNAは、細胞内toll様受容体を活性化する可能性があるため、タンパク質発現が制限され、毒性に繋がる(Kariko et al.,Immunity 23,165-175(2005))。送達されたmRNAの安定性を改善すると共に免疫原性を低下させるために、修飾ヌクレオチドを組込んだ合成物を使用した。例えば、ウリジンとシチジンを人工塩基であるシュードウリジン及び5-メチルシチジンで置換すると、自然パターン認識受容体による認識が相乗的に阻止され、mRNA翻訳が助長される。
【0253】
2段階電荷駆動自己集合法を利用して、NPを製造した。先ず、正電荷をもつPBAEポリマー及び合成mRNAを複合体化し、mRNAをナノサイズ複合体に圧縮した(
図3A、3B)。この工程に続き、抗体とPGAとのコンジュゲートを加え、PBAE-mRNA粒子の正電荷を保護し、リンパ球ターゲティング機能を付与した。得られたmRNAナノ担体は、寸法が109.6±26.6nmであり、表面電荷がほぼ中性であった(ゼータ電位1.1±5.3mV、
図3C)。
【0254】
mRNAナノ担体は、T細胞トランスフェクション効率がエレクトロポレーションと同等でありながら、生存性を低下させない。目的は細胞療法薬の製造を合理化することであるので、標的化mRNAナノ担体を既存のヒトリンパ球培養物に添加するだけでその確実なトランスフェクションを行うために十分であるか否かを試験した。CD3を標的とするNPにレポーター(高感度緑色蛍光タンパク質eGFP)をコードするmRNAを担持させてこれらの細胞と共に保温すると、NPはこれらの細胞と結合するだけでなく、受容体介在性エンドサイトーシスを刺激し、粒子に担持させた遺伝子を導入することができる(
図4A)。NPを1回添加した(NP:T細胞比=2×10
4:1)後に、これらの一次T細胞の85%(
図4B)が定常的にトランスフェクトされ、トランスフェクション後5時間という早期にトランスジーン発現が認められた(
図5A)。したがって、この方法は、迅速で効率的である。重要な点として、添加時毎に新たにmRNA NPを作製する必要がなく、使用時まで凍結乾燥しておくことができ、性質や効果に全く変化を生じなかった(
図5B)。
【0255】
次に、mRNAを担持させた標的化NPがT細胞拡大培養に及ぼす影響を評価した。悪性腫瘍は急速に進行することが多いため、人工T細胞を臨床的に適切な規模まで迅速に拡大培養できることが重要である。臨床研究室でポリクローナルリンパ球を増殖させるために広く使用されている1つのアプローチは、TCR/CD3及び共刺激CD28受容体に対する抗体を、コーティングしたビーズと共に保温する方法である。CD3を標的とするNP(NP:T細胞比:2×10
4:1)を繰返しトランスフェクションしてもこれらのコーティング付きビーズにより刺激したT細胞の拡大培養に支障を生じなかった(
図4C)。この結果は、並行して試験したT細胞エレクトロポレーションと著しく対照的である。エレクトロポレーションは、複雑な細胞操作工程(例えば媒体交換や遠心サイクル、
図4D)が加わっただけでなく、この方法ではリンパ球の生存率も低下し(
図6)、T細胞収率は60分の1に低下した(
図4D、右図)。
【0256】
ナノ粒子トランスフェクションは、効率的なゲノム編集を行うためにCAR-T細胞製造ワークフローに一体的に統合される。NPによるmRNAトランスフェクションを白血病特異的19-41BBζCAR T細胞の製造に組込むことにより、このアプローチを臨床関連適用例で試験した(
図7A)。CD19を標的とする受容体は、目下のところ最もよく検討されているCAR-T細胞製品であり、国内外で約30件の臨床試験が進行中である(Sadelain et al.,J Clin Invest 125,3392-3400(2015))。これに加えてゲノムエンジニアリングを実施できるならば、CAR-T細胞の安全性及び有効性を改善することが可能になる。例えば、移植片対宿主病を避けるために内在性TCRの発現を排除することができる。更に、免疫チェックポイント遺伝子を選択的に欠失させて、免疫抑制的腫瘍環境におけるそれらの活性を強化することができる(Menger et al.,Cancer Res 76,2087-2093(2016);Torikai et al.,Blood 119,5697-5705(2012))。しかし、ゲノム編集剤を細胞に送達するためにエレクトロポレーションを使用すると、T細胞製造の大規模化は実質的に困難になる。そこで、TCRα遺伝子の定常領域(TRAC)を標的とし、megaTALヌクレアーゼをコードするmRNAを担持させた粒子を作製することにより、NPが遺伝子編集剤を送達する能力を測定した。NP製剤化方法により提供される融通性を利用し、ノックアウト効率を改善するためにDNA修復エンドヌクレアーゼTREX2をコードするmRNAを担持させ、トランスフェクションを追跡するためにeGFP mRNAも担持させた。対照粒子にはeGFP mRNAのみを担持させた。eGFPトランスフェクション(TCR発現変化なし;
図7B、上段)とは対照的に、TCRα-megaTAL粒子をT細胞培養物に加えると、5日目までにTCR発現が効率的に中断され、効果は、mRNAの消失後も12日目まで維持された(
図7B、下段)。平均TCR濃度は、対照に比較して60.8%(±17.7%;
図73C)であり、サーベイヤーアッセイ(
図7D)を使用して求めたインデル頻度の百分率(ターゲティング効率の尺度)に一致する。重要な点として、19-41BBζ CARをコードするレンチウイルスベクターによる導入効率は、NPをトランスフェクトしたT細胞とトランスフェクトしなかったT細胞で同等であった(
図7E)ことから明らかなように、mRNAを担持させたナノ粒子の存在は、ウイルスによる腫瘍特異的CARの遺伝子導入に影響を与えなかった。NPによるゲノム編集及びレンチウイルス導入後に、CARによりプログラムされたT細胞は、その増殖能、サイトカイン分泌能、及び白血病標的細胞を殺傷する能力を完全に維持した(
図7F~7H)。要するに、これらの結果から、リンパ球を標的とするmRNAナノ担体は、CAR-T細胞の機能を損なわずにその効率的なゲノム編集を実現できることが明らかである。
【0257】
転写因子Foxo1をコードするmRNAをNPにより送達すると、メモリーCAR-T細胞に刷り込まれる。そこで、リンパ球を標的とするmRNA NPがCAR-T細胞を好ましい表現型となるようにプログラムするmRNAを送達することにより、これらの細胞の治療活性を改善できるか否かについて検討した。CD62L+セントラルメモリーT細胞(TCM)に由来するT細胞製品が動物モデルにおいて生着と機能の改善を示し、CAR療法の成功は注入される製品におけるCD62L+TCM表現型細胞の割合に関係していることが、臨床結果により既に立証されている(Louis et al.,Blood 118,6050-6056(2011);Sommermeyer et al.,Leukemia 30,492-500(2016))。しかし、治療に適したリンパ球数に達するためには、細胞をTCM系列から最終分化及び老化へと導く工程であるインビトロ刺激/拡大培養工程にこれらの細胞を何回か供する必要がある(Wang et al.,Journal of immunotherapy 35,689-701(2012))。この問題に対処するために、CD8T細胞におけるエフェクターからメモリーへの移行を調節するフォークヘッドファミリー転写因子であるFoxo1(Tejera,et al.,J Immunol 191,187-199(2013);Kim et al.,Immunity 39,286-297(2013))をコードするmRNAを担持させ、T細胞を標的とするNPを作製した。インビトロ刺激/拡大培養中に、TCR及びサイトカインシグナル伝達はAKTキナーゼを活性化させる。この酵素は、Foxo1をリン酸化し、その細胞質分離と転写活性の阻害とをもたらす。Foxo1を培養T細胞中に維持するために、3種類の主要なリン酸化残基をアラニンに突然変異させた前記因子のAKT非感受性変異体を使用した(Foxo13A)。エクスビボ拡大培養中にFoxo13Aを担持させたNPをT細胞培養培地に添加すると、治療能を改善したCD62L+TCM細胞の発生が促進されるであろうと仮定した。転写因子がリプログラミングに及ぼす影響はその発現の強さと期間により変動する。Foxo13A-NP添加後のこれらの値を求めるために、ナノ粒子で処理した細胞におけるFoxo1タンパク質及びmRNA発現を測定した。Jurkat T細胞株では、Foxo1の内在性発現が低く、Foxo13A NP処理後に細胞内標識により測定した前記因子の総発現量は著しく増加していた(
図8A、左図)。一次T細胞では、Foxo1タンパク質の発現レベルが元々高く、Foxo13A-NPによる増加は若干であった。したがって、ほぼ生理的レベルの活性なFoxo13A転写因子をNP処理により誘導できると判断される(
図8A、右図)。活性化されて増殖中のT細胞のNPトランスフェクション後のmRNAダイナミクスを調べるために、人工mRNAに特異的なリアルタイム定量的PCRを使用してFoxo13Aの発現を測定した。mRNA発現は、1日目に最大であり、トランスフェクション後8日までにベースラインに近付いた(
図8B)。T細胞プライミング後にFoxo13A NPでインビトロ処理すると、TCMをエフェクター集団及びエフェクターメモリー集団から区別する一次表面マーカーであるCD62L(Sallusto et al.,Nature 401,708-712(1999))の発現が急速に増加した(
図8C)。Foxo13Aの一過性発現がCD8+T細胞分化に持続的な変化を生じることができるか否かを調べるために、CD8を標的とするFoxo13A-eGFP NPで3人の別個のドナーからの細胞を処理し、eGFP発現に基づいて選別し、インビトロに維持した。トランスフェクション後24時間以内にCD62L+細胞頻度の増加が認められ、これはNP添加から8~20日後でも維持された(
図8D)。
【0258】
Foxo13Aにより誘導される遺伝子調節ネットワーク及びTCM系統とのその関係を解明するために、エクスビボ単離したナイーブCD8T細胞、TCM CD8T細胞及びインビトロ培養したCD8T細胞を用意し、Foxo13AをコードするNP又は対照粒子で処理した後にRNASeqを実施した。平均的なCD8T細胞に比較してTCM発現が高いものと低いものの上位500番目までの遺伝子から構成されるTCMシグネチャー(
図8E及び
図9A)を同定した。これらの遺伝子の大多数は、ナイーブCD8T細胞で同調的に制御され、ナイーブとTCMの間の密接な転写関係に一致する(Kaech & Cui,Immunol 12,749-761(2012))。Foxo13AをコードするNPで処理すると、多数の遺伝子の差次的発現を生じた。予想通り、これらの遺伝子には、主要なメモリー転写エフェクターであるKLF2をコードするものと、いずれもCD8 TCMトラフィキング及び機能の重要なメディエーターである表面分子SELL(CD62L)、CD28及びS1PR1をコードするものとが含まれていた(
図8F)(Skon et al.,Nature immunology 14,1285-1293(2013);Boesteanu et al.,Seminars in immunology 21,69-77(2009))。TCM遺伝子シグネチャーをFoxo13Aボルカノプロットに重ねると、転写産物がよく一致していることが分かる。TCMシグネチャー遺伝子は、Foxo13AによりプログラムされたCD8細胞中でアップレギュレートされた。遺伝子セットエンリッチメント解析の結果、Foxo13Aにより調節される転写産物とTCM関連遺伝子発現との間に、強い関連性があることが確認された(
図9B)。つまり、これらの結果から、Foxo13AをコードするNPは、表面マーカーに持続的な変化とTCM様表現型への転写プログラミングを誘導することが明らかである。
【0259】
考察。本実施例は適切に設計されたmRNAナノ担体が、一次リンパ球における遺伝子発現を一過性にプログラムできることを実証するものである。具体的には、メモリー表現型誘導と治療用ゲノム編集とを立証し、生物工学的に作製したナノ粒子をT細胞の培養物に添加するだけで如何にして細胞機能及び/又は分化を永続的にリプログラムできるかを、明らかにする。このナノテクノロジープラットフォームは特別な細胞操作を必要としないため、ワークフローや工程で使用される装置を変更せずに治療用T細胞の既存の製造用プロトコールに容易に統合することができる。これは、現時点でT細胞におけるヒットエンドラン遺伝子治療の選択方法であるRNAエレクトロポレーション(Schumann et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 112,10437-10442(2015);Wang et al.,Nucleic Acids Res 44,e30(2016);Bai et al.,Cell Discovery,(2015))に比較して製造に著しく有利になるであろう。
図2に示すように、エレクトロポレーションは、高価な装置が必要であることに加え、多くの培地交換、遠心工程及び洗浄サイクルが必要である。これらの工程は各々間違いを起こしやすいため、汚染の危険が増し、疾患と戦うリンパ球の生産量が低下する。最新式のフローエレクトロポレーション装置でもT細胞生存性が低下し、したがって、製品収率及び品質も低下する(Koh et al.,Mol Ther Nucleic Acids 2,e114(2013);Liu et al.,Cancer Res 75,3596-3607(2015))。本願のアプローチはトランスジーンを送達するために、細胞膜の機械的透過に依存しない。その代わり、人工ナノ粒子がT細胞と結合し、細胞生存性を低下させずに前記粒子に担持されたRNAの導入を実現する生理的プロセスである、受容体介在性エンドサイトーシスを刺激する(
図4C)。
【0260】
種々の分子カーゴの細胞内取込みを助長する低分子タンパク質である細胞膜透過性ペプチド(CPP)も、治療薬を一次T細胞に輸送するために使用されている(Copolovici,ACS Nano 8,1972-1994(2014))。このアプローチを使用すると、大きいタンパク質でもCPPドメインを付加すれば細胞質に導入することができる。しかし、CPPでは選択された細胞種の特異的ターゲティングは不可能であり、タンパク質導入は比較的非効率的である(Liu et al.,PLoS One 9,e85755(2014);Liu et al.,Mol Ther Nucleic Acids 4,e232(2015))。治療効果持続期間は導入したタンパク質の半減期にも強く依存する。それに比べ、合成mRNAを担持させたナノ担体は、特定の細胞を標的とし、送達された全てのRNA分子が複数のタンパク質コピーの翻訳用鋳型として機能する。
【0261】
これらの実験で標的としたCD3分子及びCD8分子は、mRNAをリンパ球に選択的にシャトリングするために使用することができる多数の抗原のうちのほんの2例に過ぎない。抗原に暴露されたリンパ球等の特定のT細胞サブセットのみを選択的に改変するためには、活性化マーカー(例えばCD25、4-1BB、OX40又はCD40L)を標的とすることができる。更に、コアポリマー及び電荷を打ち消すコーティング材料の選択にも柔軟性があり、臨床規模での製造が行われる前に恐らく最適化されよう。コアポリマーについては、ハイパーブランチスターポリマー、ポリエチレングリコールグラフトポリエチレンイミン及びメソポーラスシリカナノ粒子を含む種々のカチオン性ポリマーを試験し、トランスフェクション効果に優れ、一次T細胞における生体材料による細胞毒性が低いことから、PBAE447を選択した。この製剤は、水性条件下の半減期が1~7時間であり、生分解性が高いため、細胞毒性が低くなる(Mangraviti et al.,ACS Nano 9,1236-1249(2015))。このポリマーは、エンドソーム内に閉じ込められている間は圧縮しており、mRNAを分解から有効に保護するが、細胞質に導入後にすぐに放出し、コードされているタンパク質の転写が可能になるため、この半減期は、遺伝子治療に理想的である。重要な点として、試験した全てのナノ粒子デザインにおいて、RNA/PBAEポリプレックスの正電荷を打ち消し、オフターゲット結合を防ぐために、負電荷をもつナノ粒子コーティングが必要であった。
【0262】
T細胞療法以外に、CD105を標的とするmRNAナノ担体(
図10)を使用してより有効な造血幹細胞(HSC)製品を製造するために、本願に記載するアプローチを使用することも検討した。特に、HSCの自己再生能を改善するため又はそれらの運命決定を調節するためのストラテジーには大きな臨床的魅力がある((Galeev et al.,Cell Rep 14,2988-3000(2016);Rentas et al.,Nature 532,508-511(2016))。養子免疫T細胞療法の分野では、寿命及び/又はインビボ有効性を改善したリンパ球を製造するための補助剤として薬理活性化合物が試験中であるが、同様に、ライブラリーの高スループットスクリーニングにより、幹細胞拡大を改変することができる低分子も同定されている(Nikiforow & Ritz,Cell Stem Cell 18,10-12(2016))。しかし、多くの化合物は、タンパク質機能を阻害することしかできず、所望の標的に対するそれらの特異性については疑わしいことが多い(Schenone et al.,Nat Chem Biol 9,232-240(2013))。また、低分子を使用して各種タンパク質を調節することはできない。それに比べ、標的化mRNAナノ担体は、ほぼあらゆる公知タンパク質(又はタンパク質組合せ)の発現を選択的に誘導することができる。更に、ナノ担体に担持させるヌクレオチドは公開されている配列に基づいて容易に作製することができる。
【0263】
要するに、実施例1は、単一のナノ粒子試薬を白血球培養物に添加するだけで「ヒットエンドラン」遺伝子改変を使用してT細胞を治療目的用に効率的にリプログラムできることを実証する。このプラットフォームは、特殊な装置や訓練を必要としないため、製造が複雑にならない。したがって、臨床規模での遺伝子細胞治療薬の製造を実質的に合理化することができ、遺伝子工学的に作製したT細胞による患者の治療をより低コストでより広く適用できるようになる。
【0264】
当分野における通常の知識を有する者に自明の通り、本願に開示する各実施形態は、明記しているその特定の要素、工程、成分又はコンポーネントを含むことができ、あるいは本質的にこれらから構成することができ、あるいはこれらから構成することができる。本願で使用する前半部と後半部を繋ぐ用語である「含む」とは、包含するが、限定されないという意味であり、具体的に記載していない要素、工程、成分又はコンポーネントを包含することも許容しており、その量は多量であってもよい。前半部と後半部を繋ぐ用語である「~から構成される」とは、具体的に記載していない要素、工程、成分又はコンポーネントを除外する。前半部と後半部とを繋ぐ用語である「本質的に~から構成される」とは、実施形態の範囲を、具体的に記載している要素、工程、成分又はコンポーネントと、この実施形態に重大な影響を与えない要素、工程、成分又はコンポーネントとに制限するものである。本願で使用する重大な影響とは、選択された細胞種を本願に開示するナノ担体に48時間暴露後にこのナノ担体が選択された細胞種の表現型を変化させる能力に、統計的に有意な低下を生じるものである。
【0265】
特に指定しない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用する成分の量、分子量等の性質、反応条件等を表す全数値はいずれの場合も、「約」なる用語が付いていると理解すべきである。したがって、特に指定しない限り、本明細書及び特許請求の範囲に記載する数値パラメータは概数であり、本発明により獲得しようとする所望の性質に応じて変動することができる。特許請求の範囲への均等論の適用を制限しようとするものではないが、最低限でも、各数値パラメータは少なくとも報告する有効数字を踏まえて通常の丸め方を適用することにより解釈すべきである。更に明瞭にする必要がある場合には、「約」なる用語は明記する数値又は範囲と共に使用するときに当業者が妥当に割り当てる意味であり、即ち記載値の±20%、記載値の±19%、記載値の±18%、記載値の±17%、記載値の±16%、記載値の±15%、記載値の±14%、記載値の±13%、記載値の±12%、記載値の±11%、記載値の±10%、記載値の±9%、記載値の±8%、記載値の±7%、記載値の±6%、記載値の±5%、記載値の±4%、記載値の±3%、記載値の±2%、又は記載値の±1%の範囲内までで記載値又は範囲よりも多少大きいか又は多少小さい数値又は範囲を意味する。
【0266】
本発明の広い範囲を示す数値範囲及びパラメータは概数であるが、具体例に記載する数値は可能な限り正確に報告する。但し、如何なる数値もその夫々の試験測定値に存在する標準偏差により必然的に生じる所定の誤差を内在的に含む。
【0267】
本発明を説明する文脈(特に以下の特許請求の範囲の文脈)で使用する不定冠詞、定冠詞及び同類の指示語は本願で特に指定する場合又は文脈からそうでないことが明白な場合を除き、単数と複数の両方に対応すると解釈すべきである。本願で数値範囲を記載する場合には、その範囲内に該当する個々の数値を個別に表す省略法として利用する目的に過ぎない。本願で特に指定しない限り、個々の数値を本願に個別に記載しているものとして本明細書に組み入れる。本願で特に指定する場合又は文脈からそうでないことが明白な場合を除き、本願に記載する全方法は、任意の適切な順序で実施することができる。本願に記載するありとあらゆる例又は例示的文言(例えば「等の」)の使用は、本発明をより明瞭にする目的に過ぎず、それ以外の内容で請求されている本発明の範囲に制限を加えるものではない。本明細書中の如何なる文言も本発明の実施に不可欠な請求外の要素を表すと解釈すべきではない。
【0268】
本願に開示する発明の択一的要素又は実施形態のグループを、制限として解釈すべきではない。各グループメンバーを個々に又はそのグループの他のメンバーもしくは本願に記載する他の要素とのあらゆる組合せにおいて、言及及び請求することができる。便宜及び/又は特許性の理由からあるグループの1以上のメンバーをあるグループに組み入れることもできるし、削除することもできる。このような組み入れ又は削除が行われる場合には、明細書は変更後のグループを含むものとみなされ、したがって、添付の特許請求の範囲で使用される全マーカッシュグループの文言を満足する。
【0269】
本発明を実施するために本発明者が知る限り最良の実施形態を含めて、本願には、本発明の所定の実施形態を記載する。当然のことながら、記載するこれらの実施形態の変形も上記記載を通読後に当分野における通常の知識を有する者に容易に理解されよう。本発明者は、当業者がこのような変形を適宜利用するものと予想し、また、本発明者は、本願に具体的に記載する以外の方法で本発明が実施されることも想定している。したがって、準拠法により許可される範囲において本発明は添付の特許請求の範囲に記載する主題の全変形及び均等物を包含する。更に、本願で特に指定する場合又は文脈からそうでないことが明白な場合を除き、上記要素のあらゆる組合せを可能な全てのその変形として本発明に包含する。
【0270】
更に、本明細書では随所で特許及び出版物を多数引用している。上記引用文献及び出版物は各々その特定の引用教示を個々に本願に援用する。
【0271】
終わりに、当然のことながら、本願に開示する発明の実施形態は本発明の原理を例証するものである。利用できる他の変形も本発明の範囲に含まれる。要するに、限定するものではないが、例えば本発明の代替構成も本願の教示に従って利用することができる。したがって、本発明は厳密に図示及び記載通りの内容に制限されない。
【0272】
本願に示す詳細事項は例示であり、本発明の好ましい実施形態を具体的に説明する目的に過ぎず、本発明の種々の実施形態の原理と概念的側面の最も有用で理解し易い説明であると考えられるものを提供するために提示するに過ぎない。この点については、本発明の基本的な理解に必要である以上に詳細に本発明の構成内容を示そうとするものではなく、本発明の複数の形態を実際にどのように具体化できるかは説明を図面及び/又は実施例と勘案することにより当業者に容易に理解されよう。
【0273】
以下の実施例で明瞭・明白に変更されている場合又はその意味を適用すると構文の意味が通らない場合もしくは本質的に意味が通らない場合を除き、本開示で使用する定義及び説明は、後続する全構文に適用されるものとする。用語の構文で意味が通らない場合又は本質的に意味が通らない場合には、Webster’s Dictionary,3rd Edition又はOxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology(Ed.Anthony Smith,Oxford University Press,Oxford,2004)等の当分野における通常の知識を有する者に公知の辞書から定義を参照されたい。