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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130574
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】ボツリヌス毒素を含む組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20220830BHJP
   A61K 31/728 20060101ALI20220830BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220830BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20220830BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20220830BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20220830BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
A61K38/16
A61K31/728
A61P17/00
A61K47/36
A61P25/14
A61P25/08
A61P43/00 121
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022103578
(22)【出願日】2022-06-28
(62)【分割の表示】P 2018537506の分割
【原出願日】2017-02-28
(31)【優先権主張番号】16158302.6
(32)【優先日】2016-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】511202045
【氏名又は名称】メルツ ファルマ ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲーアーアー
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フィンク,クラウス
(72)【発明者】
【氏名】テイラー,ハロルド
(72)【発明者】
【氏名】ラス,ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】ボデルケ,ピーター
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ジストニア、痙縮、及び/又は皺の処置または防止のための組成物を提供する。
【解決手段】下記、a)及びb)を含む組成物。
a)ボツリヌス神経毒素
b)平均分子量が2.5MDa~4.5MDaである非架橋ヒアルロン酸
前記ボツリヌス神経毒素がA型ボツリヌス神経毒素であり、前記非架橋ヒアルロン酸の多分散指数が1.1~4.0であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ボツリヌス神経毒素、及び
b)平均分子量が2.5MDa~4.5MDaである非架橋ヒアルロン酸
を含む、組成物。
【請求項2】
前記ボツリヌス神経毒素がA型ボツリヌス神経毒素である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記非架橋ヒアルロン酸の多分散指数が1.1~4.0である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
1ミリグラムの非架橋ヒアルロン酸当たり2~4単位のボツリヌス神経毒素または20~40単位のボツリヌス神経毒素を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
c)塩、
d)任意選択により神経毒素安定剤、
e)結晶化阻害剤、
f)緩衝液、及び/または
g)ラジカル捕捉剤
をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
25℃において1Hzの発振周波数を用いて決定される場合の動的粘度が1.5~4Pa・sである、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
200~500単位のボツリヌス神経毒素が投与される、ジストニアの処置または防止における使用のための請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
500~1000単位のボツリヌス神経毒素が投与される、痙縮の処置または防止における使用のための請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
40~50単位のボツリヌス神経毒素が投与される、皺の防止または処置における使用のための請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
適用してから最大24時間投与部位に残存する、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記ボツリヌス神経毒素が12時間以内に放出される、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
4~9ヵ月ごとに投与される、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
哺乳類の皺、好ましくは広範な模倣活動の結果である皺を、美容的に滑らかにするまたは防止するための方法であって、
(i)請求項1~6に記載の組成物を投与するステップと、
(ii)4~9ヵ月後に前記投与を繰り返すステップと、
を含む方法。
【請求項14】
前記組成物が40~50単位のボツリヌス神経毒素を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
皺、好ましくは模倣活動の結果である皺を滑らかにするまたは防止するための請求項1~6に記載の組成物の美容的使用であって、適用される前記組成物が40~50単位のボツリヌスを含む、美容的使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(a)ボツリヌス毒素及び(b)非架橋ヒアルロン酸を含む組成物、ならびにジストニア、痙縮、及び/または皺の処置または防止のための当該組成物の使用に関する。さらに本発明は、皺を美容的に滑らかにするまたは防止するための方法であって、本発明の組成物を投与するステップを含む方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
「ボツリヌス神経毒素」(BoNT)は、いくつかの非常に類似した神経毒性タンパク質群を指す一般的用語とみなすことができる。天然に存在するボツリヌス神経毒素は、嫌気性で芽胞を形成する細菌Clostridium botulinumにより産生され、まれに他のClostridium種(例えば、C. botulinum、C. barati、及びC. argentinense)により産生される。現在、8種の異なる血清型の毒素が存在し、それらはA、B、C、C、D、E、F、及びG型として知られている。これらの型の一部、例えばA、B、E、及びFは人類にとって有毒であるが、C、D、及びG型は、例えば鳥類、ウマ、ウシ、及び霊長類に毒性をもたらすことの方が多い。
【0003】
ボツリヌス毒素複合体は、2種の成分、すなわち麻痺作用を起こす神経毒素成分及び関連する無毒性細菌タンパク質成分を含む高分子タンパク質複合体の形態で存在し、無毒性細菌タンパク質成分は、ヘマグルチニンタンパク質及び非ヘマグルチニンタンパク質を含むコートタンパク質としてみなすことができる。ボツリヌス毒素複合体の分子量は、A、B、C、C、D、E、F、及びGのボツリヌス毒素血清型によって様々であり、約300kDa~約900kDaである。治療応用に関しては、コートタンパク質は、顕著な機能を有さず、神経毒性特性に寄与しないことが報告されている。神経毒素成分は不活性の1本鎖前駆体(非切断ポリペプチド)として発現し、分子量は全ての既知のボツリヌス毒素血清型について約150kDaである。この1本鎖前駆体は、タンパク質切断により活性化して、ジスルフィド結合した2本鎖タンパク質を生成する。約50kDaの軽鎖タンパク質は触媒ドメインを含み、亜鉛を含有するメタロプロテイナーゼであり、また亜鉛-エンドペプチダーゼとして作用する。約100kDaの重鎖タンパク質は、トランスロケーションドメイン及び受容体結合ドメインを含む。重鎖は、前シナプスコリン作動性神経終末への結合、とりわけ運動終板または神経筋接合部の前シナプス部分への結合や、毒素の細胞内への内部移行を媒介する。
【0004】
前述の内容に関して、神経筋接合部に輸送されると、重鎖の受容体結合ドメインはコリン作動性特異性を提供し、毒素を前シナプス受容体に結合させる。次に、神経毒素は受容体が媒介するエンドサイトーシスを介して神経細胞に進入し、神経細胞のエンドサイトーシス小胞内にとどまる。小胞の酸性化に伴い、軽鎖は細胞質内に移動し、分離する。軽鎖タンパク質は、亜鉛-エンドペプチダーゼとして作用し、小胞融合器官の種々のタンパク質を分離することができ、小胞のエキソサイトーシスを防止するサブセクションである。詳細には、軽鎖の毒性部分は、BoNT血清型に応じて、SNAREタンパク質複合体(SNAP-25シンタキシン及びVAMPにより形成される)を形成する1つ以上のタンパク質を切断することができる。通常、SNARE複合体は膜と融合し、それによって神経伝達物質アセチルコリンが細胞から離れることが可能となる。神経伝達物質アセチルコリンがシナプス間隙内に放出されることにより、神経インパルスが筋肉に伝達され、それにより筋肉が収縮するように信号が送られる。SNARE複合体の形成がタンパク質の切断を通じて実質的に防止されて、例えばBoNT/Aによる当該複合体が形成されると、アセチルコリンの放出が停止する。結果的に神経と筋肉との間の伝達がブロックされ、最終的に麻痺(ボツリヌス症)が生じる。
【0005】
しかし、この高い毒性にもかかわらず、1980年代初め以降、ボツリヌス毒素は承認された活性医薬成分として、とりわけ特定の運動障害(例えば、瞼の攣縮(眼瞼痙攣)または斜頸(痙縮斜頸))の処置で使用されている。さらに、ボツリヌス毒素は美容医学の分野において、例えば審美的処置で使用されている。加えて、眉間の皺の処置は、心理的影響をいっそう及ぼすものと考えられる。とりわけ、この処置は大うつ病性障害に関連する症状を低減することが報告されている。
【0006】
ボツリヌス神経毒素は本質的に不安定であり、とりわけアルカリ性条件下で不安定である。さらに、熱不安定性であることも報告されている。このため、市販のボツリヌス神経毒素は、真空乾燥または凍結乾燥した材料として保管されることが多く、また、保管やその次に考えられる再構成の間のボツリヌス神経毒素の完全性及び効力を保つために添加される賦形剤をさらに含有することが多い。
【0007】
上述の医学的及び美容的適用に関して、ボツリヌス神経毒素は通常はおよそ3ヵ月ごとに投与しなければならない。より望ましい投与レジメンを提供するため、US2012/014532A1では、皮下位置におけるボツリヌス毒素の滞留時間が増加するとされるデポー製剤を提案している。実施例を参照すると、製剤に使用するヒアルロン酸は、低分子量の非架橋ヒアルロン酸及び架橋剤(例えば、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル)から調製された実質的な架橋ヒアルロン酸である。しかし、上記で提案される徐放製剤は、その適用に関し、まだ改善の余地があるように思われる。詳細には、US2012/014532の製剤中の充填剤は投与部位に長時間とどまる可能性が考えられる。
【0008】
そのため、本発明の目的は、上述の欠点を克服することである。詳細には、本発明の目的は、ボツリヌスの持続効果を延ばす、改良されたボツリヌス神経毒素製剤を提供することである。詳細には、次の投与時に前回投与時の残留分が存在しないことを保証する製剤を提供するべきである。さらに、望ましくない副作用は、防止すべきである、または少なくとも顕著に低減すべきである。
【0009】
本発明の目的は、(a)A型ボツリヌス神経毒素及び(b)量平均分子量が2.5MDa~4.5MDaの非架橋ヒアルロン酸を含む特定の組成物によって、そして当該組成物の特定の投与レジメンによって、予想外に解決した。
【0010】
発明者らは、従来型ボツリヌス製剤では、ボツリヌス毒素の用量を単純に増強して上記効果を達成するべく細胞への摂取量を増やすことができないのに対し、本発明の組成物では、予想外に高い量のボツリヌス神経毒素の適用が可能になることを見いだした。これは、ボツリヌス毒素の実質的部分が、リンパ排出を介してまたは直接静脈系を介して、迅速に体循環に到達すると考えられるためである。体循環に到達することにより、ボツリヌスは隣接組織に拡散し、対応する位置で副作用をもたらす可能性がある。例えば、過量の従来型ボツリヌス毒素製剤を眉間の皺に注入すると、瞼下垂が生じる恐れがある。本発明においては、投与部位に何日、何週間、または何か月もとどまるデポー製剤を使用することなく、顕著に高い量のボツリヌス神経毒素を投与することができる。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、(a)ボツリヌス神経毒素及び(b)非架橋ヒアルロン酸、好ましくは平均分子量が2.5MDa~4.5MDaであり、かつ/または固有粘度が2.7~3.3m/kgである非架橋ヒアルロン酸を含む組成物を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、ジストニアの処置における使用のために220~500単位のボツリヌス神経毒素を投与し、痙縮の処置における使用のために500~1000単位のボツリヌス神経毒素を投与し、または皺の処置における使用のために40~50単位のボツリヌス神経毒素を投与する、本発明の組成物を提供する。
【0013】
加えて、本発明は、哺乳類の皺、好ましくは広範な模倣活動の結果である皺を、美容的に滑らかにするまたは防止するための方法であって、(i)本発明の組成物を投与するステップと、(ii)4~9ヵ月後に投与を繰り返すステップと、を含む方法を提供する。
【0014】
最後に、本発明の主題は、本発明の組成物の、好ましくは模倣活動の結果である皺への美容的使用であって、適用される当該組成物が40~50単位のボツリヌス神経毒素を含む、美容的使用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】下記実施例の結果を示す図である。
図2】本発明の組成物により副作用の増加なしでもたらされた延長効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の組成物は、成分として(a)ボツリヌス神経毒素を含む。
【0017】
好ましい実施形態では、成分(a)はB型ボツリヌス神経毒素(BoNT/B)である。B型ボツリヌス神経毒素は、小胞結合膜タンパク質2(VAMP2)の切断に対する触媒的挙動を示す。
【0018】
代替的な好ましい実施形態では、成分(a)はE型ボツリヌス神経毒素(BoNT/E)である。E型ボツリヌス神経毒素は25kD(キロダルトン)のシナプトソーム関連タンパク質25(SNAP-25)も切断するが、このタンパク質内の、例えばA型ボツリヌス神経毒素と比較して異なるアミノ酸配列を標的とする。E型ボツリヌス神経毒素は8種のサブタイプBoNT/E1~BoNT/E8を含み、組換えボツリヌス神経毒素としても存在し得る。E型ボツリヌス神経毒素の配列及び調製は、例えばWO2014/068317で開示されている。詳細には、配列番号1、2、及び3に対し言及がなされている。
【0019】
とりわけ好ましい実施形態では、本発明の組成物は、成分として(a)A型ボツリヌス神経毒素を含む。
【0020】
好ましくは、A型ボツリヌス神経毒素は約150kDaの神経毒素成分を含み、当該神経毒素成分は上述の軽鎖(約50kDa)及び重鎖(約100kDa)鎖、ならびに任意選択により1種以上のコートタンパク質(例えば、ヘマグルチニンまたは非ヘマグルチニン)に分離することができる。好ましい実施形態では、A型ボツリヌス神経毒素複合体の量分子量(weight molecular weight)は、300kDa~900kDa、特に300、600、または900kDaとすることができる。代替的に、好ましいA型ボツリヌス神経毒素複合体は、神経毒素成分及びさらなるタンパク質(例えばヘマグルチニンまたは非ヘマグルチニンタンパク質)を含む。
【0021】
A型ボツリヌス神経毒素は、非常に有毒な化合物と考えられる。マウスにおけるLD50値は、静脈内投与時の約30pg/kgから吸入時の3ng/kgに及ぶ。ボツリヌスの用量は生物学的活性に関連するものであり、生物学的単位(E)で、それぞれマウス単位(MU)で測定される(1生物学的単位(E)は1マウス単位(MU)に対応する)。1生物学的単位(E)は腹部に注入する毒素の量に対応し、この量は、体重が18~20グラムのメスのSwiss Websterマウス群の50%を死亡させるのに十分な量である。
【0022】
上述のように、A型ボツリヌス神経毒素は、Clostridium botulinumの培養物から取得することができる。タンパク質は培養液から沈殿させ、遠心処理、沈殿、及び吸着の数ステップにより精製することができる。精製した毒素は-70℃で保管し、その後、毒素の有効性を失うことなく解凍することができる。固体毒素と滅菌等張食塩水の溶液は、冷蔵庫に最大4時間、その効力を失うことなく保管することができる。この再構成は、特定の量の0.9%食塩水を特定の量のボツリヌス毒素に添加して、体積当たりの特定の濃度(通常、単位/mlで計量する)のA型ボツリヌス神経毒素を取得するように行うことができる。
【0023】
一実施形態では、本発明は、野生型ボツリヌス毒素Aに対し、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、そして最大60%、最大70%、最大80%、最大90%、最大100%の配列同一性を示すボツリヌス毒素のアイソフォーム、ホモログ、オルソログ、及びパラログを包含する。配列同一性は、信頼性の高い結果を得るのに適した任意のアルゴリズム、例えば、FASTAアルゴリズム(W.R. Pearson & D.J. Lipman PNAS (1988) 85:2444-2448)によって計算することができる。配列同一性は、2つのポリペプチドまたは2つのドメイン(例えば、2つのLCドメインまたはその断片)を比較することによって計算することができる。修飾された組換えボツリヌス毒素も、本発明の範囲内である。ただし、本発明は、化学的に修飾されたボツリヌス毒素、例えばペグ化、グリコシル化、硫酸化、リン酸化、または任意の他の修飾(とりわけ1つ以上の表面もしくは溶媒曝露アミノ酸の修飾)によって化学的に修飾されたボツリヌス毒素も指している。本発明における使用に好適な修飾された組換えアイソフォーム、ホモログ、オルソログ、パラログ、及び変異体は生物学的に活性であり、すなわち、ニューロンに移動し、SNARE複合体(例えば、SNAP25)のタンパク質を切断して、その筋肉麻痺効果を発揮することができる。
【0024】
本発明の組成物はさらに、成分(b)としてヒアルロン酸を含む。ヒアルロン酸は、以下の構造式によって表すことができるグリコサミノグリカンである。
【0025】
【化1】
【0026】
したがって、ヒアルロン酸は、2つのブドウ糖誘導体、すなわちD-グルクロン酸及びD-N-アセチルグルコサミンから構成される二糖のポリマーとみなすことができる。この二糖において、グルクロン酸はN-アセチルグルコサミンに対しβ(1→3)グリコシド結合し、N-アセチルグルコサミンは隣のグルクロン酸に対しβ(1→4)グリコシド結合している。
【0027】
発明者らは、本発明の組成物が特定のグレードのヒアルロン酸を含むべきであることを見いだした。本発明で使用するヒアルロン酸はかなりの高分子量を有するが、この高分子量は架橋によって達成されるのではなく、それぞれの長さを有する直鎖によって達成される。
【0028】
概して、本発明において成分(b)として使用するヒアルロン酸は、非架橋ヒアルロン酸である。好ましい実施形態では、ヒアルロン酸の平均分子量は、2.5MDa~4.5Mda、好ましくは2.7~4.2MDa、より好ましくは3.0~4.0MDa、とりわけ3.3~3.8MDaである。
【0029】
ヒアルロン酸の平均分子量は、所定の固有粘度から計算した。そのため、「粘度平均分子量」と呼ぶこともできる。
【0030】
ヒアルロン酸の固有粘度は、Ph.Eur.6.0、2.2.9に従って、Ubbelohde毛管粘度計を20℃で使用し、また溶媒として水を使用して測定した。それぞれの平均分子量Mは、マーク-ホウィンクの関係式[η]=KM(式中、ηは固有粘度であり、log(K)は切片であり、aは傾きである)に従って計算した。好ましくは、非架橋ヒアルロン酸について、aを0.7に設定することができる。
【0031】
好ましい実施形態では、ヒアルロン酸(b)は、(上述の分子量の代わりに、または上述の分子量に加えて)その固有粘度によって特徴づけることができる。好ましくは、固有粘度は2.7~3.3m/kg、より好ましくは2.80~3.20m/kg、さらにより好ましくは2.90~3.15m/kg、とりわけ約3.09m/kgである。粘度は、上述のように決定される。
【0032】
本発明において「非架橋ヒアルロン酸」という用語は、その全ての医薬的に許容される塩、水和物、及び/または溶媒和物を含むことに留意されたい。好ましくは、非架橋ヒアルロン酸はナトリウム塩の形態で存在する。
【0033】
本発明の好ましい実施形態では、非架橋ヒアルロンの多分散指数は1.0~5.0、好ましくは1.1~4.0、より好ましくは1.2~3.5、さらにより好ましくは1.3~3.0、特に1.4~2.5、とりわけ1.5~2.0とすることができる。
【0034】
化学作用に関して、分散度は分子または粒子のサイズにおける異質性の次元としてみなすことができる。均一な収集において、対象物は同じサイズ、形状、または質量を有する。多分散指数(PDI)または単に分散指数Dは、所与のポリマーサンプルにおける分子質量の分布の尺度であり、以下の式に従って計算される。
PDI=M/M
(式中、
Mwは量平均分子量であり、
は数平均分子量である)
Mw及びMは共に、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定することができる。
【0035】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、非架橋ヒアルロン酸1ミリグラム当たり2~4単位、好ましくは2.2~3.8単位、より好ましくは2.4~3.6単位のボツリヌス神経毒素、好ましくはA型ボツリヌス神経毒素を含有することができる。
【0036】
代替的な好ましい実施形態では、本発明の組成物は、非架橋ヒアルロン酸1ミリグラム当たり20~40単位、好ましくは22~38単位、より好ましくは24~36単位のボツリヌス神経毒素、好ましくはA型ボツリヌス神経毒素を含有することができる。
【0037】
本発明の組成物は、様々な他の医薬的に許容される物質、例えば塩、ラジカル捕捉剤、神経毒素安定剤、結晶化阻害剤、糖、アミノ酸、ビタミン、麻酔剤、界面活性剤、浸透圧調節剤などを含むことができる。本明細書で使用する「医薬的に許容される」という用語は、哺乳類、特にヒトの組織との接触に好適な化合物または物質を指す。本明細書で使用する「含む(comprise)」という用語は、オープンエンドな用語「含む(include)」及びクローズドな用語「(から)なる(consist (of))」の両方を包含するように意図されている。
【0038】
一実施形態では、本発明の組成物は好ましくは
c)塩
d)神経毒素安定剤
e)結晶化阻害剤
f)緩衝液及び/または
g)ラジカル捕捉剤
を含む。
【0039】
塩(c)は、任意の生理学的に許容される塩、好ましくはナトリウム塩、より好ましくは塩化ナトリウムとすることができる。
【0040】
神経毒素安定剤(d)は、ボツリヌス神経毒素、好ましくはA型ボツリヌス神経毒素タンパク質を安定させ、当該タンパク質の分解を防止する化合物としてみなすことができる。例としてはヒト血清アルブミン(HAS)及びゼラチンなどのタンパク質があり、HASが好ましい。
【0041】
代替的な好ましい実施形態では、本発明の組成物はいかなる神経毒素安定剤も含有せず、好ましくはヒト血清アルブミン(HAS)を含まない。
【0042】
結晶化阻害剤(e)は、例えば凍結乾燥ステップ中に、神経毒素の結晶化を防止する物質である。結晶化阻害剤の例としては糖、例えばブドウ糖、果糖、ガラクトース、トレハロース、ショ糖、及び麦芽糖がある。ブドウ糖、果糖、及びショ糖が好ましく、とりわけショ糖が好ましい。
【0043】
緩衝液(f)は、当該組成物が溶液、好ましくは水溶液の形態をとる場合に、特定のpH値を提供して痛みを伴わない適用(例えば、注射)を達成するために使用する物質である。好ましくは、当該組成物が水溶液の形態をとる場合、緩衝液は6.1から7.6の間、好ましくは6.2から7.2の間、より好ましくは6.3から7.1の間、とりわけ6.5から7.0の間のpH値を提供する。緩衝液は、例えばリン酸緩衝液、クエン酸-リン酸緩衝液、乳酸緩衝液、酢酸緩衝液などとすることができる。
【0044】
ボツリヌス毒素の分解を防止するまたは遅らせる化合物は、ラジカル捕捉剤(g)とみなすことができる。ラジカル捕捉剤の例としては、ポリオール(例えば、グリセリン)及び糖アルコール(例えば、マンニトール、イノシトール、ラクチトール、イソマルト、キシリトール、エリスリトール、及びソルビトール)がある。
【0045】
好ましい実施形態では、本発明の組成物はマンニトールを含まない。
【0046】
一実施形態では、本発明の組成物は好ましくは
a)20~40単位のボツリヌス神経毒素、好ましくはA型ボツリヌス神経毒素
b)2.5~9mgの非架橋ヒアルロン酸
c)3.6~20mgの塩、好ましくは塩化ナトリウム
d)0~1.5mgまたは0.2~1.5mgの神経毒素安定剤、好ましくはヒト血清アルブミン
e)0.4~0.94mgの結晶化阻害剤
f)0.3~0.6mgの緩衝液、好ましくはリン酸緩衝液
g)20~40mgのラジカル捕捉剤
を含有する。
【0047】
上述の組成物は好ましくは凍結乾燥物の形態をとることができ、それによって組成物はボツリヌス神経毒素、好ましくはA型ボツリヌス神経毒素の有効性を失うことなく保管することができる。凍結乾燥したボツリヌス神経毒素、好ましくはA型ボツリヌス神経毒素を含む組成物は、当該凍結乾燥物を滅菌食塩水で再構成することによって取得することができる。この再構成は好ましくは、0.9%食塩水を用いて、好ましくは1mlの量で行う。水性組成物の濃度は、好ましくは以下の範囲とすることができる。
a)1ml当たり20~40単位のボツリヌス神経毒素、好ましくはA型ボツリヌス神経毒素
b)0.25~0.9% w/vのヒアルロン酸
c)0.36~2.0% w/vの塩、好ましくは塩化ナトリウム
d)0~0.15% w/vまたは0.02~0.15% w/vの神経毒素安定剤、好ましくはヒト血清アルブミン
e)0.04~0.094% w/vの結晶化阻害剤
f)0.03~0.06% w/vの緩衝液、好ましくはリン酸緩衝液
g)2.0~4.0% w/vのラジカル捕捉剤
【0048】
代替的な実施形態では、本発明の組成物は好ましくは
a)200~400単位のボツリヌス神経毒素、好ましくはA型ボツリヌス神経毒素
b)2.5~9mgの非架橋ヒアルロン酸
c)3.6~20mgの塩、好ましくは塩化ナトリウム
d)0~15mgまたは0.2~1.5mgの神経毒素安定剤、好ましくはヒト血清アルブミン
e)4~9.4mgの結晶化阻害剤
f)0.3~0.6mgの緩衝液、好ましくはリン酸緩衝液
g)200~400mgのラジカル捕捉剤
を含有することができる。
【0049】
上の上述の代替組成物は好ましくは凍結乾燥物の形態をとることができ、それによって組成物はボツリヌス神経毒素、好ましくはA型ボツリヌス神経毒素の効力を失うことなく保管することができる。ボツリヌス神経毒素、好ましくはA型ボツリヌス神経毒素を含む組成物は、当該凍結乾燥物を滅菌食塩水で再構成することによって取得することができる。この再構成は好ましくは、0.9%食塩水を用いて、好ましくは1mlの量で行う。水性組成物の濃度は、好ましくは以下の範囲とすることができる。
a)1ml当たり200~400単位のボツリヌス神経毒素、好ましくはA型ボツリヌス神経毒素
b)0.25~0.9% w/vのヒアルロン酸
c)0.36~2.0% w/vの塩、好ましくは塩化ナトリウム
d)0~1.5% w/vまたは0.2~1.5% w/vの神経毒素安定剤、好ましくはヒト血清アルブミン
e)0.4~0.94% w/vの結晶化阻害剤
f)0.03~0.06% w/vの緩衝液、好ましくはリン酸緩衝液
g)20~40% w/vのラジカル捕捉剤
【0050】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は2つのサブ組成物を含む場合がある。第1のサブ組成物は、好ましくは成分a)、d)、e)、及びg)を、使用の際に0.9%滅菌食塩水で再構成される凍結乾燥物の形態で含むことができる。代替的な好ましい実施形態では、凍結乾燥物の形態の第1のサブ組成物は、ヒト血清アルブミン(HSA)を含まない。第2のサブ組成物は、好ましくは成分b)及びf)の水溶液を含むことができる。両方のサブ組成物は、好ましくは合わせて、適用前に実際の組成物を取得することができる。
【0051】
好ましい実施形態では、本発明の組成物はすぐに使用可能な組成物として存在することができ、すなわち本発明の組成物は、直接患者に投与することができる形態で存在することができる。好ましい実施形態では、当該組成物は充填済のガラスまたはシリンジの形態で存在することができ、当該充填済のガラスまたはシリンジは好ましくは、0~15℃、より好ましくは2~10℃の温度で保管することができる。
【0052】
再構成された溶液の形態において、本発明の組成物は、25℃において1Hzの発振周波数を用いて決定する場合、好ましくは、1.5~4Pa・s、好ましくは1.7~3.8Pa・s、より好ましくは2.0~3.0Pa・sの動的粘度を有することができる。この溶液の粘度は、例えば25~32ゲージ針を通じての注射による適用を可能にする。
【0053】
複素粘度は、Anton Paar MCR 302レオメーターを用いて決定した。発振周波数の変動は10Hz~0.1Hzであった。1Hz及び25℃では、2.31~2.45Pa*sの複素粘度、8.9485~9.5135のG’、及び1.279~1.282のtan(δ)を測定した。
【0054】
さらに、再構成された溶液の形態の場合、本発明の組成物は好ましくは、1リットル当たり200~400ミリオスモル、好ましくは1リットル当たり250~370ミリオスモル、とりわけ1リットル当たり270~325ミリオスモルのオスモル濃度を有することができる。好ましくは、オスモル濃度は、Ph.Eur 6.0、2.2.35節に従って決定することができる。
【0055】
本発明のさらなる主題は、好ましくは200~500単位のボツリヌス神経毒素、好ましくはA型ボツリヌス神経毒素が投与される、ジストニアの処置における使用のための本発明の組成物である。より好ましくは、220~480、240~460、260~440、280~420、300~400、320~380、もしくは340~380単位、またはこれらの任意の組み合わせ、例えば240~380単位を使用することができる。
【0056】
ジストニアは、筋肉の緊張の機能不全によって特徴づけられる病理学的状態を説明するものである。ジストニアは、錐体外路の運動過多と考えられる。ジストニアは、(骨格)筋肉の持続的で非自発的な収縮をもたらし得る。この機能不全は、身体の極端な張力及び不整合において表現される。ジストニアは、例えば遺伝的欠損により、独立した疾患パターンとして生じる(原発性ジストニア)場合もあれば、また他の疾患(例えば、パーキンソン病)に伴って生じる(続発性ジストニア)場合もあれば、あるいは脳卒中の結果として生じる場合もある。拡散のグレードに応じて、ジストニアは3つのタイプに分類することができる。
・限局性ジストニア(1箇所の身体部位のみに影響を及ぼす)
・分節性ジストニア(2箇所以上の身体部位に影響を及ぼす)
・全身性ジストニア(全身に影響を及ぼす)
【0057】
限局性ジストニアの例としては、咽頭ジストニア(発声ジストニア)または頸部ジストニア(頭部/首の不整合)(あるいは頸部ジストニアは分節性ジストニアとも考えられ得る)、眼瞼痙攣(制御されない瞼のまばたき)、顎口腔ジストニア(口腔領域及び/または咀嚼の疾患)、及び痙性ジストニア(声帯の疾患)がある。全身性ジストニアの一例としては、脚の位置の異常によって特徴づけられる瀬川病がある。
【0058】
一実施形態では、ジストニアの処置における使用のための本発明の組成物は、非経口的に、好ましくは注射の形態で投与される。当該注射は好ましくは、患部内または患部付近で、好ましくは皮下または筋肉内、とりわけ筋肉内で行うことができる。
【0059】
本発明のさらなる主題は、好ましくは500~1000単位のボツリヌス神経毒素、好ましくはA型ボツリヌス神経毒素が投与される、痙縮の処置における使用のための本発明の組成物である。より好ましくは、550~950、600~900、650~850、もしくは700~800単位、またはこれらの任意の組み合わせ、例えば600~850単位を使用することができる。
【0060】
痙縮は、(骨格)筋肉の内部張力増強として説明することができる。痙縮の原因は、中枢神経系の運動を司る領域の損傷であり、この領域とは脳及び脊髄、詳細には第1の運動ニューロンの錐体路である。痙縮の最も一般的な理由は、脳梗塞による、運動に関する脳領域の低酸素性損傷である。単痙縮(monospasticity)は、1つの筋肉または1つの四肢の痙縮性麻痺である。痙縮性麻痺になり得る筋肉の例としては、橈側手根屈筋、尺側手根屈筋、浅指屈筋、深指屈筋、腕橈骨筋、上腕二頭筋、方形回内筋、円回内筋、長母指屈筋、短母指屈筋、母指対立筋がある。対称性痙縮は、両脚の麻痺によって特徴づけられる。片側痙縮は、半身の四肢の麻痺、または顔の半分の麻痺(片側顔面攣縮)を説明するものである。最後に、四肢痙縮(tetraspasticity)は、全ての四肢の痙縮性麻痺に関連し、さらに首及び体幹の筋肉にも影響が及ぶことがある。
【0061】
一実施形態では、痙縮の処置における使用のための本発明の組成物は、非経口的に、好ましくは注射の形態で投与される。当該注射は好ましくは、患部内または患部付近で、好ましくは皮下または筋肉内、とりわけ筋肉内で行うことができる。
【0062】
本発明のさらなる主題は、好ましくは40~55単位のボツリヌス神経毒素、好ましくはA型ボツリヌス神経毒素が投与される、皺の処置における使用のための本発明の組成物である。より好ましくは、42~52、43~49、44~48、もしくは45~47単位、またはこれらの任意の組み合わせ、例えば43~50単位を使用することができる。ボツリヌス毒素による皺の処置は、心理的影響を及ぼし得る。詳細には、抑うつ状態にある人は、皺、とりわけ眉間の皺をボツリヌス毒素の注射によって処置された後に抑うつ気分が軽減することが報告されている。
【0063】
一実施形態では、皺の処置における使用のための本発明の組成物は、非経口的に、好ましくは注射の形態で投与される。当該注射は好ましくは、対応する皺内または皺付近で行うことができ、眉間の皺が好ましい。注射は、皮下が好ましい。
【0064】
本発明のさらなる主題は、20~1500単位、好ましくは100~800単位のボツリヌス神経毒素、好ましくはA型ボツリヌス神経毒素が投与される、筋肉または外分泌腺における過活動性のコリン作動性神経支配に関連する疾患または状態の処置における使用のための本発明の組成物である。
【0065】
本明細書で使用する「過活動性のコリン作動性神経支配」という用語はシナプスに関するものであり、異常に高い量のアセチルコリンがシナプス間隙内に放出されることによって特徴づけられる。「異常に高い」とは、例えば、基準活動に対し最大25%、最大50%またはそれ以上の増加に関するものであり、この増加は、例えば同じタイプのシナプスであるが過活動状態(筋肉ジストニアは過活動状態を示し得る)ではないシナプスにおける放出と比較することによって取得することができる。「最大25%」とは、例えば、約1%~約25%を意味する。必要とされる測定を実施する方法は、当技術分野で公知である。
【0066】
筋肉または外分泌腺における過活動性のコリン作動性神経支配に関連する例示的な疾患または状態としては、例えば、フライ症候群、ワニの涙症候群、腋窩多汗症、足底多汗症、頭部及び首の多汗症、全身の多汗症、鼻汁、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、唾液分泌過多、流涎、流涎症、痙縮状態及び口蓋ミオクローヌス、ミオクローヌス、ミオキミア、硬直、良性筋痙攣、遺伝性の頤振戦、奇異性の顎筋活動、片側咀嚼筋攣縮、肥大性鰓ミオパシー、咬筋肥大症、前脛骨筋肥大症、眼球振とう、動揺視、核上性注視麻痺、持続性部分てんかん、痙性斜頸の手術計画、外転筋声帯麻痺、不応性変異性発声障害、上部食道括約筋機能不全、声帯ひだ肉芽腫、吃音症、ジル・ドゥ・ラ・トゥレット症候群、中耳ミオクローヌス、保護的咽頭閉鎖、咽頭切除後の発話障害、保護的瞼下垂、眼瞼内反、オッディ括約筋機能不全、偽性アカラシア、非アカラシア食道運動障害、腟痙、手術後運動抑止、振戦、膀胱機能不全、片側顔面攣縮、神経再支配ジスキネジア、全身硬直症候群、破傷風、前立腺肥大、肥満症処置、小児脳性麻痺、アカラシア、ならびに裂肛が挙げられる。
【0067】
一実施形態では、筋肉または外分泌腺における過活動性のコリン作動性神経支配に関連する疾患または状態の処置における使用のための本発明の組成物は好ましくは非経口的に、好ましくは注射の形態で投与することができる。当該注射は好ましくは、対応する身体部位内または身体部位付近で行うことができる。注射は、筋肉内または皮下が好ましい。
【0068】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、投与してから最大24時間、投与部位にとどまる。このことは、組成物はひとたび投与されると、24時間以内に注射部位から除去、分解及び/または代謝されることを意味する。さらに、本発明の組成物は、投与してから少なくとも10時間投与部位にとどまることが望ましく、すなわち、好ましい実施形態では、本発明の組成物は、投与してから10時間以上24時間以下、好ましくは11時間以上22時間以下、より好ましくは12時間以上20時間以下、投与部位に存在する。
【0069】
本発明の組成物の好ましい実施形態では、A型ボツリヌス神経毒素は、投与してから12時間以内に放出される。本発明の組成物からのA型ボツリヌス神経毒素の放出は、12時間以内に少なくとも50%、すなわち50%~100%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、さらにより好ましくは少なくとも80%、特に少なくとも90%である。当該組成物からのA型ボツリヌス神経毒素が上記期間内に放出されることで、A型ボツリヌス神経毒素が、毒素の全身的除去による有効性を顕著に失うことなく、対応する神経細胞で利用できるようにすることが保証される。このことは、US2012/0141532の教示とは異なり、本発明の組成物が数週間以上投与部位にとどまるデポー製剤ではないことを意味する。その代わりに、本発明は、ボツリヌス神経毒素がUS2012/0141532と比較して相当に短期間内に放出される場合であっても、ボツリヌス神経毒素の効果の延長が得られるというコンセプトに基づいている。
【0070】
本発明とは対照的に、現在利用可能なボツリヌスの非徐放性組成物は、通常、6~12週間ごとに適用される。このように頻繁にボツリヌス毒素を適用することは、概して望ましくなく、例えば、このような頻繁な適用は抵抗性を生み出すことが報告されている。例えば、二次的な非応答者は中和抗体の存在によって生じることが報告されている。
【0071】
そのため、別の好ましい実施形態では、本発明の組成物はより有利な投与レジメンで投与される。本発明の組成物は好ましくは、4~9ヵ月ごと、好ましくは5~7ヵ月、より好ましくは約6ヵ月ごとに投与することができる。ただし、上記の先端技術と比較すると、本発明の組成物は、ボツリヌス神経毒素が持続的に放出されるデポー製剤には基づいていない。その代わりに、上述の通り、ボツリヌスは好ましくは組成物から12時間以内に放出され、神経細胞によって吸収される。さらに、これも上述のように、約24時間後、本発明の組成物の残部は分解または全身的排除が始まり、数日以内に本発明の組成物のいかなる部分も投与部位に残存しないようになる。
【0072】
本発明のさらなる主題は、哺乳類の皺、好ましくは広範な模倣活動の結果である皺を、美容的に滑らかにするまたは防止するための方法であって、
(i)本発明の組成物を投与するステップと、
(ii)4~9ヵ月後に投与を繰り返すステップと、
を含む方法である。
【0073】
皺は、皮膚におけるひだ、うね、または折り目とみなすことができる。広範な模倣活動の結果である皺は、実質的に、対応する哺乳類、好ましくはヒトの顔で視認できる皺を指すことができる。皺の例としては、溝、眉間のライン、カラスの足跡、頬側の継ぎ目、顎の線、口周りの皺、頬のひだ、マリオネットライン、唇のライン、額の皺、眉をひそめたライン、バニーライン、ほうれい線、目の下の皺、及び頤のひだがある。本発明の組成物を投与するステップ(i)は好ましくは、本発明の組成物を注射により投与するステップを含むことができる。注射は好ましくは、注射針で、好ましくは27~35ゲージ、好ましくは30~33ゲージの注射針サイズで行うことができる。本発明の組成物は好ましくは、対応する皺の部位内または部位付近に注射することができる。注射は、皮下または筋肉内、とりわけ皮下とすることができる。好ましくは、本発明の組成物は、眉をひそめたライン、水平ライン、カラスの足跡、口周りのひだ、精神的な終止(mental ceases)、頤の皺、及び/または広頸筋のたるみに投与される。
【0074】
ボツリヌス毒素は、処置と同じ日に、または処置の次の日に投与することができる。例えば、第1の処置セッション中に、用量の第1の画分を投与することができる。第1の画分は好ましくは準最適な画分、すなわち、完全には皺または皮膚のラインを除去しない画分である。1回以上の処置セッション中に、総用量の残りの画分を投与することができる。
【0075】
4~9ヵ月後に投与を繰り返すステップ(ii)は好ましくは、上述と同じ条件/デバイスを適用して本発明の組成物を投与するステップを含むことができる。本発明の組成物の投与を繰り返すことにより、さらなる用量のボツリヌスが細胞で利用できるようになり、対応する皮膚が好ましくは美容的に滑らかな状態を保つ。代替的な実施形態では、投与は5~7ヵ月後または5~8ヵ月後に繰り返される。
【0076】
本発明の方法の好ましい実施形態では、投与する本発明の組成物は、40~55単位のボツリヌス神経毒素、好ましくはA型ボツリヌス神経毒素を含む。より好ましくは、42~52、43~49、44~48、もしくは45~47単位、またはこれらの任意の組み合わせ、例えば43~50単位を使用することができる。当技術分野で一般的な、皺を滑らかにするまたは防止するための方法は、約20単位の神経毒素を投与するステップを含む。高い用量の神経毒素を含有する組成物の使用は、下垂(例えば、瞼下垂)のような望ましくない副作用のリスクを顕著に増強することが報告されている。しかし、本発明の方法では、このような負の副作用は観察されない可能性が考えられ、高い用量の神経毒素が細胞で利用できるようになり、それによって有効性の延長がもたらされる。上の説明と同様に、本発明の美容方法では、ボツリヌス神経毒素Aは好ましくは、本発明の組成物から12時間以内に放出される。
【0077】
本発明のさらなる主題は、皺、好ましくは模倣活動の結果である皺を滑らかにするまたは防止するための本発明の組成物の美容的使用であって、適用される本発明の組成物が40~55単位のボツリヌス神経毒素、好ましくはA型神経毒素を含む、美容的使用である。より好ましくは、42~52、43~49、44~48、もしくは45~47単位、またはこれらの任意の組み合わせ、例えば43~50単位を使用することができる。
【0078】
上に示すように、従来技術の組成物は、皺を滑らかにするまたは防止するために美容的に使用する場合において、約20単位のボツリヌス神経毒素を含有することが報告されている。適用される当該組成物に含まれる40~55単位という高い量のボツリヌス神経毒素、好ましくはA型神経毒素によって、より多くの単位のボツリヌスが対応する細胞で利用できるようになり、皺を滑らかにするまたは防止するための本発明の組成物の使用によって、本発明の組成物で適用される神経毒素の効果の延長が保証される。
本発明は、以下の実施例によって示すことができる。
【実施例0079】
1.組成物の調製
実施例1
組成物の2つのサブユニットを調製した。
【0080】
サブユニット1:50単位のA型ボツリヌス神経毒素、25mgのヒト血清アルブミン(HAS)、及び1.18mgのショ糖を含有する凍結乾燥物を、1mlの0.9%食塩水で再構成した。
【0081】
サブユニット2:1mlの水、平均分子量が約3.8kDの14mgの非架橋ヒアルロン酸、34mgのマンニトール、3.0mgのグリセリン、0.6mgのリン酸緩衝液を含有する溶液を用意した。
【0082】
得られる水性組成物1mlがそれぞれ以下を含有するようにサブユニットを混合した。
A型ボツリヌス神経毒素 25単位
非架橋ヒアルロン酸 7mg
ヒト血清アルブミン(HAS) 0.125mg
ショ糖 0.59mg
マンニトール 17.0mg
グリセリン 1.5mg
リン酸緩衝液 0.3mg
塩化ナトリウム 4.5mg
【0083】
参照実施例
参照組成物を以下のようにして取得する。50単位のA型ボツリヌス神経毒素、25mgのヒト血清アルブミン(HAS)、及び1.18mgのショ糖を含有する凍結乾燥物を、1mlの0.9%食塩水で再構成した。
【0084】
したがって、得られた水性組成物はそれぞれ以下を含有した。
A型ボツリヌス神経毒素 50単位
ヒト血清アルブミン(HAS) 0.25mg
ショ糖 1.18mg
塩化ナトリウム 0.9mg
【0085】
2.有効性の比較
2.1 10匹のマウスの群2群に対し、各々の右腓腹筋に、参照実施例の組成物0.8mlまたは実施例1の組成物1.6ml(両実施例とも40単位のA型ボツリヌス神経毒素を含有)を注射した。いずれの群においても死亡は観察されなかった。軽微な全身毒性の徴候が、2~10日目に同じ程度で両群に生じた。
【0086】
図1から分かるように最大スコアは4(DASスコア)であり、これは後肢の完全な麻痺を示すものである。麻痺の発生から最大の麻痺までの時間は1日であった。マウスにおいてEC50レベル(DASスコア2)に達する麻痺の持続時間は、参照組成物の場合が約12日であり、本発明の組成物の場合が約30日であった。したがって、本発明の組成物により、副作用の増加なしでの予想外の延長効果がもたらされる。
【0087】
2.2 上の項目2.1に従った比較を繰り返し、本発明の組成物で処置するマウスに対し、2.5mlの実施例1の組成物、すなわち62.5単位のA型ボツリヌス神経毒素を注射した。いずれの群においても死亡は観察されなかった。軽微な全身毒性の徴候が、2~10日目に同じ程度で両群に生じた。
【0088】
図2は、本発明の組成物により副作用の増加なしでもたらされた延長効果を示すものである。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2022-07-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ボツリヌス神経毒素、及び
b)平均分子量が2.5MDa~4.5MDaである非架橋ヒアルロン酸
を含む、組成物。
【外国語明細書】