(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131218
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】粉末表面成膜装置及び被覆粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/00 20060101AFI20220831BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20220831BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20220831BHJP
C23C 16/44 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C23C14/00 A
C23C14/34 C
C23C14/24 C
C23C16/44 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030046
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000136561
【氏名又は名称】株式会社フルヤ金属
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】丸子 智弘
(72)【発明者】
【氏名】石黒 好裕
(72)【発明者】
【氏名】平田 和男
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 智明
(72)【発明者】
【氏名】阿野 元貴
【テーマコード(参考)】
4K029
4K030
【Fターム(参考)】
4K029AA11
4K029AA22
4K029BA04
4K029CA01
4K029CA03
4K029CA05
4K029CA06
4K029DB14
4K029DB21
4K029DC16
4K029DC33
4K029DC34
4K029DC39
4K029DD02
4K029DD06
4K029EA00
4K029EA03
4K029EA09
4K029FA01
4K029KA09
4K030AA09
4K030CA18
4K030DA02
4K030EA01
4K030EA04
4K030FA10
4K030KA05
4K030KA09
4K030KA24
4K030KA25
4K030KA46
4K030LA25
(57)【要約】
【課題】本開示の目的は、原料粉末に攪拌治具を接触させることで攪拌する作業を行わずに、乾式法による高い成膜速度での粉末表面成膜を可能とする、すなわち乾式法による粉末表面成膜で高い生産性を実現し、かつ、原料粉末の表面に膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる装置及び成膜方法を提供することである。
【解決手段】本開示に係る粉末表面成膜装置は、原料粉末を投入するための粉末投入口1と、原料粉末の表面に薄膜を形成して被覆粉末とするための真空チャンバ2、被覆粉末を回収するための粉末回収口3と、を有する。真空チャンバ2は、粉末投入調整ユニット4と、粉末投入調整ユニット4から出された原料粉末が落下する反応空間5と、成膜材料源6と、成膜ユニット7と、粉末回収ユニット8と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粉末を投入するための粉末投入口と、前記原料粉末の表面に薄膜を形成して被覆粉末とするための真空チャンバと、該被覆粉末を回収するための粉末回収口と、を有する粉末表面成膜装置であって、
前記真空チャンバは、
前記粉末投入口から入れられた前記原料粉末を一時的に留めておく粉末投入調整ユニットと、
該粉末投入調整ユニットの下に設けられ、該粉末投入調整ユニットから出された前記原料粉末が落下する反応空間と、
前記薄膜の成膜材料源と、
該成膜材料源から前記反応空間内で落下する前記原料粉末に対して成膜材料を与えて前記被覆粉末とする成膜ユニットと、
前記反応空間の下に設置され、落下した前記被覆粉末を一時的に留めておき、前記粉末回収口とつながっている粉末回収ユニットと、
を有することを特徴とする粉末表面成膜装置。
【請求項2】
前記成膜ユニットは、有機金属気相成長、スパッタリング、イオンプレーティング、蒸着、イオンビーム、原子ビームのいずれか又はこれらの組み合わせによる成膜装置であることを特徴とする請求項1に記載の粉末表面成膜装置。
【請求項3】
前記成膜材料源が、有機金属気相成長のための原料ガスを供給する原料ガス供給ユニットと、前記原料ガスを運ぶキャリアガスを供給するキャリアガス供給ユニットと、を有し、
前記成膜ユニットが、落下している前記原料粉末に対して前記成膜材料として前記原料ガスを吹き付けるノズルと、前記反応空間内にある前記原料ガス及び前記原料粉末に対して加熱用光線を照射する光線照射部と、を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の粉末表面成膜装置。
【請求項4】
前記真空チャンバは、前記反応空間を覆う石英パイプ又は空冷若しくは水冷された石英パイプを有し、
前記石英パイプの一端側の開口は、前記粉末投入調整ユニットの粉末排出口の真下に配置され、
前記石英パイプの他端側の開口は、前記粉末回収ユニットの真上に配置され、
前記原料粉末は、前記石英パイプ内で落下することを特徴とする請求項3のいずれか一つに記載の粉末表面成膜装置。
【請求項5】
前記成膜材料源が、前記成膜材料であるターゲットであり、
前記成膜ユニットが、イオンプレーティング装置又はスパッタリング装置であり、
前記成膜材料及び成膜ユニットをカソードとして1カ所に1台から複数台設置してカソード群を形成し、該カソード群は、前記反応空間を側面から囲む構造を持つことを特徴とする請求項1又は2に記載の粉末表面成膜装置。
【請求項6】
前記成膜材料源が、前記成膜材料であるターゲットであり、
該ターゲットは1つであり、
前記成膜ユニットが、スパッタリング装置であり、
前記成膜材料及び成膜ユニットをカソードとして、前記カソードは、出力が10W/cm2以上の直流電源及び交流電源に接続されており、前記カソードは、直流電源及び交流電源の接続切り替え器、及び/又は、直流電源及び交流電源の電源重畳器を有することを特徴とする請求項1、2又は5に記載の粉末表面成膜装置。
【請求項7】
前記成膜材料源が、前記成膜材料であるターゲットであり、
該ターゲットは複数であり、
該ターゲットはそれぞれ前記成膜ユニットを有し、
前記成膜ユニットが、スパッタリング装置であり、
前記成膜材料及び成膜ユニットをカソードとして、前記各カソードは、それぞれ出力が10W/cm2以上の直流電源及び交流電源に接続されており、前記各カソードは、それぞれ直流電源及び交流電源の接続切り替え器、及び/又は、直流電源及び交流電源の電源重畳器を有することを特徴とする請求項1、2又は5に記載の粉末表面成膜装置。
【請求項8】
前記反応空間を側面から囲む構造を有する前記カソード群の各カソードは、それぞれ直流電源及び交流電源に接続されており、前記各カソードは、それぞれ直流電源及び交流電源の接続切り替え器、及び/又は、直流電源及び交流電源の電源重畳器を有し、
かつ、各カソードにおける出力の最大出力と最小出力の比である最大出力:最小出力が10:3~10:10の範囲であることを特徴とする請求項5に記載の粉末表面成膜装置。
【請求項9】
前記反応空間を側面から囲む構造を有する前記カソード群の各カソードは、それぞれ直流電源及び交流電源に接続されており、前記カソードは、それぞれ直流電源及び交流電源の接続切り替え器、及び/又は、直流電源及び交流電源の電源重畳器を有し、
かつ、各カソードにおける磁石強度の最大磁石強度と最小磁石強度の比である最大磁石強度:最小磁石強度が10:3~10:10の範囲であることを特徴とする請求項5に記載の粉末表面成膜装置。
【請求項10】
前記成膜材料源が、前記成膜材料であるターゲットであり、
前記成膜ユニットが、スパッタリング装置であり、
前記成膜材料及び成膜ユニットをカソードとして、前記カソードの側面部及び上部にアノードを有することを特徴とする請求項1、2、5~9のいずれか一つに記載の粉末表面成膜装置。
【請求項11】
前記成膜材料源が、前記成膜材料である蒸着材料源であり、
前記成膜ユニットが、前記蒸着材料源を加熱する加熱ユニット又は前記蒸着材料源に電子ビームを照射する電子銃であり、かつ、
前記粉末投入調整ユニットの粉末排出口から300mm以上500mm以内の下方に前記蒸着材料源が設置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の粉末表面成膜装置。
【請求項12】
前記成膜ユニットが、前記成膜材料源を原子ビーム又はイオンビームとして照射するビーム源であり、
前記粉末投入調整ユニットの粉末排出口から上方に100mm以内で、且つ、前記粉末投入調整ユニットの粉末排出口から下方に300mm以内に前記ビーム源が設置されていて、
前記粉末投入調整ユニットの粉末排出口の中心を通る鉛直線と前記ビーム源との距離が300mm以内であり、前記ビーム源の照射方向が、前記鉛直線と交差し、かつ、水平よりも下を向いていることを特徴とする請求項1又は2に記載の粉末表面成膜装置。
【請求項13】
前記粉末投入調整ユニットに帯電装置を設置し、かつ、前記粉末投入調整ユニットと前記粉末回収ユニットの間にアノードを設置することを特徴とする請求項1~12のいずれか一つに記載の粉末表面成膜装置。
【請求項14】
原料粉末を準備する工程と、
前記原料粉末を反応空間内に落下させ、落下している前記原料粉末に対して成膜材料を与えて前記原料粉末の表面に薄膜を形成して被覆粉末とする工程と、
前記被覆粉末を前記反応空間の下で回収する工程と、を有することを特徴とする被覆粉末の製造方法。
【請求項15】
前記薄膜は、有機金属気相成長、スパッタリング、イオンプレーティング、蒸着、イオンビーム、原子ビームのいずれか1種の方法又はこれらの方法の組み合わせによって成膜されることを特徴とする請求項14に記載の被覆粉末の製造方法。
【請求項16】
前記薄膜は、落下している前記原料粉末に対して有機金属気相成長用の原料ガスを接触させ、更に前記原料粉末に赤外線又はレーザーを照射して加熱し、落下している前記原料粉末の表面に付着した前記原料ガスが分解して成膜されることを特徴とする請求項14又は15に記載の被覆粉末の製造方法。
【請求項17】
前記反応空間を覆う石英パイプ又は空冷若しくは水冷された石英パイプの中で前記原料粉末を落下させ、落下している前記原料粉末の表面に付着した前記原料ガスが分解して成膜されることを特徴とする請求項16に記載の被覆粉末の製造方法。
【請求項18】
前記薄膜は、スパッタリングによって成膜し、成膜時において、真空チャンバ内にプラズマ発生ガスとしてAr、Kr又はXeの少なくともいずれか一種を導入し、かつ、ガス圧を0.01~10Paとすることを特徴とする請求項14又は15に記載の被覆粉末の製造方法。
【請求項19】
成膜時において、真空チャンバ内に更に酸素又は窒素の少なくともいずれか一方をプラズマガス圧の10%以下の量を添加してプラズマを発生させて粉末表面に成膜を行うことを特徴とする請求項18に記載の被覆粉末の製造方法。
【請求項20】
前記原料粉末は平均粒径が5mm以下であり、前記原料粉末を落下させる前に前記原料粉末を帯電させて凝集を抑制しつつ、かつ、粉末投入口から入れられた前記原料粉末を一時的に留めておく粉末投入調整ユニットと該粉末投入調整ユニットの下に設けられ、該粉末投入調整ユニットから出された前記原料粉末が落下する反応空間の下に設置され、落下した被覆粉末を一時的に留めておく粉末回収ユニットとの間にアノードを設置して前記原料粉末を前記粉末投入調整ユニットと前記粉末回収ユニットを結ぶ鉛直線に向かって収束させること又は前記鉛直線の中心から広げることを特徴とする請求項14~19のいずれか一つに記載の被覆粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、粉末の各粒子の表面に薄膜を形成させるための粉末表面成膜装置及び被覆粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末に、新しい機能を付与するために、粒子の表面に薄膜を形成させる場合がある。例えば、メッキ法やゾルゲル法などの湿式法で、粒子の表面に薄膜を形成することは従来から広く使われている。湿式法では大量生産出来るメリットがある一方で、粒子表面という複雑な表面に多元素を含有する薄膜を形成することは難しい。更に、湿式であるが故に、その溶媒が粉末表面、薄膜の内部、更には薄膜の表面に残存してしまい、目的とする機能が発揮出来ない問題があった。
【0003】
そこで、乾式法での粉末表面薄膜形成技術が望まれていた。乾式法を用いた成膜技術としてスパッタリング法があり、スパッタリング法を用いた粉末への成膜装置が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。特許文献1では、回転ドラム内に粉末を投入し、回転ドラムを回転させつつスパッタリング法を用いて粉末に成膜する成膜装置が提案されている。
【0004】
また、従来の課題である多元素同時成膜を実現した技術や粉末攪拌を改善した技術も提案されている(例えば、特許文献2及び特許文献3を参照。)。特許文献2及び特許文献3には、粉末表面成膜装置に攪拌板及びスクレーパを設置し、原料粉末の攪拌を促して原料粉末に対して等しくスパッタリングする装置が開示されている。また、粉末表面へ多元素薄膜の形成を可能とし、更には粉末を効果的に成膜可能な領域に誘導し、かつ、攪拌を行う治具を有する粉末表面成膜装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3068947号公報
【特許文献2】特許第6789217号公報
【特許文献3】特許第6715003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3に記載の発明のように、攪拌を行いながら乾式法による粉末表面への成膜により、粉末へ高機能を付加することができる有効な手段である。しかし、特許文献1~3に開示の技術では、バレル形状の容器を横型に配置して粉末をその内部に入れ、これを回転させて攪拌を図り、更には粉末接触部へ攪拌治具を設置することで攪拌の改善は図られているものの、バレルの回転速度が速いと遠心力などによって粉末がバレルにくっついて安息角が高い位置まで上昇してしまい、安息角を超えて粉末が落下するとき、粉末がバレル中を飛散することによって成膜装置に付着することや、成膜中の放電が安定しなくなることがある。また、被覆粉末の粉末から膜の剥離などの問題を考慮すると、攪拌治具を速く動かせないことから十分に攪拌効率が良いとはいえなかった。また、従来の横型バレルでの乾式法では、成膜速度を上げた場合に、攪拌速度が追いつかず、粉末の一部に大量に成膜されることで凝集してしまう課題が残り、成膜速度を上げた粉末表面成膜ができず、大量生産には不向きである欠点があった。
【0007】
そこで本開示の目的は、原料粉末に攪拌治具を接触させることで攪拌する作業を行わずに、乾式法による高い成膜速度での粉末表面成膜を可能とする、すなわち乾式法による粉末表面成膜で高い生産性を実現し、かつ、原料粉末の表面に膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる装置及び成膜方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、従来の横型の回転バレルを用いて粉末を成膜するときに攪拌速度が上げられない原因がバレル内面に粉末が接触することや粉末同士での摩擦が原因と考え、攪拌治具や粉末同士の摩擦を原理的に無くしながら粉末に成膜できる成膜装置と成膜方法を見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明に係る粉末表面成膜装置は、原料粉末を投入するための粉末投入口と、前記原料粉末の表面に薄膜を形成して被覆粉末とするための真空チャンバと、該被覆粉末を回収するための粉末回収口と、を有する粉末表面成膜装置であって、前記真空チャンバは、前記粉末投入口から入れられた前記原料粉末を一時的に留めておく粉末投入調整ユニットと、該粉末投入調整ユニットの下に設けられ、該粉末投入調整ユニットから出された前記原料粉末が落下する反応空間と、前記薄膜の成膜材料源と、該成膜材料源から前記反応空間内で落下する前記原料粉末に対して成膜材料を与えて前記被覆粉末とする成膜ユニットと、前記反応空間の下に設置され、落下した前記被覆粉末を一時的に留めておき、前記粉末回収口とつながっている粉末回収ユニットと、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る粉末表面成膜装置は、前記成膜ユニットは、有機金属気相成長、スパッタリング、イオンプレーティング、蒸着、イオンビーム、原子ビームのいずれか又はこれらの組み合わせによる成膜装置であることが好ましい。落下する原料粉末の表面に膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる。
【0010】
本発明に係る粉末表面成膜装置は、前記成膜材料源が、有機金属気相成長のための原料ガスを供給する原料ガス供給ユニットと、前記原料ガスを運ぶキャリアガスを供給するキャリアガス供給ユニットと、を有し、前記成膜ユニットが、落下している前記原料粉末に対して前記成膜材料として前記原料ガスを吹き付けるノズルと、前記反応空間内にある前記原料ガス及び前記原料粉末に対して加熱用光線を照射する光線照射部と、を有することが好ましい。落下する原料粉末の表面に原料ガスを付着させるときに主として原料粉末を対象とした加熱を行うことにより、膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる。
【0011】
本発明に係る粉末表面成膜装置は、前記真空チャンバは、前記反応空間を覆う石英パイプ又は空冷若しくは水冷された石英パイプを有し、前記石英パイプの一端側の開口は、前記粉末投入調整ユニットの粉末排出口の真下に配置され、前記石英パイプの他端側の開口は、前記粉末回収ユニットの真上に配置され、前記原料粉末は、前記石英パイプ内で落下することが好ましい。反応空間内において原料粉末の分散の範囲を制限しつつ、原料粉末の石英パイプへの付着を抑制しながら落下する原料粉末の表面に薄膜を形成することができ、膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる。
【0012】
本発明に係る粉末表面成膜装置は、前記成膜材料源が、前記成膜材料であるターゲットであり、前記成膜ユニットが、イオンプレーティング装置又はスパッタリング装置であり、前記成膜材料及び成膜ユニットをカソードとして1カ所に1台から複数台設置してカソード群を形成し、該カソード群は、前記反応空間を側面から囲む構造を持つことが好ましい。原料粉末の分散の範囲を制限しつつ、さらに、成膜材料源が同質の材料であれば、粉末投入調整ユニットの粉末排出口から落下する原料粉末に対する成膜速度は向上し、落下する原料粉末の表面に膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる。
【0013】
本発明に係る粉末表面成膜装置は、前記成膜材料源が、前記成膜材料であるターゲットであり、該ターゲットは1つであり、前記成膜ユニットが、スパッタリング装置であり、 前記成膜材料及び成膜ユニットをカソードとして、前記カソードは、出力が10W/cm2以上の直流電源及び交流電源に接続されており、前記カソードは、直流電源及び交流電源の接続切り替え器、及び/又は、直流電源及び交流電源の電源重畳器を有することが好ましい。落下する原料粉末の表面に膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる。
【0014】
本発明に係る粉末表面成膜装置は、前記成膜材料源が、前記成膜材料であるターゲットであり、該ターゲットは複数であり、該ターゲットはそれぞれ前記成膜ユニットを有し、前記成膜ユニットが、スパッタリング装置であり、前記成膜材料及び成膜ユニットをカソードとして、前記各カソードは、それぞれ出力が10W/cm2以上の直流電源及び交流電源に接続されており、前記各カソードは、それぞれ直流電源及び交流電源の接続切り替え器、及び/又は、直流電源及び交流電源の電源重畳器を有することが好ましい。落下する原料粉末の表面に膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる。
【0015】
本発明に係る粉末表面成膜装置は、前記反応空間を側面から囲む構造を有する前記カソード群の各カソードは、それぞれ直流電源及び交流電源に接続されており、前記各カソードは、それぞれ直流電源及び交流電源の接続切り替え器、及び/又は、直流電源及び交流電源の電源重畳器を有し、かつ、各カソードにおける出力の最大出力と最小出力の比である最大出力:最小出力が10:3~10:10の範囲であることが好ましい。落下する原料粉末の表面に膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる。
【0016】
本発明に係る粉末表面成膜装置は、前記反応空間を側面から囲む構造を有する前記カソード群の各カソードは、それぞれ直流電源及び交流電源に接続されており、前記カソードは、それぞれ直流電源及び交流電源の接続切り替え器、及び/又は、直流電源及び交流電源の電源重畳器を有し、かつ、各カソードにおける磁石強度の最大磁石強度と最小磁石強度の比である最大磁石強度:最小磁石強度が10:3~10:10の範囲であることが好ましい。落下する原料粉末の表面に膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる。
【0017】
本発明に係る粉末表面成膜装置は、前記成膜材料源が、前記成膜材料であるターゲットであり、前記成膜ユニットが、スパッタリング装置であり、前記成膜材料及び成膜ユニットをカソードとして、前記カソードの側面部及び上部にアノードを有することが好ましい。成膜時の放電の状態を安定させつつ、原料粉末の落下をコントロールしながら原料粉末の表面に膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる。
【0018】
本発明に係る粉末表面成膜装置は、前記成膜材料源が、前記成膜材料である蒸着材料源であり、前記成膜ユニットが、前記蒸着材料源を加熱する加熱ユニット又は前記蒸着材料源に電子ビームを照射する電子銃であり、かつ、前記粉末投入調整ユニットの粉末排出口から300mm以上500mm以内の下方に前記蒸着材料源が設置されていることが好ましい。原料粉末の落下に対して下方から成膜することにより、原料粉末の表面に膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる。
【0019】
本発明に係る粉末表面成膜装置は、前記成膜ユニットが、前記成膜材料源を原子ビーム又はイオンビームとして照射するビーム源であり、前記粉末投入調整ユニットの粉末排出口から上方に100mm以内で、且つ、前記粉末投入調整ユニットの粉末排出口から下方に300mm以内に前記ビーム源が設置されていて、前記粉末投入調整ユニットの粉末排出口の中心を通る鉛直線と前記ビーム源との距離が300mm以内であり、前記ビーム源の照射方向が、前記鉛直線と交差し、かつ、水平よりも下を向いていることが好ましい。原料粉末の落下の速度が遅いときに、原料粉末の落下を追うようにして成膜することにより、原料粉末の表面に膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる。
【0020】
前記粉末投入調整ユニットに帯電装置を設置し、かつ、前記粉末投入調整ユニットと前記粉末回収ユニットの間にアノードを設置することが好ましい。原料粉末の凝集を抑制しつつ、原料粉末の落下の方向をコントロールしながら原料粉末の表面に膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる。
【0021】
本発明に係る被覆粉末の製造方法は、原料粉末を準備する工程と、前記原料粉末を反応空間内に落下させ、落下している前記原料粉末に対して成膜材料を与えて前記原料粉末の表面に薄膜を形成して被覆粉末とする工程と、前記被覆粉末を前記反応空間の下で回収する工程と、を有することを特徴とする。
【0022】
本発明に係る被覆粉末の製造方法は、前記薄膜は、有機金属気相成長、スパッタリング、イオンプレーティング、蒸着、イオンビーム、原子ビームのいずれか1種の方法又はこれらの方法の組み合わせによって成膜されることが好ましい。落下する原料粉末の表面に膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる。
【0023】
本発明に係る被覆粉末の製造方法は、前記薄膜は、落下している前記原料粉末に対して有機金属気相成長用の原料ガスを接触させ、更に前記原料粉末に赤外線又はレーザーを照射して加熱し、落下している前記原料粉末の表面に付着した前記原料ガスが分解して成膜されることが好ましい。落下する原料粉末の表面に薄膜を形成するときに主として原料粉末を対象とした加熱を行うことにより、膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる。
【0024】
本発明に係る被覆粉末の製造方法は、前記反応空間を覆う石英パイプ又は空冷若しくは水冷された石英パイプの中で前記原料粉末を落下させ、落下している前記原料粉末の表面に付着した前記原料ガスが分解して成膜されることが好ましい。反応空間内において原料粉末の分散の範囲を制限しつつ、原料粉末の石英パイプへの付着を抑制しながら被膜した粉末を粉末回収ユニットに導くことができる。
【0025】
本発明に係る被覆粉末の製造方法は、前記薄膜は、スパッタリングによって成膜し、成膜時において、真空チャンバ内にプラズマ発生ガスとしてAr、Kr又はXeの少なくともいずれか一種を導入し、かつ、ガス圧を0.01~10Paとすることが好ましい。成膜中の雰囲気を不活性ガス雰囲気にすることで不純物の混入を抑制しつつ、落下する原料粉末の表面に膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる。
【0026】
本発明に係る被覆粉末の製造方法は、成膜時において、真空チャンバ内に更に酸素又は窒素の少なくともいずれか一方をプラズマガス圧の10%以下の量を添加してプラズマを発生させて粉末表面に成膜を行うことが好ましい。酸化物薄膜又は窒化物薄膜を成膜するときに、酸素欠損又は窒素欠損などを抑制しつつ、落下する原料粉末の表面に膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる。
【0027】
本発明に係る被覆粉末の製造方法は、前記原料粉末は平均粒径が5mm以下であり、前記原料粉末を落下させる前に前記原料粉末を帯電させて凝集を抑制しつつ、かつ、粉末投入口から入れられた前記原料粉末を一時的に留めておく粉末投入調整ユニットと該粉末投入調整ユニットの下に設けられ、該粉末投入調整ユニットから出された前記原料粉末が落下する反応空間の下に設置され、落下した被覆粉末を一時的に留めておく粉末回収ユニットとの間にアノードを設置して前記原料粉末を前記粉末投入調整ユニットと前記粉末回収ユニットを結ぶ鉛直線に向かって収束させること又は前記鉛直線の中心から広げることが好ましい。原料粉末の凝集を抑制しつつ、原料粉末の落下の方向をコントロールしながら原料粉末の表面に膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0028】
本開示によれば、原料粉末に攪拌治具を接触させることで攪拌する作業を行わずに、乾式法による高い成膜速度での粉末表面成膜を可能とする、すなわち乾式法による粉末表面成膜で高い生産性を実現し、かつ、原料粉末の表面に膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる装置及び成膜方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本実施形態に係る粉末表面成膜装置の概略図である。
【
図2】本実施形態に係る有機金属気相成長法を用いて成膜するときの粉末表面成膜装置の概略図である。
【
図3】本実施形態に係るスパッタリング法を用いて成膜するときの粉末表面成膜装置の概略図である。
【
図4】
図3において、反応空間及びその周囲を上方から見たときの概略図であり、カソードの設置の一例及びカソードの側面部にアノードの設置の一例を説明する図である。
【
図5】
図3において、反応空間及びその周囲を上方から見たときの概略図であり、カソードの設置の別例及びカソードの側面部にアノードの設置の別例を説明する図である。
【
図6】本実施形態に係るイオンプレーティング法を用いて成膜するときの粉末表面成膜装置の概略図である。
【
図7】
図6において、反応空間及びその周囲を上方から見たときの概略図であり、カソードの設置の一例及びカソードの側面部にアノードを設置の一例を説明する図である。
【
図8】
図6において、反応空間及びその周囲を上方から見たときの概略図であり、カソードの設置の別例及びカソードの側面部にアノードを設置の別例を説明する図である。
【
図9】本実施形態に係る真空蒸着法を用いて成膜するときの粉末表面成膜装置の概略図である。
【
図10】本実施形態に係る電子ビーム蒸着法を用いて成膜するときの粉末表面成膜装置の概略図である。
【
図11】本実施形態に係る原子ビーム又はイオンビームを用いて成膜するときの粉末表面成膜装置の概略図である。
【
図12】
図1に示した粉末表面成膜装置において、帯電装置とアノードを設置した変形例を示す概略図である。
【
図13】本実施形態に係るカソードを縦2段に直列に構成にした粉末表面成膜装置の概略図である。
【
図14】本実施形態に係るカソードを横2段に直列に構成にした粉末表面成膜装置の概略図である。
【
図15】比較例1の被覆粉末の光学顕微鏡の画像である。
【
図16】実施例1の被覆粉末の光学顕微鏡の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以降、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。図中、各装置において、同一名称の部位には、形状によらず、同一の符号を付した。
【0031】
図1を参照して、本実施形態に係る粉末表面成膜装置について説明する。本実施形態に係る粉末表面成膜装置100は、原料粉末を投入するための粉末投入口1と、原料粉末の表面に薄膜を形成して被覆粉末するための真空チャンバ2と、被覆粉末を回収するための粉末回収口3と、を有する粉末表面成膜装置であって、真空チャンバ2は、粉末投入口1から入れられた原料粉末を一時的に留めておく粉末投入調整ユニット4と、粉末投入調整ユニット4の下に設けられ、粉末投入調整ユニット4から出された原料粉末が落下する反応空間5と、薄膜の成膜材料源6と、成膜材料源6から反応空間5内で落下する原料粉末に対して成膜材料を与えて被覆粉末とする成膜ユニット7と、反応空間5の下に設置され、落下した被覆粉末を一時的に留めておき、粉末回収口3とつながっている粉末回収ユニット8を有する。
【0032】
粉末投入口1は下部が開口したホッパーであることが好ましい。粉末投入調整ユニット4及び粉末回収ユニット8は下部にシャッタが付いたホッパーであることが好ましい。
【0033】
粉末投入口1と粉末投入調整ユニット4の間には、第1予備室9を設けることが好ましい。このとき、第1予備室9と粉末投入調整ユニット4との間には第1開閉ユニット10を設けることが好ましく、粉末投入口1と第1予備室9との間には第2開閉ユニット11を必要に応じて設けることが好ましい。
【0034】
第1予備室9は、配管を介してAr、O2、N2などの雰囲気ガスを供給する第1ガス系統34と接続されていて、また、配管を介して排気ポンプ33とつながっている。配管には、適宜、バルブが配置されていることが好ましい。第1予備室9内を大気開放することができると共に、大気圧以下の所定の圧力に維持し、所定のガス雰囲気に置換することができる。
【0035】
真空チャンバ2には、Ar、O2、N2などの雰囲気ガスを供給する第2ガス系統37が接続されていて、また、排気ポンプ38が接続されている。真空チャンバ2内を大気開放することができると共に、大気圧以下の所定の圧力に維持し、所定のガス雰囲気に置換することができる。
【0036】
また、粉末回収ユニット8と粉末回収口3の間には、第2予備室12を設けることが好ましい。このとき、粉末回収ユニット8と第2予備室12との間には第3開閉ユニット13を設けることが好ましく、第2予備室12と粉末回収口3の間には第4開閉ユニット14を必要に応じて設けることが好ましい。
【0037】
第2予備室12は、配管を介してAr、O2、N2などの雰囲気ガスを供給する第3ガス系統36と接続されていて、また、配管を介して排気ポンプ35とつながっている。配管には、適宜、バルブが配置されていることが好ましい。第2予備室12内を大気開放することができると共に、大気圧以下の所定の圧力に維持し、所定のガス雰囲気に置換することができる。
【0038】
第1予備室9及び第2予備室12が無い場合、粉末投入口1に原料粉末を投入するときは真空チャンバ2内を大気雰囲気とし、原料粉末の表面に薄膜を形成して被覆粉末を製造するときは真空チャンバ2内を成膜雰囲気とし、被覆粉末を粉末回収口3で回収するときは真空チャンバ2内を再び大気雰囲気としなければならないが、第1予備室9及び第2予備室12を設けることによって、第1予備室9及び第2予備室12のみ真空チャンバ2内と同程度の成膜雰囲気にすることや大気雰囲気にすることが可能になり、真空チャンバ2内の成膜雰囲気の状態を維持したまま新規の原料粉末を追加投入することや被覆粉末の回収が可能になる。
【0039】
また、被覆粉末を粉末回収ユニット8から粉末投入調整ユニット4に搬送するための粉末搬送ユニット15を設けることが好ましい。原料粉末への1度の成膜で被覆粉末の被覆量が不足しているとき、真空チャンバ2内の成膜雰囲気の状態を維持したまま、粉末搬送ユニット15を用いて被覆粉末を粉末回収ユニット8から粉末投入調整ユニット4に戻して再度被覆粉末への成膜を行うことができる。
【0040】
次に、
図2を参照して、本実施形態に係る有機金属気相成長法による粉末表面成膜装置200について説明する。本実施形態に係る粉末表面成膜装置200は、
図1の粉末表面成膜装置100と同様に、例えば、粉末投入口1と、真空チャンバ2と、粉末回収口3と、粉末投入調整ユニット4と、反応空間5と、粉末回収ユニット8とを有する。以降、粉末表面成膜装置200において粉末表面成膜装置100と同様の構成については、図において同様に図示するが、それらの説明は省略する。
【0041】
図1の粉末表面成膜装置100と比較して異なるところは、
図2の有機金属気相成長法による粉末表面成膜装置200では、成膜材料源6として有機金属気相成長のための原料ガスを供給する原料ガス供給ユニット16と原料ガスを運ぶキャリアガスを供給するキャリアガス供給ユニット17を有し、成膜ユニット7として落下している原料粉末に対して成膜材料として原料ガスを吹き付けるノズル18と反応空間5内にある原料ガス及び原料粉末に対して加熱用光線を照射する光線照射部19を有する。光線照射部19としては、原料粉末の温度を昇温させるための波長の光を照射するものであり、例えば、赤外線照射装置又はレーザー発振装置がある。原料ガス供給ユニット16は、不図示のガス系統から原料が液体である場合にバブリングするためのガス又は昇華させた原料を運ぶためのガスの供給を受け、また、原料を含むガスを原料ガス系配管16aに排出する。キャリアガス供給ユニット17は、流量を調節し、また、原料のガス中の濃度を調整するためのキャリアガスをキャリアガス系配管17aに排出する。原料ガス系配管16aとキャリアガス系配管17aとは合流し、ノズル18につながっている。
【0042】
粉末投入調整ユニット4の粉末排出口付近の原料粉末は、重力の影響が少なく落下速度がそれ程速くなく原料ガスを吹き付けやすいので、成膜材料として原料ガスを吹き付けるノズル18は、粉末投入調整ユニット4の粉末排出口から下方にそれ程距離を設けずにノズル18を設置することが好ましい。
【0043】
また、原料ガス及び原料粉末に対して加熱用光線を照射する光線照射部19は、ノズル18の下方に設置することが好ましい。
【0044】
図2の有機金属気相成長法による粉末表面成膜装置200では、原料ガス供給ユニット16、キャリアガス供給ユニット17、ノズル18、光線照射部19をそれぞれ1つずつ記載しているが、原料ガス供給ユニット16、キャリアガス供給ユニット17、ノズル18、光線照射部19をそれぞれ複数用意し、有機金属気相成長法による粉末表面成膜装置200に複数個所設置して原料粉末に原料ガスを吹き付けることや加熱することもできる。反応空間5を側方から取り囲むように均等間隔で設置することが好ましい。
【0045】
また、反応空間5を覆うように、石英パイプ20又は空冷若しくは水冷された石英パイプ(不図示)を有し、石英パイプ20の一端側の開口20aは、粉末投入調整ユニット4の粉末排出口の真下に配置され、石英パイプ20の他端側の開口20bは、粉末回収ユニット8の真上に配置され、原料粉末は、石英パイプ20内で落下する。粉末投入調整ユニット4の出口から落下した原料粉末は粉末回収ユニット8まで前後方向、左右方向にも分散するように落下していくため反応空間5を逸脱することもあるが、石英パイプ20を設置することによって、原料粉末の分散の範囲を制限しつつ、原料粉末の石英パイプ20への付着を抑制しながら被膜した粉末を粉末回収ユニット8に導くことができる。
【0046】
また、石英パイプ20を空冷若しくは水冷によって冷却することによって被覆した原料粉末の付着を抑制することができるため、石英パイプ20に空冷ユニット若しくは水冷ユニットを設けることが好ましい。
【0047】
次に、
図3を参照して、本実施形態に係るスパッタリング法による粉末表面成膜装置について説明する。本実施形態に係る粉末表面成膜装置300は、
図1の粉末表面成膜装置100と同様に、例えば、粉末投入口1と、真空チャンバ2と、粉末回収口3と、粉末投入調整ユニット4と、反応空間5と、成膜材料源6と、成膜ユニット7と、粉末回収ユニット8とを有する。以降、粉末表面成膜装置300において粉末表面成膜装置100と同様の構成については、図において同様に図示するが、それらの説明は省略する。
【0048】
図3に示した成膜ユニット7は、スパッタリング装置であり、部分拡大図に示すように、バッキングプレート7mと磁石7nと不図示の電源とを有する。バッキングプレート7mに成膜材料源6としてのターゲットが固定されている。
【0049】
図3のスパッタリング法による粉末表面成膜装置300では、
図4に示すように成膜材料源6及び成膜ユニット7を1組のカソード21として4つ用意し、カソード21群は、反応空間5を側面から囲む構造を持つことが好ましい。反応空間5を側面から囲む構造にすることによって原料粉末の分散の範囲を制限することができる。また、成膜材料源6が同質の材料であれば、4つの成膜材料源6から原料粉末に対して成膜されるため成膜速度は向上し、落下する原料粉末の表面に膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる。
【0050】
また、
図3のスパッタリング法による粉末表面成膜装置300では、
図5に示すように両端部にそれぞれ厚み部を設けた成膜材料源6及び成膜ユニット7を1組のカソード21として2つ有し、カソード21群は、反応空間5を側面から囲む構造を持つことが好ましい。反応空間5を側面から囲む構造にすることによって原料粉末の分散の範囲を制限することができる。また、成膜材料源6が同質の材料であれば、2つの成膜材料源6から原料粉末に対して成膜されるため成膜速度は向上し、落下する原料粉末の表面に膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる。
【0051】
また、
図3のスパッタリング法による粉末表面成膜装置300では、成膜材料源6及び成膜ユニット7を1組のカソード21として、カソード21は、出力が10W/cm
2以上の直流電源及び交流電源に接続されており、前記カソードは、直流電源及び交流電源の接続切り替え器、及び/又は、直流電源及び交流電源の電源重畳器を有することが好ましい。カソード21が、出力が10W/cm
2より低い直流電源及び交流電源に接続されると、カソード21に供給して放電させるための電力が不足し、原料粉末に成膜材料を成膜するときに放電状態を安定させることができない場合があるため、カソードは、出力が10W/cm
2以上の直流電源及び交流電源に接続されていることが好ましい。また、成膜材料によっては導電性の成膜材料、絶縁性の成膜材料などがあるが、カソード21が直流電源及び交流電源の接続切り替え器に接続されていれば、成膜材料の導電率などを考慮して直流電源又は交流電源を選択することができる。また、直流電源及び交流電源の両方の電源を使用できる成膜材料で、カソード21が直流電源及び交流電源の電源重畳器に接続されていれば、直流電源と交流電源を同時に使用して成膜材料に電力を供給することができる。カソード出力は10W/cm
2以上にすることが好ましい。通常のスパッタリング法では0.1W/cm
2以上10W/cm
2未満とすることが多いが、粉末を落下させて成膜をする場合は、粉末周囲に高濃度の成膜原子が存在している必要がある。10W/cm
2以上とすることで、高効率で高速成膜が可能となる。
【0052】
また、
図3のスパッタリング法による粉末表面成膜装置300では、成膜材料源6及び成膜ユニット7を1組のカソード21として、カソード21が複数設置されている場合、各カソード21は、それぞれ出力が10W/cm
2以上の直流電源及び交流電源に接続されていることが好ましく、各カソードは直流電源及び交流電源の接続切り替え器、及び/又は、直流電源及び交流電源の電源重畳器を有することが好ましい。成膜材料によっては導電性の成膜材料、絶縁性の成膜材料などがあるが、各カソード21がそれぞれ直流電源及び交流電源の接続切り替え器に接続されていれば、成膜材料の導電率などを考慮して直流電源又は交流電源を選択することができる。また、直流電源及び交流電源の両方の電源を使用できる成膜材料で、各カソード21がそれぞれ直流電源及び交流電源の電源重畳器に接続されていれば、直流電源と交流電源を同時に使用して成膜材料に電力を供給することができる。カソード21が複数設置されている場合も、各カソード出力は10W/cm
2以上にすることが好ましい。10W/cm
2以上とすることで、高効率で高速成膜が可能となる。
【0053】
また、
図3のスパッタリング法による粉末表面成膜装置300では、反応空間5を側面から囲む構造を有するカソード21群の各カソード21は、それぞれ直流電源及び交流電源に接続されており、各カソード21は、それぞれ直流電源及び交流電源の接続切り替え器、及び/又は、直流電源及び交流電源の電源重畳器を有し、かつ、各カソード21における出力の最大出力と最小出力の比である最大出力:最小出力が10:3~10:10の範囲であることが好ましい。最大出力:最小出力が10:3より比が大きくなると、各カソード21で成膜材料源6から発生する成膜材料の量の差が大きくなるため、原料粉末に付着する成膜材料の膜厚ムラが生じてしまう場合があるため、各カソード21における出力の最大出力と最小出力の比である最大出力:最小出力が10:3~10:10の範囲であることが好ましい。
【0054】
また、
図3のスパッタリング法による粉末表面成膜装置300では、反応空間5を側面から囲む構造を有するカソード21群の各カソード21は、それぞれ直流電源及び交流電源に接続されており、各カソード21は、それぞれ直流電源及び交流電源の接続切り替え器、及び/又は、直流電源及び交流電源の電源重畳器を有し、かつ、各カソードにおける磁石強度の最大磁石強度と最小磁石強度の比である最大磁石強度:最小磁石強度が10:3~10:10の範囲であることが好ましい。最大磁石強度:最小磁石強度が10:3より比が大きくなると、各カソード21で成膜材料源6から発生する成膜材料の量の差が大きくなるため、原料粉末に付着する成膜材料の膜厚ムラが生じてしまう場合があるため、各カソード21における磁石強度の最大磁石強度と最小磁石強度の比である最大磁石強度:最小磁石強度が10:3~10:10の範囲であることが好ましい。
【0055】
また、
図3のスパッタリング法による粉末表面成膜装置300では、成膜材料源6及び成膜ユニット7を1組のカソード21としてカソード21の上部にアノード22を設置することが好ましく、
図4及び
図5に示すように、更に、カソード21の側面部にアノード32を設置することが好ましい。反応空間5はカソード21によって囲まれているためアノード22,32が近くに設置されていないと反応空間5内の放電の状態は安定しないが、カソード21の近くにアノード22,32を設置することによって反応空間5内の放電状態を安定させることができる。このとき、カソード21とアノード22,32が接してしまうと電気的にショートしてしまうため、カソード21とアノード22,32は非接触の状態で配置することが必要である。なお、アノード22は、カソード21の上部に設置し、かつ、アノード32は、カソード21の側面部に設置することが好ましいが、カソード21の下部にはアノードを有さないことが更に好ましい。粉末投入調整ユニット4及び粉末回収ユニット8はアノードを兼ねていてもよい。
【0056】
次に、
図6~
図8を参照して、本実施形態に係るイオンプレーティング法による粉末表面成膜装置について説明する。本実施形態に係るイオンプレーティング法による粉末表面成膜装置400は、
図3のスパッタリング法による粉末表面成膜装置300と同様に、例えば、粉末投入口1と、真空チャンバ2と、粉末回収口3と、粉末投入調整ユニット4と、反応空間5と、成膜材料源6と、成膜ユニット7と、粉末回収ユニット8とを有する。以降、粉末表面成膜装置400において粉末表面成膜装置300と同様の構成については、図において同様に図示するが、それらの説明は省略する。
【0057】
図6のイオンプレーティング法による粉末表面成膜装置400では、更に、成膜材料源6から成膜材料が原料粉末に向かって飛んでいく箇所にコイル23を設置し、コイル23は高周波電源24に接続されている。高周波電源24からコイル23に電力を供給することでコイル23にプラズマが発生し、プラズマを通過した成膜材料が加速して原料粉末の表面に成膜されるため、落下する原料粉末の表面に膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる。コイル23は、成膜材料源6が反応空間5に面している領域を包含する大きさのコイル径を有していることが好ましい。イオンプレーティング装置は
図3のスパッタリング法による粉末表面成膜装置300と同様の成膜ユニット7と高周波電源24に接続されたコイル23とを有している。
【0058】
なお、
図6のイオンプレーティング法による粉末表面成膜装置400でも
図3~
図5のスパッタリング法による粉末表面成膜装置300と同様の理由で
図7及び
図8に示すようにカソード21群は、反応空間5を側面から囲む構造を持つことが好ましい。このとき、各カソード21の成膜材料源6から成膜材料が原料粉末に向かって飛んでいく箇所にコイル23を設置し、コイル23は高周波電源24に接続されている。カソード21群ごとにコイル23を設置することが好ましい。
【0059】
また、
図6のイオンプレーティング法による粉末表面成膜装置400でも
図3のスパッタリング法による粉末表面成膜装置300と同様の理由で各カソード21は、出力が10W/cm
2以上の直流電源及び交流電源に接続されていることが好ましく、各カソード21は直流電源及び交流電源の接続切り替え器、及び/又は、直流電源及び交流電源の電源重畳器を有することが好ましく、各カソード21における出力の最大出力と最小出力の比である最大出力:最小出力が10:3~10:10の範囲であることが好ましく、各カソード21における磁石強度の最大磁石強度と最小磁石強度の比である最大磁石強度:最小磁石強度が10:3~10:10の範囲であることが好ましく、成膜材料源6及び成膜ユニット7を1組のカソード21として該カソード21の上部にアノード22を設置することが好ましく、
図7及び
図8に示すように、該カソード21の側面部にアノード32を設置することが好ましい。粉末投入調整ユニット4及び粉末回収ユニット8はアノードを兼ねていてもよい。
【0060】
次に、
図9を参照して本実施形態に係る真空蒸着法による粉末表面成膜装置500について及び
図10を参照して電子ビーム蒸着法による粉末表面成膜装置600について説明する。本実施形態に係る真空蒸着法による粉末表面成膜装置500及び電子ビーム蒸着法による粉末表面成膜装置600は、
図1の粉末表面成膜装置100と同様に、粉末投入口1と、真空チャンバ2と、粉末回収口3と、粉末投入調整ユニット4と、反応空間5と、粉末回収ユニット8とを有する。以降、粉末表面成膜装置500,600において粉末表面成膜装置100と同様の構成については、図において同様に図示するが、それらの説明は省略する。
【0061】
図1の粉末表面成膜装置100と比較して異なるところは、
図9の真空蒸着法による粉末表面成膜装置500では、成膜材料源6として蒸着材料源25を有し、成膜ユニット7として加熱ユニット26を有する。また、
図10の電子ビーム蒸着法による粉末表面成膜装置600では、成膜材料源6として蒸着材料源25を有し、成膜ユニット7として電子銃27を有する。なお、加熱ユニット26及び電子銃27の設置箇所は、蒸着材料源25を加熱して蒸発させることができる箇所であれば設置箇所は問わない。このとき、粉末投入調整ユニット4の粉末排出口から300mm以上500mm以内の下方に蒸着材料源25が設置されていることが好ましい。粉末投入調整ユニット4の粉末排出口から300mmより上方に蒸着材料源25を設置すると、原料粉末の1度の落下に対して原料粉末の表面に成膜できる高さが限られ、原料粉末の表面への蒸着材料の蒸着量が少なくなるため、繰り返し被覆粉末の蒸着を行わなければならない。また、粉末投入調整ユニット4の粉末排出口から500mmより下方に蒸着材料源25を設置すると、粉末投入調整ユニット4の粉末排出口付近の原料粉末は、重力の影響が少なく落下速度がそれ程速くなく成膜しやすい箇所ではあるが、蒸着材料源25から粉末投入調整ユニット4の粉末排出口までの距離が長いため、粉末投入調整ユニット4の粉末排出口付近における原料粉末への蒸着量は少なくなってしまうとともに、蒸着材料源25付近においては蒸着材料源25からの蒸着量は増加するが、蒸着材料源25付近における原料粉末の落下速度が速くなるため、原料粉末の表面への蒸着材料の蒸着量が少なくなってしまうため、粉末投入調整ユニット4の粉末排出口から300mm以上500mm以内の下方に蒸着材料源25が設置されていることが好ましい。電子銃27から放出される電子ビームは、粉末が落下する領域を避けて、直接、蒸着材料源25に照射されることが好ましい。
【0062】
次に、
図11を参照して、本実施形態に係る原子ビーム又はイオンビームによる粉末表面成膜装置700について説明する。本実施形態に係る原子ビーム又はイオンビームによる粉末表面成膜装置700は、
図1の粉末表面成膜装置100と同様に、粉末投入口1と、真空チャンバ2と、粉末回収口3と、粉末投入調整ユニット4と、反応空間5と、粉末回収ユニット8とを有する。以降、粉末表面成膜装置700において粉末表面成膜装置100と同様の構成については、図において同様に図示するが、それらの説明は省略する。
【0063】
図1の粉末表面成膜装置100と比較して異なるところは、
図11の原子ビーム又はイオンビームによる粉末表面成膜装置700では、成膜材料源(不図示)の成膜材料が放出される成膜ユニット7としてビーム源28を有し、ビーム源28から放出される成膜材料を原料粉末に向かって照射する。このとき、粉末投入調整ユニット4の粉末排出口から上方に100mm以内で、且つ、粉末投入調整ユニット4の粉末排出口から下方に300mm以内にビーム源28が設置されていることが好ましい。粉末投入調整ユニット4の粉末排出口から100mmより上方にビーム源を設置すると、粉末投入調整ユニット4の粉末排出口付近の原料粉末は、重力の影響が少なく落下速度がそれ程速くなく成膜しやすい箇所ではあるが、粉末投入調整ユニット4によってビームの照射が遮られることによって照射範囲が減少し、ビーム源28から放出される成膜材料を原料粉末に向かって照射しにくくなる。また、粉末投入調整ユニット4の粉末排出口から300mmより下方にビーム源28を設置すると、原料粉末の落下速度が速くなっている状態で成膜材料を原料粉末に向かって照射するため、原料粉末の表面への成膜材料の成膜量が少なくなってしまうため、粉末投入調整ユニット4の粉末排出口から上方に100mm以内で、且つ、前記粉末投入調整ユニット4の粉末排出口から下方に300mm以内に前記ビーム源28が設置されていることが好ましい。またビーム源28の照射方向が、粉末投入調整ユニット4の粉末排出口の中心を通る鉛直線と交差し、かつ、水平よりも下を向いていることが好ましい。ビーム源28から放出される成膜材料を原料粉末に向かって照射することができる。
【0064】
次に、
図12を参照して、本実施形態に係る帯電装置29及びアノード30を備えた粉末表面成膜装置800について説明する。本実施形態に係る粉末表面成膜装置800は、
図1の粉末表面成膜装置100と同様に、粉末投入口1と、真空チャンバ2と、粉末回収口3と、粉末投入調整ユニット4と、反応空間5と、成膜材料源6と、成膜ユニット7と、粉末回収ユニット8とを有する。以降、粉末表面成膜装置800において粉末表面成膜装置100と同様の構成については、図において同様に図示するが、それらの説明は省略する。
【0065】
本実施形態に係る原料粉末は、ミクロンオーダーの直径を有する原料粉末もあるため、原料粉末を密に接するような状態で粉末投入調整ユニット4に置いておくと、原料粉末同士が凝集することが発生し、凝集した原料粉末のまま粉末投入調整ユニット4の粉末排出口から落下させて成膜したとしても、凝集箇所については成膜材料を被覆できないため、各被覆粉末のそれぞれの粉末の性能が異なる可能性がある。そのため、粉末投入調整ユニット4の上方に帯電装置29を設置し、原料粉末を直接的に帯電させて同極の原料粉末とすることで原料粉末同士の結合を反発させることにより凝集を抑制することができる。また、粉末投入調整ユニット4に隣接する位置に帯電装置29を設置し、粉末投入調整ユニット4を介して原料粉末を間接的に帯電させて同極の原料粉末とすることで原料粉末同士の結合を反発させることにより凝集を抑制することもできる。帯電としては、接触・摩擦による帯電、誘導帯電、電子・イオン捕捉による帯電、粒子自身の電子放出による帯電などがある。
【0066】
粉末投入調整ユニット4の粉末排出口から落下した後、原料粉末は自然に落下するため、下方向に落下すると同時に前後方向、左右方向にも移動し、その移動は各原料粉末で異なる動きをする。そのため、粉末投入調整ユニット4と粉末回収ユニット8の間にアノード30を設置して原料粉末の落下の方向をコントロールすることにより原料粉末の表面に膜厚が均一で付着効率がよい薄膜を形成することができる。
図12では、粉末投入調整ユニット4と粉末回収ユニット8を結ぶワイヤーをアノード30として成膜材料源6同士の中間箇所に設置して、鉛直線に向かって収束させること又は前記鉛直線の中心から広げることが好ましい。
【0067】
図1に示した本実施形態に係る粉末表面成膜装置100において、真空チャンバ2を設置するに際して上下方向のスペースに余裕があるときは、
図13に示すように成膜材料源6及び成膜ユニット7を上下2段構成にした粉末表面成膜装置900とすることもできる。このとき、上段の成膜材料源6a及び成膜ユニット7aで囲まれた反応空間5aと下段の成膜材料源6b及び成膜ユニット7bで囲まれた反応空間5bの間には、中間ユニット31を設置して原料粉末の落下の方向をコントロールすることが好ましい。スパッタリング法またはイオンプレーティング法により成膜を行うときは、中間ユニット31はアノードを兼ねていてもよい。
【0068】
図13では成膜材料源6及び成膜ユニット7を上下2段構成にした粉末表面成膜装置900を示したが、上下方向のスペースにさらに余裕があるときは、成膜材料源6及び成膜ユニット7を上下3段以上の構成にした粉末表面成膜装置とすることもできる。
【0069】
また、
図1に示した本実施形態に係る粉末表面成膜装置100において、真空チャンバ2を設置するに際して、左右方向のスペースに余裕があるときは、
図14に示すように成膜材料源6及び成膜ユニット7を左右2列構成にした粉末表面成膜装置1000とすることもできる。このとき、図中の左側の粉末回収ユニット8aと図中の右側の粉末投入調整ユニット4bの間に粉末搬送ユニット15を設けると、左側の反応空間5aで成膜した被覆粉末を大気雰囲気にして取り出すことなく、真空チャンバ2の成膜雰囲気を維持したまま右側の反応空間5bで被覆粉末に成膜することができる。
【0070】
図14では成膜材料源6及び成膜ユニット7を左右2列構成にした粉末表面成膜装置1000を示したが、左右方向のスペースにさらに余裕があるときは、成膜材料源6及び成膜ユニット7を左右3列以上の構成にした粉末表面成膜装置とすることもできる。
【0071】
また、
図13では成膜材料源6及び成膜ユニット7を上下2段構成にした粉末表面成膜装置900、
図14では成膜材料源6及び成膜ユニット7を左右2列構成にした粉末表面成膜装置1000について示してきたが、上下方向及び左右方向のスペースに余裕があるときは成膜材料源6及び成膜ユニット7を上下2段構成以上及び左右2列構成以上の粉末表面成膜装置とすることもできる。
【0072】
本実施形態に係る粉末表面成膜装置では、予備室を備えていない粉末表面成膜装置も包含される。この装置としては、例えば
図1において、第2開閉ユニット11から第1開閉ユニット10までの経路がなく、粉末投入口1からすぐに粉末投入調整ユニット4につながっている形態が包含される。粉末投入口1は、真空チャンバ2の蓋を兼ねている。さらに装置としては、第3開閉ユニット13から第4開閉ユニット14までの経路がなく、粉末回収口3からすぐに粉末回収ユニット8につながっている形態が包含される。粉末回収口3は、真空チャンバ2の蓋を兼ねている。
【0073】
[装置が予備室を備えていないときの製法]
(原料粉末を準備する工程)
予備室を備えていない粉末表面成膜装置を用いた本実施形態に係る被覆粉末の製造方法について説明する。真空チャンバ2内の構成については
図1に示した装置と同様であるため、
図1を参照して説明する。この装置は、第2開閉ユニット11から第1開閉ユニット10までの経路がなく、粉末投入口1からすぐに粉末投入調整ユニット4につながっていて、さらに第3開閉ユニット13から第4開閉ユニット14までの経路がなく、粉末回収口3からすぐに粉末回収ユニット8につながっている。まず、原料粉末は、真空雰囲気或いは、更に加熱するなどで事前に水分を除去することが好ましい。原料粉末の凝集を防ぐ効果がある。これらの原料粉末に本粉末表面成膜装置で成膜を行うことが好ましい。原料粉末は平均粒径が5mm以下であることが好ましい。5mmより大きいと粉末を落下させたときに成膜されても落下後の衝撃で膜が剥離してしまう。また、5mm以下では、粉末を落下させる際、粉末に電荷を加え、更に、適正な位置にアノードを設置することで粉末を収束或いは広げることが出来る。この粉末制御により、従来困難とされている10μm以下の微粉への成膜が可能となる。原料粉末のより好ましい平均粒径は1μm~3mmであり、さら好ましい平均粒径は5μm~1mmである。この原料粉末を最初に粉末投入口1に投入する。次に、原料粉末を粉末投入口1から粉末投入調整ユニット4に移送する。次に、原料粉末が粉末投入調整ユニット4に移送後、反応空間5を含む真空チャンバ2の内部空間を排気ポンプ38によって排気して真空引きを行う。反応空間5を含む真空チャンバ2の内部空間の真空引きが十分行われた後、必要に応じてアルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)などのガスを第2ガス系統37から流して反応空間5を含む真空チャンバ2の内部空間を不活性ガス雰囲気にして成膜雰囲気にすることや、前記不活性ガスに加え、酸素(O
2)、窒素(N
2)などのガスを流して反応空間5を含む真空チャンバ2の内部空間を成膜雰囲気にする。このとき、
図12に示すように、粉末投入調整ユニット4の上方から下方に向けて設置されている帯電装置29若しくは粉末投入調整ユニット4に隣接されている帯電装置29を用いて直接的若しくは間接的に原料粉末を帯電させると、粉末投入調整ユニット4内において原料粉末の凝集を抑制することができる。
【0074】
(成膜工程)
次に、成膜雰囲気にした後、粉末投入調整ユニット4の粉末排出口を開として、原料粉末を反応空間5内に落下させ、落下している原料粉末に対して成膜材料源6から成膜材料を与えて原料粉末の表面に薄膜を形成して被覆粉末とする。薄膜は、有機金属気相成長、スパッタリング、イオンプレーティング、蒸着、イオンビーム、原子ビームのいずれか1種の方法又はこれらの方法の組み合わせによって成膜される。
【0075】
<有機金属気相成長法>
成膜方法が有機金属気相成長法である場合、
図2に示すように、反応空間5の上方に設置された有機金属気相成長のための原料ガスを供給する原料ガス供給ユニット16と原料ガスを運ぶキャリアガスを供給するキャリアガス供給ユニット17を成膜材料源6として、ノズル18を介して原料ガスを放出する。原料粉末が反応空間5内で落下中のところで、光線照射部19から赤外線が照射され、原料粉末の温度が高まる。このとき、ノズル18から放出された原料ガスが原料粉末に接触した後に加熱されることによって、原料粉末の表面に付着した原料ガスが分解して成膜される。
図2に示すように反応空間5を覆う石英パイプ20の中で原料粉末を落下させることが好ましい。原料粉末の飛散を防止できる。
【0076】
<スパッタリング法>
成膜方法がスパッタリング法である場合、
図3~
図5に示すように、反応空間5の側面に設置されたスパッタリングターゲットを成膜材料源6として、直流電源若しくは交流電源、又は、直流電源及び交流電源から成膜ユニット7を介してスパッタリングターゲットに電力を供給し、放電させることによって成膜材料を放出し、落下中の原料粉末の表面に成膜を行う。成膜時において、真空チャンバ2内にプラズマ発生ガスとしてAr、Kr又はXeの少なくともいずれか一種を導入し、かつ、ガス圧を0.01~10Paとすることが好ましい。ここで成膜時において、真空チャンバ内に更に酸素又は窒素の少なくともいずれか一方をプラズマガス圧の10%以下の量を添加してプラズマを発生させて粉末表面に成膜を行うことがより好ましい。
【0077】
<イオンプレーティング法>
成膜方法がイオンプレーティング法である場合、
図6~
図8に示すように、反応空間5の側面に設置されたスパッタリングターゲットを成膜材料源6として、直流電源若しくは交流電源、又は、直流電源及び交流電源から成膜ユニット7を介してスパッタリングターゲットに電力を供給し、放電させた上、コイル23と高周波電源24を用いて発生させたプラズマを通過させて成膜材料を放出し、落下中の原料粉末の表面に成膜を行う。
【0078】
<蒸着法>
成膜方法が蒸着法である場合、
図9及び
図10に示すように、反応空間5の下方から上方に向けて蒸着材料源25を設置し、蒸着材料源25を加熱若しくは電子ビームを当てて、蒸着材料源25を蒸発させることによって成膜材料を放出し、落下中の原料粉末の表面に成膜を行う。
【0079】
<原子ビーム・イオンビーム>
成膜方法が原子ビーム又はイオンビームである場合、
図11に示すように、反応空間5の上方から下方に向けてビーム源28を設置し、ビーム源28から成膜材料を放出し、落下中の原料粉末の表面に成膜を行う。
【0080】
成膜工程において、
図12に示すように、粉末投入調整ユニット4から粉末回収ユニット8までワイヤー状のアノード30を設置することや、
図13に示すように、粉末投入調整ユニット4から粉末回収ユニット8の間に中間ユニット31を設置することによって、落下する原料粉末の分散を抑制することができる。
【0081】
(被覆粉末の回収工程)
次に、被覆粉末が粉末回収ユニット8に到達後、反応空間5を含む真空チャンバ2の内部空間を大気雰囲気にし、粉末回収ユニット8から粉末回収口3に移送して被覆粉末を回収する。回収した被覆粉末の被覆量が不十分である場合は、被覆粉末を粉末投入口1に投入し、同様の手順で被覆粉末に成膜材料を被覆する。
【0082】
[装置が予備室を備えているときの製法]
(原料粉末を準備する工程)
予備室を備えている粉末表面成膜装置を用いた本実施形態に係る被覆粉末の製造方法について
図1を参照して説明する。本実施形態に係る被覆粉末は、最初に原料粉末を粉末投入口1に投入する。次に、第2開閉ユニット11を開き、原料粉末を粉末投入口1から第1予備室9に移送する。原料粉末が第1予備室9に移送後は、第2開閉ユニット11を閉じる。なお、粉末投入口1が第1予備室9に備わっていて、粉末投入口1から第1予備室9に大気が侵入することを遮断することができる場合は、第2開閉ユニット11は不要である。次に、原料粉末が第1予備室9に移送後、第1開閉ユニット10が閉じている状態で第1予備室9の室内を排気ポンプ33で排気して真空引きを行う。第1予備室9の室内の真空引きが十分行われた後、必要に応じてアルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)などのガスを第1ガス系統34から流して第1予備室9の室内を不活性ガス雰囲気にして成膜雰囲気と同程度にすることや、不活性ガスに加え、酸素(O
2)、窒素(N
2)などのガスを流して第1予備室9の室内を成膜雰囲気と同程度にする。原料粉末は、第1予備室9の真空雰囲気によって事前に水分が除去されることとなり、粉末の凝集を防止できる。なお、原料粉末の好ましい平均粒径は5mm以下であり、より好ましい平均粒径は1μm~3mmであり、さら好ましい平均粒径は5μm~1mmである。次に、第1予備室9の室内を成膜雰囲気と同程度にしているときに、反応空間5を含む真空チャンバ2の内部空間を排気ポンプ38によって排気して真空引きを行う。反応空間5を含む真空チャンバ2の内部空間の真空引きが十分行われた後、必要に応じてアルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)などのガスを第2ガス系統37から流して反応空間5を含む真空チャンバ2の内部空間を不活性ガス雰囲気にして成膜雰囲気にすることや、不活性ガスに加え、酸素(O
2)、窒素(N
2)などのガスを流して反応空間5を含む真空チャンバ2の内部空間を成膜雰囲気にする。次に、第1予備室9の室内と反応空間5を含む真空チャンバ2の内部空間が同程度の成膜雰囲気になった後、第1開閉ユニット10を開き、原料粉末を第1予備室9から粉末投入調整ユニット4に移送する。原料粉末が粉末投入調整ユニット4に移送後は、第1開閉ユニット10を閉じる。第1開閉ユニット10を閉じた後、第1予備室9は成膜雰囲気から大気雰囲気にすることができるため、新たな原料粉末を投入する場合は、第1予備室9を大気雰囲気にした後に、前述と同様の方法で行うことができる。このとき、
図12に示すように、粉末投入調整ユニット4の上方から下方に向けて設置されている帯電装置29若しくは粉末投入調整ユニット4に隣接されている帯電装置29を用いて直接的若しくは間接的に原料粉末を帯電させると、粉末投入調整ユニット4内において原料粉末の凝集を抑制することができる。
【0083】
(成膜工程)
成膜工程については、「装置が予備室を備えていないときの製法」において説明した成膜工程と同様である。
【0084】
(被覆粉末の回収工程)
粉末回収ユニット8に被覆粉末が到達後、被覆粉末の被覆量が十分であれば、第3開閉ユニット13が閉じている状態で第2予備室12の室内を排気ポンプ35で排気して真空引きを行う。第2予備室12の室内の真空引きが十分行われた後、必要に応じてアルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)などのガスを第3ガス系統36から流して第2予備室12の室内を不活性ガス雰囲気にして成膜雰囲気と同程度にすることや、不活性ガスに加え、酸素(O2)、窒素(N2)などのガスを流して第2予備室12の室内を成膜雰囲気と同程度にする。次に、反応空間5を含む真空チャンバ2の内部空間と第2予備室12の室内が同程度の成膜雰囲気になった後、第3開閉ユニット13を開き、被覆粉末を粉末回収ユニット8から第2予備室12に移送する。被覆粉末が第2予備室12に移送後は、第3開閉ユニット13を閉じる。次に、被覆粉末が第2予備室12に移送後、第2予備室12の室内を成膜雰囲気から大気雰囲気にした後、第4開閉ユニット14を開き、被覆粉末を第2予備室12から粉末回収口3に移送して被覆粉末を回収する。被覆粉末が粉末回収口3に移送後は、第4開閉ユニット14を閉じる。なお、粉末回収口3が第2予備室12に備わっていて、粉末回収口3から第2予備室12に大気が侵入することを遮断することができる場合は、第4開閉ユニット14は不要である。
【実施例0085】
以下、実施例を示しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されない。
【0086】
(比較例1)
横型の粉末表面成膜装置であるバレル型粉末表面成膜装置に、平均粒径が600μmのポリスチレン粉末を0.3L入れ、バレルを回転しながら、ターゲット材料Ag、出力1kW、Ar圧0.4Paの条件で膜厚10nmのAg膜をポリスチレン粉末の表面に形成した。ターゲットからポリスチレン粉末にどれだけ材料が付着したかを示す付着効率は53.4%であった。また、成膜速度は2.03×10
-3g/secであった。また、被覆粉末を取り出した際に、被覆粉末表面に成膜されている膜にムラが生じており、更には凝集も見られた。そこで、同条件で100nmの膜厚まで成膜を続けたが、凝集もあり、
図15に示すように粉末の膜厚にムラが確認された。具体的には、
図15において、「A」で示した被覆粉末は、色がくすみ、膜厚が薄く、「B」で示した被覆粉末は、光沢があり、「A」の被覆粉末と比較して膜厚が厚かった。
【0087】
(実施例1)
本発明に関わる粉末表面成膜装置に、平均粒径が600μmのポリスチレン粉末を2.7L入れ、0.14L/secの速度でポリスチレン粉末を投入した。ターゲット材料Ag、出力3kWを2組のカソードにそれぞれ入れて出力合計6kW、Ar圧0.4Paの条件で膜厚10nmのAg膜をポリスチレン粉末の表面に形成した。ターゲットからポリスチレン粉末にどれだけ材料が付着したかを示す付着効率は77.2%であった。また、成膜速度は8.54×10
-3g/secであった。また、被覆粉末を取り出した際に、被覆粉末表面に成膜されている膜が均一であり、凝集は無く良好な被覆粉末が確認出来た。更に、比較の為100nmの膜厚まで成膜を続けたが、
図16に示すようにムラのない膜厚になっており、更には凝集も見られず良好であった。
図16において、いずれの被覆粉末も、均一な光沢があり、膜厚が均一であった。