(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131480
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置における印刷ヘッドのメンテナンス方法及びそれを用いたインクジェット印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20220831BHJP
B41J 29/38 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
B41J2/01 307
B41J2/01 451
B41J2/01 401
B41J29/38 350
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030444
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100142930
【弁理士】
【氏名又は名称】戸高 弘幸
(74)【代理人】
【識別番号】100175020
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 知彦
(74)【代理人】
【識別番号】100180596
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 要
(74)【代理人】
【識別番号】100195349
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 信喜
(72)【発明者】
【氏名】増原 孝昭
【テーマコード(参考)】
2C056
2C061
【Fターム(参考)】
2C056EA20
2C056EA24
2C056EB07
2C056EB40
2C056EB59
2C056EC07
2C056EC26
2C061AP01
2C061AQ05
2C061AR03
2C061AS06
2C061HK05
2C061HN02
2C061HN08
2C061HN15
(57)【要約】
【課題】ヘッドモジュールに不具合が生じても運用コストを低減できる。
【解決手段】ヘッドモジュール25のいずれかに不具合が生じたことを検出した場合、各ヘッドモジュール25の固有情報と、不具合を生じたヘッドモジュール25の固有情報とから、不具合を生じたヘッドモジュール25の配置位置を入れ替えることにより、印刷ヘッド13による印刷品質が維持できるか否かを制御部39が判断する。配置位置の入れ替えにより印刷品質が維持できると判断された場合には、配置位置の入れ替えを表示部35に表示する。したがって、表示されたヘッドモジュール25と不具合を生じたヘッドモジュール25との配置位置を入れ替えることにより、新たなヘッドモジュール25への交換頻度を低くできる。そのため、ヘッドモジュール25に不具合が生じても装置の運用コストを低減できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体にインクを吐出して印刷を行う複数個のヘッドモジュールにより構成された印刷ヘッドを備えているインクジェット印刷装置における印刷ヘッドのメンテナンス方法において、
前記印刷ヘッドを構成している前記各ヘッドモジュールのいずれかについて不具合が生じたことを検出するステップと、
前記不具合が生じたヘッドモジュールを不具合ヘッドモジュールとし、前記不具合ヘッドモジュールを除いた前記印刷ヘッドを構成している各ヘッドモジュールの吐出特性を含む固有情報と、前記不具合ヘッドモジュールの前記固有情報とに基づいて、前記不具合ヘッドモジュールの前記印刷ヘッドにおける配置位置を入れ替えることにより、前記印刷ヘッドによる印刷品質が維持できるか否かを判断する判断ステップと、
前記判断ステップにより印刷品質が維持できると判断された場合には、前記配置位置の入れ替えを報知する報知ステップと、
を実施することを特徴とするインクジェット印刷装置における印刷ヘッドのメンテナンス方法。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット印刷装置における印刷ヘッドのメンテナンス方法において、
前記判断ステップは、前記不具合ヘッドモジュールが吐出異常の不具合を発生した場合であって、前記不具合ヘッドモジュールを前記印刷ヘッドの端部に配置することにより印刷品質が維持できるか否か、または、前記不具合ヘッドモジュールが濃度分布の不具合を発生した場合であって、前記不具合ヘッドモジュールを前記印刷ヘッドの端部に配置する、または、他のヘッドモジュールと入れ替えることにより印刷品質が維持できるか否かにより判断することを特徴とするインクジェット印刷装置における印刷ヘッドのメンテナンス方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインクジェット印刷装置における印刷ヘッドのメンテナンス方法において、
前記判断ステップにより、前記不具合ヘッドモジュールの前記印刷ヘッドにおける配置位置を入れ替えることでは、印刷品質が維持できないと判断した場合には、
複数個の新たなヘッドモジュールに関する固有情報を記憶したデータベースにアクセスし、前記不具合ヘッドモジュールの固有情報と、前記不具合ヘッドモジュールを除いて、前記印刷ヘッドを構成している各ヘッドモジュールの固有情報とに基づいて、前記不具合ヘッドモジュールと交換することで、印刷品質を維持できる新たなヘッドモジュールを検索し、印刷品質を維持できる新たなヘッドモジュールを新ヘッドモジュールとした場合、前記新ヘッドモジュールを提示する交換提示ステップを実施することを特徴とするインクジェット印刷装置における印刷ヘッドのメンテナンス方法。
【請求項4】
請求項3に記載のインクジェット印刷装置における印刷ヘッドのメンテナンス方法において、
前記交換提示ステップとともに、前記新ヘッドモジュールの固有情報と、前記不具合ヘッドモジュールを除いた前記印刷ヘッドを構成している全てのヘッドモジュールの固有情報とに基づいて、前記新ヘッドモジュールを前記不具合ヘッドモジュールと入れ替えた場合の単純入れ替えの印刷品質と、前記不具合ヘッドモジュールを除いた各ヘッドモジュールの配置位置と前記新ヘッドモジュールを入れ替えた場合の各種入れ替えの印刷品質とを比較し、印刷品質が高いものを併せて提示する代替案提示ステップを実施することを特徴とするインクジェット印刷装置における印刷ヘッドのメンテナンス方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のインクジェット印刷装置における印刷ヘッドのメンテナンス方法において、
前記ヘッドモジュールが、前記印刷媒体の搬送方向における送り方向と、送り方向と反対になる反送り方向とのいずれに向けた姿勢でも前記印刷ヘッドに装着可能である場合、前記ヘッドモジュールは、前記送り方向か前記反送り方向かの装着方向を前記固有情報に有し、
前記判断ステップでは、前記ヘッドモジュールの前記固有情報における装着方向が、当該ヘッドモジュールの装着方向と異なる場合には、当該固有情報の前記装着方向を正しい方向に更新するとともに、前記固有情報のうち方向性があるものについては、前記印刷媒体の搬送方向を中心にして直交する方向に反転させることを特徴とするインクジェット印刷装置における印刷ヘッドのメンテナンス方法。
【請求項6】
請求項5に記載のインクジェット印刷装置における印刷ヘッドのメンテナンス方法において、
前記判断ステップより前に、前記印刷ヘッドを構成している各ヘッドモジュールについて、前記装着方向を検出する装着方向検出ステップを実施することを特徴とするインクジェット印刷装置における印刷ヘッドのメンテナンス方法。
【請求項7】
印刷媒体にインクを吐出して印刷を行う複数個のヘッドモジュールにより構成された印刷ヘッドを備えているインクジェット印刷装置において、
前記印刷媒体を所定の搬送方向に搬送する搬送部と、
前記印刷ヘッドを操作して、前記印刷媒体に印刷を行わせる制御部と、
前記印刷ヘッドを構成している前記各ヘッドモジュールのいずれかについて不具合が生じたことを検出する検出部と、
前記ヘッドモジュールごとに備えられ、吐出特性を含む固有情報を記憶するヘッドメモリと、
前記不具合が生じたヘッドモジュールを不具合ヘッドモジュールとし、前記不具合ヘッドモジュールを除いた前記印刷ヘッドを構成している各ヘッドモジュールについての前記固有情報と、前記不具合ヘッドモジュールの前記固有情報とに基づいて、前記不具合ヘッドモジュールの前記印刷ヘッドにおける配置位置を入れ替えることにより、前記印刷ヘッドによる印刷品質が維持できるか否かを判断する判断部と、
前記判断部により印刷品質が維持できると判断された場合には、前記配置位置の入れ替えを報知する報知部と、
を備えていることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項8】
請求項7に記載のインクジェット印刷装置において、
前記判断部は、前記不具合ヘッドモジュールが吐出異常の不具合を発生した場合であって、前記不具合ヘッドモジュールを前記印刷ヘッドの端部に配置することにより印刷品質が維持できるか否か、または、前記不具合ヘッドモジュールの濃度分布の不具合を発生した場合であって、前記不具合ヘッドモジュールを前記印刷ヘッドの端部に配置することにより印刷品質が維持できるか否かにより判断することを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項9】
請求項7または8に記載のインクジェット印刷装置において、
複数個の新たなヘッドモジュールに関する前記固有情報を記憶したデータベースをさらに備え、
前記判断部が前記不具合ヘッドモジュールの前記印刷ヘッドにおける配置位置を入れ替えることでは、印刷品質が維持できないと判断した場合には、
前記データベースにアクセスし、前記不具合ヘッドモジュールの固有情報と、前記不具合ヘッドモジュールを除いて、前記印刷ヘッドを構成している各ヘッドモジュールの固有情報とに基づいて、前記不具合ヘッドモジュールと交換することで、印刷品質を維持できる新たなヘッドモジュールを検索し、印刷品質を維持できる新たなヘッドモジュールを新ヘッドモジュールとした場合、前記新ヘッドモジュールを提示する交換提示部をさらに備えていることを特徴とするインクジェット印刷装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷装置における印刷ヘッドのメンテナンス方法及びそれを用いたインクジェット印刷装置に係り、特に、複数個のヘッドモジュールから構成されている印刷ヘッドのメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のインクジェット印刷装置として、複数個のヘッドモジュールを印刷用紙の幅方向に複数個配置して構成された印刷ヘッドを備えているものがある。各ヘッドモジュールは、印刷用紙の搬送方向と幅方向のうち少なくとも幅方向に複数個のノズルを備えている。ヘッドモジュールは、各ノズルを駆動するための駆動基板と、ヘッドモジュールの吐出特性などを記憶するメモリとを備えている。ヘッドモジュールにおいてノズルの不吐出の頻度が一定値より高くなった場合や、不吐出となったノズルの個数が所定値を越える場合などの事態が生じた場合には、印刷ヘッドに不具合が生じたものとして報知され、印刷ヘッドのメンテナンスが行われる。
【0003】
第1の手法として、例えば、不具合が生じたヘッドモジュールを新たなヘッドモジュールと交換するものがある(例えば、特許文献1参照)。ヘッドモジュールには、固有の識別情報が付与されている。メンテナンスの際には、不具合が生じて取り外したヘッドモジュールの識別情報と、取り付けられたヘッドモジュールの識別情報とを比較して、不具合が生じて取り外したヘッドモジュールが誤って再び取り付けられた場合には、そのことを報知する。これにより、作業ミスにより不具合が生じているヘッドモジュールが取り付けられることを防止している。
【0004】
上記の第1の手法では、隣接するヘッドモジュール間において、濃度差が生じる恐れがある。このような事態では、印刷品質が低下する。そこで、第2の手法として、例えば、不具合が生じたヘッドモジュールを新たなヘッドモジュールに交換した後、新たなヘッドモジュールの吐出特性を補正するものがある(例えば、特許文献2参照)。これにより、隣接するヘッドモジュールとの濃度差が抑制され、印刷品質の低下を抑制できる。
【0005】
上記の第2の手法では吐出特性を補正する手間が生じる。そこで、第3の手法として、例えば、不具合が生じて交換されたヘッドモジュールに隣接するヘッドモジュールと、幅方向における濃度傾斜が逆の関係となる新たなヘッドモジュールと交換するものがある(例えば、特許文献3参照)。これにより、隣接したヘッドモジュールとのつなぎ部分における濃度ムラを少ない手間で抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-166708号公報
【特許文献2】特開2013-78943号公報
【特許文献3】特開2015-47833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
すなわち、従来の方法は、印刷ヘッドに不具合が生じた場合には、新たなヘッドモジュールと交換することが前提となっている。印刷ヘッドは、複数個のヘッドモジュールで構成されている。そのため、不具合が生じたヘッドモジュールを新たなヘッドモジュールと交換するまでもなく、不具合が生じたヘッドモジュールの配置位置を変更するだけで、不具合が発生する前の印刷品質と同等レベルにまで戻すことができる場合がある。それにも拘わらず新たなヘッドモジュールと交換するので、ヘッドモジュールに不具合が生じると、ヘッドモジュールの交換頻度が高くなる。そのため、装置の運用コストが増大するという問題がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、ヘッドモジュールに不具合が生じても運用コストを低減できるインクジェット印刷装置における印刷ヘッドのメンテナンス方法及びそれを用いたインクジェット印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明は、印刷媒体にインクを吐出して印刷を行う複数個のヘッドモジュールにより構成された印刷ヘッドを備えているインクジェット印刷装置における印刷ヘッドのメンテナンス方法において、前記印刷ヘッドを構成している前記各ヘッドモジュールのいずれかについて不具合が生じたことを検出するステップと、前記不具合が生じたヘッドモジュールを不具合ヘッドモジュールとし、前記不具合ヘッドモジュールを除いた前記印刷ヘッドを構成している各ヘッドモジュールの吐出特性を含む固有情報と、前記不具合ヘッドモジュールの前記固有情報とに基づいて、前記不具合ヘッドモジュールの前記印刷ヘッドにおける配置位置を入れ替えることにより、前記印刷ヘッドによる印刷品質が維持できるか否かを判断する判断ステップと、前記判断ステップにより印刷品質が維持できると判断された場合には、前記配置位置の入れ替えを報知する報知ステップと、を実施することを特徴とするものである。
【0010】
[作用・効果]請求項1に記載の発明によれば、ヘッドモジュールのいずれかに不具合が生じたことを検出ステップで検出した場合、各ヘッドモジュールの固有情報と、不具合ヘッドモジュールの固有情報とから、不具合ヘッドモジュールの配置位置を入れ替えることにより、印刷ヘッドによる印刷品質が維持できるか否かを判断ステップにて判断する。配置位置の入れ替えにより印刷品質が維持できると判断された場合には、配置位置の入れ替えを報知ステップにて報知する。したがって、報知されたヘッドモジュールと不具合ヘッドモジュールとの配置位置を入れ替えることにより、新たなヘッドモジュールへの交換頻度を低くできる。そのため、ヘッドモジュールに不具合が生じても装置の運用コストを低減できる。
【0011】
なお、ここでいう、固有情報とは、ヘッドモジュールが備えている複数個のノズルにおける位置と吐出量との関係を示す濃度分布、不吐出であるノズルの位置、ノズルにおける不吐出となる頻度などをいう。
【0012】
また、本発明において、前記判断ステップは、前記不具合ヘッドモジュールが吐出異常の不具合を発生した場合であって、前記不具合ヘッドモジュールを前記印刷ヘッドの端部に配置することにより印刷品質が維持できるか否か、または、前記不具合ヘッドモジュールが濃度分布の不具合を発生した場合であって、前記不具合ヘッドモジュールを前記印刷ヘッドの端部に配置する、または、他のヘッドモジュールと入れ替えることにより印刷品質が維持できるか否かにより判断することが好ましい(請求項2)。
【0013】
判断ステップは、不具合ヘッドモジュールが吐出異常の不具合を発生した場合や、濃度分布の不具合を発生した場合に、不具合ヘッドモジュールを印刷ヘッドの端部に配置することにより印刷品質が維持できるか、濃度分布の不具合を発生した場合に他のヘッドモジュールと入れ替えることにより印刷品質が維持できるか否かによって判断を行うことができる。
【0014】
また、本発明において、前記判断ステップにより、前記不具合ヘッドモジュールの前記印刷ヘッドにおける配置位置を入れ替えることでは、印刷品質が維持できないと判断した場合には、複数個の新たなヘッドモジュールに関する固有情報を記憶したデータベースにアクセスし、前記不具合ヘッドモジュールの固有情報と、前記不具合ヘッドモジュールを除いて、前記印刷ヘッドを構成している各ヘッドモジュールの固有情報とに基づいて、前記不具合ヘッドモジュールと交換することで、印刷品質を維持できる新たなヘッドモジュールを検索し、印刷品質を維持できる新たなヘッドモジュールを新ヘッドモジュールとした場合、前記新ヘッドモジュールを提示する交換提示ステップを実施することが好ましい(請求項3)。
【0015】
判断ステップにより、配置の入れ替えだけでは印刷品質を維持できないと判断した場合には、データベースにアクセスし、不具合ヘッドモジュールの固有情報と、印刷ヘッドのうち不具合ヘッドモジュールを除いた他のヘッドモジュールの固有情報とに基づいて、印刷品質を維持できる新たなヘッドモジュールを検索する。そして、交換提示ステップにて印刷品質を維持できる新ヘッドモジュールを提示する。これにより、新ヘッドモジュールと不具合ヘッドモジュールを交換することにより、好適なヘッドモジュールとすることができ、印刷ヘッドによる印刷品質を維持できる。
【0016】
また、本発明において、前記交換提示ステップとともに、前記新ヘッドモジュールの固有情報と、前記不具合ヘッドモジュールを除いた前記印刷ヘッドを構成している全てのヘッドモジュールの固有情報とに基づいて、前記新ヘッドモジュールを前記不具合ヘッドモジュールと入れ替えた場合の単純入れ替えの印刷品質と、前記不具合ヘッドモジュールを除いた各ヘッドモジュールの配置位置と前記新ヘッドモジュールを入れ替えた場合の各種入れ替えの印刷品質とを比較し、印刷品質が高いものを併せて提示する代替案提示ステップを実施することが好ましい(請求項4)。
【0017】
不具合ヘッドモジュールと新ヘッドモジュールとを入れ替えた場合の単純入れ替えの印刷品質と、印刷ヘッドの各ヘッドモジュールを新ヘッドモジュールと入れ替えた各種入れ替えの印刷品質とを比較する。そして、代替案提示ステップにて印刷品質が高いものを併せて提示する。これにより、ユーザがヘッドモジュールを交換する際に選択肢を増やすことができるので、好適なヘッドモジュールの交換ができる。
【0018】
また、本発明において、前記ヘッドモジュールが、前記印刷媒体の搬送方向における送り方向と、送り方向と反対になる反送り方向とのいずれに向けた姿勢でも前記印刷ヘッドに装着可能である場合、前記ヘッドモジュールは、前記送り方向か前記反送り方向かの装着方向を前記固有情報に有し、前記判断ステップでは、前記ヘッドモジュールの前記固有情報における装着方向が、当該ヘッドモジュールの装着方向と異なる場合には、当該固有情報の前記装着方向を正しい方向に更新するとともに、前記固有情報のうち方向性があるものについては、前記印刷媒体の搬送方向を中心にして直交する方向に反転させることが好ましい(請求項5)。
【0019】
ヘッドモジュールが送り方向と反送り方向とに装着可能な場合には、固有情報に装着方向が含まれる。判断の対象としているヘッドモジュールの固有情報における装着方向が、実際のヘッドモジュールの装着方向と異なる場合には、固有情報の装着方向を正しい方向に更新するとともに、固有情報のうち方向性があるものについては、印刷媒体の搬送方向を中心にして直交する方向に反転させる。したがって、判断ステップにおいて装着方向に応じて固有情報に基づく判断を正しくできる。
【0020】
また、本発明において、前記判断ステップより前に、前記印刷ヘッドを構成している各ヘッドモジュールについて、前記装着方向を検出する装着方向検出ステップを実施することが好ましい(請求項6)。
【0021】
装着方向検出ステップを実施することにより、判断ステップにおいてヘッドモジュールの装着方向に応じて固有情報に基づく判断を正しくできる。
【0022】
また、請求項7に記載の発明は、印刷媒体にインクを吐出して印刷を行う複数個のヘッドモジュールにより構成された印刷ヘッドを備えているインクジェット印刷装置において、前記印刷媒体を所定の搬送方向に搬送する搬送部と、前記印刷ヘッドを操作して、前記印刷媒体に印刷を行わせる制御部と、前記印刷ヘッドを構成している前記各ヘッドモジュールのいずれかについて不具合が生じたことを検出する検出部と、前記ヘッドモジュールごとに備えられ、吐出特性を含む固有情報を記憶するヘッドメモリと、前記不具合が生じたヘッドモジュールを不具合ヘッドモジュールとし、前記不具合ヘッドモジュールを除いた前記印刷ヘッドを構成している各ヘッドモジュールについての前記固有情報と、前記不具合ヘッドモジュールの前記固有情報とに基づいて、前記不具合ヘッドモジュールの前記印刷ヘッドにおける配置位置を入れ替えることにより、前記印刷ヘッドによる印刷品質が維持できるか否かを判断する判断部と、前記判断部により印刷品質が維持できると判断された場合には、前記配置位置の入れ替えを報知する報知部と、を備えていることを特徴とするものである。
【0023】
[作用・効果]請求項7に記載の発明によれば、搬送部で印刷媒体を搬送しつつ、印刷ヘッドを制御部が操作して印刷を行わせる。検出部がヘッドモジュールに不具合を検出した場合には、判断部は、各ヘッドモジュールの固有情報と、不具合ヘッドモジュールの固有情報とから、不具合ヘッドモジュールの配置位置を入れ替えることにより、印刷ヘッドによる印刷品質が維持できるか否かを判断する。配置位置の入れ替えにより印刷品質が維持できると判断された場合には、報知部は、配置位置の入れ替えを報知する。したがって、報知されたヘッドモジュールと不具合ヘッドモジュールとの配置位置を入れ替えることにより、新たなヘッドモジュールへの交換頻度を低くできる。そのため、ヘッドモジュールに不具合が生じても装置の運用コストを低減できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るインクジェット印刷装置における印刷ヘッドのメンテナンス方法によれば、ヘッドモジュールのいずれかに不具合が生じたことを検出ステップで検出した場合、各ヘッドモジュールの固有情報と、不具合ヘッドモジュールの固有情報とから、不具合ヘッドモジュールの配置位置を入れ替えることにより、印刷ヘッドによる印刷品質が維持できるか否かを判断ステップにて判断する。配置位置の入れ替えにより印刷品質が維持できると判断された場合には、配置位置の入れ替えを報知ステップにて報知する。したがって、報知されたヘッドモジュールと不具合ヘッドモジュールとの配置位置を入れ替えることにより、新たなヘッドモジュールへの交換頻度を低くできる。そのため、ヘッドモジュールに不具合が生じても装置の運用コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施例に係るインクジェット印刷装置の全体構成図である。
【
図2】印刷ヘッドと連続紙との位置関係を表した平面図である。
【
図4】印刷ヘッドを構成するヘッドモジュールの固有情報を並べて示した模式図である。
【
図5】印刷動作時の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】メンテナンス処理時の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】(a)は現在の状態を示す固有情報の並びを示し、(b)は濃度分布に基づいて入れ替えた状態を示す固有情報の並びを示す模式図である。
【
図8】(a)は現在の状態を示す固有情報の並びを示し、(b)は異常ノズル発生位置に基づいて入れ替えた状態を示す固有情報の並びを示す模式図である。
【
図9】重症度許容閾値に基づいて入れ替える場合の説明に供する固有情報の並びを示す模式図である。
【
図10】装着方向の判断を行う構成を搬送方向から見た図である。
【
図11】(a)は装着方向が-1である場合を示す固有情報の並びを示し、(b)は装着方向が+1であると判断された場合における固有情報の並びを示す。
【
図12】装着方向と流路方向との関係について説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の一実施例について説明する。
図1は、実施例に係るインクジェット印刷装置の全体構成図である。
図2は、印刷ヘッドと連続紙との位置関係を表した平面図である。
【0027】
<装置構成>
【0028】
インクジェット印刷装置1は、給紙部3と、印刷装置5と、排紙部7とを備えている。インクジェット印刷装置1は、ヘッドモジュールステーション9と通信可能に接続されている。また、インクジェット印刷装置1は、印刷物のデータとなる印刷データを図示しないホストコンピュータから受け取る。
【0029】
給紙部3は、例えば、ロール状の連続紙WPを搬送方向Xに向けて巻き出す。給紙部3は、搬送方向Xに直交する幅方向Yに回転軸が向けられた姿勢で連続紙WPのロールを装填されている。印刷装置5は、給紙部3から巻き出された連続紙WPを取り込んで連続紙WPに対して印刷処理を行う。印刷された連続紙は、排紙部7にて水平軸周りに巻き取られる。
【0030】
印刷装置5は、駆動ローラ11と、印刷ヘッド13と、複数個の搬送ローラ15と、乾燥部17と、走査部19と、駆動ローラ21と、下面撮影部23とを備えている。
【0031】
駆動ローラ11は、給紙部2から連続紙WPを取り込んで、搬送方向Xに向けて連続紙WPを搬送する。駆動ローラ11の搬送方向Xにおける下流側には、印刷ヘッド13が配置されている。印刷ヘッド13は、複数個のヘッドモジュール25を備えている。印刷ヘッド13は、連続紙WPの上面に対してインクを吐出して画像を形成する。印刷ヘッド13については、詳細を後述する。
【0032】
印刷ヘッド15の下流側には、乾燥部17が配置されている。乾燥部17は、連続紙WPに吐出されたインクを乾燥させる。乾燥部17の下流側には、走査部19が配置されている。走査部19は、乾燥された連続紙WPの画像を走査する。走査部19の下流側には、駆動ローラ21が配置されている。駆動ローラ21は、走査部19で走査された連続紙WPを排紙部7に送り出す。
【0033】
印刷ヘッド13の下面と、連続紙WPの上面との間には、下面撮影部23が配置されている。この下面撮影部23は、印刷ヘッド13の下面の直下にあたる撮影位置と、印刷ヘッド13から側方に外れた待機位置とにわたって移動可能に構成されている。下面撮影部23は、印刷ヘッド13を構成している各ヘッドモジュール25の下面(ノズル面)を撮影する。
【0034】
図2に示すように、印刷ヘッド13は、複数個のヘッドモジュール25で構成されている。各ヘッドモジュール25は、搬送方向Xと幅方向Yの少なくとも幅方向Yに複数個のノズル27を備えている。
図2では、一例として、5個のヘッドモジュール25を備えた構成を示している。本実施例では、5個のヘッドモジュール25をそれぞれ区別する必要がある場合には、ヘッドモジュール25をそれぞれヘッドモジュールHM1~HM5と称する。
【0035】
図2に示すように、印刷ヘッド13は、例えば、搬送方向Xの下流側であって、幅方向Yにおける左側にヘッドモジュールHM1が配置され、幅方向YにおけるヘッドモジュールHM1の右側に離間してヘッドモジュールHM3が配置され、さら幅方向YにおけるヘッドモジュールHM3の右側に離間してヘッドモジュールHM5が配置されている。印刷ヘッド13は、例えば、搬送方向Xの上流側であって、幅方向Yにおける左側からヘッドモジュールHM2が配置され、幅方向YにおけるヘッドモジュールHM2の右側に離間してヘッドモジュールHM4が配置されている。印刷ヘッド13は、印刷ヘッド13の上流側から搬送方向Xへ向かって見た場合に、ヘッドモジュールHM1の右端部と、ヘッドモジュールHM3の左端部とが、ヘッドモジュールHM2の両端部に重複するように、ヘッドモジュールHM1~3が幅方向Yにおいて配置されている。印刷ヘッド13は、印刷ヘッド13の上流側から搬送方向Xへ向かって見た場合に、ヘッドモジュールHM3の右端部と、ヘッドモジュールHM5の左端部とが、ヘッドモジュールHM4の両端部に重複するように、ヘッドモジュールHM3~5が幅方向Yにおいて配置されている。このようなヘッドモジュール25の配置は、「千鳥配置」とも呼ばれている。
【0036】
印刷ヘッド13は、連続紙WPの印刷領域PAを幅方向Yにおいて越える長さを有する。印刷領域PAは、印刷ヘッド13によって画像などが印刷される領域である。この印刷領域PAは、連続紙WPの幅方向Yにおける両端部から所定距離だけ内側に入った位置に設定されている。また、印刷ヘッド13により印刷可能な幅方向Yの長さは、印刷領域PAの幅方向Yの寸法を超え、かつ、連続紙WPの幅方向Yの寸法を超えている。これは、連続紙WPが搬送方向Xにおいて蛇行した場合であっても、印刷ヘッド13により連続紙WPの幅方向Yにおいて印刷ができるようするためである。
【0037】
連続紙WPは、
図2に示すように、ある一つの印刷領域PAと、ある一つの印刷領域PAとの間に隙間が形成される。この間には、例えば、テストチャートTCが印刷される。このテストチャートTCは、ヘッドモジュール25ごとに形成された5個の個別チャートからなる。各個別チャートは、例えば、各ヘッドモジュール25を構成する全ノズル27から所定濃度で所定パターンを吐出することにより形成される。この個別チャートにより、各ヘッドモジュール25についての種々の吐出特性を得ることができる。
【0038】
各ヘッドモジュール25は、それぞれヘッドメモリ29を内蔵している。各ヘッドメモリ29は、各ヘッドモジュール25の固有情報を記憶している。
【0039】
ここで、
図3を参照する。
図3は、固有情報の一例を示す模式図である。
【0040】
固有情報は、吐出特性を含むヘッドモジュール25ごとの情報である。例えば、固有情報は、シリアル番号と、濃度分布と、補正情報と、異常ノズル発生位置と、異常ノズル発生頻度と、履歴・統計情報とを含む。シリアル番号は、ヘッドモジュール25の製造番号であり、他のヘッドモジュールと重複することがない唯一の番号で構成されている。濃度分布は、ヘッドモジュール25の全ノズル27についての濃度情報である。具体的には、幅方向Yに並んだノズル27について、所定の信号を印加することにより形成される画像の濃度を幅方向Yごとに並べたものである。補正情報は、濃度分布を補正するために各ノズル27に付与する信号がある場合には、その信号の値を表す情報である。異常ノズル発生位置は、ノズル27に不吐出や欠けなどの異常がある場合には、そのノズル27の位置を表す情報である。異常ノズル発生頻度は、異常があるノズル27における、異常の発生頻度を示す情報である。履歴・統計情報は、ヘッドモジュール25によりインクを吐出した回数や、印刷ヘッド13に取り付けられて通電されていた累計の時間などの情報である。
【0041】
印刷装置5は、ヘッド制御部31と、データ処理部33と、表示部35と、データベース37と、制御部39とを備えている。
【0042】
ヘッド制御部31は、制御部39によって操作される。ヘッド制御部31は、回路基板で構成され、印刷データに基づく制御部39からの信号に応じて印刷ヘッド13を操作する。ヘッド制御部31は、制御部39からの信号に応じて各ヘッドモジュール25を操作する。ヘッド制御部31は、各ヘッドメモリ29に対して読み書きが可能である。ヘッド制御部31は、例えば、ヘッドメモリ29に記憶されている固有情報を参照し、その情報に基づいて、制御部39からの信号を補正する。また、ヘッド制御部31は、ヘッドメモリ29から読み出した固有情報を制御部39に送信する。
【0043】
データ処理部33は、走査部19と、下面撮影部23とが接続されている。走査部19は、印刷ヘッド13で印刷された連続紙WPの画像を撮影し、画像をデジタルデータに変換する。ここでいう画像は、印刷領域PA内の画像や、印刷領域PA外のテストチャートTCである。データ処理部33は、走査部19からのデータに基づいて、印刷された画像の印刷品質を判断する。また、データ処理部33は、走査部19からのテストチャートTCのデータに基づいて吐出特性に関する情報を出力する。下面撮影部23は、印刷ヘッド13の下面の直下にあたる撮影位置において、各ヘッドモジュール25の下面を撮影する。撮影された下面の画像は、デジタルデータとしてデータ処理部33に出力される。データ処理部33は、下面の画像に基づいて、各ヘッドモジュール25における各ノズル27の不吐出や欠けなどを示す情報を収集する。収集した情報は、制御部39に出力される。
【0044】
表示部35は、液晶表示装置などの表示デバイスで構成されている。表示部35は、制御部39の信号に応じた情報の表示を行う。例えば、表示部35は、ヘッドモジュール25に不具合が生じた場合にその情報を表示する。表示部35は、詳細は後述するが、固有情報に基づいた配置位置の入れ替え情報や、新たなヘッドモジュール25による単純入れ替えの場合と、新たなヘッドモジュール25を種々の位置に配置した各種入れ替えの場合とに基づく代替案提示情報などを表示する。
【0045】
データベース37は、ヘッドモジュールステーション9に接続されている。ヘッドモジュールステーション9は、複数個のヘッドモジュール25が取り付け可能に構成されている。ヘッドモジュールステーション37は、取り付けられた各ヘッドモジュール25のヘッドメモリ29から固有情報を読み出す。読み出された固有情報は、データベース37に送られる。データベース37は、ヘッドモジュールステーション9に接続されている各ヘッドモジュール25と関連づけられた固有情報を記憶している。制御部39は、データベース37をアクセスして、各ヘッドモジュール25の固有情報を参照する。
【0046】
制御部39は、駆動ローラ11,21と、乾燥部17と、走査部19と、下面撮影部23と、ヘッド制御部31と、データ処理部33と、表示部35と、データベース37とを統括的に制御する。また、制御部39は、例えば、インクジェット印刷装置1の後段に配置された反転装置(不図示)を介して裏面印刷用のインクジェット印刷装置1と接続されている場合がある。このような場合には、裏面印刷用のインクジェット印刷装置1との通信も行う。例えば、制御部39は、外部情報として、裏面印刷用のインクジェット印刷装置1から固有情報などを取得する。
【0047】
制御部39は、
図3に示す固有情報を印刷ヘッド13からも取得する。ここで、
図4を参照する。
図4は、印刷ヘッドを構成するヘッドモジュールの固有情報を並べて示した模式図である。制御部39は、ヘッド制御部31を介して印刷ヘッド13を構成している各ヘッドモジュール25の固有情報を読み出す。例えば、制御部39は、幅方向Yにおける左端のヘッドモジュールHM1から右端のヘッドモジュールHM5まで順に固有情報を並べた状態で参照する。この例では、固有情報のうち、濃度分布と、異常ノズル発生位置と、異常のノズル発生頻度だけを示している。このようにして、制御部39は、適宜のタイミングで、現在の印刷ヘッド13を構成している全てのヘッドモジュール25に関する固有情報を把握する。
【0048】
制御部39は、データ処理部33からの情報によりノズルに不具合が生じたことを検出する。制御部39は、ノズルに不具合が生じたことを検出した場合には、印刷ヘッド13を構成しているどのヘッドモジュール25にどのような不具合が生じているかを表示部35に表示する。さらに、制御部39は、単に不具合が発生したことを報知するだけではなく、不具合が生じたヘッドモジュール25の配置位置を現在の印刷ヘッド13を構成している他のヘッドモジュール25と入れ替えることにより、印刷品質が維持できるか否かを判断する。
【0049】
ここでいう印刷品質を維持するとは、例えば、次のような場合をいう。印刷ヘッド13における中央寄りのヘッドモジュールHM2~4は、それぞれの端部であっても不吐出のノズル27が存在すると印刷品質が低下する。そこで、ヘッドモジュールHM2の左端部に不吐出のノズル27が存在する場合には、ヘッドモジュールHM2とヘッドモジュールHM1との配置位置を入れ替える。最も左端に配置されたヘッドモジュールHM2は、左端が印刷領域PAの外側に位置するので、使用される頻度は極めて低い。そのため、ヘッドモジュールHM2を幅方向Yにおける左端に配置しても、印刷品質を維持できると判断できる。また、不吐出の頻度が一定以上となったノズル27についても、ヘッドモジュール25の端部に存在するのであれば、そのノズル27が印刷領域PAの外部に位置するように配置してもよい。なお、印刷領域PAの外部でなくとも、印刷データによっては印刷領域PAの端に位置するように配置を入れ替える場合であっても印刷品質を維持できると判断できる。したがって、印刷データも考慮して印刷品質が維持できるか否かを判断するのが好ましい。
【0050】
また、印刷ヘッド13における各ヘッドモジュール25の隣接部における濃度分布の差が一定以上となっている場合にも印刷品質が低下する。例えば、
図4に示すように、ヘッドモジュールHM2とヘッドモジュールHM3との隣接部において、他の隣接部に比較して差が大きく、濃度分布の差が一定以上となっている。このような場合には、印刷品質が低下する。そこで、濃度分布の隣接部における差が一定以内となるように、例えば、ヘッドモジュールHM2とヘッドモジュールHM5との配置位置を入れ替える。このように濃度分布に関する不具合が生じた場合であっても、配置位置を入れ替えることにより印刷品質を維持できることがある。制御部39は、不具合を生じたヘッドモジュール25の固有情報と、それ以外のヘッドモジュール25の固有情報とを参照して、配置位置を入れ替えることで印刷品質が維持できるか否かを判断する。上記の判断を行う際の濃度分布の閾値としての差は、予め実験により印刷品質が維持できる濃度分布の差を求めておき、その値を閾値として制御部39に記憶してある。
【0051】
なお、上述した連続紙WPが本発明における「印刷媒体」に相当し、駆動ローラ11,21及び搬送ローラ15が本発明における「搬送部」に相当し、走査部19及び下面撮影部23並びにデータ処理部33が本発明における「検出部」に相当し、制御部39が本発明における「判断部」に相当し、表示部35が本発明における「報知部」に相当する。
【0052】
<印刷動作時>
【0053】
上述したように構成されているインクジェット印刷装置1における動作について、
図5及び
図6を参照して説明する。
図5は、印刷動作時の処理の流れを示すフローチャートであある。
図6は、メンテナンス処理時の処理の流れを示すフローチャートである。
【0054】
ステップS1
一つの印刷処理の固まりである一つのジョブを実行するための印刷動作に先立ち、制御部39は、印刷ヘッド15を構成している全てのヘッドモジュール25について固有情報を受信する。
【0055】
ステップS2
制御部39は、印刷を実行する。具体的には、受信した印刷データと、予め設定されている印刷条件とに応じて、印刷条件に応じた搬送速度で連続紙WPを搬送方向Xに搬送させつつ、印刷条件に応じた乾燥温度による乾燥を乾燥部17で行う。その際には、固有情報に基づいて、印刷ヘッド13からインクを吐出させつつ印刷を行う。例えば、ヘッドモジュール25の固有情報に補正情報が含まれていれば、印刷データに応じた信号を補正情報に応じて補正してヘッド制御部31がヘッドモジュール25に信号を出力して印刷処理を行う。なお、印刷領域PAの間では、その都度、テストチャートTCを印刷することが好ましい。テストチャートTCは、ヘッドモジュール25の濃度分布を得ることができるパターンや、不吐出、欠けなどを判断できるパターンを含む。
【0056】
ステップS3
制御部39は、走査部19を操作して、ステップS2で印刷された連続紙WPの印刷面を撮影する。データ処理部33は、そのうちの印刷領域PAの画像と、印刷領域PAの外側に印刷されたテストチャートTCの画像とをデジタルデータに変換する。
【0057】
ステップS4
制御部39は、下面撮影部23を操作して、印刷ヘッド13の下面を撮影する。データ処理部33は、印刷ヘッド13の下面の画像を、全てのヘッドモジュール25を含む領域をデジタルデータに変換する。
【0058】
ステップS5
データ処理部33は、ステップS3とステップS4で収集されたデジタルデータに基づいてヘッドモジュール25ごとに固有情報を算出する。例えば、テストチャートTCに基づいて濃度分布を算出したり、テストチャートTC及び印刷ヘッド13の下面の画像に基づいて不吐出や欠けとなっているノズルの位置を異常ノズル発生位置として特定したり、異常ノズル発生頻度として算出したりする。また、動作時間などに応じて履歴・統計情報を算出する。
【0059】
ステップS6
ステップS5で算出されたヘッドモジュール25ごとの固有情報を制御部39に送信する。制御部39は、ヘッド制御部31を介して、固有情報をヘッドモジュール25のヘッドメモリ29に書き込んで更新する。
【0060】
ステップS7
制御部39は、ステップS6で更新された各ヘッドモジュール25の固有情報を参照し、濃度分布や、異常ノズル発生位置、異常ノズル発生頻度などに基づいて、印刷品質に問題があるか否かについて判断する。制御部39が印刷品質に問題がないと判断した場合には、一つのジョブを終了する。その一方、制御部39が印刷品質に問題あると判断した場合には、ステップS8に処理を分岐する。
【0061】
ステップS8
制御部39は、印刷ヘッド13のメンテナンス処理を実行する。
【0062】
なお、上述したステップS7が本発明における「検出ステップ」に相当する。
【0063】
<メンテナンス処理>
【0064】
【0065】
ステップS11
制御部39は、印刷ヘッド13についてヘッドモジュール25の入れ替えで印刷品質の維持が可能か否かにより処理を分岐する。ヘッドモジュール25の入れ替えで印刷品質の維持が可能であれば、ステップS12に処理を分岐し、ヘッドモジュール25の入れ替えでは印刷品質の維持が困難である場合には、ステップS13に処理を分岐する。
【0066】
制御部39は、ヘッドモジュール25の入れ替えで印刷品質が維持可能であるか否かについて、例えば、次のようにして判断する。ここで、
図7及び
図8を参照する。
図7(a)は現在の状態を示す固有情報の並びを示し、
図7(b)は濃度分布に基づいて入れ替えた状態を示す固有情報の並びを示す模式図である。
図8(a)は現在の状態を示す固有情報の並びを示し、
図8(b)は異常ノズル発生位置に基づいて入れ替えた状態を示す固有情報の並びを示す模式図である。
【0067】
例えば、
図7(a)に示すように、制御部39は、印刷ヘッド13を構成している全てのヘッドモジュール25の固有情報を参照する。ここでは、ヘッドモジュールHM2とヘッドモジュールHM3との隣接部において、濃度差が閾値を超えているものとする。これにより、制御部39は、ヘッドモジュールHM2に不具合が生じたものと判断したとする。つまり、濃度分布の不具合が生じたものとする。なお、ヘッドモジュールHM2に隣接しているヘッドモジュールHM3に不具合が生じたと判断することもできる。その場合、例えば、先の固有情報との比較により、大きく濃度分布が変動した方のヘッドモジュール25に不具合が生じたものと判断するのが好ましい。
【0068】
制御部39は、印刷ヘッド13の全ヘッドモジュール25の固有情報の濃度分布に基づいて、不具合が生じているヘッドモジュールHM2を、不具合が生じているヘッドモジュールHM2を除いた残りのヘッドモジュールHM1,HM3~HM5のそれぞれに隣接させて入れ替えて配置させた組み合わせにおいて、各組み合わせの印刷ヘッド13における濃度分布について各隣接部における濃度差を求める。この試行により不具合を解消できる組み合わせがあった場合には、ステップS12に処理を移行する。
【0069】
なお、上述したステップS11が本発明における「判断ステップ」に相当する。
【0070】
ステップS12
制御部39は、不具合を解消できるヘッドモジュール25の組み合わせの入れ替え情報を表示部35に表示する。
【0071】
入れ替え情報として、濃度差が閾値以下となる印刷ヘッド13におけるヘッドモジュール25の並びを提示する。例えば、
図7(a)において、ヘッドモジュールHM2とヘッドモジュールHM5とを入れ替えて配置すると、
図7(b)のように、不具合があるとされたヘッドモジュールHM2と、これに隣接するヘッドモジュールHM3との濃度分布が閾値以下となるものとする。この組み合わせだけが隣接部における濃度差が閾値以下になったとすると、制御部39は、
図7(b)のようなヘッドモジュール25の並びを表示部35に出力する。他にも入れ替えた結果、濃度差が閾値以下となる印刷ヘッド13におけるヘッドモジュール25の並びがあれば全て表示する。
【0072】
上述した例は、ヘッドモジュール25に濃度分布の関する不具合があった場合であるが、例えば、ヘッドモジュール25に不吐出が生じた場合について説明する。例えば、
図8(a)に示すように、ヘッドモジュールHM4の固有情報のうち、異常ノズル発生位置が1,5であり、その異常ノズル発生頻度が12345,13456であったとする。ここで、異常ノズル発生位置の1,5は、幅方向Yにおける左端付近を示すものとする。また、異常ノズル発生頻度の12345,13456は、まれにしか吐出しないことを示すものとする。したがって、制御部39は、ヘッドモジュールHM4に不具合が生じていると判断する。制御部39は、固有情報の異常ノズル発生位置から、このヘッドモジュールHM4において不吐出が生じているノズル27が幅方向YにおけるヘッドモジュールHM4の左端付近であることがわかる。そこで、制御部39は、予めわかっている印刷ヘッド13と、印刷領域PAとの位置関係を考慮すると、不具合を生じているヘッドモジュールHM4の異常ノズル発生位置を印刷領域PAの外部に位置させられることがわかる。そこで、制御部39は、ヘッドモジュールHM4とヘッドモジュールHM1とを入れ替えることで、印刷品質を維持できると判断することができる。
【0073】
この場合、ステップS12において、制御部39は、
図8(b)のように不具合を解消できるヘッドモジュール25の入れ替え情報を表示部35に表示する。
【0074】
なお、上述したステップS12が本発明における「報知ステップ」に相当する。
【0075】
ステップS13
上述したステップS11において、ヘッドモジュール25の入れ替えでは印刷品質の維持が困難である場合には、このステップS13に処理を分岐する。
【0076】
制御部39は、データベース37を参照する。データベース37は、ヘッドモジュールステーション9に取り付けられている全てのヘッドモジュール25の固有情報を、ヘッドモジュールステーション9に取り付けられている各ヘッドモジュール25とシリアル番号で対応づけて記憶している。制御部39は、各ヘッドモジュール25の中から、不具合を生じているヘッドモジュール25と交換することにより、印刷品質を維持できる新たなヘッドモジュール25を検索する。その結果、制御部39は、印刷品質を維持できる新たなヘッドモジュール25を見つけることができた場合には、ヘッドモジュールステーション9に取り付けられている新たなヘッドモジュール25を表示部35に表示させる。これにより、オペレータに対して交換情報の提示を行う。
【0077】
なお、制御部39は、不具合を生じたヘッドモジュール25と新たなヘッドモジュール25とを交換する単純入れ替えの例だけでなく、不具合を生じたヘッドモジュール25を除いた残りのヘッドモジュール25の配置位置を入れ替えつつ、新たなヘッドモジュール25を入れ替えた場合の各種入れ替えの場合に印刷品質を維持できるか否かを検索することが好ましい。これにより、より好適な印刷ヘッド13におけるヘッドモジュール25の配置とすることができ、より印刷品質を高めることができる場合がある。
【0078】
なお、上述したステップS13が本発明における「交換提示ステップ」及び「代替案提示ステップ」に相当する。
【0079】
ステップS14
インクジェット印刷装置1のオペレータは、表示部35に表示された入れ替え情報、または代替案提示情報に応じてヘッドモジュール25の入れ替え、または交換作業を行う。
【0080】
ステップS15
ヘッドモジュール25の入れ替えや交換作業が完了したら、制御部39は、印刷ヘッド13を構成している全てのヘッドモジュール25から固有情報を取得する。
【0081】
ステップS16
制御部39は、取り付けたヘッドモジュール25の固有情報のうち、例えば、履歴・統計情報に基づいて、取り付けたヘッドモジュール25が新品であるか、中古品であるかを判別する。
【0082】
ステップS17,S18
ステップS13において交換したヘッドモジュール25が新品であった場合には、テストチャートTCの印刷を行う。そして、走査部19及び下面撮影部23を作動させて、濃度情報や異常ノズル発生位置などの固有情報を取得する。なお、新品のヘッドモジュール25であっても、ヘッドモジュール25の製造段階において、基準電圧などの決定のためにテスト機において印刷動作を行っている場合がある。その場合には、ヘッドメモリ29に固有情報が記憶されている。しかしながら、ヘッドモジュール25が製造された時点の固有情報では、取り付けた時点における固有情報とは異なっている可能性がある。そこで、このステップS17を実施して、印刷ヘッド13を現在構成しているヘッドモジュール25の固有情報を最新の状態に更新しておく。これにより、最新の固有情報とすることができる。
【0083】
ステップS19
制御部39は、更新されて最新の状態となった、交換により取り付けられた新たなヘッドモジュール25の固有情報に基づいて、濃度分布や、異常ノズル発生位置などを考慮し、新たなヘッドモジュール25の最適な位置を算出する。
【0084】
ステップS20
ステップS19で最適な位置が算出された場合には、制御部39は、その位置情報を表示部35に出力することで提示する。この提示があった場合には、インクジェット印刷装置1のユーザは、提示された位置情報に交換するか否かを判断し、必要があれば交換を行う。これにより、さらに最適な位置にヘッドモジュール25を配置することができ、より印刷品質を高くすることができる。
【0085】
<最適な配置の求め方>
【0086】
上述したステップS19において、最新の状態となった固有情報に基づいてヘッドモジュール25について最適な位置を算出している。その際の好適な求め方について以下に説明する。
【0087】
ここで、
図9を参照する。
図9は、重症度許容閾値に基づいて入れ替える場合の説明に供する固有情報の並びを示す模式図である。なお、
図9では、一例として、ヘッドモジュール25が7個で構成されているものとするが、一部を図示省略してある。
【0088】
例えば、幅方向Yにおける最も左側に位置するヘッドモジュールHM1と、幅方向Yにおける中央に位置するヘッドモジュールHM4とを対象に最適な配置を求める。ここで、固有情報には、例えば、異常ノズル発生位置と、その発生頻度とが対応付けて記憶されているとする。上述した
図3の固有情報と一見すると異なるように見えるが、ノズルの位置とその頻度とが対応付けられているので、同様の固有情報である。異なるのは、
図9の固有情報には、重症度許容閾値を含むことである。
【0089】
この重症度許容閾値は、以下のようにして求めた重症度と比較した際に、重症度が高いか低いかを判定するための基準値となる。この重症度許容閾値より低い重症度となるヘッドモジュール25を配置することが好ましい。重症度許容閾値は、印刷ヘッド13の幅方向Yにおける中央が小さく、幅方向Yにおける両端が大きくなるように予め設定されている。換言すると、重症度が低いものは、印刷ヘッド13の中央寄りに配置でき、重症度が高いものは、端部寄りに配置できることを表す。これは、印刷ヘッド13の中央が端部よりも印刷品質が高いことが求められるからである。なお、以下の式では、幅方向Yにおけるヘッドモジュール25の中央のノズル27の位置は、2500とする。
【0090】
重症度=SUM(異常ノズル発生頻度/|(異常ノズル発生位置の中央との差)|,全ノズル)
【0091】
ここで、数式符号のSUMは、異常ノズル発生頻度/|(異常ノズル発生位置の中央との差)|を全ノズル27について加算することを意味する。重症度は、異常が発生する頻度が高いほど大きく、異常があるノズル27が中央に近いほど大きくなる。
【0092】
具体的な重症度をヘッドモジュールHM1,HM4について求めると、次のような値となる。
【0093】
ヘッドモジュールHM1の重症度=2/|2500-2400|=0.02
【0094】
ヘッドモジュールHM4の重症度=50/|2500-10|+200/|2500-200|=0.1
【0095】
ヘッドモジュールHM1の重症度=0.02は、重症度許容閾値=0.10より小さい。したがって、重症度が低く、この位置であっても印刷品質を維持できると判断できる。ヘッドモジュールHM4の重症度=0.1は、重症度許容閾値=0.05よりも大きい。したがって、重症度がこの位置で用いるには不適で、この位置では印刷品質を維持できないと判断できる。そこで、この例の場合には、重症度が低いヘッドモジュールHM1を、その重症度が重症度許容度閾値より低い位置となる、印刷ヘッド13の幅方向Yにおける中央寄りに移動し、重症度が高いヘッドモジュールHM4を、その重症度が重症度許容度閾値より低い位置となる、印刷ヘッド13の幅方向Yにおける端部寄りに移動する。具体的には、ヘッドモジュールHM1とヘッドモジュールHM4の位置とを入れ替えれば、これが最適な位置となる。
【0096】
本実施例によると、ヘッドモジュール25のいずれかに不具合が生じたことを検出した場合、各ヘッドモジュール25の固有情報と、不具合を生じたヘッドモジュール25の固有情報とから、不具合を生じたヘッドモジュール25の配置位置を入れ替えることにより、印刷ヘッド13による印刷品質が維持できるか否かを制御部39が判断する。配置位置の入れ替えにより印刷品質が維持できると判断された場合には、配置位置の入れ替えを表示部35に表示する。したがって、表示されたヘッドモジュール25と不具合を生じたヘッドモジュール25との配置位置を入れ替えることにより、新たなヘッドモジュール25への交換頻度を低くできる。そのため、ヘッドモジュール25に不具合が生じても装置の運用コストを低減できる。
【0097】
<装着方向>
【0098】
上述した実施例では、ヘッドモジュール25の搬送方向Xにおける装着方向については問わなかった。しかしながら、例えば、ヘッドモジュール25によっては、搬送方向Xにおいて一方側を下流側に向けた「送り方向」と、搬送方向において一方側を上流側に向けた「反送り方向」とに取り付けることができるものがある。このようなヘッドモジュール25を用い場合には、次のような構成を採用することが好ましい。
【0099】
ここで、
図10を参照する。
図10は、装着方向の判断を行う構成を搬送方向から見た図である。
【0100】
ヘッドモジュール25は、ノズル27が形成されている下面の一部に、方向判定マーク45が設けられている。例えば、方向判定マーク45は、ヘッドモジュール25の幅方向Yにおける右側に位置する場合が送り方向を表す。一方、例えば、方向判定マーク45は、ヘッドモジュール25の幅方向Yにおける左側に位置する場合が反送り方向を表す。方向判定マーク45は、下面撮影部23により撮影され、データ処理部33により装着方向が判定される。なお、この判定(装着方向検出ステップ)は、上述したステップS11よりも前に行うことが好ましい。
【0101】
このような構成を採用する場合には、固有情報を
図11(a)、(b)に示すような構成とするのが好ましい。
図11(a)は装着方向が-1である場合を示す固有情報の並びを示し、
図11(b)は装着方向が+1であると判断された場合における固有情報の並びを示す。
【0102】
例えば、装着方向が反送り方向である場合には、固有情報における装着方向を「-1」とし、装着方向が送り方向である場合には、固有情報における装着方向を「+1」とする。これにより、固有情報を読み出すことで、ヘッドモジュール25の装着方向を検出できる。しかしながら、下面撮影部23で撮影した結果、データ処理部33により検出された装着方向と、固有情報29の装着方向とが不一致となる場合がある。例えば、
図11(a)のようにヘッドメモリ29の固有情報では、装着方向が「-1」(反送り方向)であったとする。一方、下面撮影部23で撮影した結果によると、装着方向が「+1」であったとする。このように固有情報の装着方向と、方向判定マーク45が示す装着方向とが異なる場合には、固有情報を更新する。
【0103】
具体的には、固有情報のうち、方向性を有するものについて、連続紙WPの搬送方向Xを中心にして、幅方向Yに反転させる。
図11(b)に示すように、
図3における濃度分布に関連するノズルごとの吐出量、
図3における異常ノズル発生頻度に関連するノズルごとのノズル欠け頻度は、
図11(a)に対して左右が入れ替わっている。
【0104】
このように実際の装着方向を検出して固有情報の更新を行うことにより、ヘッドモジュール25の実際の装着方向に応じて固有情報に基づく判断を正しくできる。したがって、例えば、上述したステップS11において入れ替えの判断を正確に行うことができる。
【0105】
ここで、
図12を参照して、印刷ヘッド13に対する各ヘッドモジュール25の装着例を説明する。
図12は、装着方向と流路方向との関係について説明する模式図である。
【0106】
例えば、印刷ヘッド13は、
図12に示すように各ヘッドモジュール19の流路方向が決められている。このような流路方向、すなわち、搬送方向Xにおける下流側のヘッドモジュールHM1,HM3,HM5に対して印刷ヘッド13の左側からインクが供給され、搬送方向Xにおける上流側のヘッドモジュールHM2,HM4に対して印刷ヘッド13の右側からインクが供給される。このような流路方向を有する印刷ヘッド13は、
図12に示すように、例えば、搬送方向Xの下流側のヘッドモジュールHM1,HM3,HM5が送り方向「+1」の装着方向で装着される。また、搬送方向Xの上流側のヘッドモジュールHM2,HM4は、例えば、反送り方向「-1」の装着方向で装着される。したがって、上述したステップS11において、ヘッドモジュールHM1とヘッドモジュールHM4とを入れ替えようとする場合には、ヘッドモジュールHM1とヘッドモジュールHM4の装着方向が逆であるので、入れ替えることで印刷品質が維持できるか否かを判断する際には、ヘッド制御部31は、データ処理部33からの装着方向を考慮して判断する。
【0107】
上述したステップS11では、ヘッドモジュール25の入れ替えを検討する。その際には、偶数番号のヘッドモジュールHM2,HM4同士で入れ替えを検討し、奇数番号のヘッドモジュールHM1,HM3,HM5同士で入れ替えを検討する。これらの検討時には、装着方向が同じもの同士であるので、固有情報を反転させず、そのまま用いる。さらに、偶数番号のヘッドモジュールHM2,HM4と、奇数番号のヘッドモジュールHM1,HM3,HM5との入れ替えを検討する場合は、上述したように装着方向に応じて、固有情報を反転させる。また、例えば、偶数や奇数に関係なく、印刷ヘッド13に取り付けられているヘッドモジュール25の装着方向を逆にすることで濃度分布が隣接するヘッドモジュール25と差が小さくなるか否かを含めて検討するようにしてもよい。
【0108】
なお、上述した
図12の装着方向は、一例であり、例えば、
図12とは逆に、搬送方向Xの上流側のヘッドモジュールHM1,HM3,HM5が反送り方向「-1」の装着方向で、搬送方向Xにおける下流側のヘッドモジュールHM2,HM4が送り方向「+1」の装着方向としてもよい。また、搬送方向Xの上流側や下流側に関係なく、それぞれのヘッドモジュール25ごとに装着方向が決められるように印刷ヘッド13を構成してもよい。
【0109】
本発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0110】
(1)上述した実施例では、ヘッドモジュール25に生じた不具合として、濃度分布や異常ノズル発生位置、異常ノズル発生頻度を例にとって説明した。しかしながら、本発明は、これら以外の印刷品質に影響する不具合であっても適用できる。
【0111】
(2)上述した実施例では、印刷媒体として連続紙WPを例にとって説明した。しかしながら、本発明は、インクジェット式の印刷ヘッド13で印刷可能な印刷媒体であれば、どのようなものでも適用できる。例えば、プラスチック製のフィルムからなる印刷媒体にも適用できる。
【0112】
(3)上述した実施例では、印刷ヘッド13について5個のヘッドモジュール25を備えた構成を例示した。しかしながら、本発明は、このような構成に限定されない。また、印刷ヘッド13は、ヘッドモジュール25を千鳥配置とした構成を例にとって説明したが、本発明は、このような構成に限定されない。例えば、複数個のヘッドモジュール25を幅方向Yに一直線状に配置して構成された印刷ヘッド13であってもよい。
【0113】
(4)上述した実施例では、下面撮影部23で撮影された方向判定マーク45により装着方向を判定した。しかしながら、本発明はこのような判定手法に限定されない。例えば、ヘッドモジュール25が幅方向Yを基準にした場合、その上流側と下流側とで非対称な形状である場合、具体的には、ヘッドモジュール25の下面が台形状を呈する場合には、上底と下底の長さに応じて装着方向を判定するようにしてもよい。また、下面撮影部23を用いずに、ヘッドモジュール25が取り付けられる印刷ヘッド13にリミットスイッチなどの機械式スイッチを設けておき、装着方向の一方向の場合にだけスイッチが作動するように構成してもよい。
【0114】
(5)上述した実施例では、連続紙WPの一方面に印刷を行うインクジェット印刷装置1だけを例にとって説明した。しかしながら、本発明は、このような構成に限定されない。例えば、インクジェット印刷装置1の後段に配置された反転装置(不図示)を介して裏面印刷用のインクジェット印刷装置1と接続されている両面印刷システムが挙げられる。このような構成の場合には、裏面印刷用のインクジェット印刷装置1における印刷ヘッド13の固有情報を制御部39が外部情報として受け取り、裏面印刷用の印刷ヘッド13と、表面印刷用の印刷ヘッド13とを含めてヘッドモジュール25の入れ替えや交換を行うようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0115】
以上のように、本発明は、インクジェット印刷装置における印刷ヘッドのメンテナンス方法及びそれを用いたインクジェット印刷装置に適している。
【符号の説明】
【0116】
1 … インクジェット印刷装置
3 … 給紙部
5 … 印刷装置
7 … 排紙部
9 … ヘッドモジュールステーション
WP … 連続紙
X … 搬送方向
Y … 幅方向
11,21 … 駆動ローラ
13 … 印刷ヘッド
15 … 搬送ローラ
17 … 乾燥部
19 … 検査部
21 … 駆動ローラ
23 … 下面撮影部
25(HM1~HM5) … ヘッドモジュール
27 … ノズル
29 … ヘッドメモリ
37 … データベース
39 … 制御部
45 … 方向判定マーク