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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131210
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】レール破断検知装置
(51)【国際特許分類】
   B61L 1/18 20060101AFI20220831BHJP
【FI】
B61L1/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030035
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000207470
【氏名又は名称】大同信号株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106345
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 香
(72)【発明者】
【氏名】近松 直明
(72)【発明者】
【氏名】村永 祐介
(72)【発明者】
【氏名】布施 卓也
(72)【発明者】
【氏名】村上 徹
(72)【発明者】
【氏名】道下 一幸
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161BB03
5H161DD04
5H161FF05
5H161FF07
(57)【要約】
【課題】無絶縁軌道回路では列車やレール破断の進行状況が隣の区間の検知信号のレベル変化に異なる影響を及ぼすことに基づいてレール破断の発生や存在を検出する。
【解決手段】両端無絶縁区間13,14,…について列車通過時の受信レベルHのレベル低下状態に係る基準データK,L,Mを保持し、更に各区間13,14,…の受信レベルHに係るK,L間の低下状態(tb)や、Mに係る上昇状態を検出し、それらの変化を基準データに照らして、当該の無絶縁区間や,隣の区間,三連続の無絶縁区間の中間の区間にレール破断が生じたと判定する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
並走レールの各区間に送信器と受信器とが交互に接続されて前記各区間について検知信号を送受する一連の無絶縁軌道回路を具備したレール破断検知装置において、
前記各区間のうち両区間端が何れも絶縁されていない両端無絶縁区間について列車通過時の受信信号のレベル低下状態に係る所定の基準データを保持するデータ保持手段と、前記両端無絶縁区間に係る受信信号のレベル低下状態を検出する検出手段とを備え、
前記両手段のレベル低下状態に係るデータのうち対応するもの同士を比較して前記検出手段側のレベル低下状態の方が前記データ保持手段側のレベル低下状態より急であるときに、当該無絶縁区間にレール破断が生じたと判定するようになっている、ことを特徴とするレール破断検知装置。
【請求項2】
並走レールの各区間に送信器と受信器とが交互に接続されて前記各区間について検知信号を送受する一連の無絶縁軌道回路を具備したレール破断検知装置において、
前記各区間のうち両区間端が何れも絶縁されていない両端無絶縁区間について列車通過時の受信信号のレベル上昇状態に係る所定の基準データを保持するデータ保持手段と、前記両端無絶縁区間に係る受信信号のレベル上昇状態を検出する検出手段とを備え、
前記両手段のレベル上昇状態に係るデータのうち対応するもの同士を比較して前記検出手段側のレベル値が前記データ保持手段側のレベル値を上回ったときに、当該両端無絶縁区間の隣の無絶縁区間にレール破断が生じたと判定するようになっている、ことを特徴とするレール破断検知装置。
【請求項3】
並走レールの各区間に送信器と受信器とが交互に接続されて前記各区間について検知信号を送受する一連の無絶縁軌道回路を具備したレール破断検知装置において、
前記各区間のうち両区間端が何れも絶縁されていない両端無絶縁区間について列車通過時の受信信号のレベル上昇状態に係る所定の基準データを保持するデータ保持手段と、前記両端無絶縁区間に係る受信信号のレベル上昇状態を検出する検出手段とを備え、
前記両手段のレベル上昇状態に係るデータのうち対応するもの同士を比較して前記検出手段側のレベル値が前記データ保持手段側のレベル値を上回っているときに、当該両端無絶縁区間の隣の無絶縁区間にレール破断が存在していると判定するようになっている、ことを特徴とするレール破断検知装置。
【請求項4】
並走レールの各区間に送信器と受信器とが交互に接続されて前記各区間について検知信号を送受する一連の無絶縁軌道回路を具備したレール破断検知装置において、
前記各区間のうち両区間端が何れも絶縁されていない両端無絶縁区間について列車通過時の受信信号のレベル上昇状態に係る所定の基準データを保持するデータ保持手段と、前記両端無絶縁区間に係る受信信号のレベル上昇状態を検出する検出手段とを備え、
前記両端無絶縁区間が三つ連なる連続区間における両端の区間いずれについても、前記両手段のレベル上昇状態に係るデータのうち対応するもの同士を比較して前記検出手段側のレベル値が前記データ保持手段側のレベル値を上回っているときに、前記連続区間における中間の区間にレール破断が存在していると判定するようになっている、ことを特徴とするレール破断検知装置。
【請求項5】
並走レールの各区間に送信器と受信器とが交互に接続されて前記各区間について検知信号を送受する一連の無絶縁軌道回路を具備したレール破断検知装置において、
前記各区間のうち両区間端が何れも絶縁されていない両端無絶縁区間について列車通過時の受信信号のレベル上昇状態およびレベル低下状態に係る所定の基準データを保持するデータ保持手段と、前記両端無絶縁区間に係る受信信号のレベル上昇状態を検出する検出手段とを備え、
前記両端無絶縁区間が三つ連なる連続区間における両端の区間いずれについても、前記両手段のレベル上昇状態に係るデータのうち対応するもの同士を比較して、前記検出手段側のレベル値が前記データ保持手段側のレベル値を上回っており、且つ、前記連続区間における中間の区間について、前記両手段のレベル低下状態に係るデータのうち対応するもの同士を比較して、前記検出手段側のレベル値が前記データ保持手段側のレベル値を下回っているときに、前記連続区間における中間の区間にレール破断が存在していると判定するようになっている、ことを特徴とするレール破断検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、列車が走行するためのレールについてその破断状態を検知するレール破断検知装置に関する。
詳しくは、レール対からなる鉄道の軌道における無絶縁軌道回路の検知区間に係る通電状態に基づいてレール破断状態を示す情報を取得してレール破断の有無に係る判定を行うレール破断検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軌道回路は(例えば非特許文献1参照)、並走レール即ち列車走行用に並んで敷設された二本のレールが列車の車輪と車軸とで電気的に短絡されることを利用して送電端(一端,始端)から送電した電力が受電端(他端,終端)に届くか否かに応じて列車の在線/非在線を検出する列車検知機能を発揮するものであるが(例えば特許文献1参照)、その機能だけでなく、次のレール破断検知機能も発揮することができる。
すなわち、列車の走行等による過大な応力を軌道が受けて亀裂・破断・折損といったレール破断の障害が発生したときも、そこの通電状態が悪化して、列車非在線状態であっても受電側の電圧や電流が低下したり更には途絶するといった状況に至るため、受電信号からレール破断状態の情報を得るというレール破断検知機能も発揮することができる。
【0003】
そのような軌道回路装置の機能のうち後者のレール破断検知機能を主要機能とするものがレール破断検知装置であり、軌道回路のレール対における送電端の電圧および電流に加えて受電端の電圧も測定して故障部位を高い確度で切り分けるようになった軌道回路故障部位特定装置や(例えば特許文献2参照)、並走するレール対について破断を検知できるレール破断検知装置などが(例えば特許文献3参照)、開発され実用に供されている。
また軌道回路には(例えば非特許文献1のP10参照)、区間境界にレール絶縁を設ける有絶縁軌道回路と、レール絶縁を設けない無絶縁軌道回路とがある。
【0004】
両者のうち後者の無絶縁軌道回路用のレール破断検知装置が本願発明の基礎になっているので、ここで、その具体例を説明する(図9参照)。
無絶縁軌道回路では、並走レール10が幾つかの区間11,12,13,14,…,1N,…に分割され、それぞれの区間境界に線路寄りのマッチングトランスMTが接続されている。無絶縁軌道回路なので、区間境界でも両区間のレールが繋がっている。また、それらのマッチングトランスMTそれぞれに一対一でレール破断検知装置20側のマッチングトランスMTが接続されており、レール破断検知装置20が並走レール10の各区間11,12,…に対して検知信号を送受信しうるようになっている。
【0005】
レール破断検知装置20は、大別すると送信部21と受信部22と処理部23とを主体としたものである。
そのうち、送信部21は、複数の送信器ST,ST,…や送信切換器などを具備しており、所定周波数の検知信号を生成してマッチングトランスMT,MT経由で各区間11,12,…へ時分割で送信するようになっている。
また、受信部22は、複数の受信器RT,RT,…や受信切換器などを具備しており、各区間11,12,…からマッチングトランスMT,MT経由で到達した検知信号を時分割で受信するようになっている。
【0006】
そして、送信部21と受信部22とが処理部23から受けた送信制御情報Cや受信制御情報Dに従って連携しながら時分割で送受信を行うことで、並走レール10の区間11,12,13,14,…それぞれに流れた検知信号を検出するようになっている。なお、無絶縁軌道回路なので、検知信号送信先の区間から隣の区間や更にその先の区間への信号漏洩は避けられないが、区間を経る度に信号レベルが急減するので、検知信号送信先の区間に係る検知信号の受信が他区間からの信号漏洩によって困難になる訳ではない。
【0007】
処理部23は、電子回路を主体としたものであり、レベル設定器24と制御器25と判定部26とレベル検知器27と入出力器28とを具備している。
レベル設定器24は、人手操作やデータ通信などで外部から列車検知レベルAや送信設定レベルBを取得して、列車検知レベルAは判定部26に通知し、送信設定レベルBは制御器25に通知するようになっている。
制御器25は、送信設定レベルBに基づいて送信制御情報Cや受信制御情報Dを作成して、それらの情報C,Dを判定部26に通知するとともに、送信制御情報Cは送信部21に通知し、受信制御情報Dは受信部22に通知するようになっている。
【0008】
レベル検知器27は、送信レベルGを送信部21から取得するとともに、受信レベルHを受信部22から取得して、各区間11,12,13,14…毎の対応付け等も行って、それらG,Hを判定部26に通知するようになっている。
入出力器28は、判定部26が出した比較結果Iを、適宜な信号レベル変換やデータ形式変換なども施してから、列車検知情報・レール破断情報Jとして外部へ出力するようになっている。
【0009】
判定部26は、何れも上述した列車検知レベルAと送信制御情報Cと受信制御情報Dとを参照して判定レベルの決定や調整を行うとともに、レベル検知器27から受けた送信レベルGや受信レベルHを対象にしてレベル監視を行うことで、各区間11,12,13,14…について信号レベル(例えば受信レベルHの値そのままでも良いが、軌道長やケーブル長の相違などの影響を排除や抑制する等のために受信レベルHと送信レベルGとの比H/Gなどが多用される)が列車検知レベルAを超えているか否かを判別し、その比較結果Iを出力するようになっている。
【0010】
そのため、レール破断検知装置20から出される列車検知情報・レール破断情報Jは、並走レール10の区間毎に出され、各区間について検知信号が検出されれば明瞭な「列車非在線かつレール破断無し」に該当する値をとる一方、各区間について検知信号が検出されなければ、列車在線の状態なのかレール破断有りの状態なのかを明瞭に区別することができないので、混然とした「列車在線またはレール破断有り」に該当する値をとることになる。
【0011】
その具体例を示すと(図10参照)、このようなレール破断検知装置20にあっては、列車が来ておらず且つレール破断が無いときには(図10(a)参照)、例えば区間13,14の境界に接続された送信器ST(13,14)から並走レール10に対して検知信号が送出されると、その検知信号は(矢付き二点鎖線を参照)、区間13の一方のレール13aと、区間12,13の境界に接続された受信器RT(12,13)と、区間13の他方のレール13bとを一巡するのに加え、区間14の一方のレール14aと、区間14,15の境界に接続された受信器RT(14,15)と、区間14の他方のレール14bとをも一巡する。
【0012】
そのため、受信器RT(12,13)と受信器RT(14,15)とが検知信号を受信するように受信部22の状態を切り換え、更に送信器ST(13,14)が検知信号を時分割で並走レール10へ送出すると、受信器RT(12,13)によって検知信号が受信されるので、区間13には列車が来ておらず且つレール破断も無いことが判明する。また、受信器RT(14,15)によって検知信号が受信されるので、区間14にも列車が来ておらず且つレール破断も無いことが判明する。そのため、列車検知情報・レール破断情報Jの値が「列車非在線かつレール破断無し」にされる。
【0013】
そして、その状態から、区間13に列車30が進入すると(図10(b)参照)、列車30の車輪と車軸とによって区間13では並走レール13a,13bが短絡されるため、送信器ST(13,14)から受信器RT(12,13)に向けて送出された検知信号は、受信器RT(12,13)に到達しなくなる。
また、区間13にレール破断40が発生すると(図10(c)参照)、破断したレール13aだけでなく、対をなすレール13bと、区間13に接続された受信器RT(12,13)にも、検知信号は流れなくなる。
【0014】
このように列車在線時もレール破断時も検知信号の有無が同様になるため、列車検知情報・レール破断情報Jの値は、「列車在線またはレール破断有り」になる。
なお、上記の説明では割愛したが、並走レール10の各区間12,13,14,15,…が無絶縁軌道回路なので、送信器ST(13,14)から受信器RT(12,13)へ送出された検知信号は一部が区間12に漏洩し、送信器ST(13,14)から受信器RT(14,15)へ送出された検知信号は一部が区間15に漏洩するが、伝送距離の増大等にて減衰するので、遠方のレベル判定には影響しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2005-262895号公報
【特許文献2】特開2011-207449号公報
【特許文献3】特開2020-152172号公報
【特許文献4】特開2016-159784号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】鉄道技術者のための信号概論「軌道回路」 社団法人「日本鉄道電気技術協会」出版、平成17年5月20日 改訂版2刷発行、p.3~5,10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
このような軌道回路を利用した従来のレール破断検知装置は、列車検知装置と混然となっており、軌道回路を利用して列車追跡機能を発揮する管理システムの下でなければ列車在線状態とレール破断状態とを切り分けるのが難しかった。
これに対し、軌道回路を利用しなくても列車追跡機能を発揮しうる無線式鉄道制御システムが開発されており(例えば特許文献4参照)、そのような鉄道制御システムでは、軌道回路を利用した列車検知装置ばかりか軌道回路そのものまで不要になっている。とは言え、その代償として、レール破断の検知には別の装置を用いることが必要になる。
【0018】
しかしながら、安価で性能も良い実用的なレール破断検知装置が提供される状況には未だ至っていない。一方で、従来のレール破断検知装置は、使用実績が多くて、安定供給や維持管理などの観点からも、使い易い。しかも、無線式鉄道制御システムが導入された既存の線路でも、除去されず残存していたり、追加設置されたりして、レール破断の検知などに使用されていることもある。とはいえ、従来のレール破断検知装置は、軌道回路を利用しているため、軌道回路を利用しない無線式鉄道制御システムとは、検出の区間や手法等が異なるため、検出結果の突き合わせが遣りにくいといった不都合がある。
【0019】
そこで、軌道回路利用のレール破断検知装置を改良して、レール破断を列車検知から区別して検知する機能を高めることが、技術的な基本課題となる。
とはいえ、上述したように軌道回路には有絶縁軌道回路と無絶縁軌道回路とがあり、有絶縁軌道回路の方が無絶縁軌道回路より軌道回路の区間毎の独立性を確保し易いのに対し無絶縁軌道回路の方が有絶縁軌道回路よりコストを抑えやすい、という差違がある。
そのため両タイプについて一律に対処するのには限界があるので、更なる検討対象を低廉な無絶縁軌道回路に絞れば、監視対象区間の状態判別に際して、当該区間の情報が利用できるだけでなく、隣の区間の影響や情報も有効利用できる可能性があると言える。
【0020】
そして、具体的には、無絶縁軌道回路では隣の区間における列車やレール破断の進行状況が当該区間における検知信号のレベル変化に異なる影響を及ぼすことに基づいてレール破断の発生を速やかに検出することが第1技術課題となる。
また、無絶縁軌道回路では隣の区間における列車やレール破断の存在が当該区間における検知信号のレベル状態に異なる影響を及ぼすことに基づいてレール破断の存在を高い確度で検出することが第2技術課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明のレール破断検知装置は(解決手段1)、上述した第1技術課題を解決するために創案されたものであり、
並走レールの各区間に送信器と受信器とが交互に接続されて前記各区間について検知信号を送受する一連の無絶縁軌道回路を具備したレール破断検知装置において、
前記各区間のうち両区間端が何れも絶縁されていない両端無絶縁区間について列車通過時の受信信号のレベル低下状態に係る所定の基準データを保持するデータ保持手段と、前記両端無絶縁区間に係る受信信号のレベル低下状態を検出する検出手段とを備え、
前記両手段のレベル低下状態に係るデータのうち対応するもの同士を比較して前記検出手段側のレベル低下状態の方が前記データ保持手段側のレベル低下状態より急であるときに、当該無絶縁区間にレール破断が生じたと判定するようになっている、ことを特徴とする。
【0022】
また、本発明のレール破断検知装置は(解決手段2)、上述した第1技術課題を解決するために創案されたものであり、
並走レールの各区間に送信器と受信器とが交互に接続されて前記各区間について検知信号を送受する一連の無絶縁軌道回路を具備したレール破断検知装置において、
前記各区間のうち両区間端が何れも絶縁されていない両端無絶縁区間について列車通過時の受信信号のレベル上昇状態に係る所定の基準データを保持するデータ保持手段と、前記両端無絶縁区間に係る受信信号のレベル上昇状態を検出する検出手段とを備え、
前記両手段のレベル上昇状態に係るデータのうち対応するもの同士を比較して前記検出手段側のレベル値が前記データ保持手段側のレベル値を上回ったときに、当該両端無絶縁区間の隣の無絶縁区間にレール破断が生じたと判定するようになっている、ことを特徴とする。
【0023】
さらに、本発明のレール破断検知装置は(解決手段3)、上述した第2技術課題を解決するために創案されたものであり、
並走レールの各区間に送信器と受信器とが交互に接続されて前記各区間について検知信号を送受する一連の無絶縁軌道回路を具備したレール破断検知装置において、
前記各区間のうち両区間端が何れも絶縁されていない両端無絶縁区間について列車通過時の受信信号のレベル上昇状態に係る所定の基準データを保持するデータ保持手段と、前記両端無絶縁区間に係る受信信号のレベル上昇状態を検出する検出手段とを備え、
前記両手段のレベル上昇状態に係るデータのうち対応するもの同士を比較して前記検出手段側のレベル値が前記データ保持手段側のレベル値を上回っているときに、当該両端無絶縁区間の隣の無絶縁区間にレール破断が存在していると判定するようになっている、ことを特徴とする。
【0024】
また、本発明のレール破断検知装置は(解決手段4)、上述した第2技術課題を解決するために創案されたものであり、
並走レールの各区間に送信器と受信器とが交互に接続されて前記各区間について検知信号を送受する一連の無絶縁軌道回路を具備したレール破断検知装置において、
前記各区間のうち両区間端が何れも絶縁されていない両端無絶縁区間について列車通過時の受信信号のレベル上昇状態に係る所定の基準データを保持するデータ保持手段と、前記両端無絶縁区間に係る受信信号のレベル上昇状態を検出する検出手段とを備え、
前記両端無絶縁区間が三つ連なる連続区間における両端の区間いずれについても、前記両手段のレベル上昇状態に係るデータのうち対応するもの同士を比較して前記検出手段側のレベル値が前記データ保持手段側のレベル値を上回っているときに、前記連続区間における中間の区間にレール破断が存在していると判定するようになっている、ことを特徴とする。
【0025】
また、本発明のレール破断検知装置は(解決手段5)、上述した第2技術課題を解決するために創案されたものであり、
並走レールの各区間に送信器と受信器とが交互に接続されて前記各区間について検知信号を送受する一連の無絶縁軌道回路を具備したレール破断検知装置において、
前記各区間のうち両区間端が何れも絶縁されていない両端無絶縁区間について列車通過時の受信信号のレベル上昇状態およびレベル低下状態に係る所定の基準データを保持するデータ保持手段と、前記両端無絶縁区間に係る受信信号のレベル上昇状態を検出する検出手段とを備え、
前記両端無絶縁区間が三つ連なる連続区間における両端の区間いずれについても、前記両手段のレベル上昇状態に係るデータのうち対応するもの同士を比較して、前記検出手段側のレベル値が前記データ保持手段側のレベル値を上回っており、且つ、前記連続区間における中間の区間について、前記両手段のレベル低下状態に係るデータのうち対応するもの同士を比較して、前記検出手段側のレベル値が前記データ保持手段側のレベル値を下回っているときに、前記連続区間における中間の区間にレール破断が存在していると判定するようになっている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
このような本発明のレール破断検知装置にあっては(解決手段1)、レール破断の多くが引張応力下での脆性破壊によって発生することからレール破断発生時の当該区間の信号レベル低下が短時間で急に進行する傾向が強いのに対し、両端無絶縁区間では列車通過時の受信信号のレベル低下が隣の区間に係る列車通過時間に亘って緩やか進行する、という違いに基づいて、当該無絶縁区間の信号レベル低下が基準値より急ならば当該無絶縁区間にレール破断が生じたと判定するようにしたことにより、レール破断が発生した事および時を高い確度で而も間を置くことなく検出することが可能になる。
したがって、この発明によれば、レール破断の発生を速やかに検出することができ、上述した第1技術課題が解決される。
【0027】
また、本発明のレール破断検知装置にあっては(解決手段2)、両端無絶縁区間では、隣の区間への列車進入によって当該区間から隣の区間への信号漏洩が増加して当該区間の信号レベルが低下するのに対し、隣の区間のレールが破断したときには当該区間から隣の区間への信号漏洩が絶たれて当該区間の信号レベルが増加する、という違いに基づいて、当該区間の信号レベルが基準値を超えて増加したら当該無絶縁区間の隣の無絶縁区間にレール破断が生じたと判定するようにしたことにより、レール破断が発生した事および時を高い確度で而も間を置くことなく検出することが可能になる。
したがって、この発明によれば、レール破断の発生を速やかに検出することができ、上述した第1技術課題が解決される。
【0028】
さらに、本発明のレール破断検知装置にあっては(解決手段3)、両端無絶縁区間では、隣の区間への列車進入によって当該区間から隣の区間への信号漏洩が増加して当該区間の信号レベルが低下するのに対し、隣の区間のレールが破断したときには当該区間から隣の区間への信号漏洩が絶たれて当該区間の信号レベルが増加し而も更にレール破断が存続していれば信号レベル増加後の状態が維持され継続する、という違いに基づいて、当該区間の信号レベルが基準値を上回っていれば当該無絶縁区間の隣の無絶縁区間にレール破断が存在していると判定するようにしたことにより、隣の区間にレール破断が存在していることを高い確度で検出することが可能になる。
したがって、この発明によれば、レール破断の存在を検出することができ、上述した第2技術課題が解決される。
【0029】
また、本発明のレール破断検知装置にあっては(解決手段4)、上記解決手段3の検出手法を両隣の両端無絶縁区間に適用して、何れでも隣接区間のレール破断の存在が検出されたときに、中間の区間にレール破断が存在していると判定するようにしたことにより、レール破断の発生区間が絞り込まれることになる。
したがって、この発明によれば、レール破断の存在検出および区間特定を高い確度で行うことができ、上述した第2技術課題が解決される。
【0030】
また、本発明のレール破断検知装置にあっては(解決手段5)、上記解決手段4の検出手法に加えて、中間の区間に係るレベル低下の確認までも行うようにしたことにより、判定の確度が高まることなる。
したがって、この発明によれば、レール破断の存在検出および区間特定をより高い確度で行うことができ、上述した第2技術課題が解決される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施例1~4に係るレール破断検知装置の構成を示すブロック図である。
図2】列車通過時のレール破断検知装置の動作状態を示し、(a)~(e)が列車の進行状況を示す模式図、(f)が受信信号の波形図である。
図3】レール破断時のレール破断検知装置の動作状態を示し、(a)~(e)がレール破断の発生状況を示す模式図、(f)が受信信号の波形図である。
図4】列車通過時のレール破断検知装置の動作状態を示し、(a)~(e)が列車の進行状況を示す模式図、(f)が受信信号の波形図である。
図5】レール破断時のレール破断検知装置の動作状態を示し、(a)~(e)がレール破断の発生状況を示す模式図、(f)が受信信号の波形図である。
図6】列車通過時のレール破断検知装置の動作状態を示し、(a)~(g)が列車の進行状況を示す模式図、(h)が受信信号の波形図である。
図7】列車通過時にレール破断が発生したときのレール破断検知装置の動作状態を示し、(a)~(g)がレール破断の発生状況を示す模式図、(h)が受信信号の波形図である。
図8】レール破断時のレール破断検知装置の動作状態を示し、(a)~(e)がレール破断の発生状況を示す模式図、(f)が受信信号の波形図である。
図9】従来のレール破断検知装置の構成を示すブロック図である。
図10】従来のレール破断検知装置の動作状態を示し、(a)がレール破断が無く而も列車が来ていないときの通電状態を示し、(b)がレール破断の無いところに列車が来たときの通電状態を示し、(c)がレール破断の発生時やその後の通電状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0032】
このような本発明のレール破断検知装置について、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1~4により説明する。
図1~3に示した実施例1は、上述した解決手段1(出願当初の請求項1)を具現化したものであり、図4,5に示した実施例2は、上述した解決手段2,3(出願当初の請求項2,3)を具現化したものであり、図6,7に示した実施例3は、上述した解決手段3~5(出願当初の請求項3~5)を具現化したものであり、図8に示した実施例4は、上述した解決手段1~5(出願当初の請求項1~5)を具現化したものである。
なお、それらの図示に際し従来と同様の構成要素には同一の符号を付して示したので、また、それらについて背景技術の欄で述べたことは以下の各実施例についても共通するので、重複する再度の説明は割愛し、以下、従来との相違点を中心に説明する。
【実施例0033】
本発明のレール破断検知装置の実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図1は、レール破断検知装置60の構成を示すブロック図である。
【0034】
このレール破断検知装置60が、既述したレール破断検知装置20と相違するのは、処理部23が処理部63になった点である。送信部21及び受信部22や、それらと並走レール10との接続に関しては、既述した図9の従来構成をそのまま引き継いでいるので、繰り返しとなる説明は割愛する。
処理部63が既述の処理部23と相違するのは、レベル設定器24がレベル設定器64になった点と、判定部26が判定部66になった点と、入出力器28が入出力器68になった点と、タイマ69が追加された点である。
【0035】
レベル設定器64が既述のレベル設定器24と相違するのは、判定部66に通知する設定事項が、一つだけだった列車検知レベルAから、複数の計時開始レベルK及び計時終了レベルL(何れもレベル低下状態に係る基準データ)に、変更拡張されている点である。計時開始レベルKは、送信レベルGで正規化した受信レベルHが低下し始めてノイズ等では揺らがないレベルに達したと言えるレベル値として設定され、計時終了レベルLは、送信レベルGで正規化した受信レベルHが更に低下して最低値に十分に近づいたと言えるレベル値として設定され、大小関係(高低関係)が計時開始レベルK>計時終了レベルLになる。計時終了レベルLは、既述の列車検知レベルAより少し高めの値か同程度の値に設定される。
【0036】
なお、図1の処理部63には、レベル上昇検知レベルM(レベル上昇状態に係る基準データ)もレベル設定器64で設定され判定部66に通知されるようになっていることが図示されているが、これは、後述の実施例2で使用されるものなので、その役割など具体的な事項は、そこで説明する。
【0037】
タイマ69は、判定部66から計時開始の計時指示Uを受けると時間計測を開始し、計測開始から所定のタイマ動作時間ta(レベル低下状態に係る基準データ)だけ経過したときには自律的にその旨の計時報告Vを判定部66に通知するとともに、計測開始後に経過報告を求める計時指示Uを受けると、それに応じて、それまでのタイマ動作時間tb(レベル低下状態に係る検出値)を計時報告Vとして判定部66に通知するようになっている。
【0038】
判定部66は(図1参照)、既述した制御情報C,Dや信号レベルG,Hに基づくレベル監視を行うが、それに加えて時間監視も行うようになっている。区間14を具体例にして詳述すると(図2図3参照)、計時開始レベルKを上回っていた受信レベルHが計時開始レベルKを下回ったときに計時指示Uにてタイマ69に計時を開始させ、更に受信レベルHが下がって計時終了レベルLをも下回ったときに計時指示Uにてタイマ69からタイマ動作時間を得て、それをレベル変化時間tbとして次に述べる比較判定に用いるようになっている。
【0039】
その比較判定の比較相手になるタイマ動作時間taは、並走レール10の該当区間を列車が通過するのに要する最短時間より短い時間に設定されている。
例えば、検知対象の区間の長さをLrとし、列車の最高速度をVrとすると、タイマ動作時間taは、算出値[Lr/Vr]が理論的な設定値といえるが、実用化の際には、誤差やバラツキの考慮分を減じた値に設定される。なお、上述した計時開始レベルKと計時終了レベルLとを設定するときに両レベル値を近づけておくことでも、誤判定防止効果の向上が望めるが、両値K,Lの接近しすぎは精度の低下を招くので好ましくない。
【0040】
さらに、その比較判定では、上述したタイマ動作時間taとレベル変化時間tbとを比べて、タイマ動作時間ta≦レベル変化時間tbであれば、現状を検出して得たレベル低下状態の方が、予め算出して設定した状態変化値より急ではないので、当該無絶縁区間にレール破断が生じたという比較結果P(判定)は出さないようになっている。これに対し、タイマ動作時間ta>レベル変化時間tbであれば、現状を検出して得たレベル低下状態の方が、予め算出して設定した状態変化値より急なので、当該無絶縁区間についてレール破断が生じたという比較結果P(判定)を出すようになっている。
【0041】
入出力器68は、判定部66が出した比較結果Pを、適宜な信号レベル変換やデータ形式変換なども施してから、レール破断情報Qとして外部へ出力するようになっている。レール破断情報Qは、急なレベル低下を検出したことに応じて出されるものなので、基本的には一時的・短期的なものであるが、受信レベルHが計時終了レベルLを下回っている状態が継続しているときなどには継続的に出力されるようになっていても良い。
【0042】
この実施例1のレール破断検知装置60について、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。
【0043】
図2は、列車通過時の動作状態を示し、(a)~(e)が列車30の進行状況を示す模式図であり、(f)が区間14の検知信号に係る受信レベルHの波形図(一点鎖線を参照)である。
また、図3は、レール破断時の動作状態を示し、(a)~(e)がレール破断40の発生状況を示す模式図であり、(f)が区間14の検知信号に係る受信レベルHの波形図(一点鎖線を参照)である。
【0044】
本例では、レール破断検知装置60の接続先の並走レール10において(図1参照)、一連の区間12,13,14が何れも両端無絶縁区間になっており(図2(a)~(e)参照)、そのうちの区間14にレール破断が発生するものとし(図3(a)~(e)参照)、そのような状況下におけるレール破断検知装置60の動作状態(具体的には受信レベルに応じた判定状況)を時系列的に説明する(図2(f),図3(f)参照)。
【0045】
先ず、正常な並走レール10を区間12,13,14の順に列車30が走行した場合を説明する(図2(a),(f)参照)。
列車30が区間14の手前の手前の区間12を走行している間は(図2(a)参照)、区間14に係る受信レベルH(14)が計時開始レベルKを超える値で安定している(図2(f)t1参照)。そして、列車30が区間14の手前の区間13に移ってそこを走行すると(図2(b)参照)、区間14に係る受信レベルH(14)が徐々に低下する(図2(f)t2参照)。
【0046】
それから、列車30が手前の区間13を通過して区間14の端に至ると(図2(c)参照)、区間14に係る受信レベルH(14)が計時開始レベルKばかりか計時終了レベルLをも下回る値まで低下する(図2(f)t3参照)。そして、列車30が区間14を走行している間は(図2(d),(e)参照)、区間14に係る受信レベルH(14)が計時終了レベルLを下回り続ける(図2(f)t4,t5参照)。
この場合、区間14に係る受信レベルH(14)が計時開始レベルKから計時終了レベルLにまで低下するのに要したレベル変化時間tbが上述のタイマ動作時間taより大きいので(図2(f)t2~t3参照)、判定部66によって破断が発生したと判定されることが無く、処理部63からレール破断情報Qが発出されることも無い。
【0047】
次に、何れも正常だった区間12,13,14のうち区間14にレール破断が突然発生した場合を説明する(図3参照)。
列車通過等が無くても、暑いときは膨張による圧縮応力によってレールが曲り易いのに対し、寒いときは引張応力によってレールが脆性破壊し易い。レールの多くは、鉄製で、列車通過等による疲労破壊のゆっくりした進行の後、断裂が一気に進むことが多い。そのため、鉄道におけるレール破断は、大抵、短時間のうちに完全破断に至る。
【0048】
この場合、レール破断の発生前は(図3(a),(b)参照)、区間14に係る受信レベルH(14)が計時開始レベルKを超える値で安定している(図3(f)t1~t3参照)。
そして、区間14にレール破断40が発生しそれが短時間で完了すると(図3(c)~(e)参照)、区間14に係る受信レベルH(14)が急速に低下して計時開始レベルKを下回り更に計時終了レベルLをも下回る(図3(f)t3直後を参照)。
【0049】
この場合、区間14に係る受信レベルH(14)が計時開始レベルKから計時終了レベルLにまで低下するのに要したレベル変化時間tbが上述のタイマ動作時間taより小さいので(図3(f)t3~t4参照)、判定部66によって破断が発生したと判定され、処理部63からレール破断情報Qが発出される。
【0050】
このように、受信レベルHが計時開始レベルKから計時終了レベルLまで低下するのに掛かったレベル変化時間tbと、列車30の区間通過に係る最短時間より短いタイマ動作時間taとが比較されて、レベル変化が急なときだけレール破断40が発生したと判定されるので、列車通過がレール破断と誤判定されることがほとんどなく、しかも、脆性破壊によるレール破断の発生後はその発生が速やかに検出される。
【実施例0051】
本発明のレール破断検知装置の実施例2について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。
【0052】
図4は、列車通過時の動作状態を示し、(a)~(e)が列車30の進行状況を示す模式図であり、(f)が、区間13の検知信号に係る受信レベルH(13)の波形図(二点鎖線を参照)と、区間14の検知信号とに係る受信レベルH(14)の波形図(一点鎖線を参照)である。
また、図5は、レール破断時の動作状態を示し、(a)~(e)がレール破断40の発生状況を示す模式図であり、(f)が、二点鎖線で示した区間13の検知信号に係る受信レベルH(13)の波形図(二点鎖線を参照)と、区間14の検知信号とに係る受信レベルH(14)の波形図(一点鎖線を参照)である。
【0053】
この実施例2が上述した実施例1と相違するのは(図4(a)~(e),図5(a)~(e)参照)、並走レールの区間12と区間13との境界が絶縁されており、区間12,13が両端無絶縁区間ではないものになっている点である。但し、区間14は、両区間端が何れも絶縁されていない両端無絶縁区間のままである。
また、このレール破断検知装置が上述した実施例1のレール破断検知装置60と相違するのは、両端無絶縁区間について列車通過時の受信信号のレベル上昇状態に係る所定の基準データとしてレベル上昇検知レベルMが処理部63にデータ保持されており、それが判定部66によって使用されるようにもなっている点である。
【0054】
レベル上昇検知レベルMは、上述した他のレベル値K,Lと同じくレベル設定器64を利用して判定部66にデータ設定されるものであり、レール破断が無い状態で検出される受信レベルHの最高値と、レール破断が発生したときに当該区間の隣の区間に係る受信レベルHが上昇して到達する受信レベルHの最高値との中間値に初期設定されている。
このようなレベル上昇検知レベルMは、両端無絶縁区間14について列車通過時の受信信号のレベル上昇状態に係る基準データになっている。
【0055】
さらに、判定部66は、検知対象の区間のうち何れかの両端無絶縁区間についてレベル検知器27の受信レベルHが上昇して判定部66のレベル上昇検知レベルMを上回ったときには(この場合、受信レベルHが、レベル上昇状態に係る検出値に該当し、レベル上昇検知レベルMが、レベル上昇状態に係る基準データに該当するので)、該当する両端無絶縁区間の隣の無絶縁区間にレール破断が生じたと判定するようになっている。
また、検知対象の区間のうち何れかの両端無絶縁区間についてレベル検知器27の受信レベルHが判定部66のレベル上昇検知レベルMを上回っているには、該当する両端無絶縁区間の隣の無絶縁区間にレール破断が存在していると判定するようにもなっている。
【0056】
このような状況では、正常な並走レール10を区間12,13,14の順に列車30が走行した場合(図4参照)、列車30が区間14の手前の手前の区間12を走行している間は(図4(a)参照)、区間13に係る受信レベルH(13)も、区間14に係る受信レベルH(14)も、計時開始レベルKを超える値で安定している(図4(f)t1参照)。そして、列車30が区間14の手前の区間13に至ると、区間13に係る受信レベルH(13)が急速に低下して計時開始レベルKを下回り更に計時終了レベルLをも下回りレベル変化時間tb(13)がタイマ動作時間ta(13)より短くなるが(図4(f)t1直後を参照)、区間13は両端無絶縁区間でないので、判定部66による破断発生の判定はなく、処理部63からレール破断情報Qが発出されることもない。
【0057】
一方、区間14に係る受信レベルH(14)は、列車30が区間13を走行しているときに(図4(a),(b)参照)、その進み具合に伴って徐々に低下するため(図4(f)t1~t3参照)、レベル変化時間tb(13)がタイマ動作時間ta(13)より長くなるので(図4(f)t1~t3を参照)、区間14が両端無絶縁区間であっても、判定部66による破断発生の判定はなく、処理部63からレール破断情報Qが発出されることもない。こうして、絶縁区間と無絶縁区間との境界に係る区間13について不所望な誤判定の発出が的確に回避される。
【0058】
次に、何れも正常だった区間12,13,14のうち区間13にレール破断が突然発生した場合を説明する(図5参照)。ここでも、レール破断は短時間の脆性破壊である。
【0059】
この場合、レール破断の発生前は(図5(a)参照)、区間13に係る受信レベルH(13)も、区間14に係る受信レベルH(14)も、計時開始レベルKを超える値で安定している(図5(f)t1参照)。そして、区間13にレール破断40が発生しそれが短時間で完了すると(図5(b)~(e)参照)、区間13に係る受信レベルH(13)が急速に低下して計時開始レベルKを下回り更に計時終了レベルLをも下回るが(図5(f)t2直後を参照)、上述したように区間13が両端無絶縁区間では無いので、そのことによる判定部66の破断発生判定も処理部63のレール破断情報Qの発出も無い。
【0060】
これに対し、区間14に係る受信レベルH(14)は、区間13にレール破断40が発生すると(図5(b)参照)、そのときから上昇して速やかにレベル上昇検知レベルMを上回る(図5(f)t2直後を参照)。そのため、判定部66によって、左隣の区間13と右隣の区間15とのうち何れか一方または双方にレール破断が発生したと判定され、処理部63からレール破断情報Qが発出される。また、受信レベルH(14)は、以後も、レール破断40が存続していると、レベル上昇検知レベルMより上に高止まりし続けるため、処理部63からレール破断情報Qが継続して出される。
【実施例0061】
本発明のレール破断検知装置の実施例3について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。
図6は、列車通過時にレール破断が発生しなかったときのレール破断検知装置の動作状態を示し、図7は、列車通過時にレール破断が発生したときのレール破断検知装置の動作状態を示し、何れの図でも、(a)~(g)が列車30の進行状況などを示し、(h)が受信信号Hの波形を示している。
【0062】
このレール破断検知装置が上述した実施例2のものと相違するのは、両端無絶縁区間が三つ連なる連続区間に係る判定手法が判定部66に追加された点である。
具体例で説明すると、判定部66は、四つ以上の両端無絶縁区間が連なる連続区間13~15に含まれている二つの三連続区間12~14,13~15のうち後者の三連続区間13~15に着目すると、その三連続区間13~15における両端の区間13,15に係る第1判定と、同じ三連続区間13~15における中間の区間14に係る第2判定とを行って、それらの第1判定と第2判定の判定結果が何れも成立しているときには中間の区間14にレール破断が存在していると判定するようになっている。
【0063】
そのうち第1判定は、両端の区間13,15の何れについても、レベル検知器27の取得した受信レベルHのレベル上昇状態と、レベル設定器64で設定され判定部66にデータ保持されているレベル上昇検知レベルMとのうち、対応するものを比較して、受信レベルHの値がレベル上昇検知レベルMの値を上回っているときに成立するものである。
また、第2判定は、中間の区間14について、受信レベルHのレベル低下状態と、レベル設定器64で設定され判定部66にデータ保持されている計時終了レベルLとのうち、対応するもの同士を比較して、受信レベルHの値が計時終了レベルLの値を下回っているときに成立するようになっている。
【0064】
このようなレール破断検知装置を設置した並走レール10を列車30が区間12~区間15をその順に走り抜けたときに、レール破断が発生しなかった場合と(図6参照)、レール破断が発生した場合とについて(図7参照)、説明する。
先ず、レール破断が発生することなく列車30が区間12から区間13,14更には15を走行した場合について(図6(a)~(g)参照)、各区間13~15における受信レベルHの状態等を説明するが(図6(h)参照)、以下の説明では、繰り返しとなる詳細な説明は割愛して要点を簡潔に述べる。
【0065】
この場合、区間13に係る受信レベルH(13)は、列車30が区間12を通過し終える時刻t1には(図6(a)参照)、計時終了レベルLを下回り(図6(h)参照)、列車30が区間13を走行している時刻t2には(図6(b)参照)、計時終了レベルLを下回り続けるが(図6(h)参照)、列車30が区間13を抜けて区間14を走行する時刻t3~t5の間に(図6(c)~(e)参照)、計時終了レベルLを超えて更に計時開始レベルKとレベル上昇検知レベルMとの間まで上昇し(図6(h)参照)、列車30が区間15に到達するとそれ以後t5~t7は(図6(e)~(g)参照)、両値K,Mの間を維持する(図6参(h)照)。そのため、受信レベルH(13)の変動に基づいて処理部63からレール破断情報Qが出されることは無い。
【0066】
また、区間14に係る受信レベルH(14)は、列車30が区間12を通過し終える時刻t1以前には(図6(a)参照)、計時開始レベルKとレベル上昇検知レベルMとの間の値を維持するが(図6(h)参照)、列車30が区間12を抜けて区間13を走行している時刻t1~t3の間に(図6(b)参照)、計時開始レベルKさらには計時終了レベルLをも下回り(図6(h)参照)、列車30が区間13を抜けて区間14を走行する時刻t3~t5の間は(図6(c)~(e)参照)、計時終了レベルLを下回り続けるが(図6(h)参照)、列車30が区間15に到達してそこを走行する時刻t5~t7の間に(図6(e)~(g)参照)、計時終了レベルLを超えて更に計時開始レベルKとレベル上昇検知レベルMとの間まで上昇し(図6(h)参照)、その時刻t7以降は両値K,Mの間を維持する(図6参(h)照)。そのため、受信レベルH(14)の変動に基づいて処理部63からレール破断情報Qが出されることも無い。
【0067】
さらに、区間15に係る受信レベルH(15)は、列車30が区間12,13を通過し終える時刻t3以前には(図6(a),(b)参照)、計時開始レベルKとレベル上昇検知レベルMとの間の値を維持するが(図6(h)参照)、列車30が区間13を抜けて区間14を走行している時刻t3~t5の間に(図6(c)~(e)参照)、計時開始レベルKさらには計時終了レベルLをも下回り(図6(h)参照)、列車30が区間14を抜けて区間15を走行する時刻t5~t7の間は(図6(e)~(g)参照)、計時終了レベルLを下回り続けるが(図6(h)参照)、列車30が区間15に到達してそこを走行する時刻t7以降に、計時終了レベルLを超えて上昇し(図6(h)参照)、更に計時開始レベルKとレベル上昇検知レベルMとの間まで上昇してその値を維持する(図示せず)。そのため、受信レベルH(15)の変動に基づいて処理部63からレール破断情報Qが出されることも無い。
【0068】
このように、レール破断が発生することなく列車30が区間12から区間13,14更には15を走行した場合(図6(a)~(g)参照)、列車30が通過した何れの区間13~15についても、列車30の通過に伴って受信レベルHの低下が緩やかに行われるので、具体的にはレベル変化時間tb>タイマ動作時間taの状態で行われるので、レール破断情報Qが誤って発出されることが無い。
【0069】
次に、レール破断検知装置を設置した並走レール10を列車30が区間12~区間15をその順に走り抜けたときに、区間14を走行中に列車30の作用等でレール破断が一気に完遂生した場合について、図7を参照しつつ、説明する。
【0070】
この場合、区間13に係る受信レベルH(13)は、列車30が区間12,13を通過して区間14に入るまでの時刻t1~t3には(図7(a)~(c)参照)、上述したレール破断の無いときと同じく計時終了レベルLを下回っており(図7(h)参照)、列車30が区間14に入ると上昇に転じるが(図7(h)参照)、列車30が区間14を走行している時刻t4にレール破断40が発生すると(図7(d)参照)、それ以降は(図7(e)~(g)参照)、レール破断の無いときよりも高く上昇してレベル上昇検知レベルMを上回り更にそのレベルを継続する(図7(h)参照)。
これにより、レール破断情報Qの発出条件の一部が成立する。
【0071】
また、区間14に係る受信レベルH(14)は、列車30が区間14に到達するまでの時刻t1~t3の間に(図7(a)~(c)参照)、計時終了レベルLを下回り(図7(h)参照)、列車30が区間14を走行している時刻t3~t5の間は(図6(c)~(e)参照)、計時終了レベルLを下回り続ける(図6(h)参照)。しかも、この実施例では、列車30の通過中に区間14にレール破断40が発生し(図7(d)参照)、それによって区間14では検知信号が断たれ続けるため、列車30が区間14を抜け出た時刻t6以降も、受信レベルH(14)は、計時終了レベルLを下回り続ける(図7(h)参照)。これにより、レール破断情報Qの発出条件の他の一部が成立する。
【0072】
さらに、区間15に係る受信レベルH(15)は、繰り返しとなる詳細な説明を割愛して簡潔に述べると、受信レベルH(13)を2区間分だけ遅らせた波形と同様のものになり、列車30が区間15を通過し更に遠ざかった時刻tn以降には、レール破断の無いときよりも高く上昇してレベル上昇検知レベルMを上回り更にそのレベルを継続する(図7(h)の右端部分を参照)。これにより、レール破断情報Qの発出条件の残部が成立し、レール破断情報Qの発出条件が総て調う。
【0073】
具体的には(図7(h)の時刻tnの受信レベルを参照)、両端無絶縁区間が三つ連なる連続区間13,14,15について、一端の区間13の受信レベルH(13)がレベル上昇検知レベルMを上回っており、他端の区間15の受信レベルH(15)もレベル上昇検知レベルMを上回っており、更に、中間の区間14の受信レベルH(14)が計時終了レベルLを下回っている、という三条件が総て成り立ち、その状態が続く。
そのため、三連続区間13~15における中間の区間14にレール破断が存在しているというレール破断情報Qが処理部63から継続して出される。
【実施例0074】
本発明のレール破断検知装置の実施例4について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。
図8は、レール破断時のレール破断検知装置の動作状態を示し、(a)~(e)がレール破断40の発生状況を示す模式図、(f)が受信信号Hの波形図である。
【0075】
この実施例4が上述の実施例1~3と相違するのは、上述した実施例3のレール破断検知装置60を実施例1の並走レール10に適用した点である。
すなわち、実施例1ではレール破断40の発生した区間14に係る受信レベルH(14)の急低下(レベル変化時間tb<タイマ動作時間)を検出したときにレール破断が発生したと判定するようになっていたのに対し、ここでは、区間14の両隣の区間13,15の受信レベルH(13),(15)も判定に用いられる。
【0076】
具体的には(図8参照)、レール破断40が発生するまでは(図8(a),(b)参照)、両端無絶縁区間が三つ連なる連続区間13,14,15に係る受信レベルH(13),(14),(15)が何れも計時開始レベルKとレベル上昇検知レベルMとの中間になっているが(図8(f)参照)、中間の区間14にレール破断40が発生すると(図8(c)参照)、受信レベルH(14)は計時開始レベルKの上から計時終了レベルLの下へ急に低下し、両隣の区間13,15の受信レベルH(13),H(15)はレベル上昇検知レベルMを上回る。
【0077】
そして、それ以後は(図8(d),(e)参照)、両端無絶縁区間が三つ連なる連続区間13,14,15について、一端の区間13の受信レベルH(13)がレベル上昇検知レベルMより上に高止まりし、他端の区間15の受信レベルH(15)もレベル上昇検知レベルMをより上に高止まりし、更に、中間の区間14区間の受信レベルH(14)が計時終了レベルLより下にとどまる、という三条件が総て成り立っている状態が続く。
そのため、三連続区間13~15における中間の区間14にレール破断が存在しているというレール破断情報Qが処理部63から継続して出される。
【0078】
[その他]
上記実施例ではタイマ動作時間taとレベル変化時間tbとが何れもタイマ69にて測定するようになっていたが、両時間ta,tbを共に測定することは必須ではない。例えば、タイマ動作時間taは単に固定値としてデータ保持しておき、レベル変化時間tbをタイマ69の利用にて測定して、両者を比較するようにしても良い。あるいは、タイマ69の利用にてタイマ動作時間taの時間経過を待ち、それまでに所定のレベル変化が起きたか否かに基づいてレベル変化の緩急を判別するようにしても良い。
【0079】
上記実施例3,4では、両端無絶縁区間が三つ連なる連続区間に関してレール破断の存在を判別する判定基準として、両端の2区間については何れも受信レベルHがレベル上昇検知レベルMより高く且つ中間の1区間については受信レベルHが計時終了レベルLより低い、という三つの条件を採用していたが、その三条件の同時成立が判定に必須な訳ではなく、正確度と見落とし率との兼ね合い等に応じて適宜な条件を採用しても良い。
【0080】
上記実施例では、計時開始レベルK,計時終了レベルL,レベル上昇検知レベルM,タイマ動作時間taといった基準データが、並走レール10における総ての区間11,12,13,…について共通する固定値であるかのように述べたが、それは実施例の説明の簡明化等のために課した仮の限定であり、それらの基準データは、各区間毎に定められていても良く、例えばレール状態に大きな影響を与える外気温等に応じて値が微調整されるようになっていても良い。
【0081】
既述のレール破断検知装置20や上述のレール破断検知装置60では、レール10の各区間11,12,…に対して検知信号を送受信するときに、送受信対象区間を時分割で切り替えることで複数信号が不要になっている時分割方式(スキャニング方式)が用いられていたが、それに検知信号の送受信方式が限定される訳ではない。
例えば、レール10の各区間11,12,…に対して検知信号を送受信するときに、レール10における隣や近くの区間については周波数の異なる信号を使用することで時分割が不要になっている周波数分離方式(常時送信方式)を用いても良い。
【符号の説明】
【0082】
10…並走レール(軌道)、
11,12,13,14,15,1N…区間、
13a,13b,14a,14b…レール、
20…レール破断検知装置、
21…送信部、22,22a,22b…受信部、23…処理部、
24…レベル設定器、25…制御器、26…判定部(レベル監視)、
27…レベル検知器、28…入出力器、
30…列車、40…レール破断、
60…レール破断検知装置、
63…処理部、64…レベル設定器、
66…判定部(レベル監視,時間監視)、68…入出力器、69…タイマ、
MT…マッチングトランス、ST…送信器、RT…受信器、
A…列車検知レベル、B…送信設定レベル、C…送信制御情報、D…受信制御情報、
G…送信レベル、H…受信レベル、I…比較結果、
J…列車検知情報・レール破断情報、
K…計時開始レベル、L…計時終了レベル、M…レベル上昇検知レベル、
P…比較結果、Q…レール破断情報、U…計時指示、V…計時報告
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10