(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131316
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】アルデヒドの製造装置およびアルデヒドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20220831BHJP
C25B 3/23 20210101ALI20220831BHJP
C25B 11/04 20210101ALI20220831BHJP
C01B 3/02 20060101ALI20220831BHJP
B01J 23/52 20060101ALI20220831BHJP
B01J 23/42 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C25B9/00 G
C25B3/02
C25B11/08 A
C01B3/02 H
B01J23/52 A
B01J23/42 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030197
(22)【出願日】2021-02-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(CREST)「固体高分子電解質電解技術に基づく革新的反応プロセスの構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 康司
(72)【発明者】
【氏名】跡部 真人
(72)【発明者】
【氏名】伊▲土▼ 悠人
(72)【発明者】
【氏名】深澤 篤
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BC33A
4G169BC33B
4G169BC70A
4G169BC71A
4G169BC72A
4G169BC74A
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CB19
4G169CB72
4G169DA05
4K011AA30
4K011AA68
4K011BA06
4K011BA07
4K011DA10
4K021AC07
4K021BA07
4K021BA11
4K021BB01
4K021BB03
4K021BC01
4K021CA08
4K021DB19
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB53
4K021EA06
4K021EA07
(57)【要約】
【課題】より温和な条件下でアルデヒドを製造する技術を提供する。
【解決手段】アルデヒドの製造装置10は、固体高分子形電解ユニット100と、固体高分子形電解ユニット100に基質を供給する供給部44と、を備える。固体高分子形電解ユニット100は、基質を電解酸化してアルデヒドを製造する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子形電解ユニットと、
前記固体高分子形電解ユニットに基質を供給する供給部と、を備え、
前記固体高分子形電解ユニットは、前記基質を電解酸化してアルデヒドを製造することを特徴とするアルデヒドの製造装置。
【請求項2】
前記固体高分子形電解ユニットは、
アノード触媒層を含むアノードと、
カソード触媒層を含むカソードと、
前記アノードおよび前記カソードの間に設けられる固体高分子電解質膜と、を有し、
前記供給部は、前記アノードに前記基質を供給する請求項1に記載のアルデヒドの製造装置。
【請求項3】
前記基質は第1級アルコールである請求項1または2に記載のアルデヒドの製造装置。
【請求項4】
前記基質はベンジルアルコールまたはその誘導体である請求項3に記載のアルデヒドの製造装置。
【請求項5】
前記カソードに水を供給し、水素発生反応を行う請求項2乃至4のいずれか1項に記載のアルデヒドの製造装置。
【請求項6】
前記カソード触媒層はPtを含む請求項1乃至5のいずれか1項に記載のアルデヒドの製造装置。
【請求項7】
前記アノード触媒層は、Ru、Rh、Pd、Ir、PtおよびAuからなる群から選択される少なくとも一種の触媒金属を含む請求項1乃至6のいずれか1項に記載のアルデヒドの製造装置。
【請求項8】
前記アノード触媒層はAuを含む請求項7に記載のアルデヒドの製造装置。
【請求項9】
前記アノード触媒層は触媒担体をさらに含み、前記触媒担体上に、Auを含む金属粒子が担持されており、前記金属粒子の平均粒子径が0.2nm以上50nm以下である請求項8に記載のアルデヒドの製造装置。
【請求項10】
前記触媒担体が多孔性カーボンである請求項9に記載のアルデヒドの製造装置。
【請求項11】
前記触媒担体がアセチレンブラックである請求項10に記載のアルデヒドの製造装置。
【請求項12】
前記固体高分子電解質膜は、パーフルオロスルホン酸を含む請求項1乃至11のいずれか1項に記載のアルデヒドの製造装置。
【請求項13】
前記固体高分子電解質膜はアニオン交換型電解質膜である請求項1乃至11のいずれか1項に記載のアルデヒドの製造装置。
【請求項14】
固体高分子形電解ユニットを用いて基質を電解酸化し、アルデヒドを製造することを含むことを特徴とするアルデヒドの製造方法。
【請求項15】
前記固体高分子形電解ユニットは、Auを含むアノード触媒層を含むアノードと、Ptを含むカソード触媒層を含むカソードと、前記アノードおよび前記カソードの間に設けられる固体高分子電解質膜と、を有し、前記基質は第1級アルコールを含む溶液である請求項14に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項16】
前記カソードに水を供給して水素発生させ、可逆水素電極(RHE)に対する前記アノードの電位を0.6V以上1.8V以下に制御する請求項15に記載のアルデヒドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルデヒドの製造装置およびアルデヒドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコールを酸化してアルデヒドを合成する反応は、工業原料の中間体などの有機化合物の合成に広く用いられている。従来、このような反応においては、アルコールが酸化されてアルデヒドが生成したのち、アルデヒドが更に酸化されてカルボン酸になってしまうなど、アルデヒドを高選択的に製造することは困難であった。
【0003】
アルコールからアルデヒドを製造する手段の一つとして、アルコールの電解酸化が知られている。例えば、特許文献1には、導電性の基体表面に、疎水性のフッ素化合物と白金とからなる複合メッキ層を有する電極を備える電解槽にてベンジルアルコールを電解酸化して、ベンズアルデヒド及び安息香酸を得たことが記載されている。
【0004】
特許文献2には、第1級アルコールをN-オキシル化合物とともに電解酸化して、アルデヒドを合成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-280183号公報
【特許文献2】特開平02-107790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の電解槽では、アルデヒドの選択的な合成に至っていない。特許文献2に記載の方法では、N-オキシル化合物を用いる必要があるため、製造コストが高くなる。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、アルデヒドを高選択的に製造する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、アルデヒドの製造装置である。この製造装置は、固体高分子形電解ユニットと、固体高分子形電解ユニットに基質を供給する供給部と、を備える。固体高分子形電解ユニットは、基質を電解酸化してアルデヒドを製造する。
【0009】
本発明の他の態様は、アルデヒドの製造方法である。この製造方法は、固体高分子形電解ユニットを用いて基質を電解酸化し、アルデヒドを製造することを含む。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、プログラム、プログラムを記録した一時的なまたは一時的でない記憶媒体、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アルデヒドを高選択的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態に係るアルデヒドの製造装置を示す模式図である。
【
図2】固体高分子形電解ユニットの概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、特に言及がない限りこの用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。また、数値範囲を示す「X~Y」は、特に言及がない限り「X以上Y以下」を意味する。
【0014】
図1は、実施の形態に係るアルデヒドの製造装置を示す模式図である。なお、
図1では、固体高分子形電解ユニットの構造を簡略化して図示している。アルデヒドの製造装置10(アルデヒド製造装置)は、基質を電解酸化してアルデヒドを製造する装置であり、固体高分子形電解ユニット100、電力制御部20、水貯蔵槽30、基質貯蔵槽40および制御部60を主な構成として備える。以下では適宜、アルデヒドの製造装置10を、単に「製造装置10」と記す。
【0015】
電力制御部20は、例えば、電力源の出力電圧を所定の電圧に変換するDC/DCコンバータである。電力制御部20の正極出力端子は、固体高分子形電解ユニット100のアノード(陽極)130に接続される。電力制御部20の負極出力端子は、固体高分子形電解ユニット100のカソード(陰極)120に接続される。これにより、固体高分子形電解ユニット100のアノード130とカソード120との間に所定の電圧が印加される。
【0016】
電力制御部20には、アノードおよびカソードの電位検知の目的で参照極が設けられてもよい。この場合、参照極入力端子は、固体高分子電解質膜110に設けられる参照電極112に接続される。参照電極112は、固体高分子電解質膜110におけるカソード120およびアノード130から離間した領域に、固体高分子電解質膜110に接するように設けられる。参照電極112は、カソード120およびアノード130から電気的に隔離されている。
【0017】
参照電極112は、参照電極電位に保持される。本願における参照電極電位は、特に言及がない限り、可逆水素電極(RHE)に対する電位を意味するものとする(参照電極電位=0V)。なお、参照電極電位は、Ag/AgCl電極に対する電位であってもよい(参照電極電位=0.199V VS RHE)。また、参照電極112は、固体高分子電解質膜110におけるアノード130側の表面に設置されることが好ましい。
【0018】
カソード120とアノード130との間を流れる電流は、電流検出部113によって検出される。電流検出部113は、例えば従来公知の電流計で構成される。電流検出部113で検出された電流値は、制御部60に入力され、制御部60による電力制御部20の制御に用いられる。参照電極112とアノード130との間の電位差は、電圧検出部114によって検出される。電圧検出部114は、例えば従来公知の電圧計で構成される。電圧検出部114で検出された電位差の値は制御部60に入力され、制御部60による電力制御部20の制御に用いられる。なお、必要に応じて、電圧検出部114は参照電極112とカソード120との間の電位差を検出してもよい。
【0019】
制御部60は、固体高分子形電解ユニット100の電位を制御する。つまり、制御部60は、カソード120および/またはアノード130の電位を所定の電位に調整する。制御部60は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。このことは、当業者には当然に理解されるところである。制御部60は、カソード120および/またはアノード130の電位が所定の電位となるように、電力制御部20の正極出力端子および負極出力端子の出力を制御する。
【0020】
水貯蔵槽30には、例えばイオン交換水、純水(蒸留水、膜浸透水など)、あるいはこれらに硫酸、硝酸、塩酸等の酸、または水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属塩を加えた水溶液等(以下では適宜、「カソード液」という)が貯蔵される。水貯蔵槽30に貯蔵されたカソード液は、第1供給装置32によって固体高分子形電解ユニット100のカソード120に供給される。第1供給装置32としては、例えばギアポンプあるいはシリンダーポンプ等の各種ポンプ、または自然流下式装置等を用いることができる。
【0021】
水貯蔵槽30とカソード120との間には、循環経路34が設けられる。循環経路34は、カソード液の流れにおけるカソード120の上流側で水貯蔵槽30とカソード120とをつなぐ往路部34aと、カソード液の流れにおけるカソード120の下流側でカソード120と水貯蔵槽30とをつなぐ復路部34bとを含む。往路部34aの途中には、第1供給装置32が設けられる。
【0022】
カソード液は、往路部34aを介してカソード120に供給される。カソード120において未反応のカソード液と、カソード120での電極反応で生成される水素ガスと、その他の副生ガスとは、復路部34bを経て水貯蔵槽30に戻される。復路部34bの途中には気液分離手段(図示せず)が設けられ、気液分離手段によって水素ガスや副生ガスは分離される。なお、復路部34bは省略することもできる。
【0023】
基質貯蔵槽40には、基質が貯蔵される。本実施の形態で用いられる基質としては、アルコール、特に第1級アルコール、ベンジルアルコール、ベンジルアルコールの誘導体が挙げられる。第1級アルコールの具体例としては、エタノール、1-プロパノール、1-ヘキサノール、3-メチル-2-ブテン-1-オール等が例示される。これらの基質によって得られるアルデヒドは、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ヘキサナール、3-メチル-2-ブテナールである。ベンジルアルコールによって得られるアルデヒドは、ベンズアルデヒドである。ベンジルアルコールの誘導体とは、ベンジルアルコールのベンゼン環上の水素が官能基または脂肪族基によって置換された化合物を指す。ベンジルアルコールの誘導体の具体例としては、2-メチルベンジルアルコール、4-メチルベンジルアルコール、4-(ジメチルアミノ)ベンジルアルコール、シンナミルアルコール等が例示される。これらの基質によって得られるアルデヒドは、2-メチルベンズアルデヒド、4-メチルベンズアルデヒド、4-(ジメチルアミノ)ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒドである。
【0024】
基質貯蔵槽40に貯蔵された基質は、第2供給装置42によって固体高分子形電解ユニット100のアノード130に供給される。基質貯蔵槽40と第2供給装置42とは、固体高分子形電解ユニット100に基質を供給する供給部44を構成する。
【0025】
基質貯蔵槽40とアノード130との間には、循環経路46が設けられる。循環経路46は、基質の流れにおけるアノード130の上流側で基質貯蔵槽40とアノード130とをつなぐ往路部46aと、基質の流れにおけるアノード130の下流側でアノード130と基質貯蔵槽40とをつなぐ復路部46bとを含む。往路部46aの途中には、第2供給装置42が設けられる。
【0026】
基質は、往路部46aを介してアノード130に供給される。アノード130において基質の電解酸化により生成されたアルデヒドと、未反応の基質とは、復路部46bを経て基質貯蔵槽40に戻される。なお、復路部46bは省略することもできる。
【0027】
図2は、固体高分子形電解ユニット100の概略構成を示す断面図である。本実施の形態の固体高分子形電解ユニット100は、フィルム形状の電解質膜の一方の側にアノード室を、他方の側にカソード室をそれぞれ有する固体高分子形電解槽である。より具体的には、固体高分子形電解ユニット100は、膜電極接合体102と、膜電極接合体102を挟む一対のセパレータ150aおよび150bとを備える。膜電極接合体102は、固体高分子電解質膜110と、カソード120と、アノード130とを有する。
【0028】
固体高分子電解質膜110は、アノード130およびカソード120の間に設けられる。固体高分子電解質膜110の種類としては、プロトン交換型電解質膜(PEM)とアニオン交換型電解質膜(AEM)とがある。固体高分子電解質膜110は、プロトンまたはアニオンを選択的に伝導する一方で、カソード120とアノード130との間で物質が混合したり拡散したりすることを抑制する。また、固体高分子電解質膜110は、カソードの水を透過させることができる。
【0029】
固体高分子電解質膜110の厚さは、例えば5~300μmである。固体高分子電解質膜110の厚さを5μm以上とすることで、固体高分子電解質膜110のバリア性を確保して、基質等のクロスオーバーの発生をより確実に抑制することができる。また、固体高分子電解質膜110の厚さを300μm以下とすることで、イオン移動抵抗が過大になることを抑制することができる。
【0030】
プロトン交換型電解質膜(PEM)は、好ましくはパーフルオロスルホン酸を含む。例えば、固体高分子電解質膜110はパーフルオロスルホン酸のポリマーで構成される。当該ポリマーとしては、ナフィオン(登録商標)やフレミオン(登録商標)などが例示される。アニオン交換型電解質膜(AEM)は、好ましくは第4級アンモニウム塩等の強塩基性基を有するポリマーを含む。アニオン交換型電解質膜としては、fumapem(商標)FAA-3、ネオセプタ(登録商標)AHAなどが例示される。固体高分子電解質膜110は、好ましくはAEMである。これによって、より高い電流効率でアルデヒドを生成することができる。固体高分子電解質膜110には、多孔性のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の補強材が混合されてもよい。補強材を導入することで、固体高分子電解質膜110の寸法安定性を高めることができる。これにより、固体高分子電解質膜110の耐久性を向上させることができる。また、基質等のクロスオーバーを抑制することができる。
【0031】
カソード120は、水を還元して水素を生成する電極であり、固体高分子電解質膜110の一方の側に配置される。本実施の形態では、カソード120は固体高分子電解質膜110の一方の主表面に接するように設けられている。カソード120は、カソード触媒層122および拡散層124が積層された構造を有する。カソード触媒層122は、拡散層124よりも固体高分子電解質膜110側に配置される。
【0032】
カソード触媒層122は、固体高分子電解質膜110の一方の主表面に接している。カソード触媒層122は、水を還元するための触媒金属を含む。例えば、カソード触媒層122は、Pt、Au、Ag、Pd、Rh、Ru、FeおよびNiからなる群から選択される少なくとも一種の触媒金属を含む。好ましくは、カソード触媒層122はPtを含む。触媒金属は、電子伝導性材料で構成される触媒担体によって担持される。触媒金属を触媒担体に担持させることで、カソード触媒層122の表面積を拡大することができる。また、触媒金属の凝集を抑制することができる。触媒担体に用いられる電子伝導性材料の電子伝導度は、好ましくは1.0×10-2S/cm以上である。電子伝導性材料の電子伝導度を1.0×10-2S/cm以上とすることで、カソード触媒層122に対してより確実に電子伝導性を付与することができる。
【0033】
触媒担体としては、例えば多孔性カーボン、多孔性金属、多孔性金属酸化物のいずれかを主成分として含有する電子伝導性材料を挙げることができる。多孔性カーボンとしては、例えばケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、ファーネスブラック、バルカン(登録商標)などのカーボンブラックが挙げられる。多孔性金属としては、例えばPt黒、Pd黒、フラクタル状に析出させたPt金属などが挙げられる。多孔性金属酸化物としては、例えばTi、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wの酸化物が挙げられる。また、触媒担体には、Ti、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wなどの金属の窒化物、炭化物、酸窒化物、炭窒化物、部分酸化した炭窒化物といった、多孔性の金属化合物も用いることができる。
【0034】
好ましくは、触媒金属を担持した状態の触媒担体は、アイオノマーで被覆される。これにより、カソード120のイオン伝導性を向上させることができる。固体高分子電解質膜110がPEMの場合は、プロトン伝導性のアイオノマーを用いる。固体高分子電解質膜110がAEMの場合は、アニオン伝導性のアイオノマーを用いる。プロトン伝導性のアイオノマーとしては、例えばナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)などのパーフルオロスルホン酸ポリマー等を挙げることができる。アニオン伝導性のアイオノマーとしては、例えばfumion(商標)FAA-3などの、強塩基性基(第4級アンモニウム基、イミダゾリウム基など)を有するポリマー等を挙げることができる。カソード触媒層122の厚さは、例えば1~100μmである。カソード触媒層122の厚さを上述の範囲とすることで、プロトンの移動抵抗の増大を抑制できる。
【0035】
カソード触媒層122は、例えば触媒成分粉末と、触媒担体と、水等の溶媒とを混合して触媒インクを調製し、得られた触媒インクと、カーボンナノチューブ等の導電性フィラーと、バインダーとを混合して触媒ペーストを調製し、この触媒ペーストをシート状に成形することで作製することができる。なお、触媒インクを拡散層124に塗布し、乾燥後にホットプレスすることで作製することもできる。また、カソード触媒層122は、固体高分子電解質膜110上に形成してもよい。
【0036】
拡散層124は、セパレータ150aから供給されるカソード液をカソード触媒層122に均一に拡散させる機能を担う。拡散層124を構成する材料としては、例えばカーボンの織布(カーボンクロス)、カーボンの不織布、カーボンペーパー等を挙げることができる。カーボンクロスは、数μmの径の細いカーボン繊維を数百本の束とし、この束を織布としたものである。また、カーボンペーパーは、カーボン原料繊維を製紙法にて薄膜の前駆体とし、これを焼結したものである。拡散層124の厚さは、好ましくは50~1000μmである。
【0037】
セパレータ150aは、固体高分子電解質膜110とは反対側のカソード120の主表面に積層される。セパレータ150aは、例えばカーボン樹脂や、Cr-Ni-Fe系、Cr-Ni-Mo-Fe系、Cr-Mo-Nb-Ni系、Cr-Mo-Fe-W-Ni系あるいはTi系などの耐食性合金で形成することができる。セパレータ150aの拡散層124側の面には、単数または複数の溝状の流路152aが設けられる。流路152aには、往路部34aおよび復路部34bが接続される。セパレータ150aと、固体高分子電解質膜110と、これらの間に配置される枠状のスペーサ126とでカソード室が画成され、カソード室にカソード触媒層122と拡散層124とが収容される。
【0038】
カソード室の流路152aには、往路部34aを介してカソード液が流入する。カソード液は、流路152aから拡散層124に浸み込む。そして、カソード触媒層122にカソード液が流入する。未反応のカソード液は、復路部34bを介してカソード室から外部に流出し、水貯蔵槽30に戻される。流路152aの形態は、特に限定されないが、例えば直線状流路、サーペンタイン流路などを採用し得る。あるいは、セパレータ150aが多孔体層を有し、多孔体層の空隙によって流路152aが構成されてもよい。
【0039】
アノード130は、基質を電解酸化してアルデヒドを生成するための電極であり、固体高分子電解質膜110の他方の側に、すなわちカソード120が配置される側とは反対側に配置される。本実施の形態では、アノード130は固体高分子電解質膜110の他方の主表面に接するように設けられている。アノード130は、アノード触媒層132および拡散層134が積層された構造を有する。アノード触媒層132は、拡散層134よりも固体高分子電解質膜110側に配置される。
【0040】
アノード触媒層132は、固体高分子電解質膜110の他方の主表面に接している。アノード触媒層132は、基質を酸化するための触媒金属を含む。好ましくは、アノード触媒層132は、Ru、Rh、Pd、Ir、PtおよびAuからなる群から選択される少なくとも一種の触媒金属を含む。より好ましくは、アノード触媒層132は、Auを含む。アノード触媒層132がこれらの触媒金属を含むことで、高選択的にアルデヒドを生成することができる。ここで、「高選択的」とは、基質の電解酸化によって、カルボン酸よりもアルデヒドのほうが多く生成されることをいう。選択率は、アルデヒドが「アルデヒド+カルボン酸」の総量に対して50%超、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは99%以上である。
【0041】
触媒金属は、電子伝導性材料で構成される触媒担体によって担持されてもよい。また、アノード触媒層132がAuを含む場合において、好ましくは、Auを含む金属粒子が触媒担体上に担持されている。これによって、より高い電流効率でアルデヒドを生成することができる。電流効率をさらに高くするという観点から、金属粒子の平均粒子径は、好ましくは0.2nm以上50nm以下である。
【0042】
触媒担体としては、カソード触媒層122の触媒担体について説明したのと同様に、例えば多孔性カーボン、多孔性金属、多孔性金属酸化物を挙げることができる。電流効率をさらに高くするという観点から、好ましくは、触媒担体は多孔性カーボンであり、より好ましくは、アセチレンブラックである。好ましくは、触媒金属は、アイオノマーで被覆される。これにより、アノード130のイオン伝導性を向上させることができる。固体高分子電解質膜110がPEMの場合は、プロトン伝導性のアイオノマーを用いる。固体高分子電解質膜110がAEMの場合は、アニオン伝導性のアイオノマーを用いる。プロトン伝導性のアイオノマーとしては、例えばナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)などのパーフルオロスルホン酸ポリマー等を挙げることができる。アニオン伝導性のアイオノマーとしては、例えばfumion(商標)FAA-3などの、強塩基性基(第4級アンモニウム基、イミダゾリウム基など)を有するポリマー等を挙げることができる。アノード触媒層132の厚さは、例えば1~100μmである。
【0043】
アノード触媒層132は、例えば触媒成分粉末と、バインダーとを混合して触媒ペーストを調製し、この触媒ペーストをシート状に成形することで作製することができる。なお、触媒インクを拡散層134に塗布し、乾燥後にホットプレスすることで作製することもできる。また、アノード触媒層132は、固体高分子電解質膜110上に形成してもよい。
【0044】
拡散層134は、セパレータ150bから供給される基質をアノード触媒層132に均一に拡散させる機能を担う。拡散層134を構成する材料は、基質に対して親和性が高いことが好ましい。拡散層134を構成する材料としては、例えばカーボンの織布(カーボンクロス)、カーボンの不織布、カーボンペーパー等を挙げることができる。拡散層134の厚さは、好ましくは50~1000μmである。
【0045】
セパレータ150bは、固体高分子電解質膜110とは反対側のアノード130の主表面に積層される。セパレータ150bは、セパレータ150aと同様の材料で構成することができる。セパレータ150bの拡散層134側の面には、単数または複数の溝状の流路152bが設けられる。流路152bには、往路部46aおよび復路部46bが接続される。セパレータ150bと、固体高分子電解質膜110と、これらの間に配置される枠状のスペーサ136とでアノード室が画成され、アノード室にアノード触媒層132と拡散層134とが収容される。
【0046】
アノード室の流路152bには、往路部46aを介して基質が流入する。基質は、流路152bから拡散層134に浸み込む。アノード触媒層132での電解酸化反応の生成物と未反応の基質とは、復路部46bを介してアノード室から外部に流出し、基質貯蔵槽40に戻される。流路152bの形態は、流路152aと同様である。
【0047】
固体高分子形電解ユニット100は、基質を電解酸化してアルデヒドを製造する。固体高分子電解質膜110がAEMであり、基質としてベンジルアルコールを用いた場合の固体高分子形電解ユニット100における反応は、以下の通りである。
<アノード130での電極反応>
OH-→O*+e-
C7H8O+O*→C7H6O+H2O
<カソード120での電極反応>
2H2O+2e-→2OH-+H2
<全反応>
2C7H8O→2C7H6O+H2
【0048】
すなわち、まずカソード120において、水が外部回路から電子を受け取り水素が発生し、同時に水酸化物イオン(OH-)が生成される。この水酸化物イオンはAEM中を伝導してアノード側へ供給される。
【0049】
アノード触媒層132において、膜中を伝導してきた水酸化物イオン(OH-)から活性酸素種(O*)と電子(e-)とが生成される。生成された活性酸素種は、供給部44によってアノード触媒層132に供給された基質としてのベンジルアルコールと反応し、アルデヒドとしてのベンズアルデヒドと水(H2O)とが生成される。アノード130での電極反応と、カソード120での電極反応とは並行して進行する。
【0050】
固体高分子形電解ユニット100による基質の電解酸化において、制御部60は、アノード130の電位を、参照極電位またはカソード120を基準に制御する。カソードにPtを含む電極を用いる場合には、カソードにおける水素発生過電圧が実質ゼロとみなせるため、カソード電位を基準にアノード電位を制御することは、実質的に可逆水素電極(RHE)基準電位に制御することに等しい。RHEに対するアノード電位の制御範囲としては、好ましくは0.6V以上1.8V以下、より好ましくは0.8V以上1.6V以下とする。これにより、より効率よくアルデヒドを生成することができる。参照極電位を基準にアノード電位を制御する場合には、温度と電解質のpHを考慮して、RHE換算した電位が上記範囲となるように制御する。例えばAg/AgCl参照極電位を基準として、25℃、pH=14の電解質を用いる場合、参照極電位は-0.059×14-0.199=-1.025Vとなるため、当該参照極電位に対するアノード電位として好ましい範囲は-0.425V以上0.775V以下、より好ましい範囲は-0.225V以上0.575V以下となる(参照文献:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acscatal.0c02046)。
【0051】
[アルデヒドの製造方法]
本実施の形態に係るアルデヒドの製造方法は、固体高分子形電解ユニット100を用いて基質を電解酸化し、アルデヒドを製造することを含む。より具体的には、アノード130に基質が供給され、カソード120にカソード液が供給される。そして、電力制御部20によって、固体高分子形電解ユニット100のアノード130とカソード120との間に所定の電圧が印加される。その際、可逆水素電極(RHE)に対するアノード130の電位は、好ましくは0.6V以上1.8V以下に、より好ましくは0.8V以上1.6V以下に制御される。
【0052】
これにより、アノード触媒層132において、カソード120側から移動してきた水酸化物イオンから活性酸素種と電子とが生成される。また、生成された活性酸素種と基質とが反応してアルデヒドと水とが生成される。生成された水は、固体高分子電解質膜110を通過して、カソード120側に移動する。そして、カソード触媒層122において、水から水酸化物イオンと水素とが生成される。
【0053】
以上説明したように、本実施の形態に係るアルデヒドの製造装置10は、固体高分子形電解ユニット100と、固体高分子形電解ユニット100に基質を供給する供給部44とを備える。固体高分子形電解ユニット100は、アノード触媒層132を含むアノード130と、カソード触媒層122を含むカソード120と、アノード130およびカソード120の間に設けられる固体高分子電解質膜110とを有する。供給部44は、アノード130に基質を供給する。そして、固体高分子形電解ユニット100は、基質を電解酸化してアルデヒドを製造する。また、本実施の形態に係るアルデヒドの製造方法は、固体高分子形電解ユニット100を用いて基質を電解酸化してアルデヒドを製造することを含む。
【0054】
このように、本実施の形態では固体高分子形電解ユニット100を用いることによって、基質からアルデヒドを高選択的に合成することができる。また、アノード130での電極反応とカソード120での電極反応とが並行して起こるため、より簡単な工程でアルデヒドを合成することができる。
【0055】
アノード触媒層132は、好ましくはRu、Rh、Pd、Ir、PtおよびAuからなる群から選択される少なくとも一種の触媒金属を含み、より好ましくはAuを含む。これにより、アルデヒドをより確実に生成することができる。
【0056】
また、アノード触媒層132がAuを含む場合、アノード触媒層132は、触媒担体をさらに含み、少なくともAuを含む金属粒子が触媒担体上に担持されており、金属粒子の平均粒径が0.2nm以上50nm以下である。これにより、アルデヒドの製造効率を高めることができる。
【0057】
また、アルデヒドの製造装置10は、固体高分子形電解ユニット100の電位を制御する制御部60を備える。制御部60は、可逆水素電極(RHE)に対するアノード130の電位を0.6V以上1.8V以下となるように制御する。これにより、アルデヒドの製造効率を高めることができる。
【実施例0058】
以下、本発明の実施例を説明するが、実施例は本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0059】
(実施例1)
<固体高分子電解質膜の調製>
アニオン交換膜(AEM)Fumapem(商標)FAA-3を用意した。このAEM膜はBr-型である。AEMを所定サイズで切り出し、これを1M KOH水溶液中に室温で24時間浸漬後、イオン交換水で十分に洗浄した。これにより、AEMのBr-をOH-でイオン交換し、不純物を除去した。処理したAEM膜は、イオン交換水中で保存した。
【0060】
<カソードの作製>
Pt/C(品番:TEC10E50E、田中貴金属社製)と、10wt% fumion(商標)FAA-3 NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液と、純水と、1-プロパノール(1-PrOH)とを、それぞれの比率が質量比で4:18:18:60となるようにして混合した。得られた混合物をボールミルで粉砕して、還元極触媒層用の触媒組成物を得た。この触媒組成物を、電解質膜(商品名:Fumapem(商標)FAA-3、FumaTech社製)の一方の主表面にスプレーで塗布し、還元極触媒層を形成した。触媒の担持量は、Pt金属の幾何面積当たり0.5mg/cm2であった。
【0061】
<アノードの作製>
Au/C(ハルタゴールド社製)と、10wt% fumion(商標)FAA-3 NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液と、純水と、1-プロパノール(1-PrOH)とを、それぞれの比率が質量比で4:18:18:60となるようにして混合した。得られた混合物をボールミルで粉砕して、酸化極触媒層用の触媒組成物を得た。この触媒組成物を、電解質膜(商品名:Fumapem(商標)FAA-3、FumaTech社製)のカソードを形成した面とは逆面にスプレーで塗布し、酸化極触媒層を形成した。触媒の担持量は、Au金属の幾何面積当たり0.5mg/cm2であった。以上の工程により、膜電極接合体(MEA)を得た。
【0062】
<電解実験>
作製したMEAをアノード室とカソード室との間に挟んだ2室型電解槽とした。該電解槽を用いて、アノードの入口から基質(アノード液)を供給し、アノードの出口から電解液で5mLを回収(20分)するまで定電位電解を実施した(ワンパス式)。反応条件は以下の通りである。
カソード液:1M水酸化カリウム(KOH)水溶液
アノード液:25mMベンジルアルコールの水/アセトニトリル(6:4)混合溶液
基質流速:0.25mL/分
参照電極:Ag/AgCl
電位:参照電極に対して0V,0.2V,0.4V
温度:室温
【0063】
<電解液の分析>
定電位電解の終了後、回収した電解液の成分を高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。具体的には、得られた生成物に対応するピーク面積と、予め当該物質を既知の濃度で調整したサンプルの測定結果から作成した検量線に基づき、モル濃度としてベンズアルデヒドを定量した。HPLCの分析結果から、目的生成物であるベンズアルデヒドの電流効率を以下の計算式によって求めた。
電流効率=(HPLCによる生成物のモル濃度)×(反応液体積)×(反応電子数)×(Faraday定数96,480)/(通電積算量)×100
【0064】
(実施例2)
アノード金属触媒として、Auの代わりにPtを用いた点を除いて、実施例1と同様にMEA作製、電解実験および分析を実施した。
【0065】
(比較例1)
アノードとして、金属触媒を含まないケッチェンブラックを用いた点を除いて、実施例1と同様にMEA作製、電解実験および分析を実施した。
【0066】
(参考例1)
アノード金属触媒として、Auの代わりにRuを用いた点を除いて、実施例1と同様にMEA作製、電解実験および分析を実施した。
【0067】
(実施例3)
参照電極に対する電位を0.2Vとし、アノード液を0.5M 1-プロパノール水溶液とし、ワンパス式の代わりにサイクル式で定電位電解を実施した点を除いて、実施例1と同様にMEA作製および電解実験を実施した。なお、サイクル式とは、アノード液を循環させることをいう。回収した電解液の成分を、ガスクロマトグラフィー(GC)で分析した。具体的には、得られた生成物に対応するピーク面積と、予め当該物質を既知の濃度で調整したサンプルの測定結果から作成した検量線に基づき、モル濃度としてプロピオンアルデヒドを定量した。GCの分析結果から、実施例1と同様に、目的生成物であるプロピオンアルデヒドの電流効率を求めた。
【0068】
(実施例4)
参照電極に対する電位を0.2Vとし、ワンパス式の代わりにサイクル式で定電位電解を実施した点を除いて、実施例1と同様にMEA作製、電解実験および分析を実施した。HPLCによって、転化された基質(ベンジルアルコール)の量(基質転化量、mmol)、目的生成物(ベンズアルデヒド)の量(生成物量、mmol)を定量し、変換収率(生成物量/基質転化量×100)を算出した。
【0069】
(実施例5)
電解実験におけるアノード液を1M 1-プロパノール水溶液とした点を除いて、実施例3と同様にMEA作製、電解実験および分析を実施した。GCによって基質転化量および生成物量を定量し、変換収率を算出した。
【0070】
(実施例6)
電解実験におけるアノード液を1M 3-メチル-2-ブテン-1-オールの水/アセトニトリル(6:4)混合溶液とした点を除いて、実施例5と同様にMEA作製、電解実験および分析を実施した。
【0071】
(実施例7)
電解実験におけるアノード液を25mM シンナミルアルコールの水/アセトニトリル(6:4)混合溶液とした点を除いて、実施例4と同様にMEA作製、電解実験および分析を実施した。
【0072】
実施例1、実施例2、比較例1、参考例1における、アノード触媒の種類、電位、電流効率を表1に示す。
【0073】
【0074】
表1に示すように、実施例1および2では、ベンジルアルコールから選択的にベンズアルデヒドが得られた。実施例1および2から、触媒金属としてAuを用いると、高い電流効率でベンズアルデヒドが得られることが確認された。また、HPLCの分析結果から、実施例1および2では、安息香酸やその他の副生成物は確認されなかった。すなわち、実施例1および2では、100%の選択性でアルデヒドを得ることができた。参考例1では、0.2Vの電位では1%、0.4Vでは3%の電流効率で安息香酸が得られた。また、安息香酸以外にもこれと同程度の生成物ピーク(未同定)が確認された。
【0075】
実施例3における電流効率を表2に示す。
【0076】
【0077】
表2に示すように、実施例3ではカルボン酸は検出されず、プロピオンアルデヒドが低い電流効率ながらも生成した。また、プロピオンアルデヒドと同程度のピークを有する副生成物(未同定)が1つ検出された。
【0078】
実施例4、実施例5、実施例6、実施例7における電流効率、変換収率を表3に示す。
【0079】
【0080】
表3に示すように、実施例4では高い収率でアルデヒドが得られた。実施例5ではアルデヒドやカルボン酸以外の生成物も確認され、目的生成物の変換収率は23%であった。実施例5の1-プロパノールに関しては基質の揮発による変換収率の低下も考えられる。実施例6では、カルボン酸は検出されず、アルデヒドのみが選択的に得られた。実施例7では、電流効率が23%と低い値となったが、HPLCの分析ではアルデヒドのみが検出され、カルボン酸を含む他の副生生物由来のピークは検出されなかった。なお、実施例7の基質であるシンナミルアルコールは紫外光に対する感度が非常に高く、過剰なピークが検出されたことから、変換収率を算出することができなかった。
【0081】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明した。前述した実施の形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施の形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「本実施の形態の」、「本実施の形態では」等の表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。以上の構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
10 アルデヒドの製造装置、 44 供給部、 60 制御部、 100 固体高分子形電解ユニット、 110 固体高分子電解質膜、 120 カソード、 122 カソード触媒層、 130 アノード、 132 アノード触媒層。