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特開2022-130782水性防汚塗料組成物、それを用いて形成される防汚性被膜並びに同被膜を表面に有する漁網、船舶及び海中構造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130782
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】水性防汚塗料組成物、それを用いて形成される防汚性被膜並びに同被膜を表面に有する漁網、船舶及び海中構造物
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/02 20060101AFI20220831BHJP
   C09D 201/08 20060101ALI20220831BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220831BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220831BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20220831BHJP
   B63B 59/04 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C09D201/02
C09D201/08
C09D7/61
C09D7/63
C09D5/16
B63B59/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029363
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】303028147
【氏名又は名称】バッセル化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139262
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 和昭
(72)【発明者】
【氏名】石丸 清樹
(72)【発明者】
【氏名】槿 厚志
(72)【発明者】
【氏名】河野 賢史
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG031
4J038CG141
4J038GA06
4J038GA15
4J038HA216
4J038HA306
4J038JC32
4J038JC35
4J038JC38
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA05
4J038PB02
(57)【要約】
【課題】長期間にわたり優れた防汚効果を発揮できると共に長期保存が可能な水性防汚塗料組成物、それを用いて形成される防汚性被膜並びに同被膜を表面に有する漁網及び海中構造物を提供する。
【解決手段】酸性官能基を含む酸性官能基を含み、酸価が1~30mgKOH/gであるエマルション樹脂又は水溶性樹脂と、酸性官能基に対するモル比が15~300%となる量の塩基と、1又は複数の海棲生物忌避剤とを含む水性防汚性塗料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性官能基を含み、酸価が1~30mgKOH/gであるエマルション樹脂又は水溶性樹脂と、
前記酸性官能基に対するモル比が15~300%となる量の塩基と、
1又は複数の海棲生物忌避剤とを含む水性防汚塗料組成物。
【請求項2】
前記酸性官能基がカルボキシル基又はシラノール基であることを特徴とする請求項1に記載の水性防汚塗料組成物。
【請求項3】
前記塩基が、水酸化アルカリ、アンモニア水、アルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、ω-ヒドロキシアルキルアミン及びω-アミノアルキルトリアルコキシシランのいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載の水性防汚塗料組成物。
【請求項4】
前記塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、トリメチルアミン、トリエチルアミン、2-アミノエタノール及びω-アミノアルキルトリアルコキシシランのいずれかであることを特徴とする請求項3に記載の水性防汚塗料組成物。
【請求項5】
4質量%未満のエチレングリコール、プロピレングリコール及びエチレングリコールジアルキルエーテルのいずれかを更に含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の水性防汚塗料組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の水性防汚塗料組成物を塗布後、乾燥させることにより形成される防汚性被膜。
【請求項7】
請求項6に記載の防汚性被膜を表面に有する漁網。
【請求項8】
請求項6に記載の防汚性被膜を船底の表面に有する船舶。
【請求項9】
請求項6に記載の防汚性被膜を表面に有する海中構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖用及び定置用漁網並びに船底、海中構造物及びブイ等への海棲生物及び海藻類の付着を防止することができる新規な水性防汚塗料組成物、それを用いて形成される防汚性被膜並びに当該被膜を表面に有する漁網及び海中構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
漁業、水産業、海上輸送等の分野において用いられる養殖網、定置網等の漁網、船底、海中構築物等及びブイ等の物品の表面には、様々な海棲生物が付着する。養殖網、定置網等においては、フジツボ、ヒドロ虫、フサコケムシ、イギス等の海棲生物が付着し、網目を塞ぐことにより、水質の悪化、魚病、網の破損等の問題が生じる。また、船舶の場合、船底へのフジツボ等の付着は、燃費への悪影響等の様々な問題の原因となる。こうした問題の原因となる漁網、船舶、海中構造物等への海棲生物の付着を防止する目的で、種々の防汚塗料が使用されてきた。古くは、有機スズ化合物を防汚成分とする防汚塗料が、船底塗料等として使用されていたが、その毒性のため、使用が制限されており、それに代わる防汚塗料の開発が望まれている。
【0003】
また、塗料業界においては、速乾性や分散性の観点から、溶剤として有機溶媒が広く用いられてきたが、大気中への放出による大気汚染や悪臭等の環境への悪影響、作業従事者の健康への悪影響等に配慮して、VOC(volatile organic compound:揮発性有機化合物)の使用が制限されている。それに伴い、水性塗料への移行が急速に行われている。
【0004】
有機スズ化合物の代替品として、様々な低毒性の海棲生物忌避剤が配合された防汚塗料、或いは海中生物忌避剤を使用しない塗料も開発されている。例えば、特許文献1には、アクリル酸又はメタクリル酸のハロゲン化アルキルエステルと、共重合可能な単量体との共重合体をビヒクルとして含み、必要に応じて、亜酸化銅、チオシアン銅、銅粉末等の銅系防汚剤を始め、鉛、亜鉛、ニッケル等その他の金属化合物、ジフェニルアミン等のアミン誘導体、ニトリル化合物、ベンゾチアゾール系化合物、マレイミド系化合物、ピリジン系化合物等の防汚剤が使用されていてもよい防汚塗料組成物が開示されている(特許請求の範囲、段落0008、0013、実施例)。
【0005】
特許文献2には、バインダーの構成成分が数平均分子量300~5,000のポリブテンのエマルションを含み、必要に応じて、銅、亜鉛等の金属化合物、ヘテロ環状化合物等の海棲生物忌避剤又は海棲生物阻害剤を配合又は分散させた水性防汚塗料組成物が開示されている(特許請求の範囲、段落0025、0026)。
【0006】
特許文献3には、塗膜形成時に使用する有機溶剤の量が少なく、強度と自己研磨性を長期間維持し、優れた防汚性を発揮する塗膜を形成可能な防汚性塗料組成物として、アクリルポリマー、ラジカル重合性ポリマー及び有機過酸化物を含有し、アクリルポリマー、ラジカル重合性ポリマーの少なくとも一方が2価の金属エステル構造を有する防汚塗料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-148031号公報
【特許文献2】特開2005-213336号公報
【特許文献3】国際公開第2011/125179号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の防汚塗料組成物は、有機スズ化合物は含まないものの、キシレン等の有機溶媒を使用しており、環境及び作業従事者の健康への悪影響の問題が依然として存在している。特許文献2に記載の水性防汚塗料組成物は、長期保存安定性及び乾燥性について課題を有している。また、特許文献3に記載の防汚塗料組成物は、防汚成分としての銅イオンの含有量及び溶出量が不十分であるという課題を有している。
【0009】
漁網等に水性防汚塗料組成物を塗布するためには、水性防汚性塗料組成物中に漁網を浸漬することにより塗膜を形成するが、塗布量よりも多量の水性防汚塗料組成物を用いる必要がある。残った防汚性塗組成物は、翌年の漁期まで保管し再利用できることが望ましいが、アクリル樹脂系等の酸性官能基を含むエマルション樹脂を塗膜形成剤として含有する水性塗料の場合、特に寒冷時にゲル化しやすく、長期安定性及び経済性の点で課題があった。
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、長期間にわたり優れた防汚効果を発揮できると共に長期保存が可能な水性防汚塗料組成物、それを用いて形成される防汚性被膜並びに同被膜を表面に有する漁網、船舶及び海中構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的に沿う本発明の第1の態様は、酸性官能基を含み、酸価が1~30mgKOH/gであるエマルション樹脂又は水溶性樹脂と、前記酸性官能基に対するモル比が15~300%となる量の塩基と、1又は複数の海棲生物忌避剤とを含む水性防汚塗料組成物を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0012】
本発明の第1の態様に係る水性防汚塗料組成物において、前記酸性官能基がカルボキシル基又はシラノール基であってもよい。
【0013】
本発明の第1の態様に係る水性防汚塗料組成物において、前記塩基が、水酸化アルカリ、アンモニア水、アルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、ω-ヒドロキシアルキルアミン及びω-アミノアルキルトリアルコキシシランのいずれかであってもよく、より具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、トリメチルアミン、トリエチルアミン、2-アミノエタノール及びω-アミノアルキルトリアルコキシシランのいずれかであってもよい。
【0014】
本発明の第1の態様に係る水性防汚塗料組成物において、4質量%未満のエチレングリコール、プロピレングリコール及びエチレングリコールジアルキルエーテルのいずれかを更に含んでいてもよい。
【0015】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に係る水性防汚塗料組成物を塗布後、乾燥させることにより形成される防汚性被膜を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0016】
本発明の第3の態様は、本発明の第2の態様に係る防汚被膜を表面に有する漁網を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0017】
本発明の第4の態様は、本発明の第2の態様に係る防汚被膜を船底の表面に有する船舶を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0018】
本発明の第5の態様は、本発明の第2の態様に係る防汚性被膜を表面に有する海中構造物を提供することにより上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、有機溶媒を使用しないため、引火の危険、環境への負担や作業従事者の健康への悪影響が低減され、長期間に渡り優れた防汚効果を発揮できる塗膜を形成可能で、寒冷時でもゲル化等の問題を生じることなく、耐寒性及び貯蔵安定性にも優れた水性防汚塗料組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施の形態に係る水性防汚塗料組成物(以下、「水性防汚塗料組成物」又は「防汚塗料組成物」と略称する場合がある。)は、(A)酸性官能基を含むエマルション樹脂又は水溶性樹脂と、(B)塩基と、(C)海棲生物忌避剤とを含み、酸価が1~30mgKOH/gである水性塗料組成物である。以下、各成分について詳細に説明する。
【0021】
(A)エマルション樹脂又は水溶性樹脂
水性防汚塗料組成物の塗膜形成成分としての樹脂には、エマルション樹脂又は水溶性樹脂(水分散性樹脂)が用いられる。「水溶性樹脂」とは水に溶解して均一な溶液を生成する樹脂をいい、「エマルション樹脂」とは、水溶性を有しないが、水に分散してエマルションを形成する樹脂をいう。エマルション樹脂又は水溶性樹脂としては、親水性官能基である酸性官能基を有するものが用いられる。好ましい酸性官能基の具体例としては、カルボキシル基又はシラノール基が挙げられる。酸性官能基を含むエマルション樹脂または水溶性樹脂の具体例としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アルキド樹脂及びこれらの共重合体、他の樹脂(ポリオール樹脂、フッ素樹脂、アミノ樹脂等)と酸性官能基を含むモノマーとの共重合体等が挙げられる。
【0022】
エマルション樹脂としては、例えば、固形分10%以上、MFT((最低膜形成温度)50℃以下のエマルション樹脂が好ましく、特に0~20℃が好ましくは用いられる。また、水溶性樹脂としては、重量平均分子量1,000~1,000,000が好ましく、特に、50,000~200,000の水溶性樹脂が好ましく用いられる。これらの樹脂については、単独で用いることもできるが、任意の2種類以上のものを混合して用いることもできる。水性防汚性塗料組成物中の樹脂の含有量は、例えば、固形分換算で1~90質量%であり、用途、要求性能等に応じて適宜調整される。
【0023】
MFTが50℃以下であるエマルション樹脂としては、アクリルエマルション樹脂、アクリルシリコーンエマルション樹脂、アクリルウレタンエマルション樹脂等が挙げられ、具体例として、ボンコートシリーズ550EF、CE-6400、40-418EF、5400EF、CF-2800、HY-364、U-40EF(DIC株式会社)、ポリデュレックスB3220,ポリトロンE2139(旭化成株式会社)等が挙げられる。また、重量平均分子量1,000~100,000の水溶性樹脂として、アクリル樹脂、アルキッド樹脂などが挙げられ、具体例としては、ウォーターゾルシリーズS-144、S-701、AC-1129、ACD-2001、WJW-838、WC-201(DIC株式会社)等が挙げられる。
【0024】
エマルション樹脂又は水溶性樹脂の酸価は、1~30mgKOH/gである。酸価とは、JIS K5601-2-1:1999(塗料成分試験方法-第2部:溶剤可溶物中の成分分析-第1節:酸価(滴定法))において定義されているように、「製品の不揮発分1g中の遊離酸を中和するために要するKOHの量(mg)」をいい、単位は「mgKOH/g」で表される。酸価の評価は、同規格に記載の滴定法に準拠して行うことができる。
【0025】
(B)塩基
水性防汚塗料組成物中の塗料粒子を長期間安定に保持するために、水性防汚塗料組成物は塩基を含んでいる。塩基の量は、酸性官能基に対する塩基のモル比が15~300%となるよう調整される。水性防汚塗料組成物に用いられる塩基としては、水酸化アルカリ、アンモニア水、アルキルアミン(第一級アミン)、ジアルキルアミン(第二級アミン)、トリアルキルアミン(第三級アミン)、ω-ヒドロキシアルキルアミン及びω-アミノアルキルトリアルコキシシランが挙げられる。アルキルアミン類の場合、水溶性を有する必要があるため、アルキル基の炭素数は5以下であることが好ましい。好ましい塩基の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、トリメチルアミン、トリエチルアミン、2-アミノエタノール及びω-アミノアルキルトリアルコキシシランが挙げられる。
【0026】
(C)海棲生物忌避剤
海棲生物の付着による汚損を防止するための海棲生物忌避剤は、付着防止の対象となる海棲生物の種類に応じて適宜選択される。海棲生物忌避剤の具体例としては、亜酸化銅(酸化銅(I))、ビス(2-スルフィドピリジン-1-オラト)銅、トリフェニルボラン・アミン錯体化合物、テトラアルキルチウラムジルスルフィド化合物、ビス(N,N-ジメチルジチオカルバミン酸)N,N’-エチレンビス(チオカルバモイルチオ亜鉛)及び銅ガラスが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、任意の二以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
上記トリフェニルボラン・アミン錯体化合物の具体例としては、トリフェニルボラン・nードデシルアミン、トリフェニルボラン・n-オクチルアミン、トリフェニルボラン・n-ヘキシルアミン、トリフェニルボラン・n-ブチルアミン、トリフェニルボラン・n-プロピルアミン、トリフェニルボラン・n-オクタデシルアミン、トリフェニルボラン・2-エチルヘキシルアミン、トリフェニルボラン・3-エトキシプロピルアミン、トリフェニルボラン・3-(2-エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、トリフェニルボラン・3ーラウリルオキシプロピルアミン、トリフェニルボラン・3-ステアリルオキシプロピルアミン、トリフェニルボラン・4-(2-エチルヘキシルオキシ)ブチルアミン、トリフェニルボラン・4-ラウリルオキシブチルアミン、トリフェニルボラン・8-エトキシオクチルアミン、トリフェニルボラン・8-(2-エチルヘキシルオキシ)オクチルアミン、トリフェニルボラン・2-エチルヘキシルオキシフェニルアミン、トリフェニルボラン・ラウリルオキシフェニルアミン等が挙げられる。これらのトリフェニルボラン・アミン錯体化合物のうち、特に好ましいものとしては、トリフェニルボラン・〔3-(2-エチルヘキシル)〕プロピルアミンが挙げられる。上記のトリフェニルボラン・アミン錯体化合物は単独で用いてもよく任意の二以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
前記テトラアルキルチウラムジスフィド化合物の例としては、例えば、テトラプロピルチウラムジスルフィド、テトライソプロピルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラ-sec-ブチルチウラムジスルフィド、テトライソブチルチウラムジスフィド、テトラ-tert-ブチルチウラムジスルフィド、テトラペンチルチウラムジスルフィド、テトラヘキシルチウラムジスルフィド、テトラヘプチルチウラムジスルフィド、テトラオクチルチウラムジスルフィド、テトラ(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド等が挙げられる。これらのテトラアルキルスルフィド化合物のうち、テトラエチルチウラムジスルフィドが特に望ましい。上記テトラアルキルジスルフィド化合は単独で用いてもよく任意の二以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
他の海棲生物忌避剤の例としては、銅粉、ロダン銅、ナフテン酸銅、ナトリウムピリチオン、溶解性ガラス、ビス(2-スルフィドピリジン-1-オラト)亜鉛、ビス(N,Nジメチルジチオカルバミン酸)ビスN,N’-エチレンビス(チオカルバモイルチオ亜鉛)、ビスジメチルジチオカーバモイル、エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛、メチルジチオカルバミン酸亜鉛、エチレンジチオカルバミン酸亜鉛、エチレンビスジチオカルバミン酸マンガン、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、2,3-ジクロロ-N-(2’-エチル-6’-メチルフェニル)マレイミド、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-イソアゾリン-3(2H)-オン、2-メチルチオ-4-t-ブチルアミノ-6-シクロプロピルアミノ-S-トリアジン、N,N’-ジメチル-ジクロロフェニル尿素、N-(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、N,N’-ジメチル-N’-フェニル-(N-フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、N’-ジクロロフルオロメチルチオ-N’,N’-ジメチル-N-P-トリスルファミド等の防汚薬剤などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく任意の二以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
水性防汚塗料組成物の基剤となる水としては、脱イオン水、イオン交換水、蒸留水、純水、超純水等を必要に応じて適宜用いることができる。
【0031】
その他の添加剤
水性防汚塗料組成物は、上記の成分以外に、必要に応じて、界面活性剤、溶出調整剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0032】
界面活性剤
樹脂と海棲生物忌避剤との相溶性及び分散性の向上、塗料の安定性の向上のために、水性防汚性塗料組成物に界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤の添加量は、塗料固形分換算で0.01~50質量%である。
【0033】
界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシアルキレン分枝デシルエーテル、ポリオキシアルキレントリデシルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシレエチレンオレイルセチルエーテル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジアミンステアリン酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、オレイン酸グリセリル、イソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル等の非イオン界面活性剤、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム、フェノールスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム、高級脂肪酸カリウム、ポリオキシエチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレントリデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレントリデシル硫酸アンモニウム、ポリオキシアルキレン分枝デシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオレイルセチルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンオレイルセチルエーテル硫酸ナトリウム、アルキル(C4)リン酸エステルナトリウム、アルキル(C8)リン酸エステルエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンスルホコハク酸二ナトリウム等アニオン性界面活性剤、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、エタンスルホン酸オクチルジメチルエチルアンモニウム、エタンスルホン酸パルミチルジメチルエチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、ステアリルジメチルアミノプロピルアミド、塩化トリブチルベンジルアンモニウム等のカチオン性界面活性剤、としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、オクタン酸アミドプロピルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキシド等の両性イオン性界面活性剤、ウレタン系界面活性剤,シリコーン系界面活性剤,アクリル酸エステルエマルションが挙げられる。これらの界面活性剤は単独で用いてもよく任意の二以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
溶出調整剤
水性防汚性塗料組成物は、溶出調整剤としてエチレン-α-オレフィン共重合体を含んでいてもよい。溶出調整剤の具体例としては、ポリブテン類およびイソポリブテン類、流動パラフィン、固体パラフィン、ラウリン、ワセリン及びジアルキルペンタスルフィド等が上げられる。これらの溶出調整剤は単独で用いてもよく任意の二以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
溶出調整剤としては、上記のもの以外にシリコーン化合物を使用することができる。シリコーン化合物の具体例としては、親水性親油性バランス(HLB)が2~12、好ましくはHLBが3~5のポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンが挙げられる。
【0036】
その他の添加剤
酸性官能基を有するエマルション樹脂または水溶性樹脂以外に、酸性官能基を有する添加剤として、例えば、ポリカルボン酸系高分子界面活性剤、ジオクチルコハク酸ナトリウム、高級脂肪酸カリウム、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリル酸アミドプロピルベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、オクタン酸アミドプロピルベタイン、スチレンーマレイン酸ハーフエステルコポリマーアンモニウム塩等の添加剤を含んでいてもよい。また、必要に応じて、レオロジー調整剤、消泡剤等の水性塗料に用いられる任意の添加剤を添加してもよい。
【0037】
水性防汚塗料組成物の製造は、任意の公知の装置及び方法を用いて行うことができる。水性防汚性塗料組成物の漁網、船舶、海中構造物ヘの塗布は、浸漬、ハケ塗り、ドクターブレード法、噴霧等の任意の方法を用いて行うことができる。水性防汚性塗料組成物は、有機溶媒等の揮発性有機化合物を含んでいないため、換気設備等を必要とせず、作業者の健康や環境に悪影響を与えることが低減される。塗布後、自然乾燥、温風乾燥等の任意の条件で塗膜を乾燥させることにより防汚性皮膜を形成することができる。
【0038】
本発明の第2の実施形態に係る防汚性被膜(単に「防汚性被膜」と略称する場合がある。)は、上述のような本発明の第1の実施の形態に係る水性防汚性塗料組成物を、海中構造物、船底、漁網等の物品の表面に塗布後、乾燥させることにより形成されるものである。
【実施例0039】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
[1]水性防汚塗料組成物の調製
一例として、下記の表1に記載の実施例6に記載の水性防汚性塗料組成物の製造手順について説明する。他の実施例及び比較例に係る水性防汚性塗料組成物については、組成(下記表1~3参照)が相違するのみで、製造手順については同様である。
【0040】
(実施例6)
イオン交換水76.6質量部に、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(アニオン性界面活性剤)4.2質量部及びポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(非イオン性界面活性剤)1.1質量部を撹拌下で順次投入し、亜酸化銅15、7質量部及びビス(2-スルフィドピリジン-1-オラト)銅(海棲生物忌避剤)4.0質量部を投入し10分撹拌したのち、ウレタン系界面活性剤(レオロジー調整剤)2.3質量部、ポリエキシアルキレンラウリルエーテル界面活性剤1.4質量部を撹拌下で投入して30分間撹拌して、ボンコート550EF(DIC株式会社)(エマルション樹脂)31.8質量部投入して撹拌を維持しながら、樹脂酸価中和度50%に調整するため、28%アンモニア水0.4質量部を投入して10分間撹拌後、ポリブテン8.0質量部、エーテル変性ポリジメチルシロキサン4.0質量部を撹拌下で投入し、終了後30分間撹拌混合して、ビニルポリマー界面活性剤(消泡剤)2.1質量部投入し、30分間撹拌混合したのち取出し、固形分35%の水性防汚塗料組成物(実施例1~実施例19、比較例1~6)を調整した。また、これらの水性防汚性塗料組成物、市販の有機溶剤系防汚塗料(参考例1)及び市販の水性防汚塗料(参考例2)を塗布後乾燥した漁網の海中浸漬試験を行った。実施例1~実施例19及び比較例1~6に係る水性防汚塗料組成物の組成並びに実施例1~実施例19、比較例1~6、参考例1及び2についての海中浸漬試験の結果を下記の表1~3に示す。各成分の添加量は重量部(イオン交換水、エマルション樹脂及び塩基の重量の合計が100となる。)で示している。表1~3において、「試作エマルション樹脂」は、ボンコート(登録商標)500EF(DIC株式会社)と同様のアクリル系エマルション樹脂(不揮発分40%)であり、「アミノ系シランカップリング剤」は、3-アミノプロピルトメトキシシラン(分子量179.3)であり、「塩基/酸モル比(%)」は、エマルション樹脂中の酸性官能基に対する塩基(アンモニア又はシランカップリング剤)のモル比(単位%)である。
【0041】
長期保存安定性の評価結果において、「○」は、沈殿及び粘度の増大が見られないことを示し、「○△」は、若干沈殿を生じるが撹拌により均一な組成物となることを意味する。また、防除効果の評価結果は、海中浸漬試験後(180日後)の海棲生物の付着率(面積比率)で表しており、「◎」は0%、「○」は0%を超え10%未満、「○△」は10%以上20%未満、「△」は20%以上30%未満、「×」は30%以上であることを意味する。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
海棲生物忌避剤のうち、実施例1~14、比較例1~4において用いられている亜酸化銅及びビス(2-スルフィドピリジン-1-オラト)銅は、フジツボの防除に用いられるものであり、実施例15~19、比較例5、6において用いられているビス(N,N-ジメチルジチオカルバミン酸)N,N’-エチレンビス(チオカルバモイルチオ亜鉛)は、ヒドロ虫の防除に用いられているものである。実施例1~19については、高い長期保存安定性及び対象となる海棲生物に対する高い防除効果が見られるのに対し、エマルション樹脂が酸性官能基を含まない比較例1、エマルション樹脂の酸価が30mg KOH/gを超える比較例2、エマルション樹脂中の酸性官能基に対する塩基のモル比が0.15を下回る比較例3~6においては、長期保存安定性又は防除効果が劣っていることが確認された。