(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131516
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】暖房床
(51)【国際特許分類】
F24D 3/16 20060101AFI20220831BHJP
F24D 11/00 20220101ALI20220831BHJP
【FI】
F24D3/16 F
F24D3/16 C
F24D11/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030496
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】513026399
【氏名又は名称】三菱ケミカルインフラテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】上野 浩一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 多加志
(72)【発明者】
【氏名】横山 昌弘
【テーマコード(参考)】
3L070
3L071
【Fターム(参考)】
3L070AA02
3L070BD02
3L070BD06
3L070DD02
3L071CD01
3L071CF05
(57)【要約】
【課題】根太状部材を備えていない床暖房マットを敷設した暖房床において、足裏の踏み感を良好とする暖房床を提供する。
【解決手段】床暖房マット1は、上面に溝2を有した複数枚の基板11~18と、溝2に配設された温水パイプ3とを有する。床暖房マット1上にボード状の蓄熱部材40が敷設され、その上に防音床30が敷設されている。蓄熱部材40としては、ロックウールなどの多孔質基材に、蓄熱材含有硬化性組成物を含浸させて硬化させたものなどが用いられる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
床暖房マットが床面に敷設され、該床暖房マットの上側にシートまたはボード状の蓄熱部材が敷設され、該蓄熱部材の上側にフローリングが設けられている暖房床。
【請求項2】
前記蓄熱部材は、多孔質基材と、該多孔質基材に含浸された蓄熱材料とを有したものであることを特徴とする請求項1の暖房床。
【請求項3】
前記蓄熱材料は、蓄熱材含有硬化物である請求項2の暖房床。
【請求項4】
前記床暖房マットは、上面に配管収容用の溝が設けられた基板と、該溝に収容された温水パイプとを有し、根太状部材を有しない請求項1~3のいずれかの暖房床。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温水を通水することによって建物の床の暖房を行う暖房床に係り、特に床暖房マットと蓄熱部材とフローリングとを敷設した暖房床に関する。
【0002】
なお、以下の説明において、床暖房マットの上面とは、該床暖房マットを床上に敷設したときの上面をいい、床暖房マットの下面とは、該床暖房マットを床上に敷設したときの下面をいう。
【背景技術】
【0003】
温水を利用した床暖房マットとして、板状のベースの上面の溝に温水パイプを引き回したものが広く用いられている。
【0004】
特許文献1の
図2には、溝付きのマット層の該溝に温水パイプを配置し、該マット層の上にクッション材を介して木質防音床材を配置した構造が示されている。特許文献1の実施例には、溝を幅及び深さ7.2mm、ピッチ75mmで設けることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、温水パイプを備えた発泡合成樹脂成形体同士の間に根太状部材を設けた床暖房マットが記載されている。根太状部材は、上方からの荷重を受けるためのものであり、幅40~50mm程度の木材等よりなる(特許文献2、0018段落)、また特許文献2では、根太状部材を300~305mmのピッチで配列する(請求項1)。
【0006】
特許文献2では、床暖房マットとしての放熱パネルの上に、天然木材よりなる床仕上材(フローリング)が配置される(特許文献2、0012段落)。この床仕上材は根太状部材に対し釘留めされる(特許文献2、
図4)。
【0007】
特許文献3では、床暖房マットとしての発熱マットの上に蓄熱部材としての蓄熱ユニットを重ね、その上にフローリング(床仕上げ材)を配置した暖房床が記載されている。なお、特許文献3でも小根太が用いられ、さらに該小根太に重なるように上根太が配置されている。
【0008】
スラブ面(建物躯体床面)に温水床暖房マットを敷設し、その上に直貼りの防音床を敷設した暖房床においては、防音材としてクッション材を使用するため、床暖房マットのベース(発泡合成樹脂よりなるベース)とクッション材とが重なり合ったときに足裏の沈み込みに対して適度な垂直抗力が働かず足裏に違和感が生じることがある。また、床暖房マットに配設された温水パイプは、剛性が高いが、発泡合成樹脂よりなるベースはそれよりも剛性が低いので、足裏が温水パイプ同士の間のベースを主に踏んだときには、足裏の沈み込みが大きく、違和感が感取される。一方、足裏が温水パイプと該ベースとの双方に当ったときには、温水パイプに当った足裏箇所では硬質感が感取され、ベースに当った足裏箇所では軟質感が感取され、やはり足裏に違和感が生じる。
【0009】
特許文献2,3のように根太状部材を設け、フローリングを根太状部材に載荷状に設置した場合においても、フローリングが防音仕様の場合には根太状部材(高剛性)とベース(低剛性)との境界部付近を踏んだときにクッション材を通じて硬質感と軟質感が同時に感取され、違和感が生じる。
【0010】
特許文献3では、蓄熱部材(蓄熱ユニット)として、枠部の枠内側に蓄熱体を配置し、枠部及び蓄熱体を上下からパネル材で挟んだ構成のものが用いられているが、パネル材の厚さが小さいため、蓄熱ユニットの剛性が小さく、蓄熱ユニットと上根太との境界部を踏んだときに違和感が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006-144273号公報
【特許文献2】特開2008-309395号公報
【特許文献3】特開2016-142432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、床暖房マット、蓄熱部材及びフローリングを備えた床暖房マットにおいて、足裏の踏み感が良好である暖房床を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の暖房床では、床暖房マットが床面に敷設され、該床暖房マットの上側にボード状の蓄熱部材が敷設され、該蓄熱部材の上側にフローリングが設けられている。
【0014】
本発明の暖房床の一態様では、前記蓄熱部材は、多孔質基材と、該多孔質基材に含浸された蓄熱材料とを有したものである。
【0015】
本発明の暖房床の一態様では、前記蓄熱材料は、蓄熱材含有硬化物である。
【0016】
本発明の暖房床の一態様では、前記床暖房マットは、上面に配管収容用の溝が設けられた基板と、該溝に収容された温水パイプとを有し、根太状部材を有しない。
【発明の効果】
【0017】
本発明の暖房床にあっては、床暖房マットとフローリングとの間に、ボード状の蓄熱部材を配置しており、暖房床の上を人が歩いたりしたときの足裏の荷重がボード状の蓄熱部材で受け止められるようになり、足裏の沈み込みによる違和感が全く又は殆ど感取されないようになる。また、根太状部材を設けておらず、根太状部材と床暖房マット及び蓄熱部材との境界部が存在しない。そのため、長年使用しても該境界部に起因した違和感が生じない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の形態に係る暖房床に用いられる床暖房マットの平面図である。
【
図3】実施の形態に係る暖房床の分解断面図である。
【
図4】(a)は床暖房マットの拡大縦断面図、(b)はU字アルミ及び温水パイプの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。なお、以下の各実施の形態は本発明の一例であり、本発明は以下の各実施の形態以外の形態をもとりうる。
【0020】
この床暖房マット1は、長方形状の8枚の基板(ベース)11~18と、各基板11~18の上面に設けられた溝2(
図4(a))に配材された温水パイプ3と、該温水パイプ3が連なるヘッダー4(
図1)と、各基板11~18の上面を覆うように配置され、各基板11~18の上面に付着された均熱シート5等を備える。この床暖房マット1は、小根太、上根太などの根太状部材を備えていない。
【0021】
溝2には、
図4(b)の通り、アルミ箔よりなるU字アルミと称される伝熱部材7が配設される場合もあり、この場合は、伝熱部材7を介して温水パイプ3が配設される。
【0022】
基板11~18としては、密度が10~100kg/m3程度の発泡ポリプロピレン、発泡ポリエチレン、発泡ポリスチレン、発泡ポリウレタンなどを用いることができる。均熱シート5としては、厚さ20~150mm程度のアルミ箔、銅箔等を用いることができる。均熱シート5の付着には、アクリル系、エチレン-酢酸ビニル系、ポリアミド系、ポリエステル系等の接着剤を用いることができる。ただし、これらは一例であって、本発明はこれらに限定されない。
【0023】
基板11~18の23℃における圧縮応力(試験法JIS K 6767に準拠した試験での5%ひずみ時)は0.2~3.0MPa特に0.3~1.5MPa程度が好ましい。基板が発泡ポリスチレンよりなる場合、発泡倍率は5~60倍特に15~50倍であることが好ましい。
【0024】
基板11~18の厚さaは、好ましくは、6mm以上、特に9mm以上とりわけ10mm以上であり、また24mm以下、特に18mm以下、とりわけ15mm以下である。
【0025】
溝2の深さcは、温水パイプ3の直径(外径)と、伝熱部材7の肉厚との和であることが好ましい。温水パイプ3の外径dは、好ましくは、3mm以上、特に4mm以上とりわけ5mm以上であり、また12mm以下、特に10mm以下、とりわけ9mm以下である。
【0026】
本発明の一態様では、該外径dと基板11~18の厚みaとの比d/aが0.60以上、特に0.63以上で、0.75以下、特に0.72以下であることが好ましい。
【0027】
本発明の別の一態様では、d/aが0.40以上特に0.42以上で、0.55以下特に0.50以下であることが好ましい。
【0028】
図1の通り、長方形状の基板11~14が、各々の長辺を突き合わせるようにしてこの順に一列に配列されている。また、基板15~18がこの順に、各々の長辺を突き合わせるようにして、且つ該基板11~14に隣接するように一列に配列されている。各基板11~14の短辺と各基板15~18の短辺とが突き合わされている。この床暖房マット1では、前述の通り、根太状部材は用いられていない。
【0029】
各基板11~18においては、溝2は各基板11~18の長手方向に平行に延設されている。各溝は、各基板の長手方向の一端側から他端側に向って延在し、該他端側においてUターン状に略U字形に湾曲し、該他端側から前記一端側にまで延在している。一部の溝2は、該他端側においてさらにU字形に湾曲し、つづら折り状に延在している。
【0030】
図1の通り、2本の温水パイプ3の往側の一端がヘッダー4に接続され、基板15,11,12,13,14の順に引き回され、戻り側が基板14,13,12,11,15の順に引き回され、各温水パイプ3の他端がヘッダー4に接続されている。残りの2本の温水パイプ3の往側は、ヘッダー4から基板15,16,17,18の順に引き回され、戻り側が基板18,17,16,15の順に引き回されている。
【0031】
温水パイプ3は、架橋ポリエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブデンなどよりなることが好ましい。
【0032】
温水パイプ3に用いられる素材は、基板11~18よりも高剛性であり、具体的には23℃におけるデュロメーター硬度(測定法JIS K 7215)が50~75、特に55~70程度であることが好ましい。
【0033】
このように基板11~18及び温水パイプ3等を備えた床暖房マット1は、
図2,3の通り、建物の床スラブ20上に敷設され、その上に剛性の高いボード状の蓄熱部材40が敷設され、その上にフローリングとして防音床30が敷設される。なお、この実施の形態では、床スラブ20に浅い凹所21が形成され、床暖房マット1及び蓄熱部材40は該凹所21内に配置されている。蓄熱部材40の上面と凹所21の周囲のスラブ面22とは面一状とされる。防音床30は、蓄熱部材40の上面とスラブ面22とを覆うように敷設される。
【0034】
なお、凹所21を省略して床スラブ20の上面を平坦とし、代りに床暖房マット1及び蓄熱部材40の周囲に床暖房マット1と同一厚さのダミー材を敷設してもよい。
【0035】
ボード状の蓄熱部材40としては、厚さが0.5~15mm特に5~9mmであり、圧縮強さが10~45N/cm2、特に15~40N/cm2のものが好ましい。この蓄熱部材の好適な製造方法については後述する。
【0036】
この実施の形態では、防音床30としては、合板よりなる基材31の表面に突板(木材を0.2~0.6mm程度に薄くスライスした板材)(図示略)を積層し、基材31の裏面に複数本の切り溝32を穿設し、クッション層33を積層して成るものが好ましいが、これに限定されない。防音床30の全体厚さは8mm~15mm程度であり、より厚みの薄いもので8~10mm程度である。
【0037】
基材31と突板との合計厚さは5~12mm特に7~10mm程度が好ましい。クッション層33としては、ポリエステル等の不織布や、ウレタンスポンジなどが好適である。クッション層33の厚さは3~8mm特に5~7mm程度が好ましい。
【0038】
防音床としては、上面に突板を貼った基材の裏面から基材に切り溝を穿設し、裏面にクッション層を積層したものも好適である。
【0039】
このように構成された床暖房マット1を用いた暖房床(
図2)にあっては、床暖房マット1に根太状部材が存在せず、またボード状蓄熱部材40が床暖房マット1の上に敷設されているので、防音床30上を歩いたりしたときに足裏の荷重がボード状蓄熱部材40によって受け止められるようになり、足裏の沈み込みが全く又は殆ど感取されない。この結果、踏み感が良好となる。特に、防音床30の厚みが小さいときの踏み感が従来に比べ顕著に向上する。また、蓄熱部材40を床暖房マット1の上に配置したことにより、加熱ムラのない暖房床を提供することができる。
【0040】
また、この実施の形態では、特許文献2のような根太状部材を設けていないので、経時的に(数年以上程度の長期使用によって)基板11~18の厚みが減少したとしても、根太状部材とボード状蓄熱部材40との境界部に起因した踏み感の違和感が生じない。即ち、特許文献2のように根太状部材を設けた暖房床にあっては、根太状部材がある箇所と根太状部材のない箇所とで経時的に蓄熱部材40や床暖房マットに厚み差が生じ、これに起因して踏み感にムラが生じるようになることがある。本発明の暖房床では、根太状部材が存在しないので、かかる蓄熱部材や床暖房マットの厚さの経時変化に起因した踏み感ムラが生じない。
【0041】
なお、蓄熱部材の好ましい製造方法を次に説明する。
【0042】
本発明では、ボード状の蓄熱部材は、ポリオール(a)、イソシアネート基を有する化合物(b)および蓄熱材(c)を含む硬化性蓄熱組成物が、多孔質基材に含浸、硬化されてなるものが好ましい。
【0043】
このような蓄熱部材は、ポリオール(a)、イソシアネート基を有する化合物(b)および蓄熱材(c)を含む硬化性蓄熱組成物を該蓄熱材(c)の融点以上の温度で多孔質基材に含浸させた後、硬化させる方法により製造することができる。
【0044】
<ポリオール(a)>
(a)成分のポリオールは、後述する(b)成分と反応して、蓄熱材(c)を担持するための3次元架橋構造を形成する成分であり、緻密な架橋構造を形成することができる。
【0045】
ポリオール(a)としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、アクリルポリオール、エポキシポリオール、アルキドポリオール、フッ素含有ポリオール、ケイ素含有系ポリオール、セルロース及び/またはその誘導体、アミロース等の多糖類等が挙げられる。(a)成分としては、これらの1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
本発明では、特に、ポリオール(a)が、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリオレフィンポリオールから選ばれる1種以上を含むことが好ましく、このようなポリオール(a)を用いることにより、緻密な架橋構造を形成することができる上に、後述する蓄熱材(c)との相溶性が良好で、3次元架橋構造からの蓄熱材(c)の漏れを抑制しやすいといった利点を有する。なかでも、蓄熱材(c)との相溶性の観点から、ポリエステルポリオールを含むことが好ましい。
【0047】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、多価アルコールと多価カルボン酸との縮重合物;環状エステル(ラクトン)の開環重合物;多価アルコール、多価カルボン酸および環状エステルの3種類の成分による反応物、ヒマシ油またはその変性物等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,3-テトラメチレンジオール、1,4-テトラメチレンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,3-テトラメチレンジオール、2-メチル-1,3-トリメチレンジオール、1,5-ペンタメチレンジオール、トリメチルペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサメチレンジオール、3-メチル-1,5-ペンタメチレンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタメチレンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、メタキシレングリコール、パラキシレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、ビスヒドロキシエチルテレフタレート、グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、シクロヘキサンジオール類(1,4-シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等)、ビスフェノール類(ビスフェノールAなど)、糖アルコール類(キシリトールやソルビトールなど)、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、2-メチロールプロパンジオール、エトキシ化トリメチロールプロパン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0049】
多価カルボン酸としては、例えば、マロン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、無水フタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸等の芳香族ジカルボン酸;或いはこれらの酸無水物等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
環状エステルの開環重合物における環状エステルとしては、例えば、プロピオラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
多価アルコール、多価カルボン酸および環状エステルの3種類の成分による反応物における多価アルコール、多価カルボン酸、環状エステルとしては、前記例示のものなどを用いることができる。
【0052】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、芳香族ポリエーテルポリオール、グリセリン系ポリエーテルポリオール、アミノ基含有ポリエーテルポリオール等が挙げられる。具体的に、芳香族ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ビスフェノールAを開始剤としてアルキレンオキサイド(例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等の少なくとも1種以上。以下同様。)を付加することで得られるビスフェノールA型ポリエーテルポリオール、芳香族アミン(例えば、トルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、p-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、ナフタレンジアミン、トリエタノールアミン、マンニッヒ縮合物等)を開始剤としてアルキレンオキサイドを付加することで得られる芳香族アミン系ポリエーテルポリオール等が挙げられる。グリセリン系ポリエーテルポリオールとしては、グリセリンを開始剤としてアルキレンオキサイドを付加することで得られるポリエーテルポリオール等が挙げられる。アミノ基含有ポリエーテルポリオールとしては、例えば、低分子量アミン(例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ネオペンチルジアミン等)を開始剤としてアルキレンオキサイドを付加したもの等が挙げられる。本発明では、特に、グリセリンを開始剤とするポリエーテルポリオール(グリセリン系ポリエーテルポリオール)を用いることが好ましい。
【0053】
ポリオレフィンポリオールとしては、オレフィンを重合体又は共重合体の骨格(又は主鎖)の成分とし且つ分子内に(特に末端に)ヒドロキシル基を少なくとも2つ有するポリオールであって、数平均分子量が500以上のものを用いることができる。前記オレフィンとしては、末端に炭素-炭素二重結合を有するオレフィン(例えば、エチレン、プロピレン等のα-オレフィンなど)であってもよく、また末端以外の部位に炭素-炭素二重結合を有するオレフィン(例えば、イソブテンなど)であってもよく、さらにはジエン(例えば、ブタジエン、イソプレンなど)であってもよい。
【0054】
ポリオール(a)の製造は、常法により行うことができ、必要に応じ、公知の硬化剤、硬化触媒等を用いてもよい。
【0055】
ポリオール(a)の水酸基価は、特に限定されないが、好ましくは10~500KOHmg/g、より好ましくは15~400KOHmg/g程度である。
【0056】
ポリオール(a)の分子量は、特に限定されないが、100~20000であることが好ましく、300~10000であることがより好ましく、1000以上、8000以下であることが更に好ましい。このような分子量であれば、蓄熱材(c)の漏れを十分に抑制できる良好な3次元架橋構造を形成することができる。ポリオール(a)の分子量が小さすぎる場合は、蓄熱材(c)が漏れ易くなる恐れがある。一方、分子量が大きすぎる場合は、蓄熱材(c)を十分に保持できなくなる恐れがある。なお、ここに言う分子量は、GPC法によるポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0057】
なお、ポリオール(a)は、硬化性蓄熱組成物に用いる蓄熱材(c)の溶融温度での粘度が後述の好適粘度となるようなものを選択して用いることが好ましい。
【0058】
<イソシアネート基を有する化合物(b)>
(b)成分は、ポリオール(a)の水酸基と反応して3次元架橋構造を形成するものであり、(b)成分中のイソシアネート基は、水酸基との反応性に優れ、反応が迅速に進行し、かつ緻密な架橋構造を形成することができる。
【0059】
イソシアネート基を含有する化合物(b)としては、例えば、
1,3-トリメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネ-ト、1,3-ペンタメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネ-ト(HMDI)、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、2-メチル-1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、3-メチル-1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,6-ジイソシアネートメチルカプロエート、リジンジイソシアネ-ト、ダイマー酸ジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;
1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4´-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルナンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート;
m-フェニレンジイソシアネ-ト、p-フェニレンジイソシアネ-ト、2,4-トリレンジイソシアネ-ト(TDI)、2,6-トリレンジイソシアネ-ト(TDI)、ナフチレン-1,4-ジイソシアネ-ト、ナフチレン-1,5-ジイソシアネ-ト、4,4´-ジフェニルジイソシアネ-ト、4,4´-ジフェニルメタンジイソシアネ-ト(MDI)、2,4´-ジフェニルメタンジイソシアネ-ト、4,4´-ジフェニルエ-テルジイソシアネ-ト、2-ニトロジフェニル-4,4´-ジイソシアネ-ト、2,2´-ジフェニルプロパン-4,4´-ジイソシアネ-ト、3,3´-ジメチルジフェニルメタン-4,4´-ジイソシネ-ト、4,4´-ジフェニルプロパンジイソシアネ-ト、3,3´-ジメトキシジフェニル-4,4´-ジイソシアネ-ト、ジアニシジンジイソシアネ-ト、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;
1,3-キシリレンジイソシアネ-ト(XDI)、1,4-キシリレンジイソシアネ-ト(XDI)、ω,ω´-ジイソシアネート-1,4-ジエチルベンゼン、1,3-ビス(1-イソシアネート-1-メチルエチル)ベンゼン、1,4-ビス(1-イソシアネート-1-メチルエチル)ベンゼン、1,3-ビス(α,α-ジメチルイソシアネートメチル)ベンゼン等の芳香脂肪族ジイソシアネート;
等のイソシアネート基含有化合物、およびこれらのイソシアネート基含有化合物をアロハネート化、ビウレット化、2量化(ウレチジオン)、3量化(イソシアヌレート)、アダクト化、カルボジイミド反応等によって誘導体化したもの、およびそれらの混合物等が挙げられる。
【0060】
イソシアネート基を有する化合物(b)としては、特に脂肪族ジイソシアネートを用いることが好ましく、特にHMDIおよびその誘導体化したもの等が好ましい。
【0061】
なお、イソシアネート基を有する化合物(b)は、硬化性蓄熱組成物に用いる蓄熱材(c)の溶融温度での粘度が後述の好適粘度となるようなものを選択して用いることが好ましい。
【0062】
<ポリオール(a)とイソシアネート基を有する化合物(b)の含有割合>
本発明の硬化性蓄熱組成物に含まれる(a)成分と(b)成分の含有割合は、NCO/OH比率(当量比率)で好ましくは0.5~5.0、より好ましくは0.7~4.0、さらに好ましくは0.8~3.0となる範囲内で設定すればよい。
【0063】
このようなNCO/OH比率の範囲内であることにより、蓄熱材(c)の担持強度を高めることができ、蓄熱材(c)の漏れのない均一かつ緻密な蓄熱材担持3次元架橋構造を形成することができる。
【0064】
NCO/OH比率が0.5より小さい場合は、架橋率が低くなり、硬化性、耐久性、強度等において十分な物性を確保することができない場合があり、また蓄熱材(c)が漏れ易くなる。NCO/OH比率が5.0よりも大きい場合は、未反応のイソシアネート基が残存し、蓄熱材担持3次元架橋体の各種物性に悪影響を与え、蓄熱材担持3次元架橋体が変質しやすくなる。
【0065】
<蓄熱材(c)>
蓄熱材(c)としては、無機潜熱蓄熱材、有機潜熱蓄熱材等が挙げられる。
【0066】
無機潜熱蓄熱材としては、例えば、硫酸ナトリウム10水和物、炭酸ナトリウム10水和物、リン酸水素ナトリウム12水和物、チオ硫酸ナトリウム5水和物、塩化カルシウム6水和物等の水和塩等が挙げられる。
【0067】
有機潜熱蓄熱材としては、例えば、脂肪族炭化水素、長鎖アルコール、長鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸エステル、ポリエーテル化合物、脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。
【0068】
蓄熱材(c)はこれらの蓄熱材のうち1種または2種以上を用いることができる。
【0069】
本発明では、硬化性蓄熱組成物を多孔質基材に含浸させる際には、硬化性蓄熱組成物が多孔質基材の空隙内に円滑に浸入し得る適度な粘度に調整する必要があり、そのためには、蓄熱材(c)としては溶融させて粘度を下げることが容易な有機潜熱蓄熱材を用いることが好ましい。有機潜熱蓄熱材は、沸点が高く揮発しにくいため、蓄熱材担持3次元架橋構造形成時における肉痩せがほとんど無く、また長期に亘り蓄熱性能が持続するため、好ましい。さらに、有機潜熱蓄熱材を用いた場合、用途に応じた相変化温度の設定が容易であり、例えば相変化温度の異なる2種以上の有機潜熱蓄熱材を混合することで、容易に相変化温度の設定が可能となる。
【0070】
有機潜熱蓄熱材のうち、脂肪族炭化水素としては、例えば、炭素数8~30の脂肪族炭化水素を用いることができ、具体的には、ペンタデカン(融点6℃)、テトラデカン(融点8℃)、ヘキサデカン(融点18℃)、ヘプタデカン(融点22℃)、オクタデカン(融点28℃)、ノナデカン(融点32℃)、イコサン(融点36℃)、ドコサン(融点44℃)、パラフィンワックス等が挙げられる。
【0071】
長鎖アルコールとしては、例えば、炭素数8~30の長鎖アルコールを用いることができ、具体的には、カプリルアルコール(融点7℃)、ラウリルアルコール(融点24℃)、ミリスチルアルコール(融点38℃)、ステアリルアルコール(融点58℃)等が挙げられる。
【0072】
長鎖脂肪酸としては、例えば、炭素数8~30の長鎖脂肪酸を用いることができ、具体的には、オクタン酸(融点17℃)、デカン酸(融点32℃)、ドデカン酸(融点44℃)、テトラデカン酸(融点50℃)、ヘキサデカン酸(融点63℃)、オクタデカン酸(融点70℃)等の脂肪酸等が挙げられる。
【0073】
長鎖脂肪酸エステルとしては、例えば、炭素数8~30の長鎖脂肪酸エステルを用いることができ、具体的には、ラウリン酸メチル(融点5℃)、ミリスチン酸メチル(融点19℃)、パルミチン酸メチル(融点30℃)、パルミチン酸ブチル(融点15℃)、ステアリン酸メチル(融点38℃)、ステアリン酸ブチル(融点25℃)、アラキジン酸メチル(融点45℃)、ステアリン酸ステアリル(融点60℃)、フタル酸ジステアリル等が挙げられる。
【0074】
ポリエーテル化合物としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールジアクリレート、エチルエチレングリコール等が挙げられる。
【0075】
脂肪酸トリグリセリドとしては、例えば、ヤシ油、パーム核油等の植物油や、その精製加工品である中鎖脂肪酸トリグリセリド、長鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。
【0076】
本発明では、蓄熱材(c)として、特に、脂肪族炭化水素、長鎖脂肪酸エステルを使用することが好ましく、長鎖脂肪酸エステルを使用することがより好ましい。長鎖脂肪酸エステルの中でも、特に、炭素数15~22の長鎖脂肪酸エステルを使用することが好ましく、このような長鎖脂肪酸エステルは、潜熱量が高く、実用温度領域に相変化温度(融点)を有するため、様々な用途に使用しやすい。なかでも、パルミチン酸メチル、パルミチン酸ブチル、ステアリン酸メチル、及びステアリン酸ブチルのうちの1種、或いは2種以上を混合して用いることが好ましい。
【0077】
なお、有機潜熱蓄熱材等の蓄熱材(c)は、その溶融温度での粘度が後述の好適粘度となるようなものを用いることが好ましい。
【0078】
この硬化性蓄熱組成物中の蓄熱材(c)の含有量には特に制限はないが、この硬化性蓄熱組成物によれば、緻密に入り組んだ3次元架橋構造内に多量の蓄熱材(c)を担持することができるため、硬化性蓄熱組成物中の蓄熱材(c)含有量(この硬化性蓄熱組成物中の蓄熱材(c)含有量は形成される蓄熱材担持3次元架橋構造中の蓄熱材担持量に相当する。)は好ましくは40重量%以上、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上、特に好ましくは65重量%以上とすることができる。このように、多量の蓄熱材(c)を含有することで、得られる蓄熱部材の蓄熱材含有率を高め、蓄熱部材の蓄熱性能を高めることができる。ただし、硬化性蓄熱組成物中の蓄熱材(c)含有量が過度に多いと、(a)成分、(b)成分等の3次元架橋構造形成成分の含有量が相対的に減ることで安定かつ強固な3次元架橋構造を形成し得なくなるため、硬化性蓄熱組成物中の蓄熱材(c)含有量は95重量%以下、特に90重量%以下、とりわけ85重量%以下、とりわけ80重量%以下とすることが好ましい。
【0079】
<その他の成分>
この硬化性蓄熱組成物は、必要に応じて、上記(a)成分、(b)成分および(c)成分以外のその他の成分を含有していてもよい。
【0080】
例えば、(c)成分として、2種以上の有機潜熱蓄熱材を混合して使用する場合は、相溶化剤を含有することが好ましい。相溶化剤を含有することにより、有機潜熱蓄熱材同士の相溶性をより向上させることができる。相溶化剤は、有機潜熱蓄熱材同士の相溶性のみならず、蓄熱材(c)と(a)成分および(b)成分との相溶性の向上にも機能し、より緻密な3次元架橋構造の形成、それによる蓄熱材(c)の担持性能の向上に有効である。
【0081】
相溶化剤としては、例えば、脂肪酸トリグリセリド、親水親油バランス(HLB)が1~10の非イオン性界面活性剤等が挙げられ、これらの1種または2種以上を混合し用いることができる。
【0082】
脂肪酸トリグリセリドは、前述の通り、有機潜熱蓄熱材としても用いられる物質である。このような脂肪酸トリグリセリドは、特に有機潜熱蓄熱材同士の相溶性を、より向上させることができるとともに、優れた蓄熱性を有するため好ましい。脂肪酸トリグリセリドとしては、例えば、ヤシ油、パーム核油等の植物油や、その精製加工品である中鎖脂肪酸トリグリセリド、長鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。
【0083】
親水親油バランス(HLB)が1~10の非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、グリセロールモノステアレート、グリセロールモノステアレート、グリセロールモノオレエート、ステアリン酸グリセリル、カプリル酸グリセリル、ステアリン酸ソルビタン、オレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、ヤシ脂肪酸ソルビタン等が挙げられる。
【0084】
硬化性蓄熱組成物が相溶化剤を含む場合、相溶化剤は、前述の(a)成分100重量部に対し、0.1~30重量部、特に0.5~20重量部含有されることが好ましい。
【0085】
また、硬化性蓄熱組成物は、(a)成分と(b)成分の硬化反応を迅速に進めるために触媒(反応促進剤)を含有することが好ましい。
【0086】
触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン、テトラメチルブタンジアミン、ジメチルアミノエタノール、ダイマージアミン、ダイマー酸ポリアミドアミン等のアミン類;ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、錫オクテート等の錫カルボン酸塩類;ナフテン酸鉄、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸鉄、オクチル酸コバルト、オクチル酸マンガン、オクチル酸亜鉛等の金属カルボン酸塩類;ジブチルチンチオカルボキシレート、ジオクチルチンチオカルボキシレート、トリブチルメチルアンモニウムアセテート、トリオクチルメチルアンモニウムアセテート等のカルボキシレート類;アルミニウムトリスアセチルアセテート等のアルミニウム化合物;等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0087】
この触媒についても、硬化性蓄熱組成物に用いる蓄熱材(c)の溶融温度での粘度が後述の好適粘度となるようなものを選択して用いることが好ましい。
【0088】
触媒は、(a)成分100重量部に対して、通常0.01~10重量部、好ましくは0.05~5重量部の比率で用いられる。触媒含有量が0.01重量部より少ない場合は、硬化性や形成される3次元架橋構造の強度が不十分となる場合がある。一方、10重量部より多い場合は、3次元架橋構造の耐久性、耐変色性等が低下する傾向となる。
【0089】
また、硬化性蓄熱組成物には、上述の成分以外に、各種添加剤を配合することも可能である。このような添加剤としては、例えば、可塑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、消泡剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、硬化促進剤、脱水剤、艶消し剤、難燃剤、紫外線吸収剤、光安定剤等が挙げられる。
【0090】
硬化性蓄熱組成物は、前述のポリオール(a)以外の水酸基含有化合物や、イソシアネート基を有する化合物(b)以外の(a)成分の水酸基と反応可能な官能基、例えばカルボキシル基、イミド基、アルデヒド基等を有する化合物を含んでいてもよい。
【0091】
硬化性蓄熱組成物にはまた、蓄熱材(c)の熱効率を向上させ、より優れた蓄熱性能を得るために、熱伝導性物質を配合することが考えられる。熱伝導性物質としては、例えば、銅、鉄、亜鉛、ベリリウム、マグネシウム、コバルト、ニッケル、チタン、ジルコニウム、モブリデン、タングステン、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ等の金属およびそれらの合金、あるいはこれらの金属を含む金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属リン化物等の金属化合物、また、鱗状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛、繊維状黒鉛等の黒鉛等が挙げられ、これらを1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0092】
ただし、多孔質基材への含浸性の観点からは、本発明の硬化性蓄熱組成物は熱伝導性物質を含有しないことが好ましい。
【0093】
硬化性蓄熱組成物は、粘性調整剤を含んでいてもよい。
【0094】
粘性調整剤としては、例えば、スメクタイト、バーミキュライト等の層状粘土鉱物、アマイドワックス、エチルセルロースや硝酸セルロース等の疎水性セルロース、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。特に本発明では、層状粘土鉱物を用いることが好ましく、特に長鎖アルキルアンモニウムイオン等で有機処理された層状粘土鉱物(有機スメクタイト(有機モンモリロナイト、有機ベントナイト等)、有機バーミキュライト等)を用いることが好ましい。粘性調整剤を含むことで、硬化性蓄熱組成物の粘度を調整することができるが、粘性調整剤の比率は、多孔質基材への含浸性等の観点から、(c)成分100重量部に対し10重量部以下とすることが好ましく、8重量部以下とすることがより好ましい。本発明の硬化性蓄熱組成物はこのような粘性調整剤を含まないことも好ましい。
【0095】
硬化性蓄熱組成物は、親水親油バランス(HLB値)が10以上(好ましくは12以上18以下)の非イオン界面活性剤を含んでいてもよい。
【0096】
このような非イオン界面活性剤を含むことで、蓄熱材(c)が微細に均一に分散した状態で3次元架橋体に担持され、より優れた蓄熱性能を得ることが可能である。
【0097】
親水親油バランス(HLB値)が10以上の非イオン界面活性剤としては、例えば、
ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、
ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、
テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット等のポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、
ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル、
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸ソルビタン
等が挙げられる。
【0098】
<粘度>
硬化性蓄熱組成物は、多孔質基材への含浸性を高めるために、多孔質基材への含浸時の温度において、その粘度が10~500mPa・sであることが好ましい。含浸時の硬化性蓄熱組成物の粘度が500mPa・sより高いと、硬化性蓄熱組成物を多孔質基材へ円滑に含浸させることができない場合がある。一方で、硬化性蓄熱組成物の粘度を10mPa・sより低くするには、(a)成分、(b)成分の含有量を減らす必要があり、蓄熱部材から蓄熱材が漏出するおそれがある。
【0099】
ここで、含浸時の温度とは、後述の通り、蓄熱材(c)の融点以上の温度、即ち蓄熱材(c)が溶融する温度(溶融温度)であり、通常蓄熱材(c)の融点~融点+40℃程度の温度範囲、好ましくは40~80℃である。
【0100】
含浸時の硬化性蓄熱組成物の粘度は、12~400mPa・sであることがより好ましく、15~300mPa・sであることが更に好ましく、15~100mPa・sであることが特に好ましい。
【0101】
なお、本発明における粘度は、BH型粘度計による20rpmにおける粘度(4回転目の指針値)を測定することにより求められる値である。
【0102】
硬化性蓄熱組成物の粘度は、用いる(a)成分、(b)成分、(c)成分の種類や含有割合、その他の成分の種類や含有割合を調整することで、上記好適粘度に制御することができる。
【0103】
硬化性蓄熱組成物は、上述の好適な粘度とするために、多孔質基材への含浸時の温度、即ち、蓄熱材(c)の溶融温度である蓄熱材(c)の融点~融点+40℃の温度範囲において、硬化性蓄熱組成物に含まれるポリオール(a)の粘度が10~1000mPa・s、特に30~500mPa・s、とりわけ50~450mPa・sで、イソシアネート基を有する化合物(b)の粘度が10~2000mPa・s、特に50~1000mPa・sであることが好ましい。
【0104】
硬化性蓄熱組成物中の(a)成分、(b)成分の粘度が上記上限を超えても上記下限未満であっても、前述の硬化性蓄熱組成物の好適粘度に調整することが困難になる場合がある。
【0105】
上記と同様の観点から、本発明の硬化性蓄熱組成物に含まれる蓄熱材(c)の溶融時の粘度は0.1~200mPa・s、さらに0.5~100mPa・s、特に1~50mPa・sで、この蓄熱材(c)の溶融温度における触媒の粘度は1~500mPa・s、特に3~300mPa・sであることが好ましい。
【0106】
硬化性蓄熱組成物中の(a)成分、(b)成分の粘度よりも蓄熱材(c)の粘度が低くなる場合が多い。そのため、蓄熱材(c)を高比率で含むことにより、硬化性蓄熱組成物を所定粘度に調整しやすくなる。しかし、多孔質基材への含浸性をより高めるためには、上述のように本発明の硬化性蓄熱組成物の粘度を所望の範囲にすることが重要であり、(a)成分、(b)成分、(c)成分の種類や含有割合、その他の成分の種類や含有割合を調整する必要がある。
【0107】
溶融温度での粘度が上記好適粘度となる蓄熱材(c)としては、例えば、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、パルミチン酸ブチル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ブチル等が挙げられる。
【0108】
また、上記好適粘度を満たす(a)成分、(b)成分、触媒は、用いる蓄熱材(c)の融点および含浸温度に応じて適宜選択して使用すればよい。
【0109】
例えば、蓄熱材(c)として融点15~40℃のパルミチン酸ブチル(融点15℃)、ミリスチン酸メチル(融点19℃)、パルミチン酸メチル(融点30℃)、ステアリン酸メチル(融点38℃)、ステアリン酸ブチル(融点25℃)等を用いる場合、通常含浸温度は45~80℃程度とされるため、この温度で上記好適粘度を満たす(a)成分としてポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリオレフィンポリオール等を、また(b)成分として脂肪族ジイソシアネート等を、また触媒としてアミン類、錫カルボン酸塩類、金属カルボン酸塩類等を用いることができる。
【0110】
また、蓄熱材(c)として融点0~15℃のペンタデカン(融点6℃)、テトラデカン(融点8℃)、ラウリン酸メチル(融点5℃)等を用いる場合、通常含浸温度は40~70℃程度とされるため、この温度で上記好適粘度を満たす(a)成分としてポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリオレフィンポリオール等を、また(b)成分として脂肪族ジイソシアネート等を、また触媒としてアミン類、錫カルボン酸塩類、金属カルボン酸塩類等を用いることができる。
【0111】
<硬化性蓄熱組成物の製造方法>
硬化性蓄熱組成物は、(a)成分、(b)成分および(c)成分と、必要に応じて配合される触媒等のその他の成分の所定量を混合することで製造される。
【0112】
硬化性蓄熱組成物は、多孔質基材への含浸前の(a)成分と(b)成分との反応を防止するために、(a)成分と(b)成分とが別剤とされた二液硬化剤として製造され、多孔質基材への含浸直前にこれらを混合して含浸に供する場合もある。
【0113】
この場合、通常、(a)成分と(c)成分およびその他の成分を含む主剤と、(b)成分を含む硬化剤として製造され、これらが多孔質基材への含浸前に混合されて本発明の硬化性蓄熱組成物が調製される。(a)成分、(b)成分、(c)成分をそれぞれ別々に製造し、これらを順番に多孔質基材に含浸させて本発明の硬化性蓄熱組成物が調製してもよい。
【0114】
なお、硬化性蓄熱組成物製造時の各成分の混合時の温度は、蓄熱材(c)の溶融温度、即ち、融点以上の温度、好ましくは融点~融点+40℃の温度範囲とすることが好ましい。
【0115】
[多孔質基材]
次に、本発明の硬化性蓄熱組成物を含浸させる多孔質基材について説明する。
【0116】
多孔質基材は、硬化性蓄熱組成物を含浸させることができる連続気孔を有するものであればよく、特に制限はないが、例えば、木質ボード、無機多孔質板、樹脂発泡体、不織布、織布、紙等が挙げられる。
【0117】
木質ボードは、木質チップや繊維材料等のリグノセルロース系材料と、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、尿素メラミン共縮合樹脂、イソシアネート系樹脂等の熱硬化型接着剤との混合物を加熱加圧成形し、リグノセルロース系材料を熱硬化型接着剤で結着することにより製造されたものであり、ハードボード(硬質繊維板 JIS A5905)、MDF(中密度繊維板 JIS A5905)、インシュレーションボード(軟質繊維板 JIS A5905)、パーティクルボード(JIS A5908)、インシュレーションファイバー断熱材(JIS A9521)等が提供されているが、これらのいずれであってもよい。
【0118】
また、無機多孔質板の材質としては、珪藻土、珪藻頁岩、珪酸カルシウム、ゼオライト、竹炭、木炭などが挙げられる。また、発泡ガラスも用いることができる。
【0119】
樹脂発泡体としては、硬化性蓄熱組成物の含浸、硬化温度より高い耐熱性を有するものであればよく、例えば、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン(アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12)、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルブチラール、ポリアクリロニトリル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ-4-メチルペンテン-1、ポリブテン-1、シリコーン樹脂、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン)、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド樹脂(ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド)、ポリアリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリルアミド、セルロースアセテート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリパラキシレン、ポリメチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルカルバゾール等の熱可塑性樹脂の1種又は2種より得られる樹脂発泡体が挙げられる。
【0120】
不織布、織布としては、ガラス繊維、セラミック繊維、ロックウール等の無機繊維や、ポリエステル繊維等の有機繊維よりなる不織布、織布を用いることができる。
【0121】
多孔質基材は、硬化性蓄熱組成物の含浸性、含浸量の観点からは、空隙率(気孔率)が高いことが好ましく、一方で、強度、軽量化の観点からは空隙率が低いことが好ましい。本発明で用いる多孔質基材の空隙率は、10~98%であることが好ましく、30~90%であることがより好ましい。
【0122】
ここで、「空隙率」とは「1-(多孔質基材の嵩比重/多孔質基材の構成材料の比重)」により求められる値である。
【0123】
なお、多孔質基材にはその全体にわたって硬化性蓄熱組成物が含浸、硬化されていることが好ましい。
【0124】
[蓄熱部材の製造方法]
蓄熱部材は、多孔質基材に本発明の硬化性蓄熱組成物を、硬化性蓄熱組成物中の蓄熱材(c)の融点以上の温度で含浸させ、多孔質基材内に含浸した硬化性蓄熱組成物を硬化させることにより製造することができる。
【0125】
この含浸時の温度は、蓄熱材(c)の融点以上で、例えば、蓄熱材(c)の融点~融点+40℃であることが好ましい。
【0126】
含浸時の温度が蓄熱材(c)の融点未満では、硬化性蓄熱組成物の粘度が上がり、(a)成分、(b)成分と相溶、混合しにくく、多孔質基材に円滑に含浸させることができない。含浸温度が過度に高いと、過度に反応が進んでしまい、効率よく含浸、硬化できない場合がある。従って、含浸温度は蓄熱材(c)の融点~融点+40℃の範囲とすることが好ましい。具体的な含浸温度は、用いる蓄熱材(c)の種類によって異なるが、通常40~80℃程度である。
【0127】
なお、多孔質基材への硬化性蓄熱組成物の含浸は、含浸中に硬化反応が進行しないように速やかに行うことが好ましく、場合によっては、多孔質基材の硬化性蓄熱組成物含浸側の表面とは反対側の面から吸引する吸引含浸を行ってもよい。
【0128】
或いは、多孔質基材の表面に硬化性蓄熱組成物層を形成し、硬化性蓄熱組成物層表面から加圧して含浸速度を高めることもできる。
【0129】
ただし、硬化性蓄熱組成物の粘度を前述の好適粘度に調整することで、通常は、上記のような吸引含浸や加圧含浸を行うことなく硬化性蓄熱組成物を含浸させることができる。
【0130】
即ち、例えば、多孔質基材の表面に硬化性蓄熱組成物を付与し、多孔質基材の連続気孔に硬化性蓄熱組成物を浸み込ませることで容易に含浸させることができる。
【0131】
また、上記多孔質基材に、1回の浸透工程で硬化性蓄熱組成物を含浸させることもできるし、複数回の浸透工程で含浸させることもできる。また含浸させる硬化性蓄熱組成物は、1種のみでもよいし、2種以上でもよい。
【0132】
例えば、硬化性蓄熱組成物を複数の浸透工程で含浸させる方法では、蓄熱材(c)含有量が50重量%以上の硬化性蓄熱組成物を含浸させた後に、蓄熱材(c)含有量が50重量%未満の硬化性蓄熱組成物に含浸させる2段階工程を経て含浸させることができる。この方法により、多孔質基材の内部は蓄熱材(c)を多く含み、多孔質基材の表面は蓄熱材(c)が少なく、優れた蓄熱性能を維持しつつ、より放散防止性に優れ、蓄熱材(c)の漏出も防止することができる蓄熱部材が得られる。
【0133】
また、例えば、含有される蓄熱材(c)の融点が異なる2種以上の硬化性蓄熱組成物を用いて含浸させる方法では、硬化性蓄熱組成物を多孔質基材に含浸させた後、該硬化性蓄熱組成物中の蓄熱材(c)と異なる融点を含有する蓄熱材(c)を含む硬化性蓄熱組成物を多孔質基材に含浸させることにより、より幅広い温度領域で蓄熱性を確保することができ、また例えば、表面と裏面で蓄熱温度が異なる蓄熱部材を得ることもでき、各種用途で使用することができる。
【0134】
なお、硬化性蓄熱組成物の含浸性を高めるために、多孔質基材は、含浸処理前に十分に乾燥し、気孔内の水分等を除去しておくことが好ましい。
【0135】
含浸後の硬化反応の反応条件は硬化性蓄熱組成物の種類や組成によっても異なるが、通常、40~90℃程度で30分~5時間程度である。
【0136】
硬化性蓄熱組成物を含浸させた後、必要に応じて保護層を設けることができる。保護層は、蓄熱部材の最表面に各種コーティングを施したり、シート/フィルム等を貼着することにより設けることができる。
【0137】
このようにして製造される蓄熱部材中の蓄熱材(c)の含有量は、硬化性蓄熱組成物の蓄熱材(c)濃度や含浸量によって調整することができる。例えば多孔質基材として木質ボードを用いた場合、蓄熱部材中に多孔質基材に対して100~300重量%程度の蓄熱材(c)を含有させて高い蓄熱性を付与することができる。
【0138】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記以外の形態とされてもよい。
【実施例0139】
実験例1~4を下記の通り行った。
[実験目的]
本発明の暖房床の踏み感が良好である理由は、上記の通り、ボード状蓄熱部材及び床暖房マットを足で踏んだときの沈み込みが少ないことによる。
【0140】
そこで、床暖房マット代替品としての発泡倍率が20倍(実験例1,2)又は40倍(実験例3,4)の発泡ポリスチレン(以下、EPSと記載する。)と、ボード状蓄熱部材と、防音床材(フローリング)とを重ね合わせ、平面積10×10cm=100cm2に切り出して積層体を製作し、各積層体に所定荷重を所定時間加える圧縮試験を行い、ひずみ量(mm)を測定した。
[実験例1]
<床暖房マット代替品>
発泡倍率20倍のEPS(厚さ12mm)
<防音床材>
永大産業(株)製ダイレクトエクセル45HW(直貼り床材) 総厚み13.5mm 防音材4.5mm
<ボード状蓄熱部材>
嵩密度0.34g/cm3、空隙率87%のロックウールに下記蓄熱組成物を下記のように含浸させて製造したもの(厚さ12mm、、圧縮強さ25N/cm2)。
<硬化性蓄熱組成物用原料>
ポリエステルポリオール(a):ひまし油系ポリエステルポリオール
イソシアネート基を有する化合物(b):無溶剤型MDI系ポリイソシアネート(NCO%:16%、50℃での粘度:500mPa・s)
蓄熱材(c):パルミチン酸メチル(融点:30.0℃、潜熱量:210kJ/kg、50℃での粘度:5mPa・s)
触媒:ジブチル錫ジラウレート(50℃での粘度:30mPa・s)
<含浸方法>
ポリオール(a)28重量部、イソシアネート基を有する化合物(b)5重量部、蓄熱材(c)67重量部および触媒0.25重量部を60℃で混合し、硬化性蓄熱組成物を製造した。この硬化性蓄熱組成物の含浸温度50℃での粘度は30mPa・s、比重は0.90であった。
【0141】
ロックウールボードを40℃で48時間乾燥させた後、ロックウールボードに50℃に保持した硬化性蓄熱組成物を含浸させ、次いで80℃のオーブン中で240分間硬化させた。なお、硬化性蓄熱組成物の含浸は、ロックウールボードをこのロックウールボードと同面積の枠内に入れ、ロックウールボード上に硬化性蓄熱組成物の原液を付与することで行った。
【0142】
得られたボード状蓄熱部材(蓄熱ボード)の比重は0.71であり、この含浸、硬化後の比重と含浸前の多孔質基材であるロックウールボードの比重から、多孔質基材の残存空隙率は45.1%と算出された。
【0143】
得られたボード状蓄熱部材は含浸性の評価において、その厚さ方向の全体にわたって硬化性蓄熱組成物が含浸されたものであることが確認された。
<圧縮試験及び結果>
上記の通り10×10cm=100cm2に切り出した積層体に対し、1.5kg/cm2の荷重をかけ、2時間経過した後のひずみ量(mm)を測定した。結果を表1に示す。
[実験例2]
蓄熱部材として、厚さ3mmの軟質PVC基材蓄熱シート蓄熱(比重0.1、蓄熱材含有率35%)を用いたこと以外は実験例1と同様の試験を行った。結果を表1に示す。
[実験例3]
EPSとして発泡倍率が45倍のものを用いたこと以外は実験例1と同様の試験を行った。結果を表1に示す。
[実験例4]
蓄熱部材を用いないこと以外は実験例1と同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0144】
【0145】
表1の通り、ボード状蓄熱部材を用いた積層体(実験例1~3)はボード状蓄熱部材を用いない実験例4よりもひずみ量が小さく、踏み感が良好になることが認められた。
【0146】
また、EPSの発泡倍率は45倍よりも低い方がひずみ量が少ないことが認められた。EPSの発泡倍率は50倍以下が好ましく、さらには30倍以下が好ましいと考えられる。