(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131140
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】船舶推進制御システム及び船舶
(51)【国際特許分類】
B63H 25/42 20060101AFI20220831BHJP
B63H 21/21 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
B63H25/42 G
B63H21/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029927
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】池ヶ谷 祐次
(57)【要約】
【課題】定点保持制御を円滑に行う。
【解決手段】船舶推進制御システム13は、船舶10の動きを制御するBCU14を備え、BCU14は、船舶10の定点保持制御が実行される際、船舶10の船首方向速度を減じる減速制御を実行する。
【選択図】
図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の動きを制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記船舶の定点保持制御が実行される際、前記船舶の船首方向速度を減じる減速制御を実行する、船舶推進制御システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記船舶の船首方向速度が所定の速度以上の場合に前記減速制御を実行する、請求項1に記載の船舶推進制御システム。
【請求項3】
前記船舶は推力を発生する少なくとも1つの動力源を備え、
前記制御部は、前記定点保持制御の実行に必要な推力に対応する第1の制御値と、前記減速制御の実行に必要な推力に対応する第2の制御値との合算値を、前記動力源の制御部へ伝達する、請求項1又は2に記載の船舶推進制御システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記合計値に基づいて生じる前記動力源の推力が前記船舶の船首方向と逆方向に発生するように、前記第1の制御値と前記第2の制御値を調整する、請求項3に記載の船舶推進制御システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記動力源の仕様に関する情報と、前記動力源の数とに応じて前記減速制御を実行するか否かを判別する、請求項3又は4に記載の船舶推進制御システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記減速制御を開始する際、前記減速制御の実行に必要な推力が徐々に増加するように前記第2の制御値を変化させる、請求項3乃至5のいずれか1項に記載の船舶推進制御システム。
【請求項7】
前記減速制御の実行に必要な推力の増加変化速度は前記船舶の仕様に応じて異なる、請求項6に記載の船舶推進制御システム。
【請求項8】
前記制御部は、前記減速制御を実行する際、前記増加する減速制御の実行に必要な推力が予め定められた値に到達すると、前記減速制御の実行に必要な推力を前記予め定められた値に保持する、請求項6又は7に記載の船舶推進制御システム。
【請求項9】
前記予め定められた値は前記動力源の仕様に応じて異なる、請求項8に記載の船舶推進制御システム。
【請求項10】
前記制御部は、前記減速制御を実行する際、前記船舶の船首方向速度が他の所定の速度以下になると、前記減速制御を終了する、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の船舶推進制御システム。
【請求項11】
前記制御部は、前記減速制御の実行時間が所定時間以上となった場合、前記減速制御を終了する、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の船舶推進制御システム。
【請求項12】
前記所定の時間は前記船舶が備える動力源の数に応じて変更される、請求項11に記載の船舶推進制御システム。
【請求項13】
前記制御部は、前記船舶の定点保持制御における前記船舶の目標位置が前記船舶の船首方向へ移動された場合、前記減速制御を終了する、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の船舶推進制御システム。
【請求項14】
前記制御部は、前記減速制御を終了した後も、前記船舶の定点保持制御を実行する、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の船舶推進制御システム。
【請求項15】
前記制御部は、前記減速制御を実行する際、前記船舶の舵を中立に維持する、請求項1乃至14のいずれか1項に記載の船舶推進制御システム。
【請求項16】
船舶の動きを制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記船舶が一定の位置に留まるモードへ遷移した際、前記船舶の船首方向速度を減じる減速制御を実行する、船舶推進制御システム。
【請求項17】
船舶の動きを制御する制御部を備える船舶であって、
前記制御部は、前記船舶の定点保持制御が実行される際、前記船舶の船首方向速度を減じる減速制御を実行する、船舶。
【請求項18】
船舶の動きを制御する制御部を備える船舶であって、
前記制御部は、前記船舶が一定の位置に留まるモードへ遷移した際、前記船舶の船首方向速度を減じる減速制御を実行する、船舶。
【請求項19】
船舶の動きを制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記船舶が所定の経路に沿って移動するモードに移行した場合において、前記所定の経路から前記船舶が前記船舶の船首方向に逸脱するとき、前記船舶の船首方向の移動を抑止する減速制御を実行する、船舶推進制御システム。
【請求項20】
船舶の動きを制御する制御部を備える船舶であって、
前記制御部は、前記船舶が所定の経路に沿って移動するモードに移行した場合において、前記所定の経路から前記船舶が前記船舶の船首方向に逸脱するとき、前記船舶の船首方向の移動を抑止する減速制御を実行する、船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶推進制御システム及び船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
発動機の推力と当該推力の作用方向(舵方向)を統合的に制御して船舶を目標位置の近傍に留める定点保持制御を実行する船舶推進制御システムを搭載する船舶が知られている(例えば、特許文献1参照)。定点保持制御の実行中では、船上にて釣りやパーティーを楽しむ乗船者に不快な思いをさせないように、船舶の急な移動を抑制すべく、発動機の推力を絞る。
【0003】
定点保持制御は、操船者によるボタンやスイッチの操作に応じて開始されるが、操船者は船舶の船首方向の移動が止まらないうちにボタンやスイッチを操作して定点保持制御を開始させることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、定点保持制御を実行する船舶推進制御システムを搭載する船舶は、比較的大型のクルーザーが多い。しかしながら、このような大型のクルーザーは慣性力が大きいため、船首方向の移動が止まっていないと、定点保持制御において発生可能な絞られた逆方向の推力では、船首方向の移動を完全に止めるために時間を要する。その結果、船舶が目標位置から大きく離れる等、定点保持制御の実現の観点からは改善の余地がある。
【0006】
本発明は、定点保持制御を円滑に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の一態様による船舶推進制御システムは、船舶の動きを制御する制御部を備え、前記制御部は、前記船舶の定点保持制御が実行される際、前記船舶の船首方向速度を減じる減速制御を実行する。
【0008】
この構成によれば、船舶の定点保持制御が実行される際、船舶の船首方向速度を減じる減速制御が実行されるため、船舶が定点保持制御における目標位置から大きく離れるのを抑制することができ、結果として、定点保持制御を円滑に行うことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、定点保持制御を円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係る船舶推進制御システムが搭載される船舶を模式的に示す平面図である。
【
図2】
図1の船舶が搭載する船舶推進制御システムの構成を概略的に説明するためのブロック図である
【
図3】
図2におけるリモコンとジョイスティックの構成を概略的に示す外観図である。
【
図4A】
図2のBCUが実行する減速制御処理を示すフローチャートである。
【
図4B】
図2のBCUが実行する減速制御処理を示すフローチャートである。
【
図5】
図4BのステップS411における減速用推力と定点保持用推力の合算を説明するためのブロック図である。
【
図6】
図4A及び
図4BのステップS406~S418における減速制御を説明するためのグラフである。
【
図7】減速制御における各船外機の推力の作用方向を説明するための図である。
【
図8】減速制御の終了の条件を説明するための図である。
【
図9】ドリフトポイントトラックにおける減速制御を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る船舶推進制御システムが搭載される船舶を模式的に示す平面図である。
図1において、船舶10は、例えば、滑走艇であり、船体11と5つの船外機12を備える。各船外機12は船体11の船尾に取り付けられている。船外機12は、駆動源としてのエンジンと推進器としてのプロペラを有する。船外機12は、エンジンの駆動力によって回転されるプロペラによって推力を得る。なお、船外機12が適用される船舶は、滑走艇に限られず、例えば、排水量型の船舶であってもよい。また、船舶10が備える船外機12の数は5つに限られず、少なくとも1つ以上であればよい。各船外機12はステアリング機構によって船体11に対して向きを変更することが可能であり、これにより、各船外機12の推力の作用方向を変更して船舶10の進行方向を変更する。
【0012】
図2は、
図1の船舶10が搭載する船舶推進制御システム13の構成を概略的に説明するためのブロック図である。
図2では、理解を簡易にするために、敢えて2つの船外機12のみを描画している。
【0013】
図2において、船舶推進制御システム13は、船外機12と、BCU(Boat Control Unit)14(制御部)と、MFD(Multi Function Display)15と、GPS16と、コンパス(ヘディングユニット)17と、リモコン18と、ジョイスティック19と、ステアリング20と、操船パネル21と、リモコンECU22(動力源の制御部)と、SW(Switch)23と、を有する。船舶推進制御システム13の各構成要素は互いに通信可能に接続される。
【0014】
GPS16は、船舶10の現在位置を把握し、BCU14へ船舶10の現在位置を送信する。コンパス17は、船舶10の進行方向を把握し、BCU14へ船舶10の進行方向を送信する。MFD15は、船速やエンジンの回転数を示すディスプレイであり、タッチパネルを備え、操船者の指示を受け付ける。受け付けられた指示はBCU14へ送信される。
【0015】
図3は、
図2におけるリモコン18とジョイスティック19の構成を概略的に示す外観図である。
図3(A)はジョイスティック19を示し、
図3(B)はリモコン18を示す。
【0016】
図3(A)において、ジョイスティック19は、基部24と、基部24の頂部に取り付けられたスティック25と、基部24に設けられた複数のボタン26と、を有する。スティック25は基部24に対して首振り自在であり、操船者が直感的に船舶10の操縦を行えるように、例えば、スティック25を前後に移動させると、ジョイスティック19は船舶10を前後に移動させるための信号を発し、スティック25を左右に移動させると、ジョイスティック19は船舶10を左右に移動させるための信号を発する。また、スティック25を旋回させると、ジョイスティック19は船舶10を旋回させるための信号を発する。ジョイスティック19からの信号は各リモコンECU22やBCU14へ向けて送信される。
【0017】
また、ボタン26の1つには定点保持制御の開始・終了の指示が割り当てられ、当該ボタン26の押し下げに応じて、ジョイスティック19は、定点保持制御の開始又は終了の指示信号を各リモコンECU22やBCU14へ向けて送信する。なお、定点保持制御に複数のモードを設け、ボタン26の押し下げ回数に応じてモードを遷移させてもよい。定点保持制御で設定可能な複数のモードとしては、例えば、フィッシュポイント、ステーポイント、ドリフトポイントやドリフトポイントトラック(いずれも登録商標)が存在する。フィッシュポイントでは、船舶10を目標位置(一定の位置)に留めるように、各船外機12の推力が制御される。ステーポイントでは、船舶10を目標位置に留め、且つ船首方向を特定の方向に維持するように、船外機12の推力と推力の作用方向が統合的に制御される。ドリフトポイントでは、船首方向を特定の方向に維持するように、船外機12の推力の作用方向が制御される。ドリフトポイントトラックでは、船首方向を特定の方向に維持し、且つMFD15において操船者が予め入力した経路(所定の経路)に沿って船舶10が移動するように、船外機12の推力と推力の作用方向が統合的に制御される。
【0018】
図3(B)において、リモコン18は、基部27と、基部27の側方に取り付けられたレバー28と、基部27に設けられた複数のボタン29と、を有する。レバー28は基部27に対して前後に移動可能であり、操船者がレバー28を前方に移動させると、リモコン18は船舶10を船首方向に移動させるための信号を発し、レバー28を後方に移動させると、リモコン18は船舶10を船尾方向に移動させるための信号を発する。リモコン18からの信号は各リモコンECU22やBCU14へ向けて送信される。
【0019】
また、ボタン29の1つには定点保持制御の開始・終了の指示が割り当てられ、当該ボタン29の押し下げに応じて、リモコン18は、定点保持制御の開始又は終了の指示信号を各リモコンECU22やBCU14へ向けて送信する。なお、ボタン26と同様に、ボタン29の押し下げ回数に応じて定点保持制御のモードを遷移させてもよい。
【0020】
図2に戻り、ステアリング20は、操船者のステアリング操作を受け付け、受け付けられた操作に対応する舵角の信号を各リモコンECU22へ送信する。SW23は、各船外機12の電源オンや始動の指示を受け付け、受け付けられた指示に対応する信号を各リモコンECU22へ送信する。
【0021】
BCU14は、船舶推進制御システム13の各構成要素から送信された信号に基づいて船舶10の状況を把握し、各船外機12が発すべき推力や取るべき推力の作用方向を判断して各リモコンECU22へ送信する。また、BCU14は、定点保持制御を行う際、後述する減速制御を行う。リモコンECU22は、各船外機12に対応して1つずつ設けられ、BCU14、リモコン18やジョイスティック19等から送信された信号に応じて対応する船外機12の推力と推力の作用方向を制御する。
【0022】
図4A及び
図4Bは、
図2のBCU14が実行する減速制御処理を示すフローチャートである。本処理は、ジョイスティック19のボタン26やリモコン18のボタン29が押し下げられ、定点保持制御が実行される際に実行される。
【0023】
まず、BCU14は、GPS16やコンパス17から船舶10の位置、船速や進行方向(
図1中の白矢印参照)の情報を取得し、各リモコンECU22から船外機12の機数、型式(仕様)やエンジンの回転数等の情報を取得する(ステップS401)。さらに、BCU14は、リモコン18のボタン26やジョイスティック19のボタン29の押し下げ回数に基づいて、定点保持制御のモードがいずれのモードに設定されているかを確認する(ステップS402)。
【0024】
次いで、BCU14は、設定されているモードが、船舶10を目標位置に留めるモードか否かを判別する(ステップS403)。具体的には、設定されているモードがフィッシュポイント又はステーポイントのいずれかに該当するか否かを判別する。設定されているモードがフィッシュポイント及びステーポイントのいずれでもない場合、ステップS401に戻る。一方、設定されているモードがフィッシュポイント又はステーポイントのいずれかに該当する場合、BCU14は、船舶10の船速や進行方向に基づいて船首方向の速度(
図1中のハッチング付き矢印参照)を取得する(ステップS404)。
【0025】
その後、BCU14は船首方向の速度が所定値以上か否かを判別する(ステップS405)。船首方向の速度が所定値未満の場合、BCU14は本処理を終了する。一方、船首方向の速度が所定値以上である場合、BCU14は減速制御の実行フラグをONに変更し、減速制御を開始する(ステップS406)。ここでの所定値(所定の速度)は、定点保持制御において発生可能な逆方向の推力であっても、船舶10を目標位置の近傍へ留めることができる程度の船首方向の速度である。なお、所定値は船外機12の機数や型式に応じて変更される。例えば、船外機12の機数が多く、船外機12が大型である場合、船体11も大型であり、船舶10の慣性力が大きいことが予想されるため、積極的に減速制御が実行される様に、所定値は比較的小さく設定される。一方、船外機12の機数が少なく、船外機12が小型である場合、船体11も小型であり、船舶10の慣性力が小さいことが予想されるため、積極的に減速制御が実行される必要は無く、定点保持制御において発生可能な逆方向の推力であっても船舶10を目標位置の近傍へ留めることができると考えられる。したがって、この場合、所定値は比較的大きく設定される。このように所定値を設定することで、船舶10が目標位置を通り過ぎたり、船舶10が急に減速するのを抑制することができる。
【0026】
次いで、BCU14は、船舶10の位置、船速や進行方向に基づいて、フィッシュポイント又はステーポイントを実行するために必要な推力を算出する(ステップS407)。具体的には、船舶10の現在位置と目標位置の差を解消するように船舶10を移動させるために必要な推力(以下、「定点保持用推力」という。)を各船外機12について算出する。なお、フィッシュポイント又はステーポイントにおいて発生可能な定点保持用推力の最大値は予め操船者によってリモコン18のボタン29やジョイスティック19のボタン26を用いて設定される。例えば、潮流の穏やかな海域に目標位置が設定された場合、船舶10が急に加速して乗船者を驚かせないように、定点保持用推力の最大値は比較的小さく設定される。また、潮流の激しい海域に目標位置が設定された場合、船舶10が潮流に逆らって目標位置に留まれるように、定点保持用推力の最大値は比較的大きく設定される。
【0027】
その後、BCU14は、各船外機12において発生させる減速用推力を増加させ(ステップS408)、減速用推力が予め設定された最大減速用推力に到達したか否かを判別する(ステップS409)。ここでの最大減速用推力は定点保持用推力の最大値や各船外機12の型式に応じて変更される。例えば、定点保持用推力の最大値が比較的小さく設定された場合、定点保持用推力よりも減速用推力が大幅に上回って船舶10が急減速しない様に、最大減速用推力も比較的小さく設定される。また、例えば、船外機12が大型である場合、船舶10の慣性力が大きいことが予想されるため、最大減速用推力は比較的大きく設定され、船外機12が小型である場合、船舶10の慣性力が小さいことが予想されるため、最大減速用推力は比較的小さく設定される。
【0028】
減速用推力が予め設定された最大減速用推力に到達していなければ、後述するステップS414へ進み、減速用推力が予め定められた最大減速用推力に到達していれば、減速用推力を最大減速用推力に保持する(ステップS410)。減速用推力を最大減速用推力に保持することにより、減速用推力が過剰に大きくなり、減速制御を終了する際に減速用推力を無くすために時間を要するのを防ぐことができる。これにより、減速制御をレスポンス良く終了させる。
【0029】
次いで、BCU14は、減速用推力と定点保持用推力を合算する(ステップS411)。
図5は、
図4BのステップS411における減速用推力と定点保持用推力の合算を説明するためのブロック図である。まず、BCU14の減速状態判定ブロックが、ステップS405の判別を行い、船首方向の速度が所定値以上である場合、判別結果として、例えば、減速制御の実行フラグをONに変更する旨をBCU14の減速用推力算出ブロックへ送信する。減速用推力算出ブロックは、減速制御の実行フラグがONに変更される旨を受信すると、減速用推力に相当する減速制御値(第2の制御値)を算出する。この減速制御値は、ステップS408で説明したように、減速用推力を増加させるように変更されていく。また、BCU14は定点保持用推力に相当する定点保持制御値(第1の制御値)を算出し、減速制御値と定点保持制御値を合算した合算制御値をリモコンECU22へ出力(伝達)する。この合算制御値は、減速用推力と定点保持用推力を合算した推力合算値に相当する。そして、リモコンECU22は入力された合算制御値に基づいて対応する船外機12の推力を制御する。
【0030】
ところで、フィッシュポイントやステーポイントでは、船首方向に目標位置が存在する場合、船首方向に作用する定点保持用推力を算出することがある。このとき、算出された定点保持用推力の絶対値が、船尾方向に作用する減速用推力の絶対値よりも大きいと、船舶10の行き足が止まらず、船舶10が目標位置を通り過ぎることがある。これに対応して、BCU14は、合算制御値が船尾方向に作用する推力を発生させるように、減速制御値と定点保持制御値を調整する。例えば、BCU14は、減速制御値を増加させるか、若しくは、定点保持制御値を減少させて合算制御値が船尾方向に作用する推力を発生させるように調整し、船舶10が目標位置を通り過ぎるのを抑制する。なお、
図5の合算制御値の算出は船外機12毎に行われるが、定点保持用推力はモードによっては船外機12毎に異なることがあるため、異なる合算制御値が各リモコンECU22へ出力されることもある。
【0031】
その後、BCU14は、減速用推力と定点保持用推力を合算した推力合算値が、取得された型式の船外機12の最大出力に到達したか否かを判別する(ステップS412)。推力合算値が最大出力に到達している場合、推力合算値を最大出力に保持する(ステップS413)。ここでの最大出力は、BCU14が船外機12の型式毎に任意で定めた出力値であり、例えば、当該船外機12が定点保持制御の実行中において発揮することが許される出力の最大値である。一方、推力合算値が最大出力に到達していない場合、ステップS413をスキップする。
【0032】
次いで、BCU14は船首方向の速度が減速制御終了速度(他の所定の速度)以下になったか否かを判別する(ステップS414)。ここでの減速制御終了速度は、定点保持制御において発生可能な逆方向の推力であっても、船舶10を短時間で停止させることができる程度の船首方向の速度である。なお、減速制御終了速度は船外機12の機数や型式に応じて変更される。例えば、船外機12の機数が多く、船外機12が大型である場合、船舶10の慣性力が大きいことが予想されるため、減速制御が継続され易いように、減速制御終了速度は比較的低く設定される。一方、船外機12の機数が少なく、船外機12が小型である場合、船舶10の慣性力が小さいことが予想されるため、減速制御を長く継続する必要は無く、減速制御終了速度は比較的高く設定される。
【0033】
ステップS414の判別において、船首方向の速度が減速制御終了速度よりも未だ大きい場合、ステップS408へ戻り、BCU14は、減速制御を継続して減速用推力を増加させる。一方、船首方向の速度が減速制御終了速度以下である場合、BCU14は、ステップS406で減速制御が開始されてからの当該減速制御の実行時間が所定時間以上となったか否かを判別する(ステップS415)。ここでの所定時間は、船舶10への潮流の影響が無ければ減速制御によって船舶10の行き足を止めるために十分な時間が該当する。なお、所定時間は船外機12の機数や型式に応じて変更される。例えば、船外機12の機数が多く、船外機12が大型である場合、船舶10の慣性力が大きく減速制御によって船舶10の行き足を止めるために必要な時間は長くなるので、所定時間は比較的長く設定される。一方、船外機12の機数が少なく、船外機12が小型である場合、船舶10の慣性力が小さく減速制御によって船舶10の行き足を止めるために必要な時間は短くなるので、所定時間は比較的短く設定される。
【0034】
ステップS415の判別において、減速制御の実行時間が所定時間未満である場合、ステップS408へ戻り、BCU14は、減速制御を継続して減速用推力を増加させる。一方、減速制御の実行時間が所定時間以上である場合、BCU14は減速制御の実行フラグをOFFに変更し、減速制御を終了し(ステップS416)、減速用推力を減少させる(ステップS417)。次いで、BCU14は減速用推力が0以下となったか否かを判別する(ステップS418)。減速用推力が0以下となっていない場合、ステップS417へ戻り、BCU14はさらに減速用推力を減少させる。一方、減速用推力が0以下となっている場合、BCU14は改めて減速用推力を0に設定し(ステップS419)、本処理を終了する。
【0035】
図6は、
図4A及び
図4BのステップS406~S418における減速制御を説明するためのグラフである。
図6において、上のグラフは減速制御の実行フラグの推移を示し、下のグラフは減速用推力の推移を示す。
【0036】
まず、BCU14がステップS405の判別結果に基づいて減速制御の実行フラグをOFFからONに変更し、減速制御を開始する。このとき、BCU14は減速用推力を急激に増加させず、減速用推力を漸増させる。これにより、船舶10が急減速して乗船者が驚くのを抑制する。減速用推力の漸増は、ステップS408,ステップS409でNO,及びステップS414又はステップS415でNOの流れを繰り返すことで実現される。なお、減速用推力の増加変化速度は、船外機12の機数や型式に応じて変更される。例えば、船外機12の機数が少なく、船外機12が小型である場合、船舶10の慣性力が小さいことが予想されるため、船舶10が急減速しないように、減速用推力はより穏やかに増加される。一方、船外機12の機数が多く、船外機12が大型である場合、船舶10の慣性力が大きいことが予想されるため、船舶10の行き足を短時間で止めるように、減速用推力はやや速く増加される。
【0037】
その後、BCU14がステップS409の判別結果に基づいて減速用推力を最大減速用推力に保持する。そして、BCU14がステップS415の判別結果に基づいて減速制御の実行フラグをONからOFFに変更し、減速制御を終了する。このとき、BCU14は減速用推力を急激に減少させず、減速用推力を漸減させる。減速用推力の漸減は、ステップS417及びステップS418でNOの流れを繰り返すことで実現される。なお、減速制御が終了する頃には、定点保持制御が開始されてから十分に時間が経過し、定点保持用推力が十分に発生しているため、減速用推力を急減させても船舶10の挙動が乱れない。したがって、減速用推力は急減させてもよい。
【0038】
また、BCU14が減速制御を実行する際、各船外機12の推力の作用方向が中立ではなく、右舷又は左舷を向いている場合、
図7(A)中の黒矢印で示す減速用推力は、船舶10の船首方向と正対せず、減速用推力の分力(図中において一点鎖線で示す)が船舶10の船首方向と正対する。したがって、発生する減速用推力の全てを船首方向の速度の減速に活かすことができず、また、船舶10にヨーモーメントが発生して進路が乱れる。
【0039】
これに対応して、BCU14は減速制御を実行する際、
図7(B)に示すように、各船外機12の推力の作用方向を中立に維持し、発生する減速用推力を船舶10の船首方向と正対させる。これにより、発生する減速用推力の全てを船首方向の速度の減速に活かし、効率的に船首方向の速度を減じる。また、船舶10にヨーモーメントが発生して進路が乱れることもない。
【0040】
図4A及び
図4Bの減速制御処理では、船首方向の速度が減速制御終了速度以下であり(ステップS414でYES)、且つ減速制御の実行時間が所定時間以上である場合(ステップS415でYES)に減速制御が終了される。
【0041】
しかしながら、
図8(A)に示すように、船舶10の船首方向の速度が減速制御終了速度以下である場合、他の条件を必要とせずに、減速制御を終了してもよい。また、
図8(B)に示すように、減速制御の実行時間が所定時間以上となっても船舶10の行き足が止まらない場合、他の条件を必要とせずに、減速制御を終了してもよい。
【0042】
さらに、
図8(C)に示すように、定点保持制御における目標位置が船舶10の船首方向へ移動された場合にも、他の条件を必要とせずに、減速制御を終了してもよい。これにより、減速用推力が要因で変更後の目標位置へ船舶10が到達しにくくなるのを抑制する。
【0043】
本実施の形態によれば、船舶10の定点保持制御が実行される際、船舶10の船首方向速度を減じる減速制御が実行されるため、船舶10が定点保持制御における目標位置から大きく離れるのを抑制することができ、結果として、定点保持制御を円滑に行うことができる。また、船舶10が目標位置を通り過ぎると、BCU14はブザーやMFD15を通じて操船者に異常を報知するが、減速制御の実行によって船舶10が目標位置を通り過ぎにくくなるため、異常の報知がされなくなり、操船者は心地よく航行を楽しめる。
【0044】
また、本実施の形態では、船舶10の船首方向の速度が所定値未満の場合、減速制御が実行されない。すなわち、船舶10の船首方向の速度が、定点保持制御において発生可能な逆方向の推力であっても、船舶10を目標位置の近傍へ留めることができる程度の船首方向の速度未満であれば、減速用推力が発生しないため、船舶10の行き足を穏やかに止めることができる。
【0045】
さらに、本実施の形態では、船舶10の船首方向の速度が減速制御終了速度以下となった場合、減速制御を終了する。すなわち、船舶10の船首方向の速度が、定点保持制御において発生可能な逆方向の推力であっても、船舶10を短時間で停止させることができる程度の船首方向の速度以下であれば、減速用推力が発生しないため、やはり、船舶10の行き足を穏やかに止めることができる。
【0046】
また、本実施の形態では、減速制御の実行時間が所定時間以上である場合、減速制御を終了する。すなわち、減速制御が開始されてから、船舶10への潮流の影響が無ければ減速制御によって船舶10の行き足を止めるために十分な時間が経過しても、船舶10の行き足が止まらない場合、減速制御を終了する。このようなケースは、船舶10が激しい潮流に流されているため、減速用推力を幾ら発生させても、船舶10の行き足が止まらないケースが該当する。そして、減速制御の終了の結果、船舶10は目標位置を通り過ぎるが、このとき、BCU14はブザーやMFD15を通じて操船者に異常を報知する。これにより、操船者は、当該海域は、激しい潮流の発生等によって船舶10が流されて船舶10の行き足が止まりにくく、定点保持制御の実行に不適切な海域であることを知る。
【0047】
さらに、本実施の形態では、減速制御が終了された後も、定点保持制御は実行される。これにより、船舶10が目標位置の近傍で停船した後、目標位置から離れることがなく、また、船舶10が目標位置へ到達しないうちに減速制御が終了しても、定点保持用推力によって目標位置へ穏やかに到達する。
【0048】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明は上述した実施の形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0049】
例えば、船外機12がエンジンだけでなく原動機としての電気モータを搭載する場合、若しくは電気モータのみを搭載する場合であっても、電気モータがBCU14やリモコンECU22によって制御されるならば、本発明を適用することができる。さらに、船舶10が船外機12ではなく、船内外機や船内機を備える場合であっても、船内外機や船内機がBCU14やリモコンECU22によって制御されるならば、本発明を適用することができる。
【0050】
また、フィッシュポイントでは、静粛性を優先するために、幾つかの船外機12を停止させる設定を行うことができるが、この設定が行われた場合、減速制御は実行されない。これにより、静粛性を確保する。
【0051】
上述した本実施の形態では、定点保持制御において設定されているモードがフィッシュポイント又はステーポイントのいずれかに該当する場合のみ、減速制御を行ったが、定点保持制御において設定されているモードがドリフトポイントトラックであっても、減速制御を行ってもよい。
【0052】
図9は、ドリフトポイントトラックにおける減速制御を説明するための図である。ドリフトポイントトラックにおいて、例えば、MFD15において操船者が予め入力した経路30に沿って船舶10が移動する際、船舶10に船首方向の速度(図中のハッチング付き矢印)が発生して経路30から船舶10が船首方向に逸脱するとき(図中の左から3番目の状態)、減速制御が実行されて船舶10に減速用推力(図中黒矢印)が作用する。これにより、船舶10の船首方向の移動が抑止され、船舶10は経路30へ戻される。
【0053】
なお、本発明は、上述の実施の形態の機能を実現するプログラムを船舶推進制御システム13が備えるメモリ(不図示)やBCU14が有するROM等から読み出し、BCU14が当該プログラムを実行することによって実現されてもよく、または、上述の実施の形態の機能を実現するプログラムをネットワークや記憶媒体を介して船舶推進制御システム13に供給し、BCU14が供給されたプログラムを実行することによって実現されてもよい。さらに、本発明は、BCU14が有する1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現されてもよい。
【符号の説明】
【0054】
10 船舶、11 船体、12 船外機、13 船舶推進制御システム、14 BCU、18 リモコン、19 ジョイスティック、22 リモコンECU、26,29 ボタン