(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130953
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】金属用スタンプ
(51)【国際特許分類】
C09D 11/10 20140101AFI20220831BHJP
B41K 1/50 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C09D11/10
B41K1/50 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029637
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】浦野 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】魚住 俊介
(72)【発明者】
【氏名】久野 憲司
(72)【発明者】
【氏名】江▲崎▼ 直史
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AD03
4J039AD09
4J039AE11
4J039BA13
4J039BA35
4J039BC13
4J039BC14
4J039BC15
4J039BC35
4J039BE01
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA38
4J039FA01
4J039GA07
(57)【要約】
【課題】水に濡れた面にスタンプした後であってもスタンプ性が回復するとともに、防錆剤等の油が塗られた金属に対しても連続スタンプ性を良好なものとする金属用スタンプを提供することである。
【解決手段】インク転写用多孔質体及び水性インクを具備する金属用スタンプであり、前記インク転写用多孔質体は孔径500μm以下のポリビニルアルコール(PVA)スポンジであり、前記水性インクは、少なくとも顔料、水、有機溶剤、アルカリ可溶性樹脂、界面活性剤、及び中和剤を含み、前記水性インクにおいて、前記有機溶剤の含有量は前記水の含有量より大きく、前記アルカリ可溶性樹脂は酸価が50mg/KOH以上であり、前記水性インクに、前記中和剤が、前記アルカリ可溶性樹脂の酸価に対して中和度40%~200%になるよう含まれる、金属用スタンプ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク転写用多孔質体及び水性インクを具備する金属用スタンプであり、
前記インク転写用多孔質体は孔径500μm以下のポリビニルアルコール(PVA)スポンジであり、
前記水性インクは、少なくとも顔料、水、有機溶剤、アルカリ可溶性樹脂、界面活性剤、及び中和剤を含み、
前記水性インクにおいて、前記有機溶剤の含有量は前記水の含有量より大きく、
前記アルカリ可溶性樹脂は酸価が50mg/KOH以上であり、
前記水性インクに、前記中和剤が、前記アルカリ可溶性樹脂の酸価に対して中和度40%~200%になるよう含まれる、
金属用スタンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、金属用スタンプに関する。
【背景技術】
【0002】
マーキング器具としては、ペン、スタンプ等が知られている。
【0003】
特許文献1では、油付着金属面用マーキングインキ組成物として、特定の溶剤種と特定のポリビニルブチラール樹脂を含む油性インキ組成物が提案されている。また、このインキ組成物を用いたマーキングペンで油付着金属面にマーキングすること、及び、洗浄液による剥離が改善されることが記載されている。
【0004】
特許文献2では、ポリ(N-アシルアルキレンイミン)変性シリコーンを含むスタンプ台用インキが提案され、濡れ性の悪い材料への捺印性を改善することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-280800号公報
【特許文献2】特開2004-83693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金属に印をつけるために、マーキング器具(例えば、ペンやスタンプ)を工事現場や切削加工において用いる場合には、次のような課題がある。金属には通常防錆剤が塗工されており、防錆剤には通常表面張力が低い石油系炭化水素が含まれることから、このような防錆剤が塗工された金属表面にはインクが転写されにくい。また、マーキング現場が屋外の場合、マーキング後に雨が降る場合があるため、マーキング物には耐水性が求められるだけではなく、誤って雨に濡れた面にマーキングしても、マーキング器具が目詰まりを起こさずにマーキング性能が回復することが求められる。
マーキングする場合、動作が少ない点からペン形状よりもスタンプ形状の方が、作業効率が高い。一方、金属との接触面積が多くなる分、前述した課題の影響がより大きくなる傾向がある。
【0007】
本発明の実施形態は、水に濡れた面にスタンプした後であってもスタンプ性が回復するとともに、防錆剤等の油が塗られた金属に対しても連続スタンプ性を良好なものとすることができる金属用スタンプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は、インク転写用多孔質体及び水性インクを具備する金属用スタンプであり、前記インク転写用多孔質体は孔径500μm以下のポリビニルアルコール(PVA)スポンジであり、前記水性インクは、少なくとも顔料、水、有機溶剤、アルカリ可溶性樹脂、界面活性剤、及び中和剤を含み、前記水性インクにおいて、前記有機溶剤の含有量は前記水の含有量より大きく、前記アルカリ可溶性樹脂は酸価が50mg/KOH以上であり、前記水性インクに、前記中和剤が、前記アルカリ可溶性樹脂の酸価に対して中和度40%~200%になるよう含まれる、金属用スタンプに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、水に濡れた面にスタンプした後であってもスタンプ性が回復するとともに、防錆剤等の油が塗られた金属に対しても連続スタンプ性を良好なものとすることができる金属用スタンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態の金属用スタンプの正面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について詳しく説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることはなく、様々な修正や変更が加えられてもよいことはいうまでもない。
【0012】
本発明の一実施形態による金属用スタンプは、インク転写用多孔質体及び水性インクを具備する金属用スタンプであり、インク転写用多孔質体は孔径500μm以下のポリビニルアルコール(PVA)スポンジであり、水性インクは、少なくとも顔料、水、有機溶剤、アルカリ可溶性樹脂、界面活性剤、及び中和剤を含み、水性インクにおいて、有機溶剤の含有量は水の含有量より大きく、アルカリ可溶性樹脂は酸価が50mg/KOH以上であり、水性インクに、中和剤が、アルカリ可溶性樹脂の酸価に対して中和度40%~200%になるよう含まれる、金属用スタンプである。
実施形態の金属用スタンプは、水分比率が少なく、特定値以上の酸価を有するアルカリ可溶性樹脂を含み、アルカリ可溶性樹脂が特定範囲に中和されていて、界面活性剤を含む水性インクと、特定材質及び特定孔径のスポンジとを備えたスタンプであるため、スタンプした面の水がスポンジに混入しても樹脂が再溶解しやすく、防錆剤等の油が混入してもそのまま支障なくスタンプを続けることができる。このように、水に濡れた面にスタンプした後であってもスタンプ性を回復させることができるとともに、防錆剤等の油が塗られた金属に対しても連続スタンプ性を良好なものとすることができる。
さらに、耐水性も良好なものとすることができる。
【0013】
より詳細には、以下のように考えられる。
金属用途には溶剤インクを使用する場合が多い。しかしながら、溶剤インクは、水を含むと樹脂が析出してしまい、これによりスポンジが目詰まりを起こす場合がある。多くの場合、スポンジ内で析出した樹脂は、フレッシュなインクを投入しても、簡単には再溶解せず、結果として目詰まりを起こしたまま、スタンプ性が改善しない場合がある。水性インク中に含まれる樹脂が、酸価が50mg/KOH以上のアルカリ可溶性樹脂であり、且つ、水性インクが、アルカリ可溶性樹脂の酸価に対して中和度40%~200%になるよう中和剤を含有することで、樹脂が水に対して析出を起こし難く、フレッシュなインクを投入すればスタンプ性が回復し得る。また、PVAスポンジは親水基を多く含むため、水を含むインクとの親和性が高く、フレッシュな水性インクがスポンジの隅々まで速やかに供給されやすいことから、水との混和により部分的に樹脂が析出してもフレッシュな水性インクによる再溶解が速やかに起こりやすく、より迅速にスタンプ性を回復させることができる。このようにして、水に濡れた面にスタンプした後であってもスタンプ性を回復させることができる。
水性インクは、中和した樹脂をインク中に溶解させるために水を含む。一方、通常の水性インクは、防錆剤との混和性が悪いため、防錆剤が塗工された面へのインクの転写性が著しく悪い傾向を有する。インク中の有機溶剤量を水の量よりも多くすることで、防錆剤の一部がインクに取り込まれやすくなり、転写性を向上し得る。また、PVAスポンジは水を含むインクとの親和性が高い傾向にあり、更に、PVAスポンジの孔径が500μm以下であることで毛細管現象も起こりやすい。このため、スポンジに、均一且つ速やかにインクが供給され続けることが可能となり、連続してスタンプしても、スポンジ上でのインク切れが起こりにくい。通常スタンプに使用されるゴムやポリエチレン(PE)フォームは、スタンプしているうちに防錆油を吸い、膨潤を引き起こす場合があり、このため、スタンプするにつれて、インクの供給や転写性を損なう場合がある。PVAスポンジは親水性が高い傾向であるため、膨潤は起こり難い。このようにして、防錆剤等の油が塗られた金属に対しても連続スタンプ性を良好なものとすることができる。
中和剤が揮発により留去されると、アルカリ可溶性樹脂の疎水性が高まり水に溶解しなくなり、疎水性が高まる。これにより押印物の耐水性が高まるが、インクが均一(薄膜)に転写されていないと、中和剤が十分に揮発できず、耐水性が発現しにくくなる場合がある。水性インクが水および界面活性剤を含むことで、インクがPVAスポンジ内に均一に供給されやすく、金属に均一にインクが転写されやすくなる。また、水性インクとPVAスポンジとの親和性が高いため、過度にインクがスポンジから転写されることも起こりにくい。更に、水性インクが水よりも有機溶剤を多く含むため、転写後は、はじきが起こりにくい。結果として、インクが厚盛になる部分が無いまま乾燥することができるため、押印されたインクが良好に乾燥し、押印物の耐水性を向上させることができる。
【0014】
実施形態の金属用スタンプは、インク転写用多孔質体を具備することができる。
【0015】
インク転写用多孔質体は、孔径500μm以下のポリビニルアルコール(PVA)スポンジでありことが好ましい。
PVAスポンジの孔径は50~500μmが好ましく、100~300μmがより好ましい。放置による目詰まりを低減する観点から、PVAスポンジの孔径は50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましい。毛細管現象による連続スタンプ性の向上、及び均一なスタンプ面による耐水性の向上の観点から、PVAスポンジの孔径は500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましい。
孔径の測定方法は、顕微鏡で20個(n=20)の孔径を測定し、平均化する方法が挙げられる。
【0016】
孔径500μm以下のポリビニルアルコール(PVA)スポンジの市販品としては、アイオン株式会社製ベルイーターD(A)、ベルイーターE(A)、ベルイーターFB(A)等が挙げられる。
【0017】
実施形態の金属用スタンプは、水性インクを具備することができる。
【0018】
水性インクは、顔料を含むことが好ましい。
【0019】
顔料としては有機顔料及び無機顔料のいずれでもよい。必要に応じて、有機顔料及び/又は無機顔料と体質顔料とを併用することもできる。体質顔料としては、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
有機顔料としては、アゾ顔料、ジスアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
無機顔料としては、カーボンブラック、金属酸化物、金属塩化物等が挙げられる。
用途の観点から、白色が好まれる場合が多い。白色顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、シリカ、中空樹脂粒子等が好ましい。
【0020】
水性インク中の顔料の含有量は、水性インク全量に対して1~30質量%%が好ましく、10~20質量%がより好ましい。
【0021】
水性インクは、アルカリ可溶性樹脂を含むことが好ましい。
【0022】
アルカリ可溶性樹脂は、水には不溶性であるが、アルカリの存在下では水可溶性になる高分子である。アルカリ可溶性樹脂は、中和前は水に不溶性であるが、中和後は水可溶性になることができる。アルカリ可溶性樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂等が使用できる。中でも、再溶解性の速さから(メタ)アクリル樹脂、またはスチレン-(メタ)アクリル樹脂が好ましい。
【0023】
アルカリ可溶性樹脂の酸価は、水との混合による凝集を低減する観点から、50mg/KOH以上が好ましく、55mg/KOH以上がより好ましく、60mg/KOH以上がより一層好ましい。アルカリ可溶性樹脂の酸価は、耐水性の向上の観点から、300mg/KOH以下が好ましく、200mg/KOH以下がより好ましく、160mg/KOH以下がより一層好ましい。
アルカリ可溶性樹脂の酸価は、50mg/KOH~300mg/KOHが好ましく、55mg/KOH~200mg/KOHがより好ましく、60mg/KOH~160mg/KOHがより一層好ましい。
ここで、酸価は、不揮発分1g中の全酸性成分を中和するのに必要な水酸化カリウムのミリグラム数である。
【0024】
アルカリ可溶性樹脂の分子量は、押印物の耐久性の向上の観点から、1,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましい。アルカリ可溶性樹脂の分子量は、糸曳きによるスタンプ性の低下の抑制の観点から、1,000,000以下が好ましく、50,000以下がより好ましい。
アルカリ可溶性樹脂の分子量は、1,000~1,000,000が好ましく、5,000~50,000がより好ましい。
【0025】
アルカリ可溶性樹脂のガラス転移点(Tg)は、耐久性の観点から25℃以上であることが好ましく、屋外の炎天下での使用の観点から、50℃以上であることがより好ましい。
【0026】
水性インク中のアルカリ可溶性樹脂の量は、水性インク全量に対して、1~40質量%であることが好ましく、5~25質量%であることがより好ましい。
【0027】
水性インクは、中和剤を含むことが好ましい。
【0028】
中和剤としては、有機アミン、アンモニア、アルカリ金属等が挙げられるが、連続スタンプ性の向上の観点から、なかでも有機アミンまたはアンモニアであることが好ましい。
【0029】
押印物の耐水性の向上の観点から、中和剤は揮発性であることが好ましい。
【0030】
中和剤の沸点は、連続スタンプ性の向上の観点から、-40℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、70℃以上がより一層好ましい。中和剤の沸点は、良好な成膜性と耐水性の向上の観点から、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、150℃以下がより一層好ましい。
中和剤の沸点は、-40~300℃が好ましく、40~250℃がより好ましく、70~150℃がより一層好ましい。
【0031】
中和剤としては、具体的には、アンモニア、トリエチルアミン、ジイソプロパノールアミン、モルホリン、ピロリジン等が挙げられる。
【0032】
中和剤の添加量は、アルカリ可溶性樹脂の酸価に対する中和度に応じて添加することが好ましい。水との混合による析出の低減の観点から、中和剤は、インク中に、アルカリ可溶性樹脂の酸価に対して中和度40%以上になるように含まれることが好ましく、中和度60%以上になるように含まれることがより好ましく、中和度70%以上になるように含まれることがより一層好ましい。中和剤の揮発の促進及びそれによる押印物の耐水性の向上の観点から、中和剤は、インク中に、アルカリ可溶性樹脂の酸価に対して中和度200%以下になるように含まれることが好ましく、中和度150%以下になるように含まれることがより好ましく、中和度100%以下になるように含まれることがより一層好ましい。また、中和剤は、インク中に、アルカリ可溶性樹脂の酸価に対して中和度40~200%になるように含まれることが好ましく、中和度60~150%になるように含まれることがより好ましく、中和度70~100%になるように含まれることがより一層好ましい。
【0033】
水性インクは、有機溶剤を含むことが好ましい。
【0034】
有機溶剤としては、中和した樹脂の溶解性、PVAスポンジとの親和性の観点から、水溶性有機溶剤であることが好ましく、アルコール系であることがより一層好ましい。また、室温で乾燥する観点から、沸点は250℃以下であることが好ましい。連続スタンプ性の観点からは、沸点は100℃以上が好ましい。両立する観点から沸点は110℃~180℃がより一層好ましい。
【0035】
有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0036】
水性インクは、水を含むことが好ましい。
【0037】
PVAとの親和性の観点から、水性インク中の水の量は、水性インク全量に対して1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。インク転写性の観点から、水性インク中の水の量は、水性インク全量に対して30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。水性インク中の水の量は、水性インク全量に対して1~30質量%であることが好ましく、5~20質量%であることがより好ましい。
【0038】
水性インクにおいて、有機溶剤の含有量は水の含有量より大きいことが好ましい。有機溶剤と水との水性インク中の含有量の比率は、質量比として、水1に対して有機溶剤が1.1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましい。有機溶剤と水との水性インク中の含有量の比率は、質量比として、水1に対して有機溶剤が20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましい。
有機溶剤と水との水性インク中の含有量の比率は、有機溶剤:水の質量比として、1.1:1~20:1が好ましく、2:1~15:1がより好ましい。
【0039】
水性インクは、界面活性剤を含むことが好ましい。
【0040】
界面活性剤としては、PVAスポンジとの親和性や、水混和時の析出防止の観点から、HLB値が高い親水性界面活性剤が好ましい。中でも、防錆剤が塗られた金属に対するインクの転写性の向上の観点から、表面張力が低いシリコーン系界面活性剤が好ましい。
【0041】
界面活性剤の含有量は、水性インク全量に対して0.1~5質量%であることが好ましく、1~3質量%であることがより好ましい。
【0042】
水性インクには、必要に応じて分散剤、防腐剤、酸化防止剤、UV吸収剤、赤外線吸収剤、架橋剤等を添加することができる。
【0043】
水性インクの製造方法はとくに限定されない。
水性インクの製造では、例えば、有機溶剤に溶解した樹脂に、水、中和剤及び界面活性剤の混合液を加えたのち、少なくとも5分以上攪拌し、その後に、顔料分散体を投入することが好ましい。
アルカリ可溶性樹脂の中和段階は、無中和のアルカリ可溶性樹脂(水に不溶)、過中和のアルカリ可溶性樹脂(溶剤に難溶の場合がある)が混在する状態であるため、この状態で十分に攪拌・冷却することが好ましい。攪拌・冷却が十分になされた状態で顔料分散体と混和すると、溶解不足の樹脂との接触や中和熱による顔料の凝集が低減されやすく、連続スタンプ性を向上させやすい。
【0044】
水性インクは、インク転写用多孔質体に保持されていてもよい。
金属用スタンプは、インク転写用多孔質体及び水性インクのほかに、例えば、インク転写用多孔質体ホルダー等を備えていてもよい。
【0045】
実施形態の金属用スタンプを用いてスタンプする対象となる基材としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、チタン、錫、クロム、カドミウム、合金(例えばステンレス、スチール等)等の金属を用いた金属物品が挙げられる。
スタンプする対象の金属物品としては、表面に防錆剤が塗布された金属物品等であってもよい。
【0046】
実施形態の金属用スタンプを用いて、スタンプされた金属物品を製造することができる。
【0047】
実施形態のスタンプされた金属物品を製造する方法は、基材に金属用スタンプを用いてスタンプすることを含むことが好ましい。金属用スタンプ及び基材としては、それぞれ上述のものを用いることができる。
【実施例0048】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0049】
「インクの作製」
表1~2にインク1~12の処方を示す。下記の手順でインクを作成した。
(1)表の(A)に記載の材料(顔料、分散剤、及び有機溶剤)を50mLのポリプロピレン(PP)容器に入れ、φ0.5mmのジルコニアビーズと一緒に、ビーズミル(株式会社セイワ技研製、ロッキングミルRM-05)で分散し、(A)白色顔料分散体を得た。
(2)表の(B)に記載の材料(樹脂及び有機溶剤)をガラス容器に入れ、70℃で加熱攪拌し、(B)樹脂溶解液を得た。
(3)(B)樹脂溶解液に、(C)の材料(中和剤、界面活性剤及び水)の(C)混合液を少しずつ投入し、10分間攪拌及び冷却した。
(4)上記の(3)で得られた混合液に、(A)白色顔料分散体を投入し、10分間攪拌した。
(5)撹拌後、200メッシュスクリーンで濾別し、インクを得た。
【0050】
表に記載のインクの材料は以下の通りである。
(A)
R-21:堺化学工業株式会社製、酸化チタン顔料
DISPERBYK-180:ビックケミー・ジャパン株式会社製、分散剤(無溶剤型湿潤分散剤)
エチレングリコールモノメチルエーテル:東京化成工業株式会社製、有機溶剤、純度99.0質量%超
プロピレングリコールモノメチルエーテル:東京化成工業株式会社製、有機溶剤、純度99.0質量%超
【0051】
(B)
RS-1191:星光PMC株式会社製、アルカリ可溶性樹脂(スチレン-アクリル樹脂、酸価:280mg/KOH、Tg:128℃)
RS-110:星光PMC株式会社製、アルカリ可溶性樹脂((メタ)アクリル樹脂、酸価:150mg/KOH、Tg:73℃)
X-1:星光PMC株式会社製、アルカリ可溶性樹脂(スチレン-(メタ)アクリル樹脂、酸価:110mg/KOH、Tg:52℃)
X-310:星光PMC株式会社、アルカリ可溶性樹脂、((メタ)アクリル樹脂、酸価:60mg/KOH、Tg:53℃
ジプロピレングリコールジメチルエーテル:東京化成工業株式会社製、有機溶剤、純度94.0質量%超
ジエチレングリコールモノブチルエーテル:東京化成工業株式会社製、有機溶剤、純度99.0質量%超
【0052】
(C)トリエチルアミン:東京化成工業株式会社製、中和剤、純度99.0質量%超
25%アンモニア水:富士フイルム和光純薬株式会社、中和剤、有効成分25質量%
シルフェイスSAG002:日信化学工業株式会社、界面活性剤(シリコーン系界面活性剤)
サーフィノール485:Evonik社製、界面活性剤(アセチレングリコール系界面活性剤)
【0053】
「スポンジ」
表に記載のスポンジは以下の通りである。
ベルイーターD(A):アイオン株式会社製、PVA、孔径:80μm
ベルイーターE(A):アイオン株式会社製、PVA、孔径:130μm
ベルイーターFB(A):アイオン株式会社製、PVA、孔径:300μm
ベルイーターGB(A):アイオン株式会社製、PVA、孔径:700μm
オプセルLC-150:三和化工株式会社製、PE、孔径:300μm
【0054】
「評価」
金属板(スチール)に防錆剤(KURE 3-36、呉工業株式会社製、成分として鉱物油、防錆剤及び石油系溶剤を含有)を塗工し、スタンプ基材とした。
評価治具を作製し、インクを注入して、金属用スタンプとした。
図1は、本発明の実施形態の金属用スタンプの正面の模式図であり、作製した評価治具の正面の模式図でもある。
図1において、1は評価治具(金属用スタンプ)であり、2はスポンジであり、3はスポンジホルダーであり、4はインク供給穴である。
このようにして得られたスタンプ基材および金属用スタンプを用いて、下記の評価を行った。各実施例及び比較例では、表1~2に記載のインクを用いた。各実施例及び比較例では、表1及び2において、四角印で示されたスポンジを用いた。
【0055】
(1)連続スタンプ性
上記のように作製したスタンプ基材(防錆剤を塗工した金属板)に100回連続スタンプし、押印面の状態を観察し、下記の評価基準で評価した。結果を表1~2に示す。
(評価基準)
A:100回スタンプしても、押印の状態に変化が殆ど無い
B:100回スタンプ時点では押印の欠けが発生しているが、50回スタンプ時点では問題ない
C:50回未満のスタンプで、押印に問題が起こる
【0056】
(2)押印物の耐水性
上記のように作製したスタンプ基材(防錆剤を塗工した金属板)にスタンプ後10分放置し、水をスプレーで吹きかけ、押印部の滲みを確認し、下記の評価基準で評価した。結果を表1~2に示す。
(評価基準)
A:滲みが起こらない
B:僅かに滲みが発生
C:明らかな滲みが起こる
【0057】
(3)水との混合回復性
水をスプレーで吹きかけた金属板に5回スタンプ後、上記のように作製したスタンプ基材(防錆剤を塗工した金属板)に10回スタンプし、押印面の状態を観察し、下記の評価基準で評価した。結果を表1~2に示す。
(評価基準)
A:初期状態と変化が殆どない押印状態
B:初期状態と比較し、押印の欠け等がある
C:殆どインクが出ていない
【0058】
【0059】
【0060】
実施例1~6は、全ての評価において優れた結果を示した。
実施例7では、インク中の溶剤に対する水の比率が比較的高いため、防錆剤をインク中に取り込みにくく、実施例1~6に比べて転写性がやや劣る。また、転写がやや不均一になるためインクが厚盛になる部分があり、中和剤が乾燥しきらず、耐水性も、実施例1~6に比べてやや劣る。
実施例8では、中和度が高いため、インク中に樹脂が均一に溶解しきれておらず、実施例1~6に比べて連続スタンプ性が僅かに劣った。また中和剤が揮発しきらず、実施例1~6に比べて耐水性がやや劣った。
実施例9は、中和度が低いため、インク中に樹脂が均一に溶解しきれておらず、実施例1~6に比べて連続スタンプ性が僅かに劣った。また、水混合時の析出もしやすく、フレッシュなインク中にも余剰な中和剤が少ないため、実施例1~6に比べて、水との混合回復性がやや劣った。
実施例10は、アルカリ可溶性樹脂の酸価が高いため、中和剤の保持力が高く中和剤が揮発しにくく、樹脂自体も親水性が高いため、実施例1~6に比べて耐水性にやや劣った。
実施例11は、シリコーン系界面活性剤以外の界面活性剤を用いており、インクの転写が僅かに不均一になり、中和剤の揮発しきらなかったため、実施例1~6に比べて耐水性がやや劣った。
【0061】
比較例1は、スポンジの孔径が大きすぎるため、インクが過剰に転写され過ぎてしまい、連続スタンプ性や、乾燥性低下に伴う耐水性が劣った。
比較例2は、スポンジの材質がポリエチレンであり、インクの転写性が劣ることや、スポンジの膨潤により、連続スタンプ性が劣った。また、スポンジとインクの親和性が低いため、インクが均一に供給されず、インクが厚盛になる場所があった。これにより耐水擦過性も劣った。また、水混合により樹脂が僅かに析出した際、フレッシュなインクの供給に時間がかかり、回復性も劣った。
比較例3は、インク中に水が含まれない。中和樹脂の溶解性が劣るため、スポンジで目詰まりを起こし、連続スタンプ性が劣り、転写が不均一になることで耐水擦過性も劣った。
比較例4は、溶剤インクである。PVAスポンジとの親和性が低いため、スタンプ自体に不具合をきたしている。また、水の混和により樹脂が析出した際、一切回復がしなかった。
比較例5は、有機溶剤に対する水の量が過剰である。防錆剤をインクに取り込めないため、転写性が劣り、連続スタンプ性、耐水性が劣った。