(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130758
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】がんを治療するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20220831BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20220831BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220831BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220831BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20220831BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20220831BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220831BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K38/16
A61P43/00 111
A61P35/00
C07K14/47 ZNA
G01N33/68
G01N33/50 P
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019141624
(22)【出願日】2019-07-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、創薬基盤推進研究事業、「分子腫瘍学・構造生物学・理論化学・臨床医学の融合による「がんの悪性進展促進因子 HPF4に対するドラッグデザイン研究」」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】原田 浩
(72)【発明者】
【氏名】子安 翔
【テーマコード(参考)】
2G045
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045DA14
2G045DA36
4C084AA17
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA21
4C084CA18
4C084DC50
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZC01
4H045AA10
4H045AA30
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】本願は、がんを治療するための新たな医薬組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を含む、がんを治療するための医薬組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を含む、がんを治療するための医薬組成物。
【請求項2】
ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質が、ZBTB2の1~117位における連続する少なくとも4個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むペプチドである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
ペプチドが、LILL(配列番号3)のアミノ酸配列を含む、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
ペプチドが、ZBTB2の断片である、請求項2または3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
ZBTB2が、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる、請求項2~4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
ペプチドが、配列番号1の1~117位における連続する4~117個のアミノ酸からなるアミノ酸配列、または配列番号1の1~117位における連続する4~117個のアミノ酸において1または数個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる、請求項2~5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
ペプチドが、配列番号1の1~113位のアミノ酸配列(配列番号5)を含む、請求項2~6のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
ペプチドが、配列番号1の1~91位のアミノ酸配列(配列番号6)を含む、請求項2~7のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項9】
ペプチドが、配列番号1の1~23位のアミノ酸配列(配列番号7)を含む、請求項2~8のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項10】
がんが、ZBTB2の発現が正常細胞または正常組織と比較して上昇しているがんである、請求項1~9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項11】
がんが、p53の機能が低下しているがんである、請求項1~10のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項12】
ZBTB2の1~117位における連続する少なくとも4個のアミノ酸を含み、ZF2ドメインおよび/またはZF3ドメインを含まない、ZBTB2の断片。
【請求項13】
ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を選択する方法であって、
(1)ZBTB2を含む第1の分子と、ZBTB2を含む第2の分子と、候補物質とを接触させること、
(2)第1の分子と第2の分子との二量体形成を検出すること、および
(3)対照と比較して二量体形成を減少させる候補物質を選択すること
を含む方法。
【請求項14】
ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を選択するためのキットであって、ZBTB2を含む第1の分子と、ZBTB2を含む第2の分子とを含むキット。
【請求項15】
ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を選択する方法であって、ZBTB2の1~117位の少なくとも一部と相互作用する物質を選択することを含む方法。
【請求項16】
ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を選択するためのキットであって、ZBTB2の1~117位における少なくとも4個の連続するアミノ酸からなるペプチドを含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、がんを治療するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
厚生労働省が公表した資料によると、日本人男性の約2人に1人、女性の約3人に1人が一生のうちに"がん"と診断され、肝臓がん、すい臓がん、肺がん患者の5年生存率はわずか20%にも満たないことが報告されている。生命予後不良の主因は、腫瘍内の不均一(ヘテロ)な微小環境下で、一部のがん細胞が浸潤・転移能、および抗がん剤や放射線治療へ抵抗性を獲得することにあると考えられている。例えば悪性固形腫瘍内の低酸素環境下では低酸素誘導因子1(Hypoxia Inducible Factor-1;HIF-1)が活性化し、がん細胞の浸潤・転移能、治療抵抗性、血管新生が亢進することが知られている(非特許文献1)。また、抗がん剤や放射線治療後の腫瘍内微小環境変化に応答してHIF-1が活性化し、がんの治療抵抗性が亢進することも報告されている(非特許文献2、3)。
【0003】
HIF-1は、細胞に対する酸素供給が不足状態に陥った時や細胞が過剰な活性酸素種にさらされた時に活性が誘導されるタンパク質であり、転写因子として機能する。がんの病巣においては栄養不足や細胞外pHの低下、血流不足による酸素供給不足(低酸素)状態が認められるが、がん細胞が生き延びるためには新たに血管網を形成することにより病巣への血流を確保し、酸素環境を改善する必要がある。そのための機能を担うべく低酸素条件において誘導される転写因子がHIF-1であり、種々の血管新生関連遺伝子の発現を転写レベルで亢進させる。その他にもHIF-1は様々な遺伝子発現の制御に関与しており、たとえば細胞の運動能制御、細胞外マトリックスの消化、細胞周期の制御、糖代謝経路のリプログラミング、pH調節やアポトーシスなどに関わる遺伝子が挙げられる。HIF-1による発現制御を受ける遺伝子としてエリスロポエチンやVEGF等が挙げられる。HIF-1は、αとβの2つのサブユニットから構成されている。HIF-1αはアドレノメデュリンやマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)、エンドセリン(ET)-1、一酸化窒素合成酵素(NOS)2など様々な遺伝子の制御に関わっているといわれている。HIF-1αは通常酸素状態の細胞内でユビキチン化を受け、タンパク質分解酵素複合体である26Sプロテアソームにより速やかに分解される。
【0004】
上記メカニズムに鑑み、HIF-1を抑制する抗腫瘍剤について開発が進められている。例えば、HIF-1遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(Enzon、National CancerInstitute、Santaris Pharma)やHIF-1活性を抑制する低分子化合物(Abbot社)が挙げられる。またHIF-1抑制剤として、HSP90阻害剤等も報告されている(非特許文献4)。しかしながら、HIF-1がどのような機序で活性化するのか、また治療抵抗性に関わるHIF-1陽性がん細胞が腫瘍内のどこに局在し、どの様な病態・挙動を示すのかは明らかにされておらず、がんの完治を目指すうえで大きな障害となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Cancer Sci. 94:1021-1028. 2003
【非特許文献2】Br J Cancer, 100:747-757. 2009
【非特許文献3】Current Signal Transduction Therapy. 5:188-196. 2010
【非特許文献4】J. Biol. Chem., 277 (33), 29936-29944 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願は、がんを治療するための新たな医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ZBTB2ががん細胞、とりわけp53の機能が低下したがん細胞においてHIF-1を活性化することを見出した。また本発明者らは、ZBTB2がホモ二量体を形成することにより、HIF-1を活性化することを見出した。
【0008】
したがって、ある態様において、本願はZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を含む、がんを治療するための医薬組成物を提供する。
【0009】
別の態様において、本願は、ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を選択する方法であって、
(1)ZBTB2を含む第1の分子と、ZBTB2を含む第2の分子と、候補物質とを接触させること、
(2)第1の分子と第2の分子との二量体形成を検出すること、および
(3)対照と比較して二量体形成を減少させる候補物質を選択すること
を含む方法を提供する。
【0010】
別の態様において、本願は、ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を選択するためのキットであって、ZBTB2を含む第1の分子と、ZBTB2を含む第2の分子とを含むキットを提供する。
【0011】
別の態様において、本願は、ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を選択する方法であって、ZBTB2の1~117位の少なくとも一部と相互作用する物質を選択することを含む方法を提供する。
【0012】
別の態様において、本願は、ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を選択するためのキットであって、ZBTB2の1~117位における少なくとも4個の連続するアミノ酸からなるペプチドを含むキットを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本願によって、ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を含む、がんを治療するための医薬組成物が提供される。また、ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を選択する方法およびキットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】HCT116 p53 K.O.細胞またはHCT116 p53
wt/wt細胞に、HIF-1依存的にルシフェラーゼを発現するレポーター遺伝子(5HREp-lucレポーター遺伝子)およびZBTB2強制発現プラスミド(pEF6/ZBTB2-myc tag)をトランスフェクトし、通常酸素(Normoxia)または低酸素(Hypoxia)条件下で培養したときのHIF-1活性。陰性対照実験として、ZBTB2 cDNAを組み込んでいないpEF6/myc-His B(EV)を用いて同様の実験を行った。
【
図2】HCT116 p53 K.O.細胞に5HREp-lucレポーター遺伝子とpEF6/ZBTB2-myc tagに加え、pcDNA3/p53 wildtypeを3種類の濃度で同時にトランスフェクトし、低酸素(Hypoxia)条件下で培養したときのHIF-1活性。+、++、+++は、pEF6/ZBTB2-myc tagとpcDNA3/p53 wildtypeとの濃度比がそれぞれ1:0.01、1:0.1、1:1であることを示す。pcDNA3/p53 wildtypeに対する陰性対照として、p53 cDNAを組み込んでいないpcDNA3プラスミド(EV)を用いて同様の実験を行った。
【
図3】HCT116 p53
wt/wt細胞に5HREp-lucレポーター遺伝子とpEF6/ZBTB2-myc tagに加え、3種類の変異型p53強制発現プラスミドをトランスフェクトし、通常酸素(Normoxia)または低酸素(Hypoxia)条件下で培養したときのHIF-1活性。変異型p53強制発現プラスミドに対する陰性対照として、pcDNA3プラスミド(EV)を用いて同様の実験を行った。
【
図4】U2OS細胞にZBTB2mRNAをコードする領域のsiRNA(A)もしくは(B)(それぞれsiZBTB2(1)もしくは(2))または陰性対照用のsiRNA(Scr)を導入し、通常酸素(Normoxia)または低酸素(Hypoxia)条件下で培養したときのHIF-1活性。
【0015】
【
図5】HCT116 p53 K.O.細胞またはHCT116 p53
wt/wt細胞にpEF6/ZBTB2-myc tag(ZBTB2)または空ベクタープラスミド(EV)を導入し、通常酸素(Normoxia)又は低酸素(Hypoxia)条件下で培養したときのウェスタンブロッティングの結果。
【
図6】HIF-1αのトランス活性化能を評価できるレポーターシステムを導入したHCT116 p53 K.O.細胞またはHCT116 p53
wt/wt細胞に、pEF6/ZBTB2-myc tag(ZBTB2)またはpEF6/myc-His B(EV)をトランスフェクトし、通常酸素(Normoxia)または低酸素(Hypoxia)条件下で培養したときのHIF-1αのトランス活性化能。
【
図7】HIF-1αのトランス活性化能を評価できるレポーターシステムを導入したU2OS細胞に、ZBTB2mRNAをコードする領域のsiRNA(A)もしくは(B)(それぞれsiZBTB2(1)もしくは(2))または陰性対照用のsiRNA(Scr)を導入し、通常酸素(Normoxia)または低酸素(Hypoxia)条件下で培養したときのHIF-1αのトランス活性化能。
【0016】
【
図8】HCT116 p53
wt/wt細胞またはHCT116 p53 K.O.細胞にpEF6/ZBTB2(ZBTB2)または空ベクター(EV)をトランスフェクトし、低酸素条件下で培養したときのMMP2またはMMP9の発現量。
【
図9】U2OS細胞にHIF-1αのmRNAをコードする領域内に対応するsiRNA(J)もしくは(K)(それぞれsiHIF-1α(1)もしくは(2))または陰性対照用のsiRNA(Scr)に加えて、ZBTB2遺伝子に対応するsiRNA(A)(siZBTB2(1))を導入し、低酸素条件下で培養したときのMMP2またはMMP9の発現量。
【
図10】HCT116 p53
wt/wt細胞またはHCT116 p53 K.O.細胞にpEF6/ZBTB2-myc tagまたは空ベクターをトランスフェクトし、低酸素条件下で培養したときの浸潤細胞数。
【
図11】U2OS細胞にZBTB2mRNAをコードする領域のsiRNA(A)もしくは(B)(それぞれsiZBTB2(1)もしくは(2))または陰性対照用のsiRNA(Scr)を導入し、低酸素条件下で培養したときの浸潤細胞数。
【
図12】pEF6/ZBTB2-myc tag(ZBTB2)または空ベクター(EV)をトランスフェクトしたHCT116 p53 K.O.細胞に、siRNA(J)もしくは(K)(それぞれsiHIF-1α(1)もしくは(2))または陰性対照用のsiRNA(Scr)を導入し、低酸素条件下で培養したときの浸潤細胞数。
【0017】
【
図13】ZBTB2強制発現細胞(HCT116 p53 K.O./ZBTB2)を免疫不全マウス(BALB/c-nu)の右下肢皮下に移植した後の腫瘍増殖速度。対照として、ZBTB2発現カセットを持たないレンチウイルス(空ベクター)を導入したHCT116 p53 K.O./EVを用いて同様の実験を行った。
【
図14】ZBTB2強制発現細胞(HCT116 p53
wt/wt/ZBTB2)を免疫不全マウス(BALB/c-nu)の右下肢皮下に移植した後の腫瘍増殖速度。対照として、ZBTB2発現カセットを持たないレンチウイルス(空ベクター)を導入したHCT116 p53
wt/wt/EVを用いて同様の実験を行った。
【
図15】259人のヒト肺腺癌の臨床検体を対象とした、腫瘍内のZBTB2発現レベルと患者の生命予後不良との相関。
【0018】
【
図16】HCT116 p53 K.O.細胞にHIF-1αのトランス活性化能を評価できるレポーター遺伝子と各ZBTB2欠失変異体の強制発現プラスミドをトランスフェクトし、低酸素条件下で培養したときのHIF-1αのトランス活性化能。陰性対照実験として、空ベクター(EV)を用いて同様の実験を行った。
【
図17】HCT116 p53 K.O.細胞にpEF6/ZBTB2-myc tagまたは空ベクタープラスミドを導入し、さらにpcDNA6/ZBTB2-V5 tagまたは空ベクタープラスミドを同時に導入した後、低酸素条件下で培養したときの共免疫沈降実験の結果。
【
図18】HCT116 p53 K.O.細胞およびHEK293 p53 R175H細胞にpcDNA6/ZBTB2-LgBiTまたは空ベクターを導入し、さらにpcDNA6/ZBTB2-SmBiTまたは空ベクターを同時に導入した後、低酸素条件下で培養したときのNanoLuc投与による発光量。
【0019】
【
図19】HCT116 p53 K.O.細胞にpEF6/ZBTB2-myc tagとpcDNA6/ZBTB2-V5 tag、またはpEF6/ZBTB2_4A-myc tagとpcDNA6/ZBTB2_4A-V5 tagを導入した後、低酸素条件下で培養したときの共免疫沈降実験の結果。陰性対照実験として、pEF6/ZBTB2-myc tagと空ベクタープラスミドを用いて同様の実験を行った。
【
図20】HCT116 p53 K.O.細胞にpcDNA6/ZBTB2-LgBiTとpcDNA6/ZBTB2-SmBiT、またはpcDNA6/ZBTB2_4A-LgBiTとpcDNA6/ZBTB2_4A-SmBiTを導入した後、低酸素条件下で培養したときのNanoLuc投与による発光量。
【
図21】HCT116 p53 K.O.細胞にHIF-1αのトランス活性化能を評価できるレポーター遺伝子と野生型ZBTB2またはZBTB2_4A変異体の強制発現プラスミドをトランスフェクトし、低酸素条件下で培養したときのHIF-1αのトランス活性化能。陰性対照実験として、空ベクターを用いて同様の実験を行った。
【0020】
【
図22】ZBTB2強制発現細胞(HCT116 p53 K.O./ZBTB2-myc tagまたはHCT116 p53 K.O./ZBTB2_4A-myc tag)を免疫不全マウス(BALB/c-nu)の右下肢皮下に移植した後の腫瘍増殖速度。対照として、ZBTB2発現カセットを持たないレンチウイルスを導入したHCT116 p53 K.O./EVを用いて同様の実験を行った。
【
図23】HCT116 p53 K.O.細胞にHIF-1αのトランス活性化能を評価できるレポーター遺伝子と野生型ZBTB2に加えて各ZBTB2 C末端欠失変異体(ZBTB2 1-23 a.a.、ZBTB2 1-91 a.a.およびZBTB2 1-113 a.a.に相当するポリペプチド)の強制発現プラスミドをトランスフェクトし、低酸素条件下で培養したときのHIF-1αのトランス活性化能。陰性対照実験として、野生型ZBTB2に加えて空ベクターを用いて同様の実験を行った。
【
図24】HIF-1αのトランス活性化能を評価できるレポーターシステムをトランスフェクトしたU2OS細胞に、ZBTB2のN末端部の23アミノ酸と同一配列の合成ポリペプチドを投与し、低酸素条件下で培養したときのHIF-1αのトランス活性化能。陰性対照としてDMSOを用いて同様の実験を行った。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本開示では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。例えば、「約20」は、「18~22」を含むものとする。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。従って、例えば、「約20~30」は、「18~33」を含むものとする。
【0022】
本開示において、アミノ酸残基は以下の略号で表される。
AlaまたはA:アラニン
ArgまたはR:アルギニン
AsnまたはN:アスパラギン
AspまたはD:アスパラギン酸
CysまたはC:システイン
GlnまたはQ:グルタミン
GluまたはE:グルタミン酸
GlyまたはG:グリシン
HisまたはH:ヒスチジン
IleまたはI:イソロイシン
LeuまたはL:ロイシン
LysまたはK:リジン
MetまたはM:メチオニン
PheまたはF:フェニルアラニン
ProまたはP:プロリン
SerまたはS:セリン
ThrまたはT:スレオニン
TrpまたはW:トリプトファン
TyrまたはY:チロシン
ValまたはV:バリン
【0023】
本開示において、あるアミノ酸配列を「含む」とは、そのアミノ酸配列のN末端および/またはC末端に1以上のアミノ酸残基が付加されていてもよいことを意味する。例えば、「配列番号Xのアミノ酸配列を含むペプチド」には、配列番号Xのアミノ酸配列からなるペプチドおよび配列番号Xのアミノ酸配列のN末端および/またはC末端に1以上のアミノ酸残基が付加されているペプチドが包含される。
【0024】
ZBTB2は、二量体形成に関与することが分かったBTB/POZドメインと、4つのZnフィンガードメイン(ZF1、ZF2、ZF3およびZF4)とを含むタンパク質である。代表的なヒトZBTB2のアミノ酸配列がGenBankアクセッション番号NP_065912.1(配列番号1)として登録されている。BTB/POZドメインは、配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトZBTB2の24~117位のアミノ酸配列に相当する。また、ZF1、ZF2、ZF3およびZF4は、配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトZBTB2のそれぞれ256~276位、363~385位、390~410位、448~468位のアミノ酸配列に相当する。また、かかるヒトZBTB2の核酸配列がGenBankアクセッション番号NM_020861.3(配列番号2)として登録されている。
【0025】
本明細書の一部の実施形態において、ZBTB2は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる。別の実施形態において、ZBTB2は、配列番号1のアミノ酸配列、または配列番号1のアミノ酸配列において1または数個(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15個)のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる。さらなる実施形態において、ZBTB2は、配列番号1のアミノ酸配列を含むか、配列番号1のアミノ酸配列からなる。
【0026】
本明細書における、核酸配列またはアミノ酸配列に関する「配列同一性」とは、比較対象の配列の全領域にわたって最適な状態に(一致が最大となる状態に)アラインメントされた2つの配列間で一致する塩基またはアミノ酸残基の割合を意味する。ここで、比較対象の配列は、2つの配列の最適なアラインメントにおいて、付加または欠失(例えばギャップ等)を有していてもよい。配列同一性は、公共のデータベース(例えば、DDBJ(http://www.ddbj.nig.ac.jp))で提供されるFASTA、BLAST、CLUSTAL W等のプログラムを用いて算出することができる。あるいは、市販の配列解析ソフトウェア(例えば、Vector NTI(登録商標)ソフトウェア、GENETYX(登録商標) ver. 12)を用いて求めることもできる。
【0027】
本願は、ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を含む、がんを治療するための医薬組成物を提供する。理論に拘束されるものではないが、本願の医薬組成物はZBTB2のホモ二量体形成を阻害することにより、ZBTB2によるHIF-1の活性化を抑制し、がんを治療できる。本願において、ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質は、2つのZBTB2分子が二量体を形成するのを阻害する物質を意味する。
【0028】
本願において、ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質は、ZBTB2のホモ二量体形成を阻害できる限り特に限定されず、例えば、核酸(ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドなど)、核酸を模倣した高分子化合物(ペプチド核酸など)、糖質(単糖、二糖、オリゴ糖、多糖など)、脂質(飽和又は不飽和の直鎖、分岐鎖および/または環を含む脂肪酸など)、アミノ酸、ペプチド(オリゴペプチドおよびポリペプチドを含む)、タンパク質(抗体を含む)、有機低分子化合物、および天然成分(微生物、動植物、海洋生物など由来の成分など)などであり得る。
【0029】
ある実施形態において、ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質は、ZBTB2の1~117位の少なくとも一部と相互作用する物質である。本明細書において、「ZBTB2の1~117位」とは、ZBTB2のアミノ酸配列を配列番号1のアミノ酸と最適にアラインメントしたときに、配列番号1の1~117位に相当する位置を意味する。
【0030】
ある実施形態において、ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質は、ZBTB2の1~117位における連続する少なくとも4個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むペプチドである。本明細書において、「ZBTB2の1~117位における連続する少なくとも4個のアミノ酸」は、4~117個、5~117個、6~117個、7~117個、8~117個、9~117個、10~117個、11~117個、12~117個、13~117個、14~117個、15~117個、16~117個、17~117個、18~117個、19~117個、20~117個、21~117個、22~117個または23~117個のアミノ酸であり得るが、これらに限定されない。
【0031】
ある実施形態において、前記ペプチドはLILL(配列番号3)のアミノ酸配列を含む。LILL(配列番号3)は、配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトZBTB2の8~11位のアミノ酸配列に相当する。
【0032】
前記ペプチドのアミノ酸長は限定されないが、例えば4~600、4~500、4~400、4~300、4~200、4~150、4~140、4~130、4~120、4~110、4~100、4~90、4~80、4~70、4~60、4~50、4~40、4~30、4~20アミノ酸長であり、通常4~500アミノ酸長である。
【0033】
ある実施形態において、前記ペプチドはZBTB2の断片である。本願において、ZBTB2の断片とはZBTB2のアミノ酸配列の少なくとも一部が欠失しているペプチドを意味する。ZBTB2の断片には、ZBTB2のアミノ酸配列のN末端および/またはC末端のアミノ酸配列を欠失しているペプチドのみならず、その内部のアミノ酸配列の一部を欠失しているペプチドも含まれる。
【0034】
ある実施形態において、ZBTB2の断片はZBTB2のZF2ドメインおよび/またはZF3ドメインを含まない。ZBTB2のZF2ドメインおよびZF3ドメインは、あるZBTB2のアミノ酸配列を配列番号1のアミノ酸配列と最適にアライメントしたときに、それぞれ配列番号1の363~385位および390~410位に相当するドメインを意味する。
【0035】
ある実施形態において、LILL(配列番号3)のアミノ酸配列を含むペプチドは、配列番号1の1~117位における連続する4~117個のアミノ酸からなるアミノ酸配列、または配列番号1の1~117位における連続する4~117個のアミノ酸において1または数個(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15個)のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる。本明細書において、「配列番号1の1~117位における連続する4~117個のアミノ酸」は、4~117個、5~117個、6~117個、7~117個、8~117個、9~117個、10~117個、11~117個、12~117個、13~117個、14~117個、15~117個、16~117個、17~117個、18~117個、19~117個、20~117個、21~117個、22~117個または23~117個のアミノ酸であり得るが、これらに限定されない。
【0036】
別の実施形態において、前記ペプチドは、配列番号1の1~117位のアミノ酸配列(配列番号4)、または配列番号1の1~117位のアミノ酸配列において1または数個(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15個)のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる。さらなる実施形態において、前記ペプチドは、配列番号1の1~113位のアミノ酸配列(配列番号5)、または配列番号1の1~113位のアミノ酸配列において1または数個(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15個)のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる。さらなる実施形態において、前記ペプチドは、配列番号1の1~91位のアミノ酸配列(配列番号6)、または配列番号1の1~91位のアミノ酸配列において1または数個(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15個)のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる。さらなる実施形態において、前記ペプチドは、配列番号1の1~23位のアミノ酸配列(配列番号7)、または配列番号1の1~23位のアミノ酸配列において1または数個(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15個)のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる。さらなる実施形態において、前記ペプチドは、配列番号1の1~117位のアミノ酸配列(配列番号4)、1~113位のアミノ酸配列(配列番号5)、1~91位のアミノ酸配列(配列番号6)、または1~23位のアミノ酸配列(配列番号7)のアミノ酸配列を含むか、または前記アミノ酸配列からなる。
【0037】
ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する能力は、後述する本開示のZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質の選択方法により評価することができる。
【0038】
本願のペプチドを構成するアミノ酸は、L-アミノ酸であってもよく、D-アミノ酸であってもよい。また、天然アミノ酸であってもよく、非天然アミノ酸であってもよい。
【0039】
本願のペプチドは任意の修飾がされたペプチドであってもよい。上記修飾としては、例えば、N末端のアセチル化、C末端のアミド化などの保護基の導入;アルキル化、エステル化、またはハロゲン化などの官能基の導入;水素添加;単糖、二糖、オリゴ糖、または多糖などの糖化合物の導入;脂肪酸、リン脂質、または糖脂質などの脂質化合物の導入;DNAの導入;その他生理活性を有する化合物などの導入が挙げられる。修飾は1種のみ行われてもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。上記修飾は、その種類等に応じて、任意の適切な方法によって行われ得る。
【0040】
本願のペプチドは公知の一般的なペプチド合成のプロトコールに従って、固相合成法(Fmoc法、Boc法)または液相合成法により作製できる。また、ペプチドをコードするDNAを含有する発現ベクターを導入した形質転換体を用いて作製できる。また、in vitro転写/翻訳系を用いる方法により作製できる。
【0041】
[医薬組成物]
本願の医薬組成物は、ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質に加えて、医薬上許容される担体および/または添加剤を含んでも良い。本開示において、「医薬上許容される担体」は、ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質と組み合わせられた場合にその成分の生物学的活性を保持し得る任意の物質が含まれる。例えば、安定剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、無痛化剤、緩衝剤、保存剤、pH調整剤および抗酸化剤などが挙げられる。
【0042】
本組成物の投与経路は、経口投与または非経口投与を含み、特に限定されない。適用部位や対象とする疾患に応じて公知の各種投与形態を採用できる。例えば、非経口投与は、全身投与でも局所投与でもよく、より具体的には、例えば、気管内投与、髄腔内投与、くも膜下腔投与、頭蓋内投与、静脈内投与、動脈内投与、門脈内投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、鼻腔内投与、口腔内投与等が挙げられる。
【0043】
剤形としては、顆粒剤、細粒剤、粉剤、被覆錠剤、錠剤、坐剤、散剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、チュアブル剤、液剤、懸濁剤、乳濁液などが挙げられる。活性物質の放出を延長する剤形を採用してもよい。注射または点滴用の剤形としては、水性および非水性の注射溶液(抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、等張化剤等を含んでもよい);ならびに水性および非水性の注射懸濁液(懸濁剤、増粘剤等を含んでもよい)が挙げられる。これらの剤形は、密閉したアンプルやバイアル中に液体として提供されてもよく、凍結乾燥物として提供され、使用直前に滅菌液体(例えば、注射用水)を加えて調製してもよい。注射溶液または懸濁液を、粉末、顆粒または錠剤から調製してもよい。
【0044】
これらの剤形は、常法により製剤化することによって製造される。さらに製剤上の必要に応じて、医薬的に許容し得る各種の製剤用物質を配合することができる。製剤用物質は製剤の剤形により適宜選択することができるが、例えば、緩衝化剤、界面活性剤、安定化剤、防腐剤、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤等が挙げられる。
【0045】
本組成物の投与量および投与回数は、有効量の有効成分が対象に投与されるように、投与対象の動物種、投与対象の健康状態、年齢、体重、投与経路、投与形態等に応じて当業者が適宜設定できる。ある状況での有効量は、日常的な実験によって容易に決定することができ、通常の臨床医の技術および判断の範囲内である。例えば、ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質がペプチドである場合、成人1日あたりの投与量は約0.01~約1,000 mg/kg体重、約0.01~約100 mg/kg体重、約0.1~約10 mg/kg体重、または約1~約10 mg/kg体重であり得るが、これに限定はされない。
【0046】
本組成物は、単独で、または、1種またはそれ以上のさらなる有効成分、特に、がんの治療のための有効成分と併用できる。成分を「併用する」ことは、全成分を含有する投与剤形の使用および各成分を別個に含有する投与剤形の組合せの使用のみならず、それらががんの治療のために使用される限り、各成分を同時に、連続的に、または、いずれかの成分を遅延して投与することも意味する。2種またはそれ以上のさらなる有効成分を併用することも可能である。
【0047】
本願の医薬組成物が治療するがんは特に限定されず、例えば、大腸がん、結腸直腸がん、肺がん、乳がん、脳腫瘍、黒色腫、腎細胞がん、白血病、リンパ腫、T細胞リンパ腫、胃がん、膵臓がん、子宮頚がん、子宮内膜がん、卵巣がん、食道がん、肝臓がん、頭頚部扁平上皮がん、甲状腺がん、皮膚がん、尿路がん、前立腺がん、絨毛がん、咽頭がん、喉頭がん、胸膜腫、男性胚腫、子宮内膜過形成、子宮内膜症、胚芽腫、線維肉腫、カポジ肉腫、血管腫、海綿状血管腫、血管芽腫、網膜芽腫、星状細胞腫、神経線維腫、稀突起膠腫、髄芽腫、神経芽腫、神経膠腫、横紋筋肉腫、膠芽腫、骨原性肉腫、平滑筋肉腫、およびウィルムス腫瘍などが例示される。
【0048】
本開示において、がんはZBTB2を発現している。ある実施形態において、前記がんは、ZBTB2の発現が正常細胞または正常組織と比較して上昇しているがんである。がんがZBTB2を発現していることは、例えば免疫組織化学染色法、ウェスタンブロッティング法、RT-PCR法およびリアルタイムPCR法などの公知の方法を用いて確認できる。
【0049】
ある実施形態において、前記がんは、p53の機能が低下しているがんである。p53の機能には、p53がZBTB2のHIF-1活性化能を抑制する機能が含まれる。「p53の機能が低下している」がんには、例えば、p53が変異しているがん、およびp53の発現が低下しているがんが含まれる。
【0050】
p53が変異しているがんとしては、限定されないが、例えばp53がR175H変異、G245S変異、R248Q変異、R248W変異、R249S変異、R273C変異、R273H変異、またはR282H変異を有するがんが挙げられる。p53が変異していることは、例えばp53遺伝子をPCR法で増幅した後シークエンシング解析するなどの公知の方法で確認できる。また、野生型p53はMDM2によってユビキチン化され、プロテアソームによって分解されるため、細胞内に蓄積しない。一方、多くの変異型p53は転写因子として機能しないためドミナントネガティブ作用をもち、下流のMDM2によるネガティブフィードバックが破綻して、細胞内に蓄積することが知られている。したがって、例えば免疫組織化学染色法およびウェスタンブロッティング法などの公知の方法により細胞内にp53が蓄積していることを確認することで、p53が変異していることを確認してもよい。
【0051】
p53の発現が低下しているがんとは、p53の発現が正常細胞と比較して低下しているがんを意味する。p53の発現が低下していることは、例えば免疫組織化学染色法、ウェスタンブロッティング法、およびリアルタイムPCR法などの公知の方法を用いてp53の発現量を正常細胞と比較することで確認できる。
【0052】
本明細書で使用されるとき、「治療する」または「治療」は、疾患を有する対象において、疾患の原因を軽減または除去すること、その進行を遅延または停止させること、その症状を軽減、緩和、改善または除去すること、および/または、その症状の悪化を抑制することを意味する。
【0053】
本願の医薬組成物の投与対象としては、動物、典型的には哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サルなど)が挙げられるが、ヒトが特に好ましい。
【0054】
[選択方法]
本願はまた、以下を含むZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を選択する方法を提供する:
(1)ZBTB2を含む第1の分子と、ZBTB2を含む第2の分子と、候補物質とを接触させること、
(2)第1の分子と第2の分子との二量体形成を検出すること、および
(3)対照と比較して二量体形成を減少させる候補物質を選択すること。
【0055】
「候補物質」には、タンパク質、アミノ酸、核酸、脂質、糖質、低分子化合物などの、あらゆる物質が包含される。候補物質は、典型的には、精製または単離されているものを使用できるが、未精製または未単離の粗精製品であってもよい。候補物質は、化合物ライブラリー、核酸ライブラリー、ランダムペプチドライブラリーなどの形態で提供されてもよく、また、天然物として提供されてもよい。ある実施形態において、ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質はがん治療薬として選択される。すなわち、本願の選択方法は、がん治療薬をスクリーニングする方法であり得る。
【0056】
(1)の工程において、「接触」は、各物質を混合すること、各物質をコードする遺伝子を含む形質転換体を共培養させること、各物質をコードする遺伝子を共発現させること、またはこれらの組合せなどを含む。
【0057】
(2)の工程において、第1の分子と第2の分子との二量体形成は、周知の方法によって検出できる。かかる方法として、例えば、タンパク質に付した標識を利用する方法、免疫学的手法(共免疫沈降法、およびELISAなど)、カラムまたはビーズを用いたプルダウン法、表面プラズモン共鳴を利用した相互作用解析法(BIACOREを用いた測定方法など)、ゲル濾過などのクロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0058】
(3)の工程において、対照とは、例えば、候補物質が存在しない点を除き同一の条件下で(1)の工程および(2)の工程を行った場合の二量体形成を意味する。
【0059】
ある実施形態において、第1の分子はZBTB2および第1の標識を含み、第2の分子はZBTB2および第2の標識を含む。標識としては、例えば、蛍光標識、発光標識、放射標識、および免疫学的手法で使用される標識物質などが挙げられる。また、標識には、他の分子と相互作用することにより蛍光または発光などの信号を生じる物質を構成する物質も含まれる。
【0060】
ある実施形態において、第1の標識と第2の標識は相互作用することで信号を生じ、第1の分子と第2の分子との二量体形成の検出は前記信号を検出することを含む。前記信号は、例えば発光または蛍光が想定されるが、これに限定されない。
【0061】
ある実施形態において、第1の標識および第2の標識は相互作用することによって、例えば発光タンパク質または蛍光タンパク質を構成する。このような発光タンパク質または蛍光タンパク質としては、例えばLarge BiTおよびSmall Bitから構成されるNanoBiT(登録商標)(プロメガ社)などのスプリットルシフェラーゼ、またはスプリットGFPが挙げられる。したがって、第1の標識および第2の標識は例えば、それぞれLarge BiTおよびSmall Bitである。また、第1の標識および第2の標識は相互作用することによって生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)または蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を介した発光または蛍光を生じる物質であってもよい。
【0062】
別の実施形態において、第1の標識が第2の標識と異なり、
第1の分子と第2の分子との二量体形成の検出が、
(1’)第1の標識に対する抗体を、第1の分子、第2の分子、および候補物質を含む混合物に添加すること、
(2’)第1の標識に対する抗体に結合する画分を単離すること、および
(3’)単離された画分を、第2の標識に対する抗体と接触させ、第2の標識を検出すること、を含む。
【0063】
この実施形態において、第1の標識および第2の標識は特に限定されないが、例えば免疫学的手法で使用される標識物質であり得る。具体的には、第1の標識および第2の標識は、例えばmycタグ、V5タグ、S1タグ、HAタグ、Flag(登録商標)タグ、GFPタグおよびHisタグなどのペプチドタグから独立に選択される。これらの標識に対する抗体は特に限定されないが、市販のものを適宜使用できる。
【0064】
(2’)の工程における画分を単離する方法および(3’)の工程における第2の標識を検出する方法は特に限定されないが、共免疫沈降法などの当業者に周知の方法を用いることができる。例えば、(2’)の工程における画分を単離する方法として、ビーズなどの担体に固定された第1の標識に対する抗体を遠心分離によって単離する方法、およびアフィニティークロマトグラフィーを用いる方法などが挙げられる。また、(3’)の工程における第2の標識を検出する方法としてウェスタンブロッティング法などが挙げられる。
【0065】
本願はさらに、ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を選択する方法であって、ZBTB2の1~117位の少なくとも一部と相互作用する物質を選択することを含む方法を提供する。
【0066】
ZBTB2の1~117位の少なくとも一部と相互作用する物質を選択する方法は、当業者に周知の方法を使用できる。例えば、タンパク質に付した標識を利用する方法、免疫学的手法(共免疫沈降法、およびELISAなど)、カラムまたはビーズを用いたプルダウン法、表面プラズモン共鳴を利用した相互作用解析法(BIACOREを用いた測定方法など)、ゲル濾過などのクロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0067】
ある実施形態において、ZBTB2の1~117位の少なくとも一部と相互作用する物質の選択は、
(1)ZBTB2の1~117位における連続する少なくとも4個のアミノ酸からなるペプチドと第1の標識とを含む第1の分子と、候補物質と第2の標識とを含む第2の分子とを接触させること、ここで、第1の標識と第2の標識は、相互作用することによって信号を生じる、および
(2)前記信号を検出すること
を含む。
【0068】
ある実施形態において、ZBTB2の1~117位における連続する少なくとも4個のアミノ酸からなるペプチドは、配列番号1の1~117位における連続する4~117個のアミノ酸からなるペプチドである。別の実施形態において、ZBTB2の1~117位における連続する少なくとも4個のアミノ酸からなるペプチドは、LILL(配列番号3)のアミノ酸配列を含む。
【0069】
ある実施形態において、配列番号1の1~117位における連続する4~117個のアミノ酸からなるペプチドは、LILL(配列番号3)のアミノ酸配列を含む。ある実施形態において、配列番号1の1~117位における連続する4~117個のアミノ酸からなるペプチドは、配列番号1の1~117位のアミノ酸配列(配列番号4)、1~113位のアミノ酸配列(配列番号5)、1~91位のアミノ酸配列(配列番号6)、または1~23位のアミノ酸配列(配列番号7)のアミノ酸配列を含むか、または前記アミノ酸配列からなる。
【0070】
(1)の工程における候補物質は、上述した候補物質を用いることができる。ある実施形態において、第1の標識および第2の標識は相互作用することによって、例えば発光タンパク質または蛍光タンパク質を構成する。このような発光タンパク質または蛍光タンパク質としては、上述したタンパク質を使用することができる。また、第1の標識および第2の標識は相互作用することによって生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)または蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を介した発光または蛍光を生じる物質であってもよい。これらの実施形態において、前記信号は、例えば発光または蛍光である。
【0071】
別の実施形態において、ZBTB2の1~117位の少なくとも一部と相互作用する物質の選択は、
(1)ZBTB2の1~117位における連続する少なくとも4個のアミノ酸からなるペプチドと第1の標識とを含む第1の分子と、候補物質と第2の標識とを含む第2の分子とを接触させること、ここで、第1の標識は第2の標識と異なる、
(2)第1の標識に対する抗体を、第1の分子および第2の分子を含む混合物に添加すること、
(3)第1の標識に対する抗体に結合する画分を単離すること、および
(4)単離された画分を、第2の標識に対する抗体と接触させ、第2の標識を検出すること
を含む。
【0072】
ZBTB2の1~117位における連続する少なくとも4個のアミノ酸からなるペプチドは、上述したペプチドを用いることができる。
【0073】
(1)の工程における候補物質は、上述した候補物質を用いることができる。この実施形態において、第1の標識および第2の標識は特に限定されないが、例えば免疫学的手法で使用される標識物質であり得る。具体的には、第1の標識および第2の標識は、例えばmycタグ、V5タグ、S1タグ、HAタグ、Flag(登録商標)タグ、GFPタグおよびHisタグなどのペプチドタグから独立に選択される。これらの標識に対する抗体は特に限定されないが、市販のものを適宜使用できる。
【0074】
(3)の工程における画分を単離する方法および(4)の工程における第2の標識を検出する方法は特に限定されないが、共免疫沈降法などの当業者に周知の方法を用いることができる。例えば、(3)の工程における画分を単離する方法として、ビーズなどの担体に固定された第1の標識に対する抗体を遠心分離によって単離する方法、およびアフィニティークロマトグラフィーを用いる方法などが挙げられる。また、(4)の工程における第2の標識を検出する方法としてウェスタンブロッティング法などが挙げられる。
【0075】
[キット]
本願はまた、ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を選択するためのキットを提供する。かかるキットの内容は特に限定されないが、上記に記載の選択方法の接触工程および/または検出工程に使用されるものを含み得る。また、緩衝液、反応容器、取扱説明書などを含んでいてもよい。ある実施形態において、前記キットはZBTB2を含む第1の分子と、ZBTB2を含む第2の分子とを含むキットであり得る。別の実施形態において、前記キットは、ZBTB2の1~117位における少なくとも4個の連続するアミノ酸からなるペプチドを含むキットであり得る。前記キットは、ZBTB2の1~117位における少なくとも4個の連続するアミノ酸からなるペプチドと第1の標識とを含む第1の分子と、候補物質と第2の標識とを含む第2の分子または候補物質を標識するための第2の標識とを含むキットであり得る。
【0076】
本願は、例えば、下記の実施形態を提供する。
[1]
ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を含む、がんを治療するための医薬組成物。
[2]
ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質が、ZBTB2の1~117位の少なくとも一部と相互作用する物質である、前記[1]に記載の医薬組成物。
[3]
ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質が、ZBTB2の1~117位における連続する少なくとも4個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むペプチドである、前記[1]または[2]に記載の医薬組成物。
[4]
ペプチドが、LILL(配列番号3)のアミノ酸配列を含む、前記[3]に記載の医薬組成物。
[5]
ペプチドが、ZBTB2の断片である、前記[3]または[4]に記載の医薬組成物。
[6]
ペプチドが、4~500アミノ酸長である、前記[3]~[5]のいずれかに記載の医薬組成物。
[7]
ZBTB2が、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる、前記[3]~[6]のいずれかに記載の医薬組成物。
[8]
ZBTB2が、配列番号1のアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる、前記[3]~[6]のいずれかに記載の医薬組成物。
[9]
ZBTB2の断片が、ZF2ドメインおよび/またはZF3ドメインを含まない、前記[5]~[8]のいずれかに記載の医薬組成物。
[10]
ペプチドが、配列番号1の1~117位における連続する4~117個のアミノ酸からなるアミノ酸配列、または配列番号1の1~117位における連続する4~117個のアミノ酸において1または数個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる、前記[3]~[9]のいずれかに記載の医薬組成物。
[11]
ペプチドが、配列番号1の1~113位のアミノ酸配列(配列番号5)、または配列番号1の1~113位のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる、前記[3]~[10]のいずれかに記載の医薬組成物。
[12]
ペプチドが、配列番号1の1~91位のアミノ酸配列(配列番号6)、または配列番号1の1~91位のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる、前記[3]~[11]のいずれかに記載の医薬組成物。
[13]
ペプチドが、配列番号1の1~23位のアミノ酸配列(配列番号7)、または配列番号1の1~23位のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる、前記[3]~[12]のいずれかに記載の医薬組成物。
[14]
ペプチドが、配列番号1の1~113位のアミノ酸配列(配列番号5)を含む、前記[3]~[13]のいずれかに記載の医薬組成物。
[15]
ペプチドが、配列番号1の1~113位のアミノ酸配列(配列番号5)からなる、前記[14]に記載の医薬組成物。
[16]
ペプチドが、配列番号1の1~91位のアミノ酸配列(配列番号6)を含む、前記[3]~[13]のいずれかに記載の医薬組成物。
[17]
ペプチドが、配列番号1の1~91位のアミノ酸配列(配列番号6)からなる、前記[16]に記載の医薬組成物。
[18]
ペプチドが、配列番号1の1~23位のアミノ酸配列(配列番号7)を含む、前記[3]~[13]のいずれかに記載の医薬組成物。
[19]
ペプチドが、配列番号1の1~23位のアミノ酸配列(配列番号7)からなる、前記[18]に記載の医薬組成物。
[20]
がんが、ZBTB2の発現が正常細胞または正常組織と比較して上昇しているがんである、前記[1]~[19]のいずれかに記載の医薬組成物。
[21]
がんが、p53の機能が低下しているがんである、前記[1]~[20]のいずれかに記載の医薬組成物。
【0077】
[22]
ZBTB2の1~117位における連続する少なくとも4個のアミノ酸を含み、ZF2ドメインおよび/またはZF3ドメインを含まない、ZBTB2の断片。
[23]
LILL(配列番号3)のアミノ酸配列を含む、前記[22]に記載の断片。
[24]
4~500アミノ酸長である、前記[22]または[23]に記載の断片。
[25]
ZBTB2が、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる、前記[22]~[24]のいずれかに記載の断片。
[26]
ZBTB2が、配列番号1のアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる、前記[22]~[24]のいずれかに記載の断片。
[27]
配列番号1の1~117位における連続する4~117個のアミノ酸からなるアミノ酸配列、または配列番号1の1~117位における連続する4~117個のアミノ酸において1または数個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる、前記[22]~[26]のいずれかに記載の断片。
[28]
配列番号1の1~113位のアミノ酸配列、または配列番号1の1~113位のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる、前記[22]~[27]のいずれかに記載の断片。
[29]
配列番号1の1~91位のアミノ酸配列、または配列番号1の1~91位のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる、前記[22]~[28]のいずれかに記載の断片。
[30]
配列番号1の1~23位のアミノ酸配列、または配列番号1の1~23位のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる、前記[22]~[29]のいずれかに記載の断片。
[31]
配列番号1の1~113位のアミノ酸配列(配列番号5)を含む、前記[22]~[30]のいずれかに記載の断片。
[32]
配列番号1の1~113位のアミノ酸配列(配列番号5)からなる、前記[31]に記載の断片。
[33]
配列番号1の1~91位のアミノ酸配列(配列番号6)を含む、前記[22]~[30]のいずれかに記載の断片。
[34]
配列番号1の1~91位のアミノ酸配列(配列番号6)からなる、前記[33]に記載の断片。
[35]
配列番号1の1~23位のアミノ酸配列(配列番号7)を含む、前記[22]~[30]のいずれかに記載の断片。
[36]
配列番号1の1~23位のアミノ酸配列(配列番号7)からなる、前記[35]に記載の断片。
【0078】
[37]
ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を選択する方法であって、
(1)ZBTB2を含む第1の分子と、ZBTB2を含む第2の分子と、候補物質とを接触させること、
(2)第1の分子と第2の分子との二量体形成を検出すること、および
(3)対照と比較して二量体形成を減少させる候補物質を選択すること
を含む方法。
[38]
ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質ががん治療薬として選択される、前記[37]に記載の方法。
[39]
第1の分子がZBTB2および第1の標識を含み、第2の分子がZBTB2および第2の標識を含む、前記[37]または[38]に記載の方法。
[40]
第1の標識と第2の標識が、相互作用することによって信号を生じ、
第1の分子と第2の分子との二量体形成の検出が、前記信号を検出することを含む、前記[39]に記載の方法。
[41]
前記信号が発光または蛍光である、前記[40]に記載の方法。
[42]
第1の標識が第2の標識と異なり、
第1の分子と第2の分子との二量体形成の検出が、
(1’)第1の標識に対する抗体を、第1の分子、第2の分子、および候補物質を含む混合物に添加すること、
(2’)第1の標識に対する抗体に結合する画分を単離すること、および
(3’)単離された画分を、第2の標識に対する抗体と接触させ、第2の標識を検出すること、
を含む、前記[39]に記載の方法。
[43]
第1の標識および第2の標識がペプチドタグである、前記[42]に記載の方法。
【0079】
[44]
ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を選択するためのキットであって、ZBTB2を含む第1の分子と、ZBTB2を含む第2の分子とを含むキット。
[45]
がん治療薬のスクリーニングに用いられる、前記[44]に記載のキット。
[46]
第1の分子がZBTB2および第1の標識を含み、第2の分子がZBTB2および第2の標識を含む、前記[44]または[45]に記載のキット。
[47]
第1の標識と第2の標識が、相互作用することによって信号を生じる、前記[46]に記載のキット。
[48]
前記信号が発光または蛍光である、前記[47]に記載のキット。
[49]
第1の標識が第2の標識と異なる、前記[46]に記載のキット。
[50]
第1の標識および第2の標識がペプチドタグである、前記[49]に記載のキット。
【0080】
[51]
ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を選択する方法であって、ZBTB2の1~117位の少なくとも一部と相互作用する物質を選択することを含む方法。
[52]
ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質をがん治療薬として選択する、前記[51]に記載の方法。
[53]
ZBTB2の1~117位の少なくとも一部と相互作用する物質の選択が、
(1)ZBTB2の1~117位における連続する少なくとも4個のアミノ酸からなるペプチドと第1の標識とを含む第1の分子と、候補物質と第2の標識とを含む第2の分子とを接触させること、ここで、第1の標識と第2の標識は、相互作用することによって信号を生じる、および
(2)前記信号を検出すること、
を含む、前記[51]または[52]に記載の方法。
[54]
ZBTB2の1~117位の少なくとも一部と相互作用する物質の選択が、
(1)ZBTB2の1~117位における連続する少なくとも4個のアミノ酸からなるペプチドと第1の標識とを含む第1の分子と、候補物質と第2の標識とを含む第2の分子とを接触させること、ここで、第1の標識は第2の標識と異なる、
(2)第1の標識に対する抗体を、第1の分子および第2の分子を含む混合物に添加すること、
(3)第1の標識に対する抗体に結合する画分を単離すること、および
(4)単離された画分を、第2の標識に対する抗体と接触させ、第2の標識を検出すること、
を含む、前記[51]または[52]に記載の方法。
[55]
ペプチドが、配列番号1の1~117位における連続する4~117個のアミノ酸からなるペプチドである、前記[53]または[54]に記載の方法。
[56]
ペプチドが、LILL(配列番号3)のアミノ酸配列を含む、前記[53]~[55]のいずれかに記載の方法。
[57]
ペプチドが、配列番号1の1~113位のアミノ酸配列(配列番号5)を含む、前記[53]~[56]のいずれかに記載の方法。
[58]
ペプチドが、配列番号1の1~113位のアミノ酸配列(配列番号5)からなる、前記[57]に記載の方法。
[59]
ペプチドが、配列番号1の1~91位のアミノ酸配列(配列番号6)を含む、前記[53]~[56]のいずれかに記載の方法。
[60]
ペプチドが、配列番号1の1~91位のアミノ酸配列(配列番号6)からなる、前記[59]に記載の方法。
[61]
ペプチドが、配列番号1の1~23位のアミノ酸配列(配列番号7)を含む、前記[53]~[56]のいずれかに記載の方法。
[62]
ペプチドが、配列番号1の1~23位のアミノ酸配列(配列番号7)からなる、前記[61]に記載の方法。
[63]
信号が発光または蛍光である、前記[53]および[55]~[62]のいずれかに記載の方法。
[64]
第1の標識および第2の標識がペプチドタグである、前記[54]~[62]のいずれかに記載の方法。
【0081】
[65]
ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を選択するためのキットであって、ZBTB2の1~117位における少なくとも4個の連続するアミノ酸からなるペプチドを含むキット。
[66]
がん治療薬のスクリーニングに用いられる、前記[65]に記載のキット。
[67]
ペプチドが、配列番号1の1~117位における連続する4~117個のアミノ酸からなるペプチドである、前記[65]または[66]に記載のキット。
[68]
ペプチドが、LILL(配列番号3)のアミノ酸配列を含む、前記[65]~[67]のいずれかに記載のキット。
[69]
ペプチドが、配列番号1の1~113位のアミノ酸配列(配列番号5)を含む、前記[65]~[68]のいずれかに記載のキット。
[70]
ペプチドが、配列番号1の1~113位のアミノ酸配列(配列番号5)からなる、前記[69]に記載のキット。
[71]
ペプチドが、配列番号1の1~91位のアミノ酸配列(配列番号6)を含む、前記[65]~[68]のいずれかに記載のキット。
[72]
ペプチドが、配列番号1の1~91位のアミノ酸配列(配列番号6)からなる、前記[71]に記載のキット。
[73]
ペプチドが、配列番号1の1~23位のアミノ酸配列(配列番号7)を含む、前記[65]~[68]のいずれかに記載のキット。
[74]
ペプチドが、配列番号1の1~23位のアミノ酸配列(配列番号7)からなる、前記[73]に記載のキット。
[75]
前記ペプチドと第1の標識とを含む第1の分子と、候補物質と第2の標識とを含む第2の分子または候補物質を標識するための第2の標識とを含む、前記[65]~[74]のいずれかに記載のキット。
[76]
第1の標識と第2の標識が、相互作用することによって信号を生じる、前記[75]に記載のキット。
[77]
信号が発光または蛍光である、前記[76]に記載のキット。
[78]
第1の標識が第2の標識と異なる、前記[75]に記載のキット。
[79]
第1の標識および第2の標識がペプチドタグである、前記[78]に記載のキット。
【0082】
[80]
がんを治療する方法であって、ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質を、治療を必要とする対象に投与することを含む方法。
【0083】
[81]
がんを治療するための医薬の製造のための、ZBTB2のホモ二量体形成を阻害する物質の使用。
【実施例0084】
以下に実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0085】
ZBTB2の標的物質として選別
低酸素誘導性転写因子の一種であるHIF-1については、その活性化によってがんの治療抵抗性及び悪性化が亢進することが、本発明者らにより報告されている(Nagao A, et al. Int J Mol Sci. 20:238. 2019.;Harada H. J Radiat Res. 57:99-105. 2016.)。また、代表的ながん抑制遺伝子p53とHIF-1の間に相互作用が存在することが指摘されてきたが、その実態は明らかにされておらず、より具体的には、HIF-1がどのような機序でp53欠失時に活性化し、がん細胞の浸潤能を誘導するかは明らかにされていなかった。そこで、本発明者はHIF-1を活性化する因子(遺伝子)を網羅的に探索する実験を実施し、問題の解決を図った。まず、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)遺伝子のプロモーター由来のHIF-1応答性エンハンサーHREを含む人工的なHIF-1応答性プロモーターの制御下で、ブラストサイジンという抗生物質への耐性を担うタンパク質を発現する遺伝子を構築した。そして、当該遺伝子を安定に組み込んだ細胞株を樹立した(Goto Y, et al. Nature Communications. 6:6153. 2015.;Zeng L, et al. Oncogene. 34:4758-4766. 2015.)。上記細胞株によるブラストサイジン耐性遺伝子の発現は、HIF-1応答性プロモーターの制御下にあるため、通常酸素条件ではブラストサイジン耐性タンパク質の発現が認められない。その結果、当該細胞株は酸素存在下で薬剤に感受性を示して死滅する。逆に、低酸素刺激などによってHIF-1活性が亢進した場合に、当該細胞はブラストサイジン耐性タンパク質を発現するようになり、結果として薬剤耐性を示す。HIF-1活性に正の影響を及ぼしうる遺伝子を網羅的に探索(スクリーニング)するために、当該細胞株に、レトロウィルスベクターを利用してcDNAライブラリーを適宜導入し、これを通常酸素条件下(20%)にてブラストサイジンを含む培地で培養し、コロニーを形成する細胞を選択した。ここで生き残った細胞内では、ゲノムDNAにインテグレートされた(組込まれた)遺伝子の機能によってHIF-1が活性化し、結果としてブラストサイジン耐性遺伝子の発現が誘導されていることが期待できた。そこで生存細胞から精製したゲノムDNAを鋳型とし、さらに挿入されたcDNAを挟みこむプライマーを用いてPCR反応を行うことで、当該cDNA断片を増幅した。このDNA断片を汎用のプラスミドベクター(具体的にはpBlueScript II SK+)のEcoRV部位にサブクローニングした。T7プライマーとT3プライマーを用いて挿入されたcDNAの塩基配列を解析し、その情報を基にホモロジー検索を実施した。その結果、HIF-1を活性化する機能を持ち得る遺伝子群を同定するに至った。
【0086】
ZBTB2がHIF-1活性に及ぼす影響
上記の遺伝子スクリーニング実験で獲得したZBTB2がHIF-1を活性化する機能を有するか否かを検証する目的で、以下の実験を行った。本実施例において、ZBTB2は、GenBank Accession Number:NP_065912.1で示されるアミノ酸配列(配列番号1)または同Accession Number:NM_020861.3で示される核酸配列(配列番号2)で特定した。まずヒトZBTB2 cDNAをpEF6/myc-His Bプラスミド(Invitrogen社)のEcoR1-EcoRV部位に挿入し、ZBTB2強制発現プラスミドpEF6/ZBTB2-myc tagを構築した。当該強制発現プラスミド内では、ZBTB2遺伝子の翻訳終結コドンが欠失されていること、またZBTB2構造遺伝子とその下流のmycタグがインフレームで融合されていることから、当該プラスミドはZBTB2とmycタグの融合タンパク質を強制発現する。野生型のp53 を持つHCT116 p53
wt/wt 細胞と、p53をノックアウトしたHCT116 p53 K.O.細胞の二種類に対して、HIF-1依存的に発光タンパク質(ルシフェラーゼ)を発現する5HREp-lucレポーター遺伝子とpEF6/ZBTB2-myc tagの双方をトランスフェクトした。この遺伝子導入細胞を通常酸素(20%)又は低酸素(0.1%以下)条件下で培養した後に、細胞溶解用試薬(Passive Lysis buffer:Promega社)を用いて細胞抽出液を得、ルシフェラーゼアッセイキット(Promoga社)を用いて、両細胞抽出液中のルシフェラーゼ活性を定量した。陰性対照実験として、ZBTB2 cDNAを組み込んでいないpEF6/myc-His Bプラスミド(Empty Vector:以下、単に「空ベクター」という。)を用いて同様の実験を行った。その結果、HCT116 p53
wt/wtでは、空ベクターを導入した場合と比較して、pEF6/ZBTB2-myc tagを導入しても結果に差がなかったが、HCT116 p53 K.O.細胞では、空ベクターを導入した場合と比較して、pEF6/ZBTB2-myc tagを導入した場合に低酸素条件下で有意にルシフェラーゼ活性が亢進することを確認した(
図1参照)。この結果は、p53 非存在下においてのみ、ZBTB2がHIF-1を活性化することを示している。
【0087】
次に、ZBTB2のHIF-1活性化能がp53によって抑制される可能性を、別の実験系で検証した。ヒト野生型p53 cDNAをpcDNA3プラスミド(Invitrogen社)のBamHI- EcoRI部位に挿入し、野生型p53強制発現プラスミドpcDNA3/p53 wildtypeを構築した。HCT116 p53 K.O.細胞に対して5HREp-lucレポーター遺伝子とpEF6/ZBTB2-myc tagに加え、当該プラスミドpcDNA3/p53 wildtypeをpEF6/ZBTB2-myc tagとプラスミド比1:1、0.1:1,、0.01:1の3濃度で同時にトランスフェクトした。pcDNA3/p53 wildtypeに対する陰性対照として、p53 cDNAを組み込んでいないpcDNA3 プラスミド(Empty Vector:以下、同様に単に「空ベクター」という。)を用いて同様の実験を行った。低酸素条件下(< 0.1%)で培養した後に細胞抽出液中のルシフェラーゼ活性を定量したところ、p53強制発現ベクターの導入濃度依存的にZBTB2によるHIF-1活性化能が抑制される結果となった(
図2参照)。
【0088】
ヒトの腫瘍組織においては、変異型p53が野生型p53と結合することで不活性化するドミナント・ネガティブ作用によってp53が機能欠失している。この状況を再現した場合にZBTB2がHIF-1活性化能を示すようになるかを検証する目的で、ヒトの腫瘍で最も頻度の高いと報告されている3種類の変異型p53 のcDNAをpcDNA3プラスミド(Invitrogen社)のBamHI- EcoRI部位に挿入し、変異型p53強制発現プラスミドを構築した(各々、pcDNA3/p53 R175H, pcDNA3/p53 R248W, pcDNA3/p53 R273H)。HCT116 p53
wt/wt細胞に対して5HREp-lucレポーター遺伝子とpEF6/ZBTB2-myc tagに加え、当該プラスミドpcDNA3/p53 R175HもしくはpcDNA3/p53 R248WもしくはpcDNA3/p53 R273Hをトランスフェクトした。変異型p53強制発現プラスミドに対する陰性対照として、pcDNA3 プラスミド(空ベクター)を用いて同様の実験を行った。低酸素条件下(< 0.1%)で培養した後に細胞抽出液中のルシフェラーゼ活性を定量したところ、空ベクターを導入した場合と比較して、いずれの変異型p53においてもZBTB2によるHIF-1活性化能がみられる結果となった(
図3参照)。
【0089】
内因性のZBTB2が真にHIF-1を活性化しうるかを検証する目的で、ZBTB2mRNAをコードする領域のsiRNA(A): HSS126563, (B): HSS183975(Thermo Fisher社)を用いて実験を行った。陰性対照として、ヒト遺伝子の何れにも相補性のない配列に対するsiRNA(C): StealthTM RNAi negative control 452001 (Invitrogen社)を用いた。
【0090】
内因性ZBTB2の発現レベルが高いことが報告されており、かつMDM2の過剰発現によりp53発現が抑制されているU2OS細胞に当該siRNA(A)、(B)、又は陰性対照用のsiRNA(Scr)をLipofectamine
(登録商標) RNAiMAX(invitrogen社)で導入し、通常酸素(20%)又は低酸素(< 0.1%)環境下で培養した後に、ルシフェラーゼアッセイを実施した(
図4参照)。結果、陰性対照群と比較して、ZBTB2の発現を抑制した場合に、低酸素刺激によるHIF-1の活性が有意に抑制されることが明らかになった。この結果より、ZBTB2がHIF-1活性に関与することが強く示唆された。
【0091】
ZBTB2がHIF-1αタンパク質の安定性とトランス活性化能(転写活性化能)に及ぼす影響
HIF-1は、HIF-1αとHIF-1βという2つのサブユニットから構成されている。HIF-1αタンパク質は通常酸素条件下でユビキチン化を受けて、翻訳後速やかに分解される。ZBTB2がHIF-1の活性化を制御している機序を特定するためにHIF-1αタンパク質の安定化に関与するかどうかを調べるために、HCT116 p53 K.O.細胞、およびHCT116 p53
wt/wt細胞にpEF6/ZBTB2-myc tagまたは空ベクタープラスミドを導入し、通常酸素(20%)又は低酸素(< 0.1%)条件下で培養した後、細胞抽出液を得、タンパク質発現をウェスタンブロッティングにより解析した。その結果、ZBTB2を強制発現させた場合にも低酸素条件下で存在しているHIF-1αの発現量は増加しないことを認めた(
図5参照)。このことより、ZBTB2はHIF-1の活性化においてHIF-1αサブユニットの安定化以外の機序により活性化させる因子であることが示唆された。
【0092】
タンパクの安定性以外の作用点でHIF-1活性を制御する機構として、HIF-1αサブユニットのもつトランス活性化能の制御が知られている。ZBTB2がHIF-1αのトランス活性化能(転写活性化能)を正に制御するかを検証する目的で、Gal 4 DNA binding domain(Gal 4 DBD)を活用した定量実験を実施した。まずHIF-1αのトランス活性化領域とGal4 DBDの融合タンパク質を発現するプラスミドを構築した。同時に、Gal4 DBDが認識するDNA配列を挿入した人工プロモーターを作成し、その制御下でルシフェラーゼを発現するプラスミドを構築した。そして両プラスミドを共にトランスフェクトすることで、HIF-1αのトランス活性化能を評価できるレポーターアッセイの系を構築した。この当該レポーターシステムを導入したHCT116 p53 K.O.細胞に、さらにpEF6/myc-His B(空ベクター)またはZBTB2強制発現ベクター(pEF6/ZBTB2-myc tag)をトランスフェクトした。これらの細胞を通常酸素(20%)又は低酸素(< 0.1%)条件下で培養した後に抽出液を得、ルシフェラーゼ活性を定量した。その結果、HCT116 p53 K.O.ではZBTB2の過剰発現によって、HIF-1αのトランス活性化能が強く増強された。一方、HCT116 p53
wt/wtで同様の実験を実施した場合には、ZBTB2によるHIF-1αのトランス活性化能の亢進が見られなかった(
図6参照)。また、同様のレポーター遺伝子を導入したU2OS細胞に、上述のsiRNA(A)や(B)、又は陰性対照用のsiRNA(Scr)を導入し、通常酸素(20%)又は低酸素(0.1%以下)環境下で培養した後に、ルシフェラーゼアッセイを実施した場合(
図7参照)、陰性対照群と比較して、ZBTB2の発現を抑制した場合に、HIF-1αのトランス活性化能が抑制されることが明らかになった。
【0093】
ZBTB2によるHIF-1活性の亢進がp53変異型腫瘍の浸潤能に及ぼす影響
ZBTB2がHIF-1αの活性化を介して誘導する表現型を調べる目的で、同一条件下でpEF6/ZBTB2または空ベクターをHCT116 p53
wt/wtまたはHCT116 p53 K.O.細胞にトランスフェクトし、低酸素条件下(< 0.1%)で培養した後にセパゾール(ナカライテスク社)で全RNAを抽出後に、PrimeScript RT reagent Kit (タカラバイオ社)で逆転写反応を行ってcDNAを得た。下記(D)と(E)の配列のオリゴDNAを用いて定量的PCRを行うことにより、MMP2の発現量を評価する実験を行った。同じく下記(F)と(G)の配列のオリゴDNAを用いてMMP9の発現量を評価する実験を行った。内部標準として、下記の(H)と(I)の配列のオリゴDNAをプライマーとしてヒトβアクチンmRNAの発現量を測定した。
(D)5’- CTCATCGCAGATGCCTGGAA -3’(配列番号8)
(E)5’- TTCAGGTAATAGGCACCCTTGAAGA -3’(配列番号9)
(F)5’- ACGCACGACGTCTTCCAGTA -3’ (配列番号10)
(G)5’- CCACCTGGTTCAACTCACTCC -3’ (配列番号11)
(H)5’- TGGCACCCAGCACAATGAA -3’ (配列番号12)
(I)5’- CTAAGTCATAGTCCGCCTAGAAGC -3’ (配列番号13)
結果、HCT116 p53 K.O.ではpEF6/ZBTB2-myc tagを導入することで、MMP2およびMMP9の発現上昇がみられることが確認された。一方、HCT116 p53
wt/wtでは空ベクターを導入した場合と比較して、pEF6/ZBTB2-myc tagを導入してもその発現上昇は見られないことを確認した(
図8参照)。
【0094】
次に、そのMMP2、およびMMP9の発現上昇がHIF-1α依存的に生ずる現象かを検証する目的で、内因性のZBTB2発現レベルが高いU2OS細胞に、HIF-1αのmRNAをコードする領域内に対応するsiRNA(J): HSS104774, (K): HSS104775(Thermo Fisher社)を導入して実験を行った。
【0095】
上述のsiRNA(J)、(K)又は陰性対照用のsiRNA(Scr)に加えて、上述のZBTB2遺伝子に対応するsiRNA(A)をLipofectamine
(登録商標) RNAiMAXで導入し、低酸素環境下(< 0.1%)で培養した後に全RNAを抽出し、定量的RT-PCRを行った(
図9参照)。結果、陰性対照群において、ZBTB2の発現を抑制した場合には、MMP2ならびにMMP9の発現が低下するが、その変化はHIF-1αの発現を抑制した場合には見られないことが明らかになった。このことより、ZBTB2はHIF-1α依存的にMMP2ならびにMMP9の発現上昇を生ずることが分かった。
【0096】
ZBTB2がMMP2およびMMP9 の発現を上昇させることによって、細胞の浸潤能に影響を与えるかどうかを評価した。pEF6/ZBTB2-myc tagまたは空ベクターをHCT116 p53
wt/wt 並びにHCT116 p53 K.O.細胞にトランスフェクトし、これをバイオコート
(商標) マトリゲル
(商標) 細胞浸潤チャンバー(コーニング社)のトランスウェルに撒き、低酸素(0.1%以下)条件下で培養した。その後にメンブレンの下面に浸潤した細胞をホルマリン固定後にギムザ染色し、細胞数を指標に浸潤性を比較した。結果、HCT116 p53 K.O.ではpEF6/ZBTB2-myc tagを導入することで、浸潤した細胞数の増加がみられることが確認された。一方、HCT116 p53
wt/wtでは空ベクターを導入した場合と比較して、pEF6/ZBTB2-myc tagを導入しても浸潤細胞数に上昇は見られないことを確認した(
図10参照)。
【0097】
内因性ZBTB2の発現レベルの高いU2OS細胞に,上述のZBTB2遺伝子に対するsiRNA(A)、もしくは(B)をLipofectamine
(登録商標) RNAiMAXで導入し、
図10と同様の手法で浸潤性への影響を評価した。結果、陰性対照群と比較して、ZBTB2の発現を抑制した場合には、浸潤細胞数が低下することが確認できた(
図11参照)。次に、ZBTB2による浸潤細胞数の上昇がHIF-1α依存的に生ずるかどうかを確認する目的で、同一条件下でpEF6/ZBTB2-myc tagまたは空ベクターをHCT116 p53 K.O.細胞にトランスフェクトした後上述のsiRNA(J)、(K)又は陰性対照用のsiRNA(Scr)をLipofectamine
(登録商標) RNAiMAXで導入し、浸潤アッセイを行った。結果、pEF6/ZBTB2-myc tagを導入することですでに確認されていた浸潤細胞数の増加は、HIf-1αの発現を抑制した場合には見られないことが明らかになった(
図12参照)。
上記の結果より、ZBTB2はp53の機能欠失状況下においてHIF-1αのトランス活性化能の上昇を介してMMP2およびMMP9の発現を上昇させ、細胞の浸潤に"正"の影響を与える因子であることが示された。
【0098】
ZBTB2がp53変異型腫瘍の増殖とがん患者の生命予後に及ぼす影響
ZBTB2が腫瘍増殖に及ぼす影響を解析する目的で、HCT116 p53
wt/wt 並びにHCT116 p53 K.O.細胞のゲノムDNA中にレンチウイルスを用いてZBTB2強制発現カセットを安定導入した。このZBTB2強制発現細胞(HCT116 p53
wt/wt/ZBTB2並びにHCT116 p53 K.O./ZBTB2)を、免疫不全マウス(BALB/c-nu)の右下肢皮下に移植し、その後の腫瘍増殖速度を計測した。対照として、ZBTB2発現カセットを持たないレンチウイルス(空ベクター)を導入したHCT116 p53
wt/wt/EV並びにHCT116 p53 K.O./EVを用い、同様の実験を行った。その結果、HCT116 p53 K.O.ではZBTB2を強制発現することで、腫瘍増殖速度が亢進することが確認されたが(
図13参照)、HCT116 p53
wt/wtでは空ベクターを導入した場合と比較して、ZBTB2を強制発現しても腫瘍増殖速度は亢進しなかった(
図14参照)。
【0099】
次に259人のヒト肺腺癌の臨床検体を対象に、腫瘍内のZBTB2発現レベルが患者の生命予後不良と相関するかを検証した。抗ZBTB2抗体(Sigma Aldrich社)を用いて免疫染色を行いZBTB2の発現量を(-) ~ (+++) の四段階で半定量的に評価し、Z score を用いてその発現量を< 25、25-50、50-100、> 100に四群化したところ、発現量の高い群から順に生存期間が短いことが確認された(
図15参照)。
【0100】
以上の結果より、ZBTB2が腫瘍細胞の浸潤を正に制御する因子であり、その発現量は癌患者に予後不良をもたらすことが示された。
【0101】
HIF-1の活性化において重要な役割を果たすZBTB2内の機能領域の同定
ZBTB2がHIF-1αのトランス活性化能を上昇させる際に必要なZBTB2内のドメインを同定する目的で、ZBTB2について既知の機能ドメインもしくはリンカーを系統的に欠失させた変異体をコードするcDNAをPCRで作成し、pEF6/myc-His Bプラスミド(Invitrogen社)のEcoR1-EcoRV部位に挿入し、ZBTB2欠失変異体の強制発現プラスミド(pEF6/ZBTB2_del[1-23]-myc tag、pEF6/ZBTB2_del[BTB(24-117 a.a.)]-myc tag、pEF6/ZBTB2_del[ZF1(256-276 a.a.)]-myc tag、pEF6/ZBTB2_del[ZF2(363-385 a.a.)]-myc tag、pEF6/ZBTB2_del[ZF3(390-410 a.a.)]-myc tag、pEF6/ZBTB2_del[ZF4 (448-514 a.a. )]-myc tag)を構築した。
図6と
図7の実験で活用したHIF-1αのトランス活性化能を評価できるレポーターアッセイの系を用いて、これらの欠失変異体のいずれがHIF-1活性化能を失うのかを解析した。当該レポーター遺伝子と上述の各ZBTB2欠失変異体の強制発現プラスミドをHCT116 p53 K.O.細胞にトランスフェクトした。低酸素条件下(< 0.1%)で培養した後に細胞抽出液を得、ルシフェラーゼ活性を定量した。陰性対照実験として、空ベクターを用いて同様の実験を行った。その結果、pEF6/ZBTB2_del[ZF1(256-276 a.a.)]-myc tag、pEF6/ZBTB2_del[ZF4 (448-514 a.a. )]-myc tagをトランスフェクトした場合にはHIF-1αのトランス活性化能が増強されたが、pEF6/ZBTB2_del[1-23]-myc tag、pEF6/ZBTB2_del[BTB(24-117 a.a.)]-myc tag、pEF6/ZBTB2_del[ZF2(363-385 a.a.)]-myc tag、pEF6/ZBTB2_del[ZF3(390-410 a.a.)]-myc tag、をトランスフェクトした場合にはHIF-1αのトランス活性化能は空ベクターと同等であった(
図16参照)。
【0102】
ZBTB2タンパク質同士が複合体を形成して、HIF-1を活性化している可能性を検証する目的で、以下の様な共免疫沈降実験を実施した。ZBTB2 cDNAをpcDNA6/V5Bプラスミド(Invitrogen社)のEcoR1-EcoRV部位に挿入し、ZBTB2強制発現プラスミドpcDNA6/ZBTB2-V5 tagを構築した。当該強制発現プラスミド内では、ZBTB2遺伝子の翻訳終結コドンが欠失されていること、またZBTB2構造遺伝子とその下流のV5タグがインフレームで融合されていることから、当該プラスミドはZBTB2とV5タグの融合タンパク質を強制発現する。HCT116 p53 K.O.細胞にpEF6/ZBTB2-myc tagまたは空ベクタープラスミドを導入し、さらにpcDNA6/ZBTB2-V5 tagまたは空ベクタープラスミドを同時に導入した後、低酸素条件下(< 0.1%)で培養して細胞抽出液を調整した。このサンプルを対象に、Immunoprecipitation Kit Dynabeads Protein G (Life technologies社)を用いて共免疫沈降実験を行った。まず抗mycタグ抗体とDynabeads を反応させ、上述の細胞抽出液を沈降させ、プロトコールに従い抽出したのちに、抗V5タグ抗体を用いてブロットしたところ、pEF6/ZBTB2-myc tagとpcDNA6/ZBTB2-V5 tagを同時にトランスフェクトした場合のみに、ZBTB2のバンドが検出された(
図17参照)。これは、タグの異なるZBTB2同士が結合していることを示唆している。
【0103】
ZBTB2タンパク質同士が直接的に相互作用している可能性をさらに検証する目的で、NanoBiT(プロメガ社)を用いて以下のようなアッセイを行った。このシステムにおいては、LgBiTとSmBiTのそれぞれに融合した二種類のタンパク質が相互作用した場合にLgBiTとSmBiTが会合し、ルシフェラーゼとしての酵素活性を回復するようになる。したがって、基質を投与することで生細胞の状態で任意の二種類のタンパク質の相互作用の強度を発光強度として評価できるシステムである。LgBiTおよびSmBiTをコードするcDNAそれぞれにZBTB2 cDNAをインフレームで融合し、pcDNA6プラスミド(Invitrogen社)のEcoR1-EcoRV部位に挿入し、各融合タンパク質をCMVプロモーターの制御下で強制発現するベクター、pcDNA6/ZBTB2-LgBiTとpcDNA6/ZBTB2-SmBiTを作成した。
【0104】
HCT116 p53 K.O.細胞およびHEK293 p53 R175H細胞に対して、pcDNA6/ZBTB2-LgBiTまたは空ベクターを、そして更にpcDNA6/ZBTB2-SmBiTまたは空ベクターを同時に導入し、低酸素(0.1%以下)の条件下で培養後、ルシフェラーゼの基質であるNanoLucを投与した。結果、pcDNA6/ZBTB2-LgBiTとpcDNA6/ZBTB2-SmBiTを両方トランスフェクトした場合には、100倍以上の発光量が確認でき、ZBTB2同士が直接的に相互作用する活性を持つことが示唆された(
図18参照)。
【0105】
ZBTB2がHIF-1を活性化するメカニズムの解明
ZBTB2の二量体形成に必須のアミノ酸を同定する目的で、ZBTB2の8-11番目のアミノ酸をアラニンに置換した変異体をコードするcDNAをPCRで作成し、pEF6/myc-His BプラスミドもしくはpcDNA6/V5 B(Invitrogen社)のEcoR1-EcoRV部位に挿入し、ZBTB2のアラニン置換変異体の強制発現プラスミド(pEF6/ZBTB2_4A-myc tag およびpcDNA6/ZBTB2_4A-V5 tag)を構築した。当該強制発現プラスミド内では、ZBTB2遺伝子の翻訳終結コドンが欠失されていること、またZBTB2構造遺伝子とその下流のmycタグもしくはV5タグがインフレームで融合されていることから、当該プラスミドはZBTB2とmycタグもしくはV5タグとの融合タンパク質を強制発現する。HCT116 p53 K.O.細胞にpEF6/ZBTB2-myc tagとpcDNA6/ZBTB2-V5 tagの組み合わせ(いずれも野生型ZBTB2)、またはpEF6/ZBTB2_4A-myc tag とpcDNA6/ZBTB2_4A-V5 tagの組み合わせ、または陰性対照としてpEF6/ZBTB2-myc tagと空ベクタープラスミドを導入し、低酸素条件下(< 0.1%)で培養して細胞抽出液を調整した。このサンプルを対象に共免疫沈降実験を行った。まず抗mycタグ抗体を用いて上述の細胞抽出液内でZBTB2-myc融合蛋白質を沈降させ、プロトコールに従い抽出した後に、抗V5タグ抗体を用いてウェスタンブロット実験を実施したところ、野生型のZBTB2の組み合わせを同時にトランスフェクトした場合に、ZBTB2-V5のバンドが検出されたが、4Aの組み合わせをトランスフェクトした場合には抗V5タグ抗体で検出されるZBTB2_4A-V5の量は著しく低下した(
図19参照)。これは、4A変異を導入することでZBTB2同士のタンパク質間相互作用が著しく低下することを示唆している。
【0106】
同様にNanoBiTを用いて以下のようなアッセイを行った。LgBiTおよびSmBiTをコードするcDNAそれぞれにZBTB2_4A cDNAをインフレームで融合し、pcDNA6プラスミド(Invitrogen社)のEcoR1-EcoRV部位に挿入し、各融合タンパク質をCMVプロモーターの制御下で強制発現するベクター、pcDNA6/ZBTB2_4A-LgBiTとpcDNA6/ZBTB2_4A-SmBiTを作成した。HCT116 p53 K.O.細胞に対して、pcDNA6/ZBTB2-LgBiTとpcDNA6/ZBTB2-SmBiT (いずれも野生型)、もしくはpcDNA6/ZBTB2_4A-LgBiTとpcDNA6/ZBTB2_4A-SmBiTを同時に導入し、低酸素(0.1%以下)の条件下で培養後、ルシフェラーゼの基質であるNanoLucを投与した。結果、pcDNA6/ZBTB2-LgBiTとpcDNA6/ZBTB2-SmBiTを両方トランスフェクトした場合には、100倍以上の発光量が確認できたが、pcDNA6/ZBTB2_4A-LgBiTとpcDNA6/ZBTB2_4A-SmBiT を両方トランスフェクションした際にはその発光量は著しく低下した(
図20参照)。
【0107】
次に
図6と
図7の実験で活用したHIF-1αのトランス活性化能を評価できるレポーターアッセイの系を用いて、アラニン置換を施した4A変異体のZBTB2がHIF-1活性化能を失うのかを解析した。当該レポーター遺伝子と上述のZBTB2_4A変異体の強制発現プラスミドをHCT116 p53 K.O.細胞にトランスフェクトした。低酸素条件下(< 0.1%)で培養した後に細胞抽出液を得、ルシフェラーゼ活性を定量した。陰性対照実験として、空ベクターを用いて同様の実験を行った。その結果、pEF6/ZBTB2-myc tagをトランスフェクトした場合にはHIF-1αのトランス活性化能が増強されたが、pEF6/ZBTB2_4A-myc tagをトランスフェクトした場合にはHIF-1αのトランス活性化能は空ベクターと同等であった(
図21参照)。
【0108】
以上の結果から、ZBTB2の第8-11アミノ酸をアラニン残基に置換すると、ZBTB2タンパク質の二量体形成能が著しく低下し、HIF-1α活性化能を失うことが確認された。これはZBTB2がホモ二量体を形成してHIF-1を活性化していることを示唆している。
【0109】
ZBTB2のホモ二量体形成が腫瘍増殖の亢進で果たす役割
野生型ZBTB2と、同4A変異体が腫瘍増殖に及ぼす影響を比較する目的で、HCT116 p53 K.O.細胞のゲノムDNA中にレンチウイルスを用いてZBTB2-myc tagもしくはZBTB2_4A-myc tag強制発現カセットを安定導入した。このZBTB2強制発現細胞(HCT116 p53 K.O./ZBTB2-myc tag、もしくはHCT116 p53 K.O./ZBTB2_4A-myc tag)を、免疫不全マウス(BALB/c-nu)の右下肢皮下に移植し、その後の腫瘍増殖速度を計測した。陰性対照として、ZBTB2発現カセットを持たないレンチウイルス(空ベクター)を導入したHCT116 p53 K.O./EVを用い、同様の実験を行った。その結果、HCT116 p53 K.O.はZBTB2-myc tagを強制発現することで、腫瘍増殖速度が亢進することが確認されたがHCT116 p53 K.O./ZBTB2_4A-myc tagでは空ベクターを導入した場合と比較して腫瘍増殖速度は亢進しなかった(
図22参照)。以上から、ZBTB2はin vivo での腫瘍の増大速度に正の影響を与えるが、二量体形成能を持たない4A変異体はその機能を持たないことから、ZBTB2の二量体形成能を阻害することにより治療効果が得られることが示唆された
【0110】
ZBTB2ホモ二量体形成を阻害するポリペプチドの創製
ZBTB2のC末端側を欠失した変異体は、HIF-1αのトランス活性化能をもたないが、野生型ZBTB2と共存した場合にそのN末端に位置する二量体形成領域を覆い、野生型ZBTB2タンパク質のホモ二量体形成を阻害すると期待された。この可能性を以下の実験で検証した。ZBTB2をC末端側から欠失させた変異体三種類(ZBTB2 1-23 a.a.、ZBTB2 1-91 a.a.およびZBTB2 1-113 a.a.に相当するポリペプチド)をコードするcDNAをPCRで増幅し、pEF6/myc-His Bプラスミド(Invitrogen社)のEcoR1-EcoRV部位に挿入し、ZBTB2欠失変異体の強制発現プラスミド(pEF6/ZBTB2_[1-23 a.a.]、pEF6/ZBTB2_[1-91 a.a.]、pEF6/ZBTB2_[1-113 a.a.])を構築した。
図6と
図7の実験で活用したHIF-1αのトランス活性化能を評価できるレポーターアッセイの系を用いて、これらの欠失変異体が、野生型ZBTB2のHIF-1活性化能を抑制するのかを解析した。まず、当該レポーター遺伝子と野生型のZBTB2に加えて上述の各ZBTB2 C末端欠失変異体の強制発現プラスミドをHCT116 p53 K.O.細胞にトランスフェクトした。そして、低酸素条件下(< 0.1%)で培養した後に細胞抽出液を得、ルシフェラーゼ活性を定量した。陰性対照実験として、野生型ZBTB2に加えて空ベクターを用いて同様の実験を行った。その結果、野生型ZBTB2発現ベクターと空ベクターを共にトランスフェクトした場合と比較して、pEF6/ZBTB2_[1-23 a.a.]、pEF6/ZBTB2_[1-91 a.a.]、あるいはpEF6/ZBTB2_[1-113 a.a.]と野生型発現ベクターを共にトランスフェクトした場合に、HIF-1αのトランス活性化能が有意に抑制されることが確認できた(
図23参照)。
【0111】
ZBTB2のN末端部の23アミノ酸と同一配列の合成ポリペプチドを用意し、そのZBTB2阻害活性を検証した。内因性ZBTB2の発現レベルが高いU2OS細胞に、
図6と
図7の実験で活用したHIF-1αのトランス活性化能を評価できるレポーターアッセイ用のベクターをトランスフェクトし、当該ポリペプチドもしくは陰性対照としてDMSOを投与した。低酸素条件下(< 0.1%)で培養した後に細胞抽出液を得、ルシフェラーゼ活性を定量した。その結果、DMSOを投与した場合と比較して、ZBTB2 1-23 a.a.のポリペプチドを投与した場合にHIF-1αのトランス活性化能が有意に抑制されることが確認できた(
図24参照)。