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特開2022-131196金属電極端子表面が再生された電子部品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131196
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】金属電極端子表面が再生された電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/10 20060101AFI20220831BHJP
   H05K 3/26 20060101ALI20220831BHJP
   C23G 5/00 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
H05K3/10 Z
H05K3/26 Z
C23G5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030017
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】依田 智子
(72)【発明者】
【氏名】関野 崇
(72)【発明者】
【氏名】佐柄 道昭
(72)【発明者】
【氏名】皆川 円
【テーマコード(参考)】
4K053
5E343
【Fターム(参考)】
4K053PA01
4K053PA13
4K053QA07
4K053RA46
4K053SA01
4K053SA02
4K053XA11
4K053YA09
5E343BB09
5E343BB59
5E343BB62
5E343DD67
5E343ER38
5E343FF30
5E343GG20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】長期の経年劣化によって金属電極端子の表面が可成り酸化された電子部品について、ギ酸還元を改良することによって、端子表面から酸化膜を効果的に除き、工業用途に再利用可能な電子部品を製造する方法を提供する。
【解決手段】電子部品は、製造後3年を経過した電子部品であり、基板9にはんだ接合される端子20を有し、端子にははんだ接合用の金属がメッキされてなり、金属の酸化膜を除くための処理を実行することによって、端子表面が再生された電子部品の製造方法であって、処理は、金属酸化膜のギ酸還元熱処理を含む。ギ酸還元熱処理は、ギ酸還元の反応開始温度から金属の融点以下で実行する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造後3年を経過した電子部品であって、基板にはんだ接合される端子を有し、当該端子には前記はんだ接合用の金属がメッキされてなり、前記金属の酸化膜を除くための処理を実行することによって、端子表面が再生された、前記電子部品の製造方法であって、
前記処理は前記金属酸化膜のギ酸還元熱処理を含み、
当該ギ酸還元熱処理は、ギ酸還元の反応開始温度から前記金属の融点以下で実行されるようにした電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記金属として、SnPbが前記端子にメッキされている、請求項1記載の電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記ギ酸還元熱処理は、前記金属とギ酸とが反応して生成された金属化合物が分解される温度以下で実行される、請求項1記載の電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記ギ酸還元熱処理は、前記酸化膜が還元された金属がギ酸還元雰囲気中の酸素によって再酸化されることを抑制可能な期間内で実行される、請求項1記載の電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記ギ酸還元熱処理は、前記金属の酸化膜であるSnO2が還元されたSnOが前記金属に表出される条件で実行される、請求項2記載の電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記ギ酸還元熱処理の後、前記電子部品の収容空間を真空引きする、請求項1記載の電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属電極端子表面が再生された電子部品の製造方法に係り、詳しくは、長期の経年劣化によって金属電極端子表面が酸化された電子部品に、ギ酸還元熱処理を適用することによって電極端子の表面から酸化膜が除かれ、その結果、工業用途に再利用可能な電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品をはんだ接続する際、接続しようとする二つの金属から酸化膜を除去することによって両者がはんだが濡れるようにし、その結果、金属間化合物を介して良好なはんだ接続が実現できること、が知られている。酸化膜除去は、フラックスを含むはんだペーストを用いて行わる。このフラックスの残渣は、電子装置の腐食やショートを引き起こす原因となる。そこで、フラックスレスはんだが存在する。
【0003】
フラックスレスはんだとしてギ酸リフローがある。これは、ギ酸の蒸気雰囲気での加熱によって、電子部品の電極金属酸化膜と基材金属の酸化膜、及び、はんだの金属酸化膜を除去しつつはんだ接合を実現するというものである。
【0004】
特開2004-323977号公報は、基材の表面から金属酸化物をフラックスレスで除去するための方法を提供することを目的として、還元ガスを含むガス混合物にターゲット領域を通過させること、第1及び第2の電極の少なくとも一方にエネルギーを供給して当該ターゲット領域内で電子を発生させ、その際、電子のうちの少なくとも一部分が還元ガスの一部分に付着して負に帯電した還元ガスを生じるようにすること、及び、基材をこの負に帯電した還元ガスと接触させて基材表面の金属酸化物を還元すること、を含む方法を開示している。
【0005】
さらに、下記の非特許文献1は、半導体銅多層配線の配線抵抗低減を目的に、抵抗増大の一つの要因である接続部銅表面の酸化膜をギ酸ドライクリーニングによって除去する装置の開発を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-323977号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】立石秀樹、他2名、“半導体銅配線表面酸化膜の大気中除去装置の開発”、エバラ時報、No.218(2008-1)PP.40-44、No.218(2008-1)PP.40-44
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
昇降機は建築物と共に数十年近く稼働されるため、昇降機には定期的な改修や保守が適用される。その際、昇降機の制御のための基板も更新され、基板に実装されている電子部品が交換される。昇降機の保守は可成りな長期にわたるため、電子部品が生産中止になり将来代替品もないことのリスクに備えて電子部品が長期間備蓄される。
【0009】
このように長期に備蓄を要する電子部品として、例えば、マイコン/FPGAに適用される挿入型IC(DIP(Dual In-line Package))部品がある。さらに、備蓄品が枯渇した場合には回収基板から電子部品をリユースすることが必要になる。
【0010】
DIP部品は、その端子電極がプリント基板のスルーホールに挿入され、基板下から溶融はんだを部分噴流させるというフロー処理によって、基板の導電パターンに、はんだ接続される。良好なはんだフィレットを形成させるために、フロー処理の前に、DIP部品の電極を溶融はんだに浸漬する「再はんだ」と呼ばれる前処理が行われる。
【0011】
しかしながら、長期にわたって保管された電子部品ははんだに濡れない、「はんだはじき」が発生するという課題がある。そこで、発明者は、「再はんだ」の代替技術として、長期保管されたDIP部品にギ酸還元を応用することを考えたが、長期保管された電子部品や長期に使用されたリユース品は、その端子の表面状態が長期に亘る経年劣化によって大きく変質し、ギ酸還元によっても容易に電極の表面状態が基板とのはんだ接合可能なように、容易には、再生できない課題に思い至った。
【0012】
そこで、本発明は、長期の経年劣化によって金属電極端子の表面が可成り酸化された電子部品について、ギ酸還元を改良することによって、端子表面から酸化膜を効果的に除き、以って、工業用途に再利用可能な電子部品の製造方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明は、製造後3年を経過した電子部品であって、基板にはんだ接合される端子を有し、当該端子には前記はんだ接合用の金属がメッキされてなり、前記金属の酸化膜を除くための処理を実行することによって、端子表面が再生された、前記電子部品の製造方法であって、前記処理は前記金属酸化膜のギ酸還元熱処理を含み、当該ギ酸還元熱処理は、ギ酸還元の反応開始温度から前記金属の融点以下で実行されるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
長期の経年劣化によって金属電極端子の表面が可成り酸化された電子部品について、ギ酸還元を改良することによって、端子表面から酸化膜を効果的に除き、以って、工業用途に再利用可能な電子部品の製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】経年劣化した電極端子の径方向の一部断面図である。
図2】経年劣化した電子部品を基板に実装した状態を示す斜視図である。
図3】供試材について、XPS分析を実行して端子表面の組成を分析した結果を示すグラフである。
図4】ギ酸還元熱処理の温度と熱処理の時間との組み合わせの例を示グラフである。
図5】端子にSnメッキが施された供試材をギ酸還元熱処理した後のXPS分析結果を示すグラフである。
図6】端子にSnPbメッキが施された供試材をギ酸還元熱処理した後のXPS分析結果を示すグラフである。
図7】端子にフラックスを塗布し、溶融したSnPbはんだ槽(設定上限摂氏230°)を利用して再はんだを行いその後ギ酸還元熱処理したもののXPS分析結果を示すグラフである。
図8】ギ酸還元熱処理のメカニズムを示す図である。
図9】ギ酸由来の残渣、すなわち、ギ酸由来の化学結合基O=C-O-が供試材の端子表面に存在しているか否かについてのXPS分析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
Sn37Pb共晶はんだ金属は時間経過によって結晶粒が粗大化することが知られている。その結果、Cu上のSnPbメッキ膜は、電子部品の製造から長期、例えば、3年以上、特に、10年以上、さらに、15年から20年間を超えて経過すると、SnとPbとは互いに分離して、電極表面はSnで覆われ、Pbが表面から下の層に集まるといった構造の変化が生じる。
【0017】
図1は、経年劣化した電極端子の径方向の一部断面図を示す。1は電極表面のSn酸化膜であり、2は粗大化したSn結晶粒からなるはんだ層であり、3は凝集したPbからなる結晶粒であり、4は、はんだと基材により形成された金属間化合物層であり、5はCu基材である。長期に亘って保管、又は、使用された電子部品の端子表面の酸化膜厚さは60nmにも及ぶ。これは、基板に実装するために通常使用される電子部品の端子酸化膜の厚さ2nm、これより多くても、4~5nmの10~30倍の厚さである。
【0018】
このような厚い酸化膜に対して再はんだを適用しても、はんだに対して濡れない、はんだはじき(デュウエッティング)が発生する問題がある。そこで、経年劣化した端子表面を再生するために、本発明者は、ギ酸還元加熱処理を利用した。しかしながら、従来ギ酸リフローははんだ接合に利用されていただけであって、経年劣化した端子表面を再生させることに応用した例はない。経年劣化した端子表面は、既述の金属結晶粒が変質して、厚い酸化膜に覆われているため、ギ酸還元加熱処理に対する挙動は単純ではなく、ギ酸還元熱処理の条件が緩いと酸化膜を除くことができないか、又は、十分ではなく、一方、この条件が厳しいと、雰囲雰囲気の酸素量が微量であっても、却って、端子表面が酸化されてしまったり、そして、電子部品に熱損傷を与えてしまうおそれもある。そこで、発明者は、端子表面の再生、又は、更新のために、ギ酸還熱元処理を改良して適用することをこころみた。
【0019】
供試材として、電極端子がはんだ金属でメッキ(Snメッキ、SnPbメッキ)されたDIP部品(ルネサス製PTM(プログラマブル タイマー モジュール)、形式:MC6840CP、製造年月日:2001年9月)を利用した。
【0020】
図2に、DIP部品の実装例を示す。DIP部品は、複数の端子20がパッケージ7の両側面から基板9側に向かって突出している。端子20が基板9のスルーホールに挿入される。はんだを溶かして槽に満たしておき、その上を、基板を通過させてはんだ10をスルーホールから噴き上げて(11)端子を基板にはんだ接合する。
【0021】
供試材のギ酸還元熱処理にシーマ電子株式会社製ギ酸リフロー装置を利用した。ギ酸還元熱処理の温度は、供試材の端子に接続した熱電対温度計によって管理した。供試材をギ酸リフロー装置内に収容した後、真空引き1.5分の後3分間掛けて目的温度まで装置内を加熱した後、ギ酸/窒素ガス混合雰囲気(ギ酸30%)で供試材を所定時間保持し、その後、真空引きを行った。
【0022】
供試材の端子表面の状態を、(株)日立ハイテクノロジーズ製電界放出型走査電子顕微鏡S-4800を利用して観察した。端子表面の定性、そして、定量には、XPS分析装置(PHI Quantera II(アルバック・ファイ株式会社製))を用いた。測定条件を、X線源:単色化Al(1486.6eV)、検出領域:100μmφ、検出深さ:約4~5nm(取出角45°)、測定スペクトル:ワイドとした。Sn3d5/2軌道に着目して金属Snを、Sn4d軌道に着目してSnO2(4価のSn)を、価電子帯に着目してSnO(2価のSn)を各供試材について比較した。
【0023】
供試材(SnPbメッキ)について、端子の金属組織の拡大SEM像を確認したところ、表面に酸化膜が一様に形成されていることを確認した。次いで、ギ酸還元熱処理の温度を変え、ギ酸還元熱処理時間5分、熱処理後に3分真空引きを行った。そして、各供試材について、XPS分析を実行して端子表面の組成を分析した。その結果を、図3に示す。端子表面での構成元素の比率は、△<〇<◎である。“As received”は、ギ酸還元熱処理を適用しないサンプルを示す。摂氏160°~180°では、Sn酸化物の還元処理が十分でないことが分かる。摂氏200°では、Sn酸化物の還元処理によって、端子表面にSnが表出するものの、Sn酸化物の還元は十分ではないことが分かる。一方、摂氏220°~240°では、Sn酸化物が還元によってSnの比率が大きくなるものの、Sn酸化物も存在していることが分かる。これは、ギ酸リフロー装置内の雰囲気中に存在する酸素が影響している。
【0024】
即ち、長期に亘り劣化した金属端子の再生に対する好適なギ酸還元は、端子表面の厚い酸化膜を還元しながら、還元と同時に雰囲気中に存在する酸素によって表面が酸化されることを抑制し、そして、電子部品の熱劣化も抑制できるようなものになるように、ギ酸還元のための温度と時間との組み合わせを設定することが肝要である。
【0025】
そこで、発明者は、ギ酸還元熱処理の温度と熱処理の時間との最適な組み合わせを見出すために、供試材に、温度と時間との組み合わせを図4のようにしてギ酸還元熱処理を行い、ギ酸還元熱処理された供試材等についてXPS分析(●)を行った。
【0026】
図5に端子にSnメッキが施された供試材をギ酸還元熱処理した後の結果を示し、図6に端子にSnPbメッキが施された供試材をギ酸還元熱処理した後の結果を示し、図7に当該供試材の端子にフラックスを塗布し、溶融したSnPbはんだ槽(設定上限摂氏230°)を利用して再はんだを行いその後ギ酸還元熱処理したものの結果を示す。図5~7の夫々において、金属Snや金属SnPbの比表面積を(a)に、SnOの比表面積を(b)に、SnO2の比表面積を(c)に示す。
【0027】
図8にギ酸還元熱処理のメカニズムを示す。そのプロセスは、(1)ギ酸の金属表面への吸着、(2)金属酸化物から酸素原子を解離させて、(3)その引き抜きと、CO2とH2Oの脱離という段階を経て進むことが言われている。本願発明者が検討したところ、摂氏160°、180°といった、SnPbの融点(摂氏183°)付近の摂氏200°以下の低温域では、Snに着目すると、
Sn+2HCOOH→Sn(COOH)2+H2・・・(1)
SnO+2HCOOH→Sn(COOH)2+H2・・・(2)
によって、Snの再酸化と、SnOが還元された結果であるSnOと、の再酸化が抑制されることがわかった。
そして、摂氏220°を超えると、有機金属(Sn(COOH)2)が、
Me(COOH)2→Me+2CO2+H2・・・(3)
によって、金属と二酸化炭素と水素とに分解する。
【0028】
図5において、摂氏160°では、全てのギ酸還元熱処理パターン(加熱時間が2分、7分、27分)についてSn(融点)は検出されてなく、摂氏200°では、ギ酸還元熱処理時間が2分パターについてSnは検出されてなく、摂氏220°では、全てのパターンについてSnが検出された。SnOについては、夫々の検出量とパターンとの傾向に違いは見られなかった。SnO2については、27分のパターンの摂氏180°~200°、2分のパターンの摂氏200°~220°において、SnO2の低下が顕著であった。したがって、端子がSnメッキされた供試材について、好適なギ酸還元熱処理パターンは、供試材の熱ダメージを考慮すると、温度が摂氏180°乃至200°で時間が2分から7分の形態が好適であるといえる。
【0029】
図6において、摂氏160°乃至摂氏180°において、熱処理7分と27分のパターンについて金属SnPbが検出された。なお、XPSでは、SnとPbのエネルギー値が重なり、SnOとSnO2のような軌道着目によりエネルギーの完全な分離ができないため“SnPb”とした。一方、SnOとSnO2との検出量と処理温度の傾向について、熱処理2分のパターンと熱処理7分のパターンとに大きな差は認められなかった。したがって、端子がSnPbメッキされた供試材について、好適なギ酸還元熱処理パターンは、温度が摂氏160°乃至180°で時間が2分~7分以内の形態が好適であるといえる。
【0030】
図7において、再はんだを端子に対して実行した供試材については、熱処理温度が摂氏180°で熱処理時間が7分以外のパターン以外の全てのパターンで金属SnPbが検出されている。これは、再はんだ処理により、経年劣化を起因とする酸化膜が取り除かれ、端子表面が新しいSnPbはんだに置き換わり、その結果、ギ酸還元熱処理前の表面酸化が少ないことが要因である。一方、SnOとSnO2の検出量は,温度の上昇とともに増加している。これは、雰囲気中の酸素によって、端子表面のSnPbが酸化されたことによるものであり、事実、温度が摂氏180°を超えると(熱処理時間2分)、端子表面のSnPbの検出量が低下する。したがって、好適なギ酸還元熱処理パターンは、温度が摂氏160°乃至180°で時間が2分、又は、27分が好適であるといえる。
【0031】
以上の結果から、発明者は次の知見を得た。供試材に対するギ酸還元熱処理は、ギ酸還元の開始温度(摂氏150°)から、端子にメッキされた金属の融点以下の比較的低温領域で実行されることがよい。熱処理の継続時間は、還元された端子表面がギ酸還元熱処理の雰囲気中に存在する酸素によって、再酸化されない程度の時間であることがよい。
【0032】
加熱温度と時間との最適な組み合わせは、端子にメッキされる金属によって変わってくる。例えば、既述の図6に示すように、端子にSnPbメッキがされた供試材については、ギ酸還元熱処理の温度域は、摂氏150°からSnPbの融点(摂氏183°)以下の180°でよい。
【0033】
そして、既述のとおり、端子表面のSn酸化膜であるSnO2が還元された結果としてのSnとSnOは、化学式(3)に示すように、ギ酸由来のカルボキシル基と金属化合物を形成して、再酸化が抑制されるために、温度域の上限は、この金属化合物が分解される摂氏200°~摂氏220°でもよい。
【0034】
さらに、加熱の継続時間は、ギ酸処理によって、SnO2が還元されたSnOが所定量以上に増加した範囲でよく、加熱時間が長いと、還元された端子表面がギ酸雰囲気に混在する酸素によって再酸化されて好ましくない。
【0035】
次に、ギ酸処理後の真空引きについて説明する。ギ酸由来の残渣、すなわち、ギ酸由来の化学結合基O=C-O-が供試材の端子表面に存在しているか否かについてXPS分析を用いて検証した。その結果を図9に示す。図9の(1)は端子にSnPbメッキされた供試材(ギ酸加熱処理:摂氏220°、5分、真空引き:3分)の結果を示し、(2)は端子にSnPbメッキされた供試材(ギ酸加熱処理:摂氏240°、5分、真空引き:3分)の結果を示し、(3)は端子にSnPbメッキされた供試材(ギ酸処理:なし、真空引き:3分)の結果を示す。
【0036】
図9に示すように、(1)~(3)のいずれについても、288-289[eV]付近のO=C-O-のピークは同じように小さいため、ギ酸処理後の真空引きによって、供試材の端子表面の金属酸化物から酸素を取り除いた後のギ酸処理後の残渣が供試材から除かれたことが分かる。
【0037】
本発明の技術的範囲は、既述の実施形態、実施例によって限定されるものではなく、材料の組成、温度、反応条件には他の形態のものも適用される。例えば、端子にメッキされるはんだ金属は、既述のものに限られなることはなく、Sn57Bi共晶はんだ金属でもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 Sn酸化膜、2 粗大化したSn結晶粒のはんだ層、3 凝集したPbはんだ結晶粒、4 はんだと基材により形成された金属間化合物層、5 Cu基材、7 パッケージ、9 基板、10 はんだフロー、20 端子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9