(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131087
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】射出成形機及び射出発泡成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 44/00 20060101AFI20220831BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
B29C44/00 D
B29C45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029833
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡本 昭男
(72)【発明者】
【氏名】福田 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮本 和明
(72)【発明者】
【氏名】有馬 祐一朗
【テーマコード(参考)】
4F206
4F214
【Fターム(参考)】
4F206AB02
4F206AR02
4F206JA04
4F206JC01
4F206JL02
4F206JM05
4F206JM13
4F206JN22
4F206JQ83
4F214AB02
4F214AR02
4F214UB01
4F214UD42
4F214UL22
4F214UM83
(57)【要約】
【課題】固定金型と可動金型とが離間しない状態を維持して、発泡倍率や気泡径の分布が均一な発泡成形品を成形する射出成形機及び射出発泡成形方法を提供する。
【解決手段】可動盤34を、固定盤33に対して接近・離間させる型開閉動作と、接触させた固定金型36及び可動金型37に型締力を作用させる型締動作と、を行わせる型締装置30と、発泡性溶融樹脂52を射出充填可能な射出装置20と、型締装置30と射出装置20とを制御する制御装置40と、備え、制御装置40は、型締装置30で、固定金型36及び可動金型37を型閉じさせて金型キャビティ38を形成させて、金型キャビティ38に、発泡性溶融樹脂52を射出充填させた後、固定金型36と可動金型37とが離間しない状態を維持して、型締力を低下させる制御を行うことを特徴とする射出成形機10によって達成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型を支持する固定盤と、可動金型を支持する可動盤と、
前記可動盤を、前記固定盤に対して接近・離間させる型開閉動作と、接触させた前記固定金型及び前記可動金型に型締力を作用させる型締動作と、を行わせる型締装置と、
発泡材料を含む樹脂材料を可塑化させ発泡性溶融樹脂を得ると共に、前記発泡性溶融樹脂を射出充填可能な射出装置と、
前記型締装置と前記射出装置とを制御する制御装置と、備え、
前記制御装置は、前記型締装置で、前記固定金型及び前記可動金型を型閉じさせて、前記固定金型及び前記可動金型内に金型キャビティを形成させて、
前記金型キャビティに、前記発泡性溶融樹脂を射出充填させた後、前記固定金型と前記可動金型とが離間しない状態を維持して、前記型締力を低下させる制御を行う
ことを特徴とする射出成形機。
【請求項2】
前記制御装置の、前記型締力を低下させる制御により、前記金型キャビティ内の前記樹脂材料の圧力を低下させる
ことを特徴とする、請求項1に記載の射出成形機。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の射出成形機を使用する射出発泡成形方法であって、
予め、又は、前記射出装置内で前記発泡材料が混入された前記樹脂材料を可塑化させ、所望する射出充填量の発泡性溶融樹脂を得る可塑化・計量工程と、
前記固定金型及び前記可動金型を型閉じさせて、前記固定金型及び前記可動金型内に前記金型キャビティを形成させる型締工程と、
前記発泡性溶融樹脂を前記金型キャビティに射出充填させて、前記発泡性溶融樹脂を発泡させない状態で、前記金型キャビティを満たす射出工程と、
前記金型キャビティに、前記発泡性溶融樹脂を射出充填させた後、前記固定金型と前記可動金型とが離間しない状態を維持して、前記型締力を低下させる型締力低下工程と、
を備えることを特徴とする射出発泡成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性溶融樹脂を金型キャビティ内に射出充填させて、発泡成形品を成形する射出成形機及び射出発泡成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡成形品を成形する射出発泡成形方法は大きく分けて二つの方法がある。一つの方法は、射出装置内で可塑化(溶融)させた、発泡材料を含む溶融樹脂(発泡性溶融樹脂という)を、金型を型締めすることにより形成される金型キャビティ内に、該金型キャビティを満たさない容量を射出充填(所謂、ショートショット充填)させた後、固定金型と可動金型とを離間させることなく、発泡性溶融樹脂の発泡膨張により、最初の射出充填での未充填部を含み、金型キャビティを満たす方法である。一例として特許文献1がある。この方法を本願では「SS(ショートショット)発泡成形方法」と呼称する。
【0003】
もう一つの方法は、発泡性溶融樹脂を射出充填させて金型キャビティを満たした(所謂、フルパック充填)後、例えば、固定金型と可動金型とを離間させることによる金型キャビティの容積拡張によって、発泡性溶融樹脂を発泡膨張させる方法である。一例として特許文献2がある。この方法を本願では「CB(コアバック)発泡成形方法」と呼称する。
【0004】
CB発泡成形方法における金型キャビティの容積拡張は、例えば、シェアエッジ構造の金型を使用して、可動型を固定型から所定量型開きさせる方法が多く採用される。金型のシェアエッジ構造とは、くいきり構造、あるいはインロー構造等と呼称されることもあり、金型の分割面を形成する嵌合部の構造として一般的に知られた構造である。型開閉方向に伸びて、互いに摺動しながら挿脱することのできる嵌合部を、固定型と可動型の間に形成することによって、所定量、金型を型開きさせても金型キャビティが開放されず、金型キャビティ内に射出充填された発泡性溶融樹脂が金型外に漏れ出すことを防止することができる構造である。
【0005】
前者のSS発泡成形方法はショートショット充填であるため、大きな射出充填圧力が不要となるメリットがある。しかしながら、発泡性溶融樹脂の発泡膨張力のみで、射出充填時の金型キャビティ内の未充填部に発泡性溶融樹脂が充填されるため、充填不良や外観品質に不良(転写不良)が生じるという問題がある(特許文献1の明細書の段落0003及び0004)。
【0006】
また、SS発泡成形方法においては、金型キャビティ内に充填された発泡性溶融樹脂の圧力が全く制御されていないために、発泡性溶融樹脂の発泡膨張は成り行きで行われる。そのために、金型キャビティ内の発泡性溶融樹脂の流動先端部は圧力が極端に低く、発泡膨張を抑制することができずに気泡(発泡セル)は粗大化し破裂してしまうこともある。あるいは、射出充填時の未充填部を発泡膨張による発泡性溶融樹脂の発泡流動のみで満たすために、気泡は大きく成長し粗大化する。その一方で、金型キャビティ内のゲート近傍部の発泡性溶融樹脂は圧力が高く気泡は発生しないか、発生しても小さいままで適切なサイズに成長しない。その結果、発泡成形品内における発泡倍率や気泡径の分布が不均一(偏在)にならざるを得ない。
【0007】
後者のCB発泡成形方法は、フルパック充填後に金型キャビティの容積を拡張させて、金型キャビティ内の圧力を低下させる制御された動作により、発泡性溶融樹脂の発泡膨張を行わせる。そのため、SS発泡成形方法による発泡成形品と比較して、フルパック充填により外観品質(転写性)に優れる。また、トグル式型締機構を備えた型締装置で、可動盤を型開方向に移動させて行う、高精度な金型キャビティの容積拡張により、圧力低下を高精度に制御でき、発泡成形品の発泡倍率、気泡径や発泡成形品厚み等を高精度で制御可能である(特許文献2の明細書の段落0002及び0003)。さらに、この金型キャビティの容積拡張は、金型キャビティの容積を、発泡成形品の厚み方向に均一に拡張させるため、発泡成形品内における発泡倍率や気泡径の分布が均一になる。しかしながら、通常の金型に対して、シェアエッジ構造の金型はコスト高であるというデメリットがある。
【0008】
一方、前者のSS発泡成形方法のデメリットを解消することを目的としたSS発泡成形方法が開示されている。一例として特許文献3がある。特許文献3の発泡成形品の製造方法においては、金型キャビティ内に発泡性溶融樹脂を射出充填(金型キャビティ容積の60%以上に充填)させた後、スクリュを射出充填完了位置から後退させるプルバック工程を行わせる。このプルバック工程により、金型キャビティ内に射出充填した発泡性溶融樹脂を射出装置のノズル側に逆流させて、金型キャビティの流動先端部の発泡性溶融樹脂内に偏在する気泡(発泡セル)を、金型キャビティの流動開始側(射出装置のノズル側)に移動させて、気泡(発泡セル)の位置を制御できるとしている(特許文献3の明細書の段落0010及び0011)。当然ながら、このプルバック工程は、金型キャビティ及び射出装置を、射出ノズルを介して連通させた状態で行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平08-103919号公報
【特許文献2】特開2008-143061号公報
【特許文献3】特開2020-111029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3のプルバック工程により、金型キャビティの流動先端部の発泡性溶融樹脂内の気泡(発泡セル)を、流動経路の任意の部位、例えば、金型キャビティのゲート近傍部等まで移動させるためには、これに対応するプルバックストロークが必要となる。プルバックストロークが少なければ、流動先端部の発泡性溶融樹脂内の気泡(発泡セル)は、わずかに流動先端部から流動開始側(ゲート部側)に移動するだけである。プルバックストロークが多ければ、流動先端部の樹脂量不足による充填不良が発生する。そのため、特許文献3の発泡成形品の製造方法は、流動先端部の気泡(発泡セル)の位置の制御はある程度可能であったとしても、発泡成形品内における発泡倍率や気泡径の分布が不均一(偏在)になることを抑制するには不十分だと言わざるを得ない。
【0011】
また、このプルバック工程による発泡性溶融樹脂の圧力低下も問題となる。最も圧力低下が大きいのは、金型キャビティ内ではなく、射出充填を終えた直後(プルバック工程の直前)の、射出装置のスクリュ前方の貯留部に残った発泡性溶融樹脂である。なお、貯留部とは、可塑化された発泡性溶融樹脂が貯留される射出装置内のスクリュ前方の空間を示す。また、射出充填時には、スクリュの機械的衝突等のトラブルを避ける狙いも含めて、貯留部に適量の発泡性溶融樹脂を残すことが一般的に用いられている(クッション量という)。金型キャビティの射出充填に伴い、貯留部の発泡性溶融樹脂の圧力は上昇し、射出充填の完了時に圧力は最大値を示す。そのため、貯留部に残った発泡性溶融樹脂の圧力が最も高く、プルバック工程による圧力低下が最も大きくなる。
【0012】
次に圧力低下が大きいのは、スクリュ前方の貯留部に近い金型キャビティのゲート近傍部の発泡性溶融樹脂である。そのため、このプルバック工程は、流動先端部の発泡性溶融樹脂内の気泡(発泡セル)を流動開始側(ゲート部側)に移動させることと引き換えに、先に説明した大きな圧力低下に伴い、金型キャビティのゲート部近傍及び射出装置の貯留部の発泡性溶融樹脂に大きな気泡(発泡セル)を成長させる。その結果、特許文献3の発泡成形品の製造方法により成形される発泡成形品は、発泡成形品内における発泡倍率や気泡径の分布が不均一(偏在)になる、すなわち、気泡(発泡セル)の粗大領域と未発泡領域が混在する、表面転写性が悪い不良品となってしまう。
【0013】
また、このプルバック工程により、射出装置の貯留部の発泡性溶融樹脂に発生した大きな気泡(発泡セル)は、気泡状態を維持できずに破裂し、発泡性溶融樹脂から発泡成形の原動力となる発泡性ガスが放出され、溶融樹脂と発泡性ガスに分離される。分離した発泡性ガスは、一連の成形サイクルの範囲内では溶融樹脂中に全てが再溶融され、再び発泡性溶融樹脂に戻ることは少ない。そのため、次の射出充填においては、発泡性ガスと溶融樹脂とが分離した状態のままの状態で金型キャビティ内に射出充填されることになる。その結果、発泡性ガスが流動した形跡のスワルマーク等の発泡成形品の外観不良や、気泡(発泡セル)が発生しない未発泡状態が発泡成形品に混在する等の発泡不良の要因となる。この発泡不良の程度は、貯留部に残った溶融樹脂の量が多いほど顕著となる。
【0014】
本発明は、固定金型と可動金型とが離間しない状態を維持して、発泡倍率や気泡径の分布が均一な発泡成形品を成形する射出成形機及び射出発泡成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するため、本発明に係る一の射出成形機は、固定金型を支持する固定盤と、可動金型を支持する可動盤と、
前記可動盤を、前記固定盤に対して接近・離間させる型開閉動作と、接触させた前記固定金型及び前記可動金型に型締力を作用させる型締動作と、を行わせる型締装置と、
発泡材料を含む樹脂材料を可塑化させ発泡性溶融樹脂を得ると共に、前記発泡性溶融樹脂を射出充填可能な射出装置と、
前記型締装置と前記射出装置とを制御する制御装置と、備え、
前記制御装置は、前記型締装置で、前記固定金型及び前記可動金型を型閉じさせて、前記固定金型及び前記可動金型内に金型キャビティを形成させて、
前記金型キャビティに、前記発泡性溶融樹脂を射出充填させた後、前記固定金型と前記可動金型とが離間しない状態を維持して、前記型締力を低下させる制御を行うことを特徴とする。
【0016】
本発明に係る一の射出成形機において、前記制御装置の、前記型締力を低下させる制御により、前記金型キャビティ内の前記樹脂材料の圧力を低下させることが好ましい。
【0017】
また、上記の目的を達成するため、本発明に係る一の射出成形機を使用する、本発明に係る一の射出発泡成形方法は、予め、又は、前記射出装置内で前記発泡材料が混入された前記樹脂材料を可塑化させ、所望する射出充填量の発泡性溶融樹脂を得る可塑化・計量工程と、
前記固定金型及び前記可動金型を型閉じさせて、前記固定金型及び前記可動金型内に前記金型キャビティを形成させる型締工程と、
前記発泡性溶融樹脂を前記金型キャビティに射出充填させて、前記発泡性溶融樹脂を発泡させない状態で、前記金型キャビティを満たす射出工程と、
前記金型キャビティに、前記発泡性溶融樹脂を射出充填させた後、前記固定金型と前記可動金型とが離間しない状態を維持して、前記型締力を低下させる型締力低下工程と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、固定金型と可動金型とが離間しない状態を維持して、発泡倍率や気泡径の分布が均一な発泡成形品を成形する射出成形機と、同射出成形機を使用する射出発泡成形方法とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態に係る射出成形機の主要構成を示す概略側面図である。
【
図2】第1実施形態に係る射出発泡成形方法の、型締力低下工程における、金型の金型キャビティの内部を示す概略側面断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る射出発泡成形方法の、型締力低下工程における、金型キャビティ内の溶融樹脂の圧力低下を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
[第1実施形態]
まず、
図1を参照しながら本発明の第1実施形態に係る射出成形機10を説明する。
図1は、第1実施形態に係る射出成形機の主要構成を示す概略側面図である。型締装置30は、基台32上に配置される固定盤33及び可動盤34を備える。固定盤33は固定金型36を支持し、可動盤34は可動金型37を支持する。そして、型締装置30は、基台32上に移動可能に配置された可動盤34を、基台32に固定された固定盤33に対して接近・離間させる型開閉動作と、型閉じ動作により接触させた固定金型36及び可動金型37に型締力を作用させる型締動作と、を行わせる。
【0022】
固定盤33及び図示しない型締盤(型締装置30がトグル式型締装置の場合はリンクハウジング等と呼称される)は、それぞれの四隅を貫通させたタイバー39により連結されている。そして、固定盤33及び型締盤の間に配置される可動盤34は、四隅を貫通させたタイバー39により、基台32上の型開閉方向の移動を案内される。
【0023】
射出装置20の構成は、一般的なインラインスクリュ式射出装置と同様の構成を備える。具体的には、固定盤33に対する接近・離間が可能に、図示しない基台上に載置される射出シリンダ21を備える。射出シリンダ21内には、外周面にフライト22bが形成され、射出シリンダ21内での長手軸中心の回転動作と、同長手軸方向の前進・後退動作とが可能に構成されたスクリュ22が内挿されている。スクリュ22の先端に、インラインスクリュ式射出装置に採用される一般的な逆止弁であるチェックリング22aを備える。この構成により、可塑化させた発泡性溶融樹脂を、後述する金型キャビティ38(
図2参照)に射出可能である。
【0024】
また、本発明の第1実施形態に係る射出成形機10においては、発泡材料を含む樹脂材料を用いる。なお、
図1には、説明に必要な、射出装置20の一部のみを図示している。図示された射出装置20は、固定金型33から射出装置20を離間させた状態(所謂、ノズルタッチしていない状態)を示している。
【0025】
制御装置40は、型締装置30による型開閉動作や型締動作、及び、射出装置20による樹脂材料の可塑化や射出を制御する。この制御には、射出装置20により、後述する金型キャビティ38(
図2参照)に、発泡材料を含む樹脂材料を可塑化(溶融)させた発泡性溶融樹脂を射出した後、固定金型33と可動金型34とが離間しない状態を維持して、型締力を低下させる制御が含まれる。この制御については後述する。なお、制御装置40は、射出成形機10のユーザの希望や、射出成形機10が設置される場所の制約や必要に応じて、射出成形機10の近傍の様々な位置に配置されてよい。
図1中の制御装置40は、構成として図示したものであって、制御装置40の、射出成形機10に対する配置等を限定するものではない。
【0026】
次に、
図2及び
図3を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る射出発泡成形方法を説明する。
図2は、第1実施形態に係る射出発泡成形方法の、型締力低下工程における、金型の金型キャビティの内部を示す概略側面断面図である。そして、
図3は、第1実施形態に係る射出発泡成形方法の、型締力低下工程における、金型キャビティ内の発泡性溶融樹脂の圧力低下を示すグラフである。なお、本発明の第1実施形態に係る射出発泡成形方法は、本発明の第1実施形態に係る射出成形機の使用を前提としている。そのため、
図2においては、説明に必要な、固定金型33及び可動金型34(金型キャビティ38を形成)、また、射出装置20の一部のみを図示している。
【0027】
図2(a)は、型締装置30により、接触させた固定金型36及び可動金型37に型締力Fmaxを作用させる型締工程の後、射出装置20により、金型キャビティ38への発泡性溶融樹脂の射出充填(射出工程)が完了した状態を示す。なお、型締力Fmaxにより金型キャビティ38は弾性圧縮変形を受けており、その時の金型キャビティ38の型開閉方向の厚みをtn1で表す。射出装置20は、その先端部(射出ノズル/詳細は図示せず)が、固定金型33の金型内樹脂流路36aの射出装置20側の開口部に所定の押圧力で押圧された状態(所謂、ノズルタッチ状態)であって、金型内樹脂流路36aのゲート部(金型内樹脂流路36aと金型キャビティ38の連結する部位)に配置されているゲートバルブ36bは閉鎖状態である。
【0028】
図2(a)に示す状態を説明する前に、
図2(a)に示す状態に至る前の、図示していない可塑化・計量工程、型締工程及び射出工程について説明する。
【0029】
最初に、可塑化・計量工程を説明する。ホッパ等の材料供給部位(図示せず)から、射出シリンダ21内に、ペレット状の樹脂材料が供給される。発泡材料の供給は、使用する発泡材料の種類によって異なる。例えば、化学発泡剤や熱膨張マイクロカプセル剤等の発泡材料は、樹脂材料と一緒に所定量を射出シリンダ21内に供給し、樹脂材料と発泡材料を同時に可塑化して発泡性溶融樹脂を得る。また、例えば窒素や二酸化炭素等の物理発泡剤を発泡材料として使用する場合は、樹脂材料を可塑化し溶融樹脂とした射出シリンダ21へ、図示しない注入装置等を用いて供給して、発泡性溶融樹脂を得る。これを可塑化工程という。本発明の第1実施形態に係る射出発泡成形方法においては、いずれの発泡材料が使用されてもよい。
【0030】
可塑化工程で得られた発泡性溶融樹脂は、スクリュ22の長手軸中心の回転動作により、フライト221bに案内されて、逆止弁22aを経由して、射出シリンダ21内の先端部(固定盤33側/以後、貯留部21aと呼称する)に連続的に貯留される。この可塑化工程から貯留部21への発泡性溶融樹脂の所定量の貯留過程を計量工程という。本説明では、可塑化工程と計量工程を合わせて、可塑化・計量工程と表現する。
【0031】
可塑化・計量工程において、貯留部21aに貯留される発泡性溶融樹脂の増加に伴い、スクリュ22は回転動作を継続しつつ長手軸方向に後退する。このスクリュ22の長手軸方向の後退に意図的に抵抗力(以後、背圧と呼称する)を付与させる。これによって、貯留部21内の発泡性溶融樹脂の圧力を、付与させる背圧と略同じ圧力に維持させた状態とすることができる。この付与させる背圧は、貯留部21内の発泡性溶融樹脂を発泡させない圧力範囲とする。
【0032】
貯留部21内の発泡性溶融樹脂を発泡させない圧力範囲は、発泡材料の種類や供給量、樹脂温度等により異なる。例えば、化学発泡剤の場合は、可塑化・計量工程において、化学発泡剤の熱分解で発生する発泡性ガスの圧力(例えば0.2~0.8Mpa)よりも高い範囲とすることが好ましい。一方、物理発泡剤の場合は、窒素や二酸化炭素を溶融樹脂へ溶解させるのに必要な供給圧力(例えば1~15MPa)よりも高い範囲とすることが好ましい。
【0033】
そして、可塑化・計量工程を開始した時点からの、スクリュ22の長手軸方向の後退距離等のモニタリングにより、貯留部21aに貯留される発泡性溶融樹脂の、所望する射出充填量への到達を検出させる。同検出により、スクリュ22の長手軸中心の回転動作を停止させて、可塑化・計量工程が完了する。可塑化・計量工程の完了後も、射出充填工程が開始するまでは、貯留部21aに貯留される発泡性溶融樹脂の圧力は、発泡させない圧力範囲に保持される。
【0034】
次に、型締工程を説明する。型締工程は、先に説明した可塑化・計量工程と重複させて行わせることができる。型締装置30により、可動金型37を固定金型36側へ移動(型閉じ動作)させて、可動金型37を固定金型36に接触させる(所謂、金型タッチ)。そして、接触させた固定金型36及び可動金型37に、型締装置30により型締力Fmaxを作用させる(
図2参照)。金型キャビティ38は、固定金型36と可動金型37の型閉じによって形成される。作用させる型締力によって生じる、固定金型36と可動金型37の弾性圧縮変形量は、型締力の作用がゼロに近い金型タッチの状態が最も小さく、型締力Fmaxを負荷させた状態が最も大きく、この範囲内で変化する。従って、金型キャビティ38の型開閉方向の厚みは、作用させる型締力によって変化する。
【0035】
そのために、金型を製造するメーカー等においては、所定の型締力を作用させた状態で、金型キャビティの型開閉方向の厚みを基準厚みとして定義される。なお、所定の型締力とは、金型製作時の加工精度や鋼材種類等から生じる誤差や、弾性圧縮変形による金型の過大な変形量等の影響を排除できる型締力とし、金型タッチ点から型締力Fmaxの範囲内で設定される。
【0036】
最後に射出工程を説明する。可塑化・計量工程において、貯留部21aに所望する射出充填量の発泡性溶融樹脂が貯留されると共に、型締工程も完了したものとする。そして、射出シリンダ21の先端部(射出ノズルと呼称する)を、固定盤33の開口孔を介して、固定盤33に支持されている固定金型36の、金型内樹脂流路36aの射出装置20側の開口部にノズルタッチさせたものとする。この状態において、スクリュ22を所定速度及び所定力で前進させる。貯留部21aの発泡性溶融樹脂が金型内樹脂流路36a及び開放状態のゲートバルブ36bを経由して、金型キャビティ38に射出充填される。なお、ゲートバルブ36bは、射出充填の開始直前まで閉鎖されており、射出充填の開始と連動して開放され、射出充填の完了と連動して閉鎖する。これにより、貯留部21aからの発泡性溶融樹脂の漏れを防止できる。
【0037】
可塑化・計量工程においては、スクリュ21側から貯留部21a側への発泡性溶融樹脂の流動に押圧され開放状態であったチェックリング22aは、射出充填の開始と同時に、貯留部21aの発泡性溶融樹脂の圧力を受けて、固定金型36から離間する側に移動(後退)する。このチェックリング22aの移動(後退)により、貯留部21aとスクリュ22の開放状態が閉塞状態に切り替えられ、射出充填時の貯留部21よりスクリュ22への発泡性溶融樹脂の逆流を防止する。これにより、貯留部21aの発泡性溶融樹脂は、発泡しない圧力を維持した状態で金型キャビティ38に射出充填される。金型キャビティ38は、射出装置20から射出された発泡性溶融樹脂で満たされ(所謂、フルパック充填)、金型キャビティ38に射出充填された発泡性溶融樹脂の圧力は、溶融樹脂に混入された発泡材料を発泡させない圧力範囲が維持される。このように、発泡性溶融樹脂の射出充填の開始から完了まで、発泡性溶融樹脂は発泡しない状態を得る。
【0038】
図2(a)に示す状態を説明に戻る。重複するが、
図2(a)は、型締装置30により、接触させた固定金型33及び可動金型34に型締力Fmaxを作用させる型締工程の後、射出工程において、金型キャビティ38への発泡性溶融樹脂の射出充填が完了した状態を示す。
【0039】
射出工程の完了後、金型内樹脂流路36aのゲートバルブ36bを閉止状態とする。これにより、スクリュ21の前方の貯留部21aに残った発泡性溶融樹脂は、射出充填完了時の高い圧力により発泡しない状態が維持される。その後、所定のタイミングで、次の可塑化。計量工程を開始させるが、発泡しない計量背圧の制御により、貯留部21aを含むスクリュ21内の発泡性溶融樹脂は発泡しない状態に制御される。
【0040】
一方、金型キャビティ38の溶融樹脂の圧力も、閉空間となることにより、射出充填完了時の高い圧力が維持され、射出充填された発泡性溶融樹脂を発泡させない圧力範囲が維持される。仮に、閉空間となった金型キャビティ38のこの時の溶融樹脂の圧力をPmaxとする。また、金型キャビティ38に接触した部位の発泡性溶融樹脂が抜熱されて、薄いスキン層51が形成される。
【0041】
スキン層51は、ゴム的な弾性挙動を示す極薄い固化層であり、発泡は存在しない。スキン層51の役割は、発泡成形品の外観形成と、射出充填した発泡性溶融樹脂が外に漏れないように保護することにある。フルパック状態の射出充填により、高い圧力が発生しているために、金型キャビティ38の意匠模様や製品形状がスキン層51に正確に転写され、発泡成形品の外観品質を高めることができる。また、外周をスキン層51に囲まれた未発泡溶融樹脂52は、発泡しない高い圧力状態を維持できている。
【0042】
そして、
図2(a)においては、固定金型36及び可動金型37の型厚が、型締力Fmaxによる両型の圧縮弾性変形によって、型厚TN1になり、金型キャビティ38の型開閉方向の厚みが”基準厚み”より薄い金型キャビティ厚tn1になっているものとする。
【0043】
本発明の第1実施形態に係る射出発泡成形方法においては、射出充填完了の時点から、型締力を低下させる型締力低下工程を開始させる。この型締力低下工程を、
図2と共に、
図3も参照しながら説明する。
図3は、第1実施形態に係る射出発泡成形方法の、型締力低下工程における、金型キャビティ内の発泡性溶融樹脂の圧力低下を示すグラフである。横軸が、射出充填完了の時点を0(ゼロ)とする時間経過tを示し、縦軸(左側)は、金型キャビティ38内の発泡性溶融樹脂の圧力Pを示す。また、右側の縦軸は、固定金型36及び可動金型37に作用させる型締力Fを示す。
【0044】
図2(a)に示す状態は、
図3のグラフにおいて、時間経過が0(ゼロ)の近傍、すなわち、型締力低下工程の開始点近傍の状態に相当し、金型キャビティ38内の未発泡溶融樹脂52の圧力がPmax、両型に作用させる型締力がFmaxの状態である。この状態から、両型に作用させる型締力を低下させることにより、弾性圧縮変形の開放を利用して、未発泡溶融樹脂52の圧力Pを低下させることができる。
【0045】
そして、
図3に示すように、型締力低下工程の開始(t=0)から経過時間t1に至る間において、両型に作用させる型締力をFmaxからFminまで低下させることにより、未発泡溶融樹脂52の圧力Pが、Pmaxから圧力Pmin(
図3)まで低下する。この圧力低下によって、未発泡溶融樹脂52が発泡膨張を開始し、発泡セルの起点となる発泡核が形成される。この発泡核の形成状態によって、発泡セルの状態、即ち発泡成形品の発泡品質が決まることから、発泡成形において最も重要な工程である。発泡核の形成状態は、圧力低下の大きさと低下速度に起因し、圧力低下が大きいほど(
図3の圧力PmaxからPimの差が大きいほど)、低下速度が速いほど(
図3の経過時間0からt1が小さいほど)、良好な発泡核の形成状態を得る。
図2(b)は、型締力低下工程によって発泡核が形成された状態を示し、図中の点が形成された発泡核を表現し、溶融樹脂の中に発泡核が形成された発泡核形成樹脂53に変わったことを示す。
【0046】
一方、固定金型36及び可動金型37の型厚については、FmaxからFminまで型締力が低下された分だけ、固定金型36及び可動金型37、両型の圧縮弾性変形量が減少して、型厚TN1がΔTN1増加してTN2となり、金型キャビティ厚tn1も増加してtn2となる。なお、固定金型36と可動金型37には、型締力Fminが作用しているので、両金型は閉じている状態を維持する。この両金型が閉じたままで、金型の弾性圧縮量の減少を利用した金型厚みの微小な変化によって、金型キャビティ38内の発泡性溶融樹脂に圧力低下を生じさせ、発泡膨張を行う。
【0047】
型締力低下工程による発泡核の形成後は、
図2(c)に示すように、その型締状態を維持して(型締力Fminのまま)、射出充填した発泡性溶融樹脂の冷却工程とする。これにより、以下に示す3つのメリットを得る。
1つは、溶融樹脂の冷却固化に伴う凝固収縮挙動を利用して、
図3の経過時間t1からt2に示すように、発泡核形成樹脂53の圧力を徐々に低下させ、発泡核を発泡セルに成長させることである。また、溶融樹脂の冷却固化に伴う溶融粘度の上昇を利用して、発泡セルの成長を停止させることにある。これによって、
図2(c)に示すように、微細な発泡セル(図中の白丸)が均質に分散した高品質な発泡層54を得ることができる。
もう1つは、発泡セルの成長による発泡圧を利用して、金型キャビティ38の意匠性模様や製品形状の転写性を維持させることにある。これによって、優れた外観品質を演出できる綺麗で強固なスキン層51を得ることができる。
最後の1つは、金型製作のメーカー等が採用している、基準厚みを設定する際の所定の型締力と型締力低下工程の型締力Fminを同じとすることにより(tn2=基準厚み)、発泡成形品の厚みを基準厚みと同じとすることができる。これによって、
図2(c)に示すように、寸法精度の高い発泡成形品50を得ることができる。
【0048】
そして、冷却工程が完了した後は、固定金型36から可動金型37を、型締装置30により離間(型開き)させて、取出装置等の製品搬出手段によって、発泡成形品50が射出成形機10の機外へ搬出される。以後、次の成形サイクルに向けて、制御装置40より型締装置30及び射出装置20へ各種指令が発信される。
【0049】
以上説明したように、本発明の第1実施形態に係る射出成形機を使用する、本発明に係る射出発泡成形方法は、発泡材料と樹脂材料を射出装置で可塑化させた発泡性溶融樹脂を、固定金型36及び可動金型37の型閉じにより形成される金型キャビティ38にフルパック充填させるため、スキン層51への高い転写性が確保される。
【0050】
また、発泡性溶融樹脂の射出充填後、型締力低下工程において、固定金型36及び可動金型37に作用させる型締力を低下させることによって、固定金型36及び可動金型37の型開閉方向の圧縮弾性変形量を減少させる、所謂、”金型の息継ぎ”現象を利用して、金型キャビティ38内の発泡性溶融樹脂の圧力低下を制御することができる。そして、このような、”金型の息継ぎ”現象を利用した、金型キャビティ38内の発泡性溶融樹脂の圧力低下の制御により、発泡性溶融樹脂は発泡膨張が開始され、最初に発泡セルの起点となる発泡核が形成される。その後は、型締力低下工程の固定金型36と可動金型37とが離間しない状態を維持して、溶融樹脂の冷却固化に伴う凝固収縮を利用して発泡セルの成長を制御する。これによって、発泡倍率や気泡径の分布が均一な発泡成形品を成形することができる。
【0051】
本発明は、上記の実施の形態に限定されることなく色々な形で実施できる。例えば、第1実施形態に係る射出成形方法において、ゲートバルブ36bの開閉を制御して、発泡性溶融樹脂の射出充填と金型キャビティ38の密閉を行うとした。しかしながら、射出装置20の先端部、例えば、射出シリンダ21の射出ノズル(詳細は図示せず)等に、ゲートバルブ36bと同様な機能を有する開閉弁(所謂、シャットオフバルブ)が装備されている場合は、これで代用しても良い。また、金型側のゲートバルブ、射出装置側のシャットオフバルブの双方が装備されている場合であっても、これらの開放・閉塞を選択的に行わせることによって、本発明は実施できる。
【0052】
また、型締力低下工程において、型締力を低下させる下限は、先に説明した、”基準厚み”が定義される際の型締力とすることが好ましい。なお、より大きな圧力低下による発泡核の形成状態をより良くしようとする試みの場合には、固定金型と可動金型が離間しない範囲で、さらに型締力を低下させることも可能である。この場合は、発泡核が形成された後に、基準厚みが定義される型締力に再調整する工程をさらに加えることが好ましい。
【0053】
さらに、型締力低下工程において、”金型の息継ぎ”現象における、圧縮弾性変形量を、金型キャビティ内の溶融樹脂の圧力の低下制御有効に活用するために、金型強度として問題の無い範囲で、弾性係数の異なる金型鋼材を選択し用いてもよい。例えば、金型に広く使われる合金工具鋼に対して、弾性係数の低い鋳鋼やアルミニウム合金は、型締力の低下の程度が同じであっても、圧縮弾性回復量は大きく、発泡性溶融樹脂の高い圧力低下の効果を得ることができる。また、肉抜き構造等を金型設計により、型締力が作用する金型の断面係数を調整して、圧縮弾性変形量を調整するとしても良い。
【0054】
またさらに、本発明の実施において、型締装置は、固定金型及び可動金型に付与させた型締力を低下させる型締力低下工程が実施できるのであれば、その形態は問わない。具体的には、トグルリンク機構を備えるトグル式型締装置であっても、タイバーの固定盤あるいは可動盤の貫通部に油圧シリンダを構成させた型締機構と、これとは別の型開閉機構とを備える直圧式型締装置であっても、トグル式型締機構と直圧式型締機構とを組み合わせた複合型型締装置であってもよい。
【符号の説明】
【0055】
10 射出成形機、20 射出装置、21 射出シリンダ、21a 貯留部、22 スクリュ、22a チェックリング(逆止弁)、22b フライト、30 型締装置、32 基台、33 固定盤、34 可動盤、36 固定金型、36a 金型内樹脂流路、36b ゲートバルブ、37 可動金型、38 金型キャビティ、39 タイバー、40 制御装置、50 発泡成形品、51 スキン層、52 未発泡溶融樹脂、53 発泡核形成樹脂、54 発泡層、
Fmax/Fmin 型締力、
Pmax/Pmin 発泡性溶融樹脂の圧力、
t1/t2 経過時間、
TN1/TN2 型厚、tn1/tn2 金型キャビティ厚、Δtn1 金型キャビティ厚増加