(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130793
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】盛土造成地地下排水路用ドレーンカートリッジおよび該ドレーンカートリッジを用いた盛土造成地の地下排水路形成工法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/18 20060101AFI20220831BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
E02D17/18 Z
E02D17/20 106
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029384
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】521083614
【氏名又は名称】有限会社メンテテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100164013
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 隆一
(72)【発明者】
【氏名】田出 宣司
(72)【発明者】
【氏名】小林 芳文
(72)【発明者】
【氏名】西村 貢一
【テーマコード(参考)】
2D044
【Fターム(参考)】
2D044CA00
2D044EA03
(57)【要約】
【課題】既設の盛土造成地に対して地表から開削せずに地下排水路を設置するための盛土造成地の地下排水路用のドレーンカートリッジおよび地下排水路形成工法を提供する。
【解決手段】断面がドーナツ状で骨材が充填された蛇籠構造からなり透水性を有する外円筒管と、この外円筒管に内接して設けられ地下水を排水する内円筒管との2重管構造からなり、内円筒管は、円筒面に複数の貫通孔からなる透水孔が設けられ、内円筒管の外形寸法は外円筒管の内径寸法より小さく形成されており、内円筒管は外円筒管に内接して固定されていることを特徴とする。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面がドーナツ状で骨材が充填された蛇籠構造からなり透水性を有する外円筒管と、前記外円筒管に内接して設けられ地下水を排水する内円筒管との2重管構造からなり、
前記内円筒管は、円筒面に複数の貫通孔からなる透水孔が設けられ、前記内円筒管の外形寸法は前記外円筒管の内径寸法より小さく形成されており、
前記内円筒管は、前記外円筒管に内接して固定されていることを特徴とする盛土造成地の地下排水路用のドレーンカートリッジ。
【請求項2】
前記外円筒管は、形状を保持するための骨格部と前記骨格部の周囲を覆う網部とからなり、前記網部の内部には前記骨材が充填されていることを特徴とする請求項1に記載の盛土造成地の地下排水路用のドレーンカートリッジ。
【請求項3】
前記外円筒管の前記骨格部と前記網部とは金属棒材または線材からなり、前記骨格部の線径は前記網部の線径よりも大きく、
前記内円筒管は樹脂材料からなることを特徴とする請求項2に記載の盛土造成地の地下排水路用のドレーンカートリッジ。
【請求項4】
前記ドレーンカートリッジの外形寸法は、直径が300mm~500mmであることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の盛土造成地の地下排水路用ドレーンカートリッジ。
【請求項5】
前記骨材は、単位体積当たり重量が1200~1500kg/m3である軽量骨材を用いることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載の盛土造成地の地下排水路用ドレーンカートリッジ。
【請求項6】
既設盛土造成地の地下排水路の回復工法であって、
推進機を用いて、前記盛土造成地と原地盤との境界近傍の法面部側から水平または上向き方向に前記盛土造成地中に所定の距離まで削孔しながらケーシングを挿入するケーシング工程と、
前記ケーシング中に、ドレーンカートリッジの端部同士を連結して順次押し込みながら挿入し集排水管とする集排水管形成工程とを含み、
前記ドレーンカートリッジは、請求項1から5までのいずれか1項に記載のドレーンカートリッジを用いることを特徴とする既設盛土造成地の地下排水路回復工法。
【請求項7】
前記ケーシングを引き抜く工程をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の既設盛土造成地の地下排水路回復工法。
【請求項8】
前記ドレーンカートリッジの端部同士の連結は、前記内円筒管に挿入可能な外形寸法を有する接続用円筒管と、前記接続用円筒管の中央領域部に鍔状部とを有する接続部材により行うことを特徴とする請求項6または7に記載の既設盛土造成地の地下排水路回復工法。
【請求項9】
新設の盛土造成地の地下排水路の設置工法であって、
傾斜地を切り開いて盛土造成地の造成、または、谷埋め盛土造成地の造成をする際に、盛土の水みちとなる位置に沿って請求項1から5までのいずれか1項に記載のドレーンカートリッジを配置する工程と、
前記ドレーンカートリッジの内円筒管に挿入可能な外形寸法を有する接続用円筒管と、前記接続用円筒管の中央領域部に鍔状部とを有する接続部材を用いて、前記ドレーンカートリッジ同士を接続する工程と、
前記ドレーンカートリッジを含めた領域に盛土を行い、新設の盛土造成地を造成することを特徴とする地下排水路の設置工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、盛り土造成地や谷埋め盛り土造成地の水平地下排水路用のドレーンカートリッジとそれを用いた盛土造成地の水平地下排水路形成工法に関する。
【背景技術】
【0002】
高度成長期に山や丘を切り開いて宅地や工場団地を造成する事業が数多く行われてきた。これらの造成においては、傾斜地を平坦化するための盛り土造成や、谷を埋め立てるための谷埋め盛り土造成が数多く行われている。しかし、近年、大規模地震の発生や温暖化による異常豪雨の発生により、これらの盛土造成地が滑り崩壊や地盤変形を生じて、その上に建てられた家屋や施設に大きな被害を起こす事象が多発している。
【0003】
近年の調査では、そのような被害を生じる可能性のある危険な造成宅地が全国に5万カ所あると見積もられている。滑り崩壊や地盤変形を生じさせる原因の一つは、盛土造成地の地下に設けられている地下排水路が排水機能を失っており、そのために盛土内部の地下水面が上昇することにある。地下排水路は、盛土内部の地下水面を一定の高さに抑えるために設けられている。雨により地下水面が上昇すれば、それに合わせて地下排水路を通じて排水し、地下水面上昇を抑制する機能を有している。地下排水路は、一般に円筒状のパイプの外周部に多数の貫通孔を設けたドレーン管を地中に埋設して、地中の雨水や湧水をドレーン管に集めて排出する機能を有する。大雨が降っても地下排水路を通じて、地下に溜まった水を排水できれば、地滑りの発生を抑制することができる。これは、地滑り抑制工として設置されている。
【0004】
しかし、多くの造成地では、この地下排水路のメンテナンスがなされておらず、長い年月の経過に伴い、地下排水路中に土砂が堆積、あるいは土圧による変形などで、目詰まりを生じ、排水機能の低下あるいは機能喪失をしている場合が多い。また、従来設置されている地下排水路は100mm程度の直径の管を用いているものが多い。近年、温暖化の影響により、過去に例のないほどの集中豪雨の発生も頻発しているが、このような豪雨発生を想定したものではなかった。このため、地下排水路の機能低下だけでなく、設置時の予測水量を大きく超える地下水を十分に排水できず、土砂災害の危険性が従来よりもはるかに大きくなっている。造成された土地には、住宅や工場、また道路が建設されている。このため、ほとんどの造成地において、開削して元々設置されている地下排水路を露出させて改修工事を行うことはできない。
【0005】
盛土が老朽化してドレーンの機能が低下し、浸潤線、すなわち地下水位の位置が上昇すると、盛土の安定性が低下する。この対策のための盛土の補強工法が開示されている。具体的には、盛土の法面からケーシングパイプを水平又は上方への勾配をもって所定位置まで圧入する工程、ケーシングパイプの内部に透水性を有する袋体を敷設する工程、及び、袋体内にドレーン材料を配置する工程を具備した補強工法である。ケーシングパイプは最終的に引き抜かれるので、地下排水路は袋体中にドレーン材料を充填した構造からなる(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、土留壁の断面性能を過大にしなくても、地盤のうち、盛土を支持する部分の流動を確実に抑止すると同時に、盛土の法面を補強できる盛土の補強方法が開示されている。この方法は、地表上の盛土を補強する盛土の補強方法であって、地盤のうち、盛土を支持する部分の固定層まで到達する土留壁を地中に埋設する土留壁埋設工程と、盛土中に定着される定着機構を有し、盛土の斜面を補強する補強材を盛土中に埋設する補強材埋設工程と、土留壁及び補強材を互いに接続する接続工程とを備えたものである。この場合に、補強材は管状をなし、定着機構は補強材を径方向に貫く排水孔と、補強材の中空部とを通して盛土内の水分を外部に排出する排水路とすることも開示されている。そして、排水路として機能する補強材は鋼管杭であることが記載されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、地盤の液状化を防止するためのドレーン材とその設置方法が開示されている。ドレーン材は、透水性棒状体の周囲に透水性の弾力性材料層を設け、施行中は弾力性材料層に締め付け力を与えて縮小断面状態にし、施行後は締め付け力を開放して拡大断面状態にするようにした構造からなる。このようなドレーン材を、締め付け力により縮小断面状態にして集水孔に挿入し、その後締め付け力を開放することでドレーン材を拡大断面状態にして集水孔に押圧して挿入固定する設置方法である。この設置方法は立て孔の集水孔を目的として開発されたものであるが、地盤に水平方向あるいは傾斜方向に形成した集水孔に設置できることも記載されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
また、主に液状化対策に用いられるドレーン材を、地表を開削することなく水平方向に向けて埋設できる水平ドレーン材の埋設工法も開示されている。この工法は、地表面より一対の立杭を所定の間隔を隔てて形成し、この立杭の一方側から他方側に向けて複数のケーシング部材を順次連接しながら押し出して立杭間に連通開口させたケーシングを埋設する。このケーシング内に透水性を有するドレーン材を挿入した後、順次ケーシングを抜き取る作業を繰り返してドレーン材を地中に残す方法からなる。ドレーン材は、透水性を有する合成樹脂製のフィルター材により中空円筒柱状とした構造である(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
また別の液状化防止方法として、地盤の浅い部分の地下水位を低下させ、非液状化層の厚みを増大して液状化を防ぐ地下水位低下工法に用いるドレーン管が開示されている。このドレーン管の設置工法も開示されている。発進立杭から到達立杭との間に、推進機により埋設された鞘管に、緊結パイプを備えたドレーン管を発進立杭から挿入して配置する。その後、鞘管を抜き取り、次に緊結パイプを抜き取ることにより、ドレーン管を埋設させる工法である。ドレーン管は、3次元網状構造体と、その外周面を被覆するフィルター材と、このフィルター材の外周面を被覆する網体とから構成されたものを用いている(例えば、特許文献5参照)。
【0010】
また、目詰まりの生じた地下排水路の機能を回復させる工法も開示されている。具体的には、盛土に打設され、複数の貫通孔が形成された排水管の開放端から噴水管を挿入する工程と、噴水管から貫通孔に向けて水を噴射する噴射工程とを備える工法からなる。これにより、排水管の周囲に開けられた貫通孔から高圧の水が噴射されるので、排水管の周囲の低浸水性層を除去することができる。排水パイプは、金属からなる筒状の長尺管で、一端が開放され、他端は閉塞された構造からなる(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007-70820号公報
【特許文献2】特開2018-44337号公報
【特許文献3】特開2008-144558号公報
【特許文献4】特開2015-121016号公報
【特許文献5】特許第6162290号
【特許文献6】特開2014-173262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載の発明は、土質材料を主として用いるアースダム、灌漑用のため池の堤体、さらには河川の堤防など、土質材料を用いて形成されている盛土構造物を対象としたものである。これらを対象とした袋体を敷設する工法を、家屋や工場、さらには道路等が設けられている盛土造成地に対して適用するためには、ドレーン長さを大幅に長くする必要があるが、敷設時に袋体が破れてしまう可能性がある。また、盛土造成地では堤体や堤防などよりもはるかに大きな土圧が加わるために押し潰される可能性もある。
【0013】
特許文献2に記載の発明は、既設河川堤防の盛土の補強を目的としたものであり、盛土中に定着される定着機構と土留壁とを接続することにより補強する工法である。このような工法を盛土造成地に適用することは、河川などの堤防の構造と盛土造成地の構造の違いから困難である。さらに、排水路として機能する補強材は鋼管杭であるが、盛土造成地に適用する場合には非常に長尺管とすることが要求される。しかし、このための工法は開示されていない。
【0014】
特許文献3に記載の発明は、立杭を集水孔として用いることを目的とした工法である。立杭の場合には、集水孔の深さが水平排水路に比べて短いので、弾力性材料層に締め付け力を与えて挿入し、挿入後に締め付け力を開放して集水孔の内壁に密着させることは容易である。また、立杭の場合には周囲からの土圧は小さいので潰されることもない。しかし、盛土造成地で水平方向に配設した地下排水路に適用する場合には、合成繊維からなる不織布をドレーン材として用いると大きな土圧に耐えることができず押しつぶされてしまうという課題を有する。
【0015】
特許文献4に記載の発明は、2カ所の立杭を掘削した後に、一方の立杭から他方の立杭まで推進機を用いて順次ケーシング部材を埋設し、さらにドレーン材を設置する工法である。この工法では、地表面に2カ所の立杭を設ける必要があり、盛土造成地によっては、このような立杭を設ける場所を取れない場合が生じる。また、ドレーン材は合成樹脂製のフィルター材からなるので、ケーシングを抜き取った後に潰れてしまい、機能劣化あるいは機能消滅する場合が生じやすい。
【0016】
特許文献5に記載の発明は、地盤の浅い部分の地下水を抜いて地下水位を低下させて地盤の液状化を防ぐ工法に関連するものである。2つの立杭を掘削し、この立杭間に鞘管を設けた後に、ドレーン管を敷設する工法である。ドレーン管は外周部から網体、次にフィルター材、さらに3次元網状構造体の3層構成からなる。網体の開口が5mm程度であるので、地下水と一緒に土砂が流れ込むと目詰まりを生じやすいという課題を有する。
【0017】
特許文献6に記載の発明は、地下排水路の排水管の集水機能が低下した場合に、排水管の開放端から噴水管を挿入し、噴水管から排水管の外周部の貫通孔に向けて高圧水を噴射させて、排水管の周囲に形成された低浸水性層を除去して集排水機能を復活させる工法である。この工法は、地下排水路がある程度機能している場合には、高圧水を噴射させて機能回復をさせることは有効である。しかし、長い年月が経過して排水管中に土砂等が侵入して詰ってしまうと、この工法での回復は困難となる。
【0018】
盛り土の地滑り防止には、地滑り抑止工法と地滑り抑制工法がある。地滑り抑止工には、滑り土塊を堅固な地盤に縫い付けるアンカー工法や杭の横抵抗で地滑り土塊をくい止める地滑り防止杭工法がある。アンカー工法は、アンカーの耐候性に課題がある。地滑り防止杭工法は既存の盛土造成地には適用が困難である。その理由は、既存の盛土造成地には、既に家屋等の構造物が建てられていたり、あるいはこの工法を実施する際に斜面に振動を与えるために地盤沈下やすべり被害を及ぼす可能性があるからである。
【0019】
地滑り抑制工には、立井戸工と水平地下排水路工がある。複数の立井戸を設ける立井戸工はポンプなどによる排水が必要であり、メンテナンスが煩雑である。やや斜めの水平地下排水路工は自然流下式であり、排水のための作業は不要であるという特徴を有する。しかし、地下排水路として、直径が100mm程度の樹脂管、例えば塩化ビニール製の小口径管を用いた場合には、管内への土砂等の流入や土圧による変形などのために短期間で排水機能を喪失してしまう事象が生じやすい。一方、鋼管を用いる場合には、流入する水によっては錆びによる劣化が生じやすい。
【0020】
また、直径が300mmを超すような大口径管を用いることは、地滑り抑制工としての地下水排水路用として使用されている事例は殆どない。これは、大口径水平排水路工法を行う場合、大口径のボーリングを行い、ケーシングを挿入してからドレーン管を挿入し、その後ケーシングを引き抜くときに大きな力を必要とする課題を有する。さらに、ドレーン管が土中の圧力に耐え、長期間にわたり目詰まりを生じず、かつ、劣化等が生じないことも要求される。
【0021】
本発明は、既設の盛土造成地に対して地表から開削せずに地下排水路を設置して、温暖化等による影響で多量の降雨があっても、それにより生じる地下水を速やかに排水し、地下水位を安定に保ち、地滑り災害等を抑止することができる大口径の地下排水路を設置するための盛土造成地の地下排水路用のドレーンカートリッジおよびこのドレーンカートリッジを用いた盛土造成地の地下排水路形成工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために、本発明の盛土造成地の地下排水路用のドレーンカートリッジは、断面がドーナツ状で骨材が充填された蛇籠構造からなり透水性を有する外円筒管と、この外円筒管に内接して設けられ地下水を排水する内円筒管との2重管構造からなり、内円筒管は、円筒面に複数の貫通孔からなる透水孔が設けられ、内円筒管の外形寸法は外円筒管の内径寸法より小さく形成されており、内円筒管は外円筒管に内接して固定されていることを特徴とする。
【0023】
このような構造とすることで、大口径にしても強度が大きく、かつ、地下排水管として長期間機能を維持することができる。また、蛇篭構造の外円筒管の製造を容易に行うことができる。さらに、内円筒管に洗浄用高圧ノズルを挿入して高圧水を噴射させることにより、排水機能の劣化を簡単に回復させることもできる。
【0024】
上記構造において、外円筒管は、形状を保持するための骨格部と骨格部の周囲を覆う網部とからなり、網部の内部には骨材が充填されているようにしてもよい。また、外円筒管の骨格部と網部とは金属棒材または線材からなり、骨格部の線径は網部の線径よりも大きく、内円筒管は樹脂材料からなるものであってもよい。このような構造とすることにより、蛇篭構造であるが、骨格部とそれを覆う網部とを設けることにより、圧力に対して強い構造とすることができる。さらに、骨格部は太い線径、例えば鉄あるいは鋼製の棒材を用い、網部は細い線径、例えば鉄又は鋼製の線材を用いれば、骨格部により強度を確保し、かつ、網部は柔軟性を保持させることができる。さらに、ドーナッツ状の領域には骨材が充填されているので、従来のドレーンカートリッジに比べて大きな圧力にも耐えることができる。
【0025】
上記構造において、ドレーンカートリッジの外形寸法は、直径が300mm~500mmであってもよい。このような大口径のドレーンカートリッジを用いれば、大量の地下水を排水する能力を有する。集中豪雨などにより急激に地下水位が上昇しても、十分な排水能力があるので地滑り発生を抑制することが可能となる。また、内円筒管に洗浄用高圧ノズルを挿入して地下排水路中に溜まった土砂、水垢などを容易に清掃除去することもできる。
【0026】
なお、直径が300mmより小さい場合には、骨格部を構成する金属棒材の直径が相対的に太くなるので、骨材を詰め込む領域が狭くなり、地下水の集水機能が低下する。また、内円筒管の内径も小さくなるため、地下水の集排水機能も大きく低下するので好ましくない。また内円筒管の内径が小さくなると洗浄用高圧ノズルの挿入が難しい。さらに、直径を500mmより大きくすると、アースオーガーによる削孔に労力と時間を要するようになるだけでなく、ドレーンカートリッジを挿入する作業に手間がかかるようになり好ましくない。また、直径が大きくなると土圧に対する強度も低下する。したがって、直径が300mm~500mmの範囲が、ドレーンカートリッジの製造および強度確保の点と、設置工法のコスト面から好ましい。
【0027】
上記構造において、骨材は単位体積当たり重量が1200~1500kg/m3である軽量骨材を用いてもよい。このような軽量骨材は形状ばらつきが小さいので網部内に稠密に詰め込みながら、かつ、良好な排水機能を有する。稠密に詰め込むことで全体として強度を大きくできる。また、単位体積当たり重量が小さいので全体として軽量化できる。このため、現地への輸送コストの低減や骨材の充填作業を容易に行うこともできる。
【0028】
軽量骨材としては、例えば、人工骨材、すなわち石や砂、高炉スラグ(製錬時に出る鉱石のくず)やフライアッシュ(石炭の燃焼時に出る灰)を加工して作る骨材などがある。高炉スラグ骨材は、液状の高炉スラグを徐々に冷やした後、所定の粒度に砕いた高炉スラグ粗骨材がある。また、泥岩の一種である頁岩や、フライアッシュを高温に熱して作る、軽くて強い骨材もある。一般に、軽量骨材は、軽量コンクリートの原料として用いられているが、本発明の骨材としても用いることができる。なお、本発明は軽量骨材に限定されるものではなく、自然石である石材を用いてもよい。
【0029】
また、本発明の既設盛土造成地の地下排水路の回復工法は、推進機を用いて、盛土造成地と原地盤との境界近傍の法面部側から水平または上向き方向に盛土造成地中に所定の距離まで削孔しながらケーシングを挿入するケーシング工程と、このケーシング中に、ドレーンカートリッジの端部同士を連結して順次押し込みながら挿入し集排水管とする集排水管形成工程とを含み、ドレーンカートリッジは、上記記載のドレーンカートリッジを用いることを特徴とする。
【0030】
この工法では、ドレーンカートリッジは圧力に対する強度が大きく、しかも蛇籠構造の外円筒管は透水性が良好であり、内円筒管は外円筒管から流入する地下水をスムーズに外部に排水することができる。排水は自然流下で排水することにより深井戸や立て坑のように降雨後のポンプなどの機器による揚水、排水が不要である。また、内円筒管中に洗浄用高圧ノズルを挿入し高圧水をドレーンカートリッジ内部に噴射させることで水垢や土砂を洗い流すことができ、長期間にわたり安定した排水機能を維持することができる。
【0031】
なお、本発明でいう水平又は上向き方向とは、水平の場合においては地下水が自然流下する程度の勾配を有する形状をいい、上向き方向の場合は原地盤面に沿った角度に近い勾配を有する形状をいう。
【0032】
上記工法において、ケーシングを引き抜く工程をさらに含むようにしてもよい。例えば、鋼管をケーシングとして用いた場合には、錆の発生による強度低下や目詰まり発生等が生じやすいが、引き抜くことでこれらの発生を防ぐことができる。錆びにくい材料、例えばステンレス管や銅管などを用いると非常に高価となるので好ましくない。なお、ケーシングの引き抜きは、ドレーンカートリッジを挿入後に引き抜く。このようにすると、ドレーンカートリッジを、ケーシングの内面を滑らせながら挿入できるので、挿入工程を容易に行える。
【0033】
さらに上記工法において、ドレーンカートリッジの端部同士の連結は、内円筒管に挿入可能な外形寸法を有する接続用円筒管と、この接続用円筒管の中央領域部に鍔状部とを有する接続部材により行ってもよい。このような接続部材を用いることにより、内円筒管同士の接続を容易に行うことができる。接続用円筒管とドレーンカートリッジとは、例えば接着剤により接続固定してもよい。このような接続により、内円筒管は一体化されるので地下水をスムーズに流すことができる。また、内円筒管が接続部材により連結固定されるので、洗浄用高圧ノズルを容易に挿入できる。なお、接続用円筒管は、内円筒管と同質材料を用いることもできるし、別の材質を用いることもできる。さらに、柔軟性のある材質、例えばゴム状材料、蛇腹構造の材料を用いれば、接続部に荷重が加わっても破断を防ぐことができる。
なお、上記工法において、ドレーンカートリッジの設置は1本に限定されるものではなく、既設盛土造成地の状況に合わせて複数本を設置してもよい。
【0034】
また、本発明の新設の盛土造成地の地下排水路の設置工法は、傾斜地を切り開いて盛土造成地の造成、または、谷埋め盛土造成地の造成をする際に、盛土の水みちとなる位置に沿って上記記載のドレーンカートリッジを配置する工程と、このドレーンカートリッジの内円筒管に挿入可能な外形寸法を有する接続用円筒管と、接続用円筒管の中央領域部に鍔状部とを有する接続部材を用いて、ドレーンカートリッジ同士を接続する工程と、ドレーンカートリッジを含めた領域に盛土を行い、新設の盛土造成地を造成することを特徴とする。
【0035】
この工法とすることにより、大口径のドレーンカートリッジを埋め込んでも圧力を受けて変形あるいは押し潰されることがなく、長期間安定して形状を維持し、排水機能を保持できる。また、定期的に内円筒管中にホースを挿入して高圧水を噴射させることで、劣化した排水機能の回復も可能である。
なお、本発明の場合には、ドレーンカートリッジは1本のみでなく、複数本を配置してもよい。新設の場合には複数本設置しても工数の大幅な増加は生じない。
【発明の効果】
【0036】
最終的に形成される地下排水路は直径が300mm以上としているので、従来に比べて大量の地下水を排水する機能を有する。日常的には、通常の降雨による地下水位上昇を低下させて一定の地下水位を維持する。しかし、近年発生しやすい集中豪雨の場合でも、大量の地下水を排水できる機能を有するようにしたので、盛土造成地の滑り崩壊を抑制できる。また、地震時は過剰間隙水圧を消散させ、盛土のすべり安全性を高めることもできる。
【0037】
また、ドレーンカートリッジの強度を大きくしているので、盛り土造成地全体の滑り抵抗を補強する機能を有し、盛土造成地の滑り抑止効果も得られる。さらに、盛り土造成地内の地下水を大量に排水できるので、盛り土造成地内部は水で飽和されないようにすることができ、液状化防止効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る地下排水路用のドレーンカートリッジの構造を示す図である。
【
図2】同実施の形態に係るドレーンカートリッジの側面図と断面図である。
【
図3】本発明の第2の実施の形態に係る盛土造成地の地下排水路用のドレーンカートリッジの構造を示す図である。
【
図4】同実施の形態に係るドレーンカートリッジの側面図と断面図である。
【
図5】本発明のドレーンカートリッジ同士を接続する接続部材の形状を示す概略斜視図である。
【
図6】接続部材を用いてドレーンカートリッジ同士を接続した状態を示す概略斜視図である。
【
図7】本発明の第3の実施の形態に係る既設盛土造成地の地下排水路回復工法を説明するための図で、谷埋め盛土造成地の構造を示す図である。
【
図8】地下排水路を形成するための削孔状態を示す断面模式図である。
【
図9】ケーシング工程からドレーンカートリッジを設置する工程を示す図である。
【
図10】本発明の第4の実施の形態に係る盛土造成地を新設する場合の地下排水路の設置工法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
(第1の実施の形態)
【0040】
以下、第1の実施の形態に係る盛土造成地の地下排水路用のドレーンカートリッジの構造と、このドレーンカートリッジを用いた既設盛土造成地の地下排水路回復工法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0041】
図1は、本実施の形態に係る地下排水路用のドレーンカートリッジの構造を示す図である。
図1において、(a)は外円筒管1の形状を示す概略斜視図であり、骨材を充填する前の状態である。(b)は内円筒管の形状を示す概略斜視図である。(c)は外円筒管1の内部に内円筒管2を挿入して一体化した形状を示す図である。
【0042】
図2は、本実施の形態に係るドレーンカートリッジ5の側面図と断面図である。(a)は骨材1cを充填した後のドレーンカートリッジ5の側面図である。(b)はドレーンカートリッジ5を中心軸に対して直角方向に切断した断面図である。
【0043】
これらの図を参照して、本発明のドレーンカートリッジ5の構造を説明する。ドレーンカートリッジ5は、断面がドーナツ状で骨材1cが充填された蛇籠構造からなる外円筒管1と、この外円筒管1に内接して設けられ地下水を集排水する内円筒管2との2重管構造からなる。そして、外円筒管1は、断面がドーナツ状で骨材1cが充填された蛇籠構造からなり透水性を有する。また、この外円筒管1に内接して設けられ地下水を排水する内円筒管2も有する2重管構造からなる。内円筒管2は、円筒面に複数の貫通孔からなる透水孔2aが設けられ、内円筒管2の外形寸法は外円筒管1の内径寸法より小さく形成されており、内円筒管2外円筒管1に内接して固定されている。
【0044】
外円筒管1は網部1aにより蛇篭構造とされており、網部1aは金属線材からなる。網部1aは、例えば亜鉛メッキ鉄線を用いて網状に形成したものであり、内部の骨材1cが抜け出ない程度の大きさの網目形状としている。
【0045】
図2に示すように、網部1a中には骨材1cが充填されており、内円筒管2とを含めて圧力に対して強い構造としている。骨材1c間と透水孔2aを介して地下水が内円筒管2に集水され、下流方向に排水される。
【0046】
次に、本実施の形態に係るドレーンカートリッジ5の組み立て方法を説明する。
図1(a)に示す外円筒管1の中空部に、
図1(b)に示す内円筒管2を挿入する。挿入後の形状を
図1(c)に示す。次に、
図2(a)、(b)に示すように、外円筒管1のドーナッツ状部分に骨材1cを充填する。骨材1cを充填するときには、内円筒管2が挿入され固定されているので、外円筒管1の網部1aが内側に膨れることはない。これによりドレーンカートリッジ5が作製できる。なお、骨材1cを充填する場合に、事前に外円筒管1の直径よりも少し大きな規制用円筒管中に挿入してから、骨材1cを充填すると外円筒管1の外周部の網部1aも膨れることがなく、きれいな外周面とすることができる。
【0047】
ドレーンカートリッジ5は、工場で生産するので長尺化すると、輸送コストが上昇する。このため適当な長さ、例えば1m~2m程度にすることが好ましいが、設置場所に応じて長さを決めてもよい。盛土造成地の地下排水路の長さは数10m程度になる場合が多い。したがって、ドレーンカートリッジ5同士を連結する接続部材11を必要とする。
接続部材11については、第2の実施の形態に係るドレーンカートリッジ10で詳細に説明する。
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態に係る盛土造成地の地下排水路用のドレーンカートリッジの構造について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0048】
図3は、本実施の形態に係る地下排水路用のドレーンカートリッジ10の構造を示す図である。
図3において、(a)は外円筒管6の形状を示す概略斜視図であり、骨材6cを充填する前の状態である。(b)は内円筒管2の形状を示す概略斜視図である。(c)は外円筒管6の内部に内円筒管2を挿入して一体化した形状を示す図である。
【0049】
図4は、本実施の形態に係るドレーンカートリッジ10の側面図と断面図である。(a)は骨材6cを充填した後のドレーンカートリッジ10の側面図である。(b)はドレーンカートリッジ10を中心軸に対して直角方向に切断した断面図である。
【0050】
図5は、ドレーンカートリッジ10同士を接続する接続部材11の形状を示す概略斜視図である。
図6は、接続部材11を用いてドレーンカートリッジ10同士を接続した状態を示す概略斜視図である。
【0051】
これらの図を参照して、本実施の形態に係るドレーンカートリッジ10の構造を説明する。ドレーンカートリッジ10は、断面がドーナツ状で骨材6cが充填された蛇籠構造からなる外円筒管6と、この外円筒管6に内接して設けられ地下水を集排水する内円筒管2との2重管構造からなる。そして、外円筒管6は、形状を保持するための骨格部6aとこの骨格部6aの周囲を覆う網部6bとからなり、網部6bの内部には骨材6cが充填されている。なお、網部6bは、外円筒管6の外周領域と内周領域ともに骨格部6aの外周部を覆うように配置してもよいし、外周領域は骨格部6aの外周部を覆い、内周領域は骨格部6bの内周部を覆うように配置してもよい。
【0052】
また、内円筒管2は、円筒面に複数の貫通孔からなる透水孔2aが設けられ、内円筒管2の外形寸法は外円筒管6の内径寸法より小さく形成されており、内円筒管2は外円筒管6に内接して固定されている。
【0053】
本実施の形態では、外円筒管6の骨格部6aと網部6bとは金属棒材または線材からなり、骨格部6aの線径は網部6bの線径よりも大きなものが用いられている。骨格部6aは、例えば長手方向には棒鋼を用い、外周部と内周部には同じ材質のフープ鋼を用い、これらを溶接等により接合することで外円筒管の骨格を形成している。これにより外円筒管6は大きな圧力が加わっても十分に耐えることができる。網部6bは、折り曲げが容易な金属線材を用いて、内部の骨材6cが抜け出ない程度の大きさの網目形状とした構造からなる。
【0054】
なお、本実施の形態においては、骨格部6aと網部6bとを金属棒材または線材により形成したが、本発明はこれに限定されない。例えば、骨格部6aは金属棒を用い、網部は合成樹脂製の繊維あるいは炭素繊維などを用いてもよい。さらに、骨格部6aについても、ガラス繊維複合樹脂成形体(FRP)や炭素繊維複合樹脂成形体(CFRP)などを用いてもよい。骨格部6aや網部6bを樹脂製にすれば軽量化することができる。FRPやCFRPは大きな強度を有するので大きな圧力にも耐えることができる。
【0055】
また本実施の形態では、内円筒管2は樹脂材料からなる。例えば、塩化ビニール樹脂管を用いてもよい。樹脂材料を用いることで腐食等の発生をなくすことができる。
【0056】
また、本実施の形態では、ドレーンカートリッジ10の外形寸法は、直径を300mmとしている。このような大口径とすることで排水量を多くできるので、集中豪雨などが発生しても大量の地下水を排水でき、地滑りを抑制することができる。また、本発明のドレーンカートリッジ10は、骨格部6aと網部6bとからなる外円筒管6と、この外円筒管6に内接して比較的肉厚の内円筒管2との2重管構造からなるので、大口径としても圧力による変形や圧壊が生じ難く、排水路としての機能を長期間保持することができる。
【0057】
さらに、本実施の形態では、骨材6cは、単位体積当たり重量が1200~1500kg/m3である軽量骨材を用いている。軽量骨材は軽くて透水性がよく、かつ、形状が比較的均質であるので充填しやすく、しかもドレーンカートリッジ10を軽量にできるので輸送コストを低減することもできる。
【0058】
次に、本実施の形態に係るドレーンカートリッジ10の組み立て方法を説明する。
図3(a)に示す外円筒管6の中空部に、
図3(b)に示す内円筒管2を挿入する。挿入後の形状を、
図3(c)に示す。次に、
図4(a)、(b)に示すように、外円筒管6のドーナッツ状部分に骨材6cを充填する。骨材6cを充填するときには内円筒管2が挿入され固定されているので、外円筒管6の網部6bが内側に膨れることはない。これによりドレーンカートリッジ10が作製できる。なお、骨材6cを充填する場合に、事前に外円筒管6の直径よりも少し大きな規制用円筒管中に挿入してから、骨材6cを充填すると外円筒管6の外周部の網部6bも膨れることがなく、きれいな外周面とすることができる。
【0059】
ドレーンカートリッジ10は、工場で生産するので長尺化すると、輸送コストが上昇する。このため適当な長さ、例えば1m~2m程度にすることが好ましいが、設置場所に応じて長さを決めてもよい。盛土造成地の地下排水路の長さは数10m程度になる場合が多い。したがって、ドレーンカートリッジ10同士を連結する接続部材11を必要とする。
【0060】
図5は、ドレーンカートリッジ10同士を連結するための接続部材11の構造を示す概略斜視図である。接続部材11は、ドレーンカートリッジ10の内円筒管2に挿入可能な外形寸法を有する接続用円筒管11aと、接続用円筒管11aの中央領域部に鍔状部11bとを有する形状からなる。連結する場合には、ドレーンカートリッジ10の内円筒管2に接続部材11の接続用円筒管11aを挿入し、接着剤等により接着固定する。接続部材11でドレーンカートリッジ10同士を連結しながら削孔部に順次押し込んでいくことで一体化した地下排水路が形成される。
【0061】
図6は、接続部材11を用いてドレーンカートリッジ10同士を連結した構成を示す。ドレーンカートリッジ10が接続部材11を介して互いに連結されて1本の排水路を構成する。
【0062】
なお、ドレーンカートリッジ10の内円筒管2と接続樹脂11とは同じ樹脂材料、例えば塩化ビニール樹脂を用いてもよいし、それぞれ別々の材料を用いてもよい。内円筒管2は安価な塩化ビニール樹脂管を用い、接続部材11については可撓性を付与するためにゴム弾性を有する材料や蛇腹構造としてもよい。
【0063】
また、ドレーンカートリッジ10の長さは1m~2m程度に限定されるものではなく、盛土造成地を削孔するアースオーガーなどを設置する領域などを考慮して、それぞれの場所に応じて設定すればよい。
【0064】
次に、ドレーンカートリッジの具体例の一つについて説明する。この具体例のドレーンカートリッジは、第2の実施の形態に係るドレーンカートリッジ10の場合について説明する。ただし、第1の実施の形態に係るドレーンカートリッジ5でも同じ材料や形状とすることもできる。
【0065】
この具体例のドレーンカートリッジ10は、ドーナツ形状で蛇篭構造の外円筒管6と、外周部に透水孔2aを設けた内円筒管2の2重管構造からなる。骨材6cとしては、軽くて透水性の良い人工軽量粗骨材を用いた。内円筒管2と接続部材11とは同じ材質で、塩化ビニール樹脂を用いた。
【0066】
外円筒管6は、長さが1.5m、ドーナツ形状で外径は300mmである。骨格部6aは、直径13mmの棒鋼と直径10mmのフープ鋼とを溶接などで接合して製作した。どちらの材質も亜鉛メッキ棒鋼を用い、熔接部は耐腐食性樹脂を最終的に塗装した。棒鋼はフープ鋼の円周方向に8本配置し、フープ鋼は外周用と内周用のそれぞれを7個用いた。これらを溶接等で接合することで、圧力を受けても変形しにくい構造を実現している。なお、設置する場所に応じて棒鋼とフープ鋼の本数や直径を変更してもよい。
網部6bは、直径3mmの金属線を用い、網目間隔が10mmとして製作し、骨格部6aの周囲を覆った。この網部6bについても亜鉛メッキ鋼線を用いた。
【0067】
内円筒管2は、透水孔2aを多数設けた硬質肉厚の塩化ビニール管を用い、外径は140mm、肉厚を7mmとした。透水孔2aは直径が10mmで、千鳥状に配列し、そのピッチは50mmとした。
内円筒管2を外円筒管6の内径部に挿入後、骨材6cとして比重1.25、粒径が15~25mmの高炉溶融スラグをドーナツ状部に充填した。
【0068】
なお、外円筒管6の内径は、内円筒管2の外形寸法の140mmよりやや広くして、内円筒管2を外円筒管1の内径部に挿入できるようにしている。また、内円筒管2の内径は126mmであるので、従来に比べて大きな排水路を実現できた。
【0069】
上記のドレーンカートリッジ10は具体例の一つを説明したものであって、本発明はこの具体例にのみ限定されるものではない。盛土造成地の状況に応じて外形寸法、骨格部に用いる棒材の寸法、網体に用いる線材の寸法、内円筒管の寸法、ドレーンカートリッジの長さなどを設定すればよい。
(第3の実施の形態)
【0070】
つぎに、第2の実施の形態で説明したドレーンカートリッジ10と接続部材11とを用いて、本発明の既設盛土造成地の地下排水路の回復工法を、図面を参照しながら詳細に説明する。本実施の形態では、谷埋め盛土造成地における地下排水路回復のための形成工法について説明するが、斜面盛土造成地においても同様の工法を採用することができる。
【0071】
盛土造成地は、自然の地形を使用目的に合わせて、地山を掘削し、谷底あるいは傾斜地の低地側の原地盤上に盛土を構築する。大きな谷底などの場合には、全体を一つの平面とするよりは階段状に造成することが多い。このような盛土造成地の地下水位は、原地盤面よりも高い位置、すなわち盛土造成地の内部にある場合が多い。特に、谷埋め盛土造成地では、地下水は原地盤の谷底領域に集中する。造成して年月が経過している盛土造成地においては、既設の排水設備が設けられていた場合であっても、既にその機能が劣化している場合が多い。このため、盛土造成地の底部は地下水が飽和状態になり、水位が上昇していることがある。このような状態になっているときに、地震が発生して間隙水圧が急上昇すれば、底部でのすべり抵抗力を失い、下方へ滑動して、地盤の変形や滑り崩壊を生じる。あるいは、近年発生が頻発している集中豪雨により盛土造成地の地下水位が急激に上昇してしまうと、原地盤と盛土との境界面で滑り抵抗力が減少して地すべりを起こす現象が生じる。
【0072】
このような現象を抑制するために、盛土造成地の下方側の法面部からドレーン孔をやや上向きに削孔して、集水と排水を行える地下排水路を設置する。このような地下排水路は自然流下方式による排水が行われる。ドレーン長は、原地盤に到達する長さとする。また、ドレーンの口径は従来工法のものよりも大きく、300mm~500mmとすることにより大量の地下水を短時間に排水できるようにする。以下、本発明の地下排水路の回復のための形成工法について詳細に説明する。
【0073】
図7は、谷埋め盛土造成地の構造を示す図で、鉛直方向に切断した断面模式図である。
図8は、
図7に示す谷埋め盛土造成地において、地下排水路を形成するための削孔状態を示す断面模式図である。
【0074】
谷埋め盛土造成地では、地下水は原地盤の谷筋に集中し、そこに水みちができる。したがって、地下排水路の回復のための排水路形成工法では、この水みちに沿って地下排水路を設置する必要がある。このため、地下排水路の設計には、対象とする盛土造成地に対する雨水領域を、現地調査等を含めて行い、具体的な領域を求める。求めた雨水領域に対して、豪雨等を考慮して浸透する水量を算出する。この時、最近の集中豪雨の発生状況などの気象データを勘案して水量を算出する。次に、地滑りを抑制するためには、設定した時間内にこの水量を排水できるようにすることが要求されるので、必要とする地下排水路の断面積等を求める。
【0075】
図7および
図8に示すように、原地盤21の上に盛土22を行い、住宅32などは盛土22の平坦地28、29、30に建てられている。このような既設盛土造成地では、原地盤21と盛土22との境界領域23よりも上方の領域、すなわち盛土22中に地下水位24がある場合が多い。本実施の形態の盛土造成地では、法面部25、26、27は3カ所あるが、盛土22と原地盤面31との境界近傍の法面部25側からやや上向き方向に、盛土22に推進機40を用いて削孔しながらケーシング41を挿入する。削孔する位置は、上記の水みちあるいはその近傍であり、境界領域23よりも上方で、地下水位24よりも低い位置としている。
【0076】
図9は、ケーシング工程からドレーンカートリッジ10を設置する工程を示す図である。(a)は、推進機(アースオーガー)を用いて削孔とケーシングを挿入する工程を示す図である。(b)は、ドレーンカートリッジ10を連結しながら順次押し込み挿入する工程を示す図である。(c)は、ドレーンカートリッジ10を挿入し、ケーシングを引き抜く工程を示す図である。(d)はドレーンカートリッジ10を連結し、地下排水路の完成状態を示す図である。
【0077】
最初に
図9(a)に示すように、推進式アースオーガー40を用いて、盛土22と原地盤21との境界近傍の法面部25側からやや上向き方向に、盛土22中に所定の距離まで削孔しながらケーシング41を挿入する。削孔のための回転ドリルは、先端部に掘削ビット42が取り付けられており、周囲にスクリュー羽を有する形状からなる。本実施の形態では、ケーシング41は長さ1.5m、直径350mmで、両端にねじを切った鋼管を用いた。削孔するたびにケーシング41をねじでつなぎ合わせながら挿入した。なお、本実施の形態では削孔長さは30mである。なおRC造の擁壁や石垣擁壁がある場合、その部分をコアボーリングで先行削孔し、その後を推進式アースオーガーで所定の長さまで削孔する。
【0078】
次に
図9(b)に示すように、所定の長さまで削孔した後、ドレーンカートリッジ10の端部同士を連結してケーシング41中に順次押し込みながら挿入した。本実施の形態では、ドレーンカートリッジ10は具体例で示した形状のものを用いた。ドレーンカートリッジ10同士は接続部材11で連結し、油圧ジャッキ44で押し込んだ。
【0079】
次に
図9(c)に示すように、ドレーンカートリッジ10の押し込みが終了後、ウィンチ45でケーシング41を引きずり出していき、最終的にすべてのケーシング41を撤去した。
【0080】
以上の工法により、ドレーンカートリッジ10が接続部材11で連結され、1本の地下排水路が孔壁部43に形成された。すべてのケーシング41を撤去し、ドレーンカートリッジ10を連結した地下排水路の完成状態を
図9(d)に示す。
【0081】
本実施の形態の形成工法によれば、大口径のドレーンカートリッジ10を既設盛土造成地に設けて新たな地下排水路を形成できる。そして、排水容量が大きいので集中豪雨などで地下水位が上昇した場合でも、設定した時間内に大量の水を排水できる。したがって、地下水位を早く下げて地滑り発生を抑制することができる。
【0082】
なお、維持管理にあたり、経年的な目詰まりを回復するため、必要に応じてドレーンカートリッジ10の内円筒管2中に洗浄用高圧ノズルを挿入して、内円筒管2の内部から外円筒管1の外周部に向けて高圧水を噴出させて水垢や堆積土砂粒子を除くことで目詰まりを解消できる。
【0083】
また、やや上方に向けて設置されたドレーンカートリッジ10は、骨材が充填されており、この骨材1cが盛土より大きい内部摩擦角をもつことが多いので、水平方向の杭のような作用により地盤のすべり強度を補強する効果も得られる。さらに、盛土内の水を排水することにより、盛土内は水で飽和されなくなるので、砂分の多い盛土の場合は盛土の液状化防止効果も得られる。
【0084】
なお、本実施の形態に係る形成工法では、第2の実施の形態のドレーンカートリッジ10について説明したが、第1の実施の形態のドレーンカートリッジ5を用いても構わない。ただし、第1の実施の形態に係るドレーンカートリッジ5は、骨格部を有さないので圧力に対する強度はやや小さい。したがって、既設盛土造成地の土圧状態に応じて使い分ければよい。
【0085】
また、本実施の形態では、地下排水路は1本のみの場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。設定した地下水量が多い場合には、2本あるいは3本など、水量に合わせて複数本を設置してもよい。複数本を設置する場合、例えば放射状あるいは並列に配置してもよい。
(第4の実施の形態)
【0086】
本発明の第4の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図10は、新しく盛土造成地を新設する場合の地下排水路の設置工法を説明するための図である。
図10において、(a)は傾斜地の断面模式図である。(b)は傾斜地に盛土を一部形成した状態を示す断面模式図である。(c)は、本発明のドレーンカートリッジを接続部材により連結して配置した状態を示す断面模式図である。(d)は、盛土を行って階段状の造成地を造成した状態を示す断面模式図である。なお、
図10では、
図9に示したものと同じ要素については同じ符号を付しているので説明を省略する場合がある。
【0087】
図10(a)に示すように、傾斜地は原地盤21と原地盤面31からなる。なお、図では盛土22をした後には、原地盤21と盛土22との原地盤面は境界領域23として示している。この傾斜地を切り開いて盛土造成地の造成をする際に、盛土の水みちとなる位置をまず求める。
【0088】
次に、水みちとなる位置の周辺領域を含めて一定量の盛土22を行う。この状態を
図10(b)に示す。この盛土22の高さは、境界領域23よりも高く、かつ、将来の地下水位位置よりも低い位置とする。
【0089】
次に、
図10(c)に示すように、この盛土22の表面にドレーンカートリッジ10を配置する。ドレーンカートリッジ10は、原地盤21まで到達し、かつ法面25よりも少し突出するように複数個連結して配置する。本実施の形態に係る設置工法においても、第2の実施の形態のドレーンカートリッジ10を用いる場合について説明する。ただし、第1の実施の形態に係るドレーンカートリッジ5を用いる場合も同じ工法とすることができる。ドレーンカートリッジ10同士の連結は、内円筒管2に接続部材11を挿入することで行う。なお、さらに外円筒管1同士を針金や紐などで連結してもよい。
【0090】
次に、
図10(d)に示すように、配置と接続が完了したドレーンカートリッジ10を含めて全体に計画した形状となるまで盛土22を行う。これにより新設の盛土造成地が形成される。盛土22を行う時に、ダンプカーなどが土砂に埋もれたドレーンカートリッジ10の上を走る場合が生じる。しかし、蛇篭構造で大きな圧力に耐える構造としているので、変形を防ぐことができる。
なお、造成地が広い場合は、複数本を放射状又は並列に配置してもよい。地下排水を確実かつ効率よく行うと共に盛土のすべり強度を補強することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、既設盛土造成地の地下排水路の機能を回復させるだけでなく、盛土造成地を新設する場合への応用が可能で、災害防止分野に有用である。
【符号の説明】
【0092】
1、6 外円筒管
1a、6b 網部
1c、6c 骨材
2 内円筒管
2a 透水孔
6a 骨格部
11 接続部材
11a 接続用円筒管
11b 鍔状部
10 ドレーンカートリッジ
21 原地盤
22 盛土
23 境界領域
24 地下水位
25、26、27 法面
28、29、30 平坦地
31 原地盤面
32 住宅
40 推進機
41 ケーシング
42 掘削ビット
43 孔壁部
44 油圧ジャッキ
45 ウインチ