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特開2022-131301排ガス処理装置用筒状部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131301
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】排ガス処理装置用筒状部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/28 20060101AFI20220831BHJP
【FI】
F01N3/28 311U
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030171
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】田中 大智
(72)【発明者】
【氏名】柴垣 行成
【テーマコード(参考)】
3G091
【Fターム(参考)】
3G091BA00
3G091CA03
3G091GA06
3G091GB01Z
3G091GB17X
(57)【要約】
【課題】金属製の筒状本体と筒状本体の少なくとも内周面に設けられた絶縁層とを有する排ガス処理装置用筒状部材の製造方法であって、工程数が少なく簡便で、低コストおよび省エネルギーで、かつ、所望の性能を有する絶縁層を安定して形成し得る製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の実施形態は、金属製の筒状本体と筒状本体の少なくとも内周面に設けられた絶縁層とを有する排ガス処理装置用筒状部材の製造方法に関する。この製造方法は、ガラス源とホウ素化合物とを含む原料のスラリーを調製する工程と;スラリーの塗膜を筒状本体の内周面に形成する工程と;塗膜を焼成して、ガラスを含む絶縁層を形成する工程と:を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の筒状本体と該筒状本体の少なくとも内周面に設けられた絶縁層とを有する排ガス処理装置用筒状部材の製造方法であって、
ガラス源とホウ素化合物とを含む原料のスラリーを調製する工程と;
該スラリーの塗膜を該筒状本体の内周面に形成する工程と;
該塗膜を焼成して、ガラスを含む絶縁層を形成する工程と:
を含む、製造方法。
【請求項2】
前記ガラス源が珪砂を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス源がドロマイトを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ホウ素化合物の少なくとも一部がホウ素含有ガラスフリットである、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記塗膜を焼成する温度が1100℃以下である、請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記原料における前記絶縁層を構成する成分全体に対する前記ホウ素化合物の含有量が5mol%以上である、請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記絶縁層における前記原料に由来しない不純物の含有量が1.0質量%以下である、請求項1から6のいずれかに記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス処理装置用筒状部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジン始動直後の排ガス浄化性能の低下を改善するため、電気加熱触媒(EHC)が提案されている。EHCは、導電性セラミックで構成されたハニカム構造体に電極を配設し、通電によりハニカム構造体自体を発熱させることにより、ハニカム構造体に担持された触媒をエンジン始動前またはエンジン始動時に活性温度まで昇温するものである。
【0003】
EHCは、代表的には、金属製の筒状部材(キャンとも称される)に収容されて排ガス処理装置を構成する。EHCは通電することにより、上記のとおり車両始動時の排ガス浄化効率を向上できる反面、EHCから配管へ漏電し浄化性能が低下する場合がある。このような問題を解決するために、キャン内周面に絶縁層(代表的には、ガラス成分を含む)を形成し、漏電を防ぐ技術が知られている(特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5408341号
【特許文献2】特開2012-154316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および2に記載のような技術においては、絶縁層の形成が煩雑であり、高コストでエネルギー消費が大きく、かつ、所望の性能(設計した性能)を有する絶縁層が得られない場合がある、という問題がある。
本発明の主たる目的は、金属製の筒状本体と当該筒状本体の少なくとも内周面に設けられた絶縁層とを有する排ガス処理装置用筒状部材の製造方法であって、工程数が少なく簡便で、低コストおよび省エネルギーで、かつ、所望の性能を有する絶縁層を安定して形成し得る製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態は、金属製の筒状本体と該筒状本体の少なくとも内周面に設けられた絶縁層とを有する排ガス処理装置用筒状部材の製造方法に関する。この製造方法は、ガラス源とホウ素化合物とを含む原料のスラリーを調製する工程と;該スラリーの塗膜を該筒状本体の内周面に形成する工程と;該塗膜を焼成して、ガラスを含む絶縁層を形成する工程と:を含む。
1つの実施形態においては、上記ガラス源は珪砂を含む。
1つの実施形態においては、上記ガラス源はドロマイトを含む。
1つの実施形態においては、上記ホウ素化合物の少なくとも一部はホウ素含有ガラスフリットである。
1つの実施形態においては、上記塗膜を焼成する温度は1100℃以下である。
1つの実施形態においては、上記原料における上記絶縁層を構成する成分全体に対する上記ホウ素化合物の含有量は5mol%以上である。
1つの実施形態においては、上記絶縁層における上記原料に由来しない不純物の含有量は1.0質量%以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態によれば、金属製の筒状本体と当該筒状本体の少なくとも内周面に設けられた絶縁層とを有する排ガス処理装置用筒状部材の製造方法であって、工程数が少なく簡便で、低コストおよび省エネルギーで、かつ、所望の性能を有する絶縁層を安定して形成し得る製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態の製造方法により得られる排ガス処理装置用筒状部材の排ガスの流路方向に直交する方向の概略断面図である。
図2】本発明の実施形態による排ガス処理装置用筒状部材の製造方法と従来の排ガス処理装置用筒状部材の製造方法とを比較して説明する工程フロー図である。
図3】本発明の実施形態の製造方法により得られる排ガス処理装置用筒状部材を含む排ガス処理装置の排ガスの流路方向に平行な方向の概略断面図である。
図4図3の排ガス処理装置の排ガスの流路方向に直交する方向の概略断面図(図3の矢印IVの方向から見た概略断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0010】
A.排ガス処理装置用筒状部材
図1は、本発明の実施形態の製造方法により得られる排ガス処理装置用筒状部材(以下、単に筒状部材と称する場合がある)の排ガスの流路方向に直交する方向の概略断面図である。図示例の筒状部材100は、筒状本体10と、筒状本体10の少なくとも内周面に設けられた絶縁層20と、を有する。絶縁層は、図示例のように筒状本体の内周面のみに設けられてもよく、図示しないが筒状本体の内周面および外周面の両方に設けられてもよい。絶縁層を筒状本体の内周面および外周面の両方に設けることにより、電気加熱型触媒担体の上流側の端部付近に蓄積され得る未燃の堆積物に起因する漏電の可能性を抑制することができる。絶縁層20は、代表的にはガラスを含み、1つの実施形態においては結晶質を含むガラスを含む。筒状部材100は、排ガスの流路方向に直交する方向の断面において、中心部に空洞(中空部分)30が規定されている。空洞30に電気加熱型触媒担体が収容されて、排ガス処理装置が構成される。なお、図示例の筒状部材100は円筒状(排ガスの流路方向に直交する方向の断面形状が円形)であるが、筒状部材の形状は目的に応じて適切に設計され得る。例えば、筒状部材100は、断面が多角形(例えば、四角形、六角形、八角形)または楕円形の筒状であってもよい。
【0011】
筒状本体10は、代表的には金属製である。このような構成であれば、製造効率に優れ、かつ、電気加熱型触媒担体の収容または取り付けが容易である。筒状本体を構成する材料としては、例えば、ステンレス、チタン合金、銅合金、アルミ合金、真鍮が挙げられる。その中でも、耐久信頼性が高く、安価という理由により、ステンレスが好ましい。
【0012】
1つの実施形態においては、筒状本体はクロムを含む。クロムは、代表的には、筒状本体(例えば、ステンレス)に耐腐食性を付与するために導入され得る。筒状本体におけるクロムの含有量は、例えば10.5質量%以上であり得、また例えば12質量%~20質量%であり得る。筒状本体がクロムを含む場合であっても、後述する絶縁層のガラス組成を最適化することにより、具体的には、ガラス中のアルカリ金属元素の含有量を1000ppm以下とすることにより、高温下における環境負荷物質の発生を良好に抑制することができる。
【0013】
筒状本体の厚みは、例えば0.1mm~10mmであり得、また例えば0.3mm~5mmであり得、また例えば0.5mm~3mmであり得る。筒状本体の厚みがこのような範囲であれば、耐久信頼性に優れ得る。
【0014】
筒状本体の長さは、目的、電気加熱型触媒担体の長さ等に応じて適切に設定され得る。筒状本体の長さは、例えば30mm~600mmであり得、また例えば40mm~500mmであり得、また例えば50mm~400mmであり得る。好ましくは、筒状本体の長さは、電気加熱型触媒担体の長さよりも大きい。この場合、電気加熱型触媒担体は、電気加熱型触媒担体が筒状本体から露出しないようにして配置され得る。
【0015】
筒状本体は、同軸に配置された外側筒状部と内側筒状部とを有する二重構造を有していてもよい(図示せず)。この場合、絶縁層は、外側筒状部と内側筒状部との間(外側筒状部の内周面または内側筒状部の外周面)に設けられてもよく、内側筒状部の内周面に設けられてもよく、その両方に設けられてもよい。
【0016】
以下、筒状部材の製造方法について具体的に説明する。電気加熱型触媒担体および排ガス処理装置の詳細については、C項で後述する。
【0017】
B.排ガス処理装置用筒状部材の製造方法
本発明の実施形態による筒状部材の製造方法は、ガラス源とホウ素化合物とを含む原料のスラリーを調製する工程と;該スラリーの塗膜を該筒状本体の内周面に形成する工程と;該塗膜を焼成して、ガラスを含む絶縁層を形成する工程と:を含む。すなわち、本発明の実施形態による製造方法は、実質的には絶縁層(ガラス)の形成方法を含む。図2は、本発明の実施形態による筒状部材の製造方法(実質的には、絶縁層の形成方法)と従来の筒状部材の製造方法(実質的には、絶縁層の形成方法)とを比較して説明する工程フロー図である。以下、各工程について図2を参照して説明する。
【0018】
B-1.スラリー調製工程
まず、ガラス源を用意する。本明細書において「ガラス源」とは、ホウ素以外のガラスの構成成分の素原料を意味する。ガラス源は、代表的には、ガラスの構成成分(例えば、ケイ素、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、バリウム、ランタン、亜鉛、ストロンチウム)の酸化物、炭酸化合物、水酸化物等であり得る。ガラス源の具体例としては、珪砂(ケイ素源)、ドロマイト(マグネシウムおよびカルシウム源)、アルミナ(アルミニウム源)、酸化バリウム、酸化ランタン、酸化亜鉛(亜鉛華)、酸化ストロンチウムが挙げられる。ガラス源は、絶縁層の目的のガラス組成に応じて各元素源(素原料)を含有する。
【0019】
上記および図2から明らかなように、ガラス源は、実質的に、溶融および粉砕したガラス粉末(ガラスフリット)を含まない。本発明の実施形態によれば、所定量のホウ素化合物(詳細は後述)をガラス源に配合することにより、ガラスフリットではなく素原料を含むスラリーから所望の絶縁層を形成することができる。言い換えれば、本発明の実施形態によれば、筒状部材の製造方法(実質的には、筒状部材の絶縁層の形成方法)においてガラスフリットの製造工程を省略することができる。これにより、以下の利点が得られ得る。ガラスフリットは、代表的には、ガラスの素原料からガラスを合成し、得られたガラスを粉砕(例えば、粗粉砕および微粉砕の2段階で粉砕)することにより作成される。ここで、ガラスの合成時には高温(代表的には、1200℃以上)で長時間の溶融が必要とされ、さらに、ガラスの合成時および粉砕時、ならびに/あるいは、ガラスフリットを含む原料スラリーの調製時に不純物が混入する場合がある。したがって、ガラス源としてガラスフリットを用いる製造方法は、工程数が多く煩雑であり、高温処理が必要とされるので高コストでエネルギー消費が大きく、高温処理に長時間を要するので製造効率が不十分であり、かつ、不純物に起因して所望の性能(設計した性能)を有する絶縁層が得られない場合がある、という問題がある。本発明の実施形態によれば、ガラスフリットの製造工程を省略することにより、このような問題を解消することができる。したがって、本発明の実施形態によれば、簡便、低コスト、高効率、かつ、省エネルギーな手順により、所望の性能を有する絶縁層を安定して形成することができる。
【0020】
ホウ素化合物は、ガラスの構成成分となるホウ素源であり、かつ、ガラス源としてガラスフリットではなく素原料を用いて絶縁層を形成するための添加剤である。ホウ素化合物を用いることにより、素原料を含むスラリーから低温(例えば、1100℃以下)の焼成で絶縁層を形成することができる。ホウ素化合物としては、代表的には、酸化ホウ素が挙げられる。酸化ホウ素は、無水ホウ酸(B)であってもよく、ホウ酸(HBO)であってもよい。1つの実施形態においては、ホウ素化合物の少なくとも一部は、ホウ素含有ガラスフリット(ボロンフリット)であってもよい。ホウ素化合物は種類によっては、長期間保管した際に吸湿し物質変化する場合があるところ、ボロンフリットは実質的に吸湿しないので長期間保管することが可能である。
【0021】
ホウ素化合物は、絶縁層を構成する成分全体(すなわち、ガラス源およびホウ素化合物の合計100mol%)に対して、好ましくは3mol%以上、より好ましくは4mol%~55mol%、さらに好ましくは5mol%~50mol%の割合で配合され得る。ホウ素化合物がボロンフリットである場合には、ホウ素化合物は、ガラス源およびホウ素化合物の合計100mol%に対して、好ましくは3mol%~20mol%、より好ましくは4mol%~15mol%、さらに好ましくは5mol%~12mol%の割合で配合され得る。ホウ素化合物がボロンフリット以外である場合には、ホウ素化合物は、ガラス源およびホウ素化合物の合計100mol%に対して、好ましくは40mol%~50mol%、より好ましくは42mol%~48mol%の割合で配合され得る。ホウ素化合物がボロンフリットとそれ以外のホウ素化合物との混合物である場合には、ホウ素化合物の配合量は、混合物の混合比に応じて適切に調整され得る。ホウ素化合物の配合量がこのような範囲であれば、得られる絶縁層(実質的には、絶縁層を構成するガラス)におけるホウ素の含有量は、好ましくは3mol%~50mol%であり、より好ましくは5mol%~30mol%であり、さらに好ましくは5mol%~20mol%であり得る。ホウ素化合物の配合量が少なすぎると、低温での焼成では絶縁層が形成されない場合がある。ホウ素化合物の配合量が多すぎると、絶縁層中にホウ素化合物がガラス化せず残留し、吸湿してホウ素化合物が物質変化するため、高湿下で使用し難い場合がある。なお、本明細書において「ガラス中のホウ素含有量」は、酸素原子を除くガラス中の全原子の量を100mol%としたときのホウ素原子のモル比である。ガラス中の各元素の原子の量は、例えば誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により測定され得る。
【0022】
上記のガラス源およびホウ素化合物と溶媒とを混合することにより、原料スラリー(分散体)が調製される。溶媒は、水であってもよく有機溶媒であってもよい。溶媒は、好ましくは水または水溶性有機溶媒であり、より好ましくは水である。溶媒は、ガラス源およびホウ素化合物の合計100質量部に対して、好ましくは50質量部~300質量部、より好ましくは80質量部~200質量部の割合で混合され得る。原料スラリー調製時には、スラリー助剤(例えば、樹脂、可塑剤、分散剤、増粘剤、各種添加剤)がさらに混合されてもよい。スラリー助剤の種類、数、組み合わせ、配合量等は、目的に応じて適切に設定され得る。なお、本明細書において「溶媒」とは、原料スラリーに含まれる液状媒体をいい、溶媒および分散媒を包含する概念である。
【0023】
B-2.スラリー塗膜形成工程
次に、原料スラリーを筒状本体の内周面に塗布する。塗布方法としては、任意の適切な方法が用いられ得る。塗布方法の具体例としては、スプレー、筒状本体の内周面以外をマスクしての浸漬、バーコートが挙げられる。原料スラリーの塗布の際には、筒状本体の内周面は、必要に応じて表面処理されていてもよい。表面処理の代表例としては、粗面化処理が挙げられる。粗面化処理により、得られる絶縁層と筒状本体との密着性が向上し得る。塗布厚みは、絶縁層の所望の厚みに応じて適切に設定され得る。
【0024】
次いで、塗布したスラリーを乾燥させて塗膜を形成する。乾燥条件は、原料スラリーの組成等に応じて適切に設定され得る。乾燥温度は、例えば40℃~120℃であり、また例えば50℃~110℃である。乾燥時間は、例えば1分~60分であり、また例えば10分~30分である。
【0025】
B-3.絶縁層形成工程
最後に、塗膜を焼成して絶縁層を形成する。焼成温度は、好ましくは1100℃以下であり、より好ましくは600℃~1100℃であり、さらに好ましくは700℃~1050℃である。焼成時間は、例えば5分~30分であり、また例えば8分~15分である。
【0026】
本発明の実施形態によれば、筒状部材の製造方法全体を通して必要とされる処理温度の最高温度(以下、単に必要最高温度と称する場合がある)は、上記のように、焼成温度の1100℃以下である。一方、ガラス源としてガラスフリットを用いる製造方法における必要最高温度は、代表的には素原料の溶融温度の1200℃以上である。すなわち、本発明の実施形態によれば、ガラス源としてガラスフリットを用いる製造方法に比べて、必要最高温度を好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは200℃以上低くすることができる。
【0027】
以上のようにして、筒状本体の内周面に絶縁層が形成され、筒状部材が作製され得る。絶縁層を筒状本体の内周面および外周面の両方に形成する場合には、上記と同様にして外周面にも絶縁層を形成すればよい。
【0028】
B-4.形成される絶縁層
上記の製造方法により形成される絶縁層20は、筒状部材100と電気加熱型触媒担体(後述)との間に電気絶縁性を付与する。ここで、電気絶縁性は、周囲の排管への漏電を抑制する点から、代表的にはJIS規格D5305-3を満たすものであり、単位電圧当たりの絶縁抵抗値は例えば100Ω/V以上である。絶縁層20は、好ましくは、水分非透過性および水分非吸収性をさらに有する。すなわち、絶縁層20は、緻密で、水を通さずかつ吸収しないよう構成され得る。緻密性としては、絶縁層の気孔率は、例えば10%以下であり得、また例えば8%以下であり得る。
【0029】
本発明の実施形態においては、絶縁層における上記原料スラリーに由来しない不純物の含有量は、好ましくは1.0質量%以下であり、より好ましくは0.9質量%以下であり、さらに好ましくは0.7質量%以下であり、特に好ましくは0.6質量%以下である。当該不純物の含有量は小さいほど好ましく、1つの実施形態においては検出限界以下であり得る。本発明の実施形態によれば、ガラスフリットの合成時および粉砕時、ならびに、ガラスフリットを含む原料スラリーの調製時における不純物の混入が抑制される。特に、本発明の実施形態によれば、ガラスフリットの作製工程が省略されるので、ガラスフリットの合成および粉砕という操作が存在せず、当該操作時の不純物の混入は実質的にあり得ない。したがって、上記のような不純物含有量が小さい絶縁層を形成することができる。
【0030】
絶縁層の厚みは、好ましくは30μm~800μmであり、より好ましくは50μm~600μmであり、さらに好ましくは100μm~550μmである。絶縁層の厚みがこのような範囲であれば、優れた電気絶縁性および筒状本体との優れた密着性を両立することができる。
【0031】
絶縁層のガラスの構成(代表的には、組成、結晶質または非晶質)は、目的に応じて適切に設定され得る。ガラスの構成は、原料スラリーにおけるガラス源およびホウ素化合物の配合量、焼成条件等を変更することにより調整され得る。
【0032】
絶縁層は、スラリー原料の構成によっては、ガラスにおけるアルカリ金属元素の含有量が例えば1000ppm以下であり得る。すなわち、ガラスはいわゆる無アルカリガラスであり得る。アルカリ金属元素の含有量は、好ましくは800ppm以下であり、より好ましくは500ppm以下であり、さらに好ましくは200ppm以下であり、特に好ましくは100ppm以下である。アルカリ金属元素の含有量は小さいほど好ましく、例えば実質的にゼロ(検出限界未満)であり得る。ガラスにおけるアルカリ金属元素の含有量が非常に小さいことにより、高温下においても環境負荷物質の発生が抑制され得る排ガス処理装置用筒状部材を実現することができる。本明細書において「ガラスにおけるアルカリ金属元素の含有量」とは、ガラスに含まれるアルカリ金属元素の合計量を意味する。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムが挙げられる。ガラスに含まれるアルカリ金属元素は、例えば、ナトリウム、カリウムまたはその組み合わせであり得;また例えば、ナトリウムであり得る。アルカリ金属元素の含有量は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析により測定され得る。
【0033】
絶縁層は、スラリー原料の構成によっては、結晶質を含むガラスを含む。ガラスが結晶質を含むことにより、高温(例えば、750℃以上)においても軟化および変形し難い絶縁層を形成することができる。絶縁層は、例えば750℃以上の環境下において、電気加熱型触媒担体を収容した場合にその保持に必要と解されている0.1MPaの圧力を維持し得る。したがって、排ガス処理装置において、電気加熱型触媒担体のずれ、所望でない位置への移動等を抑制することができる。結果として、高温下においても排ガス処理(代表的には、浄化)機能を安定して維持し得る排ガス処理装置用筒状部材を実現することができる。このような場合、絶縁層の押し込み変形温度は、好ましくは600℃以上であり、より好ましくは700℃以上であり、さらに好ましくは800℃以上であり、特に好ましくは850℃以上である。押し込み変形温度の上限は、例えば1200℃であり得る。絶縁層の押し込み変形温度がこのような範囲であれば、高温(例えば、750℃以上)においても軟化し難い絶縁層を形成することができる。なお、押し込み変形温度は、絶縁層を、1mmΦのアルミナ針を用いて0.1MPaの圧力で押しながら、常温(25℃)から10℃/分の昇温速度で加熱した際、絶縁層の厚み方向に絶縁層の厚みに対して10%変形させた時の温度である。なお、結晶質(結晶)の有無は、X線回折法により確認することができる。このような絶縁層は、例えば、ケイ素、ホウ素およびマグネシウムを所定量含む原料スラリーから形成され得る。
【0034】
絶縁層は、スラリー原料の構成によっては、所定の剥離試験後に以下の(1)および/または(2)を満足する:
(1)該筒状本体の内周面に該絶縁層由来の元素が存在する;
(2)該絶縁層に該筒状本体由来の元素が存在する。
剥離試験は、JIS H 8451:2008に準じて、排ガス処理装置用筒状部材を900℃と150℃の環境下に置き換えることを、絶縁層が剥離するまで繰り返すことを含む。このような構成であれば、筒状本体と絶縁層との優れた密着性を実現することができる。上記の(1)または(2)から、筒状本体10と絶縁層20との界面に中間層が形成されていることが推察される。中間層は、代表的には、筒状本体の構成成分と絶縁層の構成成分とが混在する相溶層であり得る。中間層は、例えば、筒状本体の構成成分が絶縁層に移行し、絶縁層の構成成分が筒状本体に移行することにより形成され得る。場合によっては、中間層には、筒状本体の構成成分と絶縁層の構成成分との化学反応物が含まれ得る。中間層は、筒状本体の構成成分が筒状本体側から絶縁層側に向かって減少し、および/または、絶縁層の構成成分が絶縁層側から筒状本体側に向かって減少する濃度勾配を有し得る。このような中間層が形成されると、筒状本体と絶縁層との界面が明確でなくなり、接着剤におけるいわゆるアンカー効果と同様の効果により密着性が向上すると推察される。このような絶縁層は、例えば、バリウムと、必要に応じて、ランタン、亜鉛またはその組み合わせと、を含む原料スラリーから形成され得る。
【0035】
C.排ガス処理装置
図3は、本発明の実施形態の製造方法により得られる筒状部材を含む排ガス処理装置の排ガスの流路方向に平行な方向の概略断面図であり;図4は、図3の排ガス処理装置を矢印IVの方向から見た概略断面図である。図示例の排ガス処理装置300は、排ガスを加熱可能な電気加熱型触媒担体(以下、単に触媒担体と称する場合がある)200と;触媒担体200を収容する筒状部材100と;を備える。筒状部材100は、上記B項に記載の製造方法により得られる排ガス処理装置用筒状部材である。排ガス処理装置は、エンジンからの排ガスを流すための排ガス流路の途中に設置される。触媒の活性温度まで加熱された触媒担体と排ガスとが接触することにより、触媒担体を通過する排ガス中のCO、NO、炭化水素などを触媒反応によって無害な物質にすることが可能となる。
【0036】
触媒担体200は、筒状部材100の形状に対応した形状を有し得る。例えば筒状部材100が円筒状である場合には、触媒担体200は円柱状であり得る。触媒担体200は、筒状部材100の空洞30に、代表的には同軸に収容されている。触媒担体は、筒状部材に直接(すなわち、他の部材を介さずに)収容されてもよく、例えば保持マット(図示せず)を介して収容されてもよい。触媒担体が筒状部材に直接収容される場合には、触媒担体は筒状部材に例えば嵌合され得る。保持マットは、代表的には、絶縁材料(例えば、アルミナ)がマット状に形成されたものである。保持マットは、代表的には触媒担体の外周面を全周にわたって覆い、筒状部材は保持マットを介して触媒担体を保持し得る。
【0037】
触媒担体200は、ハニカム構造部220と、ハニカム構造部220の側面に(代表的には、ハニカム構造部の中心軸を挟んで対向するようにして)配設された一対の電極部240と、を備える。ハニカム構造部220は、外周壁222と、外周壁222の内側に配設され、第1端面228aから第2端面228bまで延びて排ガス流路を形成する複数のセル226を規定する隔壁224と、を有する。外周壁222および隔壁224は、代表的には、導電性セラミックスで構成されている。一対の電極部240、240にはそれぞれ、金属端子260、260が設けられている。一方の金属端子は電源(例えば、バッテリ)のプラス極に接続され、他方の金属端子は(例えば、バッテリ)のマイナス極に接続されている。金属端子260、260の周囲には、筒状本体10および絶縁層20と金属端子とが絶縁されるように絶縁材料製のカバー270、270が設けられている。
【0038】
触媒は、代表的には隔壁224に担持されている。隔壁224に触媒を担持させることにより、セル226を通過する排ガス中のCO、NO、炭化水素などを触媒反応によって無害な物質にすることが可能となる。触媒は、好ましくは、貴金属(例えば、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、インジウム、銀、金)、アルミニウム、ニッケル、ジルコニウム、チタン、セリウム、コバルト、マンガン、亜鉛、銅、スズ、鉄、ニオブ、マグネシウム、ランタン、サマリウム、ビスマス、バリウム、およびこれらの組み合わせを含有し得る。触媒の担持量は、例えば0.1g/L~400g/Lであり得る。
【0039】
ハニカム構造部220に電圧を印加すると通電し、ジュール熱によりハニカム構造部220を発熱させることができる。これにより、ハニカム構造部(実質的には、隔壁)に担持された触媒をエンジン始動前またはエンジン始動時に活性温度まで昇温することができる。その結果、エンジン始動時においても排ガスを十分に処理(代表的には、浄化)することができる。
【実施例0040】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0041】
(1)絶縁層の不純物濃度
実施例および比較例で得られた筒状部材について、絶縁層の不純物濃度を以下のようにして測定した。絶縁層を白金皿上に秤取り、ふっ化水素酸と過塩素酸を加え加熱分解させ、残渣を塩酸で溶解した。この溶液中の不純物成分を誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置(日立ハイテク社製PS3520UV-DD)を用いて、絶縁層の原料に由来しない不純物濃度を測定した。原料に由来しない不純物としては、Li、Na、K、Rb、Cs、Ti、V、Mn、Co、Ni、Cu、Y、Zr、P、S、Sn、Ce等の元素を有する不純物が挙げられる。
【0042】
<実施例1>
SUS430製の金属管の内周面を#24~#60のアルミナ砥粒を用いたサンドブラスト処理に供した。処理時間は1分間とした。サンドブラスト処理後の金属管の表面粗さRaは2.0μm~6.5μmであった。このようにして得られた金属管を筒状本体とした。
一方、珪砂60質量部、アルミナ10質量部およびドロマイト24質量部を含むガラス源(素原料)と、ホウ素源としてのボロンフリット6質量部と、を水中で均一に混合し、原料スラリー(分散体)を調製した。
上記で得られた筒状本体の内周面にガラス原料分散体をスプレー塗布して塗膜を形成し、50℃で乾燥させた。乾燥塗膜が形成された筒状本体を1050℃で焼成し、絶縁層(厚み400μm)を形成した。
以上のようにして、筒状部材を形成した。得られた筒状部材を上記「(1)絶縁層の不純物濃度」の評価に供した。結果を表1に示す。
【0043】
<実施例2>
ガラス源を表1に示す組成にしたこと、ホウ素化合物として表1に示す材料を表1に示す配合量で用いたこと、および、焼成温度を800℃としたこと以外は実施例1と同様にして筒状部材を形成した。得られた筒状部材を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0044】
<実施例3>
ガラス源を表1に示す組成にしたこと、ホウ素化合物として表1に示す材料を表1に示す配合量で用いたこと、および、焼成温度を700℃としたこと以外は実施例1と同様にして筒状部材を形成した。得られた筒状部材を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0045】
<比較例1>
珪砂75質量部、アルミナ10質量部およびドロマイト25質量部を含むガラス源(素原料)を1250℃で1時間溶融し、溶融ガラスを得た。得られた溶融ガラス体を粗粉砕および微粉砕の2段階で粉砕し、分級してガラスフリットを得た。このガラスフリットを用いたこと、ホウ素化合物を用いなかったこと、および、焼成温度を1250℃としたこと以外は実施例1と同様にして筒状部材を形成した。得られた筒状部材を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0046】
<比較例2>
ガラス源を表1に示す組成にしたこと、および、溶融温度を1200℃としたこと以外は比較例1と同様にして筒状部材を形成した。得られた筒状部材を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0047】
表1における「必要最高温度」は、筒状部材の製造方法全体を通して必要とされる処理温度の最高温度を意味する。必要最高温度は、実施例1~3においては焼成温度であり、比較例1~2においてはガラスフリット作製時の溶融温度であった。
【0048】
【表1】
【0049】
表1から明らかなとおり、本発明の実施例の製造方法によれば、比較例に比べて、必要最大温度を100℃以上(最大で550℃)低くすることができた。さらに、実施例と比較例とを比較すると明らかなとおり、本発明の実施例の製造方法によれば、素原料を高温で溶融することも、素原料から得られたガラスを成形、粉砕および分級することも省略できるので、時間、コスト、消費エネルギー、製造効率およびマンパワーのいずれの観点からも比較例に比べて格段に効率的であることがわかる。さらに、本発明の実施例の製造方法によれば、得られる筒状部材の絶縁層に含まれる不純物の含有量を顕著に低減することができるので、不純物に起因する絶縁層の性能低下が顕著に抑制されることがわかる。したがって、本発明の実施例の製造方法によれば、所望の性能を有する絶縁層を安定して形成できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の実施形態の製造方法により得られる排ガス処理装置用筒状部材は、自動車の排ガスの処理(浄化)用途に好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0051】
10 筒状本体
20 絶縁層
30 空洞
100 排ガス処理装置用筒状部材
200 電気加熱型触媒担体
220 ハニカム構造部
240 電極部
260 金属端子
300 排ガス処理装置
図1
図2
図3
図4