(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130767
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】適応整相処理装置、適応整相システム、適応整相処理方法および適応整相処理方法のプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 3/803 20060101AFI20220831BHJP
【FI】
G01S3/803
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029335
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 一磨
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 昭一
【テーマコード(参考)】
5J083
【Fターム(参考)】
5J083AA05
5J083AC28
5J083AC30
5J083AD18
5J083BC09
5J083BE15
5J083BE58
5J083CA07
5J083CA13
(57)【要約】
【課題】EBAE方式の適応整相処理をCHスライド型整相などに適用することができる適応整相処理装置などを得る。
【解決手段】複数の受波器201による信号間の共分散行列を算出する共分散行列推定部21と、固有値分解を行う固有値分解部22と、固有ベクトルとステアリングベクトルとを対応付ける対応付け処理を行う対応付け部23と、対応付けに基づいて適応重みを算出する適応重み処理を行う重み計算部24と、適応重みを正規化する正規化処理を行う正規化部25と、正規化された適応重みにより、周波数分割された信号の整相処理を行う整相部30とを備え、共分散行列推定部21、固有値分解部22、対応付け部23および重み計算部24は、すべての信号について処理し、正規化部25は、整相部30が整相処理に用いる信号を選択して処理する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の受波器により受波され、周波数分割された信号間の共分散行列を算出する共分散行列推定部と、
前記共分散行列に対して固有値分解を行って固有値および固有ベクトルを算出する固有値分解部と、
前記固有値および前記固有ベクトルに基づいて、前記固有ベクトルとステアリングベクトルとを対応付ける対応付け処理を行う対応付け部と、
前記固有ベクトルと前記ステアリングベクトルとの対応付けに基づいて適応重みを算出する適応重み処理を行う重み計算部と、
前記適応重みを正規化する正規化処理を行う正規化部と、
正規化された前記適応重みに基づいて、前記周波数分割された信号の整相処理を行う整相部とを備え、
前記共分散行列推定部、前記固有値分解部、前記対応付け部および前記重み計算部は、すべての前記信号について処理を行い、前記正規化部は、前記整相部が前記整相処理に用いる前記信号に係る前記適応重みを選択して前記正規化処理を行う適応整相処理装置。
【請求項2】
前記対応付け部が前記対応付け処理による対応付けを行う際に演算する重み付けの値である対応付け重みを作成する対応付け重み作成部と、
前記重み計算部が前記適応重み処理を行う際に演算する、各ステアリングベクトルに対する重み付けの値であるステアリング重みを作成するステアリング重み作成部と、
前記正規化部が前記正規化処理を行う際に乗算する、整相処理を行う信号に対して重み付けを行う値である正規化重みを作成する正規化重み作成部と
を備える請求項1に記載の適応整相処理装置。
【請求項3】
前記対応付け重み作成部は、
前記整相処理に用いる前記信号に係る値が大きくなるように重み付けする前記対応付け重みを作成する請求項2に記載の適応整相処理装置。
【請求項4】
前記対応付け重み作成部は、
整相方位に応じて、各信号における指向性係数を決定し、前記指向性係数を正規化して前記対応付け重みとする請求項2または請求項3に記載の適応整相処理装置。
【請求項5】
前記ステアリング重み作成部は、
前記整相処理に用いる前記信号に係る値が大きくなるように重み付けする前記ステアリング重みを作成する請求項2~請求項4のいずれか一項に記載の適応整相処理装置。
【請求項6】
前記ステアリング重み作成部は、
整相方位に応じて、各信号における指向性係数を決定し、前記ステアリング重みとする請求項2~請求項5のいずれか一項に記載の適応整相処理装置。
【請求項7】
前記正規化部は、
前記整相処理に用いる前記信号が大きくなるように重み付けする前記正規化重みを作成する請求項2~請求項6のいずれか一項に記載の適応整相処理装置。
【請求項8】
前記正規化部は、
整相方位に応じて、各信号における指向性係数を決定し、前記正規化重みとする請求項2~請求項7のいずれか一項に記載の適応整相処理装置。
【請求項9】
複数の受波器が受波した信号を周波数分割する処理を行う周波数分割部と、
請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の適応整相処理装置と
を備える適応整相システム。
【請求項10】
複数の受波器により受波され、周波数分割された信号間の共分散行列を算出する共分散行列推定工程と、
前記共分散行列に対して固有値分解を行って固有値および固有ベクトルを算出する固有値分解工程と、
前記固有値および前記固有ベクトルに基づいて、前記固有ベクトルとステアリングベクトルとを対応付ける対応付け処理を行う対応付け工程と、
前記固有ベクトルと前記ステアリングベクトルとの対応付けに基づいて適応重みを算出する適応重み処理を行う重み計算工程と、
前記適応重みを正規化する正規化処理を行う正規化工程と、
正規化された前記適応重みに基づいて、前記周波数分割された信号の整相処理を行う整相工程とを有し、
前記共分散行列推定工程、前記固有値分解工程、前記対応付け工程および前記重み計算工程は、すべての前記信号について処理を行い、前記正規化工程は、前記整相工程が前記整相処理に用いる前記信号に係る前記適応重みを選択して前記正規化処理を行う適応整相処理方法。
【請求項11】
複数の受波器により受波され、周波数分割された信号間の共分散行列を算出する共分散行列推定工程と、
前記共分散行列に対して固有値分解を行って固有値および固有ベクトルを算出する固有値分解工程と、
前記固有値および前記固有ベクトルに基づいて、前記固有ベクトルとステアリングベクトルとを対応付ける対応付け処理を行う対応付け工程と、
前記固有ベクトルと前記ステアリングベクトルとの対応付けに基づいて適応重みを算出する適応重み処理を行う重み計算工程と、
前記適応重みを正規化する正規化処理を行う正規化工程と、
正規化された前記適応重みに基づいて、前記周波数分割された信号の整相処理を行う整相工程とを有し、
前記共分散行列推定工程、前記固有値分解工程、前記対応付け工程および前記重み計算工程は、すべての前記信号について処理を行い、前記正規化工程は、前記整相工程が前記整相処理に用いる前記信号に係る前記適応重みを選択して前記正規化処理を行うことをコンピュータに行わせる適応整相処理方法のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この技術は、複数の受波器が受波した信号に基づいて整相処理を行う適応整相処理装置、適応整相システム、適応整相処理方法およびこの方法をコンピュータに行わせるプログラムに関するものである。特に処理量の低下をはかるものである。
【背景技術】
【0002】
音波などの振動波を信号として信号処理を行う際、信号を受けるセンサとなる複数の受波器(アンテナ:以下、受波器または受波器からの信号をCHと表記する場合がある)が受けた信号の位相を整える整相を行って信号処理が行われる。整相処理は、主に、複数の整相方位(待ち受け方位)について、固定した受波器によって受波した信号を用いる「セクタ型整相」と、整相方位に応じて、受波器を変えながらスライドさせて処理を行う「CHスライド型整相」とに分けることができる。
【0003】
CHスライド型整相は、各整相方位に対して正面方向となる受波器の信号を使用して整相処理を行う。CHスライド型整相の場合は、方位毎に使用する受波器の信号が変化する。CHスライド型整相による整相処理を行うことで、探知能力の劣化を抑制することができる。
【0004】
また、整相処理において、近年、適応整相による処理が広く用いられている。適応整相処理は、受波器が検出した信号と雑音とに関する情報により、適応的に整相処理を行う方法である。適応整相処理を行うことで、所望の方位から到来する信号の感度を保ったまま、所望の方位とは異なる方位から到来する信号を抑制することができる。
【0005】
適応整相処理として、たとえば、Dominant Mode Rejection(DMR)、Minimum Variance Distortionless Response(MVDR)、Eigenvector/Beam Association and Excision (EBAE)などの処理方法がある。これらの適応整相処理は、いずれも従来の整相処理よりも妨害音の抑制能力に優れた整相方式である。
【0006】
EBAE方式は、センサ出力間の共分散行列の固有値分解を用いて信号部分空間の固有ベクトルをステアリングベクトルに対応付け、対応付けられたステアリングベクトルの方位に対して感度を拘束するものである(たとえば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Stephen M. Kogon, “Experimental results for passive sonar arrays with eigenvector-based adaptive beamformers”, Signal, Systems and Computers, 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、EBAE方式の適応整相処理を、CHスライド型整相のように用いる信号などを変えながら行う処理に適用させた場合、計算負荷の高い共分散行列の固有値分解を、整相方位毎に行うことになる。したがって、演算などの処理量が増加するといった問題が生じる。このため、CHスライド型整相による処理の方が探知能力は高いものの、一般的には、EBAE方式の適応整相処理を行う場合は、セクタ型整相による処理が採用される。
【0009】
そこで、上述した問題を生じさせずに、EBAE方式の適応整相処理をCHスライド型整相に適用することができる適応整相処理装置、適応整相システム、適応整相処理方法および適応整相処理方法のプログラムの実現が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このため、この開示に係る適応整相処理装置は、複数の受波器により受波され、周波数分割された信号間の共分散行列を算出する共分散行列推定部と、共分散行列に対して固有値分解を行って固有値および固有ベクトルを算出する固有値分解部と、固有値および固有ベクトルに基づいて、固有ベクトルとステアリングベクトルとを対応付ける対応付け処理を行う対応付け部と、固有ベクトルとステアリングベクトルとの対応付けに基づいて適応重みを算出する適応重み処理を行う重み計算部と、適応重みを正規化する正規化処理を行う正規化部と、正規化された適応重みに基づいて、周波数分割された信号の整相処理を行う整相部とを備え、共分散行列推定部、固有値分解部、対応付け部および重み計算部は、すべての信号について処理を行い、正規化部は、整相部が整相処理に用いる信号に係る適応重みを選択して正規化処理を行うものである。
【0011】
また、この開示に係る適応整相システムは、複数の受波器が受波した信号を周波数分割する処理を行う周波数分割部と、上記の適応整相処理装置とを備えるものである。
【0012】
また、この開示に係る適応整相処理方法は、複数の受波器により受波され、周波数分割された信号間の共分散行列を算出する共分散行列推定工程と、共分散行列に対して固有値分解を行って固有値および固有ベクトルを算出する固有値分解工程と、固有値および固有ベクトルに基づいて、固有ベクトルとステアリングベクトルとを対応付ける対応付け処理を行う対応付け工程と、固有ベクトルとステアリングベクトルとの対応付けに基づいて適応重みを算出する適応重み処理を行う重み計算工程と、適応重みを正規化する正規化処理を行う正規化工程と、正規化された適応重みに基づいて、周波数分割された信号の整相処理を行う整相工程とを有し、共分散行列推定工程、固有値分解工程、対応付け工程および重み計算工程は、すべての信号について処理を行い、正規化工程は、整相工程が整相処理に用いる信号に係る適応重みを選択して正規化処理を行うものである。
【0013】
また、この開示に係る適応整相処理方法のプログラムは、複数の受波器により受波され、周波数分割された信号間の共分散行列を算出する共分散行列推定工程と、共分散行列に対して固有値分解を行って固有値および固有ベクトルを算出する固有値分解工程と、固有値および固有ベクトルに基づいて、固有ベクトルとステアリングベクトルとを対応付ける対応付け処理を行う対応付け工程と、固有ベクトルとステアリングベクトルとの対応付けに基づいて適応重みを算出する適応重み処理を行う重み計算工程と、適応重みを正規化する正規化処理を行う正規化工程と、正規化された適応重みに基づいて、周波数分割された信号の整相処理を行う整相工程とを有し、共分散行列推定工程、固有値分解工程、対応付け工程および重み計算工程は、すべての信号について処理を行い、正規化工程は、整相工程が整相処理に用いる信号に係る適応重みを選択して正規化処理を行うことをコンピュータに行わせるものである。
【発明の効果】
【0014】
この開示によれば、共分散行列推定部、固有値分解部、対応付け部および重み計算部は、すべての信号について処理を行い、正規化部は、整相部が整相処理に用いる信号を選択して処理を行う。このため、整相処理に用いる信号を変えることによる処理量の増加を抑えつつ、正規化部が整相方位に選択した信号により処理を行うことで、能力を高めることができる。したがって、EBAE方式の適応整相処理を適用した整相処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態1に係る適応整相処理装置40を含む適応整相システム100の構成を示す図である。
【
図2】実施の形態1に係る受波器アレイ200の種別例を示す図である。
【
図3】実施の形態1に係る適応整相システム100のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図4】実施の形態1に係る対応付け重み作成部26の処理について説明する図である。
【
図5】実施の形態1に係る正規化重み作成部28の処理について説明する図である。
【
図6】実施の形態1に係る適応整相システム100が行う適応整相処理方法の手順の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適応整相処理装置などに係る実施の形態について、図面を参照しつつ、説明する。ここで、以下の説明に係る図面における図は、概略的に示されるものであり、説明の便宜のため、適宜、構成の省略または構成の簡略化がなされる場合がある。また、図において、同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものであり、以下に記載する実施の形態の全文において共通することとする。また、明細書全文に示されている構成要素の形態は、あくまで例示であってこれらの記載に限定されるものではない。特に構成要素の組み合わせは、その実施の形態における組み合わせのみに限定するものではなく、他の実施の形態に記載した構成要素を別の実施の形態に適宜、適用することができる。また、添字で区別などしている複数の同種の機器などについて、特に区別したり、特定したりする必要がない場合には、添字などを省略して記載する場合がある。
【0017】
実施の形態1.
<実施の形態1における適応整相システムの概要>
図1は、実施の形態1に係る適応整相処理装置40を含む適応整相システム100の構成を示す図である。実施の形態1における適応整相システム100は、受波器アレイ200を構成する複数の受波器201-1~受波器201-M(Mは2以上の整数)からの信号に基づいて処理を行う。
【0018】
図2は、実施の形態1に係る受波器アレイ200の種別例を示す図である。ここでは、適応整相システム100に信号を送る受波器アレイ200について説明する。
図2(a)は、円筒状のシリンダアレイ(CA:Cylindrical Array)を示す。また、
図2(b)は、曲面形状を有するコンフォーマルアレイ(CfA:ConFormal Array)を示す。実施の形態1では、これらの受波器アレイ200を用いて、目標音の全周捜索を行う信号処理を行う。ここで、実施の形態1における受波器アレイ200は、シリンダアレイまたはコンフォーマルアレイであるものとする。
【0019】
ここで、
図2に示す受波器アレイ200は、アレイを固定する架台が存在する。このような受波器アレイ200では、また、整相方位の逆側の方位から到来する雑音を抑制することを目的として、後方バッフルの設置およびカージオイド指向性の受波器201を用いていることが多い。このため、受波器アレイ200において、目標音の到来方位とは逆方位に設置されている受波器201では、目標音が受波されないようにしている。仮に、すべての受波器201が目標音を受波するとして整相処理を行うと、振幅の劣化や各受波器201の間における位相関係が崩れるといった問題がある。このため、受波器アレイ200が有するすべての受波器201が受波した信号を用いて、セクタ型整相の処理を行うと、整相処理の利得が想定よりも悪くなってしまい、探知能力の劣化につながる可能性がある。これに対し、CHスライド型整相による処理により、各整相方位に対して正面方向の受波器201の信号を用いた整相処理を行うことで、探知能力の劣化を抑制することができる。
【0020】
適応整相システム100は、受波器アレイ200が有する各受波器201が出力する信号を、周波数分割処理および整相処理するシステムである。適応整相システム100は、入力端子k、周波数分割装置10、適応整相処理装置40および出力端子Routを有する。入力端子kには、受波器アレイ200の各受波器201から送られた信号が入力される。したがって、入力端子kは、入力端子k-1~入力端子k-MのM個の端子を有する。また、出力端子Routは、適応整相処理装置40が整相処理した信号が出力される。
【0021】
また、周波数分割装置10は、周波数分割部11を有する。周波数分割部11は、入力端子k-1~入力端子k-Mから入力されたM個の信号に対して、周波数分割処理を行う。実施の形態1における適応整相処理装置40は、EBAE方式を用いた適応整相処理方法を行う。ここで、適応整相処理装置40は、EBAE処理部20および整相部30を有する。そして、EBAE処理部20は、共分散行列推定部21、固有値分解部22、対応付け部23、重み計算部24、正規化部25、対応付け重み作成部26、ステアリング重み作成部27、正規化重み作成部28を有する。
【0022】
図3は、実施の形態1に係る適応整相システム100のハードウェア構成の一例を示す図である。適応整相システム100は、たとえば、コンピュータを含む情報処理装置である。適応整相システム100は、記憶部60および制御部50を有する。記憶部60は、制御部50が実行する演算処理の結果を記憶する。記憶部60は、たとえば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)などの記録装置である。制御部50は、プログラムにしたがって処理を実行するCPU(Central Processing Unit)などの制御処理装置51を有する。また、制御部50は、プログラムを記憶するリードオンリメモリ、ランダムアクセスメモリなどのメモリ52を有する。制御部50は、周波数分割装置10および適応整相処理装置40が行う処理を実現する。
【0023】
ここで、周波数分割装置10および適応整相処理装置40が行う処理機能のうち、一部または全部が専用回路で構成されてもよい。専用回路は、単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などである。また、専用回路は、これらの回路を組み合わせてもよい。専用回路が信号処理の一部または全部を行うことで、信号処理の高速化をはかることができる。また、適応整相システム100の各装置および各部における機能を、複数の情報処理装置が分担して処理するようにしてもよい。
【0024】
周波数分割部11は、前述したように、M個の信号に対して、信号の成分を周波数毎に分割する周波数分割処理を行う。周波数分割部11は、周波数分割処理を、M個の信号に対してそれぞれ行う。周波数分割部11は、周波数分割処理した信号に係るデータを、適応整相処理装置40の整相部30および共分散行列推定部21に出力する。
【0025】
適応整相処理装置40のEBAE処理部20において、共分散行列推定部21は、周波数分割部11からのデータに基づいて、複数の信号間の共分散行列Rを計算する処理を行う。共分散行列Rは、式(1)で表すことができる。式(1)において、Tは、共分散行列Rの積分時間である。また、xiは、各信号における値であり、xi=[x1,x2,…,xM]Tである。共分散行列推定部21は、信号間の共分散行列Rをデータとして、固有値分解部22に出力する。
【0026】
【0027】
固有値分解部22は、共分散行列推定部21からの共分散行列Rに基づいて、固有値分解する固有値分解処理を行う。ここで、固有値分解部22が算出する固有値行列Λ、固有ベクトルeの行列Eおよび固有ベクトルeは、式(2)~式(4)で定義することができる。
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
以下の説明では、便宜上、式(2)を、式(5)のように変形させる。具体的には、固有値行列Λを変形させて、式(5)のように固有値ベクトルλを定義する。
【0032】
【0033】
式(5)において、diagは、行列に対する対角要素の取得を意味する。固有値分解部22は、固有値の並び替えに伴い、固有値に対応する固有ベクトルeの並び替えも行う。固有値分解部22が固有値および固有ベクトルeを計算することにより、M個の信号が信号成分と雑音成分とに分解される。固有値分解部22は、算出した固有値および固有ベクトルeをデータとして、対応付け部23に出力する。
【0034】
図4は、実施の形態1に係る対応付け重み作成部26の処理について説明する図である。
図4はカージオイド指向性を有する受波器201を用いた場合における対応付け重みのイメージを示す図である。
図4(a)は、受波器アレイ200がシリンダアレイである場合を示す。また、
図4(b)は、受波器アレイ200がコンフォーマルアレイである場合を示す。対応付け重み作成部26は、後述する実施の形態1における対応付け部23が対応付け処理を行う際に、各対応付けに重み付けする値を、対応付け重みとして計算し、作成する処理を行う。実施の形態1における対応付け重み作成部26は、整相方位に応じた各受波器201に関する指向性係数a
bの値を計算し、指向性係数a
bを要素とする指向性係数行列Aを作成する処理を行う。ここで、指向性係数行列Aは、式(6)および式(7)で表すことができる。式(6)において、Bは、待ち受けビーム数である。対応付け重み作成部26は、さらに、行列全体としての大きさが1になるように正規化した指向性係数a
bを対応付け重みとする指向性係数行列Aを作成し、対応付け部23に出力する。
【0035】
【0036】
【0037】
対応付け部23は、固有ベクトルeとステアリングベクトルνとを対応付ける対応付け処理を行う。ステアリングベクトルνとは、想定される信号到来方位に応じた位相差を持ったベクトルを意味する。ここで、実施の形態1では、対応付け部23の対応付け処理を行う際、対応付けに先立ち、対応付け重み作成部26が作成した正規化した指向性係数abを対応付け重みとして乗じる処理が行われる。対応付け部23による指向性係数abでの重み付けは、後述する正規化部25が行う処理におけるデータの選択に間接的に反映される。対応付け部23は、対応付け処理において、式(8)~式(10)に基づいて、信号部分空間として判定された信号数N*に対し、固有ベクトルeとステアリングベクトルνとの内積ESを計算する。ここで、ステアリングベクトル行列Vは、式(8)で定義される。また、ステアリングベクトルνは、式(9)で定義される。式(8)において、Bは、待ち受けビーム数である。また、式(9)において、b=1,2,…,Bである。
【0038】
【0039】
【0040】
式(8)および式(9)から、信号部分空間として判定された信号数N*に対し、固有ベクトルeとステアリングベクトルνとの内積ESは、次の式(10)で表される。
【0041】
【0042】
対応付け部23は、式(10)により算出した、信号部分空間の信号数N*に対する固有ベクトルeとステアリングベクトルνとの内積ESのピーク方位を、固有ベクトルeとステアリングベクトルνの対応付け方位のデータとして、重み計算部24に出力する。
【0043】
ステアリング重み作成部27は、後述する重み計算部24が適応重みに用いるステアリングベクトルνの重み付けを行うために、ステアリングベクトルνに乗じるステアリング重みを作成する。実施の形態1におけるステアリング重み作成部27は、対応付け重み作成部26と同様に、指向性係数abの値を計算し、指向性係数abを要素とする指向性係数行列Aを作成する処理を行う。そして、ステアリング重み作成部27は、指向性係数行列Aのデータを、重み計算部24に出力する。
【0044】
重み計算部24は、対応付け部23からの対応付け方位に基づいて、適応重みを要素とする適応重み行列Wを算出する適応重み処理を行う。ここで、実施の形態1では、重み計算部24の適応重み処理を行う際、ステアリング重み作成部27が作成した指向性係数abを対応付け重みとして乗じる処理が行われる。重み計算部24による指向性係数abでの重み付けは、後述する正規化部25が行う処理におけるデータの選択に間接的に反映される。適応重み行列Wは、次の式(11)および式(12)で表される。
【0045】
【0046】
【0047】
適応重み行列Wにおける列ベクトルとなる適応重みベクトルwは、次の式(13)で表される。ν’bは、指向性係数abが乗算されたステアリングベクトルν’b=νbabである。重み計算部24は、対応付け部23のように、正規化した指向性係数abを乗算せず、指向性の感度を示す指向性係数abそのものをステアリングベクトルνに乗算し、適応重みに係る計算を行う。ここで、βは、固有値から求められる係数であり、式(14)および式(15)で表される。式(14)におけるDLは、Diagonal Loading項である。また、式(15)におけるδは除外係数である。除外係数δは、対応付け部23が行う信号処理において対応付けられた方位ではδ=0であり、それ以外の方位ではδ=1になるように働く係数である。重み計算部24は、算出した適応重み行列Wをデータとして正規化部25に出力する。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
正規化重み作成部28は、後述する正規化部25が正規化処理を行う際、整相方位によって、使用する受波器201の信号に係るデータが演算に用いられるようにする正規化重みベクトルcbを計算し、作成する処理を行う。ここで、正規化重みベクトルcbは、cb=[c1,c2,…cM]Tである。
【0052】
図5は、実施の形態1に係る正規化重み作成部28の処理について説明する図である。正規化重みベクトルc
bの各要素は、0以上1以下の値をとる。正規化重みは整相方位に対してカージオイド指向性による感度劣化、バッフルなどによる影響がない範囲の信号が選択されるようにする。たとえば、受波器アレイ200における架台の影響がない範囲の信号を選択する場合、整相方位に対し、±90度または±60度などの範囲の信号が用いられるようにする。
図5(a)は、整相方位に対して±90度としたときに用いられる受波器201の範囲を示す。正規化重みは、
図5(b)に示すように、使用する受波器201の信号に対する重み付けを1とし、使用しない受波器201の信号に対する重み付けを0とする。そして、その間の受波器201の信号に対しては、三角関数のcosなど、0と1との間に連続的なつながりを持つ関数に基づく重み付けを行って、重み値を滑らかにつなげる。
【0053】
正規化部25は、正規化重み作成部28からの正規化重みベクトルcbに基づいて、重み計算部24からの適応重み行列Wの各要素に重み付けをする。重み付けにより、適応重み行列Wにおいて、整相処理に使用する受波器201の信号に関する要素の値と使用しない受波器201の信号に関する要素の値との差が大きくなる。これにより、整相処理に使用する受波器201の信号に係るデータが直接的に選択および処理に反映されやすくなる。そして、正規化部25は、重み付けした適応重み行列Wのデータに基づいて、正規化処理を行う。正規化部25は、式(16)を用いて正規化処理を行う。正規化部25は、適応重み行列Wを正規化処理した各成分のデータを、整相部30に出力する。
【0054】
【0055】
整相部30は、周波数分割装置10における周波数分割部11からの出力および正規化部25からの出力に係るデータに基づいて、整相処理を行う。適応重み行列Wを正規化したデータを用いて整相処理を行うことで、本来の方位と異なる方位から到来する信号成分を抑圧することができる。周波数分割された1binのセンサ出力信号をxとした場合、整相部30から出力される整相出力yは、次の式(17)で表される。その結果、出力端子Routからの待ち受けビーム出力において、本来の方位から到来する信号に対して鋭いピークが形成される。
【0056】
【0057】
図6は、実施の形態1に係る適応整相システム100が行う適応整相処理方法の手順の一例を説明する図である。
図6を参照して、上述した実施の形態1における適応整相処理方法の概要について説明する。周波数分割装置10の周波数分割部11は、受波器アレイ200が有する複数の受波器201からの信号が入力されると、周波数分割工程を行う(ステップS101)。
【0058】
適応整相処理装置40の共分散行列推定部21は、周波数分割された出力信号間の共分散行列Rを算出する共分散行列推定工程を行う(ステップS102)。固有値分解部22は、算出された共分散行列Rに対して固有値分解を行って、固有値および固有ベクトルeを算出する固有値分解工程を行う(ステップS103)。
【0059】
対応付け重み作成部26は、対応付け重みを作成する対応付け重み作成工程を行う(ステップS104)。そして、対応付け部23は、固有ベクトルeとステアリングベクトルνとを対応付ける対応付け工程を行う(ステップS105)。ここで、対応付け部23は、対応付けを行う際、対応付け重みによる重み付けを行う。
【0060】
ステアリング重み作成部27は、ステアリング重みを作成するステアリング重み作成工程を行う(ステップS106)。そして、重み計算部24は、固有値とステアリングベクトルνとの対応付けに係る対応付け方位に基づいて適応重み行列Wを算出する重み計算工程を行う(ステップS107)。ここで、重み計算部24は、適応重み行列Wを算出する際、ステアリング重みをステアリングベクトルνに乗算して重み付けを行う。
【0061】
正規化重み作成部28は、正規化重みを作成する正規化重み作成工程を行う(ステップS108)。そして、正規化部25は、適応重み行列Wを正規化する正規化工程を行う(ステップS109)。ここで、正規化を行う際、正規化重みを適応重み行列Wに乗算して、重み付けを行って正規化する。整相部30は、周波数分割された出力信号に対して正規化された適応重みを用いて整相処理する整相工程を行う(ステップS110)。
【0062】
以上のように、実施の形態1における適応整相システム100によれば、適応整相処理装置40において、共分散行列推定部21、固有値分解部22、対応付け部23および重み計算部24が行う処理は、すべての受波器201からの信号に基づいて処理を行う。そして、正規化部25において、整相方位毎に基づいて正規化処理を行う。したがって、重み計算部24までの処理については、整相方位毎に信号を変化させた処理を行う必要がない。このため、方位毎に変化する信号に基づいて固有値分解などを処理しなくてもよく、CHスライド型整相にEBAE方式の適応整相処理を適用しても処理量の増加を抑えることができる。したがって、リアルタイム処理を行うことができる。
【0063】
たとえば、共分散行列推定部21の処理において、受波器201の数をMとする。また、CHスライド型の整相処理に使用する受波器201の数をM/2とし、ビーム数をBとすると、CHスライド型整相の処理において、共分散行列Rの演算量は、M/2×M/2×B=(M2・B)/4となる。一方、実施の形態1における適応整相システム100では、共分散行列Rの演算量は、M×M(M2)になる。両者の演算量を比較すると、ビーム数Bが4より多い場合には、実施の形態1における適応整相システム100の方が、演算量の優位性がある。一般的に、全周監視する場合のビーム数Bは4よりも多くなる場合がほとんどである。このため、実施の形態1における適応整相システム100を用いることで、多くの場合に、演算量の削減を期待することができる。
【0064】
ただし、受波器201がカージオイド指向性を有するなどの状態で、すべての受波器201の信号で、共分散行列推定処理および固有値分解処理を行うと、固有ベクトルeとステアリングベクトルνとを対応付ける対応付け部23からの出力に劣化が生じる。このため、受波した信号中に含まれる妨害音などの除去能力が劣化してしまう。たとえば、CHスライド型整相を行うと、隣り合うビーム間でCH数および開口面積が若干異なることで、ビーム出力が方位方向に不連続になる。ビーム出力が不連続になると、その後の信号処理において、補間処理の精度および方位精度の劣化につながってしまう。処理量の問題であれば、受波器アレイ200を複数のサブアレイに分割して構成し、それぞれのサブアレイで担当する視野角を決め、セクタ型整相処理を行う方法もある。しかしながら、CHスライド型整相と比較して性能が劣化してしまう。また、サブアレイの間でも方位方向の不連続が発生してしまう。
【0065】
そこで、実施の形態1における適応整相システム100では、対応付け重み作成部26およびステアリング重み作成部27を有する。対応付け重み作成部26は、整相方位に応じた指向性係数abを計算する。対応付け部23において固有ベクトルeと対応付けが行われるステアリングベクトルνは、到来する信号の伝達関数として扱うことができる。そのため、対応付け重み作成部26が作成した対応付け重みである、整相方位に応じた指向性係数abを乗じ、バッフルおよびカージオイド処理の影響を、伝達関数となるステアリングベクトルνに対して設定する。このとき、対応付け重み作成部26は、全体としての大きさが1となるように正規化した指向性係数abを対応付け重みとすることで、対応付け部23が出力するデータの劣化を抑えることができる。
【0066】
一方、重み計算部24は、式(11)における通常のステアリングベクトルνの項(分母分子第一項)と削除項(分母分子第二項)とのバランスをとるために、大きさを1に正規化せず、ステアリング重み作成部27からの指向性係数abをそのまま用いる。このため、重み計算部24は、指向性係数abを取り入れた適応重み計算を行っても、ロバストな計算を行うことができる。
【0067】
そして、正規化部25が処理に用いる受波器201を制限したことによる入出力レベルの無歪性も確保しながら、後方バッフルおよびカージオイド処理による性能劣化を抑制しつつ、正規化部25は、CHスライド型整相を行うことができる。また、正規化重み作成部28が、整相処理に使用する受波器201の信号に係る重み値と使用しない受波器201の信号に係る重み値との間の重み値について、cosなどの三角関数などで過渡幅を持たせる重み値を決定し、滑らかに移行するように連続的につなぐ。このため、整相処理の結果であるビーム出力について、方位方向の連続性を確保することができる。
【0068】
これらのことから、実施の形態1における適応整相システム100の適応整相処理装置40において、EBAE方式によるCHスライド型整相による処理を実現することができる。
【0069】
他の実施の形態.
上述した実施の形態1における適応整相システム100では、対応付け重み作成部26が作成する対応付け重みとして、指向性係数abを用いる説明をしたが、これに限定するものではない。整相処理を行う信号が大きくなるように重み付けすることができるなど、目標音の到来方向とは逆の受波器201の信号による影響を低減し、固有ベクトルeとステアリングベクトルνとの対応付けを正しく行うことができる係数を対応付け重みとすることができる。
【0070】
また、上述した実施の形態1における適応整相システム100では、ステアリング重み作成部27が作成するステアリング重みとして、指向性係数abを用いる説明をしたが、これに限定するものではない。対応付け重みと同様に、整相処理を行う信号が大きくなるように重み付けすることができるなど、目標音の到来方向とは逆の受波器201の信号による影響を低減し、適応重みを正しく行うことができる係数をステアリング重みとすることができる。
【0071】
また、上述した実施の形態1における適応整相システム100では、正規化重み作成部28が作成する正規化重みについて、整相処理に使用する信号に係る重み値と使用しない信号に係る重み値との間の重み値に、三角関数に基づく値で過渡幅を持たせた。ただし、これに限定するものではない。他の係数または関数などの値により過渡幅を持たせることができる。
【0072】
また、上述した実施の形態1における適応整相システム100では、正規化重み作成部28が作成する正規化重みについて、整相処理に使用する信号に係る重み値と使用しない信号に係る重み値との間の重み値に、過渡幅を持たせるようにしたが、これに限定しない。整相処理された結果において、方位方向の不連続性が問題にならない場合には、過渡幅を持たない正規化重みであってもよい。
【0073】
また、上述した実施の形態1における適応整相システム100では、正規化重み作成部28が作成する正規化重みによる重み付けを行って、正規化部25が整相処理に使用する信号に基づく正規化処理を行ったが、これに限定するものではない。たとえば、整相処理された結果において、方位方向の不連続性が問題にならない場合には、正規化重みを用いずに、正規化部25が整相処理に使用する信号を抽出し、選択して、正規化処理を行うようにしてもよい。
【0074】
また、上述した実施の形態1における適応整相システム100では、正規化重み作成部28は、使用する受波器201の信号に対する重み付けを1とし、使用しない受波器201の信号に対する重み付けを0とする正規化重みを作成した。ただし、これに限定するものではない。たとえば、正規化重み作成部28が作成する正規化重みにおいて、対応付け重み作成部26およびステアリング重み作成部27が作成したように、指向性係数abに基づく正規化重みを作成し、正規化部25が重み付けを行ってもよい。
【0075】
また、上述した実施の形態1における適応整相システム100は、CHスライド型整相に係る処理を行う場合に適用したが、これに限定するものではない。たとえば、周波数毎に使用する信号が異なる整相方式にも適用することができる。
【0076】
また、上述した実施の形態1では、受波器アレイ200がシリンダアレイまたはコンフォーマルアレイである場合について説明したが、これに限定するものではない。たとえば、球形状アレイ(SA:Spherical Array)などの受波器アレイ200についても適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
10 周波数分割装置
11 周波数分割部
20 EBAE処理部
21 共分散行列推定部
22 固有値分解部
23 対応付け部
24 重み計算部
25 正規化部
26 対応付け重み作成部
27 ステアリング重み作成部
28 正規化重み作成部
30 整相部
40 適応整相処理装置
50 制御部
51 制御処理装置
52 メモリ
60 記憶部
100 適応整相システム
200 受波器アレイ
201,201-1~201-M 受波器
k-1~k-M 入力端子
Rout 出力端子