IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130577
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】微生物分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20220830BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
G01N27/62 V
C12Q1/04
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103670
(22)【出願日】2022-06-28
(62)【分割の表示】P 2018023482の分割
【原出願日】2018-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福山 裕子
(72)【発明者】
【氏名】田村 廣人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晃代
(57)【要約】
【課題】MALDI-MSを用いた微生物の分析方法において、試料の調製にかかる手間を増やすことなく、分析感度を高める。
【解決手段】本発明は、マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析装置を用いて微生物を分析する方法であって、アルキルホスホン酸及び界面活性剤の少なくとも一方である添加剤とマトリックス物質を予め混合したマトリックス・添加剤混合溶液を、マトリックス支援レーザ脱離イオン化の際に使用することを特徴とする。上記方法では、アルキルホスホン酸、又は界面活性剤、あるいはこれら両方をマトリックス添加剤として用い、これをマトリックス物質と予め混合してマトリックス・添加剤混合溶液を調製する。そして、分析対象である微生物を含む溶液をサンプルプレートに滴下した後、その上にマトリックス・添加剤混合溶液を添加し、乾燥させることにより被検微生物とマトリックス物質の混合結晶を形成し、これをMALDI-MSによる分析の試料とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析装置を用いて微生物を分析する方法であって、
アルキルホスホン酸及び界面活性剤の少なくとも一方である添加剤と、マトリックス物質とを混合したマトリックス・添加剤混合溶液を、マトリックス支援レーザ脱離イオン化の際に使用することを特徴とする微生物分析方法。
【請求項2】
前記アルキルホスホン酸がメチレンジホスホン酸である、請求項1に記載の微生物分析方法。
【請求項3】
前記界面活性剤がデシル-β-D-マルトピラノシドである、請求項1に記載の微生物分析方法。
【請求項4】
前記マトリックス物質がシナピン酸である、請求項1に記載の微生物分析方法。
【請求項5】
前記マトリックス・添加剤混合溶液が、30~70%のアセトニトリルと0.1~3%のトリフルオロ酢酸を含む水溶液に、前記マトリックス物質を10~30mg/mL、メチレンジホスホン酸を0.1~5%、デシル-β-D-マルトピラノシドを0.1~10mM含むように溶解して調製されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の微生物分析方法。
【請求項6】
マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析装置を用いて微生物を分析する方法であって、
10~30mg/mLのシナピン酸を含むエタノール溶液、あるいはシナピン酸のエタノ-ル飽和溶液をサンプルプレートに滴下し、乾燥させる工程と、
マトリックス物質を含む溶液と被検微生物を混合してマトリックス・微生物混合溶液を調製する工程と、
前記サンプルプレートに滴下された前記エタノール溶液、あるいは前記エタノール飽和溶液の乾燥物の上にさらに前記マトリックス・微生物混合溶液を滴下し、乾燥させる工程と
を備える、微生物分析方法。
【請求項7】
被検微生物について得られたマススペクトルのうち質量電荷比m/z 10000以上の高質量領域を含む質量域のマススペクトルパターンを、データベースに格納されているマススペクトルパターンと比較した結果に基づいて前記被検微生物の同定を行う、請求項1~6のいずれかに記載の微生物分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析装置(MALDI-MS)を用いた微生物の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析におけるイオン化法の1つであるマトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI=Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)法は、レーザ光を吸収しにくい物質やタンパク質などレーザ光で損傷を受けやすい物質を分析するために、レーザ光で吸収し易く且つイオン化しやすいマトリックス物質を分析対象物質と混合し、これにレーザ光を照射することで分析対象物質をイオン化する手法である。一般にマトリックス物質は溶液として分析対象物質と混合され、このマトリックス溶液が分析対象物質を取り込む。そして、乾燥させることによって溶液中の溶媒が気化し、分析対象物質を含んだ結晶が形成される。これにレーザ光を照射すると、マトリックス物質がレーザ光のエネルギーを吸収して急速に加熱され、気化する。その際、分析対象物質もマトリックス物質とともに気化し、その過程で分析対象物質がイオン化される。
【0003】
こうしたMALDI法を利用した質量分析装置(MALDI-MS)は、タンパク質などの高分子化合物をあまり解離させることなく分析することが可能であり、しかも微量分析にも好適であることから、近年、生命科学の分野で広く利用されている。
【0004】
例えば特許文献1には、被検微生物を質量分析して得られたマススペクトルパターンに基づいて微生物の同定を行う方法が記載されている。この方法では、まず、被検微生物から抽出したタンパク質を含む溶液や被検微生物の懸濁液等とマトリックス溶液を混合し、乾燥させた後、MALDI-MSによって分析する。そして、得られたマススペクトルパターンを、予めデータベースに収録された多数の既知微生物のマススペクトルパターン(各微生物に特徴的なピーク(マーカーピーク)の位置や形状等を含む)と照合することにより同定を行う。こうした手法はマススペクトルパターンを各微生物に特異的な情報(すなわち指紋)として利用するため、フィンガープリント法と呼ばれている。
【0005】
ところが、微生物を含む試料をMALDI-MSで分析すると、質量電荷比m/z 15000以上の高質量領域の感度が低く、マススペクトルの信頼性、正確性が低くなることが知られている。従って、同定対象となる微生物の判別に有効なマーカーピークが高質量領域にある場合には、フィンガープリント法による被検微生物の同定を正確に行うことができない。
【0006】
従来より様々なアプローチでMALDI-MSの感度を改善するための研究・開発がなされているが、その一つに、マトリックス溶液と分析対象物質を混合してマトリックス・対象物混合溶液を調製する際に、さらに別の物質をマトリックス添加剤として添加する方法がある。
【0007】
例えば特許文献2及び非特許文献1には、マトリックス物質である2, 5-ジヒドロキシ安息香酸(DHB)に、マトリックス添加剤としてメチレンジホスホン酸(MDPNA)を添加することにより、分析対象であるリン酸化ペプチドを高い感度で検出できることが記載されている。同文献に記載されている方法では、サンプルプレートにリン酸化ペプチドを含む溶液、マトリックス添加剤溶液、及びマトリックス溶液を順に滴下した後、これらを乾燥させることで試料を調製した後、この試料をMALDI-MSを用いて分析する。
【0008】
また、非特許文献2、3には、マトリックス添加剤として界面活性剤を用いることにより、微生物を含む試料をMALDI-MSで分析したときの感度を改善できることが記載されている。これらの文献に記載されている方法では、被検微生物を含む溶液(被検微生物溶液)をサンプルプレートに塗布し、その上に界面活性剤を滴下した後、さらにその上にマトリックス溶液を滴下し、試料を調製する。界面活性剤は、被検微生物の溶解性を高める目的で使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2015-184020号公報
【特許文献2】特開2009-121857号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Rapid Commun. Mass Spectrom., 2008年, Vol.22, pp.1109-1116
【非特許文献2】J. Am. Soc. Mass. Spectrom., 2005年, Vol.16, pp.1422-1426
【非特許文献3】Rapid Commun. Mass Spectrom., 1999年, Vol.13, pp.1067-1071
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献2に記載された方法及び非特許文献1、2、及び3に記載された方法は、いずれもサンプルプレート上に分析対象物質を含む溶液、マトリックス添加剤溶液、マトリックス溶液をそれぞれ別工程で滴下することにより試料を調製する。このような試料の調製作業は、試料調製装置や分析作業者による手作業で行われるが、いずれの場合も手間がかかるという問題があった。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、MALDI-MSを用いた微生物の分析方法において、試料の調製にかかる手間を増やすことなく、分析感度を高めることであり、特に、微生物のMALDI-MS分析で感度の低いm/z 15000以上の高質量領域の分析感度を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために成された本発明は、マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析装置(MALDI-MS)を用いて微生物を分析する方法であって、アルキルホスホン酸(Alkylphosphonic acids)及び界面活性剤の少なくとも一方とマトリックス物質を予め混合したマトリックス・添加剤混合溶液を、マトリックス支援レーザ脱離イオン化の際に使用することを特徴とする。
【0014】
上記方法では、アルキルホスホン酸、もしくは界面活性剤、又はこれら両方をマトリックス添加剤として用い、これをマトリックス物質と予め混合してマトリックス・添加剤混合溶液を調製する。そして、分析対象である微生物の構成成分を含む溶液をサンプルプレートに滴下した後、その上にマトリックス・添加剤混合溶液を滴下し、乾燥させることにより、微生物の構成成分とマトリックス物質を含んだ混合結晶を形成する。この混合結晶がMALDI-MSによる分析の試料となる。なお、微生物の構成成分を含む溶液とマトリックス・添加剤混合溶液を混合し、この混合溶液をサンプルプレート上に滴下し、乾燥させて試料を調製しても良い。この方法では、微生物の構成成分を含む溶液とマトリックス・添加剤混合溶液をそれぞれ別工程でサンプルプレート上に滴下する場合に比べて、さらに、試料の調製にかかる工程を少なくすることができる。
【0015】
アルキルホスホン酸は、タンパク質が含まれる試料をMALDI-MSを用いて分析する際に、アルカリ金属付加イオン([M+Na]、[M+K]等)の生成を抑制することができる。アルキルホスホン酸としては、ホスホン酸基を1個含む、ホスホン酸(Phosphonic acid)、メチルホスホン酸(Methylphosphonic acid)、フェニールホスホン酸(Phenylphosphonic acid)、1-ナフチルメチルホスホン酸(1-Naphthylmethylphosphonic acid)などが挙げられ、ホスホン酸基を2個以上含む化合物として、メチレンジホスホン酸(Methylenediphosphonic acid)、エチレンジホスホン酸(Ethylenediphosphonic acid)、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸(Ethane-1-hydroxy-1,1-diphosphonic acid)、ニトリロトリホスホン酸(Nitrilotriphosphonic acid)、エチレンジアミノテトラホスホン酸(Ethylenediaminetetraphosphonic acid)などが挙げられるが、本発明の好ましい形態としては、アルキルホスホン酸としてメチレンジホスホン酸(MDPNA)を用いることができる。
【0016】
界面活性剤は、主に微生物の構成成分の溶解性を向上するために用いられる。界面活性剤としては、膜タンパク質など、細胞中のタンパク質の抽出に用いられる界面活性剤を挙げることができ、特にタンパク質を変性させずに抽出することができる界面活性剤を用いることが好ましい。このような界面活性剤としては、非イオン系界面活性剤である、デシル-β-D-マルトピラノシド(decyl-β-D-maltopyranoside(DMP))、N-デシル-β-D-マルトピラノシド(N-decyl-β-D-maltopyranoside)、N-オクチル-β-D-グラクトピラノシド(N-octyl-β-D-glactopyranoside)、N-ドデシル-β-D-マルトシド(N-dodecyl-β-D-maltoside)、N-オクチル-β-D-グルコピラノシド(N-octyl-β-D-glucopyranoside)などが挙げられ、両イオン性界面活性剤である、two zwitterionic surfactants、N,N-ジメチルドデシルアミン-N-オキシド(N,N-dimethyldodecylamine-N-oxide)、zwittergent 3-12などが挙げられるが、本発明の好ましい形態としては、界面活性剤としてDMPを用いることができる。
【0017】
マトリックス物質としては、分析対象となる微生物の種類や微生物の同定レベル(科、属、種、亜種、病原型、血清型、株等)に応じた適宜の物質を選択することができる。そのようなマトリックス物質として、シナピン酸(Sinapinic acid (SA))、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸 (α-cyano-4-hydroxycinnamic acid (CHCA))、フェルラ酸(ferulic acid (FA))などが挙げられるが、本発明の好ましい形態としては、マトリックス物質としてSAを用いることができる。一般に、SAは、MALDI分析において、タンパク質などの高質量分子の分析に有効であることが知られている。
【0018】
上記微生物分析方法においては、前記マトリックス・添加剤混合溶液は、30~70%(好ましくは、50%)のアセトニトリル(ACN)と0.1~3.0%(好ましくは、0.6%~1%)のトリフルオロ酢酸(TFA)を含む水溶液に、前記マトリックス物質を10~30mg/mL(好ましくは、25mg/mL)、MDPNAを0.1~5%(好ましくは、1%)、DMPを0.1~10mM(好ましくは、1mM)含むように溶解して調製すると良い。ここで述べている、マトリックス・添加剤混合溶液に含まれる好適な物質の種類、各物質の好適な混合比率や濃度は、一般的知見や実験事実に基づいている。なお、本明細書では、「%」は、特に断らない限り「重量%」を意味するものとする。
【0019】
また、本発明の微生物分析方法は、
10~30mg/mLのシナピン酸を含むエタノール溶液、あるいはシナピン酸のエタノ-ル飽和溶液をサンプルプレート上に滴下し、乾燥させる工程と、
前記マトリックス物質を含む溶液と被検微生物を混合してマトリックス・微生物混合溶液を調製する工程と、
前記サンプルプレート上に滴下された前記エタノール溶液、あるいは前記エタノール飽和溶液の乾燥物の上にさらに前記マトリックス・微生物混合溶液を滴下し、乾燥させる工程と
を備える。
【0020】
また、本発明の微生物分析方法は、被検微生物を含む試料について得られたマススペクトルにおける質量電荷比m/z 10000以上の高質量領域を含む質量域を、データベースに格納されているマススペクトルパターンと比較した結果に基づいて被検微生物を同定する。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る微生物分析方法によれば、MALDI-MSを用いて微生物を分析する際にマトリックス添加剤としてアルキルホスホン酸及び界面活性剤の少なくとも一方を用いたため、微生物に由来するピークを高い感度で検出することができる。特に、本発明者の行った実験によると、上記方法では特にマススペクトルの質量電荷比m/z 10000以上の高質量領域で感度が向上することが確認された。しかも、本発明では、マトリックス添加剤を予めマトリックス物質と混合しておくため、サンプルプレート上で試料を調製する工程が少なくなり、試料の調製にかかる手間を減らすことができるとともに試料の調製にかかる時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】被検微生物として大腸菌(E. coli DH5α Electro-Cells)を用いた実施例1で得られたマススペクトルの質量電荷比m/z 7000-20000の領域を示す図。
図2】被検微生物として大腸菌(E. coli DH5α Electro-Cells)を用いた実施例1で得られたマススペクトルの質量電荷比m/z 20000-40000の領域を示す図。
図3】被検微生物として大腸菌(E. coli DH5α Electro-Cells)を用いた実施例1で得られた別のマススペクトルの質量電荷比m/z 7000-20000の領域を示す図。
図4A】被検微生物として大腸菌(E. coli DH5α Electro-Cells)を用いた実施例1で得られた別のマススペクトルの質量電荷比m/z 20000-33000の領域を示す図であって、縦軸を同じ強度で調整した図。
図4B】被検微生物として大腸菌(E. coli DH5α Electro-Cells)を用いた実施例1で得られた別のマススペクトルの質量電荷比m/z 20000-33000の領域を示す図であって、縦軸を相対強度で調整した図。
図5】被検微生物としてサルモネラ・エンテリカ(血清型Infantis, jfrlSe 1402-4)を用いた実施例2で得られたマススペクトルの質量電荷比m/z 9000-20000の領域を示す図。
図6A】被検微生物としてサルモネラ・エンテリカ(血清型Infantis, jfrlSe 1402-4)を用いた実施例2で得られたマススペクトルの質量電荷比m/z 20000-34000の領域を示す図であって、縦軸を同じ強度で調整した図。
図6B】被検微生物としてサルモネラ・エンテリカ(血清型Infantis, jfrlSe 1402-4)を用いた実施例2で得られたマススペクトルの質量電荷比m/z 20000-34000の領域を示す図であって、縦軸を相対強度で調整した図。
図6C】被検微生物としてサルモネラ・エンテリカ(血清型Infantis, jfrlSe 1402-4)を用いた実施例2で得られたマススペクトルの質量電荷比m/z 40000-90000の領域を示す図であって、縦軸を相対強度で調整した図。
図7】被検微生物としてサルモネラ・エンテリカ(血清型Infantis, jfrlSe 1402-4)を用いた実施例2で得られたマススペクトルの質量電荷比m/z 20000-40000の領域を示す図。
図8】被検微生物としてサルモネラ・エンテリカ(血清型Infantis, jfrlSe 1402-4)を用いた実施例2で得られたマススペクトルの質量電荷比m/z 20000-34000の領域を示す図。
図9】被検微生物としてサルモネラ・エンテリカ(血清型Infantis, jfrlSe 1402-4)を用いた実施例2で得られたマススペクトルの質量電荷比m/z 40000-90000の領域を示す図。
図10】被検微生物としてサルモネラ・エンテリカ(血清型Typhimurium, NBRC 13245)を用いた実施例3で得られたマススペクトルの質量電荷比m/z 10000-20000の領域を示す図。
図11】被検微生物としてサルモネラ・エンテリカ(血清型Typhimurium, NBRC 13245)を用いた実施例3で得られたマススペクトルの質量電荷比m/z 20000-40000の領域を示す図。
図12】被検微生物としてサルモネラ・エンテリカ(血清型Typhimurium, NBRC 13245)を用いた実施例3で得られたマススペクトルの質量電荷比m/z 40000-90000の領域を示す図。
図13】被検微生物としてサルモネラ・エンテリカ(血清型Typhimurium, NBRC 13245)を用いた実施例3で得られたマススペクトルの質量電荷比m/z 20000-40000の領域を示す図。
図14】被検微生物としてサルモネラ・エンテリカ(血清型Typhimurium, NBRC 13245)を用いた実施例3で得られたマススペクトルの質量電荷比m/z 40000-90000の領域を示す図。
図15】被検微生物としてサルモネラ・エンテリカ(血清型Orion, jfrlSe 1402-15)を用いた実施例4で得られたマススペクトルの質量電荷比m/z 9000-20000の領域を示す図。
図16】被検微生物としてサルモネラ・エンテリカ(血清型Orion, jfrlSe 1402-15)を用いた実施例4で得られたマススペクトルの質量電荷比m/z 20000-40000の領域を示す図。
図17】被検微生物としてサルモネラ・エンテリカ(血清型Orion, jfrlSe 1402-15)を用いた実施例4で得られたマススペクトルの質量電荷比m/z 20000-34000の領域を示す図。
図18】被検微生物としてサルモネラ・エンテリカ(血清型Orion, jfrlSe 1402-15)を用いた実施例4で得られたマススペクトルの質量電荷比m/z 38000-90000の領域を示す図。
図19】被検微生物としてサルモネラ・エンテリカ(血清型Orion, jfrlSe 1402-15)を用いた実施例4で得られたマススペクトルの質量電荷比m/z 20000-40000の領域を示す図。
図20】被検微生物としてサルモネラ・エンテリカ(血清型Orion, jfrlSe 1402-15)を用いた実施例4で得られたマススペクトルの質量電荷比m/z 20000-34000の領域を示す図。
図21】被検微生物としてサルモネラ・エンテリカ(血清型Orion, jfrlSe 1402-15)を用いた実施例4で得られたマススペクトルの質量電荷比m/z 40000-90000の領域を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る微生物分析方法では、分析対象となる微生物(以下、被検微生物)の構成成分を含む試料を調製し、これをMALDI-MSにセットして質量分析を実行することによりマススペクトルを得る。そして、得られたマススペクトルをデータベースに格納されているマススペクトルパターンと比較することにより被検微生物の種類(微生物が属する分類群(科、属、種、亜種、病原型、血清型、株等)を同定することができる。詳しくは後述するように、本発明に係る微生物分析方法では、得られたマススペクトルのうち、特に質量電荷比m/z 10000以上の高質量領域において高い感度で微生物の分子量情報を得ることができるため、該高質量領域に被検微生物の同定に有効なマーカーピークが存在するような微生物の同定に好適である。
【0024】
MALDI-MSとしては、MALDI飛行時間型質量分析装置(MALDI-TOF
MS)を用いることが好ましい。MALDI-TOFMSは測定可能な質量電荷比の範囲が非常に広いため、微生物の構成成分であるタンパク質のような高質量分子の分析に適したマススペクトルを取得することができる。
【0025】
被検微生物の構成成分としては、細胞抽出物又は細胞抽出物からリボソームタンパク質等の細胞構成成分を精製したものの他、菌体や細胞懸濁液をそのまま使用することができる。
【0026】
本発明に係る微生物分析方法では、マトリックス添加剤としてのアルキルホスホン酸又は/及び界面活性剤を、予めマトリックス物質と混合してマトリックス・添加剤混合溶液を作製しておき、このマトリックス・添加剤混合溶液を用いてMALDI-MS分析のための試料調製を行う。
【0027】
アルキルホスホン酸及び界面活性剤の少なくとも一方と、マトリックス物質とを、それぞれが所定の濃度となるように、溶媒に溶解することによりマトリックス・添加剤混合溶液が得られる。あるいは、マトリックス溶液(マトリックス物質を溶媒に溶解したもの)とマトリックス添加剤溶液(マトリックス添加剤を溶媒に溶解したもの)を準備し、これらを混合してマトリックス・添加剤混合溶液を作製しても良い。
【0028】
マトリックス・添加剤混合溶液に加えるマトリックス添加剤としてアルキルホスホン酸を用いるとアルカリ金属アダクトイオンの生成を抑えることができる。このため、マススペクトルで背景ノイズとなるアルカリ金属アダクトイオンのピーク検出が抑制され、微生物の構成成分に由来するピークが観察し易くなり、微生物の構成成分に由来するピークの検出感度が改善されることが期待できる。
【0029】
マトリックス・添加剤混合溶液に加えるマトリックス添加剤として界面活性剤を用いると、被検微生物の構成成分を含む溶液(試料溶液)とマトリックス・添加剤混合溶液を混合する際、被検微生物の溶解性が高まることが考えられる。このため、溶解性が低く、分析困難だった試料のピーク検出が、改善されることが期待できる。
【0030】
マトリックス・添加剤混合溶液に用いる溶媒としては、水とアセトニトリル(ACN)の混合溶液や、水とACNの混合溶液にさらにトリフルオロ酢酸(TFA)、トリクロロ酢酸、あるいは酢酸等の有機酸を加えた混合溶液を用いることができる。マトリックス・添加剤混合溶液の溶媒に有機酸を加えることにより、被検微生物のプロトン化分子([M+H])あるいはその関連イオンのピークを、感度高く検出することが期待できる。
【0031】
サンプルプレートに、被検微生物を塗布した後、あるいは被検微生物の構成成分を含む溶液を滴下した後、さらにその上にマトリックス・添加剤混合溶液を滴下し、乾燥させることにより、被検微生物の構成成分とマトリックスの混合結晶が得られる。この混合結晶が、MALDI-MS分析のための試料となる。従来は、サンプルプレートにマトリックス溶液と添加剤溶液を順に滴下することで両者を混合していたが、本発明は、予めマトリックス物質と添加剤を混合した混合溶液を作製するため、サンプルプレートに溶液を滴下する工程を少なくすることができる。なお、マトリックス・添加剤混合溶液と被検微生物の構成成分を予め混合し、これをサンプルプレートに滴下した後、乾燥させて混合結晶を得るようにしても良く、この場合は、さらに、サンプルプレート上で試料を調製する工程を少なくすることができる。
【0032】
以下、本発明に係る微生物分析方法をいくつかの実施例によって説明するが、これらは単なる例示であって、本発明はこれらに限定されるものではない。特に、各実施例において用いられているマトリックス溶液、マトリックス・添加剤混合溶液、添加剤溶液等の各種溶液に含まれる物質の種類や各物質の混合比率や濃度は一例であって、当業者の一般常識に基づいて調製可能な範囲で変更することが可能であり、そのような範囲であれば以下の実施例と同等の作用効果が得られるものと思われる。
【0033】
以下の各実施例では、本発明に係る微生物分析方法に従って調製した試料をMALDI-MSで分析するとともに、前記試料の効果の確認のため、本発明とは別の2種類の方法で試料を調製し、この試料もMALDI-MSで分析した。
詳しくは後述するように、本発明では、マトリックス溶液に予めマトリックス添加剤を混合したもの(マトリックス・添加剤混合溶液)を試料の調製に用いる。例えば、マトリックス・添加剤混合溶液を作製後、このマトリックス・添加剤混合溶液と被検微生物を予め混合し、これをサンプルプレートに滴下して試料を調製する方法を用いる。以下、この方法を「添加剤のpre-mix法」と呼ぶこととする。
また、本発明とは別の方法のうちの一つは、マトリックス物質と被検微生物の混合溶液をサンプルプレート上に滴下し、その上にマトリックス添加剤溶液を滴下して試料を調製する方法である。以下、この方法を「添加剤の後載せ法」と呼ぶこととする。
さらに、もう一つの別の方法は、マトリックス添加剤を用いずに、マトリックス溶液のみで試料を調製する方法であり、以下、この方法を「添加剤なし法」と呼ぶこととする。
【実施例0034】
<1.被検微生物>
被検微生物として、市販されている大腸菌DH5α エレクトロセル(E. coli DH5α Electro-Cells、製品コード:TKR 9027、タカラバイオ株式会社)を用いた。大腸菌DH5α エレクトロセルは、大腸菌DH5α株を含む溶液からなるため、以下では「被検微生物溶液」という。
【0035】
<2-1.マトリックス溶液の調製>
50%のアセトニトリル(ACN)と0.6%のトリフルオロ酢酸(TFA)溶液を含む水溶液に、シナピン酸(SA、和光純薬工業株式会社)を25mg/mL含むように溶解して、マトリックス溶液を調製した。このマトリックス溶液を「SA-2」とする。
【0036】
<2-2.マトリックス・添加剤混合溶液の調製>
本実施例では、以下の3種類のマトリックス・添加剤混合溶液を準備した。
(1)50%のACNと0.6%のTFA溶液を含む水溶液に、SAを25mg/mL、メチレンジホスホン酸(MDPNA)を1%(重量%、以下同じ)含むように溶解して、マトリックス・添加剤混合溶液を調製した。このマトリックス・添加剤混合溶液を「SA-3」とする。
(2)50%のACNと0.6%のTFA溶液を含む水溶液に、SAを25mg/mL、界面活性剤であるデシル-β-D-マルトピラノシド(decyl-β-D-maltopyranoside、DMP)を1mM含むように溶解して、マトリックス・添加剤混合溶液を調製した。このマトリックス・添加剤混合溶液を「SA-4」とする。
(3)50%のACNと0.6%のTFA溶液を含む水溶液に、SAを25mg/mL、MDPNAを1%、DMPを1mM含むように溶解して、マトリックス・添加剤混合溶液を調製した。このマトリックス・添加剤混合溶液を「SA-5」とする。
<2-3.添加剤溶液の調製>
本実施例では、以下の2種類の添加剤溶液を準備した。
(1)50%のACNと0.6%のTFA溶液を含む水溶液に、MDPNAを1%含むように溶解して、添加剤溶液を調製した。この添加剤溶液を「A-1」とする。
(2)50%のACNと0.6%のTFA溶液を含む水溶液に、DMPを1mM含むように溶解して、添加剤溶液を調製した。この添加剤溶液を「A-2」とする。
【0037】
<3.質量分析>
試料の分析には、MALDI-飛行時間型質量分析装置(MALDI-TOFMS、株式会社島津製作所製、商品名:AXIMA-Performance)を用い、リニアモード(ポジティブイオンモード)で測定した。データは全てラスター分析により取得した。ラスター分析は、上述の質量分析装置が備える自動測定機能であり、サンプルプレートの各ウェル内の試料に対して、予め設定されたポイント数、ショット数でレーザ照射し、マススペクトルデータを取得する手法である。本実施例では、サンプルプレート上の4個のウェル(n=4)に対してレーザ照射を行い、マススペクトルデータを取得するデータ採取作業を、複数の被検微生物に対して複数回行った。
【0038】
<4.試料の調製>
<4.1 添加剤のpre-mix法による試料の調製>
(1) まず、被検微生物溶液を、3種類のマトリックス・添加剤混合溶液SA-3~SA-5それぞれで50倍に希釈し、マトリックス・添加剤・微生物混合溶液を調製した。
(2) 次に、マトリックス・添加剤・微生物混合溶液1μLを、サンプルプレートの各ウェルに滴下した。
(3) 続いて、各ウェル内のマトリックス・添加剤・微生物混合溶液を乾燥させた後、得られたマトリックス・微生物混合結晶を試料とした。
【0039】
<4.2 添加剤の後載せ法による試料の調製>
(1) まず、被検微生物溶液をマトリックス溶液SA-2を用いて50倍希釈し、マトリックス・微生物混合溶液を調製した。
(2) 次に、1μLのマトリックス・微生物混合溶液をサンプルプレートの各ウェルに滴下し、乾燥させた。
(3) 続いて、各ウェル内のマトリックス・微生物混合溶液の上に添加剤溶液A-1を1μL滴下したもの、添加剤溶液A-2を1μL滴下したものを作製し、それぞれ乾燥させて、得られたマトリックス・微生物混合結晶を試料とした。
【0040】
<4.3 添加剤なし法による試料の調製>
(1) まず、被検微生物溶液をマトリックス溶液SA-2を用いて50倍希釈し、マトリックス・微生物混合溶液を調製した。
(2) 次に、マトリックス・微生物混合溶液をサンプルプレートの各ウェルに滴下した。
(3)続いて、ウェル内のマトリックス・微生物混合溶液を乾燥させた後、得られたマトリックス・微生物混合結晶を試料とした。
【0041】
なお、上記の試料調製は、作業者が手作業で行っても良いが、自動滴下装置を用いることもできる。また、サンプルプレートの各ウェルに滴下された溶液は、自然乾燥させても良く、温風を供給して乾燥させても良い。
【0042】
<5.結果>
図1図2図3図4A、及び図4Bに、実施例1で得られたマススペクトルを示す。
図1及び図2の(A)、(B)は、それぞれマトリックス・添加剤混合溶液としてSA-5、SA-3を用いた添加剤pre-mix法により調製した試料のマススペクトルである。図1及び図2の(C)は、いずれも、添加剤溶液A-1を用いた添加剤後載せ法により調製した試料のマススペクトルである。図1及び図2の(D)は、いずれも、添加剤なし法により調製した試料のマススペクトルである。図1には、質量電荷比m/z 7000~20000の領域のマススペクトルが、図2には、質量電荷比m/z 20000~40000の領域のマススペクトルが示されている。
【0043】
図1に示すように、質量電荷比m/z 7000~20000の領域では、添加剤後載せ法のマススペクトル(C)は、添加剤なし法のマススペクトル(D)とはやや異なるピークプロファイルを示したが、添加剤pre-mix法のマススペクトル(A、B)は、いずれも、添加剤なし法のマススペクトル(D)とほぼ同じピークプロファイルを示した。
【0044】
また、図2に示すように、質量電荷比m/z 20000~40000の領域では、添加剤なし法のマススペクトル(D)と比べて、添加剤後載せ法のマススペクトル(C)及び添加剤pre-mix法のマススペクトル(A、B)は、いずれもピーク強度あるいはS/Nの向上が確認された。特に、添加剤pre-mix法のうち、マトリックス添加剤としてMDPNAとDMPの両方をマトリックス物質と混合したマトリックス・添加剤混合溶液SA-5を用いて調製した試料のマススペクトル(A)では、高質量側の背景ノイズが低減され、ピークが高感度に検出された。
【0045】
図3図4A、及び図4Bの(A)、(B)は、それぞれマトリックス・添加剤混合溶液としてSA-5、SA-4を用いた添加剤pre-mix法により調製した試料のマススペクトルである。図3図4A、及び図4Bの(C)は、いずれも、添加剤溶液A-2を用いた添加剤後載せ法により調製した試料のマススペクトルである。図3図4A、及び図4Bの(D)は、いずれも、添加剤なし法により調製した試料のマススペクトルである。図3には、質量電荷比m/z 7000~20000の領域のマススペクトルが、図4A及び図4Bには、質量電荷比m/z 20000~33000の領域のマススペクトルが示されている。図4Aでは、(A)~(D)の縦軸のスケールを同じ強度で調整したが、図4Bでは、ピークプロファイルの比較のために、他のデータと同様に、相対強度でピーク高さを示すよう縦軸のスケールを調整した。
【0046】
図3に示すように、質量電荷比m/z 7000~20000の領域では、添加剤後載せ法のマススペクトル(C)は、添加剤なし法のマススペクトル(D)とはやや異なるピークプロファイルを示した。一方、添加剤のpre-mix法のマススペクトル(A、B)は、マトリックス・添加剤混合溶液としてSA-5、SA-4のいずれを用いた場合においても、添加剤なし法のマススペクトルとピークプロファイルがほぼ同じだった。
【0047】
また、図4A図4Bに示すように、質量電荷比m/z 20000~33000の領域では、添加剤pre-mix法のマススペクトル(A、B)は、添加剤なし法のマススペクトル(D)とほぼ同じピークプロファイルを示し、さらに、添加剤なし法のマススペクトルに現れなかったピークが観測され、ピーク強度あるいはS/Nの向上が確認された。
【0048】
以上の結果より、添加剤pre-mix法による試料調製は、特に高質量領域の感度向上に有効であることが分かった。また、ピークプロファイルの変化を起こさず感度向上するため、ピーク強度の逆転などによるサプレッション効果に由来するピークの消失を防ぎ、結果的に、添加剤を加える前に使用していた自己キャリブレ-ションピークをそのまま使用し続けることができる、添加剤を加える前のタ-ゲットピークを逃さず高感度化できるなどの効果が確認された。しかも、添加剤pre-mix法のサンプルプレートへの滴下工程数は、添加剤なし法と同じであり、試料を迅速に分析することが可能となった。
【実施例0049】
<1.被検微生物>
被検微生物として、野外分離株より単離したサルモネラ・エンテリカの血清型Infantis, 菌株名jfrlSe 1402-4(LB寒天培地、37℃で20 h培養)を用いた。
【0050】
<2-1.マトリックス溶液の調製>
エタノール溶液に、シナピン酸(SA)を25mg/mL含むように溶解して、マトリックス溶液(飽和溶液)を調製した。このマトリックス溶液を「SA-1」とする。
また、実施例1と同じ溶媒及びマトリックス物質を用いてマトリックス溶液SA-2を調製した。
【0051】
<2-2.マトリックス・添加剤混合溶液の調製>
実施例1と同じ溶媒及びマトリックス物質の組み合わせで、3種類のマトリックス・添加剤混合溶液SA-3、SA-4、及びSA-5を準備した。
【0052】
<2-3.添加剤溶液の調製>
実施例1と同じ溶媒及びマトリックス添加剤の組み合わせで添加剤溶液A-1を準備した。
【0053】
<3.質量分析>
試料の分析には、実施例1と同じく、MALDI-飛行時間型質量分析装置(MALDI-TOFMS、株式会社島津製作所製、商品名:AXIMA-Performance)を用い(リニアモード(ポジティブイオンモード))、同じ方法でデータを取得した。
【0054】
<4.試料の調製>
<4.1 添加剤のpre-mix法による試料の調製>
(1) まず、10μLの3種類のマトリックス・添加剤混合溶液SA-3~SA-5のそれぞれに被検微生物のコロニー数個分を懸濁し、SA-3~SA-5/試料懸濁液を調製した。
(2) 次に、サンプルプレートのウェルに、マトリックス溶液SA-1を0.5μL滴下した後、乾燥させ、その上に、3種類のSA-3~SA-5/試料懸濁液のいずれかを1.2μL滴下した。
(3) 続いて、サンプルプレートの各ウェル内のSA-3~SA-5/試料懸濁液を乾燥させ、得られたマトリックス・微生物混合結晶を試料とした。
【0055】
<4.2 添加剤の後載せ法による試料の調製>
(1) まず、被検微生物のコロニー数個分を、10μLのマトリックス溶液SA-2に懸濁し、SA-2/試料懸濁液を調製した。
(2) 次に、サンプルプレートの各ウェルに、マトリックス溶液SA-1を0.5μL滴下した後、乾燥させ、さらにその上に、SA-2/試料懸濁液を1.2μL滴下した。
(3) 続いて、サンプルプレートの各ウェル内のSA-2/試料懸濁液を乾燥させ、その上に添加剤溶液A-1を1μL滴下し、乾燥させた。
(4) (3)で得られたマトリックス・微生物混合結晶を試料とした。
【0056】
<4.3 添加剤なし法による試料の調製>
(1) まず、被検微生物のコロニー数個分を、10μLのマトリックス溶液SA-2に懸濁し、SA-2/試料懸濁液を調製した。
(2) 次に、サンプルプレート上に、マトリックス溶液SA-1を0.5μL滴下した後、乾燥させ、その上に、SA-2/試料懸濁液を1.2μL滴下した。
(3) 各ウェル内のSA-2/試料懸濁液を乾燥させた後、得られたマトリックス・微生物混合結晶を試料とした。
【0057】
<5.結果>
図5図9に実施例2で得られたマススペクトルを示す。
図5及び図6A図6Cの(A)、(B)は、それぞれマトリックス・添加剤混合溶液として、SA-5、SA-3を用いた添加剤pre-mix法により調製した試料のマススペクトルである。図5及び図6A図6Cの(C)はいずれも、添加剤後載せ法により調製した試料のマススペクトルである。図5及び図6A図6Cの(D)は、いずれも、添加剤なし法により調製した試料のマススペクトルである。図5には、質量電荷比m/z 9000~20000の領域のマススペクトルが、図6A~6Bには、質量電荷比m/z 20000~34000の領域のマススペクトルが、図6Cには、質量電荷比m/z 40000~90000の領域のマススペクトルが示されている。
【0058】
図5に示すように、質量電荷比m/z 9000~20000の領域では、添加剤後載せ法のマススペクトル(C)は、添加剤なし法のマススペクトル(D)とやや異なるピークプロファイルを示したが、添加剤pre-mix法のマススペクトル(A)、(B)は、添加剤なし法のマススペクトル(D)とほぼ同じピークプロファイルを示した。
【0059】
また、図6A及び図6Bに示す質量電荷比m/z 20000~34000の領域では、添加剤なし法のマススペクトル(D)と比べて、添加剤pre-mix法、及び添加剤後載せ法のマススペクトル(A~C)は、ピーク強度あるいはS/Nの向上が確認された。
さらに、図6Cに示す質量電荷比m/z 40000~90000の高質量領域においても、添加剤なし法のマススペクトル(D)と比べて、添加剤pre-mix法、及び添加剤後載せ法のマススペクトル(A~C)は、ピーク強度あるいはS/Nの向上が確認された。特に、質量電荷比m/z 40000以上の高質量領域では、添加剤後載せ法によりピークが高感度に検出された。尚、添加剤をpre-mix法で加える場合は、プリパレーションの滴下工程は、添加剤なし法と同じである。
【0060】
図7図9の(A)及び(B)は、それぞれマトリックス・添加剤混合溶液として、SA-5、SA-4を用いた添加剤pre-mix法により調製した試料のマススペクトルである。図7図9の(C)はいずれも、添加剤なし法により調製した試料のマススペクトルである。図7には、質量電荷比m/z 20000~40000の領域のマススペクトルが、図8には、質量電荷比m/z 20000~34000の領域のマススペクトルが、図9には、質量電荷比m/z 40000~90000の領域のマススペクトルが示されている。
【0061】
図7に示すように、質量電荷比m/z 20000~40000の領域では、添加剤pre-mix法のマススペクトル(A、B)は、添加剤なし法のマススペクトル(C)と同じピークプロファイルを示した。
【0062】
また、図8に示す質量電荷比m/z 20000~34000の領域、及び図9に示す質量電荷比m/z 40000~90000の領域では、添加剤なし法のマススペクトル(C)と比べて、添加剤pre-mix法のマススペクトル(A、B)は、ピーク強度あるいはS/Nの向上が確認された。特に、質量電荷比m/z 20000以上の高質量領域では、添加剤pre-mix法によりピークが高感度に検出された。
【0063】
以上の結果より、添加剤pre-mix法による試料調製は、特に高質量領域の感度向上に有効であることが分かった。また、ピークプロファイルの変化を起こさず感度向上するため、ピーク強度の逆転などによるサプレッション効果に由来するピークの消失を防ぎ、結果的に、添加剤を加える前に使用していた自己キャリブレ-ションピークをそのまま使用し続けることができる、添加剤を加える前のタ-ゲットピークを逃さず高感度化できるなどの効果が確認された。しかも、添加剤pre-mix法のサンプルプレートへの滴下工程数は、添加剤なし法と同じであり、試料を迅速に分析することが可能となった。
【実施例0064】
<1.被検微生物>
被検微生物として、サルモネラ・エンテリカの血清型Typhimurium, NBRC 13245(LB寒天培地、37℃で20時間培養)を用いた。
【0065】
<2-1.マトリックス溶液の調製>
実施例2と同じ溶媒及びマトリックス物質の組み合わせで、マトリックス溶液SA-1、SA-2を調製した。
【0066】
<2-2.マトリックス・添加剤混合溶液の調製>
実施例1及び実施例2と同じ溶媒及びマトリックス物質の組み合わせで、3種類のマトリックス・添加剤混合溶液SA-3、SA-4、及びSA-5を準備した。
【0067】
<2-3.添加剤溶液の調製>
実施例2と同じ溶媒及びマトリックス添加剤の組み合わせで添加剤溶液A-1を準備した。
【0068】
<3.質量分析>
試料の分析には、実施例1と同じく、MALDI-飛行時間型質量分析装置(MALDI-TOFMS、株式会社島津製作所製、商品名:AXIMA-Performance)を用い(リニアモード(ポジティブイオンモード))、同じ方法でデータを取得した。
【0069】
<4.試料の調製>
<4.1 添加剤のpre-mix法による試料の調製>
(1) まず、10μLの3種類のマトリックス・添加剤混合溶液SA-3~SA-5のそれぞれに被検微生物のコロニー数個分を懸濁し、SA-3~SA-5/微生物懸濁液を調製した。
(2) 次に、サンプルプレートのウェルに、マトリックス溶液SA-1を0.5μL滴下した後、乾燥させ、その上に、3種類のSA-3~SA-5/微生物懸濁液のいずれかを1.2μL滴下した。
(3) 続いて、サンプルプレートの各ウェル内のSA-3~SA-5/微生物懸濁液を乾燥させ、得られたマトリックス・微生物混合結晶を試料とした。
【0070】
<4.2 添加剤の後載せ法による試料の調製>
(1) まず、被検微生物のコロニー数個分を、10μLのマトリックス溶液SA-2に懸濁し、SA-2/微生物懸濁液を調製した。
(2) 次に、サンプルプレートの各ウェルに、マトリックス溶液SA-1を0.5μL滴下した後、乾燥させ、さらにその上に、SA-2/微生物懸濁液を1.2μL滴下した。
(3) 続いて、サンプルプレートの各ウェル内のSA-2/微生物懸濁液を乾燥させ、その上に添加剤溶液A-1を1μL滴下し、乾燥させた。
(4) (3)で得られたマトリックス・微生物混合結晶を試料とした。
【0071】
<4.3 添加剤なし法による試料の調製>
(1) まず、被検微生物のコロニー数個分を、10μLのマトリックス溶液SA-2に懸濁し、SA-2/微生物懸濁液を調製した。
(2) 次に、サンプルプレート上に、マトリックス溶液SA-1を0.5μL滴下した後、乾燥させ、その上に、SA-2/微生物懸濁液を1.2μL滴下した。
(3) 各ウェル内のSA-2/微生物懸濁液を乾燥させた後、得られたマトリックス・微生物混合結晶を試料とした。
【0072】
<5.結果>
図10図14に実施例3で得られたマススペクトルを示す。
図10図12の(A)及び(B)は、それぞれマトリックス・添加剤混合溶液として、SA-5、SA-3を用いた添加剤pre-mix法により調製した試料のマススペクトルである。図10図12の(C)は、いずれも、添加剤溶液A-1を用いた添加剤後載せ法により調製した試料のマススペクトルである。図10図12の(D)は、いずれも、添加剤なし法により調製した試料のマススペクトルである。
図10は質量電荷比m/z 10000~20000の領域のマススペクトルが、図11には質量電荷比m/z 20000~40000の領域のマススペクトルが、図12には質量電荷比m/z 40000~90000のマススペクトルが示されている。
【0073】
図10に示すように、質量電荷比m/z 10000~20000のマススペクトルでは、添加剤後載せ法のマススペクトル(C)は、添加剤なし法のマススペクトル(D)と比べて、やや異なるピークプロファイルを示すが、添加剤pre-mix法のマススペクトル(A、B)は、添加剤なし法のマススペクトル(D)とピークプロファイルがほぼ同じであった。
また、図11の質量電荷比m/z 20000~40000の領域、図12の質量電荷比m/z 40000~90000の領域では、添加剤なし法のマススペクトル(D)と比べて、添加剤pre-mix法及び添加剤後載せ法のマススペクトル(A、B、C)では、ピーク強度及びS/Nの向上が確認された。
特に、質量電荷比m/z 40000以上の領域では、添加剤後載せ法(C)のマススペクトルにおいて高強度のピークが確認された。
【0074】
図13及び図14の(A)及び(B)は、それぞれマトリックス・添加剤混合溶液として、SA-5、SA-4を用いた添加剤pre-mix法により調製した試料のマススペクトルである。図13及び図14の(C)はいずれも、添加剤なし法により調製した試料のマススペクトルである。図13には、質量電荷比m/z 20000~40000の領域のマススペクトルが、図14には、質量電荷比m/z 40000~90000の領域のマススペクトルが示されている。
【0075】
図13に示すように、質量電荷比m/z 20000~40000の領域では、添加剤pre-mix法のマススペクトル(A、B)は、添加剤なし法のマススペクトル(C)と同じピークプロファイルを示した。また、添加剤pre-mix法のマススペクトル(A、B)は、添加剤なし法のマススペクトル(C)と比べ、ピーク強度及びS/Nの向上が確認された。
【0076】
また、図14に示す質量電荷比m/z 40000~90000の領域では、添加剤なし法のマススペクトル(C)と比べて、添加剤pre-mix法のマススペクトル(A)は、わずかではあるがS/Nの向上が確認された。
以上の結果より、添加剤pre-mix法による試料調製は、特に高質量領域の感度向上に有効であることが分かった。また、ピークプロファイルの変化を起こさず感度向上するため、ピーク強度の逆転などによるサプレッション効果に由来するピークの消失を防ぎ、結果的に、添加剤を加える前に使用していた自己キャリブレ-ションピークをそのまま使用し続けることができる、添加剤を加える前のタ-ゲットピークを逃さず高感度化できるなどの効果が確認された。しかも、添加剤pre-mix法のサンプルプレートへの滴下工程数は、添加剤なし法と同じであり、試料を迅速に分析することが可能となった。
【実施例0077】
<1.被検微生物>
被検微生物として、サルモネラ・エンテリカの血清型Orion, jfrlSe 1402-15(LB寒天培地、37℃で20時間培養)を用いた。
【0078】
<2-1.マトリックス溶液の調製>
実施例2、3と同じ溶媒及びマトリックス物質の組み合わせで、マトリックス溶液SA-1、SA-2を調製した。
【0079】
<2-2.マトリックス・添加剤混合溶液の調製>
実施例1及び実施例2と同じ溶媒及びマトリックス物質の組み合わせで、3種類のマトリックス・添加剤混合溶液SA-3、SA-4、及びSA-5を準備した。
【0080】
<2-3.添加剤溶液の調製>
実施例2と同じ溶媒及びマトリックス添加剤の組み合わせで添加剤溶液A-1を準備した。
【0081】
<3.質量分析>
試料の分析には、実施例1と同じく、MALDI-飛行時間型質量分析装置(MALDI-TOFMS、株式会社島津製作所製、商品名:AXIMA-Performance)を用い(リニアモード(ポジティブイオンモード))、同じ方法でデータを取得した。
【0082】
<4.試料の調製>
<4.1 添加剤のpre-mix法による試料の調製>
(1) まず、10μLの3種類のマトリックス・添加剤混合溶液SA-3~SA-5のそれぞれに被検微生物のコロニー数個分を懸濁し、SA-3~SA-5/微生物懸濁液を調製した。
(2) 次に、サンプルプレートのウェルに、マトリックス溶液SA-1を0.5μL滴下した後、乾燥させ、その上に、3種類のSA-3~SA-5/微生物懸濁液のいずれかを1.2μL滴下した。
(3) 続いて、サンプルプレートの各ウェル内のSA-3~SA-5/微生物懸濁液を乾燥させ、得られたマトリックス・微生物混合結晶を試料とした。
【0083】
<4.2 添加剤の後載せ法による試料の調製>
(1) まず、被検微生物のコロニー数個分を、10μLのマトリックス溶液SA-2に懸濁し、SA-2/微生物懸濁液を調製した。
(2) 次に、サンプルプレートの各ウェルに、マトリックス溶液SA-1を0.5μL滴下した後、乾燥させ、さらにその上に、SA-2/微生物懸濁液を1.2μL滴下した。
(3) 続いて、サンプルプレートの各ウェル内のSA-2/微生物懸濁液を乾燥させ、その上に添加剤溶液A-1又はA-2を1μL滴下し、乾燥させた。
(4) (3)で得られたマトリックス・微生物混合結晶を試料とした。
【0084】
<4.3 添加剤なし法による試料の調製>
(1) まず、被検微生物のコロニー数個分を、10μLのマトリックス溶液SA-2に懸濁し、SA-2/微生物懸濁液を調製した。
(2) 次に、サンプルプレート上に、マトリックス溶液SA-1を0.5μL滴下した後、乾燥させ、その上に、SA-2/微生物懸濁液を1.2μL滴下した。
(3) 各ウェル内のSA-2/微生物懸濁液を乾燥させた後、得られたマトリックス・微生物混合結晶を試料とした。
【0085】
<5.結果>
図15図21に実施例4で得られたマススペクトルを示す。
図15図18の(A)、(B)は、それぞれマトリックス・添加剤混合溶液として、SA-5、SA-3を用いた添加剤pre-mix法により調製した試料のマススペクトルである。図15図18の(C)はいずれも、添加剤溶液A-1を用いた添加剤後載せ法により調製した試料のマススペクトルである。図15図18の(D)は、いずれも、添加剤なし法により調製した試料のマススペクトルである。図15には、質量電荷比m/z 9000~20000の領域のマススペクトルが、図16には、質量電荷比m/z 20000~40000の領域のマススペクトルが、図17には、質量電荷比m/z 20000~34000の領域のマススペクトルが、図18には質量電荷比m/z 37000~90000の領域のマススペクトルが示されている。
【0086】
図15に示すように、質量電荷比m/z 9000~20000の領域では、添加剤後載せ法のマススペクトル(C)は、添加剤なし法のマススペクトル(D)とやや異なるピークプロファイルを示したが、添加剤pre-mix法のマススペクトル(A)、(B)は、添加剤なし法のマススペクトル(D)とほぼ同じピークプロファイルを示した。
【0087】
図16の質量電荷比m/z 20000~40000の領域、及び図17の質量電荷比m/z 20000~34000の領域では、添加剤なし法のマススペクトル(D)と比べて、添加剤pre-mix法のマススペクトル、及び添加剤後載せ法のマススペクトル(A、B、C)で、ピーク強度あるいはS/Nの向上が確認された。
【0088】
図18の質量電荷比m/z 37000~90000のマススペクトルでは、添加剤なし法(D)と比べ、添加剤pre-mix法のマススペクトル、及び添加剤後載せ法のマススペクトル(A、B、C)において、ピーク強度あるいはS/Nの向上が確認された。特に、質量電荷比m/z 40000以上の領域では、添加剤後載せ法(C)によりピークが高感度に検出された。
【0089】
図19図21の(A)及び(B)は、それぞれマトリックス・添加剤混合溶液として、SA-5、SA-4を用いた添加剤pre-mix法により調製した試料のマススペクトルである。図19図21の(C)はいずれも、添加剤なし法により調製した試料のマススペクトルである。図19には、質量電荷比m/z 20000~40000の領域のマススペクトルが、図20には、質量電荷比m/z 20000~34000の領域のマススペクトルが、図21には質量電荷比m/z 40000~90000の領域のマススペクトルが示されている。
【0090】
図19に示す質量電荷比m/z 20000~40000の領域、及び図20に示す質量電荷比m/z_20000~34000の領域では、添加剤pre-mix法のマススペクトル(A、B)は、添加剤なし法のマススペクトル(C)と同じピークプロファイルを示した。また、添加剤pre-mix法のマススペクトル(A、B)は、添加剤なし法のマススペクトル(C)と比べ、ピーク強度あるいはS/Nの向上が確認された。
【0091】
また、図21に示す、質量電荷比m/z 40000~90000の領域では、添加剤なし法のマススペクトル(C)と比べて、添加剤pre-mix法のマススペクトル(A、B)は、ピーク強度あるいはS/Nの向上が確認された。
【0092】
以上の結果より、添加剤pre-mix法による試料調製は、特に高質量領域の感度向上に有効であることが分かった。また、ピークプロファイルの変化を起こさず感度向上するため、ピーク強度の逆転などによるサプレッション効果に由来するピークの消失を防ぎ、結果的に、添加剤を加える前に使用していた自己キャリブレ-ションピークをそのまま使用し続けられる、添加剤を加える前のタ-ゲットピークを逃さず高感度化できるなどの効果が確認された。しかも、添加剤pre-mix法のサンプルプレートへの滴下工程数は、添加剤なし法と同じであり、試料を迅速に分析することが可能となった。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
【手続補正書】
【提出日】2022-07-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析装置を用いて微生物を分析する方法であって、
アルキルホスホン酸及び界面活性剤の少なくとも一方である添加剤と、マトリックス物質とを混合したマトリックス・添加剤混合溶液を、マトリックス支援レーザ脱離イオン化の際に使用し、
前記マトリックス・添加剤混合溶液と被検微生物を混合してマトリックス・添加剤・微生物混合溶液を調製する調製工程と、
前記マトリックス・添加剤・微生物混合溶液をサンプルプレートに滴下する滴下工程と、
前記マトリックス・添加剤・微生物混合溶液が滴下されたサンプルプレートをマトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析に供する分析工程と
を備えることを特徴とする微生物分析方法。
【請求項2】
前記アルキルホスホン酸がメチレンジホスホン酸である、請求項1に記載の微生物分析方法。
【請求項3】
前記界面活性剤がデシル-β-D-マルトピラノシドである、請求項1に記載の微生物分析方法。
【請求項4】
前記マトリックス物質がシナピン酸である、請求項1に記載の微生物分析方法。
【請求項5】
前記マトリックス・添加剤混合溶液が、30~70%のアセトニトリルと0.1~3%のトリフルオロ酢酸を含む水溶液に、前記マトリックス物質を10~30mg/mL、メチレンジホスホン酸を0.1~5%、デシル-β-D-マルトピラノシドを0.1~10mM含むように溶解して調製されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の微生物分析方法。
【請求項6】
前記滴下工程の前に、10~30mg/mLのシナピン酸を含むエタノール溶液、あるいはシナピン酸のエタノ-ル飽和溶液を前記サンプルプレートに滴下し、乾燥させる工程を備え
前記滴下工程は、前記サンプルプレートに滴下された前記エタノール溶液、あるいは前記エタノール飽和溶液の乾燥物の上にさらに前記マトリックス・添加剤・微生物混合溶液を滴下る、請求項1に記載の微生物分析方法。
【請求項7】
被検微生物について得られたマススペクトルのうち質量電荷比m/z 10000以上の高質量領域を含む質量域のマススペクトルパターンを、データベースに格納されているマススペクトルパターンと比較した結果に基づいて前記被検微生物の同定を行う、請求項1~6のいずれかに記載の微生物分析方法。