(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131146
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20220831BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20220831BHJP
【FI】
H02M3/28 H
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029943
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】蒲生 勇
(72)【発明者】
【氏名】田中 和裕
【テーマコード(参考)】
5H730
5H770
【Fターム(参考)】
5H730AA15
5H730AS01
5H730BB27
5H730BB83
5H730BB88
5H730DD04
5H730EE02
5H730EE03
5H730EE08
5H730EE59
5H730FD31
5H730ZZ16
5H770DA01
5H770DA21
5H770DA30
5H770DA41
5H770EA13
5H770HA02Z
5H770JA11Y
5H770JA16Y
5H770JA18Y
5H770QA25
(57)【要約】
【課題】漏れインダクタンスの不足による問題の発生を抑制し、かつ、最大出力電流の低下を抑制できる電源装置を提供する。
【解決手段】溶接電源装置A1において、直流電源1と、直流電源1から入力される直流電圧を高周波電圧に変換するインバータ回路2と、高周波電圧を変圧するトランス3と、トランス3によって変圧された高周波電圧を整流する整流回路4と、インバータ回路2を制御する制御回路5とを備えた。トランス3は、二次巻線33と、二次巻線33に磁気結合するように配置された第1の一次巻線31と、第1の一次巻線31より高い結合度で二次巻線33に磁気結合するように配置された第2の一次巻線32とを備える。制御回路5は、整流回路4の出力電流が所定未満の場合は、第1の一次巻線31を励磁させ、整流回路4の出力電流が所定以上の場合は、第2の一次巻線32を励磁させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と、
前記直流電源から入力される直流電圧を高周波電圧に変換するインバータ回路と、
前記高周波電圧を変圧するトランスと、
前記トランスによって変圧された高周波電圧を整流する整流回路と、
前記インバータ回路を制御する制御回路と、
を備え、
前記トランスは、二次巻線と、前記二次巻線に磁気結合するように配置された第1の一次巻線と、前記第1の一次巻線より高い結合度で前記二次巻線に磁気結合するように配置された第2の一次巻線と、を備えており、
前記制御回路は、前記整流回路の出力電流が所定未満の場合は、前記第1の一次巻線を励磁させ、前記整流回路の出力電流が所定以上の場合は、前記第2の一次巻線を励磁させる、
電源装置。
【請求項2】
直流電源と、
前記直流電源から入力される直流電圧を高周波電圧に変換するインバータ回路と、
前記高周波電圧を変圧するトランスと、
前記トランスによって変圧された高周波電圧を整流する整流回路と、
前記インバータ回路を制御する制御回路と、
を備え、
前記トランスは、二次巻線と、前記二次巻線に磁気結合するように配置された第1の一次巻線および第2の一次巻線と、を備えており、
前記制御回路は、前記整流回路の出力電流が所定未満の場合は、前記第1の一次巻線のみを励磁させ、前記整流回路の出力電流が所定以上の場合は、前記第1の一次巻線および前記第2の一次巻線の両方を励磁させる、
電源装置。
【請求項3】
前記第1の一次巻線は、前記二次巻線に重ねて巻回されており、前記二次巻線との間隔の大きさにより、漏れインダクタンスが調整される、
請求項1または2に記載の電源装置。
【請求項4】
前記第1の一次巻線は、前記二次巻線に重ねて巻回されており、前記二次巻線との重なり面積により、漏れインダクタンスが調整される、
請求項1ないし3のいずれかに記載の電源装置。
【請求項5】
前記インバータ回路は、前記直流電源の正極側に接続された2個のハイサイドスイッチング素子と、前記直流電源の負極側に接続された2個のローサイドスイッチング素子と、を備え、
前記制御回路は、前記2個のハイサイドスイッチング素子を同時にオンにさせ、または、前記2個のローサイドスイッチング素子を同時にオンにさせる、
請求項1ないし4のいずれかに記載の電源装置。
【請求項6】
前記インバータ回路は、直列接続された2個のスイッチング素子を有する第1アーム、第2アーム、および第3アームを備え、
前記制御回路は、前記第1アームおよび前記第2アームの各スイッチング素子を駆動させることで、前記第1の一次巻線を励磁させ、前記第1アームおよび前記第3アームの各スイッチング素子を駆動させることで、前記第2の一次巻線を励磁させる、
請求項1ないし5のいずれかに記載の電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータ回路が直流電源から入力される直流電圧を高周波電圧に変換し、トランスが高周波電圧を変圧し、整流回路が整流して出力する電源装置が知られている。単相フルブリッジ型のインバータ回路の制御方法として、位相シフト制御が知られている。特許文献1には、位相シフト制御によって制御される電源装置が開示されている。位相シフト制御では、インバータ回路の一方のアームのハイサイドスイッチング素子と他方のアームのローサイドスイッチング素子とでオン期間に位相差を設け、位相差によって出力を調整する。
【0003】
図6は、位相シフト制御を説明するための図である。同図(a)は、電源装置A10の全体構成を示す図である。同図(b)は、各スイッチング素子に入力される駆動信号の一例を示す波形図である。同図(a)に示すように、インバータ回路20は、スイッチング素子TR1とスイッチング素子TR3とからなる第1アームと、スイッチング素子TR2とスイッチング素子TR4とからなる第2アームとを備えている。制御回路50で生成された駆動信号P1~P4は、ドライブ回路60で増幅されて、スイッチング素子TR1~TR4にそれぞれ入力される。同図(b)に示すように、駆動信号P1の位相は、駆動信号P4の位相より遅れている。また、駆動信号P3の位相は、駆動信号P2の位相より遅れている。駆動信号P1(P3)のパルスと駆動信号P4(P2)のパルスとが重なる部分が大きいほど、出力が大きくなる。また、スイッチング素子TR1とスイッチング素子TR3(スイッチング素子TR2とスイッチング素子TR4)が同時にオンしないように、駆動信号P1のパルスと駆動信号P3のパルスとの間(駆動信号P2のパルスと駆動信号P4のパルスとの間)には、デッドタイムが設けられている。
【0004】
図6(b)に示す期間Aでは、スイッチング素子TR1,TR4がオンになっており、スイッチング素子TR1,TR4を介して、トランス30の一次巻線に電流が流れる。期間Bでは、スイッチング素子TR4がオフになるが、トランス30の一次巻線の漏れインダクタンスに蓄えられたエネルギーによって、スイッチング素子TR2の還流ダイオードおよびスイッチング素子TR1を介して、一次巻線に電流が流れ続ける。期間Cでは、スイッチング素子TR2がオンになる。したがって、期間Cでは、ハイサイドスイッチング素子であるスイッチング素子TR1,TR2が同時にオンになっている。スイッチング素子TR2がオンに切り替わるとき、還流ダイオードに電流が流れているので、スイッチング素子TR2のドレイン-ソース間の電圧は「0」である。したがって、ゼロボルトスイッチングとなる。期間Dでは、スイッチング素子TR1がオフになるが、スイッチング素子TR2の還流ダイオード、直流電源1の平滑コンデンサ、およびスイッチング素子TR3の還流ダイオードを介して、一次巻線に電流が流れ続ける。期間Eでは、スイッチング素子TR3がオンになっており、スイッチング素子TR2,TR3を介して、一次巻線に期間Aとは逆向きの電流が流れる。スイッチング素子TR3がオンに切り替わるとき、還流ダイオードに電流が流れているので、スイッチング素子TR3のドレイン-ソース間の電圧は「0」である。したがって、ゼロボルトスイッチングとなる。以下、上記期間B,C,Dのハイサイドとローサイドとを反対にした状態になって、期間Aに戻る。このように、位相シフト制御では、各スイッチング素子TR1~TR4がオンに切り替わるときに、ゼロボルトスイッチングが実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、トランス3の一次巻線の漏れインダクタンスが小さく、かつ、一次巻線に流れる電流が小さい場合、一次巻線の漏れインダクタンスに蓄えられるエネルギーは少ない。この場合、期間Eに達する前にエネルギーが消費されてしまう。期間Dまでにエネルギーが消費されてしまうと、スイッチング素子TR1がオフになったときに、スイッチング素子TR1のスナバコンデンサとスイッチング素子TR3のスナバコンデンサとが共振回路発振を行い、スイッチング素子TR1のドレイン-ソース間の電圧が高周波で発振し、ノイズが発生する。また、期間Eまでにエネルギーが消費されてしまうと、スイッチング素子TR4のスナバコンデンサに十分充電できなくなる。この場合、スイッチング素子TR3がオンに切り替わったときに、直流電源1の電圧がスイッチング素子TR4に一気に印加されて、スイッチング素子TR4が故障する場合がある。また、期間Eまでにエネルギーが消費されてしまうと、スイッチング素子TR3がオンに切り替わるときに、還流ダイオードに電流が流れておらず、ゼロボルトスイッチングが実現できない。トランス3の一次巻線にコイルを直列接続して漏れインダクタンスを大きくすれば、上述した問題は解消する。しかし、漏れインダクタンスが大きくなると、二次側に伝達するエネルギーが低下して、二次側に流れる電流が低下するので、電源装置A10の最大出力電流が低下する。
【0007】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、漏れインダクタンスの不足による問題の発生を抑制し、かつ、最大出力電流の低下を抑制できる電源装置を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0009】
本発明の第1の側面によって提供される電源装置は、直流電源と、前記直流電源から入力される直流電圧を高周波電圧に変換するインバータ回路と、前記高周波電圧を変圧するトランスと、前記トランスによって変圧された高周波電圧を整流する整流回路と、前記インバータ回路を制御する制御回路とを備え、前記トランスは、二次巻線と、前記二次巻線に磁気結合するように配置された第1の一次巻線と、前記第1の一次巻線より高い結合度で前記二次巻線に磁気結合するように配置された第2の一次巻線とを備えており、前記制御回路は、前記整流回路の出力電流が所定未満の場合は、前記第1の一次巻線を励磁させ、前記整流回路の出力電流が所定以上の場合は、前記第2の一次巻線を励磁させる。
【0010】
本発明の第2の側面によって提供される電源装置は、直流電源と、前記直流電源から入力される直流電圧を高周波電圧に変換するインバータ回路と、前記高周波電圧を変圧するトランスと、前記トランスによって変圧された高周波電圧を整流する整流回路と、前記インバータ回路を制御する制御回路とを備え、前記トランスは、二次巻線と、前記二次巻線に磁気結合するように配置された第1の一次巻線および第2の一次巻線とを備えており、前記制御回路は、前記整流回路の出力電流が所定未満の場合は、前記第1の一次巻線のみを励磁させ、前記整流回路の出力電流が所定以上の場合は、前記第1の一次巻線および前記第2の一次巻線の両方を励磁させる。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第1の一次巻線は、前記二次巻線に重ねて巻回されており、前記二次巻線との間隔の大きさにより、漏れインダクタンスが調整される。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第1の一次巻線は、前記二次巻線に重ねて巻回されており、前記二次巻線との重なり面積により、漏れインダクタンスが調整される。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第1の一次巻線は、前記二次巻線に重ねて巻回されており、前記二次巻線と間隔の大きさ及び重なり面積により、漏れインダクタンスが調整される。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記インバータ回路は、前記直流電源の正極側に接続された2個のハイサイドスイッチング素子と、前記直流電源の負極側に接続された2個のローサイドスイッチング素子とを備え、前記制御回路は、前記2個のハイサイドスイッチング素子を同時にオンにさせ、または、前記2個のローサイドスイッチング素子を同時にオンにさせる。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記インバータ回路は、直列接続された2個のスイッチング素子を有する第1アーム、第2アーム、および第3アームを備え、前記制御回路は、前記第1アームおよび前記第2アームの各スイッチング素子を駆動させることで、前記第1の一次巻線を励磁させ、前記第1アームおよび前記第3アームの各スイッチング素子を駆動させることで、前記第2の一次巻線を励磁させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、トランスは、二次巻線に磁気結合する第1の一次巻線および第2の一次巻線を備えている。制御回路は、出力電流が小さいときには、結合度が比較的低い第1の一次巻線を励磁させる。この場合、第2の一次巻線を励磁させるより漏れインダクタンスを大きくできるので、漏れインダクタンスの不足による問題の発生を抑制できる。一方、制御回路は、出力電流が大きい場合には、結合度が比較的高い第2の一次巻線を励磁させる。この場合、第1の一次巻線を励磁させるより漏れインダクタンスを小さくできるので、二次側に流れる電流の低下を抑制できる。したがって、電源装置の最大出力電流の低下を抑制できる。
【0017】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態に係る溶接電源装置の全体構成を示す図である。
【
図2】トランスを説明するための簡略化した外観図である。
【
図4】トランスの変形例を説明するための簡略化した外観図である。
【
図5】第2実施形態に係る溶接電源装置の全体構成を示す図である。
【
図6】(a)は従来の溶接電源装置の全体構成を示す外観図であり、(b)は各スイッチング素子に入力される駆動信号の一例を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、本発明に係る電源装置を溶接電源装置として用いた場合を例として、図面を参照して具体的に説明する。
【0020】
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態に係る溶接電源装置A1を説明するための図であり、溶接電源装置A1の全体構成を示す図である。
【0021】
溶接電源装置A1は、溶接トーチTの電極の先端と、被加工物Wとの間にアークを発生させ、アークに電力を供給するものである。
図1に示すように、溶接電源装置A1は、直流電源1、インバータ回路2、トランス3、整流回路4、制御回路5、ドライブ回路6、および、電流センサ7を備えている。
【0022】
直流電源1は、直流電圧を出力するものであり、例えば、電力系統から入力される交流電圧を整流する整流回路と、平滑する平滑コンデンサとを備えている。なお、直流電源1の構成は限定されず、インバータ回路2に直流電圧を出力するものであればよい。
【0023】
インバータ回路2は、直流電源1から入力される直流電圧を高周波電圧に変換して、トランス3に出力する。インバータ回路2は、単相フルブリッジ型のインバータであり、6個のスイッチング素子TR1~TR6を備えている。本実施形態では、スイッチング素子TR1~TR6としてMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を使用している。なお、スイッチング素子TR1~TR6はMOSFETに限定されず、バイポーラトランジスタ、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor : 絶縁ゲート・バイポーラトランジスタ)などであってもよい。
【0024】
スイッチング素子TR1とスイッチング素子TR3とは、スイッチング素子TR1のソース端子とスイッチング素子TR3のドレイン端子とが接続されて、直列接続されている。スイッチング素子TR1のドレイン端子は直流電源1の正極側に接続され、スイッチング素子TR3のソース端子は直流電源1の負極側に接続されて、ブリッジ構造を形成している。同様に、スイッチング素子TR2とスイッチング素子TR4とが直列接続されてブリッジ構造を形成し、スイッチング素子TR5とスイッチング素子TR6とが直列接続されてブリッジ構造を形成している。スイッチング素子TR1とスイッチング素子TR3とで形成されているブリッジ構造を第1アームとし、スイッチング素子TR2とスイッチング素子TR4とで形成されているブリッジ構造を第2アームとし、スイッチング素子TR5とスイッチング素子TR6とで形成されているブリッジ構造を第3アームとする。第1アームのスイッチング素子TR1とスイッチング素子TR3の接続点には出力ラインC1が接続され、第2アームのスイッチング素子TR2とスイッチング素子TR4の接続点には出力ラインC2が接続され、第3アームのスイッチング素子TR5とスイッチング素子TR6の接続点には出力ラインC3が接続されている。スイッチング素子TR1,TR2,TR5が、本発明の「ハイサイドスイッチング素子」に相当し、スイッチング素子TR3,TR4,TR6が、本発明の「ローサイドスイッチング素子」に相当する。本実施形態では、スイッチング素子TR5,TR6は、スイッチング素子TR1,TR3より定格電流の小さい素子を使用している。また、スイッチング素子TR2,TR4は、スイッチング素子TR5,TR6より定格電流の小さい素子を使用している。
【0025】
各スイッチング素子TR1~TR6には、それぞれ逆並列に還流ダイオードが接続されている。また、各スイッチング素子TR1~TR6のドレイン端子とソース端子との間には、それぞれスナバコンデンサが接続されている。各スイッチング素子TR1~TR6のゲート端子には、ドライブ回路6から出力される駆動信号P1~P6(後述)がそれぞれ入力される。各スイッチング素子TR1~TR6は、それぞれ駆動信号P1~P6に基づいて、オンとオフとを切り替えられる。これにより、直流電流が交流電流に変換される。なお、インバータ回路2の構成は限定されない。
【0026】
トランス3は、インバータ回路2が出力する高周波電圧を変圧して、整流回路4に出力する。
図2は、トランス3を説明するための簡略化した外観図である。トランス3は、第1の一次巻線31、第2の一次巻線32、二次巻線33、およびコア34を備えている。コア34は、第1の一次巻線31および第2の一次巻線32と二次巻線33との磁気的なカップリングを向上させるためのフェライト等の磁性部材であり、本実施形態では、
図2に示すように略矩形の環形状である。
【0027】
図1に示すように、第1の一次巻線31の一方の入力端子は出力ラインC1に接続され、他方の入力端子は出力ラインC2に接続されている。また、第2の一次巻線32の一方の入力端子は出力ラインC1に接続され、他方の入力端子は出力ラインC3に接続されている。二次巻線33の一方の出力端子は整流回路4の一方の入力端子に接続され、他方の出力端子は整流回路4の他方の入力端子に接続されている。二次巻線33には、2つの出力端子とは別にセンタタップが設けられている。第1の一次巻線31、第2の一次巻線32、および二次巻線33は、それぞれコア34に巻回されており、互いに磁気結合可能である。
【0028】
本実施形態では、
図2に示すように、第2の一次巻線32と二次巻線33とが、コア34に重ねて巻回されている。したがって、第2の一次巻線32と二次巻線33との結合度は高く、漏れインダクタンスが小さい。なお、第2の一次巻線32と二次巻線33との巻回方法は、限定されず、結合度が高く、漏れインダクタンスが小さければよい。例えば、第2の一次巻線32と二次巻線33との巻回方法は、バイファイラ巻きであってもよい。一方、第1の一次巻線31は、二次巻線33から離れて巻回されている。したがって、第1の一次巻線31は、第2の一次巻線32より、二次巻線33との結合度が低く、漏れインダクタンスが大きい。なお、第1の一次巻線31と二次巻線33との巻回方法は、限定されず、結合度が比較的低く、所望の漏れインダクタンスが得られればよい。また、トランス3の構成は、これに限られない。
【0029】
図3は、トランス3の変形例を示す断面図である。当該変形例では、コア34に第2の一次巻線32が巻回され、その外側に二次巻線33が重ねて巻回されている。また、二次巻線33の外側に、第1の一次巻線31が重ねて巻回されている。
図3(a)では、二次巻線33と第1の一次巻線31との間の図示しない絶縁部材を厚くすることで、二次巻線33と第1の一次巻線31との間隔Lを大きくしている。これにより、第1の一次巻線31は、第2の一次巻線32より、二次巻線33との結合度が低くなり、漏れインダクタンスが大きくなっている。当該変形例では、間隔Lの大きさによって、第1の一次巻線31と二次巻線33との結合度を調整して、漏れインダクタンスを調整できる。
図3(b)では、二次巻線33と第1の一次巻線31とをずらして巻回することで、二次巻線33と第1の一次巻線31との重なり面積Sを小さくしている。これにより、第1の一次巻線31は、第2の一次巻線32より、二次巻線33との結合度が低くなり、漏れインダクタンスが大きくなっている。当該変形例では、重なり面積Sによって、第1の一次巻線31と二次巻線33との結合度を調整して、漏れインダクタンスを調整できる。もちろん、上記した間隔Lおよび重なり面積Sの両方を調整して、第1の一次巻線31と二次巻線33との結合度を調整してもよい。
【0030】
整流回路4は、トランス3のセンタタップを用いた両波整流回路であり、トランス3が出力する高周波電流を整流して、直流電流として出力する。整流回路4は、2個の整流用ダイオード41,42と、直流リアクトル43とを備えている。整流用ダイオード41,42は、トランス3の二次巻線33の各出力端子に、それぞれアノード端子が接続されて、それぞれのカソード端子が互いに接続されている。直流リアクトル43は、整流用ダイオード41,42のカソード端子側での接続点と、溶接電源装置A1の出力端子aとの間に直列接続されており、出力電流を安定させる。トランス3のセンタタップは、溶接電源装置A1の出力端子bに接続されている。整流回路4が出力する直流電流が、溶接電流として溶接トーチTに流れる。なお、整流回路4の構成は限定されない。
【0031】
電流センサ7は、トランス3のセンタタップと出力端子bとの間の接続線に配置されており、溶接電源装置A1の出力電流を検出して、電流信号として制御回路5に出力する。なお、電流センサ7の配置位置は限定されず、整流回路4の出力電流を検出できればよい。
【0032】
制御回路5は、インバータ回路2を制御するものであり、インバータ回路2を制御するための駆動信号を生成して、ドライブ回路6に出力する。制御回路5は、出力電流制御を行っており、電流センサ7より入力される電流信号に基づいて、溶接電源装置A1の出力電流をフィードバック制御する。また、制御回路5は、位相シフト制御を行う。制御回路5は、目標設定部51および駆動信号生成部52を備えている。
【0033】
目標設定部51は、溶接電源装置A1の出力電流の目標値である目標電流値を設定する。目標設定部51は、設定された目標電流値を、駆動信号生成部52に出力する。目標設定部51は、作業者によって入力されたり、あらかじめプログラミングされている溶接条件に基づいて、目標電流値を設定する。
【0034】
駆動信号生成部52は、所定のデューティ比で所定の周波数のパルス信号を生成して、駆動信号P1~P6としてドライブ回路6に出力する。このとき、駆動信号生成部52は、電流センサ7より入力される電流信号と、目標設定部51より入力される目標電流値との偏差に基づいて、駆動信号P1と駆動信号P4(または駆動信号P6)とで位相差を設けて出力し、駆動信号P3と駆動信号P2(または駆動信号P5)とで位相差を設けて出力する。駆動信号P1~P4の波形は、
図6(b)の波形図に示す各波形と同様になる。駆動信号P5の波形は駆動信号P2と同様であり、駆動信号P6の波形は駆動信号P4と同様である。駆動信号P1~P6は、ドライブ回路6で増幅されて、スイッチング素子TR1~TR6のゲート端子にそれぞれ入力される。位相差を設けることで、駆動信号P1のパルスと駆動信号P4(P6)のパルスとが重なる部分、および、駆動信号P3のパルスと駆動信号P2(P5)のパルスとが重なる部分が小さくなる。したがって、パルス幅が同じでも、位相差を設けない場合より出力を小さくすることができる。駆動信号生成部52は、電流信号と目標電流値との偏差が大きいほど、位相差を大きくすることにより、出力を減少させる。一方、駆動信号生成部52は、当該偏差が小さいほど、位相差を小さくすることにより、出力を増加させる。なお、駆動信号生成部52による駆動信号P1~P6の生成方法は限定されない。
【0035】
また、駆動信号生成部52は、目標設定部51より入力される目標電流値に基づいて、出力する駆動信号を変更する。駆動信号生成部52は、目標電流値をあらかじめ設定されている閾値と比較する。駆動信号生成部52は、目標電流値が閾値未満の場合、溶接電源装置A1(整流回路4)の出力電流が小さい状態(小出力状態)であると判断する。駆動信号生成部52は、小出力状態の場合には、駆動信号P1~P4を出力し、駆動信号P5~P6を出力しない。一方、駆動信号生成部52は、目標電流値が閾値以上の場合、溶接電源装置A1(整流回路4)の出力電流が大きい状態(大出力状態)であると判断する。駆動信号生成部52は、大出力状態の場合には、駆動信号P1,P3,P5,P6を出力し、駆動信号P2,P4を出力しない。つまり、駆動信号生成部52は、駆動信号P1,P3を常に出力するが、小出力状態の場合には駆動信号P2,P4を出力し、大出力状態の場合には駆動信号P5,P6を出力する。閾値は、小出力状態と大出力状態とを切り分けるための電流値が、実験やシミュレーションに基づいて設定される。具体的には、閾値は、第2の一次巻線32に電流を流した場合でも、漏れインダクタンスの不足による問題の発生が抑制できる状態を大出力状態とするように設定され、例えば、溶接電源装置A1の定格電流の50~60%程度の値が設定される。なお、閾値は限定されない。
【0036】
なお、駆動信号生成部52は、電流センサ7より入力される電流信号に基づいて、小出力状態と大出力状態とを判断してもよい。また、駆動信号生成部52は、溶接電源装置A1(整流回路4)の出力電力に基づいて、小出力状態と大出力状態とを判断してもよい。また、駆動信号生成部52(ドライブ回路6)は、大出力状態の場合には、駆動信号P2をスイッチング素子TR2ではなく、スイッチング素子TR5に出力し、駆動信号P4をスイッチング素子TR4ではなく、スイッチング素子TR6に出力してもよい。
【0037】
駆動信号生成部52は、小出力状態の場合には、駆動信号P1~P4を出力して、スイッチング素子TR1~TR4を駆動させる。これにより、インバータ回路2は、第1の一次巻線31に高周波電流を流して励磁させる。一方、駆動信号生成部52は、大出力状態の場合には、P1,P3,P5,P6を出力して、スイッチング素子TR1,TR3,TR5,TR6を駆動させる。これにより、インバータ回路2は、第2の一次巻線32に高周波電流を流して励磁させる。
【0038】
次に、溶接電源装置A1の作用効果について説明する。
【0039】
本実施形態によると、トランス3は、二次巻線33に磁気結合する第1の一次巻線31および第2の一次巻線32を備えている。第1の一次巻線31は、第2の一次巻線32より、二次巻線33との結合度が低く、漏れインダクタンスが大きい。制御回路5は、小出力状態の場合には、駆動信号P1~P4を出力して、スイッチング素子TR1~TR4を駆動させる。これにより、インバータ回路2は、第1の一次巻線31に高周波電流を流して励磁させる。この場合、第2の一次巻線32を励磁させるより漏れインダクタンスを大きくできるので、漏れインダクタンスの不足による問題の発生を抑制できる。一方、制御回路5は、大出力状態の場合には、駆動信号P1,P3,P5,P6を出力して、スイッチング素子TR1,TR3,TR5,TR6を駆動させる。これにより、インバータ回路2は、第2の一次巻線32に高周波電流を流して励磁させる。この場合、第1の一次巻線31を励磁させるより漏れインダクタンスを小さくできるので、二次側に流れる電流の低下を抑制できる。したがって、溶接電源装置A1の最大出力電流の低下を抑制できる。
【0040】
また、本実施形態によると、制御回路5は、位相シフト制御を行う。したがって、インバータ回路2は、ハイサイドのスイッチング素子TR1とスイッチング素子TR2(または、スイッチング素子TR5)とが同時にオンになる期間(
図6(b)期間C参照)、および、ローサイドのスイッチング素子TR3とスイッチング素子TR4(または、スイッチング素子TR6)とが同時にオンになる期間を有する。漏れインダクタンスに蓄えられたエネルギーによって、これらの期間に電流が循環されることで、インバータ回路2は、スイッチング素子TR1~TR6のゼロボルトスイッチングを実現できる。また、小出力状態では、漏れインダクタンスが大きい第1の一次巻線31が利用されるので、ゼロボルトスイッチングが行えない状態になることが抑制される。
【0041】
なお、本実施形態においては、溶接電源装置A1は、小出力状態の場合には第1の一次巻線31を励磁させ、大出力状態の場合には第2の一次巻線32を励磁させる場合について説明したが、これに限られない。溶接電源装置A1は、大出力状態の場合には、第1の一次巻線31および第2の一次巻線32の両方を励磁させてもよい。具体的には、駆動信号生成部52は、大出力状態の場合には、駆動信号P1~P6をすべて出力して、スイッチング素子TR1~TR6をすべて駆動させる。スイッチング素子TR2とスイッチング素子TR5とは同じ動作を行い、スイッチング素子TR4とスイッチング素子TR6とは同じ動作を行う。したがって、インバータ回路2は、第1の一次巻線31と第2の一次巻線32とに高周波電流を流し、第1の一次巻線31および第2の一次巻線32の両方を励磁させる。これにより、溶接電源装置A1は、大出力状態において、第2の一次巻線32だけを励磁させる場合と比較して、結合度をより高めることができる。したがって、溶接電源装置A1は、大出力状態において、漏れインダクタンスをより小さくできるので、二次側に流れる電流の低下をより抑制できる。この場合、第1の一次巻線31と第2の一次巻線32とは、二次巻線33との結合度が同程度であってもよい。したがって、
図4に示すように、第1の一次巻線31と第2の一次巻線32とが二次巻線33から同じくらい離れた位置に配置されてもよい。
【0042】
〔第2実施形態〕
図5は、第2実施形態に係る溶接電源装置A2を説明するための図であり、溶接電源装置A2の全体構成を示す図である。同図において、溶接電源装置A1(
図1参照)と同一または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。本実施形態にかかる溶接電源装置A2は、第1の一次巻線31と第2の一次巻線32との切り替え方法が、溶接電源装置A1と異なる。
【0043】
本実施形態では、インバータ回路2は、スイッチング素子TR5およびスイッチング素子TR6(第3アーム)を備えていない。また、トランス3において、第2の一次巻線32は、第1の一次巻線31に対して並列に接続されている。すなわち、第2の一次巻線32の一方の入力端子が出力ラインC1に接続され、他方の入力端子が出力ラインC2に接続されている。そして、第2の一次巻線32には、スイッチ35が直列に接続されている。スイッチ35は、制御回路5によって、オンとオフとを切り替えられる。スイッチ35がオンの場合、第2の一次巻線32は第1の一次巻線31に並列接続した状態となる。一方、スイッチ35がオフの場合、第2の一次巻線32は第1の一次巻線31から切り離された状態となる。なお、スイッチ35は、半導体スイッチであってもよいし、機械的なスイッチであってもよい。
【0044】
また、本実施形態では、制御回路5は、切替部53をさらに備えている。本実施形態の駆動信号生成部52は、小出力状態であるか大出力状態であるかにかかわらず、駆動信号P1~P4を出力する。切替部53は、目標設定部51より入力される目標電流値に基づいて、スイッチ35の切り替えを行う。切替部53は、第1実施形態の駆動信号生成部52と同様に、小出力状態であるか大出力状態であるかを判断する。切替部53は、小出力状態の場合には、スイッチ35をオフにする。この場合、インバータ回路2が出力する高周波電流は、第1の一次巻線31のみに流れて、第1の一次巻線31のみを励磁させる。一方、切替部53は、大出力状態の場合には、スイッチ35をオンにする。この場合、インバータ回路2が出力する高周波電流は、第1の一次巻線31と第2の一次巻線32とに流れて、第1の一次巻線31および第2の一次巻線32の両方を励磁させる。
【0045】
本実施形態によると、制御回路5は、小出力状態の場合には、スイッチ35をオフにして第1の一次巻線31のみを励磁させる。これにより、漏れインダクタンスの不足による問題の発生が抑制される。一方、制御回路5は、大出力状態の場合には、スイッチ35をオンにして第1の一次巻線31および第2の一次巻線32の両方を励磁させる。これにより、漏れインダクタンスが小さくなり、二次側に流れる電流の低下が抑制されるので、溶接電源装置A2の最大出力電流の低下を抑制できる。また、本実施形態においても、制御回路5が位相シフト制御を行うので、インバータ回路2はゼロボルトスイッチングを実現できる。
【0046】
なお、本実施形態においては、溶接電源装置A2は、小出力状態の場合には第1の一次巻線31を励磁させ、大出力状態の場合には第1の一次巻線31および第2の一次巻線32の両方を励磁させる場合について説明したが、これに限られない。溶接電源装置A2は、大出力状態の場合には、第2の一次巻線32のみを励磁させてもよい。具体的には、トランス3が第1の一次巻線31に直列接続するスイッチをさらに備え、切替部53が当該スイッチの切り替えも行ってもよい。
【0047】
上記第1~2実施形態においては、本発明を溶接電源装置に適用した場合について説明したが、これに限られない。本発明は、インバータ回路で直流電圧を高周波電圧に変換して、トランスで高周波電圧を変圧するすべての電源装置に適用可能である。
【0048】
本発明に係る電源装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る電源装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0049】
A1,A2:溶接電源装置、1:直流電源、2:インバータ回路、3:トランス、31:第1の一次巻線、32:第2の一次巻線、33:二次巻線、4:整流回路、5:制御回路