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  • 特開-不織布製フィルタ 図1
  • 特開-不織布製フィルタ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131091
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】不織布製フィルタ
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20220831BHJP
   B01D 46/10 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
B01D39/16 A
B01D46/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029837
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】394025186
【氏名又は名称】株式会社日本デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100189865
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 正寛
(74)【代理人】
【識別番号】100094215
【弁理士】
【氏名又は名称】安倍 逸郎
(72)【発明者】
【氏名】品川 宏史
【テーマコード(参考)】
4D019
4D058
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019AA03
4D019BA13
4D019BB03
4D019BB08
4D019BC09
4D019BD01
4D019BD03
4D019CB04
4D058JA12
4D058JB14
4D058JB25
4D058KC28
4D058KC81
4D058SA20
(57)【要約】
【課題】直接貼り付け式の不織布製フィルタについて、変形等に対する耐剥離・脱落性を改善する。
【解決手段】空調服ファンのケース開孔部に貼り付けられる着脱容易な不織布製フィルタである。不織布製のフィルタ本体に外縁から内方に向かって複数個のスリットを形成した。このためケース開孔部の凹凸による永続的な変形または応力による一時的な変形があったとしても、上記スリットの開きまたは重なりによってそれらの変形に追従し、従来のように作業中において意に反して不織布製フィルタが剥離・脱落することなく、使用当初から有するフィルタとしての機能を維持することが出来る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面に粘着剤層が設けられた不織布と、この粘着剤層を被覆する剥離紙とを備え、ファンを内装したケースの開孔部にこの粘着剤層により貼着される不織布製フィルタであって、
その外縁から内方に向かって複数個のスリットが形成された不織布製フィルタ。
【請求項2】
上記複数個のスリットは、フィルタの中心に対していずれも放射方向に延びるとともに、そのスリット同士の間隔は中心角方向にて略等間隔に配設された請求項1に記載の不織布製フィルタ。
【請求項3】
上記不織布と上記ケースの開孔部とを上記粘着剤層により貼着される際に、この粘着剤層とこのケースの開孔部との間に両面テープを介在させ、
この両面テープの粘着剤側の粘着力はケースの開孔部側のそれより大きい請求項1または請求項2に記載の不織布製フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は不織布製フィルタ、例えば上着に装着された電動ファンのケース(いわゆる空調服)に貼り付けて使用される不織布製フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空調装置の多様化に伴い、衣服にモーター駆動のファン及び電源装置を組み込み、装着者の体表の温度を下げることにより快適な作業環境を実現する、いわゆる「空調服」と呼ばれるものが多数開発されている。しかし室内の空気を直接吸い込むファンにより、粉塵等の空気中の塵埃に装着者の体表が直接晒されることとなり、場合によっては害を及ぼす可能性がある。
これに対し、特許文献1では、一枚の不織布で構成される不織布製フィルタを電動ファンのケースの開孔部に粘着剤層を介して貼付することにより、空調服内部に塵埃等が入り込むことが防止することが記載されている。汚れを十分吸着したフィルタは、簡単にファンから剥がすことができる使い捨て型のフィルタである。
一方、特許文献2では、曲面である扇風機の保護ガードの表面に取り付けるフィルタが記載されており、それぞれ異なる曲面に対応するため、複数の扇型の部品に分割され、それらの重なり具合の自由度により各種の曲面に対応可能なフィルタとして実現されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-171247号公報
【特許文献2】特開2013-160148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空調服に用いられるファンのケースは、その開孔部の貼着される面が必ずしも平面とは限らず多少凸面または凹面になっている場合もあること、及び他の固定された機械のファンに対するフィルタと異なる空調服独自の事情として、装着者が動き回り各種作業をする過程において、ファンを覆うケースが一時的な応力により変形する場合があることが問題となっている。
しかしながら、特許文献1のフィルタは容易に装着出来るものの、全体が一枚の不織布であるため、元からの凹凸または応力による変形により、フィルタの一部が貼着したケースから剥離し、そこから全体に剥離が広がってやがてフィルタが脱落する恐れがある。
一方特許文献2のフィルタは曲面に対する自由度は高いものの、部品点数の多さにより一回貼付当たりの単価と着脱作業時間の増大が避けられないことが問題となる。
【0005】
そこで、発明者は鋭意研究の結果、一枚の不織布製のフィルタ本体の裏面に粘着剤を介して剥離紙を重ね、フィルタ本体をファンのケース開孔部に直接貼り付けることができるフィルタを基に、その不織布製のフィルタ本体の外縁から内方に向かって複数個のスリットが形成されたフィルタにより上記課題が解決されることを知見し、この発明を完成させた。
【0006】
すなわち、この発明は、剥離紙を剥がすだけで直接貼り付けることができるとともに、不織布製のフィルタ本体の外縁から内方に向かって複数個のスリットが形成されたフィルタにより、ファンを覆うケース開孔部が多少凸面または凹面になっている場合や一時的な応力より変形する場合にも、ケース開孔部から剥離・脱落せずにフィルタ機能を維持出来る不織布製フィルタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、一面に粘着剤層が設けられた不織布と、この粘着剤層を被覆する剥離紙とを備え、ファンを内装したケースの開孔部にこの粘着剤層により貼着される不織布製フィルタであって、その外縁から内方に向かって複数個のスリットが形成された不織布製フィルタである。
【0008】
不織布製フィルタは、不織布製のフィルタ本体の一面(表面または裏面)に粘着剤を塗布してあり、粘着剤を介して剥離紙(離型紙)が重ね合わされて積層された構成とされている。
不織布製のフィルタ本体はシート状であって、薄い紙のようなもの、また所定面積を有する平面状のものを意味する。
いわゆる空調服内蔵の電動ファン用フィルタに用いる場合、ほこり、花粉などの除去するために、不織布での除去・ブロック性能を高めるため、用途に応じて不織布製のフィルタ本体の設計(通気率など)を行うものとする。また、上記電動ファンは上着に取り付けられた場合以外にも、ヘルメットや帽子に取り付けられた場合も同様に使用可能である。
【0009】
不織布とは、繊維を織らずに絡み合わせたシート状のものをいう。不織布は繊維を熱・機械的または化学的な作用によって接着または絡み合わせることで布にしたものを指す。ここではその製法などは問わない。
剥離紙は、例えばフィルタ本体と同一形状で所定の厚さを有し、フィルタ本体(不織布)の一面に粘着剤を介して重ね合わされて粘着されている。粘着剤及び剥離紙としては市販品を用いることができる。
【0010】
スリットとは、構成する不織布等がフィルタの外縁から内方に向かって直線状に切断されたものであり、有意の素材の除去を伴わず、フィルタ中心部に余長部(非切断部)を有するものである。
スリットの数は、通常4~6程度が望ましいが、ケース開孔部の形状やフィルタ全体に対するスリットの長さなどにより適宜選択される。
スリットは不織布及び粘着剤層に対して切断されていれば、ケース開孔部に貼着する際に本発明の意図は実現されるが、使用前フィルタの制作時の事情により、剥離紙も同時にスリットを有していても良い。
【0011】
なお、不織布製フィルタの外形が、貼着するケース開孔部の形状に応じて、真円形、楕円形、四角形、六角形及び四角形または六角形の角を面取りした形状から選択されてもよい。不織布製フィルタ本体が、用途、例えば上着内蔵電動ファンであればそのファンを覆うケース開孔部の大きさに合わせた面積・形状とされることであり、列挙した形状そのものに限定されるだけでなく、類似する形状であっても本発明の意図を実現出来るものである。
【0012】
ケース開孔部とは、空調服外側のファンを覆うケース全体の形状のことを表し、仮に四角形のケースの中央に円形の通風孔と通風孔を保護する十字状の保護ガードを有するケースの場合、貼着する面積を十分に確保出来るケース外縁に囲まれた面積を有する四角形を意図する。ただし厳密にケース全体と同一の形状のみを表すとは限らず、四角形のケースに対し面取りした四角形のフィルタの様に、十分な貼着面積が確保される限り多少異なっても構わない。
【0013】
請求項2に記載の発明は、上記複数個のスリットは、フィルタの中心に対していずれも放射方向に延びるとともに、そのスリット同士の間隔は中心角方向にて略等間隔に配設された請求項1に記載の不織布製フィルタである。
【0014】
電動ファンのケース開孔部が、平面を基準として、凹凸による永続的な変形または応力による一時的な変形があったとしても、上記スリットの開きまたは重なりによってそれらの変形に追従し、不織布製フィルタの粘着に対する負荷が減少するため、作業中においても意に反して不織布製フィルタが剥離の後脱落することなく当初のフィルタとしての機能を維持することが出来る。この際切れ目が等間隔であることにより中心よりどの方向であっても均等に上記剥離防止機能が発揮される。
【0015】
請求項3に記載の発明は、上記不織布と上記ケースの開孔部とを上記粘着剤層により貼着される際に、この粘着剤層とこのケースの開孔部との間に両面テープを介在させ、この両面テープの粘着剤側の粘着力はケースの開孔部側のそれより大きい請求項1または請求項2に記載の不織布製フィルタである。
【0016】
請求項3に記載の構成により、粘着剤単独であれば不織布とケースの開孔部との粘着強度が弱い部分については、両面テープを介して接着させることにより、接着強度を高めることができ、容易に剥離することを防ぐことができる。
また、両面テープの粘着力の差により、不織布製フィルタとケースの開孔部を剥離した際に、両面テープが不織布製フィルタ側に残るため、剥離後に両面テープがケースの開孔部に残らない。
【0017】
なお、一面に粘着剤層が設けられた不織布と、粘着剤層を被覆する剥離紙とを備え、その外縁から内方に向かって複数個のスリットが形成された不織布製フィルタであって、粘着剤層の一部又は全面を両面テープで形成し、両面テープの不織布側の粘着力は剥離紙側のそれより大きくすることも可能である。
この粘着力の差により、不織布製フィルタと剥離紙を剥離した際に、両面テープが不織布製フィルタ側に残り、その後両面テープを有する不織布製フィルタを電動ファンに貼付する作業が簡易に出来る。
また市販の両面テープ(及び既に貼着している剥離テープ)を用いることにより、専用の製品では無くても、通常の不織布製フィルタを加工、使用することも出来る。
【0018】
上記不織布製フィルタは、空調服に限らず、他にも一般的な電動ファンの空気吸入口部分にも取り付けられ、電動ファンのカバーであるケース開孔部に直接貼り付けることができる。なお、電動ファンだけではなく、エアコンの吸気部分、電動ファンを有しない通気口壁に通気口を覆うように取り付けることもできる。また、パソコンの冷却ファンの空気取り入れ口にセットすることもできる。
さらには、この発明にあっては、エアフィルタだけで無く、例えば水を濾過するフィルタにも適用することができる。例えば排水口フィルタとしての適用を妨げるものではない。
【発明の効果】
【0019】
電動ファンのケース開孔部が、凹凸による永続的な変形または応力による一時的な変形があったとしても、上記スリットの開きまたは重なりによってそれらの変形に追従し、従来のように作業中において意に反して不織布製フィルタが剥離・脱落することなく、使用当初から有するフィルタとしての機能を維持することが出来る。
【0020】
また粘着剤を有する単一の不織布製フィルタであることから、機器壁面などケース開孔部に容易に粘着することができ、その作業性を高めることができる。また、その他の接着剤、取り付け用の磁石、面状フィルタなどを使用する必要がなく、コストダウンに資するものである。また、不織布フィルタ本体の縁部にゴムを配置して被せるような手間も排除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】この発明の実施例1に係る不織布製フィルタを実際に貼着した状態の図面代用写真である。
図2】この発明の実施例1に係る不織布製フィルタを示す平面図(a)および一部側面断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の実施例を、図面を参照して具体的に説明する。
【0023】
(実施例1と比較例1とのフィルタ構成上の共通点)
図2において、10は不織布製フィルタを示す。この不織布製フィルタ10は、空調服ファン用のフィルタとして使用される例である。したがって、不織布製フィルタ10は、その厚さが1.5~3mmでその直径が10cm程度の真円形の不織布製のフィルタ本体11を有しており、このフィルタ本体11の裏面にはスプレーされた粘着剤を介して同一大きさ・形状の剥離紙12が重ね合わされて貼り付けられている。
【0024】
ここで使用する不織布本体11は、ポリエステル・モダクリル繊維で構成されているが、この他にもロックウール・ガラスなどの無機繊維、綿・麻などの天然繊維、レーヨン・ナイロン・エステル・ビニロン・塩化ビニールなどの合成繊維が使用されることがある。難燃性・不燃性が特に要求されるフィルタとしてはモダクリル、難燃レーヨン・ビニロン・エステルさらにカーボン繊維が使用される。今回は空調服ファン用フィルタとして使用するため、厚さ方向での弾力性、火気使用場所での使用を考慮し、ポリエステル・モダクリルの混合繊維を使用した。
不織布製フィルタ本体11の重量は、20~100g/m、特に50g/mとした。
【0025】
使用する粘着剤としては、空調服ファンの樹脂成型品に対して軽く接着し、かつ脱落がない程度の接着力を有するアクリル酸エステル樹脂製粘着剤を使用した。この場合の樹脂の量は5~20g/m、好ましくは10g/mとする。
なお、粘着剤の不織布への付着方法としては、プリント法、含浸法、転写法などがあるが、今回は通気性を確保するためにスプレー法により不織布本体11の裏面に粘着剤を塗布した。
【0026】
本不織布製フィルタの製造方法としては、一枚の不織布(例えばロール状不織布)の裏面にスプレー法により粘着剤を被着させる。スプレーとしたのは不織布の通気性を損なわないためである。次いで、同じ広さの所定の剥離紙を粘着剤塗布面に重ね合わせることで不織布シートの裏面全面に剥離紙を積層した(積層体)。さらに、この積層したフィルタ本体/剥離紙をプレス加工により所定形状すなわち、真円形でその外縁から内方に向かって複数個のスリットが形成されたものである。
以上の工程を経て本発明の不織布製フィルタ10が製造されることとなる。
【0027】
(実施例1と比較例1とのフィルタ構成上の相違点)
以上の構成は実施例1と比較例1との間に差異はないが、比較例1のフィルタは略円形の不織布の形状をほぼそのまま有しているのに対し、実施例1のフィルタは図2(a)に見られるように、その外縁から内方に向かって複数個のスリットが形成されている。上記複数個のスリットは、フィルタの中心に対していずれも放射方向に延びるとともに、その切れ目外端は円周方向にて等間隔に配設され、放射方向の外縁側はスリット13、中心側は余長部14を形成する。フィルタ本体11の半径はスリット13と余長部14の合計であるが、スリット13を長くすると大きな変形に追従する機能が高まるものの、スリット13において十分な気密性が確保出来ない場合、フィルタ機能が低下する。具体的には直径が10cm程度の真円形の不織布製のフィルタ本体11に対し、9cm~5cm程度の余長部14を残して長さ1cm~5cmのスリット13等が挙げられる。取り付けるファンのケース開孔部の大きさや形状、変形の度合いに応じてスリット13と余長部14の長さを設計することが出来る。
【0028】
(実施例1と比較例1とについて空調服への貼着状態についての相違点)
上記実施例1のフィルタと比較例1のフィルタを、空調服に取り付けられた平面視して10cm径の円形で凸型の形状を有するファンケース開孔部(図1参照)に貼着した。つまり、ファンケースは、そのファンケースの外縁側の高さより、ファンケースの中央部分の高さの方が高い(断面視して略山形形状である)。 ファンケースの外縁側の高さとファンケースの中央部分の高さとの差を7mm、10mmのものを用意して、それぞれフィルタを取り付けた。
ケース開孔部の中央部分においては、実施例1の余長部及び比較例1とも同様な貼着状態であった。
ケース開孔部の周辺部分は、凸型で外周が中央より低くなっているため、実施例1ではスリットを有する外周部がそれぞれ独立に下方に湾曲し、スリット部分のフィルタが重なり合うことにより、フィルタ最外周に至るまでケース開孔部と密着した貼着状態が実現された。
一方比較例1では、ファンケースの外縁側の高さとファンケースの中央部分の高さとの差が7mmであっても、フィルタ全体が一枚の不織布であるため自由に下方に湾曲させることが出来ず、フィルタ外周方向に波打ってそのごく一部のみしかケース開孔部に密着することが出来なかった(つまり、フィルタとケース開孔部とが密着している部分と、密着していない部分があり、全体的にヨレが生じた)。
【0029】
(実施例1と比較例1とについて空調服への貼着後の耐久性について)
上記各フィルタを貼着した空調服を着衣し、一日作業を行う中で各フィルタの耐久性を測定した。
実施例1のフィルタでは、貼着時からフィルタ外縁までケースに密着しているため、一日の作業によっても剥離や脱落は生じなかった。
比較例1のフィルタでは、貼着時当初より上記のようにフィルタ外縁において密着しない若干の浮きが生じており、数時間の作業の後この浮きからフィルタの剥離が広がり、作業終了を待たずフィルタが脱落したことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
この発明は、例えば空調服に用いる電動ファン用不織布製フィルタについての技術として有用である。
【符号の説明】
【0031】
10 不織布製フィルタ
11 フィルタ本体、
12 剥離紙、
13 スリット、
14 余長部(非切断部)。
図1
図2