(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130735
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】連続的な増幅反応のための方法および装置
(51)【国際特許分類】
C12P 19/34 20060101AFI20220830BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20220830BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
C12P19/34 Z
C12Q1/686 Z
C12M1/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】29
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110404
(22)【出願日】2022-07-08
(62)【分割の表示】P 2020002250の分割
【原出願日】2007-05-01
(31)【優先権主張番号】60/796,804
(32)【優先日】2006-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】11/742,028
(32)【優先日】2007-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】500065565
【氏名又は名称】セフィード
【氏名又は名称原語表記】CEPHEID
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ・エイチ・スミス
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド・エイチ・パーシン
(72)【発明者】
【氏名】アラン・ウォートマン
(72)【発明者】
【氏名】ロナルド・チャン
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド・スウェンソン
(57)【要約】
【課題】複数の配列の迅速な増幅を必要とする用途に有用な、多段階の核酸増幅反応を行うための方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、流体的に閉じたシステムにおいて、反応混合物を充填する工程、増幅する工程および使用済みの反応混合物を除去する工程の連続したサイクルにより、単一の反応チャンバー内で複数の増幅反応を行うための方法および装置を提供する。具体的には、本発明は、閉ループ制御下で、サンプルの異なる部分からの異なる標的ポリヌクレオチドの連続的な増幅を行うことにより、単一のサンプルから複数の標的ポリヌクレオチドの増幅を可能にする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の連続的な増幅反応を制御する方法であって、該方法は、以下:
(a)反応チャンバー内に配置された反応混合物において、インジケーターの存在下で、標的ポリヌクレオチドを増幅する工程であって、該インジケーターは、該増幅反応における該標的ポリヌクレオチドの単位複製配列の量に関連する光学シグナルを生成し得る、工程;
(b)該反応混合物中の該インジケーターの該光学シグナルを監視する工程;
(c)該光学シグナルが所定のレベルに到達するかもしくは該所定のレベルを超える度に、該反応チャンバーから該反応混合物を自動的に除去し、そして、該反応チャンバーに次の反応混合物を充填する工程;および
(d)該複数の増幅反応が行われるまで、工程(a)~(c)を繰り返す工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記複数の連続的な増幅反応が、サンプルから前記標的ポリヌクレオチドを増幅し、そして、工程(a)の反応混合物の各々は、該サンプルの一部と増幅試薬とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応チャンバーが、流体的に閉じた反応システム内にあり、そして、工程(c)の各々は、前記光学シグナルが前記所定のレベルに到達したかもしくは該所定のレベルを超えた後に、前記除去された反応混合物を廃液レザバへと流体的に移動させる工程を包含する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程(c)の各々は、前記反応混合物を除去した後に前記反応チャンバーを洗浄溶液ですすぎ、そして、該洗浄溶液を前記廃液レザバへと流体的に移動させる工程を包含する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程(c)の各々は、前記反応チャンバーから前記反応混合物を除去する工程の後でありかつ、前記次の反応混合物を充填する工程の前に、該反応チャンバー内に空気を入れて、該反応チャンバーをDNAの変性温度以上の温度まで加熱する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記反応チャンバーをDNAの変性温度以上の温度まで加熱する工程の後に、該反応チャンバーをDNAのアニーリング温度まで冷却する工程をさらに包含する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
サンプルにおいて複数の標的ポリヌクレオチドの存在または非存在を決定する方法であって、該方法は、以下:
(a)流体的に閉じた反応システム内に反応チャンバーを提供する工程;
(b)該サンプルの一部と増幅試薬とを混合して、反応混合物を形成する工程;
(c)該反応チャンバーにおいて、該反応混合物中の1種以上の標的ポリヌクレオチドを増幅して、1種以上の単位複製配列を形成する工程;
(d)該1種以上の単位複製配列を検出して、該サンプルにおける該1種以上の標的ポリヌクレオチドの存在または非存在を決定する工程;および
(e)該複数の標的ヌクレオチドの存在または非存在が決定されるまで、工程(b)~(d)を繰り返す工程
を包含する、方法。
【請求項8】
前記検出する工程の後に、前記反応チャンバーから廃液レザバへと前記反応混合物を流体的に移動させる工程をさらに包含する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記流体的に移動させる工程の後に、前記反応チャンバーを洗浄溶液で洗浄し、そして、該洗浄溶液を廃液レザバへと移動させる工程をさらに包含する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記混合する工程が、反応物レザバ内に前記反応混合物を形成し、該反応混合物を前記反応チャンバーへと流体的に移動させる工程を包含する、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記増幅する工程が、ポリメラーゼ連鎖反応により行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記サンプルの一部が、前記反応チャンバー内に前記反応混合物を形成するために前記増幅試薬と混合される、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記繰り返す工程が、以下:
(i)前記反応混合物中のインジケーターの光学シグナルを監視する工程であって、該光学シグナルが、該反応混合物中の少なくとも一種の前記標的ポリヌクレオチドの単位複製配列の量、または、該反応混合物中の内部標準の量に関連している、工程:および
(ii)該光学シグナルが所定のレベルに到達するかもしくは該所定のレベルを超える度に、前記反応チャンバーから該反応混合物を自動的に除去し、そして、該反応チャンバーに次の反応混合物を充填する工程
を包含する、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記反応チャンバーから前記反応混合物を除去する工程の後でありかつ、前記次の反応混合物を充填する工程の前に、該反応チャンバー内に空気を入れて、該反応チャンバーをDNAの変性温度以上の温度まで加熱する工程をさらに包含する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記反応チャンバーをDNAの変性温度以上の温度まで加熱する工程の後に、該反応チャンバーをDNAのアニーリング温度まで冷却する工程をさらに包含する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
サンプルにおいて複数の標的ポリヌクレオチドの存在または非存在を決定する方法であって、該方法は、以下:
廃液レザバ、サンプルを含有するサンプルレザバ、第一の増幅試薬を含有する第一の反応物レザバ、および第二の増幅試薬を含有する第二の反応物レザバと選択的に流体的に連絡する反応チャンバーを提供する工程であって、該レザバの各々は、流体的に閉じている、工程;
該サンプルの第一の部分と該第一の増幅試薬とを合わせて、第一の反応混合物を形成する工程;
該第一の反応混合物を、該反応チャンバー内での増幅反応条件に供して、該サンプル中に1種以上の該標的ポリヌクレオチドが存在する場合にはいつでも、該1種以上の標的ポリヌクレオチドの第一の単位複製配列を生成する工程;
該第一の反応混合物を該廃液レザバへと流体的に移動させる工程;
該サンプルの第二の部分と該第二の増幅試薬とを合わせて、第二の反応混合物を形成する工程;ならびに
該第二の反応混合物を、該反応チャンバー内での増幅反応条件に供して、該サンプル中に1種以上の標的ポリヌクレオチドが存在する場合にはいつでも、該1種以上の標的ポリヌクレオチドの第二の単位複製配列を生成する工程
を包含し、該第一の単位複製配列と該第二の単位複製配列との検出は、該サンプルにおける該複数の標的ポリヌクレオチドの存在または非存在を決定する、方法。
【請求項17】
前記第一の反応混合物を前記廃液レザバへと流体的に移動させる工程の後に、前記反応チャンバーをすすぐ工程をさらに包含する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第一の反応混合物を前記廃液レザバへと流体的に移動させる工程が、以下:
(i)前記第一の反応混合物中のインジケーターの光学シグナルを監視する工程であって、該光学シグナルが、該第一の反応混合物中の少なくとも一種の前記標的ポリヌクレオチドの単位複製配列の量、または、該第一の反応混合物中の内部標準の量に関連している、工程:および
(ii)該光学シグナルが所定のレベルに到達するかもしくは該所定のレベルを超える度に、前記反応チャンバーから該廃液レザバへと該第一の反応混合物を自動的に流体的に移動させる工程
を包含する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記廃液レザバへと前記第一の反応混合物を流体的に移動させる工程の後に、前記反応チャンバー内に空気を入れて、該反応チャンバーをDNAの変性温度以上の温度まで加熱する工程をさらに包含する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記DNAの変性温度が、約90℃~99℃の範囲であり、そして、前記加熱する工程の後に、前記反応チャンバーが、DNAのアニーリング温度まで冷却される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記サンプルの前記第一の部分と、前記第一の増幅試薬とを合わせる工程が、該サンプルの該第一の部分を前記第一の反応物レザバへと流体的に移動させて前記第一の反応混合物を形成し、そして、該第一の反応物レザバから前記反応チャンバーへと該第一の反応混合物を流体的に移動させる工程を包含する、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記サンプルの前記第二の部分と、前記第二の増幅試薬とを合わせる工程が、該サンプルの該第二の部分を前記第二の反応物レザバへと流体的に移動させて前記第二の反応混合物を形成し、そして、該第二の反応物レザバから前記反応チャンバーへと該第二の反応混合物を流体的に移動させる工程を包含する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記増幅反応の各々が、ポリメラーゼ連鎖反応である、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
複数の連続的な増幅反応を行うための流体的に閉じた反応システムであって、該システムは、以下:
サンプルレザバ、廃液レザバ、および、異なる増幅試薬を含有する複数の反応物レザバと選択的に流体的に連絡する反応チャンバーであって、該レザバの各々は、流体的に閉じている、反応チャンバー;ならびに
以下:
(a)該廃液レザバからサンプルの一部を、そして、少なくとも1つの該反応物レザバから増幅試薬を、該反応チャンバーへと流体的に移動させる工程であって、該反応チャンバーにおいて増幅反応が起こり、反応混合物中に1種以上の単位複製配列を形成する、工程;
(b)該1種以上の単位複製配列が検出された後に、該反応チャンバーから該反応混合物を除去し、そして、該反応混合物を該廃液レザバへと流体的に移動させる工程
の繰り返しサイクルを行うための、回転弁と作動可能に関連付けられたポンプ
を備える、システム。
【請求項25】
前記ポンプが、前記反応混合物中のインジケーターの光学シグナルを監視する検出器と作動可能に関連付けられており、該光学シグナルが、該反応混合物中の1種以上の単位複製配列または内部標準のうち少なくとも一方の量に関連していることにより、該光学シグナルが所定のレベルに到達するかまたは該所定のレベルを超える度に、該ポンプが自動的に、該反応混合物を前記反応チャンバーから前記廃液レザバへと流体的に移動させる、請求項24に記載の流体的に閉じた反応システム。
【請求項26】
前記反応チャンバーと選択的に流体的に連絡した、洗浄溶液を含有する洗浄レザバをさらに備え、前記サイクルの各々が、該洗浄レザバから該反応チャンバーへと洗浄溶液を流体的に移動させ、該洗浄溶液を該反応チャンバーから前記廃液レザバへと流体的に移動させることによって、該反応チャンバーを洗浄する工程をさらに包含する、請求項24に記載の流体的に閉じた反応システム。
【請求項27】
前記増幅反応の各々が、ポリメラーゼ連鎖反応であり、前記インジケーターが蛍光インジケーターである、請求項25に記載の流体的に閉じた反応システム。
【請求項28】
複数の連続的な増幅反応の性能を制御するためにコンピュータによって実行するためのプログラムを収録するコンピュータ読み取り可能な製品であって、該プログラムは、以下:
(a)反応チャンバーにおける増幅反応からの光学シグナルの値を読み取る工程であって、該光学シグナルは、該増幅反応における単位複製配列の濃度に単調に関連しており、該光学シグナルの該値は、最新の値を有する、工程;
(b)該光学シグナルの該値から基線のシグナルレベルを決定する工程;
(c)該光学シグナルの該値から所定の値を計算する工程;
(d)該所定の値と、該光学シグナルの該最新の値とを比較する工程;および
(e)該光学シグナルの該最新の値が該所定のレベル以上になるまで工程(d)を繰り返す工程であって、該光学シグナルの該最新の値が該所定のレベル以上になると、次の増幅反応が開始される、工程
のための命令を包含する、製品。
【請求項29】
順番に行われる複数の増幅反応によって微生物の存在または非存在を決定する方法であって、該方法は、以下:
(a)反応チャンバー内に配置された反応混合物中で、インジケーターの存在下でサンプルの一部から1種以上の標的ポリヌクレオチドを増幅する工程であって、該インジケーターが、該増幅反応における該標的ポリヌクレオチドの単位複製配列の量に関連する光学シグナルを生成し得る、工程;
(b)該反応混合物中の該インジケーターの該光学シグナルを監視する工程;
(c)該光学シグナルが所定のレベルに到達するかもしくは該所定のレベルを超えると、該反応チャンバーから該反応混合物を自動的に除去し、そして、該反応チャンバーに次の反応混合物を移動させるか、そうでなければ、該増幅反応の連続を自動的に終結させる工程;および
(d)一連の該増幅反応が行われるか、または、一連の該増幅反応が終結されるまで、工程(a)~(c)を繰り返す工程
を包含する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照) 本願は、2006年5月1日に出願された米国仮出願第60/796,804号の利益を主張する、2007年4月30日に出願された米国出願第11/742,028号の継続出願であり、これらの各々は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
政府による支援を受けた研究または開発の下なされた発明に対する権利に関する陳述
適用なし。
【0003】
コンパクトディスクにて提出した「配列表」、表またはコンピュータプログラムの付表に対する参照
適用なし。
【0004】
(発明の分野)
本発明は、一般に、1以上の核酸の存在についてサンプルを解析するための方法に関し、より具体的には、多段階の核酸増幅反応(特に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR))を行うための方法に関する。
【背景技術】
【0005】
(発明の背景)
核酸増幅は、研究、医薬および産業において使用される多くの技術のきわめて重大な構成要素である。このような反応は、臨床および生物学の研究、感染病の検出および監視、変異の検出、癌マーカーの検出、環境モニタリング、遺伝的同定、生体防御の用途における病原体の検出などにおいて使用される。例えば、非特許文献1;非特許文献2。特に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、ウイルスおよび細菌の検出、ウイルス量の監視、癌患者における最小残存性疾患、血液供給スクリーニングなどを含め、全てのこれらの領域における用途が見出されている。例えば、非特許文献3;非特許文献4。PCRに関し、このような広範囲にわたる用途の主たる理由は、その使用の速さと容易さ(代表的には、標準的なキットと比較的単純かつ低コストの機器を用いて、数時間以内で行われる)、その感度(しばしば、サンプル中の20~30コピーの標的配列が検出され得る)、およびその頑健性(法医学サンプルまたは固定組織サンプルのような質の悪いサンプルまたは保存サンプルが容易に解析される)である。非特許文献5。
【0006】
これらの利点に起因して、同じ生物学的サンプルから複数の標的ポリヌクレオチドに適合するための拡張された増幅技術における関心が存在する。以下に挙げるいくつかのアプローチが取られている:(i)単一の反応において複数の増幅を同時に行うこと、例えば、多重PCR(例えば、Caskeyら、特許文献1;非特許文献6;非特許文献7に記載される);(ii)異なる反応物に対し都合の良くなるように反応条件を中間で調節することにより、単一反応において複数の増幅を連続的に行うこと(例えば、非特許文献8);ならびに(iii)しばしば、マイクロ流体デバイスを用いる、別々の増幅のためにいくつかの反応チャンバーにサンプルの一部を分注すること(例えば、Cottingham、特許文献2;Mamaroら、特許文献3;Enzelbergerら、特許文献4;非特許文献9;Woudenbergら、特許文献5;非特許文献10;Andersonら、特許文献6に記載される)、など。第一のアプローチは、異なるプライマーおよび標的配列のような全ての反応物がほぼ同じ速度で増幅される反応条件を見出す困難さに起因して、慣用的には実行困難であることがわかっている。第二のアプローチは、広範な種々の量の数種の配列の迅速な増幅が必要とされている場合に、幾分の成功は見られるものの;異なる配列の差別的な増幅を達成するためには、利用可能な反応パラメーターに対し、扱うには厳しい制約が存在する。第三のアプローチは、複数の増幅反応が単一のサンプルに対して行われることを可能にする可能性があるものの;微小流体デバイスは、一般に、製造が難しく、そして、その広範にわたる用途を妨げる、複雑な弁配置(valving)と流体分布ネットワークとを必要とする。
【0007】
さらに、手術内のサンプルの検査(intraoperation sample testing)、ならびに、感染性因子および生体防御の検査などの特定の用途において、偽陽性の評価の出現を最小限にするために、流体的に閉じた反応条件を用いることが重要である。複数の標的ポリヌクレオチドを解析するための上記アプローチは、各々が反応条件の選択に対して妥協を強いる結果、概して、反応のための最適な条件のセットが個々の標的に最適ではない可能性があるか、または、反応が開始された後に反応へのアクセスが必要であったり、または、サンプルを導入するために複数のポートを用いることで、汚染の機会が増える、などの問題のいずれかにより、あるレベルの難題を持ち込んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,582,989号明細書
【特許文献2】米国特許第5,948,673号明細書
【特許文献3】米国特許第6,605,451号明細書
【特許文献4】米国特許第6,960,437号明細書
【特許文献5】米国特許第6,126,899号明細書
【特許文献6】米国特許第6,168,948号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Schweitzerら、Current Opinion in Biotechnology,12:21-27(2001)
【非特許文献2】Koch,Nature Reviews Drug Disco very,3:749-761(2004)
【非特許文献3】Mackay,Clin.Microbiol.Infect., 10:190-212(2004)
【非特許文献4】Bernardら、Clinical Chemistry,48 :1178-1185(2002)
【非特許文献5】Strachan およびRead,Human Molecul ar Genetics 第2版(John Wiley & Sons,New York,1999)
【非特許文献6】Elnifroら、Clinical Microbiology Reviews,13:559-570(2000)
【非特許文献7】Henegariuら、BioTechniques,23:50 4-511(1997)
【非特許文献8】Rajaら、Clinical Chemistry,48:13 29-1337(2002)
【非特許文献9】Liuら、Anal.Chem.,75:4718-4723(2 003)
【非特許文献10】Gulliksenら、Anal.Chem.,76:9-14 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらの問題の観点から、このような操作に、現在の技術の欠点を持たないさらなる方法が利用可能である場合、複数の配列の迅速な増幅を必要とする用途に大いに有用である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明の要旨)
本発明は、流体的に閉じた反応システムにおいて、反応混合物の充填、増幅、および使用済み反応混合物の除去の連続したサイクルにより、単一の反応チャンバー内で複数の増幅反応を行うための方法および装置を提供する。特に、本発明は、サンプルの異なる部分から異なる標的ポリヌクレオチドの連続的な増幅を行うことによって、単一のサンプルから複数の標的ポリヌクレオチドの増幅を可能にする。
【0012】
一局面では、本発明は、以下の工程を包含する複数の連続的な増幅反応を制御する方法を提供する:(a)反応チャンバー内に配置された反応混合物において、インジケーターの存在下で、標的ポリヌクレオチドを増幅する工程であって、このインジケーターは、増幅反応における標的ポリヌクレオチドの単位複製配列の量に関連する光学シグナルを生成し得る、工程;(b)反応混合物中のインジケーターの光学シグナルを監視する工程;(c)光学シグナルが所定のレベルに到達するかもしくは所定のレベルを超える度に、反応チャンバーから反応混合物を自動的に除去し、そして、反応チャンバーに次の反応混合物を充填する工程;および(d)複数の増幅反応が行われるまで、工程(a)~(c)を繰り返す工程。
【0013】
別の局面では、本発明は、以下の工程:(i)廃液レザバ、サンプルを含有するサンプルレザバ、第一の増幅試薬を含有する第一の反応物レザバ、および第二の増幅試薬を含有する第二の反応物レザバと選択的に流体的に連絡する反応チャンバーを提供する工程であって、レザバの各々は、流体的に閉じている、工程;(ii)サンプルの第一の部分と第一の増幅試薬とを合わせて、第一の反応混合物を形成する工程;(iii)第一の反応混合物を、反応チャンバー内での増幅反応条件に供して、サンプル中に1種以上の標的ポリヌクレオチドが存在する場合にはいつでも、1種以上の標的ポリヌクレオチドの第一の単位複製配列を生成する工程;(iv)第一の反応混合物を廃液レザバへと流体的に移動させる工程;(v)サンプルの第二の部分と第二の増幅試薬とを合わせて、第二の反応混合物を形成する工程;ならびに(vi)第二の反応混合物を、反応チャンバー内での増幅反応条件に供して、サンプル中に1種以上の標的ポリヌクレオチドが存在する場合にはいつでも、1種以上の標的ポリヌクレオチドの第二の単位複製配列を生成する工程を包含する、サンプルにおいて複数の標的ポリヌクレオチドの存在または非存在を決定する方法であって、ここで、第一の単位複製配列と第二の単位複製配列との検出は、サンプルにおける複数の標的ポリヌクレオチドの存在または非存在を決定する、方法を提供する。
【0014】
なお別の局面では、本発明は、以下を備える、複数の連続的な増幅反応を行うための流体的に閉じた反応システムを包含する:(i)サンプルレザバ、廃液レザバ、および、異なる増幅試薬を含有する複数の反応物レザバと選択的に流体的に連絡する反応チャンバーであって、レザバの各々は、流体的に閉じている、反応チャンバー;ならびに(ii)以下、(a)廃液レザバからサンプルの一部を、そして、少なくとも1つの反応物レザバから増幅試薬を、反応チャンバーへと流体的に移動させる工程であって、反応チャンバーにおいて増幅反応が起こり、反応混合物中に1種以上の単位複製配列を形成する、工程;(b)1種以上の単位複製配列が検出された後に、反応チャンバーから反応混合物を除去し、そして、反応混合物を廃液レザバへと流体的に移動させる工程、の繰り返しサイクルを行うための、回転弁と作動可能に関連付けられたポンプ。
【0015】
なお別の局面では、本発明は、複数の連続的な増幅反応の性能を制御するためにコンピュータによって実行可能なプログラムを収録するコンピュータ読み取り可能な製品を包含する。このプログラムは、以下の工程のための命令を包含する:(a)増幅反応チャンバーからの光学シグナルの値を読み取る工程であって、このシグナルは、増幅反応における単位複製配列の濃度に単調に関連する、最新の値である、工程;(b)光学シグナルの値から基線のシグナルレベルを決定する工程;(c)光学シグナルの値から所定の値を計算する工程;(d)所定の値と、光学シグナルの最新の値とを比較する工程;および(e)光学シグナルの最新の値が所定のレベル以上になるまで工程(d)を繰り返す工程であって、光学シグナルの最新の値が所定のレベル以上になると、次の増幅反応が開始される、工程。
【0016】
さらになお別の局面では、本発明は、順番に行われる複数の増幅反応によって微生物の存在または非存在を決定する方法を包含する。この方法は、以下の工程を包含する:(a)反応チャンバー内に配置された反応混合物において、標的ポリヌクレオチドの単位複製配列の量に関連する光学シグナルを生成し得るインジケーターの存在下で、サンプルの一部から1種以上の標的ポリヌクレオチドを増幅する工程;(b)反応混合物中のインジケーターの光学シグナルを監視する工程;(c)光学シグナルが所定のレベルに到達するかもしくは所定のレベルを超えると、反応チャンバーから反応混合物を自動的に除去し、そして、反応チャンバーに次の反応混合物を移動させるか、そうでなければ、増幅反応の連続を自動的に終結させる工程。工程(a)~(c)は、増幅反応の連続が行われるか、または、増幅反応の連続が終結されるまで、繰り返される。
【0017】
別の局面では、上記方法および装置は、流体的に移動させる工程の後に反応チャンバーをすすぐ工程もしくはそのための手段、ならびに/または、連続反応の間に、空の反応チャンバーをDNAの変性温度まで加熱する工程もしくはそのための手段、および、空の反応チャンバーをDNAのアニーリング温度まで冷却する工程もしくはそのための手段をさらに包含する実施形態を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】
図1A~1Bは、リアルタイムPCRのような増幅反応についてのシグナル対サイクル数(または反応時間)の曲線を示す。
【
図1B】
図1A~1Bは、リアルタイムPCRのような増幅反応についてのシグナル対サイクル数(または反応時間)の曲線を示す。
【
図1C】
図1Cは、本発明の方法を実行するための装置の概略図である。
【
図2A】
図2A~2Kは、回転弁とピストン型の流体ポンプとを採用する流体的に閉じた反応システムにおける連続的な増幅反応の実行を概略的に示す。
【
図2B】
図2A~2Kは、回転弁とピストン型の流体ポンプとを採用する流体的に閉じた反応システムにおける連続的な増幅反応の実行を概略的に示す。
【
図2C】
図2A~2Kは、回転弁とピストン型の流体ポンプとを採用する流体的に閉じた反応システムにおける連続的な増幅反応の実行を概略的に示す。
【
図2D】
図2A~2Kは、回転弁とピストン型の流体ポンプとを採用する流体的に閉じた反応システムにおける連続的な増幅反応の実行を概略的に示す。
【
図2E】
図2A~2Kは、回転弁とピストン型の流体ポンプとを採用する流体的に閉じた反応システムにおける連続的な増幅反応の実行を概略的に示す。
【
図2F】
図2A~2Kは、回転弁とピストン型の流体ポンプとを採用する流体的に閉じた反応システムにおける連続的な増幅反応の実行を概略的に示す。
【
図2G】
図2A~2Kは、回転弁とピストン型の流体ポンプとを採用する流体的に閉じた反応システムにおける連続的な増幅反応の実行を概略的に示す。
【
図2H】
図2A~2Kは、回転弁とピストン型の流体ポンプとを採用する流体的に閉じた反応システムにおける連続的な増幅反応の実行を概略的に示す。
【
図2I】
図2A~2Kは、回転弁とピストン型の流体ポンプとを採用する流体的に閉じた反応システムにおける連続的な増幅反応の実行を概略的に示す。
【
図2J】
図2A~2Kは、回転弁とピストン型の流体ポンプとを採用する流体的に閉じた反応システムにおける連続的な増幅反応の実行を概略的に示す。
【
図2K】
図2A~2Kは、回転弁とピストン型の流体ポンプとを採用する流体的に閉じた反応システムにおける連続的な増幅反応の実行を概略的に示す。
【
図3A-1】
図3A~3Cは、計器による計測のプロトコールと、Cepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われたメチシリン耐性staphylococcus aureus(MRSA)を検出するための連続的な増幅からの結果とを示す。
【
図3A-2】
図3A~3Cは、計器による計測のプロトコールと、Cepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われたメチシリン耐性staphylococcus aureus(MRSA)を検出するための連続的な増幅からの結果とを示す。
【
図3B】
図3A~3Cは、計器による計測のプロトコールと、Cepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われたメチシリン耐性staphylococcus aureus(MRSA)を検出するための連続的な増幅からの結果とを示す。
【
図3C】
図3A~3Cは、計器による計測のプロトコールと、Cepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われたメチシリン耐性staphylococcus aureus(MRSA)を検出するための連続的な増幅からの結果とを示す。
【
図4A-1】
図4A~4Hは、計器による計測のプロトコールと、非凍結乾燥試薬を用いてCepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われたメチシリン耐性staphylococcus aureus(MRSA)を検出するための連続的な増幅からの結果とを示す。
【
図4A-2】
図4A~4Hは、計器による計測のプロトコールと、非凍結乾燥試薬を用いてCepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われたメチシリン耐性staphylococcus aureus(MRSA)を検出するための連続的な増幅からの結果とを示す。
【
図4B】
図4A~4Hは、計器による計測のプロトコールと、非凍結乾燥試薬を用いてCepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われたメチシリン耐性staphylococcus aureus(MRSA)を検出するための連続的な増幅からの結果とを示す。
【
図4C】
図4A~4Hは、計器による計測のプロトコールと、非凍結乾燥試薬を用いてCepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われたメチシリン耐性staphylococcus aureus(MRSA)を検出するための連続的な増幅からの結果とを示す。
【
図4D】
図4A~4Hは、計器による計測のプロトコールと、非凍結乾燥試薬を用いてCepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われたメチシリン耐性staphylococcus aureus(MRSA)を検出するための連続的な増幅からの結果とを示す。
【
図4E】
図4A~4Hは、計器による計測のプロトコールと、非凍結乾燥試薬を用いてCepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われたメチシリン耐性staphylococcus aureus(MRSA)を検出するための連続的な増幅からの結果とを示す。
【
図4F】
図4A~4Hは、計器による計測のプロトコールと、非凍結乾燥試薬を用いてCepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われたメチシリン耐性staphylococcus aureus(MRSA)を検出するための連続的な増幅からの結果とを示す。
【
図4G】
図4A~4Hは、計器による計測のプロトコールと、非凍結乾燥試薬を用いてCepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われたメチシリン耐性staphylococcus aureus(MRSA)を検出するための連続的な増幅からの結果とを示す。
【
図4H】
図4A~4Hは、計器による計測のプロトコールと、非凍結乾燥試薬を用いてCepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われたメチシリン耐性staphylococcus aureus(MRSA)を検出するための連続的な増幅からの結果とを示す。
【
図5A】
図5Aおよび5Bは、内部コントロール配列の増幅についての反復実験からの結果を示す。
【
図5B】
図5Aおよび5Bは、内部コントロール配列の増幅についての反復実験からの結果を示す。
【
図6A-1】
図6A~6Hは、計器による計測のプロトコールと、Cepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われた反応間加熱工程を伴うRT-PCRからの結果とを示す。
【
図6A-2】
図6A~6Hは、計器による計測のプロトコールと、Cepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われた反応間加熱工程を伴うRT-PCRからの結果とを示す。
【
図6B-1】
図6A~6Hは、計器による計測のプロトコールと、Cepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われた反応間加熱工程を伴うRT-PCRからの結果とを示す。
【
図6B-2】
図6A~6Hは、計器による計測のプロトコールと、Cepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われた反応間加熱工程を伴うRT-PCRからの結果とを示す。
【
図6C-1】
図6A~6Hは、計器による計測のプロトコールと、Cepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われた反応間加熱工程を伴うRT-PCRからの結果とを示す。
【
図6C-2】
図6A~6Hは、計器による計測のプロトコールと、Cepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われた反応間加熱工程を伴うRT-PCRからの結果とを示す。
【
図6D-1】
図6A~6Hは、計器による計測のプロトコールと、Cepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われた反応間加熱工程を伴うRT-PCRからの結果とを示す。
【
図6D-2】
図6A~6Hは、計器による計測のプロトコールと、Cepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われた反応間加熱工程を伴うRT-PCRからの結果とを示す。
【
図6E-1】
図6A~6Hは、計器による計測のプロトコールと、Cepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われた反応間加熱工程を伴うRT-PCRからの結果とを示す。
【
図6E-2】
図6A~6Hは、計器による計測のプロトコールと、Cepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われた反応間加熱工程を伴うRT-PCRからの結果とを示す。
【
図6F-1】
図6A~6Hは、計器による計測のプロトコールと、Cepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われた反応間加熱工程を伴うRT-PCRからの結果とを示す。
【
図6F-2】
図6A~6Hは、計器による計測のプロトコールと、Cepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われた反応間加熱工程を伴うRT-PCRからの結果とを示す。
【
図6G】
図6A~6Hは、計器による計測のプロトコールと、Cepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われた反応間加熱工程を伴うRT-PCRからの結果とを示す。
【
図6H】
図6A~6Hは、計器による計測のプロトコールと、Cepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムにおいて行われた反応間加熱工程を伴うRT-PCRからの結果とを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(定義)
本明細書中で使用される、核酸化学、生化学、遺伝学および分子生物学の用語および記号は、以下のようなその分野の標準的な論文および教科書に従う:例えば、KornbergおよびBaker,DNA Replication,第2版(W.H.Freeman,New York,1992);Lehninger,Biochemistry.第2版(Worth Publishers,New York,1975);StrachanおよびRead,Human Molecular Genetics,第2版(Wiley-Liss,New York,1999);Eckstein編,Oligonucleotides and Analogs:A Practical Approach(Oxford University Press,New York,1991);Gait編,Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach(IRL Press,Oxford,1984);Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版(Cold Spring Harbor Laboratory,1989);など。
【0020】
「単位複製配列(amplicon)」は、ポリヌクレオチド増幅反応の生成物を意味する。すなわち、これは、1以上の出発配列から複製される、ポリヌクレオチド(通常は二本鎖)の集団である。1以上の出発配列は、同じ配列の1以上のコピーであっても、異なる配列の混合物であってもよい。単位複製配列は、種々の増幅反応により生成され得、その増幅反応の生成物は、1以上の標的核酸の複数の複製物である。一般に、単位複製配列を生成する増幅反応は、反応生成物の形成に、反応物(ヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドのいずれか)の、標的配列もしくはその相補体への塩基対形成が必要とされる点で、「鋳型駆動(template-driven)」である。一局面では、鋳型駆動の反応は、核酸ポリメラーゼを用いたプライマー伸長、または、核酸リガーゼを用いたオリゴヌクレオチドのライゲーションである。このような反応としては、以下の参考文献(これらは、本明細書中に参考として援用される)に開示される、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、直鎖ポリメラーゼ反応(linear polymerase reaction)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、鎖置換反応(SDA)、核酸配列ベースの増幅(NASBA)、ローリングサークル増幅(rolling circle amplification:LCA)などが挙げられるがこれらに限定されない:Mullisら、米国特許第4,683,195号;同第4,965,188号;同第4,683,202号;同第4,800,159号(PCR);Gelfandら、米国特許第5,210,015号(「TAQMANTM」プローブを用いたリアルタイムPCR);Wittwerら、米国特許第6,174,670号;Landegrenら、米国特許第4,988,617号(「LCR」);Birkenmeyerら、米国特許第5,427,930号(「gap-LCR」);Kacianら、米国特許第5,399,491号(「NASBA」);Walker、米国特許第5,648,211号;同第5,712,124号(「SDA」);Lizardi、米国特許第5,854,033号;青野ら、日本国特開平4-262799(ローリングサークル増幅);など。一局面では、本発明の単位複製配列は、第一の温度で反応生成物(通常は二本鎖DNA)を変性させる工程、および、第二の温度でポリメラーゼ伸長のためにプライマーをアニーリングさせる工程の繰り返しの工程を包含する、温度循環式増幅反応において生成される。特に関心のある温度循環式増幅反応は、PCRである。増幅反応は、増幅反応の進行とともに、反応生成物が測定されることを可能にする検出化学が利用可能である場合、「リアルタイム」の増幅であり得、例えば、以下に記載される「リアルタイムPCR」またはLeoneら、Nucleic Acids Research,26:2150-2155(1998)および同様の参考文献に記載される「リアルタイムNASBA」であり得る。本明細書中で使用される場合、用語「増幅する」とは、増幅反応を行うことを意味する。「反応混合物」は、反応を行うために必須のあらゆる反応物(反応中にpHを選択したレベルに維持するための緩衝化剤、塩、補因子、スカベンジャーなどが挙げられるがこれらに限定されない)を含有する溶液を意味する。
【0021】
増幅反応に関して、「閉じた」とは、このような反応が、液体(特に、サンプル以外の生体分子もしくは生物体(核酸、タンパク質、ウイルス、細菌などが挙げられるがこれらに限定されない)のようなサンプル以外の物質を含む液体)を通過させ得る開口部を有さない容器もしくはコンテナもしくはチャンバー内で行われることを意味する。一局面では、閉じた増幅反応を含む容器、チャンバーもしくはコンテナは、気体透過性ではあるが液体不透過性のポートもしくは排出口(vent)、例えば、従来の反応条件下では、フィルターメンブランを通した空気の排出は可能にするが、液体の排出は可能にしないポート、を備え得る。このようなポートもしくは排出口のための適切なメンブランとしては、TYREK(登録商標)フィルム(DuPont)のような織ったポリオレフィンフィルムなどが挙げられる。
【0022】
「相補的または実質的に相補的」とは、例えば、二本鎖DNA分子の2本の鎖間、または、オリゴヌクレオチドプライマーと、一本鎖核酸上のプライマー結合部位との間のような、ヌクレオチド間もしくは核酸間で、ハイブリダイゼーションもしくは塩基対形成もしくは二重鎖形成することをいう。相補的なヌクレオチドとは、一般に、AとT(またはAとU)、またはCとGである。2本の一本鎖RNAもしくはDNA分子は、一方の鎖のヌクレオチドが、もう一方の鎖のヌクレオチドの少なくとも約80%(通常は、少なくとも約90%~95%、そしてより好ましくは約98%~100%)に対して、適切に整列され、そして、比較され、そして、適切なヌクレオチド挿入もしくは欠失を伴って対形成される場合に、実質的に相補的であると言われる。あるいは、RNA鎖もしくはDNA鎖が、選択的なハイブリダイゼーション条件下でその相補体に対してハイブリダイズする場合に、実質的な相補性が存在する。代表的には、少なくとも14~25ヌクレオチドのストレッチにわたり、少なくとも約65%の相補性(好ましくは、少なくとも約75%、より好ましくは少なくとも約90%の相補性)が存在する場合に、選択的なハイブリダイゼーションが起こる。M.Kanehisa Nucleic Acids Res.12:203(1984)(本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。
【0023】
「コンピュータ読み取り可能な製品」とは、コンピュータによって読み取られ得るか、または、コンピュータ内に送信され得る情報を記憶するためのあらゆる有形の媒体を意味する。コンピュータ読み取り可能な製品としては、磁気ディスク、磁気テープ、光学ディスク、CD-ROM、穿孔テープもしくは穿孔カード、読み出し専用メモリデバイス、直接アクセス記憶デバイス、ゲートアレイ、静電メモリおよび任意の他の同様の媒体が挙げられるがこれらに限定されない。
【0024】
「二重鎖」は、完全にもしくは部分的に相補的な少なくとも二本のオリゴヌクレオチドおよび/もしくはポリヌクレオチドが、そのヌクレオチド全体もしくは大部分において、ワトソン-クリック塩基対形成を受け、その結果、安定な複合体が形成されることを意味する。用語「アニーリング」および「ハイブリダイゼーション」は、安定な二重鎖の形成を意味するために、交換可能に使用される。二重鎖に関して「完全にマッチした」とは、二重鎖を構成するポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド鎖が、互いに二本鎖構造を形成し、その結果、各鎖の全てのヌクレオチドが、もう一方の鎖のヌクレオチドとワトソン-クリック塩基対形成を受けることを意味する。用語「二重鎖」は、使用され得るデオキシイノシンのようなヌクレオシドアナログ、2-アミノプリン塩基を持つヌクレオシド、PNAなどの対形成を含蓄する。2本のオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチド間の二重鎖における「ミスマッチ」とは、二重鎖におけるヌクレオチドの対が、ワトソン-クリック結合を受けていないことを意味する。
【0025】
「流体的に閉じた」とは、従来の操作条件下で、1以上の容器、チャンバー、弁および/または通路(これらは、相互に連結され、そして、互いに連絡している可能性がある)を含む系内の液体が、このような系の外部と連絡できず、そして同様に、このような系の外部にある液体は、この系内部に含まれる液体と連絡できないことを意味する。一局面では、従来の操作条件は、流体的に閉じた系の容器、チャンバー、弁および通路が、100psi未満程度まで、または、別の局面では、50psi未満程度まで、または、30psi未満程度まで加圧されることを意味する。
【0026】
「インジケーター(indicator)」は、反応混合物中に生成物が蓄積するにつれて、少なくとも、所定の濃度範囲を上回ってインジケーターの光学シグナルが増加するような、増幅反応の生成物(すなわち、「増幅産物」)の存在下で光学シグナルを生成し得るプローブを意味する。光学シグナルとしては、蛍光シグナル、化学発光シグナル、電気化学発光シグナル、比色シグナルなどが挙げられるがこれらに限定されない。「蛍光インジケーター」は、反応混合物中に生成物が蓄積するにつれて、少なくとも所定の濃度範囲を上回って蛍光インジケーターのシグナルが増加するような、増幅反応の生成物(すなわち、「増幅産物」)の存在下で蛍光シグナルを生成し得るインジケーターを意味する。蛍光インジケーターは、二本鎖DNA産物に結合する介在性色素(例えば、YO-PRO-1、SYBRグリーン1など、Ishiguroら、Anal.Biochem.,229:207-213(1995);Tsengら、Anal.Biochem.,245:207-212(1997);Morrisonら、Biotechniques,24:954-962(1998))、または、プライマー伸長により強制的に離されるまで蛍光分子が蛍光クエンチャーの近くに保持されるヘアピン構造を持つプライマー(例えば、Whitecombeら、Nature Biotechnology,17:804-807(1999)(「AMPLIFLUORTMプライマー」))のように、非特異的なものであり得る。蛍光インジケーターはまた、通常、蛍光分子が結合するオリゴヌクレオチド部分が増幅産物に対し特異的に結合するまでは、蛍光クエンチャーの近くに蛍光分子を持つ、標的配列特異的なものであり得る(例えば、Gelfandら、米国特許第5,210,015号(「TAQMANTM」);Nazarenkoら、Nucleic Acids Research,25:2516-2521(1997)(「スコーピオンプローブ(scorpion probe)」);Tyagiら、Nature Biotechnology,16:49-53(1998)(「分子ビーコン」))。蛍光インジケーターは、リアルタイムPCRと組み合わせて使用され得るか、または、反応の完了時に反応生成物の総量を測定するために使用され得る。
【0027】
「内部標準」は、サンプル中の標的ポリヌクレオチドの絶対的もしくは相対的な定量を可能にするために、同じ増幅反応において標的ポリヌクレオチドとして増幅される核酸配列を意味する。内部標準は、内因性のものであっても外来性のものであってもよい。すなわち、内部標準は、サンプル中に生来存在していても、増幅前にサンプルに加えられても良い。一局面では、キャリブレーションを提供するために複数の外来性内部標準配列が一連の所定の濃度で反応混合物に加えられ得、このキャリブレーションに対して、標的単位複製配列が比較され、サンプル中のその対応する標的ポリヌクレオチドの量を決定し得る。外来性内部標準の数、配列、長さおよび他の特徴の選択は、当業者にとって慣用的な設計上の選択である。好ましくは、本明細書中で「参照配列」とも呼ばれる内因性の内部標準は、サンプルに対して自然に存在し、一定かつ細胞周期非依存性の転写レベルを示す最低限にしか調節されない遺伝子に対応する配列である。例えば、Selveyら、Mol.Cell Probes,15:307-311(2001)。例示的な参照配列としては、以下の遺伝子からの配列が挙げられるがこれらに限定されない:GAPDH、β2-ミクログロブリン、18SリボソームRNAおよびβ-アクチン(また、Selveyら、上掲を参照のこと)。
【0028】
「キット」は、本発明の方法を行うための物質または試薬を運搬するためのあらゆる送達システムをいう。反応アッセイの文脈において、このような運搬システムとしては、一箇所の位置から別の位置への、反応試薬(例えば、適切なコンテナ中のプローブ、酵素など)および/または支援する物質(例えば、緩衝液、アッセイを行うための書面の説明書など)の貯蔵、輸送または運搬を可能にするシステムが挙げられる。例えば、キットは、関連の反応試薬および/または支援する物質を含む1以上の封入物(例えば、箱)を含む。このような内容物は、一緒に、または、別々に、意図される受け手へと運搬され得る。例えば、第一のコンテナは、アッセイにおいて使用するための酵素を含み得、一方で、第二のコンテナはプローブを含む。
【0029】
「ライゲーション」は、鋳型駆動の反応において、2以上の核酸(例えば、オリゴヌクレオチドおよび/またはポリヌクレオチド)の末端間に共有結合もしくは連結を形成することを意味する。結合または連結の性質は、大いに多様であり得、そして、ライゲーションは、酵素的もしくは化学的に行われ得る。本明細書中で使用される場合、ライゲーションは、通常、1つのオリゴヌクレオチドの末端ヌクレオチドの5’炭素と、別のオリゴヌクレオチドの3’炭素との間にホスホジエステル結合を形成するために酵素的に行われる。種々の鋳型駆動のライゲーション反応は、以下の参考文献(参考として援用される)に記載される:Whitelyら、米国特許第4,883,750号;Letsingerら、米国特許第5,476,930号;Fungら、米国特許第5,593,826号;Kool、米国特許第5,426,180号;Landegrenら、米国特許第5,871,921号;XuおよびKool、Nucleic Acids Research,27:875-881(1999);Higginsら、Methods in Enzymology,68:50-71(1979);Englerら、The Enzymes,15:3-29(1982);ならびにNamsaraev、米国特許出願公開第2004/0110213号。
【0030】
「微小流体デバイス」は、相互に連結され、かつ流体連絡しており、そして、単独で、または、支援機能(例えば、サンプル導入、流体および/または試薬駆動手段、温度制御ならびに検出システム)を提供する器具もしくは機器と協働して、分析反応もしくは分析プロセスを行うために設計された、1以上のチャンバー、ポートおよびチャネルの一体型システムを意味する。微小流体デバイスはさらに、弁、ポンプ、および、その内壁への特別の機能を持ったコーティング(例えば、サンプルの成分もしくは反応物の吸収を防止するため、電気浸透による試薬の移動を促進するため)などを備え得る。このようなデバイスは、通常、固形基材(ガラス、プラスチックまたは他の固形ポリマー材料であり得る)に、もしくは固形基材として製造され、そして、代表的には、特に、光学的もしくは電気化学的な方法による、サンプルおよび試薬の動きの検出および監視を容易にするために、平面フォーマットを有する。微小流体デバイスの特徴は通常、200~300μm2未満の断面寸法を有し、そして、通路は、代表的に、細い寸法を有する(例えば、約500μm~約0.1μmの最大寸法を有する)。微小流体デバイスは、代表的に、1μL~数nL(例えば、10~100nL)の範囲の容量を有する。微小流体デバイスの製造および操作は、以下の参考文献(参考として援用される)により例示されるように、当該分野で周知である:Ramsey、米国特許第6,001,229号;同第5,858,195号;同第6,010,607号;および同第6,033,546号;Soaneら、米国特許第5,126,022号および同第6,054,034号;Nelsonら、米国特許第6,613,525号;Maherら、米国特許第6,399,952号;Riccoら、国際特許公開番号WO 02/24322;Bjornsonら、国際特許公開番号WO 99/19717;Wildingら、米国特許第5,587,128号;同第5,498,392号;Siaら、電気泳動,24:3563-3576(2003);Ungerら、Science,288:113-116(2000);Enzelbergerら、米国特許第6,960,437号。
【0031】
「核酸配列ベースの増幅」すなわち「NASBA」は、逆転写酵素(通常は、鳥類骨髄芽球症ウイルス(AMV)の逆転写酵素)、RNaseHおよびRNAポリメラーゼ(通常、T7 RNAポリメラーゼ)の同時に作用する活性に基づいた、2つのオリゴヌクレオチドプライマーを用い、そして、従来の条件下では、90~120分で、因子により109~1012の範囲で標的配列を増幅し得る、増幅反応である。NASBA反応において、核酸は、これらの核酸が一本鎖でありかつプライマー結合部位を含む場合にのみ増幅反応のための鋳型となる。NASBAは、一定温度で起こる(通常は、上記酵素の場合、41℃で行われる)ので、一本鎖RNAの特異的な増幅は、サンプル調製手順において二本鎖DNAの変性が防止される場合に達成され得る。すなわち、RT-PCRのような他の技術とは対照的に、複雑なゲノムDNAにより引き起こされる偽陽性の結果を得ることなく、二本鎖DNAのバックグラウンド中で、一本鎖RNA標的を検出することが可能である。分子ビーコンのような反応適合性の蛍光インジケーターを用いることにより、NASBAは、単位複製配列のリアルタイム検出を用いて行われ得る。分子ビーコンは、一方の末端に蛍光標識を、そして、もう一方の末端にクエンチャーを持つ、ステム-ループ構造のオリゴヌクレオチドである。例えば、TyagiおよびKramer(上で引用される)により開示されるような、5’-フルオレセインおよび3’-(4-(ジメチルアミノ)フェニル)アゾ)安息香酸(すなわち、3’-DABCYL)。例示的な分子ビーコンは、6つのヌクレオチド(例えば、4つのGもしくはCと2つのAもしくはT)の完全なステム鎖と、約20ヌクレオチドの標的特異的なループとを有し得、その結果、この分子ビーコンは、反応温度(例えば、41℃)において、標的配列と安定なハイブリッドを形成し得る。代表的なNASBA反応ミックスは、30% DMSO中の、80mM Tris-HCl[pH 8.5]、24mM MgCl2、140mM KCl、1.0mM DTT、2.0mMの各dNTP、各々4.0mMのATP、UTPおよびCTP、3.0mM GTP、ならびに1.0mM ITPである。プライマー濃度は0.1μMであり、そして、分子ビーコン濃度は40nMである。酵素ミックスは、375mM ソルビトール、2.1μg BSA、0.08U RNaseH、32U T7 RNAポリメラーゼおよび6.4U AMV逆転写酵素である。反応は、20μLの総反応容量につき、5μLのサンプル、10μLのNASBA反応ミックスおよび5μLの酵素ミックスを含有し得る。リアルタイムNASBA反応を行うためのさらなるガイダンスは、以下の参考文献(参考として援用される)に開示される:Polstraら、BMC Infectious Diseases,2:18(2002);Leoneら、Nucleic Acids Research,26:2150-2155(1998);Gulliksenら、Anal.Chem.,76:9-14(2004);Weustenら、Nucleic Acids Research,30(6) e26(2002);Deimanら、Mol.Biotechnol,20:163-179(2002)。ネスト化NASBA反応は、ネスト化PCRと同様に行われる;すなわち、第一のNASBA反応の単位複製配列が、新しいプライマー対(このうち少なくとも一方が、第一の単位複製配列内部の位置に結合する)を用いる第二のNASBA反応のためのサンプルとなる。
【0032】
「ヌクレオシド」は、本明細書中で使用される場合、例えば、KornbergおよびBaker,DNA Replication,第2版(Freeman,San Francisco,1992)に記載されるような、2’-デオキシおよび2’-ヒドロキシル形態を含む天然のヌクレオシドを含む。ヌクレオシドに関して、「アナログ」とは、例えば、Scheit,Nucleotide Analogs(John Wiley,New York,1980);UhlmanおよびPeyman,Chemical Reviews,90:543-584(1990)などに記載されるような、修飾塩基部分および/または修飾糖部分を持つ合成ヌクレオシドを含むが、但し、これらは、特異的にハイブリダイゼーションし得るものである。このようなアナログとしては、結合特性を向上するため、複雑さを減らすため、特異性を増すため、などで設計された合成ヌクレオシドが挙げられる。ハイブリダイゼーション、または、ヌクレアーゼ耐性特性が向上されたアナログを含むポリヌクレオチドは、UhlmanおよびPeyman(上に引用される);Crookeら、Exp.Opin.Ther.Patents,6:855-870(1996);Mesmaekerら、Current Opinion in Structual Biology,5:343-355(1995)などに記載される。二重鎖の安定性を向上し得るポリヌクレオチドの例示的なタイプとしては、オリゴヌクレオチドN3’→P5’ホスホラミデート(本明細書中で「アミデート」と呼ばれる)、ペプチド核酸(本明細書中で「PNA」と呼ばれる)、オリゴ-2’-O-アルキルリボヌクレオチド、C-5プロピニルピリミジンを含有するポリヌクレオチド、ロックド核酸(locked nucleic acid)(LNA)および同様の化合物が挙げられる。このようなオリゴヌクレオチドは、市販のものであるか、または、文献に記載される方法を用いて合成され得る。
【0033】
「ポリメラーゼ連鎖反応」すなわち「PCR」は、DNAの相補鎖の同時プライマー伸長による、特定のDNA配列のインビトロ増幅のための反応を意味する。言い換えると、PCRは、プライマー結合部位に挟まれた標的核酸の複数コピーまたは複製物を作製するための反応であり、このような反応は、以下の工程の1以上の繰り返しを包含する:(i)標的核酸を変性させる工程、(ii)プライマーをプライマー結合部位にアニーリングさせる工程、および(iii)ヌクレオシド三リン酸の存在下で核酸ポリメラーゼによりプライマーを伸長させる工程。通常、反応は、サーマルサイクラー機器において、各工程に最適化された異なる温度の間で次々と循環される。特定の温度、各段階における持続時間、および、工程間の変化速度は、当業者に周知の多くの要因に依存し、例えば、以下の参考文献により例示される:McPhersonら編、PCR:A Practical Approach and PCR:A Practical Approach,第2版(IRL Press,Oxford,それぞれ、1991および1995)。例えば、Taq DNAポリメラーゼを用いる従来のPCRにおいて、二本鎖標的核酸は、>90℃の温度で変性され得、50℃~75℃の範囲の温度でプライマーがアニーリングされ、そして、72℃~78℃の範囲の温度でプライマー伸長され得る。用語「PCR」は、RT-PCR、リアルタイムPCR、ネスト化PCR、定量的PCR、多重(multiplexed)PCRなどを含むがこれらに限定されない、反応の派生形態を包含する。反応容量は、数百nl(例えば、200nL)~数百μL(例えば、200μL)の範囲である。「逆転写PCR」または「RT-PCR」は、標的RNAを相補的な一本鎖DNAへと変換する逆転写反応によって先行され、次いで、増幅が行われるPCRを意味する。例えば、Tecottら、米国特許第5,168,038号(この特許は、本明細書中に参考として援用される)。「リアルタイムPCR」は、反応の進行とともに反応生成物(すなわち、単位複製配列)の量が監視されるPCRを意味する。リアルタイムPCRには、主に、反応生成物の監視に用いられる検出化学(例えば、Gelfandら、米国特許第5,210,015号(「TAQMANTM」);Wittwerら、米国特許第6,174,670号および同第6,569,627号(介在性色素);Tyagiら、米国特許第5,925,517号(分子ビーコン);これらは、本明細書により参考として援用される)が異なる、多くの形態が存在する。リアルタイムPCRのための検出化学は、Mackayら、Nucleic Acids Research,30:1292-1305(2002)(これもまた本明細書中に参考として援用される)において総説されている。「ネスト化PCR」は、第一のPCRの単位複製配列が、新しいプライマーセット(このうち少なくとも一方が、第一の単位複製配列内部の位置に結合する)を用いる第二のPCRのためのサンプルとなる、二段階のPCRを意味する。本明細書中で使用される場合、ネスト化増幅反応に関して、「初期プライマー」は、第一の単位複製配列を生じるために用いられるプライマーを意味し、そして、「二次プライマー」は、第二の、すなわち、ネスト化された単位複製配列を生じるために用いられる1以上のプライマーを意味する。「多重PCR」は、複数の標的配列(または単一の標的配列と、1以上の参照配列)が、同じ反応混合物において同時に行われるPCRを意味する。例えば、Bernardら、Anal.Biochem.,273:221-228(1999)(二色リアルタイムPCR)。通常、増幅される各配列について、別個のプライマーセットが用いられる。代表的に、多重PCRにおける標的配列の数は、2~10、または、2~6、または、より代表的には、2~4の範囲である。
【0034】
「定量的PCR」とは、サンプルまたは検体における1以上の特定の標的配列の量を測定するために設計されたPCRを意味する。定量的PCRは、このような標的配列の絶対的な定量と相対的な定量との両方を包含する。定量的な測定は1以上の参照配列を用いてなされ、これらの参照配列は、標的配列とは別々にアッセイされても、標的配列と一緒にアッセイされてもよい。参照配列は、サンプルまたは検体に対し内因性であっても外来性であってもよく、後者の場合、1種以上の競合鋳型を含有し得る。代表的な内因性の参照配列としては、以下の遺伝子の転写物のセグメントが挙げられる:β-アクチン、GAPDH、β2-ミクログロブリン、リボソームRNAなど。定量的PCRのための技術は、以下の参考文献(参考として援用される)に例示されるように、当業者に周知である:Freemanら、Biotechniques,26:112-126(1999);Becker-Andreら、Nucleic Acids Research,17:9437-9447(1989);Zimmermanら、Biotechniques,21:268-279(1996);Diviaccoら、Gene,122:3013-3020(1992);Becker-Andreら、Nucleic Acids Research,17:9437-9446(1989)など。
【0035】
「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」は、交換可能に使用され、そして、各々が、ヌクレオチドモノマーの直鎖状ポリマーを意味する。ポリヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドを構成するモノマーは、ワトソン-クリック型の塩基対形成、塩基スタッキング(stacking)、ホッグステン型もしくは逆ホッグステン型の塩基対形成などのような、モノマー対モノマーの相互作用の通常のパターンによって、天然のポリヌクレオチドに特異的に結合し得る。このようなモノマーおよびそのヌクレオシド間結合は、天然に存在するものであっても、そのアナログ(例えば、天然に存在するアナログもしくは天然に存在しないアナログ)であってもよい。天然に存在しないアナログとしては、PNA、ホスホロチオエートヌクレオシド間結合、標識(例えば、フルオロフォアまたはハプテン)の付着を可能にする連結基を含有する塩基などが挙げられ得る。オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの使用が、ポリメラーゼによる伸長、リガーゼによるライゲーションなどのような酵素処理を必要とする場合は常に、当業者は、これらの場合におけるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドが、任意のもしくはいくつかの位置において、ヌクレオシド間結合、糖部分または塩基の特定のアナログを含まないことを理解する。ポリヌクレオチドは代表的に、数モノマー単位(例えば、ポリヌクレオチドが、通常「オリゴヌクレオチド」と呼ばれる場合には、5~40)から数千モノマー単位の範囲のサイズである。ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドが、「ATGCCTG」のような文字(大文字または小文字)の並びで表される場合は常に、そのヌクレオチドが、左から右に5’→3’の順序であること、そして、そうでないと示されないか、または、文脈から明らかでない限り、「A」がデオキシアデノシンを示し、「C」がデオキシシチジンを示し、「G」がデオキシグアノシンを示し、そして、「T」がチミジンを示し、「I」がデオキシイノシンを示し、「U」がウリジンを示すことが理解される。そうでないと強調されない限り、専門用語および原子の番号付けの慣例は、StrachanおよびRead,Human Molecular Genetics,第2版(Wiley-Liss,New York,1999)に開示されるものに従う。通常、ポリヌクレオチドは、ホスホジエステル結合により結合された4つの天然ヌクレオシド(例えば、DNAについてはデオキシアデノシン、デオキシシチジン、デオキシグアノシン、デオキシチミジン、または、RNAについてはそのリボースの相対物)を含むが;これらはまた、非天然のヌクレオチドアナログ(例えば、修飾塩基、糖もしくはヌクレオシド間結合を含むもの)を含み得る。酵素は、その活性につき特定のオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチド基質の要件を有する場合(例えば、一本鎖DNA、RNA/DNA二重鎖など)、そのオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチド基質のための適切な組成の選択は、特に、Sambrookら、Molecular Cloning,第2版(Cold Spring Harbor Laboratory,New York,1989)および同様の参考文献のような、専門書からのガイダンスを用いれば、十分に当業者の知識の範囲内であることは当業者に明らかである。
【0036】
「プライマー」は、ポリヌクレオチド鋳型と二重鎖を形成すると、核酸合成の開始点として機能し得、そして、伸長された二重鎖が形成されるように、その3’末端から鋳型にそって伸長され得る、天然もしくは合成のいずれかのオリゴヌクレオチドを意味する。プライマーの伸長は、通常、核酸ポリメラーゼ(例えば、DNAポリメラーゼまたはRNAポリメラーゼ)を用いて行われる。伸長プロセスにおいて追加されるヌクレオチドの配列は、鋳型ポリヌクレオチドの配列により決定される。通常、プライマーは、DNAポリメラーゼにより伸長される。プライマーは通常、14~40ヌクレオチドの範囲、または、18~36ヌクレオチドの範囲の長さを有する。プライマーは、種々の核酸増幅反応(例えば、単一のプライマーを用いる直鎖増幅反応、または、2以上のプライマーを用いるポリメラーゼ連鎖反応)において用いられる。特定の用途のためのプライマーの長さおよび配列を選択するためのガイダンスは、以下の参考文献(参考として援用される)に明白に示されるように、当業者に周知である:Dieffenbach編、PCR Primer:A Laboratory Manual,第2版(Cold Spring Harbor Press,New York,2003)。
【0037】
「読出し」は、数または値に変換され得る、測定および/または検出されるパラメーターを意味する。いくつかの文脈では、読出しは、このような収集もしくは記録したデータの実際の代表的な数値をいい得る。例えば、マイクロアレイからの蛍光強度シグナルの読出しは、マイクロアレイの各ハイブリダイゼーション部位において生成されたシグナルのアドレスおよび蛍光強度であり;したがって、このような読出しは、種々の方法(例えば、マイクロアレイの像として、数の表としてなど)で記録または記憶され得る。同様に、リアルタイムPCRの読出しは、時間の関数としての特定の周波数帯内の1以上の蛍光強度シグナル、または、時間に関連する他の反応パラメーターであり得る。
【0038】
1つの分子の別の分子への結合(例えば、標識した標的配列のプローブに対する結合)に関して、「特異的」または「特異性」とは、他の分子とのその分子の認識、接触もしくは複合体の形成が実質的に乏しいことに加えて、2つの分子間の認識、接触および安定な複合体の形成を意味する。一局面では、第一の分子の第二の分子への結合に関して、「特異的」とは、反応もしくはサンプルにおいて第一の分子が別の分子を認識し、そして複合体を形成するのであれば、その第一の分子が、第二の分子と最大数の複合体を形成することを意味する。好ましくは、この最大数は、少なくとも50%である。一般に、特異的な結合事象に関与する分子は、その表面上もしくは窪み内に、互いに結合する分子間の特異的な認識を生じる領域を有する。特異的な結合の例としては、抗体-抗原相互作用、酵素-基質相互作用、ポリヌクレオチドおよび/もしくはオリゴヌクレオチド間の二重鎖もしくは三重鎖の形成、レセプター-リガンド相互作用などが挙げられる。本明細書中で使用される場合、特異性もしくは特異的な結合に関して、「接触」とは、ファンデルワールス力、水素結合、塩基スタッキング相互作用、イオン性および疎水性相互作用などのような弱い非共有結合性の化学的相互作用が、分子の相互作用を支配するのに十分に2つの分子が接近していることを意味する。
【0039】
「Tm」または「溶融温度」は、二本鎖核酸分子の集団が解離されて一本鎖になる温度を意味する。核酸のTmを計算するためのいくつかの式が当該分野で周知である。例えば、Tm値の単純な推定は、以下の式により計算され得る。Tm=81.5+0.41(% G+C)(核酸が、1M NaClの水溶液中にある場合)。二重鎖の形成および解離のより完全なモデルに基づいてTmを計算するための方法は、Breslauerら、Proc.Natl.Acad.ScL,83:3746-3750(1986);およびWetmur、Crit.Rev.Biochem.Mol.Biol.,26:227-259(1991)に見出される。
【0040】
「サンプル」は、標的核酸の検出または測定が求められる、生物学的供給源、環境的供給源、医学的供給源または患者の供給源に由来するある量の物質を意味する。一方、サンプルは、検体または培養物(例えば、微生物の培養物)を包含することが意図される。一方、サンプルは、生物学的サンプルおよび環境的サンプルの両方を包含することが意図される。サンプルは、合成起源の検体を包含し得る。生物学的サンプルは、ヒトを含む動物、流体、固体(例えば、便)または組織、ならびに、液体および固体の食品および食餌製品および原材料(例えば、乳製品、野菜、肉類および肉類の副製品)、ならびに、廃棄物であり得る。生物学的サンプルとしては、患者から採取した物質(培養物、血液、唾液、脳脊髄液、胸水、乳汁、リンパ液、痰、精液、針吸引物などが挙げられるがこれらに限定されない)が挙げられ得る。生物学的サンプルは、全ての種々の科の家畜動物ならびに野性動物(有蹄類、クマ、魚、げっ歯類などのような動物が挙げられるがこれらに限定されない)から得られるものであり得る。環境的サンプルとしては、表在物質、汚物、水および産業上のサンプルのような環境的な物質、ならびに、食品および牛乳加工用の機器、装置、設備、用具、使い捨ておよび非使い捨てのアイテムから得られるサンプルが挙げられる。これらの齢は、本発明に対して適用可能なサンプルのタイプを限定するものとしてみなされるべきではない。用語「サンプル」および「検体」は交換可能に使用される。
【0041】
複数の蛍光標識に関して、「スペクトルにより分解可能」とは、標識の蛍光放出帯が十分に離れており、すなわち、重ならないのに十分であり、それぞれの標識が結合する分子タグが、以下に記載されるシステムにより例示されるような標準的な光検出システム(例えば、帯域フィルターおよび光電子増倍管などのシステムを用いる)により、それぞれの標識により生成される蛍光シグナルに基づいて識別可能であることを意味する:米国特許第4,230,558号;同第4,811,218号など、またはWheelessら、21-76頁,Flow Cytometry:Instrumentation and Data Analysis(Academic Press,New York,1985)。
【0042】
(発明の詳細な説明)
本発明の実施は、そうでないと示されない限り、有機化学、ポリマー技術、分子生物学(組換え技術を含む)、細胞生物学、生化学および分析機器の従来の技術および説明を採用し得、これらは、当業者の技術の範囲内である。このような従来の技術としては、蛍光の測定、光学シグナルの収集、機器の制御、データ解析、電子工学、機械工学、流体の取り扱いなどが挙げられる。適切な技術の特定の例示は、本明細書において、以下に、実施例を参照してなされ得る。しかし、当然のことながら、他の等価な従来の手順も使用され得る。このような従来の技術および説明は、Genome Analysis:A Laboratory Manual Series(第I巻~第IV巻)、Using Antibodies:A Laboratory Manual、Cells:A Laboratory Manual、PCR Primer:A Laboratory ManualおよびMolecular Cloning:A Laboratory Manual(全て、Cold Spring Harbor Laboratory Press)、ならびに以下に引用される他の専門書およびガイドのような標準的な研究室のマニュアルにおいて見出され得る。
【0043】
本発明は、特に、流体的に閉じた条件下で、単一の反応チャンバーにおいて、複数の反応(通常は、PCRのような増幅反応)を行うためのシステム、方法および装置に関する。一局面では、一連の反応は、同じ生物学的サンプルから異なる標的ポリヌクレオチドを増幅および検出するために用いられる。このような反応は、通常、増幅反応であるが、また、サンプル処理反応(例えば、RNA反応をcDNA配列に変換するための逆転写反応などを含む)のような他の反応のタイプも包含し得る。別の局面では、このような方法は、以下の工程により、流体的に閉じた反応システムにおいて行われる:(i)サンプルの一部を増幅試薬と混合して反応混合物を形成する工程;(ii)反応チャンバー内で1種以上の標的ポリヌクレオチドを増幅して、反応混合物中に1種以上の単位複製配列を形成する工程;(iii)1種以上の単位複製配列を検出して、サンプル中の1種以上の標的ポリヌクレオチドの存在または非存在を決定する工程;(iv)検出後に反応チャンバーから反応混合物を除去する工程;および(v)複数の標的ポリヌクレオチドの存在または非存在が決定されるまで、工程(i)~(iv)を繰り返す工程。混合する工程において、サンプルの一部と増幅試薬とが合わされ、そして、試薬レザバ内で混合され得、その後、これらが増幅のために反応チャンバーへと流体的に移動させられる。あるいは、サンプルの一部と増幅試薬とは、反応チャンバー内で直接合わされ、そして混合され得る。
【0044】
一局面では、本発明の方法の複数の増幅反応は、2および20を含めて2~20の範囲であり;別の局面では、複数とは、2および10を含めて2~10の範囲であり;そして、別の局面では、複数とは、2および3を含めて2~3の範囲である。好ましい実施形態では、2つの増幅反応が本発明により実施される。以下にさらに例示されるように、代表的には、流体的に閉じた反応システムは、個別のレザバ(例えば、行われる増幅反応の各々につき1つ)内に予め充填された増幅試薬(通常は、凍結乾燥形態のもの)を用いて調製されるか、または、(市販のリアクタの場合には)このような増幅試薬が提供される。各反応において増幅されることが望まれる1種以上の標的ポリヌクレオチドは、ポジティブコントロールとして、1種以上の参照配列または内部標準を含み得る。好ましくは、単位複製配列は、以下に記載されるような1種以上のインジケーターを用いて、リアルタイムで検出および監視される。特に、反応の終結および開始のタイミングでのフィードバック制御を伴う実施形態では、リアルタイムの増幅反応が用いられる。好ましい実施形態では、反応の終結時に、反応混合物が反応チャンバーから除去され、そして、廃液レザバへと移される。通常、同じ廃液レザバが各増幅反応に使用され得る。一実施形態では、廃液レザバは、増幅の廃液および/もしくは反応チャンバーのすすぎ液を、中和するか、固定するか、または他の方法で、取り扱いおよび輸送に安全にするための試薬を含有するか、または、このような試薬が充填され得る。このような試薬としては、消毒剤、防カビ剤、殺菌剤、中和緩衝液、液体吸収化合物などが挙げられるがこれらに限定されない。水性化合物を吸収するための例示的な化合物としては、加水分解されたデンプン(hydrolyzed starch)、ポリアクリロニトリルおよびポリアクリル酸ナトリウム(例えば、-[CH2-CH(C(=O)ONa)]n-)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0045】
別の局面では、本発明は、以下の工程で実施される一連の増幅反応の自動制御のための方法を提供する:(i)反応チャンバー内に配置された反応混合物において、インジケーターの存在下で、標的ポリヌクレオチドを増幅する工程であって、このインジケーターは、増幅反応における標的ポリヌクレオチドの単位複製配列の量に関連する光学シグナルを生成し得る、工程;(ii)反応混合物中のインジケーターの光学シグナルを監視する工程;(iii)光学シグナルが所定のレベルに到達するかもしくは所定のレベルを超える度に、反応チャンバーから反応混合物を自動的に除去し、そして、反応チャンバーに次の反応混合物を充填する工程;および(iv)連続した増幅反応が行われるまで、工程(i)~(iii)を繰り返す工程。この局面はさらに、現在の反応結果に基づいて、反応の連続を自動的に終結させることを企図する。このような実施形態は、試験結果の迅速な生成(特に、ネガティブな試験結果)が大いに所望される場合、特に有用である。例えば、関連する微生物は、しばしば、良性株ならびに病原性株の両方に存在し、ここで、病原性株は、特定の遺伝的エレメント(例えば、病原性を与える遺伝子を含有するプラスミド)により識別され得る。結果として、微生物の病原性株に関する試験は、しばしば、2以上の工程を必要とし、ここで、この試験の第一の工程は、微生物の属もしくは種の任意のメンバーの存在もしくは非存在を決定し、その後に、特定の病原性形態を識別する1以上の連続した試験が続く。このような連続した試験において、特定の工程の結果が病原性株の非存在を示すときは常に、この試験を終結させることが有益である。例えば、保存されたSA遺伝子配列を増幅および検出する第一の工程と、mecA遺伝子(メチシリン耐性の大きな原因である)のセグメントを増幅および検出する第二の工程とを包含する、連続した試験が、Staphylococcus aureus(SA)メチシリン耐性株について行われ得る。したがって、本発明の上記形態の一実施形態は、連続して行われる複数の増幅反応によって生物を同定するための方法を提供し、ここで、少なくとも第一の増幅反応は、属もしくは種の存在もしくは非存在を決定し、そして、その後の反応が、特定の株を決定する。各増幅反応の後、試験を終結させるのか、次の試験へと継続させるのかに関する決定が自動的になされる。このような実施形態は、以下の工程で実施される:(i)反応チャンバー内に配置された反応混合物において、インジケーターの存在下で、サンプルの一部から1種以上の標的ポリヌクレオチドを増幅する工程であって、このインジケーターは、増幅反応における標的ポリヌクレオチドの単位複製配列の量に関連する光学シグナルを生成し得る、工程;(ii)反応混合物中のインジケーターの光学シグナルを監視する工程;(iii)光学シグナルが所定のレベルに到達するかもしくは所定のレベルを超える度に、反応チャンバーから反応混合物を自動的に除去し、そして、反応チャンバーに次の反応混合物を充填するか、そうでなければ、連続した増幅反応を自動的に終結させる工程;および(iv)連続した増幅反応が行われるか、または、連続した増幅反応が終結されるまで、工程(i)~(iii)を繰り返す工程。本発明の上記局面の両方において、反応チャンバーから反応混合物を除去する工程は、反応チャンバーを洗浄溶液ですすぐ工程を包含する。使用済みの洗浄溶液、すなわち、「すすぎ液(rinsate)」は、次の反応の前に、廃液レザバへと流体的に移動させられ得る。
【0046】
本発明の別の局面では、反応チャンバー内外での反応混合物の移動により引き起こされる発泡および気泡形成に関連する問題が対処される。分析機器における気泡もしくは泡の形成は避けることが大いに望ましい。というのも、これらの気泡もしくは泡の存在は、特に、液相における蛍光分析物もしくは蛍光プローブの検出もしくは定量において、しばしば、感度を低下させ、そして、擬性シグナルの生成をもたらし得るからである。例えば、Jekelis(2005),Biomed Instrum Technol,39:232-236。本発明の反応チャンバーにおいて、反応混合物を除去した後でかつ、次の反応混合物を充填する前に、空の反応チャンバーを加熱することによって、泡もしくは気泡の形成が低減もしくは排除されることが分かった。したがって、本発明の一局面では、連続した反応の間に、反応チャンバーは、チャンバー内に空気を入れることによって(吸入(すなわち、流体を吸い出す)によってか、または、分配(すなわち、流体を押し出す)によって)全ての液体がパージされ、そして、次の反応混合物を充填する直前の期間に加熱される。このパージおよび加熱の工程は、連続して行われても、これらの工程の時間が重なるように行われてもよい。好ましい局面では、これらの工程は、連続して行われ、この場合、まず反応チャンバー内に空気を入れることにより反応チャンバーがパージされ、その後、反応チャンバーが加熱される。一局面では、加熱の工程は、2段階で実施され、この場合、チャンバーは、第一の温度まで加熱され、そして、第一の休止期間にその温度に保持され、その後、第二の温度へと変更され、第二の休止期間にこの温度に保持される。一局面では、第一の温度は、ほぼDNAの変性温度(これは通常、85℃~100℃の範囲、または、92℃~99℃の範囲である)であり、かつ、第一の休止期間は、0.5秒~10秒または1秒~3秒であり;そして、第二の温度は、ほぼDNAのアニーリング温度(これは通常、35℃~75℃の範囲、または、45℃~72℃の範囲である)であり、かつ、第二の休止期間は、0.5秒~10秒または1秒~3秒である。別の局面では、第一の温度は、94℃~96℃の範囲であり、かつ、第一の休止期間は0.5秒~2秒であり;そして、第二の温度は45℃~70℃の範囲であり、かつ、第二の休止期間は1秒~2秒である。一局面では、上記方法は全て、空の反応チャンバーを、示される範囲の期間にわたりDNAの変性温度まで加熱する工程をさらに包含する実施形態を有する。さらなる局面では、このような加熱の工程の後には、次の反応混合物を反応チャンバーへと流体的に移動させる前に、空の反応チャンバーが、DNAのアニーリング温度まで冷却される冷却工程が続く。
【0047】
本発明の別の局面では、流体的に閉じた条件下で、単一のサンプルの異なる部分(通常は、アリコート)を用いて、一連の増幅反応を行うための装置が提供される。一実施形態では、このような装置は、以下を包含する:a)内部に少なくとも第一のチャネルおよび第二のチャネルが形成された本体;およびb)本体から延びる反応容器であって、この反応容器は、i)液体を受容するための反応チャンバーと;ii)入口チャネルを介して反応チャンバーに接続された入口ポートと;iii)出口チャネルを介して反応チャンバーに接続された出口ポートとを有し、ここで、容器の入口ポートは、本体内の第一のチャネルに接続され、そして、容器の出口ポートは、本体内の第二のチャネルに接続される、反応容器。本発明の装置はさらに、第二のチャネルから気体を排出するための、第二のチャネルと流体的に連絡した排出口を備える。本発明の装置はさらに、本体内部の第一のチャネル内の流体を押し出し、容器の入口ポートを通して反応チャンバー内へと流すための、差次的な圧力供給源を備える。本発明の容器はさらに、以下を備える:i)反応チャンバーの側壁を規定する剛性フレーム;およびii)反応チャンバーの対向する主壁を形成するために剛性フレームの反対側に取り付けられた、第一および第二のポリマーフィルム。この装置の本体はさらに、流体サンプルを増幅試薬と混合するための混合チャンバーを備え、この混合チャンバーは、第一のチャネルを介して容器の入口ポートに接続される。この装置の本体はさらに、出口チャネルを通して除去される液体の残部を受容するための廃液チャンバーもしくは廃液レザバを備え、この廃液チャンバーは、第二のチャネルを介して容器の出口ポートに接続される。この装置の本体はさらに、内部に、i)サンプル流路;およびii)流体サンプルから所望の分析物を分離するためのサンプル流路内の分離領域が形成されており、この分離領域は、第一のチャネルを介して容器の入口ポートに接続される。第一の局面では、本体内の分離領域は、以下を備える:a)サンプル中の細胞もしくはウイルスを溶解してこれらから物質を放出させるための、サンプル流路内の溶解チャンバー;およびb)溶解される細胞もしくはウイルスを捕捉するための、溶解チャンバー内に位置決めされた少なくとも1つの固体支持体。この装置の容器は、反応チャンバーを規定する複数の壁を備え、この壁のうち少なくとも1つは、可撓性のシートもしくはフィルムを備え、そして、この装置はさらに、以下を備える:a)シートもしくはフィルムと接触するための少なくとも1つの熱表面(thermal surface);b)反応チャンバー内の圧力を増加させるための手段であって、ここで、このチャンバー内の圧力の増加は、シートもしくはフィルムを熱表面に合わさせるのに十分なものである、手段;およびc)表面を加熱もしくは冷却して、チャンバー内に温度変化を誘導するための、少なくとも1つの熱エレメント(thermal element)。
【0048】
装置の容器はさらに、2つの対向する主壁と、主壁を互いに接続する側壁とを備えて、反応チャンバーを形成し、少なくとも2つの側壁は、光透過性であり、そして、互いに角度を成して互いからずらされており、そしてこの装置はさらに、光透過性の側壁のうちの第一の壁を通して反応チャンバーに光を伝達するための少なくとも1つの光源を有し、そして、光透過性の側壁のうちの第二の壁を通してチャンバーから放出される光を検出するための少なくとも1つの検出器を有する、光学システムを備える。
【0049】
以下の特定の例においてより完全に開示されるように、このような装置は、好ましくは、流体的に閉じた条件下で操作され、ここで、流体および試薬は、プログラムされた制御の下、このような流体および試薬に対し差次的な圧力を生じ得る1以上の弁およびポンプによって動かされる。特に関心があるのは、流体および試薬を所望の位置に運ぶために、チャンバーおよび/またはレザバが選択的に流体的に連絡して配置されることを可能にする回転弁と作動可能に関連付けられたピストン型ポンプの使用である。以下により完全に記載されるように、このようなポンプおよび弁の操作は、従来の技術を用いてマイクロプロセッサにより制御される。このようなマイクロプロセッサはまた、反応チャンバー内の反応生成物からの光学シグナルを監視する1以上の検出器からデータを受信し得、そして、このようなデータに基づいて、反応を終結させたり、反応を開始させたり、すすぎの工程を開始したりなどするために、装置のポンプおよび弁に制御シグナルを送信し得る。
【0050】
(連続的な増幅反応)
一局面では、本発明の連続的な増幅反応は、同じサンプルからの異なる標的ポリヌクレオチドの複数の別個の増幅であり、これは、流体的に閉じた反応システムの同じ反応チャンバーにおいて行われる。本発明の特徴は、流体的に閉じた条件下で、単一のサンプルの部分を反応チャンバー内に計量して供給することである。一局面では、別個の増幅において使用されるサンプルの部分は、容量が等しくても、等しくなくてもよく、そして、使用される複数の部分は、全サンプルを含み得る(すなわち、サンプルのアリコートであり得る)か、または、サンプルの一部を含み得る(すなわち、サンプルのアリカント(aliquant)であり得る)。本発明のための個々の増幅反応をもたらすための慣用的な設計上の選択を行うことに関して、定義の節における引用により示されるような文献には、当業者を支援するための豊富なガイダンスが存在し、そして、この設計上の選択としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:(i)各段階のサイクル数または持続時間;(ii)増幅サイクルが自動制御下である場合、現在の反応を終結させ、そして、次の反応へと進行させることを決定するための所定のシグナルレベルの選択;(iii)連続した各反応に含められるサンプルの相対的な割り当て;(iv)各増幅反応において検出される標的ポリヌクレオチドの数および素性;(v)各増幅反応のためのプライマーの長さおよび配列;(vi)参照配列が各反応において増幅されるべきかどうか;(vii)各増幅反応において使用されるインジケーターのタイプ;(viii)例えば、2つの増幅反応:PCR-PCR、NASBA-NASBA、PCR-NASBAについて、同種の増幅反応が各段階において実行されるべきかどうか、など。通常、増幅反応は、連続したPCR反応または連続したNASBA反応のいずれかであり、そして、従来の反応条件下で行われる。通常、ある配列の増幅反応の各々において、同じインジケーターが使用される。
【0051】
上述のように、各増幅反応は、サンプルの部分と増幅試薬とを含有する反応混合物中で生じる。特定の増幅反応のための部分の大きさを選択することは、(i)標的ポリヌクレオチドの性質(例えば、配列、形成する二次構造の感受性など)、(ii)標的ポリヌクレオチドの予測される濃度もしくは量、(iii)増幅試薬の濃度および性質などのような要因に依存する、当業者の設計上の選択である。上述のように、このような慣用的な設計上の選択を行うことに関して、生命科学の分野における増幅反応の用途に関する公開された文献により示されるように、当業者にとって豊富なガイダンスが存在する。一般に、サンプルの有効な部分は、増幅試薬と混合されて、反応混合物を形成する。一局面では、有効な部分は、増幅反応の開始を可能にするに十分な量である。別の局面では、有効な部分は、反応混合物中に、1μLあたり少なくとも1の標的ポリヌクレオチドの標的濃度を、また別の局面では、1μLあたり少なくとも10の標的ポリヌクレオチドの標的濃度を、また別の局面では、1μLあたり少なくとも100の標的ポリヌクレオチドの標的濃度を、また別の局面では、1μLあたり少なくとも500の標的ポリヌクレオチドの標的濃度を、また別の局面では、1μLあたり少なくとも1000の標的ポリヌクレオチドの標的濃度を提供するに十分な量である。なお別の局面では、有効な部分は、サンプルの容量の0.5%~50%の量、または、サンプルの容量の10%~50%の量である。
【0052】
さらなる局面では、本発明は、多段階の増幅反応で、順次逆転写酵素反応を行う方法を提供する。一実施形態では、複数のRNA配列(例えば、細胞もしくは組織サンプルから抽出した、選択されたmRNA)は、以下のようにして増幅され得る:(i)例えば、流体的に閉じた反応システムにおいて、逆転写試薬を用いてRNA配列を転写し、相補的な一本鎖標的ポリヌクレオチドのサンプルを形成する工程;(ii)サンプルの一部および増幅試薬を反応チャンバーに移して反応混合物を形成する工程;(iii)反応混合物中で、蛍光インジケーターの存在下で、一部から少なくとも1つのポリヌクレオチドを増幅する工程であって、この蛍光インジケーターは、反応混合物中の単位複製配列の量に関連する光学シグナルを生成し得る、工程;ならびに、(v)光学シグナルが所定のレベルに到達するか、または、所定のレベルを超える度に、反応チャンバーから反応混合物を除去し、そして、次の増幅反応を開始する工程、ならびに、(vi)多数の標的ポリヌクレオチドの各々の非存在、存在および/または量が決定されるまで、工程(ii)~(v)を繰り返す工程。転写する工程は、従来の逆転写酵素反応を用いて行われ、この逆転写酵素反応の成分、すなわち、逆転写酵素試薬(逆転写酵素、ヌクレオシド三リン酸、反応緩衝液)は、市販されており、容易に入手可能である(例えば、Ambion,Inc.)。一局面では、本発明の上記局面は、流体的に閉じた反応システムにおいて行われる。
【0053】
(連続した増幅の制御)
一局面では、本発明は、開ループ制御下、または、特定の反応パラメーターのリアルタイム測定に基づく閉ループ制御下のいずれかで、連続した増幅反応を自動的に終結および/または開始させるための方法を提供する。開ループ制御の実施形態では、増幅反応は、例えば、単純に反応混合物を反応チャンバーから取り除き、サンプルの有効な部分を適切な増幅試薬と混合して新しい反応混合物を形成し、この新しい反応混合物を反応チャンバー内に充填し、そして、時間の決まった温度のプログラムを選択して増幅反応を行うことによって、所定のサイクル数または所定の反応時間にわたり行われ、その後、反応が終結される。必要に応じて、現在の反応混合物が反応チャンバーから除去され、そして、廃液レザバへと移された後に、反応チャンバーをすすいで、チャンバー内に残存する微量の現在の反応混合物をさらに除去し得る。このようなすすぎは、洗浄溶液を洗浄溶液レザバから反応チャンバーへと移動させ、そして、その反応チャンバー内の洗浄溶液を廃液レザバへと移動させるか、または、廃液レザバへとすすぐ1以上のサイクルを行うことによって達成される。洗浄溶液は水であっても、先の増幅反応から残った物質により生成される擬似シグナルを低減させる目的で加えられる、界面活性剤、ヌクレアーゼなどのような他の試薬と混合された水であってもよい。
【0054】
閉ループ制御の実施形態では、増幅反応の反応パラメーターが監視され、そして、そのパラメーターが所定の値を取るか、または、所定の閾値と交差するときに反応が停止され、サンプルの少なくとも有効な部分が適切な増幅試薬と混合され、そして、次の増幅反応が開始される。次の増幅をいつ開始するかを決定するために使用される反応パラメーターは、反応生成物の蓄積と、または換言すると、反応の完了の程度と、十分に特徴的な関係性を有するあらゆるパラメーターであり得る。好ましくは、反応パラメーターは、反応における1種以上の生成物の蓄積と単調な関係性を有し、その結果、パラメーターの値の増加は、このような生成物(通常は、1種以上の単位複製配列である)の量と正もしくは負のいずれかで相関し得る。反応パラメーターとしては、以下が挙げられ得るがこれらに限定されない:反応混合物の光学密度;温度;pH;二次反応生成物の濃度;単位複製配列の濃度(後者の場合、例えば、1以上の蛍光シグナル、比色定量シグナル、化学発光シグナル、電気化学発光シグナルもしくは電気化学シグナルに基づくもの);など。一局面では、反応パラメーターは、増幅反応における少なくとも1種の単位複製配列の濃度と単調に関連している。このような単位複製配列は、標的ポリヌクレオチド、または、参照配列もしくは他の内部標準から生成され得る。したがって、閉ループ制御を用いたPCRの連続において、増幅反応はリアルタイムPCRである。本発明の一局面では、反応パラメーターは、そのシグナルが反応混合物中の単位複製配列の濃度に対し単調に関連する蛍光インジケーターにより検出される単位複製配列である。サンプルまたは検体内の標的ポリヌクレオチドの量もしくは質に変動性がある場合、反応の閉ループ制御は、よりむらがなく、変動性の少ない読出しを生じ得る。
【0055】
いくつかの用途において、サンプルは、関心のある標的ポリヌクレオチドを含むかもしれないし、含まないかもしれない。従って、一局面では、1以上の参照配列または他の内部標準の単位複製配列が、いつ連続した反応を開始するかを決定するために監視される。すなわち、このような内部標準は、連続した反応を開始するためのポジティブコントロールおよび反応パラメーターとして機能する。別の局面では、連続した反応を開始するためには、内部標準の単位複製配列および標的ポリヌクレオチドの単位複製配列の両方が、所定のレベル(同じであっても異なっていてもよい)に達するか、または、これを超えなくてはならない。
【0056】
本発明の別の局面では、増幅反応が開ループ制御下のPCRである場合、次の反応を開始する前に行われるサイクル数は、20と40との間の範囲であるか、または、別の局面では、20と30との間の範囲である。別の局面では、現在の増幅反応が停止され、そして所定の時間の後に次の増幅反応が開始される場合、この所定の時間は、解析される特定のサンプルのタイプに関して、経験的に選択され得る。例えば、参照配列を有するサンプルにおいて、所定の時間は、選択した参照配列を、平均的なサンプルにおけるそのプラトー値のある割合(例えば、4分の1、3分の1、2分の1など)まで増幅するのにかかる平均時間として選択され得る。
【0057】
一局面では、1つの反応のこのような自動的な終結と、次の増幅反応の開始とは、閉ループ制御下である。すなわち、本発明の増幅反応は、好ましくは、複数のクラスの単位複製配列に関連するパラメーターを監視することを可能にする装置において行われる。このようなパラメーターとしては、少なくとも2つの(通常は3つの)異なる標的ポリヌクレオチドの各々に関連する異なる蛍光インジケーターにより生成される蛍光シグナルが挙げられるがこれに限定されない。このような監視としては、シグナルの収集、シグナルのデジタル形態への変換、現在の反応を終結させるかどうか、および次の反応を開始させるかどうかを決定するためのプロセッサにおけるデジタル情報の処理、ならびに、このような変化を実施するための制御シグナルの生成が挙げられる。このような機能を行うための器具は、以下の標準的な参考文献により示されるように、当該分野で周知である:Lakowicz、Principles of Fluorescence Spectroscopy,第2版(Springer,1999);Johnson、Photodetection and Measurement(McGraw-Hill Professional,2003);Sharmaら、Introduction to Fluorescence Spectroscopy(Wiley-Interscience,1999);Sokoloff、Applications in Labview(Prentice Hall,2003);など。
【0058】
増幅反応が閉ループ制御下にある場合、次の反応が開始される反応パラメーターの値は、種々の方法で選択され得る。一局面では、値は、
図1Aおよび1Bに示されるように、基線のシグナルレベルもしくはバックグラウンドノイズ、値の関数として、または、反応混合物中の1種以上の単位複製配列の蓄積を記述する関数の指標(characteristic)として決定される。
図1Aにおいて、曲線(1000)および(1002)は、単位複製配列特異的なプローブ(例えば、識別可能な波長で蛍光を放出する蛍光色素を有する分子ビーコン)により生成される2種の異なる蛍光シグナルによって決定される、それぞれ、例えば、参照配列および標的ポリヌクレオチドの蓄積された単位複製配列を表す。このような曲線は、代表的には、示されるようにシグモイド曲線であり、各々が、ノイズレベルもしくは基線シグナル(1004)下の低い正の傾斜の領域と、高い正の傾斜の対数線形領域(1010)と、反応において、反応物が消費され、そして/または、干渉性の副産物が蓄積する段階に対応する、低い正の傾斜のプラトー領域(1012)とを有する。本発明の一局面では、標的単位複製配列の曲線(1002)が所定のレベル(1006)に到達するか、またはこのレベルを超えるときに次の反応が開始され、この所定のレベルは、基線シグナル(1004)の関数であり得る。別の局面では、標的単位複製配列の曲線(1002)と参照配列の曲線(1000)の両方が所定のレベル(1006)に到達するか、またはこのレベルを超えるときに、次の反応が開始される。所定のレベル(1006)の選択は、当業者の慣用的な設計上の選択であり、種々の要因(例えば、反応において増幅される標的に密接に関連する配列の可能性(すなわち、アッセイにおける特異性の欠如)、サンプルの質と、その質が基線シグナル値に寄与する程度、使用される増幅反応のタイプ、用いられるシグナル検出システムなど)に依存し得る。一局面では、所定のレベル(1006)は、基線シグナル値(1004)の倍数である。一例として、所定のレベル(1006)は、基線シグナル値の1.5倍と25倍との間の範囲から選択され得る。別の局面では、所定のレベル(1006)は、基線シグナル値の1.5倍、または、基線シグナル値の2倍、または、基線シグナル値の3倍、または、基線シグナル値の5倍、または、基線シグナル値の10倍である。基線シグナル値は、所定のサイクル数の、または、増幅反応の開始付近の所定の間隔についての蛍光測定の関数(例えば、平均)であり得る。蛍光測定は、監視される単位複製配列により生成される蛍光シグナルについてのものと同じチャネルからのシグナルの測定であり得るか、または、これを含み得る。一局面では、基線シグナル値は、少なくとも1つの単位複製配列の成長曲線について測定した初期の10、または25、または50、または100の光学シグナル値の関数である。一局面では、このような関数は、このような初期光学シグナル値の相加平均である。好ましくは、所定のレベル(1006)は、そのそれぞれの対数線形領域(1010)において、曲線(1002)および/または曲線(1000)と交差する。単位複製配列は、光学シグナルを生成する種々の標識(蛍光インジケーター、比色標識、化学発光標識、電気化学発光標識などが挙げられるがこれらに限定されない)を用いて同定および/または測定され得る。
【0059】
別の局面では、次の反応が開始される反応パラメーターの値は、
図1Bに例示されるように、増幅反応において蓄積された単位複製配列と、サイクル数もしくは時間との関係性を記述する曲線(本明細書中で、「単位複製配列成長曲線」と呼ばれる)の指標により決定され得る。
図1Aにおいてと同様に、曲線(1013)および曲線(1015)は、それぞれ、参照配列および標的ポリヌクレオチドに対応する単位複製配列の蓄積を記述する。両曲線は、各点において、正の傾斜を有するが、傾斜の大きさは、反応の初期から反応の後期に向かって変化し、その傾斜は、開始時にはフラットであるが、対数線形領域では急勾配になり、そして、プラトー領域において再度フラットになる。導関数がこのような曲線から導かれる場合、時間またはサイクルの値(1019)において最大値を有する大まかに対称的な関数(1018)が生じる。値(1019)は、曲線(1015)の第一の導関数の乗根である。値(1019)は、曲線(1015)の傾斜の増加が止まり、減少が始まる点(1014)(すなわち、対数線形領域のほぼ中央に位置する変曲点)に対応し、この値(1019)を、次の反応を開始するシグナル値(1022)を決定するための、曲線(1015)の魅力的な指標としている。別の局面では、曲線(1021)により例示される別の大まかに対照的な関数を生じるために曲線(1015)の第二の導関数が決定され得る。この曲線(1021)の乗根は、次の反応を開始するシグナル値、例えば(1023)を決定するための別の候補の指標を提供する。単位複製配列の蓄積を記述する曲線(1015)のこのような指標に対応するシグナル値の決定は、McMillanら、米国特許第6,783,934号(本明細書中に参考として援用される)に開示される。上述のように、用語「単位複製配列成長曲線」は、曲線(1000)、(1002)、(1013)または(1015)のような、反応混合物における単位複製配列の蓄積を、サイクル数もしくは時間の関数として、または、関連するパラメーター(例えば、非温度調節性の増幅反応における温度)の関数として、などで記述する曲線を意味する。単位複製配列成長曲線の、第一の導関数もしくは第二の導関数のような指標は、この曲線を構成するデータが収集されるアッセイの間に繰り返し計算されることが理解される。また、上記アッセイのリアルタイムの性質に起因して、単位複製配列成長曲線の特定の指標を後ろ向きに決定することのみが可能であり得ることも理解される;したがって、このような指標は、次の増幅反応がいつ開始されるべきかを決定するための全ての状況に適しているわけではない。次の増幅反応をいつ開始するかを決定するための単位複製配列成長曲線の適切な指標の選択は、当業者の慣用的な設計上の選択である。
【0060】
本発明の一局面では、次の反応の開始の閉ループ制御は、所定の値に到達するかもしくは所定の値を超える反応パラメーターに対応する光学シグナルを検出することにより実施される。好ましくは、反応パラメーターは、単位複製配列(通常は、標的ポリヌクレオチドに対応する単位複製配列)の濃度である。種々の蛍光シグナル生成スキームが、増幅反応において、単位複製配列の濃度に単調に関連する蛍光シグナルを生じるために利用可能である。このような蛍光シグナル生成スキームとしては、分子ビーコン、介在性色素(例えば、SYBRグリーン)、TAQMAN
TMプローブ、AMPLIFLUOR
TMプライマー、「スコーピオン」プライマーなど(これらは、上に引用される参考文献において開示される)が挙げられるがこれらに限定されない。種々の器具システムが、反応パラメーター(例えば、単位複製配列の濃度)により生成される光学シグナルに基づいたこのような閉ループ制御を行うために採用され得る。以下により完全に記載されるように、一局面では、Christelら、米国特許第6,369,893号により開示されるマルチチャネル光学検出システムが、このような測定に申し分なく適している。本発明に適用可能なこのようなシステムの概略は、
図1Cに例示される。Christelらは、反応チャンバー(1070)内の反応混合物を照射するためにダイオードレーザ(1050)~(1056)を提供する。レーザダイオード(1050)~(1056)により励起される蛍光は、検出器(1060)~(1066)により収集され、これらの検出器は、代表的に、各々が、検出される光の波長を制限する帯域フィルターと作動可能に関連付けられている。レーザダイオード(1050)~(1056)の励起ビームは、同じであっても異なっていてもよい。一局面では、帯域フィルターは、各検出器(1060)~(1066)が、複数の蛍光色素のうち主に1つのみからの蛍光を集めるように、複数のスペクトル分解可能な蛍光色素によって放出される蛍光を選択的に通過させるように選択される。本発明と共に使用するために、レーザダイオード-検出器ペアのうちの1つ(例えば、(1052)と(1062))は、標的ポリヌクレオチドに対応する単位複製配列からの蛍光シグナルの検出に割り当てられ、そして、レーザダイオード-検出器ペアのうちの1つ(例えば、(1056)と(1066))は、参照配列に対応する単位複製配列からの蛍光シグナルの検出に割り当てられる。
【0061】
検出システムおよび流体的に閉じた反応システム(1086)の全ての構成要素の制御は、マイクロプロセッサ(1080)により制御される。検出器(1060)~(1066)により収集される光学シグナルは、従来の光学部品により処理されて、電気シグナルへと変換され、この電気シグナルは、従来の前置増幅および信号処理(1082)の後、マイクロプロセッサ(1080)による記憶および/またはさらなる処理のためにデジタル化される。本発明の一局面では、マイクロプロセッサ(1080)は、検出器のうちの1つ(例えば、検出器(1062))によって収集されるシグナルの値を継続して監視するようにプログラムされる。値が事前にプログラムされたレベルまで到達するか、またはこのレベルを超えると、マイクロプロセッサ(1080)は、コントローラ(1084)に、流体的に閉じた反応システム(1086)の構成要素を始動して次の増幅反応を開始させるための一連の命令を提供するサブルーチンを開始する。マイクロプロセッサ(1080)はまた、コントローラ(1088)を通して、反応チャンバー(1070)の温度を変更および/または調節する。閉ループ制御を採用する実施形態では、マイクロプロセッサ(1080)は、所定の間隔で曲線(例えば、
図1Bの(1013)または(1015))の指標の値を計算することにより、これらを、所定のレベルと比較し得る。このような計算値が所定のレベルに到達するか、またはこのレベルを超えると、マイクロプロセッサ(1080)は、上記のように、次の増幅反応を開始させるためのサブルーチンを開始する。
【0062】
上述のように、コンピュータは、好ましくは、上記のように、方法の次の反応を開始する工程を行う。一実施形態では、コンピュータは、処理装置、メモリ、I/Oデバイスおよび、これらの間で情報を連絡するための関連付けられたアドレス/データバス構造を備える。処理装置は、適切なオペレーションシステムにより駆動される従来のマイクロプロセッサ(RISCおよびCISCプロセッサを含む)、埋め込みファームウェアを用いる専用のマイクロプロセッサ、または、方法の特定の処理タスクに特化した特注のデジタルシグナル処理回路(DSP)であり得る。メモリは、マイクロプロセッサ内、すなわち、レベル1キャッシュ、高速S-RAM、すなわち、レベル2キャッシュ、D-RAM、またはディスク(光学ディスクもしくは磁気ディスクのいずれか)であり得る。I/Oデバイスは、コンピュータとユーザとの間で情報を送信し得るあらゆるデバイス(例えば、キーボード、マウス、ネットワークカードなど)であり得る。アドレス/データバスは、PCIバス、NUバス、ISA、または任意の他の同様のバス構造であり得る。コンピュータが本発明の方法を行うとき、上記方法の工程は、コンピュータ読み取り可能な製品内もしくはこのような製品上に記憶されたプログラムにおいて実施され得る。このようなコンピュータ読み取り可能な製品はまた、グラフィックユーザインターフェースのためのプログラムと、電気泳動システムもしくはデータ収集デバイスに関する設定を変更するためのプログラムとを備えう得る。一局面では、本発明は、選択される流体的に閉じた反応システムにおける
図1Cに記載される操作を制御するためのアルゴリズムおよびコンピュータ読み取り可能な製品を提供する。
【0063】
本発明の一局面では、コンピュータ読み取り可能な製品は、流体的に閉じた反応システムにおけるネスト化された増幅反応の性能を制御するためにコンピュータにより実行するためのプログラムを備える。一実施形態では、このようなプログラムは、以下の工程のための命令を包含し得る:(a)現在の増幅反応から、現在の増幅反応における単位複製配列の濃度に単調に関連する光学シグナルの値(最新の値を持つもの)を読み取る工程;(b)光学シグナルの値から基線のシグナルレベルを決定する工程;(c)光学シグナルの値から所定のレベルを計算する工程;(d)所定の値を光学シグナルの最新の値と比較する工程;光学シグナルの最新の値が所定のレベル以上になる度に、次の増幅反応を開始させる工程;および(f)次の反応が開始されるまで工程(d)と(e)とを繰り返す工程。本明細書中で使用される場合、光学シグナルに関して「最新の値」とは、増幅反応を監視中の検出システムによる光学シグナルの最新の測定に対応する値を意味する。換言すると。最新の値とは、増幅反応の過程で生成される単位複製配列成長曲線の最新値である。一実施形態では、次の増幅反応の段階を開始させる工程はさらに、次の反応において使用されるサンプルの割合の値に関するサンプル割合表(sample portion table)を読み取る工程であって、このサンプル割合表は、連続した反応の各々において使用される割合の大きさの値を列挙するものである、工程と、反応チャンバーから現在の反応混合物を除去するための命令を生成する工程と、サンプルの一部を混合チャンバーへと移動させるための命令を生成する工程と、次の反応の増幅試薬を混合チャンバーに移動させて、反応混合物を形成するための命令を生成する工程と、反応混合物を反応チャンバーに移動させるための命令を生成する工程とを包含する。開始させる工程はさらに、次の反応において使用される反応パラメーターの値に関する反応パラメーター表(連続した反応の各々において用いられる反応パラメーターの値を列挙するものである)を読み取る工程を包含し得る。
【0064】
一例として、本発明と共に使用され得る蛍光インジケーターは、AMPLIFLUORTMヘアピンプライマーであり、このAMPLIFLUORTMヘアピンプライマーは、その強度が単位複製配列の濃度に単調に関連する蛍光シグナルを生成するために使用される。例えば、Whitcombeら、Nature Biotechnology,17:804-808(1999)。簡単に述べると、AMPLIFLUORTMヘアピンプライマーは、従来のプライマーと同様に選択される標的結合部分と、ヘアピンが存在する場合には常にそのヘアピンにごく近接してフルオロフォア-クエンチャーを保持し、それによって、フルオロフォアからのあらゆる蛍光シグナルを消光する、標的結合部分の5’末端にあるヘアピン部分とを有する。PCRの逆転写伸長(reverse extension)工程の間に、ヘアピンの二重鎖領域は、逆転写鎖(reverse strand)がこの領域を通って標的ポリヌクレオチドの末端まで伸長されるときに置き換えられ、それによって、クエンチャーがフルオロフォアの近くから離れて移動し、その結果、蛍光シグナルが生成される。二本鎖DNA生成物が蓄積するにつれ、反応混合物からの蛍光シグナルが増加する。蛍光シグナルの強度が所定のレベル(例えば、基線の3倍)に到達するかまたはこのレベルを超えるとき、標的感受性パラメーターは自動的に変更され、このような単位複製配列のさらなる増幅を妨げる。
【0065】
いくつかの用途において、サンプルは、標的ポリヌクレオチドを含むかも含まないかもしれないので、従って、一局面では、1以上の参照配列または他の内部標準の単位複製配列が、いつ次の段階の反応を開始するかを決定するために監視される。すなわち、このような内部標準は、次の段階の反応を開始するためのポジティブコントロールおよび反応パラメーターとして機能する。別の局面では、次の段階の反応を開始するためには、内部標準の単位複製配列および標的ポリヌクレオチドの単位複製配列の両方が、所定のレベル(同じであっても異なっていてもよい)に達するか、または、これを超えなくてはならない。
【0066】
(本発明の方法を実行するためのシステム)
本発明の方法は、試薬を隔離し、試薬および反応生成物を反応の内外で移動させ、温度を制御し、そして、反応生成物を検出するための、異なるエンジニアリングアプローチに基づく種々のシステムおよび装置によって実行され得る。システムの選択は、多くの要因に依存し、これらの要因としては、サンプルもしくは検体の利用可能性、サンプルもしくは検体の形状、サンプルもしくは検体が有する危険性もしくは感染の程度、携帯性に対する希望、用いられる増幅反応の性質、どの程度多いサンプルをアッセイする必要があるかなどが挙げられるがこれらに限定されない。本発明の方法を実行するために使用され得る例示的なシステムとしては、Christelら、米国特許第6,369,893号およびDority、米国特許第6,374,684号に開示されるような、マイクロプロセッサの制御下の回転弁およびピストン型流体ポンプを用いる流体的に閉じた反応システム;Schnipelskyら、米国特許第5,229,297号;およびFindlayら、Clin.Chem.,39:1927-1933(1993)に開示されるような、反応チャンバーおよび検出ステーションを通してサンプル、反応物および生成物を機械的に駆動するための柔軟な試薬レザバを持つ、閉じた使い捨てのキュベット;定義の節において引用した参考文献において開示され、さらに、Shojiら、Appl.Biochem.Biotechnol.,41:21-34(1993)およびJ.Micromech.Microeng.,4:157-171(1994);McCormickら、Anal.Chem.,69:2626-2630(1997);Chengら、Topics Curr.Chem.,194:215-231(1998);Staveら、米国特許第6,663,833号;Neriら、米国特許第5,714,380号;Northrupら、米国特許第5,589,136号などに開示されるような微小流体デバイスが挙げられる。このようなシステムは、反応物、サンプルおよび反応生成物を、レザバと反応チャンバーとの間で、制御された様式で流体的に移動させ得る。すなわち、このようなシステムは、直接的な様式の液体移動力(liquid-moving force)の下、液体溶液中で反応物、サンプル、反応生成物などを動かす。液体移動力としては、多様な種類のポンプまたは圧縮ガスレザバ、動電学的ポンプなどにより生成される差次的な圧力が挙げられる。
【0067】
一局面では、本発明の方法は、一般に、Dority(上で引用される)に開示される、回転弁、反応物および廃液レザバの操作の特別の設計および方法により簡便に実行され得る。増幅生成物のリアルタイムでの監視が所望される別の局面では、このような装置は、Christelら(上で引用される)により開示される温度コントローラーおよび蛍光計と共に簡便に使用される。以下により完全に記載されるように、Christelらの装置は、さらに、Dorityの流体的に閉じた反応システムにおける第二段階の反応の開始の閉ループ制御を提供するために使用され得る。
【0068】
図2A~2Kは、流体的に閉じた条件下で、2つの連続した増幅反応を行い、同じサンプルの2つの部分から異なる標的ポリヌクレオチドを増幅するための、Dority(上で引用される)に開示される一般的な設計アプローチに従う装置の操作を概略的に示す。サンプルもしくは検体が反応システム内に充填され、そして、例えば、組織を分離する、細胞を溶解するなどにより、予め条件を整えられた後、この得られた溶液(「サンプル」と呼ばれる)は、サンプルレザバへと流体的に移動させられ、このサンプルレザバから、一部が、プログラムされた制御の下、反応チャンバーへと分配される。こうして、この反応システムは、2サイクルのサンプル/増幅試薬混合、反応混合物の充填、増幅および検出、ならびに、反応混合物の除去を、全て、流体的に閉じた条件の下で行う。好ましい実施形態では、示されないが、微量の先の反応混合物を除去し、それによって、バックグラウンドおよび/または干渉性の反応生成物の可能性を低減するために、各増幅工程の後に、すすぐ工程が含められる。すすぐ工程は、繰り返され得る。
【0069】
図2Aは、ピストン型ポンプ(2006)に作動可能に接続された内部チャンバー(2004)を持つ回転弁(2002)を収容するハウジング(2000)を示す。ポンプ(2006)のピストン(2056)の上向きの一動きは、チャンバー(2004)を加圧し、そして、レザバなどと連絡し得るあらゆるポートを通して流体成分を押し出す;同様に、ポンプ(2006)のピストン(2056)の下向きの一動きは、チャンバー(2004)を減圧し、そして、開いており、かつレザバなどと連絡し得るあらゆるポートを通して流体をくみ出す。このようなポンプ-回転弁デバイスの操作および組み立て、ならびに、サンプル調製のためのチャンバー(2004)の使用のさらなる説明は、Dority(上に引用される、この目的のために参考として援用される)により提供される。回転弁(2002)は、種々のポート(例えば、(2050)および(2052))と付随する通路(2008)および(2012)とを有し、このようなポートが対応するポート、種々のレザバまたは反応チャンバー(2042)への通路と整列されるときには常に、チャンバー(2004)が種々のレザバ(以下により完全に記載される)または反応チャンバー(2042)と流体的に連絡することを可能にする。本発明の例示的な実施形態では、このような付随する通路の長手方向軸は、回転弁(2002)の軸に対して垂直な2つの平面(点線(2048)および(2049)で示される)のうちいずれか1つにおいて、回転弁(2002)内で半径方向に配置され、その結果、チャンバー(2004)は、ハウジング(2000)内に配置されるレザバなどへの通路のポートと流体的に連絡して配置され得る。回転弁(2002)はさらに、連絡通路(2010)、(2011)および(2013)を備え、これらの通路は、弁の一方の平面にあるポートが、回転弁(2002)のもう一方の平面にある、ハウジング(2000)のポートと流体的に連絡して配置されることを可能にする。このような連絡通路は、内部チャンバー(2004)との流体的な連絡を可能にしない。
図2Aに示されるように、このような連絡通路が(2046)において、通路(2044)および(2016)のポートと整列されるとき、通路(2044)および(2016)は、流体的に連絡する。同様に、このような連絡通路が、(2038)において、通路(2040)および(2036)のポートと整列されるとき、通路(2040)および(2036)は、流体的に連絡する。
図2A~2Iにおいて、ハウジング(2000)内の網状線で示される通路およびレザバは、回転弁(2002)のポンプ近位平面(
図2Aの下側パネルにおいて点線(2049)で示される)にあり、一方で、網状線で示されない通路およびレザバは、ポンプ遠位平面(
図2Aの下側パネルにおいて点線(2048)で示される)にある。上述のように、回転弁(2002)は、内部チャンバー(2004)を種々のレザバおよび反応チャンバー(2042)と流体的に連絡して配置し得、これらは、通路により接続され、かつ、ハウジング(2000)の弁座内にポートを有し、この弁座内で回転弁(2002)が回転する。この例において、このようなレザバとしては、以下が挙げられる:(i)第一の増幅試薬を含有し、通路(2016)によって回転弁(2002)に流体的に接続され得る、レザバ(2014);(ii)例えば、細胞サンプルの表面膜を破壊するための溶解試薬を含有し、通路(2020)によって回転弁(2002)に流体的に接続され得る、レザバ(2018);(iii)サンプルもしくは検体物質を含有し、通路(2024)によって回転弁(2002)に流体的に接続され得る、サンプルレザバ(2022);(iv)洗浄溶液もしくは洗浄試薬を含有し、通路(2028)によって回転弁(2002)に流体的に接続され得る、レザバ(2026);(v)通路(2032)によって回転弁(2002)に流体的に接続され得る、廃液レザバ(2030);および(vi)第二の増幅試薬を含有し、通路(2036)によって回転弁(2002)に流体的に接続され得る、レザバ(2034)。
【0070】
図2B~2Iは、流体的に閉じた条件下で連続した2つの増幅反応を行うための、
図2Aの装置の操作を示す。回転弁(2002)の特定の実施形態がどのように動くかを教示する目的で、回転弁(2002)は、
図2B~2Iの各々において、番号を付けた32のセクターに分けて概略的に示される。回転弁(2002)の番号を付けたセクターの各々に隣接して、ハウジング(2000)の弁座内の対応する位置が存在し、これらにもまた番号が付けられる。番号32は、単に、設計上の選択であり、これは、とりわけ、レザバおよびチャンバーの複雑なシステムにおける相互連絡を提供する回転弁(2002)の能力を反映する。回転弁(2002)の出発位置において、
図2Cに示されるように、2つのセットについて、各セクターにおいて互いに隣接する番号は同じである。回転弁(2002)上の特定の番号(「内側の番号」)が丸で囲まれ(1、5、14、17、26、28)、そして、回転弁(2002)に隣接しかつ回転弁(2002)の外側にある特定の番号(「外側の番号」)が丸で囲まれる(1、6、8、21、30、31)。丸は、種々のレザバおよびチャンバーへのポートが位置するセクターを示す。内部が黒い円(例えば、5、6、8および17)は、回転弁(2002)の「ポンプ近位」平面(2049)に位置するポートを示し、そして、影のない円(例えば、1、21、30、31)は、回転弁(2002)の「ポンプ遠位」平面(2048)に位置するポートを示す。それぞれセクター14、26および28における、内部が点々になった円(2124)、(2125)および(2126)は、連絡通路を示す。
【0071】
サンプルもしくは検体(例えば、通常の濾紙ワイプを用いて回収したもの)は、操作者によって内部チャンバー内に充填され、この後、反応システムが流体的に閉じられる。
図2Bにおいて、回転弁(2002)は、弁のポート1(2108)がハウジング(2000)のポート31(2021)と整列され、その結果、溶解試薬レザバ(2018)が、サンプル調製処理が行われる内部チャンバー(2004)と流体的に連絡している開始位置で示される。ポンプ(2056)が下向きに一動きすると、溶解試薬が通路(2020)、ポート(2021)および(2108)ならびに通路(2012)により規定される経路を通ってくみ出され、内部チャンバー(2004)を満たし(2104)、この内部チャンバー(2004)においてサンプルと相互作用する。洗浄工程は、
図2Jおよび2Kに示され、そして、以下に記載されるようにして、解析される検体の性質に依存して、溶解の前もしくは後のいずれかに行われ得る。
【0072】
図2Cを参照すると、サンプルが溶解試薬中でインキュベートされた後、回転弁(2002)が回転されて、弁のポート1(2108)をハウジング(2000)のポート1(2109)と整列させ、それによって、内部チャンバー(2004)をサンプルレザバ(2022)と流体的に連絡した状態にする。ピストン(2056)の上向きの一動きは、溶解試薬とサンプルの混合物(「溶解物」または単に「サンプル」と呼ばれる)を、内部チャンバー(2004)からサンプルレザバ(2022)内へと駆動する。次いで、サンプルの一部が、サンプルレザバ(2022)からくみ出され、そして、ピストン(2056)の下向きの部分的な動きによって、内部チャンバー(2004)内に移され、この後、回転弁(2002)が回転されて、(セクター30において)ポート1(2108)をハウジング(2000)の通路(2016)のポートと整列させ、それによって、
図2Dに示されるように、第一の増幅試薬レザバ(2014)を内部チャンバー(2004)と流体的に連絡した状態にする。ピストン(2056)の上向きの一動きは、サンプルを、内部チャンバー(2004)から第一の増幅試薬レザバ(2014)へと駆動し、この第一の増幅試薬レザバにおいて、第一の増幅試薬がサンプルと混合されて、第一の反応混合物を形成する。
図2Eに示されるように、回転弁(2002)が回転されて、セクター26において、連絡通路(2011)を通路(2016)および通路(2044)のポートと整列させ、その結果、第一の増幅試薬レザバ(2014)と反応チャンバー(2042)との間に流体的な連絡が生じる。同時に、回転弁の通路(2035)が通路(2040)のポート(回転弁(2002)のセクター17における黒い丸として示される)と整列され、反応チャンバー(2042)と内部チャンバー2004との間に流体的な連絡を提供する。ピストン(2056)が下向きに一動きすると、第一の反応混合物が、第一の増幅試薬レザバ(2014)から、通路(2016)および(2044)を通して、反応チャンバー(2042)内へとくみ出され、この反応チャンバー(2042)において、第一の増幅反応が起こる。必要に応じて、増幅反応の間に回転弁(2002)が回転されて、通路(2044)および(2040)を閉じ得る。第一の増幅反応が完了した後、ピストン(2056)の下向きの一動きにより、第一の反応混合物が反応チャンバー(2042)から除去され、このピストンの一動きにより、
図2Fの上側パネルに示すように、混合物が内部チャンバー(2004)内へとくみ出され、その後、回転弁(2002)が回転されて、通路(2032)のポートと整列され、その結果,廃液レザバ(2030)が内部チャンバー(2004)と流体的に連絡した状態になる。ピストン(2056)が上向きに一動きすると、
図2Gに示されるように、使用済みの第一の反応混合物が、内部チャンバー(2004)から通路(2032)を通って廃液レザバ(2030)へと移される。次いで、回転弁(2002)が回転されて、通路(2012)を通路(2024)(図中には示さず)と整列させ、その結果、サンプルレザバ(2022)が内部チャンバー(2004)と流体的に連絡した状態になり、その後、ピストン(2056)の下向きの一動きによって、サンプルの一部が内部チャンバー(2004)内にくみ出される。回転弁(2002)が回転されて、通路(2012)(
図2Hにおいてポート1として示される)を通路(2036)と整列させ、その結果、第二の増幅試薬レザバ(2034)が、内部チャンバー(2004)と流体的に連絡した状態になる。ピストン(2056)の上向きの一動きは、サンプルの一部を第二の増幅試薬レザバ(2034)内へと駆動し、このレザバ(2034)において、サンプルが第二の増幅試薬と混合されて、第二の反応混合物を形成する。回転弁(2002)が回転されて、通路(2008)(
図2Iにおける黒丸のポート5)を通路(2044)および通路(2013)(回転弁(2002)のセクター28における点々の円として示される)と整列させ、その結果、第二の増幅試薬レザバ(2034)が、反応チャンバー(2042)と流体的に連絡した状態となり、次いで、この反応チャンバー(2042)が内部チャンバー(2004)と流体的に連絡した状態となる。ピストン(2056)が下向きに一動きすると、第二の反応混合物が、第二の増幅試薬レザバ(2034)から通路(2036)を通り、通路(2040)を通り、そして、反応チャンバー(2042)内へとくみ出され、この反応チャンバー(2042)において第二の増幅反応が起こる。
【0073】
上述のように、溶解試薬中でインキュベートした後、サンプルは、
図2Jおよび2Kに示されるように、必要に応じて洗浄され得る。簡単に述べると、
図2Jにおいて、回転弁(2002)が回転されて、その結果、セクター5のポート(2128)が、ハウジング(2000)のポート6(2110)と整列し、その結果、ピストン(2056)が下向きに一動きすると、レザバ(2026)内の洗浄溶液が内部チャンバー(2004)内へとくみ出される(2200)(および(2204))。
図2Kに示されるように、回転弁(2002)を回転させた結果、ポート5(2128)がハウジング(2000)のポート8と整列し、内部チャンバー(2004)と廃液レザバ(2030)との間の流体的な連絡が可能となり、ピストン(2056)が上向きに一動きすると、内部チャンバー(2004)内の洗浄溶液が、廃液レザバ(2030)内へと押し出され得る(2022)。このプロセスは、必要に応じて繰り返され得る。
【0074】
回転弁(2002)の設計(例えば、通路の数および種類の選択、ならびに、ハウジング(2000)内の試薬レザバの数およびタイプの選択)は、当業者の慣用的な設計上の選択の問題であることは、上記例から明らかであるはずである。
【0075】
(内部標準)
しばしば、例えば、患者の検体における標的遺伝子の測定した発現レベルが正常範囲内であるかどうかを決定することを試みる場合、異なるアッセイからの読出しを比較することが望ましい。特に、医療上の用途において、しばしば、患者のサンプルからのアッセイ結果を参照サンプルからのアッセイ結果と比較することが望まれる。このような比較は、標的ポリヌクレオチドに関連するシグナルの、同じサンプルからの参照配列もしくは内部標準に関連するシグナルの比を決定することによって容易になされる。このことは、標的ポリヌクレオチドについての値が、他のサンプルもしくは検体からの値に対して比較されることを可能にする。内部標準、そして特に、参照配列の使用および選択は、以下の参考文献(参考として援用される)に示されるように、当業者に周知である:Radonicら、Biochem.Biophys.Res.Comm.313:856-862(2004);Bustin,J.Mol.Endoccrinol.,29:23-39(2002);Hoorfarら、J.Clin.Microbiol.,42:1863-1868(2004)など。参照配列に関連するシグナルまたは値もまた、複数の参照配列から測定されたシグナルまたは値の関数(例えば、平均)であり得ることが理解される。
【0076】
選択される内部標準または参照配列のタイプは、解析されるサンプルの性質に依存する。哺乳動物の細胞または組織を含むサンプルに関し、例示的な参照配列を以下の表Iに列挙する。
【0077】
【0078】
サンプル中の標的ポリヌクレオチドの存在または非存在が決定されるべきいくつかの用途において、存在することが既知の内部標準は、ポジティブコントロールとして標的ポリヌクレオチドと共に増幅され得、その結果、標的ポリヌクレオチドが存在しない場合にも、ポジティブシグナルが生成される。このような用途において、内部標準は、内因性のポリヌクレオチドであり得るか、または、このような目的のために、反応混合物に加えられた外来性のポリヌクレオチドであり得る。
【0079】
(サンプルまたは検体の調製)
標的ポリヌクレオチドを含むサンプルまたは検体は、本発明での使用のための広範な種々の供給源(細胞培養物、動物もしくは植物の組織、患者の生検、環境的サンプルなどが挙げられる)に由来し得る。サンプルは、従来の技術(代表的には、サンプルまたは検体が取ってこられた供給源に依存する)を用いて本発明のアッセイのために調製される。
【0080】
サンプルまたは検体は、これらのサンプルもしくは検体が外部の要素により汚染される機会、または、サンプルもしくは検体が危険な成分を含む場合には、環境がこれらのサンプルもしくは検体により汚染される機会を最小限にするように収集される。一般に、サンプルの収集は、解析のためのサンプル(例えば、組織、血液、唾液など)を、流体的に閉じたシステム内のサンプル収集チャンバー内に直接導入することにより行われる。代表的には、サンプルの交差汚染の防止は、密封可能な開口部(例えば、注入用弁)または隔壁を通してサンプル収集チャンバー内にサンプルを直接注入することにより達成され得る。一般に、密封可能な弁は、サンプルの注入の間もしくは後に、あらゆる可能性のある漏れの恐れを減らすことが好ましい。上記のものに加えて、デバイスのサンプル収集部分はまた、感染因子の中和、検体もしくはサンプルの安定化、pH調節などのための試薬および/または処理を含み得る。安定化およびpH調節の処理としては、例えば、血液サンプルの凝血を防ぐためのヘパリンの導入、緩衝剤の添加、プロテアーゼインヒビターもしくはヌクレアーゼインヒビター、保存料の添加などが挙げられ得る。このような試薬は、一般に、デバイスのサンプル収集チャンバー内に貯蔵されても、別個のアクセス可能なチャンバー内に貯蔵されてもよく、この別個のアクセス可能なチャンバーにおいて、サンプルをデバイス内に導入する際に、試薬が添加されても、サンプルと混合されてもよい。これらの試薬は、使用される特定の試薬の性質および安定性に依存して、液体もしくは凍結乾燥形態のいずれかで、デバイス内に組み込まれ得る。
【0081】
しばしば、サンプルについて増幅反応を行う前に、サンプルについて1以上のサンプル調製操作を行うことが望ましい。代表的には、これらのサンプル調製操作は、細胞内物質の抽出(例えば、全細胞サンプル、ウイルスなどからの核酸の抽出)のような操作を包含する。これらの1以上の種々の操作は、本発明により企図される流体的に閉じたシステム内に容易に組み込まれ得る。
【0082】
全細胞、ウイルスまたは他の組織サンプルが解析されるこれらの実施形態に関して、代表的に、ウイルスサンプルの調製操作を続ける前に、これらの細胞またはウイルスから核酸を抽出することが必須である。したがって、サンプル収集の後に、核酸が、収集した細胞、ウイルス被膜などから粗抽出物へと解放され得、その後、サンプルを次の操作のために調製するさらなる処理(例えば、汚染性(DNA結合)タンパク質の変性、精製、濾過、脱塩など)が行われ得る。サンプルの細胞またはウイルスからの核酸の解放、および、DNA結合タンパク質の変性は、一般に、化学的、物理的または電気分解性の溶解方法により行われ得る。例えば、化学的な方法は、一般に、細胞を破壊して、細胞から核酸を抽出するために溶解剤を用い、その後、イソチオシアン酸グアニジニウムまたは尿素のようなカオトロピズム塩を用いて抽出物を処理して、あらゆる汚染性タンパク質および潜在的な干渉性タンパク質を変性させる。一般に、化学的な抽出および/または変性の方法が使用される場合、適切な試薬は、同じ調製チャンバー内に組み込まれても、別個のアクセス可能なチャンバー内に組み込まれても、外部に導入されてもよい。
【0083】
物理的な方法は、核酸を抽出し、そしてDNA結合タンパク質を変性させるために使用され得る。Wildingら、米国特許第5,304,487号(あらゆる目的のためにその全体が本明細書中に参考として援用される)は、細胞膜を穿孔し、そして、その内容物を抽出するための、マイクロチャネル内での物理的な突出部、または、チャンバーもしくはチャネル内での端が鋭利な粒子の使用を考察する。撹拌のための圧電素子を持つこのような構造の組み合わせは、溶解のための適切なせん断力を提供し得る。このような要素は、核酸の断片化に関して、以下により詳細に記載される。例えば、十分な流圧によりサンプルがチャネルを通されるときに細胞溶解を引き起こすような制限された断面積を有するチャネルを用いるなど、細胞抽出のより伝統的な方法もまた使用され得る。あるいは、細胞の抽出および汚染性タンパク質の変性は、サンプルに交流電流を印加することにより行われ得る。より具体的には、流体の流れを横切って交流電流が印加されている間に、細胞のサンプルが細管アレイを通して流される。種々の他の方法(例えば、細胞を超音波撹拌に供すること、または、細胞を小さな開口部に押し付け、それによって、細胞を高いせん断応力に供して破壊をもたらすことが挙げられる)が、細胞の溶解/抽出を行うために、本発明のデバイスにおいて利用され得る。
【0084】
抽出の後、しばしば、核酸を粗抽出物の他の要素(例えば、変性したタンパク質、細胞膜粒子、塩など)から分離することが望ましい。粒子性物質の除去は、一般に、濾過、凝集などにより達成される。種々のフィルターのタイプが、デバイス内に容易に組み込まれ得る。さらに、化学的な変性方法が使用される場合、次の段階に進む前に、サンプルを脱塩することが望ましくあり得る。サンプルの脱塩および核酸の単離は、一般に、例えば、核酸を固相に結合させ、そして、汚染性の塩を洗い流すか、または、サンプルに対してゲル濾過クロマトグラフィーを行うこと、塩を透析膜に通すことなどにより、単一の工程で行われ得る。核酸を結合させるための適切な固体支持体としては、例えば、珪藻土、シリカ(すなわち、ガラス綿)などが挙げられる。適切なゲル抽出媒体(これもまた当該分野で周知)もまた本発明のデバイス内に容易に組み込まれ得、そして、これは、例えば、PharmaciaおよびSigma Chemical Co.から市販されている。
【0085】
単離および/またはゲル濾過/脱塩は追加のチャンバー内で行われ得るか、あるいは、固有のクロマトグラフィー用媒体が次の反応チャンバーへとつながるチャネルもしくは流路に組み込まれ得る。あるいは、1以上の流路またはチャンバーの内面は、それ自体が誘導体化されて、所望の精製のために適切な官能基(例えば、荷電した基、親和性結合基など、すなわち、mRNA精製のためのポリ-Tオリゴヌクレオチド)を提供され得る。あるいは、脱塩の方法は、一般に、DNAの、他の成分と比較して高い電気泳動移動性および負電荷を利用し得る。電気泳動法もまた、核酸の他の細胞汚染物質および細胞片からの精製に利用され得る。一例では、デバイスの分離用チャネルもしくはチャンバーは、内部に電極(例えば、白金電極)が配置された、2つの別個の「電場」チャネルもしくはチャンバーに対し、流体的に接続される。この2つの電場チャネルは、適切な障壁または「捕捉膜」を用いて、分離用チャネルから隔てられており、この障壁または捕捉膜は、核酸または他の大きな分子を通過させることなく電流の通過を可能にするものである。障壁は、一般に、以下の2つの基本的な機能を果たす:第一に、障壁は、分離用チャンバー内で正電極に向かって移動する拡散を保持するように機能する;そして、第二に、障壁は、電極における電気分解に関連する有害な作用が反応チャンバー内に入ることを防止する(例えば、塩の接合点(salt junction)として作用する)。このような障壁としては、例えば、透析膜、濃密ゲル、PEIフィルターまたは他の適切な材料が挙げられ得る。適切な電場を適用すると、サンプル中に存在する核酸は、正電極に向かって移動し、そして、捕捉膜上に捕捉される。次いで、適切な流体の流れを加えることにより、膜から離れて残存するサンプルの不純物がチャンバーから洗浄される。電圧を除くと、核酸が実質的に純粋な形態で膜から解放される。電場チャネルは、分離用のチャンバーまたはチャネルの同じ側もしくは端部または反対側もしくは端部に配置され得、そして、最大の操作効率を確実なものとするために、本明細書中に記載される混合要素と組み合わせて使用され得る。さらに、目の粗いフィルターがまた、粒子状物質、タンパク質もしくは核酸による障壁のいかなる汚れをも避け、それによって、繰り返しの使用を可能にするためにこの障壁上に重ねられ得る。同様の局面において、ゲルの短いカラム、または、より速い核酸の通過を可能にする一方で他の汚染物質の流れを減速もしくは遅延する他の適切なマトリクスもしくはゲルを利用することによって、その負電荷を持つ核酸の高い電気泳動移動性が、核酸を汚染物質から分離するために利用され得る。
【0086】
多数の用途に関して、細胞、細胞片および他の汚染物質からメッセンジャーRNAを抽出および分離することが望ましくあり得る。したがって、本発明のシステムは、いくつかの場合、mRNA精製用のチャンバーまたはチャネルを備え得る。一般に、このような精製は、mRNA上のポリ-Aテイルを利用する。具体的に、そして、上述のように、ポリ-Tオリゴヌクレオチドが、デバイスのチャンバーまたはチャネル内に固定されて、mRNAに対する親和性リガンドとして機能し得る。ポリ-Tオリゴヌクレオチドは、チャンバーまたはチャネル内に組み込まれた固体支持体上に固定され得るか、あるいは、チャンバーまたはチャネル自体の表面上に固定され得る。
【0087】
患者の血液から希薄な転移性細胞における標的ポリヌクレオチドの測定のようないくつかの用途では、アッセイを行う前に、免疫磁性単離(immunomagnetic isolation)などにより、富化の工程が行われ得る。このような単離もしくは富化は、以下の代表的な参考文献(参考として援用される)において開示されるように、当該分野で公知の種々の技術および材料を用いて行われ得る:Terstappenら、米国特許第6,365,362号;Terstappenら、米国特許第5,646,001号;Rohrら、米国特許第5,998,224号;Kauschら、米国特許第5,665,582号;Kresseら、米国特許第6,048,515号;Kauschら、米国特許第5,508,164号;Miltenyiら、米国特許第5,691,208号;Molday、米国特許第4,452,773号;Kronick、米国特許第4,375,407号;Radbruchら、第23章,Methods in Cell Biology,Vol.42(Academic Press,New York,1994);Uhlenら、Advances in Biomagnetic Separation(Eaton Publishing,Natick,1994);Safarikら、J.Chromatography B,722:33-53(1999);Miltenyiら、Cytometry,11:231-238(1990);Nakamuraら、Biotechnol.Prog.,17:1145-1155(2001);Morenoら、Urology,58:386-392(2001);Racilaら、Proc.Natl.Acad.Sci.,95:4589-4594(1998);Zigeunerら、J.Urology,169:701-705(2003);Ghosseinら、Seminars in Surgical Oncology,20:304-311(2001)。
【0088】
本発明を行う際に使用するための好ましい磁性粒子は、コロイドとして挙動する粒子である。このような粒子は、そのサブミクロンの粒子サイズ(一般に、約200ナノメートル(nm)(0.20ミクロン)未満である)、および、長時間にわたる溶液からの沈降による分離に対する安定性により特徴付けられる。多くの他の利点に加え、このサイズ範囲は、細胞の分析に一般的に適用される分析技術に対し、この粒子を本質的に目に見えない存在にする。90~150nmの範囲内でかつ70~90%の間の磁気塊(magnetic mass)を有する粒子が、本発明における使用に企図される。適切な磁性粒子は、強磁性物質の結晶性コアと、それを囲む、磁性コアに結合し(例えば、物理的に吸着するかまたは共有結合する)、そして、安定したコロイドの特性を与える物質とから構成される。コーティング物質は好ましくは、サンプル中に見出される生体高分子と磁性コアとの間の非特異的な相互作用を防止するのに有効な量で適用されるべきである。このような生体高分子としては、非標的細胞の表面上のシアル酸残基、レシチン、糖タンパク質および他の膜成分が挙げられ得る。さらに、この物質は、可能な限り多くの磁気塊/ナノ粒子を含むべきである。コアを含む磁性結晶のサイズは、完全な磁性ドメインを含まない程度まで十分に小さい。ナノ粒子のサイズは、そのBrownianエネルギーがその磁気モーメントを超えないように十分に小さい。結果として、これらのコロイド性磁性粒子のN極、S極の配置と、その結果としての相互の引力/反発力は、中程度に強い地場においてでもなお生じないようであり、その溶液安定性に寄与している。最後に、磁性粒子は、高い磁気勾配の外部の磁場分離装置において分離可能であるべきである。この特徴は、サンプルの取り扱いを容易にし、そして、強磁性ビーズまたはスチールウールを充填したより複雑な内部の勾配カラムを上回る経済的な利点を提供する。上記の特性を持つ磁性粒子は、米国特許第4,795,698号、同第5,597,531号および同第5,698,271号(これらの特許は、参考として援用される)に記載される基本的な材料を修正したものにより調製され得る。
【実施例0089】
実施例1
メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)を検出するための、同じ反応チャンバー内での連続した増幅反応 この実施例において、MRSAについての標準的なPCRアッセイ(例えば、Warrenら、J.Clinical Microbiology,42:5578-5581(2004)を参照のこと、本明細書中に参考として援用される)を用いる2つの試験を行った。両方の試験は、Cepheid製のGENEXPERTTM増幅システム(米国特許第6,713,297号;同第6,403,037号;同第6,374,684号;同第6,369,893号を含め、種々の米国特許に開示される、これらの特許は本明細書中に参考として援用される)において行った。第一の試験において、一連の2つのPCRサイクルを、間にすすぎの工程を入れて、同じ反応チャンバーにおいて行った。第一のサイクルにおいて、全ての試薬は、予測可能なシグナルを生成したPCRのために与えたものであり、そして、第二のサイクルにおいて、緩衝液のみを反応チャンバー内に充填した。第二の試験において、第二のサイクルにおいて、全ての試薬を、第一のサイクルと同様に与えた点を除いて、第一の試験と同じ手順を行った。両方の試験において、システムは、以下の工程を行うようにプログラムした:(i)反応チャンバーに第一の反応混合物を充填する工程、(ii)反応チャンバーにおいて第一のPCRを行う工程、(iii)反応チャンバーから反応混合物を空にする工程、(iv)洗浄溶液で反応チャンバーをすすぐ工程[(iva)反応チャンバーにTET緩衝液を充填する工程および(ivb)反応チャンバーからTET緩衝液を空にする工程により実行される]、(v)反応チャンバーを空気でパージし、反応チャンバーを加熱する工程;(vi)反応チャンバーに第二の反応混合物[第一の試験においては、単にTET緩衝液のみであった]を充填する工程;および、(vii)反応チャンバー内で第二のPCRを行う工程。反応混合物(第一の試験における第一の反応混合物、ならびに、第二の試験における第一および第二の反応混合物)は、同一の組成を有した。
【0090】
GENEXPERT
TM増幅システムカートリッジを、以下のようにして調製した:(1)4コピー/μLまたは1反応につき100コピーの最終濃度を得るために、0.8μLのMRSA DNA(ATCC)(1000コピー/μL)を、199.2μLのTET緩衝液と混合してサンプルを作製した(TET緩衝液は、二価のキレート化合物および穏やかな界面活性剤、例えば、Tris-HCl、EDTAおよびTween-20を含有する従来のTrisベースの緩衝液である)、(2)試験2については、GENEXPERT
TM増幅システムカートリッジのチャンバー9および11の各々に、TSR試薬ビーズとEZR試薬ビーズを両方充填した;試験1については、一方のチャンバーにのみTSRビーズおよびEZRビーズを充填し、もう一方のチャンバーには、TET緩衝液を充填した(TSRは、MRSA標的特異的な試薬の凍結乾燥アリコートであり、そして、EZRは、PCR酵素の凍結乾燥アリコートである、米国特許出願公開番号2006/0068398および同2006/0068399(これらは、本明細書中に参考として援用される)に記載される)、(3)200μLのサンプルを、GENEXPERT
TM増幅システムカートリッジのチャンバー10に入れた、(4)500μLのTET緩衝液(洗浄溶液として使用)を、GENEXPERT
TM増幅システムカートリッジのチャンバー5に入れた。試験1および2のためのGENEXPERT
TM増幅システムのプログラム命令の詳細なリストを、
図3Aに示す。工程26の温度プロトコール(第一のPCR)は、95℃で30秒間保持した後、92℃で1秒、62℃で6秒および68℃で6秒の45サイクルを行った。工程43の温度プロトコール(パージする工程)は、95℃で1秒間保持した後、45℃で30秒間保持した。工程65の温度プロトコール(第二のPCR)は、工程26のものと同じであった。試験1についての結果を
図3Bに示す。
図3Bにおいて、曲線1(BG)は、コントロールの単位複製配列(bacillus globigiiに由来)であり、曲線2は、MRSAに由来するmecA遺伝子の単位複製配列であり、曲線3は、MRSAに由来するorfH遺伝子の単位複製配列であり、そして、曲線4は、MRSAに由来するSPAの単位複製配列である。データは、反応チャンバーがすすがれ、緩衝液が充填されると、第二のPCRではさらなる反応が起きないことを示す。試験2についての結果を
図3Cに示す(曲線の番号は、
図3Bのものと同じである)。データは、第一のPCRおよび第二のPCRの両方における、MRSA標的の同様な増幅を示す。
【0091】
実施例2
同じ反応チャンバーにおいて連続的に行った2つの増幅反応によるMRSAの検出:非凍結乾燥試薬 この実施例において、異なる標的配列を増幅する2つのPCRを同じ反応チャンバーにおいて連続して行う2つの試験を行った。2つの試験において変更した唯一のパラメーターは、反応を行う順番であった。各試験を2連で行った。実施例1と同様に、ここでもMRSAの標的配列を用いた。この実施例に関して、以下の2つの反応混合物を調製した:第一の反応混合物(MM1)は、MRSA遺伝子、mecA(Alexa 647プローブ(A647)で標識)およびSPA(テトラメチルローダミンプローブ(TxR)で標識)ならびに内部コントロールBG(Alexa 532プローブ(A532)で標識)を含み;そして、第二の反応混合物(MM2)は、MRSA遺伝子、orfH(フルオレセインプローブ(FMA)で標識)および内部コントロールBG(この場合は、テトラメチルローダミンプローブ(TxR)で標識)を含む。第一および第二の反応混合物のさらなる詳細を、それぞれ、表2および3に示す。
【0092】
【0093】
【0094】
両方の試験について、反応容量25μLにつき100コピーのMRSA DNAの最終濃度、そして、反応容量25μLにつき1000コピーのBG DNAの最終濃度を得るために、MRSA DNAとBG DNAとをTET緩衝液中で混合してサンプルを作製した。第一の試験について、2つのGENEXPERT
TM増幅システムカートリッジのレザバを以下のように充填した:チャンバー9に40μLのMM1を充填し、チャンバー11に40μLのMM2を充填し、チャンバー10に180μLのサンプルを充填し、そして、チャンバー2に500μLのTET緩衝液を充填した。GENEXPERT
TM増幅システムは、実質的に実施例1と同じようにプログラムし、このプログラムの工程の詳細なリストは
図4Aに示す。結果を、
図4B~4Hに示す。第一の試験(MM1の後にMM2)からのデータを
図4Bに示し、第二の試験(MM2の後にMM1)からのデータを
図4Cに示す。BG、mecA、orfおよびSPAの単位複製配列についてのシグナルを、両方の図面において、それぞれ、曲線1、2、3および4に与える。データは、各場合において第二の反応が、標的配列の低い程度の増幅のみをもたらしたことを示す。反応混合物を前もって調製したので、第二の反応試薬が、反応の開始前に分解していたものと推測される。
図4D~4Hは、第一の反応および第二の反応において増幅した同じ標的配列の直接的な比較を与える。両方の反応において同等に増幅された唯一の標的配列は、orfであった。
【0095】
実施例3
同じ反応チャンバーにおいて連続的に行った2つの増幅反応によるMRSAの検出:凍結乾燥試薬 この実施例において、各順序の反応における両方のPCRに凍結乾燥試薬を用いたこと、そして、MRSA DNAおよびBG DNAの濃度が10倍低かったことを除いて、実施例2と実質的に同じ試験を行った。これらの試験と並行して、HOTMASTER
TMポリメラーゼインヒビター(Eppendorf AG,Hamburg,Germany)を含めることまたは除外することの影響もまた調べた。(HOTMASTER
TMインヒビターは、温度依存性の様式でポリメラーゼの結合を阻害し、その結果、低い温度では伸長が阻止される)。内部コントロール配列であるBGについての反復実験の結果を
図5A(反応1)および
図5B(反応2)に示す。両方の反応が、明確に検出可能なシグナルをもたらし、BGの相対的な増幅は、凍結乾燥試薬の使用により大きく改善された。
【0096】
実施例4
空気でパージし、そして加熱することによる、反応チャンバーの気泡の除去 上述のように、連続した増幅反応の間の反応チャンバー内の気泡の形成は、特に、増幅生成物が光学シグナルにより検出される場合、システムの性能を低下させ得る。気泡は、第一(または先)の反応後に反応チャンバーに残る反応混合物の膜に起因して形成されるものと考えられる。この実施例では、反応チャンバー内の気泡の形成を排除するために、反応混合物を除去した後で、反応チャンバーに次の反応混合物を補充前に、パージおよび/または加熱の工程を実行した。このような工程は、
図6A~6F(擬似(mock))および
図6G~6H(実際)に列挙されるプログラムの下、Cepheid製のGENEXPERT
TM増幅システムを用いる、連続した擬似逆転写酵素反応とPCR(すなわち、RT-PCR)および実際のRT-PCRについて実行した。反応は、試薬がプローブもプライマーも酵素も含まないという意味で「擬似」であった。
【0097】
図6Aのプログラム工程により実行されるプロトコールにおいて、擬似(RT)反応混合物を除去した後で、かつ、擬似PCR混合物を補充する前に、600μLの空気を反応チャンバーから吸引した。その結果、8つの反応チャンバーのうち2つにおいて気泡が観察された。
図6Bのプログラム工程により実行されるプロトコールにおいて、擬似(RT)反応混合物を除去した後で、かつ、擬似PCR混合物を補充する前に、反応チャンバーを100℃まで5秒間加熱した。その結果、4つの反応チャンバーのつ4つにおいて気泡が観察された。
図6Cのプログラム工程により実行されるプロトコールにおいて、擬似(RT)反応混合物を除去した後、反応チャンバーを95℃まで5秒間加熱し、その後、48℃にて2秒間冷却し、その後、擬似PCR混合物を補充した。その結果、4つの反応チャンバーのうち0個において気泡が観察された。
図6Dのプログラム工程により実行されるプロトコールにおいて、擬似(RT)反応混合物を除去した後でかつ、擬似PCR混合物を補充する前に、(反応チャンバーから吸引するのではなく)反応チャンバーに600μLの空気を分配した。その結果、4つの反応チャンバーのうち1つにおいて気泡が観察された。
図6Eのプログラム工程により実行されるプロトコールにおいて、擬似(RT)反応混合物を除去した後に、反応チャンバーを100℃まで3秒間加熱し、その後、48℃にて2秒間冷却し、その後、擬似PCR混合物を補充した。その結果、8つの反応チャンバーのうち0個において気泡が観察された。
図6Fのプログラム工程により実行されるプロトコールにおいて、擬似(RT)反応混合物を除去した後に、反応チャンバーを95℃まで1秒間加熱し、その後、70℃にて1秒間冷却し、その後、擬似PCR混合物を補充した。その結果、8つの反応チャンバーのうち0個において気泡が観察された。
【0098】
上述のように、それぞれ、表4および表5に記載されるRT反応混合物およびPCR混合物を用いて、2つの実際のRT-PCRを行った。簡単に述べると、RNAミックス中でGUS、PIPおよびTAC遺伝子から単位複製配列を生成するようにアッセイを設計した。RNAミックスは、1.76μLのヒトリンパ節総RNAおよび0.44μLのヒト胸部総RNAを、107.8μLのDEPC H2Oに加えることによって作製した。3つのGENEXPERT
TM増幅システムカートリッジを、以下のように充填した:チャンバー5に400μLの水を加え;チャンバー6に25μLのRNAミックスを加え;チャンバー7に42μLのRTマスターミックスを加え;そして、20μLのPCRマスターミックスを加えた。一方のRT-PCRにおいて、RT反応とPCRの間に反応チャンバーを空にしたが、加熱はしなかった(
図6Gに示すプロトコール)。もう一方のRT-PCRにおいて、RT反応とPCRの間に、反応チャンバーを空にし、95℃まで1秒間加熱し、その後、70℃まで1秒間冷却した(
図6Hに示すプロトコール)。2つのプロトコール間で、単位複製配列の検出において有意な差はなかった。
【0099】
この実施例の試験は、実際のRT-PCR試薬を用いた1回の反復試験は決定的でなかったとしても、反応の間に、空の反応チャンバーを95℃まで加熱し、その後例えば70℃まで冷却することが、反応チャンバー内での気泡の形成を停止したことを示す。反応間で空の反応チャンバーから空気を吸引するか、または、空気を分配するだけでは、気泡を除くのに効果がなかった。
【0100】
【0101】
【0102】
本明細書中に記載される実施例および実施形態は、例示目的のためのものに過ぎず、これらを鑑みた種々の修正または変更が当業者に対して示唆され、そして、本願の趣旨および主部ならびに添付の特許請求の範囲内に包含されるべきことが理解される。本明細書中に引用される全ての刊行物、特許および特許出願は、あらゆる目的のためにその全体が本明細書により参考として援用される。