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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130690
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】光電変換素子および固体撮像装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/42 20060101AFI20220830BHJP
   H01L 31/10 20060101ALI20220830BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20220830BHJP
   H01L 27/30 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
H01L31/08 T
H01L31/10 D
H01L27/146 E
H01L27/146 A
H01L27/30
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108021
(22)【出願日】2022-07-04
(62)【分割の表示】P 2018505953の分割
【原出願日】2017-03-14
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/001354
(32)【優先日】2017-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016051022
(32)【優先日】2016-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016219444
(32)【優先日】2016-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾花 良哲
(72)【発明者】
【氏名】中山 典一
(72)【発明者】
【氏名】根岸 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雄大
(72)【発明者】
【氏名】榎 修
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 陽介
(72)【発明者】
【氏名】竹村 一郎
(72)【発明者】
【氏名】松澤 伸行
(57)【要約】      (修正有)
【課題】暗電流を低く保ち、変換効率を向上させる。
【解決手段】光電変換素子は、対向配置された第1電極および第2電極と、第1電極と第2電極との間に設けられると共に、一般式(1)、(2)、(3)のいずれかで表わされ、-6.6eV以上-4.8eV以下のHOMO準位を有する多環式芳香族化合物を少なくとも1種含んでいる光電変換層とを備える。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置された第1電極および第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられると共に、下記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)のいずれかで表わされ、-6.6eV以上-4.8eV以下のHOMO準位を有する多環式芳香族化合物を少なくとも1種含んでいる光電変換層と
を備えた光電変換素子。
【化1】
(Xは、酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)およびテルル(Te)のうちのいずれかである。R1~R12は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐,または環状アルキル基、アリール基、またはその誘導体である。隣り合う任意のR1~R12は、互いに結合して縮合脂肪族環または縮合芳香環を形成していてもよい。前記縮合脂肪族環または縮合芳香環は、窒素(N)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)のうちの1または複数の原子を含んでいてもよい。)
【請求項2】
前記アリール基は、炭素数6以上60以下のフェニル基、ビフェニル基、トリフェニル基、ターフェニル基、スチルベン基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、ピレニル基、ペリレニル基、テトラセニル基、クリセニル基、フルオレニル基、アセナフタセニル基、トリフェニレン基、フルオランテン基、またはその誘導体である、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記R1,R2,R5,R6,R9,R10は、各々独立して、ビフェニル基、ターフェニル基、テルフェニル基、またはその誘導体である、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記R3,R4,R7,R8,R11,R12は、水素原子である、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記光電変換層は、500nm以上600nm以下の波長域に極大吸収波長を有する有機半導体材料を含む、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記有機半導体材料は、サブフタロシアニンまたはサブフタロシアニン誘導体を少なくとも1種含む、請求項5に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記光電変換層は、さらにC60フラーレンまたはその誘導体およびC70フラーレンまたはその誘導体を少なくとも1種含む、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記光電変換層に含まれる前記多環式芳香族化合物は、37.5体積%以上60体積%以下である、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項9】
各画素が1または複数の有機光電変換部を含み、
前記有機光電変換部は、
対向配置された第1電極および第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられると共に、下記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)のいずれかで表わされ、-6.6eV以上-4.8eV以下のHOMO準位を有する多環式芳香族化合物を少なくとも1種含んでいる光電変換層と
を備えた固体撮像装置。
【化2】
(Xは、酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)およびテルル(Te)のうちのいずれかである。R1~R12は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐,または環状アルキル基、アリール基、またはその誘導体である。隣り合う任意のR1~R12は、互いに結合して縮合脂肪族環または縮合芳香環を形成していてもよい。前記縮合脂肪族環または縮合芳香環は、窒素(N)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)のうちの1または複数の原子を含んでいてもよい。)
【請求項10】
各画素では、1または複数の前記有機光電変換部と、前記有機光電変換部とは異なる波長域の光電変換を行う1または複数の無機光電変換部とが積層されている、請求項9に記載の固体撮像装置。
【請求項11】
前記無機光電変換部は、半導体基板内に埋め込み形成され、
前記有機光電変換部は、前記半導体基板の第1面側に形成されている、請求項10に記載の固体撮像装置。
【請求項12】
前記半導体基板の第2面側に多層配線層が形成されている、請求項11に記載の固体撮像装置。
【請求項13】
前記有機光電変換部が緑色光の光電変換を行い、
前記半導体基板内に、青色光の光電変換を行う無機光電変換部と、赤色光の光電変換を行う無機光電変換部とが積層されている、請求項11に記載の固体撮像装置。
【請求項14】
各画素では、互いに異なる波長域の光電変換を行う複数の前記有機光電変換部が積層されている、請求項9に記載の固体撮像装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機半導体材料を用いた光電変換素子およびこれを備えた固体撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ、あるいは、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等の固体撮像装置では、画素サイズの縮小化が進んでいる。これにより、単位画素へ入射するフォトン数が減少することから感度が低下すると共に、S/N比の低下が生じている。また、カラー化のために、赤,緑,青の原色フィルタを2次元配列してなるカラーフィルタを用いた場合、例えば赤画素では、緑と青の光がカラーフィルタによって吸収されるために、全体として感度の低下を招いている。また、各色信号を生成する際に、画素間で補間処理を行うことから、いわゆる偽色が発生する。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1では、青色光(B)に感度を持つ有機光電変換膜、緑色光(G)に感度を持つ有機光電変換膜、赤色光(R)に感度を持つ有機光電変換膜が順次積層された多層構造の有機光電変換膜を備えたイメージセンサが開示されている。このイメージセンサでは、1画素から、B/G/Rの信号を別々に取り出すことで、感度の向上が図られている。特許文献2では、1層の有機光電変換膜を形成し、この有機光電変換膜で1色の信号を取り出し、シリコン(Si)バルク分光で2色の信号を取り出す撮像素子が開示されている。特許文献1,2に開示された撮像素子では、入射光がほとんど光電変換させて読みだされるため、可視光の利用効率は100%に近い。更に、各受光部でR,G,Bの3色の色信号が得られるため、高感度で高解像度(偽色が目立たない)な画像が生成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-234460号公報
【特許文献2】特開2005-303266号公報
【発明の概要】
【0005】
ところで、固体撮像装置を構成する光電変換素子には、低い暗電流と高い光電変換効率とが求められている。
【0006】
暗電流を低く保ちつつ、光電変換効率を向上させることが可能な光電変換素子および固体撮像装置を提供することが望ましい。
【0007】
本開示の一実施形態の光電変換素子は、対向配置された第1電極および第2電極と、第1電極と第2電極との間に設けられると共に、下記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)のいずれかで表わされ、-6.6eV以上-4.8eV以下のHOMO準位を有する多環式芳香族化合物を少なくとも1種含んでいる光電変換層とを備えたものである。
【0008】
【化1】
(Xは、酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)およびテルル(Te)のうちのいずれかである。R1~R12は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐,または環状アルキル基、アリール基、またはその誘導体である。隣り合う任意のR1~R12は、互いに結合して縮合脂肪族環または縮合芳香環を形成していてもよい。前記縮合脂肪族環または縮合芳香環は、窒素(N)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)のうちの1または複数の原子を含んでいてもよい。)
【0009】
本開示の一実施形態の固体撮像装置は、各画素が1または複数の有機光電変換部を含み、有機光電変換部として、上記本開示の一実施形態の光電変換素子を有するものである。
【0010】
本開示の一実施形態の光電変換素子および一実施形態の固体撮像装置では、対向配置された第1電極と第2電極との間の光電変換層を、上記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)のいずれかで表わされ、-6.6eV以上-4.8eV以下のHOMO準位を有する多環式芳香族化合物を少なくとも1種用いて形成するようにした。これにより、光吸収によって発生した励起子を素早くキャリアに分離することが可能となると共に、生じたキャリアを速やかに電極(第1電極または第2電極)に到達させることが可能となる。
【0011】
本開示の一実施形態の光電変換素子および一実施形態の固体撮像装置によれば、上記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)のいずれかで表わされ、-6.6eV以上-4.8eV以下のHOMO準位を有する多環式芳香族化合物を少なくとも1種用いて光電変換層を形成するようにしたので、光吸収によって発生した励起子のキャリアへの分離およびキャリアの電極への移動を素早く行うことが可能となる。よって、暗電流を低く保ちつつ、光電変換効率を向上させることが可能となる。
【0012】
なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の第1の実施の形態に係る光電変換素子の概略構成を表す断面図である。
図2】有機光電変換層、保護層(上部電極)およびコンタクトホールの形成位置関係を表す平面図である。
図3A】無機光電変換部の一構成例を表す断面図である。
図3B図3Aに示した無機光電変換部の他の断面図である。
図4】有機光電変換部の電荷(電子)蓄積層の構成(下部側電子取り出し)を表す断面図である。
図5A図1に示した光電変換素子の製造方法を説明するための断面図である。
図5B図5Aに続く工程を表す断面図である。
図6A図5Bに続く工程を表す断面図である。
図6B図6Aに続く工程を表す断面図である。
図7A図6Bに続く工程を表す断面図である。
図7B図7Aに続く工程を表す断面図である。
図7C図7Bに続く工程を表す断面図である。
図8図1に示した光電変換素子の作用を説明する要部断面図である。
図9図1に示した光電変換素子の作用を説明するための模式図である。
図10A】DTTの分子骨格に番号を付した図である。
図10B】有機光電変換層内におけるDTT誘導体の配列の一例を表す模式図である。
図11】本開示の第2の実施の形態に係る光電変換素子の概略構成を表す断面図である。
図12】本開示の変形例に係る光電変換素子の概略構成を表す断面図である。
図13】本開示の光電変換素子を画素として用いた固体撮像装置の機能ブロック図である。
図14図13に示した固体撮像装置を用いた電子機器の概略構成を表すブロック図である。
図15】体内情報取得システムの概略的な構成の一例を示すブロック図である。
図16】車両制御システムの概略的な構成例を示すブロック図である。
図17】撮像部の設置位置の一例を示す説明図である。
図18】実験例1の可視領域における外部量子効率を表す特性図である。
図19】実験例23の可視領域における外部量子効率を表す特性図である。
図20】実験例24の可視領域における外部量子効率を表す特性図である。
図21】実験例30の可視領域における外部量子効率を表す特性図である。
図22】実験例25の可視領域における外部量子効率を表す特性図である。
図23】実験例31の可視領域における外部量子効率を表す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示における実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.第1の実施の形態(DTT誘導体を含む有機光電変換層を備えた光電変換素子)
1-1.光電変換素子の構成
1-2.光電変換素子の製造方法
1-3.作用・効果
2.第2の実施の形態(BDT系誘導体を含む有機光電変換層を備えた光電変換素子)
2-1.有機光電変換層の構成
2-2.作用・効果
3.変形例(複数の有機光電変換部が積層された光電変換素子)
4.適用例
5.実施例
【0015】
<1.第1の実施の形態>
図1は、本開示の第1の実施の形態の光電変換素子(光電変換素子10A)の断面構成を表したものである。光電変換素子10Aは、例えば、CCDイメージセンサまたはCMOSイメージセンサ等の固体撮像装置(固体撮像装置1)において1つの画素(単位画素P)を構成するものである(いずれも図13参照)。図1では、2つの光電変換素子10Aが隣接配置された例を示している。光電変換素子10Aは、半導体基板11の表面(受光面(面S1)とは反対側の面S2)側に、画素トランジスタ(後述の転送トランジスタTr1~3を含む)が形成されると共に、多層配線層(多層配線層51)を有するものである。
【0016】
本実施の形態の光電変換素子10Aは、それぞれ異なる波長域の光を選択的に検出して光電変換を行う1つの有機光電変換部11Gと、2つの無機光電変換部11Bおよび無機光電変換部11Rとが縦方向に積層された構造を有するものであり、有機光電変換部11Gは、多環式芳香族化合物のうちジチエノチオフェン(DTT)誘導体を含んで構成されている。
【0017】
(1-1.光電変換素子の構成)
光電変換素子10Aは、1つの有機光電変換部11Gと、2つの無機光電変換部11Bおよび無機光電変換部11Rとの積層構造を有しており、これにより、1つの素子で赤(R),緑(G),青(B)の各色信号を取得するようになっている。有機光電変換部11Gは、半導体基板11の裏面(面S1)上に形成され、無機光電変換部11Bおよび無機光電変換部11Rは、半導体基板11内に埋め込み形成されている。以下、各部の構成について説明する。
【0018】
(有機光電変換部11G)
有機光電変換部11Gは、有機半導体を用いて、選択的な波長域の光(ここでは緑色光)を吸収して、電子-正孔対を発生させるものである。有機光電変換部11Gは、信号電荷を取り出すための一対の電極(下部電極15a,上部電極18)間に有機光電変換層17を挟み込んだ構成を有している。下部電極15aおよび上部電極18は、後述するように、配線層(図示せず)やコンタクトメタル層20を介して、半導体基板11内に埋設された導電性プラグ120a1,120b1に電気的に接続されている。なお、本実施の形態の有機光電変換層17が、本開示における「光電変換層」の一具体例である。
【0019】
具体的には、有機光電変換部11Gでは、半導体基板11の面S1上に、層間絶縁膜12,14が形成され、層間絶縁膜12には、後述する導電性プラグ120a1,120b1のそれぞれと対向する領域に貫通孔が設けられ、各貫通孔に導電性プラグ120a2,120b2が埋設されている。層間絶縁膜14には、導電性プラグ120a2,120b2のそれぞれと対向する領域に、配線層13a,13bが埋設されている。この層間絶縁膜14上に、下部電極15aが設けられると共に、この下部電極15aと絶縁膜16によって電気的に分離された配線層15bが設けられている。これらのうち、下部電極15a上に、有機光電変換層17が形成され、有機光電変換層17を覆うように上部電極18が形成されている。詳細は後述するが、上部電極18上には、その表面を覆うように保護層19が形成されている。保護層19の所定の領域にはコンタクトホールHが設けられ、保護層19上には、コンタクトホールHを埋め込み、かつ配線層15bの上面まで延在するコンタクトメタル層20が形成されている。
【0020】
導電性プラグ120a2は、導電性プラグ120a1と共にコネクタとして機能すると共に、導電性プラグ120a1および配線層13aと共に、下部電極15aから後述する緑用蓄電層110Gへの電荷(電子)の伝送経路を形成するものである。導電性プラグ120b2は、導電性プラグ120b1と共にコネクタとして機能すると共に、導電性プラグ120b1、配線層13b、配線層15bおよびコンタクトメタル層20と共に、上部電極18からの電荷(正孔)の排出経路を形成するものである。導電性プラグ120a2,120b2は、遮光膜としても機能させるために、例えば、チタン(Ti)、窒化チタン(TiN)およびタングステン(W)等の金属材料の積層膜により構成されることが望ましい。また、このような積層膜を用いることにより、導電性プラグ120a1,120b1をn型またはp型の半導体層として形成した場合にも、シリコンとのコンタクトを確保することができるため望ましい。
【0021】
層間絶縁膜12は、半導体基板11(シリコン層110)との界面準位を低減させると共に、シリコン層110との界面からの暗電流の発生を抑制するために、界面準位の小さな絶縁膜から構成されることが望ましい。このような絶縁膜としては、例えば、酸化ハフニウム(HfO)膜と酸化シリコン(SiO)膜との積層膜を用いることができる。層間絶縁膜14は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコンおよび酸窒化シリコン(SiON)等のうちの1種よりなる単層膜、あるいはこれらのうちの2種以上よりなる積層膜により構成されている。
【0022】
絶縁膜16は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコンおよび酸窒化シリコン等のうちの1種よりなる単層膜か、あるいはこれらのうちの2種以上よりなる積層膜により構成されている。絶縁膜16は、例えば、その表面が平坦化されており、下部電極15aとほぼ段差のない形状およびパターンを有している。この絶縁膜16は、光電変換素子10Aが、固体撮像装置の画素として用いられる場合に、各画素の下部電極15a間を電気的に分離する機能を有している。具体的には、図1に示したように、隣接配置された2つの光電変換素子10Aの下部電極15aの間に絶縁膜16が配置された構造となっている。
【0023】
下部電極15aは、半導体基板11内に形成された無機光電変換部11Bおよび無機光電変換部11Rの受光面と正対して、これらの受光面を覆う領域に設けられている。この下部電極15aは、光透過性を有する導電膜により構成され、例えば、ITO(インジウム錫酸化物)により構成されている。但し、下部電極15aの構成材料としては、ITOの他にも、ドーパントを添加した酸化スズ(SnO)系材料、あるいは亜鉛酸化物(ZnO)にドーパントを添加してなる酸化亜鉛系材料を用いてもよい。酸化亜鉛系材料としては、例えば、ドーパントとしてアルミニウム(Al)を添加したアルミニウム亜鉛酸化物(AZO)、ガリウム(Ga)添加のガリウム亜鉛酸化物(GZO)、インジウム(In)添加のインジウム亜鉛酸化物(IZO)が挙げられる。また、この他にも、CuI、InSbO、ZnMgO、CuInO、MgIn、CdO、ZnSnO等が用いられてもよい。なお、本実施の形態では、下部電極15aから信号電荷(電子)の取り出しがなされるので、光電変換素子10Aを画素として用いた後述の固体撮像装置では、図1に示したように、下部電極15aは画素毎に分離されて形成される。
【0024】
本実施の形態の有機光電変換層17は、下記一般式(1)で表わされるジチエノチオフェン(DTT)誘導体を1種以上含んで構成されている。また、有機光電変換層17は、p型半導体およびn型半導体の両方を含んで構成されていることが好ましい。p型半導体およびn型半導体は、例えば、一方が透明な材料、他方が選択的な波長域の光を光電変換する材料であることが好ましい。有機光電変換層17の積層方向の膜厚(以下、単に厚みという)は、例えば50nm以上500nm以下である。
【0025】
【化2】
(Xは、酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)およびテルル(Te)のうちのいずれかである。R1~R4は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐,または環状アルキル基、アリール基、またはその誘導体である。隣り合う任意のR1~R4は、互いに結合して縮合脂肪族環または縮合芳香環を形成していてもよい。前記縮合脂肪族環または縮合芳香環は、窒素(N)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)のうちの1または複数の原子を含んでいてもよい。)
【0026】
DTT誘導体は、例えば、透明であることが好ましく、具体的には、500nm以上600nm以下の波長域において極大吸収波長を持たないことが好ましい。また、DTT誘導体の最高被占分子軌道(Highest Occupied Molecular Orbital;HOMO)および最低空分子軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital;LUMO)のエネルギー準位は、有機光電変換層17を構成する他の材料に対して光電変換メカニズムが円滑に行われる準位であることが好ましい。光吸収によって有機光電変換層17内に発生した励起子を素早くキャリアへ分離し、さらに、生じたキャリアを、例えば、下部電極15aへ速やかに移動させるためである。具体的には、DTT誘導体のHOMO準位は、例えば、-6.6eV以上-4.8eV以下であることが好ましく、さらに好ましくは、-6.0eV以上-5.0eV以下である。なお、HOMOのエネルギー準位の絶対値は、HOMOから外部(真空中)に電子を取り出すためのエネルギー、即ち、イオン化ポテンシャルに相当する。HOMO値の計測方法は、例えば、導電膜(ITOやSi等)の基板に、有機材料からなる薄膜を成膜し、これに紫外線を照射する紫外線光電子分光法(UPS;Ultraviolet Photoelectron Spectroscopy)を用いた光電子分光装置等によって測定することができる。
【0027】
このようなDTT誘導体としては、R1およびR2に、各々独立して、アリール基を有することが好ましい。また、R3およびR4は、水素原子であることが好ましい。アリール基としては、例えば、炭素数6以上60以下のフェニル基、ビフェニル基、トリフェニル基、ターフェニル基、スチルベン基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、ピレニル基、ペリレニル基、テトラセニル基、クリセニル基、フルオレニル基、アセナフタセニル基、トリフェニレン基、フルオランテン基、またはその誘導体等の多環式芳香族炭化水素を有する基が挙げられる。具体的には、下記化3~化7に示した置換基が挙げられる。中でも、R1およびR2は、各々独立して、2つ以上のフェニル基が互いに単結合で共有結合した構造を有するビフェニル基、ターフェニル基、テルフェニル基、またはその誘導体であることが好ましく、特に、フェニル基およびその誘導体が互いにパラ位に結合したものが望ましい。有機光電変換層17を構成するバルクヘテロ層の形成時に、分子同士のパッキングが改善され、結晶欠陥の少ないグレインを形成しやすくなるからである。
【0028】
【化3】
【0029】
【化4】
【0030】
【化5】
【0031】
【化6】
【0032】
【化7】
【0033】
具体的なDTT誘導体としては、例えば、下記式(1-1)~(1-11)に示した化合物が挙げられる。
【0034】
【化8】
【0035】
この他、上記一般式(1)における隣り合うR1とR4,R2とR3とが互いに結合して縮合芳香環を形成していてもよい。このようなDTT誘導体としては、例えば、下記式(1-12)~(1-14)が挙げられる。また、本実施の形態で用いられるDTT誘導体は、2量体を形成していてもよく、例えば、下記式(1-15)に示した化合物が挙げられる。
【0036】
【化9】
【0037】
なお、DTT誘導体は、上記一般式(1)におけるR1,R2,R3およびR4にそれぞれ異なる置換基が結合した非対称構造であってもよい。このようなDTT誘導体としては、例えば、下記式(1-16)~(1-19)に示した化合物が挙げられる。
【0038】
【化10】
【0039】
有機光電変換層17は、上記DTT誘導体のほかに選択的な波長域の光を光電変換する材料(光吸収体)を用いることが好ましい。具体的には、例えば500nm以上600nm以下の波長域に極大吸収波長を有する有機半導体材料を用いることが好ましい。これにより、有機光電変換部11Gにおいて緑色光を選択的に光電変換することが可能となる。このような材料としては、例えば、下記一般式(4)に示したサブフタロシアニンまたはその誘導体が挙げられる。
【0040】
【化11】
(R13~R24は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐,または環状アルキル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、フェニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基およびニトロ基からなる群から選択され、且つ、隣接した任意のR13~R24は縮合脂肪族環または縮合芳香環の一部であってもよい。前記縮合脂肪族環または縮合芳香環は、炭素以外の1または複数の原子を含んでいてもよい。M1はホウ素または2価あるいは3価の金属である。Y1は、ハロゲン、ヒドロキシ基、チオール基、イミド基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアルキルチオ基、置換もしくは未置換のアリールチオ基からなる群より選択されるいずれかの置換基である。)
【0041】
有機光電変換層17は、さらに、例えば、下記一般式(5)に示したC60フラーレンまたはその誘導体、あるいは、下記一般式(6)に示したC70フラーレンまたはその誘導体を用いることが好ましい。フラーレン60およびフラーレン70またはそれらの誘導体を少なくとも1種用いることによって、光電変換効率がさらに向上すると共に、暗電流を低減させることが可能となる。
【0042】
【化12】
(R25,R26は、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐または環状のアルキル基、フェニル基、直鎖または縮環した芳香族化合物を有する基、ハロゲン化物を有する基、パーシャルフルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、アリールスルファニル基、アルキルスルファニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルフィド基、アルキルスルフィド基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基、ニトロ基、カルコゲン化物を有する基、ホスフィン基、ホスホン基あるいはそれらの誘導体である。n,mは2以上の整数である。)
【0043】
上記DTT誘導体、サブフタロシアニンまたはその誘導体およびフラーレン60,フラーレン70またはそれらの誘導体は、組み合わせる材料によってp型半導体またはn型半導体として機能する。
【0044】
有機光電変換層17と下部電極15aとの間、および上部電極18との間には、図示しない他の層が設けられていてもよい。例えば、下部電極15a側から順に、下引き膜、正孔輸送層、電子ブロッキング膜、有機光電変換層17、正孔ブロッキング膜、バッファ膜、電子輸送層および仕事関数調整膜が積層されていてもよい。電子ブロッキング膜、正孔ブロッキング膜、電子輸送層および正孔輸送層には、上記化合物を用いることができる。
【0045】
上部電極18は、下部電極15aと同様の光透過性を有する導電膜により構成されている。光電変換素子10Aを画素として用いる固体撮像装置では、この上部電極18が画素毎に分離されていてもよいし、各画素に共通の電極として形成されていてもよい。上部電極18の厚みは、例えば、10nm以上200nm以下である。
【0046】
保護層19は、光透過性を有する材料により構成され、例えば、酸化シリコン、窒化シリコンおよび酸窒化シリコン等のうちのいずれかよりなる単層膜、あるいはそれらのうちの2種以上よりなる積層膜である。この保護層19の厚みは、例えば、100nm以上30000nm以下である。
【0047】
コンタクトメタル層20は、例えば、チタン、タングステン、窒化チタンおよびアルミニウム等のいずれか、あるいはそれらのうちの2種以上よりなる積層膜により構成されている。
【0048】
上部電極18および保護層19は、例えば、有機光電変換層17を覆うように設けられている。図2は、有機光電変換層17、保護層19(上部電極18)およびコンタクトホールHの平面構成を表したものである。
【0049】
具体的には、保護層19(上部電極18も同様)の周縁部e2は、有機光電変換層17の周縁部e1よりも外側に位置しており、保護層19および上部電極18は、有機光電変換層17よりも外側に張り出して形成されている。詳細には、上部電極18は、有機光電変換層17の上面および側面を覆うと共に、絶縁膜16上まで延在するように形成されている。保護層19は、そのような上部電極18の上面を覆って、上部電極18と同等の平面形状で形成されている。コンタクトホールHは、保護層19のうちの有機光電変換層17に非対向の領域(周縁部e1よりも外側の領域)に設けられ、上部電極18の表面の一部を露出させている。周縁部e1,e2間の距離は、特に限定されるものではないが、例えば、1μm~500μmである。なお、図2では、有機光電変換層17の端辺に沿った1つの矩形状のコンタクトホールHを設けているが、コンタクトホールHの形状や個数はこれに限定されず、他の形状(例えば、円形、正方形等)であってもよいし、複数設けられていてもよい。
【0050】
保護層19およびコンタクトメタル層20上には、全面を覆うように、平坦化層21が形成されている。平坦化層21上には、オンチップレンズ22(マイクロレンズ)が設けられている。オンチップレンズ22は、その上方から入射した光を、有機光電変換部11G、無機光電変換部11Bおよび無機光電変換部11Rの各受光面へ集光させるものである。本実施の形態では、多層配線層51が半導体基板11の面S2側に形成されていることから、有機光電変換部11G、無機光電変換部11Bおよび無機光電変換部11Rの各受光面を互いに近づけて配置することができ、オンチップレンズ22のF値に依存して生じる各色間の感度のばらつきを低減することができる。
【0051】
なお、本実施の形態の光電変換素子10Aでは、下部電極15aから信号電荷(本実施の形態では電子)を取り出すことから、これを画素として用いる固体撮像装置においては、上部電極18を共通電極としてもよい。この場合には、上述したコンタクトホールH、コンタクトメタル層20、配線層15b,13b、導電性プラグ120b1,120b2からなる伝送経路は、全画素に対して少なくとも1箇所に形成されればよい。
【0052】
半導体基板11は、例えば、n型のシリコン(Si)層110の所定の領域に、無機光電変換部11Bおよび無機光電変換部11Rと緑用蓄電層110Gとが埋め込み形成されたものである。半導体基板11には、また、有機光電変換部11Gからの電荷(電子または正孔)の伝送経路となる導電性プラグ120a1,120b1が埋設されている。本実施の形態では、この半導体基板11の裏面(面S1)が受光面となっていえる。半導体基板11の表面(面S2)側には、有機光電変換部11G,無機光電変換部11Bおよび無機光電変換部11Rのそれぞれに対応する複数の画素トランジスタ(転送トランジスタTr1~Tr3を含む)が形成されると共に、ロジック回路等からなる周辺回路が形成されている。
【0053】
画素トランジスタとしては、例えば、転送トランジスタ、リセットトランジスタ、増幅トランジスタおよび選択トランジスタが挙げられる。これらの画素トランジスタは、いずれも例えば、MOSトランジスタにより構成され、面S2側のp型半導体ウェル領域に形成されている。このような画素トランジスタを含む回路が、赤、緑、青の光電変換部毎に形成されている。各回路では、これらの画素トランジスタのうち、例えば、転送トランジスタ、リセットトランジスタおよび増幅トランジスタからなる、計3つのトランジスタを含む3トランジスタ構成を有していてもよいし、これに選択トランジスタを加えた4トランジスタ構成であってもよい。ここでは、これらの画素トランジスタのうち、転送トランジスタTr1~Tr3についてのみ図示および説明を行っている。また、転送トランジスタ以外の他の画素トランジスタについては、光電変換部間あるいは画素間において共有することもできる。また、フローティングディフージョンを共有する、いわゆる画素共有構造を適用することもできる。
【0054】
転送トランジスタTr1~Tr3は、ゲート電極(ゲート電極TG1~TG3)と、フローティングディフージョン(FD113,114,116)とを含んで構成されている。転送トランジスタTr1は、有機光電変換部11Gにおいて発生し、緑用蓄電層110Gに蓄積された、緑色に対応する信号電荷(本実施の形態では電子)を、後述の垂直信号線Lsigへ転送するものである。転送トランジスタTr2は、無機光電変換部11Bにおいて発生し、蓄積された、青色に対応する信号電荷(本実施の形態では電子)を、後述の垂直信号線Lsigへ転送するものである。同様に、転送トランジスタTr3は、無機光電変換部11Rにおいて発生し、蓄積された、赤色に対応する信号電荷(本実施の形態では電子)を、後述の垂直信号線Lsigへ転送するものである。
【0055】
無機光電変換部11Bおよび無機光電変換部11Rはそれぞれ、pn接合を有するフォトダイオード(Photo Diode)であり、半導体基板11内の光路上において、面S1側から無機光電変換部11Bおよび無機光電変換部11Rの順に形成されている。これらのうち、無機光電変換部11Bは、青色光を選択的に検出して青色に対応する信号電荷を蓄積させるものであり、例えば、半導体基板11の面S1に沿った選択的な領域から、多層配線層51との界面近傍の領域にかけて延在して形成されている。無機光電変換部11Rは、赤色光を選択的に検出して赤色に対応する信号電荷を蓄積させるものであり、例えば、無機光電変換部11Bよりも下層(面S2側)の領域にわたって形成されている。なお、青(B)は、例えば、400nm以上480nm以下の波長域、赤(R)は、例えば、600nm~700nmの波長域にそれぞれ対応する色であり、無機光電変換部11Bおよび無機光電変換部11Rはそれぞれ、各波長域のうちの一部または全部の波長域の光を検出可能となっていればよい。
【0056】
図3Aは、無機光電変換部11Bおよび無機光電変換部11Rの詳細構成例を表したものである。図3Bは、図3Aの他の断面における構成に相当するものである。なお、本実施の形態では、光電変換によって生じる電子および正孔の対のうち、電子を信号電荷として読み出す場合(n型半導体領域を光電変換層とする場合)について説明を行う。また、図中において、「p」「n」に上付きで記した「+(プラス)」は、p型またはn型の不純物濃度が高いことを表している。また、画素トランジスタのうち、転送トランジスタTr2,Tr3のゲート電極TG2,TG3についても示している。
【0057】
無機光電変換部11Bは、例えば、正孔蓄積層となるp型半導体領域(以下、単にp型領域という、n型の場合についても同様。)111pと、電子蓄積層となるn型光電変換層(n型領域)111nとを含んで構成されている。p型領域111pおよびn型光電変換層111nはそれぞれ、面S1近傍の選択的な領域に形成されると共に、その一部が屈曲し、面S2との界面に達するように延在形成されている。p型領域111pは、面S1側において、図示しないp型半導体ウェル領域に接続されている。n型光電変換層111nは、青色用の転送トランジスタTr2のFD113(n型領域)に接続されている。なお、p型領域111pおよびn型光電変換層111nの面S2側の各端部と面S2との界面近傍には、p型領域113p(正孔蓄積層)が形成されている。
【0058】
無機光電変換部11Rは、例えば、p型領域112p1,112p2(正孔蓄積層)間に、n型光電変換層112n(電子蓄積層)を挟み込んで形成されている(p-n-pの積層構造を有する)。n型光電変換層112nは、その一部が屈曲し、面S2との界面に達するように延在形成されている。n型光電変換層112nは、赤色用の転送トランジスタTr3のFD114(n型領域)に接続されている。なお、少なくともn型光電変換層112nの面S2側の端部と面S2との界面近傍にはp型領域113p(正孔蓄積層)が形成されている。
【0059】
図4は、緑用蓄電層110Gの詳細構成例を表したものである。なお、ここでは、有機光電変換部11Gによって生じる電子および正孔の対のうち、電子を信号電荷として、下部電極15a側から読み出す場合について説明を行う。また、図4には、画素トランジスタのうち、転送トランジスタTr1のゲート電極TG1についても示している。
【0060】
緑用蓄電層110Gは、電子蓄積層となるn型領域115nを含んで構成されている。n型領域115nの一部は、導電性プラグ120a1に接続されており、下部電極15a側から導電性プラグ120a1を介して伝送される電子を蓄積するようになっている。このn型領域115nは、また、緑色用の転送トランジスタTr1のFD116(n型領域)に接続されている。なお、n型領域115nと面S2との界面近傍には、p型領域115p(正孔蓄積層)が形成されている。
【0061】
導電性プラグ120a1,120b1は、後述の導電性プラグ120a2,120b2と共に、有機光電変換部11Gと半導体基板11とのコネクタとして機能すると共に、有機光電変換部11Gにおいて生じた電子または正孔の伝送経路となるものである。本実施の形態では、導電性プラグ120a1は、有機光電変換部11Gの下部電極15aと導通しており、緑用蓄電層110Gと接続されている。導電性プラグ120b1は、有機光電変換部11Gの上部電極18と導通しており、正孔を排出するための配線となっている。
【0062】
これらの導電性プラグ120a1,120b1はそれぞれ、例えば、導電型の半導体層により構成され、半導体基板11に埋め込み形成されたものである。この場合、導電性プラグ120a1はn型とし(電子の伝送経路となるため)、導電性プラグ120b1は、p型とする(正孔の伝送経路となるため)とよい。あるいは、導電性プラグ120a1,120b1は、例えば、貫通ビアにタングステン等の導電膜材料が埋設されたものであってもよい。この場合、例えば、シリコンとの短絡を抑制するために、酸化シリコン(SiO)または窒化シリコン(SiN)等の絶縁膜でビア側面が覆われていることが望ましい。
【0063】
半導体基板11の面S2上には、多層配線層51が形成されている。多層配線層51では、複数の配線51aが層間絶縁膜52を介して配設されている。このように、光電変換素子10Aでは、多層配線層51が受光面とは反対側に形成されており、いわゆる裏面照射型の固体撮像装置を実現可能となっている。この多層配線層51には、例えば、シリコンよりなる支持基板53が貼り合わせられている。
【0064】
(1-2.光電変換素子の製造方法)
光電変換素子10Aは、例えば、次のようにして製造することができる。図5A図7Cは、光電変換素子10Aの製造方法を工程順に表したものである。なお、図7A図7Cでは、光電変換素子10Aの要部構成のみを示している。
【0065】
まず、半導体基板11を形成する。具体的には、シリコン基体1101上にシリコン酸化膜1102を介して、シリコン層110が形成された、いわゆるSOI基板を用意する。なお、シリコン層110のシリコン酸化膜1102側の面が半導体基板11の裏面(面S1)となる。図5A図5Bでは、図1に示した構造と上下を逆転させた状態で図示している。続いて、図5Aに示したように、シリコン層110に、導電性プラグ120a1,120b1を形成する。この際、導電性プラグ120a1,120b1は、例えば、シリコン層110に貫通ビアを形成した後、この貫通ビア内に、上述したような窒化シリコン等のバリアメタルと、タングステンを埋め込むことにより形成することができる。あるいは、例えば、シリコン層110へのイオン注入により導電型不純物半導体層を形成してもよい。この場合、導電性プラグ120a1をn型半導体層、導電性プラグ120b1をp型半導体層として形成する。この後、シリコン層110内の深さの異なる領域に(互いに重畳するように)、例えば、図3Aに示したようなp型領域およびn型領域をそれぞれ有する無機光電変換部11Bおよび無機光電変換部11Rを、イオン注入により形成する。また、導電性プラグ120a1に隣接する領域には、緑用蓄電層110Gをイオン注入により形成する。このようにして、半導体基板11が形成される。
【0066】
次いで、半導体基板11の面S2側に、転送トランジスタTr1~Tr3を含む画素トランジスタと、ロジック回路等の周辺回路を形成したのち、図5Bに示したように、半導体基板11の面S2上に、層間絶縁膜52を介して複数層の配線51aを形成することにより、多層配線層51を形成する。続いて、多層配線層51上に、シリコンよりなる支持基板53を貼り付けたのち、半導体基板11の面S1側から、シリコン基体1101およびシリコン酸化膜1102を剥離し、半導体基板11の面S1を露出させる。
【0067】
次に、半導体基板11の面S1上に、有機光電変換部11Gを形成する。具体的には、まず、図6Aに示したように、半導体基板11の面S1上に、上述したような酸化ハフニウム膜と酸化シリコン膜との積層膜よりなる層間絶縁膜12を形成する。例えば、ALD(原子層堆積)法により酸化ハフニウム膜を成膜した後、例えば、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法により酸化シリコン膜を成膜する。この後、層間絶縁膜12の導電性プラグ120a1,120b1に対向する位置に、コンタクトホールH1a,H1bを形成し、これらのコンタクトホールH1a,H1bをそれぞれ埋め込むように、上述した材料よりなる導電性プラグ120a2,120b2を形成する。この際、導電性プラグ120a2,120b2を、遮光したい領域まで張り出して(遮光したい領域を覆うように)形成してもよいし、導電性プラグ120a2,120b2とは分離した領域に遮光層を形成してもよい。
【0068】
続いて、図6Bに示したように、上述した材料よりなる層間絶縁膜14を、例えば、プラズマCVD法により成膜する。なお、成膜後、例えば、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)法により、層間絶縁膜14の表面を平坦化することが望ましい。次いで、層間絶縁膜14の導電性プラグ120a2,120b2に対向する位置に、コンタクトホールをそれぞれ開口し、上述した材料を埋め込むことにより、配線層13a,13bを形成する。なお、この後、例えば、CMP法等を用いて、層間絶縁膜14上の余剰の配線層材料(タングステン等)を除去することが望ましい。次いで、層間絶縁膜14上に下部電極15aを形成する。具体的には、まず、層間絶縁膜14上の全面にわたって、例えば、スパッタ法により、上述した透明導電膜を成膜する。この後、フォトリソグラフィ法を用いて(フォトレジスト膜の露光、現像、ポストベーク等を行い)、例えば、ドライエッチングまたはウェットエッチングを用いて、選択的な部分を除去することにより、下部電極15aを形成する。この際、下部電極15aを、配線層13aに対向する領域に形成する。また、透明導電膜の加工の際には、配線層13bに対向する領域にも透明導電膜を残存させることにより、正孔の伝送経路の一部を構成する配線層15bを、下部電極15aと共に形成する。
【0069】
続いて、絶縁膜16を形成する。この際、まず半導体基板11上の全面にわたって、層間絶縁膜14、下部電極15aおよび配線層15bを覆うように、上述した材料よりなる絶縁膜16を、例えば、プラズマCVD法により成膜する。この後、図7Aに示したように、成膜した絶縁膜16を、例えば、CMP法により研磨することにより、下部電極15aおよび配線層15bを絶縁膜16から露出させると共に、下部電極15aおよび絶縁膜16間の段差を緩和する(望ましくは、平坦化する)。
【0070】
次に、図7Bに示したように、下部電極15a上に有機光電変換層17を形成する。この際、上述した材料よりなる光電変換材料を、例えば、メタルマスクを用いた真空蒸着法によりパターン形成する。なお、上述のように、有機光電変換層17の上層または下層に、他の有機層(電子ブロッキング層等)を形成する際には、各層を同一のメタルマスクを用いて、真空工程において連続的に(真空一貫プロセスで)形成することが望ましい。また、有機光電変換層17の成膜方法としては、必ずしも上記のようなメタルマスクを用いた手法に限られず、他の手法、例えば、プリント技術等を用いても構わない。
【0071】
続いて、図7Cに示したように、上部電極18および保護層19を形成する。まず、上述した透明導電膜よりなる上部電極18を基板全面にわたって、例えば、真空蒸着法またはスパッタ法により、有機光電変換層17の上面および側面を覆うように成膜する。なお、有機光電変換層17は、水分、酸素、水素等の影響を受けて特性が変動し易いため、上部電極18は、有機光電変換層17と真空一貫プロセスにより成膜することが望ましい。この後(上部電極18をパターニングする前に)、上部電極18の上面を覆うように、上述した材料よりなる保護層19を、例えば、プラズマCVD法により成膜する。次いで、上部電極18上に保護層19を形成した後、上部電極18を加工する。
【0072】
この後、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより、上部電極18および保護層19の選択的な部分を一括除去する。続いて、保護層19に、コンタクトホールHを、例えば、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより形成する。この際、コンタクトホールHは、有機光電変換層17と非対向の領域に形成することが望ましい。このコンタクトホールHの形成後においても、上記と同様、フォトレジストを剥離して、薬液を用いた洗浄を行うため、コンタクトホールHに対向する領域では、上部電極18が保護層19から露出することになる。このため、上述したようなピンホールの発生を考慮すると、有機光電変換層17の形成領域を避けて、コンタクトホールHが設けられることが望ましい。続いて、上述した材料よりなるコンタクトメタル層20を、例えば、スパッタ法等を用いて形成する。この際、コンタクトメタル層20は、保護層19上に、コンタクトホールHを埋め込み、かつ配線層15bの上面まで延在するように形成する。最後に、半導体基板11上の全面にわたって、平坦化層21を形成した後、この平坦化層21上にオンチップレンズ22を形成することにより、図1に示した光電変換素子10Aが完成する。
【0073】
上記のような光電変換素子10Aでは、例えば、固体撮像装置1の単位画素Pとして、次のようにして信号電荷が取得される。即ち、図8に示したように、光電変換素子10Aに、オンチップレンズ22(図8には図示せず)を介して光Lが入射すると、光Lは、有機光電変換部11G、無機光電変換部11Bおよび無機光電変換部11Rの順に通過し、その通過過程において赤、緑、青の色光毎に光電変換される。図9に、入射光に基づく信号電荷(電子)取得の流れを模式的に示す。以下、各光電変換部における具体的な信号取得動作について説明する。
【0074】
(有機光電変換部11Gによる緑色信号の取得)
光電変換素子10Aへ入射した光Lのうち、まず、緑色光Lgが、有機光電変換部11Gにおいて選択的に検出(吸収)され、光電変換される。これにより、発生した電子-正孔対のうちの電子Egが下部電極15a側から取り出された後、伝送経路A(配線層13aおよび導電性プラグ120a1,120a2)を介して緑用蓄電層110Gへ蓄積される。蓄積された電子Egは、読み出し動作の際にFD116へ転送される。なお、正孔Hgは、上部電極18側から伝送経路B(コンタクトメタル層20、配線層13b,15bおよび導電性プラグ120b1,120b2)を介して排出される。
【0075】
具体的には、次のようにして信号電荷を蓄積する。即ち、本実施の形態では、下部電極15aに、例えば、所定の負の電位VL(<0V)が印加され、上部電極18には、電位VLよりも低い電位VU(<VL)が印加される。なお、電位VLは、例えば、多層配線層51内の配線51aから、伝送経路Aを通じて、下部電極15aへ与えられる。電位VLは、例えば、多層配線層51内の配線51aから、伝送経路Bを通じて、上部電極18へ与えられる。これにより、電荷蓄積状態(図示しないリセットトランジスタおよび転送トランジスタTr1のオフ状態)では、有機光電変換層17で発生した電子-正孔対のうち、電子が、相対的に高電位となっている下部電極15a側へ導かれる(正孔は上部電極18側へ導かれる)。このようにして、下部電極15aから電子Egが取り出され、伝送経路Aを介して緑用蓄電層110G(詳細には、n型領域115n)に蓄積される。また、この電子Egの蓄積により、緑用蓄電層110Gと導通する下部電極15aの電位VLも変動する。この電位VLの変化量が信号電位(ここでは、緑色信号の電位)に相当する。
【0076】
そして、読み出し動作の際には、転送トランジスタTr1がオン状態となり、緑用蓄電層110Gに蓄積された電子Egが、FD116に転送される。これにより、緑色光Lgの受光量に基づく緑色信号が、図示しない他の画素トランジスタを通じて後述の垂直信号線Lsigに読み出される。この後、図示しないリセットトランジスタおよび転送トランジスタTr1がオン状態となり、n型領域であるFD116と、緑用蓄電層110Gの蓄電領域(n型領域115n)とが、例えば、電源電圧VDDにリセットされる。
【0077】
(無機光電変換部11Bおよび無機光電変換部11Rによる青色信号,赤色信号の取得)
続いて、有機光電変換部11Gを透過した光のうち、青色光は無機光電変換部11B、赤色光は無機光電変換部11Rにおいて、それぞれ順に吸収され、光電変換される。無機光電変換部11Bでは、入射した青色光に対応した電子Ebがn型領域(n型光電変換層111n)に蓄積され、蓄積された電子Ebは、読み出し動作の際にFD113へと転送される。なお、正孔は、図示しないp型領域に蓄積される。同様に、無機光電変換部11Rでは、入射した赤色光に対応した電子Erがn型領域(n型光電変換層112n)に蓄積され、蓄積された電子Erは、読み出し動作の際にFD114へと転送される。なお、正孔は、図示しないp型領域に蓄積される。
【0078】
電荷蓄積状態では、上述のように、有機光電変換部11Gの下部電極15aに負の電位VLが印加されることから、無機光電変換部11Bの正孔蓄積層であるp型領域(図2のp型領域111p)の正孔濃度が増える傾向になる。このため、p型領域111pと層間絶縁膜12との界面における暗電流の発生を抑制することができる。
【0079】
読み出し動作の際には、上記有機光電変換部11Gと同様、転送トランジスタTr2,Tr3がオン状態となり、n型光電変換層111n,112nにそれぞれ蓄積された電子Eb,Erが、FD113,114に転送される。これにより、青色光Lbの受光量に基づく青色信号と、赤色光Lrの受光量に基づく赤色信号とがそれぞれ、図示しない他の画素トランジスタを通じて後述の垂直信号線Lsigに読み出される。この後、図示しないリセットトランジスタおよび転送トランジスタTr2,3がオン状態となり、n型領域であるFD113,114が、例えば、電源電圧VDDにリセットされる。
【0080】
このように、縦方向に有機光電変換部11Gを、無機光電変換部11Bおよび無機光電変換部11Rを積層することにより、カラーフィルタを設けることなく、赤、緑、青の色光を分離して検出すし、各色の信号電荷を得ることができる。これにより、カラーフィルタの色光吸収に起因する光損失(感度低下)や、画素補間処理に伴う偽色の発生を抑制することができる。
【0081】
(1-3.作用・効果)
近年、CCDイメージセンサ、あるいはCMOSイメージセンサ等に用いられる光電変換素子(撮像素子)には、高感度および低ノイズ、ならびに高い色再現性が求められている。これらを実現する光電変換素子の1つとして、前述した、例えば緑色光を検出してこれに応じた信号電荷を発生する有機光電変換部と、赤色光および青色光をそれぞれ検出するフォトダイオード(無機光電変換部)とが積層された撮像素子が開発されている。この撮像素子では、1画素において3色(R,G,B)の信号を得ることで、1画素における光電変換効率および感度を向上させている。
【0082】
上記のような撮像素子では、光電変換層を、エネルギー準位の異なる2種以上の有機半導体材料を混合させたバルクヘテロ層として形成することで光電変換効率が飛躍的に改善することが知られている。バルクヘテロ層の光電変換効率は、混ぜ合わせる有機半導体材料の組み合わせや、混合状態に大きな影響を受ける。このため、光電変換効率を向上させることを目的として、様々な有機半導体材料の組み合わせが検討されている。しかしながら、一般的な撮像素子では、特定の光(例えば、緑色光(500nm~560nm))を選択的に吸収することはできても、十分に高い光電変換効率(外部量子効率)を得ることはできていない。
【0083】
光電変換は、以下の4つの過程からなると言われている。まず、1つ目として、光を吸収して励起子を生成する励起子生成過程、2つ目として、励起子が異種材料界面まで到達する励起子拡散過程、3つ目として、励起子が界面でキャリアに分離する分離過程、4つめとして、生成したキャリアが電極まで移動するキャリア移動過程である。光電変換効率の低下の原因としては、上記過程の中で、生成した励起子が異種材料界面に到達する前に失活してしまうことや、光電変換層を構成する複数の材料のエネルギー準位(HOMOおよびLUMO)が適合していないことが考えられる。先に、バルクヘテロ層の光電変換効率は、混ぜ合わせる有機半導体材料の組み合わせや、混合状態に大きな影響を受けると述べたが、これは、光電変換層(バルクヘテロ層)内における有機半導体材料の凝集状態が、励起子拡散過程に大きな影響を与えるからである。
【0084】
しかしながら、光電変換層内における有機半導体材料の凝集状態は、材料ごとに大きく変化する。また、光電変換層を複数の有機半導体材料を用いて形成する場合には、光電変換層内における各有機半導体材料の凝集状態は、混合する材料の凝集具合の差や、その相互作用によっても大きく変化する。
【0085】
光電変換効率を向上させるためには、励起子の分離過程において、混合する有機半導体材料のHOMO-LUMO差だけでなく、混合する有機半導体材料の分子間においてキャリアを移動させるための交換積分が高くなることが望ましい。即ち、混合した際に、理想的なバルクヘテロ混合状態が実現されることが望ましいが、上記理由により、複数の有機半導体材料を組み合わせた場合のバルクヘテロ混合状態を予測することは困難である。
【0086】
高い光電変換効率を得るために多くの材料系を探索した結果、本実施の形態では、DTT誘導体を少なくとも1種用いて有機光電変換層17を形成するようにした。これにより、DTT誘導体と、有機光電変換層17を構成するその他の材料との界面において、光吸収により発生した励起子を素早くキャリアに分離することが可能となる。また、生じたキャリアを速やかに、例えば下部電極15aに到達させることが可能となる。
【0087】
DTT誘導体を用いることによる光電変換効率向上の理由は明らかではないが、以下の2つの理由が推察される。1つは、DTT誘導体と、共に用いる光吸収体(例えば、上記一般式(4)に示したサブフタロシアニン誘導体)とのエネルギー準位が好ましい関係になっていることが考えられる。もう1つは、DTT誘導体の凝集体が、電荷分離によって生じた正孔を素早く電極まで運ぶことができるためと考えられる。
【0088】
DTT誘導体は、縮環した分子骨格に少なくとも3つの硫黄(S)原子を含み、この縮環した分子骨格に含まれる3つのS原子と、他のDTT誘導体の縮環した分子骨格に含まれるS原子との間には相互作用が生じる。具体的には、図10Aに示したように、DTT誘導体の縮環した分子骨格に番号を付けた場合、DTT誘導体は、例えば図10Bに示したように、1位と7位のS原子と、他のDTT誘導体の4位のS原子との間にS…S相互作用が生じる。このため、DTT誘導体の分子間には、比較的大きな結合力が生じる。これにより、DTT誘導体の凝集体は、電荷分離によって生じた正孔のホッピング伝導が容易になると推察される。
【0089】
詳細は後述するが、DTT誘導体と、チエノチオフェン誘導体であるDNTT(後述の式(13)参照)とを比較すると、DTT誘導体はDNTTよりも高い光電変換効率が得られる。これは、DNTTは、縮環した分子骨格内に含まれるS原子は2つであるため、分子間に生じるS…S相互作用は1つとなるのに対し、DTT誘導体は、上記のように、分子骨格内に3つのS原子を有するため、分子間に2つのS…S相互作用が生じる。このため、DTT誘導体の分子間の結合力は、DNTTの分子間の結合力よりも大きく、即ち、DTT誘導体の凝集体は、DNTTの凝集体よりも電荷分離によって生じた正孔のホッピング伝導が容易になる。よって、DTT誘導体は、DNTTよりも高い光電変換効率を示すものと推察される。
【0090】
以上、本実施の形態では、有機光電変換層17を、上記一般式(1)で表わされるDTT誘導体を用いて形成するようにしたので、光吸収によって発生した励起子のキャリアへの分離および電極への移動を素早く行うことが可能となる。よって、光電変換効率を向上させることが可能となる。
【0091】
更に、上記一般式(1)で表わされるDTT誘導体のR1およびR2は、フェニル基およびその誘導体が互いにパラ位に結合したビフェニル基、ターフェニル基、テルフェニル基、またはその誘導体であることが好ましい。
【0092】
例えば、高い外部量子効率(光電変換効率)を得るためには、有機光電変換層17を、2種以上の異なるエネルギーレベルを有する材料が混合されたバルクヘテロ層として形成することが有効である。2種以上の材料(p型半導体およびn型半導体)を混合成膜したバルクヘテロ層では、p型半導体およびn型半導体が、それぞれ、互いに適度なグレインを形成していることが望まれる。
【0093】
光吸収によって生成した励起子は、p型半導体およびn型半導体のグレインの界面において電荷分離し、キャリア(正孔および電子)を生成する。生成したキャリアは、各グレインによって形成されるパーコレーションパスを通って、それぞれの電極に到達する。このとき、グレインの結晶に欠陥があると、微小にずれたエネルギー準位(キャリアトラップ)が形成される。生成したキャリアがキャリアトラップに捕獲されると、キャリア移動がスムースに行われなくなり、キャリア(正孔および電子)の再結合が起きやすくなって、外部量子効率(光電変換効率)が低下する。光のオフ時に生成したキャリアがキャリアトラップに捕獲されると、キャリア移動が遅くなり、応答性の悪化につながると考えられる。
【0094】
なお、p型半導体とn型半導体とが完全に混じりあっている(相溶している状態)と、パーコレーションパスが形成されず、一度電荷分離した正孔と電子はすぐに再結合を起こして失活してしまう。また、p型半導体およびn型半導体のグレインが大きく、p型半導体とn型半導体とが著しく離れると、生成した励起子がp型半導体とn型半導体との界面に到達するまでに失活してしまう。一般に、有機半導体材料での励起子拡散長は20nm程度とされている。
【0095】
以上のことから、上記一般式(1)で表わされるDTT誘導体のR1およびR2を、各フェニル基およびその誘導体が互いにパラ位に結合したビフェニル基、ターフェニル基、テルフェニル基、またはその誘導体とすることにより、有機光電変換層17を構成するバルクヘテロ層内の結晶性が改善する。具体的には、適度な大きさのグレインが形成されるようになると共に、本実施の形態のDTT誘導体同士が凝集したグレインの分子同士のパッキングが改善される。よって、結晶欠陥の少ないグレインを形成することが可能となり、微視キャリアの移動が改善する。即ち、シャープな分光形状を維持したまま、暗電流の低減および高速な光応答性を得ることができる。更に、光電変換効率を向上させることが可能となる。
【0096】
次に、本開示の第2の実施の形態および変形例について説明する。なお、上記第1の実施の形態の光電変換素子10Aに対応する構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0097】
<2.第2の実施の形態>
図11は、本開示の第2の実施の形態の光電変換素子(光電変換素子10B)の断面構成を表したものである。光電変換素子10Bは、上記第1の実施の形態における光電変換素子10Aと同様に、例えば、CCDイメージセンサまたはCMOSイメージセンサ等の固体撮像装置(固体撮像装置1)において1つの画素(単位画素P)を構成するものである。図11では、2つの光電変換素子10Bが隣接配置された例を示している。光電変換素子10Bは、半導体基板11の表面(受光面とは反対側の面S2)側に、画素トランジスタ(後述の転送トランジスタTr1~3を含む)が形成されると共に、多層配線層(多層配線層51)を有するものである。
【0098】
本実施の形態の光電変換素子10Bは、それぞれ異なる波長域の光を選択的に検出して光電変換を行う1つの有機光電変換部11Gと、2つの無機光電変換部11Bおよび無機光電変換部11Rとが縦方向に積層された構造を有するものであり、有機光電変換部11G(具体的には、有機光電変換層27)が、多環式芳香族化合物のうちベンゾジチオフェン(BDT)系誘導体を含んで構成されている点が上記第1の実施の形態の光電変換素子10Aとは異なる。
【0099】
(2-1.有機光電変換層の構成)
本実施の形態の有機光電変換層27は、下記一般式(2)または一般式(3)で表わされるBDT系誘導体を1種以上含んで構成されている。また、有機光電変換層27は、p型半導体およびn型半導体の両方を含んで構成されていることが好ましい。p型半導体およびn型半導体は、例えば、一方が透明な材料、他方が選択的な波長域の光を光電変換する材料であることが好ましい。有機光電変換層27の積層方向の膜厚(以下、単に厚みという)は、例えば50nm以上500nm以下である。
【0100】
【化13】
(Xは、酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)およびテルル(Te)のうちのいずれかである。R5~R12は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐,または環状アルキル基、アリール基、またはその誘導体である。隣り合う任意のR5~R12は、互いに結合して縮合脂肪族環または縮合芳香環を形成していてもよい。前記縮合脂肪族環または縮合芳香環は、窒素(N)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)のうちの1または複数の原子を含んでいてもよい。)
【0101】
BDT系誘導体は、ヘテロアセン系化合物の一種であり、ヘテロ原子として、例えば、化14および化15に示したように、上記一般式(2)および一般式(3)のXに酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)およびテルル(Te)を含むカルコゲン元素を有するものである(カルコゲノアセン系化合物)。
【0102】
【化14】
【0103】
【化15】
【0104】
また、BDT系誘導体は、上記DTT誘導体と同様の特性を有することが好ましい。具体的には、カルコゲノアセン系化合物は、例えば、透明であることが好ましく、具体的には、500nm以上600nm以下の波長域において極大吸収波長を持たないことが好ましい。また、BDT系誘導体のHOMOおよびLUMOのエネルギー準位は、有機光電変換層27を構成する他の材料に対して光電変換メカニズムが円滑に行われる準位であることが好ましい。光吸収によって有機光電変換層27内に発生した励起子を素早くキャリアへ分離し、さらに、生じたキャリアを、例えば、下部電極15aへ速やかに移動させるためである。具体的には、BDT系誘導体のHOMO準位は、例えば、-6.6eV以上-4.8eV以下であることが好ましく、さらに好ましくは、-6.0eV以上-5.0eV以下である。なお、HOMOのエネルギー準位の絶対値は、HOMOから外部(真空中)に電子を取り出すためのエネルギー、即ち、イオン化ポテンシャルに相当する。HOMO値の計測方法は、例えば、導電膜(ITOやSi等)の基板に、有機材料からなる薄膜を成膜し、これに紫外線を照射するUPS法を用いた光電子分光装置等によって測定することができる。
【0105】
このようなBDT系誘導体としては、R5,R6,R9およびR10に、各々独立して、アリール基を有することが好ましい。また、R7,R8,R11およびR12は、水素原子であることが好ましい。アリール基としては、例えば、炭素数6以上60以下のフェニル基、ビフェニル基、トリフェニル基、ターフェニル基、スチルベン基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、ピレニル基、ペリレニル基、テトラセニル基、クリセニル基、フルオレニル基、アセナフタセニル基、トリフェニレン基、フルオランテン基、またはその誘導体等の多環式芳香族炭化水素を有する基が挙げられる。具体的には、下記化16~化20に示した置換基が挙げられる。中でも、R5,R6,R9およびR10は、各々独立して、2つ以上のフェニル基が互いに単結合で共有結合した構造を有するビフェニル基、ターフェニル基、テルフェニル基、またはその誘導体であるであることが好ましく、特に、フェニル基およびその誘導体が互いにパラ位に結合したものが望ましい。有機光電変換層27を構成するバルクヘテロ層の形成時に、分子同士のパッキングが改善され、結晶欠陥の少ないグレインを形成しやすくなるからである。
【0106】
【化16】
【0107】
【化17】
【0108】
【化18】
【0109】
【化19】
【0110】
【化20】
【0111】
有機光電変換層27は、上記BDT系誘導体のほかに選択的な波長域の光を光電変換する材料(光吸収体)を用いることが好ましい。具体的には、例えば500nm以上600nm以下の波長域に極大吸収波長を有する有機半導体材料を用いることが好ましい。これにより、有機光電変換部11Gにおいて緑色光を選択的に光電変換することが可能となる。このような材料としては、例えば、上記一般式(4)に示したサブフタロシアニンまたはその誘導体が挙げられる。
【0112】
有機光電変換層27は、さらに、例えば、上記一般式(5)に示したC60フラーレンまたはその誘導体、あるいは、上記一般式(6)に示したC70フラーレンまたはその誘導体を用いることが好ましい。フラーレン60およびフラーレン70またはそれらの誘導体を少なくとも1種用いることによって、光電変換効率がさらに向上すると共に、暗電流を低減させることが可能となる。
【0113】
上記BDT系誘導体、サブフタロシアニンまたはその誘導体およびフラーレン60,フラーレン70またはそれらの誘導体は、組み合わせる材料によってp型半導体またはn型半導体として機能する。
【0114】
なお、有機光電変換層27と下部電極15aとの間、および上部電極18との間には、図示しない他の層が設けられていてもよい。例えば、下部電極15a側から順に、下引き膜、正孔輸送層、電子ブロッキング膜、有機光電変換層27、正孔ブロッキング膜、バッファ膜、電子輸送層および仕事関数調整膜が積層されていてもよい。電子ブロッキング膜、正孔ブロッキング膜、電子輸送層および正孔輸送層には、上記化合物を用いることができる。
【0115】
(2-3.作用・効果)
以上のように、本実施の形態では、有機光電変換層27を、上記一般式(2)または一般式(3)で表わされるBDT系誘導体を用いて形成するようにしたので、光吸収によって発生した励起子のキャリアへの分離および電極への移動を素早く行うことが可能となる。よって、光電変換効率を向上させることが可能となる。
【0116】
更に、本実施の形態では、上記一般式(2)および一般式(3)で表わされるBDT系誘導体のR5,R6,R9およびR10を、各フェニル基およびその誘導体が互いにパラ位に結合したビフェニル基、ターフェニル基、テルフェニル基、またはその誘導体とすることにより、有機光電変換層27を構成するバルクヘテロ層内の結晶性が改善する。具体的には、本実施の形態のカルコゲノアセン系化合物同士が凝集したグレインの分子同士のパッキングが改善される。よって、結晶欠陥の少ないグレインを形成することが可能となり、微視キャリアの移動が改善する。よって、シャープな分光形状を維持したまま、暗電流の低減および高速な光応答性を得ることができる。また、さらに光電変換効率を向上させることが可能となる。
【0117】
<3.変形例>
図12は、本開示の変形例に係る光電変換素子(光電変換素子30)の断面構成を表したものである。光電変換素子30は、上記第1の実施の形態等の光電変換素子10A,10Bと同様に、例えば、CCDイメージセンサまたはCMOSイメージセンサ等の固体撮像装置(固体撮像装置1)において1つの画素(単位画素P)を構成するものである。光電変換素子30は、シリコン基板61上に絶縁層62を介して赤色光電変換部40R、緑色光電変換部40Gおよび青色光電変換部40Bがこの順に積層された構成を有する。
【0118】
赤色光電変換部40R、緑色光電変換部40Gおよび青色光電変換部40Bは、それぞれ一対の電極、第1電極41R(,41G,41B)と第2電極43R(,43G,43B)との間に有機光電変換層42R(,42G,42B)を有する。有機光電変換層42R(,42G,42B)は、それぞれDTT誘導体を含んで構成することにより、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0119】
光電変換素子30は、上記のように、シリコン基板61上に絶縁層62を介して赤色光電変換部40R、緑色光電変換部40Gおよび青色光電変換部40Bがこの順に積層された構成を有する。青色光電変換部40B上には、保護層19および平坦化層21を介してオンチップレンズ22が設けられている。シリコン基板61内には、赤色蓄電層310R、緑色蓄電層310Gおよび青色蓄電層310Bが設けられている。オンチップレンズ22に入射した光は、赤色光電変換部40R、緑色光電変換部40Gおよび青色光電変換部40Bで光電変換され、赤色光電変換部40Rから赤色蓄電層310Rへ、緑色光電変換部40Gから緑色蓄電層310Gへ、青色光電変換部40Bから青色蓄電層310Bへそれぞれ信号電荷が送られるようになっている。信号電荷は、光電変換によって生じる電子および正孔のどちらであってもよいが、以下では、電子を信号電荷として読み出す場合を例に挙げて説明する。
【0120】
シリコン基板61は、例えばp型シリコン基板により構成されている。このシリコン基板61に設けられた赤色蓄電層310R、緑色蓄電層310Gおよび青色蓄電層310Bは、各々n型半導体領域を含んでおり、このn型半導体領域に赤色光電変換部40R、緑色光電変換部40Gおよび青色光電変換部40Bから供給された電子(信号電荷)が蓄積されるようになっている。赤色蓄電層310R、緑色蓄電層310Gおよび青色蓄電層310Bのn型半導体領域は、例えば、シリコン基板61に、リン(P)またはヒ素(As)等のn型不純物をドーピングすることにより形成される。なお、シリコン基板61は、ガラス等からなる支持基板(図示せず)上に設けるようにしてもよい。
【0121】
シリコン基板61には、赤色蓄電層310R、緑色蓄電層310Gおよび青色蓄電層310Bそれぞれから電子を読み出し、例えば垂直信号線(後述の図12の垂直信号線Lsig)に転送するための画素トランジスタが設けられている。この画素トランジスタのフローティングディフージョンがシリコン基板61内に設けられており、このフローティングディフージョンが赤色蓄電層310R、緑色蓄電層310Gおよび青色蓄電層310Bに接続されている。フローティングディフージョンは、n型半導体領域により構成されている。
【0122】
絶縁層62は、例えば、酸化シリコン,窒化シリコン,酸窒化シリコンおよび酸化ハフニウム等により構成されている。複数種類の絶縁膜を積層させて絶縁層62を構成するようにしてもよい。有機絶縁材料により絶縁層62が構成されていてもよい。この絶縁層62には、赤色蓄電層310Rと赤色光電変換部40R、緑色蓄電層310Gと緑色光電変換部40G、青色蓄電層310Bと青色光電変換部40Bをそれぞれ接続するためのプラグおよび電極が設けられている。
【0123】
赤色光電変換部40Rは、シリコン基板61に近い位置から、第1電極41R、有機光電変換層42Rおよび第2電極43Rをこの順に有するものである。緑色光電変換部40Gは、赤色光電変換部40Rに近い位置から、第1電極41G、有機光電変換層42Gおよび第2電極43Gをこの順に有するものである。青色光電変換部40Bは、緑色光電変換部40Gに近い位置から、第1電極41B、有機光電変換層42Bおよび第2電極43Bをこの順に有するものである。赤色光電変換部40Rと緑色光電変換部40Gとの間には絶縁層44が、緑色光電変換部40Gと青色光電変換部40Bとの間には絶縁層45が設けられている。赤色光電変換部40Rでは赤色(例えば、波長600nm以上700nm未満)の光が、緑色光電変換部40Gでは緑色(例えば、波長480nm以上600nm未満)の光が、青色光電変換部40Bでは青色(例えば、波長400nm以上480nm未満)の光がそれぞれ選択的に吸収され、電子・正孔対が発生するようになっている。
【0124】
第1電極41Rは有機光電変換層42Rで生じた信号電荷を、第1電極41Gは有機光電変換層42Gで生じた信号電荷を、第1電極41Bは有機光電変換層42Bで生じた信号電荷をそれぞれ取り出すものである。第1電極41R,41G,41Bは、例えば、画素毎に設けられている。この第1電極41R,41G,41Bは、例えば、光透過性の導電材料、具体的にはITOにより構成される。第1電極41R,41G,41Bは、例えば、酸化スズ系材料または酸化亜鉛系材料により構成するようにしてもよい。酸化スズ系材料とは酸化スズにドーパントを添加したものであり、酸化亜鉛系材料とは例えば、酸化亜鉛にドーパントとしてアルミニウムを添加したアルミニウム亜鉛酸化物,酸化亜鉛にドーパントとしてガリウムを添加したガリウム亜鉛酸化物および酸化亜鉛にドーパントとしてインジウムを添加したインジウム亜鉛酸化物等である。この他、IGZO,CuI,InSbO,ZnMgO,CuInO,MgIn,CdOおよびZnSnO等を用いることも可能である。第1電極41R,41G,41Bの厚みは、例えば50nm~500nmである。
【0125】
第1電極41Rと有機光電変換層42Rとの間、第1電極41Gと有機光電変換層42Gとの間、および第1電極41Bと有機光電変換層42Bとの間には、それぞれ例えば、電子輸送層が設けられていてもよい。電子輸送層は、有機光電変換層42R,42G,42Bで生じた電子の第1電極41R,41G,41Bへの供給を促進するためのものであり、例えば、酸化チタンまたは酸化亜鉛等により構成されている。酸化チタンと酸化亜鉛とを積層させて電子輸送層を構成するようにしてもよい。電子輸送層の厚みは、例えば0.1nm~1000nmであり、0.5nm~300nmであることが好ましい。
【0126】
有機光電変換層42R,42G,42Bは、選択的な波長域の光を吸収して光電変換し、他の波長域の光を透過させるものである。有機光電変換層42R,42G,42Bは、上記第1の実施の形態および第2の実施の形態で挙げた、一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)で表わされる多環式芳香族化合物(DTT誘導体およびBDT系誘導体)のうちの少なくとも1種を含んで構成されていることが好ましい。また、有機光電変換層42R,42G,42Bは、p型半導体およびn型半導体の両方を含んで構成されていることが好ましい。p型半導体およびn型半導体は、例えば、一方が透明な材料、他方が選択的な波長域の光を光電変換する材料であることが好ましい。ここで、選択的な波長域の光とは、有機光電変換層42Rでは、例えば、波長600nm以上700nm未満の波長域の光、有機光電変換層42Gでは、例えば、波長480nm以上600nm未満の波長域の光、有機光電変換層42Bでは、例えば、波長400nm以上480nm未満の波長域の光である。有機光電変換層42R,42G,42Bの厚みは、例えば50nm以上500nm以下である。
【0127】
DTT誘導体およびBDT系誘導体は、上記透明な材料であることが好ましく、具体的には、それぞれ、各有機光電変換層42R,42G,42Bにおける選択的な波長域において極大吸収波長を持たないことが好ましい。また、DTT誘導体およびBDT系誘導体のHOMOおよびLUMOのエネルギー準位は、有機光電変換層42R,42G,42Bを構成する他の材料に対して光電変換メカニズムが円滑に行われる準位であることが好ましい。光吸収によって有機光電変換層42R,42G,42B内に発生した励起子を素早くキャリアへ分離し、さらに、生じたキャリアを、例えば、第1電極41R,41G,41Bへ速やかに移動させるためである。本実施の形態におけるDTT誘導体およびカルコゲノアセン系化合物のHOMO準位は、例えば、-6.6eV以上-4.8eV以下であることが好ましく、さらに好ましくは、-6.0eV以上-5.0eV以下である。
【0128】
このようなDTT誘導体としては、例えば、上記式(1-1)~(1-19)に示した化合物が挙げられる。BDT系誘導体としては、後述する実施例で用いた式(2-1)~(2-3),(3-1)等が挙げられる。
【0129】
有機光電変換層42R,42G,42Bは、上記DTT誘導体またはBDT系誘導体のほかに、上述した、それぞれ選択的な波長域の光を光電変換可能な材料(光吸収体)を用いることが好ましい。これにより、有機光電変換層42Rでは赤色光を、有機光電変換層42Gでは緑色光を、有機光電変換層42Bでは青色光を、それぞれ選択的に光電変換することが可能となる。このような材料としては、例えば、有機光電変換層42Rでは、下記一般式(7)に示したサブナフタロシアニンまたはその誘導体および下記式(8)に示したフタロシアニンまたはその誘導体が挙げられる。有機光電変換層42Gでは、上記実施の形態において一般式(4)に示したサブフタロシアニンまたはその誘導体等が挙げられる。有機光電変換層42Bでは、下記一般式(9)に示したクマリンまたはその誘導体および下記一般式(10)に示したポルフィリンまたはその誘導体が挙げられる。
【0130】
【化21】
(R27~R44は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐,または環状アルキル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、フェニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基およびニトロ基からなる群から選択され、且つ、隣接した任意のR27~R44は縮合脂肪族環または縮合芳香環の一部であってもよい。前記縮合脂肪族環または縮合芳香環は、炭素以外の1または複数の原子を含んでいてもよい。M2はホウ素または2価あるいは3価の金属である。Y2は、ハロゲン、ヒドロキシ基、チオール基、イミド基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアルキルチオ基、置換もしくは未置換のアリールチオ基からなる群より選択されるいずれかの置換基である。)
【0131】
【化22】
(R45~R60は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐,または環状アルキル基、アリール基、パーシャルフルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基およびニトロ基である。隣り合う任意のR45~R60は、互いに結合して縮合脂肪族環または縮合芳香環を形成していてもよい。縮合脂肪族環または縮合芳香環は、炭素以外の1または複数の原子を含んでいてもよい。Z4~Z7は、各々独立して窒素原子、R61は、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐,または環状アルキル基、アリール基、パーシャルフルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基およびニトロ基である。M3はホウ素または2価あるいは3価の金属である。)
【0132】
【化23】
(R62~R67は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐,または環状アルキル基、アリール基、パーシャルフルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基およびニトロ基である。隣り合う任意のR62~R67は、互いに結合して縮合脂肪族環または縮合芳香環を形成していてもよい。縮合脂肪族環または縮合芳香環は、炭素以外の1または複数の原子を含んでいてもよい。)
【0133】
【化24】
(R68~R79は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐,または環状アルキル基、アリール基、パーシャルフルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基およびニトロ基である。隣り合う任意のR68~R79は、互いに結合して縮合脂肪族環または縮合芳香環を形成していてもよい。縮合脂肪族環または縮合芳香環は、炭素以外の1または複数の原子を含んでいてもよい。M4は、金属、金属ハロゲン化物、金属酸化物、金属水素化物、または2個の水素のいずれかである。)
【0134】
具体的なサブナフタロシアニン誘導体としては、例えば、下記式(7-1)~式(7-3)に示した化合物が挙げられる。具体的なフタロシアニン誘導体としては、例えば、下記式(8-1)および式(8-2)に示した化合物が挙げられる。
【0135】
【化25】
【0136】
具体的なクマリン誘導体としては、例えば、下記式(9-1)および式(9-2)に示した化合物が挙げられる。具体的なポルフィリン誘導体としては、例えば、下記式(10-1)および式(10-2)に示した化合物が挙げられる。
【0137】
【化26】
【0138】
有機光電変換層42R,42G,42Bは、さらに、上記一般式(5)に示したC60フラーレンまたはその誘導体、あるいは、下記一般式(6)に示したC70フラーレンまたはその誘導体を用いることが好ましい。C60フラーレンおよびC70フラーレンまたはそれらの誘導体を少なくとも1種用いることによって、光電変換効率がさらに向上すると共に、暗電流を低減することが可能となる。
【0139】
なお、上記多環式芳香族化合物(DTT誘導体またはBDT系誘導体)、サブフタロシアニンまたはその誘導体、ナフタロシアニンまたはその誘導体およびフラーレンまたはその誘導体は、組み合わせる材料によってp型半導体またはn型半導体として機能する。
【0140】
有機光電変換層42Rと第2電極43Rとの間、有機光電変換層42Gと第2電極43Gとの間、および有機光電変換層42Bと第2電極43Bとの間には、それぞれ、例えば正孔輸送層が設けられていてもよい。正孔輸送層は、有機光電変換層42R,42G,42Bで生じた正孔の第2電極43R,43G,43Bへの供給を促進するためのものであり、例えば酸化モリブデン,酸化ニッケルあるいは酸化バナジウム等により構成されている。PEDOT(Poly(3,4-ethylenedioxythiophene))およびTPD(N,N'-Bis(3-methylphenyl)-N,N'-diphenylbenzidine)等の有機材料により正孔輸送層を構成するようにしてもよい。正孔輸送層の厚みは、例えば0.5nm以上100nm以下である。
【0141】
第2電極43Rは有機光電変換層42Rで発生した正孔を、第2電極43Gは有機光電変換層42Gで発生した正孔を、第2電極43Bは有機光電変換層42Gで発生した正孔をそれぞれ取りだすためのものである。第2電極43R,43G,43Bから取り出された正孔は各々の伝送経路(図示せず)を介して、例えばシリコン基板61内のp型半導体領域(図示せず)に排出されるようになっている。第2電極43R,43G,43Bは、例えば、金,銀,銅およびアルミニウム等の導電材料により構成されている。第1電極41R,41G,41Bと同様に、透明導電材料により第2電極43R,43G,43Bを構成するようにしてもよい。光電変換素子30では、この第2電極43R,43G,43Bから取り出される正孔は排出されるため、例えば、後述する固体撮像装置1において複数の光電変換素子30を配置した際には、第2電極43R,43G,43Bを各光電変換素子30(単位画素P)に共通して設けるようにしてもよい。第2電極43R,43G,43Bの厚みは例えば、0.5nm以上100nm以下である。
【0142】
絶縁層44は第2電極43Rと第1電極41Gとを絶縁するためのものであり、絶縁層45は第2電極43Gと第1電極41Bとを絶縁するためのものである。絶縁層44,45は、例えば、金属酸化物,金属硫化物あるいは有機物により構成されている。金属酸化物としては、例えば、酸化シリコン,酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム,酸化チタン,酸化亜鉛,酸化タングステン,酸化マグネシウム,酸化ニオブ,酸化スズおよび酸化ガリウム等が挙げられる。金属硫化物としては、硫化亜鉛および硫化マグネシウム等が挙げられる。絶縁層44,45の構成材料のバンドギャップは3.0eV以上であることが好ましい。絶縁層44,45の厚みは、例えば2nm以上100nm以下である。
【0143】
第2電極43Bを覆う保護層19は、赤色光電変換部40R、緑色光電変換部40Gおよび青色光電変換部40Bへの水分等の浸入を防ぐためのものである。保護層19は光透過性を有する材料により構成されている。このような保護層19には、例えば窒化シリコン,酸化シリコンおよび酸窒化シリコン等の単層膜あるいはこれらの積層膜が用いられる。
【0144】
平坦化層21を間にして保護層19上にはオンチップレンズ22が設けられている。平坦化層21には、アクリル系樹脂材料,スチレン系樹脂材料またはエポキシ系樹脂材料等を用いることができる。平坦化層21は、必要に応じて設けるようにすればよく、保護層19が平坦化層21を兼ねるようにしてもよい。オンチップレンズ22は、その上方から入射した光を赤色光電変換部40R、緑色光電変換部40Gおよび青色光電変換部40Bそれぞれの受光面に集光させるものである。
【0145】
以上のように、有機光電変換層42R(,42G,42B)を、それぞれDTT誘導体またはBDT系誘導体を含んで構成することにより、上記実施の形態と同様に、光吸収によって発生した励起子のキャリアへの分離および電極への移動を素早く行うことが可能となる。よって、光電変換効率を向上させることが可能となる。
【0146】
<4.適用例>
(適用例1)
図13は、上記実施の形態において説明した光電変換素子10A,10B,30を各画素に用いた固体撮像装置1の全体構成を表したものである。この固体撮像装置1は、CMOSイメージセンサであり、半導体基板11上に、撮像エリアとしての画素部1aを有すると共に、この画素部1aの周辺領域に、例えば、行走査部131、水平選択部133、列走査部134およびシステム制御部132からなる周辺回路部130を有している。
【0147】
画素部1aは、例えば、行列状に2次元配置された複数の単位画素P(例えば、光電変換素子10Aに相当)を有している。この単位画素Pには、例えば、画素行ごとに画素駆動線Lread(具体的には行選択線およびリセット制御線)が配線され、画素列ごとに垂直信号線Lsigが配線されている。画素駆動線Lreadは、画素からの信号読み出しのための駆動信号を伝送するものである。画素駆動線Lreadの一端は、行走査部131の各行に対応した出力端に接続されている。
【0148】
行走査部131は、シフトレジスタやアドレスデコーダ等によって構成され、画素部1aの各単位画素Pを、例えば、行単位で駆動する画素駆動部である。行走査部131によって選択走査された画素行の各単位画素Pから出力される信号は、垂直信号線Lsigの各々を通して水平選択部133に供給される。水平選択部133は、垂直信号線Lsigごとに設けられたアンプや水平選択スイッチ等によって構成されている。
【0149】
列走査部134は、シフトレジスタやアドレスデコーダ等によって構成され、水平選択部133の各水平選択スイッチを走査しつつ順番に駆動するものである。この列走査部134による選択走査により、垂直信号線Lsigの各々を通して伝送される各画素の信号が順番に水平信号線135に出力され、当該水平信号線135を通して半導体基板11の外部へ伝送される。
【0150】
行走査部131、水平選択部133、列走査部134および水平信号線135からなる回路部分は、半導体基板11上に直に形成されていてもよいし、あるいは外部制御ICに配設されたものであってもよい。また、それらの回路部分は、ケーブル等により接続された他の基板に形成されていてもよい。
【0151】
システム制御部132は、半導体基板11の外部から与えられるクロックや、動作モードを指令するデータ等を受け取り、また、固体撮像装置1の内部情報等のデータを出力するものである。システム制御部132はさらに、各種のタイミング信号を生成するタイミングジェネレータを有し、当該タイミングジェネレータで生成された各種のタイミング信号を基に行走査部131、水平選択部133および列走査部134等の周辺回路の駆動制御を行う。
【0152】
(適用例2)
上述の固体撮像装置1は、例えば、デジタルスチルカメラやビデオカメラ等のカメラシステムや、撮像機能を有する携帯電話等、撮像機能を備えたあらゆるタイプの電子機器に適用することができる。図14に、その一例として、電子機器2(カメラ)の概略構成を示す。この電子機器2は、例えば、静止画または動画を撮影可能なビデオカメラであり、固体撮像装置1と、光学系(光学レンズ)310と、シャッタ装置311と、固体撮像装置1およびシャッタ装置311を駆動する駆動部313と、信号処理部312とを有する。
【0153】
光学系310は、被写体からの像光(入射光)を固体撮像装置1の画素部1aへ導くものである。この光学系310は、複数の光学レンズから構成されていてもよい。シャッタ装置311は、固体撮像装置1への光照射期間および遮光期間を制御するものである。駆動部313は、固体撮像装置1の転送動作およびシャッタ装置311のシャッタ動作を制御するものである。信号処理部312は、固体撮像装置1から出力された信号に対し、各種の信号処理を行うものである。信号処理後の映像信号Doutは、メモリ等の記憶媒体に記憶されるか、あるいは、モニタ等に出力される。
【0154】
(適用例3)
<体内情報取得システムへの応用例>
図15は、本開示に係る技術(本技術)が適用され得る、カプセル型内視鏡を用いた患者の体内情報取得システムの概略的な構成の一例を示すブロック図である。
【0155】
体内情報取得システム10001は、カプセル型内視鏡10100と、外部制御装置10200とから構成される。
【0156】
カプセル型内視鏡10100は、検査時に、患者によって飲み込まれる。カプセル型内視鏡10100は、撮像機能および無線通信機能を有し、患者から自然排出されるまでの間、胃や腸等の臓器の内部を蠕動運動等によって移動しつつ、当該臓器の内部の画像(以下、体内画像ともいう)を所定の間隔で順次撮像し、その体内画像についての情報を体外の外部制御装置10200に順次無線送信する。
【0157】
外部制御装置10200は、体内情報取得システム10001の動作を統括的に制御する。また、外部制御装置10200は、カプセル型内視鏡10100から送信されてくる体内画像についての情報を受信し、受信した体内画像についての情報に基づいて、表示装置(図示せず)に当該体内画像を表示するための画像データを生成する。
【0158】
体内情報取得システム10001では、このようにして、カプセル型内視鏡10100が飲み込まれてから排出されるまでの間、患者の体内の様子を撮像した体内画像を随時得ることができる。
【0159】
カプセル型内視鏡10100と外部制御装置10200の構成および機能についてより詳細に説明する。
【0160】
カプセル型内視鏡10100は、カプセル型の筐体10101を有し、その筐体10101内には、光源部10111、撮像部10112、画像処理部10113、無線通信部10114、給電部10115、電源部10116、および制御部10117が収納されている。
【0161】
光源部10111は、例えばLED(light emitting diode)等の光源から構成され、撮像部10112の撮像視野に対して光を照射する。
【0162】
撮像部10112は、撮像素子、および当該撮像素子の前段に設けられる複数のレンズからなる光学系から構成される。観察対象である体組織に照射された光の反射光(以下、観察光という)は、当該光学系によって集光され、当該撮像素子に入射する。撮像部10112では、撮像素子において、そこに入射した観察光が光電変換され、その観察光に対応する画像信号が生成される。撮像部10112によって生成された画像信号は、画像処理部10113に提供される。
【0163】
画像処理部10113は、CPU(CentralProcessingUnit)やGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサによって構成され、撮像部10112によって生成された画像信号に対して各種の信号処理を行う。画像処理部10113は、信号処理を施した画像信号を、RAWデータとして無線通信部10114に提供する。
【0164】
無線通信部10114は、画像処理部10113によって信号処理が施された画像信号に対して変調処理等の所定の処理を行い、その画像信号を、アンテナ10114Aを介して外部制御装置10200に送信する。また、無線通信部10114は、外部制御装置10200から、カプセル型内視鏡10100の駆動制御に関する制御信号を、アンテナ10114Aを介して受信する。無線通信部10114は、外部制御装置10200から受信した制御信号を制御部10117に提供する。
【0165】
給電部10115は、受電用のアンテナコイル、当該アンテナコイルに発生した電流から電力を再生する電力再生回路、および昇圧回路等から構成される。給電部10115では、いわゆる非接触充電の原理を用いて電力が生成される。
【0166】
電源部10116は、二次電池によって構成され、給電部10115によって生成された電力を蓄電する。図15では、図面が煩雑になることを避けるために、電源部10116からの電力の供給先を示す矢印等の図示を省略しているが、電源部10116に蓄電された電力は、光源部10111、撮像部10112、画像処理部10113、無線通信部10114、および制御部10117に供給され、これらの駆動に用いられ得る。
【0167】
制御部10117は、CPU等のプロセッサによって構成され、光源部10111、撮像部10112、画像処理部10113、無線通信部10114、および、給電部10115の駆動を、外部制御装置10200から送信される制御信号に従って適宜制御する。
【0168】
外部制御装置10200は、CPU,GPU等のプロセッサ、又はプロセッサとメモリ等の記憶素子が混載されたマイクロコンピュータ若しくは制御基板等で構成される。外部制御装置10200は、カプセル型内視鏡10100の制御部10117に対して制御信号を、アンテナ10200Aを介して送信することにより、カプセル型内視鏡10100の動作を制御する。カプセル型内視鏡10100では、例えば、外部制御装置10200からの制御信号により、光源部10111における観察対象に対する光の照射条件が変更され得る。また、外部制御装置10200からの制御信号により、撮像条件(例えば、撮像部10112におけるフレームレート、露出値等)が変更され得る。また、外部制御装置10200からの制御信号により、画像処理部10113における処理の内容や、無線通信部10114が画像信号を送信する条件(例えば、送信間隔、送信画像数等)が変更されてもよい。
【0169】
また、外部制御装置10200は、カプセル型内視鏡10100から送信される画像信号に対して、各種の画像処理を施し、撮像された体内画像を表示装置に表示するための画像データを生成する。当該画像処理としては、例えば現像処理(デモザイク処理)、高画質化処理(帯域強調処理、超解像処理、NR(Noise reduction)処理および/又は手ブレ補正処理等)、並びに/又は拡大処理(電子ズーム処理)等、各種の信号処理を行うことができる。外部制御装置10200は、表示装置の駆動を制御して、生成した画像データに基づいて撮像された体内画像を表示させる。あるいは、外部制御装置10200は、生成した画像データを記録装置(図示せず)に記録させたり、印刷装置(図示せず)に印刷出力させてもよい。
【0170】
以上、本開示に係る技術が適用され得る体内情報取得システムの一例について説明した。本開示に係る技術は、以上説明した構成のうち、例えば、撮像部10112に適用され得る。これにより、精細な術部画像を得ることができるため、検査の精度が向上する。
【0171】
(適用例4)
<移動体への応用例>
本開示に係る技術(本技術)は、様々な製品へ応用することができる。例えば、本開示に係る技術は、自動車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、自動二輪車、自転車、パーソナルモビリティ、飛行機、ドローン、船舶、ロボット等のいずれかの種類の移動体に搭載される装置として実現されてもよい。
【0172】
図16は、本開示に係る技術が適用され得る移動体制御システムの一例である車両制御システムの概略的な構成例を示すブロック図である。
【0173】
車両制御システム12000は、通信ネットワーク12001を介して接続された複数の電子制御ユニットを備える。図16に示した例では、車両制御システム12000は、駆動系制御ユニット12010、ボディ系制御ユニット12020、車外情報検出ユニット12030、車内情報検出ユニット12040、および統合制御ユニット12050を備える。また、統合制御ユニット12050の機能構成として、マイクロコンピュータ12051、音声画像出力部12052、および車載ネットワークI/F(interface)12053が図示されている。
【0174】
駆動系制御ユニット12010は、各種プログラムにしたがって車両の駆動系に関連する装置の動作を制御する。例えば、駆動系制御ユニット12010は、内燃機関又は駆動用モータ等の車両の駆動力を発生させるための駆動力発生装置、駆動力を車輪に伝達するための駆動力伝達機構、車両の舵角を調節するステアリング機構、および、車両の制動力を発生させる制動装置等の制御装置として機能する。
【0175】
ボディ系制御ユニット12020は、各種プログラムにしたがって車体に装備された各種装置の動作を制御する。例えば、ボディ系制御ユニット12020は、キーレスエントリシステム、スマートキーシステム、パワーウィンドウ装置、あるいは、ヘッドランプ、バックランプ、ブレーキランプ、ウィンカー又はフォグランプ等の各種ランプの制御装置として機能する。この場合、ボディ系制御ユニット12020には、鍵を代替する携帯機から発信される電波又は各種スイッチの信号が入力され得る。ボディ系制御ユニット12020は、これらの電波又は信号の入力を受け付け、車両のドアロック装置、パワーウィンドウ装置、ランプ等を制御する。
【0176】
車外情報検出ユニット12030は、車両制御システム12000を搭載した車両の外部の情報を検出する。例えば、車外情報検出ユニット12030には、撮像部12031が接続される。車外情報検出ユニット12030は、撮像部12031に車外の画像を撮像させるとともに、撮像された画像を受信する。車外情報検出ユニット12030は、受信した画像に基づいて、人、車、障害物、標識又は路面上の文字等の物体検出処理又は距離検出処理を行ってもよい。
【0177】
撮像部12031は、光を受光し、その光の受光量に応じた電気信号を出力する光センサである。撮像部12031は、電気信号を画像として出力することもできるし、測距の情報として出力することもできる。また、撮像部12031が受光する光は、可視光であっても良いし、赤外線等の非可視光であっても良い。
【0178】
車内情報検出ユニット12040は、車内の情報を検出する。車内情報検出ユニット12040には、例えば、運転者の状態を検出する運転者状態検出部12041が接続される。運転者状態検出部12041は、例えば運転者を撮像するカメラを含み、車内情報検出ユニット12040は、運転者状態検出部12041から入力される検出情報に基づいて、運転者の疲労度合い又は集中度合いを算出してもよいし、運転者が居眠りをしていないかを判別してもよい。
【0179】
マイクロコンピュータ12051は、車外情報検出ユニット12030又は車内情報検出ユニット12040で取得される車内外の情報に基づいて、駆動力発生装置、ステアリング機構又は制動装置の制御目標値を演算し、駆動系制御ユニット12010に対して制御指令を出力することができる。例えば、マイクロコンピュータ12051は、車両の衝突回避あるいは衝撃緩和、車間距離に基づく追従走行、車速維持走行、車両の衝突警告、又は車両のレーン逸脱警告等を含むADAS(Advanced Driver Assistance System)の機能実現を目的とした協調制御を行うことができる。
【0180】
また、マイクロコンピュータ12051は、車外情報検出ユニット12030又は車内情報検出ユニット12040で取得される車両の周囲の情報に基づいて駆動力発生装置、ステアリング機構又は制動装置等を制御することにより、運転者の操作に拠らずに自律的に走行する自動運転等を目的とした協調制御を行うことができる。
【0181】
また、マイクロコンピュータ12051は、車外情報検出ユニット12030で取得される車外の情報に基づいて、ボディ系制御ユニット12020に対して制御指令を出力することができる。例えば、マイクロコンピュータ12051は、車外情報検出ユニット12030で検知した先行車又は対向車の位置に応じてヘッドランプを制御し、ハイビームをロービームに切り替える等の防眩を図ることを目的とした協調制御を行うことができる。
【0182】
音声画像出力部12052は、車両の搭乗者又は車外に対して、視覚的又は聴覚的に情報を通知することが可能な出力装置へ音声および画像のうちの少なくとも一方の出力信号を送信する。図17の例では、出力装置として、オーディオスピーカ12061、表示部12062およびインストルメントパネル12063が例示されている。表示部12062は、例えば、オンボードディスプレイおよびヘッドアップディスプレイの少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0183】
図17は、撮像部12031の設置位置の例を示す図である。
【0184】
図17では、撮像部12031として、撮像部12101,12102,12103,12104,12105を有する。
【0185】
撮像部12101,12102,12103,12104,12105は、例えば、車両12100のフロントノーズ、サイドミラー、リアバンパ、バックドアおよび車室内のフロントガラスの上部等の位置に設けられる。フロントノーズに備えられる撮像部12101および車室内のフロントガラスの上部に備えられる撮像部12105は、主として車両12100の前方の画像を取得する。サイドミラーに備えられる撮像部12102,12103は、主として車両12100の側方の画像を取得する。リアバンパ又はバックドアに備えられる撮像部12104は、主として車両12100の後方の画像を取得する。車室内のフロントガラスの上部に備えられる撮像部12105は、主として先行車両又は、歩行者、障害物、信号機、交通標識又は車線等の検出に用いられる。
【0186】
なお、図17には、撮像部12101ないし12104の撮影範囲の一例が示されている。撮像範囲12111は、フロントノーズに設けられた撮像部12101の撮像範囲を示し、撮像範囲12112,12113は、それぞれサイドミラーに設けられた撮像部12102,12103の撮像範囲を示し、撮像範囲12114は、リアバンパ又はバックドアに設けられた撮像部12104の撮像範囲を示す。例えば、撮像部12101ないし12104で撮像された画像データが重ね合わせられることにより、車両12100を上方から見た俯瞰画像が得られる。
【0187】
撮像部12101ないし12104の少なくとも1つは、距離情報を取得する機能を有していてもよい。例えば、撮像部12101ないし12104の少なくとも1つは、複数の撮像素子からなるステレオカメラであってもよいし、位相差検出用の画素を有する撮像素子であってもよい。
【0188】
例えば、マイクロコンピュータ12051は、撮像部12101ないし12104から得られた距離情報を基に、撮像範囲12111ないし12114内における各立体物までの距離と、この距離の時間的変化(車両12100に対する相対速度)を求めることにより、特に車両12100の進行路上にある最も近い立体物で、車両12100と略同じ方向に所定の速度(例えば、0km/h以上)で走行する立体物を先行車として抽出することができる。さらに、マイクロコンピュータ12051は、先行車の手前に予め確保すべき車間距離を設定し、自動ブレーキ制御(追従停止制御も含む)や自動加速制御(追従発進制御も含む)等を行うことができる。このように運転者の操作に拠らずに自律的に走行する自動運転等を目的とした協調制御を行うことができる。
【0189】
例えば、マイクロコンピュータ12051は、撮像部12101ないし12104から得られた距離情報を元に、立体物に関する立体物データを、2輪車、普通車両、大型車両、歩行者、電柱等その他の立体物に分類して抽出し、障害物の自動回避に用いることができる。例えば、マイクロコンピュータ12051は、車両12100の周辺の障害物を、車両12100のドライバが視認可能な障害物と視認困難な障害物とに識別する。そして、マイクロコンピュータ12051は、各障害物との衝突の危険度を示す衝突リスクを判断し、衝突リスクが設定値以上で衝突可能性がある状況であるときには、オーディオスピーカ12061や表示部12062を介してドライバに警報を出力することや、駆動系制御ユニット12010を介して強制減速や回避操舵を行うことで、衝突回避のための運転支援を行うことができる。
【0190】
撮像部12101ないし12104の少なくとも1つは、赤外線を検出する赤外線カメラであってもよい。例えば、マイクロコンピュータ12051は、撮像部12101ないし12104の撮像画像中に歩行者が存在するか否かを判定することで歩行者を認識することができる。かかる歩行者の認識は、例えば赤外線カメラとしての撮像部12101ないし12104の撮像画像における特徴点を抽出する手順と、物体の輪郭を示す一連の特徴点にパターンマッチング処理を行って歩行者か否かを判別する手順によって行われる。マイクロコンピュータ12051が、撮像部12101ないし12104の撮像画像中に歩行者が存在すると判定し、歩行者を認識すると、音声画像出力部12052は、当該認識された歩行者に強調のための方形輪郭線を重畳表示するように、表示部12062を制御する。また、音声画像出力部12052は、歩行者を示すアイコン等を所望の位置に表示するように表示部12062を制御してもよい。
【0191】
<5.実施例>
次に、本開示の実施例について詳細に説明する。
【0192】
(実験1:DTT誘導体を用いた場合の電気特性の評価)
(実験例1)
まず、下部電極としてITO電極付ガラス基板をUV/オゾン(O)洗浄を行ったのち、この基板を有機蒸着室に移動し室内を1×10-5Pa以下に減圧した。続いて、基板ホルダーを回転させながら、昇華精製したBP-DTT(式(1-2))と、昇華精製を行ったF-SubPc-OC(式(4-1))を抵抗加熱法によりそれぞれ蒸着速度1Å/secに保ちながら合計120nmとなるように基板上に蒸着させて有機光電変換層を形成した。このとき、BP-DTTおよびF-SubPc-OCの蒸着速度の比率は1:1とした。次いで、正孔ブロッキング層として、B4PyMPM(式(11))を蒸着速度0.5Å/secにて5nmの厚みとなるように成膜した。続いて、上部電極としてAl-Si-Cu合金を厚み100nmとなるように蒸着成膜することで、1mm×1mmの光電変換領域を有する光電変換素子(実験例1)を作製した。
【0193】
【化27】
【0194】
なお、BP-DTT(式(1-2))は、以下のようにして合成することができる。
【0195】
【化28】
【0196】
(実験例2~7)
この他、有機光電変換層の厚み、および有機光電変換層の構成材料を、BP-DTTから2,9-tert-ブチルキナクリドン(BQD)(式(12))またはDNTT(dinaphtho[2,3-b:2’,3’-f]thieno[3,2-b]thiophene、式(13))に変えた以外は、上記実験例1と同様の方法を用いて光電変換素子(実験例2~4)を作製した。また、有機光電変換層の構成材料として、さらにC60フラーレン(式(5-1))を追加した光電変換素子(実験例5~7)を作製した。
【0197】
(実験例8~22)
更に、下部電極と有機光電変換層との間に、αNPD(式(14))からなる電子ブロッキング層を追加した光電変換素子(実験例8~21)を作製した。このうち、実験例8,11~13,15~19および実験例22では、第2成分(光吸収体)としてF-SubPc-OC(式(4-1))を、実験例9,10,14では、第2成分としてF-SubPc-F(式(4-2))を、実験例20,21では、第2成分としてSubNc-Cl(式(7-1))を用いた。また、実験例10,15では、第1成分として、BP-DTT(式(1-2))の代わりに、DP-DTT(式(1-1))を用いた。実験例11~19,21については、第3成分としてC60フラーレン(式(5-1))を追加した。更に、F-SubPc-OCおよびC60フラーレンのみからなる有機光電変換層を備えた光電変換素子(実験例22)を作製した。
【0198】
【化29】
【0199】
なお、DP-DTT(式(1-1))は、以下のようにして合成することができる。
【化30】
【0200】
実験例1~22の光電変換効率(外部量子効率)を、半導体パラメータアナライザを用いて評価した。具体的には、フィルタを介して光源から光電変換素子に照射される光(波長560nmのLED光)の光量を1.62μW/cmとし、電極間に印加されるバイアス電圧を-1Vとした場合の明電流値および暗電流値から、外部光電変換効率を算出した。表1は、実験例1~22における各層の材料構成および電気特性(外部量子効率(External Quantum Efficiency;EQE)および暗電流(Dark current))をまとめたものである。なお、実験例20および実験例21では、波長600nmのLED光を用いた。
【0201】
【表1】
【0202】
表1から以下のことがわかった。まず、実験例1~実験例4において、有機光電変換層の材料として、DTT誘導体(BP-DTT,式(1-2))を用いた実験例1および実験例2では、BP-DTTの代わりにBQD(式(12))を用いた実験例3および実験例4と比較して、EQEが向上した。特に、光電変換層を200nmの厚みに形成した実験例2では、同じ厚みの実験例4と比較して倍以上に向上したことが確認された。また、有機光電変換層の構成材料として、BP-DTTおよびF-SubPc-OCにC60フラーレンを加えた、いわゆる3元系の実験例5および実験例6では、高いEQEに加えて、暗電流の低減が確認された。BP-DTTの代わりにDNTT(式(13))を用いた実験例7では、暗電流の低減は確認されなかったことから、暗電流の低減は、少なくとも、BP-DTTとC60フラーレンとの相互作用によるものと推察される。また、実験例5および実験例6では、実験例7よりも高いEQEが得られた。これは、上述したように、BP-DTTが、縮合した分子骨格内に3つのS原子を有するのに対し、DNTTが縮合した分子骨格内に有するS原子は2つであるため、BP-DTTの方が分子間に強いS…S相互作用を有すると考えられる。これにより、BP-DTTを用いた実験例5および実験例6では、実験例7よりも優れた正孔輸送性が生じ、これによって、電荷分離によって生じた正孔が速やかに電極に運ばれたため高いEQEが得られたと推察される。
【0203】
下部電極と有機光電変換層との間に電子ブロッキング層を設け、有機光電変換層をDTT誘導体とF-SubPc-OC(またはF-SubPc-F)との2元系で構成した実験例8~10では、有機光電変換層をBP-DTTとF-SubPc-OCとから構成した実験例8が、EQEおよび暗電流共に最も好ましい結果を示した。また、有機光電変換層をBP-DTTとF-SubPc-Fとで構成した実験例9と、DP-DTTとF-SubPc-Fとで構成した実験例10とでは、実験例9の方が高いEQEが得られた。これは、DTT誘導体の凝集体の安定性、具体的には、DTT誘導体分子の配列の安定性によると推察される。DP-DTTは、BP-DTTよりも縮環した分子骨格の側鎖の長さが短いことから、BP-DTTよりも凝集力が高いと考えられる。そのため、同時に混ぜ合わせたF-SubPc-OC(またはF-SubPc-F)やC60と十分に混ざり合わず、相分離が進んでしまったと考えられる。このため、実験例10では、電荷分離を引きおこす異種材料界面(DTT誘導体と、F-SubPc-OC(またはF-SubPc-F)との界面)の面積が減ってしまい、結果的に電荷分離効率が低下し、実験例9よりもEQEが低下したと考えられる。
【0204】
下部電極と有機光電変換層との間に電子ブロッキング層を設け、有機光電変換層を3元系で構成した実験例11~19では、有機光電変換層内におけるBP-DTT、F-SubPc-OCおよびC60フラーレンの体積比率およびDTT誘導体とサブフタロシアニン誘導体との組み合わせによってEQEおよび暗電流が変化した。実験例11~実験例13および実験例16~実験例19から、光電変換層中におけるDTT誘導体の好ましい比率は、EQEの観点から37.5体積%以上60%体積以下が好ましいと考えられる。少なすぎても、多すぎてもEQEは低下してしまう。これは、少なすぎると、DTT誘導体をF-SubPc-OCとの電荷分離能力が相対的に低下してしまうためと考えられる。多すぎると、相対的に光を吸収する色素であるF-SubPc-OCが少なくなり、光を吸収できなくなるからと考えられる。
【0205】
また、実験例11と実験例14とを比較したところ、F-SubPc-F(式(4-2))を用いた実験例14よりもF-SubPc-OC(式(4-1))を用いた実験例11の方が、より高いEQEおよび低い暗電流が得られた。このことから、サブフタロシアニン誘導体の置換基Xは、フッ素(F)よりも、アリールオキシ基(-OC)の方が好ましいといえる。これは、理由は明らかではないが、X位がアリールオキシ基によって置換されたF-SubPc-OC(式(4-1))よりも、F-SubPc-F(式(4-2))の方が、分子の形状として平面性が高い。このため、F-SubPc-F同士の重なりが大きくなり、F-SubPc-Fだけで凝集しやすくなる。よって、BP-DTTとの混合状態が悪化し、電荷分離の界面が少なくなってしまったものと推察される。
【0206】
実験例11と実験例15とを比較したところ、BP-DTT(式(1-2))を用いた実験例11の方が、DP-DTT(式(1-1))を用いた実験例15よりも高いEQEを示した。これは、DP-DTTは、BP-DTTよりも凝集性が高いため、F-SubPc-OCと理想的な混合状態が得られずに、相分離が進んでしまい電荷分離を行う界面が減少したためと推察される。
【0207】
また、図18は、実験例1(BP-DTT:F-SubPc-OC=50:50(体積比))の可視領域におけるIPCE(Incident Photon-to-Current Conversion Efficiency)スペクトル(波長毎のEQE)を表したものである。図19は、実験例23として有機光電変換層(BP-DTT:F-SubPc-OC:C60=41:41:18(体積比、厚み110nm))を備えた光電変換素子の可視領域におけるEQEを表したものである。有機光電変換層をBP-DTTおよびF-SubPc-OCにC60を加えて形成することで、よりシャープな分光形状が得られた。これは、C60を加えることにより、有機光電変換層内における有機半導体材料の分散状態(凝集状態)が変化したものと考えられる。具体的には、F-SubPc-OCが均質に分散したことによると推察される。このことから、有機光電変換層は、DTT誘導体、光吸収体およびC60の3元系で形成することが好ましいことがわかった。
【0208】
このことは、F-SubPc-OC(式(4-1))の代わりに赤色の波長域の光を吸収するサブナフタロシアニン誘導体(式(7-1))を用いた実験例20および実験例21においても同様の結果が得られたことから、第2成分(光吸収体)の種類に限定されないといえる。なお、ここでは、示していないが、実験例20および実験例21のEQEおよび暗電流の結果は、第1成分であるDTT誘導体(BP-DTT)を用いずに、サブナフタロシアニン誘導体(式(7-1))およびC60(式(5-1))のみから光電変換層を構成した光電変換素子よりも高い効果が得られた。
【0209】
(実験2:BDT誘導体を用いた場合の電気特性の評価)
(実験例24)
まず、下部電極としてITO電極付ガラス基板をUV/オゾン(O)洗浄を行ったのち、この基板を有機蒸着室に移動し室内を1×10-5Pa以下に減圧した。続いて、基板ホルダーを回転させながら、昇華精製したBP-rBDT(式(2-2))と、昇華精製を行ったF-SubPc-OC(式(4-1))を抵抗加熱法によりそれぞれ蒸着速度1Å/secに保ちながら合計200nmとなるように基板上に蒸着させて有機光電変換層を形成した。このとき、BP-rBDTおよびF-SubPc-OCの蒸着速度の比率は1:1とした。次いで、正孔ブロッキング層として、B4PyMPM(式(11))を蒸着速度0.5Å/secにて5nmの厚みとなるように成膜した。続いて、上部電極としてAl-Si-Cu合金を厚み100nmとなるように蒸着成膜したのち、窒素(N)雰囲気下でホットプレートを用いて150℃、60分加熱し、1mm×1mmの光電変換領域を有する光電変換素子(実験例24)を作製した。
【0210】
なお、BP-rBDT(式(2-2))は、以下のようにして合成することができる。
【0211】
【化31】
【0212】
(実験例25~29)
この他、有機光電変換層の構成材料を、第1成分として、BP-rBDTからBP-sBDT(式(3-1);実験例25)、TP-rBDT(式(2-1);実験例26)、mBP-rBDT(式(2-3);実験例27)、BP-DTT(式(1-2);実験例28)およびキナクリドン(下記式(15);実験例29)に変えた以外は、上記実験例24と同様の方法を用いて光電変換素子(実験例25~29)を作製した。
【0213】
【化32】
【0214】
なお、BP-sBDT(式(3-1))、TP-rBDT(式(2-1))およびmBP-rBDT(式(2-3))は、以下のようにして合成することができる。
【0215】
【化33】
【0216】
【化34】
【0217】
【化35】
【0218】
(実験例30~35)
更に、有機光電変換層の構成材料を、上記実験例24~29で用いた材料の他に、さらに第3成分としてC60フラーレン(式(5-1))を追加した光電変換素子(実験例30~35)を作製した。
【0219】
実験例24~35の光電変換効率(外部量子効率;EQE)および暗電流を、上記実験1と同様の方法を用いて測定し、評価した。表2は、実験例24~35における各層の材料構成および電気特性(EQEおよび暗電流)をまとめたものである。
【0220】
【表2】
【0221】
表2から以下のことがわかった。まず、一般的に用いられているQDを用いた実験例29および実験例35に対して、カルコゲノアセン系化合物を用いた実験例24~26、30~32では、EQEが著しく改善された。これは、QDおよびカルコゲノアセン系化合物の正孔移動度の違いによると考えられる。
【0222】
上記実験例24~26、30~32における有機光電変換層では、光吸収係数αの大きなサブフタロシアニン誘導体が光を主に吸収する。吸収された光は、サブフタロシアニン誘導体のグレインで励起子を生成し、サブフタロシアニン誘導体のグレインとQDのグレイン、あるいは、サブフタロシアニン誘導体のグレインとカルコゲノアセン系化合物のグレインとの界面に到達する。界面に到達した励起子は、エネルギー差を利用して電荷分離し、キャリア(ホールと、電子)を生成する。生成したキャリアのうち、正孔の輸送を担うのがQD、もしくは、BDT誘導体である。
【0223】
QDおよびBDT誘導体(BP-rBDT(式(2-2)),BP-sBDT(式(3-1)),TP-rBDT(式(2-1))の正孔移動度をSCLC(Space Charge Limited Current)法を用いて測定したところ、以下の結果が得られた。測定方法は、以下の通りである。
【0224】
まず、Pt電極付ガラス基板を、UV/O洗浄を行ったのち、その基板を有機蒸着室に移動し室内を1×10-5Pa以下に減圧した。続いて、基板ホルダーを回転させながら、MoOを0.3Å/secにて、0.8nm製膜した。次いで、昇華精製したQD(または、BP-rBDT,BP-sBDT,TP-rBDT)を、抵抗加熱法によりそれぞれ蒸着速度0.8Å/secに保ちながら合計100nmとなるように蒸着した。続いて、MoOを0.3Å/secにて、3nm製膜した。次に、上部電極として、Auを厚み100nmとなるように蒸着製膜した。下部電極と上部電極とが形成する有機膜の面積は0.5mm×0.5mmとした。暗状態で得られた画素のIVカーブを取得し、SCLCfittingを行い、正孔移動度を求めた。
【0225】
上記方法を用いてQDおよびBDT誘導体(BP-rBDT(式(2-2)),BP-sBDT(式(3-1),TP-rBDT(式(2-1)))の正孔移動度を測定したところ、QDは10-5cm/Vsであったのに対して、BDT誘導体はいずれも10-4cm/Vs以上であり、著しく高い正孔輸送能力を示した。キャリア移動度が遅い場合、一度分離した正孔と電子の再結合が起こりやすくなる。このことから、上記BDT誘導体では、QDと比較して高い外部量子効率を得ることができたものと考えられる。
【0226】
また、BDT誘導体を用いた実験例24~26、30~32は、DTT誘導体(式(1-2))を用いた実験例28および実験例34よりも高いEQEを示した。
【0227】
なお、BDT誘導体およびDTT誘導体のHOMO準位は以下のようにして求めた。まず、ITO基板に、BDT誘導体およびDTT誘導体を、それぞれ、30nm蒸着製膜した。これを、UPS測定によりイオン化ポテンシャルを求め、HOMO準位とした。また、F-SubPc-OCのLUMO準位は、以下のようにして求めた。まず、上記BDT誘導体およびDTT誘導体と同様にしてF-SubPc-OCのHOMO準位を測定したところ-6.5eVであった。また、F-SubPc-OC薄膜からOpticalBandGapを求めたところ、2.0eVであった。以上から、F-SubPc-OCのLUMO準位は、-4.5eVと見積もった。
【0228】
なお、mBP-rBDT(式(2-3))を用いた実験例27および実験例33では、暗電流は優れた特性が得られたものの、EQEは著しく低かった。これは、mBP-rBDTが屈曲した分子形状であり、分子同士のパッキングが起こりにくいことからグレインが大きくならず、共蒸着したサブフタロシアニン誘導体やフラーレンと相溶してしまったためと推測される。ある程度のグレインがないと、電荷分離して生成したキャリア(正孔および電子)は、パーコレーションパスを通って電極に達する前に、速やかに再結合してしまい失活してしまうからである。よって、上記一般式(2)および一般式(3)で表わされるカルコゲノアセン系化合物のR5,R6,R9およびR10は、分子全体として直線状の分子構造をとるもの(例えば、ビフェニル基、ターフェニル基、テルフェニル基、またはその誘導体)が好ましいといえる。
【0229】
図20図23は、それぞれ、実験例24(図20)、実験例30(図21)、実験例25(図22)および実験例31(図23)の可視領域におけるIPCEスペクトル(波長毎のEQE)を表したものである。有機光電変換層をBDT誘導体とF-SubPc-OCとの2元系で構成した実験例24および実験例25では、有機光電変換層をBDT誘導体とF-SubPc-OCとC60との3元系で構成した実験例30および実験例31と同程度の可視領域におけるIPCEスペクトルが得られた。即ち、BDT誘導体を用いて有機光電変換層を形成することで、有機光電変換層を2元系で構成してもシャープな分光形状が得られることがわかった。
【0230】
(実験3:ビフェニル基とターフェニル基との比較)
(実験例36)
まず、下部電極としてITO電極付ガラス基板をUV/オゾン(O)洗浄を行ったのち、この基板を有機蒸着室に移動し室内を1×10-5Pa以下に減圧した。続いて、基板ホルダーを回転させながら、昇華精製したBP-DTT(式(1-2))と、昇華精製を行ったF-SubPc-OC(式(4-1))と、C60(式(5-1))とを抵抗加熱法によりそれぞれ蒸着速度0.8Å/sec、蒸着速度0.8Å/sec、蒸着速度0.4Å/secに保ちながら合計200nmとなるように基板上に蒸着させて有機光電変換層を形成した。このとき、BP-DTTおよびF-SubPc-OCおよびC60の蒸着速度の比率は2:2:1とした。次いで、正孔ブロッキング層として、B4PyMPM(式(11))を蒸着速度0.5Å/secにて5nmの厚みとなるように成膜した。続いて、上部電極としてAl-Si-Cu合金を厚み100nmとなるように蒸着成膜し、1mm×1mmの光電変換領域を有する光電変換素子(実験例36)を作製した。
【0231】
(実験例37~43)
この他、有機光電変換層の構成材料を、BP-DTTからTP-DTT(式(1-11);実験例37))、BP-rBDT(式(2-2);実験例38)、TP-rBDT(式(2-1);実験例39)に変えた以外は、上記実験例36と同様の方法を用いて光電変換素子(実験例37~39)を作製した。更に、上記実験例36~39で用いたC60フラーレン(式(5-1))を除いた以外は、上記実験例36~39と同様の構成を有する光電変換素子(実験例40~43)を作製した。
【0232】
なお、TP-DTT(式(1-11)は、以下のようにして合成することができる。
【0233】
【化36】
【0234】
実験例36~43の電気特性(EQE、暗電流および応答性)を評価した。EQEおよび暗電流については、上記実験1と同様の方法を用いて測定し、評価した。応答性の評価は、半導体パラメータアナライザを用いて光照射時に観測される明電流値が、光照射を止めてから立ち下がる速さを測定することによって行った。具体的には、フィルタを介して光源から光電変換素子に照射される光の光量を1.62μW/cmとし、電極間に印加されるバイアス電圧を-2.6Vとした。この状態で定常電流を観測した後、光照射を止めて電流が減衰していく様子を観測した。続いて、電流-時間曲線と暗電流で囲まれる面積を100%とし、この面積が3%に相当するまでの時間を応答性の指標とした。表3は、実験例36~43における各層の材料構成および電気特性(EQE、暗電流および応答性)をまとめたものである。なお、応答性については、実験例43を基準(100)とする相対値として示した。
【0235】
【表3】
【0236】
表3から、以下のことがわかった。上記一般式(1)および一般式(2)においてR1,R2,およびR5,R6にビフェニル基を有するBP-DTT(式(1-2);実験例36,40)、BP-rBDT(式(2-2);実験例38,42)と、ターフェニル基を有するTP-DTT(式(1-11);実験例37,41)、TP-rBDT(式(2-1);実験例39,43)とでは、EQE、暗電流および応答性共に、ターフェニル基を有するDTT誘導体またはBDT誘導体を用いた方が優れた結果が得られた。
【0237】
これは、ビフェニル基と比較してターフェニル基の方が、分子同士のパッキング特性が改善し、これにより、結晶欠陥の少ないグレインを形成しやすくなったからと考えられる。よって、本開示の光電変換素子10A,10Bでは、有機光電変換層17,27を構成する上記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)の中でも、R1,R2,R5,R6,R9およびR10がターフェニル基、特に、p-ターフェニル基によって置換されているものが好ましいといえる。
【0238】
(実験4:BDT系誘導体の硫黄置換体と酸素置換体の比較)
(実験例44)
まず、下部電極としてITO電極付ガラス基板をUV/オゾン(O)洗浄を行ったのち、この基板を有機蒸着室に移動し室内を1×10-5Pa以下に減圧した。続いて、基板ホルダーを回転させながら、昇華精製したBP-rBDF(式(7-1))と、昇華精製を行ったF-SubPc-OC(式(4-1))と、C60(式(5-1))とを抵抗加熱法によりそれぞれ蒸着速度0.8Å/sec、0.8Å/sec、0.4Å/secに保ちながら合計200nmとなるように基板上に蒸着させて有機光電変換層を形成した。このとき、BP-rBDF、F-SubPc-OCおよびC60の蒸着速度の比率は2:2:1とした。次いで、正孔ブロッキング層として、B4PyMPM(式(11))を蒸着速度0.5Å/secにて5nmの厚みとなるように成膜した。続いて、上部電極としてAl-Si-Cu合金を厚み100nmとなるように蒸着成膜し、1mm×1mmの光電変換領域を有する光電変換素子(実験例44)を作製した。
【0239】
(実験例45)
実験例44で用いたC60フラーレン(式(5-1))を除いた以外は、上記実験例44と同様の構成を有する光電変換素子(実験例45)を作製した。
【0240】
なお、BP-rBDF(式(7-1))は、以下のようにして合成することができる。
【0241】
【化37】
【0242】
実験例44,45の電気特性(EQE、暗電流および応答性)を評価した。EQEおよび暗電流については、上記実験1と同様の方法を用いて測定し、評価した。応答性の評価は、半導体パラメータアナライザを用いて光照射時に観測される明電流値が、光照射を止めてから立ち下がる速さを測定することによって行った。具体的には、フィルタを介して光源から光電変換素子に照射される光の光量を1.62μW/cm2とし、電極間に印加されるバイアス電圧を-2.6Vとした。この状態で定常電流を観測した後、光照射を止めて電流が減衰していく様子を観測した。続いて、電流-時間曲線と暗電流で囲まれる面積を100%とし、この面積が3%に相当するまでの時間を応答性の指標とした。表4は、実験例44~45における各層の材料構成および電気特性(EQE、暗電流および応答性)をまとめたものである。なお、応答性については、実験例43を基準(100)とする相対値として示した。
【0243】
【表4】
【0244】
実験例38と実験例44および実験例42と実験例45との比較から以下のことがわかった。カルコゲン元素として酸素(O)を有するBP-rBDF(式(7-1))を用いた実験例44では、カルコゲン元素として硫黄(S)を有するBP-rBDT(式(2-2))を用いた実験例38と比べて同等レベルのEQE、やや高い暗電流および高速な応答性が得られた。同様にBP-rBDF(式(7-1))を用いた実験例45においても、BP-rBDT(式(2-2))を用いた実験例42と比べて、実験例44と同様の傾向が見られた。
【0245】
カルコゲン元素として酸素(O)を有するBP-rBDF(式(7-1))の方が、カルコゲン元素として硫黄(S)を有するBP-rBDT(式(2-2))よりも高速な応答が得られた理由は、非特許文献(J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 5448-5451)にて一例が報告されている。即ち、酸素原子の方が硫黄原子よりもイオン半径が小さいために、分子が配列した際の分子間の距離が近くなり、その結果、分子間のトランスファー積分が高くなったことで、移動度が高くなったためと考えられる。実際に先に記したSCLC法により、実験例38,42,44,45の光電変換素子の正孔移動度を測定したところ、BP-rBDFの方(実験例44および実験例45)が、対応するBP-rBDT(実験例38および実験例42)よりも、2~5倍程度、高い移動度を示した。以上より、応答性の観点では、カルコゲン元素として酸素(O)を有するBP-rBDF(式(7-1))の方が、カルコゲン元素として硫黄(S)を有するBP-rBDT(式(2-2))よりも優れているといえる。
【0246】
以上、第1,第2の実施の形態および変形例ならびに実施例を挙げて説明したが、本開示内容は上記実施の形態等に限定されるものではなく、種々変形が可能である。例えば、上記第1の実施の形態では、光電変換素子として、緑色光を検出する有機光電変換部11Gと、青色光,赤色光をそれぞれ検出する無機光電変換部11Bおよび無機光電変換部11Rとを積層させた構成としたが、本開示内容はこのような構造に限定されるものではない。即ち、有機光電変換部において赤色光あるいは青色光を検出するようにしてもよいし、無機光電変換部において緑色光を検出するようにしてもよい。
【0247】
また、これらの有機光電変換部および無機光電変換部の数やその比率も限定されるものではなく、2以上の有機光電変換部を設けてもよいし、有機光電変換部だけで複数色の色信号が得られるようにしてもよい。更に、有機光電変換部および無機光電変換部を縦方向に積層させる構造に限らず、基板面に沿って並列させてもよい。
【0248】
更にまた、上記実施の形態等では、裏面照射型の固体撮像装置の構成を例示したが、本開示内容は表面照射型の固体撮像装置にも適用可能である。また、本開示の光電変換素子では、上記実施の形態で説明した各構成要素を全て備えている必要はなく、また逆に他の層を備えていてもよい。
【0249】
なお、本明細書中に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また、他の効果があってもよい。
【0250】
なお、本開示は、以下のような構成であってもよい。
[1]
対向配置された第1電極および第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられると共に、下記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)のいずれかで表わされ、-6.6eV以上-4.8eV以下のHOMO準位を有する多環式芳香族化合物を少なくとも1種含んでいる光電変換層と
を備えた光電変換素子。
【化1】
(Xは、酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)およびテルル(Te)のうちのいずれかである。R1~R12は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐,または環状アルキル基、アリール基、またはその誘導体である。隣り合う任意のR1~R12は、互いに結合して縮合脂肪族環または縮合芳香環を形成していてもよい。前記縮合脂肪族環または縮合芳香環は、窒素(N)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)のうちの1または複数の原子を含んでいてもよい。)
[2]
前記アリール基は、炭素数6以上60以下のフェニル基、ビフェニル基、トリフェニル基、ターフェニル基、スチルベン基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、ピレニル基、ペリレニル基、テトラセニル基、クリセニル基、フルオレニル基、アセナフタセニル基、トリフェニレン基、フルオランテン基、またはその誘導体である、前記[1]に記載の光電変換素子。
[3]
前記R1,R2,R5,R6,R9,R10は、各々独立して、ビフェニル基、ターフェニル基、テルフェニル基、またはその誘導体である、前記[1]または[2]に記載の光電変換素子。
[4]
前記R3,R4,R7,R8,R11,R12は、水素原子である、前記[1]乃至[3]のうちのいずれかに記載の光電変換素子。
[5]
前記光電変換層は、500nm以上600nm以下の波長域に極大吸収波長を有する有機半導体材料を含む、前記[1]乃至[4]のうちのいずれかに記載の光電変換素子。
[6]
前記有機半導体材料は、サブフタロシアニンまたはサブフタロシアニン誘導体を少なくとも1種含む、前記[5]に記載の光電変換素子。
[7]
前記光電変換層は、さらにC60フラーレンまたはその誘導体およびC70フラーレンまたはその誘導体を少なくとも1種含む、前記[1]乃至[6]のうちのいずれかに記載の光電変換素子。
[8]
前記光電変換層に含まれる前記多環式芳香族化合物は、37.5体積%以上60体積%以下である、前記[1]乃至[7]のうちのいずれかに記載の光電変換素子。
[9]
各画素が1または複数の有機光電変換部を含み、
前記有機光電変換部は、
対向配置された第1電極および第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられると共に、下記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)のいずれかで表わされ、-6.6eV以上-4.8eV以下のHOMO準位を有する多環式芳香族化合物を少なくとも1種含んでいる光電変換層と
を備えた固体撮像装置。
【化2】
(Xは、酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)およびテルル(Te)のうちのいずれかである。R1~R12は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐,または環状アルキル基、アリール基、またはその誘導体である。隣り合う任意のR1~R12は、互いに結合して縮合脂肪族環または縮合芳香環を形成していてもよい。前記縮合脂肪族環または縮合芳香環は、窒素(N)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)のうちの1または複数の原子を含んでいてもよい。)
[10]
各画素では、1または複数の前記有機光電変換部と、前記有機光電変換部とは異なる波長域の光電変換を行う1または複数の無機光電変換部とが積層されている、前記[9]に記載の固体撮像装置。
[11]
前記無機光電変換部は、半導体基板内に埋め込み形成され、
前記有機光電変換部は、前記半導体基板の第1面側に形成されている、前記[10]に記載の固体撮像装置。
[12]
前記半導体基板の第2面側に多層配線層が形成されている、前記[11]に記載の固体撮像装置。
[13]
前記有機光電変換部が緑色光の光電変換を行い、
前記半導体基板内に、青色光の光電変換を行う無機光電変換部と、赤色光の光電変換を行う無機光電変換部とが積層されている、前記[11]または[12]に記載の固体撮像装置。
[14]
各画素では、互いに異なる波長域の光電変換を行う複数の前記有機光電変換部が積層されている、前記[9]乃至[13]のうちのいずれかに記載の固体撮像装置。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23