IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シチズンファインテックミヨタ株式会社の特許一覧 ▶ シチズンホールディングス株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131399
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】偏光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20220831BHJP
【FI】
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030332
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 学
【テーマコード(参考)】
2H149
【Fターム(参考)】
2H149AA13
2H149AB01
2H149AB18
2H149BA02
2H149BB10
2H149BB24
2H149FA41Z
2H149FA61
(57)【要約】
【課題】偏光フィルムの撓みを低減することが可能な偏光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】偏光フィルム3に吸湿処理を施す吸湿工程(N300)と、吸湿処理が施された偏光フィルム3の光透過領域を除く周辺領域のみを支持基板に固定する固定工程(N400)と、支持基板に固定された偏光フィルム3に乾燥処理を施して偏光フィルム3を収縮させることで偏光フィルム3の光透過領域に張力を発生させる乾燥工程(N500)と、を有する偏光素子の製造方法とする。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の振動方向の光のみを透過する偏光フィルムと、前記偏光フィルムを支持する支持基板とを備えた偏光素子の製造方法であって、
前記偏光フィルムに吸湿処理を施す吸湿工程と、
前記吸湿処理が施された前記偏光フィルムの光透過領域を除く周辺領域のみを前記支持基板に固定する固定工程と、
前記支持基板に固定された前記偏光フィルムに乾燥処理を施して前記偏光フィルムを収縮させることで前記偏光フィルムの前記光透過領域に張力を発生させる乾燥工程と、
を有することを特徴とする偏光素子の製造方法。
【請求項2】
前記固定工程において、前記偏光フィルムは、二つの前記支持基板で挟み込まれた状態で二つの前記支持基板に固定される、ことを特徴とする請求項1に記載の偏光素子の製造方法。
【請求項3】
前記固定工程において、前記偏光フィルムは、前記光透過領域を連続的に取り囲むように塗布された接着剤により、前記支持基板に固定される、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の偏光素子の製造方法。
【請求項4】
前記固定工程において、前記偏光フィルムは、前記光透過領域と対向する位置に設けられた前記支持基板における円形の開口部を中心とする同心円環状に塗布された接着剤により、前記支持基板に固定される、ことを特徴とする請求項3に記載の偏光素子の製造方法。
【請求項5】
前記固定工程において、前記偏光フィルムは、前記光透過領域を断続的に取り囲むように塗布された接着剤により、前記支持基板に固定される、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の偏光素子の製造方法。
【請求項6】
前記固定工程において、前記吸湿処理が施された前記偏光フィルムを接着剤により前記支持基板に接着した後、前記接着剤と前記偏光フィルムに同時に乾燥処理を施すことによって前記接着剤を硬化させると同時に前記偏光フィルムを収縮させる、ことを特徴とする請求項1~5の何れか一つに記載の偏光素子の製造方法。
【請求項7】
前記固定工程において、前記偏光フィルムの前記支持基板に対する固定領域と、前記偏光フィルムの前記光透過領域との間には、前記偏光フィルムが前記支持基板に固定されない非固定領域が設けられる、ことを特徴とする請求項1~6の何れか一つに記載の偏光素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に液晶装置においては、装置透過後の光線の品質、例えば透過波面乃至位相を維持するため、光線が透過する光路は透過面内で均一であることが求められる。その為、通過する光線を変調する液晶パネル及び偏光素子には液晶パネル及び偏光素子を構成する基板上の凹凸や厚み分布に加え、液晶パネル内部の液晶層の厚み、偏光素子の偏光機能層の厚みが均一である事等に加えて、偏光素子の撓みが無い事が求められる。
【0003】
特定の振動方向の光のみを透過する偏光素子を構成する偏光フィルムは、主にポリビニルアルコール(PVA)フィルムにヨウ素や染料を染色・吸着させたのち、延伸してヨウ素や染料の分子を一軸配向させる事で製造される。ただし、PVAフィルム単体では非常に脆弱であるため、光学接着剤などを介してガラス基板やトリアセチルセルロース(以下、TAC)フィルムなどの支持部材に貼り合せるなどして補強するのが一般的である。(例えば、特許文献1、2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-198583号公報
【特許文献2】特許第6105293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図9(a)は、従来技術における偏光素子の斜視図、図9(b)は、従来技術における偏光素子の断面図である。図9(a)及び図9(b)に示す従来技術における偏光素子6では、偏光フィルム3の両面に光透過性の接着剤2を介してガラス基板などの光透過性支持基板5を接着して補強しているが、長期間に渡る使用によっては、偏光素子6を構成する接着剤2が光線4の照射によって変質・収縮してしまい、照射箇所の透過率及び物理的な厚みが変化し、透過する光線4の波面品質に影響を及ぼすという問題があった。一方で、上記のような接着剤による光学的・熱的な影響を回避するため、偏光フィルムの光路面に接着される光透過性支持基板に開口を設け、開口の周辺部のみを偏光フィルムに接着するという手法もあるが、光路内の偏光フィルムは基板によって保持されない為、TACなどの柔軟性の高い支持部材のみでは撓みやすく、透過光線の波面品質が悪くなるという問題があった。
【0006】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、偏光フィルムの撓みを低減することが可能な偏光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
特定の振動方向の光のみを透過する偏光フィルムと、前記偏光フィルムを支持する支持基板とを備えた偏光素子の製造方法であって、前記偏光フィルムに吸湿処理を施す吸湿工程と、前記吸湿処理が施された前記偏光フィルムの光透過領域を除く周辺領域のみを前記支持基板に固定する固定工程と、前記支持基板に固定された前記偏光フィルムに乾燥処理を施して前記偏光フィルムを収縮させることで前記偏光フィルムの前記光透過領域に張力を発生させる乾燥工程と、を有する偏光素子の製造方法とする。
【0008】
前記固定工程において、前記偏光フィルムは、二つの前記支持基板で挟み込まれた状態で二つの前記支持基板に固定される、偏光素子の製造方法であっても良い。
【0009】
前記固定工程において、前記偏光フィルムは、前記光透過領域を連続的に取り囲むように塗布された接着剤により、前記支持基板に固定される、偏光素子の製造方法であっても良い。
【0010】
前記固定工程において、前記偏光フィルムは、前記光透過領域と対向する位置に設けられた前記支持基板における円形の開口部を中心とする同心円環状に塗布された接着剤により、前記支持基板に固定される、偏光素子の製造方法であっても良い。
【0011】
前記固定工程において、前記偏光フィルムは、前記光透過領域を断続的に取り囲むように塗布された接着剤により、前記支持基板に固定される、偏光素子の製造方法であっても良い。
【0012】
前記固定工程において、前記吸湿処理が施された前記偏光フィルムを接着剤により前記支持基板に接着した後、前記接着剤と前記偏光フィルムに同時に乾燥処理を施すことによって前記接着剤を硬化させると同時に前記偏光フィルムを収縮させる、偏光素子の製造方法であっても良い。
【0013】
前記固定工程において、前記偏光フィルムの前記支持基板に対する固定領域と、前記偏光フィルムの前記光透過領域との間には、前記偏光フィルムが前記支持基板に固定されない非固定領域が設けられる、偏光素子の製造方法であっても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、偏光フィルムを予め吸湿させておき、支持部材に固定した後に乾燥処理を行う事で、偏光フィルムの収縮によって一定の張力が得られて撓みが低減される。これにより、透過光の波面品質が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例1における偏光素子の製造方法を示すフローチャート。
図2(a)】本発明の実施例1における偏光素子を構成する支持部材の斜視図。
図2(b)】本発明の実施例1における偏光素子を構成する支持部材の接着剤塗布後の斜視図。
図2(c)】本発明の実施例1における偏光素子の偏光フィルム貼合後の斜視図。
図2(d)】本発明の実施例1における偏光素子の断面図。
図3(a)】本発明の実施例2における偏光素子の斜視図。
図3(b)】本発明の実施例2における偏光素子の断面図。
図4】本発明の実施例3における偏光素子の斜視図。
図5】本発明の実施例4の第一形態における偏光素子の斜視図。
図6】本発明の実施例4の第二形態における偏光素子の斜視図。
図7】本発明の実施例4の第三形態における偏光素子の斜視図。
図8】本発明の実施例1における偏光素子を構成する支持部材の変形例の斜視図。
図9(a)】従来技術における偏光素子の斜視図。
図9(b)】従来技術における偏光素子の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて具体的に説明する。
【実施例0017】
以下、本発明の実施例1における偏光素子の製造方法について説明する。図1は、本発明の実施例1における偏光素子の製造方法を示すフローチャートである。図1に示すフローチャートN001において、スタートをN100として、まず、偏光フィルム3を所定の大きさにカットする偏光フィルムカット工程N200を実施する。偏光フィルム3の大きさ・形状は、所望の光線が透過する有効径を満足し、且つ、開口基板1に貼り合せる為の接着剤2を塗布する糊代となる面積が確保されていれば特に制限はない。
【0018】
次に、所望の大きさにカットされた偏光フィルム3を高湿環境に暴露して吸湿させる偏光フィルム吸湿工程N300を実施する。ここで、暴露環境は常温・常湿環境よりも高湿・高温環境であれば良く、使用する偏光フィルム3の材質や求める平坦度に合わせて調整する事が望ましいが、例えば温度は60℃、相対湿度は90%程度である。同様に、暴露時間は20時間~24時間程度が好適である。偏光フィルム3が吸湿することで偏光フィルム3は僅かに膨潤する。
【0019】
次いで、吸湿した偏光フィルム3を開口基板1と貼り合せる基板貼り合せ工程N400を実施する。ここでは、支持基板となる開口基板1上に接着剤2を塗布し、偏光フィルム3を貼り合わせ、接着剤2を硬化させて接着する。接着剤2の硬化処理については、接着剤2の種類に応じて適宜、乾燥処理や光硬化、熱処理を行う。
【0020】
図2(a)は、本発明の実施例1における偏光素子を構成する支持部材の斜視図である。図2(a)に示すように、実施例1では、光線4が透過する有効径部分に円形の開口部7を設けた開口基板1が偏光素子の支持基板として用いられる。開口部7以外の部分には光線4は透過しない為、開口基板1を構成する材料はガラスや石英といった透光性部材である必要性はなく、鉄、アルミニウムなどの金属、プラスチックなどの樹脂材料、セラミック等でも構わない。図8は、本発明の実施例1における偏光素子を構成する支持部材の変形例の斜視図である。開口部5の形状は、必ずしも円形である必要はなく、例えば、図8に示すように矩形状であってもよい。
【0021】
図2(b)は、本発明の実施例1における偏光素子を構成する支持部材の接着剤塗布後の斜視図である。開口基板1の開口部7周囲の表面部分は貼り合わせに用いる接着剤2の糊代として利用する事ができる。図2(b)に示すように、実施例1では、開口部7周囲の余剰な表面全体に接着剤2が一様に塗布される。
【0022】
図2(c)は、本発明の実施例1における偏光素子の偏光フィルム貼合後の斜視図、図2(d)は、本発明の実施例1における偏光素子の断面図である。図2(c)、(d)に示すように、実施例1では、接着剤2の塗布された開口基板1に吸湿処理された偏光フィルム3を貼り合わせた状態で接着剤2を硬化させる。
【0023】
次に、開口基板1に貼合された偏光素子61を低湿環境に暴露して乾燥させる乾燥工程N500を実施する。吸湿によって膨潤していた偏光フィルム3から湿度が抜ける事で偏光フィルム3は収縮する。乾燥による収縮は偏光フィルム3全体で起こるが、開口部7以外の外周部分は接着剤2によって開口基板1に固定されており、収縮が制限される。一方で、開口部7から露出している偏光フィルム3のフィルム単体となっている部分は自由に収縮することとなり、偏光素子61の中心方向に向かって偏光フィルム3が収縮することで開口部5内の偏光フィルム3に張力が発生する。この張力によって偏光フィルム3が僅かに延伸され、偏光フィルム3の撓みが低減され面精度が向上する。
【0024】
前工程である基板貼り合わせ工程(N400)において、接着剤2の硬化処理として乾燥または高温処理を行った場合、既にその時点で偏光フィルム3の乾燥が始まるため、接着剤2の硬化と偏光フィルム3の脱湿処理が同時に進行する事となる。この場合、乾燥後に偏光フィルム3に掛かる張力が幾分減少することとなるが、実用的な張力が得られてさえいれば良い事と、接着剤2の硬化処理と偏光フィルム3の乾燥工程を同時に行う事ができることから、製造時間を短縮する事ができる。偏光フィルム3の乾燥工程(N500)を終えて偏光素子61は完成するが(N600)、その後、偏光素子61に別途保護材や保護フィルムの塗布や貼り合わせを行っても良い。
【実施例0025】
図3(a)は、本発明の実施例2における偏光素子の斜視図、図3(b)は、本発明の実施例2における偏光素子の断面図である。実施例2における偏光素子62は、基本的には実施例1における偏光素子61と類似しており、円形状の開口部7を設けた開口基板1に接着剤2を塗布して偏光フィルム3を貼り合わせているところは共通だが、同様の開口基板1をもう一つ用意して二つの開口基板1で偏光フィルム3を両面から挟持して貼り合わせを行う事が特徴である。この構成により、偏光フィルム3と開口基板1の接着面積が増加する為、偏光フィルム3の乾燥・脱湿時の収縮に対しても偏光フィルム3を強固に保持できる。
【実施例0026】
図4は、本発明の実施例3における偏光素子の斜視図である。実施例3における偏光素子63は、開口基板1の開口部7周囲の表面において、開口部7の全周を連続的に取り囲み、かつ、開口部7から一定の距離を設けて、開口部7を中心とする同心円環状に接着剤2を塗布したことが特徴である。偏光フィルム3上で接着剤2によって開口基板1と固定される部分と、接着剤2が塗布されず固定されない部分とでは脱湿時の収縮傾向が異なり、発生する張力も異なる為、偏光フィルム3の接着剤2により固定される部分と固定されない部分の境界には歪みが発生し易い。本実施例3のように、接着剤2の塗布位置を光線の透過する有効領域から離す事で、接着固定部分近傍に現れる歪みの影響を排除できる。また、円形の開口部7に対して接着剤2の塗布形状を同心円環状にする事で、開口部7と対向する偏光フィルム3に張力を均等に発生させることができる。
【実施例0027】
図5は、本発明の実施例4の第一形態における偏光素子の斜視図、図6は、本発明の実施例4の第二形態における偏光素子の斜視図、図7は、本発明の実施例4の第三形態における偏光素子の斜視図である。実施例4の第一形態、第二形態及び第三形態における偏光素子64、65及び66は、開口基板1に対し、偏光フィルム3を接着する接着剤2を、実施例1及び2のように開口部7周囲の表面全体に一様に塗布するのではなく、互いに間隔を空けて点状乃至線状に断続的に塗布することが特徴である。特に、図5に示す実施例4の第一形態における偏光素子64は、矩形状の偏光フィルム3の4つの角部に接着剤2が円形状に塗布されていることを特徴とし、図6に示す実施例4の第二形態における偏光素子65は、矩形状の偏光フィルム3の4つの辺の中央部に接着剤2が円形状に塗布されていることを特徴とし、図7に示す実施例4の第三形態における偏光素子66は、矩形状の偏光フィルム3の4つの辺の中央部に接着剤2が楕円形状に塗布されていることを特徴としている。吸湿した偏光フィルム3が脱湿して収縮する際に生じる張力は、開口部7を挟んで対向する接着剤2の塗布箇所の間で生じる事となる為、接着剤2の位置及び形状に影響を受ける。接着剤2を互いに間隔を空けて点状乃至線状に塗布する事で任意の方向に張力を発生させることができる為、所望の面精度を得ることができる。接着剤2の塗布箇所は、本実施例4のように必ずしも4箇所でなければならない訳ではなく、適宜塗布する箇所を選択すれば良い。
【0028】
本発明における偏光素子は、以上の実施形態に限定されず、その他種々の実施形態を取り得る。例えば、開口基板1の開口部7を無くして開口部7の無い支持基板としたうえで、その支持基板における光線4が透過する有効径部分には、接着剤2を塗布せず、偏光フィルム3を接着しないようにしても良い。また、偏光フィルム3を支持基板に固定する手段は、接着剤2に限らず、その他の手段であっても良い。
【符号の説明】
【0029】
N001 偏光素子の製造方法を示すフローチャート
N100 スタート
N200 偏光フィルムカット工程
N300 偏光フィルム吸湿工程
N400 基板貼り合わせ工程
N500 乾燥工程
N600 完成
1 開口基板
2 接着剤
3 偏光フィルム
4 光線
5 光透過性支持基板
6 偏光素子
7 開口部
61 偏光素子
62 偏光素子
63 偏光素子
64 偏光素子
65 偏光素子
66 偏光素子

図1
図2(a)】
図2(b)】
図2(c)】
図2(d)】
図3(a)】
図3(b)】
図4
図5
図6
図7
図8
図9(a)】
図9(b)】