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特開2022-130987ボイラ損傷度推定システム及びボイラ損傷度推定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022130987
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】ボイラ損傷度推定システム及びボイラ損傷度推定装置
(51)【国際特許分類】
   F22B 37/02 20060101AFI20220831BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20220831BHJP
【FI】
F22B37/02 D
G01M99/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029689
(22)【出願日】2021-02-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木戸 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】樋吉 佑一
(72)【発明者】
【氏名】相田 清
(72)【発明者】
【氏名】河村 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】東川 謙示
(72)【発明者】
【氏名】中川 亮甫
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024BA12
2G024BA27
2G024CA04
2G024FA06
2G024FA11
(57)【要約】
【課題】地震時のボイラ特有の挙動に着目した損傷度推定手法を提供する。
【解決手段】ボイラ損傷度推定装置(100)は、ボイラ(1)の火炉(2)におけるケージ部(4)に対向する火炉後壁(22)及びケージ部における火炉後壁に対向するケージ前壁(41)の相対変位を検出して出力されたセンサデータをクラウドサーバ(200)から受信し、センサデータに基づいてボイラの相対変位の時系列変化を演算し、ボイラの損傷の進行過程及び火炉後壁及びケージ部の形状変化量を解析し、解析結果を出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
火炉及び前記火炉の後部にケージ部を備えたボイラの地震動による損傷度を推定するボイラ損傷度推定システムであって、
前記火炉における前記ケージ部に対向する火炉後壁及び前記ケージ部における前記火炉後壁に対向するケージ前壁の相対変位を検出し、センサデータを出力する相対変位検出センサと、
前記センサデータに基づいて、ボイラの損傷度を推定するボイラ損傷度推定装置と、を備え、
前記ボイラ損傷度推定装置は、時系列に沿って前記センサデータを取得し、前記ボイラの前記相対変位の時系列変化を基に、前記ボイラの損傷の進行過程及び前記火炉及び前記ケージ部の形状変化量を解析し、解析結果を出力する、
ことを特徴とするボイラ損傷度推定システム。
【請求項2】
請求項1に記載のボイラ損傷度推定システムにおいて、
前記相対変位検出センサから前記センサデータを収集し、クラウドサーバに送信するデータ収集装置を更に備え、
前記ボイラ損傷度推定装置は、前記クラウドサーバから前記センサデータを取得する、
ことを特徴とするボイラ損傷度推定システム。
【請求項3】
請求項2に記載のボイラ損傷度推定システムにおいて、
前記ボイラ損傷度推定装置は、前記ボイラを用いて発電事業を行う発電事業者端末、又は前記ボイラが設置された発電所の中央操作室端末の少なくとも一つに通信接続され、
前記解析結果を前記発電事業者端末又は前記中央操作室端末に送信する、
ことを特徴とするボイラ損傷度推定システム。
【請求項4】
請求項3に記載のボイラ損傷度推定システムにおいて、
前記ボイラ損傷度推定装置は、前記相対変位が予め定めた警告閾値以上であると判断すると、前記発電所の運転を継続できるかの判断基準となるチェック項目を示す情報を前記発電事業者端末又は前記中央操作室端末に送信する、
ことを特徴とするボイラ損傷度推定システム。
【請求項5】
請求項4に記載のボイラ損傷度推定システムにおいて、
前記ボイラ損傷度推定装置は、前記チェック項目が複数ある場合、前記ボイラの形状変化量が大きい部位に関連する前記チェック項目から優先順位を付けて前記発電事業者端末又は前記中央操作室端末に送信する、
ことを特徴とするボイラ損傷度推定システム。
【請求項6】
請求項1に記載のボイラ損傷度推定システムにおいて、
前記火炉後壁は、軸方向を上下方向と平行に配置した複数の伝熱管を左右方向に並べて構成され、これら複数の伝熱管を繋いで左右方向に延在する前側バックステーを備え、
前記ケージ前壁は、軸方向を上下方向と平行に配置した複数の伝熱管を左右方向に並べて構成され、これら複数の伝熱管を繋いで左右方向に延在する後側バックステーを備え、
前記前側バックステー又は前記後側バックステーには、当該前側バックステー又は前記後側バックステーの延在方向に沿って複数の相対変位検出センサが配置され、
前記ボイラ損傷度推定装置は、前記延在方向の両端部の相対変位を基に、前記火炉及び前記ケージ部の水平断面における形状変化を解析する、
ことを特徴とするボイラ損傷度推定システム。
【請求項7】
請求項6に記載のボイラ損傷度推定システムにおいて、
前記火炉後壁は、異なる高さ位置に備えられた複数段の前記前側バックステーを備え、
前記ケージ前壁は、異なる高さ位置に備えられた複数段の前記後側バックステーを備え、
前記前側バックステーの各段又は前記後側バックステーの各段には、複数の相対変位検出センサが配置され、
前記ボイラ損傷度推定装置は、前記前側バックステー又は前記後側バックステーの上部及び下部の相対変位を基に、前記火炉及び前記ケージ部の上下方向に沿った面における形状変化量を解析する、
ことを特徴とするボイラ損傷度推定システム。
【請求項8】
火炉及び前記火炉の後部にケージ部を備えたボイラの地震動による損傷度を推定するボイラ損傷度推定装置であって、
前記火炉における前記ケージ部に対向する火炉後壁及び前記ケージ部における前記火炉後壁に対向するケージ前壁の相対変位を検出して出力されたセンサデータを、クラウドサーバから受信する受信部と、
前記センサデータに基づいて、前記ボイラの損傷度を推定する損傷度推定部と、を備え、
前記損傷度推定部は、取得した前記センサデータを基に、前記ボイラの前記相対変位の時系列変化を演算し、前記ボイラの損傷の進行過程及び前記火炉後壁及び前記ケージ部の形状変化量を解析し、解析結果を出力する、
ことを特徴とするボイラ損傷度推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ損傷度推定システム及び装置に関し、特に火炉及び前記火炉の後部にケージ部を備えたボイラが地震動により損傷した際の損傷度を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地震発生時に産業用プラントが受ける影響を監視するための技術として、非特許文献1にはセンサを含むスマート技術を産業用プラントに実装させる技術が開示されている。
【0003】
また特許文献1では、構造物に3軸加速度センサを備え、当該3軸加速度センサの計測値を、無線通信網を介して収集して構造物の振動を監視する振動モニタリングシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
非特許文献1:“INTEGRATED SMART SEISMIC RISKS MANAGEMENT” Proceedings of theASME 2019 Pressure Vessels & Piping Conference PVP2019 July 14-19,2019, San Antonio, Texas, USA
【特許文献】
【0005】
特許文献1:特開2019-100914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発電プラントに用いられる燃料焚きボイラは、火炉とケージ部とを備えており、これらが鉄骨梁に吊ロッドを介して吊り下げ支持されている。そして、地震発生時に火炉とケージ部が振れるのを防止するために、鉄骨柱と火炉及び鉄骨柱とケージ部がサイスミックタイを介して連結されている。
【0007】
火炉は、内部をボイラ水が流れる伝熱管同士をメンブレンバーで接続して構成される水壁で囲まれた中空の箱型構造物であるのに対して、ケージ部は、当該箱型構造物の中に対流伝熱を行なうための伝熱管群が設置されている。そのため、火炉の単位容積当たりの質量(質量密度)とケージ部の質量密度との間には大きな差がある。具体的には、火炉の質量密度はケージ部の質量密度に比べて非常に小さい。
【0008】
ゆえに、地震発生時には、火炉とケージ部とが、それぞれの剛性及び質量に応じて固有の周期で振動しようとするため、地震動によるボイラの損傷度を推定するためには、地震時におけるボイラ特有の挙動に着目して損傷度合いを判定する必要がある。
【0009】
非特許文献1及び特許文献1は、単に産業用プラント及び発電プラントの振動モニタリングを行う一般的な技術が開示されているに過ぎず、ボイラ特有の挙動については考慮されていない。そのため、現状では、ボイラに好適な地震動による損傷度合いの評価技術はなく、それが望まれているという実情がある。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたもので、その目的は、地震時のボイラ特有の挙動に着目した損傷度推定技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、特許請求の範囲に記載の構成を有する。その一例をあげるならば、本発明は火炉及び前記火炉の後部にケージ部を備えたボイラの地震動による損傷度を推定するボイラ損傷度推定システムであって、前記火炉における前記ケージ部に対向する火炉後壁及び前記ケージ部における前記火炉後壁に対向するケージ前壁の相対変位を検出し、センサデータを出力する相対変位検出センサと、前記センサデータに基づいて、ボイラの損傷度を推定するボイラ損傷度推定装置と、を備え、前記ボイラ損傷度推定装置は、時系列に沿って前記センサデータを取得し、前記ボイラの前記相対変位の時系列変化を基に、前記ボイラの損傷の進行過程及び前記火炉及び前記ケージ部の形状変化量を解析し、解析結果を出力する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、地震時のボイラ特有の挙動に着目した損傷度合い判定技術を提供することができる。なお、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ボイラ損傷度推定システムの概略構成図。
図2】ボイラの構成の一例を示す斜視図。
図3】ボイラの構成の一例を示す側面図。
図4】相対変位検出センサの配置例(上面視)を示す図。
図5】ボイラ損傷度推定装置のハードウェア構成図。
図6】ボイラ損傷度推定装置の機能ブロック図。
図7】ボイラ損傷度推定処理の流れを示すフローチャート。
図8】相対変位の時系列変化例を示す図。
図9】相対変位の時系列変化例を示す図。
図10】ボイラの損傷度推定の別例(水平断面)を示す図。
図11】ボイラの損傷度推定の別例(右側面視)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係るボイラ損傷度推定システム及び装置について、図面を参照して説明する。全図を通じて同一の構成には同一の符号を付し、重複説明を省略する。
【0015】
図1は、ボイラ損傷度推定システム100の概略構成図である。
【0016】
ボイラ損傷度推定システム100は、火力発電所に設置される燃料炊きボイラ1の地震動を検出するボイラユニット10と、ボイラ損傷度推定装置300とをクラウドサーバ200を介して接続して構成される。
【0017】
ボイラユニット10は、ボイラ1に設置されたn個(nは1以上)の相対変位検出センサとしてのゲージセンサ101A1、・・・、101Anと、RTC11と、各ゲージセンサ101A1、・・・、101Anが出力したセンサデータにRTC11から取得した時刻データを付加して収集するデータ収集装置12と、クラウドサーバ200に収集したセンサデータを送信する通信装置13とを備える。
【0018】
相対変位検出センサは、ボイラ1に備えられた火炉2とケージ部4と相対変位を観測し、その結果を示すセンサデータを出力する。相対変位検出センサの具体例として、本実施形態ではゲージセンサを用いるが、3軸加速度センサ、ゆがみセンサ、超音波距離計等を用いることができる。3軸加速度センサを用いた場合は、火炉2及びケージ部4のそれぞれに3軸加速度センサを配置し、加速度の時間積分値を基に相対変位を演算すればよい。ゆがみセンサでは歪みの出力値から相対変位が求められる。また超音波距離計では火炉2とケージ部4との距離の変化から相対変位が求められる。
【0019】
クラウドサーバ200には、ボイラメーカ400に設置されたボイラ損傷度推定装置300が接続される。更に、クラウドサーバ200には、発電事業者端末410、発電所内の中央操作室端末420のそれぞれが接続されてもよい。
【0020】
ボイラ損傷度推定装置300は、クラウドサーバ200からセンサデータを受信し、ボイラ1の損傷度を評価する。更にその評価結果に応じた対応策を立案し、発電事業者端末410及び中央操作室端末420に提供する。発電事業者端末410及び中央操作室端末420のそれぞれは、対応策の実行結果や、運転負荷情報など、ボイラ1の状態を推定するために必要な情報をボイラメーカ400に提供してもよい。
【0021】
ボイラ1及び相対位置検出センサの配置例について、図2図3図4を参照して説明する。図2は、ボイラ1の構成の一例を示す斜視図である。図3は、ボイラ1の構成の一例を示す側面図である。図4は、相対変位検出センサの配置例(上面視)を示す図である。
【0022】
ボイラ1は、燃焼空間が内部に形成された火炉2、火炉2で発生した燃焼ガスの流路を形成する副側壁部3、及び過熱器や再熱器、節炭器等の熱交換器が内部に搭載されたケージ部4の主に3つの空間に分かれて構成されている。これら3つの空間は、燃焼ガスの流れ方向の上流側から下流側に向かって、火炉2、副側壁部3、ケージ部4の順に並んで配置されている。
【0023】
なお、以下の説明において、火炉2、副側壁部3、及びケージ部4の並び方向を「奥行方向」(又は前後方向)とし、奥行方向における火炉2側を「前側」又は「上流側」、その反対側であるケージ部4側を「後側」又は「下流側」とする。また、ボイラ1が設置された床面に対して直交する方向を「上下方向」とする。また、奥行方向及び上下方向に直交する方向を「左右方向」という。
【0024】
火炉2は、前側に配置されて火炉2の前面となる火炉前壁21と、火炉前壁21に対向して配置されて火炉2の後面となる火炉後壁22と、火炉前壁21と火炉後壁22との間に配置されて火炉2の側面となる一対の火炉側壁23と、一対の火炉側壁23の上部に配置されて火炉2の天井となる火炉天井壁24と、を備える。
【0025】
火炉前壁21及び火炉後壁22にはそれぞれ、燃料となる微粉炭と空気とを火炉2内に供給する複数のバーナ20が下部に設置されている。本実施形態では、火炉前壁21及び火炉後壁22のそれぞれにおいて、8つのバーナ20が、上下方向に二段に分かれて4つずつ配置されている。
【0026】
各バーナ20から供給された微粉炭は火炉2内の燃焼空間において燃焼され、これにより燃焼ガスが発生する。発生した燃焼ガスは、火炉2の下側から上側に向かう上昇方向に沿って流れ、その後、副側壁部3を通ってケージ部4へと流下する。
【0027】
副側壁部3は、火炉2とケージ部4とを上部で奥行方向に連結する流路である。副側壁部3は、一対の火炉側壁23に接続されて副側壁部3の側面となる一対の側壁33と、火炉天井壁24に接続されて副側壁部3の天井となる天井壁34と、一対の側壁33の下部に配置されて副側壁部3の底面となる底壁35と、を備える。
【0028】
火炉後壁22の上端、底壁35との接続部は、火炉後壁22を火炉2の燃焼空間側に向かって突出させて形成した凹部からなるノーズ22aが形成される。
【0029】
ケージ部4は、火炉2の火炉後壁22に対向して配置されてケージ部4の前面となるケージ前壁41と、ケージ前壁41に対向して配置されてケージ部4の後面となるケージ後壁42と、ケージ前壁41とケージ後壁42との間に配置されてケージ部4の側面となる一対のケージ側壁43と、副側壁部3の天井壁34に接続されてケージ部4の天井となるケージ天井壁44と、を備える。
【0030】
ケージ前壁41の上端は底壁35に接続する。この部位を接続コーナーXと称する。
【0031】
図3に示すように、火炉2は、火炉2の前方に設けられた複数の鉄骨柱12fに複数のサイスミックタイ13fを介して連結される。より詳細には、火炉前壁21に設けられたバックステー25f(以下「前側バックステー」という)と鉄骨柱12fとが、サイスミックタイ13fにより連結されている。
【0032】
また、ケージ部4は、ケージ部4の後方に設けられた複数の鉄骨柱12bに複数のサイスミックタイ13bを介して連結される。より詳細には、ケージ後壁42に設けられたバックステー25b(以下「後側バックステー」という)と鉄骨柱12bとが、サイスミックタイ13bにより連結されている。
【0033】
ボイラ1では、火炉2、副側壁部3、及びケージ部4を構成する各壁は、内部を流体が流れる伝熱管と、伝熱管が延びる方向に延在する板状のメンブレンバーとが交互に接合されたパネル状のメンブレン壁で形成されている。
【0034】
図3の拡大図に示すように、火炉後壁22には、H型鋼から成る前側バックステー25fが取り付けられる。またケージ前壁41にも、H型鋼から成る後側バックステー25bが取り付けられる。
【0035】
地震発生時、火炉2から副側壁部3及びケージ部4へと続く燃焼ガスの流れ方向が変化する部位、特にノーズ22aや接続コーナーXには応力が集中し、破損につながりやすい。
【0036】
そこで、図4に示すように、高さ位置L1(ノーズ22aがある高さ)にある前側バックステー25fの延在方向(ボイラ1の左右方向)に沿って、3つのゲージセンサ101A1、101A2、101A3を設置する。
【0037】
また高さ位置L1よりも下の高さ位置L2にある前側バックステー25fにも3つのゲージセンサが配置される。
【0038】
更に高さ位置L2よりも下の高さ位置L3にある前側バックステー25fにも3つのゲージセンサが配置される。よって、合計9のゲージセンサが配置される。前記センサの設置数及び設置個所は一例過ぎず、本実施形態とは異なる設置数及び設置個所であってもよい。
【0039】
図5は、ボイラ損傷度推定装置300のハードウェア構成図である。
【0040】
ボイラ損傷度推定装置300は、プロセッサ301、RAM(Random Access Memory)302、ROM(Read Only Memory)303、HDD(Hard Disk Drive)304、入力I/F305、出力I/F306、及び通信I/F307を含み、これらがバス308を介して互いに接続されたコンピュータを用いて構成される。
【0041】
プロセッサ301は、GPU(Graphics Processing Unit)でもCPU(Central Processing Unit)でもよく、演算機能を実行するデバイスであれば種類を問わない。また、ボイラ損傷度推定装置300のハードウェア構成は上記に限定されず、制御回路と記憶装置との組み合わせにより構成されてもよい。ボイラ損傷度推定装置300は、ボイラ損傷度推定装置300の各機能を実現するボイラ損傷度推定プログラムをプロセッサ301が実行する、又は制御回路が演算することにより構成される。
【0042】
入力I/F305には、マウス、キーボード、タッチパネル等の入力装置311が接続される。
【0043】
出力I/F306には、LCD、有機パネル等からなるディスプレイ312が接続される。
【0044】
通信I/F307には、クラウドサーバ200や緊急事象情報を受信するための外部通信装置210が接続される。
【0045】
図6は、ボイラ損傷度推定装置300の機能ブロック図である。ボイラ損傷度推定装置300は、クラウドサーバ200からセンサデータを受信し、また外部通信装置から緊急事象情報を受信する受信部350と、センサデータを記憶するセンサデータ記憶部354と、センサデータを基にボイラ1の時系列に沿った相対変位を解析して損傷度を推定する損傷度推定部356と、損傷度推定部356の推定結果を受けて、ボイラ1が設置された発電所の運転継続可否を判断するための基準となるチェック項目情報を出力する運転継続可否基準情報出力部358と、ボイラ1の損傷度の推定結果、運転継続可否基準情報を発電事業者端末410と中央操作室端末420とに送信する送信部360、及び出力部362を含む。本実施形態では、センサデータにタイムスタンプが付加されてクラウドサーバ200に格納されているとして説明しているが、ボイラ損傷度推定装置300にもRTC(Real Time Clock)352を備え、受信したセンサデータにRTC352からのタイムスタンプを付加してセンサデータ記憶部354に記憶してもよい。これにより、ボイラ1側のRTC11に不具合があっても時系列解析が可能となる。
【0046】
図7は、本実施形態に係るボイラ損傷度推定処理の流れを示すフローチャートである。以下の処理を実施する前提として、ボイラ損傷度推定装置300では、火炉後壁22及びケージ前壁41の相対変位の警告閾値が設定されている。
【0047】
ボイラ1の稼働中はボイラ損傷度推定システム100が稼働している。ボイラ損傷度推定システム100が稼動中、各ゲージセンサ101A1、101A2、・・、101Anは、センサデータを出力してクラウドサーバ200に送信する。ボイラ損傷度推定装置300はクラウドサーバ200からセンサデータを取得する(S101)。
【0048】
地震が発生していない場合(S102:NO)、ボイラ損傷度推定装置300は、取得した各センサデータの時系列変化を監視する(S115)。平常時の相対変位の時系列変化は、図8(a)に示すように、ほぼ0である。
【0049】
地震が発生し(S102:YES)、モニタリングではコントロールできない緊急事象(火災・津波)の発生、又は発生予測を検知すると(S103:YES)、ボイラ1は緊急停止する(S109)。緊急事象の発生は、例えば、ボイラ1の火災報知信号を受信したり、ボイラ1が設置されている地域で堤防を越える高さの津波が観測された情報を受信した場合は、緊急事象が発生したと判断してもよい。
【0050】
緊急事象の発生を検知、又は予測を検知しない場合は(S103:NO)、ボイラ損傷度推定装置300は、全てのセンサデータが示す相対変位が警告閾値未満であるか判定する(S104)。図8(b)は、地震による相対変位が警告閾値内に収まった例を示す。地震発生に伴い、相対変位の時系列変化はプラス方向、マイナス方向に振れるが、プラス方向、マイナス方向の各ピーク値は警告閾値のプラス方向、マイナス方向のそれぞれに収まっている。この場合は、センサデータが示す相対変位が警告閾値未満と判断する。
【0051】
全てのセンサデータが示す相対変位が警告閾値未満であれば(S104:YES)、発電事業者端末410や中央操作室端末420、また設備点検員に判定結果を通知し、設備点検員がボイラ1の周囲環境に異常がないか目視点検を行う。異常がなければ(S105:YES)、ボイラ1の運転を継続する(S106)。異常があれば(S105:NO)、ステップS108へ進む。
【0052】
ボイラ損傷度推定装置300が、一つ以上のセンサデータが示す変位が警告閾値以上であると判定した場合(S104:NO)、ボイラ損傷度推定装置300は、ボイラ1の損傷度を推定する(S107)。
【0053】
ボイラ損傷度推定装置300が図9(a)に示す波形を解析結果して得た場合、t1からt2の微小時間に大きな揺れが生じ、その一度の揺れで一気に火炉2とケージ部4とが引き裂かれる損傷が起きたと推定する。
【0054】
別例として、ボイラ損傷度推定装置300が相対変位の累積値を解析した結果、図9(b)に示す波形が得られたとする。図9(b)は、t1からt3までの数回の地震があり、そのたびに火炉2とケージ部4との相対変位が変化し、その変化量の累積値が警告閾値を超えたことを意味する。相対変位の累積値は余寿命診断に用いられる。ここでいう余寿命診断とは、実際の累積変位、つまり、余寿命がゼロ%を超えた時点で構造物の当該部位において、実際には損傷が発生していなくても、設計的には保証できない状態(いつ少しの衝撃で損傷(亀裂)が発生してもおかしくない状態)になったと診断することをいう。設計的には保証できない状態になった事、もしくは設計的には保証できない状態が近づいている事は目視点検からは把握できないが、ボイラ損傷度推定装置300による余寿命診断によれば、実際に損傷する前に事前に把握して対策する事ができる。
【0055】
このように、ボイラ損傷度推定装置300は、警告閾値を超える相対変位が生じたと推定した場合に、それに至る時系列変化を基に損傷が起きる過程と、損傷の程度を定量的に推定する。損傷の推定例として、火炉2とケージ部4とがどの方向に何cm引き裂かれたかといった形状変化量を具体的な数値で表してもよい。この例では、相対変位センサとして3軸加速度センサを用いることにより、相対変位だけでなく運動方向が解析できるので運動方向と形状変化量とが解析できる。
【0056】
図9(a)、図9(b)では、相対変位が警告閾値を超える形状変化(破壊)が生じているので、目視点検でもボイラ1の損傷を確認できる。
【0057】
一方、図8(b)では、相対変位の変動のピーク値を超えた後、相対変位はほぼ0、すなわち形状変化は生じていないので、目視点検では異常が発見されない。しかし、実際には地震動により相対変位が生じていることから火炉2とケージ部4との連結部位、例えばノーズ22aや接続コーナーXでは地震動に伴う揺れで応力集中が生じ、金属疲労が生じている可能性がある。この場合、目視点検では発見できない構造上のダメージを、ボイラ損傷度推定装置300は推定してもよい。推定例として、例えば、相対変位の時間累積値を演算し、ボイラ1の設計時の耐久性能と比較した結果を出力し、ボイラ1の余寿命の推定を行ってもよい。
【0058】
図10は、ボイラ損傷度推定装置300によるボイラ1の損傷度推定の別例(水平断面)を示す。図10の例では、ボイラ損傷度推定装置300は、高さ位置L1で、ボイラ1の左側及び右側のそれぞれに設置されたゲージセンサの相対変位を基に、地震時のボイラ1左部の火炉―ケージ部間の距離I、及び地震時のボイラ1右部の火炉―ケージ部間の距離Iを求める。そして、ボイラ損傷度推定装置300は高さ位置L1における水平断面のボイラ1の形状を求める。
【0059】
更に、ボイラ損傷度推定装置300は、異なる高さ位置L1、L2、L3のそれぞれにおける水平断面形状を推定し、それらを高さ方向に積層することで疑似3次元的なボイラ1の変形を可視化して提示してもよい。
【0060】
図11は、ボイラ損傷度推定装置300によるボイラ1の損傷度推定の別例(右側面視)を示す。図11の例では、ボイラ損傷度推定装置300は、ボイラ1の上部及び下部のそれぞれに設置されたゲージセンサの相対変位を基に、地震時のボイラ1上部の火炉―ケージ部間の距離I、及び地震時のボイラ1下部の火炉―ケージ部間の距離Iを求める。そして、ボイラ損傷度推定装置300は右側面視におけるボイラ1の形状を求める。
【0061】
損傷度推定処理の後(S107)、又は周辺状況に異常があるという通知をボイラ損傷度推定装置300が受信した場合(S105:NO)、ボイラ損傷度推定装置300は、中央操作室のオペレーションが続行可能であるかを示す基準(運転継続可否基準)を充足しているか判断する(S108)。このステップの判断は、ボイラ損傷度推定装置300が、ボイラ1の運転データを取得しているときはボイラ損傷度推定装置300が自ら行ってもよい。また、ボイラ損傷度推定装置300はセンサデータや震度データなどのセンサデータを除く地震データを取得するだけにとどめ、運転継続可否基準の充足は発電事業者が行ってもよい。一方、ボイラ損傷度推定装置300が、ボイラ1の運転データを取得していないときは、運転継続可否基準を充足しているかのチェック項目情報を、発電事業者端末410、中央操作室端末420に送信し、その結果を受領することで判断を行う。結果を受領できない場合は、ステップS108ではチェック項目情報の提供を行い、ステップS114へスキップする。
【0062】
更に、ステップS105でボイラ1の周辺状況を目視点検するが、目視点検だけでなく、遠隔でもボイラの損傷度合いや例えば定点カメラの画像から周辺状況を把握する。
【0063】
ボイラ損傷度推定装置300が、運転継続可否基準を充足していないと判断すると(S108:NO)、ボイラ1を緊急停止させる提案を中央操作室端末420に対して送信する(S109)。
【0064】
ボイラ損傷度推定装置300が、運転継続可否基準を充足していると判断すると(S108:YES)、ボイラ1を計画停止させる提案を中央操作室端末420に対して送信する(S110)。
【0065】
ボイラ1が緊急停止(S109)、計画停止(S110)した後、ボイラ1の点検を実施し(S111)、必要に応じて補修(耐震補強を含む)を行い(S112)、ボイラ1の運転を再開する(S113)。
【0066】
ボイラ1のモニタリング処理を継続する場合は(S114:YES)、ステップS101へと戻り、処理を繰り返す。
【0067】
ボイラ1のモニタリング処理を終了する場合は(S114:NO)、一連の処理を終了する。
【0068】
本実施形態によれば、ボイラ地震動モニタリング計測結果と、事前に設定した警告閾値との比較により、ボイラ損傷度合いの定量評価が可能となる。
【0069】
また、ボイラ地震動モニタリング計測結果を時系列方向に累積データとして加算・蓄積し、その結果を用いてボイラの損傷度を推定する事により、余寿命診断にも応用でき、ボイラ1の累積損傷度合を定量評価することも可能である。
【0070】
更に、クラウドを活用してボイラ損傷度推定システムを実現することにより、遠隔且つリアルタイムでボイラ1の損傷度の推定が可能となる。これにより、甚大災害時危険を冒して現場に駆け付けることなく、損傷の程度を遠隔で把握することができる。
【0071】
上記実施形態は本発明の一実施形態を表したにすぎず、本発明の趣旨を逸脱しない様々な変更態様は、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0072】
例えば、図7のステップ104において全てのセンサデータが示す相対変位が警告閾値未満であるかの判定処理において、上記の説明では各センサデータの相対変位と警告閾値とを比較したが、全てのセンサデータが示す相対変位の最大値を求め、その最大値と警告閾値とを比較してもよい。
【0073】
また、警告閾値は、火炉2及びケージ部4の位置、例えば高さが低いほど大きな値を用いてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 :ボイラ
2 :火炉
3 :副側壁部
4 :ケージ部
10 :ボイラユニット
11 :RTC
12 :データ収集装置
12b :鉄骨柱
12f :鉄骨柱
13 :通信装置
13b :サイスミックタイ
13f :サイスミックタイ
20 :バーナ
21 :火炉前壁
22 :火炉後壁
22a :ノーズ
23 :火炉側壁
24 :火炉天井壁
25b :後側バックステー
25f :前側バックステー
33 :側壁
34 :天井壁
35 :底壁
41 :ケージ前壁
42 :ケージ後壁
43 :ケージ側壁
44 :ケージ天井壁
100 :ボイラ損傷度推定システム
101A1 :ゲージセンサ
101A2 :ゲージセンサ
101A3 :ゲージセンサ
200 :クラウドサーバ
210 :外部通信装置
300 :ボイラ損傷度推定装置
301 :プロセッサ
305 :入力I/F
306 :出力I/F
307 :通信I/F
308 :バス
311 :入力装置
312 :ディスプレイ
350 :受信部
352 :RTC
354 :センサデータ記憶部
356 :損傷度推定部
358 :運転継続可否基準情報出力部
360 :送信部
400 :ボイラメーカ
410 :発電事業者端末
420 :中央操作室端末
図1
図2
図3
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図5
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図7
図8
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図10
図11