(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131455
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】多層構造シングル丸編地
(51)【国際特許分類】
D04B 1/00 20060101AFI20220831BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
D04B1/00 A
D04B1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030409
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597052053
【氏名又は名称】ミツカワ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴間 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】中西 優輔
(72)【発明者】
【氏名】森 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】飯田 中
【テーマコード(参考)】
4L002
【Fターム(参考)】
4L002AA05
4L002AA07
4L002AB02
4L002AB04
4L002AC07
4L002BA00
4L002BA01
4L002BA04
4L002BA05
4L002BB02
4L002BB05
4L002EA00
4L002EA03
4L002FA02
4L002FA03
(57)【要約】
【課題】軽量嵩高性に富み、ストレッチ性があり、ソフトで吸水速乾性に優れる衣料用および裏地に適した多層構造シングル丸編地を提供する。
【解決手段】本発明の多重構造シングル丸編地は、三重以上の多重編目を有するシングル編地であり、前記三重以上の多重編目を構成する糸の内少なくとも2本がシンカーループ面において同一形状のブリッジ構造を形成していることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三重以上の多重編目を有するシングル編地であり、前記三重以上の多重編目を構成する糸の内少なくとも2本がシンカーループ面において同一形状のブリッジ構造を形成していることを特徴とする、多重構造シングル丸編地。
【請求項2】
前記同一形状のブリッジ構造を形成する少なくとも2本の糸が合成繊維マルチフィラメント糸からなり、各合成繊維マルチフィラメント糸を構成する単糸の単糸繊度が異なることを特徴とする、請求項1に記載の多重構造シングル丸編地。
【請求項3】
前記三重以上の多重編目の割合が20%以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の多重構造シングル丸編地。
【請求項4】
前記同一形状のブリッジ構造を形成する糸の内少なくとも1本の糸を構成する合成繊維マルチフィラメント糸の単糸繊度が1デシテックス以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の多重構造シングル丸編地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シングル丸編地に関する。さらに詳しくは、本発明は、シングル丸編地でありながら、軽量嵩高性に富み、ストレッチ性があり、ソフトで吸水速乾性に優れる衣料用に適した多層構造シングル丸編地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からシングル丸編地は衣料用編物として知られている。たとえば天竺組織、鹿の子組織などは、薄く、軽量でかつストレッチ性を有することから、Tシャツ、ポロシャツなどのシャツ類に多く使用されているが、その一方、生地が変化し易くランなど走りやすいなど物理的に不安定で、ボリューム感がなく、透けるなどの欠点があった。そのほか二層構造シングル丸編地として、少なくとも3 種類の糸により構成されるためボリューム感を有するインレー組織が知られており、主にスエットスーツ、トレーナーなどに使用されているが、ストレッチ性もなく、またインレー組織は編地表面変化にも限界があり、ほとんどが表面のフラットなタイプのものしか得られないという欠点があった。
【0003】
このため特許文献1において、シングル丸編地でありながら、裏糸が表糸の内側に表糸と相似形状に配置される二重編目部と二重編目間のブリッジ構造を形成する特殊構造とすることで、薄くて嵩高性に富んだ二重シングル丸編地が提供されている 。しかし、この丸編地では裏糸が少なく、嵩高性・ソフト感・軽量感に限界があるとともに、吸水速乾性も十分とは言えなかった。
【0004】
また、特許文献2のように、表糸と裏糸で構成され、同じコースに存在する2本以上の裏糸が異なるブリッジ構造を形成する、二層または三層構造シングル丸編地の提案もなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3923135号公報
【特許文献2】特許第6745680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載された技術に係る生地は、裏糸を異なるブリッジ構造としたシングル丸編地であるため、嵩高性には優れるものの、裏糸の被覆率が少ないため吸水速乾性においては不十分であった。
【0007】
本発明の課題は、かかる従来の二層構造シングル丸編地を進化させ、ストレッチ性があり、軽量性、嵩高性とハリコシ感やソフト感のある風合いを維持しながら、吸水速乾性を向上させ、効率的に低コストで製造可能な衣料用の多層構造シングル丸編地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る多層構造シングル丸編地は、三重以上の多重編目を有するシングル編地であり、前記三重以上の多重編目を構成する糸の内少なくとも2本がシンカーループ面において同一形状のブリッジ構造を形成していることを特徴とする。
【0009】
前記同一形状のブリッジ構造を形成する少なくとも2本の糸が合成繊維マルチフィラメント糸からなり、各合成繊維マルチフィラメント糸を構成する単糸の単糸繊度が異なることが好ましい。
【0010】
前記三重以上の多重編目の割合が20%以上であることが好ましい。
【0011】
前記同一形状のブリッジ構造を形成する糸の内少なくとも1本の糸を構成する合成繊維マルチフィラメント糸の単糸繊度が1デシテックス以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る多層構造シングル丸編地によれば、軽量嵩高性に富み、ストレッチ性があり、ソフトで吸水速乾性に優れる衣料用に適したシングル丸編地を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る多層構造シングル丸編地の一例を示す編地断面モデル図である。
【
図2】従来の編地の一例を示す編地断面モデル図である。
【
図3】従来の編地の別の例を示す編地断面モデル図である。
【
図4】本発明に係る多層構造シングル丸編地のシンカーループ面の一例を示す図である。
【
図5】本発明に係る多層構造シングル丸編地の別のシンカーループ面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態に係る多層構造シングル丸編地は、三重以上の多重編目を有するシングル編地であり、前記三重以上多重編目を構成する糸の内少なくとも2本がシンカーループ面において同一形状のブリッジ構造を形成していることを特徴とする。
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を用い詳細に説明する。図中、符号a~hは、1コースを形成させるに必要な表編目、イ~ハは編地構成糸、A1、A2はシンカーループ面(肌側面)に形成されるブリッジ構造を示す。
図1は、本発明の実施形態に係る多層構造シングル丸編地の一例を示す編地断面モデル図であり、
図2は、従来の二層構造シングル丸編地を示す編地断面モデル図であり、
図3は、従来の三層構造シングル丸編地を示す編地断面モデル図である。
【0016】
図1に示す本発明の実施形態に係る三層構造シングル丸編地1は、表糸イと、裏糸ロと、裏糸ハとからなる。表糸イは、ニットにより表編目a、b、c、d、e、f、g、hを形成し、裏糸ロおよび裏糸ハは、表編目a、c、e、gの内側に表糸イと相似形状をなしてそれぞれ配置され、表糸イとともに三重編目部を形成している。
また、裏糸ロおよび裏糸ハは、シンカーループ面においてウエルトにより表編目b、d、f、hの裏側の編目間を橋渡し状に1編目ずつ飛ばしたブリッジ構造A1、ブリッジ構造A2をそれぞれ形成している。ブリッジ構造A1、ブリッジ構造A2は、同一形状のブリッジ構造である。
【0017】
これに対し、
図2に示す従来の二層構造シングル丸編地10は、糸イと、裏糸ロとからなり、表糸イは、ニットにより表編目a、b、c、d、e、f、g、hを形成し、裏糸ロは、表編目a、c、e、gの内側に表糸イと相似形状をなしてそれぞれ配置され、表糸イとともに二重編目部を形成している。
また、裏糸ロは、シンカーループ面においてウエルトにより表編目b、d、f、hの裏側の編目間を橋渡し状に1編目ずつ飛ばしたブリッジ構造A1を形成している。
二層構造シングル丸編地10では裏糸が少なく、嵩高性・ソフト感・軽量感に限界があり、吸水速乾性も十分ではない。
【0018】
また、
図3に示す従来の三層構造シングル丸編地20は、糸イと、裏糸ロと、裏糸ハとからなり、表糸イは、ニットにより表編目a、b、c、d、e、f、g、hを形成し、裏糸ロおよび裏糸ハは、表編目b、fの内側に表糸イと相似形状をなしてそれぞれ配置され、表糸イとともに三重編目部を形成している。
また、裏糸ロは、表編目d、hでタック編により表編に引っかかった形で変形編目を形成し、シンカーループ面においてウエルトにより表編目a、c、e、gの裏側の編目間を橋渡し状に1編目ずつ飛ばしたブリッジ構造A1を形成している。
裏糸ハは、シンカーループ面においてウエルトにより表編目a、c、d、e、g、hの裏側の編目間を橋渡し状に3編目ずつ飛ばしたブリッジ構造A2を形成し、ブリッジ構造A1、ブリッジ構造A2は、同一形状のブリッジ構造ではない。
三層構造シングル丸編地20では裏糸が多いため、嵩高性に優れるものの、ブリッジ構造A1およびブリッジ構造A2が厚み方向に重なって配置されるため、吸水速乾性が十分ではない。
【0019】
本実施形態の三層構造シングル丸編地1は、三重編目を構成する糸の内、裏糸ロおよび裏糸ハの2本がシンカーループ面で同一形状のブリッジ構造A1およびA2を形成している。これによって、ブリッジ構造A1およびA2が厚み方向に完全に重なることなく、すなわち、裏糸ロが裏糸ハにより被覆されることにより裏糸ロが肌面側から見えなくなる程に重なることはなく、ブリッジがずれて横並びに存在するため、肌面側をブリッジ構造で被覆する割合が増え、表側に移動した水の濡れ戻りを防ぐことができる。
図4および
図5は、三層構造シングル丸編地1のシンカーループ面を示す図であり、
図4は、裏糸ロに黒糸、裏糸ハに白糸を使用したもので、
図5は、裏糸ロに白糸、裏糸ハに黒糸を使用したものである。
図4および
図5のいずれの図においても、ブリッジ構造A1およびブリッジ構造A2が厚み方向に完全に重なることなく、肌面側を被覆していることがわかる。
【0020】
従来の二層構造シングル丸編地では、ストレッチ性や嵩高性が小さく、編地表面変化に制限のある組織であったり、多重編目間のブリッジ構造部を形成する特殊二層構造シングル丸編地でストレッチ性を改善したりしているが、吸水速乾性の改善に限界があった。従来技術において2種類の糸を同一編目にする編み方は、
図2の表糸イのように全針で編目を編成するよりも、裏糸ロのように一針跳びに編目を編成する方が安定しづらくなるため、
図1に示す本実施形態のような裏糸に2種類の糸を安定して使用することが難しかった。本発明者らは、給糸方法、編成条件を検討した結果、2種類の裏糸を安定して給糸させることを可能とし、2種類の裏糸のブリッジ横並びとし、裏面の被覆率を上げることができるという効果を発見するに至った。本発明による編成構造を採用することにより、軽量嵩高性が大きく、ストレッチ性もあり、ハリコシ感やソフトで軽量感のある風合いを維持しながら、吸水速乾性を更に高めた多層構造シングル丸編地を提供することができる。
【0021】
本発明の多層構造シングル丸編地について、三層構造シングル丸編地1を例として説明したが、三重以上の多重編目を有するシングル編地であり、多重編目を構成する糸の内少なくとも2本がシンカーループ面において同一形状のブリッジ構造を形成しているものであれば、三層構造に限定するものではない。例えば、表糸と3本の裏糸で四重編目を有するシングル編地とし、裏糸3本のうちの少なくとも2本がシンガーループ面で同一形状のブリッジ構造を形成する多層構造シングル編地も、ブリッジ構造が肌面側を被覆することにより、吸水速乾性を向上することができる。
【0022】
本発明の多層構造シングル丸編地において、シンカーループ面でのブリッジ構造は1~7ループ飛ばしで形成されていることが好ましい。ブリッジ構造を1ループ飛ばし以上とすることで肌面からの吸水速度を向上することができる。7ループ飛ばし以上となるとシンカーループ面の糸の浮きが大きくなりすぎスナッグ等の物性が低下する可能性がある。
【0023】
本発明の多層構造シングル丸編地において、ブリッジ構造を形成する少なくとも2本の糸の単糸繊度が異なることが好ましい。更に好ましくはブリッジ構造を形成する2本の糸の内、生地の内側に位置する糸の単糸繊度が生地の外側に位置する糸の単糸繊度よりも細いことが好ましい。また、表糸の単糸繊度は、裏糸の単糸繊度より細いことが特に好ましい。例えば、
図1の三層構造シングル丸編地1では、裏糸ロの単糸繊度が裏糸ハの単糸繊度より小さいことが好ましい形態であり、表糸イの単糸繊度が裏糸ロの単糸繊度より小さく、裏糸ロが裏糸ハの単糸繊度より小さいことがさらに好ましい形態である。ブリッジ構造を形成する少なくとも2本の糸の単糸繊度が異なることで毛細管現象を発現し、より効率的に生地の肌面から表面に向けて水分の移動をし易くなる。また、単糸繊度を裏糸ロ<裏糸ハ、さらには表糸イ<裏糸ロ<裏糸ハとすることにより、肌面側から表側への水分の移動がより促進され、吸水速乾性をさらに向上することができる。
【0024】
また、生地表面の編目に占める三重以上の多重編目の割合が20%以上であることが好ましい。三重以上の多重編目の割合が20%未満の場合、十分な吸水速乾性が得られず、生地のハリコシ感も低下する可能性がある。三重以上の多重編目の割合はより好ましくは30%以上であり、更に好ましくは50%である。三重以上の多重編目は生地表面の全コースに含まれる必要はなく、1コース毎、3コース中に2コース等任意に設定することができ、編地の基本組織において20%以上含まれれば問題ない。 なお、三重以上の多重網目の割合は、下記式により算出する。
三重以上の多重網目の割合(%)=三重以上の多重編目の個数/全編目の個数×100
【0025】
本発明の多層構造シングル丸編地において、多重編目を構成する糸の内少なくとも2本がシンカーループ面において同一形状のブリッジ構造を形成するとは、多重編目を構成する糸が形成するブリッジ構造のうち、少なくとも50%以上が同一形状であることを意図するものであり、80%以上が同一形状であることが好ましく、さらに100%が同一形状であることが好ましい。同一形状のブリッジ構造とは編地における同一コース上において同じウエール間で形成されたブリッジ構造のことを指す。ブリッジ構造が同一形状であることにより、ブリッジ構造による肌面側の被覆率が向上し、給水性能を向上することができる。
【0026】
本発明の多層構造シングル丸編地において、ブリッジ構造を形成する糸の内少なくとも1本の合成繊維マルチフィラメント糸を構成する単糸の単糸繊度が1デシテックス以下であることが好ましい。かかる単糸繊度を1デシテックス以下とすることで肌当たりをソフトにすることができる。単糸繊度はより好ましくは0.9デシテックス以下、更に好ましくは0.8デシテックス以下が好ましい。
【0027】
本発明の多層構造シングル丸編地に用いられる糸として、長繊維及び/または短繊維を用いることができる。速乾性を高めるために、好ましくは合成繊維が用いられる。合成繊維としては、合成繊維マルチフィラメント糸条が用いられることが好ましく、合成繊維の中でも強度の高いポリエステル繊維やポリアミド繊維が用いられることが好ましく、速乾性の点においてポリエステル繊維を用いることが好ましい。
【0028】
合成繊維マルチフィラメント糸条としては、製糸工程後、特に高次の糸加工がされていないストレートヤーンである生糸や、高次の糸加工がされた仮撚り加工糸や空気混繊糸、空気交絡糸などが使用される。特に、厚み(膨らみ感)を重視する場合は、仮撚り加工糸が使用されることが好ましい。
【0029】
合成繊維マルチフォラメント糸条の断面形状としては丸断面、三角断面、複数の凹凸を有する多葉断面等、任意の断面形状を採用することができる。また、多層構造シングル編地は染色加工工程において公知の技術を用い吸水加工を行うことが好ましい。
【0030】
本発明における多層構造シングル丸編地は、前述した編地構造とすることで優れた吸水速乾性を得ることができる。吸水速乾性の指標としてはAATCC195で測定される項目を用いることができる。
【0031】
本発明における多層構造シングル丸編地の湿潤時間は、浸水面、浸透面共に5秒以下が好ましく、より好ましくは3秒以下である。湿潤時間が5秒よりも遅い場合、汗を吸い込む速度が遅くべたつきを感じ易くなってしまう。
【0032】
本発明における多層構造シングル丸編地の吸水速度は、30%/秒以上が好ましく、より好ましくは40%/秒以上が好ましい。吸水速度が30%/秒未満の場合、汗を吸い込む時間が長くなりべたつき感を感じ易くなってしまう。
【0033】
本発明における多層構造シングル丸編地の浸透面における最大湿潤半径は、18mm以上が好ましく、より好ましくは20mm以上、更に好ましくは22mm以上が好ましい。浸透面の最大湿潤半径が18mm未満の場合、速乾性が低下し易くなってしまう。
【0034】
本発明における多層構造シングル丸編地の浸透面における拡散速度は、3mm/秒以上が好ましく、より好ましくは4mm/秒以上である。拡散速度が3mm/秒未満の場合、汗の生地内での拡散が遅くなりべたつきを感じ易くなってしまう。
【0035】
本発明における多層構造シングル丸編地の一方向浸透指数は、400以上が好ましく、より好ましくは450以上、更に好ましくは500以上である。一方向浸透指数が400未満の場合、汗の生地肌面から表面への移動が少なく、べたつきを感じ易くなってしまう。
【0036】
本発明における多層構造シングル丸編地の総合モイスチャーマネージメント指数は、0.6以上が好ましく、より好ましくは0.8以上、更に好ましくは0.9以上である。総合モイスチャーマネージメント指数が0.6未満の場合、吸水速乾性が不十分となってしまう。
【0037】
本発明における多層構造シングル丸編地は、編機と編み条件を所望の条件等に適合させて製編された後、染色加工においてもウェル数とコース数の最終調整を行うことができ、目的の編密度に仕上げられる。
【0038】
前記編機は、シングル丸編機であればよく、特に限定されないが、目的の編密度を得るには、28ゲージ以上のシングル丸編機が好ましく、36ゲージ以上であることがより好ましい。
【0039】
前記染色加工の方法は、従来から知られている染色方法で加工することができる。また、染色段階での付帯加工は、吸水加工、撥水加工、防汚加工、抗菌加工、抗ウイルス加工、消臭加工、防臭加工、難燃加工などがある。これらの付帯加工は、目的とする狙いに応じて適宜付与されることが好ましい。
【0040】
上述した特性を有する多層構造シングル丸編地を用いて、ストレッチ性、および軽量性に優れ、嵩高性とハリコシ感やソフト感のある風合いを維持しながら、吸水速乾性を備えた衣料を提供することができる。これらの多層構造シングル丸編地は、三重以上の多重編目を構成する糸の内少なくとも2本がシンカーループ面において同一形状のブリッジ構造を形成している。
【実施例0041】
以下、本発明に係る実施例について図面を参照しつつさらに詳しく説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定するものではない。なお、実施例における各物性値は、下記の方法により測定した。
【0042】
(1)吸水速乾性
AATCC195に準じ、湿潤時間、吸水速度、最大湿潤半径、拡散速度、一方向浸透指数、総合モイスチャーマネージメント指数を測定した。
【0043】
(2)目付
JIS L 1096-2013に基づき、試験片の単位面積あたりの質量(g/m2)を測定した。
【0044】
(実施例1)
本発明の実施例1の多層構造シングル丸編地は、断面が
図1に示す編地を有し、編方図は
図6に示すものである。表糸イとして84デシテックス72フィラメントのフルダルポリエステル仮撚加工糸を、裏糸ロとして33デシテックス24フィラメントのPBT・PETバイメタルポリエステル仮撚加工糸を、裏糸ハとして33デシテックス12フィラメントのセミダルポリエステル仮撚加工糸を用い、36ゲージのシングル丸編機で三層構造シングル丸編地の生機を編成した。表糸イのa1、c1、e1、g1、b2、d2、f2、h2の編目と裏糸ロとハのa1、c1、e1、g1、b2、d2、f2、h2の編目はそれぞれ重なることで三重編目を形成している。また、裏糸ロのシンカーループ面のブリッジ構造と、裏糸ハのシンカーループ面のブリッジ構造は同一形状である。この生機を通常のポリエステル編物の染色加工法に従いリラックス、精練、染色、仕上げセットを行い、三重以上の編目が50%で目付124g/m
2の編地を得た。この編地は表1に示すように吸水速乾性に極めて優れるものであった。
【0045】
(実施例2)
本発明の実施例2の多層構造シングル丸編地は、実施例1と同様の編地であり、表糸イとして56デシテックス72フィラメント双糸のフルダルポリエステル仮撚加工糸を、裏糸ロとして33デシテックス24フィラメントのPBT・PETバイメタルポリエステル仮撚加工糸を、裏糸ハとして33デシテックス12フィラメントのセミダルポリエステル仮撚加工糸を用い、実施例1と同様にして三重以上の編目が50%で目付185g/m2の編地を得た。この編地は表1に示すように吸水速乾性に極めて優れるものであった。
【0046】
(実施例3)
本発明の実施例3の多層構造シングル丸編地は、実施例1と同様の編地であり、表糸イとして56デシテックス72フィラメント双糸のフルダルポリエステル仮撚加工糸を、裏糸ロとして33デシテックス36フィラメントのセミダルポリエステル仮撚加工糸を、裏糸ハとして33デシテックス12フィラメントのセミダルポリエステル仮撚加工糸を用い、実施例1と同様にして三重以上の編目が50%で目付171g/m2の編地を得た。この編地は表1に示すように吸水速乾性に極めて優れるものであった。
【0047】
(実施例4)
本発明の実施例4の多層構造シングル丸編地は、実施例1と同様の編地であり、表糸イとして56デシテックス72フィラメント双糸のフルダルポリエステル仮撚加工糸を、裏糸ロとして33デシテックス24フィラメントのPBT・PETバイメタルポリエステル仮撚加工糸を、裏糸ハとして33デシテックス36フィラメントのセミダルポリエステル仮撚加工糸を用い、実施例1と同様にして三重以上の編目が50%で目付177g/m2の編地を得た。この編地は表1に示すように吸水速乾性に極めて優れるものであった。
【0048】
(実施例5)
本発明の実施例5の多層構造シングル丸編地は、実施例1と同様の編地であり、表糸イとして56デシテックス72フィラメント双糸のフルダルポリエステル仮撚加工糸を、裏糸ロとして33デシテックス36フィラメントのセミダルポリエステル仮撚加工糸を、裏糸ハとして33デシテックス36フィラメントのセミダルポリエステル仮撚加工糸を用い、実施例1と同様にして三重以上の編目が50%で目付168g/m2の編地を得た。この編地は表1に示すように吸水速乾性に極めて優れるものであった。
【0049】
(実施例6)
本発明の実施例6の多層構造シングル丸編地は、表糸イと、裏糸ロと、裏糸ハと、表糸ニとからなり、対応する編方図は
図7に示すものである。表糸イとして84デシテックス72フィラメントのフルダルポリエステル仮撚加工糸を、裏糸ロとして33デシテックス24フィラメントのPBT・PETバイメタルポリエステル仮撚加工糸を、裏糸ハとして33デシテックス12フィラメントのセミダルポリエステル仮撚加工糸を、表糸ニとして84デシテックス36フィラメントのフルダルポリエステル仮撚加工糸を用い、36ゲージのシングル丸編機で多層構造シングル丸編地の生機を編成した。表糸イのa1、c1、e1、g1、b3、d3、f3、h3の編目と裏糸ロとハのa1、c1、e1、g1、b3、d3、f3、h3の編目はそれぞれ重なることで三重編目を構成し、裏糸ロおよび裏糸ハのシンカーループ面のブリッジ構造が同一形状を形成している。表糸ニは、b2、d2、f2、f2、a4、c4、e4、g4で、ニット編目を構成し、a2、c2、e2、g2、b4、d4、f4、h4で、タック編目を形成する。この生機を通常のポリエステル編物の染色加工法に従いリラックス、精練、染色、仕上げセットを行い、三重以上の編目が33%で目付152g/m
2の編地を得た。この編地は表1に示すように吸水速乾性に極めて優れるものであった。
【0050】
(比較例1)
比較例1の二層構造シングル丸編地は、断面が
図2に示す編地を有し、編方図は
図8に示すとおりである。表糸イとして56デシテックス72フィラメント双糸のフルダルポリエステル仮撚加工糸を、裏糸ロとして56デシテックス36フィラメントのブライトポリエステル仮撚加工糸を用い、36ゲージのシングル丸編機で二層構造シングル丸編地の生機を編成した。表糸イのa1、c1、e1、g1、b2、d2、f2、h2の編目と裏糸ロのa1、c1、e1、g1、b2、d2、f2、h2の編目はそれぞれ重なることで二重編目を形成している。この生機を通常のポリエステル編物の染色加工法に従いリラックス、精練、染色、仕上げセットを行い、三重以上の編目はない目付128g/m
2の編地を得た。この編地は表1に示すように、吸水速乾性が実施例に比べ劣るものであった。
【0051】
(比較例2)
比較例2の三層構造シングル丸編地は、断面が
図3に示す編地を有し、編方図は
図9に示すとおりである。表糸イとして84デシテックス72フィラメントのフルダルポリエステル仮撚加工糸を、裏糸ロとして33デシテックス36フィラメントのセミダルポリエステル仮撚加工糸を、裏糸ハとして33デシテックス36フィラメントのセミダルポリエステル仮撚加工糸を用い、36ゲージのシングル丸編機で三層構造シングル丸編地の生機を編成した。表糸イのa1、e1の編目と裏糸ロとハのa1、e1の編目はそれぞれ重なることで三重編目を形成しているが、裏糸ロと裏糸ハのブリッジ構造は同一形状を形成していない。この生機を通常のポリエステル編物の染色加工法に従いリラックス、精練、染色、仕上げセットを行い、三重以上の編目が25%で目付121g/m
2の編地を得た。この編地は表1に示すように、吸水速乾性が実施例に比べ劣るものであった。
【0052】
以上、本発明の実施形態及び実施例について説明したが、本発明は上記の実施形態及び実施例によって限定されるものではない。
【0053】
すなわち、本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。上述した実施形態及び実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0054】