(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130984
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】免震装置の二軸載荷試験システム
(51)【国際特許分類】
G01N 3/24 20060101AFI20220831BHJP
【FI】
G01N3/24
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029686
(22)【出願日】2021-02-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】和田 章
(72)【発明者】
【氏名】笠井 和彦
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 厚
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA11
2G061AA17
2G061AB01
2G061CA10
2G061DA01
2G061EA01
2G061EA02
2G061EA04
2G061EB04
2G061EB05
2G061EB07
(57)【要約】
【課題】試験体である免震装置に作用する鉛直荷重に起因する軸力と、水平荷重に起因するせん断力の双方を精度よく特定することのできる、免震装置の二軸載荷試験システムを提供すること。
【解決手段】試験体である免震装置30に作用する軸力とせん断力を特定する、免震装置の二軸載荷試験システム100であり、基盤10の上をスライドする水平スライダー20と、試験体30が直接的もしくは間接的に載置される載置テーブル22と、試験体30の上方もしくは下方に配設される積層ゴム体50と、試験体30及び積層ゴム体50に鉛直荷重を載荷する第一載荷アクチュエータ15とが積層され、載置テーブル22に対して水平荷重を載荷する第二載荷アクチュエータ17が配設され、第一載荷アクチュエータ15の上方もしくは下方に軸力を特定する軸力特定手段19が配設され、少なくとも積層ゴム体50がせん断力を特定するせん断力特定手段70を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験体である免震装置に作用する、鉛直方向の軸力と、該軸力に直交する水平方向のせん断力とを特定する、免震装置の二軸載荷試験システムであって、
基盤の上をスライドする鋼製の水平スライダーと、前記試験体が直接的もしくは間接的に載置される鋼製の載置テーブルと、該試験体の上方もしくは下方に配設される積層ゴム体と、該試験体及び該積層ゴム体に鉛直荷重を載荷する第一載荷アクチュエータと、が積層され、
前記載置テーブルに対して水平荷重を載荷する第二載荷アクチュエータが配設され、
前記第一載荷アクチュエータの上方もしくは下方に、前記軸力を特定する軸力特定手段が配設され、
少なくとも前記積層ゴム体が、前記せん断力を特定するせん断力特定手段を有していることを特徴とする、免震装置の二軸載荷試験システム。
【請求項2】
前記試験体と前記積層ゴム体の側方には、側方鉄骨フレームが配設され、
前記第一載荷アクチュエータと前記積層ゴム体もしくは前記試験体の間には、水平方向に延設して上下にスライドするスライド梁が配設され、
前記スライド梁と前記第一載荷アクチュエータの間に前記軸力特定手段が配設され、
前記スライド梁の両端に鉛直方向にスライドする鉛直スライダーが取り付けられ、
前記側方鉄骨フレームに沿って前記鉛直スライダーがスライドするようになっていることを特徴とする、請求項1に記載の免震装置の二軸載荷試験システム。
【請求項3】
前記積層ゴム体が、複数の天然ゴムの積層体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の免震装置の二軸載荷試験システム。
【請求項4】
前記試験体の上面もしくは下面には、水平荷重伝達鋼板が固定されており、
前記水平荷重伝達鋼板の両端と、左右にある前記側方鉄骨フレームとは、二つの水平荷重伝達鋼材にて接続され、該水平荷重伝達鋼材は第一変位計を備えており、
前記積層ゴム体には、その上下の相対変位を測定する第二変位計が設けられており、
前記せん断力特定手段は、前記第一変位計及び前記第二変位計と、前記水平荷重伝達鋼材の水平剛性と、前記積層ゴム体の変位-荷重特性とにより形成され、
前記第一変位計による測定ひずみと、前記水平荷重伝達鋼材の断面積とヤング率とにより第一せん断力が特定され、
前記第二変位計による測定相対変位量と、前記積層ゴム体の前記変位-荷重特性とにより第二せん断力が特定され、
前記第一せん断力と前記第二せん断力とにより前記せん断力が特定されることを特徴とする、請求項2、又は、請求項2に従属する請求項3に記載の免震装置の二軸載荷試験システム。
【請求項5】
前記水平荷重伝達鋼材はPC鋼棒により形成され、
前記PC鋼棒には、前記水平荷重に基づいて該PC鋼棒に生じる圧縮力以上の引張力がプレストレス力として導入されていることを特徴とする、請求項4に記載の免震装置の二軸載荷試験システム。
【請求項6】
前記せん断力特定手段は、前記積層ゴム体の左右に配設されて、該積層ゴム体の上下の相対変位により生じる前記せん断力を測定する二つのロードセルにより形成され、
一方の前記ロードセルにより圧縮力である第三せん断力が測定され、他方の前記ロードセルにより引張力である第四せん断力が測定され、
前記第三せん断力と前記第四せん断力とにより前記せん断力が特定されることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の免震装置の二軸載荷試験システム。
【請求項7】
前記積層ゴム体の下面が載置される下方水平治具に対して、該積層ゴム体の上面に固定される上方水平治具まで延設する鉛直治具が固定されており、
前記上方水平治具の端部に前記ロードセルが固定され、該ロードセルと前記鉛直治具の間に、低摩擦抵抗面材が介在していることを特徴とする、請求項6に記載の免震装置の二軸載荷試験システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置の二軸載荷試験システムに関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁やビル等の建築物に適用される免震装置(積層ゴム支承、滑り免震装置等)は、上部構造物からの鉛直荷重を受けながら、地震時や強風時の水平荷重を受けて水平方向に移動する機能を有していることから、構造物重量を支える軸力と、地震荷重や風荷重に相当する水平力とを受けた際の、鉛直荷重-鉛直変位特性と水平荷重-水平変位特性の双方を高い精度で特定することが重要になる。
【0003】
ここで、装置コストが低く、積層ゴム支承等の試験体に作用する水平抵抗力を精度よく計測することができ、水平二方向の負荷試験に容易に対応することを可能にした、負荷試験装置が提案されている。この負荷試験装置は、試験体が載置され、固定ベースに対して水平方向に移動可能な可動ベースと、可動ベースに水平方向の荷重を加える水平方向アクチュエータと、試験体の上方に位置して試験体の上面に当接する第1加圧部材と、第1加圧部材に載置される保持構造と、保持構造の上方に位置して保持構造の上面に当接する第2加圧部材と、第2加圧部材に鉛直方向の荷重を加える鉛直方向アクチュエータと、第1加圧部材と第2加圧部材との間に介在して水平方向の負荷荷重を測定するロードセルとを備えている。そして、保持構造は、その上部と下部との間の水平方向の相対変位の増加に伴って増加する水平力を、第1加圧部材と第2加圧部材に付加するようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記するように、免震装置が試験体である場合は、その鉛直荷重-鉛直変位特性と水平荷重-水平変位特性の双方を高精度に特定することが重要となるが、免震装置においては、鉛直荷重が100トンを超えるような大きな荷重下において、水平力は鉛直荷重の1%乃至10%程度になることが多く、例えば低摩擦係数の免震装置では、水平力が鉛直荷重の1%(摩擦係数:μ=1%)程度であることから、水平力の測定に高い精度が要求される。
【0006】
しかしながら、試験体の鉛直荷重と水平荷重の双方を直接測定する方法は、以下の理由から確立されていないのが現状である。
【0007】
一つ目の理由として、100トンを超える荷重の測定においては、一般に市販のロードセルが適用されるが、このロードセルは一方向のみの軸力荷重を測定するためのものであることから、当該ロードセルにせん断力や曲げモーメントが発生した際に破損の危険性が高くなることが挙げられる。
【0008】
また、二つ目の理由として、二方向の荷重(軸力とせん断力)を測定できる市販のロードセル(二分力計)においては、鉛直荷重の測定部品と水平荷重の測定部品の相互干渉(相互の影響)が生じることから、鉛直荷重と水平荷重を独立して扱うことができず、従って精度が悪くなり易いことが挙げられる。
【0009】
さらに、三つ目の理由としては、試験装置の断面積が大きくなるに伴い、鋼材に生じる歪が小さくなり、精度(解像度)が悪くなることから、試験装置の断面積を小さくしようとすると、今度は試験体が水平に大きく(数十センチ)変形した際の偏心荷重に耐えられなくなることが挙げられる。
【0010】
このように、上記する三つの理由から、試験体に作用するせん断力(水平力)を直接的に精度よく特定することは極めて難しい。
【0011】
ところで、一般的な試験装置では、例えば試験体の下方もしくは上方において、載荷テーブルを水平に滑らかに移動させるためのベアリング機構を利用したスライダーが用いられているが、このスライダー自体に僅かな摩擦抵抗力が存在することから、試験体の真の水平力を求めるためには水平ジャッキの軸力(水平力)からスライダー自体の僅かな摩擦抵抗力を引き算する必要がある。すなわち、水平ジャッキの(水平)軸力=試験体の水平力(せん断力)+スライダー自体の摩擦抵抗力の関係式が成立するが、この関係式におけるスライダー自体の摩擦抵抗力は、試験体の種類や鉛直荷重の影響を受けることから明確でない。
【0012】
従って、試験体に作用するせん断力(水平力)を間接的に精度よく特定することも難しい。
【0013】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、試験体である免震装置に作用する鉛直荷重に起因する軸力と、水平荷重に起因するせん断力の双方を精度よく特定することのできる、免震装置の二軸載荷試験システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成すべく、本発明による免震装置の二軸載荷試験システムの一態様は、
試験体である免震装置に作用する、鉛直方向の軸力と、該軸力に直交する水平方向のせん断力とを特定する、免震装置の二軸載荷試験システムであって、
基盤の上をスライドする鋼製の水平スライダーと、前記試験体が直接的もしくは間接的に載置される鋼製の載置テーブルと、該試験体の上方もしくは下方に配設される積層ゴム体と、該試験体及び該積層ゴム体に鉛直荷重を載荷する第一載荷アクチュエータと、が積層され、
前記載置テーブルに対して水平荷重を載荷する第二載荷アクチュエータが配設され、
前記第一載荷アクチュエータの上方もしくは下方に、前記軸力を特定する軸力特定手段が配設され、
少なくとも前記積層ゴム体が、前記せん断力を特定するせん断力特定手段を有していることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、免震装置である試験体の上方もしくは下方に積層ゴム体が設けられていることにより、積層ゴム体は鉛直荷重を負担する一方で水平荷重に対して剛性が低い(柔らかい)ことから、少なくとも積層ゴム体に作用するせん断力を特定することにより、水平荷重に起因する水平方向のせん断力を、高い精度で特定することが可能になる。また、試験体に対して鉛直荷重を載荷する第一載荷アクチュエータの上方もしくは下方に、軸力を特定する軸力特定手段が配設されることにより、鉛直荷重に起因する鉛直方向の軸力も高い精度で特定することが可能になり、従って、軸力とせん断力の双方を精度よく特定することができる。ここで、試験体と積層ゴム体は、直接的もしくは治具等を介して間接的に、ボルト接合等により相互に固定される。本態様の二軸載荷試験システムの試験対象である免震装置には、球面滑り装置や平面滑り装置等、様々な免震装置が含まれる。
【0016】
基盤には、試験室の床面、試験室の床面上に設置された鋼製の基台の双方が含まれる。また、試験体の上方に積層ゴム体が直接的もしくは間接的に載置されてもよいし、積層ゴム体の上方に試験体が直接的もしくは間接的に載置されてもよい。例えば、試験体が載置テーブルに載置される形態では、試験体の上方に積層ゴム体が配設される。一方、載置テーブルに積層ゴム体が載置される形態では、積層ゴム体の上方に試験体が載置される。ここで、「間接的に載置される」とは、鋼製の治具をはじめとする他の部材を介して載置されることを意味する。また、「少なくとも積層ゴム体が、せん断力を特定するせん断力特定手段を有している」とは、積層ゴム体のみがせん断力特定手段を備えている形態や、積層ゴム体と、試験体もしくは試験体に固定されている治具の双方がせん断力特定手段を備えている形態を含んでいる。また、試験体に鉛直荷重を載荷する第一載荷アクチュエータと、試験体に水平荷重を載荷する第二載荷アクチュエータには、例えば油圧ジャッキ等が適用される。さらに、軸力を特定する軸力特定手段には、例えばロードセル等が適用される。
【0017】
また、本発明による免震装置の二軸載荷試験システムの他の態様において、前記試験体と前記積層ゴム体の側方には、側方鉄骨フレームが配設され、
前記第一載荷アクチュエータと前記積層ゴム体もしくは前記試験体の間には、水平方向に延設して上下にスライドするスライド梁が配設され、
前記スライド梁と前記第一載荷アクチュエータの間に前記軸力特定手段が配設され、
前記スライド梁の両端に鉛直方向にスライドする鉛直スライダーが取り付けられ、
前記側方鉄骨フレームに沿って前記鉛直スライダーがスライドするようになっていることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、左右の側方鉄骨フレームに沿って水平方向に延設するスライド梁が鉛直スライダーを介して上下にスライドし、第一載荷アクチュエータから載荷される鉛直荷重がスライド梁のスムーズなスライドに応じて試験体に載荷されることにより、試験体に対して安定的に鉛直荷重を載荷することができる。また、スライド梁と第一載荷アクチュエータの間にロードセル等の軸力特定手段が配設されることにより、軸力特定手段には純粋な鉛直荷重のみが作用することから、軸力特定手段の破損を抑止できる。尚、スライド梁とその下方の例えば積層ゴム体の間に軸力特定手段が配設される場合、水平荷重が軸力特定手段に作用し得ることから、軸力特定手段の破損の可能性が生じる。
【0019】
また、本発明による免震装置の二軸載荷試験システムの他の態様において、前記積層ゴム体が、複数の天然ゴムの積層体であることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、積層ゴム体が複数の天然ゴムの積層体であることにより、天然ゴムの積層体はせん断力に対して低剛性であることに加えて、線形な荷重-変位特性を有することから、この線形な荷重-変位特性と積層ゴム体の変位量とに基づいて、積層ゴム体に作用するせん断力を高精度に特定することができ、試験体に作用するせん断力の高精度な特定に繋がる。
【0021】
また、本発明による免震装置の二軸載荷試験システムの他の態様において、前記試験体の上面もしくは下面には、水平荷重伝達鋼板が固定されており、
前記水平荷重伝達鋼板の両端と、左右にある前記側方鉄骨フレームとは、二つの水平荷重伝達鋼材にて接続され、該水平荷重伝達鋼材は第一変位計を備えており、
前記積層ゴム体には、その上下の相対変位を測定する第二変位計が設けられており、
前記せん断力特定手段は、前記第一変位計及び前記第二変位計と、前記水平荷重伝達鋼材の水平剛性と、前記積層ゴム体の変位-荷重特性とにより形成され、
前記第一変位計による測定ひずみと、前記水平荷重伝達鋼材の断面積とヤング率とにより第一せん断力が特定され、
前記第二変位計による測定相対変位量と、前記積層ゴム体の前記変位-荷重特性とにより第二せん断力が特定され、
前記第一せん断力と前記第二せん断力とにより前記せん断力が特定されることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、試験体の上面もしくは下面に例えばボルト接合等により固定されている水平荷重伝達鋼板の両端と、左右にある側方鉄骨フレームとが、二つの水平荷重伝達鋼材にて接続され、水平荷重伝達鋼材が第一変位計を備え、積層ゴム体がその上下の相対変位を測定する第二変位計を備え、せん断力特定手段が、第一変位計及び第二変位計と、水平荷重伝達鋼材の水平剛性と、積層ゴム体の変位-荷重特性とによって形成されていることにより、試験体に作用するせん断力を高い精度で特定することができる。
【0023】
ここで、水平荷重伝達鋼材の水平剛性を決定する、水平荷重伝達鋼材の断面積:A及びヤング率:Eと、第一変位計による測定ひずみ:εとにより、せん断力の一要素である第一せん断力:εAEが特定される。試験体に対して水平荷重が載荷された際に、左右にある二つの水平荷重伝達鋼材の一方には圧縮力が作用し、他方には引張力が作用する。従って、二つの水平荷重伝達鋼材に対応する二つの第一変位計では、圧縮力による測定ひずみと引張力による測定ひずみが測定されるが、例えば、双方の測定ひずみの変化量の和を、第一せん断力を特定する際の測定ひずみとするのが好ましい。また、試験体が荷重を受けて鉛直変位が生じた際に、水平荷重伝達鋼材が若干斜めになることによって水平力を精度よく計測できなくなることを防止するべく、水平荷重伝達鋼材は、鉛直変位に対して十分な長さを確保するのが好ましい(目安として、鉛直変位の100倍以上が挙げられる)。
【0024】
また、積層ゴム体の変位-荷重特性と、第二変位計による測定相対変位量とにより、せん断力の他の要素である第二せん断力が特定される。ここで、積層ゴム体が上記する天然ゴムの積層体であることにより、第二せん断力をより一層高精度に特定することができる。特定された第一せん断力と第二せん断力の和を求めることにより、試験体に作用するせん断力が特定される。
【0025】
また、本発明による免震装置の二軸載荷試験システムの他の態様において、前記水平荷重伝達鋼材はPC鋼棒により形成され、
前記PC鋼棒には、前記水平荷重に基づいて該PC鋼棒に生じる圧縮力以上の引張力がプレストレス力として導入されていることを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、水平荷重伝達鋼材を形成するPC鋼棒に対して、水平荷重に基づいて該PC鋼棒に生じる圧縮力以上の引張力がプレストレス力として導入されていることにより、PC鋼棒に水平荷重が作用して圧縮力が生じた際の当該PC鋼棒の座屈を防止することができる。
【0027】
また、本発明による免震装置の二軸載荷試験システムの他の態様において、前記せん断力特定手段は、前記積層ゴム体の左右に配設されて、該積層ゴム体の上下の相対変位により生じる前記せん断力を測定する二つのロードセルにより形成され、
一方の前記ロードセルにより圧縮力である第三せん断力が測定され、他方の前記ロードセルにより引張力である第四せん断力が測定され、
前記第三せん断力と前記第四せん断力とにより前記せん断力が特定されることを特徴とする。
【0028】
本態様によれば、積層ゴム体の左右に配設されている二つのロードセルがせん断力特定手段を形成し、一方のロードセルにより圧縮力である第三せん断力が測定され、他方のロードセルにより引張力である第四せん断力が測定され、第三せん断力と第四せん断力の和を求めることにより、試験体に作用するせん断力を高精度に特定することができる。
【0029】
また、本発明による免震装置の二軸載荷試験システムの他の態様において、前記積層ゴム体の下面が載置される下方水平治具に対して、該積層ゴム体の上面に固定される上方水平治具まで延設する鉛直治具が固定されており、
前記上方水平治具の端部に前記ロードセルが固定され、該ロードセルと前記鉛直治具の間に、低摩擦抵抗面材が介在していることを特徴とする。
【0030】
本態様によれば、積層ゴム体の下面が載置される下方水平治具に対して、積層ゴム体の上面に固定される上方水平治具まで延設する鉛直治具が固定され、積層ゴム体の上面に固定される上方水平治具の端部にロードセルが固定され、ロードセルと鉛直治具の間に低摩擦抵抗面材が介在していることにより、積層ゴム体が上下に縮む等した際に生じる力が低摩擦抵抗面材の変位や変形によって吸収され、この積層ゴム体の変位の際に生じる力に起因する曲げやせん断力がロードセルに作用することを抑制できる。
【発明の効果】
【0031】
以上の説明から理解できるように、本発明の免震装置の二軸載荷試験システムによれば、試験体である免震装置に作用する鉛直荷重に起因する軸力と、水平荷重に起因するせん断力の双方を精度よく特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】第1実施形態に係る二軸載荷試験システムの一例の正面図である。
【
図2】二軸載荷試験システムが備えるユーザ端末(コンピュータ)のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図3】二軸載荷試験システムが備えるユーザ端末(コンピュータ)の機能構成の一例を示す図である。
【
図4】複数の天然ゴムの積層体である積層ゴム体の荷重-変位特性の一例を説明する図である。
【
図5】第2実施形態に係る二軸載荷試験システムの一例の正面図である。
【
図6】第3実施形態に係る二軸載荷試験システムの一例の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、各実施形態に係る免震装置の二軸載荷試験システムについて、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0034】
[第1実施形態に係る二軸載荷試験システム]
はじめに、
図1乃至
図4を参照して、第1実施形態に係る二軸載荷試験システムの一例について説明する。ここで、
図1は、第1実施形態に係る二軸載荷試験システムの一例の正面図である。また、
図2と
図3はそれぞれ、二軸載荷試験システムが備えるユーザ端末(コンピュータ)のハードウェア構成の一例と機能構成の一例を示す図である。さらに、
図4は、複数の天然ゴムの積層体である積層ゴム体の荷重-変位特性の一例を説明する図である。
【0035】
二軸載荷試験システム100は、試験室の床面Fにボルト接合される基盤10(鋼製の基台)と、基盤10の左右端にボルト接合される左右の側方鉄骨フレーム11A,11Bと、左右の側方鉄骨フレーム11A,11Bとボルト接合される天井フレーム12とを有する。そして、二軸載荷試験システム100は、これらの鋼製のフレームの内部において、試験体30に鉛直荷重を付与する第一載荷アクチュエータ15や試験体30にせん断力(水平力)を付与する第二載荷アクチュエータ17,試験体30を載置する載置テーブル22,積層ゴム体50等を備えている。
【0036】
基盤10の上には、ベアリング機構を備えた水平スライダー20を介して載置テーブル22が載置されており、例えば左側の側方鉄骨フレーム11Aに固定されている第二載荷アクチュエータ17が、載置テーブル22の左側面に固定されている。第二載荷アクチュエータ17は油圧ジャッキにより形成され、載置テーブル22に対して左右方向のX4方向に繰り返す水平荷重を載荷するアクチュエータである。
【0037】
水平スライダー20を介して載置テーブル22が水平方向にスライドする構成により、載置テーブル22に水平荷重が載荷された際に、載置テーブル22は摩擦抵抗なくスムーズに水平方向にスライドすることができる。尚、右側の側方鉄骨フレーム11Bに第二載荷アクチュエータが固定されていてもよく、左右の側方鉄骨フレーム11A,11Bの双方に第二載荷アクチュエータが固定され、双方の第二載荷アクチュエータが同期制御されて作動する形態であってもよい。
【0038】
載置テーブル22の上面には、鋼製の下方水平治具24が固定され、下方水平治具24に対して試験体である免震装置30がボルト接合されている。
【0039】
図示する免震装置30は球面滑り装置であり、上沓31と下沓32と、これらの沓の間で摺動自在に介在するスライダー33とを有する。上沓31の下面と下沓32の上面には、曲率を有する滑り板(図示せず)が取り付けられている。一方、スライダー33の上下面も各沓の曲率と同様の曲率を有する滑り面となっており、上下の滑り面には、PTFE(polytetrafluoroethylene、ポリテトラフルオロエチレン)を少なくとも含む摩擦係数の低い摩擦材(滑り材)(図示せず)等が取り付けられている。尚、試験体である免震装置は、球面滑り装置の他にも、平面滑り装置等であってもよい。
【0040】
球面滑り装置30を構成する下沓32が、下方水平治具24に対してボルト接合される。
【0041】
一方、球面滑り装置30を構成する上沓31の上面には、水平荷重伝達鋼板40がボルト接合されており、水平荷重伝達鋼板40の左右の両端と、左右の側方鉄骨フレーム11A,11Bに対して、二つの水平荷重伝達鋼材71がそれぞれボルト接合されており、水平荷重伝達鋼材71はその間に第一変位計72を備えている。
【0042】
ここで、水平荷重伝達鋼材71にはPC鋼棒が適用され、第一変位計72にはひずみゲージが適用される。図示例では、水平荷重伝達鋼板40の左右において、それぞれ一本ずつのPC鋼棒71が配設されている。
【0043】
第二載荷アクチュエータ17から載置テーブル22に対して水平荷重が載荷されると、載置テーブル22を介し、下方水平治具24を介して球面滑り装置30に水平荷重が伝達され、球面滑り装置30を介して水平荷重伝達鋼板40に伝達された水平荷重により、一方のPC鋼棒71には圧縮力が作用し、他方のPC鋼棒71には引張力が作用する。双方のPC鋼棒71には左右方向に水平荷重が繰り返し載荷されることから、双方のPC鋼棒71に対して圧縮力が作用することになる。
【0044】
そこで、双方のPC鋼棒71には、水平荷重に基づいてPC鋼棒71に生じる圧縮力以上の引張力をプレストレス力として導入しておく。このプレストレス力の導入により、PC鋼棒71に水平荷重が作用して圧縮力が生じた際のPC鋼棒71の座屈を防止することができる。尚、水平荷重伝達鋼材71の軸力(水平力)をより高い精度で得るべく、第一変位計72の代わりに、引張圧縮用ロードセルや、プレ圧縮力を受けた圧縮用ロードセルを設置してもよい。
【0045】
水平荷重伝達鋼板40の上面には、積層ゴム体50がボルト接合されている。また、天井フレーム12の下面には二基の第一載荷アクチュエータ15が固定されており、二基の第一載荷アクチュエータ15の下面には、水平方向に延設して上下にスライドするスライド梁26がボルト接合されている。
【0046】
積層ゴム体50は、複数の天然ゴムの積層体である。積層ゴム体には、その他、高減衰系の積層ゴム体等もあるが、積層ゴム体50が複数の天然ゴムの積層体であることにより、天然ゴムの積層体はせん断力に対して低剛性であることに加えて、線形な荷重-変位特性を有することから、この線形な荷重-変位特性と積層ゴム体の変位量とに基づいて、積層ゴム体50に作用するせん断力を高精度に特定することができ、試験体30に作用するせん断力の高精度な特定に繋がる。
【0047】
第一載荷アクチュエータ15は油圧ジャッキにより形成され、二基の第一載荷アクチュエータ15が同期制御されることによってスライド梁26をX1方向に押圧し、押圧されたスライド梁26は下方のX2方向にスライドする。スライド梁26の下面には鋼製の上方治具60がボルト接合されており、上方治具60の下方フランジ61が積層ゴム体50の上面にボルト接合されている。
【0048】
スライド梁26が下方のX2方向にスライドすることにより、上方治具60が同期して下方のX3方向にスライドし、上方治具60を介して積層ゴム体50と試験体30に対して鉛直荷重が載荷される。例えば、各第一載荷アクチュエータ15は1000トン程度の鉛直荷重を載荷できるようになっており、合計2000トン程度の鉛直荷重を積層ゴム体50と試験体30に載荷することができる。
【0049】
スライド梁26の両端には、鉛直方向にスライドする鉛直スライダー28が取り付けられており、左右の側方鉄骨フレーム11に沿って左右の鉛直スライダー28がスライドすることにより、スライド梁26は摩擦抵抗なくスムーズに下方へスライドすることができる。
【0050】
また、スライド梁26と各第一載荷アクチュエータ15の間には、ロードセルからなる軸力特定手段19が配設されている。このように、ロードセル19がスライド梁26と第一載荷アクチュエータ15の間に配設されていることにより、ロードセル19には純粋な鉛直荷重のみが作用することになり、ロードセル19の破損を抑止できる。例えば上方治具60と積層ゴム体50の間にロードセルを配設すると、第二載荷アクチュエータ17により載荷された水平荷重がロードセルに作用し得ることになり、ロードセルの破損の可能性が生じる。
【0051】
水平荷重伝達鋼板40の上面には、第二変位計取り付け治具73が取り付けられ、第二変位計取り付け治具73には第二変位計74が取り付けられている。第二変位計74は、例えばレーザ変位計である。積層ゴム体50の上面が固定されている上方治具60の下方フランジ61の側面に対してレーザを照射し、当該側面にて反射してY1方向に返ってくる反射レーザを受信することにより、積層ゴム体50の下面に対する上面の相対変位量が測定される。
【0052】
二軸載荷試験システム100においては、水平荷重伝達鋼材71(の水平剛性),第一変位計72、第二変位計取り付け治具73,第二変位計74、及び積層ゴム体50の変位-荷重特性によってせん断力特定手段70が構成される。ここで、水平荷重伝達鋼材71の水平剛性には、水平荷重伝達鋼材71の断面積:Aとヤング率:Eが含まれる。
【0053】
第一載荷アクチュエータ15により載荷された、鉛直荷重に起因する鉛直方向の軸力が軸力特定手段19にて測定される。一方、第二載荷アクチュエータ17により載荷された、水平荷重に起因する第一変位計72の計測ひずみと、同様に水平荷重に起因する第二変位計74の(積層ゴム体50の上下の)相対変位量が測定される。そして、これらの測定データは、ユーザ端末80に送信されるようになっている。
【0054】
次に、
図2乃至
図4を参照して、ユーザ端末80におけるせん断力の特定方法について説明する。
【0055】
ユーザ端末80は、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)やワークステーション(WS:Work Station)等の情報処理装置からなり、コンピュータにより構成される。
【0056】
コンピュータからなるユーザ端末80は、接続バス86により相互に接続されているCPU(Central Processing Unit)81、主記憶装置82、補助記憶装置83、通信IF(interface)84、及び入出力IF85を備えている。主記憶装置82と補助記憶装置83は、コンピュータが読み取り可能な記録媒体である。尚、上記の構成要素はそれぞれ個別に設けられてもよいし、一部の構成要素を設けないようにしてもよい。
【0057】
CPU81は、MPU(Microprocessor)やプロセッサとも呼ばれ、CPU81は、単一のプロセッサであってもよいし、マルチプロセッサであってもよい。CPU81は、コンピュータからなるユーザ端末80の全体の制御を行う中央演算処理装置である。CPU81は、例えば、補助記憶装置83に記憶されたプログラムを主記憶装置82の作業領域にて実行可能に展開し、プログラムの実行を通じて周辺機器の制御を行うことにより、所定の目的に合致した機能を提供する。
【0058】
主記憶装置82は、CPU81が実行するコンピュータプログラムや、CPU81が処理するデータ等を記憶する。主記憶装置82は、例えば、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。補助記憶装置83は、各種のプログラム及び各種のデータを読み書き自在に記録媒体に格納し、外部記憶装置とも呼ばれる。補助記憶装置83には、例えば、OS(Operating System)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。OSは、例えば、通信IF84を介して接続される外部装置等とのデータの受け渡しを行う通信インターフェースプログラムを含む。外部装置等には、例えば、ネットワークに接続するパーソナルコンピュータ(PC)、ワークステーション(WS)、サーバ、携帯端末等の情報処理装置や外部記憶装置等が含まれる。
【0059】
補助記憶装置83は、例えば、主記憶装置82を補助する記憶領域として使用され、CPU81が実行するコンピュータプログラムや、CPU81が処理するデータ等を記憶する。補助記憶装置83は、不揮発性半導体メモリ(フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM))を含むシリコンディスク、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)装置、ソリッドステートドライブ装置等である。また、補助記憶装置83として、CDドライブ装置、DVDドライブ装置、BDドライブ装置といった着脱可能な記録媒体の駆動装置が例示される。着脱可能な記録媒体として、CD、DVD、BD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等が例示される。
【0060】
通信IF84は、ユーザ端末80が接続するネットワークとのインターフェイスである。通信IF84は、ネットワークを介して、第一変位計72から計測ひずみデータを受信し、第二変位計74から積層ゴム体50の上下の相対変位量データ(測定相対変位量)を受信し、さらに、ロードセル19から軸力データを受信する。
【0061】
入出力IF85は、ユーザ端末80に接続する機器との間でデータの入出力を行うインターフェイスである。入出力IF85には、例えば、キーボード、タッチパネルやマウス等のポインティングデバイス、マイクロフォン等の入力デバイス等が接続する。ユーザ端末80は、入出力IF85を介し、入力デバイスを操作する実験担当者等からの操作指示等を受け付ける。
【0062】
また、入出力IF85には、例えば、液晶パネル(LCD:Liquid Crystal Display)や有機ELパネル(EL:Electroluminescence)等の表示デバイス、プリンタ、スピーカ等の出力デバイスが接続する。ユーザ端末80は、入出力IF85を介し、CPU81より処理されるデータや情報、主記憶装置82、補助記憶装置83に記憶されるデータや情報を出力する。
【0063】
図3に示すように、ユーザ端末80は、CPU81によるプログラムの実行により、少なくとも、通信部802、せん断力特定部804、表示部806,及び格納部808の各種機能を提供する。尚、上記処理機能の少なくとも一部が、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)等によって提供されてもよく、同様に、上記処理機能の少なくとも一部が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、数値演算プロセッサ、画像処理プロセッサ等の専用LSI(large scale integration)やその他のデジタル回路等であってもよい。
【0064】
格納部808には、PC鋼棒71の断面積:Aとヤング率:Eが格納される。また、格納部808には、積層ゴム体50の荷重-変位特性(荷重-変位関係グラフ)が格納される。この荷重-変位特性は、試験体30に対する試験前のプレ試験において予め特定しておき、格納部808に格納しておく。天然ゴムの積層体である積層ゴム体50の荷重-変位特性の一例は、
図5に示すように線形を呈している。ここで、天然ゴム系の積層体の水平力と水平変位(せん断変形)との関係は、ゴムの性質上、45度以上の大きな変形の角度を超えても、線形関係で比例する傾向を有する。
【0065】
格納部808にはさらに、PC鋼棒71に付与しているプレストレス力が格納される。
【0066】
通信部802により受信された、第一変位計72から送信される計測ひずみデータや、第二変位計74から送信される積層ゴム体50の上下の相対変位量データ、ロードセル19から送信される軸力データは、格納部808に随時格納される。
【0067】
せん断力特定部804では、PC鋼棒71の断面積:A及びヤング率:Eと、第一変位計による測定ひずみ:εとにより、せん断力の一要素である第一せん断力:εAEを特定する。尚、この測定ひずみ:εは、弾性範囲で用いる。
【0068】
ここで、試験体30に対して水平荷重が載荷された際に、左右にある二つのPC鋼棒71の一方には圧縮力が作用し、他方には引張力が作用する。従って、二つのPC鋼棒71に対応する二つの第一変位計72では、圧縮力による測定ひずみと引張力による測定ひずみが測定されるが、例えば、双方の測定ひずみの平均値を第一せん断力を特定する際の測定ひずみとするのがよく、この平均値の算定もせん断力特定部804にて実行される。
【0069】
PC鋼棒71に関する測定ひずみ:εが弾性範囲であることから、その伸縮は少なく(数ミリ程度)、この伸縮は、積層ゴム体50の水平変位(せん断変形)と同程度であり、積層ゴム体50に生じた水平変位(せん断変形)も非常に少ないことから、積層ゴム体50に作用する水平力(せん断力)も鉛直方向の軸力に比べて非常に小さな値となる。
【0070】
免震装置30の水平変位は数十センチ程度となり、積層ゴム体50に偏心軸力が発生し得るが、一般には免震装置30の水平変位は積層ゴム体50の直径の1/2程度以下であれば、積層ゴム体50の軸力保持能力は問題ない。
【0071】
せん断力特定部804では、積層ゴム体50の変位-荷重特性と、第二変位計74による測定相対変位量とにより、せん断力の他の要素である第二せん断力を特定する。
【0072】
そして、せん断力特定部804では、特定した第一せん断力及び第二せん断力の和を算定することにより、試験体30に作用するせん断力を特定する。
【0073】
表示部806には、せん断力特定部804にて特定されたせん断力と、格納部808に格納されている軸力の双方が表示される。
【0074】
二軸載荷試験システム100によれば、試験体30の上方に積層ゴム体50を固定し、双方に所定の鉛直荷重を付与しながら水平荷重を載荷することにより、試験体30に作用する鉛直方向の軸力と水平方向のせん断力の双方を高精度に特定することができる。
【0075】
尚、図示を省略するが、下方水平治具24の上に積層ゴム体50が固定され、積層ゴム体50の上に試験体30が固定される形態、すなわち、
図1に示す試験体30と積層ゴム体50の上下が反転した形態であってもよい。
【0076】
[第2実施形態、第3実施形態に係る二軸載荷試験システム]
次に、
図5と
図6を参照して、第2実施形態と第3実施形態に係る二軸載荷試験システムの一例について説明する。ここで、
図5と
図6はそれぞれ、第2実施形態、第3実施形態に係る二軸載荷試験システムの一例の正面図である。
【0077】
図5に示す二軸載荷試験システム100Aと、
図6に示す二軸載荷試験システム100Bは、試験体30と積層ゴム体50が上下反転している点で相違しており、その余の点では共通している。従って、
図5に示す二軸載荷試験システム100Aについて以下詳説し、
図6に示す二軸載荷試験システム100Bの詳細な説明は省略する。
【0078】
図1に示す二軸載荷試験システム100と、
図5に示す二軸載荷試験システム100Aは、せん断力特定手段の構成において双方が相違し、その余の点では共通している。
【0079】
二軸載荷試験システム100Aにおいて、試験体30の上面に固定されている上方水平治具25の上面には、積層ゴム体50がボルト接合されており、さらに、当該上面における積層ゴム体50の左右には、正面視L型の二つの強固な鉛直治具91が、ボルト接合されている。各鉛直治具91は、積層ゴム体50の上面にボルト接合されている上方治具60の下フランジ61まで延設しており、鉛直治具91の内面(上方治具60側の側面)には、低摩擦抵抗面材93が取り付けられ、低摩擦抵抗面材93と下フランジ61の間には、左右のロードセル92A,92Bが介在している。
【0080】
二軸載荷試験システム100Aの備えるせん断力特定手段90は、積層ゴム体50の左右に配設されて、積層ゴム体50の上下の相対変位により生じるせん断力を測定する二つのロードセル92と、低摩擦抵抗面材93と、これらが取り付けられる鉛直治具91とにより構成される。
【0081】
低摩擦抵抗面材93は、PTFEシート(テフロン(登録商標)シート)と、スレンレスシートの積層体などにより形成され、積層ゴム体50の上下の縮みに対して低摩擦抵抗面材93が変位もしくは変形することにより、ロードセル92に作用し得る曲げやせん断力が抑制される。
【0082】
試験体30と積層ゴム体50に対して水平荷重が載荷された際には、一方のロードセル92により圧縮力である第三せん断力が測定され、他方のロードセル92により引張力である第四せん断力が測定される。測定された第三せん断力データと第四せん断力データは、ユーザ端末80に送信される。
【0083】
ユーザ端末80のせん断力特定部804では、受信した第三せん断力と第四せん断力の和を算定することにより、試験体30に作用するせん断力を特定する。
【0084】
二軸載荷試験システム100A、100Bによっても、試験体30の上方もしくは下方に積層ゴム体50を固定し、双方に所定の鉛直荷重を付与しながら水平荷重を載荷することにより、試験体30に作用する鉛直方向の軸力と水平方向のせん断力の双方を高精度に特定することができる。
【0085】
[第4実施形態~第6実施形態に係る二軸載荷試験システム]
次に、図面を参照することなく、第4実施形態~第7実施形態に係る二軸載荷試験システムの一例について説明する。尚、各構成部材は、
図1,
図5,
図6等を適宜参照する。
【0086】
第4実施形態に係る二軸載荷試験システムは、基盤側から順に、第一載荷アクチュエータ15、軸力特定手段19(ロードセル)、両端に鉛直スライダー28を備えたスライド梁26、水平スライダー20、載置テーブル22、試験体30、積層ゴム体50が積層され、天井フレーム12の下面が積層ゴム体50の上面と接続されており、側方鉄骨フレーム11に沿って鉛直スライダー28が鉛直方向にスライドする構成を有する。また、積層ゴム体50の側方には、二軸載荷試験システム100,100Aと同様のせん断力特定手段70,90のいずれか一方が設けられており、載置テーブル22には第二載荷アクチュエータ17が取り付けられている。
【0087】
一方、第5実施形態に係る二軸載荷試験システムは、第4実施形態に係る二軸載荷試験システムの試験体30と積層ゴム体50の上下を反転させた構成であり、その他の構成は第4実施形態に係る二軸載荷試験システムと同様である。尚、本システムでは、天井フレーム12の下面には試験体30の上面が接続されている。
【0088】
第4、第5実施形態に係る二軸載荷試験システムは、試験体30や積層ゴム体50が載置される載置テーブル22がスライド梁26の上方に配設され、スライド梁26の下方にある第一載荷アクチュエータ15から、上向きの鉛直荷重が試験体30や積層ゴム体50に載荷される点において、二軸載荷試験システム100,100A、100Bと相違している。
【0089】
一方、第6実施形態に係る二軸載荷試験システムは、載置テーブル22に対して、水平面内の直交二方向に水平荷重を載荷するべく、相互に直交する二つの第二載荷アクチュエータ17が載置テーブル22に取り付けられ、この二方向のせん断力を特定するべく、積層ゴム体50の側方のうち、上記二方向に対応する位置にそれぞれせん断力特定手段70,90のいずれか一方が取り付けられている点において、二軸載荷試験システム100,100A、100B等と相違している。本システムの他の構成は、二軸載荷試験システム100,100A、100Bや第4、第5実施形態のシステムと共通である。
【0090】
本システムによれば、水平二方向に水平荷重を載荷する二本の第二載荷アクチュエータ17を同期作動させることにより、地震動が相互に直交する水平二方向に振動する際の実現象を精度よく再現することができる。
【0091】
[せん断力の計算例]
次に、せん断力の計算例について以下記載する。尚、以下の計算例は、
図1に示す二軸載荷試験システム100を適用した際の計算例である。
【0092】
<天然ゴム系の積層ゴム体に作用する鉛直圧縮力について>
形状:G0.34-600φ-4.5mmx26枚 (600φのゴム4.5mm厚26枚が27枚の薄い鉄板にサンドイッチされている。
鋼鈑の材質:27枚の鉄板は、3.2mm厚の一般的な鋼鈑で、直径は620φ程度。
ゴムの材質:ゴムのせん断弾性係数G=0.34N/mm2。
水平剛性:Kh= 827kN/m = 0.827kN/mm。
鉛直剛性:Kv=2300000kN/m=2300kN/mm。参考;Kh/KV=1/2781(きわめて小さい)。
基準鉛直面圧:σ=12.5N/mm2 参考;基準鉛直荷重=3533kN。
【0093】
<PC鋼棒に作用する水平引張力>
形状:(2本共)30mmφ、長さL=1000mm、断面積A=707mm2。
材質:(2本共)一般的な任意の鋼材のヤング係数(弾性係数):E=205kN/mm2。
軸剛性K(2本分):K=2AE/L=2x707x205/1000=290kN/mm。
プレストレス (2本共)座屈させないため、初期引張張力:Tを141.4kN程度かけておく。
【0094】
<せん断力の計算内容>
試験体に載荷される鉛直荷重 N:積層ゴムの基準鉛直荷重N=3533kN。
狙いの摩擦係数:μ=1% 程度と仮定する。
滑り出す水平荷重:Q(摩擦力)は、仮に、Q=μN=0.01x3533kN=35.33kNと仮定する。
試験体の滑り出す水平荷重に対する鋼棒の歪:ε=Q/2AE=35.33/2/707/205=±0.000122=122マイクロ。
試験体の滑り出す水平荷重に対する鋼棒の軸力:P=2εAE=2x0.000122x707x205=35.3kN。
試験体の滑り出す水平荷重に対する鋼棒の伸び(=縮み):δ=積層ゴムの変形(mm)=Q/K=35.33/290=0.1218mm。
積層ゴムにかかるせん断力:Q1=Kh δ=0.827x0.1218=0.1007kN。
よって、試験体にかかる正確なせん断力:S=P+Q1=35.3+0.1007=35.4kNと算定できる。
【0095】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【0096】
例えば、第二せん断力の特定手段には、既に記載した手段を含めて、以下のような特定手段がある。
【0097】
(1)水平荷重伝達鋼板に取り付けられている、例えば十分に長いPC鋼棒に、ひずみゲージが貼り付けられている形態。
(2)水平荷重伝達鋼板に圧縮引張用ロードセルが挟まれ、第二変位計により第二せん断力が特定される形態。
(3)水平荷重伝達鋼板に圧縮用ロードセルが挟まれ、プレストレス(圧縮力)が導入されていて、第二変位計により第二せん断力が特定される形態。
(4)鉛直治具に、圧縮引張用ロードセルが挟まれている形態。
(5)鉛直治具に、圧縮用ロードセルが挟まれ、プレストレス(圧縮力)が導入されている形態。
(6)図示例及び上記(1)乃至(5)のせん断力特定手段の数が、左右に一箇所ずつ設けられている形態の他、左右に二箇所ずつ設けられている形態。
【符号の説明】
【0098】
10:基盤
11、11A,11B:側方鉄骨フレーム
12:天井フレーム
15:第一載荷アクチュエータ(油圧ジャッキ)
17:第二載荷アクチュエータ(油圧ジャッキ)
19:軸力特定手段(ロードセル)
20:水平スライダー
22:載置テーブル
24:下方水平治具
25:上方水平治具
26:スライド梁
28:鉛直スライダー
30:試験体(球面滑り装置、免震装置)
31:上沓
32:下沓
33:スライダー
40:水平荷重伝達鋼板
50:積層ゴム体
60:上方治具
70:せん断力特定手段
71:水平荷重伝達鋼材(PC鋼棒)
72:第一変位計
73:第二変位計取り付け治具
74:第二変位計
80:ユーザ端末
90:せん断力特定手段
91:鉛直治具
92,92A,92B:ロードセル
93:低摩擦抵抗面材
100,100A,100B:二軸載荷試験システム(免震装置の二軸載荷試験システム)
【手続補正書】
【提出日】2021-06-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験体である免震装置に作用する、鉛直方向の軸力と、該軸力に直交する水平方向のせん断力とを特定する、免震装置の二軸載荷試験システムであって、
基盤と、該基盤の上にスライド自在に積層される鋼製の水平スライダーと、該水平スライダーの上に積層される鋼製の載置テーブルと、該載置テーブルの上に積層される前記試験体及び積層ゴム体と、該試験体及び該積層ゴム体の上に積層されて該試験体及び該積層ゴム体に鉛直荷重を載荷する第一載荷アクチュエータとを有し、前記試験体と前記積層ゴム体はいずれか一方が他方の上方に配置されており、
前記載置テーブルに対して水平荷重を載荷する第二載荷アクチュエータが配設され、
前記第一載荷アクチュエータの上方もしくは下方に、前記軸力を特定する軸力特定手段が配設され、
少なくとも前記積層ゴム体が、該積層ゴム体に作用する前記水平方向のせん断力を特定するせん断力特定手段を有し、
前記試験体と前記積層ゴム体の側方には、側方鉄骨フレームが配設され、
前記試験体の上面もしくは下面には、水平荷重伝達鋼板が固定されており、
前記水平荷重伝達鋼板の両端と、左右にある前記側方鉄骨フレームとは、二つの水平荷重伝達鋼材にて接続され、該水平荷重伝達鋼材は第一変位計を備えており、
前記積層ゴム体には、その上端と下端の水平方向の相対変位を測定する第二変位計が設けられており、
前記せん断力特定手段は、前記第一変位計及び前記第二変位計と、前記水平荷重伝達鋼材の水平剛性と、前記積層ゴム体の変位-荷重特性とにより形成され、
前記第一変位計による測定ひずみと、前記水平荷重伝達鋼材の断面積とヤング率とにより第一せん断力が特定され、
前記第二変位計による測定相対変位量と、前記積層ゴム体の前記変位-荷重特性とにより第二せん断力が特定され、
前記第一せん断力と前記第二せん断力とにより前記せん断力が特定されることを特徴とする、免震装置の二軸載荷試験システム。
【請求項2】
前記水平荷重伝達鋼材はPC鋼棒により形成され、
前記PC鋼棒には、前記水平荷重に基づいて該PC鋼棒に生じる圧縮力以上の引張力がプレストレス力として導入されていることを特徴とする、請求項1に記載の免震装置の二軸載荷試験システム。
【請求項3】
試験体である免震装置に作用する、鉛直方向の軸力と、該軸力に直交する水平方向のせん断力とを特定する、免震装置の二軸載荷試験システムであって、
基盤と、該基盤の上にスライド自在に積層される鋼製の水平スライダーと、該水平スライダーの上に積層される鋼製の載置テーブルと、該載置テーブルの上に積層される前記試験体及び積層ゴム体と、該試験体及び該積層ゴム体の上に積層されて該試験体及び該積層ゴム体に鉛直荷重を載荷する第一載荷アクチュエータとを有し、前記試験体と前記積層ゴム体はいずれか一方が他方の上方に配置されており、
前記載置テーブルに対して水平荷重を載荷する第二載荷アクチュエータが配設され、
前記第一載荷アクチュエータの上方もしくは下方に、前記軸力を特定する軸力特定手段が配設され、
少なくとも前記積層ゴム体が、該積層ゴム体に作用する前記水平方向のせん断力を特定するせん断力特定手段を有し、
前記第一載荷アクチュエータと前記積層ゴム体もしくは前記試験体の間には、水平方向に延設して上下にスライドするスライド梁が配設され、
前記スライド梁と前記第一載荷アクチュエータの間に前記軸力特定手段が配設されていることを特徴とする、免震装置の二軸載荷試験システム。
【請求項4】
前記試験体と前記積層ゴム体の側方には、側方鉄骨フレームが配設され、
前記スライド梁の両端に鉛直方向にスライドする鉛直スライダーが取り付けられ、
前記側方鉄骨フレームに沿って前記鉛直スライダーがスライドするようになっていることを特徴とする、請求項3に記載の免震装置の二軸載荷試験システム。
【請求項5】
前記せん断力特定手段は、前記積層ゴム体の左右に配設されて、該積層ゴム体の上下の相対変位により生じる前記せん断力を測定する二つのロードセルにより形成され、
一方の前記ロードセルにより圧縮力である第三せん断力が測定され、他方の前記ロードセルにより引張力である第四せん断力が測定され、
前記第三せん断力と前記第四せん断力とにより前記せん断力が特定されることを特徴とする、請求項3又は4に記載の免震装置の二軸載荷試験システム。
【請求項6】
前記積層ゴム体の下面が載置される下方水平治具に対して、該積層ゴム体の上面に固定される上方水平治具まで延設する鉛直治具が固定されており、
前記上方水平治具の端部に前記ロードセルが固定され、該ロードセルと前記鉛直治具の間に、低摩擦抵抗面材が介在していることを特徴とする、請求項5に記載の免震装置の二軸載荷試験システム。
【請求項7】
前記積層ゴム体が、複数の天然ゴムの積層体であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の免震装置の二軸載荷試験システム。