(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130752
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】ルビスコの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 9/00 20060101AFI20220831BHJP
C12N 9/88 20060101ALI20220831BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20220831BHJP
A61K 38/44 20060101ALI20220831BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20220831BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220831BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20220831BHJP
A61K 36/31 20060101ALI20220831BHJP
A61K 36/42 20060101ALI20220831BHJP
A61K 36/23 20060101ALI20220831BHJP
A61K 36/28 20060101ALI20220831BHJP
A61K 36/39 20060101ALI20220831BHJP
A61K 36/888 20060101ALI20220831BHJP
A61K 36/185 20060101ALI20220831BHJP
A61K 36/81 20060101ALI20220831BHJP
A61K 36/894 20060101ALI20220831BHJP
A61K 36/88 20060101ALI20220831BHJP
A61K 36/47 20060101ALI20220831BHJP
A61K 36/74 20060101ALI20220831BHJP
A61K 125/00 20060101ALN20220831BHJP
A61K 127/00 20060101ALN20220831BHJP
A61K 131/00 20060101ALN20220831BHJP
A61K 133/00 20060101ALN20220831BHJP
A61K 135/00 20060101ALN20220831BHJP
【FI】
C12N9/00 101
C12N9/88
A23L33/105
A61K38/44
A61P25/18
A61P43/00 111
A61P25/20
A61K36/31
A61K36/42
A61K36/23
A61K36/28
A61K36/39
A61K36/888
A61K36/185
A61K36/81
A61K36/894
A61K36/88
A61K36/47
A61K36/74
A61K125:00
A61K127:00
A61K131:00
A61K133:00
A61K135:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019134071
(22)【出願日】2019-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】519264542
【氏名又は名称】株式会社MeDream
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠山 育夫
(72)【発明者】
【氏名】ベリエ ジャンピエール
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智子
(72)【発明者】
【氏名】横田 明穗
【テーマコード(参考)】
4B018
4B050
4C084
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD48
4B018MD90
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF06
4B050CC07
4B050DD13
4B050FF01C
4B050FF03C
4B050HH02
4B050LL01
4B050LL02
4C084AA02
4C084AA06
4C084BA44
4C084CA13
4C084DC23
4C084MA52
4C084NA14
4C084ZA051
4C084ZA181
4C084ZC411
4C088AB12
4C088AB14
4C088AB15
4C088AB19
4C088AB26
4C088AB40
4C088AB46
4C088AB48
4C088AB71
4C088AB80
4C088AB84
4C088AC03
4C088AC04
4C088AC05
4C088AC11
4C088AC13
4C088BA08
4C088BA16
4C088CA02
4C088CA05
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA05
4C088ZA18
4C088ZC41
(57)【要約】
【課題】植物の葉から加水分解を受けず高純度でルビスコを得ることができる植物の葉由来のルビスコの製造方法、及び該製造方法により得られたルビスコを用いる食品又は医薬組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】以下の工程(1)~(4)を含む、植物の葉由来のルビスコの製造方法:(1)植物の葉を50~58℃で3分~1時間熱処理する工程、(2)工程(1)で得られた植物の葉を破砕する工程、(3)工程(2)で得られた破砕液から不溶性物質を除去する工程、及び(4)工程(3)で得られた破砕液を60~100℃で5分~1時間熱処理して凝集物を回収する工程、並びに当該製造方法により得られたルビスコを用いることを特徴とする、ルビスコを含む食品又は医薬組成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(1)~(4)を含む、植物の葉由来のルビスコの製造方法:
(1)植物の葉を50~58℃で3分~1時間熱処理する工程、
(2)工程(1)で得られた植物の葉を破砕する工程、
(3)工程(2)で得られた破砕液から不溶性物質を除去する工程、及び
(4)工程(3)で得られた破砕液を60~100℃で5分~1時間熱処理して凝集物を回収する工程。
【請求項2】
以下の工程(5)を更に含む、請求項1に記載の製造方法:
(5)工程(4)で得られた凝集物を洗浄する工程。
【請求項3】
前記植物のSPAD値が55以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記植物が、キャベツ、ブロッコリー、カボチャ、スイカ、ユウガオ、カブ、カリフラワー、ダイコン、ハクサイ、ニンジン、ゴボウ、サツマイモ、サトイモ、ホウレンソウ、レタス、チンゲンサイ、シュンギク、セルリー、ピーマン、タロイモ、バナナ、モロヘイヤ、キャッサバ、ズッキーニ、ゴーヤ、及びコーヒーノキからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法により得られたルビスコを用いることを特徴とする、ルビスコを含む食品又は医薬組成物の製造方法。
【請求項6】
ルビスコを有効成分として含む、脳内セロトニン合成促進用食品又は医薬組成物。
【請求項7】
気分障害、不眠症、自閉症若しくは注意欠陥多動性障害の治療、改善又は予防用である、請求項6に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の葉由来のルビスコの製造方法、及び該製造方法により得られたルビスコを用いる食品又は医薬組成物の製造方法に関する。さらに、本発明は、脳内セロトニン合成促進用食品又は医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
作物を始め植物の光合成は、大気中の二酸化炭素を取り込んで太陽光エネルギーを使った化学エネルギーの合成で始まる。光合成を行う葉緑体の膜系にはクロロフィルタンパク質複合体が存在し、溶液相には二酸化炭素を有機化する酵素(リブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(通称、ルビスコ(RuBisCO)))が存在する。植物を考えると、地球上には1,000億トン~1兆トンのルビスコが存在し、ルビスコというタンパク質は地球上で一番量の多いタンパク質であると言える。例えば、ホウレンソウの葉には、1 gのクロロフィル当たり6 gのルビスコが含まれている(Yokota, A and Canvin, D. T. (1985) Plant Physiol. 77, 735-739.)。ホウレンソウ葉は100 g fresh wight (新鮮重)当たり138 mg~225 mgのクロロフィルが含まれているので(Toledo, M. E. A. et al. (2003) Sci. Rep. Grad. Sch. Agric. Biol. Sci., Osaka Prefecture University 55, 1-6; Downton, W. J. S. (1985) Plant Physiol. 78, 85-88.)、ルビスコ量に換算すると0.83~1.35 gが含まれていることになる。
【0003】
このルビスコタンパク質には必須アミノ酸が多く含まれていることが明らかになり、高栄養価食品としての活用が期待されている(非特許文献1、2)。さらに、この理想的な必須アミノ酸の中でも脳内でのセロトニン原料となるトリプトファンが多く含まれることが明らかとなっている。
【0004】
脳内の神経伝達物質であるセロトニンは、必須アミノ酸の一種であるトリプトファンから合成され、睡眠及び体温調節などの生理機能のほか、精神を安定させる働きがあるとされている。一方、脳内セロトニンが減るとうつ症状や不眠を引き起こすことが知られており、こうしたことから脳内セロトニンの合成を促進させる食品は、機能性食品としての付加価値が高いと考えられる。
【0005】
このようなルビスコタンパク質の高い栄養価を期待して、作物から簡便にルビスコタンパク質を精製する方法が考案されている(例えば、特許文献1-3)。しかしながら、これらは、特定の植物に限られた精製方法であったり、食品素材として使用するための安全性や製造過程でルビスコタンパク質が部分分解を受けて品質劣化をきたす可能性について検討されていないなどの問題点がある。
【0006】
それに対して、特許文献4では、ルビスコタンパク質を調製する方法が報告されており、具体的には、キャベツを熱処理する工程と、熱処理したキャベツに緩衝液を加えた状態で破砕する工程と、破砕液から不溶性物質を取り除く工程と、不溶性物質を取り除いた破砕液からルビスコを精製する工程を含むルビスコの調製法である。特許文献4で報告されている方法では、キャベツ外葉からルビスコタンパク質を全く切断を受けずに回収できたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4268632号明細書
【特許文献2】米国特許第4347324号明細書
【特許文献3】米国特許第4400471号明細書
【特許文献4】特開2018-131414号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Wildman, S. G. (2002) Photosynth. Res. 73, 243-250.
【非特許文献2】Sheen and Sheen (1985) J. Agric. Food Chem. 33, 79-83
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献4で報告されている方法で精製したものは、多糖類が混入しており、また、キャベツ葉が持つビタミンU関連化合物ジメチルスルフィドの混入による悪臭を有していた。
【0010】
本発明は、植物の葉から加水分解を受けず高純度でルビスコを得ることができる植物の葉由来のルビスコの製造方法、及び該製造方法により得られたルビスコを用いる食品又は医薬組成物の製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、脳内セロトニンの合成を促進させる作用を有する食品又は医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、キャベツ外葉を55℃で5分間熱処理し、その後直ちに氷冷し、緩衝液を加えキャベツ外葉を破砕、搾汁し、遠心機で細胞壁などの不溶性物質を取り除いた後、68℃で10分間熱処理することで、ルビスコタンパク質はほぼ完全に凝集する上に、加水分解を受けないという知見を得た。また、このルビスコタンパク質の凝集体を水で洗浄することで、ルビスコタンパク質の純度を高めることができる上、異臭の原因となるジメチルスルフィドも取り除けることを見出した。
【0012】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の植物の葉由来のルビスコの製造方法、ルビスコを含む食品又は医薬組成物の製造方法、及び脳内セロトニン合成促進用食品又は医薬組成物を提供するものである。
【0013】
項1.以下の工程(1)~(4)を含む、植物の葉由来のルビスコの製造方法:
(1)植物の葉を50~58℃で3分~1時間熱処理する工程、
(2)工程(1)で得られた植物の葉を破砕する工程、
(3)工程(2)で得られた破砕液から不溶性物質を除去する工程、及び
(4)工程(3)で得られた破砕液を60~100℃で5分~1時間熱処理して凝集物を回収する工程。
項2.以下の工程(5)を更に含む、項1に記載の製造方法:
(5)工程(4)で得られた凝集物を洗浄する工程。
項3.前記植物のSPAD値が55以上である、項1又は2に記載の製造方法。
項4.前記植物が、キャベツ、ブロッコリー、カボチャ、スイカ、ユウガオ、カブ、カリフラワー、ダイコン、ハクサイ、ニンジン、ゴボウ、サツマイモ、サトイモ、ホウレンソウ、レタス、チンゲンサイ、シュンギク、セルリー、ピーマン、タロイモ、バナナ、モロヘイヤ、キャッサバ、ズッキーニ、ゴーヤ、及びコーヒーノキからなる群から選択される少なくとも1種である、項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
項5.項1~4のいずれか一項に記載の製造方法により得られたルビスコを用いることを特徴とする、ルビスコを含む食品又は医薬組成物の製造方法。
項6.ルビスコを有効成分として含む、脳内セロトニン合成促進用食品又は医薬組成物。
項7.気分障害、不眠症、自閉症若しくは注意欠陥多動性障害の治療、改善又は予防用である、項6に記載の組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明の植物の葉由来のルビスコの製造方法によれば、植物の葉から加水分解を受けずにルビスコを高純度で得ることができる。
【0015】
また、ルビスコは、顕著に優れた脳内セロトニンの合成を促進させる作用を有するので、脳内セロトニン合成促進用(特に、うつ病を始めとする気分障害、不眠症、自閉症若しくは注意欠陥多動性障害の治療、改善又は予防用)食品又は医薬組成物の有効成分として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例のSDS-PAGEの結果を示す写真である。1:キャベツ外葉破砕液(上清)、2:外葉破砕液を68℃で10分間熱処理して得られた凝集体、3:キャベツ外葉破砕液(不溶性物質)
【
図2】試験例の結果を示すグラフである。A:脳幹部における5-HT (5-ヒドロキシトリプタミン、別名セロトニン)量(pg/μl homogenate)、B:脳幹部における5-HIAA (5-ヒドロキシインドール酢酸)量(pg/μl homogenate)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
なお、本明細書において「含む(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。
【0019】
本明細書において「ルビスコ」は、特に明示が無い限り、タンパク質を意味するものとする。
【0020】
本発明の植物の葉由来のルビスコの製造方法は、以下の工程(1)~(4)又は工程(1)~(5)を含むことを特徴とする。
(1)植物の葉を50~58℃で3分~1時間熱処理する工程、
(2)工程(1)で得られた植物の葉を破砕する工程、
(3)工程(2)で得られた破砕液から不溶性物質を除去する工程、
(4)工程(3)で得られた破砕液を60~100℃で5分~1時間熱処理して凝集物を回収する工程、及び
(5)工程(4)で得られた凝集物を洗浄する工程。
【0021】
ルビスコ(RuBisCO)(EC 4.1.1.39)は、リブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(リブロース-ビスリン酸カルボキシキシラーゼとも呼ばれる)の通称であり、光合成の還元的ペントースリン酸回路のカルボキシ化を担い、リプロース1,5-ビスリン酸にCO2を付加して2分子の3-ホスホグリセリン酸を生成する反応を触媒する。高等植物では分子量は約50万で、8個のL (ラージ)サブユニットと8個のS (スモール)サブユニットからなる16量体から構成される。
【0022】
本発明において原料として使用する植物としては、ルビスコが含まれている植物であれば特に限定されず、例えば次のものが挙げられる。葉菜(例えば、ハクサイ、ホウレンソウ、キャベツ、レタス、コマツナ、チンゲンサイ、シュンギク、セルリー、ネギ、タマネギ、ブロッコリー、カリフラワー、アスパラガス、モロヘイヤ)、根菜(例えば、ニンジン、ダイコン、ゴボウ、サツマイモ、サトイモ、ナガイモ、タロイモ、レンコン、カブ、キャッサバ)、果菜(例えば、トマト、ミニトマト、ナス、ピーマン、ユウガオ、キュウリ、ズッキーニ、ゴーヤ、スイカ、イチゴ、カボチャ、メロン、トウモロコシ、スイートコーン)等の蔬菜;リンゴ、ナシ、ブドウ、カキ、バナナ、コーヒーノキ等の果樹;大豆、枝豆、小豆、空豆、落花生、インゲン等の豆類;茶;タバコ;綿花;大麦、小麦、燕麦、ライ麦等の麦;イネ;パンジー、マリーゴールド、サルビア、ペチュニア、ニチニチソウ、キク、カーネーション、バラ、リンドウ、宿根カスミソウ、ガーベラ、スターチス、トルコギキョウ、アルストロメリア、ユリ、チューリップ、シクラメン、グラジオラス、フリージア、プリムラ、デンドロビウム、ベゴニア、シンビジウム、ポインセチア、ファレノプシス、ビオラ、デージー、スコバリア、カリブラコア等の花卉;サボテン等の多肉植物;低木、針葉樹、広葉樹、落葉樹などの木;草など。
【0023】
本発明において原料として使用する植物としては、中でもルビスコ含量が多い植物が望ましい。一般には緑色が濃い植物は、ルビスコ含量が多い植物とされる。そのため、SPAD値が55以上の植物が好ましい(SPAD値は、コニカミノルタ製などの葉緑素計で測定することができる)。また、面積当たりの葉の収穫量が多い植物も、より多くのルビスコが得られるため好ましい。
【0024】
好ましい植物としては、キャベツ、カボチャ、スイカ、ユウガオ、カブ、カリフラワー、ダイコン、ハクサイ、ブロッコリー、タロイモ、バナナ、キャッサバ、ズッキーニ、ゴーヤ、コーヒーノキ、ニンジン、ゴボウ、サツマイモ、サトイモ、ホウレンソウ、レタス、チンゲンサイ、シュンギク、セルリー、ピーマン、モロヘイヤなどが挙げられる。中でも特に好ましくは、面積当たりの葉の収穫量が多い点で、キャベツ及びブロッコリーである。
【0025】
原料として使用する植物の葉としては、植物の葉の部分のみ、又は植物の葉に加えて植物の他の部分(例えば、茎、樹皮、果実、幹、花、根、種子など)が含まれているものも使用することができる。
【0026】
工程(1)では植物の葉を熱処理する。この熱処理における温度としては、通常50~58℃、好ましくは53~56℃であり、熱処理の時間としては、通常3分~1時間、好ましくは5~10分である。熱処理は、例えば、熱水中に浸漬することにより行うことができる。このように熱処理することで植物細胞含有の各種プロテアーゼによるルビスコの分解を防止することができる。また、熱処理により葉が柔らかくなり、容易に破砕することができるようになる。熱処理後には、氷冷することが望ましい。
【0027】
工程(2)では、工程(1)で得られた植物の葉を破砕する。植物の葉の破砕は、食品分野で使用される装置を用いて行うことができる。そのような装置としては、ミートチョッパーなどの各種チョッパー、サイレントカッターなどの各種カッター、カッターミル、フェザーミルなどの各種ミル、ミクロマイスター、グラインダー、コミトロール等の装置が挙げられる。破砕処理を行う場合は、抽出液の酸性化を防止するために食品において使用できる緩衝作用を有する添加剤を加えることが望ましい。植物の葉の破砕後には、更に搾汁機などで搾汁処理を行ってもよい。搾汁機としては、スクリュープレス、フィルタープレス、デカンターなど、飲食品分野で搾汁に通常用いられるものを使用することができる。
【0028】
工程(3)では、工程(2)で得られた破砕液から細胞壁などの不溶性物質の除去を行う。このような不溶性物質の除去は、特に限定されず、例えば、遠心分離やろ過などにより行うことができる。
【0029】
工程(4)では、工程(3)で得られた破砕液を熱処理して凝集物を回収する。この熱処理における温度としては、通常60~100℃、好ましくは68~75℃であり、熱処理の時間としては、通常5分~1時間、好ましくは5~20分である。このような熱処理を行うことでルビスコはほぼ完全に凝集する。このように熱処理した破砕液について、凝集物は上に保持するが、液体は通すろ紙、布、篩などの上に注ぐこと、遠心分離、傾瀉法などにより、ルビスコの凝集物を回収することができる。
【0030】
工程(5)では、工程(4)で得られた凝集物の洗浄を行う。熱処理を行ったルビスコは水に溶けないため液体により洗浄することができる。洗浄に使用する液体としては、特に限定されず、例えば、水、低級アルコール(例えば、エタノール)、これらの混合液(例えば、含水エタノール)、緩衝液(特に破砕時に使用した緩衝液)が挙げられる。洗浄するための溶媒として含水アルコール(含水エタノール)を使用する場合、アルコール(エタノール)濃度としては、例えば20~90容量%、40~80容量%が挙げられる。洗浄に使用する水としては、例えば、水道水、地下水、精製水などが挙げられる。洗浄方法としては、ろ紙、布、篩などの上にルビスコの凝集物を回収した後に、上から水などの液体を注ぐことで洗浄する方法などが挙げられる。このような洗浄を行うことで、異臭の原因となるジメチルスルフィドや多糖類などの不純物を除去することができるので、ルビスコの純度(含有量)を高めることができる上、無臭とすることができる。洗浄後の凝集物は、更に、通風乾燥や天日乾燥などの自然乾燥、電気などで加熱して乾燥させる強制乾燥、凍結乾燥などにより乾燥させてもよい。
【0031】
本発明の植物の葉由来のルビスコの製造方法によれば、植物の葉から加水分解を受けずにルビスコを高純度で得ることができる。さらに、植物の葉が異臭の原因となるジメチルスルフィドなどを含む場合は、無臭とすることができる。また、本発明は高価な試薬を使用せず複雑な処理を行わない簡便な方法であるため、コスト的にも有利である。このように本発明の製造方法により得られるルビスコは、純度が高く臭みが無いので、各種の食品に混ぜ合わせることが可能である。また、キャベツでは、廃棄される外葉が年間100万トンに達するので、この廃棄される組織を利用できれば食料資源の有効活用と廃棄物の削減にも繋がる。
【0032】
また、ルビスコは、顕著に優れた脳内セロトニンの合成を促進させる作用を有するので、脳内セロトニン合成促進用(特に、うつ病を始めとする気分障害、不眠症、自閉症、注意欠陥多動性障害等の治療、改善又は予防用)食品又は医薬組成物の有効成分として有用である。
【0033】
本発明のルビスコを含む食品又は医薬組成物の製造方法は、上記の植物の葉由来のルビスコの製造方法により得られたルビスコを用いることを特徴とする。また、本発明の脳内セロトニン合成促進用食品又は医薬組成物は、ルビスコを有効成分として含むことを特徴とする。
【0034】
食品組成物としては哺乳動物(ヒトを含む)が摂取できるあらゆる飲食品が含まれ、例えば、乳製品;発酵食品(ヨーグルト、チーズ等);飲料類(コーヒー、ジュース、ココア、茶飲料、スポーツドリンク、栄養ドリンクのような清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、乳酸菌入り飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、日本酒、洋酒、果実酒のような酒等);スプレッド類(カスタードクリーム等);ペースト類(フルーツペースト等);洋菓子類(チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、ガム、グミ、ゼリー、キャンデー、クッキー、ケーキ、プリン、ビスケット等);和菓子類(大福、餅、饅頭、カステラ、あんみつ、羊羹等);氷菓類(アイスクリーム、アイスキャンデー、シャーベット等);食品類(カレー、牛丼、雑炊、味噌汁、スープ、ミートソース、パスタ、漬物、ジャム、ハム、ソーセージ、ベーコン等);調味料類(ドレッシング、ふりかけ、旨味調味料、スープの素、味噌、醤油、ソース、ケチャップ、オイスターソース等)などが挙げられる。
【0035】
食品組成物の製法は、特に限定されず、適宜公知の方法に従うことができる。
【0036】
食品組成物としては、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、保健用食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品なども挙げられる。サプリメントとして使用する際の投与単位形態については特に限定されず適宜選択でき、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、液剤、散剤等が挙げられる。
【0037】
また、食品組成物としては、脳内セロトニン合成促進作用を付与する添加剤についての意味も包含するものである。
【0038】
小麦の主要タンパク質であるグルテンは、必須アミノ酸の一つであるリジン含量がFAO推奨レベルの40%程度しかない。これが制限アミノ酸になって、小麦粉中のタンパク質栄養価を極端に低くしている。そのため、栄養価を改善するために、小麦粉やコーンのような食品基材にルビスコを添加することもできる。
【0039】
食品組成物には、必要に応じて、賦形剤、ビタミン類、ミネラル類、フラボノイド類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘味料、酸味料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、pH調整剤、安定化剤、防腐剤、徐放調整剤、界面活性剤、光沢剤、溶解剤、湿潤剤等を配合することができる。
【0040】
食品組成物に含まれるルビスコの割合としては、例えば、1~99質量%、1~80質量%、1~70質量%などが挙げられる。
【0041】
食品組成物としては、ルビスコの脳内への輸送を促進させるために、糖(特にグルコース)が含まれているものが望ましく、例えば、10~30%(w/v)のグルコース溶液にルビスコを溶解させたものが挙げられる。
【0042】
食品組成物の摂取量は、摂取者の体重、年齢、性別、症状などの種々の条件に応じて適宜設定することができる。
【0043】
医薬組成物には、ルビスコのみを使用することもでき、ビタミン、生薬など日本薬局方に記載の他の医薬成分と混合して使用することもできる。
【0044】
医薬組成物として調製する場合、ルビスコを、医薬品において許容される無毒性の担体、希釈剤若しくは賦形剤とともに、タブレット(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠、トローチ剤などを含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、シロップ、ペーストなどの形態に調製して、(例えば、経口用の)医薬用の製剤にすることが可能である。
【0045】
医薬組成物に含まれるルビスコの割合としては、例えば、1~99質量%、1~80質量%、1~70質量%などが挙げられる。
【0046】
医薬組成物の投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。また、本発明の医薬組成物は、ヒトを含む哺乳動物に対して投与される。
【0047】
なお、本発明の医薬組成物には、医薬部外品も包含される。
【0048】
後述する実施例で示すように、本発明者らは、植物の葉から単離及び精製されたルビスコの摂取により脳内セロトニンが増加することを見出したことから、上記製造方法により得られる食品又は医薬組成物は脳内セロトニンの合成促進作用を有することが期待できる。ルビスコは強靭な細胞壁でガードされた細胞中に含まれているため、ルビスコを含む植物の葉をそのまま食しただけではヒトには十分消化吸収できず、脳内セロトニンの合成促進作用は期待できない。
【0049】
脳内セロトニン合成促進用としては、特に限定されず、好ましくは脳内セロトニンの減少に起因する疾患の治療、改善又は予防用であり、より好ましくはうつ病を始めとする気分障害、不眠症、自閉症、注意欠陥多動性障害等の治療、改善又は予防用である。
【実施例0050】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0051】
実施例
キャベツ外葉を55℃で5分間熱処理し、その後直ちに氷冷した。食品製造に一般に使われる10 mMクエン酸リン酸緩衝液を加えキャベツ外葉を破砕した。次に、外葉破砕液を3重の木綿布を濾し袋に使った搾汁機で搾り、遠心機で細胞壁などの不溶性物質を取り除いた(8,200 x g, 15分)。その後、不溶性物質を取り除いた外葉破砕液を68℃で10分間熱処理してルビスコを凝集させた。
【0052】
熱処理後の破砕液を5~10℃で静置し、凝集ルビスコが十分に沈殿するのを待った。上澄みの褐色液は傾瀉法により捨て、凝集ルビスコはクッキングペーパー上に捕集した。上澄み液が十分に除けた段階で、水道水あるいは葉の破砕時に用いた緩衝液で数回洗浄し、ろ過液の色が完全に消えるまで洗浄を繰り返した。洗液が出なくなった後にクッキングペーパーと共に捕集ルビスコを-20℃以下で凍結保存し、その後に凍結乾燥することで、目的のルビスコ標品を得た。
【0053】
SDS-PAGEの結果を
図1に示す。
図1の1はキャベツ外葉破砕液(上清)、2は外葉破砕液を68℃で10分間熱処理して得られた凝集体、3はキャベツ外葉破砕液(不溶性物質)である。2と3は、その母液と同じ容量の8M尿素に溶解してSDS-PAGAEを行った。
【0054】
図1の上の濃いバンドがルビスコのLサブユニットであり、下の濃いバンドがSサブユニットである。また、真ん中の薄いバンドは、クロロフィル結合タンパク質である。
図1の結果から、不溶性物質を取り除いた外葉破砕液を68℃で10分間熱処理することで、クロロフィル結合タンパク質などを除去でき精製できていることが分かる。
【0055】
本実施例で得られたキャベツルビスコを以下のラット脳内セロトニン合成機能評価試験例で使用した。
【0056】
試験例
6-7週齢の雄性Wistar系ラット16匹を用いた。5匹は、自由に餌と水を与え、自由摂食群とした。残りの4匹のラットは24時間絶食した後、20%ブドウ糖液に溶解したルビスコを250 mg/kg (液量で2.5 ml/kg)になるように投与した。対照実験として同じ量のウシ血清アルブミンを20%ブドウ糖液に溶解して投与した。具体的には、次のような処置を行った。
【0057】
1)自由摂食群(5匹):24時間自由に餌と水を与えた。
2)絶食群(3匹):24時間絶食した後、経口チューブを胃の中に入れて、生理食塩水を液量で2.5 ml/kgになるように投与した。投与1時間後にサンプル採取を行った。
3)20%グルコース液で溶解したルビスコ投与群(4匹):24時間絶食した後、経口チューブを胃の中に入れて、10%のキャベツルビスコを混ぜた20%グルコース液(1 gのルビスコを10 mlの20%グルコース液で溶解)をルビスコ量で250 mg/kg (液量で2.5 ml/kg)になるように投与した。投与1時間後にサンプル採取を行った。
4)20%グルコース液で溶解したウシ血清アルブミン投与群(4匹):24時間絶食した後、経口チューブを胃の中に入れて、10%のウシ血清アルブミン(BSA)を混ぜた20%グルコース液(1 gのBSAを10 mlの20%グルコース液で溶解)をBSA量で250 mg/kg (液量で2.5 ml/kg)になるように投与した。投与1時間後にサンプル採取を行った。
【0058】
ラットは、投与1時間後にイソフルラン麻酔下に安楽死させて、心臓から血液を採取した。その後、約300 mlの10 mM PBS (pH = 7.4)を心臓から全身灌流して脱血した後、脳を摘出した。脳はその場で半切し、右脳は大脳皮質(前頭葉)、小脳、脳幹部、その他に分けてクライオチューブに入れた後、液体窒素で急速凍結した後、測定まで-80℃で冷凍保存した。凍結脳は、過塩素酸でホモジネートした後、遠心分離した。上清を集め、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、上清中のセロトニン(5HT)と5HIAAの濃度を測定した。
【0059】
脳幹部において、
図2に示す結果が得られた。セロトニンは、自由摂食対照群に比べて、グルコースで溶解したルビスコ投与群でのみ、有意に上昇していたが(p<0.01)、他の群では有意な変化は認められなかった(
図2A)。グルコースで溶解したルビスコ投与群のセロトニンは、グルコースで溶解したBSA投与群と比較しても有意に上昇していた(
図2A)。
【0060】
5HIAAは、絶食により有意に低下した(
***p<0.001)。グルコースで溶解したルビスコ投与群では絶食群に比べて有意に5HIAAが上昇し、自由摂食群との有意差がなくなるレベルまで回復した(
図2B)。一方、グルコースで溶解したBSA投与群においても絶食群に比べて5HIAAが上昇したが、グルコースで溶解したルビスコ投与群に比べるとその上昇の程度は低く、自由摂食群と比べても依然として有意(p<0.01)に低値であった(
図2B)。