(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131298
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】排ガス処理装置用筒状部材および該筒状部材を用いた排ガス処理装置、ならびに該筒状部材に用いられる絶縁層
(51)【国際特許分類】
F01N 3/28 20060101AFI20220831BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20220831BHJP
B01D 53/88 20060101ALI20220831BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20220831BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20220831BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
F01N3/28 311U
F01N3/20 K ZAB
F01N3/28 311M
B01D53/88
B01D53/94 222
B01D53/94 241
B01D53/94 245
B01J35/02 G
B01J35/04 301F
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030168
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】柴垣 行成
(72)【発明者】
【氏名】田中 大智
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
3G091BA07
3G091CA03
3G091HA26
4D148AA06
4D148AA13
4D148AA14
4D148AB08
4D148BA01Y
4D148BA03Y
4D148BA07Y
4D148BA08Y
4D148BA15Y
4D148BA16Y
4D148BA17Y
4D148BA18Y
4D148BA19Y
4D148BA21Y
4D148BA22Y
4D148BA24Y
4D148BA28Y
4D148BA30Y
4D148BA31Y
4D148BA32Y
4D148BA33Y
4D148BA34Y
4D148BA35Y
4D148BA36Y
4D148BA37Y
4D148BA38Y
4D148BB02
4D148CC10
4D148CC43
4D148DA03
4D148DA20
4D148EA02
4G169AA01
4G169AA11
4G169BA14A
4G169BA14B
4G169BA17
4G169CA03
4G169DA06
4G169EA18
4G169EA26
4G169EE03
(57)【要約】
【課題】高温下においても環境負荷物質の発生が抑制され得る排ガス処理装置用筒状部材を提供すること。
【解決手段】本発明の実施形態による排ガス処理装置用筒状部材100は、金属製の筒状本体10と、筒状本体10の少なくとも内周面に設けられた絶縁層20と、を有する。絶縁層はガラスを含み、ガラスにおけるアルカリ金属元素の含有量は1000ppm以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の筒状本体と、該筒状本体の少なくとも内周面に設けられた絶縁層と、を有し、
該絶縁層がガラスを含み、該ガラスにおけるアルカリ金属元素の含有量が1000ppm以下である、
排ガス処理装置用筒状部材。
【請求項2】
前記筒状本体がクロムを含む、請求項1に記載の排ガス処理装置用筒状部材。
【請求項3】
前記アルカリ金属元素が、ナトリウム、カリウムおよびその組み合わせから選択される1種以上の元素を含む、請求項1または2に記載の排ガス処理装置用筒状部材。
【請求項4】
前記筒状本体がステンレス製である、請求項1から3のいずれかに記載の排ガス処理装置用筒状部材。
【請求項5】
前記絶縁層の厚みが30μm~800μmである、請求項1から4のいずれかに記載の排ガス処理装置用筒状部材。
【請求項6】
前記絶縁層の下記で定義される押し込み変形温度が600℃以上である、請求項1から5のいずれかに記載の排ガス処理装置用筒状部材:
該押し込み変形温度は、該絶縁層を、1mmΦのアルミナ針を用いて0.1MPaの圧力で押しながら10℃/分の昇温速度で加熱した際、該絶縁層の厚み方向に該絶縁層の厚みに対して10%変形させた時の温度である。
【請求項7】
前記ガラスが、ケイ素、ホウ素およびマグネシウムを含む、請求項1から6のいずれかに記載の排ガス処理装置用筒状部材。
【請求項8】
前記ガラスが、バリウムと、ランタン、亜鉛またはそれらの組合せと、を含む、請求項1から7のいずれかに記載の排ガス処理装置用筒状部材。
【請求項9】
排ガスを加熱可能な電気加熱型触媒担体と、
該電気加熱型触媒担体を収容する、請求項1から8のいずれかに記載の排ガス処理装置用筒状部材と、
を備える、排ガス処理装置。
【請求項10】
排ガス処理装置用筒状部材の筒状本体の少なくとも内周面に配設可能な絶縁層であって、
該絶縁層はガラスを含み、該ガラスにおけるアルカリ金属元素の含有量が1000ppm以下である、
絶縁層。
【請求項11】
前記アルカリ金属元素が、ナトリウム、カリウムおよびその組み合わせから選択される1種以上の元素を含む、請求項10に記載の絶縁層。
【請求項12】
厚みが30μm~800μmである、請求項10または11に記載の絶縁層。
【請求項13】
前記ガラスが、ケイ素、ホウ素およびマグネシウムを含む、請求項10から12のいずれかに記載の絶縁層。
【請求項14】
前記ガラスが、バリウムと、ランタン、亜鉛またはそれらの組合せと、を含む、請求項10から13のいずれかに記載の絶縁層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス処理装置用筒状部材および該筒状部材を用いた排ガス処理装置、ならびに該筒状部材に用いられる絶縁層に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジン始動直後の排ガス浄化性能の低下を改善するため、電気加熱触媒(EHC)が提案されている。EHCは、導電性セラミックで構成されたハニカム構造体に電極を配設し、通電によりハニカム構造体自体を発熱させることにより、ハニカム構造体に担持された触媒をエンジン始動前またはエンジン始動時に活性温度まで昇温するものである。
【0003】
EHCは、代表的には、金属製の筒状部材(キャンとも称される)に収容されて排ガス処理装置を構成する。EHCは通電することにより、上記のとおり車両始動時の排ガス浄化効率を向上できる反面、EHCから配管へ漏電し浄化性能が低下する場合がある。このような問題を解決するために、キャン内周面に絶縁層(代表的には、ガラス成分を含む)を形成し、漏電を防ぐ技術が知られている(特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5408341号
【特許文献2】特開2012-154316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および2に記載の絶縁層に関しては、キャンの構成材料によっては、高温下で絶縁層のガラスとキャンの構成成分とが反応し、環境負荷物質が発生する可能性がある。
本発明の主たる目的は、高温下においても環境負荷物質の発生が抑制され得る排ガス処理装置用筒状部材を提供することにある。本発明のさらなる目的は、このような筒状部材を用いた排ガス処理装置およびこのような筒状部材に用いられる絶縁層を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態による排ガス処理装置用筒状部材は、金属製の筒状本体と、該筒状本体の少なくとも内周面に設けられた絶縁層と、を有する。該絶縁層はガラスを含み、該ガラスにおけるアルカリ金属元素の含有量が1000ppm以下である。
1つの実施形態においては、上記筒状本体はクロムを含む。
1つの実施形態においては、上記アルカリ金属元素は、ナトリウム、カリウムおよびその組み合わせから選択される1種以上の元素を含む。
1つの実施形態においては、上記筒状本体はステンレス製である。
1つの実施形態においては、上記絶縁層の厚みは30μm~800μmである。
1つの実施形態においては、上記絶縁層の以下で定義される押し込み変形温度は600℃以上である:該押し込み変形温度は、該絶縁層を、1mmΦのアルミナ針を用いて0.1MPaの圧力で押しながら10℃/分の昇温速度で加熱した際、該絶縁層の厚み方向に該絶縁層の厚みに対して10%変形させた時の温度である。
1つの実施形態においては、上記ガラスは、ケイ素、ホウ素およびマグネシウムを含む。
1つの実施形態においては、上記ガラスは、バリウムと、ランタン、亜鉛またはそれらの組合せと、を含む。
本発明の別の局面によれば、排ガス処理装置が提供される。この排ガス処理装置は、排ガスを加熱可能な電気加熱型触媒担体と;該電気加熱型触媒担体を収容する、上記の排ガス処理装置用筒状部材と;を備える。
本発明のさらに別の局面によれば、排ガス処理装置用筒状部材の筒状本体の少なくとも内周面に配設可能な絶縁層が提供される。この絶縁層はガラスを含み、該ガラスにおけるアルカリ金属元素の含有量は1000ppm以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態によれば、高温下においても環境負荷物質の発生が抑制され得る排ガス処理装置用筒状部材を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の1つの実施形態による排ガス処理装置用筒状部材の排ガスの流路方向に直交する方向の概略断面図である。
【
図2】本発明の1つの実施形態による排ガス処理装置の排ガスの流路方向に平行な方向の概略断面図である。
【
図3】
図2の排ガス処理装置の排ガスの流路方向に直交する方向の概略断面図(
図2の矢印IIIの方向から見た概略断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0010】
A.排ガス処理装置用筒状部材
A-1.排ガス処理装置用筒状部材の全体構成
図1は、本発明の1つの実施形態による排ガス処理装置用筒状部材(以下、単に筒状部材と称する場合がある)の排ガスの流路方向に直交する方向の概略断面図である。図示例の筒状部材100は、筒状本体10と、筒状本体10の少なくとも内周面に設けられた絶縁層20と、を有する。絶縁層は、図示例のように筒状本体の内周面のみに設けられてもよく、図示しないが筒状本体の内周面および外周面の両方に設けられてもよい。絶縁層を筒状本体の内周面および外周面の両方に設けることにより、電気加熱型触媒担体の上流側の端部付近に蓄積され得る未燃の堆積物に起因する漏電の可能性を抑制することができる。本発明の実施形態においては、絶縁層20はガラスを含み、ガラスにおけるアルカリ金属元素の含有量は1000ppm以下である。このような構成であれば、高温下においても環境負荷物質の発生が抑制され得る排ガス処理装置用筒状部材を実現することができる。筒状部材100は、排ガスの流路方向に直交する方向の断面において、中心部に空洞(中空部分)30が規定されている。空洞30に電気加熱型触媒担体が収容されて、排ガス処理装置が構成される。なお、図示例の筒状部材100は円筒状(排ガスの流路方向に直交する方向の断面形状が円形)であるが、筒状部材の形状は目的に応じて適切に設計され得る。例えば、筒状部材100は、断面が多角形(例えば、四角形、六角形、八角形)または楕円形の筒状であってもよい。以下、筒状本体および絶縁層について具体的に説明する。電気加熱型触媒担体および排ガス処理装置の詳細については、B項で後述する。
【0011】
A-2.筒状本体
筒状本体10は、代表的には金属製である。このような構成であれば、製造効率に優れ、かつ、電気加熱型触媒担体の収容または取り付けが容易である。筒状本体を構成する材料としては、例えば、ステンレス、チタン合金、銅合金、アルミ合金、真鍮が挙げられる。その中でも、耐久信頼性が高く、安価という理由により、ステンレスが好ましい。
【0012】
1つの実施形態においては、筒状本体はクロムを含む。クロムは、代表的には、筒状本体(例えば、ステンレス)に耐腐食性を付与するために導入され得る。筒状本体におけるクロムの含有量は、例えば10.5質量%以上であり得、また例えば12質量%~20質量%であり得る。筒状本体がクロムを含む場合に、本発明の実施形態による効果が顕著なものとなる。より詳細には以下のとおりである。筒状本体がクロムを含んでいると、高温下で絶縁層のガラス成分と反応した場合に、環境負荷物質が発生する可能性が顕著に高くなる。本発明の実施形態によれば、このような場合であっても環境負荷物質の発生を良好に抑制することができる。
【0013】
筒状本体の厚みは、例えば0.1mm~10mmであり得、また例えば0.3mm~5mmであり得、また例えば0.5mm~3mmであり得る。筒状本体の厚みがこのような範囲であれば、耐久信頼性に優れ得る。
【0014】
筒状本体の長さは、目的、電気加熱型触媒担体の長さ等に応じて適切に設定され得る。筒状本体の長さは、例えば30mm~600mmであり得、また例えば40mm~500mmであり得、また例えば50mm~400mmであり得る。好ましくは、筒状本体の長さは、電気加熱型触媒担体の長さよりも大きい。この場合、電気加熱型触媒担体は、電気加熱型触媒担体が筒状本体から露出しないようにして配置され得る。
【0015】
筒状本体の内周面は、必要に応じて表面処理されていてもよい。表面処理の代表例としては、ブラスト加工等の粗面化処理が挙げられる。粗面化処理により、得られる絶縁層と筒状本体との密着性が向上し得る。
【0016】
筒状本体は、同軸に配置された外側筒状部と内側筒状部とを有する二重構造を有していてもよい(図示せず)。この場合、絶縁層は、外側筒状部と内側筒状部との間(外側筒状部の内周面または内側筒状部の外周面)に設けられてもよく、内側筒状部の内周面に設けられてもよく、その両方に設けられてもよい。
【0017】
A-3.絶縁層
絶縁層20は、筒状部材100と電気加熱型触媒担体(後述)との間に電気絶縁性を付与する。ここで、電気絶縁性は、周囲の排管への漏電を抑制する点から、代表的にはJIS規格D5305-3を満たすものであり、単位電圧当たりの絶縁抵抗値は例えば100Ω/V以上である。絶縁層20は、好ましくは、水分非透過性および水分非吸収性をさらに有する。すなわち、絶縁層20は、緻密で、水を通さずかつ吸収しないよう構成され得る。緻密性としては、絶縁層の気孔率は、例えば10%以下であり得、また例えば8%以下であり得る。
【0018】
本発明の実施形態においては、絶縁層20は上記のとおりガラスを含む。好ましくは、絶縁層は、結晶質を含むガラスを含む。ガラスが結晶質を含むことにより、高温(例えば、750℃以上)においても軟化および変形し難い絶縁層を形成することができる。絶縁層は、例えば750℃以上の環境下において、電気加熱型触媒担体を収容した場合にその保持に必要と解されている0.1MPaの圧力を維持し得る。したがって、排ガス処理装置において、電気加熱型触媒担体のずれ、所望でない位置への移動等を抑制することができる。結果として、高温下においても排ガス処理(代表的には、浄化)機能を安定して維持し得る排ガス処理装置用筒状部材を実現することができる。さらに、ガラスが結晶質を含むことにより、筒状本体との密着性に優れた絶縁層を形成することができる。金属(筒状本体)との熱膨張係数の差を小さくでき、加熱時に発生する熱応力を小さくできるからである。なお、結晶質(結晶)の有無は、X線回折法により確認することができる。
【0019】
ガラスは、代表的には、ケイ素およびホウ素を含む。このような構成であれば、絶縁層形成時の流動性に優れ、かつ、所定の結晶を形成できるので、均一な絶縁層を形成することができ、かつ、高温(例えば、750℃以上)においても軟化および変形し難い絶縁層を形成することができる。ケイ素は、例えばSiO2の形態でガラスに含有され得;ホウ素は、例えばB2O3の形態でガラスに含有され得る。言い換えれば、ガラスは、例えばSiO2-B2O3系ガラスであり得る。
【0020】
ケイ素(実質的には、SiO2)は、ガラスの骨格を形成する成分である。ケイ素は、より詳細には、熱処理することで結晶を析出させるための成分であり、かつ、ガラス化範囲を広げてガラス化しやすくするとともに、耐水性および耐熱性を向上させる成分である。ガラスにおけるケイ素の含有量は、好ましくは5mol%~50mol%であり、より好ましくは7mol%~45mol%であり、さらに好ましくは10mol%~40mol%である。ホウ素(実質的には、B2O3)は、溶融性および流動性を高めると共に、耐失透性を高める成分である。ホウ素の含有量は、好ましくは5mol%~60mol%であり、より好ましくは7mol%~57mol%であり、さらに好ましくは8mol%~55mol%である。ケイ素およびホウ素の含有量がこのような範囲であれば、上記の効果(均一で、かつ、高温においても軟化および変形し難い絶縁層の形成)がより顕著なものとなる。なお、本明細書において「ガラス中の元素含有量」は、酸素原子を除くガラス中の全原子の量を100mol%としたときの当該元素の原子のモル比である。ガラス中の各元素の原子の量は、例えば誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により測定され得る。
【0021】
ガラスは、マグネシウムをさらに含んでいてもよい。マグネシウムは、例えばMgOの形態でガラスに含有され得る。マグネシウム(実質的には、MgO)は、結晶の構成成分であり、かつ、高温粘性を下げて溶融性および流動性を高める成分である。ガラスがマグネシウムを含むことにより、高温においても軟化および変形し難く、かつ、均一な絶縁層を形成することができる。マグネシウムがガラスに含まれる場合の含有量は、好ましくは20mol%~40mol%であり、より好ましくは22mol%~37mol%であり、さらに好ましくは25mol%~35mol%である。
【0022】
ガラスは、バリウムをさらに含んでいてもよい。この場合、ガラスは、ランタン、亜鉛またはそれらの組合せをさらに含んでいてもよい。バリウムは、例えばBaOの形態でガラスに含有され得;ランタンは、例えばLa2O3の形態でガラスに含有され得;亜鉛は、例えばZnOの形態でガラスに含有され得る。バリウム(実質的には、BaO)および亜鉛(実質的には、ZnO)はそれぞれ、結晶の構成成分である。ランタン(実質的には、La2O3)は、流動性を向上させるための成分である。ガラスがバリウムと必要に応じてさらにランタン、亜鉛またはそれらの組合せとを含むことにより、筒状本体との密着性にきわめて優れた絶縁層を形成することができる。バリウムがガラスに含まれる場合の含有量は、好ましくは3mol%~30mol%であり、より好ましくは5mol%~25mol%であり、さらに好ましくは6mol%~20mol%である。ランタンの含有量は、好ましくは2mol%~25mol%であり、より好ましくは2mol%~20mol%であり、さらに好ましくは2mol%~18mol%である。亜鉛の含有量は、好ましくは2mol%~20mol%であり、より好ましくは2mol%~18mol%であり、さらに好ましくは3mol%~16mol%である。ランタンと亜鉛との合計含有量は、好ましくは7mol%~20mol%である。
【0023】
ガラスは、他の金属元素をさらに含んでいてもよい。このような金属元素としては、アルミニウム、カルシウム、ストロンチウムが挙げられる。これらの金属元素は、ガラスに単独で含有されてもよく2種以上が組み合わされて含有されてもよい。他の金属元素もまた、上記元素と同様に金属酸化物(例えば、Al2O3、CaO、SrO)の形態でガラスに含有され得る。ガラスにおけるこれらの金属元素の含有量は、上記の元素および不可避の不純物を除いた残部として規定され得る。アルミニウム(実質的には、Al2O3)は、ガラスの骨格を形成し、歪点を高め、粘性を調整し、さらに分相を抑制する成分である。カルシウム(実質的には、CaO)は、ガラス化範囲を広げてガラス化しやすくする成分であり、かつ、歪点を低下させずに、高温粘性を下げて溶融性および流動性を高める成分である。ストロンチウム(実質的には、SrO)は、ガラス化範囲を広げてガラス化しやすくする成分であり、かつ、分相を抑制し、耐失透性を高める成分である。アルミニウムの含有量は、例えば5mol%~15mol%であり得;カルシウムの含有量は、例えば3mol%~7mol%であり得;ストロンチウムの含有量は、例えば8mol%~12mol%であり得る。
【0024】
本発明の実施形態においては、ガラスにおけるアルカリ金属元素の含有量は、上記のとおり1000ppm以下であり、好ましくは800ppm以下であり、より好ましくは500ppm以下であり、さらに好ましくは200ppm以下であり、特に好ましくは100ppm以下である。アルカリ金属元素の含有量は小さいほど好ましく、例えば実質的にゼロ(検出限界未満)であり得る。ガラスにおけるアルカリ金属元素の含有量が非常に小さいことにより、高温下においても環境負荷物質の発生が抑制され得る排ガス処理装置用筒状部材を実現することができる。本明細書において「ガラスにおけるアルカリ金属元素の含有量」とは、ガラスに含まれるアルカリ金属元素の合計量を意味する。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムが挙げられる。ガラスに含まれるアルカリ金属元素は、例えば、ナトリウム、カリウムまたはその組み合わせであり得;また例えば、ナトリウムであり得る。アルカリ金属元素の含有量は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により測定され得る。
【0025】
本発明の実施形態に用いられ得るガラスの代表的な構成は下記表1のとおりである。ガラスにおいて各元素は表1に示す範囲内で含有され、かつ、各元素の合計は100となる。表1において、各元素の含有量は「mol%」である。それぞれの構成はいずれも、アルカリ金属元素の含有量が1000ppm以下であり、その中の特定の構成においては検出限界未満である。
【0026】
【0027】
絶縁層の厚みは、好ましくは30μm~800μmであり、より好ましくは50μm~600μmであり、さらに好ましくは100μm~550μmである。絶縁層の厚みがこのような範囲であれば、優れた電気絶縁性および筒状本体との優れた密着性を両立することができる。
【0028】
絶縁層の押し込み変形温度は、好ましくは600℃以上であり、より好ましくは700℃以上であり、さらに好ましくは800℃以上であり、特に好ましくは850℃以上である。押し込み変形温度の上限は、例えば1200℃であり得る。絶縁層の押し込み変形温度がこのような範囲であれば、高温(例えば、750℃以上)においても軟化し難い絶縁層を形成することができる。なお、押し込み変形温度は、絶縁層を、1mmΦのアルミナ針を用いて0.1MPaの圧力で押しながら、常温(25℃)から10℃/分の昇温速度で加熱した際、絶縁層の厚み方向に絶縁層の厚みに対して10%変形させた時の温度である。
【0029】
1つの実施形態においては、絶縁層は、所定の剥離試験後に以下の(1)および/または(2)を満足する:
(1)該筒状本体の内周面に該絶縁層由来の元素が存在する;
(2)該絶縁層に該筒状本体由来の元素が存在する。
剥離試験は、JIS H 8451:2008に準じて、排ガス処理装置用筒状部材を900℃と150℃の環境下に置き換えることを、絶縁層が剥離するまで繰り返すことを含む。このような構成であれば、筒状本体と絶縁層との優れた密着性を実現することができる。上記の(1)または(2)から、筒状本体10と絶縁層20との界面に中間層が形成されていることが推察される。中間層は、代表的には、筒状本体の構成成分と絶縁層の構成成分とが混在する相溶層であり得る。中間層は、例えば、筒状本体の構成成分が絶縁層に移行し、絶縁層の構成成分が筒状本体に移行することにより形成され得る。場合によっては、中間層には、筒状本体の構成成分と絶縁層の構成成分との化学反応物が含まれ得る。中間層は、筒状本体の構成成分が筒状本体側から絶縁層側に向かって減少し、および/または、絶縁層の構成成分が絶縁層側から筒状本体側に向かって減少する濃度勾配を有し得る。このような中間層が形成されると、筒状本体と絶縁層との界面が明確でなくなり、密着性が向上すると推察される。ただし、このような推察は、本願発明の実施形態およびそのメカニズムを拘束するものではない。なお、このような絶縁層は、例えば、バリウムと、必要に応じて、ランタン、亜鉛またはその組み合わせと、を導入することにより実現され得る。
【0030】
絶縁層は、上記のように排ガス処理装置用筒状部材の一部(構成要素)とされていてもよく、絶縁層として流通可能な形態として提供されてもよい。絶縁層が排ガス処理装置用筒状部材の一部とされる場合には、絶縁層は、代表的には、筒状本体に絶縁層形成材料を塗布し、乾燥し、焼成することにより形成され得る。なお、絶縁層の形成方法についてはA-4項で後述する。絶縁層として流通可能な形態としては、例えば、任意の適切な基材上に絶縁層が形成された積層体、絶縁層のガラスシート、絶縁層のガラスロールが挙げられる。これらはいずれも、任意の適切な手段により筒状本体に取り付けられ得る。取り付けの具体例としては、接着剤等を介した貼り合わせ、機械的固定が挙げられる。
【0031】
A-4.絶縁層の形成方法
絶縁層は、任意の適切な方法により形成され得る。絶縁層は、代表的には、ガラス源を含むスラリー(分散体)を塗布および乾燥して塗膜を形成し、当該塗膜を焼成することにより形成される。スラリーは、ガラス源として素原料を含んでいてもよく、ガラスフリットを含んでいてもよい。以下、代表例として、ガラス源としてガラスフリットを含むスラリーを用いて絶縁層を形成する方法について説明する。
【0032】
本実施形態の形成方法は、代表的には、ガラス源(素原料)からガラスフリットを作製する工程と;ガラスフリットを含む原料スラリーを調製する工程と;該スラリーの塗膜を形成する工程と;該塗膜を焼成して、ガラスを含む絶縁層を形成する工程と:を含む。
【0033】
素原料の具体例としては、珪砂(ケイ素源)、ドロマイト(マグネシウムおよびカルシウム源)、アルミナ(アルミニウム源)、酸化バリウム、酸化ランタン、酸化亜鉛(亜鉛華)、酸化ストロンチウムが挙げられる。素原料は酸化物に限られず、例えば炭酸物または水酸化物であってもよい。ガラスフリットは、代表的には、ガラスの素原料からガラスを合成し、得られたガラスを粉砕(例えば、粗粉砕および微粉砕の2段階で粉砕)することにより作成される。ガラスの合成時には高温(代表的には、1200℃以上)で長時間の溶融が行われる。
【0034】
上記のガラスフリットと溶媒とを混合することにより、原料スラリー(分散体)が調製される。溶媒は、水であってもよく有機溶媒であってもよい。溶媒は、好ましくは水または水溶性有機溶媒であり、より好ましくは水である。溶媒は、ガラスフリット100質量部に対して、好ましくは50質量部~300質量部、より好ましくは80質量部~200質量部の割合で混合され得る。原料スラリー調製時には、スラリー助剤(例えば、樹脂、可塑剤、分散剤、増粘剤、各種添加剤)がさらに混合されてもよい。スラリー助剤の種類、数、組み合わせ、配合量等は、目的に応じて適切に設定され得る。なお、本明細書において「溶媒」とは、原料スラリーに含まれる液状媒体をいい、溶媒および分散媒を包含する概念である。
【0035】
次に、原料スラリーを塗布および乾燥して塗膜を形成する。塗膜は、筒状本体の内周面に形成してもよく、任意の適切な基材に形成してもよい。塗布方法としては、任意の適切な方法が用いられ得る。塗布方法の具体例としては、スプレー、筒状本体または基材の絶縁層形成部分以外をマスクしての浸漬、バーコートが挙げられる。塗布厚みは、絶縁層の上記所望の厚みに応じて調整され得る。乾燥温度は、例えば40℃~120℃であり、また例えば50℃~110℃である。乾燥時間は、例えば1分~60分であり、また例えば10分~30分である。
【0036】
最後に、塗膜を焼成して絶縁層を形成する。焼成温度は、好ましくは1100℃以下であり、より好ましくは600℃~1100℃であり、さらに好ましくは700℃~1050℃である。焼成時間は、例えば5分~30分であり、また例えば8分~15分である。
【0037】
以上のようにして、絶縁層が形成され得る。絶縁層を筒状本体の内周面および外周面の両方に形成する場合には、上記と同様にして外周面にも絶縁層を形成すればよい。
【0038】
B.排ガス処理装置
図2は、本発明の1つの実施形態による排ガス処理装置の排ガスの流路方向に平行な方向の概略断面図であり;
図3は、
図2の排ガス処理装置を矢印IIIの方向から見た概略断面図である。図示例の排ガス処理装置300は、排ガスを加熱可能な電気加熱型触媒担体(以下、単に触媒担体と称する場合がある)200と;触媒担体200を収容する筒状部材100と;を備える。筒状部材100は、上記A項および
図1に記載の本発明の実施形態による排ガス処理装置用筒状部材である。排ガス処理装置は、エンジンからの排ガスを流すための排ガス流路の途中に設置される。触媒の活性温度まで加熱された触媒担体と排ガスとが接触することにより、触媒担体を通過する排ガス中のCO、NO
x、炭化水素などを触媒反応によって無害な物質にすることが可能となる。
【0039】
触媒担体200は、筒状部材100の形状に対応した形状を有し得る。例えば筒状部材100が円筒状である場合には、触媒担体200は円柱状であり得る。触媒担体200は、筒状部材100の空洞30に、代表的には同軸に収容されている。触媒担体は、筒状部材に直接(すなわち、他の部材を介さずに)収容されてもよく、例えば保持マット(図示せず)を介して収容されてもよい。触媒担体が筒状部材に直接収容される場合には、触媒担体は筒状部材に例えば嵌合され得る。保持マットは、代表的には、絶縁材料(例えば、アルミナ)がマット状に形成されたものである。保持マットは、代表的には触媒担体の外周面を全周にわたって覆い、筒状部材は保持マットを介して触媒担体を保持し得る。
【0040】
触媒担体200は、ハニカム構造部220と、ハニカム構造部220の側面に(代表的には、ハニカム構造部の中心軸を挟んで対向するようにして)配設された一対の電極部240と、を備える。ハニカム構造部220は、外周壁222と、外周壁222の内側に配設され、第1端面228aから第2端面228bまで延びて排ガス流路を形成する複数のセル226を規定する隔壁224と、を有する。外周壁222および隔壁224は、代表的には、導電性セラミックスで構成されている。一対の電極部240、240にはそれぞれ、金属端子260、260が設けられている。一方の金属端子は電源(例えば、バッテリ)のプラス極に接続され、他方の金属端子は(例えば、バッテリ)のマイナス極に接続されている。金属端子260、260の周囲には、筒状本体10および絶縁層20と金属端子とが絶縁されるように絶縁材料製のカバー270、270が設けられている。
【0041】
触媒は、代表的には隔壁224に担持されている。隔壁224に触媒を担持させることにより、セル226を通過する排ガス中のCO、NOx、炭化水素などを触媒反応によって無害な物質にすることが可能となる。触媒は、好ましくは、貴金属(例えば、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、インジウム、銀、金)、アルミニウム、ニッケル、ジルコニウム、チタン、セリウム、コバルト、マンガン、亜鉛、銅、スズ、鉄、ニオブ、マグネシウム、ランタン、サマリウム、ビスマス、バリウム、およびこれらの組み合わせを含有し得る。触媒の担持量は、例えば0.1g/L~400g/Lであり得る。
【0042】
ハニカム構造部220に電圧を印加すると通電し、ジュール熱によりハニカム構造部220を発熱させることができる。これにより、ハニカム構造部(実質的には、隔壁)に担持された触媒をエンジン始動前またはエンジン始動時に活性温度まで昇温することができる。その結果、エンジン始動時においても排ガスを十分に処理(代表的には、浄化)することができる。
【0043】
触媒担体については業界で周知の構成が採用され得るので、詳細な説明は省略する。
【実施例0044】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。実施例における評価項目は以下のとおりである。
【0045】
(1)アルカリ金属元素の含有量
実施例および比較例で作製した絶縁層について、絶縁層を白金皿上に秤取り、ふっ化水素酸と過塩素酸を加え加熱分解させ、残渣を塩酸で溶解した。この溶液中のアルカリ成分を誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置(日立ハイテク社製PS3520UV-DD)により測定し、アルカリ金属元素の含有量とした。
【0046】
(2)押し込み変形温度
実施例および比較例で作製した絶縁層を、1mmΦのアルミナ針を用いて0.1MPaの圧力で押しながら、常温(25℃)から10℃/分の昇温速度で加熱し、絶縁層の厚み方向に絶縁層の厚みに対して10%変形させた時の温度を、押し込み変形温度とした。
【0047】
(3)環境負荷物質
実施例および比較例で得られた筒状部材を、900℃の電気炉で1時間保持した後室温まで冷却した。その後、筒状部材を100mlの純水で洗い、洗浄後に回収した液を検液とした。この検液をジフェニルカルバジド吸光光度法に供し、環境負荷物質(クロム化合物)の含有量(μg/L)を測定した。
【0048】
<実施例1~7および比較例1~6>
SUS430製の金属管の内周面を#24~#60のアルミナ砥粒を用いたサンドブラスト処理に供した。処理時間は1分間とした。サンドブラスト処理後の金属管の表面粗さRaは2.0μm~6.5μmであった。このようにして得られた金属管を筒状本体とした。
一方、得られるガラス組成が表2に示す組成となるように、珪砂(Si源)、B2O3、Mg(OH)2、Al2O3、BaCO3、ジルコン(Zr源)、La2O3、ペタライト(Li源)、Na2CO3、カリ長石(K源)、亜鉛華(Zn源)およびCs2CO3から選択した素原料を溶融し、ガラスフリットを作製した。ガラスフリット100質量部に水100質量部を加えて、ボールミル処理器で湿式混合し、ガラス原料分散体(スラリー)を調製した。なお、ガラスの組成および不純物については、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により測定した。また、ガラスが結晶質か非晶質かは、X線回折法(XRD)における回折ピークの有無により判別した。
上記で得られた筒状本体の内周面にガラス原料分散体をスプレー塗布して塗膜を形成し、50℃で乾燥させた。乾燥塗膜が形成された筒状本体を860℃で焼成し、絶縁層(厚み400μm)を形成した。絶縁層のアルカリ金属元素含有量および押し込み変形温度は表2に示すとおりであった。
以上のようにして、筒状部材を形成した。得られた筒状部材を上記「(3)環境負荷物質」の評価に供した。結果を表2に示す。
【0049】
【0050】
表2から明らかなとおり、本発明の実施例の筒状部材は、比較例に比べて、高温における環境負荷物質の発生が顕著に抑制されている。