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2022-131272配電線事故原因推定装置および配電線事故原因推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131272
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】配電線事故原因推定装置および配電線事故原因推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/10 20120101AFI20220831BHJP
【FI】
G06Q50/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030136
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】貝原 明
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC12
(57)【要約】
【課題】配電線事故の内容の迅速かつ的確な特定を支援する。
【解決手段】配電線事故が発生した際に前記配電線事故の内容を推定する装置であり、事故状況情報および事故特性情報を取得する手段(停電情報取得タスク151)と、事故状況情報および事故特性情報に基づいて、配電線事故の内容を推定する手段(事故原因推定タスク152)と、を備え、事故状況情報が線路形態,地区特性,出力電圧メータ値,地絡表示メータ値,および零相電圧値を含み、事故特性情報が配電線事故の態様および動態を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電線事故が発生した際に前記配電線事故の内容を推定する装置であり、
事故状況情報および事故特性情報を取得する手段と、
前記事故状況情報および前記事故特性情報に基づいて、配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別のうちの少なくとも1つを推定する手段と、を備え、
前記事故状況情報が線路形態,地区特性,出力電圧メータ値,地絡表示メータ値,および零相電圧値を含み、
前記事故特性情報が配電線事故の態様,および前記態様の変化の様子に関する動態を含む、
ことを特徴とする配電線事故原因推定装置。
【請求項2】
前記配電線事故の前記態様が、態様の種類として、長時間の停電が発生,短時間の停電が発生,および微地絡が発生を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の配電線事故原因推定装置。
【請求項3】
前記配電線事故の前記動態が、動態の種類として、複数回連続して停電が発生,微地絡から短時間の停電へと移行,短時間の停電が一旦回復して直ぐに長時間の停電へと移行,自然解消,および変化なしを含む、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の配電線事故原因推定装置。
【請求項4】
前記配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別のうちの少なくとも1つを推定する処理を、前記事故状況情報および前記事故特性情報が入力されると、前記配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別のうちの前記少なくとも1つが出力されるように、過去の実績データに基づいて機械学習された学習済みモデルを用いて行う、
ことを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の配電線事故原因推定装置。
【請求項5】
配電線事故が発生した際に前記配電線事故の内容を推定するプログラムであり、
コンピュータを、
事故状況情報および事故特性情報を取得する手段、ならびに、
前記事故状況情報および前記事故特性情報に基づいて、配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別のうちの少なくとも1つを推定する手段、として機能させ、
前記事故状況情報が線路形態,地区特性,出力電圧メータ値,地絡表示メータ値,および零相電圧値を含み、
前記事故特性情報が配電線事故の態様,および前記態様の変化の様子に関する動態を含む、
ことを特徴とする配電線事故原因推定プログラム。
【請求項6】
前記配電線事故の前記態様が、態様の種類として、長時間の停電が発生,短時間の停電が発生,および微地絡が発生を含む、
ことを特徴とする請求項5に記載の配電線事故原因推定プログラム。
【請求項7】
前記配電線事故の前記動態が、動態の種類として、複数回連続して停電が発生,微地絡から短時間の停電へと移行,短時間の停電が一旦回復して直ぐに長時間の停電へと移行,自然解消,および変化なしを含む、
ことを特徴とする請求項5または6に記載の配電線事故原因推定プログラム。
【請求項8】
前記配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別のうちの少なくとも1つを推定する処理を、前記事故状況情報および前記事故特性情報が入力されると、前記配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別のうちの前記少なくとも1つが出力されるように、過去の実績データに基づいて機械学習された学習済みモデルを用いて行う、
ことを特徴とする請求項5から7のうちのいずれか1項に記載の配電線事故原因推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、配電線事故原因推定装置および配電線事故原因推定プログラムに関し、具体的には、配電線事故が発生した際に配電線事故の原因や箇所を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
設備管理を支援する従来の技術として、現場設備の状況などに応じて点検内容が変更可能に運用される設備管理支援システムであり、送配電設備の点検・保全作業につき、当初計画のテンプレート内容がベテランの作業ナレッジに基づいて見直しされることにより、より利便性の高い運用を図る設備管理支援システムが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-189088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、配電線における事故原因を分析・究明するため、従来は、目視による巡視が行われたり、事故点探査装置による測定が行われたりしている。しかしながら、配電線事故の原因を直ぐには特定できない場合が多く、復旧に時間がかかる、という問題がある。そして、配電線事故の原因の究明が長期化すると、同様の事故が再発する、という問題もある。
【0005】
また、配電線路の事故点を探査する際に用いられる事故点探査装置の出力電圧メータや地絡表示メータの値が、雨天時や零相電圧値によっては変動したり、事故原因の種類に応じて様々なバリエーション/動きとなったりすることなどから、配電線事故の原因の分析・究明は、過去の経験や知識に基づいて手探り的に行われるのが実情であり、効率的とは言えず、多大な労力と時間とが必要とされる、という問題がある。
【0006】
そこでこの発明は、配電線事故の内容の迅速かつ的確な特定を支援することが可能な、配電線事故原因推定装置および配電線事故原因推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、配電線事故が発生した際に前記配電線事故の内容を推定する装置であり、事故状況情報および事故特性情報を取得する手段と、前記事故状況情報および前記事故特性情報に基づいて、配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別のうちの少なくとも1つを推定する手段と、を備え、前記事故状況情報が線路形態,地区特性,出力電圧メータ値,地絡表示メータ値,および零相電圧値を含み、前記事故特性情報が配電線事故の態様,および前記態様の変化の様子に関する動態を含む、ことを特徴とする配電線事故原因推定装置である。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の配電線事故原因推定装置において、前記配電線事故の前記態様が、態様の種類として、長時間の停電が発生,短時間の停電が発生,および微地絡が発生を含む、ことを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の配電線事故原因推定装置において、前記配電線事故の前記動態が、動態の種類として、複数回連続して停電が発生,微地絡から短時間の停電へと移行,短時間の停電が一旦回復して直ぐに長時間の停電へと移行,自然解消,および変化なしを含む、ことを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1から3に記載の配電線事故原因推定装置において、前記配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別のうちの少なくとも1つを推定する処理を、前記事故状況情報および前記事故特性情報が入力されると、前記配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別のうちの前記少なくとも1つが出力されるように、過去の実績データに基づいて機械学習された学習済みモデルを用いて行う、ことを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明は、配電線事故が発生した際に前記配電線事故の内容を推定するプログラムであり、コンピュータを、事故状況情報および事故特性情報を取得する手段、ならびに、前記事故状況情報および前記事故特性情報に基づいて、配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別のうちの少なくとも1つを推定する手段、として機能させ、前記事故状況情報が線路形態,地区特性,出力電圧メータ値,地絡表示メータ値,および零相電圧値を含み、前記事故特性情報が配電線事故の態様,および前記態様の変化の様子に関する動態を含む、ことを特徴とする配電線事故原因推定プログラムである。
【0012】
請求項6の発明は、請求項5に記載の配電線事故原因推定プログラムにおいて、前記配電線事故の前記態様が、態様の種類として、長時間の停電が発生,短時間の停電が発生,および微地絡が発生を含む、ことを特徴とする。
【0013】
請求項7の発明は、請求項5または6に記載の配電線事故原因推定プログラムにおいて、前記配電線事故の前記動態が、動態の種類として、複数回連続して停電が発生,微地絡から短時間の停電へと移行,短時間の停電が一旦回復して直ぐに長時間の停電へと移行,自然解消,および変化なしを含む、ことを特徴とする。
【0014】
請求項8の発明は、請求項5から7に記載の配電線事故原因推定プログラムにおいて、前記配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別のうちの少なくとも1つを推定する処理を、前記事故状況情報および前記事故特性情報が入力されると、前記配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別のうちの前記少なくとも1つが出力されるように、過去の実績データに基づいて機械学習された学習済みモデルを用いて行う、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1や請求項5の発明によれば、事故状況情報として線路形態および地区特性を考慮するとともに事故特性情報として配電線事故の態様および動態を考慮するようにしているので、配電線事故の内容を的確に推定することが可能となり、延いては、配電線事故の内容の推定技術としての信頼性を向上させることが可能となる。そして、請求項1や請求項5の発明によれば、配電線事故の内容を的確に推定することができるので、配電線事故の内容の迅速かつ的確な特定を支援することが可能となり、延いては、配電線事故の内容の分析・究明にかかる労力と時間とを大幅に低減・短縮させることが可能となるとともに事故復旧までの時間を大幅に短縮して需要家に及ぼす影響を抑えることが可能となる。
【0016】
請求項2や請求項6の発明によれば、配電線事故の態様として具体的には長時間の停電が発生,短時間の停電が発生,および微地絡が発生を含む(別言すると、考慮する)ようにしているので、配電線事故の内容を一層的確に推定することが可能となる。
【0017】
請求項3や請求項7の発明によれば、配電線事故の導体として具体的には複数回連続して停電が発生,微地絡から短時間の停電へと移行,短時間の停電が一旦回復して直ぐに長時間の停電へと移行,自然解消,および変化なしを含む(別言すると、考慮する)ようにしているので、配電線事故の内容を一層的確に推定することが可能となる。
【0018】
請求項4や請求項8の発明によれば、事故状況情報および事故特性情報を入力とするとともに配電線事故の内容(具体的には、配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別)を出力として機械学習によって構築される学習済みモデルに従って配電線事故の内容が推定されるので、過去の配電線事故に関する実績情報が反映された一層実際的な配電線事故の内容を推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明の実施の形態に係る配電線事故原因推定装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
図2図1の配電線事故原因推定装置の事故状況データベースのデータレイアウトの例を示す図である。
図3図1の配電線事故原因推定装置の事故特性データベースのデータレイアウトの例を示す図である。
図4図1の配電線事故原因推定装置の事故原因データベースのデータレイアウトの例を示す図である。
図5図1の配電線事故原因推定装置の学習済みモデルが出力する情報の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0021】
図1は、この発明の実施の形態に係る配電線事故原因推定装置1の概略構成を示す機能ブロック図である。配電線事故原因推定装置1は、配電線における事故発生時の状況に基づいて事故原因を推定するための機序であり、主として、入力部11,表示部12,記憶部13,メモリ14,メインタスク15,通信部16,およびこれらを制御などする中央処理部17を備える。
【0022】
配電線事故原因推定装置1は、例えば、タブレット端末,携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistant の略),或いはノート型やデスクトップ型等の各種のコンピュータなどに、装置全体の制御プログラムや配電線事故の内容の推定に纏わる各種処理を行うためのアプリケーション(配電線事故原因推定プログラム18)がインストールされて実行されることによって構成される。
【0023】
入力部11は、利用者の命令などを受けて配電線事故原因推定装置1へと情報を入力する機能を備えるインターフェースであり、例えばキーボード,マウス,タッチパネルによって構成される。
【0024】
表示部12は、入力部11を介して入力される情報を表示したり、配電線事故原因推定装置1としての処理結果を表示したりなどする機能を備え、例えば液晶ディスプレイによって構成される。
【0025】
記憶部13は、各種の情報,プログラム,およびデータなどを記憶する機能を備える記憶領域/記憶装置であり、例えばハードディスク(HDD:Hard Disk Drive の略)やROM(Read Only Memory の略)によって構成される。
【0026】
記憶部13には、配電線事故原因推定装置1全体の制御プログラムや配電線事故原因推定プログラム18が格納される。記憶部13には、また、配電線事故が発生した際の配電線事故に関係する情報(「発生事故情報」と呼ぶ)に基づいて配電線事故の内容(具体的には、原因,箇所,および配電設備の種別)を推定するための学習済みモデル19と、学習済みモデル19の機械学習に用いられる教師データが記録・蓄積されている事故状況データベース131,事故特性データベース132,および事故原因データベース133が格納される。
【0027】
なお、上記のデータベース131~133はサーバなどの外部記憶装置に格納されるようにしてもよく、この場合には、配電線事故原因推定装置1が、通信部16を介して外部記憶装置にアクセスして各種データや情報を取得するようにしてもよく、あるいは、種々の信号回線を介して外部記憶装置との間でデータや制御指令等の信号の送受信/入出力を行うための接続インターフェースを備えるようにして当該接続インターフェースを介して外部記憶装置にアクセスして各種データや情報を取得するようにしてもよい。
【0028】
メモリ14は、中央処理部17が配電線事故の内容の推定に纏わる演算処理を実行する際に生成されるデータや情報を一時的に記憶などするための作業領域となる機能を備える記憶領域/記憶装置であり、例えばRAM(Random Access Memory の略)によって構成される。
【0029】
メインタスク15は、記憶部13に格納されている配電線事故原因推定プログラム18が実行されることによって実現される、配電線事故の内容の推定に纏わる各種処理を実行するためのタスク群である。
【0030】
通信部16は、例えばLAN(Local Area Network の略)やWAN(Wide Area Network の略)を含む各種の無線/有線の通信回線網を介して伝送される信号・情報の送受信/入出力を行う機能を備える通信インターフェースである。
【0031】
中央処理部17は、配電線事故原因推定装置1を構成する各部を統制して制御などする機能を備え、例えば、中央演算処理装置(CPU:Central Processing Unit の略)を含んで構成され、記憶部13に格納されている制御プログラムや配電線事故原因推定プログラム18に従って各機能を実現する。
【0032】
そして、配電線事故原因推定装置1は、配電線事故が発生した際に前記配電線事故の内容を推定する装置であり、事故状況情報および事故特性情報を取得する手段(停電情報取得タスク151)と、事故状況情報および事故特性情報に基づいて、配電線事故の内容を推定する手段(事故原因推定タスク152)と、を備え、事故状況情報が線路形態,地区特性,出力電圧メータ値,地絡表示メータ値,および零相電圧値を含み、事故特性情報が配電線事故の態様,および態様の変化の様子に関する動態を含む、ようにしている。
【0033】
また、配電線事故原因推定プログラム18は、配電線事故が発生した際に前記配電線事故の内容を推定するプログラムであり、コンピュータを、事故状況情報および事故特性情報を取得する手段(停電情報取得タスク151)、ならびに、事故状況情報および事故特性情報に基づいて、配電線事故の内容を推定する手段(事故原因推定タスク152)、として機能させ、事故状況情報が線路形態,地区特性,出力電圧メータ値,地絡表示メータ値,および零相電圧値を含み、事故特性情報が配電線事故の態様,および態様の変化の様子に関する動態を含む、ようにしている。
【0034】
また、配電線事故原因推定装置1および配電線事故原因推定プログラム18は、配電線事故の内容を推定する処理を、事故状況情報および事故特性情報が入力されると、配電線事故の内容が出力されるように、過去の実績データに基づいて機械学習された学習済みモデル19を用いて行う、ようにしている。
【0035】
配電線事故の内容の推定に纏わる各種処理を実行するために、記憶部13に格納されている配電線事故原因推定プログラム18が実行されることにより、メインタスク15が構成される。メインタスク15は、停電情報取得タスク151,事故原因推定タスク152,および学習タスク153を含む。
【0036】
停電情報取得タスク151は、配電線事故が発生した際に、配電線事故に関係する情報(即ち、発生事故情報)であって、作業者によって入力部11を介して入力される情報や、配電系統に設けられている機器から送信されて通信部16を介して入力される情報を取得する。
【0037】
そして、停電情報取得タスク151は、発生事故情報を事故原因推定タスク152へと転送する。
【0038】
事故原因推定タスク152は、停電情報取得タスク151から転送される発生事故情報に基づいて、配電線事故の内容を推定する。
【0039】
事故原因推定タスク152では、発生事故情報が入力されると、配電線事故の内容に関する情報が出力されるように機械学習(尚、深層学習(ディープラーニング)などとも呼ばれる手法を含む)された学習済みモデル19が用いられる。
【0040】
学習済みモデル19は、学習タスク153によって作成される。学習タスク153は、記憶部13に格納されている事故状況データベース131,事故特性データベース132,および事故原因データベース133に記録・蓄積されている過去の配電線事故に関する実績情報/実績データ群を教師データとして用いて、配電線事故の発生時における、配電線事故に関係したり影響を与えたりし得ると考えられる種々の状況、および、配電線事故の具体的な特性と、配電線事故の内容と、の間の関係を機械学習して、学習済みモデル19を作成する。
【0041】
機械学習では、特に分類に好適な機械学習の手法が用いられることが考えられ、具体的には例えば、決定木,エクストリームラーニングマシン(ELM),ニューラルネットワーク/ディープニューラルネットワーク(DNN),サポートベクターマシン(SVM)などが用いられ得る。
【0042】
機械学習における入力としての、配電線事故の発生時における、配電線事故に関係したり影響を与えたりし得ると考えられる種々の状況に纏わる実績情報は事故状況データベース131に記録・蓄積され、配電線事故の具体的な特性に纏わる実績情報は事故特性データベース132に記録・蓄積され、配電線事故の内容に纏わる実績情報は事故原因データベース133に記録・蓄積される。
【0043】
事故状況データベース131,事故特性データベース132,および事故原因データベース133では、過去の配電線事故それぞれを相互に区別して個別に識別するための識別情報(別言すると、ID)としての、前記データベース131~133に共通する事故番号が用いられており、当該事故番号を介して前記データベース131~133のそれぞれに記録・蓄積される情報が組み合わされて利用可能であるように構成される。
【0044】
また、事故状況データベース131,事故特性データベース132,および事故原因データベース133に記録・蓄積される各種情報は、各項目に対応して定められる数字やアルファベットの系列であるコードに変換されて用いられるようにしてもよく、或いは、予め定められるキーワード/文字系列によって表されて用いられるようにしてもよい。
【0045】
事故状況データベース131には、過去の配電線事故の発生時における、配電線事故に関係したり影響を与えたりし得ると考えられる種々の状況に纏わる情報(「事故状況情報」と呼ぶ)が、過去の配電線事故ごとに記録・蓄積される。事故状況データベース131には、事故状況情報として具体的には例えば下記の情報が記録・蓄積される(図2参照)。
【0046】
a)日付
配電線事故が発生した日付に関する情報である。なお、この項目は、配電線事故の背景としての時季と事故内容との因果関係を配電線事故の内容の推定に反映させるための項目であり、月のみでもよく、或いは四季などでもよい。
【0047】
b)時刻
配電線事故が発生した時刻に関する情報である。なお、この項目は、配電線事故の背景としての時期と事故内容との因果関係を配電線事故の内容の推定に反映させるための項目であり、例えば3時間程度に区切られた時間帯でもよく、或いは朝,昼,夜,および深夜・早朝などに区切られた1日の区分などでもよい。
【0048】
c)天候
配電線事故が発生した時の天候に纏わる情報である。天候の種類として、具体的には例えば、晴れ,曇り,雨,雷雨,および雪などが挙げられる。なお、天候として、気温,湿度,および風速などを含むようにしてもよい。
【0049】
d)配電線
事故が発生した配電線を識別するための情報(例えば、配電線や配電線の区間の各々に予め付与される識別番号/ID)である。
この項目の情報としては、例えば、配電自動化システムによって特定される停電区間の情報が用いられ得る。配電自動化システムは、配電系統に設けられている区分開閉器を遠隔監視制御することにより、配電系統の計画的な切り替えや、配電線事故などの突発的な停電発生時に事故区間以外の区間に送電を行うように配電系統の自動的な切り替えなどを行う。配電自動化システムは、配電線事故による停電が発生すると、停電区間に関する情報を含む高圧配電線停電情報を配電線事故原因推定装置1へと送信する。
【0050】
e)線路形態
事故が発生した配電線路の形態に関する情報である。線路形態の種類として、具体的には例えば、山間部,臨海部,街中(住宅地,商業地),工場地域,および田畑地域などが挙げられる。
【0051】
f)線種
事故が発生した配電線の線種に関する情報である。線種として、具体的には例えば、架空電線,地中電線(ケーブル),および水中電線(ケーブル)などが挙げられる。
【0052】
g)地区特性
事故が発生した配電線路が設置されている地区の自然環境に纏わる特性に関する情報である。地区特性の種類として、具体的には例えば、塩害地区,雷害地区,強風地区,および特性なしなどが挙げられる。
【0053】
h)出力電圧メータ値
配電線事故が発生した際の調査時の、計測地点IDと、事故点探査装置における出力電圧メータの値との組み合わせデータである。計測地点IDは、計測地点それぞれを相互に区別して個別に識別するための識別情報である。なお、1つの配電線事故について出力電圧メータ値が複数計測されている場合には、例えば、配電線事故の箇所に近い計測地点から所定の数の出力電圧メータ値が記録される。
【0054】
事故点探査装置は、配電線で地絡事故などが発生した場合に用いられる装置であり、具体的には例えば、事故が発生した配電線を管理する配電自動化システムによって事故区間(別言すると、停電区間)の特定が行われたうえで特定された区間に作業者が赴いて配電線路に電圧を印加し(具体的には、直流の高電圧パルスを注入し)、注入点と事故点との間に流れる電流を電流検出器を用いて高電圧パルス注入点から事故点に至るまで順番に検知を繰り返して事故点を探査する作業に用いられる。事故点探査装置には、パルス電圧値を表示する出力電圧表示メータと、注入点と事故点との間に流れる電流の大きさに比例した指示値を表示する地絡表示メータとが設けられている。
【0055】
事故点探査装置は通常は停電区間内の電柱に接続されて事故点の探査が行われるので、計測地点IDとして具体的には例えば電柱それぞれを相互に区別して個別に識別するための識別情報が用いられる。
【0056】
i)地絡表示メータ値
配電線事故が発生した際の調査時の、計測地点IDと、事故点探査装置における地絡表示メータの値との組み合わせデータである。なお、1つの配電線事故について地絡表示メータ値が複数計測されている場合には、例えば、配電線事故の箇所に近い計測地点から所定の数の地絡表示メータ値が記録される。
【0057】
j)零相電圧値
配電線事故が発生した時の、計測装置IDと、配電線における零相電圧の計測値との組み合わせデータである。計測装置IDは、計測装置それぞれを相互に区別して個別に識別するための識別情報である。
零相電圧は、例えば電柱に設置される計測装置によって計測される。零相電圧の計測データは、例えばLANやWANを含む各種の無線/有線の通信回線網を介して配電線事故原因推定装置1へと定期的に伝送される。
【0058】
k)過電流値
配電線事故が発生した時の、計測装置IDと、過電流(即ち、負荷へ供給する電流よりも大きな電流)の計測値との組み合わせデータである。
過電流は、例えば、過電流継電器等の各種の継電器などの過電流を検出する装置によって計測される。過電流の計測データは、例えばLANやWANを含む各種の無線/有線の通信回線網を介して配電線事故原因推定装置1へと定期的に伝送される。
【0059】
事故特性データベース132には、過去の配電線事故のそれぞれについて、配電線事故の具体的な特性に纏わる情報(「事故特性情報」と呼ぶ)が記録・蓄積される。事故特性データベース132には、事故特性情報として具体的には例えば下記の情報が記録・蓄積される(図3参照)。
【0060】
l)態様
配電線事故の態様に関する情報である。態様の種類として、具体的には例えば、配電線事故によって惹き起こされた状況として、長時間の停電が発生,短時間の停電が発生,および微地絡が発生などが挙げられる。
【0061】
m)動態
配電線事故の態様の変化に関する情報である。動態の種類として、具体的には例えば、複数回連続して停電が発生、微地絡から短時間の停電へと移行,短時間の停電が一旦回復して直ぐに長時間の停電へと移行,自然解消,および変化なしなどが挙げられる。
【0062】
ここで、上記l)の「態様」は配電線事故が発生した時の初期の態様/状況に関する情報であり、この「動態」は初期の態様/状況からの変化の様子に関する情報である。
【0063】
なお、「動態」について、配電線事故が発生した時の初期の態様/状況のまま変化することなく、配電線事故に対して特に復旧処置を施す前に事故が自然に解消/回復した場合には「自然解消」とされ、また、配電線事故が発生した時の初期の態様/状況のまま変化することなく、配電線事故に対する復旧処置を施すことによって事故が復旧した(即ち、自然解消ではない)場合には「変化なし」とされる。
【0064】
上記の事故状況情報および事故特性情報は、過去の配電線事故における発生事故情報に相当する。
【0065】
事故原因データベース133には、過去の配電線事故のそれぞれについて、配電線事故の内容に纏わる情報が記録・蓄積される。事故原因データベース133には、配電線事故の内容に纏わる情報として具体的には例えば下記の情報が記録・蓄積される(図4参照)。
【0066】
X)原因
配電線事故の原因に関する情報であり、配電線事故が発生した際に作業者が事故現場で確認した事故原因である。原因の種類として、具体的には例えば、風,雨,雷,腐食,自然劣化,整備・保守不良,過負荷,樹木接触,鳥獣接触,および人為的事故(例えば、作業者の過失や車両の接触など)などが挙げられる。
【0067】
Y)箇所
配電線路における事故点に関する情報であり、配電線事故が発生した際に作業者が事故現場で確認した事故点である。箇所の特定の仕方として、具体的には例えば、事故が発生した配電線の場所(例えば、隣り合う2本の電柱によって区分される配電線区間として特定するための電柱の識別情報の組み合わせ)や、不具合が発生した設備や機器(例えば、電柱や配電系統に設けられている機器を特定するための識別情報)などが挙げられる。
【0068】
Z)種別
事故の対象となった配電設備の種別に関する情報であり、配電線事故が発生した際に作業者が事故現場で確認した、故障した配電設備・機器の種別である。配電設備の種別として、具体的には例えば、架空電線,地中・水中電線(ケーブル),電柱,碍子,変圧器,開閉器,および遮断器などが挙げられる。
【0069】
学習済みモデル19は、例えば多クラス分類モデルをベースとして構築され、事故状況データベース131と事故特性データベース132とに記録・蓄積されている複数項目の入力データに基づいて、事故原因データベース133に記録・蓄積されている配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別を推定して出力するように作成される。
【0070】
つまり、学習タスク153は、事故状況データベース131,事故特性データベース132,および事故原因データベース133に記録・蓄積されている過去の配電線事故に関する実績情報/実績データ群を教師データとして用いて、配電線事故に関係したり影響を与えたりし得ると考えられる種々の状況(別言すると、事故状況情報)と配電線事故の具体的な特性(別言すると、事故特性情報)とに応じた配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別に関する学習処理を実行して、前記実績情報/実績データ群に基づいて学習済みモデル19を構築し、発生事故情報が入力された場合に配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別についての的確な推定結果が得られるように構成される。
【0071】
学習タスク153が利用する学習モデルは、例えば、ニューラルネットワーク/ディープニューラルネットワークを利用した機械学習・深層学習を用いて、上記データベース131~133に記録・蓄積されている実績情報から取得した配電線事故に関する実績データに基づいて、配電線事故に関係したり影響を与えたりし得ると考えられる種々の状況(別言すると、事故状況情報)や配電線事故の具体的な特性(別言すると、事故特性情報)を入力層とするとともに、前記種々の状況や事故の特性に応じた配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別に関する情報を出力層とする、中間層を含むニューラルネットワーク/ディープニューラルネットワークを作成する。
【0072】
この場合、配電線事故の原因と箇所と配電設備の種別との各々を出力層とするニューラルネットワーク/ディープニューラルネットワークがそれぞれ作成されるようにしてもよく、或いは、配電線事故の原因と箇所と配電設備の種別とのうちの2つの組み合わせを出力層とするニューラルネットワーク/ディープニューラルネットワークがそれぞれ作成されるようにしてもよく、さらに或いは、配電線事故の原因と箇所と配電設備の種別との組み合わせを出力層とするニューラルネットワーク/ディープニューラルネットワークが作成されるようにしてもよい。なお、上記のことをふまえ、この発明における事故原因には、配電線事故の原因そのもののほかに、配電線路における事故点自体や事故の対象となった配電設備自体も含まれる。
【0073】
そして、学習タスク153が利用する学習モデルは、実績としての、上記種々の状況や事故の特性に応じた配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別を学習データ(教師データ)として用いて中間層を作成して、中間層における各種パラメータについて学習を行う。学習タスク153が利用する学習モデルは、すなわち、上記種々の状況や事故の特性に応じた配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別の出力(つまり、推定結果)と、学習データ(教師データ)に含まれる上記種々の状況や事故の特性に応じた配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別(つまり、実績データ)と、の誤差を最小化するように、中間層における各種パラメータの学習を行う。
【0074】
なお、学習済みモデル19は、配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別の尤もらしさとしてそれぞれに該当する確率を出力するようにしてもよい。学習済みモデル19は、具体的には例えば図5に示すような情報を出力するようにしてもよい。図5において、(A)は配電線事故の原因と箇所と配電設備の種別との各々を出力層とする場合の例であり、(B)は配電線事故の原因と箇所と配電設備の種別とのうちの2つの組み合わせを出力層とする場合の例であり(尚、〈推定結果1〉と〈推定結果2〉との両方を出力する)、(C)は配電線事故の原因と箇所と配電設備の種別との組み合わせを出力層とする場合の例である。
【0075】
そして、学習タスク153は、作成した学習済みモデル19を記憶部13に格納する。
【0076】
事故原因推定タスク152は、学習タスク153によって作成される学習済みモデル19を利用して、新たに発生する配電線事故の内容を推定する。
【0077】
具体的には、配電線事故が新たに発生した際に、まず、停電情報取得タスク151が、事故状況データベース131や事故特性データベース132に記録・蓄積されている項目(言い換えると、学習済みモデル19が採用している項目)と同様の項目の情報・データを発生事故情報として取得する。
【0078】
停電情報取得タスク151は、例えば、上記の項目a)日付,b)時刻,c)天候,e)線路形態,f)線種,およびg)地区特性に関する情報を、作業者によって入力部11を介して入力される内容に従って取得する。また、上記の項目d)配電線に関する情報を、配電自動化システムから送信されて通信部16を介して入力される内容(具体的には、高圧配電線停電情報)に従って取得する。また、上記の項目h)出力電圧メータ値およびi)地絡表示メータ値に関する情報を、作業者によって入力部11を介して入力される、(別の)作業者が現地に赴いて事故点探査装置を操作して得た出力電圧メータ値や地絡表示メータ値に従って取得する。また、上記の項目j)零相電圧値に関する情報やk)過電流値に関する情報を、配電系統に設けられている所定の機器から伝送されて通信部16を介して入力される内容に従って取得する。さらに、上記の項目l)態様およびm)動態に関する情報を、作業者によって入力部11を介して入力される内容に従って取得する。
【0079】
そして、事故原因推定タスク152は、停電情報取得タスク151から転送される発生事故情報を学習済みモデル19へと入力することにより、配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別(具体的には例えば、それぞれに該当する確率)を推定して出力する。この際、事故原因推定タスク152は、推定される確率が大きい順に、配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別を複数挙げるようにしてもよい。
【0080】
そして、事故原因推定タスク152は、推定結果を表示部12に表示させる(図5参照;尚、確率を合わせて表示することは任意である)。
【0081】
以上のように、この配電線事故原因推定装置1や配電線事故原因推定プログラム18によれば、事故状況情報および事故特性情報を入力とするとともに配電線事故の内容(具体的には、配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別)を出力として機械学習によって構築される学習済みモデル19に従って配電線事故の内容が推定されるので、過去の配電線事故に関する実績情報が反映された一層実際的な配電線事故の内容を推定することができ、配電線事故の内容の迅速かつ的確な特定を支援することが可能となり、延いては、配電線事故の内容の分析・究明にかかる労力と時間とを大幅に低減・短縮させることが可能となるとともに事故復旧までの時間を大幅に短縮して需要家に及ぼす影響を抑えることが可能となる。この配電線事故原因推定装置1や配電線事故原因推定プログラム18によれば、特に、事故状況情報として線路形態および地区特性を考慮するとともに事故特性情報として配電線事故の態様および動態を考慮するようにしているので、配電線事故の内容を一層的確に推定することが可能となり、延いては、配電線事故の内容の推定技術としての信頼性を向上させることが可能となる。
【0082】
この配電線事故原因推定装置1や配電線事故原因推定プログラム18によれば、また、例えば微地絡が発生してその後に自然に解消/回復するような原因不明の配電線事故が発生した場合に配電線事故の内容が推定されるので、後日の巡視において重点的に点検すべきポイント箇所を絞ることができ、配電線事故の要因の発見を支援することが可能となり、延いては、配電線を安定して運用することが可能となる。
【0083】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0084】
例えば、上記の実施の形態では事故原因推定タスク152(具体的には、学習済みモデル19)は配電線事故の内容として原因,箇所,および配電設備の種別の3つを推定するようにしているが、事故原因推定タスク152(学習済みモデル19)は配電線事故の内容として原因,箇所,および配電設備の種別のうちの1つまたは2つのみを推定するようにしてもよい。配電線事故の原因,箇所,および配電設備の種別のうちの少なくとも1つが推定されることにより、配電線事故が発生した際に確認すべきポイントを絞り込むことができるので、配電線における事故原因の分析・究明が効率的に行われ、延いては配電線事故の内容の迅速かつ的確な特定を支援することが可能となる。
【符号の説明】
【0085】
1 配電線事故原因推定装置
11 入力部
12 表示部
13 記憶部
131 事故状況データベース
132 事故特性データベース
133 事故原因データベース
14 メモリ
15 メインタスク
151 停電情報取得タスク
152 事故原因推定タスク
153 学習タスク
16 通信部
17 中央処理部
18 配電線事故原因推定プログラム
19 学習済みモデル
図1
図2
図3
図4
図5