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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131214
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】発光装置およびプロジェクター
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/18 20210101AFI20220831BHJP
   H01S 5/343 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
H01S5/18
H01S5/343 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030042
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502350504
【氏名又は名称】学校法人上智学院
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】石沢 峻介
(72)【発明者】
【氏名】岸野 克巳
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AB52
5F173AB90
5F173AF06
5F173AF12
5F173AH22
5F173AR01
(57)【要約】
【課題】複数の第1井戸層における形状のばらつきを小さくすることができる発光装置を提供する。
【解決手段】基板に設けられ、複数の柱状部を有する積層体を有し、前記複数の柱状部の各々は、複数の第1井戸層を有する発光層と、前記基板と前記発光層との間に設けられ、GaおよびNを含む第1半導体層と、前記第1半導体層と前記発光層との間に設けられ、前記発光層に光を閉じ込める光閉じ込め層と、前記第1半導体層と前記光閉じ込め層との間に設けられた第2井戸層と、を有し、前記第1井戸層および前記第2井戸層は、InGaNからなり、前記光閉じ込め層は、InGaN層を有し、前記第1井戸層の組成式は、InGa1-xNであり、前記光閉じ込め層の前記InGaN層の組成式は、InGa1-yNであり、前記第2井戸層の組成式は、InGa1-zNであり、前記x、前記y、および前記zは、0<y<z<x<1を満たす、発光装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に設けられ、複数の柱状部を有する積層体と、
を有し、
前記複数の柱状部の各々は、
複数の第1井戸層を有する発光層と、
前記基板と前記発光層との間に設けられ、GaおよびNを含む第1半導体層と、
前記第1半導体層と前記発光層との間に設けられ、前記発光層に光を閉じ込める光閉じ込め層と、
前記第1半導体層と前記光閉じ込め層との間に設けられた第2井戸層と、
を有し、
前記第1井戸層および前記第2井戸層は、InGaNからなり、
前記光閉じ込め層は、InGaN層を有し、
前記第1井戸層の組成式は、InGa1-xNであり、
前記光閉じ込め層の前記InGaN層の組成式は、InGa1-yNであり、
前記第2井戸層の組成式は、InGa1-zNであり、
前記x、前記y、および前記zは、0<y<z<x<1を満たす、発光装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記光閉じ込め層の前記InGaN層の径は、前記第2井戸層の径よりも大きい、発光装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第1井戸層の厚さは、前記第2井戸層の厚さ、および前記光閉じ込め層の前記InGaN層の厚さよりも大きい、発光装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、
前記第2井戸層のバンドギャップ、および前記光閉じ込め層のバンドギャップは、前記第1井戸層のバンドギャップよりも大きい、発光装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、
前記第1半導体層は、ファセット面を有する、発光装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の発光装置を有する、プロジェクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置およびプロジェクターに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザーは、高輝度の次世代光源として期待されている。中でも、ナノコラムを適用した半導体レーザーは、ナノコラムによるフォトニック結晶の効果によって、狭放射角で高出力の発光が実現できると期待されている。
【0003】
例えば特許文献1には、n型の第1半導体層と、井戸構造を有する発光層と、p型の第2半導体層と、を有する柱状部を複数備えた発光装置が記載されている。n型の第1半導体層の上面は、ファセット面によって構成される六角錐状の形状を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-24982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような発光装置では、発光層を構成する井戸層の発光特性を均一にするため、平坦性が高くなる条件で井戸層を成長させる。しかしながら、この条件で、例えば、六角錐の上部に複数の井戸層を有するディスク状の発光層を成長させると、初めは六角錐の先端に小さな径の井戸層が形成され、積層を重ねることで井戸層の径が大きくなる。そのため、複数の井戸層において形状がばらつく。複数の井戸層において形状がばらつくと、不均一な発光特性となってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る発光装置の一態様は、
基板と、
前記基板に設けられ、複数の柱状部を有する積層体と、
を有し、
前記複数の柱状部の各々は、
複数の第1井戸層を有する発光層と、
前記基板と前記発光層との間に設けられ、GaおよびNを含む第1半導体層と、
前記第1半導体層と前記発光層との間に設けられ、前記発光層に光を閉じ込める光閉じ込め層と、
前記第1半導体層と前記光閉じ込め層との間に設けられた第2井戸層と、
を有し、
前記第1井戸層および前記第2井戸層は、InGaNからなり、
前記光閉じ込め層は、InGaN層を有し、
前記第1井戸層の組成式は、InGa1-xNであり、
前記光閉じ込め層の前記InGaN層の組成式は、InGa1-yNであり、
前記第2井戸層の組成式は、InGa1-zNであり、
前記x、前記y、および前記zは、0<y<z<x<1を満たす。
【0007】
本発明に係るプロジェクターの一態様は、
前記発光装置の一態様を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る発光装置を模式的に示す断面図。
図2】本実施形態に係る発光装置の製造工程を模式的に示す断面図。
図3】本実施形態に係る発光装置の製造工程を模式的に示す断面図。
図4】本実施形態に係る発光装置の製造工程を模式的に示す断面図。
図5】本実施形態に係る発光装置の製造工程を模式的に示す断面図。
図6】本実施形態に係るプロジェクターを模式的に示す図。
図7】実施例の断面STEM像。
図8】実施例の断面STEM像。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0010】
1. 発光装置
1.1. 全体の構成
まず、本実施形態に係る発光装置について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る発光装置100を模式的に示す断面図である。
【0011】
発光装置100は、図1に示すように、例えば、基板10と、積層体20と、第1電極40と、第2電極42と、を有している。発光装置100は、半導体レーザーである。
【0012】
基板10は、例えば、Si基板、GaN基板、サファイア基板、SiC基板などである。
【0013】
積層体20は、基板10に設けられている。図示の例では、積層体20は、基板10上に設けられている。積層体20は、例えば、バッファー層22と、柱状部30と、を有している。
【0014】
本明細書では、積層体20の積層方向(以下、単に「積層方向」ともいう)において、発光層34を基準とした場合、発光層34から第2半導体層36に向かう方向を「上」とし、発光層34から第1半導体層32に向かう方向を「下」として説明する。また、積層方向と直交する方向を「面内方向」ともいう。また、「積層体20の積層方向」とは、柱状部30の第1半導体層32と発光層34との積層方向のことである。
【0015】
バッファー層22は、基板10上に設けられている。バッファー層22は、例えば、Siがドープされたn型のGaN層である。バッファー層22上には、柱状部30を形成するためのマスク層24が設けられている。マスク層24は、例えば、酸化シリコン層、チタン層、酸化チタン層、酸化アルミニウム層などである。
【0016】
柱状部30は、バッファー層22上に設けられている。柱状部30は、バッファー層22から上方に突出した柱状の形状を有している。言い換えれば、柱状部30は、バッファー層22を介して基板10から上方に突出している。柱状部30は、例えば、ナノコラム、ナノワイヤー、ナノロッド、ナノピラーとも呼ばれる。柱状部30の平面形状は、例えば、六角形などの多角形、円である。
【0017】
柱状部30の径は、例えば、50nm以上500nm以下である。柱状部30の径を500nm以下とすることによって、高品質な結晶の発光層34を得ることができ、かつ、
発光層34に内在する歪を低減することができる。これにより、発光層34で発生する光を高い効率で増幅することができる。
【0018】
なお、「柱状部の径」とは、柱状部30の平面形状が円の場合は、直径であり、柱状部30の平面形状が円ではない形状の場合は、最小包含円の直径である。例えば、柱状部30の径は、柱状部30の平面形状が多角形の場合、該多角形を内部に含む最小の円の直径であり、柱状部30の平面形状が楕円の場合、該楕円を内部に含む最小の円の直径である。このことは、「層の径」において同様である。
【0019】
柱状部30は、複数設けられている。隣り合う柱状部30の間隔は、例えば、1nm以上500nm以下である。複数の柱状部30は、積層方向からみて、所定の方向に所定のピッチで配列されている。複数の柱状部30は、例えば、三角格子状、正方格子状に配置されている。複数の柱状部30は、フォトニック結晶の効果を発現することができる。
【0020】
なお、「柱状部のピッチ」とは、所定の方向に沿って隣り合う柱状部30の中心間の距離である。「柱状部の中心」とは、柱状部30の平面形状が円の場合は、該円の中心であり、柱状部30の平面形状が円ではない形状の場合は、最小包含円の中心である。例えば、柱状部30の中心は、柱状部30の平面形状が多角形の場合、該多角形を内部に含む最小の円の中心であり、柱状部30の平面形状が楕円の場合、該楕円を内部に含む最小の円の中心である。
【0021】
柱状部30は、第1半導体層32と、発光層34と、第2半導体層36と、を有している。さらに、柱状部30は、第3半導体層50と、光閉じ込め層60と、を有している。なお、柱状部30の詳細な構成については、後述する。
【0022】
第1半導体層32は、バッファー層22上に設けられている。第1半導体層32は、基板10と発光層34との間に設けられている。第1半導体層32は、GaおよびNを含む層である。第1半導体層32は、例えば、Siがドープされたn型のGaN層、AlGaN層である。
【0023】
発光層34は、第1半導体層32と第2半導体層36との間に設けられている。発光層34は、電流が注入されることで光を発生させる。発光層34は、例えば、第1井戸層33と、第1障壁層35と、を有している。第1井戸層33および第1障壁層35は、不純物が意図的にドープされていないi型の半導体層である。第1井戸層33は、InGaN層である。第1井戸層33は、InGaNからなる。第1障壁層35は、例えば、GaN層である。第1井戸層33および第1障壁層35は、複数設けられている。図示の例では、第1井戸層33は、2層設けられている。第1井戸層33は、2層の第1障壁層35に挟まれている。発光層34は、第1井戸層33と第1障壁層35とから構成されたMQW(Multiple Quantum Well)構造を有している。
【0024】
第2半導体層36は、発光層34上に設けられている。第2半導体層36は、第1半導体層32と導電型の異なる層である。第2半導体層36は、GaおよびNを含む層である。第2半導体層36は、例えば、Mgがドープされたp型のGaN層、AlGaN層である。第1半導体層32および第2半導体層36は、発光層34に光を閉じ込める機能を有するクラッド層である。なお、図示はしないが、第2半導体層36は、EBL(Electron
Blocking Layer)を有してもよい。
【0025】
第1電極40は、バッファー層22上に設けられている。バッファー層22は、第1電極40とオーミックコンタクトしていてもよい。第1電極40は、第1半導体層32と電気的に接続されている。図示の例では、第1電極40は、バッファー層22を介して、第
1半導体層32と電気的に接続されている。第1電極40は、発光層34に電流を注入するための一方の電極である。第1電極40としては、例えば、バッファー層22側から、Cr層、Ni層、Au層の順序で積層したものなどを用いる。
【0026】
第2電極42は、第2半導体層36上に設けられている。第2電極42は、第2半導体層36と電気的に接続されている。第2半導体層36は、第2電極42とオーミックコンタクトしていてもよい。第2電極42は、発光層34に電流を注入するための他方の電極である。第2電極42としては、例えば、ITO(indium tin oxide)などを用いる。
【0027】
1.2. 柱状部の詳細な構成
柱状部30は、図1に示すように、第1半導体層32と、発光層34と、第2半導体層36と、第3半導体層50と、光閉じ込め層60と、を有している。第1半導体層32、発光層34、第2半導体層36、第3半導体層50、および光閉じ込め層60は、例えば、III族窒化物半導体であり、ウルツ鉱型結晶構造を有している。
【0028】
第3半導体層50は、第1半導体層32上に設けられている。第3半導体層50は、第1半導体層32と光閉じ込め層60との間に設けられている。第1半導体層32は、ファセット面32aを有している。ファセット面32aは、基板10の上面に対して傾斜している。図示の例では、第1半導体層32の基板10とは反対側の面は、ファセット面32aで構成され、基板10の上面と平行なc面を有していない。第3半導体層50は、ファセット面32aに設けられている。
【0029】
第3半導体層50は、第2井戸層52と、第2障壁層54と、を有している。第2井戸層52は、量子井戸層である。積層方向からみて、第2障壁層54は、第2井戸層52を囲んでいる。第2井戸層52と第1半導体層32との間には、第2障壁層54が設けられている。第3半導体層50は、ファセット面50aと、c面50bと、を有している。図示の例では、ファセット面50aは、第2井戸層52で構成されている。c面50bは、第2障壁層54で構成されている。第2井戸層52は、i型のInGaN層である。第2井戸層52は、i型のInGaNからなる。第2障壁層54は、例えば、i型のGaN層である。なお、第2井戸層52は、および第2障壁層54の数は、特に限定されず、第2井戸層52は、例えば、複数設けられていてもよい。
【0030】
光閉じ込め層60は、第3半導体層50上に設けられている。光閉じ込め層60は、第3半導体層50と発光層34との間に設けられている。光閉じ込め層60は、例えば、i型のInGaN層62と、i型のGaN層64と、を有している。積層方向からみて、GaN層64は、InGaN層62を囲んでいる。第2井戸層52は、第2障壁層54とGaN層64とに挟まれている。図示の例では、InGaN層62およびGaN層64は、複数設けられている。具体的には、InGaN層62は、5層設けられている。InGaN層62は、2層のGaN層64に挟まれている。
【0031】
複数のInGaN層62のうち最も第3半導体層50側に位置する1段目のInGaN層62の径D3は、複数のInGaN層62のうちで最小である。複数のInGaN層62のうち2段目のInGaN層62の径は、1段目のInGaN層62の径D3よりも大きい。複数のInGaN層62のうち3段目のInGaN層62の径は、2段目のInGaN層62の径よりも大きい。複数のInGaN層62のうち4段目および5段目のInGaN層62の径は、3段目のInGaN層62の径と同じである。InGaN層62およびGaN層64は、例えば、超格子構造を構成している。なお、InGaN層62の数は特に限定されず、InGaN層62は、1層だけ設けられていてもよい。
【0032】
光閉じ込め層60は、ファセット面60aと、c面60bと、を有している。積層方向
からみて、InGaN層62は、c面60bと重なっている。光閉じ込め層60は、発光層34近傍の屈折率を高めることができる。光閉じ込め層60は、発光層34に光を閉じ込めるOCL(Optical Confinement Layer)である。
【0033】
発光層34は、光閉じ込め層60上に設けられている。第1井戸層33は、量子井戸層である。積層方向からみて、第1障壁層35は、第1井戸層33を囲んでいる。発光層34は、ファセット面34aと、c面34bと、を有している。積層方向からみて、第1井戸層33は、c面34bと重なっている。
【0034】
第2井戸層52および光閉じ込め層60のInGaN層62におけるInNモル分率は、第1井戸層33におけるInNモル分率よりも低い。InNモル分率とは、各層におけるInNの物質量とGaNの物質量との合計に対する、InNの物質量の比である。第1井戸層33におけるInNモル分率は、例えば、10%以上40%以下である。第2井戸層52におけるInNモル分率は、例えば、1%以上20%以下である。InGaN層62におけるInNモル分率は、例えば、1%以上20%以下である。InNモル分率は、例えば、STEM-EDS(scanning transmission electron microscope-Energy dispersive X-ray spectroscopy)によって測定することができる。
【0035】
第1井戸層33の組成式はInGa1-xNであり、InGaN層62の組成式はInGa1-yNであり、そして第2井戸層52の組成式はInGa1-ZNである。このとき、0<y<z<x<1である。
【0036】
第1井戸層33、第2井戸層52、および光閉じ込め層60のInGaN層62の形状は、例えば、ディスク状である。第2井戸層52の径D2は、例えば、第1井戸層33の径D1、および光閉じ込め層60の1段目のInGaN層62の径D3よりも小さい。図示の例では、第1井戸層33の径D1は、光閉じ込め層60の5段目のInGaN層62の径と同じである。
【0037】
第1井戸層33の厚さT1は、例えば、第2井戸層52の厚さT2、および光閉じ込め層60のInGaN層62の厚さT3よりも大きい。図示の例では、第2井戸層52の厚さT2は、InGaN層62の厚さT3よりも大きい。
【0038】
第2井戸層52のバンドギャップは、第1井戸層33のバンドギャップよりも大きい。光閉じ込め層60のバンドギャップは、第1井戸層33のバンドギャップよりも大きい。バンドギャップは、各層の形状、In組成等に基づいて、シュレディンガー方程式を解くことによって求めることができる。
【0039】
発光装置100では、p型の第2半導体層36、不純物がドープされていないi型の第3半導体層50、光閉じ込め層60、および発光層34、ならびにn型の第1半導体層32により、pinダイオードが構成される。発光装置100では、第1電極40と第2電極42との間に、pinダイオードの順バイアス電圧を印加すると、発光層34に電流が注入されて発光層34において電子と正孔との再結合が起こる。この再結合により発光が生じる。発光層34で発生した光は、面内方向に伝搬し、複数の柱状部30によるフォトニック結晶の効果により定在波を形成して、発光層34で利得を受けてレーザー発振する。そして、発光装置100は、+1次回折光および-1次回折光をレーザー光として、積層方向に出射する。
【0040】
なお、図示はしないが、基板10とバッファー層22との間、または基板10の下に反射層が設けられていてもよい。該反射層は、例えば、DBR(Distributed Bragg Reflector)層である。該反射層によって、発光層34において発生した光を反射させることが
でき、発光装置100は、第2電極42側からのみ光を出射することができる。
【0041】
1.3. 作用効果
発光装置100では、複数の柱状部30の各々は、複数の第1井戸層33を有する発光層34と、基板10と発光層34との間に設けられ、GaおよびNを含む第1半導体層32と、第1半導体層32と発光層34との間に設けられ、発光層34に光を閉じ込める光閉じ込め層60と、光閉じ込め層60と発光層34との間に設けられた第2井戸層52と、を有する。第1井戸層33および第2井戸層52は、InGaNからなり、光閉じ込め層60は、InGaN層62を有する。第2井戸層52におけるIn組成は、光閉じ込め層60のInGaN層62におけるIn組成よりも高く、第1井戸層33におけるIn組成よりも低い。すなわち、第1井戸層33の組成式をInGa1-xN、InGaN層62の組成式をInGa1-yN、そして第2井戸層52の組成式をInGa1-ZNとした場合に、0<y<z<x<1である。
【0042】
そのため、発光装置100では、第2井戸層が設けられていない場合に比べて、複数の第1井戸層33における径や厚さなどの形状のばらつきを小さくすることができる。第2井戸層が設けられていない場合、光閉じ込め層は、In組成が低いため、第1半導体層と格子定数が近く、第1半導体層のファセット面の形状を引き付いて成長され易い。そこで、光閉じ込め層60のInGaN層62よりも、In組成が高い第2井戸層52を設ける。第2井戸層52は、第1半導体層32との格子定数差による歪の影響で、上面が平坦面になり易い。これにより、ファセット面32aの形状が第1井戸層33に与える影響を小さくすることができる。その結果、複数の第1井戸層33における形状のばらつきを小さくすることができる。
【0043】
さらに、発光装置100では、第2井戸層52は、量子井戸層であり、量子準位を有する。第2井戸層52の発光波長は、量子準位によって決まる。第2井戸層52の発光波長を、第1井戸層33の発光波長よりも短波長となるように量子準位を調整することにより、第1電極40および第2電極42によって第2井戸層52に電流が注入されても、第2井戸層52では発光し難くすることができる。第2井戸層52が発光すると、発光装置100において、所望の波長の光を出射し難くなる。
【0044】
発光装置100では、光閉じ込め層60のInGaN層62の径D3は、第2井戸層52の径D2よりも大きい。そのため、発光装置100では、径D3が径D2よりも小さい場合に比べて、ファセット面32aの形状が第1井戸層33に与える影響を小さくすることができる。これにより、複数の第1井戸層33における形状のばらつきを、より小さくすることができる。さらに、径D3を径D2よりも大きくすることにより、光閉じ込め層60の発光層34における光閉じ込め効果を大きくすることができる。これにより、発振閾値を低減させることができる。
【0045】
発光装置100では、第1井戸層33の厚さT1は、第2井戸層52の厚さT2、および光閉じ込め層60のInGaN層62の厚さT3よりも大きい。そのため、発光装置100では、第1井戸層33のバンドギャップを、第2井戸層52のバンドギャップ、およびInGaN層62のバンドギャップよりも小さくすることができる。これにより、第1井戸層33で発光し易くすることができる。
【0046】
発光装置100では、第2井戸層52のバンドギャップ、および光閉じ込め層60のバンドギャップは、第1井戸層33のバンドギャップよりも大きい。そのため、発光装置100では、第2井戸層のバンドギャップおよび光閉じ込め層のバンドギャップが第1井戸層33のバンドギャップよりも小さい場合に比べて、第2井戸層52およびInGaN層62で発光し難くすることができる。
【0047】
発光装置100では、第1半導体層32は、ファセット面32aを有する。発光装置100では、上記のように第2井戸層52を有するため、第1半導体層32がファセット面32aを有しても、複数の第1井戸層33における形状のばらつきを小さくすることができる。
【0048】
2. 発光装置の製造方法
次に、本実施形態に係る発光装置100の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図2図5は、本実施形態に係る発光装置100の製造工程を模式的に示す断面図である。
【0049】
図2に示すように、基板10上に、バッファー層22をエピタキシャル成長させる。エピタキシャル成長させる方法としては、例えば、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法などが挙げられる。
【0050】
次に、バッファー層22上に、マスク層24を形成する。マスク層24は、例えば、電子ビーム蒸着法やスパッタ法などによる成膜、およびパターニングよって形成される。パターニングは、例えば、フォトリソグラフィーおよびエッチングによって行われる。
【0051】
次に、マスク層24をマスクとしてバッファー層22上に、第1半導体層32をエピタキシャル成長させる。エピタキシャル成長させる方法としては、例えば、MOCVD法、MBE法などが挙げられる。
【0052】
図3に示すように、第1半導体層32上に、第2井戸層52および第2障壁層54を有する第3半導体層50をエピタキシャル成長させる。エピタキシャル成長させる方法としては、例えば、MOCVD法、MBE法などが挙げられる。第2井戸層52は、例えば、成長初期については、半極性面からなる六角錐状のファセット面32aに形成されるため、Inの取り込みは起こり難い状態であり、結晶成長が進行するにつれてc面の平面が露出してInが取り込まれるようになる。
【0053】
図4に示すように、第3半導体層50上に、InGaN層62およびGaN層64を有する光閉じ込め層60をエピタキシャル成長させる。図5に示すように、光閉じ込め層60上に、第1井戸層33および第1障壁層35を有する発光層34をエピタキシャル成長させる。エピタキシャル成長させる方法としては、例えば、MOCVD法、MBE法などが挙げられる。
【0054】
第3半導体層50、光閉じ込め層60,および発光層34では、InGaN層である井戸層33,52、およびInGaN層62は、柱状部30の中央に集まって成長される。井戸層33,52およびInGaN層62は、平坦性が高くなる条件で成長される。具体的には、III属の原子の照射量を多くする。これにより、InGaN層62の径D3を第2井戸層52の径D2よりも大きく、さらに、第1井戸層33の径D1をInGaN層62の径D3よりも大きくすることができる。
【0055】
第2井戸層52の成長では、Inの照射時間を、光閉じ込め層60のInGaN層62の照射時間より長くする。これにより、第2井戸層52におけるIn組成を、InGaN層62におけるIn組成よりも高くすることができる。言い換えれば、第2井戸層52におけるInNモル分率を、InGaN層62におけるInNモル分率よりも高くしている。また、第2井戸層52におけるIn組成は、第1井戸層33におけるIn組成よりも低い。すなわち、第2井戸層52におけるInNモル分率は、第1井戸層33におけるInNモル分率よりも低い。なお、第2井戸層52の成長におけるInの照射時間を、第1井
戸層33の成長におけるInの照射時間と同じとしているが、これに限らず、第2井戸層52の成長におけるInの照射時間を、第1井戸層33の成長におけるInの照射時間よりも短くしてもよい。
【0056】
第2井戸層52におけるIn組成が、InGaN層62におけるIn組成よりも高く、第1井戸層33におけるIn組成よりも低い、とは、第1井戸層33の組成式をInGa1-xN、InGaN層62の組成式をInGa1-yN、そして第2井戸層52の組成式をInGa1-ZNとした場合に、0<y<z<x<1であることを表している。
【0057】
図1に示すように、発光層34上に第2半導体層36をエピタキシャル成長させる。エピタキシャル成長させる方法としては、例えば、MOCVD法、MBE法などが挙げられる。本工程により、複数の柱状部30を有する積層体20を形成することができる。
【0058】
次に、バッファー層22上に第1電極40を形成し、第2半導体層36上に第2電極42を形成する。第1電極40および第2電極42は、例えば、真空蒸着法などにより形成される。なお、第1電極40および第2電極42の形成順序は、特に限定されない。
【0059】
以上の工程により、発光装置100を製造することができる。
【0060】
3. プロジェクター
次に、本実施形態に係るプロジェクターについて、図面を参照しながら説明する。図6は、本実施形態に係るプロジェクター900を模式的に示す図である。
【0061】
プロジェクター900は、例えば、光源として、発光装置100を有している。
【0062】
プロジェクター900は、図示しない筐体と、筐体内に備えられている赤色光、緑色光、青色光をそれぞれ出射する赤色光源100R、緑色光源100G、青色光源100Bと、を有している。なお、便宜上、図6では、赤色光源100R、緑色光源100G、および青色光源100Bを簡略化している。
【0063】
プロジェクター900は、さらに、筐体内に備えられている、第1光学素子902Rと、第2光学素子902Gと、第3光学素子902Bと、第1光変調装置904Rと、第2光変調装置904Gと、第3光変調装置904Bと、投射装置908と、を有している。第1光変調装置904R、第2光変調装置904G、および第3光変調装置904Bは、例えば、透過型の液晶ライトバルブである。投射装置908は、例えば、投射レンズである。
【0064】
赤色光源100Rから出射された光は、第1光学素子902Rに入射する。赤色光源100Rから出射された光は、第1光学素子902Rによって集光される。なお、第1光学素子902Rは、集光以外の機能を有していてもよい。後述する第2光学素子902Gおよび第3光学素子902Bについても同様である。
【0065】
第1光学素子902Rによって集光された光は、第1光変調装置904Rに入射する。第1光変調装置904Rは、入射した光を画像情報に応じて変調させる。そして、投射装置908は、第1光変調装置904Rによって形成された像を拡大してスクリーン910に投射する。
【0066】
緑色光源100Gから出射された光は、第2光学素子902Gに入射する。緑色光源100Gから出射された光は、第2光学素子902Gによって集光される。
【0067】
第2光学素子902Gによって集光された光は、第2光変調装置904Gに入射する。第2光変調装置904Gは、入射した光を画像情報に応じて変調させる。そして、投射装置908は、第2光変調装置904Gによって形成された像を拡大してスクリーン910に投射する。
【0068】
青色光源100Bから出射された光は、第3光学素子902Bに入射する。青色光源100Bから出射された光は、第3光学素子902Bによって集光される。
【0069】
第3光学素子902Bによって集光された光は、第3光変調装置904Bに入射する。第3光変調装置904Bは、入射した光を画像情報に応じて変調させる。そして、投射装置908は、第3光変調装置904Bによって形成された像を拡大してスクリーン910に投射する。
【0070】
また、プロジェクター900は、第1光変調装置904R、第2光変調装置904G、および第3光変調装置904Bから出射された光を合成して投射装置908に導くクロスダイクロイックプリズム906を有することができる。
【0071】
第1光変調装置904R、第2光変調装置904G、および第3光変調装置904Bによって変調された3つの色光は、クロスダイクロイックプリズム906に入射する。クロスダイクロイックプリズム906は、4つの直角プリズムを貼り合わせて形成され、その内面に赤色光を反射する誘電体多層膜と青色光を反射する誘電体多層膜とが配置されている。これらの誘電体多層膜によって3つの色光が合成され、カラー画像を表す光が形成される。そして、合成された光は、投射装置908によりスクリーン910上に投射され、拡大された画像が表示される。
【0072】
なお、赤色光源100R、緑色光源100G、および青色光源100Bは、発光装置100を映像の画素として画像情報に応じて制御することで、第1光変調装置904R、第2光変調装置904G、および第3光変調装置904Bを用いずに、直接的に映像を形成してもよい。そして、投射装置908は、赤色光源100R、緑色光源100G、および青色光源100Bによって形成された映像を、拡大してスクリーン910に投射してもよい。
【0073】
また、上記の例では、光変調装置として透過型の液晶ライトバルブを用いたが、液晶以外のライトバルブを用いてもよいし、反射型のライトバルブを用いてもよい。このようなライトバルブとしては、例えば、反射型の液晶ライトバルブや、デジタルマイクロミラーデバイス(Digital Micro Mirror Device)が挙げられる。また、投射装置の構成は、使用されるライトバルブの種類によって適宜変更される。
【0074】
また、光源を、光源からの光をスクリーン上で走査させることにより、表示面に所望の大きさの画像を表示させる画像形成装置である走査手段を有するような走査型の画像表示装置の光源装置にも適用することが可能である。
【0075】
上述した実施形態に係る発光装置は、プロジェクター以外にも用いることが可能である。プロジェクター以外の用途には、例えば、屋内外の照明、ディスプレイ、レーザープリンター、スキャナー、車載用ライト、光を用いるセンシング機器、通信機器等の光源がある。
【0076】
4. 実施例および比較例
4.1. 試料の作製
実施例では、基板上に、バッファー層、第1半導体層、第2井戸層および第2障壁層を有する第3半導体層、光閉じ込め層(OCL)、第1井戸層および第1障壁層を有する発光層を、この順でエピタキシャル成長させた。エピタキシャル成長は、RF(Radio Frequency)プラズマ窒素源を利用した分子線エピタキシー(RF-MBE)法を用いた。バッファー層および第1半導体層としては、n型のGaN層を用いた。第1井戸層および第2井戸層としては、i型のInGaN層を用いた。第1障壁層および第2障壁層としては、i型のGaN層を用いた。OCLを、i型のInGaNおよびi型のGaNから構成される超格子構造とした。Inの照射時間を調整して、第2井戸層におけるIn組成を、光閉じ込め層のInGaN層におけるIn組成よりも高く、第1井戸層におけるIn組成よりも低くした。言い換えれば、第2井戸層におけるInNモル分率は、光閉じ込め層のInGaN層におけるInNモル分率よりも高く、第1井戸層におけるInNモル分率よりも低くしている。つまり、第1井戸層の組成式をInGa1-xN、光閉じ込め層のInGaN層の組成式をInGa1-yN、そして第2井戸層の組成式をInGa1-ZNとした場合に、0<y<z<x<1である。
【0077】
比較例では、第2井戸層およびOCLを形成しなかったこと以外は、基本的に実施例と同様にして、バッファー層、第1半導体層、および発光層をエピタキシャル成長させた。
【0078】
4.2. STEM観察
図7は、実施例の断面STEM像である。図8は、比較例の断面STEM像である。図7では、InGaN層を淡色で示している。図8では、InGaN層を濃色で示している。
【0079】
図8では、発光層において、下方のInGaN層は、上方のInGaN層に比べて、径が極端に小さかった。一方、図7では、発光層における複数のInGaN層の径の差を、図8の場合に比べて、小さくできることがわかった。
【0080】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0081】
上述した実施形態および変形例から以下の内容が導き出される。
【0082】
発光装置の一態様は、
基板と、
前記基板に設けられ、複数の柱状部を有する積層体と、
を有し、
前記複数の柱状部の各々は、
複数の第1井戸層を有する発光層と、
前記基板と前記発光層との間に設けられ、GaおよびNを含む第1半導体層と、
前記第1半導体層と前記発光層との間に設けられ、前記発光層に光を閉じ込める光閉じ込め層と、
前記第1半導体層と前記光閉じ込め層との間に設けられた第2井戸層と、
を有し、
前記第1井戸層および前記第2井戸層は、InGaNからなり、
前記光閉じ込め層は、InGaN層を有し、
前記第1井戸層の組成式は、InGa1-xNであり、
前記光閉じ込め層の前記InGaN層の組成式は、InGa1-yNであり、
前記第2井戸層の組成式は、InGa1-zNであり、
前記x、前記y、および前記zは、0<y<z<x<1を満たす。
【0083】
この発光装置によれば、複数の第1井戸層における形状のばらつきを小さくすることができる。
【0084】
発光装置の一態様において、
前記光閉じ込め層の前記InGaN層の径は、前記第2井戸層の径よりも大きくてもよい。
【0085】
この発光装置によれば、複数の第1井戸層における形状のばらつきを、より小さくすることができる。
【0086】
発光装置の一態様において、
前記第1井戸層の厚さは、前記第2井戸層の厚さ、および前記光閉じ込め層の前記InGaN層の厚さよりも大きくてもよい。
【0087】
この発光装置によれば、第1井戸層で発光し易くすることができる。
【0088】
発光装置の一態様において、
前記第2井戸層のバンドギャップ、および前記光閉じ込め層のバンドギャップは、前記第1井戸層のバンドギャップよりも大きくてもよい。
【0089】
この発光装置によれば、第2井戸層および光閉じ込め層のInGaN層で発光し難くすることができる。
【0090】
発光装置の一態様において、
前記第1半導体層は、ファセット面を有してもよい。
【0091】
この発光装置によれば、第1半導体層がファセット面を有しても、第2井戸層によって、複数の第1井戸層における形状のばらつきを小さくすることができる。
【0092】
プロジェクターの一態様は、
前記発光装置の一態様を有する。
【符号の説明】
【0093】
10…基板、20…積層体、22…バッファー層、24…マスク層、30…柱状部、32…第1半導体層、32a…ファセット面、33…第1井戸層、34…発光層、34a…ファセット面、34b…c面、35…第1障壁層、36…第2半導体層、40…第1電極、42…第2電極、50…第3半導体層、50a…ファセット面、50b…c面、52…第2井戸層、54…第2障壁層、60…光閉じ込め層、60a…ファセット面、60b…c面、62…InGaN層、64…GaN層、100…発光装置、100R…赤色光源、100G…緑色光源、100B…青色光源、900…プロジェクター、902R…第1光学素子、902G…第2光学素子、902B…第3光学素子、904R…第1光変調装置、904G…第2光変調装置、904B…第3光変調装置、906…クロスダイクロイックプリズム、908…投射装置、910…スクリーン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8