(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130598
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】血液から癌を診断する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20220830BHJP
【FI】
G01N33/574 A ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104360
(22)【出願日】2022-06-29
(62)【分割の表示】P 2020543438の分割
【原出願日】2018-10-24
(31)【優先権主張番号】10-2017-0138455
(32)【優先日】2017-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】313013379
【氏名又は名称】メドパクト アイエヌシー.
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソン ジン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ギョン ミン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】血液中に存在する、BAG2、プロカテプシンB、またはそれらの組み合わせから癌を診断する方法に係り、具体的には、三重陰性乳癌を診断する方法に関する。
【解決手段】個体から分離された試料と、BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせと、を接触させる段階と、BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせを接触させて形成される複合体から、試料において、BAG2の存在またはレベルを測定する段階と、試料から測定されたBAG2の存在またはレベルを、対照群から測定されたBAG2レベルと比較する段階と、を含む癌を診断する方法、及び癌を診断するためのキットである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体から分離された試料と、BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせと、を接触させる段階と、
前記BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせを接触させて形成される複合体から、前記試料において、BAG2の存在またはレベルを測定する段階と、
前 記試料から測定されたBAG2の存在またはレベルを、対照群から測定されたBAG2レベルと比較する段階と、を含む癌診断方法。
【請求項2】
前記試料は、血液、血清、血漿、またはそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記BAG2は、血液、血液、血清、血漿、またはそれらの組み合わせに可溶性であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記BAG2ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号1または2のアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記方法は、前記個体から分離された試料と、カテプシンBのポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせと、を接触させる段階と、
前記カテプシンBのポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせを接触させて形成される複合体から、カテプシンBの存在またはレベルを測定する段階と、
前記試料から測定されたカテプシンBの存在またはレベルと、対照群から測定されたカテプシンBのレベルと、を比較する段階と、をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記カテプシンBは、プロカテプシンBであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記カテプシンBポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号3ないし8のうちから選択されたいずれか1つのアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記試料において、BAG2またはカテプシンBの存在またはレベルを測定する段階は、ウェスタンブロッティング、ELISA、放射線免疫分析(RIA)、放射免疫拡散法、オクタロニー免疫拡散法、ロケット免疫電気泳動、組織免疫染色、免疫沈澱分析法、補体固定分析法、FACS、蛋白質チップ、またはそれらの組み合わせによってなることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記癌は、乳癌、大腸癌、肺癌、肉腫、黒色腫、頭頸部癌、子宮頸部癌、子宮癌、肝臓癌、腎臓癌、膵腸癌及び神経芽細胞種から選択されたことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記乳癌は、転移性乳癌であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記乳癌は、三重陰性乳癌(TNBC)であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
血液、血清、血漿、またはそれらの組み合わせに存在するBAG2を検出するものであり、
前記BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせを含む癌診断用キット。
【請求項13】
前記キットは、カテプシンBのポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせをさらに含むことを特徴とする請求項12に記載のキット。
【請求項14】
前記癌は、乳癌、大腸癌、肺癌、肉腫、黒色腫、頭頸部癌、子宮頸部癌、子宮癌、肝臓癌、腎臓癌、膵腸癌及び神経芽細胞種から選択されたことを特徴とする請求項12に記載のキット。
【請求項15】
前記乳癌は、転移性乳癌であることを特徴とする請求項12に記載のキット。
【請求項16】
前記乳癌は、三重陰性乳癌(TNBC)であることを特徴とする請求項12に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液中に存在する、BAG2、プロカテプシンB、またはそれらの組み合わせから癌を診断する方法に係り、具体的には、三重陰性乳癌を診断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
BAG(co-chaperone Bcl-2-associated athanogene)蛋白質ファミリは、細胞内蛋白質フォールディング、ストレス反応、神経分化、細胞死滅、細胞増殖などを含む多様な生理学的過程を媒介し、多様な協力蛋白質と機能的に結合する(Takayama and Reed., 2001;Doong et al., 2002)。それらにおいて、抗細胞死滅活性を有するBAGドメインファミリ構成員のうち1つであるBAG2は、シャペロン関連ユビキチンリガーゼであるCHIP(C-terminus of Hsc70-interacting protein)の陰性調節子として知られている(Arndtet al., 2005; Dai et al., 2005)。CHIP活性を抑制を介した蛋白質の調節において、BAG2の主役割は、PINK1及びCFTRのようなシャペロン関連蛋白質の安定化を介して、神経退行性疾患及び常染色体劣性障害と係わっている(Qu etal., 2015; Arndt et al., 2005)。BAG2の発現は、プロテアソーム抑制子誘導の細胞死滅を増加させ、BAG2ノックダウンは、甲状腺癌腫細胞を、プロテアソーム抑制子であるMG132に露出させる場合、細胞死滅を部分的に抑制することにより、BAG2が、抗細胞死滅(pro-apoptotic)活性を有することができることが提示されている(Wang et al., 2008)。一方、多様な突然変異K-Ras誘導の腫瘍において、BAG2の過発現が、強力な腫瘍遺伝子であるSTK33蛋白質の安定化を促進させ、腫瘍発生を促進させることができるということが提示されている(Azoiteiet al., 2012)。しかし、そのような発見にもかかわらず、癌の進行及び転移におけるBAG2の役割、特に、乳癌においては、はっきりと明らかにされていない。
【0003】
カテプシンB(CTSB:cathepsinB)は、内在的及び外来的なペブチダーゼ活性を有するリソゾームのシステインプロテアーゼであり、蛋白質循環の役割を行うと考えられる(Mortand Buttle, 1997)。CTSBは、不活性/未成熟の前形態(pro-form)酵素(41/43kDa)として合成され、N-末端の62個アミノ酸の前ペプチドの蛋白質加水分解過程を介して、活性一本鎖形態(31kDa)または二本鎖形態(重鎖(25/26kDa)、軽鎖(5kDa))に転換される。CTSBの異常(aberrant)発現/活性は、折々悪性腫瘍と連結されていた(Joyce et al., 2004;Withans, 2012)。しかし、成熟したCTSBは、一般的に、リソゾームに位置し、リソゾーム媒介自家捕食(autophagy)/細胞死滅間抑制子プロテアーゼとして、蛋白質循環において機能することにより、細胞質CTSBの抗細胞死滅的役割を示すと認識される(Stokaet al., 2001; Foghsgaard et al., 2001; Bhoopathi et al., 2010)。一方、癌進行におけるそのようなCTSBの二重的機能の調節子は、明確に明らかにされていない。
さらに、細胞において、BAG2及びカテプシンBの存在位置、分布、細胞の機能による位置移動などについては、詳細に研究されていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
一様相は、個体から分離された試料と、BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせと、を接触させる段階と、前記BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせを接触させて形成される複合体から、前記試料において、BAG2の存在またはレベルを測定する段階と、前記試料から測定されたBAG2の存在またはレベルを、対照群から測定されたBAG2レベルと比較する段階と、を含む癌を診断する方法を提供する。
他の様相は、血液、血清(serum)、血漿(plasma)、またはそれらの組み合わせに存在するBAG2を検出するものであり、前記BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせを含む癌診断用キットを提供する。
【発明の効果】
【0005】
一様相による血中BAG2ポリペプチドの存在またはレベルを測定して癌を診断する方法により、癌を診断するために組織を採取した既存の方法に比べ、さらに容易であって正確に癌を診断することができる。
他の様相は、血液から血中BAG2ポリペプチドの存在またはレベルを測定するための癌診断用キットにより、多様な診断機関において、癌診断のために、前記癌診断方法を容易に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】RNAシーケシングを利用し、内腔型細胞株及びTNBC細胞株において、BAGファミリの異なる発現量差を分析したボルカノプロット(volcano plot)を示したグラフである。
【
図2】ボルカノプロットから分析された、内腔型細胞株及びTNBC細胞株におけるBAG2のmRNA発現量を示したグラフである。
【
図3】52個の乳癌細胞株から分析されたBAG2発現量を、スキャッタードットプロット(scatter dot-plot)で示したグラフである。
【
図4】正常細胞類型及び各乳癌細胞類型において、BAG2発現量を分析したマイクロアレイ(A)及びそのRNAシーケシング結果(4B)を示したグラフである。
【
図5】内腔型組織及びTNBC組織でのBAG2発現量を分析した定量的RT-PCR結果を示したグラフである。
【
図6】BAG2が、CTSBの形態及び活性に及ぼす影響を、免疫ブロット側面(A)及びCTSB活性度側面(B)で分析したグラフである。
【
図7】TNBCを培養した条件培地から、BAG2及びCTSBを、免疫ブロットして検出した結果を示したグラフである。
【
図8】TNBCを培養した条件培地から検出されたプロカテプシンBのレベルを示したグラフである。
【
図9】BAG2過発現細胞株を培養した条件培地から検出されたBAG2及びCTSBを、免疫ブロットして検出した結果を示したグラフである。
【
図10】健康人と乳癌患者との血清からBAG2の存在を検出した結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明で使用される全ての技術用語は、異なって定義されない以上、本発明の関連分野において、通常の当業者が一般的に理解するような意味で使用される。また、本明細書には、望ましい方法や試料が記載されるが、それと類似していたり、同等であったりするものなども、本発明の範疇に含まれる。本明細書に参考文献として記載される全ての刊行物の内容は、全体が本明細書に参照として統合される。
一様相は、個体から分離された試料と、BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせと、を接触させる段階と、前記BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせを接触させて形成される複合体から、前記試料において、BAG2の存在またはレベルを測定する段階と、前記試料から測定されたBAG2の存在またはレベルを、対照群から測定されたBAG2レベルと比較する段階と、を含む癌診断方法を提供する。
【0008】
他の具体例において、前記方法は、癌を診断するための情報を提供する方法であって、個体で癌の存在を検出し、個体内に存在する癌を診断するためのものである。
個体から分離された試料内にBAG2が存在する場合、BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせが前記試料中のBAG2と結合することができる。前記抗体またはポリペプチドは、前記試料中のBAG2の存在を視覚化させるために、例えば、蛍光物質(fluorophore)、発色団(chromophore)、または基質を発色団に転換させることができる酵素で標識されたものでもある。
前記結合反応により、前記試料中のBAG2が、前記BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせと複合体を形成することになり、前記複合体から、当業者に知られた方法を利用し、BAG2存在、または必要により、そのレベルを測定することができる。一具体例において、前記複合体を測定する段階は、ウェスタンブロッティング、ELISA(enzyme linked immunosorbent assay)、放射線免疫分析(RIA:radioimmunoassay)、放射免疫拡散法(radioimmunodiffusion)、オクタロニー(Ouchterlony)免疫拡散法、ロケット(rocket)免疫電気泳動、組織免疫染色、免疫沈澱分析法(immunoprecipitation assay)、補体固定分析法(complementfixation assay)、FACS、蛋白質チップ(protein chip)、またはそれらの組み合わせにもよる。
【0009】
前記試料から測定されたBAG2の存在またはレベルを、対照群から測定されたBAG2レベルと比較し、前記個体に癌が存在するか否かということを診断することができる。前記対照群は、健康な個体から採取された試料、または必要によっては、多様な類型の乳癌患者平均、非転移性乳癌患者、またはTNBC型ではない乳癌患者から採取された試料でもある。従って、前記対照群から測定されたBAG2レベルは、BAG2レベルの健康な個体から採取された試料、または必要によっては、多様な類型の乳癌患者平均、非転移性乳癌患者、またはTNBC型ではない乳癌患者から採取された試料中のBAG2濃度の平均値を意味するものでもある。前記対照群として使用される試料は、前記診断のための試料と、解剖学的に同一位置で採取したものであり、同一種類のものでもある。例えば、前記試料が、個体の肘窩中間静脈(median cubital vein)から採取された血液であるならば、前記対照群また対照群の肘窩中間静脈から採取された血液でもある。前記健康な個体は、任意の急性または慢性の疾患を病んでいない者であり、少なくとも癌を病んでおらず、望ましくは、乳癌を病んでいない者でもある。
【0010】
前記健康な個体から採取された試料中のBAG2レベルは、BAG2が実質的に存在しないものでもある。従って、対照群を、健康な個体から得られた値として設定する場合、診断対象になる個体において、BAG2の存在が測定されたり、そのレベルが著しく高かったりすると測定されるならば、前記個体は癌を病んでいると疑うことができる。一方、本発明の実施例から分かるように、乳癌患者のうち転移性乳癌患者、特に、TNBC型患者の血液においては、BAG2の存在が測定される確率が高く、平均値が著しく高い。従って、対照群を、多様な類型の乳癌患者平均、非転移性乳癌患者、またはTNBC型ではない乳癌患者から分離された試料として設定する場合、診断対象になる個体において、BAG2のレベルが、前記対照群の場合より高いか、あるいは著しく高いと測定されるならば、前記個体は、転移性乳癌またはTNBC型乳癌を病んでいると疑うことができる。
本明細書において、前記「ポリペプチド」は、「蛋白質」と相互交換的に使用される。
前記試料は、診断の対象になる個体から分離されたものであり、細胞、器官、細胞溶解物、全血、血液、血清、血漿、リンパ、細胞外液、体液、尿、糞便、組織、骨髓、唾液、喀痰、脳脊髄液、またはそれらの組み合わせでもある。
【0011】
一具体例において、前記試料は、血液、血清(serum)、血漿(plasma)、またはそれらの組み合わせでもある。本発明者らは、BAG2が細胞外に分泌され、実際、乳癌患者の血液からBAG2が検出されることを証明した。従って、一具体例において、前記BAG2は、血液、血液、血清、血漿、またはそれらの組み合わせに可溶性でもある。
一具体例において、本発明の診断方法は、前記個体から分離された試料と、カテプシンB(cathepsin B)のポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせと、を接触させる段階と、前記カテプシンBのポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせを接触させて形成される複合体から、カテプシンBの存在またはレベルを測定する段階と、前記試料から測定されたカテプシンBの存在またはレベルと、対照群から測定されたカテプシンBのレベルと、を比較する段階と、をさらに含んでもよい。
【0012】
本発明者らは、BAG2は、カテプシンBが成熟した形態に転換されることを妨害し、結果として、癌細胞の細胞死滅(apoptosis)を抑制することができるということを証明し、それと一致し、BAG2、及び成熟されえない形態のカテプシンBがいずれも細胞外に分泌されることを観察した。従って、本発明の診断方法は、BAG2及びカテプシンBを同時に検出することにより、診断の正確度をさらに上昇させることができる。
カテプシンBは、プロカテプシンB、及び成熟した形態である一本鎖(single-chain)または二本鎖(double-chain)のカテプシンBにも区分されるが、本発明者らは、BAG2によって成熟されえない形態のカテプシンBが、細胞外に分泌されることを証明した。従って、一具体例において、本発明の診断方法において、前記カテプシンBは、プロカテプシンB(pro-cathepsin B)でもある。前記プロカテプシンBは、「未成熟カテプシンB」または「未成熟CTSB」と同一意味にも使用されたものでもある。
一具体例において、前記試料中のカテプシンB、及び前記カテプシンBのポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせを接触させて形成される複合体を測定する段階は、ウェスタンブロッティング、ELISA、放射線免疫分析、放射免疫拡散法、オクタロニー免疫拡散法、ロケット免疫電気泳動、組織免疫染色、免疫沈澱分析法、補体固定分析法、FACS、蛋白質チップ、またはそれらの組み合わせにもよる。
【0013】
用語「抗体」は、抗原性部位に対して指示される特異的な免疫グロブリンを意味する。前記抗体は、BAG2及びプロカテプシンBそれぞれに特異的に結合するポリペプチド、またはポリペプチドの組み合わせを意味し、BAG2遺伝子またはプロカテプシンB遺伝子を発現ベクターにクローニングし、各遺伝子によってコーディングされる蛋白質を得て、得られたBAG2蛋白質またはプロカテプシンB蛋白質から、当業界に通常的な方法により、各蛋白質に対して特異的な抗体を製造することができる。前記抗体の形態は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、または組み換え抗体(例えば、ScFv断片、diabody、一本鎖抗体など)を含み、全ての免疫グロブリン抗体が含まれる。前記抗体は、2個の全体長の軽鎖、及び2個の全体長の重鎖を有する完全な形態だけではなく、2個の軽鎖、及び2個の重鎖を有する完全形態の完全抗体の構造を有さないが、抗原性部位に指示される特異的な抗原結合部位(結合ドメイン)を有し、抗原結合機能を保有している抗体分子の機能的断片も含む。
【0014】
前述のBAG2及びプロカテプシンBのポリペプチドは、それぞれヒト(Homo sapiens)またはマウス(Mus musculus)に由来するものでもあり、猿、牛、馬のような他の哺乳動物に由来するものでもある。前記BAG2のアミノ酸配列は、配列番号1または2(それぞれ、GenBank Accession No.NP_004273.1及びNP_663367.1)を含むものでもあり、前記プロカテプシンBのアミノ酸配列は、配列番号3ないし8(それぞれ、GenBank Accession No.NP_001899,1,NP_680090.1,NP_680091.1,NP_680092.1,NP_680093.1またはNP_031824.1)を含むものでもある。前記配列番号1ないし8のアミノ酸配列が一部一致しないとしても、生物学的に同等な活性を有させるアミノ酸配列は、BAG2ポリペプチドまたはプロカテプシンBポリペプチドとも見なされる。前述のBAG2ポリペプチドまたはプロカテプシンBポリペプチドは、それぞれ配列番号1または2、及び配列番号3または8のうちいずれか一つと、60%以上、例えば、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものでもある。また、前記BAG2ポリペプチドまたはプロカテプシンBポリペプチドは、それぞれ前記配列番号1または2、及び配列番号3または8のうちいずれか1つの配列において、1個以上のアミノ酸、2個以上のアミノ酸、3個以上のアミノ酸、4個以上のアミノ酸、5個以上のアミノ酸、6個以上のアミノ酸、または7個以上のアミノ酸の残基が異なる配列を有するポリペプチドでもある。
【0015】
前記診断方法の対象になる個体は、哺乳動物、例えば、ヒト、マウス、鼠(rat)、牛、馬、豚、犬、羊、山羊または猫でもあり、望ましくは、ヒトである。
一具体例において、本発明の診断方法で診断することができる癌は、乳癌、大腸癌、肺癌、肉腫、黒色腫、頭頸部癌、子宮頸部癌、子宮癌、肝臓癌、腎臓癌、膵腸癌及び神経芽細胞種から選択されたものでもある。
【0016】
本発明者らは、BAG2が乳癌患者で過発現し、特に、BAG2レベルが高く測定された乳癌患者は、高い確率で転移性乳癌を病んでいるということを証明した。従って、一具体例において、本発明の診断方法で診断することができる乳癌は、転移性乳癌でもある。
乳癌の分子的下位類型において、三重陰性乳癌(TNBC:triple-negative breast cancer)は、体系的な治療にもかかわらず、好ましくない予後を示し、高い死亡率と係わった非常に攻撃的な類型である。TNBCは、内腔型(luminal type)またはHER2過多型(HER2-enriched type)と比較し、異質的な類型である(Foulkeset al., 2010; Dent et al., 2007; Masuda et al., 2013)。ほとんどの標的乳癌治療は、ホルモン受容体性及びHER2陽性の乳癌に対して好戦的な成果を示す一方、TNBC患者は、3種標的受容体(ER、PR及びHER2)、または他の好ましく定義された分子標的が不在であるので、効果的な治療のために、限定されたオプション(例えば、ポリADP-リボースポリメラーゼ(PARP)、表皮成長因子受容体(EGFR:epidermal growth factor receptor)及びSrcチロシンキナーゼなど)を有してしまう。従って、TNBC患者に不要な治療的接近を防止し、効果的な治療法を選択するために、多様な類型の乳癌患者において、TNBC患者を迅速であって正確に区別する必要がある。
【0017】
本発明者らは、BAG2が乳癌患者で過発現し、特に、BAG2レベルが高く測定された乳癌患者は、高い確率でTNBC型乳癌を病んでいるということを証明した。従って、一具体例において、本発明の診断方法で診断することができる乳癌は、三重陰性乳癌(または、TNBC型乳癌)でもある。
【0018】
他の様相は、前記BAG2ポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせを含む癌診断用キットを提供する。前記キットは、血液、血清、血漿、またはそれらの組み合わせに存在するBAG2を検出するものであり、該キットに適用される試料には、個体から分離された血液、血清、血漿、またはそれらの組み合わせを提供する。
【0019】
一具体例において、前記キットは、カテプシンBのポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせをさらに含んでもよい。
前記キットは、そのキットが利用する分析方法(例えば、ウェスタンブロッティング、ELISA、放射線免疫分析、放射免疫拡散法、オクタロニー免疫拡散法、ロケット免疫電気泳動、組織免疫染色、免疫沈澱分析法、補体固定分析法、FACS、蛋白質チップ、またはそれらの組み合わせ)に適する1以上の他の構成成分組成物、溶液または装置をさらに含んでもよい。例えば、試料中のBAG2またはカテプシンBと、それらそれぞれに特異的な抗体との免疫複合体の検出のために、基質、適する緩衝溶液、発色酵素または蛍光物質で標識された二次抗体、発色基質をさらに含んでもよい。前記基質は、ニトロセルロース膜、ポリビニル樹脂で合成された96ウェルプレート、ポリスチレン樹脂で合成された96ウェルプレート、及びガラススライドグラスなどでもあり、発色酵素として、ペルオキシダーゼ(peroxidase)、アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase)が利用され、蛍光物質として、FITC、RITCなど、発色基質として、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)またはo-フェニレンジアミン(OPD)、テトラメチルベンジジン(TMB)などが使用されもする。
前記キットで言及された用語または要素のうち、請求された診断方法に係わる説明で言及されたようなことは、請求された診断方法に係わる説明で言及されたようなものであると理解される。
【実施例0020】
1.実施例1:多様な乳癌株におけるBAG2の発現確認
1-1.乳癌細胞株に係わる転写体(transcriptome)分析
TNBC進行と係わる新規分子的標的を確認するために、本発明者らは、まず、乳癌細胞株において、RNAシーケシングを利用した転写体分析を行った。まず、多様な乳癌細胞株から、該分野に周知されている方法を利用してRNAを抽出し、業体(Theragen)に遺伝体分析を依頼した。その後、乳癌細胞株を、内腔型(MCF-7、T47D、ZR-75B)またはTNBC(MDA-MB-231、Hs578T)に区分し、BAG2の発現量を比較した。
その結果、
図1及び2に示されているように、BAG2が内腔型細胞株と比較し、特異的にTNBC細胞株で過発現しているということが分かった。
【0021】
1-2.52個乳癌細胞株でのBAG2発現傾向確認
実施例1-1で拡張し、さらに多様な乳癌細胞においてBAG2発現傾向を確認した。乳癌細胞情報は、パブリックマイクロアレイデータセット(GSE41313、Riazet al., 2013)から得た。Riaz et al.に公開された52個の乳癌細胞株において、BAG2発現傾向を確認した結果、
図3に示されているように、BAG2が、TNBCにおいて、内腔型に比べ、著しく高く発現するということが分かった(P<0.0001)。
【0022】
1-3.臨床的BAG2発現傾向確認
細胞株で確認したBAG2発現傾向をさらに正確に確認するために、本発明者らは、癌ゲノムアトラス(TCGA:The Cancer Genome Atlas)保存所から得られた乳癌患者のRNAシーケシングデータセット及びマイクロアレイを利用し、乳癌の多様な下位類型において、BAG2発現傾向を分析した。
その結果、
図4の(A)及び(B)に示されているように、正常、内腔型A(LumA)、内腔型B(Lum B)及びHER2過多(HER2)の患者と比較し、TNBC患者において、BAG2発現が著しく高いレベルにあるということが分かった。
【0023】
1-4.BAG2発現傾向の実験的確認
公開されたデータベースを利用して分析された前述の傾向性を実験的にさらに確認するために、定量的RT-PCR(quantitative RT-PCR)を行った。
具体的には、検討委員会(IRB:the institutional review board)承認(IRB承認番号:3-2013-0268)後、江南セブランス病院から、乳癌のうち、内腔型12個及びTNBC6個を得た。その後、TRIzol試薬(Invitrogen)を利用し、販売者の指針により、細胞から総RNAを単離した。その後、18rRNAをハウスキーピング遺伝子にし、BAG2検出のためのプライマーを利用し、power SYBR Green PCRMaster Mix及びViia 7 real-time PCR装置(Applied Biosystems)を利用し、定量的RT-PCRを行った。
その結果、
図5に示されているように、TNBCにおいて、内腔型に比べ、BAG2が過発現しているということを確認することができた。
【0024】
2.実施例2:BAG2及びカテプシンBの相互作用確認
BAG2が、カテプシンBの調節上位因子として作用しうるか否かということを確認するために、BAG2及びカテプシンBの相互作用いかん、BAG2によるカテプシンBの活性変化を観察した。
【0025】
2-1.BAG2及びカテプシンBの相互作用の蛋白質レベルでの確認
BAG2欠失細胞株を作製するために、まず、BAG2特異的shRNAを、Mission-shRNA(Sigma)から購入した。BAG2特異的shRNAレンチウイルス作製のために、293T細胞を、pLKO-BAG2、またはスクランブルされた対照群pLKO-pGL2に対し、Δ8.9及びVSV-Gをコーディングするパッケージングプラスミドと共に形質注入させた(使用されたBAG2shRNAの標的配列(5’→3’):GTACTAGGATCTAGCATATTT)。形質注入後、36ないし48時間後、ウイルス上澄み液を収集し、0.45μm濾過器を介して濾過した。MDA-MB-231(ATCC)を、6ウェルプレートに、1x105細胞/ウェルに接種(seed)し、ウイルス粒子(particle)及びポリブレン(8ug/ml)で感染させた。感染後、前記ウイルスを含む培地を一般培地に替えた後、前記細胞をプロミシン(2μg/ml)で選択した。製造されたBAG2欠失細胞株をBAG2shRNAにした。
BAG2を過発現させるために、同様に、MDA-MB-231(ATCC)に、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を利用し、販売者の指針により、Myc-tagBAG2発現ベクターを形質注入し、BAG2を過発現する細胞をBAG2 OVにし、BAG2 shRNAにBAG2を形質注入したものを、BAG2回復した細胞として、BAG2救助(rescue)にした。
【0026】
前記各細胞をPBSで洗浄して溶解させた後、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動を介して分離させ、PVDF膜(Millipore)に移動させ、
図6に表示された各抗体を利用して免疫ブロットすることにより、各蛋白質を検出した。特に、CTSB抗体は、前形態(pro-form)及び成熟した形態のCTSB(SC(single chain)及びDC(double chain))をいずれも認知するので、分子量で区分することができる。
その結果、
図6(A)に示されているように、BAG2欠失細胞においては、切断されたカスパーゼ3が発現し、カスパーゼ3の活性型が増加しているということが分かったが、それは、BAG2の回復によって減少した。また、BAG2欠失細胞においては、一本鎖(SC)カテプシンBも増加したと観察されたが、それは、カスパーゼ3と同様に、BAG2の回復によって減少した。従って、BAG2がプロカテプシンBにおいて成熟した形態である一本鎖カテプシンBに転換されることを妨害するメカニズムに関与するということが分かる。
【0027】
2-2.BAG2のCTSB活性に対する影響力確認
CTSB調節に対するBAG2の影響力をさらに確実なものにするために、BAG2存在いかんによるCTSBの活性変化を観察した。
具体的には、前記実施例3-1でのように、BAG2欠失MCF10CA1a細胞を作製し、BAG2発現ベクターを形質注入し、BAG2を過発現させるか、あるいはBAG2欠失細胞において、BAG2発現を回復させた。成熟したCTSBは、Arg-Argを含む合成ペプチドを基質にするので、その後、蛍光形成カテプシンB基質(200μMAc-RR-AFC,Abcam)と販売者との指針により、準備された細胞試料を、27℃で1時間インキュベーションした。蛍光測定は、多重プレート検出器であるWallac 1440 Victor2(PerkinElmer)上で行い、相対的な蛍光ユニットを355nmの励起波長を利用し、460nmで測定した。
その結果、
図6(B)に示されているように、BAG2欠失MCF10CA1a細胞に、BAG2をさらに導入した結果、BAG2不在のCTSB活性が増大することが観察され、BAG2が、CTSB成熟型への変換を抑制し、結果として、CTSB活性を低下させるということが分かる。従って、BAG2は、CTSBと相互作用し、CTSB成熟型への変換を抑制し、カスパーゼ3媒介された細胞死滅の阻害に関与するということが分かる。
【0028】
実施例3.血中BAG2のCTSB存在確認
3-1.TNBC細胞のBAG2及びCTSBの分泌いかん確認
BAG2及びCTSBが、TNBC細胞内に存在するだけではなく、細胞外に分泌されもするかということを確認した。
具体的には、TNBC細胞として、Hs578T、MDA-MB-231及びMCF10ACa1に、実施例2-1のように、BAG2が欠失された細胞を作製した後、各細胞を条件培地DMEM(Cat.LM001-05、WELGENE)で培養し、細胞が採取されないように注意を払いながら、その上澄み液を採取した後、実施例2-1のように免疫ブロットした。蛋白質総量を示すために、一部を販売者の指針により、クマシブルー染色(ELT006、ELBIO)した。
また、前記培地から得られた試料のうち一部は、プロカテプシンB quantikine ELISAキット(R&Dシステム)を利用し、販売者の指針によって分析し、BAG2過発現された細胞株であるMCF10AT1を培養した培地において、BAG2及びCTSBの存在いかんを再確認した。
その結果、
図7ないし
図9から分かるように、BAG2が発現されるTNBC細胞を培養した培地内に、BAG2及びCTSBがいずれも観察された。特に、CTSBは、プロ-CTSBとしてBAG2発現と傾向性が同一に示された。
【0029】
3-2.血中でのBAG2及びCTSBの分泌いかん確認
BAG2が細胞外に分泌されるということを確認したので、さらに、血中に分泌され、血液でにおいても検出されるか否かということを確認した。
具体的には、健康な支援者(N=17)の血清、及び悪性乳癌患者(N=76)の血清を採取した。前述の得られた血清を、ヒトBAG2ELISAキット(MyBiosource)を利用して販売者の指針によって分析した。
その結果、
図10から分かるように、乳癌患者の血清において、健康な支援者と比較し、BAG2が血中において著しい程度に検出されるということが分かる。
前記実施例において、P値は、垂直両側スチューデントt-検定(unpaired two-tailed Student’s t-test)を利用し、3回の独立した実験から平均+_SDで示した。
以上、本発明について、その望ましい実施例を中心に説明した。本発明が属する技術分野で当業者であるならば、本発明が、本発明の本質的な特性から外れない範囲で変形された形態に具現されるということを理解することができるであろう。従って、前述の開示された実施例は、限定的な観点ではなく、説明的な観点から考慮されなければならない。本発明の範囲は、前述の説明ではなく、特許請求の範囲に示されており、それと同等な範囲内にある全ての差異は、本発明に含まれたものであると解釈されなければならないのである。
前記方法は、前記個体から分離された試料と、カテプシンBのポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせと、を接触させる段階と、
前記カテプシンBのポリペプチド、またはその断片に特異的に結合する抗体、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせを接触させて形成される複合体から、カテプシンBの存在またはレベルを測定する段階と、および
前記試料から測定されたカテプシンBの存在またはレベルと、対照群から測定されたカテプシンBのレベルと、を比較する段階と、をさらに含む、請求項1に記載の方法。
前記試料において、BAG2またはカテプシンBの存在またはレベルを測定する段階は、ウェスタンブロッティング、ELISA、放射線免疫分析(RIA)、放射免疫拡散法、オクタロニー免疫拡散法、ロケット免疫電気泳動、組織免疫染色、免疫沈澱分析法、補体固定分析法、FACS、蛋白質チップ、またはそれらの組み合わせによって行われる、請求項3に記載の方法。