(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131538
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】トルクセンサおよびこれを備えたねじ締め装置
(51)【国際特許分類】
G01L 3/12 20060101AFI20220831BHJP
G01L 5/00 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
G01L3/12
G01L5/00 103B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030536
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000227467
【氏名又は名称】日東精工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】塩田 耕一郎
【テーマコード(参考)】
2F051
【Fターム(参考)】
2F051AA21
2F051AB03
(57)【要約】
【課題】トルク検出精度の高いトルクセンサの提供。
【解決手段】本発明のトルクセンサ1は、回転軸5に配された基準円板10および比較円板20の回転に応じた信号を発するセンサS1,S2と、センサS1,S2からの出力信号をパルス信号に変換する信号変換部50と、基準円板10に係る第1パルス信号および比較円板20に係る第2パルス信号の算出位相差を求める位相差算出部60と、算出位相差に基づいて回転軸5に加わるトルクを演算するトルク演算部80とを備える。位相差算出部60は、回転軸5の無負荷回転時に一定速で1回転する間の第1パルス信号および第2パルス信号のゼロ点補正位相差を基準円板10の回転角度毎に予め記憶する記憶部70に接続される。トルク演算部80は、ゼロ点補正位相差と、基準円板10の現在の回転角度と、算出位相差とに基づいて回転軸5に係るトルクを補正して成る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に並べられた基準円板および比較円板を具備して成る回転軸と、前記基準円板および比較円板の回転に伴って信号を発するセンサと、このセンサから出力された信号をパルス信号へ変換する信号変換部と、この信号変換部によって変換された基準円板に係る第1パルス信号および比較円板に係る第2パルス信号を取り込み双方の位相差を算出位相差として算出する位相差算出部と、前記算出位相差および回転軸に応じた係数から回転軸に加わるトルクを演算するトルク演算部とを備えたトルクセンサであって、
前記位相差算出部は、前記回転軸の無負荷回転時に一定速で1回転する間の前記第1パルス信号および前記第2パルス信号の位相差をゼロ点補正位相差として前記基準円板の回転角度毎に予め記憶する記憶部に接続されて成り、
前記トルク演算部は、前記記憶部に記憶した基準円板の回転角度毎のゼロ点補正位相差と、前記基準円板の現在の回転角度と、前記算出位相差とに基づいて回転軸に加わるトルクを補正して演算するよう構成したことを特徴とするトルクセンサ。
【請求項2】
前記記憶部は、前記基準円板の回転角度が0.002度毎ないし0.01度毎の範囲で設定された前記ゼロ点補正位相差を360度分記憶して成ることを特徴とする請求項1に記載のトルクセンサ。
【請求項3】
前記センサは、光学センサであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のトルクセンサ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れかに記載のトルクセンサを具備して成るねじ締め装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸に加わるトルクを検出するトルクセンサおよびこれを備えたねじ締め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のトルクセンサは、特許文献1に示すように、駆動源からの回転力を受けて回転する回転軸と、この回転軸の回転入力側に配され当該回転軸と一体に回転する基準円板と、前記回転軸の回転出力側に配され当該回転軸と一体に回転する比較円板と、これら基準円板および比較円板の回転を検出するとともに当該回転に係るパルス信号をそれぞれ出力するセンサとを備える。
【0003】
前記基準円板および比較円板は、何れも放射状に磁極を配して成り、前記センサは、回転する基準円板および比較円板の磁極を検出してこれをパルス信号に変換し出力可能に構成されている。また、前記センサは、双方のパルス信号を取り込みかつ当該パルス信号の位相差に基づいて回転軸に加わるトルクを算出する処理手段に接続されて成る。これにより、従来のトルクセンサは、機械的な接触のない比較的簡単な構造を実現できるという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のトルクセンサは、回転軸が無負荷で回転していたとしても、
図3(a),(b)に示すように基準円板および比較円板の磁極の間隔が不均一であるとセンサから出力された基準円板および比較円板に係る双方のパルス信号が一致せず位相差を生じる。これにより、従来のトルクセンサは、無負荷で回転しても回転軸にトルクが加わっていると誤検出してしまうという問題があった。
【0006】
また、従来のトルクセンサは、基準円板および比較円板の磁極の間隔を均一に仕上げたとしても、当該基準円板および比較円板を回転軸に取り付ける際、
図4に示すように基準円板および比較円板の軸芯が一致せずオフセットするような取り付け状態になることもある。このような基準円板と比較円板との軸芯がオフセットするような取り付け状態であると、回転軸の無負荷回転時において、双方のパルス信号には上述同様の位相差を生じてしまう。したがって、回転軸にトルクが加わったときの位相差は、前述した無負荷回転時の位相差が加味されたものになるので、正確なトルク検出が行えないという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、回転軸の無負荷回転中におけるトルクの誤検出を解消するトルクセンサおよびこれを備えたねじ締め装置の提供を目的としており、軸方向に並べられた基準円板および比較円板を具備して成る回転軸と、前記基準円板および比較円板の回転に伴って信号を発するセンサと、このセンサから出力された信号をパルス信号へ変換する信号変換部と、この信号変換部によって変換された基準円板に係る第1パルス信号および比較円板に係る第2パルス信号を取り込み双方の位相差を算出位相差として算出する位相差算出部と、前記算出位相差および回転軸に応じた係数から回転軸に加わるトルクを演算するトルク演算部とを備えたトルクセンサであって、前記位相差算出部は、前記回転軸の無負荷回転時に一定速で1回転する間の前記第1パルス信号および前記第2パルス信号の位相差をゼロ点補正位相差として前記基準円板の回転角度毎に予め記憶する記憶部に接続されて成り、前記トルク演算部は、前記記憶部に記憶した基準円板の回転角度毎のゼロ点補正位相差と、前記基準円板の現在の回転角度と、前記算出位相差とに基づいて回転軸に加わるトルクを補正して演算するよう構成したことを特徴とする。なお、前記記憶部は、前記基準円板の回転角度が0.002度毎ないし0.01度毎の範囲で設定された前記ゼロ点補正位相差を360度分記憶して成ることが望ましい。また、前記センサは、光学センサであることが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るトルクセンサおよびこれを備えたねじ締め装置は、記憶部の前記ゼロ点補正位相差と、基準円板の現在の回転角度と、算出位相差とに基づいて回転トルクに加わるトルクを補正しているので、無負荷状態での基準円板および比較円板の位相差をキャンセルしたトルク検出が可能となる。これにより、従来のような基準円板および比較円板の取り付け不具合による問題も解消でき、さらに、センサの取り付け位置を予め厳密に定めなくても高いトルク検出精度を担保できるという利点がある。また、本発明に係るトルクセンサおよびこれを備えたねじ締め装置は、基準円板および比較円板を検出する光学センサを具備するので、例えば、回転軸に歪みゲージを貼り付ける作業も必要がなく、製作に係るコストを低減できるという利点もある。しかも、本発明に係るトルクセンサおよびねじ締め装置は、基準円板の回転角度の0.002度毎ないし0.01度毎の範囲でゼロ点補正位相差を記憶しているので、回転軸の回転角度によるトルク検出誤差を適宜解消し、ねじ締め作業に十分なトルク検出精度を担保できるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係るトルクセンサの一例を示す概略説明図である。
【
図2】本発明に係るねじ締め装置の一例を示す概略説明図である。
【
図3】基準円板および比較円板を模擬的に重ねて双方のパルス信号に位相差が生じる一例を示す概略説明図であり、(a)はパルス信号の基となる基準円板と比較円板の双方の極性間隔が整合していない状態を示し、(b)は(a)の要部を拡大したものである。
【
図4】
図3と同様に基準円板および比較円板を模擬的に重ね、基準円板と比較円板の軸芯が不一致となっている状態を説明するための概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係るトルクセンサおよびこれを搭載したねじ締め装置を
図1ないし
図4に基づいて説明する。まず、本発明に係るトルクセンサ1は、軸方向に延びる回転軸5と、この回転軸5と一体に回転するよう固定され軸方向へ並べて配されて成る基準円板10および比較円板20と、基準円板10および比較円板20を検出して信号を発信するセンサS1,S2と、このセンサS1,S2の出力信号に基づいて回転軸5に加わるトルクを検出するトルク検出手段30とを備えて成る。
【0011】
前記回転軸5は、その中間部分を小径とし、両端部分を大径としており、その一端側に前記基準円板10が固定され、他端側に前記比較円板20が固定されている。また、この回転軸5は、靱性の高い金属が選定されており、熱処理も施され靱性と強度が向上されており、中間部分を小径に設定したことで、トルクを受けると捩られやすくなっている。この回転軸5の軸径は当該トルクセンサ1のトルク検出容量に応じて適宜設定されており、トルク検出範囲では、回転軸5が弾性変形領域内で弾性変形するように予め寸法設定されている。
【0012】
前記基準円板10および比較円板20は、同一構造であり、ここでは基準円板10についてのみ説明する。前記基準円板10は、厚みの薄い金属製の円板であり、
図3および
図4に示すように放射状に配置された複数の切欠き部11(21)を備えて成る。また、この切欠き部11(21)は、前記センサS1,S2から発せられる光を透過するよう、前記金属を一部切り取り成形されている。
【0013】
前記センサS1,S2は、
図1および
図2に示すように、前記切欠き部11,12をそれぞれ検出するよう配置されており、当該切欠き部11,12を検出したか否かについてON,OFF信号を外部へ出力するよう構成される所謂光学センサである。
【0014】
前記トルク検出手段30は、前記センサS1,S2からそれぞれ出力されるON,OFF信号を取り込みパルス信号へ変換する信号変換部50と、この信号変換部50から出力されたセンサS1に係る第1パルス信号およびセンサS2に係る第2パルス信号の位相差を算出位相差として算出する位相差算出部60と、この位相差算出部60により算出された前記算出位相差および当該算出位相差に対応する前記基準円板10の回転角度である基準角度を紐付けして記憶する記憶部70と、この記憶部70に紐付けして記憶された記憶情報および前記算出位相差に基づいて回転軸5に加わるトルクを補正して演算するトルク演算部80とを備える。
【0015】
前記信号変換部50は、前記センサS1に接続された第1パルス信号変換部51と、前記センサS2に接続された第2パルス信号変換部52とを備えて成る。これら第1パルス信号変換部51および第2パルス信号変換部52は、前記センサS1,S2からそれぞれ出力されるON信号,OFF信号を前記第1パルス信号および第2パルス信号へ変換可能に構成されている。
【0016】
前記位相差算出部60は、前記第1パルス信号および第2パルス信号に基づき前記算出位相差を演算するとともに、当該算出位相差を予め設定された基準円板10の回転角度毎に前記記憶部70に送信して成る。
【0017】
前記記憶部70は、位相差算出部60から送信される基準円板10の回転角度毎の算出位相差を紐付けして記憶して成り、この記憶情報をトルクセンサ1のゼロ点補正値として予め記憶するよう構成されている。また、この記憶部70は、予め設定されている回転軸5の弾性変形に係る係数を記憶している。前記ゼロ点補正値は、回転軸5の無負荷回転時の基準円板10および比較円板20の誤差を補正するものであり、
図3(a),(b)や
図4に示すような切欠き部11(21)の間隔が不均一な場合や、基準円板10と比較円板20との軸芯がオフセットするような場合も検出したトルクの精度を担保できる。
【0018】
具体的には、ゼロ点補正値は、ねじり方向へ負荷を掛けずに回転軸5を一定速で1回転させた際に収集したデータであり、前記基準円板10の回転角度と、当該回転角度に応じた算出位相差とから構成されている。また、前記基準円板10の回転角度は、360度を等分したものであって予め設定されており、具体的には0.005度毎に設定されている。
【0019】
前記トルク演算部80は、前記位相差算出部60および記憶部70に接続されており、回転軸5に加わったトルクを演算するよう構成されている。このトルクの演算は、予めゼロ点補正値を記憶部70に記憶された状態で行われるものであり、前記位相差算出部60から出力された算出位相差と、記憶部70に記憶している前記係数と、前記算出位相差に対応する基準円板10の回転角度範囲と、前記ゼロ点補正値とに基づいて行われている。このように、本発明に係るトルクセンサ1は、予め収集した無負荷回転時の基準円板10と比較円板20との特性を相殺できるので、回転軸5に加わるトルクを正確に測定可能にする。
【0020】
次に、上述したトルクセンサ1を搭載する本発明に係るねじ締め装置90は、
図2に示すように,前記回転軸5に回転を付与するモータMと、このモータMの出力軸Maと前記回転軸5とを連結する連結部材25と、トルクセンサ1を覆うように配されモータMを上部に取り付け可能なカバー26と、このカバー26の下部に配され前記回転軸5の一端を軸支して成るベアリング27と、前記トルク検出手段30および前記モータMを接続して当該モータMの回転駆動を制御して成るモータ制御手段85とから構成される。
【0021】
前記モータ制御手段85は、前記モータMの回転駆動や回転停止の指令を行う駆動指令部86と、この駆動指令部86および前記トルク演算部80にそれぞれ接続されるモータ制御部87と、このモータ制御部87に接続されモータMの回転条件等のパラメータを記憶して成るパラメータ記憶部88とから構成される。前記パラメータ記憶部88は、モータMの前記出力軸Maの回転速度や締付け完了トルクなどの回転駆動に係る各種パラメータを予め複数記憶して成る。
【0022】
前記モータ制御部87は、前記パラメータ記憶部88に記憶した各種パラメータを読み出し可能に構成されており、当該パラメータに基づいて前記駆動指令部86へモータMの回転駆動制御を可能に構成されている。また、モータ制御部87は、トルク演算部80により補正された回転軸5に加わる検出トルクと前記締付け完了トルクとを比較可能に構成されており、検出トルクが締付け完了トルクに到達しているか否か判断して駆動指令部86へ送る信号を選択するよう構成されている。
【0023】
このように構成されたトルクセンサ1および当該トルクセンサ1を搭載したねじ締め装置90の作用について説明する。本発明に係るねじ締め装置90は、まず、トルクセンサ1の固有の誤差をデータ収集した後に使用されており、このデータ収集は、トルクセンサ1の回転軸5の回転角度による誤差を較正することを目的として実施される。この較正は、モータMの出力軸Maの設定回転速度を1min^-1ないし5min^-1程度の低速で実施され、回転軸5が1回転するまでの間に予め設定した前記回転角度の範囲毎に基準円板10の回転角度と、当該回転角度に応じた位相差算出部60により算出された算出位相差とを紐付けした前記ゼロ点補正値の収集と記憶部70への記憶により完了する。
【0024】
この較正によって無負荷回転時に生成される第1パルス信号および第2パルス信号の算出位相差を明らかにできるため、基準円板10および比較円板20の取り付け等によるゼロ点の誤差を補正できる。また、前記算出位相差は、これを求めている際の基準円板10の回転角度に紐付けされているため、回転軸5の回転角度毎のトルク誤差を適宜補正できる。よって、本発明に係るねじ締め装置90は、トルクセンサ1固有の誤差をキャンセルしてトルク計測が行えるので、無負荷回転時には負荷トルクをゼロと正しく認識することができ、正確なトルク測定を可能とする。
【0025】
なお、本実施形態において、基準円板10および比較円板20は、厚みの薄い金属製の円板としたが、所定の厚みを有する円筒で構成されてもよい。また、この基準円板10および比較円板20は、切欠き部11,21を具備するとしたが、S極とN極とを放射状に交互配してもよく、この場合、センサS1,S2は、前述のS極とN極を検出することで当該極性に応じたON信号およびOFF信号を外部出力する磁気センサ(図示せず)としてもよい。さらに、基準円板10および比較円板20は、本実施形態において同一構造としたが、基準円板10を薄板の円板とする一方、比較円板20を円筒のものにするなどして異なる構造としてもよい。また、前記センサS1,S2は、一方が光学センサとし、他方が磁気センサとしてもよい。さらに、本実施形態において、ゼロ点補正値は、前記基準円板10の回転角度を0.005度毎に設定されているとしたが、これに限定されるものではなく、より細かな例えば0.002度毎や粗い0.01度毎などにしてもよく、許容されるトルク精度に合わせて適宜設定してもよい。また、切欠き部11(21)は、本実施形態において、センサS1,S2から発せられる光を反射するよう成形された窪みや溝などに置き換えても良く、当該窪みや溝は、所謂エッチングにより成形されたものであっても良い。この場合、前記センサは、前記窪みや溝へ照射した光の反射率の違いに基づいて出力する信号を変化させるよう構成されている。さらに、前記回転軸5は、本実施形態において、中間部分を小径としているが、これに限定されるものではなく、大径や同一径で成形されていても良い。また、この回転軸5は、靱性の高い金属で熱処理も施されているとしたが、これもアルミなどの材質が選定されたものであれば、熱処理を不要とするものとしてもよい。
【符号の説明】
【0026】
1 … トルクセンサ
5 … 回転軸
10 … 基準円板
20 … 比較円板
30 … トルク検出手段
50 … 信号変換部
60 … 位相差産出部
80 … トルク演算部
90 … ねじ締め装置
S1,S2 … センサ