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特開2022-130580判定支援情報生成方法、判定支援情報生成システム、及び情報処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130580
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】判定支援情報生成方法、判定支援情報生成システム、及び情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20220830BHJP
   C07K 14/435 20060101ALN20220830BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
C07K14/435
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103805
(22)【出願日】2022-06-28
(62)【分割の表示】P 2021530241の分割
【原出願日】2021-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2020219399
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504019456
【氏名又は名称】株式会社MCBI
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】井上 真
(57)【要約】
【課題】
本技術は、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクを精度良く判定するための技法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本技術は、ヒトに由来する生体試料に含まれる2以上のバイオマーカーの量に基づき、(I)前記ヒトにおける認知機能障害又は認知機能低下の有無を示す第一指標値、及び(II)前記ヒトの認知機能障害又は認知機能低下の進行度を示す第二指標値、を算出する指標値算出工程、前記第一指標値及び前記第二指標値に基づき、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定を支援する情報を生成する支援情報生成工程、を含む判定支援情報生成方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトに由来する生体試料に含まれる2以上のバイオマーカーの量に基づき、
(I)前記ヒトにおける認知機能障害又は認知機能低下の有無を示す第一指標値、及び
(II)前記ヒトの認知機能障害又は認知機能低下の進行度を示す第二指標値、
を算出する指標値算出工程、
前記第一指標値及び前記第二指標値に基づき、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定を支援する情報を生成する支援情報生成工程、
を含み、
前記支援情報生成工程において、前記第一指標値及び前記第二指標値を用いて判定用スコアが算出され、
ここで、前記判定用スコアの値域は、判定結果が関連付けられた複数の数値範囲に予め分けられており、
当該複数の数値範囲のうちの1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは無い若しくはほぼ無いという判定結果が関連付けられており、
当該複数の数値範囲のうちの他の1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは低いという判定結果が関連付けられており、
当該複数の数値範囲のうちのさらに他の1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは中程度であるという判定結果が関連付けられており、
当該複数の数値範囲のうちのさらに他の1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは高いという判定結果が関連付けられており、
前記支援情報生成工程において、前記判定用スコアに対応する判定結果が選択される、
判定支援情報生成方法。
【請求項2】
前記支援情報は、認知機能障害のリスクの判定結果又は認知機能低下のリスクの判定結果を含む、請求項1に記載の判定支援情報生成方法。
【請求項3】
前記支援情報は、認知機能障害のリスクの判定結果を含み、
前記認知機能障害は、MCIである、
請求項1又は2に記載の判定支援情報生成方法。
【請求項4】
前記判定用スコアの値域は、一方の端に近いほど、当該ヒトにおける認知機能障害がより進行していることを示し、且つ、他方の端に近いほど、当該ヒトは認知機能障害を有さないことを示すものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の判定支援情報生成方法。
【請求項5】
前記支援情報生成工程において、前記判定用スコアの値域中の前記複数の数値範囲と、前記複数の数値範囲それぞれに関連付けられた判定結果と、を含むデータテーブルが参照され、前記判定用スコアに対応する判定結果が選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の判定支援情報生成方法。
【請求項6】
ヒトに由来する生体試料に含まれる2以上のバイオマーカーの量に基づき、
(I)前記ヒトにおける認知機能障害又は認知機能低下の有無を示す第一指標値、及び
(II)前記ヒトの認知機能障害又は認知機能低下の進行度を示す第二指標値、
を算出する指標値算出工程、
前記第一指標値及び前記第二指標値に基づき、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定を支援する情報を生成する支援情報生成工程、
を実行する情報処理装置を含み、
前記支援情報生成工程において、前記第一指標値及び前記第二指標値を用いて判定用スコアが算出され、
ここで、前記判定用スコアの値域は、判定結果が関連付けられた複数の数値範囲に予め分けられており、
当該複数の数値範囲のうちの1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは無い若しくはほぼ無いという判定結果が関連付けられており、
当該複数の数値範囲のうちの他の1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは低いという判定結果が関連付けられており、
当該複数の数値範囲のうちのさらに他の1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは中程度であるという判定結果が関連付けられており、
当該複数の数値範囲のうちのさらに他の1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは高いという判定結果が関連付けられており、
前記支援情報生成工程において、前記判定用スコアに対応する判定結果が選択される、
判定支援情報生成システム。
【請求項7】
ヒトに由来する生体試料に含まれる2以上のバイオマーカーの量に基づき、
(I)前記ヒトにおける認知機能障害又は認知機能低下の有無を示す第一指標値、及び
(II)前記ヒトの認知機能障害又は認知機能低下の進行度を示す第二指標値、
を算出する指標値算出工程、
前記第一指標値及び前記第二指標値に基づき、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定を支援する情報を生成する支援情報生成工程、
を実行するように構成されており、
前記支援情報生成工程において、前記第一指標値及び前記第二指標値を用いて判定用スコアが算出され、
ここで、前記判定用スコアの値域は、判定結果が関連付けられた複数の数値範囲に予め分けられており、
当該複数の数値範囲のうちの1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは無い若しくはほぼ無いという判定結果が関連付けられており、
当該複数の数値範囲のうちの他の1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは低いという判定結果が関連付けられており、
当該複数の数値範囲のうちのさらに他の1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは中程度であるという判定結果が関連付けられており、
当該複数の数値範囲のうちのさらに他の1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは高いという判定結果が関連付けられており、
前記支援情報生成工程において、前記判定用スコアに対応する判定結果が選択される、
情報処理装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定を支援する情報の生成方法、当該情報を生成する情報生成システム、及び情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の正常と正常以外の状態を呈する試料を用いてその差異を判別する手段としては、一般的には体外診断薬において用いられてきた技術が主たる従来技術である。体外診断薬のうち最も多いのが、血液中の成分をバイオマーカーとして分析することで 診断検査を行うものである。本分野における従来技術では、血液中の単独の特定のタンパク質若しくは分子量1万以下のいわゆるオリゴペプチドの存在量の測定、又は酵素タンパク質の場合は活性の測定を行って、正常(健常人) 試料と疾患試料との明らかな差をもって診断の一助としてきた。すなわち、あらかじめ一定数の健常人と疾患患者由来の生体試料における単独若しくは複数の特定のタンパク質若しくは特定のオリゴペプチドの量又はこれらの活性量を計測し、異常値と正常値の範囲を決める。次いで、評価する生体試料を同様の方法で測定し、測定結果がこの決まった異常値と正常値のどちらの範囲に属するかによって検査評価を行うものである。
【0003】
認知機能障害の検出に用いられるバイオマーカーに関して、例えば下記特許文献1には、(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むApolipoprotein A1のインタクトなタンパク質又はこの部分ペプチドからなる認知機能障害疾患を検出するためのバイオマーカー、(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むTransthyretinのインタクトなタンパク質又はこの部分ペプチドからなる認知機能障害疾患を検出するためのバイオマーカー、及び(c)配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むComplement C3のインタクトなタンパク質又はこの部分ペプチドからなる認知機能障害疾患を検出するためのバイオマーカーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014-207888号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本技術は、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクを精度良く判定するための技法を提供することを目的とする。認知機能障害とは、軽度認知障害(以下MCIともいう)の段階又は認知症の段階をいう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の判定支援情報が、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクを精度良く判定するために適していることを見出した。また、本発明者らは、特定のバイオマーカーの組合せが、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクを精度良く判定するために適していることも見出した。
【0007】
すなわち、本技術は、
ヒトに由来する生体試料に含まれる2以上のバイオマーカーの量に基づき、
(I)前記ヒトにおける認知機能障害又は認知機能低下の有無を示す第一指標値、及び
(II)前記ヒトの認知機能障害又は認知機能低下の進行度を示す第二指標値、
を算出する指標値算出工程、
前記第一指標値及び前記第二指標値に基づき、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定を支援する情報を生成する支援情報生成工程、
を含む、判定支援情報生成方法を提供する。
前記指標値算出工程において用いられる前記2以上のバイオマーカーの量は、以下(1)~(10)のバイオマーカーのうちの2以上のバイオマーカーの量を含んでよい:
(1)alpha-1-B-glycoprotein又はこの部分ペプチド
(2)alpha-2-antiplasmin又はこの部分ペプチド
(3)alpha-2-macroglobulin又はこの部分ペプチド
(4)albumin又はこの部分ペプチド
(5)apolipoprotein A1又はこの部分ペプチド
(6)apolipoprotein C1又はこの部分ペプチド
(7)complement component 3又はこの部分ペプチド
(8)complement component 4 gamma chain又はこの部分ペプチド
(9)hemopexin又はこの部分ペプチド
(10)transthyretin又はこの部分ペプチド
前記第一指標値は、前記(1)、(2)、(3)、(4)、(6)、(7)、(8)、及び(9)のバイオマーカーのうちの2以上を含むバイオマーカーの量に基づき算出されうる。
前記第二指標値は、前記(1)、(2)、(3)、(4)、(6)、(7)、(8)、及び(9)のバイオマーカーのうちの2以上を含むバイオマーカーの量に基づき算出されうる。
前記第一指標値は、前記ヒトが、軽度認知障害若しくは認知症を有するかを示す指標値であってよい。
前記第二指標値は、前記ヒトの認知機能障害が、軽度認知障害の段階にあるか又は認知症の段階にあるかを示す指標値であってよい。
また、本技術は、
ヒトに由来する生体試料に含まれる2以上のバイオマーカーの量に基づき、
(I)前記ヒトにおける認知機能障害又は認知機能低下の有無を示す第一指標値、及び
(II)前記ヒトの認知機能障害又は認知機能低下の進行度を示す第二指標値、
を算出する指標値算出工程、
前記第一指標値及び前記第二指標値に基づき、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定を支援する情報を生成する支援情報生成工程、
を含み、
前記支援情報生成工程において、前記第一指標値及び前記第二指標値を用いて判定用スコアが算出され、
ここで、前記判定用スコアの値域は、判定結果が関連付けられた複数の数値範囲に予め分けられており、
当該複数の数値範囲のうちの1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは無い若しくはほぼ無いという判定結果が関連付けられており、
当該複数の数値範囲のうちの他の1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは低いという判定結果が関連付けられており、
当該複数の数値範囲のうちのさらに他の1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは中程度であるという判定結果が関連付けられており、
当該複数の数値範囲のうちのさらに他の1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは高いという判定結果が関連付けられており、
前記支援情報生成工程において、前記判定用スコアに対応する判定結果が選択される、
判定支援情報生成方法も提供する。
前記支援情報は、認知機能障害のリスクの判定結果又は認知機能低下のリスクの判定結果を含みうる。
前記支援情報は、認知機能障害のリスクの判定結果を含み、
前記認知機能障害は、MCIであってよい。
前記判定用スコアの値域は、一方の端に近いほど、当該ヒトにおける認知機能障害がより進行していることを示し、且つ、他方の端に近いほど、当該ヒトは認知機能障害を有さないことを示すものであってよい。
前記支援情報生成工程において、前記判定用スコアの値域中の前記複数の数値範囲と、前記複数の数値範囲それぞれに関連付けられた判定結果と、を含むデータテーブルが参照され、前記判定用スコアに対応する判定結果が選択されてよい。
【0008】
また、本技術は、
ヒトに由来する生体試料に含まれる2以上のバイオマーカーの量に基づき、
(I)前記ヒトにおける認知機能障害又は認知機能低下の有無を示す第一指標値、及び
(II)前記ヒトの認知機能障害又は認知機能低下の進行度を示す第二指標値、
を算出する指標値算出工程、
前記第一指標値及び前記第二指標値に基づき、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定を支援する情報を生成する支援情報生成工程、
を実行する情報処理装置
を含む、判定支援情報生成システムも提供する。
前記判定支援情報生成システムは、前記2以上のバイオマーカーの量を定量するバイオマーカー定量システムをさらに含んでよい。
前記バイオマーカー定量システムは、液体クロマトグラフィー質量分析計を含んでよい。
前記システムは、前記生体試料が、タンパク質分解処理に付され、そして、前記バイオマーカー定量システムによる測定に付されるように構成されていてよい。
また、本技術は、
ヒトに由来する生体試料に含まれる2以上のバイオマーカーの量に基づき、
(I)前記ヒトにおける認知機能障害又は認知機能低下の有無を示す第一指標値、及び
(II)前記ヒトの認知機能障害又は認知機能低下の進行度を示す第二指標値、
を算出する指標値算出工程、
前記第一指標値及び前記第二指標値に基づき、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定を支援する情報を生成する支援情報生成工程、
を実行する情報処理装置を含み、
前記支援情報生成工程において、前記第一指標値及び前記第二指標値を用いて判定用スコアが算出され、
ここで、前記判定用スコアの値域は、判定結果が関連付けられた複数の数値範囲に予め分けられており、
当該複数の数値範囲のうちの1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは無い若しくはほぼ無いという判定結果が関連付けられており、
当該複数の数値範囲のうちの他の1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは低いという判定結果が関連付けられており、
当該複数の数値範囲のうちのさらに他の1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは中程度であるという判定結果が関連付けられており、
当該複数の数値範囲のうちのさらに他の1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは高いという判定結果が関連付けられており、
前記支援情報生成工程において、前記判定用スコアに対応する判定結果が選択される、
判定支援情報生成システムも提供する。
【0009】
また、本技術は、
ヒトに由来する生体試料に含まれる2以上のバイオマーカーの量に基づき、
(I)前記ヒトにおける認知機能障害又は認知機能低下の有無を示す第一指標値、及び
(II)前記ヒトの認知機能障害又は認知機能低下の進行度を示す第二指標値、
を算出する指標値算出工程、
前記第一指標値及び前記第二指標値に基づき、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定を支援する情報を生成する支援情報生成工程、
を実行する情報処理装置も提供する。
また、本技術は、ヒトに由来する生体試料に含まれる2以上のバイオマーカーの量に基づき、
(I)前記ヒトにおける認知機能障害又は認知機能低下の有無を示す第一指標値、及び
(II)前記ヒトの認知機能障害又は認知機能低下の進行度を示す第二指標値、
を算出する指標値算出工程、
前記第一指標値及び前記第二指標値に基づき、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定を支援する情報を生成する支援情報生成工程、
を実行するように構成されており、
前記支援情報生成工程において、前記第一指標値及び前記第二指標値を用いて判定用スコアが算出され、
ここで、前記判定用スコアの値域は、判定結果が関連付けられた複数の数値範囲に予め分けられており、
当該複数の数値範囲のうちの1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは無い若しくはほぼ無いという判定結果が関連付けられており、
当該複数の数値範囲のうちの他の1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは低いという判定結果が関連付けられており、
当該複数の数値範囲のうちのさらに他の1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは中程度であるという判定結果が関連付けられており、
当該複数の数値範囲のうちのさらに他の1つの数値範囲に、前記ヒトは認知機能障害のリスクは高いという判定結果が関連付けられており、
前記支援情報生成工程において、前記判定用スコアに対応する判定結果が選択される、
情報処理装置も提供する。
【発明の効果】
【0010】
本技術は、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクを精度良く判定することに貢献する。さらに、本技術は、ヒトの認知機能障害又は認知機能低下の進行度を判定することも可能とする。
なお、本技術の効果は、ここに記載された効果に必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本技術の判定支援情報生成方法の一例のフロー図である。
図2】データ取得工程の一例のフロー図である。
図3】バイオマーカー定量システムの一例のブロック図である。
図4】バイオマーカー定量システムに含まれる情報処理装置の具体的な構成例を示す図である。
図5】第一指標値を説明するための図である。
図6】第二指標値を説明するための図である。
図7】判定用スコアを説明するための図である。
図8】判定用スコアがプロットされたプロットデータの例を示す図である。
図9】二次元マトリックスを含むプロットデータの例を示す図である。
図10】指標値算出工程及び支援情報生成工程を実行する情報処理装置の具体的な構成例を示す図である。
図11】判定支援情報生成システムの一例のブロック図である。
図12】判別式の評価結果を示す図である。
図13】判別式の評価結果を示す図である。
図14】判別式の評価結果を示す図である。
図15】判別式の評価結果を示す図である。
図16】判定結果を説明する表の例を示す図である。
図17】判定結果を説明する表の例を示す図である。
図18】判定用スコアがプロットされたプロットデータの例を示す図である。
図19】判定用スコアがプロットされたプロットデータの例を示す図である。
図20】バイオマーカー量データを含む表の例を示す図である。
図21】4種のバイオマーカー量に基づく判定結果に関するプロットデータの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本技術を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、本技術はこれらの実施形態のみに限定されるものでない。
【0013】
1.判定支援情報生成方法
【0014】
本技術は、判定支援情報生成方法を提供する。当該方法は、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定を支援する情報を生成するものであってよい。当該方法は、例えば図1に示されるとおり、ヒトに由来する生体試料に含まれる2以上のバイオマーカーの量に関するデータを取得するデータ取得工程S1、ヒトに由来する生体試料に含まれる2以上のバイオマーカーの量に基づき、(I)前記ヒトにおける認知機能障害又は認知機能低下の有無を示す第一指標値、及び(II)前記ヒトの認知機能障害又は認知機能低下の進行度を示す第二指標値、を算出する指標値算出工程S2、及び前記第一指標値及び前記第二指標値に基づき、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定を支援する情報を生成する支援情報生成工程S3を含む。さらに、前記方法は、支援情報生成工程S3において生成された支援情報を出力する出力工程S4を含んでもよい。
【0015】
本明細書内において、認知機能障害は、例えばMCI及び認知症を包含する。前記認知症は、アルツハイマー病(以下ADともいう)、レビー小体型認知症、及び脳血管性認知症を包含する。前記認知症は、特にはADである。
本明細書内において、認知機能低下は、認知機能障害でないが、認知機能が低下している状態をいう。
一般的には、認知機能が健常であるヒトは、例えば加齢に伴い、まずは認知機能低下状態になり、そして次に認知機能障害を患う。認知機能障害は、徐々に進行することが多く、例えば、ヒトは、まずはMCIを患い、そしてその後認知症を患う。本技術により、ヒトが、当該進行におけるどの段階にあるかを判定することができる。
【0016】
以下で、これら工程についてより詳細に説明する。
【0017】
1-1.データ取得工程
【0018】
データ取得工程S1において、後述の指標値算出工程において用いられるデータが取得される。当該データは、例えばヒトに由来する生体試料に含まれる2以上のバイオマーカーの量に関するデータを含んでよい。
【0019】
前記生体試料は、例えば、全血、血漿、又は血清であってよく、好ましくは血漿又は血清であり、特に好ましくは血漿である。すなわち、前記バイオマーカーは、いずれもヒト由来の生体試料中に存在する成分であってよく、特にはヒトの全血、血漿、又は血清中、より好ましくはヒトの血漿又は血清、さらにより好ましくはヒトの血漿中に存在する成分であってよい。
【0020】
1-1-1.バイオマーカー
【0021】
前記2以上のバイオマーカーの量は、好ましくは、以下(1)~(10)のバイオマーカーのうちの2以上のバイオマーカーの量を含む:
(1)alpha-1-B-glycoprotein又はこの部分ペプチド、
(2)alpha-2-antiplasmin又はこの部分ペプチド、
(3)alpha-2-macroglobulin又はこの部分ペプチド、
(4)albumin又はこの部分ペプチド、
(5)apolipoprotein A1又はこの部分ペプチド、
(6)apolipoprotein C1又はこの部分ペプチド、
(7)complement component 3又はこの部分ペプチド、
(8)complement component 4 gamma chain又はこの部分ペプチド、
(9)hemopexin又はこの部分ペプチド、及び
(10)transthyretin又はこの部分ペプチド。
なお、前記データ取得工程において、前記(1)~(10)以外のバイオマーカーの量が取得されてもよい。
【0022】
前記データ取得工程において、前記(1)~(10)のバイオマーカーの量は、各バイオマーカーとして記載されたタンパク質に特異的なアミノ酸配列部分の量に基づき定量されてよい。当該特異的なアミノ酸配列部分は、各バイオマーカーを他の成分(より具体的には、生体試料成分)から区別可能とするアミノ酸配列部分であってよい。当該アミノ酸配列部分は、当業者により適宜選択されてよい。前記アミノ酸配列部分は、例えば液体クロマトグラフィー質量分析計などの質量分析装置による測定対象であるタンパク質断片(定量断片ともいう)であってよい。
【0023】
前記(1)~(10)のそれぞれに記載された部分ペプチドは、例えば、上記で述べた、各バイオマーカーとして記載されたタンパク質に特異的なアミノ酸配列部分を含むペプチドであってよい。
前記(1)~(10)のそれぞれに記載された部分ペプチドは、例えばアミノ酸残基の数が5~30、特には6~25、より特には7~20のペプチドであってよい。
前記(1)~(10)のそれぞれに記載された部分ペプチドの例は、後述の表1に記載された定量断片又は当該定量断片のアミノ酸配列を含む部分ペプチドであるが、これらに限定されない。
【0024】
前記(1)のバイオマーカーとして記載されたalpha-1-B-glycoproteinは、以下の配列番号1で表されるアミノ酸配列と95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であってよい。
前記(2)のバイオマーカーとして記載されたalpha-2-antiplasminは、以下の配列番号2で表されるアミノ酸配列と95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であってよい。
前記(3)のバイオマーカーとして記載されたalpha-2-macroglobulinは、以下の配列番号3で表されるアミノ酸配列と95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であってよい。
前記(4)のバイオマーカーとして記載されたalbuminは、以下の配列番号4で表されるアミノ酸配列と95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であってよい。
前記(5)のバイオマーカーとして記載されたapolipoprotein A1は、以下の配列番号5で表されるアミノ酸配列と95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であってよい。
前記(6)のバイオマーカーとして記載されたapolipoprotein C1は、以下の配列番号6で表されるアミノ酸配列と95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であってよい。
前記(7)のバイオマーカーとして記載されたcomplement component 3は、以下の配列番号7で表されるアミノ酸配列と95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であってよい。
前記(8)のバイオマーカーとして記載されたcomplement component 4 gamma chainは、以下の配列番号8で表されるアミノ酸配列と95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であってよい。
前記(9)のバイオマーカーとして記載されたhemopexinは、以下の配列番号9で表されるアミノ酸配列と95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であってよい。
前記(10)のバイオマーカーとして記載されたtransthyretinは、以下の配列番号10で表されるアミノ酸配列と95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であってよい。
【0025】
なお、本明細書内において、アミノ酸配列の「配列同一性」とは、比較すべき2つのアミノ酸配列のアミノ酸残基ができるだけ多く一致するように両アミノ酸配列を整列させ、一致したアミノ酸残基数を全アミノ酸残基数で除したものを百分率で表したものである。前記整列化及び前記百分率の算出は、例えばBLAST等の周知のアルゴリズムを用いて行なわれてよい。
【0026】
上記の配列番号1~10のアミノ酸配列(1文字表記)は以下のとおりである。以下において、各配列番号の後の括弧内に、バイオマーカーの名称が記載されており、さらに、本明細書内において用いられる略称も記載されている。
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
前記(1)~(10)のバイオマーカーに特異的なアミノ酸配列部分(定量断片)の例を以下の表1に示す。同表には、各バイオマーカーの定量断片に対応する配列番号も記載されている。
【0038】
【表1】
【0039】
各バイオマーカーの定量のために用いられるアミノ酸配列部分は、表1に示されたアミノ酸配列部分に限定されるものでなく、前記タンパク質分解処理の手法及び各バイオマーカーのアミノ酸配列などに応じて、当業者により適宜選択されてよい。
【0040】
本明細書内において、バイオマーカーの「量」は、当該バイオマーカーの生体試料中における絶対的な量又は相対的な量であってよい。当該相対的な量は、例えば濃度である。例えば、バイオマーカーの濃度は、生体試料の量(体積又は質量)に対する当該バイオマーカーの質量であってよく、例えばモル濃度であってよい。
【0041】
1-1-2.定量によるバイオマーカー量データの取得
【0042】
前記データ取得工程において、生体試料に含まれる各バイオマーカーの量が定量されてよい。前記定量を行うために、前記データ取得工程は、例えば図2に示されるとおり、生体試料の前処理を実施する前処理工程S11、当該前処理が行われた生体試料に含まれる定量断片の量を測定する測定工程S12、及び、前記測定工程において測定された定量断片の量に基づき各バイオマーカーの量を定量するバイオマーカー定量工程S13を含む。以下でこれらの工程について説明する。
【0043】
1-1-2-1.前処理工程
前処理工程S11において、例えば、前記生体試料は、タンパク質分解処理に付されうる。当該タンパク質分解処理によって、定量対象であるバイオマーカーが分解されてタンパク質断片(定量断片)が生じる。
【0044】
前記タンパク質分解処理は、例えばタンパク質分解剤による分解処理、又は、熱及びpHによる分解処理であってよい。
【0045】
前記タンパク質分解剤による分解処理において用いられるタンパク質分解剤は、例えば酵素又は化学的分解剤であってよい。前記酵素は、プロテアーゼであってよく、好ましくはエンドペプチダーゼを含む。前記エンドペプチダーゼは、例えばトリプシン、Endoproteinase Lys-C、Endoproteinase Glu-C、及びEndoproteinase Asp-Nのうちから選ばれる一つ又は二つ以上の組合せであってよい。特に好ましくは、前記酵素は、塩基性アミノ酸(リシン及びアルギニン)のカルボキシ基側のペプチド結合を加水分解する酵素であり、より具体的にはトリプシンであってよい。前記化学的分解剤は、例えばブロモシアンであってよい。当該分解処理では、前記生体試料が、これらの分解剤と接触させられて、定量断片が生成される。
【0046】
前記熱及びpHによる分解処理において、前記生体試料は、例えば60℃以上~140℃以下、特には70℃以上~130℃以下、より特には80℃~120℃へと加熱されうる。加熱時間は、例えば0.5時間~10時間、特には1時間~4時間、より特には1時間~3時間であってよい。
【0047】
前記熱及びpHによる分解処理において、前記生体試料は、例えばpH5以下、特にはpH1~4、より特にはpH1~3の環境に付される。当該環境に、上記で述べた加熱時間の間置かれてよい。pH調整のために、例えば、前記生体試料に、酸又はアルカリが添加されてよい。
当該分解処理では、前記生体試料が、このような熱及びpHによる分解処理に付されて、定量断片が生成される。
【0048】
タンパク質分解処理は、当技術分野で既知の手法により停止されてよい。
例えば、酵素による分解処理が行われた場合は、酵素失活処理によってタンパク質分解処理が停止されてよい。当該酵素失活処理は、例えばギ酸又はTFAの前記生体試料への添加によるpH低下処理であってよく、又は、前記生体試料の加熱処理であってもよい。
また、熱による分解処理が行われた場合は、前記生体試料の加熱処理が停止され、前記生体試料の温度を、分解が進行しない温度へと変更することによって、当該分解処理が停止されうる。当該変更のために、例えば冷却処理が行われてよい。
また、pHによる分解処理が行われた場合は、前記生体試料のpHを、分解が進行しないpHへと変更することによって、当該分解処理が停止されうる。当該変更のために、例えばアルカリ又は酸の添加処理が行われてよい。
【0049】
1-1-2-2.測定工程
測定工程S12において、前記前処理が行われた生体試料に含まれる定量断片の量が測定される。当該測定は、液体クロマトグラフィー質量分析計、より具体的にはLC-MS又はLC-MS/MSを用いて行われてよい。当該液体クロマトグラフィー質量分析計によって行われる処理のうち、液体クロマトグラフィー処理は、逆相クロマトグラフィーであってよい。当該液体クロマトグラフィー質量分析計による処理のうち、質量分析処理は、MS又はMS/MSによって行われてよく、好ましくはMS/MSによって行われる。例えば、MS/MSにおいて、特定のイオン群に対する衝突誘起解離(CID)を利用した二段階以上の質量分離が行われる。より具体的には、当該質量分析処理は、MRM(Multiple Reaction Monitoring、多重反応モニタリング)によって行われてよい。すなわち、前記液体クロマトグラフィー質量分析計は、MRMによって質量分析処理を行うように構成されていてよい。
【0050】
1-1-2-3.定量工程
定量工程S13において、前記測定工程において測定された定量断片の量に基づき各バイオマーカーの量が定量される。例えば、定量断片の量と、当該定量断片の分子量及び当該定量断片を含むバイオマーカーの分子量とに基づき、当該バイオマーカーの量が定量される。
【0051】
例えば、定量工程S13において、上記表1に記載された定量断片の量に基づき、前記(1)~(10)のバイオマーカー(特にはバイオマーカーとして記載されたタンパク質)の量が定量されてよい。
【0052】
1-1-2-4.定量によるバイオマーカー量データの取得を実行するシステム
【0053】
本技術において、バイオマーカー定量システムが、前記2以上のバイオマーカーの量を定量してよい。例えば、当該バイオマーカー定量システムは、上記A.~C.において述べた工程を実行するように構成されていてよく、又は、これら工程のうちの1つ又は2つを実行するように構成されていてもよい。当該バイオマーカー定量システムの例を図3に示す。図3は、当該システムのブロック図である。
【0054】
図3に示されるとおり、当該バイオマーカー定量システム10は、前処理部11、測定部12、及び情報処理部13を含んでよい。
【0055】
前処理部11は、前処理工程S11を実行するように構成されていてよい。当該前処理部は、例えば前記生体試料に前記タンパク質分解処理を実行するタンパク質分解処理部を含みうる。当該タンパク質分解処理部は、例えば、前記生体試料が収容される又は前記生体試料を含む容器が収容される収容部、前記生体試料にタンパク質分解剤を添加する分解剤添加装置、及び、当該分解剤による分解を停止する処理を行う停止処理装置を含みうる。また、前記前処理部は、前記収容部内の前記生体試料の温度を制御する温度制御装置を含んでもよい。
【0056】
前記分解剤添加装置は、例えばタンパク質分解剤を前記生体試料に添加するピペット装置、及び、当該ピペット装置による分解剤添加を駆動する駆動部を含んでよい。
当該停止処理部は、例えば、前記タンパク質分解剤による分解を停止するための薬剤を前記生体試料に添加するピペット装置、及び、当該ピペット装置による前記を駆動する駆動部を含んでよい。
当該温度制御装置として、当技術分野で既知の装置が採用されてよい。
【0057】
測定部12は、測定工程S12を実行するように構成されていてよい。当該測定部は、例えば液体クロマトグラフィー質量分析計を含んでよい。当該液体クロマトグラフィー質量分析計が、前記前処理部によって前処理が行われた前記生体試料に含まれる定量断片の量を測定してよい。当該液体クロマトグラフィー質量分析計は、上記「B.測定工程」において説明したとおりの装置であってよい。
【0058】
情報処理部13は、定量工程S13を実行するように構成されていてよい。当該情報処理部が、測定工程S12において測定された定量断片の量に基づき各バイオマーカーの量を算出する。当該情報処理部は、例えば、前記液体クロマトグラフィー質量分析計に付属の情報処理装置であってよく、又は、前記液体クロマトグラフィー質量分析計に付属するものでない情報処理装置であってもよい。当該情報処理装置は、前記液体クロマトグラフィー質量分析計によって測定された定量断片の量データを受信し、当該量データに基づき、前記(1)~(10)のバイオマーカー(特にはバイオマーカーとして記載されたタンパク質)の量を定量しうる。当該定量のために、例えば、当該定量断片の分子量及び当該定量断片を含むバイオマーカーの分子量が参照されてよい。
【0059】
前記情報処理装置の具体的な構成例を、図4を参照しながら説明する。図4に示される情報処理装置100は、処理部101、記憶部102、入力部103、出力部104、及び通信部105を備えている。情報処理装置100として、例えば汎用のコンピュータ又はサーバが採用されてよい。
【0060】
処理部101は、例えば、定量工程S13を実行するように構成されていてよく、より具体的には定量工程S13を実行するように構成された回路を有する。処理部101は、例えばCPU(Central Processing Unit)及びRAMを含みうる。CPU及びRAM(Random Access Memory)は、例えばバスを介して相互に接続されていてよい。バスには、さらに入出力インタフェースが接続されていてよい。バスには、当該入出力インタフェースを介して、入力部103、出力部104、及び通信部105が接続されていてよい。
【0061】
処理部101は、さらに、記憶部102からデータを取得し又は記憶部102にデータを記録できるように構成されていてよい。記憶部102は、各種データを記憶する。記憶部102は、例えば、前記測定工程12において取得された測定結果データ、及び、当該測定結果データに基づき定量されたバイオマーカー量データを記憶できるように構成されていてよい。また、記憶部102には、オペレーティング・システム(例えば、WINDOWS(登録商標)、UNIX(登録商標)、又はLINUX(登録商標)など)、定量工程を情報処理装置に実行させるためのプログラム、及び他の種々のプログラムが格納されうる。なお、これらのプログラムは、記憶部102に限らず、記録媒体に記録されていてもよい。
【0062】
処理部101は、前記測定工程12を実行する測定部12を制御することができるように構成されていてもよく、例えば、処理部101は、測定部12に含まれる前記液体クロマトグラフィー質量分析計を制御しうる。また、処理部101は、前記液体クロマトグラフィー質量分析計において検出されたイオンに関するデータに基づき、定量断片の量を算出する処理を実行してもよい。
【0063】
また、処理部101は、前記前処理工程11を実行する前処理部11を制御することができるように構成されていてもよく、例えば、処理部101は、前処理部11に含まれる前記分解剤添加装置、前記停止処理装置、及び前記温度制御装置のうちの1つ以上を制御しうる。
【0064】
入力部103は、各種データの入力を受け付けることができるように構成されているインタフェースを含みうる。入力部103は、そのような操作を受けつける装置として、例えばマウス、キーボード、及びタッチパネルなどを含みうる。
【0065】
出力部104は、各種データの出力を行うことができるように構成されているインタフェースを含みうる。例えば、出力部104は、定量工程S13において定量されたバイオマーカー量データを出力しうる。出力部104は、当該出力を行う装置として例えば表示装置及び/又は印刷装置などを含みうる。
【0066】
通信部105は、情報処理装置100をネットワークに有線又は無線で接続するように構成されうる。通信部105によって、情報処理装置100は、ネットワークを介して各種データを取得することができる。取得したデータは、例えば記憶部102に格納されうる。通信部105の構成は当業者により適宜選択されてよい。
情報処理装置100は、例えば通信部105を介して、取得したバイオマーカー量データを、後述の指標値算出工程S2を実行する情報処理装置に送信しうる。
【0067】
情報処理装置100は、例えばドライブ(図示されていない)などを備えていてもよい。ドライブは、記録媒体に記録されているデータ(例えば上記で挙げた各種データ)又はプログラムを読み出して、RAMに出力することができる。記録媒体は、例えば、microSDメモリカード、SDメモリカード、又はフラッシュメモリであるが、これらに限定されない。
【0068】
1-1-3.取得済みのバイオマーカー量データの取得
【0069】
前記データ取得工程において、既に取得済みのバイオマーカー量データを取得してもよい。この実施態様において、上記1-1-2.において述べた定量は行われなくてよい。この実施態様において、例えば、後述の指標値算出工程を実行する情報処理装置が、他の情報処理装置から送信されたバイオマーカー量データ又は後述のバイオマーカー定量システムから送信されたバイオマーカー量データを受信してよい。代替的には、後述の指標値算出工程を実行する情報処理装置が、バイオマーカー量データが格納された記録媒体からバイオマーカー量データを取得してもよい。これらの受信処理又は取得処理は、ネットワークを介して行われてもよい。
【0070】
1-2.指標値算出工程
【0071】
指標値算出工程S2において、ヒトに由来する生体試料に含まれる2以上のバイオマーカーの量に基づき、(I)前記ヒトにおける認知機能障害又は認知機能低下の有無を示す第一指標値、及び(II)前記ヒトの認知機能障害又は認知機能低下の進行度を示す第二指標値が算出される。これら2つの指標値を用いることで、後述の支援情報生成工程S3において、精度の高い判定を行うことができる。
【0072】
前記2以上のバイオマーカーの量は、上記1-1.のデータ取得工程において取得されたデータであってよい。例えば、情報処理装置が、当該データを用いて、前記第一指標値及び前記第二指標値を算出する前記指標値算出工程を実行してよい。
【0073】
1-2-1.第一指標値
【0074】
前記第一指標値は、前記ヒトが認知機能障害又は認知機能低下を有するかを示す指標値であってよい。当該第一指標値は、前記2以上のバイオマーカーの量に基づき算出されてよく、好ましくは前記(1)~(10)のバイオマーカーのうちの2以上、3以上、又は4以上のバイオマーカーの量に基づき算出されてよい。当該第一指標値は、支援情報生成工程S3におけるより良い精度をもたらすことに貢献しうる。
また、当該第一指標値を算出するための用いられるバイオマーカーは、例えば前記(1)~(10)のバイオマーカーのうちの9以下、8以下、又は7以下であってよい。
【0075】
好ましくは、前記第一指標値は、前記(1)、(2)、(3)、(4)、(6)、(7)、(8)、及び(9)のバイオマーカーのうちの2以上、3以上、又は4以上を含むバイオマーカーの量に基づき算出されてよい。特に好ましくは、前記第一指標値は、前記(1)、(2)、(3)、(4)、(6)、(7)、(8)、及び(9)のバイオマーカーのうちの4つ、5つ、6つ、7つ、又は8つのバイオマーカーそれぞれの量を用いて算出されてよい。
特に好ましくは、前記第一指標値を算出するために、少なくとも前記(1)、(4)、(8)、及び(9)のバイオマーカーそれぞれの量が用いられる。
例えば、前記(1)、(4)、(8)、及び(9)のバイオマーカー全てと、前記(2)、(3)、(6)、及び(7)のバイオマーカーうちの1つ、2つ、3つ、又は4つと、が前記第一指標値を算出するために用いられる。
このようなバイオマーカーの組合せは、認知機能障害又は認知機能低下の有無の指標として有用であり、特には認知機能障害の有無の指標として有用である。
【0076】
特に好ましくは、前記第一指標値は、前記(1)、(4)、(8)、及び(9)それぞれのバイオマーカーの量と、前記(2)及び(3)、前記(2)及び(6)、前記(2)及び(7)、前記(3)及び(6)、前記(3)及び(7)、又は前記(6)及び(7)のバイオマーカーそれぞれの量と、を用いて算出される。これらのバイオマーカーの量を用いて算出された第一指標値は、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクを判定するために特に適している。
また、本発明において、男性についての第一指標値及び女性についての第一指標値の算出のために、同じバイオマーカーの組合せが用いられてよく、又は、異なるバイオマーカーの組合せが用いられてもよい。
【0077】
また、前記第一指標値の算出において、前記バイオマーカーの組合せに加えて、前記(5)及び/又は(10)のバイオマーカーの量は用いられてよく、又は、用いられなくてもよい。
【0078】
前記第一指標値は、例えば、1以上の所定の判別式、特には2又はそれより多い所定の判別式を用いて算出されてよい。当該判別式は、例えば多変量解析によって作成された判別式であってよく、特には前記第一指標値算出のためのバイオマーカーの組合せを構成する各バイオマーカーの量を説明変数とし且つ認知機能障害又は認知機能低下の有無を目的変数とする多変量解析を行って得られた判別式であってよい。
本発明の一つの実施態様において、前記所定の判別式は、例えば性別毎に用意された判別式であってもよい。すなわち、男性用の第一指標値算出用判別式及び女性用の第一指標値算出用判別式が用意されてもよい。
性別を区別することなく用意された判別式によっても、あるいは、性別毎に用意された判別式によっても、良い判定結果を得ることができる。
【0079】
前記第一指標値を算出するために用いられる判別式の数は、例えば、後述の第二指標値により示される認知機能障害の進行度の段階の数に対応していてよい。例えば、後述の第二指標値により示される認知機能障害の段階が、MCIとADの2つの段階である場合は、前記第一指標値を算出するために用いられる判別式の数も2つであってよい。この場合において、当該2つの判別式のうちの1つが、健常段階とMCI段階との判別に関する判別式であり、且つ、他方が、健常段階とAD段階との判別に関する判別式であってよい。
判別式の数は、性別を区別することなく判別式を用意する場合及び性別毎に判別式を用意する場合のいずれにおいても、上記のとおり、第二指標値により示される認知機能障害の進行度の段階の数に対応していてよい。
性別を区別しない場合且つ後述の第二指標値により示される認知機能障害の段階がMCIとADの2つの段階である場合は、上記のとおり判別式の数は2つである。
性別毎に判別式を用意し且つ後述の第二指標値により示される認知機能障害の段階がMCIとADの2つの段階である場合は、男性用の前記第一指標値を算出するために用いられる判別式は2つ用意され、且つ、女性用の前記第一指標値を算出するために用いられる判別式も2つ用意される。このように、性別毎に、第二指標値により示される認知機能障害の進行度の段階の数に対応した数の判別式が用意される。
【0080】
前記第一指標値を算出するために、前記1以上の所定の判別式のそれぞれにバイオマーカー量を代入して得られた値を用いて、前記進行度の各段階(例えばMCI段階及びAD段階など)に前記ヒトがあるかに関する尤もらしさを示す値が算出されてよい。例えば、前記第一指標値を算出するために、前記ヒトがMCI段階にあるかに関する確率、及び、前記ヒトがAD段階にあるかに関する確率が算出されうる。これらの確率を用いて、前記第一指標値が算出されうる。
例えば、前記第一指標値は、前記進行度の各段階(例えばMCI段階及びAD段階など)に前記ヒトがあるかに関する尤もらしさを示す値の合計値であってよい。
性別を区別することなく用意された判別式を用いる場合は、上記第一指標値の算出は、以上のとおりに行われてよい。
性別毎に用意された判別式を用いる場合においては、被験者が男性である場合は男性用の判別式にバイオマーカー量が代入される。また、被験者が女性である場合は、女性用の判別式にバイオマーカー量が代入される。これにより、上記のとおり尤もらしさを示す値が算出される。
【0081】
前記判別式を作成するために、認知機能障害又は認知機能低下の有無が既知であるヒトの母集団が用いられてよい。当該母集団を構成するヒトの数は、例えば50以上、60以上、又は70以上であってよい。当該母集団を構成するヒトの数の上限は特に制限されないが、例えば500以下、400以下、300以下、又は200以下であってよい。当該母集団を構成するヒトそれぞれの認知機能障害又は認知機能低下の有無と、各ヒトから得られた生体試料に含まれるバイオマーカーの量と、を用いて多変量解析を行うことで、前記第一指標値を算出するための前記判別式が得られ、特には当該判別式の各項の係数(及び定数項の値)が得られる。
性別を区別しない判別式を用意する場合は、前記判別式作成のための母集団は上記のとおりであってよい。
性別毎に判別式を用意する場合は、男性用の判別式を作成するために、上記で述べた数の男性からなる母集団が用意される。また、女性用の判別式を作成するために、上記で述べた数の女性からなる母集団が用意される。各母集団について、上記で述べた多変量解析を行うことで、前記判別式(特には当該判別式の各項の係数(及び定数項の値))が得られる。
【0082】
前記多変量解析は、好ましくはロジスティック回帰分析(特には多項ロジスティック回帰分析)であってよい。また、前記多変量解析は、他の線形回帰分析であってもよい。また、前記多変量解析は、多クラス分類であってもよく、例えばニューラルネットワーク又はサポートベクターマシンなどの機械学習モデルが用いられてもよい。当該機械学習モデルを用いて、第一指標値が取得されてもよい。
【0083】
前記第一指標値は、前記ヒトが、認知機能障害を有するかを示す指標値であってよく、特には、前記ヒトが、MCI若しくは認知症(特にはAD)のいずれかを有するかを示す指標値であってよい。
【0084】
前記第一指標値は、所定の値域内の値をとるものであってよい。当該所定の値域は、前記第一指標値が当該値域の一方の端点の値に近ければ近いほど前記ヒトは認知機能障害又は認知機能低下を有さない可能性が高く且つ前記第一指標値が当該値域の他方の端点の値により近いほど前記ヒトは認知機能障害又は認知機能低下を有する可能性が高いことを示す値域であってよい。
【0085】
当該所定の値域は、当業者により適宜設定されてよい。当該所定の値域の一方の端点は、例えば-100、-50、-10、-5、-1、0、1、5、10、50、又は100であってよい。当該所定の値域の他方の端点は、100、50、10、5、1、0、-1、-5、-10、-50、又は-100であってよい。当該所定の値域は、これらの端点によって規定される範囲であってよく、例えば0~1、0~50、0~100、-1~1、又は-100~100などであってよいが、値域の端点の値は、これら以外の値であってもよい。
【0086】
例えば図5に示されるとおり当該所定の値域が0~1である場合、前記第一指標値が0(一方の端点)に近ければ近いほど前記ヒトは認知機能障害(又は認知機能低下)を有さない可能性が高いことを意味してよく、且つ、前記第一指標値が1(他方の端点)に近ければ近いほど前記ヒトは認知機能障害(又は認知機能低下)を有する可能性が高いことを意味してよい。
反対に、当該所定の値域が0~1である場合、前記第一指標値が1(一方の端点)に近ければ近いほど前記ヒトは認知機能障害(又は認知機能低下)を有さない可能性が高いことを意味してよく、且つ、前記第一指標値が0(他方の端点)に近ければ近いほど前記ヒトは認知機能障害(又は認知機能低下)を有する可能性が高いことを意味してもよい。
【0087】
例えば、前記第一指標値の値域は、後述の第二指標値の値域と同じであってよい。このように、前記第一指標値及び前記第二指標値の値域(数値範囲)が同じであることによって、後述の支援情報生成工程における処理が実行しやすくなる。これら2つの値域を同じように設定するために、当業者は前記判別式を適宜設定することができる。
【0088】
1-2-2.第二指標値
【0089】
前記第二指標値は、前記ヒトが認知機能障害又は認知機能低下の進行度を示す指標値である。前記第二指標値は、前記2以上のバイオマーカーの量に基づき算出されてよく、好ましくは前記(1)~(10)のバイオマーカーのうちの2以上、3以上、又は4以上のバイオマーカーの量に基づき算出されてよい。前記第二指標値を算出するために用いられるバイオマーカーは、特には、前記第一指標値を算出するために用いられたバイオマーカーとは異なるバイオマーカーを少なくとも一つ含む。当該第二指標値は、支援情報生成工程S3におけるより良い精度をもたらすことに貢献しうる。
また、当該第二指標値を算出するための用いられるバイオマーカーは、例えば前記(1)~(10)のバイオマーカーのうちの9以下、8以下、又は7以下であってよい。
また、当該第二指標値を算出するための用いられるバイオマーカーの組合せは、当該第一指標値を算出するための用いられるバイオマーカーの組合せと異なってよい。
【0090】
好ましくは、前記第二指標値は、前記(1)、(2)、(3)、(4)、(6)、(7)、(8)、及び(9)のバイオマーカーのうちの2以上、3以上、又は4以上を含むバイオマーカーの量に基づき算出されてよい。特に好ましくは、前記第二指標値は、前記(1)、(2)、(3)、(4)、(6)、(7)、(8)、及び(9)のバイオマーカーのうちの4つ、5つ、6つ、7つ、又は8つのバイオマーカーそれぞれの量を用いて算出されてよい。
例えば前記(1)、(4)、(8)、及び(9)のバイオマーカー全てと、前記(2)、(3)、(6)、及び(7)のバイオマーカーうちの1つ、2つ、3つ、又は4つと、が前記第一指標値を算出するために用いられる。
このようなバイオマーカーの組合せは、認知機能障害又は認知機能低下の進行度に関する指標として有用であり、特には認知機能障害の進行度の指標として有用である。
【0091】
特に好ましくは、前記第二指標値は、前記(1)、(4)、(8)、及び(9)それぞれのバイオマーカーの量と、前記(2)及び(3)、前記(2)及び(6)、前記(2)及び(7)、前記(3)及び(6)、前記(3)及び(7)、又は前記(6)及び(7)のバイオマーカーそれぞれの量と、を用いて算出される。これらのバイオマーカーの量を用いて算出された第二指標値は、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクを判定するために特に適している。
前記第二指標値を算出するために用いられるバイオマーカーの組合せは、前記第一指標値を算出するために用いられるバイオマーカーの組合せと同じであってよく、又は、異なっていてもよい。これらの組合せが同じである場合は、前記第一指標値の算出方法と前記第二指標値の算出方法とが異なっていてよい。
また、本発明において、男性についての第一指標値及び女性についての第一指標値の算出のために、同じバイオマーカーの組合せが用いられてよく、又は、異なるバイオマーカーの組合せが用いられてもよい。
【0092】
また、前記第二指標値の算出において、前記バイオマーカーの組合せに加えて、前記(5)及び/又は(10)のバイオマーカーの量は用いられてよく、又は、用いられなくてもよい。
【0093】
前記第二指標値も、前記第一指標値と同様に、1以上の所定の判別式、特には2又はそれより多い所定の判別式を用いて算出されてよい。当該判別式は、例えば多変量解析によって作成された判別式であってよく、特には各バイオマーカーの量を説明変数とし且つ認知機能障害又は認知機能低下の進行度を目的変数とする多変量解析を行って得られた判別式であってよい。
本発明の一つの実施態様において、前記第二指標値を算出するために用いられる前記所定の判別式は、例えば性別毎に用意された判別式であってもよい。すなわち、男性用の第二指標値算出用判別式及び女性用の第二指標値算出用判別式が用意されてもよい。
性別を区別することなく用意された判別式によっても、あるいは、性別毎に用意された判別式によっても、良い判定結果を得ることができる。
【0094】
前記第二指標値を算出するために用いられる判別式の数は、例えば、当該第二指標値により示される認知機能障害の進行度の段階の数に対応していてよい。例えば、当該段階が、MCIとADの2つの段階である場合は、前記第二指標値を算出するために用いられる判別式の数も2つであってよい。この場合において、当該2つの判別式のうちの1つが、健常段階とMCI段階との判別に関する判別式であり、且つ、他方が、健常段階とAD段階との判別に関する判別式であってよい。
前記第二指標値を算出するために用いられる前記1以上の所定の判別式は、前記第一指標値を算出するために用いられる前記1以上の所定の判別式と同じであってよく、又は、異なっていてもよい。これらの判別式が同じである場合は、例えば、これら指標値を算出するための確率の使用方法が異なっていてよい。
判別式の数は、性別を区別することなく判別式を用意する場合及び性別毎に判別式を用意する場合のいずれにおいても、上記のとおり、第二指標値により示される認知機能障害の進行度の段階の数に対応していてよい。
性別を区別しない場合且つ第二指標値により示される認知機能障害の段階がMCIとADの2つの段階である場合は、上記のとおり判別式の数は2つである。
性別毎に判別式を用意し且つ第二指標値により示される認知機能障害の段階がMCIとADの2つの段階である場合は、男性用の前記第一指標値を算出するために用いられる判別式は2つ用意され、且つ、女性用の前記第一指標値を算出するために用いられる判別式も2つ用意される。このように、性別毎に、第二指標値により示される認知機能障害の進行度の段階の数に対応した数の判別式が用意される。
【0095】
前記第二指標値を算出するために、前記1以上の所定の判別式のそれぞれにバイオマーカー量を代入して得られた値を用いて、前記進行度の各段階(例えばMCI段階及びAD段階など)に前記ヒトがあるかに関する尤もらしさを示す値が算出されてよい。例えば、前記第二指標値を算出するために、前記ヒトがMCI段階にあるかに関する確率、及び、前記ヒトがAD段階にあるかに関する確率が算出されうる。
例えば、前記第二指標値は、前記進行度の各段階に前記ヒトがあるかに関する尤もらしさを示す値のうちのいずれか一つの段階に前記ヒトが有るかに関する尤もらしさを示す値であってよく、例えば前記ヒトがAD段階にあるかに関する尤もらしさを示す値であってよい。
性別を区別することなく用意された判別式を用いる場合は、上記第二指標値の算出は、以上のとおりに行われてよい。
性別毎に用意された判別式を用いる場合においては、被験者が男性である場合は男性用の判別式にバイオマーカー量が代入される。また、被験者が女性である場合は、女性用の判別式にバイオマーカー量が代入される。これにより、上記のとおり尤もらしさを示す値が算出される。
【0096】
前記判別式を作成するために、認知機能障害又は認知機能低下の進行度が既知であるヒトの母集団が用いられてよい。当該母集団は、好ましくは、前記第一指標値の算出のために用いられる判別式を作成するために用いられた母集団と同じであってよい。当該母集団を構成するヒトの数は、例えば例えば50以上、60以上、又は70以上であってよい。当該母集団を構成するヒトの数の上限は特に制限されないが、例えば500以下、400以下、300以下、又は200以下であってよい。当該母集団を構成するヒトそれぞれの認知機能障害又は認知機能低下の進行度と、各ヒトから得られた生体試料に含まれるバイオマーカーの量と、を用いて多変量解析を行うことで、前記第二指標値を算出するための判別式が得られ、特には当該判別式の各項の係数(及び定数項)が得られる。
性別を区別しない判別式を用意する場合は、前記判別式作成のための母集団は上記のとおりであってよい。
性別毎に判別式を用意する場合は、男性用の判別式を作成するために、上記で述べた数の男性からなる母集団が用意される。また、女性用の判別式を作成するために、上記で述べた数の女性からなる母集団が用意される。各母集団について、上記で述べた多変量解析を行うことで、前記判別式(特には当該判別式の各項の係数(及び定数項の値))が得られる。
【0097】
前記多変量解析は、好ましくはロジスティック回帰分析(特には多項ロジスティック回帰分析)であってよい。また、前記多変量解析は、他の線形回帰分析であってもよい。また、前記多変量解析は、多クラス分類であってもよく、例えばニューラルネットワーク又はサポートベクターマシンなどの機械学習モデルが用いられてもよい。当該機械学習モデルを用いて、第二指標値が取得されてもよい。
【0098】
前記認知機能障害の進行度は、例えばMCIの段階及び認知症の段階のうちのいずれの段階にあるかであってよい。前記認知症は、AD、レビー小体型認知症、及び脳血管性認知症を包含する。前記認知症は、特にはADである。
【0099】
本技術の一つの実施態様において、前記第二指標値は、MCI及びADのいずれの段階にあるかを示す指標値であってよい。この実施態様において、当該指標値を算出するための判別式は、上記で説明した判別式作成方法によって取得することができる。
【0100】
本技術の他の実施態様において、前記第二指標値は、初期のMCI、後期のMCI、初期のAD、又は後期のADのいずれの段階にあるかを示す指標値であってもよい。この実施態様においても、当該指標値を算出するための判別式は、上記で説明した判別式作成方法によって取得することができる。例えば、これら4つの段階のうちのいずれの段階にあるかが既知であるヒトから構成される母集団を用いて、判別式を作成することができる。
なお、前記第二指標値により示される認知機能障害の各段階は、例えば、臨床的認知症尺度(Clinical Dementia Rating:CDR)に従う評価指標に対応付けられていてもよい。CDRに従う評価指標は、神経心理テストや日常生活動作指標など臨床情報に基づく値である。CDRにおいて、数値で0である場合は健常であり、0.5である場合はMCIに相当し、1~3である場合は、ADに相当する。1~3のスコアに関して、数字が大きいほどADの重症度が高いことを意味する。
【0101】
前記第二指標値は、所定の値域内のいずれかの値であってよい。当該所定の値域は、前記第二指標値が当該値域の一方の端点の値に近ければ近いほど前記ヒトの認知機能障害又は認知機能低下が進行していない可能性が高く且つ前記第二指標値が当該値域の他方の端点の値に近ければ近いほど前記ヒトの認知機能障害又は認知機能低下が進行している可能性が高いことを示す値域であってよい。
【0102】
本技術の一つの実施態様において、当該所定の値域は、前記第二指標値が当該値域の一方の端点の値に近ければ近いほど前記ヒトはMCIの段階にある可能性が高く且つ前記第二指標値が当該値域の他方の端点の値に近ければ近いほど前記ヒトは認知症(特にはAD)の段階にある可能性が高いことを示す値域であってよい。
【0103】
本技術の他の実施態様において、当該所定の値域は、前記第二指標値が当該値域の一方の端点の値に近いほど、前記ヒトは、より早期のMCIの段階にある可能性が高いことを示し、且つ、他方の端点に近づくにつれて、より後期のMCIの段階にある可能性又はより後期の認知症の段階にある可能性が高いことを示す値域であってよい。
この実施態様において、前記第二指標値が当該値域の他方の端点の値に近ければ近いほど、前記ヒトは、より後期の認知症の段階にある可能性が高いことを示し、且つ、一方の端点に近づくにつれて、より初期の認知症の段階にある可能性又はより初期のMCIの段階にある可能性が高いことを示す値域であってよい。
【0104】
当該所定の値域は、当業者により適宜設定されてよい。当該所定の値域の一方の端点は、例えば-100、-50、-10、-5、-1、0、1、5、10、50、又は100であってよい。当該所定の値域の他方の端点は、100、50、10、5、1、0、-1、-5、-10、-50、又は-100であってよい。当該所定の値域は、これらの端点によって規定される範囲であってよく、例えば0~1、0~50、0~100、-1~1、又は-100~100などであってよい。
【0105】
例えば図6Aに示されるとおり、当該所定の値域が0~1である場合、前記第二指標値が0(一方の端点)に近いほど前記ヒトの認知機能障害又は認知機能低下が進行していない可能性が高いことを意味してよく、且つ、前記第二指標値が1(他方の端点)に近いほど前記ヒトの認知機能障害又は認知機能低下が進行している可能性が高いことを意味してよい。
反対に、当該所定の値域が0~1である場合、前記第二指標値が1(一方の端点)に近いほど前記ヒトの認知機能障害又は認知機能低下が進行していない可能性が高いことを意味してよく、且つ、前記第二指標値が0(他方の端点)に近いほど前記ヒトの認知機能障害又は認知機能低下が進行している可能性が高いことを意味してもよい。
【0106】
例えば図6Bに示されるとおり、当該所定の値域が0~1である場合、前記第二指標値が0(一方の端点)に近いほど前記ヒトはMCIの段階にある可能性が高いことを意味してよく、且つ、前記第二指標値が1(他方の端点)に近いほど前記ヒトは認知症(特にはAD)の段階にある可能性が高いことを意味してよい。
反対に、当該所定の値域が0~1である場合、前記第二指標値が1(一方の端点)に近いほど前記ヒトはMCIの段階にある可能性が高いことを意味してよく、且つ、前記第二指標値が0(他方の端点)に近いほど前記ヒトは認知症(特にはAD)の段階にある可能性が高いことを意味してもよい。
【0107】
例えば図6Cに示されるとおり、当該所定の値域が0~1である場合、第二指標値は、MCIのいずれの段階(例えば初期段階又は後期段階など)にある可能性が高いか又は認知症(特にはAD)のいずれの段階(例えば初期段階又は後期段階など)にある可能性が高いかを示してもよい。より具体的には、認知機能障害は、図6Cに示されるとおり、早期のMCI、後期のMCI、早期のAD、及び後期のADと進行していく。前記第二指標値が0(一方の端点)に近いほど前記ヒトは、より早期のMCIの段階にある可能性が高いことを意味してよく、且つ、前記第二指標値が1(他方の端点)に近いほど前記ヒトはより後期の認知症(特にはAD)の段階にある可能性が高いことを意味してよい。
反対に、当該所定の値域が0~1である場合、前記第二指標値が1(一方の端点)に近ければ近いほど前記ヒトはより初期のMCIの段階にある可能性が高いことを意味してよく、且つ、前記第二指標値が0(他方の端点)に近ければ近いほど前記ヒトはより後期の認知症(特にはAD)の段階にある可能性が高いことを意味してもよい。
【0108】
例えば図6Dに示されるとおり、当該所定の値域が0~1である場合、第二指標値は、上記で説明した評価尺度CDRのうちのいずれのスコアに相当する段階にある可能性が高いかを示してもよい。上記で述べたとおり、CDRによって、認知機能障害はMCIに相当する0.5及びADに相当する1~3のうちのいずれかのスコアに相当すると判定されると。すなわち、認知機能障害の進行に伴い、CDRは、0.5、1、2、及び3と進行していく。前記第二指標値が0(一方の端点)に近いほど前記ヒトは、前記ヒトのCDRは0.5に近い可能性が高いことを意味してよく(なお、0に近い可能性が高いことを意味してもよい)、且つ、前記第二指標値が1(他方の端点)に近いほど前記ヒトのCDRは3により近い可能性が高いことを意味してよい。
反対に、当該所定の値域が0~1である場合、前記第二指標値が1(一方の端点)に近いほど前記ヒトのCDRは3により近い可能性が高いことを意味してよく、且つ、前記第二指標値が0(他方の端点)に近いほど前記ヒトのCDRは0.5に近い可能性が高いことを意味してよい(なお、0に近い可能性が高いことを意味してもよい)。
【0109】
1-3.支援情報生成工程
【0110】
支援情報生成工程S3において、前記第一指標値及び前記第二指標値に基づき、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクを判定するための支援情報が生成される。これら2つの指標値を用いることによって、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクを精度良く判定するために資する支援情報が生成される。
【0111】
前記支援情報は、例えば、認知機能障害に関する判定結果、認知機能低下に関する判定結果、認知機能障害又は認知機能低下のリスクに関する判定結果、及びこれらの判定のために用いられるデータ(例えば後述の判定用スコア及びプロットデータなど)のうちの1つ以上を含む。
また、前記支援情報はさらに、各バイオマーカーの量に関するデータを含んでよい。前記支援情報はさらに、各バイオマーカーの量それぞれに基づく判定結果を含んでもよい。
以下で、これらの支援情報について説明する。
【0112】
1-3-1.認知機能障害に関する判定結果
【0113】
前記支援情報は、前記生体試料が由来するヒトが認知機能障害を有するかの判定結果、及び/又は、前記ヒトの認知機能障害の進行度の判定結果を含んでよい。
また、前記支援情報は、前記生体試料に認知機能障害の兆候が認められるかに関する判定結果、及び/又は、前記生体試料に、複数の進行段階のうち認知機能障害がどの段階にあるかを示す兆候に関する判定結果を含んでよい。前記第一指標値及び前記第二指標値を用いることで、精度のよい判定結果が得られる。
【0114】
ヒトにおける認知機能に関する状態は、例えば、健常状態からMCIへ移行し、そして、MCIから認知症(例えばAD)へとさらに移行する。そのため、前記支援情報は、ヒトが、健常段階、MCI段階、及び認知症段階(特にはAD段階)のいずれの段階にあるかの判定結果を含んでよい。前記第一指標値及び前記第二指標値を用いることで、精度のよい判定結果が得られる。
【0115】
また、MCIは、複数の段階に分類され、例えば初期のMCI及び後期のMCIに分類され、または、初期のMCI、中期のMCI、及び後期のMCIのいずれかへと分類されうる。認知症についても複数の段階に分類され、例えば、ADは、初期のAD及び後期のADのいずれかに分類され、または、初期のAD、中期のAD、及び後期のADのいずれかへと分類される。前記支援情報は、前記ヒトが、健常、MCI、及び認知症(例えばAD)からなる経過のうちのどの段階にあるかの判定結果を含みうる。MCI及び認知症(例えばAD)の段階の分類の仕方は、例えば上記のとおりであってよいが、これに限定されない。
【0116】
1-3-2.認知機能低下に関する判定結果
【0117】
前記支援情報は、前記生体試料が由来するヒトが認知機能低下を有するかの判定結果、及び/又は、前記ヒトの認知機能低下の進行度の判定結果を含んでよい。
また、前記支援情報は、前記生体試料に認知機能低下の兆候が認められるかに関する判定結果、及び/又は、前記生体試料に、複数の進行段階のうち認知機能低下がどの段階にあるかを示す兆候に関する判定結果を含んでよい。前記第一指標値及び前記第二指標値を用いることで、精度のよい判定結果が得られる。
【0118】
1-3-3.認知機能障害又は認知機能低下のリスクに関する判定結果
【0119】
前記支援情報は、認知機能障害のリスクの判定結果又は認知機能低下のリスクの判定結果を含んでよい。本明細書内において、「認知機能障害のリスク」は、ヒトが認知機能障害を患う可能性若しくはヒトが認知機能障害を患っている状態にある可能性を意味してよい。また、本明細書内において「認知機能低下のリスク」は、ヒトが認知機能低下を患う可能性又はヒトが認知機能低下を患っている状態にある可能性を意味してよい。
認知機能障害のリスクの判定結果は、例えば、当該リスクの程度を示す判定結果であってよく、より具体的には、当該リスクが低いか又は高いかに関する情報を含みうる。例えば、前記支援情報は、ヒトが、MCI又は認知症(特にはAD)を有するリスクの判定結果を含みうる。
認知機能低下のリスクの判定結果は、例えば、当該リスクの程度を示す判定結果であってよく、より具体的には、当該リスクが低いか又は高いかに関する情報を含みうる。
【0120】
1-3-4.判定結果の生成
【0121】
以上で述べた認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのリスクの判定結果は、前記第一指標値及び前記第二指標値に基づき生成されうる。以下で当該判定結果の生成の具体例について説明する。
【0122】
例えば、前記判定結果を生成するために、前記第一指標値及び前記第二指標値を用いて算出された判定用スコアが用いられてよい。当該判定用スコアは、例えば「前記第一指標値」と「前記第二指標値に所定の処理を行って得られた値」との組合せを用いて算出されてよく、又は、「前記第一指標値に所定の処理を行って得られた値」と「前記第二指標値に所定の処理を行って得られた値」との組合せを用いて算出されてよく、又は、「前記第一指標値に所定の処理を行って得られた値」と「前記第二指標値」との組合せを用いて算出されてよい。前記所定の処理は、重み付け処理であってよく、例えば所定の係数を乗じる又は加える処理であってよい。前記算出において、前記組合せを構成する2つの値の和、差、積、又は商が算出されてよく、算出された前記和、差、積、又は商が判定用スコアとして用いられうる。特に好ましくは、前記判定用スコアは、前記2つの値の和であってよい。
前記算出処理は、判定対象であるヒトが男性である場合及び女性である場合のいずれにおいても同じ算出処理が行われてよく、又は、性別によって異なる算出処理が行われてもよい。
【0123】
例えば、前記所定の処理は、前記第一指標値に応じた重み付け処理であってよい。
より具体的には、前記所定の処理は、前記第一指標値が認知機能障害又は認知機能低下を有さないことを示す数値範囲にある場合は、前記判定用スコアに対する「前記第一指標値に所定の処理を行って得られた値」の影響がより大きくなり且つ前記判定用スコアに対する「前記第二指標値に所定の処理を行って得られた値」の影響がより小さくなるような処理であってよい。
また、前記所定の処理は、前記第一指標値が認知機能障害又は認知機能低下を有することを示す数値範囲にある場合は、前記判定用スコアに対する「前記第一指標値に所定の処理を行って得られた値」の影響がより小さくなり且つ前記判定用スコアに対する「前記第二指標値に所定の処理を行って得られた値」の影響がより大きくなるような処理であってよい。
【0124】
代替的には、前記所定の処理は、前記第二指標値に応じた重み付け処理であってよい。
前記所定の処理は、前記第二指標値が、認知機能障害又は認知機能低下がより進行していないことを示す所定の数値範囲内にある場合は、前記判定用スコアに対する「前記第一指標値に所定の処理を行って得られた値」の影響がより大きくなり且つ前記判定用スコアに対する「前記第二指標値に所定の処理を行って得られた値」の影響がより小さくなるような処理であってよい。
また、前記所定の処理は、前記第二指標値が、認知機能障害又は認知機能低下がより進行していることを示す所定の数値範囲外にある場合は、前記判定用スコアに対する「前記第一指標値に所定の処理を行って得られた値」の影響がより小さくなり且つ前記判定用スコアに対する「前記第二指標値に所定の処理を行って得られた値」の影響がより大きくなるような処理であってよい。
【0125】
例えば、図7に示されるとおり、判定用スコアは、0~2の値域のいずれかの値となるように設定されていてよい。この図では、判定用スコアが、2により近いほど、ヒトにおける認知機能障害がより進行していること(例えば認知症(特にはAD)を有していること又は認知症(特にはAD)を有している可能性が高いこと)を示し、0により近いほど、ヒトは認知機能障害を有さないこと(例えばMCIも認知症も有さないこと又はMCIも認知症も有さない可能性が高いこと)を示す。また、判定用スコアが1付近である場合は、ヒトは、MCIを有していること又はMCIを有している可能性が高いことを示す。前記判定用スコアは、これらを示す指標値として用いられてよい。
【0126】
以上で述べた判定用スコアに基づき、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのリスクの判定が行われてよい。当該判定を行うために、例えば、前記判定用スコアの値域は予め複数の数値範囲に分けられていてよく、当該複数の数値範囲のそれぞれに、判定結果が関連付けられていてよい。当該複数の数値範囲の数は、例えば2~10、好ましくは3~8、より好ましくは3~7であってよい。
【0127】
例えば前記判定用スコアの値域が3つの数値範囲に分けられている場合において、当該3つの数値範囲のうちの1つの数値範囲(例えば低い数値範囲)に、前記ヒトは健常である(又は前記ヒトは認知機能障害を有さない若しくは有するリスクは低い)という判定結果が関連付けられていてよい。当該3つの数値範囲のうちの他の1つの数値範囲(例えば中間の数値範囲)に、前記ヒトはMCIを有する(又は前記ヒトはMCIを有するリスクが高い)という判定結果が関連付けられていてよい。また、当該3つの数値範囲のさらに他の1つの数値範囲(例えば高い数値範囲)に、前記ヒトは認知症(例えばAD)を有する(又は前記ヒトは認知症を有するリスクが高い)という判定結果が関連付けられていてよい。
【0128】
例えば前記判定用スコアの値域が4つの数値範囲に分けられている場合において、当該4つの数値範囲のうちの1つの数値範囲(例えば一番低い数値範囲)に、前記ヒトは健常である(又は前記ヒトは認知機能障害を有さない若しくは有するリスクは低い)という判定結果が関連付けられていてよい。当該4つの数値範囲のうちの他の1つの数値範囲(例えば二番目に低い数値範囲)に、前記ヒトは認知機能低下を有する(又は前記ヒトは認知機能低下を有するリスクが高い)という判定結果が関連付けられていてよい。当該4つの数値範囲のうちの他の1つの数値範囲(例えば三番目に低い数値範囲)に、前記ヒトはMCIを有する(又は前記ヒトはMCIを有するリスクが高い)という判定結果が関連付けられていてよい。また、当該4つの数値範囲のさらに他の1つの数値範囲(例えば最も高い数値範囲)に、前記ヒトは認知症(例えばAD)を有する(又は前記ヒトは認知症を有するリスクが高い)という判定結果が関連付けられていてよい。
代替的には、前記判定用スコアの値域が4つの数値範囲に分けられている場合において、当該4つの数値範囲のうちの1つの数値範囲(例えば一番低い数値範囲)に、前記ヒトは健常である(又は前記ヒトは認知機能障害を有さない若しくは有するリスクは低い)という判定結果が関連付けられていてよい。当該4つの数値範囲のうちの他の1つの数値範囲(例えば二番目に低い数値範囲)に、前記ヒトは早期の認知障害に特徴的な兆候(例えば特徴的な血漿の兆候)が認められるという判定結果が関連付けられていてよい。当該4つの数値範囲のうちの他の1つの数値範囲(例えば三番目に低い数値範囲)に、前記ヒトは認知機能障害に特徴的な兆候(例えば特徴的な血漿の兆候)が認められるという判定結果が関連付けられていてよい。当該4つの数値範囲のさらに他の1つの数値範囲(例えば最も高い数値範囲)に、前記ヒトは進んだ認知機能障害に特徴的な兆候(例えば特徴的な血漿の兆候)が認められるという判定結果が関連付けられていてよい。
代替的には、前記判定用スコアの値域が4つの数値範囲に分けられている場合において、当該4つの数値範囲のうちの1つ数値範囲(例えば一番低い数値範囲)に、前記ヒトは、認知機能障害(例えばMCI又はAD)のリスクは無い若しくはほぼ無いという判定結果が関連付けられていてよい。当該4つの数値範囲のうちの他の1つの数値範囲(例えば二番目に低い数値範囲)に、前記ヒトは認知機能障害(例えばMCI又はAD)のリスクは低いという判定結果が関連付けられていてよい。当該4つの数値範囲のうちの他の1つの数値範囲(例えば三番目に低い数値範囲)に、前記ヒトは認知機能障害(例えばMCI又はAD)のリスクは中程度であるという判定結果が関連付けられていてよい。当該4つの数値範囲のさらに他の1つの数値範囲(例えば最も高い数値範囲)に、前記ヒトは認知機能障害(例えばMCI又はAD)のリスクは高いという判定結果が関連付けられていてよい。
前記ヒトの判定用スコアに上記の判定結果が関連付けられた判定支援情報が生成されることは、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのリスクの判定支援のために有用である。
また、判定支援情報の一部として、判定用スコアの複数の値域と各値域における判定結果との対応関係を説明するデータが含まれていてもよい。当該データによって、判定結果がより理解しやすくなる。例えば、判定用スコアがより高くなることによって、認知機能障害のリスクがより高くなるということを前記ヒト又は医療従事者が知ることができる。
当該対応関係を説明するデータの例を図16及び17に示す。図16又は17に示されるような、判定用スコアの複数の値域と各値域に関連付けられた判定結果の説明とを含む表が、当該対応関係を説明するデータとして、判定支援情報に含まれてよい。
【0129】
前記ヒトはMCIを有する(又は前記ヒトはMCIを有するリスクが高い)という判定結果が関連付けられている数値範囲は、さらに複数の数値範囲に分けられていてよい。そして、当該複数の数値範囲のそれぞれに、初期MCIに段階にある、中期MCIの段階にある、又は後期MCIの段階にあるという判定結果が関連付けられていてよい。
【0130】
判定用スコアに基づき判定を実行するために、情報処理装置200は、前記判定用スコアの値域中の前記複数の数値範囲と、前記複数の数値範囲それぞれに関連付けられた判定結果と、を含むデータテーブルを有していてよい。当該データテーブルは、例えば、情報処理装置200の記憶部202に格納されていてよい。情報処理装置200は、前記データテーブルを参照して、前記判定用スコアに対応する判定結果を選択し、前記ヒト(又は前記生体試料)の判定結果として選択しうる。
【0131】
1-3-5.プロットデータの生成
【0132】
1-3-5-1.一軸上へのプロット
【0133】
情報処理装置200は、前記判定用スコアの値域中における、前記算出された判定用スコアの位置を示すプロットデータを生成してもよい。例えば図8に示されるような、前記値域を示す1つの軸と、当該軸上における判定用スコアの位置と、を示すデータが生成されてもよい。図8に示された判定用スコアは、上記で図7を参照して説明したとおりの意味を有しているとする。この場合、図8に示される判定用スコア(黒塗りの菱形によって示されている)は、1よりもやや高い値であるが、2よりも大幅に低い値であることが示されている。そのため、図8に示されるプロットデータによって、例えば、当該判定用スコアを有するヒトは、MCIを有する可能性が高いこと、又は、認知症の段階にはまだ至ってないがMCIから認知症の段階に移行しつつある可能性が高いことが分かる。
他のプロットデータの例を図18に示す。同図において、0.0~2.0の値域の判定用スコアの軸が横方向に延びている。当該軸は、A、B、C、及びDの4つの値域に分けられている。このうち、算出された判定用スコア1.47の位置が矢印及び黒線によって示されている。また、判定用スコアが大きくなるにつれて、例えば認知機能障害リスクが高くなることがより分かり易くなるように、0.0から2.0へと進むにつれて色のグラデーションが施されている。本発明において、このようなプロットデータが生成されてもよい。
さらに他のプロットデータの例を図19に示す。同図において、0.0~2.0の値域の判定用スコアの軸が横方向に延びている。また、同図において、縦軸に「人数比」が記載されている。当該人数比は、例えば所定の年齢以上のヒトの集団において健常又はMCI(若しくは認知症)と診断された人数の比を示している。このような人数比が示されてもよく、これはヒトの認知機能障害の進行度の把握に役立つ。また、同図に「前々回」、「前回」、及び「今回」の判定用スコアが矢印によって示されている。このような、以前の判定結果がプロットデータ中に含まれていることによって、認知機能障害の進行の程度を知ることができる。
【0134】
当該プロットデータは、支援情報として用いられてもよい。ヒトの認知機能は徐々に変化するところ、当該プロットデータは、ヒトの認知機能の状態又は変遷を把握するために有用である。
【0135】
また、当該プロットデータを生成し、プロットされた判定用スコアの位置に基づき、前記判定が行われてもよい。
【0136】
1-3-5-2.二次元マトリックス中へのプロット
【0137】
前記判定を行うために、前記第一指標値及び前記第二指標値が、二次元マトリックス中にプロットされてもよい。
例えば、第一指標値をX軸とし且つ第二指標値をY軸とする二次元マトリックスを用意する。当該二次元マトリックス中に、算出された第一指標値及び第二指標値を用いてプロットを行う。当該プロットされた位置に基づき、前記判定が行われてよい。
【0138】
例えば、図9Aに示されるとおり、プロットされた位置が、二次元マトリックス中の右上により近いほど、ヒトにおける認知機能障害がより進行していることを示し、左下により近いほど、ヒトは認知機能障害を有さない又はヒトにおける認知機能障害はより進行していないことを示す。
例えば図9Aに示される第一指標値が図5を参照して説明したとおりの指標値であり、且つ、第二指標値が図6Bを参照して説明したとおりの指標値である場合を想定する。この場合において、これらの値がプロットされた位置(黒塗りの菱形の位置)は、0~1の数値範囲をとる第一指標値が0.5を超えているが、1よりも小さく、且つ、0~1の数値範囲をとる第二指標値が0.5以下であるが、0よりも大きい。そのため、これらの第一指標値及び第二指標値が得られた生体試料又はヒトが、認知機能障害を有する(又は認知機能障害を有する可能性が高い)こと、及び、MCIの段階にある(MCIの段階にある可能性が高い)が分かる。
【0139】
代替的には、図9Bに示されるとおり、二次元マトリックスは、予め4つの象限に分割されていてよい。そして、プロットされた位置が、当該二次元マトリックス中の右上の象限に存在する場合に、ヒトが認知症(例えばAD)を患っている(又は患っているリスクが高い)と判定されうる。
また、プロットされた位置が、当該二次元マトリックス中の右下の象限に存在する場合に、ヒトがMCIを患っている(又は患っているリスクが高い)と判定されうる。
また、プロットされた位置が、当該二次元マトリックス中の左下の象限に存在する場合に、ヒトが健常であると判定されうる。
なお、プロットされた位置が、左上の象限に存在する場合は、例えば判定されなくてよく、又は、判定不能とされてもよい。
【0140】
前記二次元マトリックスプロットデータは、支援情報として用いられてもよい。ヒトの認知機能は徐々に変化するところ、当該プロットデータは、ヒトの認知機能の状態又は変遷を把握するために有用である。
【0141】
支援情報生成工程では、上記のとおり、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定結果が生成される。そのため、支援情報生成工程は、判定工程と呼ばれてもよい。
【0142】
1-3-6.各バイオマーカー量に関する判定
【0143】
前記支援情報は、各バイオマーカーの量に関するデータを含んでよい。前記支援情報はさらに、各バイオマーカーの量それぞれに基づく判定結果を含んでもよい。これらのデータを含む表データの例について、以下で図20を参照しながら説明する。
【0144】
同図には、各バイオマーカーの量データを含む表データが示されている。
同図に示されるバイオマーカーのうち、ALB(albumin、上記(4))及びTTR(transthyretin、上記(10))が、栄養状態を示すバイオマーカーとして示されている。これらのバイオマーカーは、栄養状態の指標としても有用である。
また、APOA1(apolipoprotein A1、上記(5))及びAPOC1(apolipoprotein C1、上記(6))が、脂質代謝状態を示すバイオマーカーとして示されている。これらバイオマーカーは、脂質代謝状態を示すバイオマーカーとしても有用である。
また、C3(complement component 3、上記(7))、C4G(complement component 4 gamma chain、上記(8))、A1BG(alpha-1-B-glycoprotein、上記(1))、及びHPX(hemopexin、上記(9))が、免疫状態を示すバイオマーカーとして示されている。これらバイオマーカーは、免疫状態の指標としても有用である。
また、A2M(alpha-2-macroglobulin、上記(3))及びA2AP(alpha-2-antiplasmin、上記(2))が、凝固線溶状態を示すバイオマーカーとして示されている。これらバイオマーカーは、凝固線溶状態の指標としても有用である。
このように、前記支援情報は、各バイオマーカーの量に関するデータを含んでよい。これにより、栄養状態、脂質代謝状態、免疫状態、及び凝固線溶状態についても把握することができる。
【0145】
また、同図に示されるように、前記表データには、各バイオマーカーの量データに加えて、各バイオマーカーについての標準的な数値範囲(同図において「標準範囲」と示されている)が含まれていてもよい。さらに、同図に示されるように、前記表データには、各バイオマーカーの量データに基づく判定結果が含まれていてもよい。これらのデータにより、被験者の状態をより的確に把握することができる。
【0146】
また、本発明において、栄養状態及び脂質代謝状態を示すバイオマーカー量に基づく指標値と、免疫状態及び凝固線溶状態を示すバイオマーカー量に基づく指標値とが算出されてもよい。これら2つの指標値は、上記で述べた第一指標値又は第二指標値と同様に、所定の判別式を用いて算出されてよい。これら2つの指標値が、例えば図21に示されるようにプロットされてもよい。
【0147】
1-3-7.他の判定結果
【0148】
前記支援情報は、バイオマーカーに基づく判定結果以外の他の判定結果を含んでもよい。当該他の判定結果の例として、例えば被験者の遺伝子型に関する検査結果を挙げることができるが、これに限定されない。
【0149】
1-4.出力工程
【0150】
出力工程S4において、支援情報生成工程S3において生成された支援情報が出力される。例えば、支援情報生成工程S3を実行した情報処理装置が、当該支援情報の出力を行ってよい。
【0151】
1-5.指標値算出工程、支援情報生成工程、及び出力工程を実行する情報処理装置
【0152】
前記指標値算出工程、前記支援情報生成工程、及び前記出力工程を実行する情報処理装置は、例えば、前記バイオマーカー定量システムに含まれる情報処理装置とは別の情報処理装置であってよい。
【0153】
これらの工程を実行する情報処理装置の具体的な構成例を、図10を参照しながら説明する。図10に示される情報処理装置200は、処理部201、記憶部202、入力部203、出力部204、及び通信部205を備えている。情報処理装置200は、例えば汎用のコンピュータ又はサーバが使用されてよい。
【0154】
処理部201は、例えば、指標値算出工程S2及び支援情報生成工程S3(任意的に、これら2つの工程に加え出力工程S4)を実行するように構成されていてよく、より具体的には、これら工程を実行するように構成された回路を有する。処理部201のより具体的な構成(例えばCPU及びRAMなど)については、上記で説明した処理部101についての説明が当てはまるので、当該構成についての説明は省略する。
【0155】
処理部201は、例えば上記で説明したバイオマーカー定量システム(特には情報処理装置100)から取得した前記2以上のバイオマーカー量に基づき、前記第一指標値及び前記第二指標値を算出する。当該算出処理は、上記で1-2.において説明したとおりであってよい。
【0156】
処理部201は、例えば、前記第一指標値及び前記第二指標値に基づき、前記支援情報を生成する。当該生成処理は、上記1-3.において説明したとおりであってよい。
【0157】
処理部201は、さらに、記憶部202からデータを取得し又は記憶部202にデータを記録できるように構成されていてよい。記憶部202は、各種データを記憶する。記憶部202は、例えば、バイオマーカー定量システムから取得した前記2以上のバイオマーカー量データ、指標値算出工程S2において算出された前記第一指標値及び前記第二指標値、及び支援情報生成工程S3において生成された支援情報を記憶できるように構成されていてよい。さらに、記憶部202には、前記第一指標値及び前記第二指標値を算出するために用いられる判別式が格納されていてよい。また、記憶部202には、支援情報の生成において用いられる前記データテーブル、及び/又は、判別用スコアと判定結果との関連付けに関する情報が格納されていてよい。
【0158】
記憶部202には、オペレーティング・システム(例えば、WINDOWS(登録商標)、UNIX(登録商標)、又はLINUX(登録商標)など)、指標値算出工程S2及び支援情報生成工程S3(任意的に出力工程S4)を情報処理装置に実行させるためのプログラム、及び他の種々のプログラムが格納されうる。なお、これらのプログラムは、記憶部202に限らず、記録媒体に記録されていてもよい。
【0159】
入力部203は、各種データの入力を受け付けることができるように構成されているインタフェースを含みうる。入力部203は、そのような操作を受けつける装置として、例えばマウス、キーボード、及びタッチパネルなどを含みうる。
【0160】
出力部204は、各種データの出力を行うことができるように構成されているインタフェースを含みうる。例えば、出力部204は、指標値算出工程S2において算出された第一指標及び第二指標値を出力しうる。また、出力部204は、支援情報生成工程S3において生成された支援情報を出力しうる。出力部204は、当該出力を行う装置として例えば表示装置及び/又は印刷装置などを含んでよく、出力の仕方は表示装置への表示又は印刷装置による印刷であってよい。
【0161】
通信部205は、情報処理装置200をネットワークに有線又は無線で接続するように構成されうる。通信部205によって、情報処理装置200は、ネットワークを介して各種データを取得することができる。取得したデータは、例えば記憶部202に格納されうる。通信部205の構成は当業者により適宜選択されてよい。
【0162】
情報処理装置200は、例えばドライブ(図示されていない)などを備えていてもよい。ドライブは、記録媒体に記録されているデータ(例えば上記で挙げた各種データ)又はプログラムを読み出して、RAMに出力することができる。記録媒体は、例えば、microSDメモリカード、SDメモリカード、又はフラッシュメモリであるが、これらに限定されない。
【0163】
なお、指標値算出工程、支援情報生成工程、及び出力工程は、1つの情報処理装置によって実行されてよく、または、2つ以上の情報処理装置によって実行されてもよい。例えば、指標値算出工程が1つの情報処理装置により実行され、且つ、支援情報生成工程及び出力工程が他の情報処理装置によって実行されてもよい。
また、例えば指標値算出工程及び/又は支援情報生成工程が、前記バイオマーカー定量システムに含まれる情報処理装置によって実行されてもよい。出力工程が、前記バイオマーカー定量システムに含まれる情報処理装置によって実行されてもよい。
【0164】
なお、本技術は、前記指標値算出工程及び前記支援情報生成工程を実行する情報処理装置も提供する。当該情報処理装置は、上記で説明したとおりである。
【0165】
2.判定支援情報生成システム
【0166】
本技術は、判定支援情報生成システムも提供する。当該システムは、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定を支援する情報を生成するものであってよい。当該判定支援情報生成システムのブロック図を図11に示す。図11に示されるとおり判定支援情報生成システム20は、バイオマーカー定量システム21、及び、情報処理装置22を含む。前記判定支援情報生成システムは、前記生体試料が、タンパク質分解処理に付され、そして、前記バイオマーカー定量システムによる測定に付されるように構成されていてよい。
【0167】
当該バイオマーカー定量システム21は、上記1-1-2-4.において説明したとおりのシステムであってよく、当該説明が、当該判定支援情報生成システムに含まれるバイオマーカー定量システムについても当てはまる。例えば、前記バイオマーカー定量システムは、液体クロマトグラフィー質量分析計を含みうる。
【0168】
当該情報処理装置22は、上記1-5.において説明したとおりの装置であってよく、当該説明が、当該判定支援情報生成システムに含まれる情報処理装置についても当てはまる。
【0169】
なお、本技術は、上記1.において説明した指標値算出工程及び支援情報生成工程を実行する情報処理装置も提供する。
【0170】
3.バイオマーカーの組合せ
【0171】
本技術は、前記(1)~(10)のバイオマーカーのうちの2以上の組合せも提供する。当該組合せは、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定のために用いられてよい。
【0172】
また、本技術は、前記(1)、(4)、(8)、及び(9)のバイオマーカーのうちの2以上を含むバイオマーカーの組合せを提供する。すなわち、前記組合せは、前記(1)、(4)、(8)、及び(9)のバイオマーカーのうちの2つ、3つ、又は4つ全てのバイオマーカーを含むものであってよい。これらのバイオマーカーの組合せは、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定のために用いられてよく、特には、認知機能障害又は認知機能低下の有無の判定のために用いられてよい。
特に好ましくは、前記組合せは、前記(1)、(4)、(8)、及び(9)のバイオマーカーに加えて、前記(2)、(3)、(6)、及び(7)のバイオマーカーうちの1つ、2つ、3つ、又は4つをさらに含む。これらのバイオマーカーの組合せが、認知機能障害又は認知機能低下の有無の判定のために特に適している。
【0173】
また、前記バイオマーカーの組合せは、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定のために用いられてよく、特には、認知機能障害又は認知機能低下の進行度の判定のために用いられてよい。これらのバイオマーカーの組合せは、認知機能障害又は認知機能低下の進行度の判定のために特に適している。
【0174】
4.キット
【0175】
本技術は、本技術に従う判定支援情報生成方法を実行するために用いられる生体試料採取キットも提供する。当該生体試料採取キットは、例えば、ヒトの血液を採取することができるように構成されていてよい。例えば、前記生体試料採取キットは、血液採取用の針と、当該針を介して採取された血液が収容される容器と、を含む。当該容器には、例えば当該血液が染み込む吸収体(例えば紙、特には濾紙、又は、スポンジ状構造物など)が含まれていてよい。
【0176】
前記生体試料採取キットは、例えば、上記で述べたバイオマーカー定量システム10へと、生体試料を受け渡すことが可能であるように構成さていてよい。例えば、前記生体試料採取キット(特には当該キットのうちの前記容器)は、バイオマーカー定量システム10に含まれる前記収容部へと収容可能であるように構成されうる。
【0177】
5.判別式導出方法
【0178】
本技術は、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクを判定するための判別式を決定する方法も提供する。当該決定方法は、複数のヒトそれぞれの生体試料に含まれる、前記組合せを構成するバイオマーカーの量に関するデータを取得する工程、前記複数のヒトそれぞれの認知機能障害又は認知機能低下の有無及び/又は認知機能障害又は認知機能低下の段階と、それぞれのヒトの生体試料について測定された前記量と、を用いて回帰分析を行って判別式を導出する判別式導出工程、を含みうる。前記判別式導出方法は、前記導出された判別式を用いて、被験者の認知機能障害、認知機能低下、又はそのいずれかのリスクを検出する検出工程を含んでよい。
【0179】
前記判別式導出工程において行われる回帰分析は、例えばロジスティック回帰分析であるが、これに限定されず、上記1.で説明した他の分析手法であってもよい。前記判別式において、目的変数は、例えば認知機能障害の有無又は認知機能障害の段階であってよい。前記判別式において、説明変数は、例えば本技術に従う組合せを構成するバイオマーカーの量であってよい。
【0180】
6.複数種の判定用バイオマーカーを用いた判定支援情報生成方法
【0181】
本技術は、ヒトに由来する生体試料に含まれる以下(A)~(D)のバイオマーカーのうちの2以上の量に基づき、前記ヒトの認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定を支援する情報を生成する支援情報生成工程を実行することを含む、判定支援情報生成方法も提供する:
(A)少なくとも一つの栄養状態判定用バイオマーカー、
(B)少なくとも一つの脂質構成判定用バイオマーカー、
(C)少なくとも一つの免疫機能判定用バイオマーカー、及び
(D)少なくとも一つの凝固線溶系判定用バイオマーカー。
【0182】
これら4種のバイオマーカーのうちの2以上の組合せは、ヒトの認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定のために有用である。また、これらのバイオマーカーはそれぞれ、栄養状態判定のため、脂質構成判定のため、免疫機能判定のため、及び凝固線溶系判定のためにも有用である。そのため、これらのバイオマーカーによって、ヒトの認知機能障害又は認知機能低下に関する判定を実行し且つ栄養状態、脂質構成、免疫機能、及び凝固線溶系のうちの2以上の判定を実行することができる。すなわち、本技術によって、ヒトにおける、認知機能障害又は認知機能低下の判定支援情報の生成に加え、それと同時に、栄養状態、脂質構成、免疫機能、及びの凝固線溶系のうちの2以上の判定支援情報も生成することができる。これらの情報によって、認知機能の維持又は改善のための生活改善をヒトに促すこともできる。
【0183】
前記(A)のバイオマーカーは、以下の(a1)及び(a2)のバイオマーカーのうちの少なくとも1つを含んでよい:
(a1)albumin又はこの部分ペプチド、及び、
(a2)transthyretin又はこの部分ペプチド。
【0184】
前記(a1)及び(a2)のバイオマーカーは、上記1.において説明した(4)及び(10)のバイオマーカーとそれぞれ同じであり、その説明が、この支援情報生成方法についても当てはまる。
【0185】
前記(B)のバイオマーカーは、以下の(b1)及び(b2)のバイオマーカーのうちの少なくとも1つを含んでよい:
(b1)apolipoprotein A1又はこの部分ペプチド、及び
(b2)apolipoprotein C1又はこの部分ペプチド。
【0186】
前記(b1)及び(b2)のバイオマーカーは、上記1.において説明した(5)及び(6)のバイオマーカーとそれぞれ同じであり、その説明が、この支援情報生成方法についても当てはまる。
【0187】
前記(C)のバイオマーカーは、以下の(c1)~(c4)のバイオマーカーのうちの少なくとも1つを含んでよい:
(c1)complement component 3又はこの部分ペプチド
(c2)complement component 4 gamma chain又はこの部分ペプチド
(c3)alpha-1-B-glycoprotein又はこの部分ペプチド、及び
(c4)hemopexin又はこの部分ペプチド。
【0188】
前記(c1)、(c2)、(c3)、及び(c4)のバイオマーカーは、上記1.において説明した(7)、(8)、(1)、及び(9)のバイオマーカーとそれぞれ同じであり、その説明が、この支援情報生成方法についても当てはまる。
【0189】
前記(D)のバイオマーカーは、以下の(d1)及び(d2)のバイオマーカーのうちの少なくとも1つを含んでよい:
(d1)alpha-2-macroglobulin又はこの部分ペプチド、及び
(d2)alpha-2-antiplasmin又はこの部分ペプチド。
【0190】
前記(d1)及び(d2)のバイオマーカーは、上記1.において説明した(3)及び(2)のバイオマーカーとそれぞれ同じであり、その説明が、この支援情報生成方法についても当てはまる。
【0191】
前記判定支援情報生成方法は、さらに、各バイオマーカーの量に関するデータを取得するデータ取得工程を含んでよい。当該データ取得工程は、上記1-1.において説明したデータ取得工程と同様に実行されてよい。
【0192】
また、前記判定支援情報生成方法は、前記支援情報生成工程において生成された支援情報を出力する出力工程を含んでよい。当該出力工程は、上記1-5.おいて説明した出力工程と同様に実行されてよい。
【実施例0193】
以下、実施例に基づいて本技術を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本技術の代表的な実施例の一例を示したものであり、本技術の範囲は、これらの実施例のみに限定されるものでない。
【0194】
7.実施例1
【0195】
7-1.第一指標値及び第二指標値を算出するために用いられる判別式の作成
【0196】
認知機能に関して医師による診断を受けた92症例を用意した。当該92症例のうち、26症例が健常であり、66症例が認知機能障害を有していた。また、認知機能障害を有する症例は、さらにMCI又はアルツハイマー型認知症のいずれであるかについても診断されていた。
【0197】
前記92症例それぞれの生体試料(血漿)を得た。そして、各血漿に含まれる以下(1)~(10)のバイオマーカーの量を定量した。
(1)alpha-1-B-glycoprotein
(2)alpha-2-antiplasmin
(3)alpha-2-macroglobulin
(4)albumin
(5)apolipoprotein A1
(6)apolipoprotein C1
(7)complement component 3
(8)complement component 4 gamma chain
(9)hemopexin
(10)transthyretin
【0198】
バイオマーカーの量の定量のために行われた血漿の前処理及び前記前処理後のバイオマーカー定量のための測定条件を以下に説明する。
【0199】
(前処理)
1.血漿3μlを22.5μlの熱変性溶液(会社名:ナカライテスク、品名:CHAPS)と混和し、サーマルサイクラーで99.9℃で5分熱変性させた。
2.前記熱変性後の血漿含有溶液のうち8.5μlを、43.5μlのトリプシン溶液(会社名:Promega、品名:Sequencing Grade Modified Trypsin、トリプシン濃度:約20ng/μl)と混和した。トリプシン溶液添加後の前記血漿含有溶液を、37℃で16時間インキュベートした。
3.前記インキュベート後に、140μlのギ酸溶液(会社名:FUJIFILM和光純薬、品名:ギ酸、ギ酸濃度:1%)を添加し、酵素反応を停止させた。
4.酵素反応停止後、前記血漿含有溶液に、後述の液体クロマトグラフィー質量分析計による定量のために用いられる安定同位体標識した内部標準ペプチドを添加して、分析用試料とした。
【0200】
(液体クロマトグラフィー質量分析計によるバイオマーカーの定量)
前記前処理によって得られた分析用試料2μlを用いて、液体クロマトグラフィー質量
分析計によるバイオマーカー定量を行った。当該液体クロマトグラフィー質量分析計は、株式会社島津製作所製のLCMS-8060システムであった。当該システムに、逆相カラム(AERIS PEPTIDE XB-C18、Phenomenex社)を装着し、逆相クロマトグラフィーの手法(0.1%ギ酸、2%~90%アセトニトリル)で分離処理を行い、そして、質量分析を行った。
【0201】
当該質量分析は、MRM(multiple reaction monitoring)法に従い行われた。当該MRM法における各バイオマーカーの測定条件を、以下の表2に示す。
【0202】
【表2】
【0203】
上記表2において、「保持時間(分)」列は、前記逆相クロマトグラフィーにおける各バイオマーカーの定量断片の保持時間である。「標識の有無」列のうち、「非標識」は、標識が行われていない定量断片(非標識ペプチド)を示し、すなわち血漿に含まれる定量断片に対応する。「標識の有無」のうち、「標識」は、安定同位体標識が行われたアミノ酸残基を有する定量断片を示し、すなわち安定同位体標識された内部標準ペプチドである。「定量断片のアミノ酸配列」列には、定量断片のアミノ酸配列(1文字表記)が示されており、括弧が付されたアミノ酸残基が、安定同位体標識されたアミノ酸残基である。すなわち、アミノ酸配列末端の[K]及び[R]が、内部標準用の安定同位体ペプチドの同位体標識箇所である。
【0204】
各バイオマーカーの定量断片のLC-MSシグナルは、ソフトウェア Skyline(ワシントン大学 MacCoss Lab)を用いて特定した。
【0205】
前記質量分析によって、分析用試料中のバイオマーカー定量断片のモル濃度が測定された。当該測定のために、非標識ペプチドの希釈系列に内部標準ペプチドを添加した試料群を用いて検量線が作成された。当該検量線を用いて、内部標準法により前記測定が行われた。
【0206】
各バイオマーカーについて、測定された定量断片濃度、定量断片の質量、及びバイオマーカーの質量を用いて、分析用試料中のバイオマーカー量(モル濃度)が定量された。
【0207】
以上のとおりのバイオマーカー量の定量が、上記92症例それぞれから得られた生体試料に対して行われた。上記92症例のバイオマーカー量が、バイオマーカー量の平均値及び標準偏差を用いて、標準化された。
【0208】
上記92症例について、前記(1)~(10)のバイオマーカーのうち(1)、(4)、(8)、及び(9)を含むバイオマーカー群の標準化されたバイオマーカー量を説明変数とし且つ各症例が健常、MCI、及びADのいずれであるかという情報を目的変数として、ロジスティック回帰分析を行った。当該回帰分析によって、健常とMCIとの判別に関する判別式及び健常とADとの判別に関する判別式を得た。これらの判別式が、第一指標値及び第二指標値を算出するために用いられた。第一指標値は、これら判別式を用いて得られた値を用いて算出されたMCIであるかに関する確率とADであるかに関する確率との合計値である。第二指標値は、前記ADであるかに関する確率である。
【0209】
7-2.作成された判別式の評価(第一指標値による判別)
【0210】
前記92症例それぞれのバイオマーカー量を前記判別式に代入して、各症例の第一指標値を得た。図12に、各症例の第一指標値をプロットした箱ひげ図、判別式に基づく判定結果と医師の診断結果とに関する混同行列、及び判別式に基づく判定結果に関する受信者動作特性曲線、すなわちROC(receiver operating characteristic curve)曲線を示す。
【0211】
図12に示される結果より、第一指標値は、認知機能が健常であるヒトと認知機能障害を有するヒトとを判別するために有用であることが分かる。例えば、前記混同行列から計算される正解率(accuracy)は80%であった。また、前記ROC曲線のAUC(area under the curve)値は0.86であった。
【0212】
7-3.作成された判別式の評価(第二指標値による判別)
【0213】
前記59症例それぞれのバイオマーカー量を前記判別式に代入して、各症例の第二指標値を得た。図13に、各症例の第二指標値をプロットした箱ひげ図、判別式に基づく判定結果と医師の診断結果とに関する混同行列、及び判別式に基づく判定結果に関するROC曲線を示す。
【0214】
図13に示される結果より、第二指標値は、MCIとADとを判別するために有用であることが分かる。例えば、前記混同行列から計算される正解率は68%であった。また、前記ROC曲線のAUC値は0.77であった。
【0215】
7-4.第一指標値及び第二指標値の有用性
【0216】
以上7-1.~7-3.において説明したとおり、本技術に従う第一指標値と第二指標値とを用いることによって、認知機能障害又はそのリスクを精度良く判定することができることが分かる。また、第一指標値と第二指標値とを用いることによって、ヒトの認知機能障害の進行度(例えばMCIの段階にあるか又はADの段階にあるか)を判定することが可能であることも分かる。
また、ヒトの認知機能は、健常段階から、認知機能低下段階、そして認知機能障害段階へと徐々に移行する。上記のとおり、第一指標値及び第二指標値によって、例えばヒトの認知機能が、健常段階にあるが、認知機能障害段階に近いことを判定すること又は認知機能障害段階に至るリスクが高いことを判定することもできる。そのため、本技術に従う第一指標値と第二指標値は、認知機能低下又はそのリスクを精度良く判定することもできると考えられる。
【0217】
8.実施例2
【0218】
8-1.第一指標値及び第二指標値を算出するために用いられる判別式の作成
【0219】
認知機能に関して医師による診断を受けた多数の症例を用意した。各症例は、健常、早期のMCI、後期のMCI、早期のAD、又は後期のADであると診断されていた。
【0220】
前記症例のそれぞれから生体試料(血漿)を得た。そして、各血漿に含まれる以下(1)~(10)のバイオマーカーの量を、上記7-1.において説明したとおりに、定量して、標準化されたバイオマーカー量を得た。
【0221】
上記症例について、前記(1)~(10)のバイオマーカーのうち(1)、(4)、(8)、及び(9)を含むバイオマーカー群の標準化されたバイオマーカー量を説明変数とし且つ各症例が健常、MCI、及びADのいずれであるかという情報を目的変数として、ロジスティック回帰分析を行った。当該回帰分析によって、健常とMCIとの判別に関する判別式及び健常とADとの判別に関する判別式を得た。これらの判別式が、第一指標値及び第二指標値を算出するために用いられた。第一指標値は、これら判別式を用いて得られた値を用いて算出されたMCIであるかに関する確率とADであるかに関する確率との合計値である。第二指標値は、前記ADであるかに関する確率である。
【0222】
8-2.作成された判別式の評価(第一指標値による判別)
【0223】
前記症例それぞれのバイオマーカー量を前記判別式に代入して、各症例の第一指標値を得た。図14に、各症例の第一指標値をプロットした箱ひげ図及び判別式に基づく判定結果に関するROC曲線を示す。
【0224】
図14に示される結果より、第一指標値は、認知機能が健常であるヒトと認知機能障害を有するヒトとを判別するために有用であることが分かる。例えば、前記ROC曲線のAUC値は0.865であった。
【0225】
8-3.作成された判別式の評価(第二指標値による判別)
【0226】
前記症例それぞれのバイオマーカー量を前記判別式に代入して、各症例の第二指標値を得た。図15に、各症例の第二指標値をプロットした箱ひげ図を示す。
【0227】
図15に示される結果より、認知機能障害の進行に伴い、第二指標値が増加する傾向にあることが分かる。そのため、第二指標値は、認知機能障害の進行度を判定するために有用であることが分かる。例えば、前記第二指標値が、早期MCI、後期MCI、早期AD、及び後期ADのうちのどの段階にヒトが存在するかの指標として有用であることが分かる。
【0228】
8-4.第一指標値及び第二指標値の有用性
【0229】
以上8-1.~8-3.において説明したとおり、本技術に従う第一指標値と第二指標値とを用いることによって、認知機能障害又はそのリスクを精度良く判定することができることが分かる。また、第一指標値と第二指標値とを用いることによって、ヒトの認知機能障害の進行度(例えば早期MCIの段階、後期MCIの段階、早期ADの段階、又は後期ADの段階のいずれにあるか)を判定することが可能であることも分かる。
【0230】
本技術は、以下も提供する。
[1]
ヒトに由来する生体試料に含まれる2以上のバイオマーカーの量に基づき、
(I)前記ヒトにおける認知機能障害又は認知機能低下の有無を示す第一指標値、及び
(II)前記ヒトの認知機能障害又は認知機能低下の進行度を示す第二指標値、
を算出する指標値算出工程、
前記第一指標値及び前記第二指標値に基づき、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定を支援する情報を生成する支援情報生成工程、
を含む、判定支援情報生成方法。
[2]
前記指標値算出工程において用いられる前記2以上のバイオマーカーの量は、以下(1)~(10)のバイオマーカーのうちの2以上のバイオマーカーの量を含む、[1]に記載の判定支援情報生成方法。
(1)alpha-1-B-glycoprotein又はこの部分ペプチド
(2)alpha-2-antiplasmin又はこの部分ペプチド
(3)alpha-2-macroglobulin又はこの部分ペプチド
(4)albumin又はこの部分ペプチド
(5)apolipoprotein A1又はこの部分ペプチド
(6)apolipoprotein C1又はこの部分ペプチド
(7)complement component 3又はこの部分ペプチド
(8)complement component 4 gamma chain又はこの部分ペプチド
(9)hemopexin又はこの部分ペプチド
(10)transthyretin又はこの部分ペプチド
[3]
前記第一指標値は、前記(1)、(2)、(3)、(4)、(6)、(7)、(8)、及び(9)のバイオマーカーのうちの2以上を含むバイオマーカーの量に基づき算出される、[2]に記載の判定支援情報生成方法。
[4]
前記第二指標値は、前記(1)、(2)、(3)、(4)、(6)、(7)、(8)、及び(9)のバイオマーカーのうちの2以上を含むバイオマーカーの量に基づき算出される、[2]又は[3]に記載の判定支援情報生成方法。
[5]
前記第一指標値は、前記ヒトが、軽度認知障害若しくは認知症を有するかを示す指標値である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の判定支援情報生成方法。
[6]
前記第二指標値は、前記ヒトの認知機能障害が、軽度認知障害の段階にあるか又は認知症の段階にあるかを示す指標値である、[1]~[5]のいずれか一つに記載の判定支援情報生成方法。
[7]
ヒトに由来する生体試料に含まれる2以上のバイオマーカーの量に基づき、
(I)前記ヒトにおける認知機能障害又は認知機能低下の有無を示す第一指標値、及び
(II)前記ヒトの認知機能障害又は認知機能低下の進行度を示す第二指標値、
を算出する指標値算出工程、
前記第一指標値及び前記第二指標値に基づき、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定を支援する情報を生成する支援情報生成工程、
を実行する情報処理装置
を含む、判定支援情報生成システム。
[8]
前記2以上のバイオマーカーの量を定量するバイオマーカー定量システムをさらに含む、[7]に記載のシステム。
[9]
前記バイオマーカー定量システムは、液体クロマトグラフィー質量分析計を含む、[8]に記載のシステム。
[10]
前記システムは、前記生体試料が、タンパク質分解処理に付され、そして、前記バイオマーカー定量システムによる測定に付されるように構成されている、[8]又は[9]に記載のシステム。
[11]
ヒトに由来する生体試料に含まれる2以上のバイオマーカーの量に基づき、
(I)前記ヒトにおける認知機能障害又は認知機能低下の有無を示す第一指標値、及び
(II)前記ヒトの認知機能障害又は認知機能低下の進行度を示す第二指標値、
を算出する指標値算出工程、
前記第一指標値及び前記第二指標値に基づき、認知機能障害、認知機能低下、又はこれらのいずれかのリスクの判定を支援する情報を生成する支援情報生成工程、
を実行する情報処理装置。
【符号の説明】
【0231】
10 バイオマーカー定量システム
20 判定支援情報生成システム
図1
図2
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図10
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【配列表】
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