(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131458
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】回転式繰出具
(51)【国際特許分類】
B43K 24/06 20060101AFI20220831BHJP
【FI】
B43K24/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030414
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】加藤 寛
【テーマコード(参考)】
2C353
【Fターム(参考)】
2C353HA01
2C353HA09
2C353HC02
2C353HG03
2C353HL01
(57)【要約】
【課題】誤作動が生じ難い回転式繰出具を得る。
【解決手段】軸筒2内に、前軸3と後軸4との連接部Rを弾発して圧接させる弾性体13を有し、前軸3と後軸4との間に、前軸3と後軸4とが軸心に沿った方向に係止され、軸3と後軸4との相対的な回動を規制する係止部Kを有し、前軸3と後軸4との連接部Rを弾性体13の弾発力に抗して離間させると共に、係止部Kの係止状態を解除し、且つ前軸3と後軸4とを相対的に回動させることにより、軸筒2内に配したカム機構7で移動体6の先端部6aを前軸3の先端開口部3aより突出させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒が、相対的に回動可能に連接された前軸と後軸とを有し、
前記軸筒内に、弾発体と該弾発体により後方へ弾発された移動体とを有し、
前記前軸と前記後軸とを相対的に回動させることにより、前記軸筒内に配したカム機構で前記移動体を前記弾発体の弾発力に抗して前進させ、該移動体の先端部を前記前軸の先端開口部より突出させる回転式繰出具であって、
前記軸筒内に、前記前軸と前記後軸との連接部を弾発して圧接させる弾性体を有し、
前記前軸と前記後軸との間に、該前軸と該後軸とが軸心に沿った方向に係止され、当該前軸と当該後軸との相対的な回動を規制する係止部を有し、
前記前軸と前記後軸との前記連接部を前記弾性体の弾発力に抗して離間させると共に、前記係止部の係止状態を解除し、且つ該前軸と該後軸とを相対的に回動させることにより、前記軸筒内に配したカム機構で前記移動体の先端部を前記前軸の先端開口部より突出させる回転式繰出具。
【請求項2】
前記カム機構が前記移動体の先端部を前記前軸の先端開口部より突出させた状態で、前記弾性体が、前記前軸と前記後軸との連接部を弾発して圧接させ、且つ前記前軸と前記後軸との間の係止部を係止状態とする請求項1に記載の回転式繰出具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転式繰出具に関し、前軸と後軸とを相対的に回動させることで、軸筒本体の内部に収容した移動体を前後動させ、前軸の先端開口部より移動体の先端部を出没させる構造の回転式繰出具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールペンなど筆記具では、軸筒の先端開口部より軸筒本体の内部に前後動可能に収容した筆記体の先端部を出没させる構造の筆記具はよく知られており、その中でも、軸筒本体が前軸と後軸とで構成され、前軸と後軸とを相対的に回動させることにより、軸筒内に設けたカム機構を作動させ、筆記体の筆記先端部を前軸の先端開口部より出没させる構造もよく知られている。
【0003】
前記回転式の繰出式筆記具は、例えば特許文献1に示されるように、前軸と後軸とを相対的に回動させることで、筆記先端を突出させることから、ノック式ボールペンのようにノック体に何かが触れることで筆記先端が突出してしまうという、誤作動は生じ難い構造である。それでも不本意に、前軸と後軸とが相対的に回動された場合には、筆記先端が軸筒の先端開口部から突出してしまうことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明では、誤作動が生じ難い回転式繰出具を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
「1.軸筒が、相対的に回動可能に連接された前軸と後軸とを有し、
前記軸筒内に、弾発体と該弾発体により後方へ弾発された移動体とを有し、
前記前軸と前記後軸とを相対的に回動させることにより、前記軸筒内に配したカム機構で前記移動体を前記弾発体の弾発力に抗して前進させ、該移動体の先端部を前記前軸の先端開口部より突出させる回転式繰出具であって、
前記軸筒内に、前記前軸と前記後軸との連接部を弾発して圧接させる弾性体を有し、
前記前軸と前記後軸との間に、該前軸と該後軸とが軸心に沿った方向に係止され、当該前軸と当該後軸との相対的な回動を規制する係止部を有し、
前記前軸と前記後軸との前記連接部を前記弾性体の弾発力に抗して離間させると共に、前記係止部の係止状態を解除し、且つ該前軸と該後軸とを相対的に回動させることにより、前記軸筒内に配したカム機構で前記移動体の先端部を前記前軸の先端開口部より突出させる回転式繰出具。
2.前記カム機構が前記移動体の先端部を前記前軸の先端開口部より突出させた状態で、前記弾性体が、前記前軸と前記後軸との連接部を弾発して圧接させ、且つ前記前軸と前記後軸との間の係止部を係止状態とする前記1項に記載の回転式繰出具。」である。
【0007】
移動体を前進させるカム機構は、軸心に沿った方向に対して傾斜するカム斜面と該カム斜面に摺動するカム突起とを具備するものや、あるいは軸心周りの螺旋状のカム溝と該カム斜面に摺動するカム突起を具備するものなど、軸筒の回転運動を軸心に沿った直線運動に変換する機構である。
軸筒内の移動体は、カム機構により前後動して先端部が前軸の先端開口部より突出されれば、軸筒内に収容する数は単数でも複数でもよく、単数のものではボールペンレフィルやマーカーレフィルや万年筆ユニットなど、複数のものでは細軸のボールペンレフィルなどの筆記体があげられるが、本発明の移動体は、筆記体に限定されることなく、ドライバーやカッターナイフや錐のような工具など、誤作動で先端部を先端開口から突出させたくないものに好適である。
【0008】
本発明構造の回転式繰出具では、前軸と後軸との連接部を弾性体の弾発力に抗して離間させると共に、係止部の係止状態を解除し、且つ前軸と後軸とを相対的に回動させることにより、軸筒内に配したカム機構で移動体の先端部を前軸の先端開口部より突出させる構造であることから、不本意に、前軸と後軸とが相対的に回動されることがなく、移動体の先端部が軸筒の先端開口部から突出するという誤作動が生じ難い。
特に、本発明構造の回転式繰出具は、軸筒と後軸との連接部を弾発して圧接させる弾性体の弾発力を強くすることにより、子供の操作が困難な構造にすることができため、軸筒に収容する移動体を、大人のみが使用するものに限定することが可能となる。具体的には、前軸と後軸との連接部を弾発して圧接させる弾性体の作動荷重は3Nから10Nの範囲があげられるが、特に、5Nから10Nの範囲で設定することで、子供の操作を困難にさせ、さらに誤作動を防止することができるようになる。
さらに、カム機構が移動体の先端部を前軸の先端開口部より突出させた状態で、弾性体が、前軸と後軸との連接部を弾発して圧接させ、且つ前軸と後軸との間の係止部を係止状態とする構造にした場合には、移動体の先端部を前軸の先端開口部より突出させた状態で、前軸と後軸との相対的な回動が係止部で規制されることから、カム機構が先端部の突出時と逆回動して、移動体の先端部が軸筒内に没入してしまう誤作動を防止することができるものとなる。この場合、係止部は軸径方向の巾より軸心方向の長さを長くすることで、係止部による回動方向への引っ掛かりが強くなり、規制力を高めることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は前述した構造なので、誤作動が生じ難い回転式繰出具を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態のボールペンの第一状態を示す図で、
図1aは正面図で、
図1bは縦断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態のボールペンの第二状態を示す図で、
図3aは正面図で、
図3bは縦断面図である。
【
図5】
図5は、本実施形態のボールペンの第三状態を示す図で、
図5aは正面図で、
図5bは縦断面図である。
【
図7】
図7は、本実施形態のボールペンの第四状態を示す図で、
図7aは正面図で、
図7bは縦断面図である。
【
図9】
図9は、前軸と後軸とを分解した状態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本実施形態における回転式繰出具の説明を行うが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、本実施形態の回転式繰出具は、移動体として1本のボールペンレフィルを軸筒内に収容したボールペンについて説明を行う。
また、図中の同じ部材、同じ部品については、同じ符号としてある。なお、本実施形態の説明においては、本実施形態の説明においては図面の下方を前方と表現し、反対側を後方と表現する。
【0012】
図1は、本実施形態のボールペンの第一状態を示す図で、
図1aは正面図で、
図1bは縦断面図である。
図2は、
図1の要部拡大図であり、
図2aは縦断面図で、
図2bは
図2aのA-A線断面図である。
図1及び
図2に示すように、本実施形態のボールペン1は、軸筒2を前軸3と後軸4とで構成している。軸筒2の内部には、軸筒2の前方に配したコイルバネ5(弾発体)により後方へ弾発されたボールペンレフィル6(移動体)を収容している。ボールペンレフィル6の後方には、カム機構7が設けられている。
後軸4とカム機構7との間には、内筒8が配設されており、内筒8とカム機構7の回転カム71とが連動するよう連結されている。具体的には、内筒8の後部内面に、筒状の中継筒9が嵌着され、中継筒9の前方に、前端に鍔部10aを有した帽子形状のキャップ10が嵌着され、キャップ10に回転カム71が嵌着され、内筒8と回転カム71とが連動するようにしてある。
【0013】
本実施形態のカム機構7は、回転カム71の前方に、回転カム71のカム斜面71aに摺動するカム突起72aを有した摺動体72を配設し、回転カム71と摺動体72とを保持筒73により保持してある。保持筒73は後端に内鍔73aを有し、内鍔73aをキャップ10の鍔部10aと回転カム71の段部71bとで狭持させ、保持筒73に対し回転カム71を回転可能にすると共に、保持筒73の側面に形成した軸心に沿った開口部73bに摺動体72のカム突起72aを遊嵌させることで保持筒73に対し摺動体72を前後動可能にすると共に、保持筒73に対する摺動体72の回動を規制している。
保持筒73の前方に形成した雌螺子部73cは、前軸3に嵌着された連結筒11の雄螺子部11aに螺着され、これにより、前軸3と連結筒11と保持筒73とが一体となっている。また、中継筒9の後部に、後軸4の後端部より突出する尾冠12が螺着され、内筒8に対し中継筒9が嵌着されることで、保持筒73に対し、回転カム71とキャップ10と中継筒9と尾冠12と内筒8とが回動可能で前後動不能に連結されている。
【0014】
また、本実施形態では、
図2bに示すように、後軸4の内面に形成したキー突起4aが、内筒8の側面に形成したキー溝8aに遊嵌され、尾冠12の大径部12aと後軸4の内鍔4bとの間にコイルバネ13(弾性体)を配設し、コイルバネ13が前軸3と後軸4との連接部Rを弾発して圧接するようにしてある。
図1に示す通り、ボールペン1の第一状態では、前軸3の側面の係合凸部3bと、後軸4の側面に形成した係合凹部4cとが、軸心に沿った方向に係合して係合部Kが構成された状態であり、前軸3と後軸4との相対的な回動が規制され、不本意に、前軸3と後軸4とが相対的に回動されることがなく、ボールペンレフィル6のチップ6a(先端部)が前軸3の先端開口部3aから突出されるという誤作動が生じ難い。この状態では、目印として形成した、前軸3の側面の突部3cと後軸4の側面の突部4dとが軸線上で一致している。
【0015】
次に、
図3から
図8を用いて、ボールペン1を使用状態にする操作について説明を行う。
図3は、本実施形態のボールペンの第二状態を示す図で、
図3aは正面図で、
図3bは縦断面図である。
図4は、
図3の要部拡大縦断面図である。
図3及び
図4に示すボールペン1は、前軸3と後軸4との連接部R(
図1参照)をコイルバネ13の弾発力に抗して離間させた状態である。この状態では、前軸3の側面の係合凸部3bと、後軸4の側面に形成した係合凹部4cとの係合状態が解除され、軸心に沿った方向に離間した状態となり、前軸3と後軸4とを相対的に回動させることができるようになる。
【0016】
図5は、本実施形態のボールペンの第三状態を示す図で、
図5aは正面図で、
図5bは縦断面図である。
図6は、
図5の要部拡大縦断面図である。
図5及び
図6に示すボールペン1は、前軸3と後軸4との連接部R(
図1参照)をコイルバネ13の弾発力に抗して離間させた状態で、前軸3の側面の係合凸部3bと、後軸4の側面に形成した係合凹部4cとの係合状態が解除され、且つ前軸3と後軸4とを相対的に後軸4を後端側から見て右回りに半回転回動させることにより、後軸4の内面に形成したキー突起4aが、内筒8の側面に形成したキー溝8aを回動させ、内筒8と回転カム71とが連動して、カム機構7が作動した状態である。
図3及び
図4の状態から
図5及び
図6の状態に至るまでは、回転カム71の回動で、回転カム71のカム斜面71aにより摺動体72のカム突起72aを前進させ、コイルバネ5の弾発力で摺動体72に当接されているボールペンレフィル6を前進させ、チップ6aが前軸3の先端開口部3aから突出される。
【0017】
図7は、本実施形態のボールペンの第四状態を示す図で、
図7aは正面図で、
図7bは縦断面図である。
図8は、
図7の要部拡大縦断面図である。
図7及び
図8に示すボールペン1は、
図5及び
図6に示すボールペン1を、コイルバネ13の弾発力により、前軸3と後軸4との連接部Rを弾発して圧接させた状態であり、
図1及び
図2に示した軸筒2と同様の状態で、前軸3の先端開口部3aから突出したチップ6aにより筆記を行うことができる。
図7及び
図8に示す状態は、前軸3の側面の係合凸部3bと、後軸4の反対側の側面に形成した係合凹部4c’とが、軸心に沿った方向に係合して係合部K’が構成された状態であり、カム機構7がボールペンレフィル6のチップ6aを前軸3の先端開口部3aより突出させた状態で、前軸3と後軸4との相対的な回動が係止部K’で規制されることから、カム機構7がチップ6aの突出時と逆回動して、チップ6aが軸筒2内に没入してしまう誤作動を防止することができる。特に本実施形態では、係止部Kを、軸径方向の巾より軸心方向の長さを長くしたので、係止部Kよる回動方向への引っ掛かりが強くなり、規制力を高めることができる。
さらに、前軸3の係合凸部3bと後軸4の係合凹部4c’との形状を、後方へ向かって漸次先細る形状にしたので、コイルバネ13の弾発力により、前軸3の係合凸部3bと後軸4の係合凹部4c’とが係合する際にも、滑らかに係合させることができ、また、係合凸部3bの後部の突端と係合凹部4c’の後端の突端とが、コイルバネ13の弾発力で合致するときと、カム機構7によるチップ6aの突出動作が完了するときとを合致させることにより、前軸3と後軸4との相対的な回動が不完全になってしまうことを防止することができる。
【0018】
図7及び
図8に示す状態のボールペン1を、再び
図1及び
図2に示す状態に戻すには、前軸3と後軸4との連接部Rをコイルバネ13の弾発力に抗して離間させ、係合凸部3bと、係合凹部4c’との係合状態を解除し、次いで前軸3と後軸4とを相対的に後軸4を後端側から見て左回りに半回転回動させた上で、コイルバネ13の弾発力により、前軸3と後軸4との連接部Rを弾発して圧接させることで、
図1及び
図2に示す状態に戻すことができる。
【0019】
次に、
図9を用いて、ボールペンレフィル6を交換する方法について説明を行う。
図9は、前軸と後軸とを分解した状態の図である。
本実施形態のボールペン1は、
図3及び
図4で示した状態で、カム機構7が作動する方向とは反対方向、つまり、前軸3と後軸4とを相対的に後軸4を後端側から見て左回りに回動させることで、回転カム71の第一平地面71cが摺動体72のカム突起72aに当接して、カム突起72aで保持筒73の開口部73bを回動させ、保持筒73の雌螺子部73cと、前軸3に嵌着された連結筒11の雄螺子部11aとを螺脱させて、
図9の通りに分解することができる。この状態で、ボールペンレフィル6を交換することが可能である。
組み立てる際は、
図5及び
図6で示した状態で、カム機構7が作動する方向と同方向、つまり、前軸3と後軸4とを相対的に後軸4を後端側から見て右回りに回動させることで、回転カム71の第二平地面71dが摺動体72のカム突起72aに当接して、カム突起72aで保持筒73の開口部73bを回動させ、保持筒73の雌螺子部73cと、前軸3に嵌着された連結筒11の雄螺子部11aとを螺合させて組み立てることができる。
【0020】
上述の実施形態のボールペン1は、後軸4の内方に内筒8が配設されており、後軸4が、前軸3及び前軸3と一体になった内筒8に対して前後動する構成としたが、これに限らず、前軸3の内方に内筒8を配設して、前軸を、後軸及び後軸と一体になった内筒に対して前後動させる構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0021】
1…ボールペン、
2…軸筒、
3…前軸、3a…先端開口部、3b…係合凸部、3c…突部、
4…後軸、4a…キー突起、4b…内鍔、4c…係合凹部、4c’…係合凹部、4d…突部、
5…コイルバネ(弾発体)、
6…ボールペンレフィル(移動体)、6a…チップ(先端部)、
7…カム機構、
71…回転カム、71a…カム斜面、71b…段部、71c…第一平地面、71d…第二平地面、
72…摺動体、72a…カム突起、
73…保持筒、73a…内鍔、73b…開口部、73c…雌螺子部、
8…内筒、8a…キー溝、
9…中継筒、
10…キャップ、10a…鍔部、
11…連結筒、11a…雄螺子部、
12…尾冠、12a…大径部、
13…コイルバネ(弾性体)、
R…連接部、K…係合部、K’…係合部。