(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130676
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】熱収縮性ポリマー及びナノファイバーシートを含む多層複合材
(51)【国際特許分類】
B32B 7/028 20190101AFI20220830BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20220830BHJP
B32B 1/08 20060101ALI20220830BHJP
D06M 15/227 20060101ALI20220830BHJP
D06M 15/248 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
B32B7/028
B32B27/12
B32B1/08 B
D06M15/227
D06M15/248
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107617
(22)【出願日】2022-07-04
(62)【分割の表示】P 2019555764の分割
【原出願日】2018-04-11
(31)【優先権主張番号】62/484,596
(32)【優先日】2017-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519164079
【氏名又は名称】リンテック・オヴ・アメリカ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】リマ,マルシオ・ディー
(72)【発明者】
【氏名】ブイコワ,ジュリア
(57)【要約】 (修正有)
【解決手段】多層複合材は、少なくとも1つの熱収縮性ポリマー層と、少なくとも1つのカーボンナノファイバーシート層とを備え、前記熱収縮性ポリマー層が、前記カーボンナノファイバーシート層の表面と接触する表面を有し、且つ前記熱収縮性ポリマー層への熱の印加に応答して、少なくとも一方の寸法において、少なくともサイズが10%縮小するものである。
【効果】多層複合材は、加熱により収縮する際に物品を包み込むことによって、完全なシールド層を形成することができるために、電線及び電子機器など、異形の物品の保護用部材として用いることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの熱収縮性ポリマー層と、少なくとも1つのカーボンナノファイバーシ
ート層とを備える多層複合材であって、
前記熱収縮性ポリマー層が、
前記カーボンナノファイバーシート層の表面と接触する表面を有し、且つ
前記熱収縮性ポリマー層への熱の印加に応答して、少なくとも一方の寸法において、少
なくともサイズが10%縮小するものである、多層複合材。
【請求項2】
前記熱収縮性ポリマー層が、前記カーボンナノファイバーシート層の表面と接触する表
面を有する、請求項1に記載の多層複合材。
【請求項3】
前記カーボンナノファイバーシート層が前記熱収縮性ポリマー層中に包埋されている、
請求項1に記載の多層複合材。
【請求項4】
前記熱収縮性ポリマー層が少なくとも一方の配向方向を有し、前記多層複合材の少なく
とも一方の寸法が、熱によって、前記配向方向に沿って縮小される、請求項1に記載の多
層複合材。
【請求項5】
前記熱収縮性ポリマー層が第1の配向方向を有し、及び/又は前記カーボンナノファイ
バーシートが第1の配向方向を有する、請求項4に記載の多層複合材。
【請求項6】
前記多層複合材が、管状であり、その長さ、厚さ、円周、又はそれらの組み合わせが縮
小される、請求項4に記載の多層複合材。
【請求項7】
前記カーボンナノファイバーシート層が少なくとも1つのカーボンナノファイバーシー
トを含み、前記カーボンナノファイバーシートは、複数のナノファイバーが端から端へと
平面に並んでいる配列を含む、請求項1に記載の多層複合材。
【請求項8】
前記カーボンナノファイバーシートの平均ナノファイバー径が約30nm未満である、
請求項7に記載の多層複合材。
【請求項9】
前記カーボンナノファイバーシートが、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノ
チューブ、及び三層カーボンナノチューブの1種又は複数種から選択される複数のカーボ
ンナノチューブを含む、請求項1に記載の多層複合材。
【請求項10】
前記カーボンナノファイバーシート層が、第1のカーボンナノファイバーシートを含み
、この第1のカーボンナノファイバーシートが、隣接する第2のカーボンナノファイバー
シートとは異なる繊維配列を有する、請求項1に記載の多層複合材。
【請求項11】
前記カーボンナノファイバーシート層が少なくとも1つの緻密化カーボンナノファイバ
ーシートを含む、請求項1に記載の多層複合材。
【請求項12】
前記カーボンナノファイバーシート層が少なくとも1種のポリマーを更に含む、請求項
1に記載の多層複合材。
【請求項13】
前記ポリマーが前記カーボンナノファイバーシートに含浸している、請求項12に記載
の多層複合材。
【請求項14】
前記カーボンナノファイバーシートの少なくとも1つの表面上に金属層を備える、請求
項1に記載の多層複合材。
【請求項15】
前記カーボンナノファイバーシート層が、金属粒子、金属被覆、金属ナノ粒子、金属薄
片、金属ワイヤ、金属ナノワイヤ、セラミック粒子、セラミックナノ粒子、セラミック薄
片、セラミックワイヤ、セラミックナノワイヤ、顔料、及びそれらの混合物からなる群よ
り選択される添加剤を含む、請求項1に記載の多層複合材。
【請求項16】
前記添加剤が、二ホウ化マグネシウム、二酸化チタン、またはリン酸リチウムである、
請求項15に記載の多層複合材。
【請求項17】
前記少なくとも1つのカーボンナノファイバーシート層が、カーボンナノファイバーシ
ートと、前記カーボンナノファイバーシート上の少なくとも1つのグラフェン層とを含む
、請求項1に記載の多層複合材。
【請求項18】
少なくとも1つの熱収縮性ポリマー層と、少なくとも1つのカーボンナノファイバーシ
ート層とを結合するステップを含む、多層複合材を製造する方法であって、
前記熱収縮性ポリマー層が、
前記カーボンナノファイバーシート層の表面と接触する表面を有し、且つ
前記熱収縮性ポリマーへの熱の印加に応答して、少なくとも一方の寸法において、少な
くともサイズが10%縮小するものである、方法。
【請求項19】
前記熱収縮性ポリマー層上に前記カーボンナノファイバーシート層が積層される、請求
項18に記載の方法。
【請求項20】
前記カーボンナノファイバーシート層が少なくとも1つのカーボンナノファイバーシー
トを含み、前記カーボンナノファイバーシートが、複数のナノファイバーが端から端へと
平面に並んでいる配列を含み、
前記カーボンナノファイバーシートが、
i)カーボンナノファイバーを含み、側壁を有するカーボンナノファイバーフォレスト
を生成するステップと、
ii)前記カーボンナノファイバーフォレストの前記側壁または前記側壁の近傍にアタ
ッチメントを結合するステップと、
iii)前記アタッチメントを利用することにより、前記カーボンナノファイバーフォ
レストから前記カーボンナノファイバーシートを引き出すステップと
を含む方法によって製造される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
i)前記カーボンナノファイバーシートに液体を含浸させて、含浸カーボンナノファイ
バーシートを形成するステップと、
ii)前記含浸カーボンナノファイバーシートから前記液体を蒸発させて、緻密化カー
ボンナノファイバーシートを形成するステップと
によって、前記ナノファイバーシートを緻密化するステップを更に含み、
前記緻密化カーボンナノファイバーシートの密度が、前記ナノファイバーシートよりも
少なくとも100%高い、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記カーボンナノファイバーシート層にポリマーを加えるステップを更に含み、前記加
えるステップが、
i)前記カーボンナノファイバーシートにポリマーを含む液体を含浸させて、ポリマー
含浸カーボンナノファイバーシートを形成するステップと、
ii)前記ポリマー含浸カーボンナノファイバーシートから前記液体を蒸発させて、前
記カーボンナノファイバーシート層を形成するステップと
を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記カーボンナノファイバーシート層に金属層及びポリマーを加えるステップを更に含
み、前記加えるステップが、
i)前記カーボンナノファイバーシートの少なくとも一部の上に金属層を堆積させるス
テップと、
ii)前記カーボンナノファイバーシートにポリマーを含む液体を含浸させて、ポリマ
ー含浸カーボンナノファイバーシートを形成するステップと、
iii)前記ポリマー含浸カーボンナノファイバーシートを前記熱収縮性ポリマー層の
上に積層するステップと、
iv)前記ポリマー含浸カーボンナノファイバーシートから前記液体を蒸発させて、前
記ナノファイバーシート層を形成するステップと
を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
少なくとも1つのグラフェンシートを前記カーボンナノファイバーシートに加えるステ
ップを更に含む、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は2017年4月12日出願の米国仮特許出願第62/484,596号の優先
権を主張し、当該出願はここに引用することによりその全体が本明細書の記載の一部をな
すものとする。
【0002】
本開示は、ナノファイバーシートと熱収縮性ポリマーとを備える多層複合材に関する。
【背景技術】
【0003】
熱収縮性材料は、物品上またはその周囲に保護層を設けるための用途を始めとする多く
の用途に有用な熱感受性の化合物である。熱収縮性材料の主な利点は、当該材料を物品に
緩く巻き付け、その後、熱を印加することにより所望の形状に形成することができること
であり、この熱が上記熱収縮性材料を収縮させ、所望の表面上またはその周囲に密着させ
る。冷却後、上記熱収縮性材料は当該物品の周囲で付与された形状を保持することとなる
。
【発明の概要】
【0004】
例1(Example 1)は、多層複合材であって、これは、少なくとも1つの熱収縮性ポリ
マー層と、少なくとも1つのカーボンナノファイバーシート層とを備え、上記熱収縮性ポ
リマー層は:
【0005】
例2(Example 2)は、例1の主題を含み、上記熱収縮性ポリマー層は、上記カーボン
ナノファイバーシート層の表面と接触する表面を有する。
【0006】
例3(Example 3)は、例1または例2のいずれかの主題を含み、上記カーボンナノフ
ァイバーシート層が上記熱収縮性ポリマー層中に包埋されている。
【0007】
例4(Example 4)は、前述の例のいずれかの主題を含み、上記熱収縮性ポリマー層が
少なくとも一方の配向方向を有し、熱によって、上記多層複合材の少なくとも一方の寸法
を配向方向に沿って縮小されるものである。
【0008】
例5(Example 5)は、例4の主題を含み、上記熱収縮性ポリマー層が第1の配向方向
(primary orientation direction)を有し、及び/又は上記カーボンナノファイバーシ
ートが第1の配向方向を有する。
【0009】
例6(Example 6)は、例4の主題を含み、当該多層複合材が、管状であり、長さ、厚
さ、円周、又はそれらの組み合わせが縮小される。
【0010】
例7(Example 7)は、前述の例のいずれかの主題を含み、上記カーボンナノファイバ
ーシート層が少なくとも1つのカーボンナノファイバーシートを含み、上記カーボンナノ
ファイバーシートは、複数のナノファイバーが端から端へと平面に並んでいる配列を含む
。
【0011】
例8(Example 8)は、例7の主題を含み、上記カーボンナノファイバーシートの平均
ナノファイバー径が約30nm未満である。
【0012】
例9(Example 9)は、前述の例のいずれかの主題を含み、上記カーボンナノファイバ
ーシートが、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、及び三層カーボン
ナノチューブの1種または複数種から選択される複数のカーボンナノチューブを含む。
【0013】
例10(Example 10)は、前述の例のいずれかの主題を含み、上記カーボンナノファイ
バーシート層が、第1のカーボンナノファイバーシートを含み、この第1のカーボンナノ
ファイバーシートが、隣接する第2のカーボンナノファイバーシートとは異なる繊維配列
を有する。
【0014】
例11(Example 11)は、前述の例のいずれかの主題を含み、上記カーボンナノファイ
バーシート層が少なくとも1つの緻密化(densified)カーボンナノファイバーシートを
含む。
【0015】
例12(Example 12)は、前述の例のいずれかの主題を含み、上記カーボンナノファイ
バーシート層が少なくとも1種のポリマーを更に含む。
【0016】
例13(Example 13)は、例12の主題を含み、上記ポリマーが上記カーボンナノファ
イバーシートに含浸(infiltrate)している。
【0017】
例14(Example 14)は、前述の例のいずれかの主題を含み、上記カーボンナノファイ
バーシートの少なくとも1つの表面上に金属層を備える。
【0018】
例15(Example 15)は、前述の例のいずれかの主題を含み、上記カーボンナノファイ
バーシート層が、金属粒子、金属被覆、金属ナノ粒子、金属薄片、金属ワイヤ、金属ナノ
ワイヤ、セラミック粒子、セラミックナノ粒子、セラミック薄片、セラミックワイヤ、セ
ラミックナノワイヤ、顔料、及びそれらの混合物からなる群より選択される添加剤を含む
。
【0019】
例16(Example 16)は、例15の主題を含み、上記添加剤が、二ホウ化マグネシウム
、二酸化チタン、またはリン酸リチウムである。
【0020】
例17(Example 17)は、前述の例のいずれかの主題を含み、上記少なくとも1つのカ
ーボンナノファイバーシート層が、カーボンナノファイバーシートと、上記カーボンナノ
ファイバーシート上の少なくとも1つのグラフェン層とを含む。
【0021】
例18(Example 18)は、多層複合材を製造する方法であって、少なくとも1つの熱収
縮性ポリマー層と、少なくとも1つのカーボンナノファイバーシート層とを結合するステ
ップを含み、前記熱収縮性ポリマー層は、
前記カーボンナノファイバーシート層の表面と接触する表面を有し、且つ
前記熱収縮性ポリマーへの熱の印加に応答して、少なくとも一方の寸法において、少な
くともサイズが10%縮小するものである。
【0022】
例19(Example 19)は、例18の主題を含み、上記熱収縮性ポリマー層上に上記カー
ボンナノファイバーシート層が積層される。
【0023】
例20(Example 20)は、例18または19の主題を含み、上記カーボンナノファイバ
ーシート層が少なくとも1つのカーボンナノファイバーシートを含み、上記カーボンナノ
ファイバーシートが、複数のナノファイバーが端から端へと平面に並んでいる配列を含み
、上記カーボンナノファイバーシートが、
i)カーボンナノファイバーを含み、側壁を有するカーボンナノファイバーフォレスト
を生成するステップと、
ii)上記カーボンナノファイバーフォレストの上記側壁または上記側壁の近傍にアタ
ッチメントを結合するステップと、
iii)上記アタッチメントを利用することにより、上記カーボンナノファイバーフォ
レストから上記カーボンナノファイバーシートを引き出すステップと
を含む方法によって製造される。
【0024】
例21(Example 21)は、例20の主題を含み、
i)上記カーボンナノファイバーシートに液体を含浸させて、含浸カーボンナノファイ
バーシートを形成するステップと、
ii)上記含浸カーボンナノファイバーシートから上記液体を蒸発させて、緻密化カー
ボンナノファイバーシートを形成するステップと
によって、上記ナノファイバーシートを緻密化するステップを更に含み、
上記緻密化カーボンナノファイバーシートの密度が上記ナノファイバーシートよりも少
なくとも100%高い。
【0025】
例22(Example 22)は、例21の主題を含み、上記カーボンナノファイバーシート層
にポリマーを加える(apply)ステップを更に含み、上記加えるステップが、
i)上記カーボンナノファイバーシートにポリマーを含む液体を含浸させて、ポリマー
含浸カーボンナノファイバーシートを形成するステップと、
ii)上記ポリマー含浸カーボンナノファイバーシートから上記液体を蒸発させて、上
記カーボンナノファイバーシート層を形成するステップと
を含む。
【0026】
例23(Example 23)は、上記カーボンナノファイバーシート層に金属層及びポリマー
を加えるステップを更に含み、上記加えるステップが、
i)上記カーボンナノファイバーシートの少なくとも一部の上に金属層を堆積させるス
テップと、
ii)上記カーボンナノファイバーシートにポリマーを含む液体を含浸させて、ポリマ
ー含浸カーボンナノファイバーシートを形成するステップと、
iii)上記ポリマー含浸カーボンナノファイバーシートを上記熱収縮性ポリマー層の
上に積層するステップと、
iv)上記ポリマー含浸カーボンナノファイバーシートから上記液体を蒸発させて、上
記ナノファイバーシート層を形成するステップと
を含む。
【0027】
例24(Example 24)は、例18~23のいずれかの主題を含み、少なくとも1つのグ
ラフェンシートを上記カーボンナノファイバーシートに加えるステップを更に含む。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本開示の実施形態における、ナノファイバーシート層と、それに接触する熱収縮性ポリマー層とを備える例示的な多層複合材を示す図である。
【
図2】熱収縮性ポリマー層中にナノファイバーシート層を備える多層複合材の例示的な実施形態を示す図である。
【
図3】開示される多層複合材の使用の実施形態を例示する図である。
【
図4】
図4A及び
図4Bは、例示的な管状ナノ繊維複合材の縦断面図及び軸断面図である。
【
図5】
図5A及び
図5Bは、例示的な管状ナノ繊維複合材の縦断面図及び軸断面図である。
【
図6】開示される多層複合材の実施形態において用いることができる例示的なナノファイバーシート層を示す図である。
【
図7】例示的なナノファイバーシート層のためにナノファイバーシートを引き出す方法の例示的な実施形態を示す画像である。
【
図8】開示される多層複合材の様々な実施形態における、ナノファイバーシートを形成するために用いることができる例示的なナノファイバーフォレストを示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[概観]
本開示は多層複合材に関し、より詳細には、ナノファイバーシートと熱収縮性ポリマー
とを備える多層複合材に関する。
【0030】
上記のように、熱収縮性材料は、物品上またはその周囲に保護層または機能層を設ける
のに有用な熱感受性化合物である。熱収縮性材料の2種の主要なタイプは、熱可塑性ポリ
マー及び熱硬化性ポリマーである。熱可塑性樹脂は、加熱すると単純に軟化及び収縮し、
冷却すると硬化し、化学的に変化しないままである。例えば、熱可塑性熱収縮性ポリマー
は、形成時に配向することができ、加熱するとポリマーが軟化して、連鎖が再配向して緩
和することができる。これと比較して、熱硬化性ポリマーは加熱過程の間に化学反応を起
こし、材料が根本的に変化する。熱硬化性ポリマーは一度加熱すると、熱の印加により再
成形することができないのに対して、熱可塑性樹脂は再成形ができる。
【0031】
熱収縮性材料は、当該材料が収縮する際に物品を包み込むことによって、当該物品、特
に異形の物品を保護するためによく用いられる。特に、電気配線を熱収縮性ポリマー材料
中に封入して、電気絶縁性及び摩耗に対して保護することができる。電線及び電子機器を
EMI及びESDに対して保護するために導電性熱収縮性ポリマーを用いることができ、
編組メッシュなどの他の材料よりも取り付けが容易であるという利点がある。更に、従来
のEMIシールド編組を用いる場合には、多くの場合、編組の間に残留する空間を生じ、
この空間はEM放射を漏洩する働きをする。本明細書に記載の複合材を用いると、導体の
周囲に完全なシールド層を形成することができる。
【0032】
外部熱源を用いて、または電界を印加して上記ナノファイバー層内から熱を誘導するこ
とによって内因的に、熱収縮性ポリマーに熱を印加してもよい。場合によっては、狭い空
間または裸火もしくは他の外部熱源が禁止されている作業場環境における使用などのため
に、外部の熱源の使用が望ましくない、安全でない、あるいは不可能なことがある。した
がって、ポリマーを収縮させるために内部熱源が望ましい場合がある。内部熱供給を生み
出すための1つの方法は、例えば、導電性のナノワイヤ、繊維、薄片、粒子、またはポリ
マーを添加することにより、熱収縮性ポリマー材料が導電性となるように処理し、次いで
当該材料全体に電圧を印加し、それによって当該材料を電気抵抗で加熱することである。
内部熱供給を生み出すための別の方法は、性粒子を上記熱収縮性ポリマー中に包埋するこ
とであり、次いで当該ポリマーは高速で振動する磁場による誘導加熱によって内部加熱さ
れる。更に、マイクロ波などのEMの照射を用いて上記材料を加熱することもできる。但
し、これらの方法のそれぞれは、比較的高濃度の導電性材料を必要とし、それによって当
該ポリマーの特性に影響が及ぶ場合があり、コストも上昇する。また、上記材料の容積ま
たは表面積が縮小すると、導電性が変化する場合があり、これが過熱に繋がる可能性があ
る。更に、電線またはその他の構造的に導電性の構成要素を用いると、熱収縮を生み出す
ための電極の配置が制限される場合があり、これによって、より一般的な用途における本
材料の使用が制限される可能性がある。
【0033】
対照的に、製造が容易かつ安価であることができ、取り扱いが容易であることができ、
且つ形状縮小の間に一貫性のある導電性を維持しながら、内因的にまたは外部から加熱す
ることできる本明細書に記載の実施形態は、柔軟性及び収縮の一貫性などの望ましい特性
を提供する。
【0034】
[多層複合材]
少なくとも1つの熱収縮性ポリマー層と、少なくとも1つのナノファイバーシート層と
を備える多層複合材が記載される。これらの層のそれぞれを以下により詳細に説明する。
複合材は、最終的な複合材に所望のまたは目標とする特性を与えるために必要な場合、任
意の数の熱収縮性ポリマー層とナノファイバーシート層とを備えていてもよく、これらの
層の種々の構成を用いることができる。一実施形態において、多層複合材は、ナノファイ
バーシート層と接触する熱収縮性ポリマー層を備える。このようにして、上記熱収縮性ポ
リマー層と上記ナノファイバーシート層は共通の表面を共有し、上記熱収縮性ポリマー層
は上記ナノファイバーシート層の表面と直接接触する表面を有する。具体的な例を
図1に
示し、当該図において、多層複合材100は、熱収縮性ポリマー層120と接触するナノ
ファイバーシート層110を備える。この構成においては、各層が分離されており、各層
の特徴を特定の用途において最大限に活用することができる。特に、ナノファイバーシー
ト層110の上面130は露出しており、複合体のジュール加熱用の電極との接触に用い
ることができる。
【0035】
別の実施形態において、上記ナノファイバーシート層は上記熱収縮性ポリマー層内に含
まれ、上記ナノファイバーシート層は上記熱収縮性ポリマー層中に部分的にまたは完全に
包み込まれている。例えば、上記熱収縮材層は、ナノファイバーシート層中及びその周囲
に形成されていてもよい。具体的な例を
図2に示し、当該図において、多層複合材200
は、熱収縮性ポリマー層220中に包埋されたナノファイバーシート層210を備える。
かかる構成は、上記ナノファイバーシート層の露出を最小限に抑え、一部の用途において
必要になる場合がある、この層を保護することにとって特に有用である場合がある。別の
実施形態において、上記熱収縮性ポリマーは、上記ナノファイバーシート層の繊維間の間
隙に浸透する。例えば、上記ナノファイバーシート層は、上記熱収縮性ポリマー層により
浸透されるか、または他の形態で当該熱収縮性ポリマー層に結合する。かかる実施形態に
おいては、上記ナノファイバーシート層は上記熱収縮性ポリマー層を含み、例えば、上記
熱収縮性材料層の熱収縮を誘導するために、上記露出したナノファイバーシート層に電気
的に接触するためには、かかる構成が望ましい場合がある。これらの構成の種々の組み合
わせを用いてもよい。
【0036】
[熱収縮性ポリマー層]
上記熱収縮性ポリマー層は少なくとも1種の熱収縮性ポリマーを含む。2種以上のポリ
マーが存在する場合、その組み合わせは均質な組み合わせであってもよく、あるいは混和
性もしく非混和性のポリマーブレンドまたは複数の熱収縮性ポリマーの複数の層などの不
均質な組み合わせであってもよい。本明細書では、用語「熱収縮性」とは、材料の能力で
あって、上記材料の寸法を全体的に縮小させる、熱的に誘導される物理的及び/または化
学的変化を生じさせる上記能力をいう。従って、熱収縮性ポリマーは加熱すると大きさが
小さくなる。本明細書では、熱を印加したときに、材料の少なくとも一方の寸法において
、少なくとも10%大きさが縮小する場合に、当該材料は熱収縮性である。かかる寸法変
化は、当該ポリマーの収縮する能力を生じさせる当該ポリマーの条件を復旧することなし
には可逆的でなく、この特徴により、熱収縮性はポリマーの他の軟化過程及び賦形過程(
熱成形など)と区別される。いくつかの実施形態において、上記熱収縮性ポリマー層は配
向方向を有してもよく、この配向方向は、例えば、(押出成形または他の公知の成形方法
などによる)当該の層の形成時に創出されてもよく、多層複合材は、熱の印加によって、
この配向方向に沿って長さが縮小してもよい。
【0037】
上記熱収縮性ポリマー層には、任意且つ適宜の熱収縮性ポリマーが含まれていてもよい
。一般的にかかる材料は熱可塑性ポリマーであり、複合材において用いることができる熱
可塑性熱収縮性ポリマーの具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオ
レフィン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、VITON(登録商標)、ポリフ
ッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)を含むフルオロポ
リマー、シリコーンゴムなどの天然ゴムもしくは合成ゴムを含むゴム、及び/またはポリ
塩化ビニル(PVC)などの架橋あるいは非架橋ポリマーが挙げられる。別の実施形態に
おいて、上記熱収縮性ポリマー層は熱硬化性ポリマーを含み、当該熱硬化性ポリマーは加
熱すると化学反応を起こし、当該材料の寸法を縮小させる。上記熱収縮性ポリマー層に用
いることができる熱収縮性熱硬化性樹脂の具体的な例としては、ポリウレタン、ポリエス
テル、フタル酸ジアリル(DAP)、及びエポキシが挙げられるが、これらに限定はされ
ない。上記熱収縮性ポリマー層が熱的に変化することができる条件、特に温度、ならびに
生じることができる収縮の総量は、例えば、ポリマーの種類、当該ポリマーの厚さ、当該
ポリマー中の添加剤含有量、水または溶媒の含有量、印加される熱の温度、印加される熱
の継続時間、及び当該ポリマーの配向の程度に依存する可能性がある。一般に、熱収縮性
ポリマーは、当該ポリマーのガラス転移温度(Tg)に近い、但しTgより低い温度に加
熱することにより活性化することができる。
【0038】
いくつかの実施形態において、上記熱収縮性ポリマー層の収縮比(加熱後の寸法に対す
る加熱前の寸法の比較)は、少なくとも1.5:1、少なくとも2:1、または少なくと
も3:1であってよい。上記熱収縮性ポリマーの特性も、具体的に目標とする用途のニー
ズに応じて変化し得る。例えば、上記ポリマーは導電性であってもまたは非導電性であっ
てもよい。一実施形態において、上記熱収縮性ポリマーは非導電性ポリマーであり、外部
熱源を用いて熱が印加される。別の実施形態において、上記熱収縮性ポリマーは導電性で
あり、当該材料全体に電圧を印加するなどして内部から熱を印加し、それにより当該材料
を収縮させる。これは、外部から熱を印加することが望ましくない、または安全でない用
途において特に有用である可能性がある。上記導電性熱収縮性ポリマーは、導電性ポリマ
ーを含んでいてもよく、または導電性材料(導電性ワイヤ、粒子、繊維、または薄片など
)が導電性を付与するのに十分な量で添加されている非導電性ポリマーであってもよい。
【0039】
特定の実施形態において、多層複合材料は、正方形、円形、または長方形のシートなど
の熱収縮性ポリマーシートを含み、このシートは、当該シートの形成に起因して生じる固
有の配向方向を有する。上記シートは、シートの形成方法に応じて、一つの第1の配向方
向を有していてもよいし、又は複数方向に配向していてもよい。例えば、押出成形は唯一
の方向配向(unidirectional orientation)(又は、少なくとも第1の配向方向)を与え
ることができる一方、ブロー成形は複数の方向配向(multidirectional orientation)を
与えることができる。上記シートは、加熱すると、加熱方法に応じて、当該シートの配向
方向のうちの1つ又は全てに沿って収縮することができる。例えば、上記熱収縮性ポリマ
ーシートは、当該シートの長さ、幅、及び/または厚さなどの当該シートの少なくとも一
方の寸法に対応する配向方向を有していてもよい。上記シートは一定の厚さのシートであ
ってもよく、またはシート全体で厚さが異なっていてもよい。例えば、上記シートは、縁
に沿った部分よりも中央部分において厚くてもよい。多層複合材シート300を用いて、
複数の物品310、312、及び314を結合し、且つ単一の複合体330に圧縮する特
定の方法及び例を
図3に示す。複合材シート300は図示する配向方向320を有する。
複合材シート300は物品310、312、及び314上に配置され、輻射、熱風、また
は誘導加熱などの熱源を用いて熱が印加される。シート300は粘着剤を含んでいるか、
又はもともと粘着性であり、確実に物品312及び314にしっかりと貼り付くことがで
きてもよい。あるいは、接着剤または留め具を用いて、複合材シート300の1つ又は複
数の部分を貼り付けて、上記物品と接触させてもよい。いくつかの実施形態において、複
合材は、2つの端部が重り合った際にそれ自体が接着するように自己修復性(self-mendi
ng)であってもよい。圧力または熱が上記両端の結合を助長してもよい。熱が印加され、
複合シート300が方向320に収縮すると、3つの個々の物品310、312、及び3
14を互いに引き寄せて複合物品330を形成する。更に加熱して、物品310、312
、及び314の間に圧縮力を印加してもよい。収縮した複合材シート内に空間が保持され
る場合があることに留意されたい。場合によって、上記複合シートはx、y、zの1つ又
は複数の寸法が収縮し、全体の表面積及び/または厚さの減少を生じる。他の場合に、横
方向に収縮すると、複合材の厚さが増加する場合がある。
【0040】
図4A及び
図4Bに図示する別の特定の実施形態において、
図4A及び
図4Bでは、多
層複合材は長さ、厚さ、及び円周長を有する管状であり、当該複合材の熱処理により、こ
れらの寸法のいずれかまたは全ての減少が生じる。
図4Aは、多層カーボンナノチューブ
/ポリマー複合材管400、導体420、及び任意選択の絶縁体410を備える同軸シス
テムの縦断面図を示す。導体420は、例えば、銅またはアルミニウムなどの電気伝導体
であってよく、またはガラス繊維などの導光体であってもよい。図示するように、カーボ
ンナノチューブシートは上記ポリマー層の外側に位置する。上述のように、上記ナノチュ
ーブは上記ポリマーの内側に位置するか、または上記ポリマー中に包埋され、ポリマーに
よって完全に囲まれていてもよい。任意選択の絶縁体層410は、例えば、非導電性ポリ
マー層などの電気絶縁体であってよい。図示する実施形態において、上記複合体に熱が印
加されると、管400は同心円状に収縮し、任意選択の絶縁体層410を、導体420を
取り巻くより小さな容積に圧縮する。
図5Bを参照されたい。管400はまた、2の隣接
する導体の部分を互いに接合するために使用してもよい。例えば、2の導体端部を互いに
突き合わせ、管400を突き合わせ接合部の周囲で収縮させて、導体端部を互いに永久的
に接合してもよい。
【0041】
複合材400は、電磁干渉に対する柔軟な遮蔽材を提供することができる、または導体
として、例えば接地導体として使用することができる。複合体400はまた、電気キャパ
シタの半分を形成してもよい。場合によっては、多層複合材は熱伝導体として機能し、例
えば、導体420から放熱する。これらの場合、多層複合材は、互いに接触していてもよ
い複数のカーボンナノチューブシートを含んでいてもよい。別の一連の実施形態において
は、上記ナノチューブはシートの形態ではなく、導体420の軸に垂直な方向に配向して
いてもよい。例えば、複合材は、熱収縮性ポリマーなどのポリマー中に包埋されたカーボ
ンナノチューブフォレストを含んでいてもよい。長手方向に配列したカーボンナノチュー
ブは、当該ナノチューブを通るフォノン移動により熱を伝導することができる。ナノチュ
ーブは、例えば、単層または二層または三層または多層カーボンナノチューブであってよ
い。ナノチューブシートは、当該ナノチューブが導体の軸に実質的に平行になるように配
置されていてもよく、または導体の軸の周囲に同心円状に配置されていてもよい。多くの
場合、得られる熱収縮多層複合材は、再加熱及び再加工を伴う当該高分子材料の配向方向
の再構築(reestablishing)なしには、当初の寸法に戻すことはできない。
【0042】
[ナノファイバーシート層]
多層複合材のナノファイバーシート層は、少なくとも1つのナノファイバーシートを含
む。本明細書では、用語「ナノファイバーシート」とは、複数のナノファイバーの配列で
あって、当該複数のナノファイバーが、当該シートの厚さの100倍を超える長さ及び/
または幅で、端から端へと平面に並んでいる配列をいう。かかる材料としては、Lint
ec of America, Inc.から市販されているカーボンナノファイバーが
挙げられる。例えば、ナノファイバー含有糸またはリボンの種々の組み合わせを始めとす
る、当技術分野で公知の、カーボンナノチューブなどのナノファイバーまたはナノファイ
バー様材料を含む任意のシートを用いることができる。本明細書では、用語「ナノファイ
バー」とは、径が1μm未満の繊維を意味する。本開示の目的に対しては、炭素系材料(
例えばカーボンナノチューブ)及び非炭素系材料の両方を「ナノファイバー」と考えてよ
い。これらの材料については更に詳細に後述する。本明細書の実施形態は主としてカーボ
ンナノチューブから製造されるものとして説明されるが、他の炭素同素体、グラフェン、
ミクロンまたはナノスケールのグラファイト繊維及び/またはプレート、更には窒化ホウ
素などのナノスケール繊維の他の組成物であっても、後述する技法を用いて緻密化しても
よいことが理解されよう。
【0043】
いくつかの例において、異なる形態のナノスケール材料を組み合わせてもよいことが理
解されよう。例えば、グラフェンの1つ又は複数のシートをナノファイバーシート、リボ
ン、緻密化リボンのストランド、または糸(緻密化したものまたは緻密化していないもの
のいずれでも)の上に配置し、そのようにして複合カーボンナノ材料をしてもよい。同様
に、グラフェンシートとカーボンナノチューブシートを組み合わせて、層状カーボンナノ
材料を形成してもよい。場合によっては、カーボンナノチューブシートとグラフェンシー
トの複数の層を互いに挟持して、多層の複合シートを形成してもよい。例えば、複合シー
トは、CNT/グラフェン/CNT/グラフェンまたはグラフェン/CNT/CNT/グ
ラフェンのシートを含んでいてもよい。種々の実施形態において、間に挟まるシートは隣
接するシートを完全に覆っていてもよく、または隣接するシートの一部のみを覆っていて
もよい。例えば、グラフェンシートまたはカーボンナノチューブシートの間隔をあけた平
行なストリップが、隣接するシート上にパターンを形成してもよい。複合材中の複数のカ
ーボンナノチューブシートは、繊維状に配列していてもよく、または異なる角度、例えば
別のカーボンナノチューブシートに対して90度で配列していてもよい。シートは、例え
ば、ファンデルワールス力、接着剤、溶媒、または熱収縮性ポリマーなどのポリマーを用
いて互いに接着されていてもよい。
【0044】
上記ナノファイバーシートは、様々な用途に活用することができる種々の特性を有して
いてもよい。例えば、上記ナノファイバーシートは、調整可能な不透明性、高い機械的強
度及び柔軟性、熱及び電気伝導性を有することができ、且つ疎水性も示すことができる。
上記シート内のナノファイバーの高度な配列を考えると、上記ナノファイバーシートは非
常に薄く、略2次元になることができる。いくつかの例において、ナノファイバーシート
の厚さは(通常の測定許容誤差内で測定して)約10nmのオーダーである。他の例にお
いて、ナノファイバーシートの厚さは200nmまたは300nmになる場合がある。そ
のため、上記ナノファイバーシートは、部材に対して最小限の追加の厚さしか加えないよ
うにできる。そのため、上記ナノファイバーシートは、部材に対して最小限の追加の領域
及び重量を加えるに過ぎないようにできる。本明細書に開示のナノファイバーシートは高
純度であってもよく、場合によっては、当該ナノファイバーシートの90重量%超、95
重量%超、または99重量%超がナノファイバーに帰することができる。同様に、カーボ
ンナノチューブを含む上記ナノファイバーシートは、重量で90重量%超、95重量%超
、99重量%超、または99.9重量%超の炭素を含んでいてもよい。いくつかの実施形
態によれば、上記ナノファイバーシートの抵抗率は650~1200オーム/sqの範囲
内であってよい。上記ナノファイバーシートはまた異方性であり、ナノファイバーシート
層及び多層複合材に関する方向依存的な特性を示してもよい。例えば、いくつかの実施形
態において、上記ナノファイバーシートは50~70rσの間の異方性を示してもよい。
いくつかの実施形態において、上記ナノファイバーシートは、400~700nmの波長
で、50%を超える、65%を超える、80%を超える、95%を超える、または99%
を超える光透過率を更に示してもよい。
【0045】
より詳細には、いくつかの実施形態において、上記ナノファイバーシートの厚さは、約
50μm未満、25μm未満、10μm未満、または5μm未満である。特定の厚さの範
囲としては、例えば、5nm~20μmの間、5nm~10μmの間、5nm~1μmの
間、または5nm~100nmの間が挙げられる。上記シートはまた、意図する用途に適
した任意の長さ及び幅を有していてもよい。いくつかの実施形態において、上記ナノファ
イバーシートの長さ、幅、またはそれらの両方は、当該シートの厚さの100倍を超える
。例えば、上記ナノファイバーシートの長さは1メートルを超え、幅は10cmを超えて
いてもよい。いくつかの実施形態において、上記ナノファイバーシートの面密度は10μ
g/cm2未満である。また、いくつかの実施形態において、上記ナノファイバーシート
の面密度は、少なくとも0.002g/cm3、少なくとも0.005g/cm3、また
は少なくとも0.010g/cm3である。
【0046】
例示的なナノファイバーシートを
図6に示し、ここでは相対的な寸法を示している。図
から分るように、複数のナノファイバーは第1の方向(primary direction)に沿って端
から端へと整列しており、この第1の方向は、ナノファイバーの整列の方向と呼ばれるこ
ともある。いくつかの実施形態において、当該ナノファイバーの整列の方向は、当該のナ
ノファイバーシート全体にわたって連続的であってよい。ナノファイバーは必ずしも互い
に完全に平行ではなく、当該ナノファイバーの整列の方向は、複数のナノファイバーの整
列の方向の平均的な又は概括的な尺度であると理解される。
【0047】
上記ナノファイバーシート層は、所望の特性に応じて、単一のナノファイバーシートま
たは複数のシートを含んでいてもよい。一実施形態において、上記ナノファイバーシート
層は、互いの上に積層されたナノファイバーシートを含み、多層ナノファイバーシートを
形成する。ナノファイバーシートは、ナノファイバーの整列の方向が同一になるように、
またはナノファイバーの整列の方向が異なるように積層されていてもよい。任意の数のナ
ノファイバーシートを積層するか、または他の形態で組み合わせて多層ナノファイバーシ
ートを形成してもよい。例えば、いくつかの実施形態において、ナノファイバーシートは
、2、3、4、5、10、またはそれを超える個々のナノファイバーシートを含んでいて
もよく、当該シートの一部または全てが隣接するシートに接触している。隣接するシート
上の上記ナノファイバーの整列の方向は、隣接するシートと同一であっても異なっていて
もよい。例えば、シートのナノファイバー整列方向は、違いが例えば10°未満、5°未
満、または1°未満であり、実質的に同様であってよい。他の実施形態において、隣接す
るシートの上記ナノファイバーの整列の方向は実質的に異なり、例えば、40°を超えて
、45°を超えて、50°を超えて、60°を超えて、80°を超えて、または85°を
超えて異なっていてもよい。特定の実施形態において、隣接するシート上の上記ナノファ
イバーの整列の方向は90°以上であってよく、一実施形態において、シートの整列は実
質的に垂直であってよい。整列方向の種々の組み合わせも可能であり、このことは、本開
示の恩恵により、当業者によって認識されるであろう。
【0048】
ナノファイバーシートは、シートを製造することができる、当技術分野で公知の任意の
タイプの好適な方法を用いて構築することができる。いくつかの例示的な実施形態におい
て、ナノファイバーシートはナノファイバーフォレストから引き出してもよく、これにつ
いてはより詳細に後述する。ナノファイバーフォレストから引き出されるナノファイバー
シートの例を
図7に示す。図から分るように、複数のナノファイバーは、上記フォレスト
から横方向に引き出され、そして端と端が整列されて、ナノファイバーシートを形成する
。ナノファイバーシートがナノファイバーフォレストから引き出される実施形態において
、上記フォレストの寸法を制御して、特定の寸法を有するナノファイバーシートを形成す
ることができる。例えば、上記ナノファイバーシートの幅は、当該シートが引き出された
ナノファイバーフォレストの幅に略等しくてもよい。更に、上記シートの長さは、例えば
、所望のシート長さが得られ時点で引き出し過程を終了することによって制御することが
できる。
【0049】
いくつかの実施形態において、上記ナノファイバーシートを任意選択で緻密化して、所
望の密度を有する緻密化ナノファイバーシートを生成させてもよい。当技術分野で公知の
、任意且つ適宜の緻密化方法を用いて、緻密化ナノファイバーシートを生成させてもよい
。例えば、一実施形態において、上記緻密化ナノファイバーシートは、上記ナノファイバ
ーシートを少なくとも1種の液体に曝露し、その後当該液体の大部分または全てを(例え
ば蒸発により)除去することによって製造される。液体は、例えば当該液体の吸収、液体
のエアロゾルへのシートの露出、蒸気凝縮、コーティング、毛管吸収、またはそれらの組
み合わせを含む種々の方法で上記ナノファイバーシートに導入してもよい。液体は水性で
あっても非水性であってもよく、プロトン性または非プロトン性溶媒であってもよい。2
種、3種、またはそれを超える種類の液体の混合物を用いてもよい。緻密化はシートの厚
さに影響を与える場合がある。いくつかの特定の例において、ナノファイバーシートの緻
密化前の厚さは10~20μmの間であってよく、緻密化後の厚さは10~50nmの間
であってよい。ナノファイバーシートの緻密化前の体積密度は、緻密化の前に約0.00
15g/cm3であり、緻密化後には360倍に増加する場合がある。
【0050】
緻密化技法を用いると、ナノファイバーシートの種々の実施形態の体積密度を10倍、
20倍、50倍、100倍、500倍、または1000倍を超える倍率で増加させること
ができる。いくつかの実施形態において体積密度の増加は大きい場合があるが、それに伴
う面密度の増加はゼロまたはゼロに近い場合があることに留意されたい。このことは、緻
密化シートの長さ及び幅は、当該緻密化シートの基となるシートと本質的に同一であって
よいことを意味する。種々の実施形態において、緻密化によって生じる面積収縮は、10
%未満、5%未満、または1%未満であってよい。
【0051】
少なくとも1つのナノファイバーシートを含む上記ナノファイバーシート層は、1種ま
たは複数種の添加剤を更に含んでいてもよく、これらの添加剤はナノファイバーシート形
成の前または後に添加されてもよい。上記添加剤は、当該ナノファイバーシートの特性を
改変または強化することができる任意の材料であってよく、例えば、当該ナノファイバー
及び/またはナノファイバーシートの表面特性を物理的または化学的に改変するように選
択してもよい。上記添加剤は、例えば、可溶性ポリマーまたはゴムなどのポリマー、導電
性を改善するための微粒子充填材などの充填材、着色剤、またはそれらの種々の混合物で
あってよい。特定の例として、上記添加剤は、金属粒子、金属ナノ粒子、金属薄片、金属
ワイヤ、金属ナノワイヤ、セラミック粒子、セラミックナノ粒子、セラミック薄片、セラ
ミックワイヤ、セラミックナノワイヤ、顔料、及びそれらの混合物から選択される伝導性
材料であってよい。具体例としては、二ホウ化マグネシウム、二酸化チタン、及びリン酸
リチウムが挙げられるが、これらに限定はされない。他の添加剤も用いることができ、本
開示の利点を考慮すれば、当業者ならばこれらの添加剤を認識しよう。
【0052】
特定の実施形態において、上記ナノファイバーシートは、少なくとも1種のポリマーを
含む液体で後処理される。上記ポリマーは上記液体に可溶性であっても、またはラテック
スもしくはポリマー分散液などの不溶性であってもよい。蒸発によるなどして上記液体を
除去した後、上記ポリマーはナノファイバーシート内に含有されたままになる。ナノファ
イバーシートを緻密化した状態にすることもできる。この後処理過程において、種々のポ
リマーを用いて、ポリマー含有ナノファイバーシートを製造することができ、ポリマーの
選択は、例えば、ナノファイバーシートの目標とする用途及び所望の特性に依存すること
となる。ポリマーの具体的な例としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレ
フィン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、VITON(登録商標)、ポリフッ
化ビニリデン(PVDF)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)などのフルオロポリ
マー、シリコーンゴムなどの天然もしくは合成ゴムを含むゴム、及び/またはポリ塩化ビ
ニル(PVC)を含む、架橋または非架橋ポリマーが挙げられる。特定の実施形態におい
て、上記ポリマーは熱収縮性ポリマーであり、上記でより詳細に説明した熱収縮性ポリマ
ー層に用いられるポリマーのいずれであってもよい。上記ナノファイバーシート層のポリ
マーの量も変えることができる。上記ナノファイバーシート層中のポリマーの量は、例え
ば、上記ナノファイバーシート層の総重量に対して60%~99.9%であってよい。
【0053】
更に、上記ナノファイバーシート層の組成も、例えば、多層複合材に熱を印加するため
の意図する方法に応じて変化する場合がある。特に、上記ナノファイバーシート層は、上
記ナノファイバーシート上のコーティングとしてポリマーを含んでいてもよく、上記ナノ
ファイバーシート自体の内部にポリマーを含んでいてもよく、またはそれらの組み合わせ
を含んでいてもよい。例えば、一実施形態において、上記ナノファイバーシートはポリマ
ーでコーティングされ、上記ナノファイバーシート内に含まれるポリマーも存在する場合
と存在しない場合がある。この実施形態に関しては、上記ナノファイバーシート層の上記
ナノファイバーシートの外表面は露出されておらず、特定の用途において、必要に応じて
、上記ナノファイバーシートを物理的及び/または化学的に保護するように上記ポリマー
を選択すればよい。熱を外部から供給して、多層複合材の収縮を引き起こすことができる
。別の実施形態において、上記ポリマーは上記ナノファイバーシートに浸透して、上記シ
ートナノファイバー内及び/または全体にポリマーを有するポリマー含有ナノファイバー
シートを生成する。そのため、上記ナノファイバーシートは、上記ポリマーを含有する内
部容積及び露出したナノファイバーの外部表面を有し、当該外部表面に接続し、例えば、
多層複合材の内部加熱を提供することができる。このようにして、上記ナノファイバーシ
ートに印加された電圧によって、多層複合材の熱収縮を生じさせることができる。
【0054】
一組の実施形態において、上記ナノファイバーシート層は、上記ナノファイバーシート
の片面または両面上に接着層を備えていてもよい。上記接着層は、例えば、上記ナノファ
イバーシート層にコーティング、堆積、または積層されていてもよい。接着剤は、感圧接
着剤(PSA)であってもよく、または例えば、熱、放射、溶媒蒸発により活性化するこ
とができる接着剤であってもよい。上記接着剤層は、上記ナノファイバーシートの表面全
体を覆っていてもよく、または水玉もしくはストライプなどの特定のパターンで上記ナノ
ファイバーシート層上にパターン化されていてもよい。上記接着剤は、導電性であっても
または非導電性であってもよく、導電性粒子を含んでいてもよい。シリコーン剥離シート
などの剥離層を上記接着剤層に貼り付けてもよい。他の実施形態において、上記接着剤を
最初に上記剥離層に塗布し、次に上記接着剤/剥離層を上記ナノファイバーシートに積層
してもよい。いくつかの実施形態において、上記接着剤は、アクリル酸エステル、エポキ
シ、ポリウレタン、シリコーン、ゴム、メタクリル酸エステル、シアノアクリル酸エステ
ル、フェノール系、及びポリアミドからなる群より選択することができる。上記接着剤層
を用いて、上記ナノファイバーシート層を上記熱収縮ポリマーに結合させるかもしくは、
上記接着剤層を用いて、上記ナノファイバー層/熱収縮複合体を表面に結合させるか、ま
たはそれらの両方であってもよい。上記接着層は、上記ナノファイバーシート層上の別個
の分離した層であってもよく、または上記ナノファイバーシート層に浸透していてもよい
。場合によっては、ナノファイバーは接着剤層の中に、または上記接着剤層を超えて延在
し、上記接着剤層を通して電気的に接触していてもよい。
【0055】
別の組の実施形態において、金属を上記ナノファイバーシート層に接合してもよい。例
えば、金属の共形層を上記ナノファイバーシート層の表面に塗工してもよい。上記金属は
、上記ナノファイバーシート層が上記熱収縮ポリマーに接合される前または後に塗工して
もよい。銅またはアルミニウムなどの金属を、例えば、スパッタリング、無電解めっき、
電気めっき、プラズマ蒸着、蒸着、イオンビーム蒸着、または真空蒸着を用いて塗工して
もよい。金属層は、ナノファイバーシート層全体またはその一部のみを覆っていてもよい
。例えば、上記金属は、ストライプ、円、または正方形などのパターンで堆積させてもよ
い。上記金属層は、十分に薄く、ひび割れや層間剥離を起こすことなく上記ナノファイバ
ーシート層と共に屈曲してもよい。特定の実施形態において、上記金属層の厚さは、例え
ば、50μm未満、25μm未満、10μm未満、5μm未満、1μm未満、500nm
未満、または100nm未満であってよい。上記金属はまた、上記ナノファイバーの間に
侵入的に堆積されていてもよく、その場合、当該金属は明確な層を形成せず、ファイバー
中に包埋される。上記金属は、低抵抗の電気接点としての役割を果たし、1、2、または
それを超える電極と電気的に通信をしていてもよい。上記金属は、上記ナノファイバーシ
ートと電圧源または電流源との間の電気通信を提供することができる。
【0056】
上述のように、上記ナノファイバーシートは、複数のナノファイバーが端から端へと平
面に実質的に並んでいる配列である。上記ナノファイバーシートは、例えば、ここに引用
することでその全体が本明細書の一部をなすものとする国際公開第2007/15710
号に記載の方法を用いることを含む、当技術分野で公知の任意の方法を用いて調製するこ
とができる。したがって、本開示の種々の実施形態によれば、上記ナノファイバーシート
は、本明細書において「フォレスト」と呼ばれる構成を含む種々の構成に配列した(カー
ボンナノチューブを始めとする、但しこれに限定されない)ナノファイバーから製造する
ことができる。本明細書では、ナノファイバーまたはカーボンナノチューブの「フォレス
ト」とは、基材上で互いに実質的に平行に配列した略同等の寸法を有するナノファイバー
の整列をいう。
図8は基材上のナノファイバーの例示的なフォレストを示す。基材は任意
の形状であってよいが、いくつかの実施形態において、基材は、上記フォレストがその上
に集積される平坦な表面を有する。
図8に示すように、上記フォレスト中のナノファイバ
ーは、高さ及び/または径が略等しくなることができる。したがって、特定の実施形態に
おいて、ナノファイバーのフォレストが成長基材上で調製され、上記ナノファイバーのフ
ォレストの側壁または上記側壁の近傍にアタッチメントを結合し、当該アタッチメントを
利用することによりシートが引き出される。いくつかの実施形態において、上記フォレス
トのナノファイバーはそれぞれ、略同一の角度で基材に向かって配向することができる。
例えば、上記フォレストのナノファイバーは、基材に対して45°~135°の間の角度
を有する。特定の実施形態において、上記フォレストのナノファイバーは基材から75°
~105°の間で配向していてもよく、選択された実施形態において、上記ナノファイバ
ーは基材から約90°で配向していてもよい。
【0057】
本明細書に開示のナノファイバーフォレストは比較的密であってよい。詳細には、開示
のナノファイバーフォレストの密度は少なくとも10億ナノファイバー/cm2であって
よい。いくつかの特定の実施形態において、本明細書に記載のナノファイバーフォレスト
の密度は100億/cm2~300億/cm2の間であってよい。他の例において、本明
細書に記載のナノファイバーフォレストの密度は900億ナノファイバー/cm2の範囲
であってよい。いくつかの特定の実施形態において、本明細書に記載のナノファイバーフ
ォレストの密度は、109ナノファイバー/cm2を超え、1010ナノファイバー/c
m2を超え、2×1010ナノファイバー/cm2を超え、または3×1010ナノファ
イバー/cm2を超えていてもよい。他の実施形態において、ナノファイバー/cm2で
表した上記ナノファイバーフォレストの密度は、109~3×1010ナノファイバー/
cm2の間、1010ナノファイバー/cm2の間、3×1010ナノファイバー/cm
2の間、または1010~5×1010ナノファイバー/cm2の間であってよい。上記
フォレストには高密度または低密度の領域が含まれる場合があり、特定の領域にはナノフ
ァイバーが存在しない場合がある。フォレスト内のナノファイバーは、ファイバー間廉潔
性を示す場合もある。例えば、ナノファイバーフォレスト内の隣接するナノファイバーは
、ファンデルワールス力によって互いに引き合う場合がある。いずれにしても、フォレス
ト内のナノファイバーの密度は、本明細書に記載の技法を適用することにより増加させる
ことができる。
【0058】
いくつかの実施形態において、上記ナノファイバーシートのナノファイバーはカーボン
ナノチューブである。本明細書では、用語「カーボンナノチューブ」は、炭素原子が互い
に結合して円筒構造を形成する単層カーボンナノチューブ(SWCNT)及び/または多
層カーボンナノチューブ(MWCNT)の両方を包含する。例えば、上記ナノファイバー
は、4~10の間の側壁を有する多層カーボンナノチューブであってよい。カーボンナノ
チューブは、互いに結合して円筒構造を形成する炭素原子から構成される。その独特の構
造により、カーボンナノチューブは特定の機械的、電気的、化学的、熱的、及び光学的特
性を備えており、それらによってカーボンナノチューブは特定の用途に適する。特に、カ
ーボンナノチューブは、優れた導電性、高い機械的強度、良好な熱安定性を示し、その上
疎水性でもある。これらの特性に加えて、カーボンナノチューブは有用な光学的特性も示
す場合がある。例えば、カーボンナノチューブは、狭い範囲で選択された波長の光を放出
または検出するための発光ダイオード(LED)及び光検出器に用いることができる。カ
ーボンナノチューブはまた、光子輸送及び/またはフォノン輸送にも有用であることが証
明されている。
【0059】
カーボンナノチューブの多くの興味深い特性が当技術分野で確認されているが、実用的
な用途でカーボンナノチューブの特性を活用するには、カーボンナノチューブの特徴を維
持または強化することができる、規模拡大が可能で且つ制御可能な製造方法が求められる
。さまざまな構成のカーボンナノチューブの、制御された形態で集積させる方法及びデバ
イスが開示されている。例えば、整列したカーボンナノチューブを基材上または自立形態
で集積させる方法が、例えば、国際公開第2007/15710号に開示され、ナノファ
イバーシートのカーボンナノチューブ及びナノファイバーは同様にして製造することがで
きる。上記開示された方法は、他の特徴に加えて、整列を乱すことなくカーボンナノチュ
ーブをうまく移動させることを可能にし、これにより、カーボンナノチューブ構造の密度
を制御することが可能になり、光学的な調整の機会を提供する。更に、これらの整列した
カーボンナノチューブからナノファイバーシートをうまく引き出すことができる。
【0060】
本明細書では、「ナノファイバーシート」、「ナノチューブシート」、または単に「シ
ート」とは、当該シートのナノファイバーの長手方向の軸が、当該シートの主表面に対し
て垂直ではなく、当該シートの主表面に対して平行になり、当該複数のナノファイバーが
端から端へと平面に並ぶように、引き出し工程(ここに引用することによりその全体が本
明細書の記載の一部をなすものとする国際公開第2007/015710号に記載される
)によって整列させたナノファイバーのシート(すなわち、シートの堆積した形態であり
、しばしば「フォレスト」と呼ばれる)をいう。これは、
図6及び7にそれぞれ図解及び
表示される。
【0061】
例示的なナノファイバーシートの図解を
図6に示し、当該図には寸法を表示している。
いくつかの実施形態において、上記シートの長さ及び/または幅の大きさは、当該シート
の厚さの100倍を超える。いくつかの実施形態において、上記長さ、幅、またはそれら
の両方の大きさは、当該シートの平均厚さの10
3、10
6、または10
9倍を超える。
ナノファイバーシートの厚さは、例えば約5nm~30μmであってよく、長さ及び幅は
意図される用途に適する任意のものであってよい。いくつかの実施形態において、ナノフ
ァイバーシートの長さは、1cm~10メートルの間、幅は1cm~1メートルの間であ
ってよい。これらの長さは単に例示のために示すものである。ナノファイバーシートの上
記長さ及び幅は、製造装置の構成によって制約を受けるのであって、ナノチューブ、フォ
レスト、またはナノファイバーシートのいずれの物理的または化学的特性によっても制約
されるものではない。例えば、連続的製造法では任意の長さのシートを製造することがで
きる。これらのシートは製造時にロールに巻き取ってもよい。
【0062】
本明細書に記載のナノファイバーシート層のナノファイバーシートに関して、カーボン
ナノチューブなどのナノファイバーの寸法は、いくつかの実施形態において、例えば、用
いる製造方法に応じて大幅に変化し得る。いくつかの特定の実施形態において、上記ナノ
ファイバーの平均径は0.4~100nmの間であってよく、当該ナノファイバーの平均
長さは10μm~55.5cm超の範囲であってよい。上記ナノファイバーの平均厚さも
変化してよく、いくつかの実施形態において、上記ナノファイバーシートは、約平均厚さ
が100nm未満、且つ最大厚さが約500nmのナノファイバーを含む。上記ナノファ
イバーのアスペクト比(径に対する長さの比)は非常に高くすることができ、132,0
00,000:1といった程度の高い値である。幅広い寸法上の可能性を考えると、カー
ボンナノチューブの特性は高度に調整可能または微調整可能である。
【0063】
上記ナノファイバーは、例えば、ナノファイバーシートの形成前の、フォレストとして
整列させる際などに前処理してもよい。この方法では、上記フォレストのナノファイバー
の特性を選択して、(1)当該ナノファイバーに、分子種、ポリマー種、またはイオン種
を共有結合すること、(2)ファンデルワールス結合及び電荷移動結合におけるような非
共有結合を形成すること、(3)水素結合が可能な種を共有結合または非共有結合するこ
と、及び/または(4)ポリマー、金属もしくは合金、セラミック、またはその他の材料
を物理的にオーバーコートすることによるなどして、酸化、還元、または官能基による置
換におけるように、当該ナノファイバーの表面を物理的または化学的に修飾してもよい。
結合の種類にかかわらず、個々のナノチューブまたは結束されたナノチューブを、ナノス
ケールで、少なくとも部分的に、カプセル化、エンベロープ、またはコーティングする薬
剤を選択してもよい。
【0064】
カーボンナノチューブの多くの興味深い特性が当技術分野で確認されているが、実用的
な用途でカーボンナノチューブの特性を活用するには、カーボンナノチューブの特徴を維
持または強化することができる、規模拡大が可能で且つ制御可能な製造方法が求められる
。
【0065】
種々の方法を用いてナノファイバー前駆体フォレストを生成させ、次いでそれをナノフ
ァイバーシートへと引き出すことができる。例えば、いくつかの実施形態において、ナノ
ファイバーを高温の炉内で成長させてもよい。いくつかの実施形態において、触媒を基材
上に堆積させ、これを反応器中に載置し、次いで当該反応器に供給される燃料化合物に曝
露させてもよい。基材は800℃を超えるまたは1000℃超の場合さえある温度に耐え
ることができ、不活性材料であってよい。基材は、その下にあるシリコン(Si)ウエハ
ー上に堆積させたステンレス鋼またはアルミニウムを含んでいてもよいが、Siウエハー
の代わりに他のセラミック基材(例えば、アルミナ、ジルコニア、SiO2、ガラスセラ
ミックス)を用いてもよい。上記前駆体フォレストのナノファイバーがカーボンナノチュ
ーブである例においては、アセチレンなどの炭素系化合物を燃料化合物として用いること
ができる。上記燃料化合物(複数可)を反応器に導入した後、当該化合物が触媒上に堆積
し始め、基材から上方に成長することによって集積し、ナノファイバーのフォレストを形
成する。反応器は、燃料化合物(複数可)及びキャリアガスを反応器に供給することがで
きるガス入口と、消費された燃料化合物及びキャリアガスを反応器から排出することがで
きるガス出口を備えていてもよい。キャリアガスの例としては、水素、アルゴン、及びヘ
リウムが挙げられる。これらのガス、特に水素は、ナノファイバーフォレストの成長を促
進するためにも反応器に導入することができる。更に、上記ナノファイバーに導入するド
ーパントを上記ガス流に添加してもよい。
【0066】
多層ナノファイバーフォレストを製造する方法においては、基材上に1つのナノファイ
バーフォレストを形成し、次に前記第1のナノファイバーフォレストと接触する第2のナ
ノファイバーフォレストを成長させる。多層ナノファイバーフォレストは、基材上に第1
のナノファイバーフォレストを形成し、第1のナノファイバーフォレストの上に触媒を堆
積させ、次いで更に燃料化合物を反応器に導入して、第1のナノファイバーフォレスト上
に配置した触媒からの第2のナノファイバーフォレストの成長を促進することによるなど
の、多数の好適な方法によって形成することができる。適用する成長方法、触媒の種類、
及び触媒の位置に応じて、第2のナノファイバー層は、第1のナノファイバー層の上に成
長するか、または、触媒を例えば水素ガスで活性回復させた後には、直接基材上で成長し
、したがって第1のナノファイバー層の下に成長するかのいずれかであってよい。いずれ
にしても、第2のナノファイバーフォレストは、第1のナノファイバーフォレストと、概
略的に端と端とが並んだ状態になることができる。但し、第1と第2のフォレストの間に
は容易に検出可能な界面が存在する。多層ナノファイバーフォレストは、任意の数のフォ
レストを含んでいてもよい。例えば、多層の前駆体フォレストは、2、3、4、5、また
はそれを超えるフォレストを含んでいてもよい。
【0067】
ナノファイバーフォレストについてと同様に、ナノファイバーシート中のナノファイバ
ーを、処理剤によって、上記シートのナノファイバーの表面に、ナノファイバー単独とは
異なる化学的活性を付与する化学基または元素を付加することにより、機能化してもよい
。ナノファイバーシートの機能化は、事前に機能化したナノファイバー上で実施してもよ
く、または事前に機能化していないナノファイバー上で実施してもよい。機能化は、CV
D、及び種々のドーピング技法を含む、但しこれらに限定されない、本明細書に記載の技
法のいずれかを用いて実施してもよい。
【0068】
[更なる実施形態]
このように、いくつかの実施形態において、本開示は多層複合材の形成方法に関する。
上記方法は、少なくとも1つの熱収縮性ポリマー層と、少なくとも1つのナノファイバー
複合材とを結合するステップを含む。上述の構成要素はいずれもこの方法で使用すること
ができ、それぞれの構成要素は説明したようにして製造することができる。例えば、一実
施形態において、上記ナノファイバーシート層は、上記熱収縮性ポリマー層の上に、当該
熱収縮性ポリマー層が上記ナノファイバーシート層と接触する表面を有するように積層さ
れる。別の実施形態において、上記ナノファイバーシート層は、複数のナノファイバーが
端から端へと平面に並んでいる配列である少なくとも1つのナノファイバーシートを含む
。上記ナノファイバーシートは、
ナノファイバーを含み、側壁を有するナノファイバーフォレストを生成するステップと
、
上記ナノファイバーフォレストの上記側壁または上記側壁の近傍にアタッチメントを結
合するステップと、
上記アタッチメントを利用することにより、上記ナノファイバーフォレストから上記ナ
ノファイバーシートを引き出すステップと
を含む方法によって製造されてもよい。特定の実施形態において、上記ナノファイバー
シートは緻密化され、例えば、
ナノファイバーフォレストからナノファイバーシートを引き出すステップと、
上記ナノファイバーシートに液体を含浸させて、含浸ナノファイバーシートを形成する
ステップと、
上記含浸ナノファイバーシートから上記液体を蒸発させて、緻密化ナノファイバーシー
トを形成するステップと
を含む方法によって製造されてもよい。上記液体は更にポリマーを含む。当業者であれ
ば、本開示の利点を考慮すれば、上記方法の他の変化形を認識することとなろう。
【0069】
具体例を以下に記載する。但し、これらは本質的に単なる例示であり、限定ではなく、
例としてのみ提示されるものであることは、当業者には当然に明らかであろう。多数の改
変及び他の実施形態は、当技術分野の通常の技量の範囲内であり、本開示の範囲内に入る
ことが企図される。更に、当業者であれば、特定の条件及び構成は例示であり、実際の条
件及び構成は特定のシステムに依存することとなることを当然に理解しよう。また、当業
者であれば、慣用的なものを超えることのない実験を用いて、示されている特定の要素の
均等物を認識且つ特定することが可能であろう。
【実施例0070】
[実施例1]
実施例1においては、カーボンナノチューブを含むナノファイバーシートを熱収縮管の
周囲に巻き付けて、上記カーボンナノチューブシートが上記管の収縮を引き起こす程度ま
で電気的に加熱できるかどうかを判定した。上記熱収縮管は、熱収縮温度が250°F、
収縮率が2:1、外径が1インチ、肉厚が0.04インチのポリオレフィンプラスチック
管(McMaster-Carr)であった。上記管に、フォレストから引き出した、純
粋なカーボンナノチューブから形成された合計30層のシートを順次巻き付けた。上記シ
ート中のナノチューブの整列が上記管の軸に対して45度のバイアス角になるように当該
シートを巻き付けた。次いで、CNTシートで被覆した上記管の表面に、10%のポリメ
タクリル酸メチル(PMMA)のアセトン溶液を噴霧した。次いで、この生成物を室温で
乾燥させて、アセトン溶媒の全てまたは略全てを除去した。感圧テープ(PSAテープ)
によって上記カーボンナノチューブシートに固定した可撓性銅電極を用いて、上記被覆し
た管に8インチ間隔で電気接点を設置した。24Vの電圧を5秒間印加し、これによって
その間に上記ポリオレフィン管が50%を超えて収縮した。
【0071】
[実施例2]
実施例2においては、熱収縮フィルムを、カーボンナノチューブを含む金属被覆ナノフ
ァイバーシートで被覆した。上記フィルムは、285°Fの収縮温度における収縮率が2
:1である、厚さ0.00075インチの熱収縮ポリ塩化ビニル(PVC)フィルム(M
cMaster Carr)であった。このフィルムを、CNTフォレストから引き出し
たカーボンナノチューブを含む5層のナノファイバーシートで被覆した。本実施例におい
ては、上記ナノファイバーシートは緻密化されておらず、ポリマーを含んでいなかった。
次に、上記ナノファイバーフィルムを、電子ビーム蒸着により10nmのチタン(Ti)
と100nmの銀(Ag)で被覆した。蒸着は、金属によるCNTの最上層の準共形蒸着
が可能なプラネタリーシステムで実施した。金属準共形蒸着後に、上記金属被覆CNT多
層複合材を、10%のPMMAのアセトン溶液を用いて緻密化した。この溶液を噴霧によ
り上記CNTシートに塗布した。次いで、室温で乾燥させることによりアセトン溶媒を除
去した。このPMMAは、その下にあるCNTシートを、PVC基材などの低表面エネル
ギーの下にある基材に接着するのに役立つ。但し、後続のシートは接着剤なしで互いに十
分に接着できる。次いで、金属被覆CNTシートで被覆したPVCフィルムを、径が約1
インチの硬質PVCの円筒の周囲にらせん状(45°)に巻き付けた。PSAテープによ
って固定した可撓性銅電極を用いて、金属被覆CNTシートを巻き付けた上記円筒の端部
に約12インチ間隔で電気接点を設置した。12Vの電圧が唯一の供給したエネルギー源
であり、この電圧を、金属被覆CNT/PVC熱収縮シートを巻き付けた上記円筒の1フ
ィートの区間に2秒間印加した。これによって、上記フィルムは約285°Fに加熱され
、十分に約50%の収縮を引き起こした。上記金属被覆CNTシートは柔軟で可撓性があ
り、PVC管の周囲に、当該管の形状を偏らせることなく容易に巻き付けることが可能で
あった。シートは非常にわずかな形状記憶しか示さず、管の周囲に巻き付けられた際に、
ほどける傾向はほとんどまたは全く示さなかった。
【0072】
上述の好ましい実施形態の説明は例示及び説明の目的で提示されている。網羅的である
こと、または本開示を示した精細な形態に限定することは意図されない。改変及び変化形
は上述の教示に照らして可能であり、または記載した実施形態の実施から取得することが
できる。これらの実施形態は、原理及びその実用的な応用を説明し、当業者が、想定され
る特定の使用に適するように種々の改変を加えて様々な実施形態を利用することができる
ようにするために選択されたものである。本開示の範囲は、本明細書に添付される特許請
求の範囲及びそれらの均等物によって規定されることが意図される。
少なくとも1つのカーボンナノファイバーシート層であって、この少なくとも1つのカーボンナノファイバーシート層の平面に平行である第1の配向方向において端から端へと並んでいる複数のナノファイバーを含む少なくとも1つのカーボンナノファイバーシート層と、
ポリマー配向方向を有する熱収縮性ポリマー層であって、前記カーボンナノファイバーシート層が前記熱収縮性ポリマー層中に包埋されている、熱収縮性ポリマー層と
を備える多層複合材であって、
前記多層複合材が長さを有し、前記熱収縮性ポリマー層の前記ポリマー配向方向が前記多層複合材の長さに沿うように構成されており、
前記カーボンナノファイバーシート層および前記熱収縮性ポリマー層が、前記熱収縮性ポリマー層への熱の印加に応答して、前記ポリマー配向方向において、少なくともサイズが10%縮小するものである、多層複合材。
前記カーボンナノファイバーシート層が、第1のカーボンナノファイバーシートを含み、この第1のカーボンナノファイバーシートが、隣接する第2のカーボンナノファイバーシートとは異なる繊維配列を有する、請求項1に記載の多層複合材。
前記カーボンナノファイバーシート層が、前記緻密化カーボンナノファイバーシートに含浸している少なくとも1種のポリマーを更に含む、請求項4に記載の多層複合材。
前記少なくとも1つのカーボンナノファイバーシート層が、カーボンナノファイバーシートと、前記カーボンナノファイバーシート上の少なくとも1つのグラフェン層とを含む、請求項1に記載の多層複合材。
前記カーボンナノファイバーシート層が少なくとも1つのカーボンナノファイバーシートを含み、前記カーボンナノファイバーシートが、複数のナノファイバーが端から端へと平面に並んでいる配列を含み、
前記カーボンナノファイバーシートが、
i)カーボンナノファイバーを含み、側壁を有するカーボンナノファイバーフォレストを生成するステップと、
ii)前記カーボンナノファイバーフォレストの前記側壁または前記側壁の近傍にアタッチメントを結合するステップと、
iii)前記アタッチメントを利用することにより、前記カーボンナノファイバーフォレストから前記カーボンナノファイバーシートを引き出すステップと
を含む方法によって製造される、請求項9に記載の方法。
前記緻密化カーボンナノファイバーシートが、緻密化によって前記カーボンナノファイバーシートよりも10%未満収縮した面積と、緻密化によって前記カーボンナノファイバーシートよりも1000倍超増加した体積密度とを有する、請求項4に記載の多層複合材。