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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131195
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】ピアシング方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 7/00 20060101AFI20220831BHJP
【FI】
B23K7/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030016
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】595099960
【氏名又は名称】株式会社群馬コイケ
(71)【出願人】
【識別番号】000185374
【氏名又は名称】小池酸素工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000718
【氏名又は名称】特許業務法人中川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】柏俣 和也
(72)【発明者】
【氏名】古城 昭
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敏一
(57)【要約】
【課題】鋼板にピアシングを行う際の予熱時間を短縮する。
【解決手段】中心に配置された切断酸素噴出孔の周囲に複数の予熱ガス噴出孔が配置されたガス切断火口によって鋼板にピアシングするための方法であって、火口5を、切断酸素噴出孔1が予め鋼板Aに設定されたピアシング位置Pから該切断酸素噴出孔1から予熱ガス噴出孔2までの寸法に略対応させた距離だけ離隔させてピアシング予熱を行うためのピアシング予熱位置Ppに配置し、このピアシング予熱位置Ppで火口5の予熱ガス噴出孔2から予熱ガスを噴出させ、予熱炎3によってピアシング位置Ppを予熱し、ピアシング位置Ppを予熱した後、火口5を切断酸素噴出孔1がピアシング予熱位置Ppからピアシング位置Pに対向するように移動させ、その後、切断酸素噴出孔1から切断酸素を噴出させてピアシングする。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心に配置された切断酸素噴出孔の周囲に複数の予熱ガス噴出孔が配置されたガス切断火口によって鋼板にピアシングするための方法であって、
ガス切断火口を、切断酸素噴出孔が予め鋼板に設定されたピアシング位置から該切断酸素噴出孔から予熱ガス噴出孔までの寸法に略対応させた距離だけ離隔させてピアシング予熱を行うためのピアシング予熱位置に配置し、
前記ピアシング予熱位置で前記ガス切断火口の予熱ガス噴出孔から予熱ガスを噴出させて前記ピアシング位置を予熱し、
前記ピアシング位置を予熱した後、前記ガス切断火口を切断酸素噴出孔が前記ピアシング予熱位置からピアシング位置に対向するように移動させ、
その後、前記ガス切断火口の切断酸素噴出孔から切断酸素を噴出させてピアシングすることを特徴とするピアシング方法。
【請求項2】
前記ガス切断火口の切断酸素噴出孔から切断酸素を噴出させてピアシングするのに伴って、該ガス切断火口を上昇させることを特徴とする請求項1に記載したピアシング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス切断火口を利用したピアシング方法に関し、特にピアシングに要する予熱時間を短縮することができるピアシング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中心に切断酸素噴出孔が配置されると共に、該切断酸素噴出孔を中心とする円周上に複数の予熱ガス噴出孔が配置されたガス切断火口を用いて、鋼板から製品を切断することが行われている。この場合、鋼板の表面に予め設定された位置(ピアシング位置)で厚さ方向に貫通した孔を形成(ピアシング)し、該孔を始点として切断を開始する方法(以下「従来方法」という)を行うのが一般的である。
【0003】
鋼板に対するピアシングを実施する場合、ガス切断火口の切断酸素噴出孔を、切断すべき鋼板に設定されたピアシング位置に対向させ、この状態で予熱ガス噴出孔から予熱ガスを噴出して予熱炎を形成することで予熱を開始している。予熱時間の経過に伴って、予熱部位は赤色から黄色に変化し、黄色に変化した部位が溶融する。そして、予熱部位が充分に予熱された後、切断酸素を噴出させると、噴出した切断酸素流によってピアシング位置の母材が燃焼し、燃焼生成物や溶融母材が排除される。この反応が成長して鋼板に厚さ方向に貫通した孔が形成されることでピアシングが終了する(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3751728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、ガス切断火口を用いて鋼板に対するピアシングを行う場合、切断酸素噴出孔を予め設定されたピアシング位置に対向させて予熱を行う。このため、鋼板はピアシング位置を中心とした円周状に予熱されることとなり、ピアシング位置は予熱炎によって加熱されることがなく、周囲が予熱されてリング状の溶融状態になっているにも関わらず低温の黒点状態を保持している。
【0006】
この結果、ピアシング位置がピアシングを行える温度まで上昇するのに必要な時間が長くなる。それでも、鋼板の厚さが12mm程度であれば大幅に予熱時間が長くなることもない。しかし、厚さが20mm程度或いはそれ以上の厚さになると全体の切断時間に対するピアシングに要する時間の割合が大きくなるという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、鋼板にピアシングを行う際の予熱時間を短縮することができるピアシング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係る代表的なピアシング方法は、中心に配置された切断酸素噴出孔の周囲に複数の予熱ガス噴出孔が配置されたガス切断火口によって鋼板にピアシングするための方法であって、ガス切断火口を、切断酸素噴出孔が予め鋼板に設定されたピアシング位置から該切断酸素噴出孔から予熱ガス噴出孔までの寸法に略対応させた距離だけ離隔させてピアシング予熱を行うためのピアシング予熱位置に配置し、前記ピアシング予熱位置で前記ガス切断火口の予熱ガス噴出孔から予熱ガスを噴出させて前記ピアシング位置を予熱し、前記ピアシング位置を予熱した後、前記ガス切断火口を切断酸素噴出孔が前記ピアシング予熱位置からピアシング位置に対向するように移動させ、その後、前記ガス切断火口の切断酸素噴出孔から切断酸素を噴出させてピアシングすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るピアシング方法では、ガス切断火口(以下単に「火口」という)の切断酸素噴出孔を、鋼板に予め設定されたピアシング位置に対向させることなく、該切断酸素噴出孔から予熱ガス噴出孔までの寸法に略対応させた距離だけ離隔させている。このため、ピアシング位置には、切断酸素孔の周囲に形成された複数の予熱ガス噴出孔の何れかが対向し或いは極めて接近することとなり、予熱炎によってピアシング位置又は極めて近い位置を予熱することができる。
【0010】
このため、ピアシング位置に対する予熱効果を向上させることができ、これに伴ってピアシングに対する予熱時間の短縮化をはかることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】代表的な火口の構成を説明する図である。
図2】代表的な火口の構成を説明する図である。
図3】鋼板から製品を切断する際のピアシング位置を示す図である。
図4】ピアシング予熱を実施する際の手順を説明する図である。
図5】ピアシングを実施する際の手順を説明する図である。
図6】ピアシングを実施する際のタイミングを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るピアシング方法について説明する。本発明のピアシング方法は、火口を用いて鋼板に対するピアシングを行う際に、予め鋼板に設定されているピアシング位置に切断酸素噴出孔を対向させることなく、予熱ガス噴出孔を対向させ或いは接近させて予熱することで、ピアシング位置を集中的に予熱するものである。そして、ピアシング位置が十分に予熱された後、切断酸素噴出孔がピアシング位置に対向するように火口を移動させ、該切断酸素噴出孔から切断酸素を噴出して予熱されたピアシング位置にピアシングを行うことで、予熱時間を短縮するものである。
【0013】
ピアシング方法の説明に先立って、対象となる鋼板Aにおけるピアシング位置Pの説明と、火口5、6について説明する。図3はピアシング位置Pについて説明する図である。例えば、予め鋼板Aから切断すべき製品Bが設定され、これらの製品Bの鋼板Aに対する配置位置が設定される。製品Bが配置された鋼板Aに於けるスクラップ部分にピアシング位置Pと、該ピアシング位置Pから製品Bに至る導入切断線Cが夫々設定される。そして、ピアシング位置Pで鋼板Aにピアシングを行った後、該ピアシング位置Pから導入線Cを経て製品Bを一筆書き状に切断することが可能である。
【0014】
図1図2は火口の構成について説明する図である。図1は、例えばアセチレンガスのように燃焼速度が速いガスを燃焼させて予熱炎を形成する形式の火口5を示している。この火口5では、中心に切断酸素を噴射するための切断酸素噴出孔1が形成されており、該切断酸素噴出孔1を中心とする円周上に複数の予熱ガス噴出孔2が配置されている。予熱ガス噴出孔2は夫々が円形の孔として形成されている。
【0015】
図2は、例えば液化石油ガス(LPG)のように比較的燃焼速度の遅いガスを燃焼させて予熱炎を形成する形式の火口6を示している。この火口6では、中心に切断酸素を噴射するための切断酸素噴出孔1が形成されており、該切断酸素噴出孔1を中心とする円周上に複数の予熱ガス噴出孔2が配置されている。予熱ガス噴出孔2は夫々がスリットとして形成されている。
【0016】
尚、図1図2に於いて、符号1aは火口5及び火口6に夫々形成された切断酸素噴出孔1と連続した切断酸素通路である。また、符号2aは火口5及び火口6に夫々形成された予熱ガス噴出孔2と連続した予熱ガス通路である。
【0017】
上記夫々の火口5、6に於ける切断酸素噴出孔1の径、予熱ガス噴出孔2の数、などの仕様は切断すべき鋼板Aの厚さに対応させて設定されている。このため、予熱ガス噴出孔2が配置される円周の径(PCD)も予熱ガス噴出孔2の数に対応させて設定されている。従って、切断酸素噴出孔1から予熱ガス噴出孔2までの寸法(PCD/2)は火口5、6の仕様に応じて設定される。
【0018】
以下、図4図6により本実施例に係るピアシング方法について説明する。尚、各図では図1に示すように円形の孔からなる予熱ガス噴出孔2を配置した火口5を利用した場合について説明するが、複数のスリットからなる予熱ガス噴出孔2を配置した火口6を利用した場合でも各工程は同一である。
【0019】
先ず、鋼板Aの表面を基準高さh0としたとき、予熱ガス噴出孔2から予熱ガスを噴出して予熱炎3を形成して最も温度高い部位が鋼板Aの表面と接触するような高さh1となるように火口5の高さを調整する。また、切断酸素噴出孔1の位置を、ピアシング位置Pから予熱ガス噴出孔2までの寸法(PCD/2)に略対応させた距離だけ離隔させたピアシング予熱位置Ppに設定する。
【0020】
上記の如くして火口5をピアシング予熱位置Ppに設定することで、複数の予熱ガス噴出孔2の何れかがピアシング位置Pか、或いは極めて接近した位置に対向し、ピアシング作業の準備が完了する(t0)。尚、予熱ガス噴出孔2がスリットによって形成されている火口6では、一般的に隣接するスリットの間隔が狭いため、確実に何れかのスリット(予熱ガス噴出孔2)をピアシング位置Pに対向させることが可能である。
【0021】
ピアシング作業の準備が完了した後に、予熱ガス噴出孔2から予熱ガスを噴出させて点火することで予熱炎3を形成し、この予熱炎3によってピアシング位置Pを予熱する。この予熱状態をピアシング予熱位置Ppで保持しながら、予め設定された時間が経過したとき、切断酸素噴出孔1をピアシング予熱位置Ppからピアシング位置Pに対向するように火口5を移動させる。
【0022】
予熱炎3を形成してからの時間t1が経過したとき、切断酸素噴出孔1から切断酸素気流4を噴出させてピアシング位置Pに対するピアシングを行うと同時に火口5を高さh2まで上昇させる。火口5を上昇させることで、ピアシング位置Pから吹き上げられた燃焼生成物や溶融母材の付着を防ぐことが可能である。更に、予熱炎3による鋼板Aの予熱、及び切断酸素の噴射を継続することで、切断酸素気流4によって鋼板Aに厚さ方向に貫通した孔7を形成することが可能である。
【0023】
そして、所定時間t2が経過して、鋼板Aに厚さ方向に貫通した孔7が形成される直前或いは形成された後、火口5の高さをh2から通常の切断高さであるh1まで下降させて導入線Cの切断に移行する。
【0024】
上記した実施例に於いて、予熱時間t0~t1、火口高さh1、ピアシング時における火口の上昇高さh2及び上昇から下降に要する時間t1~t2などの値は限定するものではなく、鋼板Aの厚さや表面の状態などの条件に対応させて適宜設定することが好ましい。
【0025】
特に、火口が数値制御切断装置に搭載されているような場合、予熱ガス噴出孔2のPCDの値や、前述した予熱時間t0~t1、t1~t2、火口高さh1、h2などの数値を制御装置に記憶させておくことで、鋼板Aに対するピアシング作業を自動的に実施することが可能である。
【0026】
尚、プログラムにより自動的に制御して実施するうえで、従来方法のプログラムに於いて、上記の如き一連の動作の前工程として、火口5又は火口6に於ける切断酸素噴出孔1をピアシング位置Pからピアシング予熱位置Ppに対向するように火口5又は火口6を移動させて実施する追加動作を行うことで、従来方法でのプログラムにも、簡単に適用でき同じ効果を得ることが可能である。
【0027】
また、前述の追加動作の実行について、有効にするか或いは無効にするかを、ハードスイッチやソフトスイッチなどにより選択し得るようにすることで、鋼板Aの厚さや表面の状態などの条件に対応させることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明に係るピアシング方法は、鋼板に対して手動操作によって或いは自動制御してピアシングを実施する際に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0029】
A 鋼板
B 製品
C 導入切断線
P ピアシング位置
Pp ピアシング予熱位置
1 切断酸素噴出孔
1a 切断酸素通路
2 予熱ガス噴出孔
2a 予熱ガス通路
3 予熱炎
4 切断酸素気流
5、6 火口
7 孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6