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特開2022-131337電力変換装置、制御システム、駆動システム及び電力変換方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131337
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】電力変換装置、制御システム、駆動システム及び電力変換方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20220831BHJP
   H02P 21/22 20160101ALI20220831BHJP
   H02P 25/22 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
H02P27/06
H02P21/22
H02P25/22
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030229
(22)【出願日】2021-02-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100171099
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】猪木 敬生
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 考弘
(72)【発明者】
【氏名】花田 敏洋
(72)【発明者】
【氏名】中原 健吾
(72)【発明者】
【氏名】井浦 英昭
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505BB02
5H505CC05
5H505DD03
5H505DD05
5H505EE41
5H505EE49
5H505EE55
5H505GG02
5H505GG04
5H505GG08
5H505HA03
5H505HA05
5H505HB01
5H505HB05
5H505JJ03
5H505JJ17
5H505JJ24
5H505JJ25
5H505KK06
5H505LL22
5H505LL54
5H505MM13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】複数の電力変換装置がそれぞれ誘導電動機に発生する回転磁界を互いに同期させるのに有効な電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力変換装置は、一次側電力を二次側電力に変換して電動機に供給する電力変換回路10Bと、トルク目標値と、電動機の回転速度とに基づいて、回転座標系の位相を算出する位相算出部213と、電力変換装置(マスタ装置)における回転座標系であるマスタ回転座標系の位相に追従するように回転座標系の位相を補正する位相補正部214と、トルク目標値に基づいて回転座標系における電圧指令を生成する電圧指令生成部216と、補正された回転座標系の位相と、電圧指令とに基づいて、電力変換回路の二次側電圧を電圧指令に対応させるPWM制御部217と、を備え、位相補正部は、電力変換装置が生成するマスタ電圧指令のマスタ回転座標系における位相に基づいて、回転座標系の位相を補正する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次側電力を二次側電力に変換して誘導電動機に供給する電力変換回路と、
トルク目標値と、前記誘導電動機の回転速度とに基づいて、回転座標系の位相を算出する位相算出部と、
マスタ装置における回転座標系であるマスタ回転座標系の位相に追従するように前記回転座標系の位相を補正する位相補正部と、
前記トルク目標値に基づいて前記回転座標系における電圧指令を生成する電圧指令生成部と、
補正された前記回転座標系の位相と、前記電圧指令とに基づいて、電力変換回路の二次側電圧を電圧指令に対応させる制御部と、を備え、
前記位相補正部は、前記マスタ装置が生成するマスタ電圧指令の前記マスタ回転座標系における位相に基づいて、前記回転座標系の位相を補正する、電力変換装置。
【請求項2】
前記位相補正部は、
前記回転座標系の回転速度が第一帯域内である場合には、前記マスタ回転座標系の位相に基づいて前記回転座標系の位相を補正し、
前記回転座標系の回転速度が前記第一帯域よりも高い第二帯域内である場合には、前記マスタ電圧指令の前記マスタ回転座標系における位相に基づいて、前記回転座標系の位相を補正する、請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記位相補正部は、
前記回転座標系の回転速度が前記第一帯域内である場合には、前記マスタ回転座標系の位相と前記回転座標系の位相との差である第一偏差に基づいて前記回転座標系の位相を補正し、
前記回転座標系の回転速度が前記第二帯域内である場合には、前記マスタ電圧指令の前記マスタ回転座標系における位相と、前記電圧指令の前記回転座標系における位相との差である第二偏差に基づいて前記回転座標系の位相を補正する、請求項2記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記位相補正部は、
前記回転座標系の回転速度が前記第一帯域と前記第二帯域との間の中間帯域内である場合には、前記第一偏差と、前記第二偏差との重み付け平均値に基づいて前記回転座標系の位相を補正し、
前記回転座標系の回転速度が前記中間帯域の下限から前記中間帯域の上限に近付くにつれて、前記第一偏差の重みを徐々に小さくし、前記第二偏差の重みを徐々に大きくする、請求項3記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記位相算出部は、前記トルク目標値と、前記誘導電動機の回転速度とに基づいて、前記回転座標系の角周波数指令値を算出し、
前記位相補正部は、
前記回転座標系の回転速度が前記第一帯域内である場合には、前記第一偏差に基づいて前記角周波数指令値を補正し、
前記回転座標系の回転速度が前記第二帯域内である場合には、前記第二偏差に基づいて前記角周波数指令値を補正し、
前記位相算出部は、補正された前記角周波数指令値を積分して前記回転座標系の位相を算出する、請求項3又は4記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記マスタ回転座標系の位相の正弦値と、前記マスタ回転座標系の位相の余弦値とを前記マスタ装置から取得するマスタ情報取得部を更に備え、
前記位相補正部は、前記回転座標系の回転速度が前記第一帯域内である場合に、前記正弦値と前記余弦値とに基づいて前記回転座標系の位相を補正する、請求項2~5のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記正弦値の二乗と前記余弦値の二乗との和が1から乖離する程度に基づいて、前記正弦値及び前記余弦値を取得するための通信経路の異常を検知する異常監視部を更に備える、請求項6記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記マスタ情報取得部は、前記マスタ電圧指令の前記マスタ回転座標系における位相を前記マスタ装置から更に取得し、
前記異常監視部は、前記マスタ電圧指令の前記マスタ回転座標系における位相が所定レベルよりも小さい場合に、前記マスタ電圧指令の前記マスタ回転座標系における位相を取得するための通信経路の異常を検知する、請求項7記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記マスタ装置におけるトルク目標値であるマスタトルク目標値に基づいて、前記トルク目標値を算出するトルク目標値算出部を更に備え、
前記位相算出部は、前記トルク目標値算出部により算出されたトルク目標値と、前記誘導電動機の回転速度とに基づいて、前記回転座標系の位相を算出する、請求項2~8のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記マスタトルク目標値を取得するマスタ情報取得部と、
前記マスタトルク目標値を取得するための通信経路の異常を検知する異常監視部と、を更に備え、
前記異常監視部は、
前記回転座標系の回転速度が前記第一帯域内である場合には、前記マスタ回転座標系の位相と前記回転座標系の位相との差である第一偏差に基づいて前記通信経路の異常を検知し、
前記回転座標系の回転速度が前記第二帯域内である場合には、前記マスタ電圧指令の前記マスタ回転座標系における位相と、前記電圧指令の前記回転座標系における位相との差である第二偏差に基づいて前記通信経路の異常を検知する、請求項9記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記一次側電力及び前記二次側電力は交流電力であり、
前記電力変換回路は、前記一次側電力から前記二次側電力への電力変換と、前記二次側電力から前記一次側電力への電力変換とを行うマトリクスコンバータ回路である、請求項2~10のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記位相補正部は、前記マスタ電圧指令の前記マスタ回転座標系における位相と、前記電圧指令の前記回転座標系における位相との差に基づいて前記回転座標系の位相を補正する、請求項1記載の電力変換装置。
【請求項13】
前記位相算出部は、前記トルク目標値と、前記誘導電動機の回転速度とに基づいて、前記回転座標系の角周波数指令値を算出し、
前記位相補正部は、前記マスタ装置が生成するマスタ電圧指令の前記マスタ回転座標系における位相に基づいて、前記角周波数指令値を補正し、
前記位相算出部は、補正された前記角周波数指令値を積分して前記回転座標系の位相を算出する、請求項1記載の電力変換装置。
【請求項14】
一次側電力を二次側電力に変換して誘導電動機に供給する電力変換回路と、
トルク目標値と、前記誘導電動機の回転速度とに基づいて、回転座標系の位相を算出する位相算出部と、
モード選択入力に基づいて、マスタモードと、スレーブモードとのいずれかを選択するモード選択部と、
マスタモードが選択されている場合に、前記回転座標系の位相に関する情報をスレーブ装置に出力する位相情報出力部と、
スレーブモードが選択されている場合に、マスタ装置における回転座標系であるマスタ回転座標系の位相に追従するように前記回転座標系の位相を補正する位相補正部と、
前記トルク目標値に基づいて前記回転座標系における電圧指令を生成する電圧指令生成部と、
マスタモードが選択されている場合には、補正されていない前記回転座標系の位相と、前記電圧指令とに基づいて、前記電力変換回路の二次側電圧を前記電圧指令に対応させ、スレーブモードが選択されている場合には、補正された前記回転座標系の位相と、前記電圧指令とに基づいて前記電力変換回路の二次側電圧を前記電圧指令に対応させる制御部と、を備え、
前記位相情報出力部は、前記回転座標系における前記電圧指令の位相を前記スレーブ装置に出力し、
前記位相補正部は、前記マスタ装置が生成するマスタ電圧指令の前記マスタ回転座標系における位相に基づいて、前記回転座標系の位相を補正する、電力変換装置。
【請求項15】
請求項1~11のいずれか一項記載の電力変換装置と、
前記マスタ装置と、を備える、制御システム。
【請求項16】
請求項15記載の制御システムと、
前記誘導電動機と、を備え、
前記誘導電動機は、第一グループの一次側コイルと、第二グループの一次側コイルと、を有し、
前記電力変換回路は、一次側電力を二次側電力に変換して前記第二グループの一次側コイルに供給し、
前記マスタ装置は、
一次側電力を二次側電力に変換して前記第一グループの一次側コイルに供給するマスタ電力変換回路と、
マスタトルク目標値と、前記誘導電動機の回転速度とに基づいて、前記マスタ回転座標系の位相を算出するマスタ位相算出部と、
前記マスタトルク目標値に基づいて前記マスタ電圧指令を生成するマスタ電圧指令生成部と、
前記マスタ回転座標系の位相と、前記マスタ電圧指令とに基づいて、前記マスタ電力変換回路の二次側電圧を前記マスタ電圧指令に対応させるマスタ制御部と、を備える、駆動システム。
【請求項17】
トルク目標値と、誘導電動機の回転速度とに基づいて、回転座標系の位相を算出することと、
マスタ装置における回転座標系であるマスタ回転座標系の位相に追従するように前記回転座標系の位相を補正することと、
前記トルク目標値に基づいて前記回転座標系における電圧指令を生成することと、
補正された前記回転座標系の位相と、前記電圧指令とに基づいて、電力変換回路の二次側電圧を前記電圧指令に対応させることと、を含み、
前記マスタ装置が生成するマスタ電圧指令の前記マスタ回転座標系における位相に基づいて、前記回転座標系の位相を補正する、電力変換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置、制御システム、駆動システム及び電力変換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第1巻線群と第2巻線群とを有するモータと、第1巻線群に対応する第1インバータと、第2巻線群に対応する第2インバータと、を備えるシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-79580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、複数の電力変換装置がそれぞれ誘導電動機に発生する回転磁界を互いに同期させるのに有効な電力変換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る電力変換装置は、一次側電力を二次側電力に変換して誘導電動機に供給する電力変換回路と、トルク目標値と、誘導電動機の回転速度とに基づいて、回転座標系の位相を算出する位相算出部と、マスタ装置における回転座標系であるマスタ回転座標系の位相に追従するように回転座標系の位相を補正する位相補正部と、トルク目標値に基づいて回転座標系における電圧指令を生成する電圧指令生成部と、補正された回転座標系の位相と、電圧指令とに基づいて、電力変換回路の二次側電圧を電圧指令に対応させる制御部と、を備え、位相補正部は、マスタ装置が生成するマスタ電圧指令のマスタ回転座標系における位相に基づいて、回転座標系の位相を補正する。
【0006】
本開示の他の側面に係る電力変換装置は、一次側電力を二次側電力に変換して誘導電動機に供給する電力変換回路と、トルク目標値と、誘導電動機の回転速度とに基づいて、回転座標系の位相を算出する位相算出部と、モード選択入力に基づいて、マスタモードと、スレーブモードとのいずれかを選択するモード選択部と、マスタモードが選択されている場合に、回転座標系の位相に関する情報をスレーブ装置に出力する位相情報出力部と、スレーブモードが選択されている場合に、マスタ装置における回転座標系であるマスタ回転座標系の位相に追従するように回転座標系の位相を補正する位相補正部と、トルク目標値に基づいて回転座標系における電圧指令を生成する電圧指令生成部と、マスタモードが選択されている場合には、補正されていない回転座標系の位相と、電圧指令とに基づいて、電力変換回路の二次側電圧を電圧指令に対応させ、スレーブモードが選択されている場合には、補正された回転座標系の位相と、電圧指令とに基づいて電力変換回路の二次側電圧を電圧指令に対応させる制御部と、を備え、位相情報出力部は、回転座標系における電圧指令の位相をスレーブ装置に出力し、位相補正部は、マスタ装置が生成するマスタ電圧指令のマスタ回転座標系における位相に基づいて、回転座標系の位相を補正する。
【0007】
本開示の更に他の側面に係る制御システムは、上記電力変換装置と、マスタ装置と、を備える。
【0008】
本開示の更に他の側面に係る駆動システムは、上記制御システムと、誘導電動機と、を備え、誘導電動機は、第一グループの一次側コイルと、第二グループの一次側コイルと、を有し、電力変換回路は、一次側電力を二次側電力に変換して第二グループの一次側コイルに供給し、マスタ装置は、一次側電力を二次側電力に変換して第一グループの一次側コイルに供給するマスタ電力変換回路と、マスタトルク目標値と、誘導電動機の回転速度とに基づいて、マスタ回転座標系の位相を算出するマスタ位相算出部と、マスタトルク目標値に基づいてマスタ電圧指令を生成するマスタ電圧指令生成部と、マスタ回転座標系の位相と、マスタ電圧指令とに基づいて、マスタ電力変換回路の二次側電圧をマスタ電圧指令に対応させるマスタ制御部と、を備える。
【0009】
本開示の更に他の側面に係る電力変換方法は、トルク目標値と、誘導電動機の回転速度とに基づいて、回転座標系の位相を算出することと、マスタ装置における回転座標系であるマスタ回転座標系の位相に追従するように回転座標系の位相を補正することと、トルク目標値に基づいて回転座標系における電圧指令を生成することと、補正された回転座標系の位相と、電圧指令とに基づいて、電力変換回路の二次側電圧を電圧指令に対応させることと、を含み、マスタ装置が生成するマスタ電圧指令のマスタ回転座標系における位相に基づいて、回転座標系の位相を補正する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、複数の電力変換装置がそれぞれ誘導電動機に発生する回転磁界を互いに同期させるのに有効な電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】駆動システムの全体構成を例示する図である。
図2】電力変換回路の構成を例示する図である。
図3】双方向スイッチの構成を例示する図である。
図4】マスタ制御回路の構成を例示するブロック線図である。
図5】スレーブ制御回路の構成を例示するブロック線図である。
図6】スレーブ制御回路の変形例を示す図である。
図7】マスタ制御回路及びスレーブ制御回路の変形例を示す図である。
図8】誘導電動機の回転速度と補正ゲインとの関係を例示するグラフである。
図9】マスタ制御回路及びスレーブ制御回路のハードウェア構成を例示する図である。
図10】マスタ制御回路による電力変換回路の制御手順を例示するフローチャートである。
図11】電圧位相の算出手順を例示するフローチャートである。
図12】スレーブ制御回路による電力変換回路の制御手順を例示するフローチャートである。
図13】トルク補正手順を例示するフローチャートである。
図14】電圧位相の算出手順を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
〔駆動システム〕
図1に示す駆動システム1は、誘導電動機によって駆動対象に所望の動作をさせるシステムである。駆動システム1は、電動機3と、制御システム2とを有する。
【0014】
電動機3は、誘導電動機であり、交流電力の供給に応じて第一回転磁界を発生する第一グループの一次側コイル51,52,53と、交流電力の供給に応じて第二回転磁界を発生する第二グループの一次側コイル61,62,63と、回転子70とを有する。第一グループの一次側コイル51,52,53と、第二グループの一次側コイル61,62,63とは互いに絶縁されている。第一回転磁界及び第二回転磁界は、いずれも回転子70にトルクを発生させる。
【0015】
制御システム2は、第一グループの一次側コイル51,52,53と、第二グループの一次側コイル61,62,63とにそれぞれ交流電力を供給する二つの電力変換装置4,5を有する。
【0016】
電力変換装置4は、電力変換回路10Aと、マスタ制御回路100とを有する。電力変換回路10Aは、電源9から供給される一次側電力を二次側電力に変換して一次側コイル51,52,53に供給する。一次側電力は交流電力であってもよく、直流電力であってもよい。二次側電力は交流電力である。図1は、一次側電力及び二次側電力のそれぞれが三相交流電力である場合を例示している。
【0017】
マスタ制御回路100は、トルク目標値(マスタトルク目標値)と、電動機3の回転速度(回転子70の回転速度)とに基づいて、回転座標系(マスタ回転座標系)の回転角に相当する位相を算出することと、マスタトルク目標値に基づいてマスタ回転座標系における電圧指令(マスタ電圧指令)を生成することと、マスタ回転座標系の位相と、電圧指令とに基づいて、電力変換回路10Aの二次側電圧をマスタ電圧指令に対応させることと、を実行するように構成されている。これにより、マスタトルク目標値に応じた第一回転磁界が発生する。
【0018】
電力変換装置5は、電力変換回路10Bと、スレーブ制御回路200とを有する。電力変換回路10Bは、電源9から供給される一次側電力を二次側電力に変換して一次側コイル61,62,63に供給する。スレーブ制御回路200が、マスタ制御回路100による電力変換回路10Aの制御と同様に電力変換回路10Bを制御すれば、トルク目標値(スレーブトルク目標値)に応じた第二回転磁界が発生する。
【0019】
これにより、一次側コイル51,52,53が発生する第一回転磁界と、一次側コイル61,62,63が発生する第二回転磁界とがそれぞれ回転子70に作用するので、電動機3から発生すべきトルクの大きさに対する個々の電力変換装置4,5の大きさの増大を抑えることができる。
【0020】
ここで、一次側コイル51,52,53と、一次側コイル61,62,63とは、同一の電動機3内に配置されるので、第一回転磁界と第二回転磁界とが相互に干渉し、これが回転子70の動作に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0021】
これに対し、電力変換装置5は、スレーブトルク目標値と、電動機3の回転速度とに基づいて、回転座標系(スレーブ回転座標系)の回転角に相当する位相を算出することと、マスタ回転座標系の位相に追従するようにスレーブ回転座標系の位相を補正することと、スレーブトルク目標値に基づいてスレーブ回転座標系における電圧指令(スレーブ電圧指令)を生成することと、補正されたスレーブ回転座標系の位相と、スレーブ電圧指令とに基づいて、電力変換回路10Bの二次側電圧をスレーブ電圧指令に対応させることと、を実行するように構成されている。
【0022】
これにより、第二回転磁界を第一回転磁界に同期させることができる。しかしながら、電動機3の回転速度が高くなるほど、マスタ回転座標系の位相の変化速度が高くなるので、マスタ回転座標系の位相の情報を高い精度で受信するのが難しくなる。
【0023】
これに対し、スレーブ制御回路200は、マスタ電圧指令のマスタ回転座標系における位相(以下、「マスタ電圧位相」という。)に基づいて、回転座標系の位相を補正するように構成されている。マスタ電圧位相は、マスタ回転座標系の位相自体を表す情報ではないが、マスタ電圧位相に基づき、マスタ回転座標系の位相に対するスレーブ回転座標系の位相のずれを把握することは可能である。このため、スレーブ回転座標系の位相の算出結果をマスタ回転座標系における電圧位相に基づき補正することで、マスタ回転座標系にスレーブ回転座標系を容易に追従させることができる。誘導電動機の回転速度が高くなっても、マスタ電圧位相の変化は大きくならない。このため、マスタ電圧位相に基づきスレーブ回転座標系の位相を補正することで、第二回転磁界を第一回転磁界に高い信頼性で同期させることができる。
【0024】
以下、電力変換装置4(マスタ装置)、及び電力変換装置5(スレーブ装置)の構成を詳細に例示する。なお、マスタ装置の説明においては、マスタトルク目標値を単に「トルク目標値」といい、マスタ回転座標系を単に「回転座標系」といい、マスタ電圧指令を単に「電圧指令」という。スレーブ装置の説明においては、スレーブトルク目標値を単に「トルク目標値」といい、スレーブ回転座標系を単に「回転座標系」といい、スレーブ電圧指令を単に「電圧指令」という。
【0025】
(マスタ装置)
電力変換回路10Aは、上述のように一次側電力を二次側電力に変換する限りいかなる回路であってもよい。例えば、一次側電力が直流電力である場合、電力変換回路10Aはインバータ回路であってもよい。インバータ回路は、複数のスイッチング素子のオン・オフによって、直流電力を交流電力に変換する。
【0026】
一次側電力が交流電力である場合、電力変換回路10Aは、整流回路又はPWMコンバータ回路と、インバータ回路とを組み合わせた回路であってもよい。整流回路は、ダイオードブリッジによって交流電力を直流電力に変換する。PWMコンバータ回路は、複数のスイッチング素子のオン・オフによって、交流電力を直流電力に変換する。
【0027】
電力変換回路10Aは、一次側電力から二次側電力への電力変換と、二次側電力から一次側電力への電力変換とを行うマトリクスコンバータ回路であってもよい。図2は、電力変換回路10Aがマトリクスコンバータ回路である場合の構成を例示する図である。
【0028】
図2に示す電力変換回路10Aは、一次側のパワーライン11R,11S,11Tと、二次側のパワーライン12U,12V,12Wと、9組の双方向スイッチ20RU,20SU,20TU,20RV,20SV,20TV,20RW,20SW,20TWとを有する。
【0029】
パワーライン11Rは一次側電力のR相の送電ラインであり、パワーライン11Sは一次側電力のS相の送電ラインであり、パワーライン11Tは一次側電力のT相の送電ラインである。パワーライン12Uは二次側電力のU相の送電ラインであり、パワーライン12Vは二次側電力のV相の送電ラインであり、パワーライン12Wは二次側電力のW相の送電ラインである。
【0030】
双方向スイッチ20RU,20SU,20TU,20RV,20SV,20TV,20RW,20SW,20TWのそれぞれは、一次側から二次側に電流を流す状態と、二次側から一次側に電流を流す状態と、電流を流さない状態との3状態を切り替える。双方向スイッチ20RUは、パワーライン11Rとパワーライン12Uとの間に介在し、パワーライン11Rからパワーライン12Uに電流を流す第1オン状態と、パワーライン12Uからパワーライン11Rに電流を流す第2オン状態と、電流を流さない双方向オフ状態とを切り替える。双方向スイッチ20SUは、パワーライン11Sとパワーライン12Uとの間に介在し、パワーライン11Sからパワーライン12Uに電流を流す第1オン状態と、パワーライン12Uからパワーライン11Sに電流を流す第2オン状態と、電流を流さない双方向オフ状態とを切り替える。双方向スイッチ20TUは、パワーライン11Tとパワーライン12Uとの間に介在し、パワーライン11Tからパワーライン12Uに電流を流す第1オン状態と、パワーライン12Uからパワーライン11Tに電流を流す第2オン状態と、電流を流さない双方向オフ状態とを切り替える。
【0031】
双方向スイッチ20RVは、パワーライン11Rとパワーライン12Vとの間に介在し、パワーライン11Rからパワーライン12Vに電流を流す第1オン状態と、パワーライン12Vからパワーライン11Rに電流を流す第2オン状態と、電流を流さない双方向オフ状態とを切り替える。双方向スイッチ20SVは、パワーライン11Sとパワーライン12Vとの間に介在し、パワーライン11Sからパワーライン12Vに電流を流す第1オン状態と、パワーライン12Vからパワーライン11Sに電流を流す第2オン状態と、電流を流さない双方向オフ状態とを切り替える。双方向スイッチ20TVは、パワーライン11Tとパワーライン12Vとの間に介在し、パワーライン11Tからパワーライン12Vに電流を流す第1オン状態と、パワーライン12Vからパワーライン11Tに電流を流す第2オン状態と、電流を流さない双方向オフ状態とを切り替える。
【0032】
双方向スイッチ20RWは、パワーライン11Rとパワーライン12Wとの間に介在し、パワーライン11Rからパワーライン12Wに電流を流す第1オン状態と、パワーライン12Wからパワーライン11Rに電流を流す第2オン状態と、電流を流さない双方向オフ状態とを切り替える。双方向スイッチ20SWは、パワーライン11Sとパワーライン12Wとの間に介在し、パワーライン11Sからパワーライン12Wに電流を流す第1オン状態と、パワーライン12Wからパワーライン11Sに電流を流す第2オン状態と、電流を流さない双方向オフ状態とを切り替える。双方向スイッチ20TWは、パワーライン11Tとパワーライン12Wとの間に介在し、パワーライン11Tからパワーライン12Wに電流を流す第1オン状態と、パワーライン12Wからパワーライン11Tに電流を流す第2オン状態と、電流を流さない双方向オフ状態とを切り替える。
【0033】
図3に例示するように、双方向スイッチ20RU,20SU,20TU,20RV,20SV,20TV,20RW,20SW,20TWは、2個のスイッチ21,22を有する。スイッチ21は、オン状態において、二次側から一次側への電流を通さずに一次側から二次側に電流を通す。スイッチ22は、オン状態において、一次側から二次側への電流を通さずに二次側から一次側に電流を通す。また、スイッチ21、22は、オフ状態では、上記オン状態の通流方向とは逆方向の電圧印加に対してオフ状態を維持できる逆阻止能力をもつスイッチである。
【0034】
双方向スイッチ20RU,20SU,20TU,20RV,20SV,20TV,20RW,20SW,20TWは、スイッチ21をオン状態としてスイッチ22をオフ状態とすることで上記第1オン状態となり、スイッチ21をオフ状態としてスイッチ22をオン状態とすることで上記第2オン状態となり、スイッチ21,22をオフ状態とすることで上記双方向オフ状態となる。
【0035】
なお、図3において、双方向スイッチ20RU,20SU,20TU,20RV,20SV,20TV,20RW,20SW,20TWは、逆阻止能力のないスイッチ21,22のそれぞれに直列に接続されたダイオードを含んだ構成であってもよい。この場合、スイッチ21とダイオードとの接続点と、スイッチ22とダイオードとの接続点とが接続されていてもよい。
【0036】
図2に戻り、フィルタ30は、一次側電力における電圧又は電流の高調波成分を低減させる。例えばフィルタ30は、インダクタ31R,31S,31Tと、コンデンサ34R,34S,34Tとを有する。インダクタ31R,31S,31Tは、パワーライン11R,11S,11Tにそれぞれ設けられている。
【0037】
コンデンサ34Rは、インダクタ31Rよりも二次側において(インダクタ31Rと双方向スイッチ20RU,20RV,20RWとの間において)パワーライン11Rと中性点35との間に設けられている。コンデンサ34Sは、インダクタ31Sよりも二次側において(インダクタ31Sと双方向スイッチ20SU,20SV,20SWとの間において)パワーライン11Sと中性点35との間に設けられている。コンデンサ34Tは、インダクタ31Tよりも二次側において(インダクタ31Tと双方向スイッチ20TU,20TV,20TWとの間において)パワーライン11Tと中性点35との間に設けられている。
【0038】
電流センサ40は、二次側電力における電流(マトリクスコンバータ回路10と電動機3との間に流れる電流)の瞬時値を検出する。例えば電流センサ40は、パワーライン12U,12V,12Wの電流の瞬時値を検出する。以下、二次側電力における電流を「二次側電流」という。また、二次側電力における電圧を「二次側電圧」という。
【0039】
電流センサ40は、パワーライン12U,12V,12Wの全相の二次側電流値を検出するように構成されていてもよいし、パワーライン12U,12V,12Wのいずれか2相の二次側電流値を検出するように構成されていてもよい。零相電流が生じない限り、U相、V相、及びW相の電流値の合計はゼロなので、2相の二次側電流値を検出する場合にも全相の二次側電流値の情報が得られる。
【0040】
マスタ制御回路100は、所定の制御サイクルで、上述した電力変換回路10Aの制御を繰り返し実行する。図4に示すように、マスタ制御回路100は、機能上の構成として、トルク目標値算出部111と、位相算出部112と、電流情報取得部113と、電圧指令生成部114と、PWM制御部115と、マスタ情報出力部116とを有する。
【0041】
トルク目標値算出部111は、速度指令値ωtと、速度フィードバック値ωmとに基づいてトルク目標値を算出する。例えばトルク目標値算出部111は、加え合わせ点P01で示されるように速度指令値ωtと速度フィードバック値ωmとの偏差(速度偏差)を算出し、伝達ブロックB01で示されるように、速度偏差に比例演算、比例・積分演算、又は比例・積分・微分演算を施してトルク目標値Ttを算出する。速度フィードバック値ωmは、センサにより検出された値であってもよく、センサレスで算出される推定値であってもよい。マスタ制御回路100は、電力変換装置4の外部からトルク目標値を取得してもよい。
【0042】
位相算出部112(マスタ位相算出部)は、トルク目標値Ttと、電動機3の回転速度(上記速度フィードバック値ωm)とに基づいて、回転座標系の位相(座標位相θdq_ab)を算出する。回転座標系は、第一回転磁界をそれ(回転座標系)に同期させて回転する座標系である。例えば回転座標系は、回転子70の回転中心軸に交差するd軸及びq軸を有するdq座標系である。d軸及びq軸は互いに垂直な座標軸である。位相算出部112は、トルク目標値Ttと、速度フィードバック値ωmとに基づいて、回転座標系の回転角の微分値に相当する角周波数指令値ωを算出し、角周波数指令値ωを積分して座標位相θdq_abを算出してもよい。座標位相θdq_abは、固定座標系であるab座標系に対するdq座標系の位相である。ab座標系は、回転子70の回転中心軸に交差するa軸及びb軸を有する。a軸及びb軸は互いに垂直な座標軸である。
【0043】
例えば位相算出部112は、伝達ブロックB11で示されるように、トルク目標値Ttに基づいて、回転子70に対する回転座標系の滑り角速度を算出し、加え合わせ点P11で示されるように、滑り角速度に速度フィードバック値ωmを加算して角周波数指令値ωを算出する。更に、位相算出部112は、伝達ブロックB12で示されるように、角周波数指令値ωを積分して座標位相θdq_abを算出する。
【0044】
位相算出部112は、回転座標系における電圧位相θv_dq(上記マスタ電圧位相)と、座標位相θdq_abとに基づいて、固定座標系における電圧位相θv_abを算出してもよい。電圧位相は、電圧指令を一つのベクトルで表した電圧指令ベクトルの位相である。例えば位相算出部112は、伝達ブロックB13で示されるように、一つ前の制御サイクルで算出済みの電圧指令値Vdt及び電圧指令値Vqtに基づいて、電圧位相θv_dqを算出する。電圧指令値Vdtは電圧指令ベクトルのd軸成分であり、電圧指令値Vqtは電圧指令ベクトルのq軸成分である。位相算出部112は、加え合わせ点P12で示されるように、座標位相θdq_abに電圧位相θv_dqを加算して電圧位相θv_abを算出する。
【0045】
電流情報取得部113は、電力変換回路10Aの電流センサ40により検出された電流フィードバック値Iu,Iv,Iwに基づいて、電流フィードバック値Id,Iqを算出する。電流フィードバック値Iuはパワーライン12Uの電流検出値であり、電流フィードバック値Ivはパワーライン12Vの電流検出値であり、電流フィードバック値Iwはパワーライン12Wの電流検出値である。電流フィードバック値Idは、電流フィードバック値Iu,Iv,Iwを一つのベクトルで表した電流ベクトルのd軸成分であり、電流フィードバック値Iqは電流ベクトルのq軸成分である。
【0046】
例えば電流情報取得部113は、伝達ブロックB21で示されるように、電流フィードバック値Iu,Iv,Iwに3相、2相変換を施すことによって、電流フィードバック値Ia及び電流フィードバック値Ibを算出する。電流フィードバック値Iaは、電流ベクトルのa軸成分であり、電流フィードバック値Ibは、電流ベクトルのb軸成分である。電流情報取得部113は、伝達ブロックB22で示されるように、電流フィードバック値Ia,Ibに座標位相θdq_abによる回転変換を施して電流フィードバック値Id,Iqを算出する。
【0047】
電圧指令生成部114(マスタ電圧指令生成部)は、トルク目標値Ttに基づいて回転座標系における電圧指令を生成する。例えば電圧指令生成部114は、伝達ブロックB31で示されるように、所定の磁束目標値ΦtにゲインK1を乗算して電流目標値Idtを算出し、伝達ブロックB32で示されるように、トルク目標値TtにゲインK2を乗算して電流目標値Iqtを算出する。電流目標値Idtは、電流指令を一つのベクトルで表した電流指令ベクトルのd軸成分であり、電流目標値Iqtは電流指令ベクトルのq軸成分である。
【0048】
電圧指令生成部114は、電流目標値Idtに電流フィードバック値Idを追従させ、電流目標値Iqtに電流フィードバック値Iqを追従させるように電圧指令を生成する。例えば電圧指令生成部114は、加え合わせ点P31で示されるように、電流目標値Idtと電流フィードバック値Idとの偏差であるd軸電流偏差を算出し、伝達ブロックB33で示されるように、例えばd軸電流偏差に比例演算、比例・積分演算、又は比例・積分・微分演算を施して電圧指令値Vdtを算出する。また、電圧指令生成部114は、加え合わせ点P32で示されるように、電流目標値Iqtと電流フィードバック値Iqとの偏差であるq軸電流偏差を算出し、伝達ブロックB34で示されるように、例えばq軸電流偏差に比例演算、比例・積分演算、又は比例・積分・微分演算を施して電圧指令値Vqtを算出する。
【0049】
電圧指令生成部114は、伝達ブロックB35に示すように、電流目標値Idt,Iqt及び角周波数指令値ωに基づいて、d軸q軸間における電圧指令の非干渉化を行ってもよい。例えば、電圧指令生成部114は、電流目標値Iqt、等価漏れインダクタンスl(l=(L1*L2-M)/L2)及び角周波数指令値ωに基づき電圧指令値Vdtを補正し、V/fパターン及び角周波数指令値ωに基づき電圧指令値Vqtを補正することにより、d軸、q軸間の非干渉化を行ってもよい。インダクタンスL1は電動機3の一次インダクタンス、インダクタンスL2は電動機3の二次インダクタンスであり、インダクタンスMは電動機3の相互インダクタンスである。なお、電圧指令値Vqtの補正は電流目標値Idt、インダクタンスL1及び角周波数指令値ωにより行ってもよい。また、電圧指令生成部114は、上記非干渉化を行う際に、電流目標値Idt,Iqtに代えて電流フィードバック値Id,Iqを用いてもよい。
【0050】
PWM制御部115(マスタ制御部)は、回転座標系の座標位相θdq_abと、座標位相θdq_abにおける電圧指令とに基づいて、電力変換回路10Aの二次側電圧を電圧指令に対応させる。例えばPWM制御部115は、座標位相θdq_abと、電圧指令値Vdt,Vqtとに基づいて、二次側の各相(U相、V相、W相)の電圧指令を算出し、二次側の各相の電圧を電圧指令に対応させるように、電力変換回路10Aの双方向スイッチ20RU,20SU,20TU,20RV,20SV,20TV,20RW,20SW,20TWのオン・オフを切り替える。
【0051】
マスタ情報出力部116(位相情報出力部)は、回転座標系の位相に関する情報を電力変換装置5(スレーブ装置)のスレーブ制御回路200に出力する。例えばマスタ情報出力部116は、回転座標系における電圧位相θv_dqを示す信号をスレーブ制御回路200に出力する。一例として、マスタ情報出力部116は、電圧位相θv_dqを示すアナログ信号を送信チャンネルCH13からスレーブ制御回路200に出力する。
【0052】
上述したように、電圧指令値Vdt,Vqtは、トルク目標値Ttと、磁束目標値Φtと、電流フィードバック値Id,Iqとに基づき算出されている。また、電流フィードバック値Id,Iqは、電流フィードバック値Ia,Ibに座標位相θdq_abによる回転変換を行うことで算出されている。そこで、電圧指令値Vdt,Vqtは、座標位相θdq_abに基づいて算出されているともいえる。このため、回転座標系における電圧指令値Vdt,Vqtの位相である電圧位相θv_dqは、座標位相θdq_abに応じて変わることとなる。従って、電圧位相θv_dqは、座標位相θdq_abに関する値の一例だといえる。
【0053】
マスタ情報出力部116は、座標位相θdq_ab自体を示す信号を更にスレーブ制御回路200に出力してもよい。座標位相θdq_ab自体を示す信号として、マスタ情報出力部116は、座標位相θdq_abの正弦値と、座標位相θdq_abの余弦値とをスレーブ制御回路200に出力してもよい。一例として、マスタ情報出力部116は、伝達ブロックB51に示されるように座標位相θdq_abの正弦値を算出し、算出結果を示すアナログ信号を送信チャンネルCH11からスレーブ制御回路200に出力する。また、マスタ情報出力部116は、伝達ブロックB52に示されるように座標位相θdq_abの余弦値を算出し、算出結果を示すアナログ信号を送信チャンネルCH12からスレーブ制御回路200に出力する。
【0054】
マスタ情報出力部116は、トルク目標値Ttを更にスレーブ制御回路200に出力してもよい。例えばマスタ情報出力部116は、トルク目標値Ttを示すアナログ信号を送信チャンネルCH14からスレーブ制御回路200に出力する。
【0055】
なお、以上においては、マスタ情報出力部116が、電圧位相θv_dq、座標位相θdq_abの正弦値、座標位相θdq_abの余弦値、及びトルク目標値Ttを示すアナログ信号をスレーブ制御回路200に出力する例を示したが、マスタ情報出力部116は、これらの情報をデジタル通信によりスレーブ制御回路200に送信してもよい。
【0056】
(スレーブ装置)
電力変換回路10Bは、上述のように一次側電力を二次側電力に変換する限りいかなる回路であってもよい。例えば、一次側電力が直流電力である場合、電力変換回路10Bはインバータ回路であってもよい。一次側電力が直流電力である場合、電力変換回路10Bは、整流回路又はPWMコンバータ回路と、インバータ回路とを組み合わせた回路であってもよい。電力変換回路10Bは、マトリクスコンバータ回路であってもよい。電力変換回路10Bの具体的な構成は、電力変換回路10Aと共通であるため、更に詳細な説明は省略する。
【0057】
スレーブ制御回路200は、所定の制御サイクルで、上述した電力変換回路10Bの制御を繰り返し実行する。図5に示すように、スレーブ制御回路200は、機能上の構成として、マスタ情報取得部211と、トルク目標値算出部212と、位相算出部213と、位相補正部214と、電流情報取得部215と、電圧指令生成部216と、PWM制御部217とを有する。
【0058】
マスタ情報取得部211は、マスタ回転座標系の位相に関する情報を電力変換装置4(マスタ装置)のマスタ制御回路100から取得する。例えばマスタ情報取得部211は、マスタ回転座標系における電圧位相θv_dqをマスタ制御回路100から取得する。以下、マスタ制御回路100から取得した電圧位相θv_dqを、スレーブ制御回路200が算出する電圧位相θv_dqと区別するために、「マスタ電圧位相θmv_dq」という。一例として、マスタ情報取得部211は、マスタ電圧位相θmv_dqを示すアナログ信号を、上記送信チャンネルCH13に接続された受信チャンネルCH23から取得する。
【0059】
マスタ情報取得部211は、マスタ回転座標系の位相であるマスタ座標位相θmdq_ab自体を示す信号をマスタ制御回路100から取得してもよい。マスタ座標位相θmdq_ab自体を示す信号として、マスタ情報取得部211は、マスタ座標位相θmdq_abの正弦値と、マスタ座標位相θmdq_abの余弦値とを電力変換装置4から取得してもよい。一例として、マスタ情報取得部211は、マスタ座標位相θmdq_abの正弦値を示すアナログ信号を、上記送信チャンネルCH11に接続された受信チャンネルCH21から取得し、マスタ座標位相θmdq_abの余弦値を示すアナログ信号を、上記送信チャンネルCH12に接続された受信チャンネルCH22から取得する。マスタ情報取得部211は、伝達ブロックB101で示されるように、マスタ座標位相θmdq_abの正弦値と、マスタ座標位相θmdq_abの余弦値とに基づいてマスタ座標位相θmdq_abを算出する。
【0060】
なお、マスタ情報出力部116による情報の出力から、マスタ情報取得部211による情報の取得までに、通信遅れ等に起因する遅れが生じる場合がある。この場合、マスタ情報取得部211は、角周波数指令と、遅れ時間とに基づいて、マスタ座標位相θmdq_abに遅れ補償を行ってもよい。
【0061】
マスタ情報取得部211は、マスタトルク目標値Tmtを更にマスタ制御回路100から取得してもよい。例えばマスタ情報取得部211は、マスタトルク目標値Tmtを示すアナログ信号を、上記送信チャンネルCH14に接続された受信チャンネルCH24から取得する。
【0062】
トルク目標値算出部212は、マスタ制御回路100におけるトルク目標値に対応するトルク目標値Ttを算出する。例えばトルク目標値算出部212は、マスタ情報取得部211が取得したマスタトルク目標値Tmtを、スレーブ制御回路200におけるトルク目標値Ttとする。トルク目標値算出部212は、速度指令値ωtと速度フィードバック値ωmとに基づいてトルク目標値Ttを補正してもよい。例えばトルク目標値算出部212は、加え合わせ点P111で示されるように速度指令値ωtと速度フィードバック値ωmとの偏差(速度偏差)を算出し、伝達ブロックB111で示されるように、速度偏差に比例演算を施して補正値を算出し、加え合わせ点P112で示されるように、補正値を加算してトルク目標値Ttを補正してもよい。またトルク目標値算出部212は速度指令値ωtにバイアス値ωbを加算した速度制限目標値ωlimと速度フィードバック値ωmとの偏差に基づいてトルク制限値Tlimを算出し、トルク目標値Ttとトルク制限値Tlimのうち小さい方をトルク目標値Ttとしてもよい。
【0063】
位相算出部213(スレーブ位相算出部)は、トルク目標値Ttと、電動機3の回転速度(上記速度フィードバック値ωm)とに基づいて、回転座標系の位相(座標位相θdq_ab)を算出する。回転座標系は、第二回転磁界をそれ(回転座標系)に同期させて回転する座標系である。例えば回転座標系は、回転子70の回転中心軸に交差するd軸及びq軸を有するdq座標系である。d軸及びq軸は互いに垂直な座標軸である。
【0064】
位相算出部213は、トルク目標値Ttと、速度フィードバック値ωmとに基づいて、回転座標系の角周波数指令値ωを算出し、角周波数指令値ωを積分して座標位相θdq_abを算出してもよい。例えば位相算出部213は、伝達ブロックB121で示されるように、トルク目標値Ttに基づいて、回転座標系に対する回転子70の滑り角速度を算出し、加え合わせ点P121で示されるように、滑り角速度に速度フィードバック値ωmを加算して角周波数指令値ωを算出する。更に、位相算出部213は、伝達ブロックB122で示されるように、角周波数指令値ωを積分して座標位相θdq_abを算出する。
【0065】
位相算出部213は、回転座標系における電圧位相θv_dqと、座標位相θdq_abとに基づいて、固定座標系における電圧位相θv_abを算出してもよい。例えば位相算出部213は、伝達ブロックB123で示されるように、一つ前の制御サイクルで算出済みの電圧指令値Vdt及び電圧指令値Vqtに基づいて、電圧位相θv_dqを算出する。電圧指令値Vdtは電圧指令ベクトルのd軸成分であり、電圧指令値Vqtは電圧指令ベクトルのq軸成分である。位相算出部213は、加え合わせ点P122で示されるように、座標位相θdq_abに電圧位相θv_dqを加算して電圧位相θv_abを算出する。
【0066】
位相補正部214は、マスタ回転座標系の位相に追従するように回転座標系の座標位相θdq_abを補正する。位相補正部214は、マスタ電圧指令のマスタ回転座標系における位相であるマスタ電圧位相θmv_dqに基づいて、回転座標系の位相を補正する。例えば位相補正部214は、マスタ電圧位相θmv_dqと、算出済みの電圧指令の回転座標系における位相である電圧位相θv_dqとの差に基づいて回転座標系の位相を補正する。
【0067】
位相補正部214は、マスタ電圧位相θmv_dqに基づいて、角周波数指令値ωを補正してもよい。この場合、位相補正部214は、補正された角周波数指令値ωを積分することで補正後の座標位相θdq_abを算出してもよい。
【0068】
位相補正部214は、回転座標系の回転速度(角周波数指令値ω)が第一帯域内である場合には、マスタ回転座標系のマスタ座標位相θmdq_abに基づいて座標位相θdq_abを補正し、回転座標系の回転速度が第一帯域よりも高い第二帯域内である場合には、マスタ電圧指令のマスタ回転座標系における位相であるマスタ電圧位相θmv_dqに基づいて、座標位相θdq_abを補正してもよい。例えば位相補正部214は、回転座標系の回転速度が第一帯域内である場合には、マスタ座標位相θmdq_abと座標位相θdq_abとの差である第一偏差に基づいて座標位相θdq_abを補正し、回転座標系の回転速度が第二帯域内である場合には、マスタ電圧位相θmv_dqと、電圧位相θv_dqとの差である第二偏差に基づいて座標位相θdq_abを補正する。
【0069】
位相補正部214は、回転座標系の回転速度が第一帯域と第二帯域との間の中間帯域内である場合には、第一偏差と、第二偏差との重み付け平均値に基づいて座標位相θdq_abを補正し、回転座標系の回転速度が中間帯域の下限から中間帯域の上限に近付くにつれて、第一偏差の重みを徐々に小さくし、第二偏差の重みを徐々に大きくしてもよい。
【0070】
位相補正部214は、回転座標系の回転速度が第一帯域内である場合には、第一偏差に基づいて角周波数指令値ωを補正し、回転座標系の回転速度が第二帯域内である場合には、第二偏差に基づいて角周波数指令値ωを補正してもよい。これらの場合、位相補正部214は、補正された角周波数指令値ωを積分することで補正後の座標位相θdq_abを算出してもよい。
【0071】
位相補正部214は、回転座標系の回転速度が第一帯域内である場合に、マスタ座標位相θmdq_abの正弦値と、マスタ座標位相θmdq_abの余弦値とに基づいて座標位相θdq_abを補正してもよい。例えば位相補正部214は、マスタ情報取得部211により算出されたマスタ座標位相θmdq_abに基づいて座標位相θdq_abを補正してもよい。
【0072】
一例として、位相補正部214は、加え合わせ点P131で示されるように、マスタ座標位相θmdq_abから座標位相θdq_abを減算して第一偏差を算出し、伝達ブロックB131で示されるように、第一偏差にゲインAK1を乗算して補正値AV1を算出する。また、位相補正部214は、加え合わせ点P132で示されるように、マスタ電圧位相θmv_dqから電圧位相θv_dqを減算して第二偏差を算出し、伝達ブロックB132で示されるように、第二偏差にゲインAK2を乗算して補正値AV2を算出する。更に、位相補正部214は、加え合わせ点P133で示されるように、補正値AV1,AV2を足し合わせ、伝達ブロックB133で示されるように、例えば補正値AV1,AV2の合計に比例演算、比例・積分演算、又は比例・積分・微分演算等を施して補正値AVを算出する。位相補正部214は、補正値AV1,AV2のそれぞれに比例演算、比例・積分演算、又は比例・積分・微分演算等を行った後に、演算結果を足し合わせて補正値AVを算出してもよい。
【0073】
位相補正部214は、加え合わせ点P134で示されるように、位相算出部213の伝達ブロックB121への入力前のトルク目標値Ttに補正値AVを加算する。トルク目標値Ttに補正値AVが加算されることによって、伝達ブロックB121を経て算出される角周波数指令値ωが補正されることとなる。
【0074】
ゲインAK1は、回転座標系の回転速度とゲインAK1の大きさとの関係を表すように予め定められた第一ゲインプロファイルと、回転座標系の回転速度とに基づいて定められる。第一ゲインプロファイルは、関数であってもよく、離散的な点列データであってもよい。例えば位相補正部214は、第一ゲインプロファイルにおいて、回転座標系の回転速度に対応するゲインAK1を抽出する。
【0075】
同様に、ゲインAK2は、回転座標系の回転速度とゲインAK2との関係を表すように予め定められた第二ゲインプロファイルと、回転座標系の回転速度とに基づいて定められる。第二ゲインプロファイルは、関数であってもよく、離散的な点列データであってもよい。例えば位相補正部214は、第二ゲインプロファイルにおいて、回転座標系の回転速度に対応するゲインAK2を抽出する。
【0076】
図8の(a)は、第一ゲインプロファイルを例示するグラフであり、横軸が回転座標系の回転速度を示し、縦軸がゲインAK1の大きさを示している。図8の(b)は、第二ゲインプロファイルを例示するグラフであり、横軸が回転座標系の回転速度を示し、縦軸がゲインAK2の大きさを示している。
【0077】
図8において、ゲインAK1は、回転座標系の回転速度が第一閾値ω1以下の第一帯域内である場合に1とされ、回転座標系の回転速度が第一閾値ω1よりも大きい第二閾値ω2以上の第二帯域内である場合にゼロとされる。第一閾値ω1と第二閾値ω2との間の中間帯域内においては、第一閾値ω1から第二閾値ω2に近付くにつれてゲインAK1は1からゼロに徐々に変化する。
【0078】
一方、ゲインAK2は、回転座標系の回転速度が第一帯域内である場合にゼロとされ、回転座標系の回転速度が第二帯域内である場合に1とされる。中間帯域内においては、第一閾値ω1から第二閾値ω2に近付くにつれてゲインAK2はゼロから1に徐々に変化する。
【0079】
以上の構成によれば、回転座標系の回転速度が第一帯域内である場合には、補正値AVが第一偏差に基づいて算出され、回転座標系の回転速度が第二帯域内である場合には、補正値AVが第二偏差に基づいて算出される。回転座標系の回転速度が中間帯域内である場合には、第一偏差と第二偏差との重み付け平均値に基づいて補正値AVが算出され、回転座標系の回転速度が中間帯域の下限から中間帯域の上限に近付くにつれて、第一偏差の重みが徐々に小さくなり、第二偏差の重みを徐々に大きくなる。
【0080】
図5に戻り、電流情報取得部215は、電力変換回路10Bの電流センサ40により検出された電流フィードバック値Iu,Iv,Iwに基づいて、電流フィードバック値Id,Iqを算出する。例えば電流情報取得部215は、伝達ブロックB141で示されるように、電流フィードバック値Iu,Iv,Iwに3相、2相変換を施すことによって、電流フィードバック値Ia及び電流フィードバック値Ibを算出する。伝達ブロックB142で示されるように、補正された座標位相θdq_abによる回転変換を電流フィードバック値Ia,Ibに施して電流フィードバック値Id,Iqを算出する。
【0081】
電圧指令生成部216(スレーブ電圧指令生成部)は、トルク目標値Ttに基づいて回転座標系における電圧指令を生成する。例えば電圧指令生成部216は、伝達ブロックB151で示されるように、所定の磁束目標値ΦtにゲインK1を乗算して電流目標値Idtを算出し、伝達ブロックB152で示されるように、トルク目標値TtにゲインK2を乗算して電流目標値Iqtを算出する。
【0082】
電圧指令生成部216は、電流目標値Idtに電流フィードバック値Idを追従させ、電流目標値Iqtに電流フィードバック値Iqを追従させるように電圧指令を生成する。例えば電圧指令生成部216は、加え合わせ点P151で示されるように、電流目標値Idtと電流フィードバック値Idとの偏差であるd軸電流偏差を算出し、伝達ブロックB153で示されるように、例えばd軸電流偏差に比例演算、比例・積分演算、又は比例・積分・微分演算を施して電圧指令値Vdtを算出する。
【0083】
また、電圧指令生成部216は、加え合わせ点P152で示されるように、電流目標値Iqtと電流フィードバック値Iqとの偏差であるq軸電流偏差を算出し、伝達ブロックB154で示されるように、例えばq軸電流偏差に比例演算、比例・積分演算、又は比例・積分・微分演算を施して電圧指令値Vqtを算出する。
【0084】
電圧指令生成部216は、伝達ブロックB155に示すように、電流目標値Idt,Iqt及び角周波数指令値ωに基づいて、d軸q軸間における電圧指令の非干渉化を行ってもよい。例えば、電圧指令生成部216は、電流目標値Iqt、等価漏れインダクタンスl(l=(L1*L2-M)/L2)及び角周波数指令値ωに基づき電圧指令値Vdtを補正し、V/fパターン及び角周波数指令値ωに基づき電圧指令値Vqtを補正することによりd軸、q軸間の非干渉化を行ってもよい。また、電圧指令生成部216は、上記非干渉化を行う際に、電流目標値Idt,Iqtに代えて電流フィードバック値Id,Iqを用いてもよい。
【0085】
このように、電力変換装置5においても、電圧指令値Vdt,Vqtは、トルク目標値Ttと、磁束目標値Φtと、電流フィードバック値Id,Iqとに基づき算出されている。また、電流フィードバック値Id,Iqは、電流フィードバック値Ia,Ibに座標位相θdq_abによる回転変換を行うことで算出されている。
そこで、電圧指令値Vdt,Vqtは、座標位相θdq_abに基づいて算出されているともいえる。
【0086】
PWM制御部217は、補正された座標位相θdq_abと、座標位相θdq_abにおける電圧指令とに基づいて、電力変換回路10Bの二次側電圧を電圧指令に対応させる。例えばPWM制御部217は、補正された座標位相θdq_abと、電圧指令値Vdt,Vqtとに基づいて、二次側の各相(U相、V相、W相)の電圧指令を算出し、二次側の各相の電圧を電圧指令に対応させるように、電力変換回路10Bの双方向スイッチ20RU,20SU,20TU,20RV,20SV,20TV,20RW,20SW,20TWのオン・オフを切り替える。
【0087】
スレーブ制御回路200は、マスタ制御回路100との間の通信異常を検出するように構成されていてもよい。例えば図6に示すように、スレーブ制御回路200は、異常監視部220を有する。
【0088】
異常監視部220は、マスタ座標位相θmdq_abの正弦値の二乗とマスタ座標位相θmdq_abの余弦値の二乗との和が1から乖離する程度に基づいて、マスタ座標位相θmdq_abの正弦値及びマスタ座標位相θmdq_abの余弦値を取得するための通信経路(例えば送信チャンネルCH11,CH12と受信チャンネルCH21,CH22との間)の異常を検知してもよい。異常監視部220は、マスタ電圧位相θmv_dqが所定レベルよりも小さい場合に、マスタ電圧位相θmv_dqを取得するための通信経路(例えば送信チャンネルCH13と受信チャンネルCH23との間)の異常を検知してもよい。
【0089】
例えば異常監視部220は、二乗和算出部221と、断線検知部222とを有する。二乗和算出部221は、マスタ座標位相θmdq_abの正弦値の二乗と、マスタ座標位相θmdq_abの余弦値の二乗との和を算出する。断線検知部222は、二乗和算出部221による算出結果の1からの乖離が所定の閾値を超えた場合に、送信チャンネルCH11,CH12と受信チャンネルCH21,CH22との間の断線を検知する。断線検知部222は、マスタ電圧位相θmv_dqが所定レベルより小さい場合に、送信チャンネルCH13と受信チャンネルCH23との間の断線を検知する。
【0090】
異常監視部220は、マスタトルク目標値Tmtを取得するための通信経路(例えば送信チャンネルCH14と受信チャンネルCH24との間)の異常を更に検知するように構成されていてもよい。例えば異常監視部220は、回転座標系の回転速度が第一帯域内である場合に、マスタトルク目標値Tmtを取得するための通信経路の異常を第一偏差に基づいて検知し、回転座標系の回転速度が第二帯域内である場合に、マスタトルク目標値Tmtを取得するための通信経路の異常を第二偏差に基づいて検知する。回転座標系の回転速度が中間帯域内である場合、異常監視部220は、マスタトルク目標値Tmtを取得するための通信経路の異常を、第一偏差と第二偏差との上記重み付け平均値に基づいて検知してもよい。
【0091】
例えば断線検知部222は、回転座標系の回転速度が第一帯域内であり、第一偏差が所定レベルを超えている場合に、送信チャンネルCH14と受信チャンネルCH24との間の断線を検知する。また、断線検知部222は、回転座標系の回転速度が第二帯域内であり、第二偏差が所定レベルを超えている場合に、送信チャンネルCH14と受信チャンネルCH24との間の断線を検知する。
【0092】
また、断線検知部222は、回転座標系の回転速度が中間帯域内であり、第一偏差と第二偏差との重み付け平均値が所定レベルを超えている場合に、送信チャンネルCH14と受信チャンネルCH24との間の断線を検知する。一例として、断線検知部222は、補正値AVが所定レベルを超えている場合に、送信チャンネルCH14と受信チャンネルCH24との間の断線を検知する。
【0093】
以上、電力変換装置4,5の構成を個別に説明したが、電力変換装置4,5のそれぞれは、ユーザの設定により、マスタ装置及びスレーブ装置のいずれとしても機能し得るように構成されていてもよい。この場合、電力変換装置4,5の構成に区別はなくなるが、便宜上、マスタ装置としても利用可能な電力変換装置5の構成を例示する。
【0094】
図7に示すように、マスタ装置としても利用可能な電力変換装置5は、マスタ情報出力部116と、モード選択部311とを更に備える。モード選択部311は、モード選択入力(例えば入力デバイス等へのユーザ入力)に基づいて、マスタモードと、スレーブモードとのいずれかを選択する。マスタモードが選択されている場合、電力変換装置5はマスタ装置として機能する。スレーブモードが選択されている場合、電力変換装置5はスレーブ装置として機能する。
【0095】
例えば、マスタモードが選択されている場合、モード選択部311は、マスタ情報取得部211及び位相補正部214の機能を無効化する。位相補正部214の機能が無効化されることによって、PWM制御部217は、補正されていない座標位相θdq_abと、電圧指令とに基づいて、電力変換回路10Bの二次側電圧を電圧指令に対応させることとなる。また、モード選択部311は、マスタトルク目標値Tmtに基づくことなく、トルク目標値算出部111によるトルク目標値Ttの算出方式と同じ方式でトルク目標値算出部212にトルク目標値を算出させる。更に、モード選択部311は、マスタ情報出力部116の機能を有効化する。マスタ情報出力部116は、座標位相θdq_abに関する情報、及びトルク目標値Ttをスレーブ装置に出力する。
【0096】
スレーブモードが選択されている場合、モード選択部311は、トルク目標値算出部111及び位相補正部214の機能を有効化し、マスタトルク目標値Tmtに基づく上述の算出方式でトルク目標値算出部212にトルク目標値Ttを算出させる。位相補正部214の機能が有効化されることによって、PWM制御部217は、補正された座標位相θdq_abと、電圧指令とに基づいて電力変換回路10Bの二次側電圧を電圧指令に対応させることとなる。
【0097】
(制御システム2のハードウェア構成)
図9は、制御システム2のハードウェア構成を例示する模式図である。図9に示すように、マスタ制御回路100は、一つ又は複数のプロセッサ191と、メモリ192と、ストレージ193と、入出力ポート194と、スイッチング制御回路195と、通信ポート196とを含む。ストレージ193は、例えば不揮発性の半導体メモリ等、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を有する。ストレージ193は、トルク目標値と、電動機3の回転速度とに基づいて、回転座標系(マスタ回転座標系)の位相を算出することと、マスタトルク目標値に基づいてマスタ回転座標系における電圧指令(マスタ電圧指令)を生成することと、マスタ回転座標系の位相と、電圧指令とに基づいて、電力変換回路10Aの二次側電圧をマスタ電圧指令に対応させることと、をマスタ制御回路100に実行させるプログラムを記憶している。例えばストレージ193は、上述した機能上の各部をマスタ制御回路100に構成させるためのプログラムを記憶している。
【0098】
メモリ192は、ストレージ193の記憶媒体からロードしたプログラム及びプロセッサ191による演算結果を一時的に記憶する。プロセッサ191は、メモリ192と協働して上記プログラムを実行することで、マスタ制御回路100の機能上の各部を構成する。入出力ポート194は、プロセッサ191からの指令に従って、電流センサ40との間で電気信号の入出力を行う。スイッチング制御回路195は、プロセッサ191からの指令に従って、電力変換回路10A内の複数のスイッチング素子のオン、オフを切り替えることにより、上記二次側電力を電動機3へ出力する。通信ポート196は、プロセッサ191からの指令に従って、スレーブ制御回路200との間で情報通信を行う。
【0099】
スレーブ制御回路200は、一つ又は複数のプロセッサ291と、メモリ292と、ストレージ293と、入出力ポート294と、スイッチング制御回路295と、通信ポート296とを含む。ストレージ293は、例えば不揮発性の半導体メモリ等、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を有する。ストレージ293は、所定の制御サイクルで、電力変換回路10Bの制御を繰り返し実行することをスレーブ制御回路200に実行させるプログラムを記憶している。例えばストレージ293は、上述した機能上の各部をスレーブ制御回路200に構成させるためのプログラムを記憶している。
【0100】
メモリ292は、ストレージ293の記憶媒体からロードしたプログラム及びプロセッサ291による演算結果を一時的に記憶する。プロセッサ291は、メモリ292と協働して上記プログラムを実行することで、スレーブ制御回路200の機能上の各部を構成する。入出力ポート294は、プロセッサ291からの指令に従って、電流センサ40との間で電気信号の入出力を行う。スイッチング制御回路295は、プロセッサ291からの指令に従って、電力変換回路10B内の複数のスイッチング素子のオン、オフを切り替えることにより、上記二次側電力を電動機3へ出力する。通信ポート296は、プロセッサ291からの指令に従って、マスタ制御回路100との間で情報通信を行う。
【0101】
なお、マスタ制御回路100は、必ずしもプログラムにより各機能を構成するものに限らない。例えばマスタ制御回路100は、専用の論理回路又はこれを集積したASIC(Application Specific Integrated Circuit)により少なくとも一部の機能を構成してもよい。
【0102】
〔制御手順〕
続いて、制御方法の一例として、マスタ制御回路100が実行するマスタ制御手順と、スレーブ制御回路200が実行するスレーブ制御手順とをそれぞれ例示する。
【0103】
(マスタ制御手順)
この手順は、トルク目標値と、電動機3の回転速度とに基づいて、回転座標系の位相を算出することと、トルク目標値に基づいて回転座標系における電圧指令を生成することと、回転座標系の位相と、電圧指令とに基づいて、電力変換回路の二次側電圧を前記電圧指令に対応させることと、回転座標系の位相に関する情報として、少なくとも回転座標系における電圧指令の位相をスレーブ制御回路200に出力することと、を含む。
【0104】
例えば図10に示すように、マスタ制御回路100は、ステップS01,S02,S03,S04,S05,S06を順に実行する。ステップS01では、トルク目標値算出部111が、速度指令値ωtと、速度フィードバック値ωmとに基づいてトルク目標値を算出する。
【0105】
ステップS02では、位相算出部112が、トルク目標値Ttと、電動機3の回転速度とに基づいて、座標位相θdq_abを算出する。位相算出部112は、回転座標系における電圧位相θv_dqと、座標位相θdq_abとに基づいて、固定座標系における電圧位相θv_abを算出してもよい。この場合、位相算出部112は、一つ前の制御サイクルにおいて算出済みの電圧指令値Vdt,Vqtの電圧位相θv_dqを用いる。ステップS02の具体的な手順については後述する。
【0106】
ステップS03では、電流情報取得部113が、電力変換回路10Aの電流センサ40により検出された電流フィードバック値Iu,Iv,Iwに基づいて、電流フィードバック値Id,Iqを算出する。例えば電流情報取得部113は、電流フィードバック値Iu,Iv,Iwに3相、2相変換を施すことによって、電流フィードバック値Ia及び電流フィードバック値Ibを算出し、電流フィードバック値Ia,Ibに座標位相θdq_abによる回転変換を施して電流フィードバック値Id,Iqを算出する。ステップS04では、電圧指令生成部114が、トルク目標値Ttと、磁束目標値Φtと、電流フィードバック値Id,Iqとに基づき電圧指令を算出する。
【0107】
ステップS05では、マスタ情報出力部116が、電圧位相θv_dqと、座標位相θdq_abの正弦値と、座標位相θdq_abの余弦値と、トルク目標値Ttとをスレーブ制御回路200に出力する。
【0108】
ステップS06では、PWM制御部115が、電力変換回路10Aの二次側電圧を、ステップS04で新たに生成された電圧指令に対応させるように、電力変換回路10Aの双方向スイッチ20RU,20SU,20TU,20RV,20SV,20TV,20RW,20SW,20TWのスイッチングを開始する。その後、マスタ制御回路100は処理をステップS01に戻す。マスタ制御回路100は、以上の手順を所定の制御周期で繰り返す。
【0109】
図11は、ステップS02における位相算出手順を例示するフローチャートである。図11に示すように、マスタ制御回路100は、ステップS11,S12,S13,S14,S15を順に実行する。ステップS11では、位相算出部112が、トルク目標値Ttに基づいて、回転子70に対する回転座標系の滑り角速度を算出する。ステップS12では、位相算出部112が、滑り角速度に速度フィードバック値ωmを加算して角周波数指令値ωを算出する。ステップS13では、位相算出部112が、角周波数指令値ωを積分して座標位相θdq_abを算出する。
【0110】
ステップS14では、位相算出部112が、一つ前の制御サイクルで算出済みの電圧指令値Vdt,Vqtに基づいて、回転座標系における電圧位相θv_dqを算出する。ステップS15では、位相算出部112が、座標位相θdq_abに電圧位相θv_dqを加算して、固定座標系における電圧位相θv_abを算出する。以上で位相算出手順が完了する。
【0111】
(スレーブ制御手順)
この手順は、トルク目標値と、電動機3の回転速度とに基づいて、回転座標系の位相を算出することと、マスタ回転座標系の位相に追従するように回転座標系の位相を補正することと、トルク目標値に基づいて回転座標系における電圧指令を生成することと、補正された回転座標系の位相と、電圧指令とに基づいて、電力変換回路の二次側電圧を電圧指令に対応させることと、を含み、マスタ装置が生成するマスタ電圧指令のマスタ回転座標系における位相に基づいて、回転座標系の位相を補正する。
【0112】
例えば図12に示すように、スレーブ制御回路200は、まずステップS21,S22を実行する。ステップS21では、マスタ情報取得部211が、座標位相θdq_abに関する情報として、少なくともマスタ回転座標系におけるマスタ電圧位相θmv_dqをマスタ制御回路100から取得する。マスタ情報取得部211は、マスタ座標位相θmdq_abの正弦値と、マスタ座標位相θmdq_abの余弦値とを更にマスタ制御回路100から取得してもよく、トルク目標値Ttを更にマスタ制御回路100から取得してもよい。
【0113】
ステップS22では、異常監視部220が、マスタ制御回路100との間の通信経路に断線がないかを確認する。例えば異常監視部220は、マスタ電圧位相θmv_dqが所定レベルよりも小さいか否かに基づいて、送信チャンネルCH13と受信チャンネルCH23との間の断線がないかを確認する。異常監視部220は、マスタ座標位相θmdq_abの正弦値の二乗とマスタ座標位相θmdq_abの余弦値の二乗との和が1から乖離する程度に基づいて、送信チャンネルCH11,CH12と受信チャンネルCH21,CH22との間に断線がないかを確認する。異常監視部220は、補正値AVの大きさに基づいて、送信チャンネルCH14と受信チャンネルCH24との間に断線がないかを確認する。
【0114】
ステップS22において、通信経路に断線はないと判定した場合、スレーブ制御回路200はステップS23,S24,S25,S26,S27,S28を実行する。ステップS23では、トルク目標値算出部212が、マスタトルク目標値Tmtに基づいて、トルク目標値Ttを算出する。ステップS24では、位相補正部214が、マスタ電圧位相θmv_dq及びマスタ座標位相θmdq_abに基づいて、位相算出部213への入力前のトルク目標値Ttを補正する。ステップS24の具体的手順については後述する。
【0115】
ステップS25では、位相算出部213が、補正されたトルク目標値Ttと、電動機3の回転速度とに基づいて、座標位相θdq_abを算出する。位相算出部213は、回転座標系における電圧位相θv_dqと、座標位相θdq_abとに基づいて、固定座標系における電圧位相θv_abを算出してもよい。この場合、位相算出部112は、一つ前の制御サイクルにおいて算出済みの電圧指令値Vdt,Vqtの電圧位相θv_dqを用いる。ステップS25の具体的な手順については後述する。
【0116】
ステップS26では、電流情報取得部215が、電力変換回路10Bの電流センサ40により検出された電流フィードバック値Iu,Iv,Iwに基づいて、電流フィードバック値Id,Iqを算出する。例えば電流情報取得部215は、電流フィードバック値Iu,Iv,Iwに3相、2相変換を施すことによって、電流フィードバック値Ia及び電流フィードバック値Ibを算出し、電流フィードバック値Ia,Ibに座標位相θdq_abによる回転変換を施して電流フィードバック値Id,Iqを算出する。
【0117】
ステップS27では、電圧指令生成部216が、トルク目標値Ttと、磁束目標値Φtと、電流フィードバック値Id,Iqとに基づき電圧指令を算出する。ステップS28では、PWM制御部217が、電力変換回路10Bの二次側電圧を、ステップS27で新たに生成された電圧指令に対応させるように、電力変換回路10Bの双方向スイッチ20RU,20SU,20TU,20RV,20SV,20TV,20RW,20SW,20TWのスイッチングを開始する。その後、スレーブ制御回路200は処理をステップS21に戻す。スレーブ制御回路200は、ステップS22において断線が検知されない限り、以上の手順を所定の制御周期で繰り返す。
【0118】
ステップS22において、通信経路に断線があると判定した場合、スレーブ制御回路200はステップS29を実行する。ステップS29では、PWM制御部217が、電動機3への二次側電流の供給を停止する。例えばPWM制御部217は、双方向スイッチ20RU,20SU,20TU,20RV,20SV,20TV,20RW,20SW,20TWのそれぞれを双方向オフ状態にし、電力変換回路10Bの制御を終了する。
【0119】
図13は、ステップS24におけるトルク目標値Ttの補正手順を例示するフローチャートである。図13に示すように、スレーブ制御回路200は、ステップS31,S32,S33,S34,S35を順に実行する。ステップS31では、位相補正部214が、マスタ座標位相θmdq_abから座標位相θdq_abを減算して第一偏差を算出する。この際に、位相補正部214は、前の制御サイクルで算出済みの座標位相θdq_abを用いる。ステップS32では、位相補正部214が、上述した第一ゲインプロファイルと、回転座標系の回転速度とに基づいてゲインAK1を算出する。
【0120】
ステップS33では、位相補正部214が、マスタ電圧位相θmv_dqから電圧位相θv_dqを減算して第二偏差を算出する。ステップS34では、位相補正部214が、上述した第二ゲインプロファイルと、回転座標系の回転速度とに基づいてゲインAK2を算出する。
【0121】
ステップS35では、位相補正部214が、ゲインAK1及びゲインAK2により、第一偏差と第二偏差との重み付け平均値を算出し、重み付け平均値に比例演算、比例・積分演算、又は比例・積分・微分演算等を施して補正値AVを算出する。上述したように、回転座標系の回転速度が第一帯域内である場合には、ゲインAK1が1でゲインAK2がゼロである。また、回転座標系の回転速度が第二帯域内である場合には、ゲインAK1がゼロでゲインAK2が1である。従って、回転座標系の回転速度が第一帯域内である場合には、実質的に第一偏差に基づいて補正値AVが算出され、回転座標系の回転速度が第二帯域内である場合には、実質的に第二偏差に基づいて補正値AVが算出され、回転座標系の回転速度が中間帯域内である場合には、第一偏差と第二偏差との重み付け平均値に基づいて補正値AVが算出される。ステップS36では、位相補正部214が、位相算出部213への入力前のトルク目標値Ttに補正値AVを加算する。以上でトルク目標値Ttの補正手順が完了する。
【0122】
図14は、ステップS25における位相算出手順を例示するフローチャートである。図14に示すように、スレーブ制御回路200は、ステップS41,S42,S43,S44,S45を順に実行する。ステップS41では、位相算出部213が、補正値AVが加算されたトルク目標値Ttに基づいて、回転子70に対する回転座標系の滑り角速度を算出する。ステップS42では、位相算出部213が、滑り角速度に速度フィードバック値ωmを加算して角周波数指令値ωを算出する。ステップS43では、位相算出部213が、角周波数指令値ωを積分して座標位相θdq_abを算出する。
【0123】
ステップS44では、位相算出部213が、一つ前の制御サイクルで算出済みの電圧指令値Vdt,Vqtに基づいて、回転座標系における電圧位相θv_dqを算出する。ステップS45では、位相算出部213が、座標位相θdq_abに電圧位相θv_dqを加算して、固定座標系における電圧位相θv_abを算出する。以上で位相算出手順が完了する。
【0124】
〔本実施形態の効果〕
以上に説明したように、電力変換装置5は、一次側電力を二次側電力に変換して誘導電動機に供給する電力変換回路10Bと、トルク目標値と、電動機3(誘導電動機)の回転速度とに基づいて、回転座標系の位相を算出する位相算出部213と、電力変換装置4(マスタ装置)における回転座標系であるマスタ回転座標系の位相に追従するように回転座標系の位相を補正する位相補正部214と、トルク目標値に基づいて回転座標系における電圧指令を生成する電圧指令生成部216と、補正された回転座標系の位相と、電圧指令とに基づいて、電力変換回路10Bの二次側電圧を電圧指令に対応させるPWM制御部217(制御部)と、を備え、位相補正部214は、電力変換装置4(マスタ装置)が生成するマスタ電圧指令のマスタ回転座標系における位相に基づいて、回転座標系の位相を補正する。
【0125】
電力変換装置5における回転座標系の位相を、マスタ回転座標系の位相に追従させることで、電力変換装置5が電動機3(誘導電動機)に発生させる回転磁界(第二回転磁界)を、電力変換装置4(マスタ装置)が電動機3に発生させる回転磁界(第一回転磁界)に同期させることができる。しかしながら、電動機3の回転速度が高くなるほど、マスタ回転座標系の位相の変化速度が高くなるので、マスタ回転座標系の位相の情報を高い精度で受信するのが難しくなる。
【0126】
これに対応し、本電力変換装置5によれば、電力変換装置4が生成するマスタ電圧指令のマスタ回転座標系における位相に基づいて回転座標系(以下、「スレーブ回転座標系」という。)の位相が補正される。
【0127】
マスタ回転座標系における電圧位相は、マスタ回転座標系の位相自体を表す情報ではないが、マスタ回転座標系における電圧位相に基づき、マスタ回転座標系の位相に対するスレーブ回転座標系の位相のずれを把握することは可能である。このため、スレーブ回転座標系の位相の算出結果をマスタ回転座標系における電圧位相に基づき補正することで、マスタ回転座標系にスレーブ回転座標系を容易に追従させることができる。
【0128】
電動機3の回転速度が高くなっても、マスタ電圧位相の変化は大きくならない。このため、マスタ回転座標系における電圧位相に基づきスレーブ回転座標系の位相を補正することで、第二回転磁界を第一回転磁界に高い信頼性で同期させることができる。したがって、電力変換装置5は、複数の電力変換装置がそれぞれ誘導電動機に発生する回転磁界を互いに同期させるのに有効である。
【0129】
位相補正部214は、回転座標系の回転速度が第一帯域内である場合には、マスタ回転座標系の位相に基づいて回転座標系の位相を補正し、回転座標系の回転速度が第一帯域よりも高い第二帯域内である場合には、マスタ電圧指令のマスタ回転座標系における位相に基づいて、回転座標系の位相を補正してもよい。
【0130】
回転座標系の回転速度が低くなると、マスタ電圧位相のばらつきが大きくなり、マスタ電圧位相に基づいてスレーブ回転座標系をマスタ回転座標系に追従させるのが難しくなる場合がある。これに対し、回転座標系の回転速度が第二帯域よりも低い第一帯域内である場合には、マスタ回転座標系の位相に基づいて回転座標系の位相を補正することで、マスタ電圧位相のばらつきの影響を抑制することができる。
【0131】
回転座標系の回転速度が低い場合には、マスタ回転座標系の位相の情報を高い精度で受信し易いので、マスタ回転座標系の位相に基づきスレーブ回転座標系の位相をマスタ回転座標系の位相に追従させることで、第二回転座標系を第一回転座標系に更に高い信頼性で同期させることができる。したがって、電力変換装置5は、複数の電力変換装置がそれぞれ電動機3に発生する回転磁界を互いに同期させるのに更に有効である。
【0132】
位相補正部214は、回転座標系の回転速度が第一帯域内である場合には、マスタ回転座標系の位相と回転座標系の位相との差である第一偏差に基づいて回転座標系の位相を補正し、回転座標系の回転速度が第二帯域内である場合には、マスタ電圧指令のマスタ回転座標系における位相と、電圧指令の回転座標系における位相との差である第二偏差に基づいて回転座標系の位相を補正してもよい。この場合、マスタ回転座標系の位相に基づく補正方式(以下、「第一補正方式」という。)と、マスタ電圧指令のマスタ回転座標系における位相に基づく補正方式(以下、「第二補正方式」という。)とを、偏差に基づき回転座標系の位相を補正する点において共通させることで、両方式の切り替えをスムーズに行うことができる。
【0133】
位相補正部214は、回転座標系の回転速度が第一帯域と第二帯域との間の中間帯域内である場合には、第一偏差と、第二偏差との重み付け平均値に基づいて回転座標系の位相を補正し、回転座標系の回転速度が中間帯域の下限から中間帯域の上限に近付くにつれて、第一偏差の重みを徐々に小さくし、第二偏差の重みを徐々に大きくしてもよい。この場合、第一補正方式及び第二補正方式の切り替えをよりスムーズに行うことができる。
【0134】
位相算出部213は、トルク目標値と、電動機3の回転速度とに基づいて、回転座標系の角周波数指令値を算出し、位相補正部214は、回転座標系の回転速度が第一帯域内である場合には、第一偏差に基づいて角周波数指令値を補正し、回転座標系の回転速度が第二帯域内である場合には、第二偏差に基づいて角周波数指令値を補正し、位相算出部213は、補正された角周波数指令値を積分して回転座標系の位相を算出してもよい。この場合、第一補正方式及び第二補正方式のいずれにおいても、より確実に、スレーブ回転座標系の位相をマスタ回転座標系の位相に追従させることができる。
【0135】
電力変換装置5は、マスタ回転座標系の位相の正弦値と、マスタ回転座標系の位相の余弦値とを電力変換装置4から取得するマスタ情報取得部211を更に備え、位相補正部214は、回転座標系の回転速度が第一帯域内である場合に、正弦値と余弦値とに基づいて回転座標系の位相を補正してもよい。
【0136】
マスタ回転座標系の位相は、0~360°までの漸増と、360°から0°への急減とを繰り返すので、360°近傍においては、マスタ回転座標系の位相の情報を高い精度で受信するのが難しくなる。これに対し、正弦値及び余弦値には、上記360°から0°への急減のような急激な変化が生じない。このため、マスタ回転座標系の位相を正弦値と余弦値とに分けて電力変換装置4から取得し、正弦値と余弦値とに基づいてマスタ回転座標系の位相を算出することで、マスタ回転座標系の位相情報をより高い信頼性で取得することができる。
【0137】
電力変換装置5は、正弦値の二乗と余弦値の二乗との和が1から乖離する程度に基づいて、正弦値及び余弦値を取得するための通信経路の異常を検知する異常監視部220を更に備えていてもよい。この場合、正弦値と余弦値との関係を利用して、正弦値及び余弦値を取得するための通信経路の異常を容易に検知することができる。
【0138】
マスタ情報取得部211は、マスタ電圧指令のマスタ回転座標系における位相を電力変換装置4から更に取得し、異常監視部220は、マスタ電圧指令のマスタ回転座標系における位相が所定レベルよりも小さい場合に、マスタ電圧指令のマスタ回転座標系における位相を取得するための通信経路の異常を検知してもよい。
【0139】
電動機3にトルクを発生させる限り、マスタ電圧指令のマスタ回転座標系における位相がゼロになることはない。このため、マスタ電圧指令のマスタ回転座標系における位相が所定レベルよりも小さいか否かに基づくことで、マスタ電圧指令のマスタ回転座標系における位相を取得するための通信経路の異常を容易に検知することができる。
【0140】
電力変換装置5は、マスタ装置におけるトルク目標値であるマスタトルク目標値に基づいて、トルク目標値を算出するトルク目標値算出部212を更に備え、位相算出部213は、トルク目標値算出部212により算出されたトルク目標値と、電動機3の回転速度とに基づいて、回転座標系の位相を算出してもよい。この場合、トルク目標値をマスタトルク目標値に近付けることで、より高い信頼性で第二回転磁界を第一回転磁界に同期させることができる。
【0141】
電力変換装置5は、マスタトルク目標値を取得するマスタ情報取得部211と、マスタトルク目標値を取得するための通信経路の異常を検知する異常監視部220と、を更に備え、異常監視部220は、回転座標系の回転速度が第一帯域内である場合には、マスタ回転座標系の位相と回転座標系の位相との差である第一偏差に基づいて通信経路の異常を検知し、回転座標系の回転速度が第二帯域内である場合には、マスタ電圧指令のマスタ回転座標系における位相と、電圧指令の回転座標系における位相との差である第二偏差に基づいて通信経路の異常を検知してもよい。
【0142】
マスタ電圧指令のマスタ回転座標系における位相と、回転座標系における電圧指令の位相との差の大きさは、マスタトルク目標値に基づきトルク目標値を補正するか否かによって大きく変わる。このため、マスタ電圧指令のマスタ回転座標系における位相と、回転座標系における電圧指令の位相との差に基づいて通信経路の異常を検知することで、マスタトルク目標値を取得するための通信経路の異常を容易に検知することができる。
【0143】
一次側電力及び二次側電力は交流電力であり、電力変換回路10Bは、一次側電力から二次側電力への電力変換と、二次側電力から一次側電力への電力変換とを行うマトリクスコンバータ回路であってもよい。マトリクスコンバータ回路においては、回転座標系の回転速度が低くなるにつれて、マスタ電圧位相のばらつきが大きくなる傾向が強い。そこで、回転座標系の回転速度が第二回転速度よりも低い第一回転速度である場合には、マスタ回転座標系の位相に基づいて回転座標系の位相を補正することがより有効である。
【0144】
以上、実施形態について説明したが、本開示は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0145】
1…駆動システム、2…制御システム、4…電力変換装置(マスタ装置)、5…電力変換装置(スレーブ装置)、10…マトリクスコンバータ回路、10A,10B…電力変換回路、51,52,53,61,62,63…一次側コイル、116…マスタ情報出力部(位相情報出力部)、211…マスタ情報取得部、212…トルク目標値算出部、213…位相算出部(スレーブ位相算出部)、214…位相補正部、216…電圧指令生成部(スレーブ電圧指令生成部)、217…PWM制御部、220…異常監視部、311…モード選択部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14