(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131351
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】動力伝達ユニット
(51)【国際特許分類】
B60K 17/12 20060101AFI20220831BHJP
B60L 15/00 20060101ALI20220831BHJP
H02K 7/102 20060101ALI20220831BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20220831BHJP
F16H 1/06 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
B60K17/12
B60L15/00 Z
H02K7/102
H02K7/116
F16H1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030253
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000125853
【氏名又は名称】株式会社 神崎高級工機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清岡 晃司
(72)【発明者】
【氏名】井馬 昭博
(72)【発明者】
【氏名】西澤 尚史
【テーマコード(参考)】
3D042
3J009
5H125
5H607
【Fターム(参考)】
3D042AA06
3D042AB07
3D042BE01
3D042BE02
3J009DA18
3J009EA05
3J009EA11
3J009EA21
3J009EA32
3J009EA43
3J009EB24
3J009EC04
3J009FA06
5H125AA20
5H125AB01
5H125AC12
5H125FF01
5H607AA12
5H607BB01
5H607BB05
5H607BB14
5H607CC03
5H607DD03
5H607DD08
5H607EE07
5H607EE10
5H607EE31
5H607EE36
(57)【要約】
【課題】トランスミッションケースにモータケースが装着された動力伝達ユニットにおいて、製造コストの低減を図ることである。
【解決手段】動力伝達ユニット41aは、モータ70と、入力軸72と、出力軸60と、入力軸72及び出力軸60間で動力を伝達する歯車機構80とが収容されたトランスミッションケース42aを含む。トランスミッションケース42aの歯車機構80側と反対側に装着されるモータケース120は、軸方向に直交する断面形状が軸方向全体で同じ筒状であり、かつ内側にモータ70が配置される。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、入力軸と、出力軸と、前記入力軸及び前記出力軸間で動力を伝達する歯車機構とが収容されたトランスミッションケースを備え、
前記トランスミッションケースの前記歯車機構側と反対側に装着されるモータケースは、軸方向に直交する断面形状が軸方向全体で同じ筒状であり、かつ内側に前記モータが配置される、
動力伝達ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の動力伝達ユニットにおいて、
前記モータケースには、軸方向外端の開口を塞ぐカバーが固定され、
前記モータケースが、直接に前記トランスミッションケースに結合され、前記トランスミッションケース側に、前記モータのロータ軸を支持する軸受固定用の支持部が設けられる、
動力伝達ユニット。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の動力伝達ユニットにおいて、
前記モータケースは、アルミニウムまたは銅を主成分とする金属または合金から形成される、
動力伝達ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、芝刈り機を備える芝刈り車両等の車両において、車輪を電動モータで駆動し走行可能とすることが知られている。特許文献1及び特許文献2には、左右車輪を電動モータで共通に駆動する芝刈り車両が記載されている。特許文献3には、左右車輪を互いに独立して駆動可能とし、左車輪を左電動モータで駆動し、右車輪を右電動モータで駆動する芝刈り車両が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0069964号明細書
【特許文献2】特開2012-154375号公報
【特許文献3】特開2014-117026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように1つまたは2つのモータで左右車輪を駆動する車両では、モータの動力を車輪に伝達する動力伝達ユニットが用いられる。この動力伝達ユニットでは、特許文献2に記載されているように、入力軸から出力軸に動力を伝達する歯車機構を収容したトランスミッションケースに、内側にモータが配置されたモータケースを固定することが考えらえる。しかしながら、モータケースが複雑な形状であるので、動力伝達ユニット全体の製造コストの低減の面から改良の余地がある。
【0005】
本発明の目的は、トランスミッションケースにモータケースが装着された動力伝達ユニットにおいて、製造コストの低減を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る動力伝達ユニットは、モータと、入力軸と、出力軸と、前記入力軸及び前記出力軸間で動力を伝達する歯車機構とが収容されたトランスミッションケースを備え、前記トランスミッションケースの前記歯車機構側と反対側に装着されるモータケースは、軸方向に直交する断面形状が軸方向全体で同じ筒状であり、かつ内側に前記モータが配置される、動力伝達ユニットである。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る動力伝達ユニットによれば、トランスミッションケースにモータケースが装着された動力伝達ユニットにおいて、製造コストを低減できる。
【0008】
本発明に係る請求項1の動力伝達ユニットによれば、モータと、入力軸と、出力軸と、前記入力軸及び前記出力軸間で動力を伝達する歯車機構とが収容されたトランスミッションケースを備え、前記トランスミッションケースの前記歯車機構側と反対側に装着されるモータケースは、軸方向に直交する断面形状が軸方向全体で同じ筒状としたため、モータケースの製造コストを低減できる。さらに、モータケースを熱伝導性の高い金属により形成する場合には、内側に配置されるモータの熱を効率的にモータケースからトランスミッションケースに伝達できることにより、放熱部を大きくできるので、モータの冷却性能を向上できる。さらに、モータケースの内側にモータを組み付けた構造をサブアッセンブリとして、動力伝達ユニットの製造時の組み付け作業の容易化を図れる。
【0009】
さらに、本発明に係る請求項2の動力伝達ユニットによれば、本来モータに必要な両側のカバーのうち、片側のカバーを省略することができるので、低コストになる。かつトランスミッションケース側のモータカバーを省略し、モータケースが直接にトランスミッションケースに結合されることにより、モータから発生した熱がトランスミッション側に逃げやすくなるのでモータの冷却性能が向上する。
【0010】
さらに、本発明に係る請求項3の動力伝達ユニットによれば、モータケースは、アルミニウムまたは銅を主成分とする金属または合金から形成されるため、モータケースの軽量化を図れる。さらに、モータケースを熱伝導性の高い金属により形成する場合には、内側に配置されるモータの熱を効率的にモータケースからトランスミッションケースに伝達できることにより、放熱部を大きくできるので、モータの冷却性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る実施形態の動力伝達ユニットを搭載する車両の斜視図である。
【
図2】
図1の車両の右側の車輪についての実施形態の動力伝達ユニットにおいて、一部を省略して示す斜視図である。
【
図5】
図3Bにおける組付け直前状態を示す分解断面図である。
【
図6】左右2つの後輪についての
図3BのI-I断面に対応する図である。
【
図8】実施形態の別例の動力伝達ユニットにおいて、
図3Bに対応する図である。
【
図10】
図8の組付け直前状態を示しており、一部を省略して示す分解断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を詳細に説明する。以下では、動力伝達ユニットが、作業車両であり芝刈り車両に搭載される場合を説明するが、動力伝達ユニットが搭載される車両は、これに限定せず、除雪作業、掘削作業、土木作業、農作業のいずれか1つ以上の作業を行う作業機を有する他の作業車両、または荷台を有し、不整地を走行するオフロード型多用途車両(Utility Vehicle)、あるいはバギーと呼ばれるAll Terrain Vehicle(ATV)や、レクリエーショナルビークル(Recreational Vehicle(RV))や、レクリエーショナルオフハイウェイビークル(Recreational Off-highway Vehicle(ROV))としてもよい。また、以下では、車両が2つの後輪を2つのモータで駆動する場合を説明するが、車両は2つの前輪を2つのモータで駆動する構成としてもよい。また、以下では、左右2つの操作レバーを有する左右レバー式操作子を使用する場合を説明するが、これは例示であって、ステアリングハンドルを旋回指示具として使用し、座席の前側に設けられたアクセルペダルを加速指示具として使用してもよい。以下ではすべての図面において同様の要素には同一の符号を付して説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1から
図7は、第1の実施形態を示している。以下で説明する図面では、前後方向をXで示し、左右方向をYで示し、上下方向をZで示している。また、前側をFrで示し、左側をLhで示し、上側をUpで示している。X,Y,Zは互いに直交する。
【0014】
まず、芝刈り車両10の全体構成を説明し、その後、芝刈り車両10に搭載した動力伝達ユニット41a,71a(
図2、
図6)を詳しく説明する。エンジン非搭載型の乗用型の芝刈り車両10は、車体を構成するメインフレーム16と、左右2つの前輪であるキャスタ輪18,20と、左右2つの後輪である車輪24と、作業機である芝刈り機25と、左右2つの操作レバー34,36と、バッテリを含む電源ユニット40とを備える。
図1では左側の車輪の図示を省略している。
【0015】
メインフレーム16は、前後方向中間部の上側に運転席17が固定される。左右のキャスタ輪18,20は、メインフレーム16の前側に支持される。各キャスタ輪18,20は、上下方向の軸を中心とする360度以上の自由操向を可能とする。左右の車輪24は、メインフレーム16の後側に支持される。左右の車輪24は、主駆動輪であり、後述する左右の電動モータである走行用のモータ70(
図3A)により駆動される。
【0016】
キャスタ輪18,20は、2つ以外、例えば、1つのみを芝刈り車両10に設けることもでき、3つ以上の複数個を設けることもできる。キャスタ輪と駆動輪とは、本例の構成と前後で逆にしてもよい。
【0017】
芝刈り機25は、メインフレーム16の前後方向中間部で下側に支持されている。芝刈り機25は、モアデッキ26と、モアデッキ26の内側にそれぞれ鉛直方向の軸を中心として回転可能な芝刈り用回転工具である図示しない3つの芝刈りブレードとを含む。芝刈ブレードが回転されることで芝等を破断して刈り取り可能とする。各芝刈りブレードは、モア用のモータ28により駆動される。
【0018】
芝刈りブレードの回転により芝の刈り取りが可能であり、刈り取られた芝は、モアデッキ26の内側から車両の幅方向片側に排出される。
【0019】
芝刈り機は、芝刈り用回転工具として、地表に平行に回転軸を有するシリンダに例えばらせん状の刃を配置し、芝等を挟み取って刈り取る機能を有し、デッキモータにより駆動される芝刈りリールを備える構成としてもよい。
【0020】
左右2つの操作レバー34,36は、運転席17の左右両側において、左右方向に向いた水平軸を中心に前後方向の揺動可能に設けられる。各操作レバー34,36が、直立した中立状態であれば走行用のモータ70は回転停止し、揺動するように操作されることにより、揺動方向と揺動量に応じて、対応する側の走行用のモータ70を回転させることが指示される。
【0021】
操作レバー34,36の前後方向の揺動位置が、レバーセンサ(図示せず)で検出される。レバーセンサの検出信号は、走行用のモータ70の回転指示を表す信号として、車両に搭載された制御装置(図示せず)に入力され、制御装置がモータ70をその指示に応じた回転方向に回転させる。各モータ70の動力は、後述の動力伝達ユニット41a,71a(
図3A、
図6)の歯車機構80等を介して左右の車輪24に伝達される。これにより、操作レバー34,36の操作に応じて、前側または後側に車両が走行し、左右の操作レバー34,36で操作量を変えることで、左右の車輪24に回転速度差が生じて車両が旋回する。さらに、2つの操作レバー34,36の一方の操作レバーを前側に、他方の操作レバーを後側にそれぞれ倒すことで、左右の車輪24が逆方向に回転し、旋回半径が小さくなることにより車両が急旋回する。
【0022】
さらに、2つの操作レバー34,36は、直立した中立状態から車幅方向外側に開くように傾倒可能に構成され傾倒した位置を駐車ブレーキ位置とする。2つの操作レバー34,36は、駐車ブレーキ位置に移動することにより、駐車ブレーキの作動を指示する機能を有する。車両の上部には操作レバー34,36の移動を案内するT字形の案内穴29が設けられることにより、2つの操作レバー34,36の車幅方向外側への開きが、操作レバー34,36が直立した状態からのみで可能となっている。操作レバー34,36の下端部と、動力伝達ユニット41,71の後述のブレーキ装置90とはリンク機構で連結されており、操作レバー34,36の外側への開きでブレーキ装置90が作動して、対応する車輪24を制動する。
【0023】
以上が芝刈り車両10の全体構成であり、次にこの芝刈り車両10に搭載される動力伝達ユニット41a(
図3A)を説明する。右の車輪24に右の動力伝達ユニット41aが接続され、左の車輪に左の動力伝達ユニット71a(
図6)が接続される。以下、右の動力伝達ユニット41を中心に説明するが、左の動力伝達ユニット71aの構造は、右の動力伝達ユニット41aの構造と、車両幅方向中央に関し対称である。
【0024】
図2は、右側の車輪24についての別例の動力伝達ユニット41aにおいて、一部を省略して示す斜視図である。
図3Aは、右側の車輪24についての動力伝達ユニット41の断面図である。
図3Bは、
図3Aの後側部分の拡大図である。
図4は、
図3BのG-G断面図である。
図3A、
図3Bは、
図4のH-H断面に相当する。動力伝達ユニット41aは、トランスミッションケース42a(
図3A、
図3B)と、モータケース120と、出力軸60と、走行用のモータ70と、歯車機構80とが一体に組み合わされて形成される。
【0025】
トランスミッションケース42aは、内側に入力軸72と、出力軸60と、歯車機構80とが収容される。歯車機構80は、入力軸72及び出力軸60間で動力を伝達する機構であり、かつ入力軸72から出力軸60に動力を減速して伝達する。入力軸72と出力軸60とは平行に配置される。入力軸72は、後述するモータ70のモータ軸でもある。トランスミッションケース42aは、軸方向一方側である車幅方向内側(左側)を形成する第1ケース115と、軸方向他方側である車幅方向外側(右側)を形成する第2ケース53とが複数のボルト58で結合されることにより一体化される。ここで動力伝達ユニット41aの軸方向とは、入力軸72及び出力軸60に平行な方向であり、車幅方向と一致する。
【0026】
第1ケース115は、車幅方向外側に開口するギヤケース部46を有し、後側部分の軸方向中間部に、モータ70側と歯車機構80側とを仕切る中間壁48が設けられている。
【0027】
中間壁48には、軸方向に延びる筒部としてのボス部48aが設けられ、そのボス部48aの内側に、モータ70のロータ軸としての入力軸72が貫通する孔49が形成される。孔49の内周面には軸受50と、ギヤ室の循環油をモータ室に入れないように封止するためのシール51とが固定される。入力軸72は、孔49の内周面に軸受50により回転可能に支持される。ボス部48aは、入力軸72を支持する軸受50固定用の支持部に相当する。
【0028】
入力軸72の歯車機構80側には、歯車機構80の中間歯車81が噛み合う入力軸歯車部73が直接に形成される。
【0029】
第2ケース53は、車幅方向内側が開口し、車幅方向外側面の一部から軸方向に筒部54が延出される。出力軸60は、この筒部54を貫通する。第1ケース115と第2ケース53とが車幅方向端部の外周縁部を突き合わせるように結合されることでトランスミッションケース42aが形成される。トランスミッションケース42aの内側にはギヤ室S1が形成される。
【0030】
ギヤ室S1には、入力軸72の歯車機構80側部分と、歯車機構80と、出力軸60とが配置される。出力軸60の車幅方向外端部は、筒部54の先端から突出し、その突出した部分にハブ62が固定される。ハブ62には右側の車輪24が固定される。
【0031】
歯車機構80は、入力軸72に形成された入力軸歯車部73と、入力軸72及び出力軸60の間に配置され、外周面に中間歯車81が固定された中間軸82と、出力軸60に固定された出力歯車84とを含み、入力軸歯車部73に中間歯車81が噛み合い、中間軸82の外周面に直接形成された中間軸歯車部83には、出力歯車84が噛み合っている。出力歯車84の歯数は中間軸歯車部83の歯数より多く、中間歯車81の歯数は入力軸歯車部73の歯数より多い。これにより、入力軸72の回転は、歯車機構80で減速されて出力軸60に伝達される。このため、歯車機構80は、入力軸72から出力軸60に動力を減速して伝達する。
【0032】
入力軸72、中間軸82、出力軸60は、それぞれトランスミッションケース42aに設けられた複数の軸受50,55,56,57で回転可能に支持される。
【0033】
また、中間軸82には、後述のようにブレーキ装置90を構成するブレーキロータ110が相対回転不能に設けられる。ブレーキロータ110は、軸方向両側からブレーキシュー93(
図6)とブレーキパッド94(
図6)とが押し付けられることにより、制動トルクが加わって中間軸82を回転停止させる。ブレーキシュー93とブレーキパッド94は押圧部に相当する。
【0034】
トランスミッションケース42aの第1ケース115及び第2ケース53は、鉄、アルミニウム合金等の金属製である。各ケース115,53をアルミニウム合金製とすることにより、トランスミッションケース42aの軽量化を図れる。トランスミッションケース42aのギヤ室S1内には、歯車機構80の潤滑のための油が封入されている。
【0035】
さらに、トランスミッションケース42aの第1ケース115の車幅方向内側端には、モータケース120が突き当てられて第1ケース115に固定される。モータケース120は、軸方向に直交する断面形状が軸方向全体で同じ筒状であり、かつ内側に走行用のモータ70が配置される。具体的には、
図4に示すように、モータケース120は、円筒部121と、円筒部121の外周面の周方向複数位置から突出する断面半円形で軸方向に延びる結合用リブ122と、円筒部121の外周面の周方向複数位置から軸方向に延びるように突出し、周方向の幅が結合用リブ122より小さい補強リブ123,124とを有する。結合用リブ122及び補強リブ123,124は、モータケース120の軸方向全長に形成される。モータケース120の周方向複数位置には、結合用リブ122と円筒部121とにかかるようにボルト59を貫通させる円孔であるボルト孔125が軸方向に貫通して形成される。
【0036】
図5は、
図3Bにおける組付け直前状態を示す分解断面図である。第1ケース115のモータケース120と対向する端面において、モータケース120のボルト孔125と整合する複数位置には、ネジ穴116が形成される。第1ケース115は、カバー65とボルト孔125とを貫通したボルト59のネジ部がネジ穴116に結合されることにより、モータケース120及びカバー65に固定される。モータケース120は、アルミニウムまたは銅を主成分とする金属、または合金から形成される。これにより、モータケース120の熱伝導性を高くできる。さらに、モータケース120を、アルミニウムを主成分とする金属、または合金から形成する場合には、モータケース120の軽量化を図れる。モータケース120は鉄等の他の金属から形成されてもよい。モータケース120を金属製とする場合に、モータケース120は、押出成形によって形成される。
【0037】
モータケース120が、軸方向に直交する断面形状が軸方向全体で同じ筒状であるので、モータケース120を生産性が高い押出成形によって形成することができる。これにより、モータケース120の製造コストを低減できる。さらに、モータケース120を熱伝導性の高い金属により形成する場合には、内側に配置されるモータ70の熱を効率的にモータケース120からトランスミッションケース42に伝達できることにより、放熱部を大きくできるので、モータ70の冷却性能を向上できる。さらに、モータケース120の内側にモータ70を組み付けた構造をサブアッセンブリとして、動力伝達ユニット41aの製造時の組み付け作業の容易化を図れる。
【0038】
なお、モータケース120を樹脂により形成することもできる。この場合も、モータケース120が軸方向に直交する断面形状が軸方向全体で同じ筒状であり、形状が単純であるため、モータケース120の製造型を容易に形成できる。これにより、モータケース120の製造コストを低減できる。
【0039】
図3B、
図4に示すように、モータ70は、例えば永久磁石式の3相モータである。モータ70は、入力軸72においてモータケース120内に位置する部分の外周面に固定されたモータロータ74と、モータロータ74の外周面に対向するステータコア75と、ステータコア75に巻回して配置された3相のステータコイル76とを有する。モータロータ74は、例えばロータコアの周方向複数位置に配置された永久磁石を有する。ステータコア75は、モータケース120の内側に固定される。ステータコイル76にバッテリから3相の交流電力が供給されることにより、ステータコア75に発生した回転磁界と、モータロータ74が生成する磁界との相互作用によりモータ軸である入力軸72が回転する。
【0040】
モータケース120における軸方向に直交する断面形状が軸方向全体で同じ筒状であるため、モータケース120内にステータコア75を組み付けるにあたって、ステータコア75の軸方向位置は、ステータコア75の外径よりもやや小さな外径で軸方向に所定の厚みを有する治具(図示せず)をステータコア75に重ねてモータケース120に圧入することにより、ステータコア75は治具の厚み寸法分だけモータケース120の内部に位置決め固定される。
【0041】
モータケース120には、モータケース120の軸方向外端である車幅方向内端の開口を塞ぐカバー65が、複数のボルト(図示せず)により固定される。カバー65は、鉄またはアルミニウム合金等の金属製である。カバー65の軸方向内側には軸方向に延出される筒部66が形成され、筒部66の内側には、入力軸72の車幅方向内端部を回転可能に支持する軸受61が固定される。カバー65の車幅方向外側面には凹部67が形成され、凹部67の開口端周辺部には、樹脂または金属等により板状に形成されたキャップ68が固定される。これによって、凹部67内への外部からの異物の侵入が防止されている。
【0042】
凹部67内には、入力軸72の回転速度を検出する回転速度検出装置69が設けられる。回転速度検出装置69の代わりに、入力軸72の回転角度を検出する角度検出装置が配置されてもよい。回転速度検出装置69及び角度検出装置の検出信号は、ケーブル69aを介して制御装置に出力される。回転速度検出装置69の検出信号は、制御装置でモータ70の出力制御等に利用される。角度検出装置の検出信号が制御装置に出力される場合には、制御装置でその検出信号に基づいて入力軸72の回転速度を算出する。回転速度検出装置69及び角度検出装置は、例えばレゾルバを含んで構成される。
【0043】
入力軸72について、さらに詳しく説明する。入力軸72は、モータ軸と歯車機構80の入力軸とが一体化された構造を有する。
図3B、
図4に示すように、モータロータ74の内周面にはキー突部74aが形成され、入力軸72のモータ70側の外周面には、キー溝72aが形成される。キー溝72aにキー突部74aが係止されることにより、入力軸72に対するモータロータ74の回転が阻止される。入力軸72の歯車機構80側の外周面には、入力軸歯車部73が直接に形成される。
【0044】
図6は、左右2つの車輪24についての
図3BのI-I断面に対応する図である。ブレーキロータ110には、制動力発生部92から制動力が加えられる。制動力発生部92は、第1ケース43の上部において上下方向に沿って配置されたカム軸96と、ブレーキシュー93と、ブレーキパッド94と、ブレーキアーム95とを備える。
【0045】
具体的には、歯車機構80を構成する中間軸82には、多板式のブレーキロータ110が相対回転不能に嵌合される。ブレーキ装置90aは、ブレーキロータ110と、制動力発生部92とにより構成される。より具体的には、
図3A、
図3Bに示すように、中間軸82の外周面に直接形成された中間軸歯車部83に、ブレーキロータ110を形成する複数枚のロータプレート111の中心孔に形成された雌スプライン部111aが噛み合って相対回転不能に篏合されている。ロータプレート111は、中間軸歯車部83に対し若干の軸方向の摺動が可能である。これにより、中間軸82にブレーキロータ110が相対回転不能に設けられる。複数枚のロータプレート111の間には、トランスミッションケースに軸方向に移動可能に支持された固定側プレート112が配置される。なお、
図2では図示の簡略化のために、ロータプレート111及び固定側プレート112をそれぞれ1つのみ示している。
【0046】
一方、制動力発生部92を構成するカム軸96は、上下方向に延びて、トランスミッションケース42に回転可能に支持され、その上側部分はトランスミッションケース42aの上側面から突出している。このために、第1ケース115において中間軸82と前後方向に一致する位置の上端部には、カム軸96を嵌合する貫通孔115aが形成される。貫通孔115aの上側部分は、下側部分より大径となっており、内部に2つのOリング98が設けられ、貫通孔115aとカム軸96の外周面との間をシールする。Oリング98は1つのみが設けられてもよい。一方、ギヤ室S1内において、カム軸96の下側には、カム面97を有する断面視半円状の部分が形成される。カム面97は、トランスミッションケース42aの軸方向に移動可能なブレーキシュー93と対向する。ブレーキシュー93は、カム軸96とブレーキロータ91との間に配置される。
【0047】
ブレーキパッド94は、トランスミッションケース42の壁に装着される。ブレーキロータ91は、ブレーキシュー93とブレーキパッド94との間に配置される。カム面97がブレーキシュー93と平行に配置される場合にはブレーキシュー93がブレーキロータ91から離れて非制動状態となる。一方、カム軸96が回転してカム面97がブレーキシュー93に対し傾斜した場合には、カム面97がブレーキシュー93に押し付けられる。これにより、ブレーキロータ91がブレーキパッド94とブレーキシュー93で両側から挟まれることにより、ブレーキロータ91及び入力軸72から動力が伝達される車輪24が制動する。
【0048】
ブレーキアーム95は、カム軸96の上端部にカム軸96に対し直交する方向に取り付けられて固定された長尺状の部材である。ブレーキアーム95の先端部には、操作レバー34,36(
図1)の下端部がリンク機構(図示せず)を介して連結される。トランスミッションケース42aの外側面におけるカム軸96の周囲と、ブレーキアーム95との間にはバネ99が配置される。バネ99の両端部が、ブレーキアーム95に固定され下側に突出する第1係合ピン100と、トランスミッションケース42に固定され上側に突出する第2係合ピン101とに係合する。これにより、カム軸96は、カム面97とブレーキシュー93とが平行になって非制動となるように、バネ99からブレーキアーム95を介して第1回転方向に付勢される。一方、操作レバー34,36が駐車ブレーキ位置に操作された場合には、ブレーキアーム95の先端部が、バネ99の付勢力に抗して移動して、カム軸96が、カム面97がブレーキシュー93に対し傾斜してブレーキシュー93をブレーキロータ91に押し付ける第2回転方向に回転する。第2回転方向は第1回転方向と逆方向である。これにより、ブレーキ装置90aが制動状態となって、ブレーキロータ110及び車輪24の回転が停止し、その状態が維持される。なお、ブレーキロータは、中間軸でなく入力軸の歯車機構側に設けられ、軸方向両側からブレーキシューとブレーキパッドとが両側から押し付けられて、入力軸を回転停止させ、車輪を制動する構成としてもよい。
【0049】
第1ケース43の入力軸72に関して、カム軸96が嵌合する上側の貫通孔115aと反対側の下端部には下側の貫通孔115bが形成され、その貫通孔115bが栓102で塞がれる。2つの貫通孔115a、115bの形状は同じであり、トランスミッションケース42aの上下方向の向きを逆にした場合に、
図6で下側の貫通孔115bが上側になってカム軸96を嵌合でき、
図6で上側の貫通孔115aが下側となって栓102を取り付け可能となっている。
【0050】
図7は、
図3BのJ-J断面図である。トランスミッションケース42aの第1ケース115において、入力軸72の上側と下側とには、上下方向に貫通する2つの貫通孔115c、115dが形成される。上側の貫通孔115cにはエアブリーザ装置105が貫通して取り付けられる。エアブリーザ装置105は、水等の液体や塵等が上側から侵入することを防止すると共に、ギヤ室S1の内部の空気をトランスミッションケース42aの外部と吸排可能とするために設けられる。ギヤ室S1の内圧が上昇すると、エアブリーザ装置105を通じてトランスミッションケース42aの外側に空気が排出されることで内圧の過度な上昇を防止できる。下側の貫通孔115dは、栓106によって塞がれる。2つの貫通孔115c、115dの形状は同じであり、トランスミッションケース42aの上下方向の向きを逆にした場合には、
図7で下側の貫通孔115dが上側になってエアブリーザ装置105を装着でき、
図7で上側の貫通孔115cが下側となって栓106を取り付け可能となっている。
【0051】
上記の動力伝達ユニット41a,71aによれば、トランスミッションケース42aの歯車機構80側と反対側でトランスミッションケース42aに装着されるモータケース120は、軸方向に直交する断面形状が軸方向全体で同じ筒状であり、かつ内側にモータ70が配置される。これにより、トランスミッションケース42aにモータケース120が装着された動力伝達ユニット41a、71aにおいて、製造コストを低減できる。
【0052】
さらに、入力軸72はモータロータ74が外周面に固定されるモータ軸であり、入力軸72の歯車機構80側に歯車機構80の中間歯車81が噛み合う入力軸歯車部73が直接に形成されている。これにより、モータ軸と入力軸とを異なる2部材として、互いに継手を介して接続する必要がないので、軸方向についての動力伝達ユニット41a,71aの長さを小さくできる。さらにモータ軸と入力軸とを異なる2部材とする場合と異なり、部品点数を少なくできると共に、部品の組付け工数低減により製造コストを低減できる。さらに、入力軸72の入力軸歯車部73を小径化できるので、動力伝達ユニット41a,71a全体を小型化できる。
【0053】
(実施形態の別例)
図8~
図10は、実施形態の別例の動力伝達ユニット41bを示している。
図8は、別例の動力伝達ユニット41bにおいて、
図3Bに対応する図である。
図9は、
図8のK-K断面図である。
図8は、
図9のL-L断面に相当する。
図10は、
図8の組付け直前状態を示しており、一部を省略して示す分解断面図である。本例の構成では、
図1~
図7の構成と異なり、モータケース120aが単なる円筒状に形成され、外周面に結合用リブや補強リブは設けられない。このため、
図10に示すように、第1ケース115とキャップ68とでモータケース120aを挟んだ状態で、キャップ68を貫通しモータケース120の外周面より外側の空間を通過したボルト59を、第1ケース115のネジ穴116に結合することで、第1ケース115と、モータケース120aと、キャップ68とが固定される。
【0054】
本例の場合には、
図1~
図7の構成よりも、モータケース120aの形状がさらに単純化するので、押出成形を行うときの製造型をより単純化できることにより、モータケース120の製造コストをさらに低減できる。本例において、その他の構成及び作用は、
図1~
図7の構成と同様である。
【符号の説明】
【0055】
10 車両、18,20 キャスタ輪、24 車輪、41 動力伝達ユニット、42a トランスミッションンケース、60 出力軸、70 モータ、72 入力軸、80 歯車機構、82 中間軸、90a ブレーキ装置、110 ブレーキロータ。