(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022013134
(43)【公開日】2022-01-18
(54)【発明の名称】履帯車両の自律走行制御方法、履帯車両のコントローラおよび履帯車両
(51)【国際特許分類】
E02F 9/20 20060101AFI20220111BHJP
G05D 1/02 20200101ALI20220111BHJP
【FI】
E02F9/20 Q
G05D1/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020115495
(22)【出願日】2020-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】505236469
【氏名又は名称】キャタピラー エス エー アール エル
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】安藤 博昭
(72)【発明者】
【氏名】定本 貴裕
【テーマコード(参考)】
2D003
5H301
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB01
2D003BA06
2D003BA07
2D003DA04
2D003DB03
2D003DB04
5H301BB02
5H301BB03
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301DD01
5H301DD06
5H301DD15
5H301FF11
5H301GG14
5H301GG16
5H301HH01
5H301HH02
(57)【要約】
【課題】履帯車両が斜面を走行した場合の履帯車両の予測滑落量を正確に計算することができ、予測滑落量に基づく自律走行制御が可能となる履帯車両の自律走行制御方法を提供する。
【解決手段】履帯車両の自律走行制御方法は、履帯車両の目標軌道を設定するステップと、目標軌道に基づいて履帯車両が斜面を走行した場合の履帯車両の予測滑落量を、履帯車両の重心位置、斜面の角度および斜面における履帯車両の走行方向を用いて計算するステップとを含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
履帯車両の目標軌道を設定するステップと、
前記目標軌道に基づいて前記履帯車両が斜面を走行した場合の前記履帯車両の予測滑落量を、前記履帯車両の重心位置、前記斜面の角度および前記斜面における前記履帯車両の走行方向を用いて計算するステップとを含む履帯車両の自律走行制御方法。
【請求項2】
前記目標軌道に基づいて前記履帯車両が前記斜面を走行することを許容するか否か前記予測滑落量を用いて判定するステップを含む、請求項1に記載の履帯車両の自律走行制御方法。
【請求項3】
前記目標軌道に沿って前記履帯車両を走行させるための前記走行方向の補正量を、前記予測滑落量を用いて計算するステップを含む、請求項1または2に記載の履帯車両の自律走行制御方法。
【請求項4】
前記履帯車両は、下部走行体と、前記下部走行体に旋回自在に支持された上部旋回体と、前記上部旋回体に揺動自在に装着された作業腕装置とを備え、
前記予測滑落量を計算するステップにおいて、前記下部走行体に対する前記上部旋回体の旋回角度と、前記上部旋回体に対する前記作業腕装置の揺動角度とを用いて、複数のタイムステップにおける前記重心位置を計算する、請求項1から3までのいずれかに記載の履帯車両の自律走行制御方法。
【請求項5】
履帯車両の目標軌道を設定する設定手段と、
前記目標軌道に基づいて前記履帯車両が斜面を走行した場合の前記履帯車両の予測滑落量を、前記履帯車両の重心位置、前記斜面の角度および前記斜面における前記履帯車両の走行方向を用いて計算する予測滑落量計算手段とを含む履帯車両のコントローラ。
【請求項6】
前記目標軌道に基づいて前記履帯車両が前記斜面を走行することを許容するか否か前記予測滑落量を用いて判定する判定手段を含む、請求項5に記載の履帯車両のコントローラ。
【請求項7】
前記目標軌道に沿って前記履帯車両を走行させるための前記走行方向の補正量を、前記予測滑落量を用いて計算する補正量計算手段を含む、請求項5または6に記載の履帯車両のコントローラ。
【請求項8】
前記履帯車両は、下部走行体と、前記下部走行体に旋回自在に支持された上部旋回体と、前記上部旋回体に揺動自在に装着された作業腕装置とを備え、
前記予測滑落量計算手段は、前記下部走行体に対する前記上部旋回体の旋回角度と、前記上部旋回体に対する前記作業腕装置の揺動角度とを用いて、複数のタイムステップにおける前記重心位置を計算する、請求項5から7までのいずれかに記載の履帯車両のコントローラ。
【請求項9】
請求項5から8までのいずれかに記載のコントローラを備える履帯車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、履帯車両の自律走行制御方法、履帯車両のコントローラおよび履帯車両に関する。
【背景技術】
【0002】
履帯車両の自律走行を制御する技術が開発されており、このような制御技術として、履帯車両が自律走行している際の履帯車両の座標を測定し、測定した履帯車両の座標と目標軌道における座標との偏差がゼロとなるように履帯車両の走行方向を補正する技術が知られている(たとえば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、油圧ショベルやブルドーザ等の履帯車両が使用される未整地の建設工事現場において、履帯車両が斜面(特に軟弱地盤の斜面)を走行する際には、履帯と土壌との間に滑りが生じ、履帯車両が滑落することがある。しかしながら、履帯車両の自律走行制御技術においては、履帯と土壌との間の滑りが想定されておらず、目標軌道に基づいて履帯車両が斜面を走行した場合に履帯車両が滑落し、履帯車両が転倒するおそれがある。また、履帯車両の滑落が考慮されていないと、履帯車両の走行方向を補正しても履帯車両の実際の軌道が目標軌道から外れてしまうという問題がある。
【0005】
上記事実に鑑みてなされた本発明の課題は、履帯車両が斜面を走行した場合の履帯車両の予測滑落量を正確に計算することができ、予測滑落量に基づく自律走行制御が可能となる履帯車両の自律走行制御方法、履帯車両のコントローラおよび履帯車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の局面は上記課題を解決するために以下の履帯車両の自律走行制御方法を提供する。すなわち、履帯車両の目標軌道を設定するステップと、前記目標軌道に基づいて前記履帯車両が斜面を走行した場合の前記履帯車両の予測滑落量を、前記履帯車両の重心位置、前記斜面の角度および前記斜面における前記履帯車両の走行方向を用いて計算するステップとを含む履帯車両の自律走行制御方法を本発明の第1の局面は提供する。
【0007】
本発明の履帯車両の自律走行制御方法は、前記目標軌道に基づいて前記履帯車両が前記斜面を走行することを許容するか否か前記予測滑落量を用いて判定するステップを含むのが好ましい。本発明の履帯車両の自律走行制御方法は、前記目標軌道に沿って前記履帯車両を走行させるための前記走行方向の補正量を、前記予測滑落量を用いて計算するステップを含んでいてもよい。前記履帯車両は、下部走行体と、前記下部走行体に旋回自在に支持された上部旋回体と、前記上部旋回体に揺動自在に装着された作業腕装置とを備え、前記予測滑落量を計算するステップにおいて、前記下部走行体に対する前記上部旋回体の旋回角度と、前記上部旋回体に対する前記作業腕装置の揺動角度とを用いて、複数のタイムステップにおける前記重心位置を計算するのが好適である。
【0008】
本発明の第2の局面は上記課題を解決するために以下の履帯車両のコントローラを提供する。すなわち、履帯車両の目標軌道を設定する設定手段と、前記目標軌道に基づいて前記履帯車両が斜面を走行した場合の前記履帯車両の予測滑落量を、前記履帯車両の重心位置、前記斜面の角度および前記斜面における前記履帯車両の走行方向を用いて計算する予測滑落量計算手段とを含む履帯車両のコントローラを本発明の第2の局面は提供する。
【0009】
本発明の履帯車両のコントローラは、前記目標軌道に基づいて前記履帯車両が前記斜面を走行することを許容するか否か前記予測滑落量を用いて判定する判定手段を含むのが好都合である。本発明の履帯車両のコントローラは、前記目標軌道に沿って前記履帯車両を走行させるための前記走行方向の補正量を、前記予測滑落量を用いて計算する補正量計算手段を含んでいてもよい。前記履帯車両は、下部走行体と、前記下部走行体に旋回自在に支持された上部旋回体と、前記上部旋回体に揺動自在に装着された作業腕装置とを備え、前記予測滑落量計算手段は、前記下部走行体に対する前記上部旋回体の旋回角度と、前記上部旋回体に対する前記作業腕装置の揺動角度とを用いて、複数のタイムステップにおける前記重心位置を計算するのが好ましい。
【0010】
本発明の第3の局面は上記課題を解決するために、上述したとおりのコントローラを備える履帯車両を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、履帯車両の目標軌道を設定し、目標軌道に基づいて履帯車両が斜面を走行した場合の履帯車両の予測滑落量を、履帯車両の重心位置、斜面の角度および斜面における履帯車両の走行方向を用いて計算するので、履帯車両が斜面を走行した場合の履帯車両の予測滑落量を正確に計算することができ、予測滑落量に基づく自律走行制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に従って構成された履帯車両の側面図。
【
図2】
図1に示す履帯車両に搭載されたコントローラの第1の形態の構成を示すブロック図。
【
図3】
図1に示す履帯車両において実施される自律走行制御方法のフローチャート。
【
図4】
図3に示すステップS2の詳細を示すフローチャート。
【
図5】
図1に示す履帯車両が斜面に位置している状態を示す模式図。
【
図6】
図5におけるVI-VI方向から見た履帯車両の模式図。
【
図7】
図5におけるVII-VII方向から見た履帯の模式図。
【
図8】
図1に示す履帯車両が斜面を走行している際に履帯車両に働く力を示す模式図。
【
図9】
図3に示すステップS1で設定した時刻歴目標軌道と、
図3に示すステップS2で計算した時刻歴予測軌道とを示す模式図。
【
図10】本発明に従って構成されたコントローラの第2の形態の構成を示すブロック図。
【
図11】
図10に示すコントローラを備えた履帯車両において実施される走行制御方法のフローチャート。
【
図12】本発明に従って構成されたコントローラの第3の形態の構成を示すブロック図。
【
図13】
図12に示すコントローラを備えた履帯車両において実施される走行制御方法のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の履帯車両の自律走行制御方法、履帯車両のコントローラおよび履帯車両の好適実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0014】
図1には、本発明に従って構成された履帯車両の一例としての油圧ショベル2が示されている。油圧ショベル2は、下部走行体4と、下部走行体4に旋回自在に支持された上部旋回体6と、上部旋回体6に揺動自在に装着された作業腕装置8とを備える。
【0015】
下部走行体4はベースフレーム10を含み、ベースフレーム10は、幅方向両側端部において前後方向に延びる左右一対のトラックフレーム12(片側のみ図示している。)を有する。各トラックフレーム12の前後方向片側端部にはアイドラ14が回転自在に支持され、各トラックフレーム12の前後方向他側端部には、駆動輪としてのスプロケット16が回転自在に支持されている。各トラックフレーム12には履帯18が回転自在に装着されており、履帯18はアイドラ14およびスプロケット16に巻き掛けられている。そして、油圧ショベル2においては、スプロケット16を介して履帯18を回転させることにより、
図1に矢印x
sで示す方向に自走可能となっている。なお、上記幅方向は、x
s方向に直交する方向であって、
図1において紙面に垂直な方向である。
【0016】
上部旋回体6は、旋回フレーム20と、運転席や操作器、モニタ等が配置されたキャブ22と、エンジンや油圧ポンプ等の機器が収容された機器収容室24と、作業腕装置8に対してつり合いを取るためのカウンタウエイト26とを含む。
【0017】
作業腕装置8は、ブーム28、アーム30および作業具32を含む。ブーム28の基端部は旋回フレーム20に揺動自在に連結され、アーム30の基端部はブーム28の先端部に揺動自在に連結され、作業具32はアーム30の先端部に揺動自在に連結されている。また、作業腕装置8は、ブーム28を揺動させるブームシリンダ34と、アーム30を揺動させるアームシリンダ36と、作業具32を揺動させる作業具シリンダ38とを含む。そして、油圧ショベル2においては、ブーム28、アーム30および作業具32のそれぞれを揺動させる(作業腕装置8の姿勢を変える)ことによって、掘削作業等の各種作業を行うようになっている。
【0018】
図2を参照して説明すると、油圧ショベル2は、油圧ショベル2の自律走行を制御するコントローラ40を備える。コントローラ40は、処理装置および記憶装置を有するコンピュータから構成され得る。コントローラ40は、油圧ショベル2の目標軌道を設定する設定手段42と、目標軌道に基づいて油圧ショベル2が斜面を走行した場合の油圧ショベル2の予測滑落量を、油圧ショベル2の重心位置、斜面の角度および斜面における油圧ショベル2の走行方向を用いて計算する予測滑落量計算手段44とを含むのが重要である。本実施形態のコントローラ40は、さらに、目標軌道に基づいて油圧ショベル2が斜面を走行することを許容するか否か予測滑落量を用いて判定する判定手段46を含む。
【0019】
コントローラ40には変更可能な様々なデータが格納されており、たとえば、油圧ショベル2のデータや、油圧ショベル2が使用される現場のデータ等があらかじめ格納されている。コントローラ40に格納されている油圧ショベル2のデータとしては、油圧ショベル2の全体重量や、下部走行体4、上部旋回体6、ブーム28、アーム30および作業具32のそれぞれの重量およびそれぞれの重心位置、履帯18の幅および長さ、ならびにアイドラ14およびスプロケット16の半径等が挙げられる。
【0020】
コントローラ40に格納されている現場のデータとしては、油圧ショベル2が使用される現場の固定障害物や起伏等を含む3次元地図データや、油圧ショベル2が使用される現場の土壌に関するデータ(予測滑落量を計算する際に土壌パラメータとして用いる値を含む。)が挙げられる。土壌パラメータとしては、たとえば、沈下指数や土の凝集力、土の内部摩擦角等であり、各種条件に対応する土壌パラメータのテーブルがコントローラ40に格納され得る。
【0021】
コントローラ40には、油圧ショベル2に搭載された各種機器(図示していない。)が電気的に接続されており、各種機器が検出した情報がコントローラ40に入力される。コントローラ40に接続される機器としては、たとえば、油圧ショベル2の位置を検出するためのGPS受信機と、油圧ショベル2の速度や加速度等を検出するための慣性計測装置(IMU)と、下部走行体4に対する上部旋回体6の旋回角度を検出する旋回角度センサと、上部旋回体6に対するブーム28の揺動角度を検出するブーム角度センサと、ブーム28に対するアーム30の揺動角度を検出するアーム角度センサと、アーム30に対する作業具32の揺動角度を検出する作業具角度センサと、現場を移動する移動障害物や現場に固定された固定障害物等を検出するためのカメラやLiDAR(Light Detection and Ranging)が挙げられる。
【0022】
次に、上述したとおりの油圧ショベル2において実施される走行制御方法について説明する。
【0023】
本実施形態では
図3に示すとおり、まず、油圧ショベル2の目標軌道を設定するステップS1を実施する。ステップS1では、たとえば、油圧ショベル2のオペレータによってコントローラ40に入力された軌道を目標軌道として設定手段42が設定する。なお、本実施形態の目標軌道には斜面が含まれるものとする。また、目標軌道は複数の座標点から構成され得る。
【0024】
ステップS1では、オペレータによってコントローラ40に入力された目標到達点に基づいて、設定手段42が目標軌道を選択して設定してもよい。たとえば、油圧ショベル2の現在地と目標到達点とを結ぶ最短経路を設定手段42が選択して目標軌道として設定してもよい。あるいは、オペレータによってコントローラ40に入力された1個以上の通過点を通過して目標到達点に至る軌道を目標軌道として設定手段42が設定してもよい。なお、油圧ショベル2の現在地に関する情報については、GPS受信機によって検出された情報を用いることができ、あるいはSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術によって得られる情報を用いてもよい。
【0025】
ステップS1では、油圧ショベル2の現在地と目標到達点との間に障害物が存在する場合、障害物を避ける軌道を目標軌道として設定手段42が設定することもできる。障害物に関する情報については、あらかじめコントローラ40に入力されている固定障害物に関する情報や、カメラやLiDARによって検出された障害物(固定障害物および移動障害物を含む。)に関する情報を用いることができる。
【0026】
ステップS1では、油圧ショベル2が転倒あるいは目標軌道から大きく逸脱することなく安全に走行することを担保する観点から、油圧ショベル2が走行する斜面の角度が所定角度を超えないことを制約条件として含むのが好ましい。斜面の角度については、あらかじめコントローラ40に格納されている3次元地図データの情報を用いることができる。
【0027】
ステップS1を実施した後、
図3に示すとおり、目標軌道に基づいて油圧ショベル2が斜面を走行した場合の油圧ショベル2の予測滑落量を、油圧ショベル2の重心位置、斜面の角度および斜面における油圧ショベル2の走行方向を用いて計算するステップS2を予測滑落量計算手段44によって実施する。
【0028】
本実施形態のステップS2においては、
図4に示すステップS21からS29までを繰り返し実施することにより、目標軌道に基づいて油圧ショベル2が斜面を走行した場合の複数のタイムステップt
n(n=1、2、3、…)における予測滑落量を計算する。
【0029】
まず、ステップS21においては、あらかじめコントローラ40に格納されているデータと、各種機器によって検出されたデータとを用いて油圧ショベル2の重心G(
図5参照。)の位置を予測滑落量計算手段44によって計算する。
【0030】
ステップS21において予測滑落量計算手段44は、油圧ショベル2の全体重量、下部走行体4の重量および重心位置、上部旋回体6の重量、重心位置および旋回角度、ブーム28の重量、重心位置および揺動角度、アーム30の重量、重心位置および揺動角度ならびに作業具32の重量、重心位置および揺動角度を用いて、目標軌道に基づく走行を開始する前の油圧ショベル2の重心Gの位置を予測滑落量計算手段44は計算する。
【0031】
本実施形態のステップS2においてはステップS21からS29までを繰り返し実施するところ、下部走行体4に対する上部旋回体6の旋回角度と、上部旋回体6に対する作業腕装置8の揺動角度(図示の実施形態ではブーム28、アーム30および作業具32のそれぞれの揺動角度)とを用いて、複数のタイムステップにおける重心Gの位置を計算する。これによって、油圧ショベル2の走行中に上部旋回体6が旋回し、あるいは作業腕装置8の揺動することに起因して重心Gの位置が変化する場合についても、予測滑落量を正確に計算することができる。したがって、ステップ2において予測滑落量を計算する際には、油圧ショベル2の走行中に上部旋回体6の旋回角度および作業腕装置8の揺動角度のそれぞれを一定に保持することを前提としてもよく、油圧ショベル2の走行中に上部旋回体6の旋回角度または作業腕装置8の揺動角度が変化することを前提としてもよい。
【0032】
油圧ショベル2の重心Gの位置を計算した後、左右の履帯18が油圧ショベル2を支持するために受け持つ荷重(以下それぞれ「左側の履帯荷重」、「右側の履帯荷重」ということがある。)を計算する(ステップS22、
図4参照。)。
【0033】
図5および
図6を参照して履帯荷重の計算について説明する。
図5には、角度ηの斜面50に油圧ショベル2が位置している状態を示す模式図が示されている。
図5におけるXY座標は斜面50に固定された基準座標系であり、XY’座標はグローバル座標系である。X軸は、基準座標系およびグローバル座標系に共通の水平軸であり、Y軸は、斜面50の上方を正方向とするX軸と直交する軸である。x
gy
g座標は、基準座標系(斜面)上の油圧ショベル2の重心Gを原点とし、油圧ショベル2に固定された車両重心座標系(局所座標系)である。x
g軸は、基準座標系(斜面)上の油圧ショベル2の重心Gを原点とする油圧ショベル2の走行方向を示す軸であり、y
g軸は、基準座標系(斜面)上の油圧ショベル2の重心Gを原点とする油圧ショベル2の走行方向に直交する軸である。角度θ
sは、基準座標系のX軸と車両重心座標系のx
g軸とのなす角(以下「車両方向角θ
s」という。)であり、油圧ショベル2の走行方向を示す角度である。なお、
図5には、便宜上、角度ηが一定である斜面50を示しているが、目標軌道における斜面においては、角度が一定でなくてもよい。
【0034】
図6には、
図5におけるVI-VI方向から見た油圧ショベル2の模式図が示されている。
図6に示す符号について説明すると、L
1は、車両重心座標系の原点である油圧ショベル2の重心Gと、
図6における左側の履帯18の幅方向(y
g軸方向)中心とのy
g軸方向における距離である。L
2は、油圧ショベル2の重心Gと、
図6における右側の履帯18の幅方向中心とのy
g軸方向における距離である。Lは、左側の履帯18の幅方向中心から右側の履帯18の幅方向中心までのy
g軸方向における距離(L=L
1+L
2)である。z
g軸は、x
g軸およびy
g軸のそれぞれに対して垂直な軸であり、h
gは、油圧ショベル2の重心Gから斜面50までのz
g軸方向の距離である。
【0035】
図6に示すA点(左側の履帯18の幅方向中心を通る中心線上の点)にz
g軸方向の支持力N
1が左側の履帯18に働き、
図6に示すB点(右側の履帯18の幅方向中心を通る中心線上の点)にz
g軸方向の支持力N
2が右側の履帯18に働くとすると、z
g軸方向の力のつり合いは、斜面50の角度ηを用いて式(1)のように表される。また、B点周りのモーメントのつり合いは、斜面50の角度ηおよび車両方向角θ
sを用いて式(2)のように表される。なお、Wは油圧ショベル2の全体重量であり、gは重力加速度である。
【0036】
【0037】
式(1)および式(2)から支持力N1、N2は式(3)、式(4)のように表される。
【0038】
【0039】
そして、左側の履帯18が受け持つ荷重(左側の履帯荷重)W1の大きさは支持力N1の大きさと等しく(W1=N1)、右側の履帯18が受け持つ荷重(右側の履帯荷重)W2の大きさは支持力N2の大きさと等しい(W2=N2)。このようにステップS22では、油圧ショベル2の重心Gの位置、斜面50の角度ηおよび斜面50における油圧ショベル2の走行方向(車両方向角θs)を用いて左右の履帯荷重W1、W2を計算する。
【0040】
左右の履帯荷重W
1、W
2を計算した後、左右のアイドラ14下の履帯18の静的沈下量およびスプロケット16下の履帯18の静的沈下量を計算する(ステップS23、
図4参照。)。
図7を参照して説明すると、油圧ショベル2が斜面50で静止しているとき、油圧ショベル2の重心Gの偏心率eに応じて、斜面50と履帯18との間にはピッチ角θ
tが生じる。ピッチ角θ
tは、アイドラ14下の静的沈下量S
cf(C点における履帯18の静的沈下量)、スプロケット16下の静的沈下量S
cr(D点における履帯18の静的沈下量)および履帯18の長さD
c(アイドラ14の中心C
fとスプロケット16の中心C
rとを結ぶx
g軸方向の距離)を用いて式(5)のように表される。
【0041】
【0042】
図7中のC点は、アイドラ14の中心C
fから履帯18までz
g軸方向に下ろした垂線と履帯18との交点であり、D点は、スプロケット16の中心C
rから履帯18までz
g軸方向に下ろした垂線と履帯18との交点である。
【0043】
履帯18の静的沈下量分布Sc(Xc)は式(6)のように表され、静的沈下量分布Sc(Xc)に係る履帯18下の垂直応力分布pc(Xc)は式(7)のように表される。
【0044】
【0045】
式(6)および式(7)におけるXcはC点を原点として履帯18の長手方向に延びる局所座標系である。式(7)におけるkおよびnは土壌パラメータである。
【0046】
履帯18に対して垂直な方向(z
g軸方向)の力のつり合いは式(8)のように表され、C点周りのモーメントのつり合いは式(9)のように表される。なお、B
cは履帯18の幅(
図6参照。)である。
【0047】
【0048】
式(8)および式(9)におけるWcは履帯荷重であり、左側の履帯荷重W1(式(3)の右辺)を式(8)および式(9)のWcに代入して、式(8)および式(9)を解くことにより、左側のアイドラ14下の静的沈下量Scfおよび左側のスプロケット16下の静的沈下量Scrを計算することができる。また、右側の履帯荷重W2(式(4)の右辺)を式(8)および式(9)のWcに代入して、式(8)および式(9)を解くことにより、右側のアイドラ14下の静的沈下量Scfおよび右側のスプロケット16下の静的沈下量Scrを計算することができる。
【0049】
このようにステップS23においては、油圧ショベル2の重心Gの位置、斜面50の角度ηおよび斜面50における油圧ショベル2の走行方向(車両方向角θs)を用いて計算した左右の履帯荷重W1、W2を式(8)および式(9)に代入して、左右のアイドラ14下の静的沈下量Scfおよび左右のスプロケット16下の静的沈下量Scrを計算する。
【0050】
履帯18の静的沈下量S
cf、S
crを計算した後、左右の履帯18の指令速度(指令移動速度)を読み込む(ステップS24、
図4参照。)。ステップS24において読み込む左右の履帯18の指令速度は、ステップS24よりも前であれば、いつでも設定することができ、油圧ショベル2の重心Gの位置の計算、履帯荷重W
1、W
2の計算または静的沈下量S
cf、S
crの計算の前に、あるいは重心Gの位置の計算等と並行して履帯18の指令速度を設定することができる。各タイムステップにおける履帯18の指令速度は、一定の値でもよく、異なる値でもよい。なお、オペレータがコントローラ40に適宜の指令速度を入力することにより、履帯18の指令速度を設定してもよい。
【0051】
左右の履帯18の指令速度を読み込んだ後、左右の履帯18下の垂直応力分布およびせん断応力分布を計算する(ステップS25)。左右の履帯18下に働く垂直応力分布pc(Xc)は、静的沈下量Scf、Scrおよび動的沈下量Sscf、Sscrを考慮した履帯18の総沈下量分布Ss(Xc)を用いて式(10)のように表される。
【0052】
【0053】
履帯18の総沈下量分布Ss(Xc)は、アイドラ14下の静的沈下量Scfおよびアイドラ14下の動的沈下量Sscfの和で表されるアイドラ14下の総沈下量Sf(Sf=Scf+Sscf)と、スプロケット16下の静的沈下量Scrおよびスプロケット16下の動的沈下量Sscrの和で表されるスプロケット16下の総沈下量Sr(Sr=Scr+Sscr)とを用いて式(11)のように表される。
【0054】
【0055】
動的沈下量Sscf、Sscrについては、後述するステップS28で計算するところ、タイムステップtnにおけるアイドラ14下の総沈下量Sfは、タイムステップtnにおけるアイドラ14下の静的沈下量Scfと、タイムステップtn-1におけるアイドラ14下の動的沈下量Sscfとの和として計算することができ、スプロケット16下の総沈下量Srについても同様である。最初のタイムステップt1の総沈下量Sf、Srを計算する際には、動的沈下量Sscf、Sscrの初期値としてコントローラ40にあらかじめ入力された任意の値を用いることができる。
【0056】
履帯18下のせん断応力分布について説明すると、駆動時の履帯18下のxg軸方向(走行方向)に働くせん断応力分布τc(Xc)は式(12)を用いて計算することができ、制動時の履帯18下のxg軸方向に働くせん断応力分布τc(Xc)は式(13)を用いて計算することができ、履帯18下のyg軸方向に働くせん断応力分布τcy(Xc)は式(14)を用いて計算することができる。
【0057】
【0058】
式(12)ないし式(14)におけるc、ca、φ、φa、kaはいずれも土壌パラメータである。また、式(12)および式(13)におけるjc(Xc)は履帯18の走行方向(xg軸方向)の滑り量分布であり、式(14)におけるjcy(Xc)は履帯18のyg軸方向の滑り量分布である。jc(Xc)およびjcy(Xc)のいずれも、履帯18の指令速度と履帯18の実速度とで表される滑り率idを用いて計算することができる。
【0059】
履帯18の実速度については、油圧ショベル2が実際に走行した場合に予測される履帯18の移動速度であり、後述のステップS28において計算する。タイムステップtnにおけるせん断応力分布τc(Xc)、τcy(Xc)を計算する際には、タイムステップtn-1における履帯18の実速度を用いて計算した滑り率idを用いることができる。最初のタイムステップt1のせん断応力分布τc(Xc)、τcy(Xc)を計算する際には、履帯18の実速度の初期値としてコントローラ40に入力された任意の値を用いることができる。
【0060】
左右の履帯18下の垂直応力分布p
c(X
c)およびせん断応力分布τ
c(X
c)、τ
cy(X
c)を計算した後、油圧ショベル2に働く力およびモーメントを計算する(ステップS26)。
図8を参照して説明すると、本実施形態のステップS26においては、左右の履帯18の駆動力T
c1、T
c2と、油圧ショベル2が走行する際に履帯18が土を締め固めることによって生じる締固め抵抗力R
c1、R
c2と、油圧ショベル2が走行する際に履帯18が土を押しのけることによって生じる排土抵抗力R
bc1、R
bc2と、履帯18下の地盤が幅方向(y
g軸方向)にせん断されることによって生じる幅方向せん断抵抗力f
c1、f
c2と、履帯18が横滑りするときに土を押しのけることによって生じるx
g軸方向およびy
g軸方向の排土抵抗力f
bcx1、f
bcy1、f
bcx2、f
bcy2と、幅方向せん断抵抗力f
c1、f
c2によって油圧ショベル2に生じるモーメントM
c1、M
c2(図示していない。)と、排土抵抗力f
bcy1、f
bcy2によって油圧ショベル2に生じるモーメントM
bc1、M
bc2(図示していない。)とを計算する。
【0061】
ステップS26において計算する力およびモーメントについては、テラメカニクス理論における公知の数式を用いて計算することができる。なお、駆動力Tc1、Tc2や締固め抵抗力Rc1、Rc2等に付されている添え字1は、左側の履帯18に係る力およびモーメントであることを示し、添え字2は、右側の履帯18に係る力およびモーメントであることを示している。
【0062】
油圧ショベル2に働く力およびモーメントを計算した後、油圧ショベル2の重心Gに関する運動方程式である式(15)ないし式(17)を解き、斜面50に固定された基準座標系(XY座標系)において、重心Gの加速度(d2xg/dt2、d2yg/dt2)、重心Gの速度(dxg/dt、dyg/dt)、重心Gの座標(xg、yg)、重心G周りの角加速度(d2θs/dt2)、重心G周りの角速度(dθs/dt)および車両方向角θsを計算する(ステップS27)。なお、式(15)はxg軸における運動方程式であり、式(16)はyg軸における運動方程式であり、式(17)は、重心Gを通るzg軸方向の軸線周りの回転の運動方程式である。
【0063】
【0064】
式(15)および式(16)におけるWは油圧ショベル2の全体重量であり、式(17)におけるIは重心G周りの慣性モーメントである。なお、ステップS27において計算したタイムステップtnの車両方向角θsは、タイムステップtn+1の各履帯荷重W1、W2を次回のステップS22で計算する際に用いられる。
【0065】
油圧ショベル2の重心Gに関する運動方程式を解いた後、各履帯18の実速度および動的沈下量を計算する(ステップS28)。各履帯18の実速度については、ステップS27で求めた重心Gの速度(dxg/dt、dyg/dt)および重心G周りの角速度(dθs/dt)と共に、重心Gから各履帯18の中心点(履帯18のxg軸方向中心かつyg軸方向中心)までの距離とを用いて計算することができる。なお、ステップS28において計算したタイムステップtnの各履帯18の実速度は、タイムステップtn+1のせん断応力分布τc(Xc)、τcy(Xc)をステップS25で計算する際に用いられる。
【0066】
テラメカニクス理論によれば、アイドラ14下の動的沈下量Sscfは式(18)を用いて計算することができ、スプロケット16下の動的沈下量Sscrは式(19)を用いて計算することができる。
【0067】
【0068】
式(18)および式(19)におけるc0、c1、c2は土壌パラメータであり、pcfは履帯18のアイドラ14部分の接地圧であり、θcfはアイドラ14の入射角であり、N’はアイドラ14の入射角θcfの分割数であり、Mは履帯18の長さDcの分割数であり、n’およびmは総和計算用の変数であり、jscfはxg軸方向におけるアイドラ14下の履帯18の空回りに関する滑り量であり、jscrはxg軸方向におけるスプロケット16下の履帯18の空回りに関する滑り量である。なお、ステップS28において計算したタイムステップtnの動的沈下量Sscf、Sscrは、タイムステップtn+1の各履帯18下の垂直応力分布pc(Xc)をステップS25で計算する際に用いられる。
【0069】
上述したとおりのステップS21からステップS28までを繰り返すことにより、基準座標系(XY座標系)において、複数のタイムステップにおける油圧ショベル2の重心Gの座標を計算し、各タイムステップの重心Gの座標を結んだ予測軌道T
P(
図9参照。)を求める。そして、基準座標系(XY座標系)において、予測軌道T
Pにおける各タイムステップの油圧ショベル2の重心Gの座標(x
g、y
g)と、ステップS1において設定した目標軌道T
T(
図9参照。)における各タイムステップの油圧ショベル2の重心Gの座標(x
t、y
t)との偏差dを油圧ショベル2の予測滑落量として計算する(ステップ29)。あるいは、上記偏差dのX軸方向成分d
xおよびY軸方向成分d
y(斜面50の傾斜方向の成分)を計算し、偏差dのY軸方向成分d
yを予測滑落量としてもよい。また、計算した予測滑落量dをタイムステップごとにキャブ22内のモニタに表示すると共に、予測軌道T
Pおよび目標軌道T
Tをキャブ22内のモニタに重ねて表示するようにしてもよい。
【0070】
油圧ショベル2においては、下部走行体4に対して上部旋回体6が旋回自在であり、上部旋回体6に対して作業腕装置8が揺動自在であるのは上述したとおりであるが、上部旋回体6の旋回角度や作業腕装置8の揺動角度が変化すると、油圧ショベル2の重心Gの位置が変化し、重心Gの位置が変化すると履帯荷重W1、W2が変化する。また、履帯荷重W1、W2は、斜面50の角度ηや車両の走行方向(車両方向角θs)によっても変化する。そして、履帯荷重W1、W2が変化すると履帯18の沈下量が変化し、履帯18の沈下量が変化すると予測滑落量dが変化する。
【0071】
本実施形態においては、上述したとおり、複数のタイムステップにおいて油圧ショベル2の重心Gの位置を計算した後、油圧ショベル2の重心Gの位置、斜面50の角度ηおよび油圧ショベル2の走行方向(車両方向角θs)を用いて各タイムステップの履帯荷重W1、W2を計算し、計算により求めた履帯荷重W1、W2を用いて各タイムステップにおける履帯18の沈下量を計算し、そして、計算した履帯18の沈下量に基づいて、各タイムステップにおける油圧ショベル2の予測滑落量dの計算を行う。
【0072】
換言すると、本実施形態では、複数のタイムステップにおける油圧ショベル2の重心Gの位置、斜面50の角度ηおよび油圧ショベル2の走行方向(車両方向角θs)を用いて複数のタイムステップにおける予測滑落量dを計算している。したがって、本実施形態によれば、油圧ショベル2の走行中に油圧ショベル2の重心Gの位置、斜面50の角度ηおよび油圧ショベル2の走行方向が変化した場合であっても、予測滑落量dを正確に計算することができる。
【0073】
本実施形態においては、油圧ショベル2の重心Gの位置を時々刻々と計算し、計算した重心Gの位置をステップS2の計算フローの中に組み入れているので、重心Gの位置を一定として予測滑落量を計算する場合よりも、予測滑落量dを精度よく計算することができる。
【0074】
本実施形態では、ステップS2を予測滑落量計算手段44によって実施した後、
図3に示すとおり、目標軌道T
Tに基づいて油圧ショベル2が斜面50を走行することを許容するか否か予測滑り量dを用いて判定手段46によって判定する(ステップS3)。
【0075】
ステップS3では、たとえば、最大予測滑落量dが所定値以内である場合には、目標軌道TTに基づいて油圧ショベル2が斜面50を走行することを許容し、最大予測滑落量dが所定値を超える場合には、目標軌道TTに基づいて油圧ショベル2が斜面50を走行することを許容しないと判定することができる。これによって、走行中に重心Gの位置が変化し得る油圧ショベル2が斜面50を走行している際の滑落に起因して油圧ショベル2が転倒してしまうことが防止されると共に、油圧ショベル2の実際の走行軌道が目標軌道TTから大きく逸脱することが防止される。
【0076】
ステップS3では、最大予測滑落量dが所定値以内であっても、油圧ショベル2の走行に適さない場所が予測軌道TPに含まれるときは、目標軌道TTに基づいて油圧ショベル2が斜面50を走行することを許容しないと判定してもよい。なお、判定手段46の判定結果は、たとえばキャブ22内のモニタに表示されるようにしてもよい。また、許容しないと判定した場合には、コントローラ40からキャブ22内のモニタやスピーカに警告信号を出力して、モニタに警告画面を表示させ、スピーカから警告音を発するようにしてもよい。
【0077】
そして、ステップS3において許容すると判定した場合には、
図3示すとおり、コントローラ40は、ステップS24において設定した指令速度で目標軌道T
Tに基づいて(予測軌道T
Pに沿って)油圧ショベル2を走行させる(ステップS4)。一方、ステップS3において許容しないと判定した場合には、ステップS3において許容判定が出るまでステップS1からS3までを繰り返す。
【0078】
以上のとおりであり、本実施形態によれば、複数のタイムステップにおける油圧ショベル2の重心Gの位置、斜面50の角度ηおよび斜面50における油圧ショベル2の走行方向(車両方向角θs)を用いて、複数のタイムステップにおける予測滑落量dを計算し、目標軌道TTに基づいて油圧ショベル2が斜面50を走行することを許容するか否か予測滑落量を用いて判定するので、油圧ショベル2の転倒を防止することができると共に、油圧ショベル2の実際の走行軌道が目標軌道TTから大きく逸脱することを防止することができ、油圧ショベル2の安全な走行が確保される。
【0079】
なお、ステップS1ないしS3については、油圧ショベル2に搭載されたコントローラ40(車載コントローラ)を用いて、油圧ショベル2による作業中にリアルタイムで実施してもよく、あるいは、油圧ショベル2による作業を開始する前に実施してもよい。また、ステップS1ないしS3については、油圧ショベル2に搭載されたコントローラ40以外のコンピュータを用いて実施することもできる。
【0080】
次に、本発明の履帯車両の自律走行制御方法、履帯車両のコントローラおよび履帯車両の他の実施形態について
図10および
図11を参照しつつ説明する。なお、以下の説明においては、上述した構成要素と同一でよい構成要素には上述した構成要素と同一の符号を付し説明を省略する。
【0081】
図10を参照して説明すると、油圧ショベル2の自律走行を制御するコントローラ40’は、設定手段42および予測滑落量計算手段44に加え、目標軌道T
Tに沿って油圧ショベル2を走行させるための走行方向(車両方向角θ
s)の補正量を、予測滑落量dを用いて計算する補正量計算手段48を含む。なお、コントローラ40’においても、上記コントローラ40と同様に、処理装置および記憶装置を有するコンピュータから構成され得ると共に、変更可能な様々なデータが格納され、かつ、各種機器が検出した情報が入力されるようになっている。
【0082】
本実施形態では
図11に示すとおり、ステップS1を設定手段42によって実施し、ステップS2を予測滑落量計算手段44によって実施した後、目標軌道T
Tに沿って油圧ショベル2を走行させるための走行方向の補正量を、予測滑落量dを用いて計算するステップS3’を補正量計算手段48によって実施する。本実施形態のステップS3’では、複数のタイムステップにおける予測滑落量dを用いて、複数のタイムステップにおける油圧ショベル2の走行方向の補正量を計算する。
【0083】
ステップS3’を実施した後、コントローラ40’は、複数のタイムステップにおける油圧ショベル2の走行方向の補正量に基づいて、ステップS24において設定した各タイムステップにおける左右の履帯18の指令速度を適宜調整することによって、目標軌道TTに沿って油圧ショベル2を走行させる(ステップS4’)。
【0084】
本実施形態によれば、複数のタイムステップにおける油圧ショベル2の重心Gの位置、斜面50の角度ηおよび斜面50における油圧ショベル2の走行方向(車両方向角θs)を用いて、複数のタイムステップにおける予測滑落量dを計算し、各タイムステップにおける予測滑落量dを用いて走行方向の補正量を計算するので、油圧ショベル2を目標軌道TTに沿って走行させることができる。
【0085】
なお、
図12に示すとおり、油圧ショベル2の自律走行を制御するコントローラ40”が、設定手段42、予測滑落量計算手段44、判定手段46および補正量計算手段48を備えていてもよい。そして、
図13に示すとおり、ステップS1を設定手段42によって実施し、ステップS2を予測滑落量計算手段44によって実施し、次いでステップS3において許容しないと判定手段46によって判定した場合には、走行方向の補正量を、予測滑落量dを用いて計算するステップS3’を補正量計算手段48によって実施した後、目標軌道T
Tに沿って油圧ショベル2を走行させるステップS4’を実施するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0086】
2:油圧ショベル(履帯車両)
40、40’:コントローラ
42:設定手段
44:予測滑落量計算手段
46:判定手段
48:補正量計算手段
50:斜面
G:油圧ショベルの重心
η:斜面の角度
θs:車両方向角