(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131166
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】化学蓄熱システム
(51)【国際特許分類】
F28D 20/00 20060101AFI20220831BHJP
F24S 23/70 20180101ALI20220831BHJP
F24S 20/30 20180101ALI20220831BHJP
F24S 60/20 20180101ALI20220831BHJP
F24S 90/00 20180101ALI20220831BHJP
【FI】
F28D20/00 G
F24S23/70
F24S20/30
F24S60/20
F24S90/00 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021029969
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】390013033
【氏名又は名称】三鷹光器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】中村 勝重
(57)【要約】
【課題】太陽熱を有効利用でき且つ輸送容器に収納されて持ち運びされる化学蓄熱材に対して最適な化学蓄熱システムを提供する。
【解決手段】ヘリオスタット3で太陽光Lを加熱部2に集光して加熱し、その熱を高温エアーAとして輸送容器8内に供給することで、輸送容器8内の化学蓄熱材Cを脱水反応させて化学的に蓄熱することができる。熱を利用する場合は輸送容器8内に高湿空気Bを供給することにより熱を容易に取り出すことができる。そのため太陽熱を有効利用でき且つ輸送容器8に収納されて持ち運びされる化学蓄熱材Cに対して最適である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の高さを有し且つ内部に通気可能な内部空間を有するタワーと、
耐熱性及び通気性を有し、タワーの上部で内部空間と連通した状態で形成されている加熱部と、
タワーの周囲の地上領域に設置され、太陽光を加熱部に向けて反射して加熱する複数のヘリオスタットと、
タワーの内部空間に設けられ、加熱部の周辺のエアーを加熱部を介して内部空間内に導入して高温エアーとし、該高温エアーを内部空間内で下向きに送風する送風手段と、
タワーの下部に設けられ、タワーの内部空間内の高温エアーを排出する排気口と、
両端に開閉自在な開口を有し、両方の開口の開成時に一方から他方へ通気可能な構造で、内部に化学蓄熱材が通気可能な状態で収容されている輸送容器とを備えている化学蓄熱システムであって、
前記輸送容器の一方の開口とタワーの下部の排気口を接続して、内部空間内の高温エアーを輸送容器内に供給可能であることを特徴とする化学蓄熱システム。
【請求項2】
輸送容器の内部が上下方向で多段に区画され、一方の開口から他方の開口へ向けて連通する通気路が複数形成され、
各通気路に、両端の開口部分にそれぞれ位置する開閉バルブと、通気自在な化学蓄熱材がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1記載の化学蓄熱システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学蓄熱システムに関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄工場、ゴミ焼却施設、火力発電所などの排熱を利用した高温エアーを輸送容器内に収容された化学蓄熱材に供給して蓄熱する技術が知られている。蓄熱された輸送容器を必要な場所まで輸送し、そこで輸送容器内に高湿空気を供給することにより化学蓄熱材を水和発熱させ、その熱を取り出して利用する。このような化学蓄熱システムにおける熱源としては前述のような施設の排熱の他に太陽熱などの利用も示唆されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の関連技術にあっては、化学蓄熱システムのための熱源として太陽熱が示唆されているものの、その具体的手段、特に輸送容器に収納されて持ち運びされる化学蓄熱材に対して最適な化学蓄熱システムは何ら示されておらず、その有効な提案が待たれている。
【0005】
本発明は、このような従来の関連技術に着目してなされたものであり、太陽熱を有効利用でき且つ輸送容器に収納されて持ち運びされる化学蓄熱材に対して最適な化学蓄熱システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の技術的側面によれば、所定の高さを有し且つ内部に通気可能な内部空間を有するタワーと、耐熱性及び通気性を有し、タワーの上部で内部空間と連通した状態で形成されている加熱部と、タワーの周囲の地上領域に設置され、太陽光を加熱部に向けて反射して加熱する複数のヘリオスタットと、タワーの内部空間に設けられ、加熱部の周辺のエアーを加熱部を介して内部空間内に導入して高温エアーとし、該高温エアーを内部空間内で下向きに送風する送風手段と、タワーの下部に設けられ、タワーの内部空間内の高温エアーを排出する排気口と、両端に開閉自在な開口を有し、両方の開口の開成時に一方から他方へ通気可能な構造で、内部に化学蓄熱材が通気可能な状態で収容されている輸送容器とを備えている化学蓄熱システムであって、前記輸送容器の一方の開口とタワーの下部の排気口を接続して、内部空間内の高温エアーを輸送容器内に供給可能であることを特徴とする。
【0007】
本発明の第2の技術的側面によれば、輸送容器の内部が上下方向で多段に区画され、一方の開口から他方の開口へ向けて連通する通気路が複数形成され、各通気路に、両端の開口部分にそれぞれ位置する開閉バルブと、通気自在な化学蓄熱材がそれぞれ設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の第1の技術的側面によれば、ヘリオスタットにより集光した太陽光によりタワー頂部の加熱部を加熱し、その加熱部の熱を送風手段により高温エアーとしてタワー下部の排気口に導く。そして排気口から高温エアーを輸送容器内に供給するため、輸送容器内に収容された化学蓄熱材は脱水反応を起こして化学的に蓄熱される。蓄熱された輸送容器は熱が必要な場所へ輸送され、そこで高湿空気を一方の開口から輸送容器内に供給することで内部の化学蓄熱材が水和反応を起こして発熱し、反対側の開口から熱を取り出すことができる。
【0009】
本発明の第2の技術的側面によれば、輸送容器の内部が上下で複数の通気路に区画されているため、全ての通気路の開閉バルブを開いて高温エアーを輸送容器内へ供給することで全ての化学蓄熱材を一度に蓄熱状態にすることができる。そして熱を利用する場合は、輸送された場所における熱の必要量に合わせて、通気路の開閉バルブを個別に開き、その通気路だけに高湿空気を供給すれば、必要な量の熱だけを取り出すことができ、蓄熱した輸送容器を長時間使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】蓄熱作業前の輸送容器及びその周辺構造を示す斜視図。
【
図4】蓄熱作業時の輸送容器及びその周辺構造を示す斜視図。
【
図5】蓄熱作業時の輸送容器及びその周辺構造を示す側面図。
【
図6】開閉バルブを全閉した状態を示す輸送容器の断面図。
【
図8】ステンレスウール中に化学蓄熱材が分散された状態を示す断面図。
【
図9】蓄熱作業時の輸送容器を示す一部省略の断面図。
【
図10】熱利用時の輸送容器を示す一部省略の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1~
図10は本発明の好適な実施形態を示す図である。
【0012】
この実施形態に係る化学蓄熱システムの中心には所定高さ(約10m)のタワー1が立設されている。タワー1は内部空間Pを有し、それ自体がエアーの通路になっている。タワー1の頂部には耐熱セラミック製の加熱部2が設けられている。この加熱部2は多孔質で通気性があり、内部空間Pと連通した状態になっている。従って、内部空間Pを減圧することで加熱部2の周辺のエアーは加熱部2を通過して内部空間P内に取り込まれる。
【0013】
タワー1の周囲の地上には、太陽Sを追尾しながら、太陽光Lを常に加熱部2に向けて反射するヘリオスタット3が複数設置されている。ヘリオスタット3はタワー1を中心にその北側を取り巻く状態でそれぞれ南向きに設置され、太陽光Lを効率よく加熱部2に集光することができる。
【0014】
内部空間Pの下側には内部空間P内のエアーを下向きに送風する送風手段4が設けられている。この送風手段4を稼働させると、送風手段5よりも上側の内部空間Pは減圧された状態となる。内部空間Pの送風手段4より更に下方には、内部空間Pが直角に曲げられた状態の排気口5が形成されている。排気口5の先端には接続用のジャバラ6が設けられている。
【0015】
排気口5の横には大型の重量計7が設けられ、その上に輸送容器8が載せられている。重量計7の上面はトラック9の荷台と同じ高さであり、輸送容器8はトラック9の荷台から容易に重量計7に載せることができる。逆に重量計7の上面からトラック9の荷台に載せることもできる。輸送容器8にはロック付きの車輪10が設けられており、この車輪10により移動可能で、移動先では車輪10をロックすることにより位置を固定できる。
【0016】
輸送容器8は金属製の概略角筒状で、両端に断面が収束した開口11、12を有している。輸送容器8の内部は上下方向で4段に区画されており、それぞれ両端が開口11、12に至る通気路13となっている。通気路13の開口11、12部分にはそれぞれ開閉バルブ14、15が設けられている。この開閉バルブ14、15は個別に開閉することができる。
【0017】
各通気路13には通気可能で耐熱性のあるステンレスウール16が収納されている。このステンレスウール16にはペレット状に成形された化学蓄熱材(水酸化マグネシウム)Cが分散されている。化学蓄熱材Cとしては、その他にも硫酸カルシウム水和物、塩化カルシウム水和物、水酸化カルシウムなど、蓄熱に伴って水蒸気を揮発する物質が使用可能である。
【0018】
次に実際に輸送容器8を使用する場合の手順を説明する。
【0019】
熱の利用が済んだ輸送容器8内の化学蓄熱材Cは吸湿して水酸化マグネシウムの状態になっている。輸送容器8の開閉バルブ14、15は輸送のために全て閉状態とし、輸送容器8は密閉状態にしておく(
図6参照)。この化学蓄熱材Cを再度蓄熱状態に戻すには、まず輸送容器8をトラック9で重量計7まで運び、トラック9の荷台から重量計7の上に載せる(
図4参照)。
【0020】
輸送容器8の開閉バルブ14、15は重量計7に載せた後に全て開状態にする。次に輸送容器8の一方の開口11に排気口5のジャバラ6を接続する。そして送風手段4を稼働させる。そうすると加熱部2の周辺のエアーは加熱部2を介して内部空間P内に導入される。エアーは太陽光Lにより高温となった加熱部2を通過することにより高温エアーAとなり内部空間P内で下向きに送風される。
【0021】
内部空間P内の高温エアーAは排気口5から輸送容器8の一方の開口11より輸送容器8内に供給される(
図5参照)。
【0022】
輸送容器8内に供給された高温エアーAは全ての通気路13のステンレスウール16を通過する。ステンレスウール16を通過する際に化学蓄熱材Cは脱水反応を起こして、水酸化マグネシウムから酸化マグネシウムに変化し、輸送容器8内の全ての化学蓄熱材Cが化学的に蓄熱された状態となる。
【0023】
そして輸送容器8の反対側の開口12からは高湿空気Bが排出される(
図9参照)。輸送容器8内の化学蓄熱材Cの脱水蓄熱が進むと輸送容器8全体の重量が軽くなる。そのためその重量変化を重量計7で測定して、蓄熱が完了した時点を判別し、高温エアーAの供給を停止すると共に、全ての開閉バルブ14、15を閉状態にする。輸送容器8と排気口5の接続を解除して、輸送容器8を再び重量計7からトラック9に載せる。そして熱が必要な場所に搬送する。
【0024】
輸送された先で大量の熱が必要な場合は、輸送容器8の全ての開閉バルブ14、15を開状態にする。そして一方の開口11から高湿空気Bを供給する。高湿空気Bが全ての通気路13のステンレスウール16を通過する間に化学蓄熱材Cは水和発熱反応を起こし、高温エアーAが反対側の開口12から放出される(
図10参照)。その排出された高温エアーAの熱を利用することができる。寒冷地での施設の暖房や、農業ハウスの暖房などに使用することができる。
【0025】
一度に大量の熱を必要としない場合は、各通気路13の開閉バルブ14、15を個別開き、各通気路13ごとに高湿空気Bを供給して熱を少しずつ取り出すこともできる。そうすることで輸送容器8内に蓄熱された熱を長時間にわたって使用することができる。熱の利用が終了した輸送容器8は再度開閉バルブ14、15を全閉状態にし、トラック9により重量計7まで輸送し、そこで太陽熱により繰り返し蓄熱することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 タワー
2 加熱部
3 ヘリオスタット
4 送風手段
5 排気口
8 輸送容器
11、12 開口
13 通気路
14、15 開閉バルブ
A 高温エアー
B 高湿空気
C 化学蓄熱材
L 太陽光
P 内部空間P
S 太陽