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特開2022-130778クロカワ由来物を含む抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物並びに抗酸化機能を有する新規化合物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130778
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】クロカワ由来物を含む抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物並びに抗酸化機能を有する新規化合物
(51)【国際特許分類】
   C09K 15/08 20060101AFI20220831BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20220831BHJP
   A61K 31/343 20060101ALI20220831BHJP
   A61K 36/07 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C09K15/08
A61P39/06
A61K31/343
A61K36/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029353
(22)【出願日】2021-02-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年2月11日、日本家政学会関東支部主催の第23回家政学関連卒業論文・修士論文発表会にて発表、および、令和3年2月2日、日本家政学会関東支部主催の第23回家政学関連卒業論文・修士論文発表会要旨集にて発表。
(71)【出願人】
【識別番号】516083494
【氏名又は名称】株式会社カロテノイド生産技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 緑
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(72)【発明者】
【氏名】新藤 一敏
【テーマコード(参考)】
4C086
4C088
4H025
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA06
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZC80
4C088AA02
4C088AC01
4C088BA32
4C088CA03
4C088NA14
4C088ZC80
4H025AA12
4H025AA20
4H025AC04
(57)【要約】
【課題】ヒトの健康への有用性が期待されている新規な抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物を提供することである。
【解決手段】食用キノコ クロカワに含まれる成分について鋭意研究を行った結果、新規化合物を含む抗酸化成分を見出し、本課題を解決するに至った。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロカワ(学名Boletopsis leucomelas (PERS.))由来物を含む抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物。
【請求項2】
以下の式(3)で表される化合物を含む、請求項1に記載の抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物。
【化1】
【請求項3】
以下の式(7)で表される化合物を含む、請求項1に記載の抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物。
【化2】
【請求項4】
さらに、以下の式(1)で表される化合物、以下の式(2)で表される化合物、以下の式(4)で表される化合物、以下の式(5)で表される化合物、以下の式(6)で表される化合物、以下の式(8)で表される化合物、及び以下の式(9)で表される化合物のいずれか1以上の化合物を含む請求項2に記載の抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【請求項5】
さらに、以下の式(1)で表される化合物、以下の式(2)で表される化合物、以下の式(4)で表される化合物、以下の式(5)で表される化合物、以下の式(6)で表される化合物、以下の式(8)で表される化合物、及び以下の式(9)で表される化合物を含む請求項3に記載の抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物。
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【請求項6】
以下の式(3)で表される化合物又は該化合物を含む抗酸化組成物。
【化17】
【請求項7】
以下の式(7)で表される化合物又は該化合物を含む抗酸化組成物。
【化18】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロカワ由来物を含む抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物並びに抗酸化機能を有する新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
(クロカワ)
クロカワは、図1に記載のような形状を有するキノコである。クロカワの学名はBoletopsisleucomelas(PERS.) FAYODであり、日本では比較的北の地方又はアジアの広い領域でも食用として用いられている。クロカワは、その名の通りメラニン色素由来の黒色色素を大量に持ち、独特の苦味を持つことで知られている。クロカワから抽出した化合物が有する生物活性としては、5-lipoxygenase阻害(抗炎症作用)を有するp-terphenyl化合物(図2)(非特許文献1)、またはKDR kinase 阻害(癌細胞が誘導する血管新生を阻害することによる抗癌作用)を示すp-terphenyl化合物(図3)(非特許文献2、非特許文献3)が報告されている。
なお、上記以外のクロカワ抽出物についての生物活性の報告は確認されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】A. Takahashi, R. Kudo, G. Kusano,S. Nozoe. 5-Lipoxygenase inhibitors isolated from the mushroom Boletopsisleucomelas (PERS.) FAYOD. Chem. Pharm. Bull., 40 (12), 3194-3196 (1992).
【非特許文献2】A. Kaneko, M. Tsukada, M. Fukai, T.Suzuki, K. Nishio, K. Miki, K. Kinoshita, K. Takahashi, K. Koyama. KDR kinaseinhibitor isolated from mushroom Boletopsis leucomelas. J. Nat. Prod., 73,1002-1004 (2010).
【非特許文献3】Liu, J. K., Hu, L., Dong, Z. J.& Hu, Q. DPPH Radical Scavenging Activity of Ten Natural p‐TerphenylDerivatives Obtained from Three Edible Mushrooms Indigenous to China. Chem. Biodivers. 1, 601-605 (2004).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、食品産業上重要で、ヒトの健康への有用性が期待されている新規な抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために、食用キノコ クロカワに含まれる成分について鋭意研究を行った結果、新規化合物を含む抗酸化成分を見出し、本課題を解決するに至った。
【0006】
本発明は以下の通りである。
1.クロカワ(学名Boletopsis leucomelas (PERS.))由来物を含む抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物。
2.以下の式(3)で表される化合物を含む、前項1に記載の抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物。
【化1】
3.以下の式(7)で表される化合物を含む、前項1に記載の抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物。
【化2】
4.さらに、以下の式(1)で表される化合物、以下の式(2)で表される化合物、以下の式(4)で表される化合物、以下の式(5)で表される化合物、以下の式(6)で表される化合物、以下の式(8)で表される化合物、及び以下の式(9)で表される化合物のいずれか1以上の化合物を含む前項2又は3に記載の抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
5.さらに、以下の式(1)で表される化合物、以下の式(2)で表される化合物、以下の式(4)で表される化合物、以下の式(5)で表される化合物、以下の式(6)で表される化合物、以下の式(8)で表される化合物、及び以下の式(9)で表される化合物を含む前項2又は3に記載の抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物。
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
6.以下の式(3)で表される化合物又は該化合物を含む抗酸化組成物。
【化17】
7.以下の式(7)で表される化合物又は該化合物を含む抗酸化組成物。
【化18】
【発明の効果】
【0007】
クロカワ由来物を含む抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物並びに抗酸化機能を有する新規化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】クロカワの画像。
図2】5-lipoxygenase阻害化合物の化学構造。
図3】KDR kinase阻害化合物の化学構造。
図4】クロカワのCH2Cl2-acetone(1 : 1) 溶液による抽出物のsilica gel HPLC分析結果を示す図である。
図5】化合物(1)の1H NMRスペクトル(CDCl3中)。
図6】化合物(1)の13C NMRスペクトル(CDCl3中)。
図7】化合物(2)の1H NMRスペクトル(CD3OD中)。
図8】化合物(2)の13C NMRスペクトル(CD3OD中)。
図9】化合物(3)の1H NMRスペクトル(CD3COOD中)。
図10】化合物(3)の13C NMRスペクトル(CD3COOD中)。
図11】化合物(4)の1H NMRスペクトル(CD3OD中)。
図12】化合物(4)の13C NMRスペクトル(CD3OD中)。
図13】化合物(5)の1H NMRスペクトル(CD3COOD中)。
図14】化合物(5)の13C NMRスペクトル(CD3COOD中)。
図15】化合物(6)の1H NMRスペクトル(CD3OD中)。
図16】化合物(6)の13C NMRスペクトル(CD3OD中)。
図17】クロカワ加熱調理物のCH2Cl2-acetone(1 : 1) 溶液による抽出物のODS HPLC分析結果を示す図である。
図18】化合物(7)の1H NMRスペクトル(CDCl3中)。
図19】化合物(7)の13C NMRスペクトル(CDCl3中)。
図20】化合物(8)の1H NMRスペクトル(CD3OD中)。
図21】化合物(8)の13C NMRスペクトル(CD3OD中)。
図22】化合物(9)の1H NMRスペクトル(CD3COOD中)。
図23】化合物(9)の13C NMRスペクトル(CD3COOD中)。
図24】不飽和脂肪酸の自動酸化の機構。
図25】チオバルビツール酸反応。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本発明の対象)
本発明は、クロカワ由来物を含む抗酸化組成物、抗酸化食品組成物並びに抗酸化機能を有する新規化合物に関する。
【0010】
(クロカワ由来物)
本発明のクロカワ由来物とは、抗酸化機能を有すればどのような形態でも良い。例えば、クロカワ粉砕物(粉末も含む)、クロカワ由来の抽出物、クロカワ加熱調理物(クロカワを茹でた物、クロカワを焼いた物、クロカワを電子レンジでマイクロ波加熱した物を含む)、等を例示することができる。なお、クロカワは、食用可能であるので、安全性を有する。また、クロカワに含まれる新規化合物を含む抗酸化成分も安全性を有する。
【0011】
(クロカワ由来物の製造方法)
本発明に関するクロカワ由来物の製造方法は、クロカワを、例えば、以下の処理することで得ることができる。
<クロカワ粉砕物及びクロカワ由来の抽出物>
クロカワを採取後、必要に応じて凍結乾燥し、さらに凍結乾燥品を粉砕する。粉砕粉末をそのままクロカワ由来物として利用することも可能である。さらに、必要に応じて、粉砕粉末を抽出溶媒で抽出することによってクロカワ由来の抽出物が得られる。
抽出溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類あるいはそれらアルコール類と水を任意の割合で混合した含水アルコール類、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール等のグリコール類あるいはそれらグリコール類と水を任意の割合で混合した含水グリコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、エチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジクロロメタン、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、アセトン等の極性有機溶媒、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の無極性有機溶媒等を用いることができる。また、これらの溶媒を単独で又は2種以上の混合溶媒として用いることもできる。好ましい抽出溶媒としては、ジクロロメタン及びメタノールの混合溶媒、含水メタノール等を例示することができる。
上記方法によって抽出物を得た後、必要に応じて、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、クロロホルム、酢酸エチル、トルエン、ヘキサン、ベンゼン等の有機溶媒で互いに混和しない2種の溶媒を用いた二相分配操作によって、得られた抽出液から活性画分(例えば、酢酸エチル/水の二相分配の水相画分)を分取することができる。
更に必要に応じて、シリカゲルクロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、逆相系クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、のガラス管カラムクロマトグラフィーあるいは高速液体クロマトグラフィーを適当な溶媒で用いる分離精製手段を1種若しくは2種以上組み合わせて精製することもできる。
より具体的には、クロカワ又は以下で説明するクロカワ加熱調理物を数日間凍結乾燥させたものをミキサーで粉末とし、溶媒(例、CH2Cl2-acetone (1:1))を添加して、抗酸化成分を溶媒抽出する。
溶出物を濃縮乾固後、シリカゲルのHPLC分取(展開溶媒:例えば、CH2Cl2:EtOAc=95:5 (V/V))により抗酸化成分の純品を単離する。
【0012】
<クロカワ加熱調理物>
クロカワ加熱調理物は、一般に、キノコを食用する場合の加熱調理方法を採用することができ、以下を例示することができる。
〇クロカワを茹でた物
生のクロカワ(生)を適当な大きさに切断した後、沸騰水中数分間茹でる。
〇クロカワを焼いた・炒めた物
生のクロカワ(生)を適当な大きさに切断した後、数分間炒める。
〇クロカワを電子レンジでマイクロ波加熱したもの。
生のクロカワを適当な大きさに切断した後、約500~約600Wの電子レンジで数分間加熱する。
【0013】
(クロカワ由来物の抗酸化活性)
本発明者は、クロカワ由来の抽出物(有機溶媒による抽出エキス)が、以下で示す実施例により、抗酸化活性を示すかどうかについてラット脳脂質過酸化抑制試験で評価した。
本発明者は、クロカワ由来の抽出物(特に、CH2Cl2抽出エキス、CH2Cl2-MeOH(1:1)抽出エキス、MeOH抽出エキス)が他の食品の抽出物と比較して、極めて強い抗酸化活性を有することを見出した。
例えば、クロカワ由来の抽出物の抗酸化活性は、ほうきたけの抽出物の抗酸化活性、桜しめじの抽出物の抗酸化活性、ブナハリタケの抽出物の抗酸化活性、及びむき茸の抽出物の抗酸化活性と比較して、それぞれ、約33倍、約333倍以上、約333倍以上、及び約333倍以上であることを実施例で確認している。
一般的に、心疾患や脳疾患、動脈硬化、癌などの疾患は、体内でのラジカル種活性酸素による生体組織への障害が積み重なって起こることは広く認識されており、ラジカル種を消去する食品成分はこれら疾患や老化の予防に大変重要であると考えられている。
これまでに緑茶中のカテキンや胡麻中のセサミンなどのラジカル種消去活性を有する抗酸化成分がいくつか報告されているが、日本での流通量の多くない食用キノコ中に含まれる抗酸化成分については、本発明者が知る限り報告が無い。
【0014】
(クロカワ由来物に含まれる抗酸化物質の同定)
本発明者は、クロカワ由来物に含まれる抗酸化物質を各種NMR(1H、13C、DQF COSY、HMBC、HMQC、NOESY)やHRESI-MS((+あるいは-モード)での測定を行った結果、新規化合物を含む以下の化合物を同定した。
【0015】
{Bl-I}
Bl-Iは、下記の実施例において化合物1として得られ、式(1)で表される構造を有する。
【化19】
【0016】
{Bl-II}
Bl-IIは、下記の実施例において化合物2として得られ、式(2)で表される構造を有する。
【化20】
【0017】
{Bl-VI}
Bl-VIは、新規化合物であり、下記の実施例において化合物3として得られ、式(3)で表される構造を有する。
IUPAC名:3-(4-hydroxyphenyl)dibenzo[b,d]furan-1,2,4,7,8-pentaylpentaacetate
【化21】
【0018】
{Bl-III}
Bl-IIIは、下記の実施例において化合物4として得られ、式(4)で表される構造を有する。
【化22】
【0019】
{Cycloleucomelon-leukopentacetat}
Cycloleucomelon-leukopentacetatは、下記の実施例において化合物5として得られ、式(5)で表される構造を有する。
【化23】
【0020】
{Bl-IV}
Bl-IVは、下記の実施例において化合物6として得られ、式(6)で表される構造を有する。
【化24】
【0021】
{Bl-VII}
Bl-VIIは、新規化合物であり、下記の実施例において化合物7として得られ、式(7)で表される構造を有する。
IUPAC名:7,8-dihydroxy-3-(4-hydroxyphenyl)dibenzo[b,d]furan-1,2,4-triyltriacetate
【化25】
【0022】
{Bl-V}
Bl-Vは、下記の実施例において化合物8として得られ、式(8)で表される構造を有する。
【化26】
【0023】
{boletopsin A}
boletopsin Aは、下記の実施例において化合物9として得られ、式(9)で表される構造を有する。
【化27】
【0024】
上記化合物1~9は、p-terphenyl化合物であり、化合物(3)及び(7)は新規な化合物であることを確認した。
より詳しくは、クロカワ抽出物は、化合物1~6を含んでいることを確認した。
化合物1は、他のキノコに含有されており、DPPHラジカル消去活性を有することが報告されている(非特許文献3)。
また、クロカワ加熱調理物は、化合物1~6に加えて、化合物7~8を含んでいることを確認した。
なお、化合物8は、他のキノコに含有されており、DPPHラジカル消去活性を有することが報告されている(非特許文献3)。しかし、化合物8は、元来、クロカワには含まれていないものである(クロカワの加熱調理物にのみ含まれる)。
【0025】
(本発明の抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物の形態)
本発明の抗酸化組成物は、クロカワ由来物を主成分とする抗酸化剤とすることもできる。また、本発明の抗酸化組成物を他の薬剤(例、抗がん剤)に含めることもできる。
本発明の抗酸化食品組成物は、クロカワ由来物を主成分とする食品とすることもできる。また、本発明の抗酸化食品組成物を以下の形態の食品とすることができる。例えば、サプリメント、米飯類、麺類、パン類、穀類、野菜、食肉、各種加工食品、菓子類、牛乳、清涼飲料水、アルコール飲料、ゼリー、ガム、タブレット(錠剤)、栄養補助食品、食品添加物等が含まれる。なお、食品には、機能性食品、健康食品、健康志向食品等も含まれる。
【0026】
(本発明の抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物の成分>
本発明の抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物は、他の成分を含むものであってもよい。「他の成分」は、食品又は薬剤において許容される成分である限り特に限定されず、例えば、目的の食品を構成する諸成分、油性成分、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、着色剤、発色剤、矯味剤、着香剤、酸化防止剤、防腐剤、呈味剤、酸味剤、甘味剤、強化剤、ビタミン剤、膨張剤、増粘剤、界面活性剤等を挙げることができ、本発明の組成物の形態に応じて、適当なものを選択し、適宜組み合わせて用いることができる。
【0027】
以下に具体例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例0028】
(クロカワ由来の抽出物からの抗酸化成分の単離)
クロカワ可食部生(50 g)を、包丁で2 cm角程度に細断後、凍結乾燥用容器に入れて-80℃フリーザーで4時間凍結した。その後凍結乾燥機にかけて3日間乾燥させたのち、ミキサーで粉末とした(5.2260 g)。粉末にCH2Cl2:acetone(1:1) 150 mLを加えて室温で30分間攪拌抽出した(×2回)。抽出液を減圧ろ過し、ろ液を抽出液とした(CH2Cl2:acetone (1:1) 抽出液を濃縮乾固したところ662.2 mgであった)。
次にCH2Cl2:acetone(1:1)抽出物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分画した(シリカゲル:FL60D、カラムサイズ直径20 mm × 200 mm、展開溶媒:n-hexane: EtOAc (1:1))。溶出液を10 mLずつフラクショネーションしたところ、fr. 21 -46に化合物1~6が混合物として溶出されていることを確認した。これらのフラクションを集めて濃縮乾固した(165.5 mg)。
次に、この濃縮物をシリカゲルHPLCで分取した。図4に示すように本画分には化合物1~6が保持時間(19.5 min、2 16.5 min、3 17.2 min、4 25.1 min、5 33.0 min、6 47.7 min)にそれぞれ単一のピークとして溶出されることが判明した(条件、カラム:COSMOSIL 5SL-II (nacalai tesque社) 20 mm×250 mm、展開溶媒:CH2Cl2:EtOAc(95:5)、流速:8.0 mL、検出DAD:250 - 500 nm)。
そこで、同条件ですべてを約30回に分けて化合物1~6を分取したところ、それぞれ化合物1 (40.0 mg)、化合物2 (16.5 mg)、化合物3 (75.0 mg)、化合物4 (30.5 mg)、化合物5(120.9 mg)、化合物6 (55.6 mg)の純品を得た。
【実施例0029】
(化合物1の構造決定)
10 mgの化合物1をCDCl3 1 mLに溶解してHRAPCI-MS及び各種NMRスペクトルを測定した。化合物1の1H NMRスペクトルを図5に、13C NMRスペクトルを図6に示す。次に化合物1の2D NMRスペクトル(1H-1H DQF COSY, HMQC, HMBC)を測定解析して化合物1の構造を解析した。
解析の結果は、化合物1の構造を過去に報告のある式(1)に示すBI-Iと決定した。
【0030】
(化合物2の構造決定)
10 mgの化合物2をCD3OD 1 mLに溶解してHRAPCI-MS及び各種NMRスペクトルを測定した。化合物2の1H NMRスペクトルを図7に、13C NMRスペクトルを図8に示す。次に、化合物2の2D NMRスペクトル(1H-1H DQF COSY, HMQC, HMBC)を測定解析して化合物2の構造を解析した。
解析の結果は、化合物2の構造を過去に報告のある式(2)に示すBI-IIと決定した。
【0031】
(化合物3の構造決定)
10 mgの化合物3をCD3COOD 1 mLに溶解してHRAPCI-MS及び各種NMRスペクトルを測定した。まずHRAPCI-MSではm/z 573.10067に(M+Na)+イオンピークが観測され、化合物3の分子式はC28H22O12と決定された(C28H22O12Na calcd. for 573.10089)。次に、化合物3のNMR解析を行った。化合物3の1H NMRスペクトルを図9に、13C NMRスペクトルを図10に示す。さらに化合物3の2D NMRスペクトル(1H-1H DQF COSY, HMQC, HMBC)を測定解析して化合物3の構造を解析した。
解析の結果、化合物3の構造を、CASデータベースに報告のない新規化合物過であると決定し、BI-Vと命名した。
化合物3は新規化合物であるので、NMRで観測されたピークデータを以下に記す。
1H NMR (CD3COOD) d: 2.01 (3H, s, 1-CH 3CO),2.14 (3H, s, 4-CH 3CO), 2.30 (3H, s, 4´-CH 3CO), 2.33(3H, s, 2-CH 3CO), 2.45 (3H, s, 8-CH 3CO),7.21 (1H, d, J=8.5 Hz, H-3´ and H-5´), 7.22 (1H, s, H-6), 7.35 (2H,d, J=8.5 Hz, H-2´ and H-6´),7.53 (1H, s, H-9). 13CNMR (CD3COOD) d: 21.1 (1-CH3CO), 21.1 (4-CH3CO),21.3 (8-CH3CO), 21.6 (2-CH3CO), 22.1 (4´-CH3CO),101.7 (C-6), 115.7 (C-9a), 117.6 (C-9), 123.4 (C-3´ and C-5´), 129.0 (C-3), 131.3 (C-1)a,131.4 (C-1´),132.8 (C-2´ andC-6´),132.8 (C-2)a, 135.9 (C-4)a, 138.1 (C-8), 148.3 (C-4a)a,151.7 (C-7), 152.7 (C-4´), 157.1 (C-5a), 170.0 (8-CH3 CO),170.6 (1-CH3 CO), 170.6 (4-CH3 CO), 172.0(2-CH3 CO), 172.0 (4´-CH3 CO). a:interchangable
【0032】
(化合物4の構造決定)
10 mgの化合物4をCD3OD1 mLに溶解してHRAPCI-MS及び各種NMRスペクトルを測定した。化合物4の1H NMRスペクトルを図11に、13C NMRスペクトルを図12に示す。次に化合物4の2D NMRスペクトル(1H-1H DQF COSY, HMQC, HMBC)を測定解析して化合物4の構造を解析した。
解析の結果、化合物4の構造を過去に報告のある式(4)に示すBI-IIIと決定した。
【0033】
(化合物5の構造決定)
10 mgの化合物5をCD3COOD1 mLに溶解してHRAPCI-MS及び各種NMRスペクトルを測定した。化合物5の1H NMRスペクトルを図13に、13C NMRスペクトルを図14に示す。次に化合物5の2D NMRスペクトル(1H-1H DQF COSY, HMQC, HMBC)を測定解析して化合物5の構造を解析した。
解析の結果、化合物5の構造を過去に報告のある式(5)に示すCycloleucomelon-leukopentacetatと決定した。
【0034】
(化合物6の構造決定)
10 mgの化合物6をCD3OD1 mLに溶解してHRAPCI-MS及び各種NMRスペクトルを測定した。化合物6の1H NMRスペクトルを図15に、13C NMRスペクトルを図16に示す。次に化合物6の2D NMRスペクトル(1H-1H DQF COSY, HMQC, HMBC)を測定解析して化合物6の構造を解析した。
解析の結果、化合物6の構造を過去に報告のある式(6)に示すBI-IVと決定した。
【実施例0035】
(クロカワ加熱調理物からの抗酸化成分の単離)
生クロカワ可食部(水で洗い、石づきを落としたもの)50 gを2.5 mmの厚さに縦スライスした。平皿(直径15cm)に広げてラップをかけ、600Wで1分間加熱した。熱を冷ました後、サンプルを凍結乾燥用ガラス容器に入れて-80℃フリーザーで一晩凍結させた。その後凍結乾燥機にかけて3日間乾燥させたのち、ミキサーで粉末とした。粉末にCH2Cl2:acetone (1:1)150 mLを加えて室温下で30分間攪拌抽出した(×2回)。この撹拌抽出した溶液(計300 mL)を減圧ろ過し、ろ液を抽出エキスとした(434.6 mg)。
この抽出エキスを以下のODS HPLC条件で分取を行った。
・カラム:PEGASIL ODS 20mm×250 mm(センシュー科学)
・展開溶媒:A 40% CH3CN(V/V) + 20 mMリン酸、B 90% CH3CN (V/V) + 20 mMリン酸、gradient条件 0→17 min:A 100%, 17→18 min: A 100%→B 100%linear gradient, 18→23 min: B 100%, 23→24 min: B 100%→A 100% linear gradient, 24→39 min A 100%.
・流速:8.0 mL/min
・検出DAD 200 - 400nm
この条件では化合物9は保持時間10.9 min、化合物8は13.6 min、化合物7は14.9 minに検出された(図17)。なお、化合物1-6も検出された。
抽出エキスを展開溶媒Aに溶解し、約30回に分けてそれぞれの各化合物を分取した。各分取液はCH3CNを除くために10 mL程度まで濃縮し、リン酸を取り除くためにEtOAc 30 mLと蒸留水 30 mLの中にこの10 mLを加えて、分液ロートで二相分配を行った。それぞれのEtOAc層を回収し、濃縮乾固して溶媒除去したところ純品の化合物7(重量:4.6 mg)、化合物8(5.2 mg)、化合物9(3.8 mg)が得られた。
【実施例0036】
(化合物7の構造決定)
3.0 mgの化合物7をCD3COOD 1 mLに溶解してHRAPCI-MS及び各種NMRスペクトルを測定した。まずHRAPCI-MSではm/z 447.07161に(M+H)+イオンピークが観測され、化合物7の分子式はC24H16O9と決定された(C26H15O9 calcd for 447.07161)。次に化合物7のNMR解析を行った。化合物7の1H NMRスペクトルを図18に、13C NMRスペクトルを図19に示す。さらに化合物7の2D NMRスペクトル(1H-1H DQF COSY, HMQC, HMBC)を測定解析して化合物7の構造を解析した。
解析の結果、化合物7の構造を、CASデータベースに報告のない式(7)に示す新規化合物であると決定し、BI-VIIと命名した。
化合物7は新規化合物であるので、NMRで観測されたピークデータを以下に記す。
1H NMR (CD3COOD) d: 1.97 (3H, s, 2-CH 3CO)a, 2.11((3H, s, 4-CH 3CO)a, 6.90 (2H, d, J=8.6 Hz,H-3´ and H-5´), 7.09 (1H, s, H-6), 7.14 (2H, d, J=8.6 Hz, H-2´ and H-6´), 7.56 (1H, s, H-9). 13C NMR (CD3COOD)d: 20.3 (4-CH3CO)b, 20.7 (2-CH3CO)b,99.4 (C-6), 108.7 (C-9), 115.5 (C-9b), 115.9 (C-3´ and C-6´), 116.3 (C-9a),125.3 (C-1´), 126.9 (C-2)b,127.7(C-3), 131.9 (C-4)b, 132.2 (C-2´ and C-6´), 142.2 (C-7), 142.4(C-4a)b, 142.6 (C-8), 147.5 (C-5a)b, 152.0 (C-5a), 157.3(C-4´), 170.3 (4-CH3 CO)c,171.5 (2-CH3 CO)c. a, b, c:interchangeable
【0037】
(化合物8の構造決定)
3.0 mgの化合物8をCD3OD 1 mLに溶解してHRAPCI-MS及び各種NMRスペクトルを測定した。化合物8の1H NMRスペクトルを図20に、13C NMRスペクトルを図21に示す。次に化合物8の2D NMRスペクトル(1H-1H DQF COSY, HMQC, HMBC)を測定解析して化合物8の構造を解析した。
解析の結果、化合物8の構造を過去に報告のある式(8)に示すBI-Vと決定した。
【0038】
(化合物9の構造決定)
3.0 mgの化合物9をCD3OD 1 mLに溶解してHRAPCI-MS及び各種NMRスペクトルを測定した。化合物9の1H NMRスペクトルを図22に、13C NMRスペクトルを図23に示す。次に化合物9の2D NMRスペクトル(1H-1H DQF COSY, HMQC, HMBC)を測定解析して化合物9の構造を解析した。
その結果、化合物9の構造を過去に報告のある式(9)に示すboletopsin Aと決定した。
【実施例0039】
(化合物1―9の抗酸化活性の測定)
以下の測定方法により、化合物1-9の抗酸化活性を測定した。
【0040】
(抗酸化活性(ラット脳脂質過酸化抑制活性)の原理)
ラット脳ホモジネートをリン酸緩衝液 (pH 7.4)中で 37 ℃にてインキュベートすると、図24に示すような機構で脂質の自動酸化が生じ、高度不飽和脂肪酸から水素引き抜き反応の後、ラジカル連鎖反応を経てマロンジアルデヒド (MDA) が生成する。 本機構は生体内で発生したラジカル型の活性酸素種が生体内組織を酸化する際に生じる反応でもあり、この反応を阻害する成分は活性酸素種が我々の生体組織を酸化する反応を抑制することができる。
MDAは図25に示すように2-チオバルビツール酸 (TBA) と反応して532 nmに吸収極大を持つ赤色の化合物を生成することが知られており、反応液の532 nm における吸光度を測定することにより図25の反応で生じた過酸化脂質量を定量することができる。本反応はチオバルビツール酸法として過酸化脂質量の定量法として一般的に用いられている。
【0041】
(抗酸化活性の測定方法)
アッセイは、基本的にディスポカルチャーチューブ (φ13 mm×100 mm) 中で行うこととした。100 mMリン酸緩衝液 (pH 7.4) 0.6 mL中に、被検試料のDMSO溶液0.05 mL、1 mMアスコルビン酸0.1 mL(終濃度100 mM)、及びH2O 0.05mLを添加し、37℃で5分間のプレインキュベーションを行った後、2.5 % (w/v)ラット脳ホモジネートを0.2 mL添加することで反応を開始させ、37℃で1時間、振盪しながらインキュベートを行った。その後、0.2 N塩酸中に20% (w/v)トリクロロ酢酸、0.5% (w/v) 2-チオバルビツール酸を含む混合液1 mLを上記反応液に添加することで反応を停止した。これを100℃で30分間煮沸処理して発色させ、冷却後、3000 rpmで10分間遠心分離した。遠心分離上清の532 nmでの吸光度 (Abs 532)を測定した。
なお、ラット脳ホモジネートは市販の凍結ラット脳をテフロン(登録商標)ホモジナイザーにて、氷冷下67 mMリン酸緩衝液 (pH 7.4) 中で5分ほどホモジナイズすることにより調製した。これを10%(w/v)となるように同緩衝液で希釈してから、2 mLずつ15 mL容ファルコンチューブに分注し、使用時まで-80℃で冷凍保存した。使用時に5 ℃の冷蔵庫中で解凍を行い、ここに6 mLのリン酸緩衝液 (pH 7.4)を加えて、2.5%(w/v)ラット脳ホモジネートを作成した。
【0042】
それぞれの化合物の過酸化脂質生成抑制率は、以下の式に従って求めた。
(過酸化脂質生成抑制率(%))={1-(T-B)/(C-B)}×100
T:薬物処置群のA532
C:コントロール群(メタノール処置群)のA532
B:無反応群(ブランク群)のA532
なお、過酸化脂質の生成を50%抑制するサンプル濃度をIC50値(μM)として算出した。
【0043】
(測定結果)
化合物1~9のラット脳脂質過酸化抑制活性のIC50値(50%抑制濃度、μM)を下記表1に示した。いずれの化合物もラット脳脂質過酸化抑制活性を有することが確認された。化合物2~9は、特に、強い抗酸化活性(ラット脳脂質過酸化抑制活性)を有することを確認した。
【0044】
【表1】
【実施例0045】
(各種キノコの抗酸化活性の測定)
食用キノコであるクロカワ由来の抽出物は、他の食用キノコと比較して、抗酸化活性が高いことを確認した。
【0046】
(抗酸化活性の測定方法)
5種類の食用キノコ由来の抽出物{CH2Cl2-acetone(1:1)抽出物}を実施例5に記載の抗酸化活性の測定方法と同様な方法を実施して、過酸化脂質の生成を50%抑制するサンプル濃度をIC50値(μM)として算出した。
【0047】
(測定結果)
各食用キノコのラット脳脂質過酸化抑制活性のIC50値(50%抑制濃度、μM)を下記表2に示した。クロカワ由来の抽出物は、他の食用キノコ由来の抽出物と比較して、非常に高い抗酸化活性を有することを確認した。
【0048】
【表2】
*表内の数値は過酸化を50%抑制するのに必要なキノコ重量(μg)
【産業上の利用可能性】
【0049】
クロカワ由来物を含む抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物並びに抗酸化機能を有する新規化合物を提供することができる。
図1
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