(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131404
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】誘電体粉末および電子部品
(51)【国際特許分類】
C01G 25/00 20060101AFI20220831BHJP
C04B 35/49 20060101ALI20220831BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20220831BHJP
H01B 3/12 20060101ALI20220831BHJP
H01B 3/10 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C01G25/00
C04B35/49
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
H01B3/12 338
H01B3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030339
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石田 慶介
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 誠
【テーマコード(参考)】
4G048
5E001
5E082
5G303
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC02
4G048AD03
4G048AE05
5E001AB03
5E001AE01
5E001AE05
5E001AJ02
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC25
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082GG10
5E082PP03
5G303AA01
5G303AB07
5G303AB20
5G303CA01
5G303CB35
5G303CB39
(57)【要約】
【課題】負荷レベルの高い交流電界印加時における誘電体層の自己発熱を抑制できる誘電体粉末および当該誘電体粉末を用いて作製した電子部品を提供すること。
【解決手段】コア部とコア部の周囲を覆うシェル部とを有し、コア部がCa
x(Ti
aZr
1-a)O
3であり、シェル部がSr
y(Ti
bZr
1-b)O
3であり、xは0.9≦x≦1.1を満たし、yは0.9≦y≦1.1を満たし、aは0≦a≦0.1を満たし、bは0≦b≦0.1を満たす誘電体粉末。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部と前記コア部の周囲を覆うシェル部とを有し、
前記コア部がCax(TiaZr1-a)O3であり、
前記シェル部がSry(TibZr1-b)O3であり、
xは0.9≦x≦1.1を満たし、
yは0.9≦y≦1.1を満たし、
aは0≦a≦0.1を満たし、
bは0≦b≦0.1を満たす誘電体粉末。
【請求項2】
前記コア部と前記シェル部の組成モル比をコア:シェルと表したとき、コア:シェルが4:1から3:2の範囲の組成比である請求項1に記載の誘電体粉末。
【請求項3】
前記シェル部と前記コア部との界面はヘテロエピタキシャル界面である請求項1または2に記載の誘電体粉末。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の誘電体粉末を主組成とする誘電体層を含む電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体粉末および当該誘電体粉末により得られる誘電体層を備える電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、車載向け共振回路用のフィルムコンデンサの置き換えとして小型、軽量の積層セラミックコンデンサへの要望が高まっている。このような用途では温度または電圧に対する容量変化の要求値も高く、使用される周波数帯も様々である。このような市場の要求から、積層セラミックコンデンサの中でもC0G規格の積層セラミックコンデンサの開発が継続されている。
【0003】
特に現在、電気自動車の開発が進み、その中で非接触給電や車載充電用共振回路において、C0G規格の積層セラミックコンデンサへの要求がますます高まっており、高電圧、さらには交流用途での利用が検討されている。
【0004】
このような市場の要求から、C0G規格を満足しつつ信頼性や耐圧特性の向上や、ESRを下げるための手段としてCu内部電極を用いるために低温焼成技術の検討などが行われてきた。
【0005】
しかしながら近年の車載向けの負荷レベルの高い用途に対しては、交流電界での使用に対して積層セラミックコンデンサの誘電体層の自己発熱が無視できない状況になっている。
【0006】
たとえば特許文献1においては、CaZrO3系材料において直流高電界化を想定した添加材組成に着目しアルカリ金属の添加を提案しているが、負荷レベルの高い交流電界においては誘電体層の自己発熱を抑制することは困難である。
【0007】
また、特許文献2においては、高電界化の交流発熱の記載があり、BaCaTiO3(BCT)を主相として新たな添加材組成を提案しているが、車載用共振回路における負荷レベルに対して、BCT系の材料では誘電率が高く誘電損失が高いため、自己発熱の抑制が困難なだけでなく、温度特性、DCバイアス特性などへの対応も困難である。
【0008】
このように、現状では負荷レベルの高い交流電界下における誘電体層の自己発熱を十分に抑制できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2019-153778号公報
【特許文献2】特許第4525680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、負荷レベルの高い交流電界印加時における誘電体層の自己発熱を抑制できる誘電体粉末および該誘電体粉末を用いて作製した電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る誘電体粉末は、
コア部と前記コア部の周囲を覆うシェル部とを有し、
前記コア部がCax(TiaZr1-a)O3であり、
前記シェル部がSry(TibZr1-b)O3であり、
xは0.9≦x≦1.1を満たし、
yは0.9≦y≦1.1を満たし、
aは0≦a≦0.1を満たし、
bは0≦b≦0.1を満たす。
【0012】
本発明者は、本発明に係る誘電体粉末が上記の構成であることにより、本発明に係る誘電体粉末を用いて作製された誘電体層を含む電子部品は、負荷レベルの高い交流電界印加時における誘電体層の自己発熱を抑制できることを見出した。
【0013】
その理由は必ずしも定かではないが、以下の理由が考えられる。交流電界印加時の発熱は、格子欠陥等により生じる空間電荷の振動により生じると考えられる。これに対して、本発明では、コア部のCax(TiaZr1-a)O3をシェル部のSry(TibZr1-b)O3が覆っている。これにより、焼結時のCax(TiaZr1-a)O3におけるCa、ZrまたはTiの欠陥を抑制することができる。このため、空間電荷の発生を低減できることから、交流電界印加時の自己発熱を抑制することができると考えられる。
【0014】
前記コア部と前記シェル部の組成モル比をコア:シェルと表したとき、好ましくは、コア:シェルが4:1から3:2の範囲の組成比である。これにより、交流電界印加時の自己発熱をより抑制することができると考えられる。
【0015】
好ましくは、前記シェル部と前記コア部との界面はヘテロエピタキシャル界面である。これにより、交流電界印加時の自己発熱をより抑制することができると考えられる。
【0016】
本発明に係る電子部品は、上記の誘電体粉末を主組成とする誘電体層を含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る誘電体粉末の概略断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る誘電体粉末のSTEMのHAADF像である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る誘電体粉末のSTEM-EDSによるSrとCaのマッピング画像である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態に係る誘電体粉末のSTEM-EDSによるCaのマッピング画像である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る誘電体粉末のSTEM-EDSによるSrのマッピング画像である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態に係る誘電体粉末の高分解能TEM画像である。
【
図9】
図9は、ヘテロエピタキシャル界面の有無を判断するためのX線回折スペクトルである。
【
図10】
図10は、実施例について、X軸をシェル比として、Y軸を低周波誘電損失としたグラフである。
【
図11】
図11は、実施例について、X軸を低周波誘電損失として、Y軸を交流発熱のΔtとしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に示すように、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と、内部電極層3と、が交互に積層された構成の素子本体10を有する。内部電極層3は、各端面が素子本体10の対抗する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極4は、素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0019】
本実施形態において、容量領域は、積層方向に沿って内部電極層3が誘電体層2を挟んで積層する領域である。
【0020】
素子本体10の形状に特に制限はないが、
図1に示すように、通常、直方体である。また、その寸法にも特に制限はない。
【0021】
本実施形態に係る誘電体層2の厚みは特に制限されず、たとえば容量と耐圧の兼ね合いで決定すればよい。本実施形態に係る誘電体層2の厚みは、たとえば、2.5μm以上25.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは4.0μm以上10μm以下である。誘電体層2の厚みが上記の範囲内であることにより、誘電体層2の積層方向に後述する誘電体粒子を所定量含むことができる。なお、誘電体粒子は後述する誘電体粉末22を焼結することにより得られる。
【0022】
誘電体層2の積層数は特に制限されず、たとえば容量と耐圧の兼ね合いで決定すればよい。誘電体層2の積層数は特に制限されず、たとえば、5~250層であることが好ましい。
【0023】
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層2を構成する材料が耐還元性を有するため、比較的安価な卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn、Cr、CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95質量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各微量成分が合計0.1質量%程度以下含まれていても良い。
【0024】
内部電極層3の厚さは用途に応じて 適宜変更でき、特に限定されない。通常、0.5~3.0μm、好ましくは1.0~3.0μmである。
【0025】
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、本実施形態では安価なNi、Cuや、これらの合金を用いることができる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すれば良いが、通常、10~50μm程度であることが好ましい。
【0026】
誘電体層2は、
図2に示す誘電体粉末22が焼結した誘電体粒子を主成分(主組成)とする。誘電体層2の主成分とは、誘電体層2の95質量%以上を占める成分を言う。
【0027】
なお、本実施形態に係る誘電体粉末22は、粒子1粒を含む概念である。したがって、本実施形態に係る誘電体粉末22は1粒であってもよいし、2粒以上であってもよい。
【0028】
図2に示すように、本実施形態に係る誘電体粉末22は、コア部24とコア部24の周囲を覆うシェル部26とを有するコアシェル構造である。
【0029】
本実施形態では、コア部24およびシェル部26は共に、RMO3で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物により形成されている。
【0030】
具体的には、コア部24がCax(TiaZr1-a)O3であり、シェル部26がSry(TibZr1-b)O3である。この誘電体粉末22を出発原料にして、誘電体層2を形成することにより、交流電界印加時の自己発熱を抑制することができる。
【0031】
ここで、xはCaの含有比率を示し、0.9≦x≦1.1であり、好ましくは0.95≦x≦1.05である。
【0032】
yはSrの含有比率を示し、0.9≦y≦1.1であり、好ましくは0.95≦y≦1.00である。yがこの範囲であることにより、低周波誘電損失を低減することができ、交流電界印加時の自己発熱を抑制することができる。
【0033】
aはコア部24のTiの含有比率を示し、0≦a≦0.1であり、好ましくは0.01≦a≦0.05である。aがこの範囲であることにより、C0G特製を満足しつつ、低周波誘電損失を低減することができ、交流電界印加時の自己発熱を抑制することができる。
【0034】
bはシェル部26のTiの含有比率を示し、0≦b≦0.1であり、好ましくは0.01≦b≦0.05である。
【0035】
なお、コア部24は実質的にCax(TiaZr1-a)O3からなっているが、副成分等のその他の成分を含んでいても良い。
【0036】
また、シェル部26は実質的にSry(TibZr1-b)O3からなっているが、副成分等のその他の成分を含んでいても良い。
【0037】
誘電体粉末22がコアシェル構造であると判断する方法は特に限定されないが、たとえば下記の方法が挙げられる。
【0038】
誘電体粉末22のSEMやSTEMなどの断面写真を画像解析することでコアシェル構造であることが判断できる。SEMの反射電子像やSTEMのHAADF像などで誘電体粉末22の断面を観察した場合、シェル部26は、コントラストの明るい部分として認識でき、コア部24はコントラストの暗い部分として認識できる。
図3に本実施形態に係る誘電体粉末22のSTEMのHAADF像を示す。
図3に示すように、コア部24とシェル部26とは、コントラストが明らかに異なる。
【0039】
他にも、誘電体粉末22についてSTEM-EDSを用いて各元素の特性X線の定量分析を行い、各元素についてのマッピング画像を得ることによって誘電体粉末22がコアシェル構造を有することを判断できる。具体的には、同じ位置にCaおよびZrが存在しており、略円状の部分をコア部24であると認定する。また、同じ位置にSrおよびZrが存在しており、コア部24を覆うように形成されている略リング形状の部分をシェル部26であると認定する。
【0040】
図3と同じ視野について、
図4にSrとCaのマッピング画像を示し、
図5にCaのマッピング画像を示し、
図6にSrのマッピング画像を示す。
図4~
図6より、コア部24には、Caが分布しており、シェル部26にはSrが分布していることが確認できる。
【0041】
なお、コア部24は完全にシェル部26に覆われていなくてもよく、一部コア部24が表面に露出していてもよい。すなわち、シェル部26の略リング形状が一部途切れていてもよい。
【0042】
本実施形態では、コア部24とシェル部26の界面がヘテロエピタキシャル界面28であることが好ましい。これにより、交流電界印加時の自己発熱をより抑制することができる。
【0043】
ヘテロエピタキシャル界面28とは、コア部24の表面を核としてシェル部26にかけてヘテロエピタキシャル成長して結晶成長することにより得られる界面である。言い換えると、ヘテロエピタキシャル界面28では、コア部24の表面の核となるCax(TiaZr1-a)O3の結晶構造の情報が、シェル部26のSry(TibZr1-b)O3に引き継がれている。
【0044】
誘電体粉末22がヘテロエピタキシャル界面28を有しているか否かは、たとえば下記の方法により判断できる。まず、上記の方法により、STEM-EDSにてコアシェル構造を確認したのちに、
図7および
図8に示すように高分解能TEMにて界面の状態が連続的であることを確認する。なお、
図8は
図7のVIII部の拡大図である。
【0045】
さらにXRD評価を行う。
図9の実線は、コア部24をCaZrO
3として、シェル部26をSrZrO
3とする誘電体粉末22のX線回折パターンであり、
図9の破線は、組成式がCa
0.7Sr
0.3ZrO
3となる固溶体のX線回折パターンである。また、
図9の太い破線は、44°付近にあるSrZrO
3の(004)面のピークを示し、
図9の太い実線は45°付近にあるCaZrO
3の(040)面のピークである。
【0046】
図9に示すように、44°付近にあるSrZrO
3の(004)面のピークと45°付近にあるCaZrO
3の(040)面のピークがシフトせずにスプリットしている場合、ヘテロエピタキシャル界面28があると判断できる。
【0047】
なお、CaZrO3とSrZO3とが完全に固溶すると、図の破線のピークのようにSrZrO3およびCaZrO3のピークが消失してピークがシフトする。
【0048】
仮に、誘電体粉末22がコアシェル構造を有しているもののヘテロエピタキシャル界面28を有しておらず、高分解能TEMにて界面の状態が連続的に見えなくても、誘電体粉末22のSTEMのHAADF像によれば、コア部24とシェル部26とは、コントラストが明らかに異なる。同様に、誘電体粉末22がコアシェル構造を有しているもののヘテロエピタキシャル界面28を有しておらず、高分解能TEMにて界面の状態が連続的に見えなくても、マッピング図により、コア部24とシェル部26とは明らかに区別することができる。
【0049】
本実施形態では、誘電体粉末22のコア部24とシェル部26の組成モル比をコア:シェルと表したとき、5:1から1:1の範囲の組成比であることが好ましく、4:1から3:2の範囲の組成比であることがより好ましい。これにより、交流電界印加時の自己発熱をより抑制することができると考えられる。
【0050】
なお、上記のコア:シェルとは、具体的には、コア部24に含まれるCax(TiaZr1-a)O3とシェル部26に含まれるSry(TibZr1-b)O3のモル比である。
【0051】
たとえば、コア:シェルは、出発原料であるCax(TiaZr1-a)O3粉末、ZrO2スラリー、TiO2スラリーおよびSr(OH)2・8H2Oなどの混合量を調整することにより変化させることができる。
【0052】
本実施形態に係る誘電体粉末22の平均粒径は200~300nmであることが好ましい。
【0053】
本実施形態に係る誘電体層2は副成分として、Si、Mn、Al、希土類元素、Mg、V、Hfなどを有していてもよい。これらの副成分はたとえば酸化物として含有されていてもよい。また、これらの副成分は、偏析粒子として含まれていてもよいし誘電体粒子22以外の誘電特性を示す粒子に固溶していてもよい。さらに、これらの副成分は誘電体粉末22の段階でシェル部26に含まれていてもよい。
【0054】
本実施形態では、誘電体層2を形成する粒子は、誘電体粉末22の形状をそのまま維持している必要はなく、たとえば誘電体粉末22が焼結、粒成長した誘電体粒子や、全固溶した粒子や、副成分等が偏析して形成された偏析粒子を含んでいても良い。本実施形態に係る誘電体粉末22によれば、誘電体粉末22が粒成長する焼結の過程で発生する格子欠陥等を抑制することができる。また、本実施形態に係る誘電体粒子の平均粒径は1μm以上であることが好ましい。
【0055】
本実施形態において、副成分として含まれるSiの酸化物としては特に限定されず、SiO2等の酸化物であっても良いし、Siと他の元素たとえばアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素との複合酸化物であっても良い。
【0056】
副成分として含まれる希土類元素は特に限定されないが、たとえばEu,Gd,Tb,Dy,Y,HoおよびYbからなる群から選ばれる1種類以上の元素であり、好ましくは、Yである。
【0057】
本実施形態では、誘電体層2に含まれるRMO3で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物100モル部に対して、副成分としてのSiの含有量は元素換算で好ましくは1~2モル部であり、より好ましくは1.5~2モル部である。
【0058】
なお、「誘電体層2に含まれるRMO3で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物」とは、たとえば上記のコアシェル構造を構成するCax(TiaZr1-a)O3およびSry(TibZr1-b)O3ならびにCax(TiaZr1-a)O3およびSry(TibZr1-b)O3の固溶体である。
【0059】
本実施形態では、誘電体層2に含まれるRMO3で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物100モル部に対して、副成分としてのMnの含有量は元素換算で好ましくは1~2.5モル部であり、より好ましくは1.5~2モル部である。これにより、還元焼成する際に、耐還元性が付与される効果がある。また、酸素欠陥を防ぐことができるため、高温負荷寿命が向上し、さらには、交流電界印加時の自己発熱の抑制にも寄与する。
【0060】
本実施形態では、誘電体層2に含まれるRMO3で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物100モル部に対して、副成分としてのAlの含有量は元素換算で好ましくは0.1~1モル部であり、より好ましくは0.1~0.3モル部である。
【0061】
本実施形態では、誘電体層2に含まれるRMO3で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物100モル部に対して、副成分としての希土類元素の含有量は元素換算で好ましくは0.1~1モル部であり、より好ましくは0.1~0.5モル部である。
【0062】
本実施形態では、誘電体層2に含まれるRMO3で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物100モル部に対して、副成分としてのMgの含有量は元素換算で好ましくは0.05~0.2モル部であり、より好ましくは0.1~0.15モル部である。
【0063】
本実施形態では、誘電体層2に含まれるRMO3で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物100モル部に対して、副成分としてのVの含有量は元素換算で好ましくは0.05~0.1モル部である。
【0064】
以下では、本実施形態の積層セラミックコンデンサ1の製造方法について説明する。
【0065】
本実施形態では、上記の誘電体粉末22を用いることにより、誘電体層2を得ることができる。このため、まず、誘電体粉末22の製造方法について説明する。なお、誘電体粉末22の製造方法としては、下記の水熱合成法に限らず、ソルボサーマル法などの種々の製造方法が可能である。
【0066】
所望の組成のCax(TiaZr1-a)O3粉末を準備する。次いで、Cax(TiaZr1-a)O3粉末とZrO2スラリーおよびTiO2スラリーを混合して混合物とし、乳鉢上で解砕し、乾燥する。これにより、当初はペースト状だった混合物は、そぼろ状になる。さらに、混合物を50~100℃で30分間乾燥する。
【0067】
次いで、混合物にSr(OH)2・8H2Oを加えて、乳鉢上で、好ましくは窒素雰囲気下で解砕した後、ペレット形状の成形体を得る。
【0068】
さらに、成形体を圧力容器に投入し、圧力容器内を140~300℃において、1~24時間保持する。なお、圧力容器の容積の30%以上を成形体の合計体積が占めることが好ましい。
【0069】
次いで、200~900℃において、1~6時間保持し、熱処理する。
【0070】
本実施形態では、コア部24のCax(TiaZr1-a)O3とシェル部26のSry(TibZr1-b)O3とは結晶構造が同一で、格子定数が近しい。このため、上記の疑似水熱合成においては、コア部のCax(TiaZr1-a)O3表面においてSry(TibZr1-b)O3の核形成エネルギーが非常に小さいことから、容易にヘテロエピタキシャル成長するものと考えられる。
【0071】
熱処理後の成形体を低粒径の0.2φ程度のジルコニアのビーズミルにて解砕し、誘電体粉末22とする。
【0072】
得られた誘電体粉末22を塗料化して、誘電体層を形成するためのペースト(誘電体層用ペースト)を調製する。
【0073】
誘電体層用ペーストは、誘電体粉末22、副成分粉末およびビヒクルを混練して得られる。ビヒクルが有機ビヒクルであっても良く、水系ビヒクルであっても良い。
【0074】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。バインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等、一般的な有機ビヒクルに用いられる各種バインダから適宜選択すれば良い。用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すれば良い。
【0075】
水系ビヒクルとは、水溶性バインダや分散剤などを水中に溶解したものである。水系ビヒクルに用いる水溶性バインダは特に限定されず、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂等、一般的な水系ビヒクルに用いられる各種バインダから適宜選択すれば良い。
【0076】
内部電極層用ペーストは、上記した各種導電性金属や合金からなる導電材あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。また、内部電極層用ペーストには、共材が含まれていても良い。共材としては特に制限されないが、誘電体層2の主成分と同様の組成を有していることが好ましい。
【0077】
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すれば良い。
【0078】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1~10質量%程度、溶剤は10~50質量%程度とすれば良い。また 、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていても良い。これらの総含有量は、10質量%以下とすることが好ましい。
【0079】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に印刷、積層し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする 。
【0080】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷し内部電極パターンを形成した後、これらを積層してグリーンチップとする。
【0081】
脱バインダ条件に特に制限はないが、昇温速度を好ましくは5~300℃/時間、保持温度を好ましくは180~900℃、温度保持時間を好ましくは0.5~48時間とする。また脱バインダの雰囲気は、空気中もしくは還元雰囲気中とすることが好ましい。
【0082】
脱バインダ後、グリーンチップの焼成を行う。焼成条件に特に制限はないが、昇温速度を好ましくは100~10000℃/時間とする。焼成時の保持温度は、1300~1400℃であり、焼成時の保持時間は、好ましくは0.5~20時間、より好ましくは1.0~15時間である。なお、焼成時の保持温度は、Li系の焼結助剤を用いることにより、1000℃付近まで下げることができる。
【0083】
焼成の雰囲気は、還元性雰囲気とすることが好ましい。雰囲気ガスには特に制限はなく、たとえば、N2とH2との混合ガスを加湿して用いることができる。
【0084】
また、焼成時の酸素分圧は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定すれば良いが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、焼成雰囲気中の酸素分圧は10-14~10-9MPaとすることが好ましい。降温速度に特に制限はないが、好ましくは50~10000℃/時間である。
【0085】
還元性雰囲気中で焼成した後、素子本体10にはアニール処理を施すことが好ましい。アニールは、誘電体層2を再酸化するための処理であり、これにより誘電体層2の絶縁抵抗(IR)を著しく上げることができ、信頼性(IR寿命)もより向上させることができる。
【0086】
アニールの雰囲気に特に制限はないが、酸素分圧を10-9~10-5MPaとすることが好ましい。
【0087】
アニールの際の保持温度に特に制限はないが、750~1000℃とすることが好ましい。保持温度が上記の範囲内であることにより、誘電体層2が酸化され過ぎない程度に十分に酸化され、誘電体層2の絶縁抵抗(IR)、信頼性(IR寿命)および温度特性がより良好になる。なお、アニール工程は昇温過程および降温過程だけから構成しても良い。すなわち、温度保持時間を零としても良い。この場合、保持温度は最高温度と同義である。
【0088】
上記以外のアニール条件としては、温度保持時間を好ましくは0~20時間、より好ましくは2~4時間、降温速度を好ましくは50~1000℃/時間、より好ましくは100~600℃/時間とする。またアニールの雰囲気ガスは乾燥N2雰囲気とし、露点20℃付近とすればよい。
【0089】
上記の工程において、N2ガスや混合ガス等を加湿するためには、たとえばウェッター等を使用すれば良い。ウェッターを使用する場合、水温は5~75℃程度が好ましい。
【0090】
脱バインダ処理、焼成、アニールは連続して行ってもよく、それぞれ独立に行っても良い。
【0091】
上記のようにして得られた素子本体10に端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼き付けし、外部電極4を形成する。そして、必要に応じて、外部電極4の表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0092】
このようにして、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1が製造される。得られた積層セラミックコンデンサ1の誘電体層2には、上記の構造の誘電体粉末22が焼結した誘電体粒子が含まれている。
【0093】
本実施形態に係る誘電体粉末22を用いて作製した電子部品は、負荷レベルの高い交流電界印加時における誘電体層2の自己発熱を抑制できることを見出した。
【0094】
その理由は必ずしも定かではないが、以下の理由が考えられる。交流電界印加時の発熱は、格子欠陥準位、酸素欠陥準位または不純物準位にトラップされた電気伝導性物質、すなわち空間電荷の振動により生じると考えられる。これに対して、本実施形態の誘電体層2を形成するための出発物質である誘電体粉末22では、コア部24のCax(TiaZr1-a)O3をシェル部26のSry(TibZr1-b)O3が覆っている。これにより、焼結時にシェル成分と添加材副成分とが反応する。このため、焼結時の「Cax(TiaZr1-a)O3におけるCaと添加材副成分の反応に伴うCaの脱離」および「ZrまたはTiの欠陥」を抑制できる。この結果、空間電荷の発生を抑制できることから、交流電界印加時の自己発熱を抑制することができると考えられる。
【0095】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
【0096】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品が積層セラミックコンデンサである場合について説明したが、本発明に係る電子部品は、積層セラミックコンデンサに限定されず、上述した誘電体粉末22を用いて得られる電子部品であれば何でも良い。
【0097】
たとえば、上述した誘電体粉末22を用いて得られる誘電体組成物に一対の電極が形成された単板型のセラミックコンデンサであっても良い。
【0098】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【実施例0099】
(実施例1~16)
実施例1~16では、以下に示す手順で、積層セラミックコンデンサ2を作製した。
【0100】
まず、表1に記載の組成のCax(TiaZr1-a)O3粉末を準備した。
【0101】
次いで、Cax(TiaZr1-a)O3粉末とZrO2スラリーと、必要に応じてTiO2スラリーを混合し混合物とし、乳鉢上で解砕し、80℃で30分間乾燥した。
【0102】
次いで、混合物にSr(OH)2・8H2Oを加えて、乳鉢上で、好ましくは窒素雰囲気下で解砕した後、ペレット形状の成形体を得た。なお、ZrO2スラリー、TiO2スラリーおよびSr(OH)2・8H2Oの添加量を変化させることにより、Sry(TibZr1-b)O3におけるSrの組成比であるy、Tiの組成比であるb、およびZrの組成比である(1-b)ならびに、「コア:シェル」を変化させた。
【0103】
さらに、成形体を圧力容器に投入し、圧力容器内を200℃において、12時間保持した。なお、圧力容器の容積の30%以上を成形体の合計体積が占めるようにした。
【0104】
次いで、成形体を200℃において、16時間保持、熱処理した。
【0105】
熱処理後の成形体を低粒径の0.2φ程度のジルコニアのビーズミルにて解砕し、誘電体粉末とした。
【0106】
得られた誘電体粉末100モル部に対して、Siを元素換算で1.5モル部、Mnを元素換算で2モル部、Alを元素換算で0.2モル部、Yを元素換算で0.1モル部、Mgを元素換算で0.1モル部、Vを元素換算で0.1モル部準備して、副成分粉末とした。
【0107】
誘電体粉末および副成分粉末を塗料化して、誘電体層2を形成するためのペースト(誘電体層用ペースト)を調製した。
【0108】
さらに導電材の主成分をNiとする内部電極層用ペーストを作製し、これらペーストを用いて、シート法によりグリーンチップを製造した。
【0109】
次いで、得られた積層セラミック焼成体の端面をバレル研磨した後、外部電極4としてCuペーストを塗布し、還元雰囲気にて焼き付け処理を行い、
図1に示す積層セラミックコンデンサ1の試料を得た。得られたコンデンサの試料のサイズは、3.2mm×1.6m m×1.6mmであり、誘電体層2の層間厚みは10μm、内部電極層3厚み1μmとした。また、誘電体層2の数を50層とした。
【0110】
得られた誘電体粉末22について上記の方法によりコアシェル構造の有無およびヘテロエピタキシャル界面28の有無を判断した。また、得られたコンデンサ試料について、下記の方法により低周波誘電損失および交流発熱のΔtを測定した。
【0111】
なお、誘電体粉末22についてSTEM-EDSの定量分析をすることにより、コア部24の組成と表1のCax(TiaZr1-a)O3の組成は一致しており、シェル部26の組成と表1のSry(TibZr1-b)O3の組成は一致していることが確認できた。すなわち、原料組成と製品としての誘電体粉末22の組成が一致していることが確認できた。
【0112】
低周波誘電損失
1Hzから10Hzまでの誘電損失はインピーダンスアナライザ(Sorton1260)を使用して測定した。結果を表1に示す。
【0113】
交流発熱
コンデンサ試料を共振コンデンサ試験回路に組み込み、85kHz、1090Vp-pの交流電界を与え続けて、100時間後コンデンサ試料に直接熱電対を接触させて自己発熱温度を計測した。なお、実験前初期温度と、自己発熱温度との差をΔtとして表1に示す。
【0114】
(実施例17~32)
実施例7~32では、熱処理温度を900℃とした以外は、実施例1~16と同様にして、誘電体粉末を得て、積層セラミックコンデンサを作製し、コアシェル構造の有無およびヘテロエピタキシャル界面の有無を判断し、低周波誘電損失および交流発熱のΔtを測定した。結果を表1に示す。
【0115】
(比較例1)
比較例1では、誘電体粉末22ではなく、表1に示す組成の固溶体の仮焼粉を得て、積層セラミックコンデンサを作製し、コアシェル構造の有無およびヘテロエピタキシャル界面の有無を判断し、低周波誘電損失および交流発熱のΔtを測定した。結果を表1に示す。
【0116】
すなわち、比較例1では、CaCO3、SrCO3、TiO2およびZrO2をボールミルにて粉砕し、乾燥し、仮焼きして固溶体の仮焼粉を得た。
【0117】
【0118】
表1より、誘電体粉末22が、コアシェル構造を有している場合(実施例1~32)には、コアシェル構造を有していない場合(比較例1)に比べて、低周波誘電損失が低く、交流発熱のΔtが低いことが確認できた。
【0119】
図10は、X軸をシェル比として、Y軸を低周波誘電損失としたグラフである。なお、「シェル比」とは、表1の「コア:シェル」から求められる誘電体粉末22中のシェル比であり、具体的には、下記の式(1)から得られる値である。
シェル比=100×{Sr
y(Ti
bZr
1-b)O
3のモル含有量}/〔{Ca
x(Ti
aZr
1-a)O
3のモル含有量}+{Sr
y(Ti
bZr
1-b)O
3)のモル含有量}〕・・・(1)
【0120】
表1および
図10より、コアシェル構造を有し、シェル比が20~30%の場合(コア:シェルが4:1~7:3の場合)(実施例5~12、21~28)は、シェル比が17%の場合(コア:シェルが5:1の場合)(実施例1~4、17~20)および50%の場合(コア:シェルが1:1の場合)(実施例13~16、29~32)に比べて、低周波誘電損失が低いことが確認できた。このような傾向は、
図10に点線で示す補助線から明らかである。
【0121】
図11は、X軸を低周波誘電損失として、Y軸を交流発熱のΔtとしたグラフである。
図11の黒丸(●)は実施例1~16に関し、すなわち、ヘテロエピタキシャル界面28を有していない場合について示している。
図11の白丸(○)は実施例17~32に関し、すなわち、ヘテロエピタキシャル界面28を有している場合について示している。また、
図11は、低周波誘電損失と交流発熱のΔtの相関関係を示す補助線である。
【0122】
表1より、ヘテロエピタキシャル界面28を有する場合は、ヘテロエピタキシャル界面28を有していない同組成のコンデンサ試料と比較して、交流発熱のΔtが低いか、または同程度であることが確認できた。また、
図11より、ヘテロエピタキシャル界面28を有する場合は、ヘテロエピタキシャル界面28を有していない場合に比べて、低周波誘電損失と交流発熱のΔtとの相関関係が高いことが確認できた。