(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131223
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】高力率整流回路
(51)【国際特許分類】
H02M 7/12 20060101AFI20220831BHJP
【FI】
H02M7/12 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030060
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】591141784
【氏名又は名称】学校法人大阪産業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100132506
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 哲文
(72)【発明者】
【氏名】岩田 明彦
【テーマコード(参考)】
5H006
【Fターム(参考)】
5H006AA02
5H006CA02
5H006CA07
5H006CB01
5H006CB08
5H006CC04
5H006CC08
5H006DB02
5H006DB03
5H006DC02
5H006DC05
(57)【要約】
【課題】故障時に交流側への電流の逆流やDCリンクの短絡が生じる可能性が低い構成で、且つ、軽量化可能な高力率整流回路を提供する。
【解決手段】高力率整流回路1は、交流電源にリアクトルLbを介して接続されるダイオードブリッジ、及び、ダイオードブリッジの出力側に接続されたコンデンサを含む整流回路2と、リアクトルLbと整流回路2の間の線に双方向スイッチS3を介して接続されたマルチレベルインバータであって、2つの電源部C1、C2と、2つの電源部の各々の双方向スイッチS3への接続と非接続を切り替えるスイッチ素子S1、S2とを含むマルチレベルインバータ3とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源にリアクトルを介して接続されるダイオードブリッジ、及び、前記ダイオードブリッジの出力側に接続されたコンデンサを含む整流回路と、
前記リアクトルと前記整流回路の間の線に双方向スイッチを介して接続されたマルチレベルインバータであって、2つの電源部と、前記2つの電源部の各々の前記双方向スイッチへの接続と非接続を切り替えるスイッチ素子とを含むマルチレベルインバータとを備える、高力率整流回路。
【請求項2】
請求項1に記載の高力率整流回路であって、
前記マルチレベルインバータの前記2つの電源部の各々は、コンデンサで形成される、高力率整流回路。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高力率整流回路であって、
前記ダイオードブリッジの入力端の電圧は、前記2つの電源部の電圧V1、V2及び前記整流回路の正負の出力電圧(+VDC、-VDC)によって制御される、高力率整流回路。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の高力率整流回路であって、
前記ダイオードブリッジの入力端の電圧が前記2つの電源部の電圧V1、V2でPWM制御されるモード、前記ダイオードブリッジの入力端の電圧が出力電圧VDCと一方の電源部の電圧V1でPWM制御されるモード、及び、前記ダイオードブリッジの入力端の電圧が出力電圧VDCと他方の電源部の電圧V2でPWM制御されるモードが、交流の1周期に含まれる、高力率整流回路。
【請求項5】
請求項2及び4に記載の高力率整流回路であって、
交流の1周期において、前記2つの電源部に吸収されるエネルギーと放出されるエネルギーの収支がゼロになるように、前記モードの幅が、前記2つの電源部の電圧に基づいて調整される、高力率整流回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高力率整流回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化ガス削減を目指し電動航空機の開発が本格化している。電動化システムの1つであるシリースハイブリッド方式では、発電機からの交流を直流化するAC/DCコンバータ(推進機用、装備品用)が用いられる。電動航空機用のAC/DCコンバータは、軽量化が求められる。
【0003】
また、航空機用AC/DCコンバータは、以下のことが求められる。まず、交流側へのエネルギーが逆流しないこと、そして、コンバータを構成する1アームが故障したときDCリンクを短絡させないことが求められる。
【0004】
上記の要求に応えるAC/DCコンバータとして、Sebastian Liebig, et al.(下記非特許文献1)では、Δ形状双方向スイッチを用いた3相の高力率整流回路が提案されている。この高力率整流回路は、高力率制御をダイオードブリッジの入力側の電圧を可変することにより実施している。この高力率回路では、ダイオードブリッジ入り口の電圧は、各相の線間のスイッチをオン時に線間がゼロ、オフ時は出力整流電圧となる。それらの電圧のPWM制御により、電源電圧からの電流がリアクトルを通して正弦波になるようコントロールされる。この構成では、ダイオードブリッジ入り口の線間電圧は、2レベルのPWM電圧となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sebastian Liebig, et al. :「Design and evaluation of state of the art rectifiers dedicated for a 46 kW E-ECS aerospace application with respect to power density and reliability」, Proceedings of the 2011 14th European Conference on Power Electronics and Applications,2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の高力率整流回路では、PWM波形の平滑化等により、インダクタンスの高いリアクトルが用いられる。その結果、リアクトルの重量がコンバータ全体の重量の大半を占めることになる。これは、軽量化の妨げとなる。
【0007】
そこで、本発明は、故障時に交流側への電流の逆流やDCリンクの短絡が生じる可能性が低い構成で、且つ、軽量化可能な高力率整流回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態における高力率整流回路は、交流電源にリアクトルを介して接続されるダイオードブリッジ、及び、前記ダイオードブリッジの出力側に接続されたコンデンサを含む整流回路と、前記リアクトルと前記整流回路の間の線に双方向スイッチを介して接続されたマルチレベルインバータであって、2つの電源部と、前記2つの電源部の各々の前記双方向スイッチへの接続と非接続を切り替えるスイッチ素子とを含むマルチレベルインバータとを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、故障時に交流側への電流の逆流やDCリンクの短絡が生じる可能性が低い構成で、且つ、軽量化可能な高力率整流回路を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態における高力率整流回路の構成例を示す図。
【
図2】
図1に示すマルチレベルインバータ3の電圧波形の一例を示す図。
【
図3】
図1に示すマルチレベルインバータ3の動作例を示す図。
【
図5】高力率整流回路を制御する制御部の構成例を示す図。
【
図6】
図1と同じ構成の高力率整流回路のシミュレーション結果を示す波形図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態における高力率整流回路は、交流電源にリアクトルを介して接続されるダイオードブリッジ、及び、前記ダイオードブリッジの出力側に接続されたコンデンサを含む整流回路と、前記リアクトルと前記整流回路の間の線に双方向スイッチを介して接続されたマルチレベルインバータであって、2つの電源部と、前記2つの電源部の各々の前記双方向スイッチへの接続と非接続を切り替えるスイッチ素子とを含むマルチレベルインバータとを備える。
【0012】
上記構成の高力率整流回路は、リアクトルとダイオードブリッジの間の交流側の線路に、マルチレベルインバータが双方向スイッチを介して接続される。この構成では、マルチレベルインバータのアームが故障しても、交流側への電流の逆流もDCリンクの短絡も生じにくい。また、マルチレベルインバータは、2つの電源部のそれぞれの接続を切り替えるスイッチ素子を有する。この構成では、マルチレベルインバータは、ダイオードブリッジの入力側に、双方向スイッチを通して、2つの電源部のいずれかに基づく電圧を供給できる。そのため、双方向スイッチ及びスイッチ素子のオン/オフの切り替えにより、ダイオードブリッジの入力側に供給する電圧を、少なくとも3段階に切り替えることができる。マルチレベルインバータは、少なくとも3段階の電圧を用いたPWM制御が可能になる。これは、交流電圧の1周期内に、電圧レベルに応じてPWM制御に用いる電圧の範囲(電圧スイングの範囲)を変えることを可能にする。そのため、PWM制御における電圧スイングを全体として小さくできる。その結果、リアクトルのインダクタンスを低くして軽量化できる。すなわち、故障時に交流側への電流の逆流やDCリンクの短絡が生じる可能性が低い構成で、且つ、軽量化可能な高力率整流回路を提供できる。
【0013】
前記マルチレベルインバータの前記2つの電源部の各々は、コンデンサで形成されてもよい。これにより、電源部のための電源装置が不要になる。
【0014】
前記マルチレベルインバータの動作時に、前記2つの電源部の電圧は異なっていてもよい。すなわち、前記2つの電源部は、異なるレベルの電圧を供給してもよい。例えば、前記2つの電源部が供給する電圧の極性は、互いに異なっていてもよい。一例として、前記2つの電源部の電圧V1、V2は、前記整流回路の出力電圧VDCに対して、おおよそ、V1=(+1/3)VDC、V2=(-1/3)VDCのレベルに設定される。
【0015】
前記マルチレベルインバータのスイッチ素子は、前記2つの電源部のうち一方を双方向スイッチに接続する状態と、他方を双方向スイッチに接続する状態とを切り替えてもよい。
前記マルチレベルインバータは、前記双方向スイッチ及び前記スイッチ素子のオン/オフ動作により、リアクトルの後段の交流電圧が目標電圧になるようPWM制御する。
マルチレベルインバータの出力をPWM制御することにより、整流回路に入力される電圧の位相と電流の位相が同じになるよう制御される。すなわち、マルチレベルインバータのPWM制御により、前記リアクトルと前記整流回路の間の電流を高力率化することができる。
【0016】
PWM制御において、2つの電源部それぞれの電圧レベル、及び、整流回路の出力電圧レベルの3つのうち2つの電圧を用いたPWM制御が行われる。目標電圧に応じてPWM制御で用いる2つの電圧が切り替わるように、双方向スイッチ及びスイッチ素子が制御される。
【0017】
前記ダイオードブリッジの入力端の電圧は、前記2つの電源部の電圧V1、V2及び前記整流回路の正負の出力電圧(+VDC、-VDC)によって制御されてもよい。すなわち、双方向スイッチ、及びマルチレベルインバータのスイッチ素子の切り替えにより、ダイオードブリッジの入力端の電圧を、上記の4つのレベルで切り替えてPWM制御することができる。これにより、制御電圧の電圧スイングを効率よく抑えることができる。例えば、ダイオードブリッジの入力端の電圧は、出力電圧VDCの1/3の電圧((1/3)VDC)、出力電圧VDCの-1/3の電圧(-(1/3)VDC)、及び正負の出力電圧(+VDC、-VDC)によってPWM制御することができる。
【0018】
前記ダイオードブリッジの入力端の電圧が前記2つの電源部の電圧V1、V2でPWM制御されるモード、前記ダイオードブリッジの入力端の電圧が出力電圧VDCと一方の電源部の電圧V1でPWM制御されるモード、及び、前記ダイオードブリッジの入力端の電圧が出力電圧VDCと他方の電源部の電圧V2でPWM制御されるモードが、交流の1周期に含まれてもよい。これにより、PWM制御の電圧を1周期において適切に切り替えることができる。そのため、効率よく電圧スイングを小さくできる。
【0019】
前記マルチレベルインバータにおいて、前記2つの電源部の電圧V1、V2は、前記整流回路の出力電圧VDCより小さくすることができる(VDC>V1>V2)。前記マルチレベルインバータによる前記ダイオードブリッジの入力端の電圧の制御は、交流の1周期において、V1とV2の間でPWM制御する期間Tα、VDCとV2の間でPWM制御する期間Tβ(+)、VDCとV1の間でPWM制御する期間Tγ(+)、及び、-VDCとV1の間でPWM制御する期間Tβ(-)、-VDCとV2の間でPWMする期間Tγ(-)を含むよう制御されてもよい。これにより、交流電圧の周期内のレベルに応じて、効率よくPWMパルスの幅を変えることができる。PWM制御における電圧スイングを効率よく小さくできる。
【0020】
交流の1周期において、前記2つの電源部に吸収されるエネルギーと放出されるエネルギーの収支がゼロになるように、前記モードの幅が、前記2つの電源部の電圧に基づいて調整されてもよい。これにより、電源部のコンデンサの電力でマルチレベルインバータを駆動できる。例えば、マルチレベルインバータを駆動するための外部電源等が不要になる。
【0021】
例えば、交流の1周期において、前記2つの電源部の充電量と放電量が同じになるように、出力電圧VDCと一方の電源部の電圧V1でPWM制御されるモードと、出力電圧VDCと他方の電源部の電圧V2でPWM制御されるモードとの期間の長さの比率が決定されてもよい。
【0022】
(構成例)
図1は、本発明の実施形態における高力率整流回路の構成例を示す図である。
図1に示す高力率整流回路1は、リアクトルLb、整流回路2と、双方向スイッチS3、及び、マルチレベルインバータ3を備える。整流回路2は、リアクトルLbを介して交流電源5と接続される。マルチレベルインバータ3は、リアクトルLbと整流回路2の間の線に、双方向スイッチS3を介して接続される。すなわち、双方向スイッチS3の一方端が、リアクトルLbと整流回路2の間の線に接続され、他方端が、マルチレベルインバータ3に接続される。
【0023】
整流回路2は、ダイオードブリッジと、ダイオードブリッジの出力側に接続されたコンデンサC3、C4を含む。ダイオードブリッジは、2つのダイオードD1、D2が同じ向き直列に接続されて形成されるアームを有する。アームを構成する2つのダイオードD1、D2の間に、リアクトルLbが接続され、交流電圧及び交流電流が入力される。
図1の例では、ダイオードブリッジは、ハーフブリッジである。
図1に示す例では、整流回路2は、3相全波整流回路である。整流回路2は、3相それぞれに対応するアームを有する。3相のアームのそれぞれのダイオードD1、D2の間に、各相の交流電流が入力される。
【0024】
整流回路2のコンデンサC3、C4は、アームのカソード側に接続されるコンデンサC3と、アノード側に接続されるコンデンサC4を含む。これらのコンデンサC3、C4の間は、マルチレベルインバータ3の2つの電源部、すなわち2つのコンデンサC1、C2の間と接続される。整流回路2に入力される3相交流が、対称3相交流の場合、コンデンサC3、C4の電圧は同じになる。なお、コンデンサC3、C4の間は、接地され、グランドとなってもよい。2つのコンデンサC3、C4にはそれぞれ電圧VDCが出力される。電圧VDCが整流回路2の出力電圧となる。整流回路2の出力電圧VDCは、ダイオードブリッジで整流され、コンデンサC3、C4で平滑化された電圧である。本例では、交流電圧の正の成分の整流電圧(コンデンサC3)と、負の成分の整流電圧(コンデンサC4)を合計した電圧2VDCが負荷に供給される。負荷Rには、2VDCの電圧が印加される。なお、負荷Rには、電圧VDCが供給されてもよい。
【0025】
双方向スイッチS3は、リアクトルLbと整流回路2のダイオードブリッジの間の線上のノードと、マルチレベルインバータ3との間の導通/非導通を切り替える。双方向スイッチS3は、導通(オン)状態のときに、双方向の電流を通し、非導通(オフ)状態のとき双方向の電流を通さない。
【0026】
マルチレベルインバータ3は、2つの電源部としてのコンデンサC1、C2と、スイッチ素子S1、S2を含む。スイッチ素子S1、S2は、2つのコンデンサC1、C2の各々の双方向スイッチS3への接続と非接続を切り替える。スイッチ素子S1は、コンデンサC1と双方向スイッチS3の間の経路に設けられ、スイッチ素子S2は、コンデンサC2と双方向スイッチS3の間の経路に設けられる。スイッチ素子S1とスイッチ素子S2が直列に接続されてアームを形成する。スイッチ素子S1とスイッチ素子S2の間のノードが双方向スイッチS3に接続される。アームのスイッチ素子S1側の端がコンデンサC1に接続され、スイッチ素子S2側の端がコンデンサC2に接続される。コンデンサC1、C2の間は、整流回路2のコンデンサC3、C4の間に接続される。なお、コンデンサC1、C2の間は、接地され、グランドになっていてもよい。
【0027】
図1の例では、3相の交流の線それぞれに、マルチレベルインバータ3が、双方向スイッチS3を介して接続される。双方向スイッチS3及びスイッチ素子S1、S3は、3相それぞれについて設けられる。2つの電源部としてのコンデンサC1、C2は、3相で共有される。すなわち、マルチレベルインバータ3は、3相に対応する3つのアームを有し、3つのアームに、共有のコンデンサC1、C2が接続される。
【0028】
スイッチ素子S1、S2、及び双方向スイッチS3を構成する半導体スイッチ素子には、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等を用いることができる。
【0029】
マルチレベルインバータ3の動作時において、コンデンサC1とコンデンサC2は異なる電圧に設定される。コンデンサC1の電圧V1とコンデンサC2の電圧V2は、極性が逆になる。また、コンデンサC1、C2の電圧V1、V2の絶対値は、整流回路2の出力電圧VDCの絶対値より小さくなるよう設定される。例えば、コンデンサC1、C2の電圧V1、V2の絶対値は、整流回路2の出力電圧VDCの絶対値の1/3に設定される(V1=(1/3)VDC、V2=-(1/3)VDC)。
【0030】
マルチレベルインバータ3は、双方向スイッチS3及びスイッチ素子S1、S2のオン/オフ動作により、リアクトルLbの後段の交流電圧が目標電圧になるようPWM制御する。マルチレベルインバータ3によるPWM制御により、リアクトルLbの後段の整流回路2に入力される交流電圧が正弦波化され、電圧の位相と電流の位相が同じにすることができる。すなわち、マルチレベルインバータのPWM制御により高力率制御ができる。
【0031】
マルチレベルインバータ3は、コンデンサC1、C2の電圧V1、V2、及び、整流回路2の出力電圧VDCの3つのうち2つの電圧を用いたPWM制御を行う。交流の周期内で、目標電圧に応じてPWM制御で用いられる2つの電圧が切り替わるように、双方向スイッチ及びスイッチ素子が制御される。以下、動作例を説明する。
【0032】
(動作例)
図2は、
図1に示すマルチレベルインバータ3によるPWM制御の電圧波形と、PWM制御されたリアクトルLb後段の交流電圧V’uの相電圧波形の一例を示す図である。
図3は、目標波形VRと、目標波形VRを得るためのPWM制御における双方向スイッチS3及びスイッチ素子S1、S2の動作例を示す図である。
図2に示すように、交流電圧の1周期において、動作モードが異なる複数の期間が含まれる。ここでは、一例として、コンデンサC1の電圧V1が、整流回路2の出力電圧VDCの1/3、すなわちV1=(1/3)VDCに設定され、コンデンサC2の電圧V2が、V2=-(1/3)VDCに設定された場合の動作を説明する。
【0033】
[期間Tα]
期間Tαのモードは、目標電圧VRが、-(1/3)VDC≦VR≦(1/3)VDCの場合のモードである。期間Tαでは、マルチレベルインバータ3は、V1=+(1/3)VDCとV2=-(1/3)VDCの電圧でPWM制御する。期間Tαでは、双方向スイッチS3を常に導通状態(S3オン)とし、スイッチ素子S1導通(S1オン)且つスイッチ素子S2非導通(S2オフ)の状態と、S1オフ且つS2オンの状態が切り替わる。これにより、リアクトルLb後段の電圧が目標電圧VRになるよう制御される。
図3に示す例では、期間TαのPWM制御では、一定の周期で+(1/3)VDC≦V≦VDCの範囲で変化する三角波αと目標電圧VRが比較される。三角波α>目標電圧VRの期間にS1オフ且つS2オン、三角波α≦目標電圧VRの期間にS1オン且つS2オフに制御される。S1オフ且つS2オンの時にV1=-(1/3)VDCが出力される。S1オン且つS2オフの時にV2=(1/3)VDCが出力される。リアクトルLbの後段の電圧、すなわち、整流回路2の入力側の電圧は、V1=(1/3)VDCと、V2=-(1/3)VDCで切り替わる。V1の期間とV2の期間がPWM制御されることで、リアクトルLbの後段の電圧は、平均して、電圧V’uの相電圧波形となる。期間Tαでは、整流回路2の直流出力部(コンデンサC3)へは電流が供給されない。期間Tαで、リアクトルLbの後段の交流電圧が正の場合は、リアクトルLbの後段の線路からマルチレベルインバータ3に電流が流れ込む。期間Tαで、リアクトルLbの後段の交流電圧が負の場合は、マルチレベルインバータ3は、リアクトルLbの後段の線路へ電流を流し入れる。この期間Tαの電圧スイングは、(2/3)VDCとなる。
【0034】
[期間Tβ+]
期間Tβ+のモードは、目標電圧VRが、VR>(1/3)VDCの期間の一部に実施される。期間Tβ+では、出力電圧VDCと電圧V2=-(1/3)VDCでPWM制御される。期間Tβ+では、スイッチ素子S2を常にオン且つスイッチ素子S1を常にオフとして、双方向スイッチS3のオン/オフが切り替わる。これにより、リアクトルLb後段の電圧が目標電圧VRになるよう制御される。
図3に示す例では、期間Tβ+のPWM制御では、一定の周期で-(1/3)VDC≦V≦VDCの範囲で変化する三角波βと目標電圧VRが比較される。三角波β>VRの期間にS3オン、三角波β≦VRの期間にS3オフに制御される。リアクトルLbの後段の電圧は、S3オンの時に整流回路の出力電圧VDCとなり、S3オフの時にV2=-(1/3)VDCとなる。リアクトルLbの後段の電圧は、V2=-(1/3)VDCとVDCで切り替わる。期間Tβ+では、S3オフの状態で、整流回路2の直流出力部に電流が供給される。この期間Tβ+の電圧スイングは、(4/3)VDCであり、期間Tα、Tγ+の電圧スイングの2倍となる。期間Tβ+を設ける目的の1つは、コンデンサC1、C2(V1、V2)へ流入出する電流の一周期平均がゼロとなるよう制御するためである。
【0035】
[期間Tγ+]
期間Tγ+のモードは、目標電圧VRが、VR>(1/3)VDCの期間のうち期間Tβ+を除いた残りの期間に実施される。期間Tγ+では、出力電圧VDCとV1=+(1/3)VDCの電圧でPWM制御が行われる。期間Tγ+では、スイッチ素子S1を常にオン且つスイッチ素子S2を常にオフとして、双方向スイッチS3のオン/オフが切り替わる。これにより、リアクトルLb後段の電圧が目標電圧VRになるよう制御される。
図3に示す例では、期間Tγ+のPWM制御では、一定の周期で-(1/3)VDC≦V≦VDCの範囲で変化する三角波βと目標電圧VRが比較される。三角波γ>VRの期間にS3オン、三角波γ≦VRの期間にS3オフに制御される。リアクトルLbの後段の電圧は、S3オンの時に整流回路の出力電圧VDCとなり、S3オフの時にV1=(1/3)VDCとなる。リアクトルLbの後段の電圧は、V1=(1/3)VDCとVDCで切り替わる。期間Tγ+でも、S3オフの状態で、整流回路2の直流出力部に電流が供給される。この期間Tγ+の電圧スイングは、(2/3)VDCとなる。
【0036】
[期間Tβ-]
期間Tβ-のモードは、目標電圧VRが、VR<-(1/3)VDCの期間の一部に実施される。期間Tβ-では、負の出力電圧-VDCと電圧V1=+(1/3)VDCでPWM制御される。期間Tβ-のスイッチ制御は、期間Tβ+のスイッチ制御の目標電圧VRの極性を逆にしたものとなる。期間Tβ-では、S3オフの状態で、整流回路2の直流出力部に電流が供給される。この期間Tβ-の電圧スイングは、(4/3)VDCである。
【0037】
[期間Tγ-]
期間Tγ-のモードは、目標電圧VRが、VR<-(1/3)VDCの期間のうち期間Tβ-を除いた残りの期間に実施される。期間Tγ-では、負の出力電圧-VDCとV2=-(1/3)VDCの電圧でPWM制御が行われる。期間Tγ-のスイッチ制御は、期間Tγ+のスイッチ制御の目標電圧VRの極性を逆にしたものとなる。期間Tγ-でも、S3オフの状態で、整流回路2の直流出力部に電流が供給される。この期間Tγ-の電圧スイングは、(2/3)VDCとなる。
【0038】
以上のように、リアクトルLbの後段の交流電圧が正の期間には、マルチレベルインバータ3は、リアクトルLbの後段の線路から電流を引き込むものの、線路に電流を流し入れることはない。リアクトルLbの後段の交流電圧が負の期間には、マルチレベルインバータ3は、リアクトルLbの後段の線路へ電流を流し入れるものの、線路から電流を引き込むことはない。
【0039】
上記のPWM制御で、2つの電源部であるコンデンサC1、C2それぞれの電圧V1、V2、及び、整流回路2の出力電圧と正負(+VDC、-VDC)の4つのうちから選ばれた2つの電圧でPWM制御が行われる。交流の1周期内で、目標電圧に応じてPWM制御で用いる2つの電圧が切り替わるように双方向スイッチS3及びスイッチ素子S1、S2が動作する。これにより、全体としてPWM制御の電圧スイングを小さくできる。その結果、リアクトルLbを軽量化できる。
【0040】
図2に示す例では、PWM制御の電圧のレベルは、-VDC、-(1/3)VDC、(1/3)VDC、VDCの4つである。上記例では、このように、レベル数は4である。1周期におけるPWM制御のレベル数を2より多くすることで、電圧スイングを小さくできる。なお、上記例では、振幅の大きいTβ+、Tβ-期間があるため、実効的なレベル数は4より小さくなる。
【0041】
(電源部のエネルギー収支をゼロにする動作例)
マルチレベルインバータ3は、コンデンサC1、C2の電圧V1、V2のフィードバック制御により、コンデンサC1、C2の交流の1周期における充電量と放電量が等しくなるようにしてもよい。すなわち、交流の1周期において、2つの電源部であるコンデンサC1、C2に吸収されるエネルギーと放出されるエネルギーの収支をゼロにする制御ができる。
【0042】
図2では、各モードの期間について、各コンデンサC1、C2への電流が流入するのか又は流出するのかを示している。「入」は流入、「出」は流出を示す。なお、
図2における電流の流出入の表示は、電圧と電流の位相が一致して条件下の例である。コンデンサC1(V1)に着目すると、目標電圧VRが正の期間では、期間TαとTγで電流がC1に流入する。目標電圧VRが負の期間では、期間TαとTβでC1から電流が流出する。従って、V1が目標値より小さい場合(例えば、V1<(1/3)VDC)には、目標電圧VRが正の期間のTγを長くするか、目標電圧VRが負の期間のTβを減らせば、V1を増加できる。
【0043】
すなわち、マルチレベルインバータ3は、検出された電圧V1が目標値より低い場合に、1周期におけるコンデンサC1へ電流が流れ込む期間が長くなるよう調整することができる。また、検出された電圧V1が目標値より高い場合は、1周期におけるコンデンサC1へ流れ込む期間が短くなるよう調整することができる。
【0044】
具体的には、マルチレベルインバータ3は、電圧V1、V2を検出し、電圧V1、V2と目標値との誤差(偏差)に基づいて、期間Tγ+及び期間Tγ-のうち少なくとも一方の長さを調整してもよい。すなわち、V1、V2の検出値と、それぞれの目標値(例えば、±(1/3)VDC)との誤差を、1周期内のTβとTγの比率にフィードバックする制御が可能である。これにより、2つの電源部としてのコンデンサC1、C2の電圧V1、V2を安定化できる。
【0045】
図4は、電圧V1、V2の目標値との誤差を期間TβとTγの比率へフィードバックする制御の例を示す図である。
図4の例では、V1検出値とV1目標値との差をPI積分して制御値Vxが計算される。PWM制御において、目標電圧VRが、VR>0、VR>Vxとなる期間が、期間Tγ+のモードとなるようS1~S3が制御される。また、V2検出値とV2目標値との差をPI積分して制御値Vyが計算される。PWM制御において、目標電圧VRが、VR<0、VR<Vyとなる期間が、期間Tγ-のモードとなるようS1~S3が制御される。これにより、目標電圧VRが正の期間では、V1<目標値であれば期間Tγ+が長くなり、V1>目標値であれば期間Tγ+が短くなる。目標電圧VRが負の期間では、V2<目標値であれば期間Tγ-が長くなり、V1>目標値であれば期間Tγ-が短くなる。
図4に示す例では、V1、V2をそれぞれ、独立してフィードバック制御できる。
【0046】
(制御部の構成例)
図5は、上記の高力率整流回路1を制御する制御部6の構成例を示す図である。制御部6は、双方向スイッチS3及び、スイッチ素子S1、S2のオン/オフを制御する信号S3s、S1s、S2sを生成して、これらのスイッチへ供給する。本例では、制御部6では、3相それぞれについて双方向スイッチS3及び、スイッチ素子S1、S2の信号を供給する。制御部6は、高力率整流回路1に入力される交流電流Iu、Iv、Iw、及び交流電圧Vw、マルチレベルインバータ3のコンデンサC1、C2の電圧V1、V2、及び、整流回路2の出力電圧2VDCを検出し、これらの検出値を入力する。制御部6は、これらの検出値を用いて、目標電圧VRを決定する。制御部6は、リアクトルLbの後段の交流電圧を目標電圧VRに制御するPWM信号を、スイッチの制御信号S3s、S1s、S2sとして生成し、スイッチS3、S1、S2へ出力する。
【0047】
制御部6は、検出した交流電流Iu、Iv、Iw、及び交流電圧Vwを基に、目標電圧VRu、VRv、VRwを決定する。目標電圧VRu、VRv、VRwは、交流電流Iu、Iv、Iwに位相が合う正弦波とする。これにより高力率制御がなされる。制御部6は、例えば、目標電圧VRu、VRv、VRwの位相と振幅を設定する。また、制御部6は、整流回路2の出力電圧2VDCを検出し、さらに、整流回路2の出力電圧2VDCが目標値になるように目標電圧VRu、VRv、VRwを制御してもよい。
【0048】
図5に示す例では、制御部6は、座標変換部61、力率制御部62、座標逆変換部65、モード幅制御部64、及びPWM変換部63を有する。座標変換部61は、検出した交流電流Iu、Iv、Iwをdq座標系に座標変換する。力率制御部(出力電圧制御部)62は、dq座標系に変換された交流電流Id、Iqを基に、高効率化と出力電力の制御を行う。例えば、高力率化のための交流正弦波の位相及び振幅を持つ目標電圧VRd、VRqが決定される。また、目標電圧VRqは、例えば、整流回路2の出力電圧2DVCが目標値となるようにフィードバック制御された値であってもよい。
【0049】
交流電圧Vwは、PPL(位相同期回路)に入力され、PLLから出力された信号は、座標変換部61及び座標逆変換部65に供給される。PPLの出力信号を微分した信号ωは、力率制御部(出力電圧制御部)62に供給される。
【0050】
dq座標系の目標電圧VRd、VRqは、座標逆変換部65で逆変換され、3相座標系の目標電圧VRu、VRv、VRwとなって、モード幅制御部64を経て、PWM変換部63に供給される。モード幅制御部64は、例えば、
図4に示したように、V1、V2と目標値との誤差をフィードバックした制御値Vxを計算する。制御値Vxは、期間Tγの長さを制御するための値であり、PWM変換部63に渡される。PWM変換部63は、例えば、
図3で示したように、目標電圧VRを実現するためのスイッチS1~S3のPWM制御信号を生成する。
【0051】
(シミュレーション試験結果)
図6は、
図1と同じ構成の高力率整流回路でシミュレーションを行った結果を示す波形図である。シミュレーションツールにはPSIMを用いた。
図6に示す結果から、電圧/電流の高力率化ができていることがわかった。
【0052】
本実施形態の高力率整流回路1は、整流回路2のダイオードブリッジの入力側に、双方向スイッチS3を通して、出力電圧VDCに対しておおよそ±1/3の電圧V1、V2を切り替えて出力できるマルチレベルインバータ3を接続した構成である。この構成により、マルチレベルインバータ3の出力による-(1/3)VDC、(1/3)VDC、及び、双方向スイッチS3のオフ時の整流回路の出力電圧VDCの3つの電圧レベルでPWM制御することが可能になる。このPWM制御により、交流電源の電流がリアクトルLbを通して、電流と位相が合った正弦波になるよう制御できる。このように、本実施形態の高力率整流回路1は、整流回路2とリアクトルLbの間の線に双方向スイッチを介して接続されたマルチレベルインバータ3により、PWM制御の電圧レベルを3段階にすることができる。これにより、リアクトルLbを小型、軽量化できる。また、交流側にマルチレベルインバータ3を接続する構成なので、アームが故障しても、電流の交流側への逆流、又は、DCリンクの短絡が生じにくい。
【0053】
(他の変形例)
本発明は、上記の実施形態に限られない。例えば、マルチレベルインバータの2つの電源部として、コンデンサ以外の電源を用いてもよい。マルチレベルインバータは、2つ以上の電源部を備えてもよい。また、2つの電源部の電圧V1、V2の設定値は、上記の+(1/3)VDC、-(1/3)VDCに限られない。上記例では、高力率整流回路1は、3相交流が入力される構成であるが、交流の相数は、3相に限られず、例えば、1相、2相、或いは、4相以上であってもよい。
図1及び
図5に示す例では、交流電源5とリアクトルLbの間にEMIフィルタ4が設けられる。EIMフィルタ4は、省略してもよい。
【0054】
(適用例)
本実施形態における高力率整流回路は、例えば、軽量化が求められる機器に用いることができる。例えば、電動航空機のAC/DCコンバータに、本実施形態の高力率整流回路を好適に適用できる。
【符号の説明】
【0055】
1:DCDCコンバータ、3:電圧源、4:リアクトル、5:制御部、6:制限回路