(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131059
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】ウォーターハンマの緩衝方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
F16L 55/02 20060101AFI20220831BHJP
F04B 53/16 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
F16L55/02
F04B53/16 E
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029794
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】390032241
【氏名又は名称】株式会社シンテック
(74)【代理人】
【識別番号】100085648
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 幹人
(72)【発明者】
【氏名】山本 圭二
(72)【発明者】
【氏名】安田 知之
【テーマコード(参考)】
3H025
3H071
【Fターム(参考)】
3H025CA03
3H025CB23
3H025CB34
3H071AA01
3H071AA13
3H071BB01
3H071CC24
3H071CC44
3H071DD31
3H071DD37
(57)【要約】 (修正有)
【課題】地下空洞や空間に充填して埋め戻すための流動化処理土や、その原料である解泥水等の流体材料を圧送する際に発生するウォーターハンマを緩衝するためのウォーターハンマの緩衝方法及びその装置を提供する。
【解決手段】所定管路に敷設した圧送用配管への流体材料の圧送時において、流体材料の所定の圧送圧力を、圧送用配管の所定箇所において分岐して蓄圧するとともに、圧送圧力の低下に連動して圧送用配管内に放出することによって、圧送圧力の低下によって圧送用配管内に発生する負圧の発生を防止し、負圧に起因するウォーターハンマを緩衝する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定管路に敷設した圧送用配管への流体材料の圧送時において、
流体材料の所定の圧送圧力を、
圧送用配管の所定箇所において分岐して蓄圧するとともに、圧送圧力の低下に連動して圧送用配管内に放出することによって、
圧送圧力の低下によって圧送用配管内に発生する負圧の発生を防止し、負圧に起因するウォーターハンマを緩衝することを特徴とするウォーターハンマの緩衝方法。
【請求項2】
低下した圧送圧力による流体材料の圧送速度と、流体材料の慣性力による圧送速度の差によって、圧送用配管内の流体材料に生じる水柱分離によって負圧が発生する請求項1記載のウォーターハンマの緩衝方法。
【請求項3】
所定の圧送圧力によって圧送される流体材料と、負圧によって圧送方向とは逆方向に吸引される流体材料の衝突によってウォーターハンマを生じる請求項1記載のウォーターハンマの緩衝方法。
【請求項4】
ウォーターハンマを緩衝することによって、ウォーターハンマに起因する衝撃,騒音を防止する請求項1記載のウォーターハンマの緩衝方法。
【請求項5】
ウォーターハンマに起因する衝撃,騒音を防止することによって、圧送用配管の損壊を防止する請求項4記載のウォーターハンマの緩衝方法。
【請求項6】
分岐した圧送圧力を緩衝装置に蓄圧する請求項1,2,3,4又は5記載のウォーターハンマの緩衝方法。
【請求項7】
所定の圧送圧力で圧送される流体材料を圧送用配管から分岐して緩衝装置内に圧入し、緩衝装置内に封入したピストン体を摺動させることにより、緩衝装置内の空気を圧縮して蓄圧する請求項6記載のウォーターハンマの緩衝方法。
【請求項8】
圧送圧力の低下に連動して、緩衝装置内に蓄圧した圧力を圧送用配管に放出することによって、緩衝装置内の流体材料を圧送用配管内に圧送する請求項6又は7記載のウォーターハンマの緩衝方法。
【請求項9】
圧送用配管の所定箇所に1又は複数の緩衝装置を接続する請求項6,7又は8記載のウォーターハンマの緩衝方法。
【請求項10】
80m~100m毎の圧送用配管の所定箇所に緩衝装置を接続する請求項6,7,8又は9記載のウォーターハンマの緩衝方法。
【請求項11】
圧送用配管の曲成箇所から圧送方向の直線箇所近傍に1又は複数の緩衝装置を接続する請求項6,7,8又は9記載のウォーターハンマの緩衝方法。
【請求項12】
圧送用配管の勾配箇所を上昇した圧送方向の直線箇所近傍に1又は複数の緩衝装置を接続する請求項6,7,8又は9記載のウォーターハンマの緩衝方法。
【請求項13】
シリンダチューブ内においてピストンが往復動作するピストン式圧送ポンプを使用して流体材料を圧送する請求項1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11又は12記載のウォーターハンマの緩衝方法。
【請求項14】
ポンピングチューブをローラで絞るスクイズ式圧送ポンプを使用して流体材料を圧送する請求項1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11又は12記載のウォーターハンマの緩衝方法。
【請求項15】
流体材料として、流動化処理土を圧送する請求項1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13又は14記載のウォーターハンマの緩衝方法。
【請求項16】
流体材料として、流動化処理土の原材料である解泥水を圧送する請求項1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13又は14記載のウォーターハンマの緩衝方法。
【請求項17】
所定管路に敷設した圧送用配管への流体材料の圧送時に発生するウォーターハンマを緩衝するために、所定箇所の圧送用配管に接続する緩衝装置であって、
閉塞した先端部と流体材料を通過可能な基端部とからなる中空管体と、中空管体内において、基端部を通過した流体材料を中空管体内の空気と液密状態に隔離して摺動可能に収納したピストン体とからなり、ピストン体の摺動によってピストン体から先端方向の空気を圧縮可能とした所定長さの中空管体からなることを特徴とするウォーターハンマの緩衝装置。
【請求項18】
ピストン体を中空管体から、抜落不能とした請求項17記載のウォーターハンマの緩衝装置。
【請求項19】
1又は複数のピストン体を封入する請求項17又は18記載のウォーターハンマの緩衝装置。
【請求項20】
T字管を介して、中空管体の基端部を圧送用配管に接続する請求項17,18又は19記載のウォーターハンマの緩衝装置。
【請求項21】
T字管と中空管体の基端部との間に、ピストン体を通過不能に、かつ、流体材料を通過可能とした格子状の規制部材を介在させた請求項20記載のウォーターハンマの緩衝装置。
【請求項22】
1又は複数の緩衝装置を、圧送用配管の所定箇所に接続する請求項17,18,19,20又は21記載のウォーターハンマの緩衝装置。
【請求項23】
1又は複数の緩衝装置を、圧送用配管の曲成箇所から圧送方向の直線箇所近傍に接続する請求項17,18,19,20,21又は22記載のウォーターハンマの緩衝装置。
【請求項24】
1又は複数の緩衝装置を、圧送用配管の勾配箇所を上昇した圧送方向の直線箇所近傍に接続する請求項17,18,19,20,21又は22記載のウォーターハンマの緩衝装置。
【請求項25】
所定の圧送圧力で圧送される流体材料を圧送用配管から分岐して緩衝装置内に圧入し、緩衝装置内に封入したピストン体を摺動させることにより、ピストン体から先端方向の空気を圧縮して蓄圧するとともに、圧送圧力の低下に連動して圧送用配管内に放出する請求項17,18,19,20,21,22,23又は24記載のウォーターハンマの緩衝装置。
【請求項26】
蓄圧した圧送圧力を圧送用配管内に放出することによって、圧送圧力の低下によって圧送用配管内に発生する負圧の発生を防止し、負圧に起因するウォーターハンマを緩衝する請求項25記載のウォーターハンマの緩衝装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下空洞や空間に充填して埋め戻すための流動化処理土や、その原料である解泥水等の流体材料を圧送する際に発生するウォーターハンマを緩衝するためのウォーターハンマの緩衝方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
わが国には、石炭・亜炭鉱山廃坑,戦時中の地下壕,地下採石場跡及び廃棄された地下埋設物などの種々の地下空洞や空間(以下、これらをまとめて「地下空洞等」という)が至る所に放置されており、ときにこれらが突然崩落し、地表面や地上施設に陥没や沈下・傾斜等の災害をもたらしている。例えば、亜炭鉱山は明治から昭和にかけて各地で広く採掘が行われ、各種産業のエネルギー源として重用されてきたものの、エネルギー需要が石油燃料に切り替わっていく中で徐々に衰退し、閉山していった。その後には無数に掘られた廃坑が空洞としてそのまま地下に放置されている。
【0003】
中でも東海地方は美濃炭田や尾張炭田が日本の亜炭の40%以上を産出するなど、亜炭鉱業が盛んであったため、亜炭鉱山廃坑の空洞が多数残されており、前記した災害の原因ともなっている。そのため、例えば亜炭鉱業が盛んであった岐阜県可児郡御嵩町では、ボーリング調査を行い平成20年には全国で唯一「亜炭層(空洞)深度分布図」を公表して災害の防止に努めており、平成25年度には国で創設された「亜炭鉱予防対策事業のモデル地区」に選定され、公共施設や宅地等の地下空洞等の埋め戻しが開始されている。亜炭鉱山廃坑に代表される地下空洞等の埋め戻しは、その原因や地域に限定されることなく、優先されるべき防災上の課題となっている。
【0004】
埋め戻しのための充填材としては、原料土と水とセメントから組成され、流動性が高く自硬性がある資源循環型の埋め戻し材として、その有用性が高く評価されている流動化処理土が使用されている(特許文献1参照)。流動化処理土は、原料土に水を加えて解泥して所定の比重に調節するとともに、一定サイズ以上の礫を除去することによって解泥水を製造し、この解泥水に所定量のドライセメントやセメントミルクを添加して混練することにより製造している。原料土としては、掘削残土等の建設発生土や建設汚泥等が使用され、水は湿潤状態の原料土に含まれる含有水と、流動化処理土の配合に応じて新たに添加する追加水から供給される。
【0005】
流動化処理土を所定の製造プラントから地下空洞等の充填現場まで輸送するには、ミキサー車やコンテナ車を使用したバッチ式の輸送も可能ではあるものの、充填作業を効率的に行うには、充填現場の状況,製造プラントから充填現場までの距離や高低差等の諸条件を考慮した上で、所定管路に敷設した圧送用配管を介して、圧送ポンプを使用して連続して圧送することが望ましい(特許文献1参照)。使用する圧送ポンプとしては、従来より、生コンクリートや各種泥状物の圧送に使用され、現に流動化処理土の圧送に使用されているピストン式圧送ポンプやスクイズ式圧送ポンプが適している。
【0006】
一方、流体材料の圧送時には、圧送用配管内の圧力が急激に上昇または下降することによってウォーターハンマ(水撃作用)が生じ、衝撃,騒音や振動が起きることが知られている。代表的な例としては給水配管や、燃料や水等の液体を高圧作動流体で圧送する場合のウォーターハンマである。そこで、これらの場合にはウォーターハンマを緩衝するための装置が種々提供されている(特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-98699号公報
【特許文献2】特開2002-181231号公報
【特許文献3】特開2011-153684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ピストン式圧送ポンプやスクイズ式圧送ポンプを使用して流動化処理土を圧送する場合、ピストン式圧送ポンプはシリンダチューブ内においてピストンの往復動作を行うため、又スクイズ式圧送ポンプはポンピングチューブをローラで絞る動作を行うため、いずれも圧送時において圧送圧力の変化(圧力斑)を生じることとなる。この圧送圧力の変化(圧力斑)によって流動化処理土の圧送速度が急激に変化することとなり、ウォーターハンマを生じて衝撃,騒音や振動が起き、場合によっては圧送用配管の損壊に至ることとなる。このことは解泥水や他の流体材料を圧送する場合においても同様である。
【0009】
近時の流動化処理土の充填による地下空洞等の埋め戻し作業、特に現に埋め戻しが求められている亜炭鉱山廃坑の埋め戻し作業は、市街地や住宅地,道路,鉄道敷地や狭隘地等での作業が多く、何より地域住民の日常生活や交通を確保し、騒音防止や安全を担保した上で作業を進めることが前提として求められている。また、充填現場が地域全域となる広域施工となることさえある。
【0010】
更に、地理的条件から流動化処理土の製造プラントを充填現場から離れた場所に設けたり、製造プラントを解泥水を製造するための解泥プラントと、解泥水とセメントミルクを混練する混練プラントに分離して、別の場所に設けざるを得なかったりすることも多い。製造プラントや混練プラントから充填現場まで流動化処理土を連続して圧送したり、或いは解泥プラントから混練プラントまで解泥水を連続して圧送しようとすると、長距離圧送することを余儀なくされたり、又現場によって高低差圧送も要求されることとなる。そのため、所定管路に敷設した圧送用配管の諸処において、ウォーターハンマが頻発することともなり、その衝撃,騒音や振動によって、円滑な圧送が妨げられるばかりか、地域住民の日常生活を阻害することとなる。
【0011】
そのため、流動化処理土や解泥水の圧送、特に長距離圧送に際しては、何より衝撃,騒音や振動の原因となるウォーターハンマを緩衝することが強く求められており、このウォーターハンマを緩衝することが流動化処理土の充填による地下空洞等の埋め戻し作業の成否の鍵と言っても過言ではない。
【0012】
一方、亜炭鉱山廃坑の地下空洞等は、その容積も大きく、形状も複雑なため、作業効率を考慮すると一定以上の圧送量(例えば、20m3/h~30m3/h程度)を確保することが要求されるため、ピストン式圧送ポンプやスクイズ式圧送ポンプを使用することが必要となる。特に長距離圧送(例えば、水平距離換算で圧送距離800m~1200m程度の長距離圧送)することを余儀なくされたり、又高低差圧送も要求される場合は、シリンダチューブ内でピストンを高圧の作動油で駆動することが可能であり、長距離圧送や高低差圧送に適した圧送能力を有しているピストン式圧送ポンプの使用が有効である。
【0013】
上記したように、圧送能力を確保するためにピストン式圧送ポンプやスクイズ式圧送ポンプを選択するとウォーターハンマによる衝撃,騒音や振動の問題が生じ、一方、ミキサー車やコンテナ車を使用したバッチ式の輸送やスラリーポンプやサンドポンプを選択するとウォーターハンマは発生しないものの、供給現場への供給能力が不足することとなり、実現性に欠ける。
【0014】
よって、流体材料の圧送、特に地下空洞等を充填するために、ピストン式圧送ポンプやスクイズ式圧送ポンプ等の圧送圧力の変化によって圧送速度の変化を伴う圧送ポンプを使用した流動化処理土や解泥水の圧送に際して、ウォーターハンマを緩衝する手段の開発が喫緊の課題となっている。そこで、本発明はこの課題を解決するためのウォーターハンマの緩衝方法及びその装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、流体材料の圧送時に圧送用配管内に生じるウォーターハンマの原因についての知見を得るために、長距離圧送の能力を有するピストン式圧送ポンプを使用して、流動化処理土を圧送する場合を例として、種々の実験に基づいて鋭意研究を行った結果、以下に示す知見を得た。
【0016】
図18(A)は、ピストン式圧送ポンプ40の一方のシリンダチューブ41aから、矢印aに示すように流動化処理土5を所定の圧送圧力で吐出して、圧送用配管30へ圧送するとともに、他方のシリンダチューブ41bに、矢印bに示すように流動化処理土5を吸入している状態を示している。このとき、圧送用配管30内の流動化処理土5は、
図18(B)の矢印cに示すように、圧送速度が変化することはなく、所定の圧送圧力に基づいて圧送方向に向けて安定して圧送されている。この状態でウォーターハンマが発生することはない。
【0017】
図19(A)は、ピストン式圧送ポンプ40の一方のシリンダチューブ41aからの流動化処理土5の吐出を終了するとともに、他方のシリンダチューブ41bへの吸入を完了した状態を示している。即ち、シリンダチューブ41aへの吸入と、シリンダチューブ41bからの吐出への切換時に相当し、圧送圧力は急激に低下している。このとき、圧送用配管30内には、
図19(B)の矢印dに示すように、圧送圧力が低下したことによって圧送量が減少し、圧送速度が急激に低下した部分の流動化処理土5aと、これまでの圧送圧力の慣性力によって、矢印eに示すように圧送速度を保って圧送方向に進もうとする部分の流動化処理土5bが併存し、両者の圧送速度に差を生じる。この圧送速度の差に起因して、圧送用配管30内の流動化処理土5に水柱分離35が生じ、この部分に負圧45が発生することがある。
【0018】
図20(A)は、
図19(A)に示す状態から、流動化処理土5の吸入を完了した他方のシリンダチューブ41bから、矢印fに示すように流動化処理土5の吐出を開始するとともに、吐出の完了した一方のシリンダチューブ41aに、矢印gに示すように流動化処理土5の吸入を開始する状態を示している。この他方のシリンダチューブ41bから流動化処理土5の吐出が開始されると、
図19(B)に示す圧送速度が急激に低下した部分の流動化処理土5aに、再び所定の圧送圧力が供給されることとなり、
図20(B)の矢印hに示すように、再び所定の圧送圧力に基づく圧送速度に復帰して圧送される。一方、
図19(B)に示す水柱分離35によって発生した負圧45に、
図20(B)に示すように、慣性力によって圧送速度を維持した部分の流動化処理土5bが負圧45によって、矢印iに示すように圧送方向とは逆方向に吸引されることとなり、両者が衝突49を引き起こすことによってウォーターハンマ50が発生する。
【0019】
これらの研究結果に基づいて、ウォーターハンマの発生原因をチャート図として
図17に示す。ピストン式圧送ポンプ40から、所定の圧送圧力42が、圧送用配管30に供給されている状態では、流動化処理土5は一定の速度を保持して圧送43されている(
図18(B)参照)。しかしながら、ピストン式圧送ポンプ40への流動化処理土5の吸入と吐出の切換によって、急激に低下した圧送圧力44となると、圧送量の減少46と、流動化処理土5の慣性力47の双方が圧送用配管30内の流動化処理土5に作用し、前者の作用による圧送速度が低下した流動化処理土5aと、後者の作用によって圧送速度を保持した流動化処理土5bが併存することとなり、両者の間の圧送速度の差に起因して、圧送用配管30内の流動化処理土5に水柱分離35が発生し、この箇所に負圧45が発生する(
図19(B)参照)。
【0020】
所定の圧送圧力42が回復すると(
図20(A)参照)、圧送用配管30の流動化処理土5は圧送速度を回復して圧送される。このとき、負圧45が発生した箇所では、回復した圧送速度による流動化処理土5aと、負圧に引き込まれる流動化処理土5bによって、流動化処理土5の衝突49が引き起こされ、その結果ウォーターハンマ50が引き起こされ、衝撃・騒音・振動51が発生することとなる(
図20(B)参照)。以後、所定の圧送圧力42と、急激に低下した圧送圧力44が繰り返して発現して圧送用配管30に供給されることにより、ウォーターハンマ50も繰り返して発生することとなる。
【0021】
上記したピストン式圧送ポンプを使用した流動化処理土の圧送時におけるウォーターハンマの発生原因についての知見は、ピストン式圧送ポンプと同様にウォーターハンマを発生するスクイズ式圧送ポンプやその他の圧送ポンプを使用した流体材料の圧送においても、圧送時に流体材料の圧送速度に変化が生じるものであれば共通している。
【0022】
これらの知見に基づき、流体材料を圧送する際に発生するウォーターハンマを緩衝するため、次の推論を立てた。
推論1:ウォーターハンマの発生原因は、圧送時に圧送用配管内で発生する負圧にあること。
推論2:負圧は、流体材料の圧送圧力の変化に起因して圧送速度に差が生じることによって発生する水柱分離に起因すること。
推論3:負圧を緩衝すれば、ウォーターハンマも緩衝できること。
推論4:圧送ポンプの構造上、圧送速度の差を解消することは難しいため、負圧を直接緩衝する必要があること。
推論5:負圧を緩衝するには、負圧発生時に負圧に対抗する圧力を供給することが有効であること。
推論6:負圧に対抗する圧力を何処かに蓄圧し、負圧発生時に圧送用配管内に放出することができれば、負圧の発生を未然に防止し、或いは緩衝できること。
【0023】
前記推論1~6に基づいて、流体材料の圧送圧力を何処かに蓄圧しておき、負圧に対抗する圧力として負圧発生時に圧送用配管内に放出することができれば、負圧の影響を緩衝すること、即ち、ウォーターハンマを緩衝し、その弊害を最小限に抑えることができるとの着想を得て鋭意研究の結果、本発明に想到した。
【0024】
本願発明の課題を解決するために、請求項1により、所定管路に敷設した圧送用配管への流体材料の圧送時において、流体材料の所定の圧送圧力を、圧送用配管の所定箇所において分岐して蓄圧するとともに、圧送圧力の低下に連動して圧送用配管内に放出することによって、圧送圧力の低下によって圧送用配管内に発生する負圧の発生を防止し、負圧に起因するウォーターハンマを緩衝するウォーターハンマの緩衝方法を基本として提供する。
【0025】
請求項2により、低下した圧送圧力による流体材料の圧送速度と、流体材料の慣性力による圧送速度の差によって、圧送用配管内の流体材料に生じる水柱分離によって負圧が発生する方法を、請求項3により、所定の圧送圧力によって圧送される流体材料と、負圧によって圧送方向とは逆方向に吸引される流体材料の衝突によってウォーターハンマを生じる方法を提供する。
【0026】
そして、請求項4により、ウォーターハンマを緩衝することによって、ウォーターハンマに起因する衝撃,騒音を防止する方法を、請求項5により、ウォーターハンマに起因する衝撃,騒音を防止することによって、圧送用配管の損壊を防止する方法を、請求項6により、分岐した圧送圧力を緩衝装置に蓄圧する方法を、請求項7により、所定の圧送圧力で圧送される流体材料を圧送用配管から分岐して緩衝装置内に圧入し、緩衝装置内に封入したピストン体を摺動させることにより、緩衝装置内の空気を圧縮して蓄圧する方法を、請求項8により、圧送圧力の低下に連動して、緩衝装置内に蓄圧した圧力を圧送用配管に放出することによって、緩衝装置内の流体材料を圧送用配管内に圧送する方法を提供する。
【0027】
また、請求項9により、圧送用配管の所定箇所に1又は複数の緩衝装置を接続する方法を、請求項10により、80m~100m毎の圧送用配管の所定箇所に緩衝装置を接続する方法を、請求項11により、圧送用配管の曲成箇所から圧送方向の直線箇所近傍に1又は複数の緩衝装置を接続する方法を、請求項12により、圧送用配管の勾配箇所を上昇した圧送方向の直線箇所近傍に1又は複数の緩衝装置を接続する方法を提供する。
【0028】
更に、請求項13により、シリンダチューブ内においてピストンが往復動作するピストン式圧送ポンプを使用して流体材料を圧送する方法を、請求項14により、ポンピングチューブをローラで絞るスクイズ式圧送ポンプを使用して流体材料を圧送する方法を、請求項15により、流体材料として、流動化処理土を圧送する方法を、請求項16により、流体材料として、流動化処理土の原材料である解泥水を圧送する方法を提供する。
【0029】
また、請求項17により、所定管路に敷設した圧送用配管への流体材料の圧送時に発生するウォーターハンマを緩衝するために、所定箇所の圧送用配管に接続する緩衝装置であって、閉塞した先端部と流体材料を通過可能な基端部とからなる中空管体と、中空管体内において、基端部を通過した流体材料を中空管体内の空気と液密状態に隔離して摺動可能に収納したピストン体とからなり、ピストン体の摺動によってピストン体から先端方向の空気を圧縮可能とした所定長さの中空管体からなるウォーターハンマの緩衝装置を提供する。
【0030】
そして、請求項18により、ピストン体を中空管体から、抜落不能とした構成を、請求項19により、1又は複数のピストン体を封入する構成を、請求項20により、T字管を介して、中空管体の基端部を圧送用配管に接続する構成を、請求項21により、T字管と中空管体の基端部との間に、ピストン体を通過不能に、かつ、流体材料を通過可能とした格子状の規制部材を介在させた構成を提供する。
【0031】
更に、請求項22により、1又は複数の緩衝装置を、圧送用配管の所定箇所に接続する構成を、請求項23により、1又は複数の緩衝装置を、圧送用配管の曲成箇所から圧送方向の直線箇所近傍に接続する構成を、請求項24により、1又は複数の緩衝装置を、圧送用配管の勾配箇所を上昇した圧送方向の直線箇所近傍に接続する構成を提供する。
【0032】
また、請求項25により、所定の圧送圧力で圧送される流体材料を圧送用配管から分岐して緩衝装置内に圧入し、緩衝装置内に封入したピストン体を摺動させることにより、ピストン体から先端方向の空気を圧縮して蓄圧するとともに、圧送圧力の低下に連動して圧送用配管内に放出する構成を、請求項26により、蓄圧した圧送圧力を圧送用配管内に放出することによって、圧送圧力の低下によって圧送用配管内に発生する負圧の発生を防止し、負圧に起因するウォーターハンマを緩衝する構成を提供する。
【発明の効果】
【0033】
上記構成の本発明によれば、圧送圧力の変化を伴うピストン式圧送ポンプやスクイズ式圧送ポンプ等の圧送ポンプを使用して、流動化処理土や解泥水等の各種流体材料を所定管路に敷設した圧送用配管へ圧送する際に、流体材料の所定の圧送圧力を、圧送用配管の所定箇所において分岐して緩衝装置に蓄圧することができるとともに、圧送時における圧送圧力の低下に連動して圧送用配管内に放出することができる。
【0034】
これにより、低下した圧送圧力による流体材料の圧送速度と、流体材料の慣性力による圧送速度の差によって、流体材料に生じる水柱分離に伴う負圧を緩衝することができ、圧送圧力が所定の圧送圧力に回復した際に、所定の圧送圧力によって圧送される流体材料と、負圧によって圧送方向とは逆方向に吸引される流体材料の衝突によって生じるウォーターハンマを緩衝することができ、ウォーターハンマに起因する衝撃,騒音や振動を防止し、圧送用配管の損壊を未然に防ぐことができる。
【0035】
また、1又は複数の緩衝装置を、圧送用配管の曲成箇所から圧送方向の直線箇所近傍や、圧送用配管の勾配箇所を上昇した圧送方向の直線箇所近傍等の負圧が発生しやすい箇所の圧送用配管に接続することにより、緩衝装置に蓄圧した圧力を負圧解消に効果的に使用することができる。
【0036】
更に、所定の圧送圧力で圧送される流体材料を圧送用配管から分岐して緩衝装置内に圧入し、緩衝装置内に封入したピストン体を摺動させることにより、ピストン体から先端方向の空気を圧縮して蓄圧することにより、所定の圧送圧力を利用して負圧を解消するための圧力を効率よく蓄圧することが可能である。
【0037】
ウォーターハンマを緩衝することにより、地理的条件から流動化処理土の製造プラントを充填現場から離れた場所に設けたり、更には、製造プラントを解泥水を製造するための解泥プラントと、解泥水とセメントミルクを混練する混練プラントに分離して、別の場所に設けた場合や一定差以上の高低差がある場合であっても、流動化処理土や、その原料としての解泥水を、ウォーターハンマを生じることなく安定して、かつ、効率的に圧送することが可能となり、亜炭鉱山廃坑等の地下空洞等を流動化処理土を充填して埋め戻す充填工法を実施することが可能となる。その他、流体材料全般の圧送において同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明にかかるウォーターハンマの緩衝の要旨についてのチャート図。
【
図2】所定の圧送圧力における(A)ピストン式圧送ポンプの動作説明図,(B)圧送用配管の状態説明図。
【
図3】低下した圧送圧力における(A)ピストン式圧送ポンプの動作説明図,(B)圧送用配管の状態説明図。
【
図4】所定の圧送圧力に回復した(A)ピストン式圧送ポンプの動作説明図,(B)圧送用配管の状態説明図。
【
図5】緩衝装置の圧送用配管への接続状態を示す全体斜視図。
【
図6】緩衝装置の圧送用配管への接続状態を示す全体斜視図。
【
図9】(A)(B)(C)緩衝装置へのピストン体の封入状態を示す斜視図。
【
図17】ウォーターハンマの発生原因のチャート図。
【
図18】所定の圧送圧力における(A)ピストン式圧送ポンプの動作説明図,(B)圧送用配管の状態説明図。
【
図19】低下した圧送圧力における(A)ピストン式圧送ポンプの動作説明図,(B)圧送用配管の状態説明図。
【
図20】所定の圧送圧力に回復した(A)ピストン式圧送ポンプの動作説明図,(B)圧送用配管の状態説明図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明が緩衝するウォーターハンマは、流体材料の圧送時において、所定の圧送圧力で圧送される流体材料と、圧送圧力の急激な低下によって発生する負圧の影響を受ける流体材料との衝突によって生じる衝撃,騒音や振動等である。その詳細は
図17~
図20に基づいて従来の圧送例として説明したとおりである。
【0040】
流体材料としては、主として流動化処理土や、その原料としての解泥水を対象としているが、圧送用配管を介して圧送可能であり、圧送時にウォーターハンマを発生するものであれば限定はない。また、圧送手段としては、圧送時にウォーターハンマの発生原因となる圧送圧力の変化(圧力斑)を伴うものであれば限定はなく、長距離圧送能力に優れるものの、シリンダチューブ内においてピストンの往復動作を行うため、吸入と吐出の切換時に圧送圧力が変化(圧力斑)するピストン式圧送ポンプや、ポンピングチューブをローラで絞る動作を行うため、圧送圧力の変化(圧力斑)を伴うスクイズ式圧送ポンプ等の各種圧送ポンプを対象としている。
【0041】
以下、所定管路に敷設した圧送用配管30へのピストン式圧送ポンプ40を使用した流動化処理土5の圧送を例として、本発明にかかるウォーターハンマの緩衝方法及びその装置の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0042】
図1は本発明にかかるウォーターハンマの緩衝の要旨についてのチャート図であり、
図2(A),
図3(A),
図4(A)は、それぞれピストン式圧送ポンプ40の動作説明図,
図2(B),
図3(B),
図4(B)は、それぞれ圧送用配管30の状態説明図である。
図2(A)において、ピストン式圧送ポンプ40の一方のシリンダチューブ41aから、矢印aに示すように流動化処理土5を所定の圧送圧力で吐出して、圧送用配管30へ圧送するとともに、他方のシリンダチューブ41bに、矢印bに示すように流動化処理土5を吸入している状態を示している。このとき、圧送用配管30内の流動化処理土5は、
図2(B)の矢印cに示すように、圧送速度が変化することはなく、所定の圧送圧力に基づいて圧送方向に向けて安定して圧送されている。この状態では
図18(B)に示す従来の圧送状態と同様にウォーターハンマが発生することはない。
【0043】
図2(B)に示す状態において、圧送用配管30の所定箇所に1又は複数(図示例では1つ)の緩衝装置10を接続しており、所定の圧送圧力で圧送される流動化処理土5は圧送用配管30から分岐され、矢印αに示すように緩衝装置10にも圧入する。緩衝装置10内には1又は複数のピストン体20を封入しており(図示例では1個)、緩衝装置10内に圧入した流動化処理土5によって、ピストン体20を閉塞した先端部15aに向けて押圧して摺動させて、緩衝装置10内の空気25を圧縮して蓄圧する。流動化処理土5が所定の圧送圧力で圧送されている状態では、緩衝装置10にも圧送用配管30と同様に所定の圧送圧力が作用するため、流動化処理土5が緩衝装置10に圧入されることとなる。
【0044】
図3(A)は、前記した
図19(A)と同様に、ピストン式圧送ポンプ40の一方のシリンダチューブ41aからの流動化処理土5の吐出を終了するとともに、他方のシリンダチューブ41bへの吸入を完了した状態を示している。即ち、シリンダチューブ41aへの吸入と、シリンダチューブ41bからの吐出への切換時に相当し、圧送圧力は急激に低下している。そのため、
図3(B)に示すように、緩衝装置10内の圧力が圧送用配管30内の圧力より高い状態となり、所定の圧送圧力での流動化処理土5の圧送時に緩衝装置10に蓄圧された圧力(圧縮された空気25)が矢印βに示すように、ピストン式圧送ポンプ40からの圧送圧力の低下に連動して圧送用配管30方向に放出されることとなり、ピストン体20を押圧して摺動させる。そのため、緩衝装置10内の流動化処理土5は矢印γに示すように圧送用配管30内に圧送されて、圧送用配管30内の流動化処理土5の圧送を補助する。
【0045】
そのため、
図3(A)に示すような圧送圧力の低下時においても、流動化処理土5は慣性力によって圧送方向に付勢されているため、緩衝装置10から圧送される流動化処理土5も圧送方向に付勢されることとなる。よって、圧送用配管30内の流動化処理土5は圧送圧力の低下時においても、緩衝装置10からの圧力の放出によって緩衝装置10から圧送される流動化処理土5によって圧送速度の低下が緩和されるため、圧送用配管30内の流動化処理土5に、
図19(B)に示すような水柱分離35及び負圧45が発生することを防止することができる。そのため、
図20(B)に示すような所定の圧送圧力によって圧送される流動化処理土5aと、負圧によって圧送方向とは逆方向に吸引される流動化処理土5bの衝突49によってウォーターハンマ50を生じることがない。
【0046】
図4(A)は、
図3(A)に示す状態から、流動化処理土5の吸入を完了した他方のシリンダチューブ41bから、矢印fに示すように流動化処理土5の吐出を開始するとともに、吐出の完了した一方のシリンダチューブ41aに、矢印gに示すように流動化処理土5の吸入を開始した状態を示している。この他方のシリンダチューブ41bからの流動化処理土5の吐出の開始によって、圧送用配管30内の流動化処理土5は所定の圧送圧力に回復する。
図3(B)の矢印γに示すように緩衝装置10から放出された圧力によって、圧送用配管30内の流動化処理土5には、
図19(B)に示すような負圧45の発生を防止できるため、
図4(B)の矢印cに示すように、ウォーターハンマを発生することなく、安定して圧送される。仮に負圧やウォーターハンマが発生することがあったとしても、その影響を最小限に抑えることができるため、ウォーターハンマによる衝撃,騒音や振動を効果的に防止できる。
【0047】
なお、
図4(B)に示す状態は、所定の圧送圧力を回復しているため、
図2(B)に示す状態と同様に、流動化処理土5を圧送用配管30から分岐して、矢印αに示すように緩衝装置10にも圧入して蓄圧している。
【0048】
上記した本発明にかかるウォーターハンマの緩衝の要旨を
図1に示すチャート図に基づいて説明する。ピストン式圧送ポンプ40から所定の圧送圧力42が、圧送用配管30に供給されている状態では、流動化処理土5は一定の速度を保持して圧送43されるとともに、圧送用配管30から分岐して、緩衝装置10にも圧入されることにより、所定の圧送圧力42を緩衝装置10内に蓄圧13する(
図2(B)参照)。
【0049】
図3(A)に示すように、一方のシリンダチューブ41aへの吸入と、他方のシリンダチューブ41bからの吐出への切換時における、急激に低下した圧送圧力44による圧送時には、圧送量の減少46と慣性力47が同時に作用するが、急激に低下した圧送圧力44によって緩衝装置10に蓄圧13した圧力が圧送用配管30内に放出23されることとなり、圧送圧力を補助する(
図3(B)参照)。そのため、従来、
図19(B)に示すように、急激に低下した圧送圧力44によって圧送用配管30内の流動化処理土5に生じていた、水柱分離の防止17がなされ、負圧の発生防止19を実現することができる(
図3(B)参照)。
【0050】
よって、
図3(B)に示すように、所定の圧送圧力42が回復したとしても負圧の発生防止19がなされているため、流動化処理土の衝突防止27がなされ、ウォーターハンマの緩衝29を行うことができ、ピストン式圧送ポンプ40を使用した流動化処理土5の圧送時における衝撃・騒音・振動の防止33を実現することができ、常時安定した圧送43を実現することができる。
【0051】
次に、
図5~
図10に基づいて、緩衝装置10の構成を説明する。
図5は、緩衝装置10を矢印Xに示す圧送方向に向けて、圧送用配管30と略平行に接続した例を示し、
図6,
図7は緩衝装置10を圧送用配管30に略直交する方向に接続した例を示している。緩衝装置10の接続箇所や接続方向に限定はなく、圧送用配管30の敷設状況に応じて、圧送圧力の低下に連動して負圧の発生が予想されるとともに、圧送圧力を分岐して蓄圧し、又蓄圧した圧力を放出するのに適した所定箇所に接続すればよい。更に、中空管体15の管径や長さは、圧送用配管30の管径や圧送圧力に応じて適宜のものを選択すればよい。
【0052】
緩衝装置10は、先端部15aを閉塞するとともに、基端部15bを開口した所定管径を有する所定長の中空管体15と、中空管体15の内部に液密状態を保持して摺動可能に封入したピストン体20とから構成されている。緩衝装置10を圧送用配管30に接続するには、
図5に示す例では、圧送用配管30の接続箇所に連結具31を介してT字管37を連結し、T字管37の開口部37aに連結具31を介してエルボ管38を連結して方向を変換する。その上で、エルボ管38に連結具31を介して連結した継手管39に、中空管体15の基端部15bを連結具31で固定して接続する。
【0053】
図6,
図7に示す圧送用配管30に略直交する方向に接続した例では、圧送用配管30の接続箇所に連結具31を介してT字管37を連結し、T字管37の開口部37aに連結具31で連結した継手管39に、中空管体15の基端部15bを連結具31で固定して接続する。
【0054】
継手管39は、
図5に示すエルボ管38との連結部や、
図6,
図7に示すT字管37との連結部を、中空管体15の管径より小径に絞って中空管体15内に収納したピストン体20を通過不能に構成しているため、緩衝装置10内に蓄圧した圧力の放出時においてもピストン体20が圧送用配管30内に侵入することはない。更には、
図7に示すようにT字管37の開口部37aに、ピストン体20を通過不能に、かつ、流動化処理土5を通過可能とした格子状の規制部材34を装備してもよく、或いは規制部材34を中空管体15の基端部15bに装備しておいてもよい。要すれば、ピストン体20が中空管体15内で液密状態で摺動可能で、かつ、中空管体15から抜落しない状態を保持できればよい。
【0055】
中空管体15として有底筒状体を使用してもよく、或いは
図8に示すように、中空管体15の開口した先端部15aをパッキン16を介して蓋体36を連結具31で液密状態に固定することによって閉塞するようにしてもよい。
【0056】
図10に示すピストン体20は、中空管体15内において、基端部15bから中空管体15内に圧入される流動化処理土5と中空管体15内の空気25を隔離するとともに、流動化処理土5の圧送圧力によってピストン体20から先端部15a方向の空気25を圧縮して蓄圧する役割を果たす。そのため、中空管体15内において、液密状態で摺動可能としている。実施形態では円柱状のスポンジ体21の両面にゴム体22を貼付している。よって、両面のゴム体22によって、流動化処理土5と空気25を隔離し、流動化処理土5の圧送圧力及び空気25を圧縮して蓄圧した圧力によって中空管体15内を液密状態で摺動することができる。実施形態ではピストン式圧送ポンプ40と圧送用配管30を使用して生コンクリートを圧送した後に、圧送用配管30内を水で洗浄する際に使用する公知の洗浄スポンジを転用して使用したところ、良好な結果を得た。
【0057】
中空管体15に収納するピストン体20の個数やサイズに限定はなく、中空管体15のサイズに応じて適宜の個数やサイズを選択すればよい。
図9(A)は1個のピストン体20を、
図9(B)は同一サイズの2個のピストン体20を、
図9(C)は同一サイズの3個のピストン体20を収納した例を示している。
【0058】
図11はピストン式圧送ポンプ40を使用して貯留槽140に貯留した流動化処理土5を圧送する際の緩衝装置10の圧送用配管30への接続箇所を示す全体説明図であり、図示のように一定間隔を空けて上記した構成の1又は複数の緩衝装置10を所定管路に敷設した圧送用配管30の所定箇所に接続する。好ましい接続箇所としては、
図12に示す圧送用配管30の直線箇所55に一定距離D(図示例では80m~100m)毎に接続したり、圧送時に負圧のおきやすい箇所、具体的には、
図13に示す圧送用配管30の曲成箇所53から圧送方向の直線箇所55の近傍や、
図14に示す圧送用配管30の勾配箇所57を上昇した圧送方向の直線箇所55の近傍に接続することが適当である。
【実施例0059】
実施例1として、亜炭鉱山廃坑跡の地下空洞等135aに充填して埋め戻すための流動化処理土5を、
図15に示すように製造プラント130に設置した貯留槽140から、水平距離換算で1200m程度離間し、途中に高低差を有する充填現場135までピストン式圧送ポンプ40を使用して30m
3/h程度の圧送量で長距離圧送を行った。緩衝装置10は略100m毎に圧送用配管30に接続するとともに、特に管路が曲成した曲成箇所53から圧送方向の直線箇所55近傍の圧送用配管30と、管路が勾配を有する勾配箇所57から上昇した圧送方向の直線箇所55近傍の圧送用配管30にも接続した(
図12~
図14参照)。
【0060】
流動化処理土5は、原料土101と水(図示略)とセメントミルク(図示略)を混練して製造する流動体であり、原料土101はダンプトラック107等で製造プラント130まで輸送されて所定の場所に蓄積される。原料土101としては、広く建設発生土や建設汚泥等の各種土質材料が使用可能であるが、前記した御嵩町における亜炭鉱山廃坑の充填工事に使用される原料土には、粒径75μm以下で硬度の高いシルトや粘土が多く含まれている。
【0061】
製造プラント130では、製造する流動化処理土5の仕様に基づいて、解泥槽131内に所定量の原料土101をバックホウ136等で供給するとともに所定量の水を供給して解泥し、所定の含水比の解泥水7を得る。そして、強制二軸ミキサや一軸連続ミキサ等の適宜のミキサ装置138に、スラリーポンプ139で解泥水7を供給するとともに、セメントサイロ133から、セメントを所定含水比のセメントミルクに調整して供給し、混練することによって流動化処理土5を製造し、貯留槽140に貯留する。よって、流動化処理土5に含まれる水分は、原料土101に含まれる水と、解泥に際して解泥槽131に追加される水と、セメントミルクに含まれる水の総量となる。なお、セメントミルクに代えてドライセメントを使用することも可能であり、これらの流動化処理土5の製造工程は従来より公知のものである。
【0062】
ピストン式圧送ポンプ40は、2基のシリンダチューブ41a,41bを装備しており、それぞれロッド112の伸縮動作に伴って、その先端に装備したピストンが往復動作することによって、流動化処理土5の吸入と吐出を行う構成である。そして、一方のシリンダチューブ41aに流動化処理土5を吸入しているときに、他方のシリンダチューブ41bから流動化処理土5を吐出することにより、又一方のシリンダチューブ41aから流動化処理土5を吐出しているときに、他方のシリンダチューブ41bに流動化処理土5を吸入することにより、所定の圧送圧力で連続した圧送を行う。なお、シリンダチューブ41a,41bの開口部は常時開口している。
【0063】
ピストン式圧送ポンプ40は、流動化処理土5を貯留するためのホッパを具備していない。また、貯留槽140から一方のシリンダチューブ41a又は他方のシリンダチューブ41b内への吸入の切換と、一方のシリンダチューブ41a又は他方のシリンダチューブ41bから圧送用配管30への吐出の切換の双方を行うための単一の切換機構を装備していない。よって、ピストン式圧送ポンプ40は、シリンダチューブ41a,41b内におけるピストンの往復動作によって、流動化処理土5のシリンダチューブ41a,41bへの吸入とシリンダチューブ41a,41bからの吐出を行うものの、シリンダチューブ41a,41b自体は、吸入時における圧送用配管30と一方のシリンダチューブ41a又は他方のシリンダチューブ41bとの遮断、及び吐出時における貯留槽140と一方のシリンダチューブ41a又は他方のシリンダチューブ41bとの遮断に関与しない。
【0064】
ピストン式圧送ポンプ40は、2基のシリンダチューブ41a,41bのそれぞれの開口側に、先端が二叉に分岐した分岐管を有する二叉分岐管120の基端を直接連結して、一方の分岐管を吸入分岐管120aとし、吸入用逆止弁150を介して、貯留槽140に連結した吸入管145と連結している。この吸入用逆止弁150は、貯留槽140からピストン式圧送ポンプ40側への流動化処理土5の流入を可能とするとともに、貯留槽140側への流動化処理土5の流出を遮断している。そして、他方の分岐管を吐出分岐管120bとし、吐出用逆止弁200を介して圧送用配管30に連結した吐出管125と連結している。この吐出用逆止弁200は、一方のシリンダチューブ41a又は他方のシリンダチューブ41bから圧送用配管30側への流動化処理土5の流出を可能とするとともに、ピストン式圧送ポンプ40側への流動化処理土5の流入を遮断している。
【0065】
よって、一方のシリンダチューブ41a内のロッド112の縮小動作によって、貯留槽140内の流動化処理土5を、吸入管145,吸入用逆止弁150を介して二叉分岐管120の吸入分岐管120aを経てからシリンダチューブ41a内に吸入する。このとき、一方のシリンダチューブ41aからの吐出を遮断する吐出用逆止弁200は閉じられているとともに、吐出用逆止弁200は吸入時の圧力によって閉方向に付勢される。また、
図11に示すように、2基の吐出用逆止弁200は吐出管125を介して連通しているため、他方のシリンダチューブ41b内のロッド112の伸長動作によって、他方のシリンダチューブ41bから二叉分岐管120の吐出分岐管120bを経て吐出される流動化処理土5の圧力によっても閉方向に付勢されている。よって、吸入動作を行っている一方のシリンダチューブ41aと圧送用配管30が連通することはなく、吸入不可となったり、吐出管125から流動化処理土5が一方のシリンダチューブ41aに逆流することはない。
【0066】
また、他方のシリンダチューブ41b内のロッド112の伸長動作によって、他方のシリンダチューブ41bに吸入された流動化処理土5を、二叉分岐管120の吐出分岐管120bから吐出用逆止弁200を介して、吐出管125から圧送用配管30に吐出する。このとき他方のシリンダチューブ41bへの吸入を遮断する吸入用逆止弁150は閉じられているとともに、吸入用逆止弁150は吐出時の圧力によって閉方向に付勢される。加えて、
図11に示すように、2基の吸入用逆止弁150は吸入管145を介して連通しているため、一方のシリンダチューブ41a内のロッド112の縮小動作によって、一方のシリンダチューブ41aに二叉分岐管120の吸入分岐管120aを経て吸入される流動化処理土5の圧力によっても閉方向に付勢されている。よって、吐出動作を行っている他方のシリンダチューブ41bと貯留槽140が連通することはなく、圧送不可となったり、吸入管145から流動化処理土5が貯留槽140に逆流することはない。
【0067】
ピストン式圧送ポンプ40は、流動化処理土5を吸入する動作と、吐出する動作を交互に行うことによって、流動化処理土5を所定経路に敷設した圧送用配管30を経由して、製造プラント130から所定距離離間した充填現場135まで圧送する。そのため、一方のシリンダチューブ41aが吐出動作を完了して吸入動作に移る際には、他方のシリンダチューブ41bは吸入動作を完了して吐出動作に移る状態であり、双方のシリンダチューブ41a,41bともに吐出動作は行っていないため、圧送圧力は急激に低下することとなる(
図3(A),
図1の[急激に低下した圧送圧力44]参照)。
【0068】
ピストン式圧送ポンプ40は、一方又は他方のシリンダチューブ41a,41bのどちらかが吐出動作を行っている状態であれば、流動化処理土5は所定の圧送圧力で圧送されている。そのため、緩衝装置10を接続した箇所では、流動化処理土5は圧送用配管30から分岐して緩衝装置10内に圧入され、ピストン体20を摺動させて、ピストン体20から先端部15a方向の空気25を圧縮して蓄圧する(
図2(B),
図1の[蓄圧13]参照)。
【0069】
前記したようにピストン式圧送ポンプ40の双方のシリンダチューブ41a,41bが吐出動作を行っていない状態となると、圧送圧力は急激に低下し、従来は圧送用配管30には水柱分離に起因して負圧が発生する状態となるところ(
図19(B),
図17の[水柱分離35][負圧45]参照)、実施例1では、緩衝装置10に蓄圧した圧力が圧送用配管30内の圧力に勝るため、この蓄圧した圧力が緩衝装置10から圧送用配管30内に放出されることとなり(
図3(B)参照)、放出された圧力が水柱分離が発生する箇所への流動化処理土5の圧送を補助するため、
図1に示すように[水柱分離の防止17]がなされ、[負圧の発生防止19]がなされる。
【0070】
その結果、ピストン式圧送ポンプ40の双方のシリンダチューブ41a,41bが吐出動作を行っていない状態から、流動化処理土5の吸入が完了した他方のシリンダチューブ41bからの吐出が再開され(
図4(A)参照)、
図1に示す[所定の圧送圧力42]が回復した際にも、圧送用配管30内の流動化処理土5は負圧発生が防止されているため、負圧に起因した流動化処理土5の衝突が緩衝され、
図1に示すように[流動化処理土の衝突防止27]が行われ、その結果[ウォーターハンマの緩衝29]を実現することができ、ウォーターハンマによって生じる[衝撃・騒音・振動の防止33]が行われる。
第2実施例と同一の圧送管路において、緩衝装置10を接続することなく、解泥水7の圧送を行った従来例では、ウォーターハンマによる衝撃,騒音や振動が頻発し、周辺環境への負荷が大きかったが、緩衝装置10を接続した実施例2では、ウォーターハンマが緩衝され、衝撃,騒音や振動は起きなかった。
第2実施例において、混練プラント130bで製造して貯留槽140に貯留した流動化処理土5を水平距離換算で800m程度離間し、途中に高低差を有する充填現場135までピストン式圧送ポンプ40を使用して30m3/h程度の圧送量で長距離圧送を行った。緩衝装置10は、実施例1と同様に略100m毎に圧送用配管30に接続するとともに、特に管路が曲成した曲成箇所53から圧送方向の直線箇所55近傍の圧送用配管30と、管路が勾配を有する勾配箇所57から上昇した圧送方向の直線箇所55近傍の圧送用配管30にも接続した。その結果、実施例1と同様にウォーターハンマは緩衝することができた。