(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130784
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】モータの制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/05 20060101AFI20220831BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
H02P21/05
H02P27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029365
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】519150315
【氏名又は名称】サンデン・アドバンストテクノロジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】柏原 辰樹
(72)【発明者】
【氏名】荒木 雄志
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝次
(72)【発明者】
【氏名】大石 潔
(72)【発明者】
【氏名】横倉 勇希
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB04
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505EE55
5H505GG04
5H505GG08
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ24
5H505JJ25
5H505LL14
5H505LL22
5H505LL39
5H505LL41
(57)【要約】
【課題】ラジアル力の変動に起因して発生するモータの騒音を効果的に抑制できる実用的な制御装置を提供する。
【解決手段】モータ8の巻線に基本波電流を流すための基本波指令値を算出する基本波制御部13と、ステータ3に作用するラジアル力の変動を抑制するラジアル力抑制電流を巻線に流すための高調波指令値を、UVW軸電流指令値i
u
*、i
v
*、i
w
*、位相θ
re、モータ定数に基づいて算出する高調波制御部24と、基本波指令値に高調波指令値を重畳する加算器16~18と、ラジアル力抑制電流を基本波電流に重畳した駆動電流が巻線に流れるようにインバータ4を操作する操作部19を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線が巻装されたステータ及び磁極が構成されたロータを有するモータに電気的に接続され、前記巻線に駆動電流を流して当該モータを駆動するインバータを備えたモータの制御装置において、
前記モータの電気角速度を推定する電気角速度推定部と、
前記巻線に基本波電流を流すための基本波指令値を算出する基本波制御部と、
前記ステータに作用するラジアル力の変動を抑制するための高調波電流をラジアル力抑制電流とし、該ラジアル力抑制電流を前記巻線に流すための高調波指令値を、UVW軸電流指令値、前記電気角速度推定部により取得された位相、及び、モータ定数に基づいて算出する高調波制御部と、
前記基本波制御部により算出された前記基本波指令値に、前記高調波制御部により算出された前記高調波指令値を重畳する指令値重畳部と、
該指令値重畳部にて前記高調波指令値を前記基本波指令値に重畳した指令値に基づき、前記ラジアル力抑制電流を前記基本波電流に重畳した前記駆動電流が、前記巻線に流れるように前記インバータを操作する操作部を備えたことを特徴とするモータの制御装置。
【請求項2】
前記高調波制御部は、前記ステータに作用する6次、及び/又は、12次のラジアル力の変動を抑制する前記ラジアル力抑制電流を前記巻線に流すための前記高調波指令値を算出することを特徴とする請求項1に記載のモータの制御装置。
【請求項3】
前記高調波制御部は、前記ステータに作用するラジアル力の最大値と最小値の差を小さくする方向の前記ラジアル力抑制電流を前記巻線に流すための前記高調波指令値を算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のモータの制御装置。
【請求項4】
前記高調波制御部は、αβ軸及びdq軸電流に不感であるUVW軸の3次成分と6次成分のみで構成された下記数式(I)、(II)、(III)からUVW軸のラジアル力抑制電流指令値i
uh
*、i
vh
*、i
wh
*を算出し、算出された各ラジアル力抑制電流指令値i
uh
*、i
vh
*、i
wh
*に基づいて、前記高調波指令値を算出することを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちの何れかに記載のモータの制御装置。
【数11】
但し、θ
reは位相であり、Ku3c(iu)、Ku3s(iu)、Ku6c(iu)、Ku6s(iu)は前記U軸電流指令値の大きさとモータ定数により変化する係数、Kv3c(iv)、Kv3s(iv)、Kv6c(iv)、Kv6s(iv)は前記V軸電流指令値の大きさとモータ定数により変化する係数、Kw3c(iw)、Kw3s(iw)、Kw6c(iw)、Kw6s(iw)は前記W軸電流指令値の大きさとモータ定数により変化する係数である。
【請求項5】
前記基本波制御部は、正弦波に定常偏差零で制御する正弦波追従制御により前記基本波指令値を算出することを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの何れかに記載のモータの制御装置。
【請求項6】
前記基本波制御部は、正弦波に定常偏差零で制御する正弦波追従制御により前記基本波指令値を算出すると共に、
前記正弦波追従制御における制御ゲインのうちのカットオフ周波数が、αβ軸において空間高調波により発生する高調波電流リプルの周波数プラスマイナス所定値以内、若しくは、前記高調波電流リプルの周波数より低い値に設定されていることを特徴とする請求項4に記載のモータの制御装置。
【請求項7】
前記基本波制御部が行う前記正弦波追従制御は、電気角速度の正弦波成分を持つ制御ゲインを含むフィードバック制御により、前記基本波指令値を正弦波に追従させることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のモータの制御装置。
【請求項8】
前記高調波制御部は、UVW軸の6次成分と11次成分で構成された下記数式(IV)、(V)、(VI)からUVW軸のラジアル力抑制電流指令値i
uh
*、i
vh
*、i
wh
*を算出し、算出された各ラジアル力抑制電流指令値i
uh
*、i
vh
*、i
wh
*に基づいて、前記高調波指令値を算出することを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちの何れかに記載のモータの制御装置。
【数12】
但し、θ
reは位相であり、Ku6c(iu)、Ku6s(iu)、Ku11c(iu)、Ku11s(iu)は前記U軸電流指令値の大きさとモータ定数により変化する係数、Kv6c(iv)、Kv6s(iv)、Kv11c(iv)、Kv11s(iv)は前記V軸電流指令値の大きさとモータ定数により変化する係数、Kw6c(iw)、Kw6s(iw)、Kw11c(iw)、Kw11s(iw)は前記W軸電流指令値の大きさとモータ定数により変化する係数である。
【請求項9】
前記基本波制御部は、正弦波に定常偏差零で制御する正弦波追従制御により前記基本波指令値を算出することを特徴とする請求項8に記載のモータの制御装置。
【請求項10】
前記基本波制御部が行う前記正弦波追従制御は、電気角速度の正弦波成分を持つ制御ゲインを含むフィードバック制御により、前記基本波指令値を正弦波に追従させることを特徴とする請求項9に記載のモータの制御装置。
【請求項11】
前記基本波制御部は、前記正弦波追従制御における制御ゲインのうちのカットオフ周波数が、前記ラジアル力抑制電流の周波数より低く設定されていることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載のモータの制御装置。
【請求項12】
前記モータは、ロータの磁極数とステータのティース数が2対3となる永久磁石同期モータであることを特徴とする請求項1乃至請求項11のうちの何れかに記載のモータの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻線が巻装されたステータと磁極が構成されたロータを有するモータの巻線に、インバータにより駆動電流を流して当該モータを駆動するモータの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、車載用の電動圧縮機を駆動する永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)は、巻線が巻装されたステータと、磁極を構成する永久磁石を有してステータ内で回転するロータを備えている。そして、これらモータには、回転の力となる接線方向の力と、ステータに作用して当該ステータが振動する力となる直径方向(半径方向)のラジアル力が存在するが、このラジアル力の変動がステータの円環振動を引き起こし、それが電動圧縮機のハウジングに伝搬して、当該ハウジングを振動させることで騒音が発生する。
【0003】
一方、この種のモータは小型化の必要性から、巻線が集中巻きでステータのティースに巻装されるため、モータの磁束は正弦波では無く高調波を含むことになる。この空間高調波は磁石磁束に影響を与えるため、その影響で様々な次数のラジアル力が発生することになる。特に、ロータの磁極数とステータのティース数が2対3となる永久磁石同期モータ(PMSM)においては、ラジアル力の6次成分や12次成分は、UVW軸(UVW相)の変動位相が完全に一致することになるため、ステータの振動は円環0次の振動となり、より大きな騒音を発生することになる。
【0004】
一般的にこのラジアル力による騒音の抑制は困難であるため、従来では機械共振と重ならないように機械設計を行っていた。そのため、構造の自由度が損なわれると共に、特に車載用の機器で要求される小型化の阻害要因ともなっていた。そこで、モータに印加する駆動電流の制御により、係るラジアル力を抑制する方式が種々提案されている(例えば、特許文献1~特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-341864号公報
【特許文献2】特開2017-139945号公報
【特許文献3】特開2020-167921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の制御方式は、電流制御装置を用いてフィードバック制御を基本波と高調波に対して行っているため、非常に高価な電流制御装置が必要となる。また、特許文献2の実施例1、2では、電圧を用いてモータを制御し、基本波電圧設定部は回転数が所望の値となるように回転数の比例積分(PI)制御を行っているが、電流制御を行っていないため、無効電流の制御ができず、また、高調波電圧設定部との連携もできない。
【0007】
また、特許文献2の実施例3、4の場合、モータの電流制御(dq軸PI制御。以下、dq-PI制御)を用いているが、dq-PI制御では、回転数や負荷トルクが変化したときに発生する過渡的な変動にも追従できるように、制御周波数を広帯域化する(後述するカットオフ周波数を高くする)必要があり、その影響で高調波電圧設定部の出力に干渉してしまい、ラジアル力を抑制する効果が薄れてしまう。特に、高調波電圧設定部は基本波電流の情報を用いた制御を行っていないため、例えば電動圧縮機のように回転数が変動し、負荷も変化する機器を制御対象とした場合には実用的ではない。
【0008】
更に、特許文献3ではラジアル力とトルクリプルの双方を抑制するdq軸電流を数式的に導出し、その電流値を確実に出力することができるように基本波と高調波共にdq軸電流PI制御を行っている。しかしながら、出力する狙いの電流値が非常に限定的なポイントとなっており、この電流をフィードバック制御で精密に出力するためには、やはり高価な制御装置が必要になるという問題があった。
【0009】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、ラジアル力の変動に起因して発生するモータの騒音を効果的に抑制することができる実用的な制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のモータの制御装置は、巻線が巻装されたステータ及び磁極が構成されたロータを有するモータに電気的に接続され、巻線に駆動電流を流して当該モータを駆動するインバータを備えたものであって、モータの電気角速度を推定する電気角速度推定部と、巻線に基本波電流を流すための基本波指令値を算出する基本波制御部と、ステータに作用するラジアル力の変動を抑制するための高調波電流をラジアル力抑制電流とし、このラジアル力抑制電流を巻線に流すための高調波指令値を、UVW軸電流指令値、電気角速度推定部により取得された位相、及び、モータ定数に基づいて算出する高調波制御部と、基本波制御部により算出された基本波指令値に、高調波制御部により算出された高調波指令値を重畳する指令値重畳部と、この指令値重畳部にて高調波指令値を基本波指令値に重畳した指令値に基づき、ラジアル力抑制電流を基本波電流に重畳した駆動電流が、巻線に流れるようにインバータを操作する操作部を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明のモータの制御装置は、上記発明において高調波制御部は、ステータに作用する6次、及び/又は、12次のラジアル力の変動を抑制するラジアル力抑制電流を巻線に流すための高調波指令値を算出することを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明のモータの制御装置は、上記各発明において高調波制御部は、ステータに作用するラジアル力の最大値と最小値の差を小さくする方向のラジアル力抑制電流を巻線に流すための高調波指令値を算出することを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明のモータの制御装置は、上記各発明において高調波制御部は、αβ軸及びdq軸電流に不感であるUVW軸の3次成分と6次成分のみで構成された下記数式(I)、(II)、(III)からUVW軸のラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*を算出し、算出された各ラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*に基づいて、前記高調波指令値を算出することを特徴とする。
【0014】
【0015】
但し、θreは位相であり、Ku3c(iu)、Ku3s(iu)、Ku6c(iu)、Ku6s(iu)はU軸電流指令値の大きさとモータ定数により変化する係数、Kv3c(iv)、Kv3s(iv)、Kv6c(iv)、Kv6s(iv)はV軸電流指令値の大きさとモータ定数により変化する係数、Kw3c(iw)、Kw3s(iw)、Kw6c(iw)、Kw6s(iw)はW軸電流指令値の大きさとモータ定数により変化する係数である。
【0016】
請求項5の発明のモータの制御装置は、上記各発明において基本波制御部は、正弦波に定常偏差零で制御する正弦波追従制御により前記基本波指令値を算出することを特徴とする。
【0017】
請求項6の発明のモータの制御装置は、請求項4の発明において基本波制御部は、正弦波に定常偏差零で制御する正弦波追従制御により前記基本波指令値を算出すると共に、正弦波追従制御における制御ゲインのうちのカットオフ周波数が、αβ軸において空間高調波により発生する高調波電流リプルの周波数プラスマイナス所定値以内、若しくは、高調波電流リプルの周波数より低い値に設定されていることを特徴とする。
【0018】
請求項7の発明のモータの制御装置は、請求項5又は請求項6の発明において基本波制御部が行う正弦波追従制御は、電気角速度の正弦波成分を持つ制御ゲインを含むフィードバック制御により、基本波指令値を正弦波に追従させることを特徴とする。
【0019】
請求項8の発明のモータの制御装置は、請求項1乃至請求項3の発明において、高調波制御部は、UVW軸の6次成分と11次成分で構成された下記数式(IV)、(V)、(VI)からUVW軸のラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*を算出し、算出された各ラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*に基づいて、高調波指令値を算出することを特徴とする。
【0020】
【0021】
但し、θreは位相であり、Ku6c(iu)、Ku6s(iu)、Ku11c(iu)、Ku11s(iu)はU軸電流指令値の大きさとモータ定数により変化する係数、Kv6c(iv)、Kv6s(iv)、Kv11c(iv)、Kv11s(iv)はV軸電流指令値の大きさとモータ定数により変化する係数、Kw6c(iw)、Kw6s(iw)、Kw11c(iw)、Kw11s(iw)はW軸電流指令値の大きさとモータ定数により変化する係数である。
【0022】
請求項9の発明のモータの制御装置は、請求項8の発明において基本波制御部は、正弦波に定常偏差零で制御する正弦波追従制御により基本波指令値を算出することを特徴とする。
【0023】
請求項10の発明のモータの制御装置は、上記発明において基本波制御部が行う正弦波追従制御は、電気角速度の正弦波成分を持つ制御ゲインを含むフィードバック制御により、基本波指令値を正弦波に追従させることを特徴とする。
【0024】
請求項11の発明のモータの制御装置は、請求項9又は請求項10の発明において基本波制御部は、正弦波追従制御における制御ゲインのうちのカットオフ周波数が、ラジアル力抑制電流の周波数より低く設定されていることを特徴とする。
【0025】
請求項12の発明のモータの制御装置は、上記各発明においてモータは、ロータの磁極数とステータのティース数が2対3となる永久磁石同期モータであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、巻線が巻装されたステータ及び磁極が構成されたロータを有するモータに電気的に接続され、巻線に駆動電流を流して当該モータを駆動するインバータを備えたモータの制御装置において、モータの電気角速度を推定する電気角速度推定部と、巻線に基本波電流を流すための基本波指令値を算出する基本波制御部と、ステータに作用するラジアル力の変動を抑制するための高調波電流をラジアル力抑制電流とし、このラジアル力抑制電流を巻線に流すための高調波指令値を、UVW軸電流指令値、電気角速度推定部により取得された位相、及び、モータ定数に基づいて算出する高調波制御部と、基本波制御部により算出された基本波指令値に、高調波制御部により算出された高調波指令値を重畳する指令値重畳部と、この指令値重畳部にて高調波指令値を基本波指令値に重畳した指令値に基づき、ラジアル力抑制電流を基本波電流に重畳した駆動電流が、巻線に流れるようにインバータを操作する操作部を備えている。即ち、ラジアル力の変動を抑制するラジアル力抑制電流を巻線に流すための高調波指令値を、UVW軸電流指令値に基づいて算出し、この高調波指令値を、基本波指令値にフィードフォワード的に重畳するようにしたので、データテーブルによる補正を不要とし、比較的安価で実用的な制御装置により、ラジアル力の変動に起因する騒音を効果的に抑制することができるようになる。
【0027】
また、UVW軸で発生するラジアル力の変動を抑制するラジアル力抑制電流を、UVW軸電流指令値に基づき、UVW軸で直接制御するため、適切なラジアル力抑制電流を流すための高調波指令値が得られるようになる。
【0028】
例えば、請求項2の発明の如く高調波制御部が、ステータに作用する6次、及び/又は、12次のラジアル力の変動を抑制するラジアル力抑制電流を巻線に流すための高調波指令値を算出するようにすれば、円環0次のステータの振動を抑制し、騒音を効果的に低減することが可能となるが、この6次や12次のラジアル力に影響するラジアル力抑制電流のうち、αβ軸やdq軸では現れず、UVW軸でのみ現れるものは3次と6次の電流である。
【0029】
その理由は、UVW軸をαβ軸に変換するクラーク変換の式から理解できる。即ち、クラーク変換には実際にはαβと0(零)という三つの座標があり、UVW軸の3次、6次の成分は、0(零)の成分(零相成分と呼ばれる)に変換され、αβ軸やdq軸では出て来なくなるからである。
【0030】
従って、UVW軸で3次、6次のラジアル力抑制電流(後述するラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*)にてラジアル力の変動を抑制することで、騒音を効果的に低減できることになるが、ラジアル力を抑制する3次、6次の電流を求めるためには、UVW軸にて基本波成分以外の電流値が略零であることが望ましい。一方で、一般的にモータの空間高調波の影響で、dq軸6次高調波(UVW軸での5次、7次の高調波電流)の電流リプルが励起される。この5次、7次のリプル電流の影響でラジアル力の抑制効果が十分に得られなくなるため、それを回避できるよう、基本波制御部ではdq軸、或いは、αβ軸において、基本波成分以外の高調波成分を抑圧し、理想的な正弦波となるように制御を行うことになる。
【0031】
前述した通り、UVW軸で3次、6次の電流成分は、dq軸、或いは、αβ軸においては零相成分となり、現れない。そして、ベクトル制御ではこの零相成分は制御しないため、高調波制御部の出力電流が基本波制御部により抑圧されることはない。従って、本発明によれば高調波制御部によりラジアル力を独立して制御することも可能となる。
【0032】
また、請求項3の発明の如く高調波制御部が、ステータに作用するラジアル力の最大値と最小値の差を小さくする方向のラジアル力抑制電流を巻線に流すための高調波指令値を算出することにより、ステータの振動による騒音を一層効果的に低減することができるようになる。
【0033】
具体的には請求項4の発明の如く高調波制御部は、αβ軸及びdq軸電流に不感であるUVW軸の3次成分と6次成分のみで構成された前記数式(I)、(II)、(III)からUVW軸のラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*を算出し、算出された各ラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*に基づいて、高調波指令値を算出する。これにより、一層的確に騒音の低減を図ることが可能となる。
【0034】
また、請求項5の発明では基本波制御部が、正弦波に定常偏差零で制御する正弦波追従制御により基本波指令値を算出するようにした。この正弦波追従制御は、具体的には請求項7の発明の如く、電気角速度の正弦波成分を持つ制御ゲインを含むフィードバック制御により、基本波指令値を正弦波に追従させるもので、回転数周波数が制御に入るため、回転数周波数に対して十分な追従特性を確保することができる。
【0035】
更に、基本波制御部で行う正弦波追従制御では、同様のカットオフ周波数を設定した場合にはdq-PI制御に比して基本波以外の高調波の追従特性が倍以上高くなり、カットオフ周波数を低く設定したとしても、十分な空間高調波による高調波電流リプルの抑圧特性が得られる。そこで、請求項6の発明の如く正弦波追従制御におけるカットオフ周波数を、αβ軸において空間高調波により発生する高調波電流リプルの周波数プラスマイナス所定値以内、若しくは、高調波電流リプルの周波数より低い値に設定することで、空間高調波により励起される高調波電流を抑圧し、請求項4の高調波制御部の演算結果がより効果的にラジアル力を抑制できるようになる。
【0036】
また、前述した如く高調波制御部が、ステータに作用する6次、及び/又は、12次のラジアル力の変動を抑制するラジアル力抑制電流を巻線に流すための高調波指令値を算出するようにすれば、円環0次のステータの振動を抑制し、騒音を効果的に低減することが可能となるが(請求項2の発明)、この6次や12次のラジアル力に影響するラジアル力抑制電流としては、UVW軸における6次や11次も考えられる。
【0037】
従って、UVW軸で6次、11次のラジアル力抑制電流(ラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*)にてラジアル力の変動を抑制することでも、騒音を低減できることになるが、6次は前述した通り、αβ軸及びdq軸電流には現れず、また、11次はdq軸では12次となって現れるため、空間高調波により励起されるdq軸6次高調波電流(UVW軸での5次、7次の高調波電流)とは次数が異なり、高い周波数になる。従って、UVW軸で6次や11次のラジアル力抑制電流によっても基本波制御部で抑圧を行う周波数との干渉も生じず、高調波制御部によりラジアル力を独立して制御することも可能となる。
【0038】
その場合は、具体的には請求項8の発明の如く高調波制御部は、UVW軸の6次成分と11次成分で構成された前記数式(IV)、(V)、(VI)からUVW軸のラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*を算出し、算出された各ラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*に基づいて、高調波指令値を算出する。これにより、的確に騒音の低減を図ることが可能となる。
【0039】
また、この場合も請求項9の発明の如く基本波制御部が、正弦波に定常偏差零で制御する正弦波追従制御により基本波指令値を算出するようにする。この場合も正弦波追従制御は、具体的には請求項10の発明の如く、電気角速度の正弦波成分を持つ制御ゲインを含むフィードバック制御により、基本波指令値を正弦波に追従させるもので、回転数周波数が制御に入るため、回転数周波数に対して十分な追従特性を確保することができる。
【0040】
更に、基本波制御部で行う正弦波追従制御では、前述した通りdq-PI制御に比して高調波追従特性が高くなる。従って、請求項8の場合は請求項11の発明の如く、正弦波追従制御におけるカットオフ周波数を、ラジアル力抑制電流の周波数である11次成分の電流より低く設定することで、高調波制御部が出力するラジアル力抑制電流を流すための高調波指令値を、周波数帯において基本波制御部における制御の対象外とすることができ、尚且つ、空間高調波による高調波電流リプルを抑圧することができるようになり、干渉を排除した効果的な騒音低減を実現することができるようになる。
【0041】
そして、上記本発明の制御装置は、請求項12の発明の如きロータの磁極数とステータのティース数が2対3となる永久磁石同期モータにおけるラジアル力に起因した騒音の低減に特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】本発明を適用した一実施例のモータの制御装置のブロック図である。
【
図3】
図1の基本波制御部における正弦波追従制御のブロック図である。
【
図4】正弦波追従制御とdq-PI制御における外乱応答性を示すボード線図である(カットオフ周波数600Hzの場合)。
【
図6】ラジアル力抑制電流による磁束及び磁石磁束の次数とラジアル力の次数の関係を示す図である(実施例1)。
【
図7】ラジアル力抑制電流による磁束及び磁石磁束の次数とラジアル力の次数の関係を示す図である(実施例2)。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づき詳細に説明する。
【実施例0044】
(1)モータ8の制御装置1
図1は、本発明を適用した一実施例のモータ8の制御装置1の構成を示すブロック図、
図2は
図1中のインバータ4の具体的な電気回路構成を示す図である。実施例の制御装置1は、インバータ4と、制御部6を備え、直流電源である車両のバッテリ7から供給された電力を所定の周波数の交流電力に変換してモータ8に供給する構成とされている。
【0045】
また、実施例の制御装置1が駆動制御するモータ8は、図示しない車載用の電動圧縮機の圧縮機構を駆動するものであり、永久磁石埋込型同期モータ(IPMSM:Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)に代表される永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)により構成されている。このモータ8(実施例ではIPMSM)はUVW軸の巻線2U、2V、2W(
図2)が集中巻きでティースに巻装されたステータ3と、このステータ3(
図1)の内側に所定のエアギャップを有して配置され、磁極を構成する永久磁石Mが埋め込まれたロータ5(
図1)から構成されている。尚、実施例のモータ8は、ロータ5の磁極数とステータ3のティース数の比が2対3とされている。
【0046】
(2)インバータ4
インバータ4は、入力ノードがバッテリ7に接続され、バッテリ7の出力をスイッチングして三相交流に変換し、モータ8に供給するように構成されている。実施例のインバータ4は、複数のスイッチング素子がブリッジ結線されることで構成されている。このインバータ4は、三相交流をモータ8に出力するため、6個のスイッチング素子S1~S6を備えている。
【0047】
詳しくは、インバータ4は、2つのスイッチング素子を互いに直列接続した三つのスイッチングレグを備え、各スイッチングレグにおける上アームのスイッチング素子S1~S3と、下アームのスイッチング素子S4~S6との中点が、それぞれモータ8の各相(U相、V相、W相)の巻線2U、2V、2Wに接続されている。また、各スイッチング素子S1~S6には、還流ダイオードD1~D6がそれぞれ逆並列接続されている。そして、インバータ4は、これらのスイッチング素子S1~S6のON-OFF動作によって、バッテリ7から入力された直流電圧をスイッチングし、三相交流電圧に変換してモータ8に供給する。
【0048】
(3)制御部6
次に、実施例の制御部6は、モータ8の電気角速度推定値ωre(ハット)と、電気角速度指令値ωre
*との偏差に基づき、インバータ4の各スイッチング素子S1~S6をスイッチングするためのPWM信号を生成し、モータ8を位置センサレスベクトル制御にて駆動するものである。そして、実施例の制御部6は、機械角-電気角変換器9と、減算器11と、PI演算部12と、基本波制御部13と、指令値重畳部を構成する加算器16、17、18と、操作部19と、uvw-αβ変換器21と、電気角速度推定部22と、積分器23と、高調波制御部24を備えた構成とされている。
【0049】
機械角-電気角変換器9は、機械角速度指令値ωrm
*を上述した電気角速度指令値ωre
*に変換する。PI演算部12は、減算器11が求めた電気角速度推定値ωre(ハット)と電気角速度指令値ωre
*との偏差に対して、比例・積分演算(PI演算)を行い、その結果としてq軸電流指令値iq
*を生成し、出力する。
【0050】
uvw-αβ変換器21にはモータ8のU軸電流iuとV軸電流ivが入力され、これらからW軸電流iwを算出する(U軸電流iu、V軸電流iv、W軸電流iwはそれぞれU相電流、V相電流、W相電流を意味している。以下、同じ)。更に、uvw-αβ変換器21は、これらU軸電流iu、V軸電流iv、W軸電流iwから、α軸電流推定値iα(ハット)、β軸電流推定値iβ(ハット)を導出し、出力する。
【0051】
電気角速度推定部22は、uvw-αβ変換器21が出力するα軸電流推定値iα(ハット)及びβ軸電流推定値iβ(ハット)と、基本波制御部13の正弦波追従制御部26が出力するα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*とから前述した電気角速度推定値ωre(ハット)を導出し、出力する。積分器23にはこの電気角速度推定値ωre(ハット)が入力され、積分器23は電気角速度推定値ωre(ハット)から位相(電気角推定値)θre(ハット)を生成して出力する。
【0052】
尚、本出願では積分器23は電気角速度推定部22の一部を構成するものとする。そして、この積分器23が出力する位相θre(ハット)は後述する基本波制御部13のdq-αβ変換部27と、高調波制御部24のdq-uvw変換部56及び補整値導出部57に入力される。
【0053】
また、電気角速度推定部22が出力する電気角速度推定値ωre(ハット)は、減算器11に入力され、この減算器11において前述した如く電気角速度指令値ωre
*から電気角速度推定値ωre(ハット)が減算されて、それらの偏差が算出される。そして、この偏差が前述した如くPI演算部12に入力されることになる。
【0054】
基本波制御部13は、後に詳述する如く巻線2U、2V、2Wに基本波電流を流すためのUVW軸電圧の基本波指令値vu
*、vv
*、vw
*を算出して出力する。また、高調波制御部24は、後に詳述する如くステータ3に作用するラジアル力の変動を抑制するための高調波電流であるラジアル力抑制電流を巻線2U、2V、2Wに流すためのUVW軸電圧の高調波指令値vuh
*、vvh
*、vwh
*を算出して出力する。
【0055】
この高調波制御部24が出力するU軸電圧の高調波指令値vuh
*は、加算器16にて基本波制御部13が出力するU軸電圧の基本波指令値vu
*に重畳され、高調波制御部24が出力するV軸電圧の高調波指令値vvh
*は、加算器17にて基本波制御部13が出力するV軸電圧の基本波指令値vv
*に重畳される。また、高調波制御部24が出力するW軸電圧の高調波指令値vwh
*は、加算器18にて基本波制御部13が出力するW軸電圧の基本波指令値vw
*に重畳される。
【0056】
各加算器16~18にて高調波指令値vuh
*、vvh
*、vwh
*を基本波指令値vu
*、vv
*、vw
*にそれぞれ重畳したUVW軸電圧の指令値は、操作部19に入力される。操作部19はこれらUVW軸電圧の指令値からインバータ4の各スイッチング素子S1~S6をスイッチング(PWM制御)するためのUVW軸のPWM信号Su、Sv、Swを生成する。これにより、ラジアル力抑制電流を基本波電流に重畳した駆動電流をモータ8の巻線2U、2V、2Wに流し、位置センサレスのベクトル制御を実現するものである。
【0057】
(4)基本波制御部13
次に、制御部6の基本波制御部13について詳述する。実施例の基本波制御部13は、dq-αβ変換部27と、前述した正弦波追従制御部26と、αβ-uvw変換部28を備えており、巻線2U、2V、2Wに基本波電流を流すためのUVW軸電圧の基本波指令値vu
*、vv
*、vw
*を算出し、出力する。
【0058】
(4-1)dq-αβ変換部27
この基本波制御部13のdq-αβ変換部27は、d軸電流指令値i
d
*と、PI演算部12が出力するq軸電流指令値i
q
*を、積分器23が出力する位相θ
re(ハット)を用い、静止座標系上でα軸電流指令値iα
*とβ軸電流指令値iβ
*に変換して出力する。そして、このdq-αβ変換部27が出力するα軸電流指令値iα
*とβ軸電流指令値iβ
*は、正弦波追従制御部26の後述する減算器31、32(
図3)にそれぞれ入力される。
【0059】
(4-2)αβ-uvw変換部28
基本波制御部13のαβ-uvw変換部28は、後述する如く正弦波追従制御部26が出力するα軸電圧指令値vα*と、β軸電圧指令値vβ*を、UVW軸電圧の基本波指令値vu
*、vv
*、vw
*に変換して出力する。そして、このαβ-uvw変換部28が出力する基本波指令値vu
*、vv
*、vw
*は、前述した重畳部を構成する加算器16~18にそれぞれ入力される。
【0060】
(4-3)正弦波追従制御部26
次に、
図3に基本波制御部13の正弦波追従制御部26のブロック図を示す。正弦波追従制御部26は、減算器31、32と、加算器33、34と、減算器36、37と、F/B制御部38、39と、PI制御部41、42と、制御安定部43、44と、減算器46、47と、アンチワインドアップ補償部48、49を備えている。
【0061】
この正弦波追従制御部26では、減算器31が出力するα軸電流指令値iα*とα軸電流推定値iα(ハット)との偏差に対し、PI制御部41が比例・積分演算を行うことにより、α軸電流指令値iα*とα軸電流推定値iα(ハット)との偏差が小さくなるようにα軸電圧指令値vα*を生成し、減算器32が出力するβ軸電流指令値iβ*とβ軸電流推定値iβ(ハット)との偏差に対し、PI制御部42が比例・積分演算を行うことにより、β軸電流指令値iβ*とβ軸電流推定値iβ(ハット)との偏差が小さくなるようにβ軸電圧指令値vβ*を生成する。
【0062】
この場合、電気角速度ωreの正弦波成分を持つ制御ゲインを含むF/B制御部38、39が、減算器36、37にフィードバック制御を行うことにより、α軸電流iαとβ軸電流iβを電気角速度ωreに追従させる正弦波追従制御(αβ-sin制御)を実行する。
【0063】
また、制御安定部43、44はα軸電流iαとβ軸電流iβにフィードバックゲインf3をかけ、減算器46、47でPI制御部41、42の出力から減算し、制御の安定化を図る。
【0064】
更に、アンチワインドアップ補償部48、49は、uvw-αβ変換器51、52が出力するリミッタ前後の差分信号(Δvu、Δvv、Δvwをαβ軸に変換したΔvα、Δvβ)に、ゲイン乗算部53、54でゲイン(ゲイン乗算部53、54内に示す)を乗算したものを、加算器33、34でα軸電流指令値iα*とα軸電流推定値iα(ハット)との偏差、及び、β軸電流指令値iβ*とβ軸電流推定値iβ(ハット)との偏差にフィードバックするリミッタ偏差フィードバック法により、所謂ワインドアップ現象による電流のオーバーシュートや振動現象を抑制する。
【0065】
これらにより、α軸電圧指令値vα*とβ軸電圧指令値vβ*をより正弦波に近づけ、それにより、前述した如くαβ-uvw変換部28で変換されたUVW軸電圧の基本波指令値vu
*、vv
*、vw
*を正弦波に追従させ、定常偏差零で正弦波に制御し、モータ8の空間高調波の外乱により励起されるUVW軸の主に5次、7次の高調波電流を抑制する。尚、モータ磁束は、dq軸での0次(直流)成分に加え、空間高調波による主に6次成分があるので、正弦波追従制御部26で抑圧したい外乱となる高調波は、dq軸で6次成分となる。
【0066】
ここで、
図3のブロック図中のPI制御部41、42、制御安定部43、44における各フィードバックゲインf
1、f
2、f
3を下記数式(VII)、(VIII)、(IX)で示す。
f
1=L
d(ω
re
2-3ω
c
2) ・・・(VII)
f
2=3ω
cL
d(ω
re
2-ω
c
2/3) ・・・(VIII)
f
3=3L
dω
c-R
a ・・・(IX)
尚、L
dはモータ8の巻線2U~2W(電機子巻線)のd軸インダクタンス、R
aは巻線2U~2Wの抵抗、ω
reは前述したモータ8の電気角速度、ω
cはカットオフ周波数である。
【0067】
(4-4)正弦波追従制御におけるカットオフ周波数ω
cの設定(その1)
次に、正弦波追従制御部26での上述した正弦波追従制御(αβ-sin制御)におけるこの実施例でのカットオフ周波数ω
cの設定について説明する。
図4は正弦波追従制御(実線)とdq-PI制御(破線)における外乱応答性を示すボード線図である(基本波周波数は100Hz、カットオフ周波数は600Hzの場合)。横軸はモータ8の電流周波数(Hz)、縦軸はゲインである。正弦波追従制御ではこのゲインが全体的に低くなっており、外乱追従性が悪い、即ち、外乱抑圧性能が高いことを示している。
【0068】
以上により、dq-PI制御に対して正弦波追従制御は外乱抑圧性能が高く、空間高調波等により発生する高調波電流を抑圧し、1次成分のみが現れるように電流制御が可能であるといえる。
【0069】
また、空間高調波の影響により基本波に対して5次、7次の高調波として現れる電流を外乱とした場合、基本波100Hzに対して高調波電流は500Hz、700Hzに現れる。
図4に示す通り、等しいカットオフ周波数ω
cで制御した場合、dq-PI制御では、500Hzの外乱抑圧特性は-3dB程度、700Hzの場合-2dB程度であるのに対して、正弦波追従制御では-11dB程度、-8dB程度と大きな外乱抑圧特性を示す。このことは、正弦波追従制御は、dq-PI制御に対して、外乱抑圧特性が倍以上であることを意味する。このように、基本波よりも高い周波数の外乱を抑圧するためには、カットオフ周波数ω
cを高く設定する必要があるが、カットオフ周波数ω
cはPWM制御周期に対して、大きくても1/10以下にすることが一般的である。そのため、同様のカットオフ周波数ω
cを設定した場合に、より高い周波数の外乱抑圧特性が優れている正弦波追従制御を用いることが好ましいといえる。また、カットオフ周波数を低く設定した場合、基本波制御部の電流を実現するために必要となる電圧は小さくなる傾向にある。インバータが出力できる電圧の大きさは入力電圧の大きさにより制限されるため、正弦波追従制御を用いることで、基本波制御部の出力電圧を小さくすることができ、高調波制御部において必要な電圧を、制限を設けることなく印加することが可能となるという効果も得られる。
【0070】
(5)高調波制御部24
次に、制御部6の高調波制御部24について詳述する。この実施例の高調波制御部24は、dq-uvw変換部56と、補整値導出部57と、電圧次元変換部61~63を備えており、巻線2U、2V、2Wにラジアル力抑制電流を流すためのUVW軸電圧の高調波指令値vuh
*、vvh
*、vwh
*を算出し、出力する。ここで、上記ラジアル力抑制電流は、ステータ3に作用するラジアル力の変動を抑制するための高調波電流である。
【0071】
(5-1)dq-uvw変換部56
この高調波制御部24のdq-uvw変換部56は、d軸電流指令値id
*と、PI演算部12が出力するq軸電流指令値iq
*を、積分器23が出力する位相θre(ハット)を用いてU軸電流指令値iu
*と、V軸電流指令値iv
*と、W軸電流指令値iw
*に変換し、出力する。そして、このdq-uvw変換部56が出力するU軸電流指令値iu
*、V軸電流指令値iv
*、W軸電流指令値iw
*は、補整値導出部57に入力される。
【0072】
(5-2)補整値導出部57
この実施例の高調波制御部24の補整値導出部57は、積分器23(電気角速度推定部22)から取得された位相θre(ハット)と、dq-uvw変換部56が出力するU軸電流指令値iu
*、V軸電流指令値iv
*、W軸電流指令値iw
*と、モータ定数(モータ8の巻線2U~2Wのインダクタンスや抵抗、巻き数等)に基づき、上述したラジアル力抑制電流のUVW軸のラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*を算出して出力する。
【0073】
(5-2-1)モータ8のステータ3に作用するラジアル力
ここで、前述した如くモータ磁束はdq軸で0次(直流)成分と、空間高調波の6次成分があるので、モータ8のステータ3に作用するU軸のラジアル力Fu(θre)、V軸のラジアル力Fv(θre)、W軸のラジアル力Fw(θre)は、磁束密度とステータ3のティース先端の面積と真空の透磁率の関係(マクスウェル応力の式)より、下記数式(X)で示すことができ、正のときにロータ5と、ステータ3のロータ5に近い内側に膨らむ方向の力がかかる。このステータ3の内側の力が外側に伝わり、ステータ3の外側が振動することで騒音が生じる。尚、数式(X)中のAは、磁束の二乗値をラジアル力に変換する変換係数(モータ8の特性に依存)であり、数式(XI)となる。
【0074】
【0075】
また、数式(X)において、右辺の第1項はモータ8に流れる電流の大きさにより決まる値であり、下記数式(XII)で示される。尚、数式(XII)中のBは、UVW軸電流(UVW相電流)を磁束に変換するための変換係数(モータ8の特性に依存)であり、数式(XIII)となる。
【0076】
【0077】
また、数式(X)において、右辺の第2項は磁石磁束により決まる値であり、下記数式(XIV)で示される。この数式(XIV)の右辺の第2項は空間高調波の6次成分である。
【0078】
【0079】
更に、数式(XIV)中のCdq
uvw(θre)は、dq軸とUVW軸との変換行列(相対変換)であり、下記数式(XV)となる。
【0080】
【0081】
尚、上記数式(X)~数式(XV)において、θreはU軸を0度としたときの位相であり、前述した積分器23から取得された位相θre(ハット)が採用される。φIu(θre)は位相θreのときの巻線2Uに流れるU軸電流iu(θre)に起因する磁束、φIv(θre)は位相θreのときの巻線2Vに流れるV軸電流iv(θre)に起因する磁束、φIw(θre)は位相θreのときの巻線2Wに流れるW軸電流iw(θre)に起因する磁束である。φum(θre)は位相θreのときのU相の永久磁石Mによる磁束、φvm(θre)は位相θreのときのV相の永久磁石Mによる磁束、φwm(θre)は位相θreのときのW相の永久磁石Mによる磁束である。
【0082】
また、μ0は真空の透磁率であり、Sqはステータ3のティース先端の面積、Nは1ティース当たりの巻線2U~2Wの巻き数、Tは1ティース当たりの巻線2U~2Wの並列巻き数、lgはステータ3のティースが面しているエアギャップの長さの平均値、ψfは磁石Mによる鎖交磁束のdq軸1次成分、ψs5、ψs7、ψc5、ψc7は磁石Mによる鎖交磁束のdq軸6次成分である。
【0083】
ここで、磁石磁束が綺麗な正弦波であり、電流も綺麗な正弦波である場合には、ラジアル力はUVW軸の2倍周波数の正弦波としてのみ現れることになるが、実施例のようにモータ8が永久磁石同期モータ(PMSM。実施例ではIPMSM)である場合、UVW軸の巻線2U、2V、2Wを集中巻きにするため、モータ8の磁束は正弦波では無く、高調波を含むことになる。この空間高調波は、数式(XIV)の磁石磁束に影響を与えるため、空間高調波を含むと、その影響で様々な次数のラジアル力が発生する。
【0084】
図5に各次数成分のU軸のラジアル力F
u(θ
re)、V軸のラジアル力F
v(θ
re)、W軸のラジアル力F
w(θ
re)を示す。
図5(a)は全周波数成分(ALL SUM)、
図5(b)は2次成分(2order)、
図5(c)は4次成分(4order)、
図5(d)は6次成分(6order)、
図5(e)は8次成分(8order)、
図5(f)は10次成分(10order)、
図5(g)は12次成分(12order)である。
【0085】
尚、
図5において実線はU軸のラジアル力F
u(θ
re)、破線はV軸のラジアル力F
v(θ
re)、点線はW軸のラジアル力F
w(θ
re)である。また、
図5では0度~180度までを表示しているが、実際にはそれ以降も繰り返すものである。更に、各次数のトルク振動は0Nを中心に振動しているが、全てのトルクの合計は、全て正の値となる。
【0086】
図5において、2次成分(b)、4次成分(c)、8次成分(e)、10次成分(f)はU軸のラジアル力F
u(θ
re)、V軸のラジアル力F
v(θ
re)、及び、W軸のラジアル力F
w(θ
re)が全て120度位相差をもっている。そのため、円環X次形状(Xは磁石極対数に依存)で変形するため、騒音としては現れ難い。
【0087】
しかしながら、実施例の如くロータ5の磁極数とステータ3のティース数が2対3のモータ8の場合、
図5の6次成分(d)や12次成分(g)は、U軸のラジアル力F
u(θ
re)、V軸のラジアル力F
v(θ
re)、及び、W軸のラジアル力F
w(θ
re)が同相になり、変動位相が完全に一致することになる。その結果、ステータ3は円環0次形状で変形し、振動は円環0次(円環0次モードの加振力)になる。この円環0次の振動は騒音が発生し易いため、この6次(
図5の(d))と12次(
図5の(g))のラジアル力の変動を抑制することで、騒音を抑制することができる。
【0088】
(5-2-2)6次と12次のラジアル力の変動抑制(その1)
ここで、数式(X)に数式(XII)と数式(XIV)を代入すると、U軸のラジアル力Fu(θre)、V軸のラジアル力Fv(θre)、及び、W軸のラジアル力Fw(θre)は下記数式(XVI)のようになる。但し、数式(XII)の各電流値を全て0(零)とし、電流による磁束が無いものとする。
【0089】
【0090】
数式(XVI)の右辺の変換行列を解いて、U軸(U相)で表現すると、数式(XVI)は下記数式(XVII)になる。
【0091】
【0092】
数式(X)におけるdq軸での0次成分が、数式(XVII)におけるUVW軸では1次成分になり、数式(X)におけるdq軸での6次成分が、数式(XVII)におけるUVW軸では5次成分と7次成分になることが分かる。
【0093】
数式(XVII)の右辺(1次、5次、7次成分)の二乗を展開すると、2次、4次、6次、8次、10次、12次、14次成分のラジアル力が現れる。このうち、前述した如く6次成分と12次成分のラジアル力が騒音の原因となる。
【0094】
これを抑制するために、UVW軸の電流として3次と6次の電流(高調波)を流すことを考えると、数式(X)における二乗展開する前の磁束の次数として1次、3次、5次、6次、7次が出てくる。これを二乗すると、出てくるラジアル力の次数は
図6のマトリックスで示すだけのものが出てくる。
【0095】
尚、
図6と後述する
図7において最上部の行と左端の列はUVW軸の前述の数式(X)における二乗展開する前の磁束を1ティース当たりの巻線の巻き数N倍した鎖交磁束の次数、最上部の行の各次数の下方に記載された数字が当該次数の電流が影響するラジアル力の次数である。また、
図6、
図7はU軸のみを示しており(V軸とW軸は120度位相差を持った磁束になる)、周波数次数のみを示し、振幅は割愛している。ψ
Iu等のψ
Iuから始まる係数は、U軸電流による鎖交磁束を示している。具体的には、ψ
Iuc1cos(θ
re)はU軸の基本波成分(1次成分)のうちのcos成分の電流値により発生する鎖交磁束、電流値により発生する鎖交磁束、ψ
Ius1sin(θ
re)はU軸の基本波成分(1次成分)のうちのsin成分の電流値により発生する鎖交磁束、ψ
Iuc3cos(3θ
re)はU軸の3次高調波のうちのcos成分の電流値により発生する鎖交磁束、ψ
Ius3sin(3θ
re)はU軸の3次高調波のうちのsin成分の電流値により発生する鎖交磁束、ψ
Iuc6cos(6θ
re)はU軸の6次高調波のうちのcos成分の電流値により発生する鎖交磁束、ψ
Ius6sin(6θ
re)はU軸の6次高調波のうちのsin成分の電流値により発生する鎖交磁束、ψ
Iuc11cos(11θ
re)はU軸の11次高調波のうちのcos成分の電流値により発生する鎖交磁束、ψ
Ius11sin(11θ
re)はU軸の11次高調波のうちのsin成分の電流値により発生する鎖交磁束とする。尚、鎖交磁束ψ
IuはU軸電流により磁束φ
Iuを1ティース当たりの巻線の巻き数N倍したものであり、その他のU軸電流による鎖交磁束ψ
Ius1sin(θ
re)等は全て、磁束を巻き数N倍したものを示している。また、ψ
f等のψ
I以外から始まる係数は、数式(XVII)の各係数に対応しており、磁石による鎖交磁束を示している(U軸に対する位相)。
【0096】
この
図6から明らかな如く、UVW軸で3次の高調波電流を追加すると、6次のラジアル力に影響を与えることができ、6次の高調波電流を追加すると、12次のラジアル力に影響を与えることができる。
【0097】
(5-2-3)ラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*の算出(その1)
前述した数式(X)~数式(XV)から導出した6次のUVW軸のラジアル力F6uvwと、12次のUVW軸のラジアル力F12uvwは、下記数式(XVIII)、(XIX)のように定義される。
F6uvw=F6ssin(6θre)+F6ccos(6θre) ・・・(XVIII)
F12uvw=F12ssin(12θre)+F12ccos(12θre) ・・・(XIX)
【0098】
数式(XVIII)及び数式(XIX)に示す6次のラジアル力F6uvwと、12次のラジアル力F12uvwの変動を抑制するため、高調波制御部24のこの実施例の補整値導出部57は、UVW軸の3次と6次の高調波電流(ラジアル力抑制電流)をモータ8の巻線2U、2V、2Wに流すためのUVW軸のラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*を、下記数式(I)、(II)、(III)を用いて算出する。
【0099】
【0100】
但し、θreはU軸を0度としたときの位相であり、積分器23(電気角速度推定部22)から取得された位相θre(ハット)が採用される。Ku3c(iu)、Ku3s(iu)、Ku6c(iu)、Ku6s(iu)はdq-uvw変換部56が出力するU軸電流指令値iu
*の大きさとモータ定数(モータ8の巻線2U~2Wのインダクタンスや抵抗、巻き数等)により変化する係数、Kv3c(iv)、Kv3s(iv)、Kv6c(iv)、Kv6s(iv)はdq-uvw変換部56が出力するV軸電流指令値iv
*の大きさとモータ定数により変化する係数、Kw3c(iw)、Kw3s(iw)、Kw6c(iw)、Kw6s(iw)はdq-uvw変換部56が出力するW軸電流指令値iw
*の大きさとモータ定数により変化する係数である。
【0101】
特に、数式(I)~(III)中の各係数Ku3c(iu)、Ku3s(iu)、Ku6c(iu)、Ku6s(iu)、Kv3c(iv)、Kv3s(iv)、Kv6c(iv)、Kv6s(iv)、Kw3c(iw)、Kw3s(iw)、Kw6c(iw)、Kw6s(iw)は、ステータ3に作用する前述した6次と12次のラジアル力の変動を抑制する方向、具体的にはラジアル力の最大値と最小値の差を小さくする方向のラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*になるような値が設定されている。
【0102】
即ち、補整値導出部57は、U軸電流指令値iu
*、V軸電流指令値iv
*、及び、W軸電流指令値iw
*と、積分器23(電気角速度推定部22に含まれる)により取得された位相θreと、モータ定数に基づき、ステータ3に作用する6次と12次のラジアル力の変動を抑制する方向(ラジアル力の最大値と最小値の差を小さくする方向)のラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*を算出して出力する。
【0103】
尚、上述した実施例では補整値導出部57が、6次と12次のラジアル力の変動を抑制する方向(ラジアル力の最大値と最小値の差を小さくする方向)のラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*を算出して出力するようにしたが、6次と12次のうちの何れか一方のラジアル力の変動を抑制するだけでも騒音抑制効果は期待できる。但し、実施例の如く6次と12次のラジアル力の変動を抑制することで、騒音抑制効果は増大する。
【0104】
また、実施例の如くUVW軸で3次に加えて6次の高調波電流を追加することで、3次の高調波電流により6次のラジアル力と、6次の高調波電流により12次のラジアル力を個別に抑制することが可能となる。
【0105】
(5-2-4)高調波指令値vuh
*、vvh
*、vwh
*の算出
この補整値導出部57にて算出されたU軸のラジアル力抑制電流指令値iuh
*は、電圧次元変換部61に入力される。この電圧次元変換部61では、ラジアル力抑制電流指令値iuh
*に(R+sLu)/(1+τs)が乗算されてU軸電圧の高調波指令値vuh
*に変換され、出力される。また、補整値導出部57にて算出されたV軸のラジアル力抑制電流指令値ivh
*は、電圧次元変換部62に入力される。この電圧次元変換部62では、ラジアル力抑制電流指令値ivh
*に(R+sLv)/(1+τs)が乗算されてV軸電圧の高調波指令値vvh
*に変換され、出力される。更に、補整値導出部57にて算出されたW軸のラジアル力抑制電流指令値iwh
*は、電圧次元変換部63に入力される。この電圧次元変換部63では、ラジアル力抑制電流指令値iwh
*に(R+sLw)/(1+τs)が乗算されてW軸電圧の高調波指令値vwh
*に変換され、出力される。但し、Lu、Lv、LwはUVW軸の巻線2U、2V、2Wのインダクタンス、Rはそれらの抵抗、sはラプラス演算子、τは時定数である。
【0106】
これにより、高調波制御部24は、U軸電流指令値iu
*、V軸電流指令値iv
*、及び、W軸電流指令値iw
*と、積分器23(電気角速度推定部22に含まれる)により取得された位相θreと、モータ定数に基づき、ステータ3に作用する6次と12次のラジアル力の変動を抑制する方向(ラジアル力の最大値と最小値の差を小さくする方向)のラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*を算出すると共に、これらラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*に基づき、巻線2U、2V、2Wにラジアル力抑制電流を流すためのUVW軸電圧の高調波指令値vuh
*、vvh
*、vwh
*を算出して出力することになる。
【0107】
(6)基本波指令値vu
*、vv
*、vw
*への高調波指令値vuh
*、vvh
*、vwh
*の重畳
この高調波制御部24が出力する高調波指令値vuh
*、vvh
*、vwh
*は、前述した如く各加算器16~18にそれぞれ入力される。各加算器16~18には基本波制御部13が出力する基本波指令値vu
*、vv
*、vw
*も入力されるので、各加算器16~18にて高調波指令値vuh
*、vvh
*、vwh
*を基本波指令値vu
*、vv
*、vw
*にそれぞれ重畳したUVW軸電圧の指令値が生成され、この指令値は操作部19に入力される。
【0108】
(7)モータ8の駆動電流
操作部19は前述した如くこれらUVW軸電圧の指令値からインバータ4の各スイッチング素子S1~S6をスイッチング(PWM制御)するためのUVW軸のPWM信号Su、Sv、Swを生成する。これにより、ラジアル力抑制電流を基本波電流に重畳した駆動電流をモータ8の巻線2U、2V、2Wに流すことで、6次と12次のラジアル力の変動を抑制する。
【0109】
以上詳述した如く本発明では制御部6に、モータ8の電気角速度推定値ωre(ハット)を推定する電気角速度推定部22と、巻線2U~2Wに基本波電流を流すための基本波指令値vu
*、vv
*、vw
*を算出する基本波制御部13と、ステータ3に作用するラジアル力の変動を抑制するための高調波電流をラジアル力抑制電流とし、このラジアル力抑制電流を巻線2U~2Wに流すための高調波指令値vuh
*、vvh
*、vwh
*を、U軸電流指令値iu
*、V軸電流指令値iv
*、W軸電流指令値iw
*、電気角速度推定部22により取得された位相θre(θre(ハット))、及び、モータ定数に基づいて算出する高調波制御部24と、基本波制御部13により算出された基本波指令値vu
*、vv
*、vw
*に、高調波制御部24により算出された高調波指令値vuh
*、vvh
*、vwh
*を重畳する加算器16~18と、この加算器16~18にて高調波指令値vuh
*、vvh
*、vwh
*を基本波指令値vu
*、vv
*、vw
*に重畳した指令値に基づき、ラジアル力抑制電流を基本波電流に重畳した駆動電流が、巻線2U~2Wに流れるようにインバータ4を操作する操作部19を設けている。
【0110】
即ち、ラジアル力の変動を抑制するラジアル力抑制電流を巻線に流すための高調波指令値vuh
*、vvh
*、vwh
*を、U軸電流指令値iu
*、V軸電流指令値iv
*、W軸電流指令値iw
*に基づいて算出し、この高調波指令値vuh
*、vvh
*、vwh
*を、基本波指令値vu
*、vv
*、vw
*に加算器16~18にてフィードフォワード的に重畳するようにしたので、データテーブルによる補正を不要とし、比較的安価で実用的な制御装置1により、ラジアル力の変動に起因する騒音を効果的に抑制することができるようになる。
【0111】
また、UVW軸で発生するラジアル力の変動を抑制するラジアル力抑制電流を、U軸電流指令値iu
*、V軸電流指令値iv
*、W軸電流指令値iw
*に基づき、UVW軸で直接制御するため、適切なラジアル力抑制電流を流すための高調波指令値vuh
*、vvh
*、vwh
*が得られるようになる。
【0112】
また、実施例では高調波制御部24が、ステータ3に作用する6次、及び、12次のラジアル力の変動を抑制するラジアル力抑制電流を巻線2U~2Wに流すための高調波指令値vuh
*、vvh
*、vwh
*を算出するようにしているので、円環0次のステータ3の振動を抑制し、騒音を効果的に低減することが可能となる。
【0113】
この6次や12次のラジアル力に影響し、且つ、αβ軸電流に影響の出ないラジアル力抑制電流は、UVW軸では3次と6次(ラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*)となる。従って、UVW軸で3次、6次にてラジアル力の変動を抑制することで、騒音を効果的に低減できることになるが、このUVW軸で3次、6次の電流成分はαβ軸に変換する際に零相成分となり現れなくなるため、基本波制御部13の正弦波追従制御部26では現れなくなる。従って、本発明によれば基本波制御部13における電流リプル抑制制御との干渉も生じなくなり、基本波制御部13により、空間高調波等の影響によって発生する電流リプルを抑圧しながらラジアル力を独立して制御することも可能となる。
【0114】
また、実施例では高調波制御部24が、ステータ3に作用するラジアル力の最大値と最小値の差を小さくする方向のラジアル力抑制電流を巻線2U~2Wに流すための高調波指令値vuh
*、vvh
*、vwh
*を算出するようにしているので、ステータ3の振動による騒音を一層効果的に低減することができるようになる。
【0115】
この場合、具体的には高調波制御部24の補整値導出部57が、αβ軸及びdq軸電流に不感であるUVW軸の3次成分と6次成分のみで構成された前記数式(I)、(II)、(III)からUVW軸のラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*を算出し、算出された各ラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*に基づいて、電圧次元変換部61~63が高調波指令値vuh
*、vvh
*、vwh
*を算出する。これにより、一層的確に騒音の低減を図ることが可能となる。
【0116】
また、実施例では基本波制御部13が、正弦波に定常偏差零で制御する正弦波追従制御(αβ-sin制御)により基本波指令値vu
*、vv
*、vw
*を算出するようにした。この正弦波追従制御(αβ-sin制御)は、具体的には電気角速度ωreの正弦波成分を持つ制御ゲインを含むフィードバック制御により、基本波指令値vu
*、vv
*、vw
*を正弦波に追従させるもので、回転数周波数が制御に入るため、回転数周波数に対して十分な追従特性を確保することができる。
【0117】
更に、基本波制御部13で行う正弦波追従制御(αβ-sin制御)では、同様のカットオフ周波数ωcを設定した場合には、dq-PI制御に比して基本波以外の高調波の外乱抑圧特性が高くなる。従って、実施例の如く正弦波追従制御(αβ-sin制御)におけるカットオフ周波数ωcを、αβ軸において空間高調波により発生する高調波電流リプルの周波数プラスマイナス所定値X1以内(所定値X1は所定の小さい値。即ち、高調波電流リプルの周波数と同等程度の値)、若しくは、高調波電流リプルの周波数より低い値に設定した場合でも、高調波制御部24が出力するラジアル力抑制電流を流すための高調波指令値vuh
*、vvh
*、vwh
*以外の高調波電流を抑圧することができ、より効果的な騒音低減を実現することができるようになる。
【0118】
そして、以上説明した本発明の制御装置1は、実施例の如き永久磁石同期モータにおけるラジアル力に起因した騒音の低減に特に有効である。
前述した通り、正弦波追従制御を実施した場合、dq-PI制御と比較して同様のカットオフ周波数を設定した場合には、カットオフ周波数周辺の外乱抑圧特性が優れており、この効果により空間高調波による5次、7次に発生する高調波電流リプルの抑圧を効果的に実現することができる。
一方、基本波制御部13はαβ軸で制御するが、後述する如く高調波制御部24が出力するUVW軸の11次成分はαβ軸では12次成分として出てくる。そこで、上述する如くカットオフ周波数ωcをラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*の周波数より低い値に設定することで、高調波制御部24が出力するラジアル力抑制電流を流すための高調波指令値vuh
*、vvh
*、vwh
*を、周波数帯において基本波制御部13における制御の対象外とし、基本波のみに追従させる。これにより、高調波制御部24の出力との干渉を抑制して、基本波制御部13によるモータ回転数の追従作用と、高調波制御部24による後述する騒音低減の作用の双方を発揮させる。
即ち、正弦波追従制御とdq-PI制御とでは、同様のカットオフ周波数を与えても外乱抑圧の効果が異なり、カットオフ周波数周辺及びそれ以下の外乱抑圧効果は高くなり、更にそれより高い周波数である、カットオフ周波数の倍以上の周波数では外乱抑圧効果は同程度となる。そこで、この実施例(実施例2)では係る正弦波追従制御の特性を利用し、正弦波追従制御部26での正弦波追従制御(αβ-sin制御)におけるカットオフ周波数ωcを、高調波制御部24が出力する高調波指令値vuh
*、vvh
*、vwh
*、実際にはラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*の周波数(12次の高調波の場合、1200Hz)より低い値に設定する(例えば、600Hz)。
特に、数式(IV)~(VI)中の各係数Ku6c(iu)、Ku6s(iu)、Ku11c(iu)、Ku11s(iu)、Kv6c(iv)、Kv6s(iv)、Kv11c(iv)、Kv11s(iv)、Kw6c(iw)、Kw6s(iw)、Kw11c(iw)、Kw11s(iw)は、ステータ3に作用する前述した6次と12次のラジアル力の変動を抑制する方向、具体的にはラジアル力の最大値と最小値の差を小さくする方向のラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*になるような値が設定されている。
尚、この実施例では補整値導出部57が、6次と12次のラジアル力の変動を抑制する方向(ラジアル力の最大値と最小値の差を小さくする方向)のラジアル力抑制電流指令値iuh
*、ivh
*、iwh
*を算出して出力するようにしたが、6次と12次のうちの何れか一方のラジアル力の変動を抑制するだけでも騒音抑制効果は期待できる。但し、実施例の如く6次と12次のラジアル力の変動を抑制することで、騒音抑制効果は増大する。
また、実施例の如くUVW軸で11次に加えて6次の高調波電流を追加することで、11次を追加したことにより12次のラジアル力が増大し過ぎたときに、6次の高調波電流でそれを相殺することが可能となり、総じて騒音の低減をより効果的に実現できる。
また、この実施例でも高調波制御部24が、ステータ3に作用する6次、及び、12次のラジアル力の変動を抑制するラジアル力抑制電流を巻線2U~2Wに流すための高調波指令値vuh
*、vvh
*、vwh
*を算出するようにしているので、円環0次のステータ3の振動を抑制し、騒音を低減することが可能となる。
また、この実施例でも高調波制御部24が、ステータ3に作用するラジアル力の最大値と最小値の差を小さくする方向のラジアル力抑制電流を巻線2U~2Wに流すための高調波指令値vuh
*、vvh
*、vwh
*を算出するようにしているので、ステータ3の振動による騒音を効果的に低減することができるようになる。
但し、実施例1で説明した如くdq-PI制御ではカットオフ周波数を高くした場合でも外乱抑圧特性が低いため、空間高調波により励起される高調波電流の抑圧特性が悪化し、騒音低減効果が薄くなる。そのため、実施例1では同等の高調波電流抑圧特性を得るためには基本波制御部に対して並列で、dq軸において5次や7次電流のみに追従し、抑制できるフィードバック制御器を別途設ける必要がある。
他方、実施例2でdq-PI制御で算出した場合は、前述した如くdq-PI制御ではカットオフ周波数を高くするため、高調波制御部との干渉が発生して騒音低減効果が薄くなる。これらに対して、各実施例の如く正弦波追従制御(αβ-sin制御)を行うことで係る種々の問題を解消することが可能となる。