(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131391
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】ズームレンズ及び撮像装置
(51)【国際特許分類】
G02B 15/20 20060101AFI20220831BHJP
G02B 13/18 20060101ALN20220831BHJP
【FI】
G02B15/20
G02B13/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030318
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】阿部 真悟
【テーマコード(参考)】
2H087
【Fターム(参考)】
2H087KA02
2H087KA03
2H087MA14
2H087MA15
2H087PA10
2H087PA11
2H087PA12
2H087PA18
2H087PA19
2H087PB12
2H087PB13
2H087QA02
2H087QA07
2H087QA17
2H087QA22
2H087QA25
2H087QA26
2H087QA34
2H087QA37
2H087QA42
2H087QA45
2H087QA46
2H087RA05
2H087RA12
2H087RA13
2H087RA36
2H087RA42
2H087RA44
2H087SA24
2H087SA26
2H087SA30
2H087SA32
2H087SA44
2H087SA46
2H087SA49
2H087SA53
2H087SA55
2H087SA57
2H087SA62
2H087SA63
2H087SA64
2H087SA65
2H087SA66
2H087SB04
2H087SB05
2H087SB13
2H087SB16
2H087SB22
2H087SB24
2H087SB32
2H087SB34
2H087SB44
(57)【要約】
【課題】大口径、且つ、小型で高い結像性能を有するズームレンズ及び当該ズームレンズを有する撮像装置を提供する。
【解決手段】最も物体側に、負の屈折力を有する第1レンズ群G1を備え、第1レンズ群G1より像側に、正の屈折力を有する正レンズ群Pa(G3)と、負の屈折力を有する負レンズ群N(G4)と、正の屈折力を有する正レンズ群Pb(G5)とを物体側から当該順序で備え、広角端から望遠端への変倍時に、第1レンズ群G1は像側へ移動し、正レンズ群Pa及び前記正レンズ群Pbは同一の軌跡で物体側へ移動し、隣合うレンズ群の光軸上の間隔を変化させることで変倍し、負レンズ群Nを像側へ移動させることで、無限遠から有限距離物体へ合焦し、所定の条件式を満足することを特徴とするズームレンズ及び当該ズームレンズを備えた撮像装置とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最も物体側に、負の屈折力を有する第1レンズ群を備え、
前記第1レンズ群より像側に、正の屈折力を有する正レンズ群Paと、負の屈折力を有する負レンズ群Nと、正の屈折力を有する正レンズ群Pbとを物体側から当該順序で備え、
広角端から望遠端への変倍時に、前記第1レンズ群は像側へ移動し、前記正レンズ群Pa及び前記正レンズ群Pbは同一の軌跡で物体側へ移動し、隣合うレンズ群の光軸上の間隔を変化させることで変倍し、
前記負レンズ群Nを像側へ移動させることで、無限遠から有限距離物体へ合焦し、
以下の条件を満足することを特徴とするズームレンズ。
0.80<(Rnf+Rnr)/(Rnf-Rnr)<1.40 ・・・(1)
-1.20< fn/ft <-0.50 ・・・(2)
但し、
Rnf:前記負レンズ群Nにおいて最も物体側の面の曲率半径
Rnr:前記負レンズ群Nにおいて最も像側の面の曲率半径
fn :前記負レンズ群Nの焦点距離
ft :望遠端における当該ズームレンズの焦点距離
【請求項2】
以下の条件を満たす請求項1に記載のズームレンズ。
-5.40 <(1-βnt2)×βrt2 < -2.40 ・・・(3)
但し、
βnt:前記負レンズ群Nの望遠端における横倍率
βrt:前記負レンズ群Nより像側に位置する全てのレンズ群の望遠端における合成横倍率
【請求項3】
前記第1レンズ群と、前記正レンズ群Paとの間に絞りを備える請求項1又は請求項2に記載のズームレンズ。
【請求項4】
前記負レンズ群Nは1つのレンズ要素からなり、以下の条件を満たす請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のズームレンズ。
vdn > 50 ・・・(4)
但し、
vdn:前記負レンズ群Nを構成するレンズ要素のアッベ数
【請求項5】
以下の条件を満たす請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のズームレンズ。
-1.60 ≦ XF/XR ≦ -0.30 ・・・(5)
但し、
XF:前記第1レンズ群の広角端から望遠端への変倍時の光軸上の移動距離
XR:前記正レンズ群Paの広角端から望遠端への変倍時の光軸上の移動距離
【請求項6】
以下の条件を満たす請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のズームレンズ。
0.70 < Ymax/BFw < 1.60 ・・・(6)
但し、
Ymax:当該ズームレンズの最大像高
BFw :当該ズームレンズの広角端における無限遠合焦時のバックフォーカス
【請求項7】
前記正レンズ群Pbは非球面形状のレンズ面を少なくとも1面有し、以下の条件を満たす請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のズームレンズ。
0.50 < βprt/βprw < 1.70 ・・・(7)
但し、
βprw:広角端における前記正レンズ群Pbの横倍率
βprt:望遠端における前記正レンズ群Pbの横倍率
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のズームレンズと、当該ズームレンズの像側に当該ズームレンズによって形成された光学像を電気的信号に変換する撮像素子とを備えたことを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、ズームレンズ及び撮像装置に関し、特に、固体撮像素子等を用いた小型の撮像装置に好適なズームレンズ及び撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ等の固体撮像素子を用いた撮像装置が普及している。撮像装置の光学系として、例えば、物体側から順に負の屈折力を有する第1レンズ群、正の屈折力を有する第2レンズ群、負の屈折力を有する第3レンズ群、正の屈折力を有する第4レンズ群を備える広角乃至標準ズームレンズが知られている(例えば、特許文献1~特許文献3参照)。このような光学構成を採用することで、諸収差を良好に補正しつつ、全体をコンパクトに構成することができる。
【0003】
また、上記ズームレンズでは、変倍時に、第2レンズ群と第4レンズ群を同一の軌跡で移動させている。そのため、これらのズームレンズでは、これら2つの正レンズ群を一つのユニットとして構成することが可能になる。両レンズ群をユニット化することで、組立時の偏芯誤差等が生じるのを抑制することができ、製造誤差を低減することができると共に、歩留まりを向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-21258号公報
【特許文献2】特開2014-26211号公報
【特許文献3】特開2009-169051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ズームレンズは単焦点レンズと比較すると、構成するレンズ枚数が多いため暗いレンズになりやすい。また、変倍時に上記2つの正レンズ群を一つのユニットとして構成すると、上述のとおり偏芯誤差や製造誤差を低減する上では有利であるが、高い光学性能を維持しつつ、大口径化や小型化を図る上では制約が生じる。例えば、特許文献1及び特許文献2に開示のズームレンズは望遠端におけるFnoが5.8程度であり、大口径化が図られていない。一方、特許文献3に開示のズームレンズはFnoが2.8であり大口径である。しかしながら、当該ズームレンズでは合焦時に複数のレンズ群を移動させており、合焦時及び変倍時におけるレンズ群の移動機構が複雑になっている。そのため、当該ズームレンズは十分に小型化されていない。
【0006】
本件発明の課題は、大口径、且つ、小型で光学性能の高い広角乃至標準系のズームレンズ及び撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本件発明に係るズームレンズは、最も物体側に、負の屈折力を有する第1レンズ群を備え、前記第1レンズ群より像側に、正の屈折力を有する正レンズ群Paと、負の屈折力を有する負レンズ群Nと、正の屈折力を有する正レンズ群Pbとを物体側から当該順序で備え、広角端から望遠端への変倍時に、前記第1レンズ群は像側へ移動し、前記正レンズ群Pa及び前記正レンズ群Pbは同一の軌跡で物体側へ移動し、隣合うレンズ群の光軸上の間隔を変化させることで変倍し、前記負レンズ群Nを像側へ移動させることで、無限遠から有限距離物体へ合焦し、以下の条件を満足することを特徴とする。
0.80<(Rnf+Rnr)/(Rnf-Rnr)<1.40 ・・・(1)
-1.20< fn/ft <-0.50 ・・・(2)
但し、
Rnf:前記負レンズ群Nにおいて最も物体側の面の曲率半径
Rnr:前記負レンズ群Nにおいて最も像側の面の曲率半径
fn :前記負レンズ群Nの焦点距離
ft :望遠端における当該ズームレンズの焦点距離
【0008】
また、上記課題を解決するために本件発明に係る撮像装置は、上記ズームレンズと、当該ズームレンズの像側に当該ズームレンズによって形成された光学像を電気的信号に変換する撮像素子とを備えたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1のズームレンズの無限遠合焦時のレンズ断面図である。但し、上段は広角端、中段は中間焦点距離、下段は望遠端を示す(以下、同様である)。
【
図2】実施例1のズームレンズの広角端における無限遠合焦時の収差図である。
【
図3】実施例1のズームレンズの中間焦点距離における無限遠合焦時の収差図である。
【
図4】実施例1のズームレンズの望遠端における無限遠合焦時の収差図である。
【
図5】実施例2のズームレンズの無限遠合焦時のレンズ断面図である。
【
図6】実施例2のズームレンズの広角端における無限遠合焦時の収差図である。
【
図7】実施例2のズームレンズの中間焦点距離における無限遠合焦時の収差図である。
【
図8】実施例2のズームレンズの望遠端における無限遠合焦時の収差図である。
【
図9】実施例3のズームレンズの無限遠合焦時のレンズ断面図である。
【
図10】実施例3のズームレンズの広角端における無限遠合焦時の収差図である。
【
図11】実施例3のズームレンズの中間焦点距離における無限遠合焦時の収差図である。
【
図12】実施例3のズームレンズの望遠端における無限遠合焦時の収差図である。
【
図13】実施例4のズームレンズの無限遠合焦時のレンズ断面図である。
【
図14】実施例4のズームレンズの広角端における無限遠合焦時の収差図である。
【
図15】実施例4のズームレンズの中間焦点距離における無限遠合焦時の収差図である。
【
図16】実施例4のズームレンズの望遠端における無限遠合焦時の収差図である。
【
図17】実施例5のズームレンズの無限遠合焦時のレンズ断面図である。
【
図18】実施例5のズームレンズの広角端における無限遠合焦時の収差図である。
【
図19】実施例5のズームレンズの中間焦点距離における無限遠合焦時の収差図である。
【
図20】実施例5のズームレンズの望遠端における無限遠合焦時の収差図である。
【
図21】実施例6のズームレンズの無限遠合焦時のレンズ断面図である。
【
図22】実施例6のズームレンズの広角端における無限遠合焦時の収差図である。
【
図23】実施例6のズームレンズの中間焦点距離における無限遠合焦時の収差図である。
【
図24】実施例6のズームレンズの望遠端における無限遠合焦時の収差図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本件発明に係るズームレンズ及び撮像装置の実施の形態を説明する。但し、以下に説明する当該ズームレンズ及び撮像装置は本件発明に係るズームレンズ及び撮像装置の一態様であって、本件発明に係るズームレンズ及び撮像装置は以下の態様に限定されるものではない。
【0011】
1.ズームレンズ
1-1.光学構成
本実施の形態のズームレンズは、最も物体側に、負の屈折力を有する第1レンズ群を備え、第1レンズ群より像側に、正の屈折力を有する正レンズ群Paと、負の屈折力を有する負レンズ群Nと、正の屈折力を有する正レンズ群Pbとを物体側から順に当該順序で備えている。
【0012】
当該ズームレンズは、上記屈折力配置を採用することにより、広角端における画角を広げつつ、変倍時の収差補正を容易にすることができる。そのため、小型で光学性能の高い広角乃至標準系のズームレンズを実現することができる。
【0013】
ここで、当該ズームレンズは上記第1レンズ群と、第1レンズ群より像側に、物体側から順に隣接配置される正レンズ群Pa、負レンズ群N及び正レンズ群Pbを備えていればよい。当該ズームレンズはこの4つのレンズ群から実質的に構成されてもよいし、その他のレンズ群を備えていてもよい。例えば、物体側から順に、負・正・負・正の屈折力配置を有する4群構成、物体側から順に、負・負・正・負・正の屈折力配置、又は、負・正・正・負・正の屈折力配置を有する5群構成、物体側から順に、負・負・正・正・負・正の屈折力配置又は負・正・正・負・正・正の屈折力配置を有する6群構成等、種々の構成を採用し得る。いずれの構成においても、変倍に際して、隣り合うレンズ群の光軸上の間隔を変化させることで、収差補正が容易になり、変倍域全域において光学性能の高いズームレンズを実現することができる。但し、当該ズームレンズの小型化を図るという観点からは当該ズームレンズを実質的に構成するレンズ群の数は6以下であることが好ましい。
【0014】
(1)第1レンズ群
第1レンズ群は当該ズームレンズにおいて最も物体側に配置されるレンズ群であり、広角端から望遠端への変倍時に像側へ移動する。最も物体側に負の屈折力を有するレンズ群を配置したいわゆる負先行型のズームレンズは、近接撮影距離を短くすることができ、広画角化が比較的容易である。このような負先行型の屈折力配置ではバックフォーカスを確保することが比較的容易なため、一眼レフレックスカメラ用の光学系として好適である。一方、ミラーレス一眼カメラ等のレフレックスミラーを配置する必要のない撮像装置用の光学系では、一眼レフレックスカメラ用の光学系と比較するとバックフォーカスが短くてもよい。バックフォーカスが短くてもよい撮像装置の光学系では、負先行型の屈折力配置を採用した場合も対称形に近いレンズ構成を採用することができる。非対称形のレンズ構成では大口径化を図ると、歪曲収差などの諸収差の補正を良好に行うにはレンズ設計が複雑になり、小型であり、且つ、良好な結像性能を維持しつつ、大口径化を図ることが困難な場合があった。一方、対称形に近いレンズ構成では、大口径化を図ったときも歪曲収差等の補正を行うことが比較的容易になる。そのため、当該ズームレンズをミラーレス一眼カメラ等の光学系とすることで、小型であり、且つ、良好な結像性能を維持しつつ、大口径化を図ることが容易になる。
【0015】
当該第1レンズ群は負の屈折力を有する限り、その具体的なレンズ構成は特に限定されるものではない。最も物体側に負の屈折力を有する第1レンズ群を備える広角乃至標準ズームレンズでは、第1レンズ群に入射する最大軸外光束の光線高さ、すなわち、第1レンズ群に対する最大軸外光束の入射位置は高くなるため、軸外光線はレンズの周辺部に入射する。そのため、当該ズームレンズを小型に維持した状態で、広角端においてより広い画角を実現するには、負の屈折力を有するレンズを複数枚用いて構成することが好ましい。特に、第1レンズ群を構成する負の屈折力を有するレンズのうち、少なくとも1枚、好ましくは2枚以上のレンズを像側に凹形状のメニスカスレンズとすることが好ましい。このような構成を採用することで、第1レンズ群に強い負の屈折力を配置しつつ、軸外光線が第1レンズ群を構成する各面を通過する際に強く屈曲することを防ぐことができる。そのため、像面湾曲や歪曲収差等の発生を小さくすることができ、像面特性の良好なズームレンズを得ることができる。また、像面特性を向上させる上で、第1レンズ群内のレンズのうち、少なくとも1枚は非球面を1面以上備えることが好ましい。
【0016】
また、当該第1レンズ群は、球面収差やコマ収差等の諸収差を良好に補正するため、少なくとも1枚の正の屈折力を有するレンズを有することが好ましい。
【0017】
なお、当該第1レンズ群より物体側に、屈折力を有さない、若しくは屈折力の極めて小さい光学素子が配置されていてもよい。そのような光学素子として、例えば、レンズを汚れやキズなどから保護するための保護フィルターや、入射光量を低下させるために用いられるNDフィルターや、色彩を調整するためのPLフィルター等の種々のフィルターが挙げられる。
【0018】
(2)正レンズ群Pa及び正レンズ群Pb
正レンズ群Pa及び正レンズ群Pbはそれぞれ正の屈折力を有する。また、正レンズ群Paと正レンズ群Pbとは、広角端から望遠端への変倍時に同一の軌跡で物体側に移動する。正の屈折力を有する正レンズ群Pa及び正レンズ群Pbを同じ軌跡で移動させることで、正レンズ群Paと正レンズ群Pbとを一つのユニットとして構成することが可能になる。そのため、正レンズ群Paと正レンズ群Pbとを別々の軌跡で移動させる場合と比較すると、変倍時に各レンズ群を移動させるための変倍機構を簡素に構成することができる。さらに、組立時に偏芯誤差等が生じるのを抑制することができ、製造誤差を低減することができると共に、歩留まりを向上することができる。
【0019】
正レンズ群Pa及び正レンズ群Pbはそれぞれ正の屈折力を有する限り、その具体的なレンズ構成は特に限定されるものではない。当該ズームレンズにおいて像側に配置される。当該ズームレンズの変倍動作に伴い、正レンズ群Pbに入射する最大軸外光束の光線高さは変動する。すなわち、広角端と望遠端では正レンズ群Pbに入射する最大軸外光束の光線高さが異なる。そのため、コマ収差及び像面湾曲等を良好に補正するため、正レンズ群Pbは非球面を少なくとも1面含むことが好ましい。
【0020】
(3)負レンズ群N
負レンズ群Nは負の屈折力を有し、正レンズ群Paと正レンズ群Pbとの間にこれらのレンズ群と隣接配置され、変倍に際して正レンズ群Paと負レンズ群Nとの光軸上の間隔及び負レンズ群Nと正レンズ群Pbとの光軸上の間隔が変化する限り、その具体的なレンズ構成は特に限定されるものではない。例えば、負レンズ群Nは、1つのレンズ要素から構成されることが好ましい。ここで、レンズ要素とは、1枚の単レンズ、或いは、空気間隔を介することなく複数の単レンズを一体化した接合レンズなどをいう。すなわち、ここでいう1つのレンズ要素とは、複数の光学面を有する場合であっても、その最物体側面及び最像側面のみ空気と接し、その他の面は空気とは接していないものをいう。また、当該明細書において、単レンズは、球面レンズ及び非球面レンズのいずれであってもよい。また、非球面レンズには、表面に非球面フィルムが貼設されたいわゆる複合非球面レンズも含まれるものとする。
【0021】
負レンズ群Nを1つのレンズ要素から構成することにより、偏芯誤差や、複数のレンズ要素間の空気間隔の誤差等、種々の製造誤差を小さくすることができる。そのため、製造誤差に起因する光学性能の低下を小さくすることができ、製品毎の性能のバラツキを小さくすることができる。従って、光学性能の高いズームレンズを歩留まりよく製造することができる。
【0022】
変倍に際して、負レンズ群Nと正レンズ群Paとの光軸上の間隔、及び、負レンズ群Nと正レンズ群Pbとの光軸上の間隔を変化せることによって、ズーム全域において諸収差を良好に補正することができ、変倍比の大きなズームレンズを実現することが可能となる。さらに、負レンズ群Nと正レンズ群Paとの光軸上の間隔、及び、負レンズ群Nと正レンズ群Pbとの光軸上の間隔を変化させることによって、変倍時の像面性を良好に保つことが可能になる。
【0023】
さらに、当該ズームレンズでは、当該負レンズ群Nを合焦群として用い、当該負レンズ群Nを光軸に沿って移動させることで無限遠から近接物体に合焦させる。上述のように、正レンズ群Paと正レンズ群Pbとを一つのユニットとして構成した場合、負レンズ群Nを当該ユニットに対して移動可能に支持させることにより、変倍時及び合焦時に負レンズ群Nをステッピングモータや超音波ピエゾモータ等により直接駆動させたときも、負レンズ群Nの移動に伴う偏芯誤差を抑制することができる。そのため、被写体の位置に応じて撮影距離が変化しても、偏芯誤差に伴う収差変動を抑制し、撮影距離によらず秀麗な被写体像を得ることができる。
【0024】
また、上述のように負レンズ群Nを1つのレンズ要素で構成すれば、より軽量な合焦群とすることができ、合焦群の制御性を良好にすることができ、迅速なオートフォーカスを実現することが可能となる。
【0025】
(4)開口絞り
当該ズームレンズにおいて、開口絞りの配置は特に限定されるものではないが、当該ズームレンズの小型化と大口径化とを図る上で、第1レンズ群と正レンズ群Paとの間に開口絞りが配置されることが好ましい。当該ズームレンズでは、最も物体側に負の屈折力を有する第1レンズ群を備える。そのため、正レンズ群Paよりも像側に開口絞りを配置すると、当該ズームレンズ全系において入射瞳位置が像側に位置することになる。入射瞳位置が像側に位置すると、前玉径が大きくなり、当該ズームレンズの小型化が困難になる。また、この場合、軸外光束を十分に通すことが難しくなり、周辺光量を確保しつつ、当該ズームレンズの大口径化を図ることが困難になる。
【0026】
第1レンズ群と正レンズ群Paとの間に、一又は複数のレンズ群が配置される場合は、第1レンズ群の最も像側のレンズ面と正レンズ群Paの最も物体側のレンズ面との間に、開口絞りが配置されればよく、この間であれば開口絞りの位置は特に限定されるものではない。但し、この場合、上記効果を得る上では、正レンズ群Paの物体側直前に配置されるレンズ群と、正レンズ群Paとの間に開口絞りが配置されるとより好ましい。
【0027】
(5)変倍時の動作
当該ズームレンズにおいて、隣り合うレンズ群の光軸上の間隔を変化させることにより変倍する。その際、上述したとおり、広角端から望遠端への変倍時第1レンズ群は像側に移動し、正レンズ群Pa及び正レンズ群Pbは同じ軌跡で物体側に移動するものとする。これらの点を除いて、変倍時における各レンズ群の移動の向きや移動量は特に限定されるものではない。また、隣り合うレンズ群の光軸上の間隔が変化していれば、各レンズ群は変倍時に光軸に沿って移動する移動群であってもよいし、撮像面に対して固定される固定群であってもよい。
【0028】
1-2.条件式
当該ズームレンズでは、上述した構成を採用するとともに、次に説明する条件式を1つ以上満足することが好ましい。
【0029】
1-2-1.条件式(1)
0.80<(Rnf+Rnr)/(Rnf-Rnr)<1.40 ・・・(1)
但し、
Rnf:負レンズ群Nにおいて最も物体側の面の曲率半径
Rnr:負レンズ群Nにおいて最も像側の面の曲率半径
【0030】
条件式(1)は、負レンズ群Nの入射面と射出面の形状を規定する式である。条件式(1)を満足させることにより、変倍時の球面収差や像面湾曲、歪曲収差の変動を抑制し、これら諸収差の補正を良好に行うことが可能になる。そのため、負レンズ群Nの前後に配置される正レンズ群Pa及び正レンズ群Pbを変倍時に同一の軌跡で移動させたときも、収差変動を抑制し、結像性能の高いズームレンズを得ることができる。また、当該負レンズ群Nを合焦群として用いる場合に、近接物体に合焦する際の球面収差の変動を抑制することができ、合焦域全域において光学性能の高いズームレンズを実現することができる。
【0031】
これに対して、条件式(1)の数値が下限値以下になると、正レンズ群Paにより収斂された光線を負レンズ群Nの入射面において跳ね上げる作用が大きくなる。この場合、変倍時及び合焦時における球面収差の変動が大きくなるため、光学性能の高いズームレンズを得るには、変倍時に正レンズ群Paと正レンズ群Pbとを同一の軌跡で移動させることが困難になる。そのため、正レンズ群Pa及び正レンズ群Pbを一つのユニットとして構成することができなくなり、変倍時において各レンズ群を移動させるための機構が複雑になり、鏡筒の構成も複雑化して、当該ズームレンズユニット全体の小型化が困難になる。一方、条件式(1)の数値が上限値以上になると、負レンズ群Nの射出面において軸外光線を跳ね上げる作用が大きくなる。この場合、変倍時及び合焦時における像面湾曲や歪曲収差の変動が大きくなる。そのため、変倍時に正レンズ群Pa及び正レンズ群Pbを同一の軌跡で移動させることができなくなり、上記と同様の理由から、当該ズームレンズユニット全体の小型化が困難になる。
【0032】
上記効果を得る上で、条件式(1)の下限値は、0.85であることが好ましく、0.90であることがより好ましい。また、条件式(1)の上限値は、1.35であることが好ましく、1.30であることがより好ましく、1.25であることがさらに好ましい。なお、当該条件式(1)において、上記下限値及び上限値の好ましい数値を適宜選択することができ、その場合、条件式(1)における不等号(<)を等号付不等号(≦)に変換してもよい。他の条件式についても同様である。
【0033】
1-2-2.条件式(2)
-1.20< fn/ft <-0.50 ・・・(2)
但し、
fn :負レンズ群Nの焦点距離
ft :望遠端における当該ズームレンズの焦点距離
【0034】
条件式(2)は、負レンズ群Nの焦点距離と望遠端における当該ズームレンズの焦点距離との比を規定する式である。条件式(2)を満足させることにより、負レンズ群Nの屈折力が適正な範囲内となり、変倍時における負レンズ群Nの移動量を適正な範囲内にすることができ、小型で、変倍域全域において光学性能の高いズームレンズを実現することができる。
【0035】
これに対して、条件式(2)の数値が下限値以下になると、負レンズ群Nの屈折力が弱くなり、変倍域全域において良好な収差補正を行うには、変倍時における負レンズ群Nの移動量を大きくする必要がある。そのため、高い光学性能を維持しつつ、当該ズームレンズの小型化を図ることが困難になるため、好ましくない。一方、条件式(2)の数値が上限値以上になると、負レンズ群Nの屈折力が強くなり、変倍時における負レンズ群Nの移動量を小さくすることができる。しかしながら、負レンズ群Nの屈折力が強くなると、負レンズ群Nの移動に伴う収差変動が大きくなる。光学性能の高いズームレンズを得るには、変倍時に正レンズ群Paと正レンズ群Pbとを同一の軌跡で移動させることが困難になり、上記と同様の理由から当該ズームレンズユニット全体の小型化が困難になる。
【0036】
上記効果を得る上で、条件式(2)の下限値は、-1.10であることが好ましく、-1.00であることがより好ましい。また、条件式(2)の上限値は、-0.55であることが好ましく、-0.60であることがより好ましい。
【0037】
1-2-3.条件式(3)
-5.40 <(1-βnt2)×βrt2 < -2.40 ・・・(3)
但し、
βnt:負レンズ群Nの望遠端における横倍率
βrt:負レンズ群Nより像側に位置する全てのレンズ群の望遠端における合成横倍率
【0038】
条件式(3)は、負レンズ群Nの敏感度を規定するための式である。ここで、敏感度とは、レンズ群が単位量移動したときの結像面の移動量を表す。負レンズ群Nを合焦群として用いるとき、当該条件式(3)を満足させることにより、無限遠から近接物体へ合焦する際の負レンズ群Nの移動量を適正な範囲内にすることができ、合焦時における負レンズ群Nの移動位置の制御が容易になると共に、当該ズームレンズの小型化を図ることが容易になる。
【0039】
これに対して、条件式(3)の数値が下限値以下になると、負レンズ群Nの敏感度が高くなる。そのため、当該負レンズ群Nを合焦群として用いたときに、近接物体に合焦させる際の負レンズ群Nの移動量が小さくなるため、合焦時における負レンズ群Nの移動位置の制御を極めて高精度に行う必要が生じ、制御が困難になる場合がある。一方、条件式(3)の数値が上限値以上になると、負レンズ群Nの敏感度が低くなるため、当該負レンズ群Nを合焦群として用いたときに、合近接物体に合焦させる際の負レンズ群Nの移動量が大きくなる。そのため、当該ズームレンズの小型化を図ることが困難になる。
【0040】
上記効果を得る上で、条件式(3)の下限値は、-5.00であることが好ましく、-4.60であることがより好ましい。また、条件式(3)の上限値は、-2.55であることが好ましく、-2.70であることがより好ましい。
【0041】
1-2-4.条件式(4)
負レンズ群Nが1つのレンズ要素からなるとき、以下の条件を満足することが好ましい。
vdn > 50 ・・・(4)
但し、
vdn:負レンズ群Nを構成するレンズ要素のアッベ数(レンズ要素が単レンズからなるときは、その単レンズのd線に対するアッベ数であり、上記レンズ要素が接合レンズからなるときは、接合レンズを構成する複数の単レンズのうち、最も大きな負の屈折力を有するレンズのd線におけるアッベ数をいう。)
【0042】
条件式(4)は、負レンズ群Nを1つのレンズ要素から構成したときに、当該レンズ要素のd線に対するアッベ数を規定する式である。条件式(4)を満足させることにより負レンズ群Nにおける色収差の発生を抑制することができる。また、ズームレンズでは、例えば、広角端では軸上色収差を良好に補正することができる一方倍率色収差が大きくなり、望遠端では倍率色収差を良好に補正することができる一方軸上色収差が大きくなるなど、軸上色収差と倍率色収差をバランス良く補正することが困難な場合がある。条件式(4)を満足させることにより、広角端及び望遠端の双方において、軸上色収差と倍率色収差の双方をバランス良く補正することが容易になる。さらに、当該ズームレンズでは負レンズ群Nを合焦群として用いるが、上記条件式(4)を満足させることにより、撮影距離の変化に伴う軸上色収差の発生を抑制することができ、合焦域全域において良好に色収差を補正することができる。
【0043】
これに対して、条件式(4)の数値が下限値以下になると、負レンズ群Nを構成するレンズ要素の色分散が大きくなるため、軸上色収差と倍率色収差をバランスよく補正することが困難になる。さらに、当該負レンズ群Nを合焦群として用い、近接物体へ合焦させた場合、軸上色収差の補正が困難になるため好ましくない。
【0044】
上記効果を得る上で、条件式(4)の下限値は、60であることが好ましく、65であることがより好ましく、70であることがさらに好ましい。一方、条件式(4)を満足させることにより上記効果が得られ、条件式(4)の上限値は特に規定する必要はない。しかしながら、アッベ数の大きな硝材はアッベ数の小さな硝材と比較すると高価である。色収差の補正を良好に行うには、アッベ数の大きい硝材を用いることが好ましいが、アッベ数が大きくなればなるほどその費用対効果は小さくなる。従って、当該観点から条件式(4)の上限値は100以下であることが好ましく、95であることがより好ましく、85であることがさらに好ましい。
【0045】
1-2-5.条件式(5)
-1.60 ≦ XF/XR ≦ -0.30 ・・・(5)
但し、
XF:第1レンズ群の広角端から望遠端への変倍時の光軸上の移動距離
XR:正レンズ群Paの広角端から望遠端への変倍時の光軸上の移動距離
【0046】
条件式(5)は、広角端から望遠端への変倍時における第1レンズ群と正レンズ群Pa(及び正レンズ群Pb)の移動距離の比を規定する式である。なお、上述のとおり広角端から望遠端への変倍時、第1レンズ群は像側に移動し、正レンズ群Pa及び正レンズ群Pbは同一の軌跡で物体側に移動する。このときXFは正の値であり、XRは負の値となる。また、当該移動距離は、広角端における各レンズ群の位置と望遠端における各レンズ群の位置との間の距離を意味する。
【0047】
近年、ジンバル(スタビライザー)やドローン等に撮像装置を把持又は搭載等させて、動画を撮像することが行われている。ズームレンズでは変倍時に各レンズ群が移動するため、重心位置が変化しやすい。また、負先行型の光学系では、特に広角端においてレトロフォーカス型の屈折力配置となる場合、前群(例えば、第1レンズ群等)に対する最大画角光線の入射位置が高くなる。そのため、後群と比較すると前群のレンズ径は大きく、ズームレンズの光学系全体における前群の重量割合が大きくなる。また、当該ズームレンズでは、上述のように正レンズ群Pa、負レンズ群N、正レンズ群Pb及びフォーカスのための駆動機構等をユニット化したとき、これらも製品全体における重量割合が大きくなる。そこで、条件式(5)を満足させるような範囲内で、第1レンズ群を像側に、正レンズ群Pa及び正レンズ群Pbを物体側に移動させることで、変倍時における重心位置の変化を抑制することができる。そのため、ジンバル等に撮像装置を把持等させて動画を撮像する際も像ブレや重心位置の変化に伴うズームレンズの傾きや回転等を抑制することができる。
【0048】
これに対して、条件式(5)の数値が上記範囲外となると、変倍時における第1レンズ群及び正レンズ群Pa(及び正レンズ群Pb)の各レンズ群の重量と、各レンズ群の移動量とのバランスを調整することが困難になり、変倍時における重心位置の変化を抑制することが困難になる。
【0049】
上記効果を得る上で、条件式(5)の下限値は、-1.50であることが好ましく、-1.40であることがより好ましい。また、条件式(5)の上限値は、-0.35であることが好ましく、-0.40であることがより好ましい。
【0050】
1-2-6.条件式(6)
0.70 < Ymax/BFw < 1.60 ・・・(6)
但し、
Ymax:当該ズームレンズの最大像高
BFw :当該ズームレンズの広角端における無限遠合焦時のバックフォーカス
【0051】
条件式(6)は当該ズームレンズの最大像高と、広角端における当該ズームレンズのバックフォーカスとの比を規定した式である。但し、バックフォーカスは、当該ズームレンズにおいて最も像側に配置されるレンズ面から像面までの光軸上の距離をいう。但し、最も像側に配置されるレンズ面とは、当該ズームレンズを実質的に構成するレンズ面の中で最も像側に配置されたレンズ面をいう。このズームレンズを実質的に構成するレンズ面には、カバーガラス等は含まれないものとする。最も像側に配置されるレンズ面と像面との間にカバーガラス等の実質的な屈折力を有さない光学要素を含む場合、それらの厚みを空気換算長に変換するものとする。条件式(6)を満足させることにより、当該ズームレンズの小型化及び広角化を図りつつ、ミラーレスカメラ等の交換レンズシステムを採用する撮像装置の交換レンズに適切なバックフォーカスを確保することができる。
【0052】
これに対して、条件式(6)の数値が下限値以下になると、当該ズームレンズのバックフォーカスが長くなりすぎ、当該ズームレンズの小型化を図ることが困難になる。また、この場合、広角端においてレトロフォーカス型の屈折力配置となり、非対称性が強くなる。そのため、物体側で発生する樽型の歪曲収差が大きくなる。一方、条件式(6)の数値が上限値以上になると、当該ズームレンズのバックフォーカスが短くなりすぎ、上記交換レンズに適切なバックフォーカスを確保することが困難になる。
【0053】
上記効果を得る上で、条件式(6)の下限値は、0.85であることが好ましく、0.95であることがより好ましく、1.10であることがさらに好ましい。また、条件式(6)の上限値は、1.55であることが好ましく、1.50であることがより好ましく、1.45であることがさらに好ましい。
【0054】
1-2-7.条件式(7)
0.50 < βprt/βprw < 1.70 ・・・(7)
但し、
βprw:広角端における正レンズ群Pbの横倍率
βprt:望遠端における正レンズ群Pbの横倍率
【0055】
条件式(7)は、広角端における正レンズ群Pbの横倍率と、望遠端における正レンズ群Pbの横倍率との比を規定した式である。上述のとおり、当該ズームレンズの変倍動作に伴い、正レンズ群Pbに入射する最大軸外光束の光線高さは変動する。条件式(6)を満足させることにより、コマ収差及び像面湾曲を効果的に補正することができ、変倍域全域において光学性能の高いズームレンズを実現することができる。このとき、正レンズ群Pbを非球面を少なくとも1面含む構成とすることがより好ましい。
【0056】
これに対して、条件式(7)の数値が下限値以下になる、或いは、条件式(7)の数値が上限値以上になると、広角端と望遠端とにおける正レンズ群Pbに入射する最大軸外光束の光線高さの差が大きくなる。そのため、広角端と望遠端の双方においてコマ収差と像面湾曲を良好に補正することが困難になる。
【0057】
上記効果を得る上で、条件式(7)の下限値は、0.6であることが好ましく、0.7であることがより好ましい。また、条件式(7)の上限値は、1.4であることが好ましく、1.3であることがより好ましく、1.2であることがさらに好ましい。
【0058】
2.撮像装置
次に、本件発明に係る撮像装置について説明する。本件発明に係る撮像装置は、上記本件発明に係るズームレンズと、当該ズームレンズの像面側に設けられた、当該ズームレンズによって形成された光学像を電気的信号に変換する撮像素子とを備えたことを特徴とする。
【0059】
ここで、撮像素子等に特に限定はなく、CCD(Charge Coupled Device)センサやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサなどの固体撮像素子等も用いることができる。本件発明に係る撮像装置は、デジタルカメラやビデオカメラ等のこれらの固体撮像素子を用いた撮像装置に好適である。また、当該撮像装置は、レンズが筐体に固定されたレンズ固定式の撮像装置であってもよいし、一眼レフカメラやミラーレス一眼カメラ等のレンズ交換式の撮像装置であってもよいのは勿論である。
【0060】
当該撮像装置は、固体撮像素子により取得した撮像画像データを電気的に加工して、撮像画像の形状を変化させる画像処理部や、当該画像処理部において撮像画像データを加工するために用いる画像補正データ、画像補正プログラム等を保持する画像補正データ保持部等を有することがより好ましい。ズームレンズを小型化した場合、結像面において結像された撮像画像形状の歪み(歪曲)が生じやすくなる。その際、画像補正データ保持部に予め撮像画像形状の歪みを補正するための歪み補正データを保持させておき、上記画像処
理部において、画像補正データ保持部に保持された歪み補正データを用いて、撮像画像形状の歪みを補正することが好ましい。このような撮像装置によれば、ズームレンズの小型化をより一層図ることができ、秀麗な撮像画像を得ると共に、撮像装置全体の小型化を図ることができる。
【0061】
さらに、本件発明に係る撮像装置において、上記画像補正データ保持部に予め倍率色収差補正データを保持させておき、上記画像処理部において、画像補正データ保持部に保持された倍率色収差補正データを用いて、当該撮像画像の倍率色収差補正を行わせることが好ましい。画像処理部により、倍率色収差、すなわち、色の歪曲収差を補正することで、光学系を構成するレンズ枚数を削減することが可能になる。そのため、このような撮像装置によれば、ズームレンズの小型化をより一層図ることができ、秀麗な撮像画像を得ると共に、撮像装置全体の小型化を図ることができる。
【0062】
次に、実施例を示して本件発明を具体的に説明する。但し、本件発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0063】
(1)ズームレンズの光学構成
図1は、本件発明に係る実施例1のズームレンズのレンズ構成を示すレンズ断面図である。
図1において、上段は広角端、中段は中間焦点距離状態、下段は望遠端における状態を示す。
【0064】
当該ズームレンズは、物体側から順に、負の屈折力を有する第1レンズ群G1と、正の屈折力を有する第2レンズ群G2と、正の屈折力を有する第3レンズ群G3と、負の屈折力を有する第4レンズ群G4と、正の屈折力を有する第5レンズ群G5とから構成され、隣り合うレンズ群の光軸上の間隔を変化させることで変倍を行う。本実施例では、第3レンズ群G3が本件発明にいう正レンズ群Paであり、第4レンズ群G4が本件発明にいう負レンズ群Nであり、第5レンズ群G5が本件発明にいう正レンズ群Pbである。
【0065】
以下、各レンズ群の構成を説明する。第1レンズ群G1は、物体側から順に、像側に凹形状の負メニスカスレンズと、両凹レンズ及び像側に凹形状の正メニスカスレンズを接合した接合レンズと、から構成される。
【0066】
第2レンズ群G2は、物体側から順に、両凸レンズと、像側に凸形状の負メニスカスレンズとから構成される。
【0067】
第3レンズ群G3は、物体側から順に、開口絞りSと、両凸レンズと、像側に凹形状の負メニスカスレンズ及び両凸レンズを接合した接合レンズとから構成される。
【0068】
第4レンズ群G4は、像側に凹形状の負メニスカスレンズから構成される。つまり、第4レンズ群G4は一つの単レンズ要素から構成されている。
【0069】
第5レンズ群G5は、物体側から順に、両凸レンズと、両凹レンズと、像側に凸形状の負メニスカスレンズとから構成される。
【0070】
実施例1のズームレンズでは広角端から望遠端への変倍時に像面に対して、第1レンズ群G1が像側に移動し、第2レンズ群G2が物体側に移動し、第3レンズ群G3と第5レンズ群G5とが同一の軌跡で物体側に移動し、第4レンズ群G4が物体側に移動する。また、無限遠から近接物体に合焦する際に、第4レンズ群G4が像側に移動する。
【0071】
図1に示す「IP」は結像面であり、具体的にはCCDセンサ、CMOSセンサ等の固体撮像素子の撮像面、或いは、銀塩フィルムのフィルム面等を表す。また、結像面IPの物体側にはカバーガラスCG等の実質的な屈折力を有さない平行平板を備える。これらの点は、他の実施例で示す各レンズ断面図においても同様であるため、以下では説明を省略する。
【0072】
(2)数値実施例
次に、当該ズームレンズの具体的数値を適用した数値実施例について説明する。以下に、当該ズームレンズの「面データ」、「非球面データ」、「変倍データ(無限遠合焦時)」、「変倍データ(有限距離物体合焦時)」、「各レンズ群の焦点距離データ」を示す。また、各式の値(条件式対応値)は実施例6の後にまとめて示す。
【0073】
「面データ」において、「面番号」は物体側から数えたレンズ面の順番、「r」はレンズ面の曲率半径、「d」はレンズ面の光軸上の間隔、「nd」はd線(波長λ=587.6nm)に対する屈折率、「vd」はd線に対するアッベ数を示している。また、面番号の次に表示する「*」は当該レンズ面が非球面であることを表し、「S」は開口絞りを表している。さらに、レンズ面の光軸上の間隔の欄に、「d5」、「d9」等と示すのは、当該レンズ面の光軸上の間隔が変倍時に変化する可変間隔であることを意味する。なお、各表中の長さの単位は全て「mm」であり、画角の単位は全て「°」である。また、曲率半径の欄の「∞」は平面を意味する。なお、表1における第24面及び第25面はカバーガラスCGの面データである。
【0074】
「非球面データ」は、各非球面の非球面係数を示す。但し、非球面は、xを光軸方向の面頂点からの変位量として次式で定義されるものとする。
x=(h2/r)/[1+{1-(1+k)×(h/r)2}1/2)]
+A4×h4+A6×h6+A8×h8+A10×h10+A12×h12
上記式においてhは光軸からの高さ、rは近軸曲率半径、kは円錐係数、Anはn次の非球面係数を表す。また、[非球面データ]において「E±XX」は指数表記を表し「×10±XX」を意味する。
【0075】
「変倍データ(無限遠合焦時)」には、広角端、中間焦点距離、望遠端における無限遠合焦時の当該ズームレンズの焦点距離、「Fno」(Fナンバー)、「像高」及び各可変間隔を示す。「変倍データ(有限距離物体合焦時)」には、所定の撮影距離における有限距離物体合焦時の各可変間隔を示す。「各レンズ群の焦点距離データ」は、当該ズームレンズを構成する各レンズ群の焦点距離を示す。これらの表に関する事項は他の実施例で示す各表においても同様であるため、以下では説明を省略する。
【0076】
また、
図2、
図3及び
図4に当該ズームレンズの広角端、中間焦点距離、望遠端における無限遠合焦時の縦収差図を示す。各図に示す縦収差図は、図面に向かって左側から順に、それぞれ球面収差(mm)、非点収差(mm)、歪曲収差(%)である。球面収差図は実線がd線(波長587.6nm)、破線がg線(波長435.8nm)における球面収差示す。非点収差図は縦軸が半画角(ω)、横軸がデフォーカスであり、実線がd線のサジタル像面(dS)を示し、破線がd線のメリディオナル像面(dM)をそれぞれ示す。歪曲収差図は、縦軸が半画角(ω)、横軸が歪曲収差である。これらの事項は、他の実施例において示す各収差図においても同じであるため、以下では説明を省略する。
【0077】
[面データ]
面番号 r d nd vd
1 40.511 1.500 1.61997 63.88
2 21.676 14.640
3 -1653.720 1.100 1.49700 81.61
4 36.543 2.800 1.82115 24.06
5* 47.383 (d5)
6 42.628 3.700 1.78880 28.43
7 -433.932 2.640
8 -45.205 1.000 1.78472 25.68
9 -779.660 (d9)
10S ∞ 1.600
11* 42.515 5.400 1.49710 81.56
12* -48.214 0.600
13 32.619 1.000 1.76182 26.52
14 19.703 9.800 1.49700 81.61
15 -30.994 (d15)
16 162.690 0.800 1.62299 58.16
17 18.688 (d17)
18 62.621 6.400 1.78590 44.20
19 -25.103 0.200
20 -33.110 1.000 1.51680 64.20
21 43.245 5.150
22* -47.465 1.800 1.80610 40.73
23* -308.703 (d23)
24 ∞ 2.500 1.51680 64.17
25 ∞ 1.000
【0078】
[非球面データ]
面番号 k A4 A6 A8 A10 A12
5 0 -3.99470E-06 -2.28741E-09 -3.62738E-11 1.36932E-13 -2.19282E-16
11 0 -1.74483E-05 2.09696E-09 -2.82624E-10 1.62458E-12 -5.93895E-15
12 0 7.74171E-06 7.46727E-09 -2.21089E-10 1.31945E-12 -4.87961E-15
22 0 -9.85489E-05 3.41633E-07 -1.55834E-09 4.72082E-12 -5.47210E-15
23 0 -8.19989E-05 3.80646E-07 -1.53795E-09 4.39500E-12 -5.30103E-15
【0079】
[変倍データ (無限遠合焦時)]
広角 中間 望遠
焦点距離 28.838 39.200 53.342
Fno 2.91 2.91 2.91
像高 21.633 21.633 21.633
d5 14.746 7.808 2.377
d9 14.584 8.359 1.500
d15 2.668 2.200 3.060
d17 9.930 10.398 9.537
d23 13.000 20.877 28.159
【0080】
[変倍データ (有限距離合焦時)]
広角 中間 望遠
撮影距離 330.0 330.0 330.0
d15 3.940 3.969 5.771
d17 8.657 8.629 6.826
【0081】
[各レンズ群の焦点距離データ]
群 範囲 焦点距離
G1 1-5 -42.850
G2 6-9 185.268
G3 10-15 23.397
G4 16-17 -33.962
G5 18-23 224.153
CG 24-25 ∞
以下、各レンズ群の構成を説明する。第1レンズ群G1は、物体側から順に、像側に凹形状の負メニスカスレンズと、両凹レンズと、像側に凹形状の正メニスカスレンズとから構成される。
第3レンズ群G3は、物体側から順に、開口絞りSと、像側に凹形状の正メニスカスレンズと、像側に凹形状の負メニスカスレンズ及び両凸レンズを接合した接合レンズとから構成される。
実施例2のズームレンズでは広角端から望遠端への変倍時に像面に対して、第1レンズ群G1が像側に移動し、第2レンズ群G2が物体側に移動し、第3レンズ群G3と第5レンズ群G5とが同一の軌跡で物体側に移動し、第4レンズ群G4が物体側に移動する。また、無限遠から近接物体に合焦する際に、第4レンズ群G4が像側に移動する。