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特開2022-131528酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131528
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/14 20060101AFI20220831BHJP
   C08F 283/12 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C08F290/14
C08F283/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030514
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000226666
【氏名又は名称】日信化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 昂輝
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健太郎
【テーマコード(参考)】
4J026
4J127
【Fターム(参考)】
4J026AB44
4J026AC22
4J026BA20
4J026BB01
4J026DA04
4J026DA07
4J026DB04
4J026DB08
4J026DB10
4J026DB11
4J026DB32
4J026FA04
4J026FA07
4J026FA08
4J026GA01
4J026GA02
4J026GA09
4J127AA04
4J127AA06
4J127BA041
4J127BA151
4J127BB041
4J127BB081
4J127BB151
4J127BB221
4J127BC031
4J127BC131
4J127BD281
4J127BD291
4J127BD331
4J127BF701
4J127BF711
4J127BG381
4J127CB101
4J127CC161
4J127EA04
4J127EA22
4J127FA07
4J127FA14
4J127FA46
(57)【要約】
【解決手段】本発明は、(A)特定する一般式で示されるオルガノポリシロキサンに(B)酢酸ビニルをグラフト重合してなり、上記(A)オルガノポリシロキサンと上記(B)酢酸ビニルとの質量比が(A):(B)=10:90~95:5であることを特徴とする酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂、その製造方法、及び酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂組成物を提供する。
【効果】本発明の酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂は、摺動性、基材密着性、有機溶剤溶解性を有し、各種基材のコーティング剤、接着剤、構造物や建材等の外装・内装用塗料、化粧料などに好適に用いられる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンに(B)酢酸ビニルをグラフト重合してなり、上記(A)オルガノポリシロキサンと上記(B)酢酸ビニルとの質量比が(A):(B)=10:90~95:5であることを特徴とする酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂。
【化1】
(式中、R1は同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R2はメルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基、又はビニル基である。Xは同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基又はヒドロキシル基、YはX又は-[O-Si(X)2d-Xで示される同一又は異種の基で、X及びY中の少なくとも2個はヒドロキシル基である。Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基である。aは0~1,000の正数、bは100~10,000の正数、cは1~10の正数、dは1~1,000の正数である。)
【請求項2】
粘度(25℃)が1~500mPa・sであるエマルジョンである請求項1記載の酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂。
【請求項3】
上記(A)成分であるオルガノポリシロキサンの粘度測定による重量平均分子量(Mw)が10,000~1,000,000である請求項1又は2記載の酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂。
【請求項4】
上記式(1)で示されるオルガノポリシロキサンが、環状オルガノシロキサン、α,ω-ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω-ジアルコキシシロキサンオリゴマー又はアルコキシシランと、下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤との重合物である請求項1~3のいずれか1項記載の酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂。
3 (4-e-f)4 fSi(OR5e (2)
(式中、R3はメルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基であり、R4は炭素数1~4のアルキル基であり、R5は炭素数1~4のアルキル基であり、eは2又は3、fは0又は1で、e+fは2又は3である。)
【請求項5】
(A)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンと(B)酢酸ビニルとを、(A):(B)=10:90~95:5の質量比で乳化重合させて、酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂エマルジョンを得ることを特徴とする、酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂の製造方法。
【化2】
(式中、R1は同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R2はメルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基、又はビニル基である。Xは同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基又はヒドロキシル基、YはX又は-[O-Si(X)2d-Xで示される同一又は異種の基で、X及びY中の少なくとも2個はヒドロキシル基である。Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基である。aは0~1,000の正数、bは100~10,000の正数、cは1~10の正数、dは1~1,000の正数である。)
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項記載の酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂を含有した樹脂組成物であって、コーティング剤,繊維処理剤,接着剤,塗料及び化粧料の群から選ばれる製品として用いられることを特徴とする酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルガノポリシロキサンに酢酸ビニルを共重合した樹脂及びその製造方法であり、更に詳述すると、摺動性、基材密着性、有機溶剤溶解性を有する酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、シリコーン系樹脂は、基材に摺動性を付与することができる樹脂として知られている。しかしながら、シリコーン系樹脂を単独で使用する場合には、基材への密着性が悪いなどの不具合があった。
【0003】
そこで、シリコーン系樹脂にアクリル系やウレタン系などの別の単量体を共重合させる方法が用いられている。例えば、アクリルシリコーン共重合体やウレタンシリコーン共重合等の共重合体は、通常のアクリル系やウレタン系のエマルジョンにシリコーン樹脂の耐候性、耐熱性、耐寒性、撥水性、ガス透過性、摺動性などの利点を付与することができる。例えば、特許文献1(特開2020-90563号公報)には、摺動性を付与するシリコーンアクリルグラフト共重合樹脂及びその製造方法を開示している。
【0004】
一方、酢酸ビニル樹脂は、従来よりエマルジョン系接着剤、スクリーン印刷用の感光性材料、洗濯糊、チューインガムベース、乳化剤、化粧品の基材に利用されており、密着性のよい樹脂として知られている。
【0005】
酢酸ビニル樹脂に別の単量体を共重合させた樹脂としては、例えば、エチレンを共重合したエチレン酢酸ビニルコポリマーが挙げられる。この共重合体は、酢酸ビニルユニットに起因する接着性と柔軟性とを持つ合成樹脂であり、食品包装紙や紙コップ等の紙容器類のコーティング材、布・紙ラベルの接着剤、エマルジョン系接着剤、チューインガムベース、人工芝、サンダルの底材、バスマット、浴室掃除用ブーツ、ビート板、なわとびなどに利用されている。
【0006】
シリコーン樹脂と酢酸ビニル樹脂とは相反する性能を持つ樹脂であり、それぞれ別の単量体と反応させて共重合させることは公知であったが、これまでこの二つの樹脂を共重合させるという試みは、行われていなかった。また、シリコーンと酢酸ビニルとを共重合しても、それぞれの性能を活かした樹脂が得られるとは考えられていなかった。
【0007】
シリコーン樹脂エマルジョンと酢酸ビニル樹脂エマルジョンとを混合して、コーティング剤を得るという方法も考えられるが、混合物ではシリコーン成分がブリードアウトしてしまい、所望の性能は得られず、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-90563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、摺動性、基材密着性、有機溶剤溶解性を有する酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、(A)オルガノポリシロキサンと(B)酢酸ビニルとを共重合、特に、乳化重合法により共重合して得られる酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂が摺動性、基材密着性、有機溶剤溶解性を有することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
従って、本発明は、下記の酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂及びその製造方法、並びに該共重合樹脂を含有した樹脂組成物を提供する。
1.(A)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンに(B)酢酸ビニルをグラフト重合してなり、上記(A)オルガノポリシロキサンと上記(B)酢酸ビニルとの質量比が(A):(B)=10:90~95:5であることを特徴とする酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂。
【化1】
(式中、R1は同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R2はメルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基、又はビニル基である。Xは同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基又はヒドロキシル基、YはX又は-[O-Si(X)2d-Xで示される同一又は異種の基で、X及びY中の少なくとも2個はヒドロキシル基である。Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基である。aは0~1,000の正数、bは100~10,000の正数、cは1~10の正数、dは1~1,000の正数である。)
2.粘度(25℃)が1~500mPa・sであるエマルジョンである上記1記載の酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂。
3.上記(A)成分であるオルガノポリシロキサンの重量平均分子量(Mw)が10,000~1,000,000である上記1又は2記載の酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂。
4.上記式(1)で示されるオルガノポリシロキサンが、環状オルガノシロキサン、α,ω-ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω-ジアルコキシシロキサンオリゴマー又はアルコキシシランと、下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤との重合物である上記1~3のいずれかに記載の酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂。
3 (4-e-f)4 fSi(OR5e (2)
(式中、R3はメルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基であり、R4は炭素数1~4のアルキル基であり、R5は炭素数1~4のアルキル基であり、eは2又は3、fは0又は1で、e+fは2又は3である。)
5.(A)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンと(B)酢酸ビニルとを、(A):(B)=10:90~95:5の質量比で乳化重合させて、酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂エマルジョンを得ることを特徴とする、酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂の製造方法。
【化2】
(式中、R1は同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R2はメルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基、又はビニル基である。Xは同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基又はヒドロキシル基、YはX又は-[O-Si(X)2d-Xで示される同一又は異種の基で、X及びY中の少なくとも2個はヒドロキシル基である。Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基である。aは0~1,000の正数、bは100~10,000の正数、cは1~10の正数、dは1~1,000の正数である。)
5.上記1~4のいずれかに記載の酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂を含有した樹脂組成物であって、コーティング剤,接着剤,塗料及び化粧料の群から選ばれる製品として用いられることを特徴とする酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂は、摺動性、基材密着性、有機溶剤溶解性を有する。このため、本発明の酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂を含有する樹脂組成物は、各種基材のコーティング剤、接着剤、構造物や建材等の外装・内装用塗料、化粧料などに好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、(A)オルガノポリシロキサンと(B)酢酸ビニルとのポリマー単位からなる酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂である。
【0014】
ここで、(A)オルガノポリシロキサンは下記一般式(1)で示される。
【化3】
(式中、R1は同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R2はメルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基、又はビニル基である。Xは同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基又はヒドロキシル基、YはX又は-[O-Si(X)2d-Xで示される同一又は異種の基で、X及びY中の少なくとも2個はヒドロキシル基である。Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基である。aは0~1,000の正数、bは100~10,000の正数、cは1~10の正数、dは1~1,000の正数である。)
【0015】
ここで、R1は同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、ビニルフェニル基等のアルケニルアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニルベンジル基、ビニルフェニルプロピル基等のアルケニルアラルキル基などや、これらの基の水素原子の一部又は全部がフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基、アルキル又はアルコキシもしくは(メタ)アクリロキシ置換アミノ基などで置換されたものが挙げられる。R1としては、好ましくはメチル基である。
【0016】
2は、メルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基、又はビニル基である。具体的には、メルカプトプロピル基、アクリロキシプロピル基、メタクリロキシプロピル基、ビニル基等が好ましい。
【0017】
Xは、同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、非置換もしくは置換の炭素数1~20の1価炭化水素基としては、R1で例示したものと同様のものが例示でき、炭素数1~20のアルコキシ基として、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、テトラデシルオキシ基等が挙げられる。Xとして、好ましくはヒドロキシル基、メチル基、ブチル基、フェニル基である。
【0018】
Yは、X又は-[O-Si(X)2d-Xで示される同一又は異種の基である。
【0019】
Zは、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、好ましくはヒドロキシル基又はメチル基である。
【0020】
aは1,000より大きくなると、(A)成分を含む樹脂組成物をコーティング被膜として用いた場合に得られる被膜の強度が不十分となるので、0~1,000の数、好ましくは0~200の数とされ、bは100未満では被膜の柔軟性が乏しいものとなり、10,000より大きいとその引き裂き強度が低下するので、100~10,000の正数、好ましくは1,000~5,000の正数とされる。cは1~10の正数であり、10を超えると、摺動効果が発揮できないという不具合がある。
【0021】
dは1~1,000、好ましくは1~200の正数とされる。また、架橋性の面から1分子中に少なくとも2個、好ましくは2~4個のヒドロキシル基を有し、両末端に形成させたものを用いることがよい。
【0022】
このような(A)オルガノポリシロキサンは、エマルジョンの形態で使用されることが好ましく、市販品を使用してもよいし、合成してもよい。合成する場合は、公知の乳化重合法で実施でき、例えばフッ素原子、(メタ)アクリロキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基を有してもよい環状オルガノシロキサンあるいはα,ω-ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω-ジアルコキシシロキサンオリゴマー、アルコキシシラン等と、下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤を、アニオン系界面活性剤を用いて水中に乳化分散させた後、必要に応じて酸等の触媒を添加して重合反応を行うことにより容易に合成することができる。
3 (4-e-f)4 fSi(OR5e (2)
(式中、R3は重合性二重結合を有する1価有機基、特にアクリロキシ基又はメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基を示す。R4は炭素数1~4のアルキル基、R5は炭素数1~4のアルキル基で、eは2又は3、fは0又は1であり、e+fは2又は3で
ある。)
【0023】
上記環状オルガノシロキサンとしては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、1,1-ジエチルヘキサメチルシクロテトラシロキサン、フェニルヘプタメチルシクロテトラシロキサン、1,1-ジフェニルヘキサメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラシクロヘキシルテトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(3,3,3-トリフロロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-メタクリロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-アクリロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-カルボキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-ビニロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(p-ビニルフェニル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ[3-(p-ビニルフェニル)プロピル]テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(N-アクリロイル-N-メチル-3-アミノプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(N,N-ビス(ラウロイル)-3-アミノプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン等が例示される。好ましくは、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンが用いられる。
【0024】
シランカップリング剤としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシランなどのビニルシラン類;γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジイソプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジブトキシシランなどのアクリルシラン類;γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプトシラン類等が挙げられる。又はこれらを縮重合したオリゴマーはアルコールの発生が抑えられより好ましい場合がある。反応性の観点から、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシランなどのビニルシラン類も用いることが好適である。ここで、(メタ)アクリロキシは、アクリロキシ又はメタクリロキシを示す。これらシランカップリング剤は、環状オルガノシロキサン100質量部に対し0.01~20質量部使用することが好ましく、0.01~5質量部の使用が更に好ましい。
【0025】
シランカップリング剤を共重合することにより、下記式中のcを有するオルガノポリシロキサンとなり、(B)酢酸ビニルをグラフトさせる効果が得られる。
【化4】
【0026】
重合に用いる重合触媒としては、公知の重合触媒を使用すればよい。中でも強酸が好ましく、塩酸、硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、クエン酸、乳酸、アスコルビン酸が例示される。好ましくは乳化能を持つドデシルベンゼンスルホン酸である。
【0027】
酸触媒の使用量としては、環状オルガノシロキサン100質量部に対して0.01~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.2~2質量部である。
【0028】
また、重合する際の界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん、アルキルりん酸塩等が挙げられるが、中でも水に溶けやすく、ポリエチレンオキサイド鎖を持たないものが好ましい。更に好ましくは、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん及びアルキルりん酸塩であり、特に好ましくは、ラウロイルメチルタウリンナトリウム、ミリストイルメチルタウリンナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムである。
【0029】
なお、アニオン系界面活性剤の使用量は、環状オルガノシロキサン100質量部に対して0.1~20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~10質量部である。
【0030】
重合温度は50~75℃が好ましく、重合時間は10時間以上が好ましく、15時間以上が更に好ましい。更に、重合後に5~30℃で10時間以上熟成させることが特に好ましい。
【0031】
このようにして得られる(A)オルガノポリシロキサンの粘度測定による重量平均分子量(Mw)は10,000~1,000,000で、好ましくは100,000~500,000である。10,000未満であると摺動効果が発揮できないという不具合がある。
【0032】
ここで、オルガノポリシロキサンの粘度測定による重量平均分子量(Mw)は、1g/100ml濃度のオルガノポリシロキサンのトルエン溶液の比粘度ηsp(25℃)から計算することができる。
ηsp=(η/η0)-1
(η0:トルエンの粘度 η:溶液の粘度)
ηsp=[η]+0.3[η]2
[η]=2.15×10-40.65
具体的には、エマルジョン20gをIPA(イソプロピルアルコール)20gと混合し、エマルジョンを破壊した後、IPAを廃棄し、残ったゴム状のオルガノポリシロキサンを60℃で一晩乾燥する。これを1g/100ml濃度のオルガノポリシロキサンのトルエン溶液とし、ウベローデ粘度計にて25℃で測定を行う。上記式に粘度を代入することにより分子量を求めることができる(参考文献:中牟田、日化、77 858[1956]、Doklady Akad. Nauk. U.S.S.R. 89 65[1953])。
【0033】
本発明の酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂は、上記のようにして得られた(A)オルガノポリシロキサンに(B)酢酸ビニルを乳化グラフト重合させて得ることができる。
【0034】
グラフト重合させる際の式(1)のオルガノポリシロキサンと酢酸ビニルとの質量比(式(1)のオルガノポリシロキサンと酢酸ビニル単位との質量比)は、10:90~95:5であり、好ましくは20:80~85:15である。式(1)のポリシロキサン成分の割合が上記の10より少ないと摺動効果が発揮できないという不具合がある。
【0035】
ここで使用されるラジカル開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過硫酸水素水、t-ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素が挙げられる。必要に応じ、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、L-アスコルビン酸、酒石酸、糖類、アミン類等の還元剤を併用したレドックス系も使用することができる。また、ラジカル開始剤の使用量は、(B)酢酸ビニルの0.1~5質量%が好ましく、0.5~3質量%が更に好ましい。
【0036】
既にオルガノポリシロキサンエマルジョン中に含まれている界面活性剤で十分にグラフト重合可能であるが、安定性向上のためアニオン系界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん、アルキルりん酸塩等を添加することができる。また、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル等のノニオン系乳化剤を添加することもできる。界面活性剤を添加する場合の使用量は、(B)酢酸ビニルの0.1~5質量%が好ましい。
【0037】
(A)成分に対する(B)成分のグラフト重合温度は25~85℃が好ましく、75~85℃が更に好ましい。また、重合時間は2~8時間が好ましく、3~6時間が更に好ましい。
【0038】
更に、グラフトポリマーの分子量、グラフト率を調整するために連鎖移動剤を添加することができる。例えば、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素;n-ドデシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン等のメルカプタン類等を例示することができる。
【0039】
このようにして得られた酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂は、酢酸ビニルがランダムにグラフトされているポリマーとなる。
【0040】
また、上記で得られた酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂は、エマルジョンの固形分が25~40質量%であることが好ましい。また、このエマルジョンの粘度(25℃)は、1~500mPa・sが好ましく、1~200mPa・sが更に好ましい。粘度は回転粘度計にて測定できる。平均粒子径は、0.1μm(100nm)~0.5μm(500nm)が好ましい。なお、平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置によって測定することができる。
【0041】
本発明の酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂は、下記に挙げる方法で造粒し粉体化することもできる。即ち、冷凍粉砕、スプレードライ乾燥、気流式乾燥等が挙げられるが、生産性を考えると冷凍粉砕が好ましい。上記の冷凍粉砕は、公知の冷凍粉砕方法によって行われる。即ち、上記樹脂を液体窒素に浸漬して冷凍し、冷凍後の樹脂を冷凍粉砕機に投入してパウダーに粉砕することにより行われる。上記の冷凍粉砕機は、公知のものを使用することができる。得られる粉体粒子の平均粒子径は小さいほど良く、50μm以下が好ましい。更に好ましくは、1~30μmである。なお、上記エマルジョン及び粉体の粒子径は、レーザー回折型粒子径測定器における累積質量平均値D50として測定することができる。
【0042】
本発明の酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂は、他の樹脂、顔料、フィラー、つや消し剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、消泡剤、抗菌剤、防カビ剤、光安定化剤、帯電防止剤、可塑剤、難燃剤、増粘剤、界面活性剤、造膜助剤などの有機溶剤、他の樹脂等を配合することにより樹脂組成物として、合成樹脂、金属、ガラス、陶磁器、石膏、紙、木材、皮革、さらに軽量コンクリ-ト、軽量気泡コンクリ-ト、モルタル、硅酸カルシュウム板、スレ-ト、石膏ボ-ド等各種基材のコーティング剤、接着剤、構造物や建材等の外装・内装用塗料バインダ-、紙加工剤、繊維処理剤、化粧料等に使用することができる。
【0043】
なお、上記樹脂組成物に有機溶剤を混合する場合、有機溶剤としては、例えば、スチレン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテート等のエステル類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール等のアルコール類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド化合物;クロロホルム;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。有機溶剤は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0044】
本発明の酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂をコーティング剤として使用することができる。この場合、酢酸ビニル・シリコーン共重合樹脂と他の成分とを、プロペラ式攪拌機やホモジナイザー、ボールミル、ビーズミルなどの公知の混合調製方法で混合溶解することによりコーティング組成物が得られる。コーティング組成物をコーティング剤として、ガラスや樹脂などの基材の片面又は両面に塗布又は浸漬、乾燥すると、摺動性、基材密着性を付与できる。
【実施例0045】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の製造例及び実施例に制限されるものではない。また、下記記載の分子量は、1g/100ml濃度のオルガノポリシロキサンのトルエン溶液の比粘度から求めた粘度測定による重量平均分子量(Mw)である。なお、下記の例において、部及び%はそれぞれ質量部、質量%を示す。
【0046】
[実施例1]
オクタメチルシクロテトラシロキサン498g、ビニルメチルジメトキシシラン46g、ラウリル硫酸ナトリウム5gを純水45gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸5gを純水45gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水400gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、10℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液でpH7に中和した。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)が45%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものである。このシリコーン組成物はトルエン溶液の粘度から分子量約40万の式(1)で表わされる構造であった。上記重合反応により得られるオルガノポリシロキサンの構造は1H-NMR(周波数600MHz、室温、積算回数128回)及び29Si-NMR(周波数600MHz、室温、積算回数5000回)(装置名:JNM-ECA600、測定溶媒:CDCl3)によって確認した。
ここにポリオキシエチレンアルキルエーテル25gを加え、酢酸ビニル233gを3~5時間かけて滴下しながら80℃で開始剤を使用して反応を行うことで上記シリコーン組成物への酢酸ビニルグラフト共重合し、不揮発分30%のシリコーン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを得た。
【0047】
[実施例2]
実施例1の酢酸ビニルの量を544gに代えた以外は同様の方法で不揮発分30%のシリコーン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを得た。
【0048】
[実施例3]
実施例1の酢酸ビニルの量を1269gに代えた以外は同様の方法で不揮発分30%のシリコーン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを得た。
【0049】
[実施例4]
オクタメチルシクロテトラシロキサン498g、ビニルメチルジメトキシシラン1.1g、ラウリル硫酸ナトリウム5gを純水45gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸5gを純水45gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水400gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、10℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液でpH7に中和した。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものである。このシリコーン組成物はトルエン溶液の粘度から分子量約40万の式(1)で表わされる構造であった。ここにポリオキシエチレンアルキルエーテル23gを加え、酢酸ビニル1165gを3~5時間かけて滴下しながら80℃で開始剤を使用して反応を行うことでシリコーンへの酢酸ビニルグラフト共重合し、不揮発分30%のシリコーン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを得た。
【0050】
[実施例5]
オクタメチルシクロテトラシロキサン498g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン2.5g、ラウリル硫酸ナトリウム5gを純水45gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸5gを純水45gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水400gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、10℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液でpH7に中和した。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものである。このシリコーン組成物はトルエン溶液の粘度から分子量約40万の式(1)で表わされる構造であった。ここにポリオキシエチレンアルキルエーテル23gを加え、酢酸ビニル1168gを3~5時間かけて滴下しながら80℃で開始剤を使用して反応を行うことでシリコーンへの酢酸ビニルグラフト共重合し、不揮発分30%のシリコーン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを得た。
【0051】
[比較例1]
オクタメチルシクロテトラシロキサン498g、ビニルメチルジメトキシシラン46g、ラウリル硫酸ナトリウム5gを純水45gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸5gを純水45gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水400gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、10℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液でpH7に中和してシリコーンエマルジョン組成物を得た。
該シリコーンエマルジョン組成物の105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものである。このシリコーン組成物はトルエン溶液の粘度から分子量約40万の式(1)で表わされる構造であった。
【0052】
[比較例2]
水550g、ラウリル硫酸ナトリウム4.5g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル18gを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに仕込み、80℃で酢酸ビニル450gを3~5時間かけて滴下しながら開始剤を使用して反応を行うことで酢酸ビニル重合し、不揮発分45%の酢酸ビニルエマルジョンを得た。
【0053】
[比較例3]
オクタメチルシクロテトラシロキサン498g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン1.6g、ラウリル硫酸ナトリウム5gを純水45gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸5gを純水45gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水400gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、15℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液でpH7に中和した。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものである。このシリコーン組成物はトルエン溶液の粘度から分子量約25万の式(1)で表わされる構造であった。ここにポリオキシエチレンアルキルエーテル15gを加え、アクリル酸ブチル500gを3~5時間かけて滴下しながら80℃で開始剤を使用して反応を行うことで上記シリコーン組成物へのアクリルグラフト共重合し、不揮発分30%のシリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョンを得た。
【0054】
[比較例4]
上記比較例1で得たシリコーンエマルジョン300gと上記比較例2で得た酢酸ビニルエマルジョン700gとを1時間攪拌混合し、不揮発分45%の混合エマルジョンを得た。
【0055】
上記の実施例1~5及び比較例1~4で得たエマルジョンを下記方法で評価した。その結果を表1に示す。
【0056】
<グラフト点>
グラフト点は以下の計算式で算出した。
・シランカップリング剤の質量/シランカップリング剤の分子量=A
・シロキサンの質量/オルガノポリシロキサンの計算分子量=B
「A/B」の値をグラフト点の数と定義する。
例えば、製造例1に示すシリコーン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンでは、
・A=46/132=0.35mol
・B=(498+46)/400,000=0.00136mol
「A/B≒250」であり、グラフト点の数は「250」となる。
グラフト点の数はシランカップリング剤の量で調整することができる。
【0057】
<固形分測定方法>
試料約1gをアルミ箔製の皿に正確に量り取り、約105℃に保った乾燥器に入れ、1時間加熱後、乾燥器から取り出してデシケーターの中にて放冷し、試料の乾燥後の重さを量り、次式により蒸発残分を算出した。
【数1】
R:蒸発残分(%)
W:乾燥前の試料を入れたアルミ箔皿の質量(g)
L:アルミ箔皿の質量(g)
T:乾燥後の試料を入れたアルミ箔皿の質量(g)
アルミ箔皿の寸法:65φ×23h(mm)
【0058】
<粘度測定方法>
試料の液温を23±0.5℃に保持し、BM型粘度計(No.1ローター、6rpm)にて測定した。
【0059】
<エマルジョンの平均粒子径測定方法>
大塚電子(株)製ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(ELSZ-2000ZS)を用いて、エマルジョンの平均粒子径を測定した。
【0060】
<静・動摩擦係数測定>
バーコーターにて各実施例及び比較例のエマルジョン組成物をPETフィルムに塗布し、105℃×3分で乾燥を行い、ドライで約10μmになるように塗膜を形成した。
HEIDON TYPE-38(新東科学株式会社製)にて30gの金属圧子を上記塗膜に垂直に接触させ、3cm/分で移動させた時の摩擦力を測定し、摩擦力から摩擦係数を算出した。尚、上記条件での静・動摩擦係数の好ましい範囲は、静摩擦係数が0.3以下であり、動摩擦係数が0.20以下である。
【0061】
<溶剤溶解性>
PPトレイに各実施例及び比較例のエマルジョン組成物を流し込み、40℃×24時間で乾燥を行い、ドライで約1mmになるように皮膜を形成した。形成皮膜を1インチ(inch)×1インチ(inch)に成型し、評価用の試験片を得た。
各溶剤(水、メタノール、DMF)をガラス瓶に100g測り取り、ここに質量を測定した上記試験片を入れ、スターラーで1時間攪拌した。1時間後、300メッシュでろ過し、40℃×24時間乾燥を行い、再び質量を測定し、質量減から溶解率(%)を算出した。
【0062】
<基材密着性>
バーコーターにて各実施例及び比較例のエマルジョン組成物をPETフィルムに塗布し、105℃×3分で乾燥を行い、ドライで約10μmになるように塗膜を形成した。
塗膜にカッターで傷をつけ、この部分を指で10往復擦って密着性を目視により評価した。
○:基材からの剥離なし
×:基材からの剥離あり
【0063】
<ブリードアウト>
PPトレイに各実施例及び比較例のエマルジョン組成物を流し込み、40℃×24時間で乾燥を行い、ドライで約1mmになるように皮膜を形成した。
皮膜表面に経時でのシリコーンのブリードアウト状態を目視で観察した。
○:ブリードアウトが確認されなかった。
△:僅かなブリードアウトを確認した。
×:著しいブリードアウトを確認した。
【0064】
【表1】
【0065】
上記表1に示す通り、比較例1のシリコーンエマルジョン組成物は成膜しなかった。比較例2の酢酸ビニルエマルジョン組成物は、摺動性及び耐水性が劣った。比較例3のシリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョン組成物は、摺動性及び有機溶剤溶解性が劣った。比較例4の混合エマルジョン組成物は、シリコーン成分のブリードアウトが確認された。これに対し、本実施例1~5のシリコーン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン組成物は、いずれも、摺動性に優れ、耐水性及び有機溶剤溶解性を有する塗膜を与える。