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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130679
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】殺菌用過酸化水素水溶液
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/00 20060101AFI20220830BHJP
   A61L 2/18 20060101ALI20220830BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20220830BHJP
   A01N 25/22 20060101ALI20220830BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20220830BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
A01N59/00 A
A61L2/18 102
A01N25/02
A01N25/22
A01P1/00
A61L9/01 E
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107694
(22)【出願日】2022-07-04
(62)【分割の表示】P 2018565989の分割
【原出願日】2017-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2017015708
(32)【優先日】2017-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100176094
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 満
(72)【発明者】
【氏名】野頭 亜理沙
(72)【発明者】
【氏名】井浦 克弘
(72)【発明者】
【氏名】君塚 健一
(72)【発明者】
【氏名】田崎 賢
(57)【要約】      (修正有)
【課題】噴霧ノズルへの残渣付着が少なく、さらに水洗による残渣除去が容易な、ミスト又は蒸気として用いる殺菌用の過酸化水素水溶液を提供する。
【解決手段】ミスト又は蒸気として用いる殺菌用の過酸化水素水溶液であって、過酸化水素と、2ppm以上、8ppm以下のオルトリン酸又はホスホン酸と、10ppb以上、500ppb以下のアルミニウムと、硫酸イオンとを含有し、前記硫酸イオンの含有量が前記アルミニウムの含有量に対して質量比で10倍以上、20倍以下である、水溶液とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミスト又は蒸気として用いる殺菌用の過酸化水素水溶液であって、
過酸化水素と、
2ppm以上、8ppm以下のオルトリン酸又はホスホン酸と、
10ppb以上、500ppb以下のアルミニウムと、
硫酸イオンとを含有し、
前記硫酸イオンの含有量が前記アルミニウムの含有量に対して質量比で10倍以上、20倍以下である、水溶液。
【請求項2】
前記過酸化水素の濃度が、20質量%以上、45質量%以下である、請求項1に記載の水溶液。
【請求項3】
蒸発残渣量が10ppm以下である、請求項1又は2に記載の水溶液。
【請求項4】
蒸発器付着試験における水洗除去率が40%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の水溶液。
【請求項5】
2ppm以上、5ppm以下のオルトリン酸と、
50ppb以上、250ppb以下のアルミニウムとを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の水溶液。
【請求項6】
容器包装材料殺菌、器具殺菌又は空間殺菌に使用するための、請求項1~5のいずれか一項に記載の水溶液。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の水溶液をミスト又は蒸気として対象物に接触させることを特徴とする、対象物の殺菌方法。
【請求項8】
前記ミスト又は蒸気の温度が30℃~250℃である、請求項7に記載の殺菌方法。
【請求項9】
前記ミスト又は蒸気を気体と混合してガス状流体とし、対象物に接触させる、請求項7に記載の殺菌方法。
【請求項10】
前記気体が空気、窒素、酸素、及びオゾンよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項9に記載の殺菌方法。
【請求項11】
前記対象物が包装容器、食品機械、ペットボトル、ペットボトルプリフォーム、実験器具、医療器具、衛生器具、調理器具又は食品である、請求項7~10のいずれか一項に記載の殺菌方法。
【請求項12】
前記対象物が空間である、請求項7~10のいずれか一項に記載の殺菌方法。
【請求項13】
前記空間が自動車、電子工業用のクリーンルーム、居住空間、医療スペース、厨房、調理場、車両又は航空機である、請求項12に記載の殺菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミスト又は蒸気として用いる殺菌用の過酸化水素水溶液に関する。本発明はまた、過酸化水素水溶液をミスト又は蒸気として対象物に接触させることを特徴とする、対象物の殺菌方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素を含む水溶液は、種々の殺菌剤として使用されている。さらに殺菌剤をミスト又は蒸気として対象物に接触させて、対象物を殺菌する技術は、電子工業用のクリーンルームの殺菌や、飲料充填前のペットボトルの殺菌などに適用されている。とりわけ近年は、ペットボトルの普及と相まって、無菌充填に使用される過酸化水素水溶液に対する要求性能が高くなっている。即ち、過酸化水素及び水を蒸発させた時の残渣が少ないものや、高温や金属製の貯蔵容器中での安定性が高いものが求められるようになってきている。
【0003】
無菌充填用に過酸化水素を含む水溶液を使用する場合、過酸化水素水溶液を蒸発器で沸点以上に加熱気化させ、空気と共に過酸化水素の気体を噴霧して容器を殺菌する方法が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、過酸化水素水溶液に添加されている安定剤の一部が、噴霧ノズル、蒸発器に付着し、配管部などを閉塞させ、無菌充填装置の安定した運転を阻害する問題があった。
【0004】
また、安定剤の安定効果が不十分だと、ステンレス等の金属容器での貯蔵では安定度が維持できない問題がある。
【0005】
これまでに、上記の閉塞問題や過酸化水素の安定性を解決する手段として、過酸化水素水溶液に添加する安定剤の添加量を低減することが提案されている。例えば、特許文献2には、アミノメチレンホスホン酸を用いて乾燥残渣を低減し、かつ過酸化水素の安定性を確保する方法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-47242号公報
【特許文献2】特開2013-028643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように閉塞問題や安定性を解決する手段は、これまで提案されている。しかし、閉塞問題対策として過酸化水素水溶液への安定剤の添加量を低減しても、噴霧ノズル、蒸発器への付着物の残存は完全には解消できず、かつホスホン酸系の付着物が難溶性であることから、配管部を閉塞させ、無菌充填装置の安定した運転を阻害する問題は完全には解決できていない可能性があった。
【0008】
さらに発明者らによる最近の研究によって、過酸化水素水溶液に安定剤として添加されているリン酸やキレート剤によって、金属製タンクより微量の金属が溶出し、過酸化水素の安定度が低下することが分かってきた。安定剤を多量に用いれば安定度の低下は回避出来るが、前述の噴霧ノズル閉塞などの運転阻害が起こり易くなるため、さらなる改善が必要である。
【0009】
本発明の目的は、噴霧ノズルへの残渣付着が少なく、さらに水洗による残渣除去が容易な、ミスト又は蒸気として用いる殺菌用の過酸化水素水溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、かかる課題に鋭意検討を重ねた結果、過酸化水素、オルトリン酸又はホスホン酸、アルミニウム、及び硫酸イオンを含有し、アルミニウムと硫酸イオンの含有量の比が特定の範囲である水溶液が、過酸化水素の安定性を向上し、噴霧ノズル及び蒸発器に付着残存する過酸化水素水溶液中の安定剤由来の付着物を低減し、かつ残渣を水洗により容易に除去することを可能とすることを見出し本発明に到達した。
【0011】
すなわち本発明は以下のとおりである。
[1]
ミスト又は蒸気として用いる殺菌用の過酸化水素水溶液であって、
過酸化水素と、
2ppm以上、8ppm以下のオルトリン酸又はホスホン酸と、
10ppb以上、500ppb以下のアルミニウムと、
硫酸イオンとを含有し、
前記硫酸イオンの含有量が前記アルミニウムの含有量に対して質量比で10倍以上、20倍以下である、水溶液。
[2]
前記過酸化水素の濃度が、20質量%以上、45質量%以下である、[1]に記載の水溶液。
[3]
蒸発残渣量が10ppm以下である、[1]又は[2]に記載の水溶液。
[4]
蒸発器付着試験における水洗除去率が40%以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の水溶液。
[5]
2ppm以上、5ppm以下のオルトリン酸と、
50ppb以上、250ppb以下のアルミニウムとを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の水溶液。
[6]
容器包装材料殺菌、器具殺菌又は空間殺菌に使用するための、[1]~[5]のいずれかに記載の水溶液。
[7]
[1]~[6]のいずれかに記載の水溶液をミスト又は蒸気として対象物に接触させることを特徴とする、対象物の殺菌方法。
[8]
前記ミスト又は蒸気の温度が30℃~250℃である、[7]に記載の殺菌方法。
[9]
前記ミスト又は蒸気を気体と混合してガス状流体とし、対象物に接触させる、[7]に記載の殺菌方法。
[10]
前記気体が空気、窒素、酸素、及びオゾンよりなる群から選択される少なくとも1種である、[9]に記載の殺菌方法。
[11]
前記対象物が包装容器、食品機械、ペットボトル、ペットボトルプリフォーム、実験器具、医療器具、衛生器具、調理器具又は食品である、[7]~[10]のいずれかに記載の殺菌方法。
[12]
前記対象物が空間である、[7]~[10]のいずれかに記載の殺菌方法。
[13]
前記空間が自動車、電子工業用のクリーンルーム、居住空間、医療スペース、厨房、調理場、車両又は航空機である、[12]に記載の殺菌方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、過酸化水素の安定性が向上し、噴霧ノズル及び蒸発器に付着残存する過酸化水素水溶液中の安定剤由来の付着物を低減し、かつ残渣を水洗により容易に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】硫酸イオン含有量とアルミニウム含有量の質量比と残渣水洗性との関係を示すグラフである。
図2】安定剤総量と安定度との関係を示すグラフである。
図3】アルミニウム含有量と安定度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
1.ミスト又は蒸気として用いる殺菌用の過酸化水素水溶液
本発明のミスト又は蒸気として用いる殺菌用の過酸化水素水溶液(本明細書において、「本発明の過酸化水素水溶液」ということもある)は、過酸化水素と、オルトリン酸又はホスホン酸と、アルミニウムと、硫酸イオンとを含む。更に、本発明の過酸化水素水溶液は、噴霧ノズルや蒸発器などに付着した蒸発残渣の水洗性を容易にするための添加剤として、その他の酸及び/又は塩を含んでもよい。
【0016】
本発明の過酸化水素水における過酸化水素の濃度は、20質量%以上、好ましくは25質量%以上である。濃度が高いほど殺菌効果も高くなるが、取扱時の安全性を考慮して、本発明の過酸化水素水における過酸化水素の濃度は、45質量%以下が好ましい。より好ましい濃度範囲は、25質量%以上40質量%以下である。
【0017】
本発明の過酸化水素水溶液は、オルトリン酸(化学式 HPO、単に「リン酸」ともいう)又はホスホン酸を含み、その含有量は質量基準で、2ppm以上、8ppm以下である。含有量の下限値は好ましくは、3ppmであり、上限値は好ましくは6ppm、より好ましくは5ppmである。オルトリン酸又はホスホン酸の含有量がこの数値範囲内にあることで、過酸化水素の安定化効果が得られ、蒸発器やノズルに付着する蒸発残渣の量が抑制される。オルトリン酸の含有量は、公知の方法で測定することができ、例えば、Dionex製のDX-500を用いたイオンクロマトグラフィーで測定することができる。
【0018】
本発明で使用するオルトリン酸は、特に限定されず、後藤化学株式会社等から市販されているリン酸(濃度:85%)等を使用することができる。また、オルトリン酸としては、食品衛生法の指定添加物として指定されているものを用いることが好ましい。また、本発明で使用するオルトリン酸は、オルトリン酸の塩の形態で水溶液に加えられていてもよく、そのような塩としては、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム等のリン酸二水素塩、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二アンモニウム等のリン酸水素塩、リン酸三カリウム、リン酸三ナトリウム等のリン酸塩等が挙げられる。
【0019】
本発明で使用するホスホン酸は特に限定されないが、有機ホスホン酸であることが好ましい。そのような有機ホスホン酸としては、アミノメチルホスホン酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ビスヘキサメチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、およびプロピレンジアミンテトラメチレンホスホン酸等が挙げられる。また、本発明で使用される有機ホスホン酸は塩の形態で水溶液に加えられてもよい。
【0020】
本発明の過酸化水素水溶液は、質量基準で、10ppb以上、500ppb以下のアルミニウムを含む。アルミニウムの含有量の下限値は、好ましくは50ppbであり、より好ましくは、100ppbであり、上限値は、好ましくは350ppbであり、より好ましくは250ppbである。過酸化水素水溶液中のアルミニウムの含有量は、例えば、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置iCAP 6000(Thermo Fisher SCIENTIFIC製)などで測定することができる。アルミニウムの含有量が上記範囲の場合、過酸化水素の安定化効果が得られ、蒸発器や噴霧ノズルに付着する蒸発残渣の量が抑制される。
【0021】
本発明の過酸化水素水溶液に含まれるアルミニウムは、塩の形態で水溶液に加えられていてもよく、そのようなアルミニウム塩の具体例としては、硫酸カリウムアルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、及び蓚酸アルミニウムが好ましく挙げられ、硫酸カリウムアルミニウムが特に好ましく挙げられる。本発明で好ましく使用される硫酸カリウムアルミニウムは、12水和物のような水和物であってもよい。あるいは、アルミニウムは、純アルミニウムやアルミニウム合金と過酸化水素水溶液とを接触させることで添加してもよい。また、アルミニウム塩としては特に、食品衛生法の指定添加物として指定されているものを用いることが好ましい。
【0022】
本発明の過酸化水素水溶液は硫酸イオンを含有する。硫酸イオンは塩の形態で水溶液に加えられていてもよく、そのような硫酸塩の具体例としては、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、及び硫酸ナトリウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、硫酸塩としては特に、食品衛生法の指定添加物として指定されているものを用いることが好ましい。硫酸イオンの含有量は、好ましくは、質量基準で、100ppb~10,000ppbである。
【0023】
本発明の過酸化水素水溶液において、硫酸イオンの含有量がアルミニウムの含有量に対して質量比で10倍以上、好ましくは11倍以上、より好ましくは12倍以上、かつ、20倍以下、好ましくは19倍以下、より好ましくは18倍以下である。硫酸イオンとアルミニウムの含有量の質量比がこの範囲にあることで、過酸化水素の安定性が向上し、噴霧ノズル及び蒸発器に付着残存する過酸化水素水溶液中の安定剤由来の付着物を低減し、かつ残渣を水洗により容易に除去することができる。
【0024】
過酸化水素の分解成分としては重金属類が知られているが、工業的に製造する過酸化水素水溶液に含有される分解成分としては、Fe、Cr、Ni、Pdにほぼ限定される。本発明の過酸化水素水溶液は、NiとPdの濃度をそれぞれ0.1ppb以下とし、FeとCrの濃度をそれぞれ5ppb以下とした過酸化水素水溶液を使用することが好ましい。このような過酸化水素水溶液は、公知の方法で得られ、具体的には、蒸留、イオン交換樹脂、吸着材、キレート、逆浸透膜等で金属成分を除去する方法が挙げられる。
【0025】
本発明の過酸化水素水溶液は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の公知の過酸化水素安定剤を含んでいてもよい。例として所要量の無機リン酸系安定剤を併用することで、安定性をより改善することもできる。具体例としてピロリン酸水素ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム等のピロリン酸塩類などが挙げられ、使用用途などの所望に応じて単独又は組み合わせで含有させてもよい。また、無機リン酸系安定剤としては、食品衛生法の指定添加物として指定されているものを用いることが好ましい。そのような無機リン酸系安定剤としては、リン酸三カリウム、リン酸三カルシウム、リン酸三マグネシウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸一水素マグネシウム、及びリン酸三ナトリウム等が挙げられる。
【0026】
本発明の過酸化水素水溶液における安定剤総量は、2,500ppb~7,000ppbであることが好ましく、3,000ppb~6,000ppbであることがより好ましい。
【0027】
本発明において、ノズルや蒸発機などに付着した蒸発残渣の水洗性を良好とするその他の酸及び/又は塩も食品衛生法の指定添加物より選ぶことができる。具体的には、L-アスコルビン酸及び/又はその塩、エチレンジアミン四酢酸塩、クエン酸及び/又はその塩、グルコン酸及び/又はその塩、L-グルタミン酸及び/又はその塩、ケイ酸塩、硝酸塩、炭酸塩、ピロリン酸塩、硫酸塩が好ましく、特に硫酸塩が好ましい。
【0028】
本発明の過酸化水素水溶液は、蒸発残渣量が10ppm以下であることが好ましく、8ppm以下であることがより好ましい。過酸化水素水溶液中の蒸発残渣量は、JIS-K1463に記載の方法で測定することができる。
【0029】
本発明の過酸化水素水溶液は、蒸発器付着試験における水洗除去率が40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。蒸発器付着試験の詳細については実施例において後述する。
【0030】
本発明の過酸化水素水溶液は、ミスト又は蒸気として殺菌に用いられる。本発明の過酸化水素水溶液を気化させ、ミスト又は蒸気を生成する方法は特に限定されない。殺菌方法の詳細は、本明細書において後述する。
【0031】
本発明の過酸化水素水溶液の用途は、特に限定されないが、容器包装材料殺菌、器具殺菌又は空間殺菌に使用することが好ましい。
【0032】
2.対象物の殺菌方法
本発明の殺菌方法は、本発明の過酸化水素水溶液をミスト又は蒸気として対象物に接触させることを特徴とする対象物の殺菌方法に関する。本発明の過酸化水素水溶液の詳細については、上述のとおりである。
【0033】
過酸化水素水溶液を気化させ、ミスト又は蒸気を生成する方法は特に限定されないが、例えば、超音波による方法や加熱による方法が挙げられる。このようにして得られた過酸化水素水溶液のミスト又は蒸気を単独で用いても良く、別の気体と混合してガス状流体として対象物に接触させてもよい。好ましくは過酸化水素水溶液を蒸発器で沸点以上に加熱気化させ、別の気体と過酸化水素水溶液のミスト又は蒸気を混合してガス状流体として用いる。過酸化水素水溶液を加熱気化させる装置は、特に制限はなく公知の装置を用いることができる。気体を混合させて用いることにより、例えば凹凸形状の対象物でもより効率的に過酸化水素水溶液のミスト又は蒸気と接触させることができる。
【0034】
上記の過酸化水素水溶液のミスト又は蒸気と同伴させる気体の具体例として、空気、窒素、酸素、及びオゾンが挙げられる。特に空気は安価であり好ましい。混合に供する気体の温度は室温以上であることが好ましい。
【0035】
過酸化水素水溶液のミスト又は蒸気を対象物と接触させる際に、同伴させる気体も加熱することがより望ましい。
【0036】
過酸化水素水溶液のミスト又は蒸気、もしくは別の気体と混合させた過酸化水素水溶液のミスト又は蒸気といったガス状流体の温度は30~250℃が好ましく、より好ましくは50℃~200℃、さらに好ましくは100℃~150℃である。上記の温度範囲で使用することで、十分な殺菌能力が得られ、かつ、熱による殺菌対象物の損傷を効果的に防止することができる。
【0037】
対象物としては、包装容器、食品機械、ペットボトル、ペットボトルプリフォーム、実験器具、医療器具、衛生器具、調理器具、食品及び空間などが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
空間としては、自動車、電子工業用のクリーンルーム、居住空間、医療スペース、厨房、調理場、車両、航空機などが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
本発明では過酸化水素水溶液のミスト及び/又は蒸気の発生装置を施設内に持ち込み、過酸化水素水溶液のミスト及び/又は蒸気を発生させ、施設内の菌数を減らすこともできる。
【0040】
この施設として、トイレタリー施設、廃棄物処理施設、畜舎などが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【実施例0041】
次に、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
<過酸化水素の安定性及び蒸発残分の評価方法>
過酸化水素の安定性及び蒸発残分は、JIS-K1463に規定された方法で評価した。
【0043】
<リン酸・硫酸イオン濃度の測定>
過酸化水素水溶液中のリン酸と硫酸イオン濃度は、イオンクロマトグラフィーDX-500(Dionex製)で測定した。
【0044】
<アルミニウム濃度>
過酸化水素水溶液中のアルミニウム濃度は、ICP発光分析装置iCAP 6000(Thermo Fisher SCIENTIFIC製)で測定した。
【0045】
<蒸発器付着量及び水洗性の評価>
模擬蒸発器は公知の蒸発器を参考に縮小模擬したものを用いた。過酸化水素濃度35%の過酸化水素水溶液サンプルは、300℃に加熱した模擬蒸発器に、空気と混合させながら一定速度で送液して気化させ、80時間試験した。過酸化水素濃度25%の場合は112時間とした。試験後の模擬蒸発器重量を測定し、試験前との重量差を付着量(mg)とした。さらにこれをイオン交換水で水洗、乾燥して再度重量を測定し、試験前との重量差を残留量(mg)とした。付着量と残留量から、下記式に基づいて水洗除去率(%)を算出した。
水洗除去率(%)=[1-{残留量(mg)/付着量(mg)}]×100
(模擬蒸発器構造)
材質: SUS304L
サイズ:150mm×23mmφ円筒気形気化室の先端に高さ17mmの円錐形ノズルをつけたもの。円錐形ノズルは先端に2mmφの穴が開いたものを用いる。
(条件)
過酸化水素水溶液サンプルの送液流量:1.25mL/min
空気流量: 2.1L/min
イオン交換水流量: 500ml/1.5min
ノズル口のガス流体温度:100~120℃
【0046】
<SUS浸漬試験>
過酸化水素水サンプル300mlにSUS304L製のテストピース(30mm×30mm×2mm)2枚を入れ、45℃にて24時間静置した。
【0047】
<実施例1>
蒸留精製し、純水で35%に濃度調整した過酸化水素水に、オルトリン酸(後藤化学株式会社製、リン酸(濃度85.0%))3質量ppm、硫酸カリウムアルミニウム(和光純薬工業株式会社製、硫酸カリウムアルミニウム12水和物(濃度96.5%))1質量ppm、硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、硫酸ナトリウム10水和物(濃度99.0%))0.5質量ppmを添加した。このときの硫酸イオン/Al比は14であった。この過酸化水素水溶液サンプルの蒸発残分は6質量ppmであり、蒸発器付着量は12.3mg、付着物の水洗除去率は59%であった。
【0048】
<実施例2-4>
過酸化水素濃度、硫酸カリウムアルミニウム添加量、硫酸ナトリウム添加量をそれぞれ変えて実施例1と同様の実験をおこなった。それぞれの含有量は表1に記載のとおりである。これらの過酸化水素水溶液サンプルの硫酸イオン/Al比は、10~20の範囲である。蒸発器付着物の水洗除去率は60%前後であった。
【0049】
<比較例1-5>
過酸化水素濃度、硫酸カリウムアルミニウム添加量、硫酸ナトリウム添加量をそれぞれ変えて実施例1と同様の実験をおこなった。それぞれの含有量は表1に記載のとおりである。これらの過酸化水素水溶液サンプルの硫酸イオン/Al比は、10~20の範囲を外れている。これらの過酸化水素水溶液サンプルの蒸発器付着量は一部のサンプルで悪化が見られ、また水洗除去率はすべてにおいて大きく低下する結果となった。また、安定剤がリン酸のみでは、付着量の増加とSUS浸漬後の安定度低下が顕著であった。
【0050】
<比較例6>
比較例6についても、過酸化水素濃度、硫酸カリウムアルミニウム添加量、硫酸ナトリウム添加量をそれぞれ変えて実施例1と同様の実験をおこなった。それぞれの含有量は表1に記載のとおりである。比較例6の過酸化水素水溶液サンプルの硫酸イオン/Al比は、10~20の範囲内であるが、オルトリン酸の含有量が8ppmを超えている。このサンプルでは蒸発器付着量および水洗除去率のいずれも悪化した。
【0051】
得られた結果を、表1と図1~3に示す。
【表1】
【0052】
上記の結果から、Alの総含有量や安定剤の総含有量が少なくても、硫酸イオンの含有量がアルミニウムの含有量に対して質量比で10倍以上、20倍以下であることにより、過酸化水素の安定性を維持したまま、付着量を低減し、水洗除去率を高めることができることがわかる(例えば、実施例1と比較例2)。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明により、過酸化水素水溶液中の過酸化水素の安定性が向上し、噴霧ノズルや蒸発器などに付着残存する過酸化水素水溶液中の安定剤由来の付着物を低減し、かつ残渣が水洗により容易に除去可能となることから、ノズルなどの細い配管部を閉塞させることなく、無菌充填装置の安定した運転が可能となる。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2022-08-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。