(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131312
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】心押台装置
(51)【国際特許分類】
B23B 23/00 20060101AFI20220831BHJP
B24B 41/06 20120101ALI20220831BHJP
B24B 47/26 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
B23B23/00 A
B24B41/06 J
B24B47/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030192
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 智也
(72)【発明者】
【氏名】大津 雄太
(72)【発明者】
【氏名】福田 英二
【テーマコード(参考)】
3C034
3C045
【Fターム(参考)】
3C034BB07
3C034BB35
3C034BB74
3C034BB88
3C045FE01
(57)【要約】
【課題】ワークを主軸台に向かって押し付ける際の押し付け力を広い範囲で調節することが可能な心押台装置を提供する。
【解決手段】回転しながら加工されるワーク9の回転軸方向の一端部を支持する心押台装置100は、心押軸51と、心押軸51を軸方向に沿って前後方向に移動可能に支持する心押台本体2と、心押軸51に保持された心押台センタ52と、油圧ポンプ72を有する油圧供給装置7とを備える。心押軸51は、軸状部511と、軸状部511から径方向に突出した環状突出部512とを有し、軸状部511の軸方向前方側の端部に心押台センタ52が保持されている。心押台本体2には、環状突出部512を収容するシリンダ200が形成されており、油圧供給装置7からシリンダ200における環状突出部512の軸方向後方側及び軸方向前方側に供給される作動油の差圧に応じて、心押台センタ52がワーク9に押し付けられる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転しながら加工されるワークの回転軸方向の一端部を支持する心押台装置であって、
心押軸と、前記心押軸を軸方向に沿って前後方向に移動可能に支持する心押台本体と、前記心押軸に保持された心押台センタと、油圧ポンプを有する油圧供給装置とを備え、
前記心押軸は、軸状部と前記軸状部から径方向に突出した環状突出部とを有し、前記軸状部の軸方向前方側の端部に前記心押台センタが保持されており、
前記心押台本体には、前記環状突出部を収容するシリンダが形成されており、
前記油圧供給装置から前記シリンダにおける前記環状突出部の軸方向後方側及び軸方向前方側に供給される作動油の差圧に応じて前記心押台センタを前記ワークに押し付ける、
心押台装置。
【請求項2】
前記油圧供給装置は、前記油圧ポンプが吐出する作動油を前記シリンダにおける前記環状突出部の軸方向後方側に供給するか軸方向前方側に供給するかを切り替える第1の制御弁と、前記シリンダにおける前記環状突出部の軸方向前方側に供給される作動油の圧力を調節可能な第2の制御弁とを備える、
請求項1に記載の心押台装置。
【請求項3】
前記心押軸は、前記油圧供給装置から作動油の供給を受ける前記心押台本体の静圧軸受部により、前記軸状部が前記環状突出部の軸方向両側で支持され、前記心押台本体に対して回転可能である、
請求項1又は2に記載の心押台装置。
【請求項4】
前記油圧ポンプが停止したときに前記心押軸の前記心押台本体に対する軸方向移動を阻止する係止機構をさらに備え、
前記係止機構は、前記心押台本体に支持された係止部材と、前記心押軸と一体に軸方向移動する被係止部材と、前記係止部材を前記被係止部材に向かって付勢する付勢部材とを有し、前記係止部材が前記被係止部材を係止することによって前記心押軸の軸方向移動を阻止するように構成され、
前記油圧供給装置から供給される作動油によって前記係止部材が前記被係止部材から離間する方向に押し付けられる、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の心押台装置。
【請求項5】
前記被係止部材には、周方向に延在する環状溝が軸方向の複数箇所に形成されており、
前記油圧ポンプが停止したとき、前記係止部材が前記複数箇所に形成された前記環状溝の何れかに係合する、
請求項4に記載の心押台装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械において回転しながら加工されるワークの回転軸方向の一端部を支持する心押台装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸状のワークを回転させながら研削等の加工を行う工作機械は、ワークを回転させる回転駆動機構を備えた主軸台と、主軸台に対向して配置された心押台とを備える。ワークは、軸方向の一端部が主軸台に支持され、軸方向の他端部が心押台に支持される。心押台は、円錐形状の先端部を有するセンタをワークの端面に形成されたセンタ穴に嵌合させてワークを支持すると共に、ワークを主軸台に向かって押し付ける。本出願人は、このような心押台として、特許文献1に記載のものを提案している。
【0003】
特許文献1に記載の心押台は、軸方向の一端部にセンタを保持する心押軸と、心押軸を軸方向移動可能かつ回転可能に支持する静圧軸受と、心押軸を軸方向に前進及び後退させる油圧シリンダと、静圧軸受及び油圧シリンダに圧油を供給する油圧ユニットとを備えている。油圧ユニットは、油圧ポンプ及び切換弁を備えており、油圧ポンプから吐出された圧油が絞り弁を経て静圧軸受に供給されると共に、切換弁を経て油圧シリンダに供給される。切換弁は、心押軸のピストンの前側(後退側)に圧油を供給するか、又はピストンの後側(前進側)に圧油を供給するかを切り換え可能である。
【0004】
また、特許文献1に記載の心押台は、非常停止等で油圧ユニットが停止したとき、心押台本体に設けられた弾性リングの内周面が心押軸の外周面に押し付けられることによって発生する摩擦力により、心押軸を心押台本体に対して移動できないように締結する締結装置を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年では、大きさや重さが異なる複数種類のワークに対応した、多品種少量生産に適した工作機械が求められている。このような複数種類のワークは、加工時において発生すべき心押台の押し付け力の最適範囲がそれぞれ異なる。このため、例えばワークの重量に対して心押台の押し付け力が小さいと、ワークを適切に支持することができず、ワークの直径や剛性等に対して心押台の押し付け力が大きすぎると、心押台の押し付け力によって加工時にワークを撓ませてしまう。
【0007】
そこで、本発明は、ワークを主軸台に向かって押し付ける際の押し付け力を広い範囲で調節することが可能な心押台装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するため、回転しながら加工されるワークの回転軸方向の一端部を支持する心押台装置であって、心押軸と、前記心押軸を軸方向に沿って前後方向に移動可能に支持する心押台本体と、前記心押軸に保持された心押台センタと、油圧ポンプを有する油圧供給装置とを備え、前記心押軸は、軸状部と前記軸状部から径方向に突出した環状突出部とを有し、前記軸状部の軸方向前方側の端部に前記心押台センタが保持されており、前記心押台本体には、前記環状突出部を収容するシリンダが形成されており、前記油圧供給装置から前記シリンダにおける前記環状突出部の軸方向後方側及び軸方向前方側に供給される作動油の差圧に応じて前記心押台センタを前記ワークに押し付ける、心押台装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る心押台装置によれば、ワークを主軸台に向かって押し付ける際の押し付け力を広い範囲で調節することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)は、本発明の実施の形態に係る心押台装置を備えた研削盤の全体構成を示す概略構成図である。(b)は、主軸台センタに支持された軸状のワークの一端部を示す断面図である。(c)は、心押台センタに支持されたワークの他端部を示す断面図である。
【
図2】心押台の断面及び油圧供給装置の回路構成を示す説明図である。
【
図3】心押台の断面及び油圧供給装置の回路構成を示す説明図である。
【
図4】(a)~(c)は、
図2に示すA位置、B位置、及びC位置における心押台本体の径方向断面図である。
【
図5】係止ピン及び被係止部材の一部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、
図1乃至
図5を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0012】
図1(a)は、本発明の実施の形態に係る心押台装置を備えた研削盤の全体構成を示す概略構成図である。
図1(b)は、主軸台センタに支持された軸状のワークの一端部を示す断面図であり、
図1(c)は、心押台センタに支持されたワークの他端部を示す断面図である。
【0013】
本発明の心押台装置は、軸状のワークを回転させながら加工を行う様々な構成の工作機械に用いることが可能であるが、ここでは砥石台トラバース型の円筒研削盤を例にとって説明する。また、以下の説明において、ワークの回転軸に平行な方向(トラバース方向)をX軸方向とし、砥石台がワークに対して接近及び離間する前後方向をY軸方向とする。
【0014】
研削盤1は、主として、ワーク9を研削する円盤状の砥石10と、基台としてのベッド11と、ベッド11に対してX軸方向に移動するトラバースベース12と、トラバースベース12に対してY軸方向に移動する砥石台13と、ワーク9のX軸方向の両端部をそれぞれ支持する主軸台14及び心押台15と、心押台15に油圧を供給する油圧供給装置7と、制御装置8とを備えている。なお、研削盤1は、大きさや重さが異なる複数種類のワークを加工可能であり、
図1(a)に示すワーク9はその一例である。
【0015】
トラバースベース12は、ベッド11に取り付けられたX軸モータ111によって回転駆動されるボールねじ112の回転により、X軸方向に延在するガイドレール113,114に案内されてベッド11に対してX軸方向に移動する。砥石台13は、トラバースベース12に取り付けられたY軸モータ121によって回転駆動されるボールねじ122の回転により、Y軸方向に延在するガイドレール123,124に案内されてトラバースベース12に対してY軸方向に移動する。
【0016】
砥石台13には、砥石軸131を介して砥石10を支持して回転させる砥石軸駆動モータ132が設置されている。砥石軸131及び砥石10は、X軸方向の回転軸線O1を中心として回転する。砥石10は、ワーク9の外周面を研削する。
【0017】
主軸台14及び心押台15は、ベッド11上に設置されている。主軸台14は、ベッド11に固定された主軸台本体141と、主軸台本体141に回転可能に支持された主軸142と、主軸142の先端部に設けられた主軸台センタ143と、主軸142を回転駆動する主軸モータ144とを備えている。ワーク9は、主軸台14側の一端部が保持部材145によって保持されており、この保持部材145が連結部材146によって主軸142に連結されている。主軸モータ144が主軸142を回転させると、ワーク9が回転軸線O
2(
図1(b)及び(c)に示す)を中心として主軸142及び主軸台センタ143と一体に回転する。
【0018】
心押台15は、心押台本体2と、心押台本体2に対して軸方向移動可能かつ回転可能に支持された心押軸51と、心押軸51の先端部に保持された心押台センタ52と、心押台本体2内に配置され、非常停止時等に心押軸51の軸方向移動を阻止する係止機構6とを備えている。なお、心押台15をベッド11に対してスライド移動可能としてもよい。この場合、ワーク9の加工時には心押台本体2がベッド11に対してクランプ固定される。心押台15の構成の詳細については後述する。
【0019】
ワーク9の軸方向一端部には、主軸台センタ143が嵌合する第1センタ穴91が形成されている。また、ワーク9の軸方向他端部には、心押台15の心押台センタ52が嵌合する第2センタ穴92が形成されている。第1センタ穴91及び第2センタ穴92は、最深部ほど内径が小さくなる円錐形状であり、ワーク9の両端面9a,9bから軸方向に窪んでいる。
【0020】
心押台15は、油圧供給装置7から供給される油圧により、心押台センタ52によってワーク9を主軸台14に向かって押圧する。心押軸51及び心押台センタ52は、第2センタ穴92の内面92aと心押台センタ52との間の摩擦力により、ワーク9の回転に伴って従動的に回転する。
【0021】
制御装置8は、X軸モータ111によるトラバースベース12のX軸方向の位置を制御するX軸モータ制御部81、Y軸モータ121による砥石台13のY軸方向の位置を制御するY軸モータ制御部82、砥石軸駆動モータ132による砥石10の回転を制御する砥石軸駆動モータ制御部83、主軸モータ144による主軸142の回転を制御する主軸モータ制御部84、及び油圧供給装置7を制御する油圧供給装置制御部85を有している。X軸モータ111、Y軸モータ121、及び主軸モータ144は、高精度な位置決めが可能なサーボモータである。制御装置8は、研削盤1の各モータ及び油圧供給装置7を協調的に制御して、ワーク9を回転させながら研削加工を実行する。
【0022】
心押台15、油圧供給装置7、及び制御装置8の油圧供給装置制御部85は、本発明の一実施形態に係る心押台装置100を構成する。次に、心押台15及び油圧供給装置7の構成、及び油圧供給装置制御部85の制御処理について詳細に説明する。
【0023】
(心押台及び油圧供給装置の構成)
図2及び
図3は、心押軸51及び心押台センタ52の回転軸線O
3に沿った心押台15の断面及び油圧供給装置7の回路構成を示している。
図4(a)~(c)は、
図2に示すA位置、B位置、及びC位置における心押台本体2の径方向断面図である。心押軸51及び心押台センタ52の回転軸線O
3は、ワーク9の研削加工時においてワーク9の回転軸線O
2に一致する。以下の説明において、軸方向とは回転軸線O
3に平行な方向をいい、径方向とは回転軸線O
3に垂直な方向をいう。
【0024】
心押軸51は、油圧供給装置7から供給される油圧により、心押台本体2に対して軸方向に進退移動する。以下、心押台15に対する主軸台14側を前側といい、その反対側を後側という。また、心押軸51が主軸台14側に向かって移動することを前進といい、その反対側へ移動することを後退という。
図2は、心押軸51が後退端付近にある状態を示している。
図3は、心押軸51が前進端付近にある状態を示している。
【0025】
心押台本体2は、前側ハウジング部材21及び後側ハウジング部材22からなる心押台ハウジング20と、前側ハウジング部材21と心押軸51との間に介在する前側油室形成部材3及び後側油室形成部材4とを有して構成されている。なお、心押台本体2には、油圧供給装置7から供給される作動油の漏出を防ぐための不図示のシール部材が適宜の部位に配置されている。
【0026】
前側ハウジング部材21は、中心部に中空部210が形成された筒状である。後側ハウジング部材22は、前側ハウジング部材21の後側に配置され、ボルト231によって前側ハウジング部材21の後側端面21aに固定されている。後側ハウジング部材22は、有底筒状であり、前方に向かって開口する収容空間220が中心部に形成されている。心押軸51が後退したときには、心押軸51の一部が収容空間220に収容される。
【0027】
また、後側ハウジング部材22には、収容空間220に開口して径方向に延在するガイド孔221、及びガイド孔221に連通したシリンダ孔222が形成されている。シリンダ孔222は、ガイド孔221よりも内径が大きく、後側ハウジング部材22の外周面に開口している。ガイド孔221及びシリンダ孔222には、後述する係止機構6の係止ピン62が収容される。
【0028】
前側油室形成部材3は、前側ハウジング部材21の中空部210に収容された円筒状の円筒部30と、軸方向一端部において円筒部30から径方向外方に突出したフランジ部300とを一体に有している。フランジ部300は、ボルト232によって前側ハウジング部材21の前側端面21bに固定されている。
【0029】
同様に、後側油室形成部材4は、前側ハウジング部材21の中空部210に収容された円筒状の円筒部40と、軸方向一端部において円筒部40から径方向外方に突出したフランジ部400とを一体に有している。フランジ部400は、ボルト233によって前側ハウジング部材21の後側端面21aに固定されている。
【0030】
前側油室形成部材3と後側油室形成部材4とは、それぞれの円筒部30,40が前側ハウジング部材21の中空部210内で軸方向に並び、前側油室形成部材3が前側に、後側油室形成部材4が後側に、それぞれ配置されている。前側油室形成部材3及び後側油室形成部材4の円筒部30,40の内側には、心押軸51が配置されている。なお、
図2乃至
図4では、心押軸51の外径と前側油室形成部材3及び後側油室形成部材4の内径との差を誇張して示している。
【0031】
心押軸51は、中心部に貫通孔510が形成された円筒軸状の軸状部511と、軸状部511から径方向外方に突出した環状突出部512とを一体に有している。貫通孔510における前側の端部は、心押軸51の前側端面51aに向かって徐々に内径が大きくなるテーパ孔510aとなっている。環状突出部512は、心押軸51の軸方向中央部において所定の軸方向範囲にわたって環状に形成されており、その外径が軸方向の全体にわたって一定である。
【0032】
心押台センタ52は、心押軸51のテーパ孔510aに保持された被保持部521と、ワーク9の第2センタ穴92に嵌合する円錐形状の心押部522とを一体に有している。心押部522の外周面522aは、
図1(c)に示すように、第2センタ穴92の内面92aに押し当てられる。
【0033】
前側油室形成部材3は、前側シリンダ部31及び前側静圧軸受部32を円筒部30に有している。前側シリンダ部31は、前側油室形成部材3の後側の端部に設けられている。前側シリンダ部31のシリンダ油室310には、心押軸51の環状突出部512の一部が収容されている。また、前側油室形成部材3には、前側シリンダ部31のシリンダ油室310に連通するシリンダ油路33が形成されている。
【0034】
前側静圧軸受部32は、
図4(a)に示すように、作動油が導入される第1乃至第5のポケット321~325によって形成されている。第1乃至第5のポケット321~325は、前側油室形成部材3の周方向に並び、前側油室形成部材3における円筒部30の内周面30aから径方向外方に窪んで形成されている。円筒部30の内径は、心押軸51の軸状部511の外径よりも僅かに大きく形成されている。
【0035】
前側油室形成部材3には、第1乃至第5のポケット321~325に作動油を供給する軸受油路34が形成されている。軸受油路34は、円筒部30の外周面30bに形成された外周溝340、及び外周溝340と第1乃至第5のポケット321~325とをそれぞれ連通させる連通孔341~345からなる。
【0036】
後側油室形成部材4は、後側シリンダ部41及び後側静圧軸受部42を円筒部40に有している。後側シリンダ部41は、後側油室形成部材4の前側の端部に設けられている。後側シリンダ部41のシリンダ油室410には、心押軸51の環状突出部512の一部が収容されている。また、後側油室形成部材4には、後側シリンダ部41のシリンダ油室410に連通するシリンダ油路43が形成されている。
【0037】
後側静圧軸受部42は、
図4(c)に示すように、作動油が導入される第1乃至第5のポケット421~425によって形成されている。第1乃至第5のポケット421~425は、後側油室形成部材4の周方向に並び、後側油室形成部材4における円筒部40の内周面40aから径方向外方に窪んで形成されている。円筒部40の内径は、心押軸51の軸状部511の外径よりも僅かに大きく形成されている。
【0038】
後側油室形成部材4には、第1乃至第5のポケット421~425に作動油を供給する軸受油路44が形成されている。軸受油路44は、円筒部40の外周面40bに形成された外周溝440、及び外周溝440と第1乃至第5のポケット421~425とをそれぞれ連通させる連通孔441~445からなる。
【0039】
前側油室形成部材3の前側シリンダ部31、及び後側油室形成部材4の後側シリンダ部41は、心押台本体2におけるシリンダ200を構成する。研削盤1にワーク9を取り付ける際、シリンダ200における環状突出部512の後方側にあたる後側シリンダ部41のシリンダ油室410に作動油を供給すると、心押軸51が前進して心押台センタ52の心押部522がワーク9の第2センタ穴92に嵌合する。また、ワーク9の加工完了後には、環状突出部512の前方側にあたる前側シリンダ部31のシリンダ油室310に作動油を供給することにより、心押軸51及び心押台センタ52が後退する。
【0040】
心押軸51の前進時及び後退時ならびにワーク9の加工時には、前側静圧軸受部32及び後側静圧軸受部42が、心押軸51の軸状部511を、環状突出部512の前側及び後側でそれぞれ支持する。これにより、心押軸51が心押台本体2に対して円滑に軸方向移動ならびに回転可能である。
【0041】
前側ハウジング部材21には、前側油室形成部材3のシリンダ油路33に連通する油路211、前側油室形成部材3の外周溝340に連通する油路212、後側油室形成部材4のシリンダ油路43に連通する油路213、及び後側油室形成部材4の外周溝440に連通する油路214が形成されている。これらの油路211~214には、油圧供給装置7から作動油が供給される。油圧供給装置7は、油圧源として、電動モータ71によって駆動される油圧ポンプ72を有している。
【0042】
係止機構6は、例えば研削盤1の非常停止や停電によって油圧ポンプ72が停止し、シリンダ200に作動油が供給されなくなったとき、心押軸51の軸方向移動を阻止する。つまり、ワーク9の加工中にシリンダ200に作動油が供給されなくなると、ワーク9の重さが心押台センタ52における心押部522の外周面522aに鉛直方向上方から作用するので、第2センタ穴92の内面92aを心押部522の外周面522aが摺動することによって心押軸51が後退する。そして、仮に心押軸51の後退量が心押部522との第2センタ穴92との嵌合深さよりも多くなると、ワーク9が脱落してしまう。本実施の形態では、係止機構6により、このようなワーク9の脱落を阻止する。
【0043】
係止機構6は、心押軸51と一体に軸方向移動する被係止部材61と、後側ハウジング部材22に支持された係止部材としての係止ピン62と、係止ピン62を被係止部材61に向かって付勢する付勢部材としてのコイルばね63と、コイルばね63を係止ピン62とは反対側で受ける受け部材64とを有し、係止ピン62が被係止部材61を係止することによって心押軸51の軸方向移動を阻止するように構成されている。
【0044】
被係止部材61は、心押軸51と同軸上に配置された円筒状の円筒部610と、円筒部610の前方側の端部から径方向外方に向かって突出して形成されたフランジ部611とを一体に有している。フランジ部611は、複数のボルト234によって心押軸51の後側端面51bに固定されている。円筒部610の外周には、周方向に延在する環状溝612が軸方向の複数箇所に形成されている。なお、被係止部材61は、心押軸51と一体に、心押軸51の一部として形成されていてもよい。
【0045】
図5は、係止ピン62及び被係止部材61の円筒部610の一部を示す斜視図である。係止ピン62は、後側ハウジング部材22のガイド孔221に収容された円柱状の軸部620と、軸部620における被係止部材61側の端部に設けられた係止部621と、後側ハウジング部材22のシリンダ孔222に収容された円盤部622とを一体に有している。係止部621は、先端部が鋭角に形成されている。円盤部622は、軸部620より大径に形成されている。円盤部622には、コイルばね63を受ける受け面622aが形成されている。コイルばね63は、係止ピン62の円盤部622と受け部材64との間で圧縮された状態で配置されている。受け部材64は、複数のボルト235によって後側ハウジング部材22に固定されている。
【0046】
また、係止ピン62には、
図5に示すように、軸部620の外周面620aから径方向に突出した回り止め突起623が設けられている。回り止め突起623は、後側ハウジング部材22に形成された不図示の係合溝に係合することで、係止ピン62を回り止めしている。なお、係止ピン62を回り止めするための構造はこれに限らず、様々な回り止め構造を適宜採用することができる。
【0047】
シリンダ孔222には、ガイド孔221側の底面222aと係止ピン62の円盤部622との間に、油圧供給装置7から作動油が供給される。後側ハウジング部材22には、シリンダ孔222に連通する油路223が形成されており、この油路223を経てシリンダ孔222に作動油が供給される。係止ピン62は、油圧供給装置7から供給される作動油により、被係止部材61から離間する方向に押し付けられる。
【0048】
油圧ポンプ72が停止してシリンダ孔222に油圧が供給されなくなると、コイルばね63の付勢力によって係止ピン62が被係止部材61側に移動し、複数箇所に形成された環状溝612の何れかに係止部621が係合する。これにより、係止ピン62が被係止部材61を係止し、心押軸51の軸方向移動が阻止される。
図2では、被係止部材61が係止ピン62に係止されていない状態を示しており、
図3では、係止ピン62が被係止部材61を係止した状態を示している。
【0049】
油圧供給装置7は、制御装置8の油圧供給装置制御部85によって制御される電動モータ71と、電動モータ71によって駆動される油圧ポンプ72とを有している。油圧ポンプ72は、リザーバ70から作動油を吸入して吐出する。油圧ポンプ72から吐出される作動油の吐出圧は、電動モータ71に供給される電流が大きいほど大きくなる。油圧ポンプ72から吐出される作動油の一部は、絞り弁721を経てリザーバ70に還流する。
【0050】
油圧ポンプ72から吐出される作動油は、前側油室形成部材3の軸受油路34を経て前側静圧軸受部32に供給されると共に、後側油室形成部材4の軸受油路44を経て後側静圧軸受部42に供給される。なお、前側静圧軸受部32及び後側静圧軸受部42から流出した作動油は、不図示の還流油路を経てリザーバ70に還流する。
【0051】
また、油圧供給装置7は、油圧供給装置制御部85によって制御される第1及び第2の制御弁73,74と電磁逆止弁75とを有している。第1の制御弁73は、ソレノイド731,732の励磁によってポジションが切り替わる4ポート3ポジションの電磁切替弁である。第2の制御弁74は、4ポート2位置の比例方向制御弁である。電磁逆止弁75は、通電の有無により、逆方向への作動油の流れを許容するか遮断するかが切り替わる。
【0052】
第1の制御弁73の二つの入力ポートのうち一方の入力ポートは、油圧ポンプ72に接続されている。他方の入力ポートはリザーバ70に接続されている。また、第1の制御弁73の二つの出力ポートのうち一方の出力ポートは、前側ハウジング部材21の油路211及び前側油室形成部材3のシリンダ油路33を介して前側シリンダ部31のシリンダ油室310に接続されている。他方の出力ポートは、前側ハウジング部材21の油路213及び後側油室形成部材4のシリンダ油路43を介して後側シリンダ部41のシリンダ油室410に接続されている。
【0053】
第1の制御弁73は、ソレノイド731,732の一方を励磁して他方を消磁することにより、前側シリンダ部31のシリンダ油室310に油圧を供給して後側シリンダ部41のシリンダ油室410をドレンする後退ポジション73Aと、前側シリンダ部31のシリンダ油室310をドレンして後側シリンダ部41のシリンダ油室410に油圧を供給する前進ポジション73Bとを切り替え可能である。また、第1の制御弁73は、ソレノイド731,732が共に消磁されると、一対のリターンスプリング733,734により、前側シリンダ部31のシリンダ油室310及び後側シリンダ部41のシリンダ油室410を共にドレンする中立ポジション73Cとなる。
【0054】
第2の制御弁74は、二つの入力ポートのうち一方の入力ポートが油圧ポンプ72に接続され、他方の入力ポートがリザーバ70に接続されている。また、第2の制御弁74の二つの出力ポートのうち一方の出力ポートは、前側ハウジング部材21の油路211及び前側油室形成部材3のシリンダ油路33を介して前側シリンダ部31のシリンダ油室310に接続されている。他方の出力ポートは未接続である。
【0055】
第2の制御弁74は、ソレノイド741が励磁されると、ソレノイド741に供給される電流に応じた弁開度で弁が開弁し、弁開度に応じた圧力の作動油が前側シリンダ部31のシリンダ油室310に供給される。また、ソレノイド741が消磁されると、リターンスプリング742によって前側シリンダ部31への作動油の流路が閉弁され、前側シリンダ部31のシリンダ油室310がドレンされる。
【0056】
電磁逆止弁75は、第1の制御弁73の一方の出力ポートと前側シリンダ部31のシリンダ油室310との間の経路に介在して配置されている。電磁逆止弁75は、第1の制御弁73側から前側シリンダ部31側への作動油の流れを常に許容し、前側シリンダ部31側から第1の制御弁73側への作動油の流れを許容するか遮断するかが油圧供給装置制御部85からの電流供給の有無によって切り替わる。
【0057】
油圧供給装置制御部85は、電動モータ71、第1の制御弁73、第2の制御弁74、及び電磁逆止弁75を制御して心押台15を動作させる。次に、油圧供給装置制御部85の制御による心押台15の動作について説明する。
【0058】
(心押台の動作)
油圧供給装置制御部85は、心押台15が主軸台14との間に加工前のワーク9を挟持するとき、電動モータ71によって油圧ポンプ72を駆動させながら、第1の制御弁73を前進ポジション73Bとし、かつ第2の制御弁74における前側シリンダ部31への作動油の流路を閉弁して、心押台15を前進させる。また、ワーク9の加工完了後には、第1の制御弁73を後退ポジション73Aとし、かつ第2の制御弁74における前側シリンダ部31への作動油の流路を開弁して、心押台15を後退させる。
【0059】
また、油圧供給装置制御部85は、ワーク9の加工時において、シリンダ200における心押軸51の環状突出部512の軸方向後方側及び軸方向前方側に供給される作動油の差圧に応じて心押台センタ52をワーク9に押し付ける。具体的には、第1の制御弁73を前進ポジション73Bとして後側シリンダ部41のシリンダ油室410に圧油を供給しながら、第2の制御弁74のソレノイド741を励磁して、前側シリンダ部31のシリンダ油室310にも圧油を供給する。
【0060】
第2の制御弁74のソレノイド741に供給する励磁電流の電流値は、後側シリンダ部41のシリンダ油室410の圧力が前側シリンダ部31のシリンダ油室310の圧力よりも高くなる値とする。これにより、心押軸51が環状突出部512の前側シリンダ部31側の端面512aから受ける圧力よりも、環状突出部512の後側シリンダ部41側の端面512bから受ける圧力の方が大きくなり、この圧力差に応じたスラスト力で心押台センタ52がワーク9に押し付けられる。
【0061】
ワーク9の加工時には、電磁逆止弁75により、前側シリンダ部31のシリンダ油室310から第1の制御弁73への作動油の流れを遮断する。なお、ワーク9の加工時以外で心押軸51を前進又は後退させる際には、電磁逆止弁75を何れの方向にも作動油が流動可能な状態とする。また、ワーク9の加工時には、ワーク9の重量や剛性等に応じた適切なスラスト力で心押台センタ52がワーク9に押し付けられるように、油圧供給装置制御部85が第2の制御弁74のソレノイド741に供給する励磁電流の電流値を調節する。
【0062】
(実施の形態の効果)
以上説明した本発明の実施の形態によれば、ワーク9の加工時において、シリンダ200における心押軸51の環状突出部512の軸方向後方側及び軸方向前方側に供給される作動油の差圧に応じて心押台センタ52をワーク9に押し付けるので、単一の油圧ポンプ72から吐出される作動油をシリンダ200における環状突出部512の前方側及び後方側ならびに前側静圧軸受部32及び後側静圧軸受部42に配分しながらも、ワーク9を主軸台14に向かって押し付ける際の押し付け力を広い範囲で調節することができる。
【0063】
また、本実施の形態では、油圧供給装置7が、油圧ポンプ72が吐出する作動油をシリンダ200における環状突出部512の軸方向後方側に供給するか軸方向前方側に供給するかを切り替える第1の制御弁73と、シリンダ200における環状突出部512の軸方向前方側に供給される作動油の圧力を調節可能な第2の制御弁74とを備えるので、環状突出部512の軸方向後方側及び軸方向前方側に供給される作動油の差圧を精度よく調節することができる。
【0064】
また、本実施の形態では、油圧供給装置7から作動油の供給を受ける前側静圧軸受部32及び後側静圧軸受部42により、心押軸51の軸状部511が環状突出部512の軸方向両側で支持される。これにより、例えば軸状部511が環状突出部512の軸方向前側のみで支持される場合に比較して、ワーク9の加工時における心押軸51の傾きを抑制することができる。また、例えば環状突出部512が軸状部511の軸方向後側の端部に設けられた場合に比較して、外径が大きくて剛性が高い環状突出部512が心押台センタ52に近い位置に配置されるので、心押台センタ52によるワーク9の支持剛性が高まり、ワーク9の加工精度を向上させることが可能となる。
【0065】
また、本実施の形態では、非常停止や停電によって電動モータ71や第1の制御弁73及び第2の制御弁74への電流供給が遮断されたとき、係止ピン62が被係止部材61を係止することにより心押軸51の後退が阻止される。このため、例えば特許文献1に記載されたように摩擦力によって心押軸を心押台本体に締結する場合に比較して、より確実に心押軸51の後退が阻止することができる。またさらに、本実施の形態では、被係止部材61の円筒部610の外周に複数の環状溝612に形成されているため、油圧ポンプ72が停止する前の位置に近い位置で心押軸51の後退を阻止することができ、ワーク9の脱落を確実に抑止することができる。
【0066】
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、この実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、一部の構成を省略し、あるいは構成を追加もしくは置換して、適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0067】
100…心押台装置 15…心押台
2…心押台本体 200…シリンダ
31…前側シリンダ部 32…前側静圧軸受部
41…後側シリンダ部 42…後側静圧軸受部
51…心押軸 511…軸状部
512…環状突出部 52…心押台センタ
6…係止機構 61…被係止部材
612…環状溝 62…係止ピン(係止部材)
63…コイルばね(付勢部材) 7…油圧供給装置
72…油圧ポンプ 73…第1の制御弁
74…第2の制御弁 9…ワーク