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  • 特開-熱伝導性シート 図1
  • 特開-熱伝導性シート 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130850
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】熱伝導性シート
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20220831BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20220831BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20220831BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20220831BHJP
   C09J 133/00 20060101ALI20220831BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H01L23/36 M
H05K7/20 F
C09J7/38
C09J133/00
B32B27/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029485
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勇磨
(72)【発明者】
【氏名】荒巻 慶輔
(72)【発明者】
【氏名】久保 佑介
【テーマコード(参考)】
4F100
4J004
4J040
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
4F100AA19A
4F100AK25A
4F100AK25B
4F100AK51B
4F100AK53B
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA02A
4F100CA02B
4F100CA04A
4F100CA23A
4F100CA23B
4F100CA30A
4F100CB05A
4F100GB41
4F100JA04B
4F100JB13B
4F100JJ01A
4F100JL13A
4F100YY00B
4J004AA10
4J004AB01
4J004BA02
4J004DB02
4J040DF001
4J040GA05
4J040GA07
4J040GA08
4J040GA20
4J040HA116
4J040HA136
4J040JA09
4J040JB09
4J040KA16
4J040KA42
4J040LA08
4J040NA19
5E322AB06
5E322FA04
5E322FA09
5F136BC07
5F136FA52
5F136FA53
5F136FA54
5F136FA63
5F136FA66
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ハンドリング性及び放熱特性に優れる熱伝導シートを提供する。
【解決手段】熱伝導性シートは、粘着性熱伝導層10と非粘着性樹脂層20とが積層し、粘着性熱伝導層10の非粘着性樹脂層20が積層される面と反対側の面に、剥離フィルム30が貼付されている熱伝導性樹脂シートであって、粘着性熱伝導層は、アクリル系化合物を硬化させたアクリル系樹脂と熱伝導性フィラーを含有する。非粘着性樹脂層は、イソシアネート基、カルボキシキル基、メタ(アクリル)基、水酸基、アシル基及びグリシジル基から選択される少なくとも1種の官能基を有するガラス転移温度が10℃以上の熱硬化性樹脂、硬化剤及びフィラーを含有する。粘着性熱伝導層のタック性が非粘着性樹脂層のタック性より高く、非粘着性樹脂層は、30℃~80℃で軟化する物質を含有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着性熱伝導層と非粘着性樹脂層とが積層している熱伝導性樹脂シートであって、
前記粘着性熱伝導層は、アクリル系化合物を硬化させたアクリル系樹脂と熱伝導性フィラーを含有し、
前記非粘着性樹脂層は、イソシアネート基、カルボキシキル基、メタ(アクリル)基、水酸基、アシル基およびグリシジル基から選択される少なくとも1種の官能基を有する熱硬化性樹脂、硬化剤およびフィラーを含有し、
前記粘着性熱伝導層のタック性が前記非粘着性樹脂層のタック性より高く、
前記非粘着性樹脂層は、30℃~80℃で軟化する物質を含有する熱伝導性シート。
【請求項2】
前記30℃~80℃で軟化する物質はエポキシ樹脂であり、
前記非粘着性樹脂層は、前記熱硬化性樹脂100質量部に対し、前記エポキシ樹脂を50~400質量部の割合で含有する請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
前記非粘着性樹脂層の厚さは、2μm以上15μm以下である請求項1または2に記載の熱伝導性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導性シートは、発熱源となる電子部品等と、放熱板、筐体等のヒートシンクとの間隙を充填し、電子部品の放熱性を向上させるために使用されている。熱伝導性シートは、所定の箇所に貼合するために粘着性を有することが好ましく、また、電子部品とヒートシンクとの組み立て時の位置ずれを修正する観点から、種々の熱伝導性シートが提案されている。
【0003】
例えば、アクリル系ポリウレタン樹脂と無官能性アクリルポリマーと熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性シートにおいて、表面層と裏面層でアクリル系ポリウレタン樹脂と無官能性アクリルポリマーとの配合比を変えることにより、粘着性を変えた熱伝導性シート(例えば、特許文献1参照)、アクリル系樹脂と熱伝導性フィラーを含有する粘着性熱伝導層に、水酸基等の官能基を有するガラス転移温度が10℃以上の樹脂、硬化剤および難燃性フィラーを含有する非粘着性樹脂層とを積層した熱伝導性シート(例えば、特許文献2参照)、熱伝導性層に、ガラス転移温度が60℃以上熱硬化性樹脂と無機フィラーとを含むタックフリー層を積層した熱伝導性シート(例えば、特許文献3参照)、熱伝導柔軟層に、アクリルゴム系樹脂にワックス微粒子が分散されたタックフリー層が積層された熱伝導性シート(例えば、特許文献4参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-93077号公報
【特許文献2】特開2015-79948号公報
【特許文献3】特開2015-170606号公報
【特許文献4】特開2018-113403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~4の技術では、裏面層の粘着性を表面層より低くすることにより、熱伝導性シートのワーク性およびリワーク性等のハンドリング性を向上しうるものの、裏面層の被着体への密着性および追従性が十分ではなく、表面接触抵抗値が上昇し、結果的に熱伝導性シートとしての熱特性に劣るものであった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ハンドリング性および放熱特性に優れる熱伝導シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る熱伝導シートは、粘着性熱伝導層と非粘着性樹脂層とが積層している熱伝導性樹脂シートであって、前記粘着性熱伝導層は、アクリル系化合物を硬化させたアクリル系樹脂と熱伝導性フィラーを含有し、前記非粘着性樹脂層は、イソシアネート基、カルボキシキル基、メタ(アクリル)基、水酸基、アシル基およびグリシジル基から選択される少なくとも1種の官能基を有する熱硬化性樹脂、硬化剤およびフィラーを含有し、前記粘着性熱伝導層のタック性が前記非粘着性樹脂層のタック性より高く、前記非粘着性樹脂層は、30℃~80℃で軟化する物質を含有するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ハンドリング性に優れ、放熱特性を向上しうる熱伝導シートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本技術の一実施の形態にかかる熱伝導性シートの一例を示す斜視図である。
図2図2は、本技術の一実施の形態にかかる熱伝導性シートの製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一又は対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0011】
(熱伝導性シート)
図1は、本技術の一実施の形態にかかる熱伝導性シートの一例を示す斜視図である。図1に示す熱伝導性シートは、粘着性熱伝導層10と、非粘着性樹脂層20と、が積層され、粘着性熱伝導層10の非粘着性樹脂層20が積層される面と反対側の面に、剥離フィルム30が貼付されている。剥離フィルム30は、使用の際に剥離されるものである。
【0012】
本発明にかかる熱伝導性シートは、放熱特性に優れるものであり、熱伝導性シートの表面接触熱抵抗値は、1.5℃・cm/W以下であることが好ましく、1.4℃・cm/W以下であることがさらに好ましい。
【0013】
粘着性熱伝導層10は、アクリル系化合物を硬化させたアクリル系樹脂と熱伝導性フィラーを含有する。粘着性熱伝導層10は、熱伝導性シート10を被着体である電子部品等の所定の場所に張り合わせる目的から、非粘着性樹脂層20より高いタック性を有する。
【0014】
アクリル系樹脂は、アクリル系化合物を硬化させたものであり、ガラス転移温度が-80℃~15℃のものを好適に使用することができる。使用するアクリル系化合物としては、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート等の、(メタ)アクリレートを例示することができる。中でも、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートを好適に使用することができる。
【0015】
また、アクリル系化合物として上記の化合物を組み合わせて使用することもできる。加えて、粘着性熱伝導層のタック性を阻害しない範囲で、上記のアクリル系化合物と共重合可能な他の化合物を使用することもできる。共重合可能な化合物としては、(メタ)アクリル酸、N-ビニルピロリドン、イタコン酸等を例示することができる。
【0016】
アクリル系化合物の硬化方法としては、例えば、光重合開始剤や光架橋剤等を使用し、アクリル系化合物に紫外線を照射することにより、硬化させることができる。この場合、長波長紫外線(波長320nm~400nm)を光重合開始剤の解列に必要なエネルギー分だけ照射することにより、粘着性熱伝導層10の劣化を抑制することができる。
【0017】
粘着性熱伝導層10に含まれる熱伝導性フィラーとしては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、アルミニウム、銅、銀等の金属、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等の金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素等の窒化物、カーボンナノチューブ等が例示され、これらの1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、難燃性と絶縁性の観点から、水酸化アルミニウム、アルミナ、窒化アルミニウム、酸化マグネシウムから選択される1種以上を用いることが好ましい、また、熱伝導性フィラーは、アクリル系樹脂との界面強化や樹脂中での分散性向上を目的として、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、ステアリン酸などで処理したものを使用してもよい。
【0018】
熱伝導性フィラーの平均粒径は、0.5μm以上100μm以下が好ましく、分散性および熱伝導性の観点から、平均粒径は3μm以上20μm以下の小径の熱伝導性フィラーと、25μm以上100μm以下の大径の熱伝導性フィラーを併用することが好ましい。
【0019】
粘着性熱伝導層10中のアクリル系樹脂と熱伝導性フィラーとの配合割合は、アクリル系化合物100質量部に対し、熱伝導性フィラーを100質量部以上2000質量部以下とすることが好ましく、熱伝導性フィラーを300質量部以上1000質量部以下とすることがさらに好ましい。熱伝導性フィラーの配合割合が100質量部未満であると、熱伝導性シートの熱伝導性を十分に高めることが困難となり、熱伝導性フィラーの配合割合が3000質量部を超えると、熱伝導性シートの柔軟性が低下する傾向がある。平均粒径の異なる2種の熱伝導性フィラーを使用する場合、小径と大径の熱伝導性フィラーの割合は15:85~90:10とすることが好ましい。
【0020】
粘着性熱伝導層10は、アクリル系樹脂と熱伝導性フィラーに加えて、可塑剤を含有してもよい。可塑剤としては、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル等のアジピン酸系化合物、セバシン酸オクチル、セバシン酸ジイソデシル等のセバシン酸系化合物、リン酸トリクレシル等のリン酸系化合物、ヒマシ油やその他誘導体、ステアリン酸やオレイン酸等の高級脂肪酸およびその誘導体、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル等のフタル酸系化合物、低分子量アクリルポリマー、ワックス、タッキファイアー等が例示される。粘着性熱伝導層10中の配合割合としては、アクリル系化合物100質量部に対し、可塑剤を20質量部以上80質量部以下とすることが好ましく、30質量部以上70質量部以下がさらに好ましい。粘着性熱伝導層10は、必要に応じて、酸化防止剤、熱劣化防止剤、難燃剤、着色剤等を含有してもよい。
【0021】
粘着性熱伝導層10の層厚は、150μm以上3000μm以下であることが好ましい。層厚が150μm未満であると、被着体の凹凸に対する十分な追従性が得られず、3000μmを超えると硬化に長い時間を要し、生産性が低下する。
【0022】
非粘着性樹脂層20は、熱硬化性樹脂、硬化剤および難燃性フィラーを含有する。非粘着性樹脂層20のタック性は、粘着性樹脂層10より低い。タック性は、例えば、温度40度、アルミニウム製円柱状プローブを、押し付け速度30mm/min、引き剥がし速度120mm/min、荷重196g、押し付け時間5.0秒、引っ張り距離5mm、プローブ加熱40℃、シートステージ加熱40℃の条件で、非粘着性樹脂層10の表面に押し付けて引き剥がすことにより測定されるプローブタックにより評価することができ、非粘着性樹脂層20のプローブタックは、6kN/m以上30kN/m以下が好ましい。より好ましくは、7kN/m以上28kN/m以下である。
【0023】
非粘着性樹脂層20のタック性ならびに被着体への密着性および追従性の観点から、熱硬化性樹脂は、イソシアネート基、カルボキシキル基、(メタ)アクリル基、水酸基、アシル基およびグリシジル基から選択される少なくとも1種の官能基を有するものが好ましく、ガラス転移温度が10℃以上のものであることがより好ましい。使用する熱硬化性樹脂としては、アクリルゴム等の架橋ゴム、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、変性シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミドシリコーン樹脂、熱硬化型ポリフェニレンエーテル、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテルなどを例示することができる。熱硬化性樹脂の分子量は、数平均分子量で、3万~50万のものが好ましい。硬化剤は、使用する熱硬化性樹脂の官能基に応じて適宜選択される。また、硬化速度を調整するために、触媒を添加しても良い。バインダー樹脂を、イソシアネート基、カルボキシキル基、(メタ)アクリル基、水酸基、アシル基およびグリシジル基等の官能基を有する熱硬化樹脂で構成することにより、室温において非粘着性樹脂層20のタック性を粘着熱伝導層10より低く抑えることができる。熱硬化性樹脂としては、粘着性樹脂層と積層された状態において膜状となりやすいことを考慮すると、ポリウレタン樹脂やポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂が、好ましい。なお、使用する熱硬化性樹脂のガラス転移温度は、粘着性熱伝導層との接着強度、並びに粘着性熱伝導層上へ形成した際に塗膜として存在することが好ましいことを考慮すると、110℃以下であることが好ましい。
【0024】
非粘着性樹脂層20は、30℃~80℃で軟化する物質を含有する。非粘着性樹脂層20が30℃~80℃で軟化する物質を含有することにより、室温でのハンドリング性に優れるとともに、使用の際、被着物の発熱により非粘着性樹脂層20が軟化し、被着体への密着性および追従性を発現することができる。なお、ここでいう軟化温度とは、JIS K7234:1986(エポキシ樹脂の軟化点試験方法、環球式)によって測定される軟化点を言う
【0025】
30℃~80℃で軟化する物質は、当該温度に軟化点を有する固形樹脂が好ましい。非粘着性樹脂層20が、30℃~80℃で軟化する物質として有機成分である固形樹脂を含有することにより、加温時の非粘着樹脂層20の流動性を高くすることができ、非粘着樹脂層20の薄化が容易となり、熱伝導性シートの表面接触抵抗値を低減することができる。
【0026】
固形樹脂としては軟化点が30℃~80℃にある樹脂であって熱硬化性を有するものであればよく、例えば固形エポキシ樹脂やフェノール樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂の具体例としては、エポキシ当量が450~700にあるビスフェノールA型エポキシ樹脂、繰り返し単位が3~5にあるクレゾールノボラック型エポキシ樹脂やフェノールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量が240~270にあるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物が挙げられる。また、前述の熱硬化性樹脂と合わせた硬化があっても良く、その硬化速度を調整するために、触媒を添加しても良い。このような触媒としては、例えばイミダゾール系やアミン系の硬化触媒が挙げられ、軟化温度と同等の温度で活性があるものが好ましい。また、熱伝導性シートの保存安定性の観点からは、イミダゾールないしはアミンとエポキシ樹脂を反応させたアダクト体からなる熱潜在性の触媒や、芳香族スルホニウム塩などのカチオン硬化型の触媒が好ましい。軟化による密着性の向上と熱硬化により、被着体への接着力はより強固になる
【0027】
非粘着性樹脂層20中での30℃以上80℃以下で軟化する物質の配合割合は、熱硬化性樹脂100質量部に対し、30℃以上80℃以下で軟化する物質を50質量部以上400質量部以下とすることが好ましい。30℃以80℃以下で軟化する物質が50質量部未満の場合、被着体への密着性、追従性が低くなり、400質量部より大きいとハンドリング性が低下するおそれがある。非粘着性樹脂層20中での配合割合は、熱硬化性樹脂100質量部に対し、30℃以上80℃以下で軟化する物質を100質量部以上400質量部以下とすることがさらに好ましい。
【0028】
非粘着性樹脂層20は、フィラーを含有する。使用するフィラーは、必要とする機能によって適宜選択されるが、熱伝導性や流動性調整の観点からは無機酸化物や無機窒化物などが好ましい。無機酸化物としてはシリカやアルミナなどが挙げられる。無機窒化物としては窒化アルミニウムや窒化ホウ素などが挙げられる。また、製造時のハンドリングや難燃性を重視する観点からは、非粘着性樹脂層20中で沈降しにくく、均一に分散しやすいことから、有機フィラーが好ましい。使用するフィラーは、例えば、メラミンシアヌレート等のシアヌール酸化合物、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸アンモニウム等の有機リン酸塩等を例示することができる。これらのフィラーは、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
フィラーの平均粒径は、分散の安定性、外観の観点から0.05μm以上25μm以下が好ましく、0.1μm以上20μm以下がさらに好ましい。非粘着性樹脂層20中でのフィラーの配合割合は、フィラーの添加目的にもよるが、通常熱硬化性樹脂100質量部に対し、フィラーを3質量部以上50質量部以下とすることが好ましい。フィラーが3質量部未満の場合、被粘着性樹脂層の表面がべたつくことにより、ワーク性が低下するおそれがあり、30質量部より大きいと非粘着性樹脂層20をコーターで塗付形成した場合の塗り跡が目立ちやすく、外観が低下する。非粘着性樹脂層20中での配合割合は、熱硬化性樹脂100質量部に対し、フィラーを5質量部以上25質量部以下とすることがさらに好ましい。
【0030】
非粘着性樹脂層20の層厚は、2μm以上15μm以下であることが好ましい。非粘着性樹脂層20の層厚が2μmより薄いと、熱伝導性シートのハンドリング性が低下し、非粘着性樹脂層20の層厚が15μmより厚いと、熱伝導性シートの熱抵抗が上昇し、放熱特性が不十分となる。
【0031】
剥離フィルム30としては、例えば、シリコーンなどの剥離剤をポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、延伸ポリプロピレン、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、ポリテトラフルオロエチレン等のフィルムに塗布したものを使用することができる。
【0032】
非粘着性樹脂層20は、実装前はタックが低いためハンドリング性に優れるが、実装後、被着体の放熱により軟化・溶解し、被着体への密着性および追従性が向上し、結果として表面接触熱抵抗値が低くなり、優れた放熱特性を示す。また、非粘着性樹脂層20は、実装後、加温により薄化し、粘着性熱伝導層と一体化して単層構成となる。
【0033】
[熱伝導性シートの製造方法]
本発明にかかる熱伝導性シートの製造方法の一実施形態としては、イソシアネート基、カルボキシキル基、メタ(アクリル)基、水酸基、アシル基およびグリシジル基から選択される少なくとも1種の官能基を有する熱硬化性樹脂、硬化剤、30℃~80℃で軟化する物質およびフィラーを含有する非粘着性樹脂層の形成工程と、アクリル系化合物を硬化させたアクリル系樹脂と熱伝導性フィラーを含有する粘着性熱伝導層の形成工程と、粘着性熱伝導層と非粘着性樹脂層とを積層する積層工程とを有する。
【0034】
図2は、本技術の一実施の形態にかかる熱伝導性シートの製造方法を示す図である。非粘着性樹脂層の形成工程は、まず、硬化剤を除いた非粘着性樹脂層を構成する材料、すなわち、イソシアネート基、カルボキシキル基、メタ(アクリル)基、水酸基、アシル基およびグリシジル基から選択される少なくとも1種の官能基を有する熱硬化性樹脂、30℃~80℃で軟化する物質およびフィラーを所定の割合で溶剤中に添加し均一に混合した後、硬化剤を添加して非粘着性樹脂層形成用塗料を作製する。その後、剥離処理を施したPETフィルムからなる剥離層30B上に、非粘着性樹脂層形成用塗料をコイルバーで所定の厚みとなるように塗布し、乾燥して非粘着性樹脂層20を形成する。
【0035】
粘着性熱伝導層の形成工程は、まず、アクリル系樹脂、硬化剤および熱伝導性フィラーを所定の割合で均一に混合した粘着性熱伝導層形成用塗料を作製する。その後、剥離処理を施した透明PETフィルムからなる剥離層30A上に、粘着性熱伝導層形成用塗料を所定の厚みとなるようにバーコーターで塗布し、塗布面上に片面にシリコーンで離型処理をした透明PETフィルムからなる透明カバーフィルム40を被せ、剥離層30A側とカバーフィルム40側の双方からケミカルランプにて長波長紫外線を5分程度照射し、粘着性熱伝導層10を形成する。
【0036】
積層工程は、粘着性熱伝導層10のカバーフィルム40を剥がしながら、ラミネーターで非粘着性樹脂層20を粘着性熱伝導層10上に積層することで、熱伝導シートを作製することができる。
【0037】
本発明にかかる熱伝導性シートは、上記の方法によらず、剥離フィルム上に非粘着性樹脂層形成用塗料と、粘着性熱伝導層形成用塗料を順次所定の厚さに塗布し、粘着性熱伝導層形成用塗料上に剥離フィルムを被せ、その上から紫外線を照射して粘着性熱伝導層形成用塗料のアクリル系化合物を硬化させることにより製造してもよい。
【0038】
上記のようにして製造した熱伝導性シートは、剥離フィルムが被着した状態でロール状に巻き回して保管することができる。ロール状の熱伝導性シートは、所定形状にカットされ、剥離フィルムを剥がして、被着体である電子部品等とヒートシンクとの間に被着されて使用される。
【実施例0039】
以下、実施例および比較例に基づき、本発明の熱伝導性シートについて詳細に説明する。
[使用した材料]
(粘着性熱伝導層)
・アクリル系化合物
アクリル酸-2-エチルヘキシル(日本触媒製)
・可塑剤
ヒマシ油誘導脂肪酸エステル(伊藤製油製)
・光重合開始剤
イルガキュア184、BASF製
・硬化剤
ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、KAYARAD FM-400、日本化薬製
・熱伝導性フィラー
水酸化アルミニウム(平均粒形80μm)
水酸化アルミニウム(平均粒形8μm)
(非粘着性樹脂層)
・熱硬化性樹脂
ポリエステル樹脂(Tg15℃、エリーテルUE3500、ユニチカ製)
・硬化剤
アミン系潜在性硬化剤(フジキュア7001、味の素ファインテクノ製)
・フィラー
ヒュームドシリカ(アエロジルRY200、エボニック製)
・30℃~80℃で軟化する物質
エポキシ樹脂A(軟化点64℃、JER1001(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量500、三菱化学製))
・30℃~80℃で軟化しない物質
エポキシ樹脂B(軟化点93℃、JER1055(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量500、三菱化学製))
【0040】
(実施例1)
[粘着性熱伝導層の調整]
アクリル系化合物100質量部、可塑剤47質量部、光重合開始剤1.4質量部、硬化剤1.5質量部、熱伝導性フィラーとして水酸化アルミニウム粉(平均粒径80μm)400質量部、水酸化アルミニウム粉(平均 粒径8μm)400質量部を混合して粘着性熱伝導層形成用塗料を調製した。
[非粘着性樹脂層の形成]
熱硬化性樹脂100質量部、30℃~80℃で軟化する物質としてエポキシ樹脂A320質量部、硬化剤80質量部、フィラー10質量部を、トルエン:メチルエチルケトンの混合比3:2の混合溶剤中に溶解、分散させ、非粘着性樹脂層形成用塗料を調整した。
[熱伝導性樹脂シート]
50μm厚の、剥離処理を施したPETフィルム上に、非粘着性樹脂層形成用塗料をコイルバーで厚み2μmとなるように塗布し、50℃×10分で乾燥して非粘着性樹脂層を得た。
一方、50μm厚の剥離処理を施した透明PETフィルム上に、粘着性熱伝導層を厚み150μmとなるようにバーコーターで塗布した。しかる後、塗布面上に片面にシリコーンで離型処理をした25μm厚の透明PETフィルムからなる透明カバーフィルムを被せ、PETフィルム側とカバーフィルム側の双方からケミカルランプにて長波長紫外線を5分間照射し、粘着性熱伝導層を得た。
粘着性熱伝導層のカバーフィルムを剥がしながら、ラミネーターで非粘着性樹脂層を粘着性熱伝導層上に積層することで、熱伝導シートを得た。
【0041】
(実施例2、3)
非粘着性樹脂層の厚さを8μm、14μmとした以外は実施例1と同様の条件で熱伝導性シートを製造した。
【0042】
(比較例1)
熱伝導性シートを粘着性熱伝導層のみとした以外は、実施例1と同様の条件で熱伝導性シートを製造した。
【0043】
(比較例2)
非粘着性樹脂層のエポキシ樹脂A熱硬化性樹脂をエポキシ樹脂Bに替え、非粘着性樹脂層の厚さを8μmとした以外は実施例1と同様の条件で熱伝導性シートを製造した。
【0044】
(比較例3、4)
非粘着性樹脂層の厚さを20μm、1μmとした以外は実施例1と同様の条件で熱伝導性シートを製造した。
【0045】
[評価]
各実施例および比較例で製造した熱伝導性シートについて、表面熱抵抗値、ハンドリング性、非粘着樹脂層の実装前強度性を下記のようにして評価した。結果を表1に示す。
【0046】
・表面抵抗値
ASTM-D5470に準拠した方法により荷重1.0kgf/cmで各サンプルの表面接触熱抵抗値を測定した。
・ハンドリング性
〇:指触でタックが感じられず、指がスムーズに離れる
×:指触でタックが感じられ、指が離れにくい
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示すように、実施例1の熱伝導性シートは、特定の官能基を有するガラス転移温度が10℃以上の熱硬化性樹脂および30℃~80℃で軟化する物質を含有する非粘着性樹脂層を有するため、被着体への実装前は非粘着性樹脂層が固く、タック性が低いため、ハンドリング性が良好であった。また、実装後、被着体の発熱により加温され、非粘着性樹脂層が軟化することで、粘着性熱伝導層のみからなる単層構成と類似した構成となり、被着体への密着性、追従性が向上し、非粘着性樹脂層を有しない比較例1の熱伝導性シートと同等の表面接触熱抵抗値が得られた。
【0049】
実施例2および3の熱伝導性シートは、非粘着樹脂層の厚みの増加に伴い、表面接触熱抵抗値が上昇したものの、30℃~80℃で軟化する物質を含有しない比較例2と比べて表面熱抵抗値は十分に低く、ハンドリング性も良好であった。
【0050】
非粘着性樹脂層を有しない比較例1は、熱抵抗値が極めて低いが、粘着性熱伝導層の高いタック性に起因するブロッキング等によりハンドリング性に劣るものである。
比較例2の熱伝導性シートは、非粘着性樹脂層が固く、タック性が低いため、ハンドリング性が良好であるが、実装後も被着体への密着性、追従性が十分でないため、表面接触熱抵抗値が高く放熱特性が劣るものである。
非粘着樹脂層が厚い比較例3は、ハンドリング性に優れるが、表面接触熱抵抗値が高くなった。
非粘着樹脂層が薄い比較例4は、表面接触熱抵抗値は低いものの、膜厚の薄さのため脆く取り扱い性に劣るものであった。
【符号の説明】
【0051】
10 粘着性熱伝導層、20 非粘着性樹脂層、30、30A、30B 剥離層、40 カバーフィルム
図1
図2